(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135872
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】防振装置および防振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20220908BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F1/38 F
B21D39/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126654
(22)【出願日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021034884
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和希
【テーマコード(参考)】
3J059
【Fターム(参考)】
3J059AD05
3J059BA42
3J059BA54
3J059CC10
3J059EA02
3J059GA20
(57)【要約】
【課題】より簡単な構成で、バリの発生を抑制し、バリ除去作業を不要又は簡素化できる防振装置を提供する。
【解決手段】インナ10と、インナ10の径方向外側に配置された筒状のアウタ20と、インナ10とアウタ20を連結する弾性体30と、インナ10の軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、軸方向に貫通する開口部51を有するリテーナー50とを備え、インナ10は、軸方向の少なくとも一方の端面15から軸方向の外方に延び、リテーナー50の開口部51に挿入される環状の突出部12を備え、環状の突出部12は、周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部13を備え、リテーナー50は、複数のかしめ固定部13が開口部51の内周面52に押し当てられてインナ10にかしめ固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナと、
前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、
前記インナと前記アウタを連結する弾性体と、
前記インナの軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーと、を備え、
前記インナは、前記軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延び、前記リテーナーの前記開口部に挿入される環状の突出部を備え、
前記環状の突出部は、周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部を備え、
前記リテーナーは、複数の前記かしめ固定部が前記開口部の内周面に押し当てられて前記インナにかしめ固定されている、防振装置。
【請求項2】
前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、
前記リテーナーは、複数の前記連結部が前記開口部の内周面との間に隙間を有する状態で、前記インナに固定されている、請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、
前記リテーナーは、複数の前記連結部が前記開口部の内周面に当接した状態で前記インナに固定されている、請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記連結部の径方向の厚みが、前記かしめ固定部の径方向の厚みより厚い、請求項2又は3に記載の防振装置。
【請求項5】
各前記かしめ固定部の周方向長さは、各前記連結部の周方向長さよりも長い、請求項2~4の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記インナの材料硬度が、前記リテーナーの材料硬度よりも小さい、請求項1~5の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項7】
前記複数のかしめ固定部が周方向で均等に配されている、請求項1~6の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項8】
前記インナの軸方向端面が前記リテーナーにおける前記開口部の開口周縁部に突き当てられており、前記インナの前記軸方向端面から突出する前記環状の突出部が前記リテーナーの前記開口部に挿入されていると共に、
前記リテーナーの前記開口部の内周面は、前記インナの突き当て側において部分的に内周へ突出する段差部を備えており、前記突出部の前記かしめ固定部が前記段差部に前記軸方向で係止されている、請求項1~7の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項9】
前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、
前記連結部は、前記リテーナーの前記段差部において前記開口部の内周面に当接していると共に、前記リテーナーの前記段差部を外れた部分において前記開口部の内周面から離隔して隙間を有している、請求項8に記載の防振装置。
【請求項10】
軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延びる環状の突出部を有するインナと、前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、前記アウタの内周面と前記インナの外周面とを連結した弾性体と、前記インナにおける前記軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーとを備えている防振装置の製造方法であって、
前記インナと前記アウタとの間に前記弾性体を連結成形する連結工程と、
前記リテーナーの前記開口部に、前記インナの前記環状の突出部を挿入する挿入工程と、
筒状の外周面を有し、前記外周面において径方向に拡径された複数の拡径部が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具を用い、前記かしめ治具を前記インナの前記環状の突出部の内周側に挿入することにより、前記環状の突出部における前記かしめ治具の前記複数の拡径部が配置される部分が、それぞれ前記リテーナーの前記開口部の内周面に押し当てられて、前記環状の突出部の周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部とされ、前記リテーナーを前記インナに固定するかしめ工程と、を含む防振装置の製造方法。
【請求項11】
軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延びる環状の突出部を有するインナと、前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、前記アウタの内周面と前記インナの外周面とを連結した弾性体と、前記インナにおける前記軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーとを備えている防振装置の製造方法であって、
筒状の外周面を有し、前記外周面において径方向に拡径された複数の拡径部が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具を用い、前記かしめ治具を前記リテーナーの前記開口部に挿入された前記インナの前記環状の突出部の内周側に挿入することにより、前記環状の突出部における前記かしめ治具の前記複数の拡径部が配置される部分が、それぞれ前記リテーナーの前記開口部の内周面に押し当てられて、前記環状の突出部の周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部とされ、前記リテーナーを前記インナに固定するかしめ工程を含む、防振装置の製造方法。
【請求項12】
前記かしめ治具が、前記かしめ固定部を成形する部分における軸直角方向の断面において、前記複数の拡径部と、前記複数の拡径部の周方向間に位置して前記複数の拡径部のそれぞれを周方向で連結し、径方向内側に凸となる曲面状に形成される複数の曲面連結部と、を備える、請求項10又は11に記載の防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置および防振装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、防振装置として、外筒と、内筒と、外筒の内周面と内筒の外周面とを連結した本体ゴムと、内筒における軸方向の両端部に配設されたリテーナーと、を備え、リテーナーが、内筒の端部で固定されるかしめ部を有するブッシュ組立体が知られている。例えば実開昭60-122035号公報(特許文献1)に記載のものが、それである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のブッシュ組立体においては、リテーナーを内筒の端部に固定するために、かしめ治具を用いたかしめ固定構造が採用されている。即ち、内筒の軸方向端部に設けられた筒状のかしめ部が、リテーナーを貫通する開口部に挿入されており、内周へかしめ治具を圧入することで拡径されたかしめ部が、リテーナーの内周面にかしめ固定されている。しかし、このようなかしめ固定の際に、内筒(かしめ部)の内周面がかしめ治具によって削られて、内筒の内周の表面にバリが発生し、組付け不具合や、バリの除去作業に時間がかかるなど、組付け精度やコストアップの問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、より簡単な構成で、バリの発生を抑制し、バリ除去作業を不要又は簡素化できる防振装置とその製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第一の態様に係る防振装置は、インナと、前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、前記インナと前記アウタを連結する弾性体と、前記インナの軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーと、を備え、前記インナは、前記軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延び、前記リテーナーの前記開口部に挿入される環状の突出部を備え、前記環状の突出部は、周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部を備え、前記リテーナーは、複数の前記かしめ固定部が前記開口部の内周面に押し当てられて前記インナにかしめ固定されている。
【0007】
第一の態様によれば、インナの突出部において複数のかしめ固定部が周方向で相互に離隔して設けられることにより、インナのかしめ固定部をリテーナーの内周面に押し当ててかしめ固定する際に、全周にわたってかしめ固定される場合よりも、インナ(突出部)の内周面に発生するバリが抑制される。それゆえ、バリを簡単に除去することができる、或いはバリの除去作業が不要とされる。
【0008】
第二の態様は、第一の態様に記載の防振装置において、前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、前記リテーナーは、複数の前記連結部が前記開口部の内周面との間に隙間を有する状態で、前記インナに固定されているものである。
【0009】
第二の態様によれば、複数のかしめ固定部の周方向間に設けられた連結部が、リテーナーとの間に隙間を有していることから、かしめ固定部がリテーナーの開口部の内周面に押し当てられてかしめ固定される際に、かしめ固定部の周方向への変形が当該隙間によって許容される。それゆえ、かしめ固定部が外周へ押し広げられてかしめ固定される際に、かしめ固定部の内周面にバリが発生し難い。
【0010】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載の防振装置において、前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、前記リテーナーは、複数の前記連結部が前記開口部の内周面に当接した状態で前記インナに固定されているものである。
【0011】
第三の態様によれば、連結部がリテーナーの内周面に当接することにより、例えば、連結部とリテーナーの間に補助的な固定力を作用させることができて、インナとリテーナーの固定強度の向上を図ることができる。また、連結部とリテーナーの間の隙間を通じた水等の異物の侵入を防ぐこともできる。
【0012】
第四の態様は、第二又は第三の態様に記載の防振装置において、前記連結部の径方向の厚みが、前記かしめ固定部の径方向の厚みより厚いものである。
【0013】
第四の態様によれば、インナとリテーナーがかしめ固定された状態において連結部がかしめ固定部よりも径方向で厚肉となっていれば、かしめ固定時にかしめ固定部から連結部に向けて周方向の伸長変形(形成材料の移動)が生じており、かしめ治具とリテーナーの間でのかしめ固定部の過度な圧縮によるバリの発生が抑制される。
【0014】
第五の態様は、第二~第四の何れか1つの態様に記載の防振装置において、各前記かしめ固定部の周方向長さは、各前記連結部の周方向長さよりも長いものである。
【0015】
第五の態様によれば、かしめ固定部によってインナとリテーナーがかしめ固定される領域の周方向長さが長くなることから、インナとリテーナーの固定強度の向上が図られる。また、インナとリテーナーが周方向の広い範囲でかしめ固定されることにより、インナとリテーナーの固定状態での相対的な傾斜や位置ずれなどが生じ難くなって、インナとリテーナーの安定した組付けが可能になる。
【0016】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載の防振装置において、前記インナの材料硬度が、前記リテーナーの材料硬度よりも小さいものである。
【0017】
第六の態様によれば、バリが発生し易いインナの材料硬度がリテーナーの材料硬度よりも小さい場合であっても、周方向で相互に離隔して配された複数のかしめ固定部によってインナとリテーナーをかしめ固定することにより、材料硬度が小さいインナが大きく変形することによるインナのバリの発生を抑えながら、インナとリテーナーを有効に固定することができる。
【0018】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載の防振装置において、前記複数のかしめ固定部が周方向で均等に配されているものである。
【0019】
第七の態様によれば、かしめ固定部による固定力が周方向においてバランスよく作用することから、インナとリテーナーの安定した固定が実現される。また、かしめ固定後の突出部が歪な形状となるのを防ぐこともできる。
【0020】
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載の防振装置において、前記インナの軸方向端面が前記リテーナーにおける前記開口部の開口周縁部に突き当てられており、前記インナの前記軸方向端面から突出する前記環状の突出部が前記リテーナーの前記開口部に挿入されていると共に、前記リテーナーの前記開口部の内周面は、前記インナの突き当て側において部分的に内周へ突出する段差部を備えており、前記突出部の前記かしめ固定部が前記段差部に前記軸方向で係止されているものである。
【0021】
第八の態様によれば、インナのかしめ固定部がリテーナーの段差部に対して軸方向で係止されていることにより、突出部のリテーナーの開口部からの抜けに対する抗力が大きく発揮されて、インナとリテーナーが軸方向において分離するのを防ぐことができる。しかも、段差部がリテーナーの開口部の内周面においてインナの突き当て側に部分的に設けられていることから、かしめ固定部をリテーナーの開口部から大きく突出させることなく、かしめ固定部を段差部に係止させることが可能であり、例えば、かしめ固定部をリテーナーの開口部の内周へ収容しながら段差部に係止させることもできる。
【0022】
第九の態様は、第八の態様に記載の防振装置において、前記環状の突出部は、前記複数のかしめ固定部の周方向間に位置して前記複数のかしめ固定部のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部を備え、前記連結部は、前記リテーナーの前記段差部において前記開口部の内周面に当接していると共に、前記リテーナーの前記段差部を外れた部分において前記開口部の内周面から離隔して隙間を有しているものである。
【0023】
第九の態様によれば、連結部が段差部に対して当接することにより、連結部によってインナとリテーナーの補助的な固定力を得ることができる。また、連結部が段差部を外れた部分では開口部の内周面から離隔して隙間を有していることから、インナとリテーナーのかしめ固定に際して、かしめ固定部のバリの発生が連結部によって抑制される。
【0024】
本発明の第十の態様に係る防振装置の製造方法は、軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延びる環状の突出部を有するインナと、前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、前記アウタの内周面と前記インナの外周面とを連結した弾性体と、前記インナにおける前記軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーとを備えている防振装置の製造方法であって、前記インナと前記アウタとの間に前記弾性体を連結成形する連結工程と、前記リテーナーの前記開口部に、前記インナの前記環状の突出部を挿入する挿入工程と、筒状の外周面を有し、前記外周面において径方向に拡径された複数の拡径部が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具を用い、前記かしめ治具を前記インナの前記環状の突出部の内周側に挿入することにより、前記環状の突出部における前記かしめ治具の前記複数の拡径部が配置される部分が、それぞれ前記リテーナーの前記開口部の内周面に押し当てられて、前記環状の突出部の周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部とされ、前記リテーナーを前記インナに固定するかしめ工程と、を含む。
【0025】
本発明の第十一の態様に係る防振装置の製造方法は、軸方向の少なくとも一方の端面から前記軸方向の外方に延びる環状の突出部を有するインナと、前記インナの径方向外側に配置された筒状のアウタと、前記アウタの内周面と前記インナの外周面とを連結した弾性体と、前記インナにおける前記軸方向の少なくとも一方の端部に配設され、前記軸方向に貫通する開口部を有するリテーナーとを備えている防振装置の製造方法であって、筒状の外周面を有し、前記外周面において径方向に拡径された複数の拡径部が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具を用い、前記かしめ治具を前記リテーナーの前記開口部に挿入された前記インナの前記環状の突出部の内周側に挿入することにより、前記環状の突出部における前記かしめ治具の前記複数の拡径部が配置される部分が、それぞれ前記リテーナーの前記開口部の内周面に押し当てられて、前記環状の突出部の周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部とされ、前記リテーナーを前記インナに固定するかしめ工程を含む。
【0026】
第十や第十一の態様によれば、かしめ治具をインナの突出部に挿入することにより、かしめ治具の拡径部によって突出部を周方向の複数箇所で外周へ拡径させて、複数のかしめ固定部を形成し、かしめ固定部によってインナとリテーナーをかしめ固定することができる。このように、複数の拡径部を備えるかしめ治具をインナの突出部に挿入する簡単な作業によって、複数のかしめ固定部を同時に形成して、それら複数のかしめ固定部によって、バリの発生を抑えながら、インナとリテーナーを固定することができる。
【0027】
第十二の態様は、第十又は十一の態様に記載された防振装置の製造方法において、前記かしめ治具が、前記かしめ固定部を成形する部分における軸直角方向の断面において、前記複数の拡径部と、前記複数の拡径部の周方向間に位置して前記複数の拡径部のそれぞれを周方向で連結し、径方向内側に凸となる曲面状に形成される複数の曲面連結部と、を備えるものである。
【0028】
第十二の態様によれば、突出部にかしめ治具を挿入する際に、周方向における複数の拡径部が位置する部分では、突出部に複数のかしめ固定部が形成されると共に、周方向における複数の曲面連結部が位置する部分は、突出部がかしめ固定部ほど外周へ拡径変形されず、リテーナーと拡径部の間で径方向に圧縮されるかしめ固定部の周方向両側への逃げを許容する。これにより、かしめ固定部において、かしめ治具の拡径部が圧入されることによるバリの発生が抑えられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の防振装置は、かしめ固定部を複数設けることで、バリの発生が抑制され、バリ除去作業が不要又は簡素化できる。
【0030】
本発明の防振装置の製造方法によれば、径方向に拡径された複数の拡径部が周方向に配置される円筒形状のかしめ治具を使用し、複数の拡径部によって複数のかしめ固定部を成形することにより、バリの発生が抑制され、バリ除去作業が不要又は簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態としての防振装置を示す縦断面図であって、
図2におけるI-I断面に相当する図である。
【
図3】
図2のI-I断面図のインナとリテーナーとをかしめる前の状態である。
【
図4】
図1の防振装置におけるインナとリテーナーを組付ける前の状態について説明する拡大断面図である。
【
図5】
図1の防振装置におけるインナにリテーナーを組付けた状態について説明する拡大断面図である。
【
図6】
図1の防振装置のかしめ固定を行う前の連結工程について説明する断面図である。
【
図7】
図1の防振装置のかしめ固定を行う前の挿入工程について説明する断面図である。
【
図8】
図1の防振装置のかしめ固定を行うかしめ工程について説明する断面図である。
【
図9】
図1の防振装置のかしめ固定を完了した状態について説明する断面図である。
【
図10】
図1の防振装置に係る第1のかしめ固定治具の底面図である。
【
図11】
図10におけるXI-XI軸方向断面に相当する図である。
【
図12】
図1の防振装置に係る第2のかしめ固定治具の底面図である。
【
図13】
図12におけるXIII-XIII軸方向断面に相当する図である。
【
図14】本発明の別の一実施形態としての防振装置を示す縦断面図である。
【
図15】本発明のまた別の一実施形態としての防振装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、本発明の対象となる防振装置の構造について説明する。なお、以下の説明において、上下方向および軸方向とは、
図1中の上下方向をいう。
【0033】
本実施形態に係る防振装置1は、例えば、自動車に備わる図示しない振動源と車体フレーム(車体)との間に取り付けられる。
【0034】
図1は、本実施形態に係る防振装置1の一例を模式的に示す断面図である。同図に示すように、防振装置1は、円筒形状のインナ10と、インナ10と同心軸状に配置されて、インナ10の径方向外側に配置された円筒形状のアウタ20と、インナ10とアウタ20との間に配置されている弾性体30と、インナ10の軸方向の端部にかしめ固定されるリテーナー50およびリテーナー60とを、備えている。本実施形態では、弾性体30は、ゴムからなり、インナ10とアウタ20に対して、加硫接着によって固定されている。
【0035】
また、リテーナー50およびリテーナー60は、インナ10の軸方向の両端部にそれぞれかしめ固定されている。本実施形態では、リテーナー50およびリテーナー60が軸方向の両端部にかしめ固定されるが、一方の端部だけにリテーナーが、かしめ固定されてもよい。
【0036】
インナ10は、
図1、
図2、
図3、
図4、
図5、
図6、
図7、
図8、
図9に示すように、中心部に貫通孔11が形成された円筒体からなる。インナ10は
図3、
図4に示すように、軸方向の両端面15,15に、軸方向外方に延びる環状の突出部12,12を備えている。
図1、
図2、
図5に示すように、環状の突出部12は、かしめ固定部13と連結部14を備えている。
【0037】
アウタ20は、
図1、
図3に示すように、インナ10よりも薄肉の円筒体からなり、軸方向の一方端部に径方向外方に延びるフランジ部21を備えている。アウタ20のフランジ部21に軸方向の環状ストッパ35を備えている。
【0038】
弾性体30は、
図1、
図3に示すように、インナ10の外周面とアウタ20の内周面に加硫接着されており、軸方向に延びるスグリ31を備えている。
【0039】
リテーナー50は、円形のプレートにより構成され、
図3、
図4、
図6に示すように、その中央部分に軸方向に貫通する円形状の開口部51を有している。開口部51の内周面52は、ストレート部53および段差部54を備えている。段差部54は、開口部51の内周面において内周へ向けて突出しており、リテーナー50の板厚方向(軸方向)においてインナ10側に部分的に設けられている。段差部54の上端部は、角をなしていてもよいし、上方へ向けて外周へ傾斜する凸形湾曲面とされていてもよい。段差部54は、本実施形態においてインナ10が突き当てられるリテーナー50の下端部に設けられているが、例えば、軸方向の中間部分に設けられていてもよく、リテーナー50におけるインナ10の突き当て側の端面(下面)と反対側の端面(上面)に対して、インナ10の突き当て側である下側に位置していればよい。本実施形態では、リテーナー50が円形のプレートとされているが、矩形や楕円形状や多角形のプレートでも良い。インナ10の軸方向の端面15がリテーナー50の開口部51の開口周縁部に突き当てられており、リテーナー50は、インナ10の軸方向端部に固定されて、軸直角方向に広がっている。リテーナー50は、アウタ20のフランジ部21と軸方向で対向しており、リテーナー50とアウタ20のフランジ部21とが環状ストッパ35を介して当接することによって、インナ10とアウタ20の軸方向の相対変位量が制限される。また、インナ10の軸方向の端面15に突出する上側の突出部12は、リテーナー50の開口部51に挿入されている。
【0040】
リテーナー60は、円形のプレートにより構成され、
図3、
図6に示すように、その中央部分に軸方向に貫通する円形状の開口部61を有している。開口部61の内周面62は、リテーナー50と同じストレート部および段差部(図示されていない)を備えている。同様の段差部は、リテーナー60の板厚方向(軸方向)においてインナ10側に設けられている。リテーナー60は、リテーナー50とは円形プレートの外径の違いのみで、その他の構造は同じである。本実施形態での説明では、リテーナー60が円形のプレートとされているが、矩形や楕円形状や多角形のプレートでも良い。リテーナー60は、リテーナー50とは反対側においてインナ10の軸方向端部に固定されて、軸直角方向に広がっており、例えばアウタ20側に設けられる図示しないストッパ部材と軸方向で対向している。そして、それらリテーナー60とストッパ部材の当接によって、インナ10とアウタ20の軸方向の相対変位量が制限される。リテーナー50およびリテーナー60は外径以外については同じ構造のため、詳細の説明については、リテーナー50の組付けおよび固定について説明する。なお、リテーナー50とリテーナー60は、例えば形状や厚さなどが相互に異なっていてもよい。
【0041】
図2は、防振装置1の環状の突出部12を説明する図である。インナ10の環状の突出部12は、その周方向に相互に離隔して配置される複数のかしめ固定部13を備え、複数のかしめ固定部13の周方向間には、複数のかしめ固定部13の周方向間に位置してそれぞれを周方向で連結する複数の連結部14が配置されている。かしめ固定部13は、連結部14よりも周方向の長さが長く、例えば連結部14に対して3倍以上の周方向長さとされる。なお、複数のかしめ固定部13の配置態様は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、周方向で均等に配置されている。ここで言う周方向で均等に配置されるとは、周方向において全体としてバランスよく配置されていることであって、例えば、相互に周方向長さの異なる複数種類のかしめ固定部13が設けられる場合であっても、全体として均等に配置され得る。周方向で均等に配置されたかしめ固定部13は、
図5に示すように、リテーナー50の開口部51の内周面52に押し当てられて固定され、リテーナー50がインナ10に対してかしめ固定されている。また、リテーナー50とインナ10が固定された状態において、連結部14とリテーナー50の内周面52のストレート部53との間には、
図2、
図5に示すように、隙間40が形成されている。かしめ固定部13と連結部14とを含む突出部12は、かしめ固定によって、かしめ固定部13だけでなく連結部14を含む全周にわたって拡径されていてもよい。また、突出部12は、かしめ固定後において、連結部14が初期形状と略同一の直径(内径及び/又は外径)とされていてもよい。
【0042】
このように、かしめ固定部13を周方向に複数配置し、各かしめ固定部13を連結する連結部14をかしめ固定部13,13の周方向間に設けることで、かしめ時の入力によってかしめ固定部13が径方向で圧縮されて薄肉となる際に、かしめ固定部13はポアソン比に基づいて周方向外側へ伸長しようとする。これにより、かしめ固定部13と周方向で隣接する連結部14には周方向の圧縮力が作用し、連結部14がポアソン比に基づいて隙間40のある径方向外側へ膨出する。従って、
図5に示すように、連結部14の径方向の厚みT3が、かしめ固定部13の径方向の厚みT2より厚くなる。具体的には、かしめ時に、かしめ固定部13に発生する応力を連結部14に分散させ、連結部14を変形させることで、内周面18に発生するバリ(余剰分)の形成が抑制される。換言すると、バリ(余剰分)が、かしめされていない連結部14に流動し、バリ発生量に相当する厚みが増すことで、結果として内周面のバリの発生が低減又は防止でき、バリ除去作業が不要又は簡素化できる。
【0043】
リテーナー50の開口部51の内周面52に押し当てられるかしめ固定部13が、周方向で均等に配置されていることにより、インナ10とリテーナー50の固定力が周方向においてバランスよく作用して、安定した固定が実現される。また、かしめ固定部13は、連結部14よりも周方向長さが長くされていることから、かしめ固定部13のリテーナー50への当接面積が大きく確保されており、かしめ固定部13によるインナ10とリテーナー50の固定力を大きく得ることができる。
【0044】
図3、
図4は、インナ10とリテーナー50とをかしめ固定する前の状態を説明するものである。かしめ固定前において、環状の突出部12は、全周にわたって略一定の内径および外径を有する円筒形状とされており、環状の突出部12には、かしめ固定部13と連結部14は設けられておらず、環状の突出部12の内周面はインナ10の内周面18の延長上に位置する円筒面とされている。リテーナー50の開口部51には、インナ10の一方の環状の突出部12が挿入される。また、リテーナー60の開口部61には、インナ10の他方の環状の突出部12が挿入される。
【0045】
図5は、インナ10とリテーナー50とが固定された状態を説明するものである。インナ10の軸方向の端面15に形成される軸方向外方に延びる環状の突出部12がリテーナー50の開口部51に挿入され、後述する
図7等に示されるようなかしめ治具によりかしめ固定される。
【0046】
かしめ固定後において、環状の突出部12は、周方向に配置される複数のかしめ固定部13と、複数のかしめ固定部13のそれぞれを連結する複数の連結部14とを備えている。かしめ固定部13は、後述するかしめ治具により、環状の突出部12が部分的に径方向外方に変形させられることにより形成され、リテーナー50の内周面52を構成するストレート部53に押し当てられている。
【0047】
このような構造によれば、かしめ固定部13において、インナ10の軸方向の端面15に形成される軸方向外方に延びる環状の突出部12とリテーナー50とが強固に固定される。さらに、ストレート部53に押し当てられているかしめ固定部13に、段差部54が引っ掛かり、係合状態となるため、リテーナー50が抜け難くなり、さらに強固に固定される。本実施形態においては、かしめ固定後においても、突出部12の軸方向先端がリテーナ50の開口部51の内部に位置せしめられて、リテーナ50の外面から軸方向外方への突出が回避されている。かくの如き態様においても、突出部12のかしめ固定部13は、段差部54の軸方向外側の角部に対して引っ掛かり係合した状態で、段差部54の軸方向外側の角部を境にして軸方向で屈曲する如き形状とされることで、リテーナ50の軸方向外側への抜けに対して大きな阻止力を発揮し得る。なお、かくの如き段差部54は,リテーナ50の抜け阻止力の向上等に有効であるものの、本発明において必須でないし、突出部12をリテーナ50から軸方向外方に突出させても良い。
【0048】
一方、複数の連結部14は、後述するかしめ治具によって突出部12における周方向の複数箇所にかしめ固定部13が形成されることによって、それら複数のかしめ固定部13の周方向間に形成される。複数の連結部14は、インナ10とリテーナー50がかしめ固定部13によって固定された状態において、リテーナー50の内周面52を構成するストレート部53に対して内周へ離れて配置されており、ストレート部53との間にそれぞれ隙間40を有している。なお、連結部14は、インナ10とリテーナー50がかしめ固定部13によって固定された状態において、リテーナー50の内周面52を構成する段差部54からも離れていてよいが、本実施形態では、段差部54に押し当てられており、補助的な固定力を発揮する。連結部14は、
図5に示すように、ストレート部53の内周において段差部54よりも外周側に位置しており、段差部54に対して軸方向で係止されていることから、補助的な固定力を効率的に発揮し得る。本実施形態では、複数の連結部14が段差部54においてリテーナー50の開口部51の内周面52にそれぞれ当接しているが、例えば、複数の連結部14の幾つかが段差部54に当接し、他の幾つかが段差部54に当接していなくてもよい。
【0049】
このような構造によれば、インナ10の軸方向の端面15に形成される軸方向外方に延びる環状の突出部12の全体をかしめる場合に発生するバリに比べ、本来かしめ固定部13に発生するバリ(余剰分)が、隣接する複数の連結部14に流動(変形)して吸収されることでバリの発生が低減又は防止できる。すなわち、バリを発生させないためには、かしめ固定された後も、連結部14の外周面とストレート部53との間に隙間40を有する状態が好ましい。即ち、かしめ固定後も隙間40を有していれば、かしめ固定時に流動した材料の行き場が十分に確保されていることになり、バリの発生が抑制される。
【0050】
図2、
図5に示すように、連結部14の径方向の厚みT3が、かしめ固定部13の径方向の厚みT2より厚い。蓋し、かしめ固定時に、かしめ固定部13がリテーナー50とかしめ治具(後述)との間で押し潰されて薄肉化されると共に、連結部14はかしめ固定部13から押し出された形成材料によって薄肉化が抑制される又は厚肉化されるからである。
【0051】
このような構造によれば、かしめ固定部13は、後述するように、
図7等に示すかしめ治具により、インナ10の環状の突出部12の一部が径方向外方に変形することにより形成され、リテーナー50の内周面52を構成するストレート部53に押し当てられる。そのため、かしめ固定部13の厚みT2は、環状の突出部12のかしめ固定する前の径方向の厚みT1より少し薄くなる。また、かしめ固定部13において環状の突出部12のかしめ固定する前の径方向の厚みT1より少なくなった厚み分が流動(変形)し、環状の突出部12のかしめ固定する前の径方向の厚みT1およびかしめ固定部13の径方向の厚みT2より、複数の連結部14の径方向の厚みT3が厚くなる。これらにより、バリの発生が低減又は防止される。
【0052】
本実施形態では、インナ10およびリテーナー50は金属材料で形成されている。従来は、インナ10およびリテーナー50が鋼鉄材料により形成されていたが、防振装置1の軽量化の目的のため、インナ10の材質はアルミ合金材料とされ、リテーナー50は鋼鉄材料により形成されており、インナ10の材料硬度がリテーナー50の材料硬度よりも小さい。このように、インナ10の材料硬度がリテーナー50の材料硬度よりも小さい場合、従来技術のように全周に亘りかしめを行うと、インナ10のかしめ部分であるかしめ固定部13が径方向外方に変形する前に、かしめ治具がインナ10の内周面18を削ることから、バリの発生が問題になり易い。
【0053】
本実施形態では、インナ10のリテーナー50へのかしめ固定部分を構成する突出部12が、周方向に配置される複数のかしめ固定部13と、複数のかしめ固定部13のそれぞれを周方向で連結する複数の連結部14とを有する構造とされている。これにより、リテーナー50よりも材料硬度が小さいインナ10を採用する場合に、インナ10とリテーナー50のかしめ固定力を確保しながら、インナ10の変形(逃げ)をコントロール可能とすることができて、インナ10の材料硬度がリテーナー50の材料硬度よりも小さい場合であっても、材料硬度が小さいインナ10においてバリの発生を抑制できる。
【0054】
このように、本実施形態に係る防振装置1によれば、複数のかしめ固定部13において、かしめ治具によるインナ10の内周面18の削れが低減又は回避されて、かしめ固定部13に隣接する連結部14側に材料が流動(変形)し、バリの発生を抑制することができる。
【0055】
次に、防振装置1の製造方法について、
図6~
図9を参照しつつ、適宜、
図10~
図13を参照して説明する。
【0056】
防振装置1の製造方法は、連結工程と、挿入工程と、かしめ工程とを備えている。
【0057】
連結工程は、防振装置1においてリテーナー50、60を除く本体となる中間体2を形成する工程である。
図6に示すように、インナ10にアウタ20を外挿した状態で、インナ10およびアウタ20を所定の成形型(図示されない)に入れる。そして、インナ10とアウタ20との間に未加硫状態のゴム素材を注入し、従来から使用されている所定の加硫装置(図示されない)によって、ゴム素材に加硫を行う。こうして、インナ10とアウタ20との間に弾性体30を成形し、中間体2を形成する。
【0058】
連結工程を行うと、弾性体30は、インナ10の外周面およびアウタ20の内周面に加硫接着された状態となっている。なお、加硫接着は、加熱環境下で実施されるので、常温に冷却されると、弾性体30に引張応力(引張ひずみ)が残留する。中間体2を冷却した後、中間体2を図示しない縮径用治具に装着し、中間体2を縮径する。
【0059】
中間体2を縮径すると、弾性体30の残留引張応力が低減あるいは除去される。なお、本実施形態では、弾性体30の残留引張応力を除去するだけでなく、弾性体30に圧縮応力を付与する。これにより、使用状態で弾性体30に作用する引張応力が低減されて、弾性体30の耐久性の向上が図られる。
【0060】
挿入工程は、中間体2のインナ10の両端部に設けられた環状の突出部12を、リテーナー50およびリテーナー60に挿入する工程である。なお、本実施形態である防振装置1の製造において、インナ10の軸方向両端部にリテーナー50およびリテーナー60を固定しているが、いずれか一方のみでもよい。
【0061】
挿入工程では、
図6,
図7,
図8に示すように、インナ10の軸方向両端部に形成される環状の突出部12,12を、リテーナー50の開口部51及びリテーナー60の開口部61に挿入する。
【0062】
具体的には、
図12に示すような、外周面において径方向に拡径された複数の拡径部81が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具としての第2かしめ固定治具80に、リテーナー60、中間体2、の順にセットして、中間体2の下側の突出部12をリテーナー60の開口部61へ挿入する。第2かしめ固定治具80にセットされた中間体2の上側の突出部12をリテーナー50の開口部51へ挿入し、
図10に示すような、外周面において径方向に拡径された複数の拡径部71が周方向で相互に離隔して配置されたかしめ治具としての第1かしめ固定治具70を、インナ10の貫通孔11に上側から挿入する。なお、拡径部71,81の配置態様は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、周方向に等間隔に配置されている。
【0063】
かしめ工程は、インナ10とリテーナー50およびリテーナー60を固定する工程である。かしめ工程では、
図8に示すように、複数の拡径部71が周方向に配置された略円筒形状の外周面を有する第1かしめ固定治具70が、上側から所定の位置まで下降して、第2かしめ固定治具80に接近する。所定の位置とは、後述するかしめ位置とされる。
【0064】
図7、
図8、
図11、
図13に示すように、第1かしめ固定治具70の挿入ガイド部76及び第2かしめ固定治具80の挿入ガイド部86が、それぞれインナ10の貫通孔11に挿入されて、第1かしめ固定治具70及び第2かしめ固定治具80が、かしめ位置においてインナ10の両端部の環状の突出部12,12の内周側に挿入される。これにより、両端部の環状の突出部12,12における第1及び第2かしめ固定治具70,80の複数の拡径部71,81が配置される部分が、リテーナー50、60の開口部51、61の内周面52、62に押し当てられて、環状の突出部12,12の周方向に相互に離隔して配置された複数のかしめ固定部13が成形され、リテーナー50、60がインナ10に固定される。また、複数のかしめ固定部13の周方向間に位置し、複数のかしめ固定部13のそれぞれを周方向で連結する連結部14が成形される。複数のかしめ固定部13と複数の連結部14とが第1,第2かしめ固定治具70,80によって軸方向両側の突出部12,12に形成される
図8に示した第1,第2かしめ固定治具70,80の位置が、かしめ位置とされる。換言すれば、かしめ位置は、かしめ固定部13を形成するかしめ工程(後述)において、第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80を軸方向で最も接近させた際のそれら第1,第2かしめ固定治具70,80の位置である。かしめ位置に配された第1,第2かしめ固定治具70,80は、第1かしめ固定治具70の挿入ガイド部76と第2かしめ固定治具80の挿入ガイド部86とが、いずれも全体にわたって突出部12,12を含むインナ10の中心孔に挿入されている。かしめ位置に配された第1,第2かしめ固定治具70,80は、リテーナー50,60における開口部51,61の周縁部と突出部12,12の突出先端部との少なくとも一方に対して、軸方向外側から当接して軸方向で位置決めされている。
【0065】
かしめ工程において、径方向に拡径された複数の拡径部71、81が周方向に配置される略円筒形状の外周面を有するかしめ固定治具70,80を使用することで、複数のかしめ固定部13および連結部14を成形する際のバリの発生が低減又は防止でき、バリ除去作業が不要となるか又は簡素化できる。
【0066】
図10は、
図1の防振装置1に係る第1かしめ固定治具70の底面図である。
図10に示される第1かしめ固定治具70は、かしめ部77を備える。かしめ部77は、かしめ固定部13を成形する部分における軸直方向の断面において、環状に配置される複数の拡径部71と、複数の拡径部71の周方向間に位置して複数の拡径部71のそれぞれを周方向で連結し、径方向内側に凸となる曲面状に形成される複数の曲面連結部74を備えている。曲面連結部74は、径方向内側凸部72と、径方向内側凸部72の周方向両側に位置する曲面部73,73とから形成される。
【0067】
図11は、
図10のXI-XI軸方向断面である。第1かしめ固定治具70は軸方向に延びる略円筒形状の外周面を有しており、一端側に挿入ガイド部76と環状に配置される複数の拡径部71と、複数の拡径部71のそれぞれを周方向で連結する曲面連結部74を備えたかしめ部77が形成されている。かしめ部77は、第1かしめ固定治具70がインナ10に挿入されて、かしめ位置に移動した時に、インナ10の両端部に設けられる環状の突出部12,12の一方に位置する。
【0068】
図12は、
図1の防振装置に係る第2かしめ固定治具80の平面図である。
図12に示される第2かしめ固定治具80は、かしめ部87を備える。かしめ部87は、かしめ固定部13を成形する部分における軸直方向の断面において、環状に配置される複数の拡径部81と、複数の拡径部81の周方向間に位置して複数の拡径部81のそれぞれを周方向で連結し、径方向内側に凸となる曲面状に形成される複数の曲面連結部84を備えている。曲面連結部84は、径方向内側凸部82と、径方向内側凸部82の周方向両側に位置する曲面部83,83とから形成される。
【0069】
図13は、
図12のXIII-XIII軸方向断面である。第2かしめ固定治具80は軸方向に延びる略円筒形状の外周面を有しており、一端側に挿入ガイド部86と、環状に配置される複数の拡径部81および複数の拡径部81のそれぞれを周方向で連結する曲面連結部84を備えたかしめ部87とが形成されている。かしめ部87は、第1かしめ固定治具70がインナ10に挿入されて、かしめ位置に移動した時に、インナ10の両端部に設けられる環状の突出部12,12の他方に位置する。
【0070】
第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80との結合状態については、
図8,
図11,
図13に示すように、第1かしめ固定治具70には、インナ10への挿入先端側(下側)の端面より軸方向に延びる挿入孔79が設けられている。第2かしめ固定治具80には、第1かしめ固定治具70の挿入孔79に挿入される挿入部89が設けられている。挿入部89が挿入孔79に挿入されることで、第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80が相対的に位置決めされて、かしめ固定の位置が決まる。本実施形態では、挿入部89が挿入孔79に挿入されて、第1かしめ固定治具70がリテーナー50に上方から軸方向で重ね合わされると共に、第2かしめ固定治具80がリテーナー60に下方から軸方向で重ね合わされることにより、第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80が軸方向で相対的に位置決めされている。また、本実施形態では、インナ10の貫通孔11に第1かしめ固定治具70の挿入ガイド部76と第2かしめ固定治具80の挿入ガイド部86が軸方向両側から挿入されて、挿入部89が挿入孔79に挿入されることにより、第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80が径方向で相対的に位置決めされている。なお、挿入部89が挿入孔79に挿入されることにより、第1かしめ固定治具70の挿入ガイド部76と第2かしめ固定治具80の挿入ガイド部86との何れか一方は、インナ10の貫通孔11の内径よりも小径とされて、インナ10の内周面から離隔していても、かしめ位置において径方向で位置決めされる。尤も、挿入孔79と挿入部89は必須ではなく、例えば、第1かしめ固定治具70と第2かしめ固定治具80が、中間体2を介して軸方向や径方向で位置決めされるようにしてもよい。
【0071】
このような構造のかしめ固定治具を使用して、リテーナー50,60とインナ10のかしめ固定を行えば、複数のかしめ固定部13が連結部14を介して周方向で相互に離れた位置に成形されることから、バリの発生が低減又は防止されて、バリ除去作業が不要となるか又は簡素化できる。
【0072】
図14には、本発明の別の一実施形態としての防振装置100が示されている。以下の説明において、前記一実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付して説明を省略する。また、前記実施形態と同様に、リテーナー50とリテーナー60は略同一構造であることから、リテーナー50についての説明をすることで、リテーナー60についての説明を省略する。
【0073】
防振装置100は、インナ10が軸方向端面から突出する突出部12を備えており、突出部12の複数のかしめ固定部13がリテーナー50の開口部51の内周面52に押し当てられていると共に、それらかしめ固定部13の周方向間には連結部102が設けられている。かしめ固定部13は、外周へ押し広げられてリテーナー50の開口部51の内周面52に押し当てられることによってリテーナー50にかしめ固定されており、これによってリテーナー50がインナ10に固定されている。かしめ固定部13は、ストレート部53に押し当てられていると共に、段差部54の内周側面から離隔しており、かしめ固定部13とストレート部53との間に隙間104が形成されている。また、かしめ固定部13は、段差部54に対して軸方向で係止されている。リテーナー50がインナ10に固定された状態において、連結部102は、リテーナー50の開口部51の内周面52に対して、段差部54においても離隔しており、連結部102の全体とリテーナー50の開口部51の内周面52との間に隙間106が形成されている。
【0074】
このような本実施形態に従う構造とされた防振装置100によっても、前記一実施形態と同様の効果を得ることができる。また、リテーナー50の開口部51の内周面52と連結部102との間に、軸方向の全長にわたって隙間106が設けられていることから、かしめ固定部13の径方向での圧縮変形に伴う周方向への膨出変形が当該隙間106によって効果的に許容されて、図示しないかしめ固定治具によってかしめ固定部13を拡径させる際のバリの発生が抑えられる。また、かしめ固定部13と段差部54との間に隙間104が形成されていることにより、かしめ固定部13の内周面におけるバリの発生がより効果的に抑制される。
【0075】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【0076】
例えば、前記実施形態では、形状やサイズが同一とされた複数のかしめ固定部13が周方向に配されていたが、それら複数のかしめ固定部13は、形状や周方向長さなどが相互に異なっていてもよい。より具体的には、例えば、周方向長さの長い第1かしめ固定部と、周方向長さの短い第2かしめ固定部とが周方向で交互に配される等してもよい。
【0077】
また、前記実施形態では、形状やサイズが同一とされた複数の連結部14が周方向に配されていたが、それら複数の連結部14は、形状や周方向の長さなどが相互に異なっていてもよい。
【0078】
前記実施形態では、かしめ固定部13の周方向長さが連結部14の周方向長さよりも長くされていたが、例えば、かしめ固定部13と連結部14は、周方向において同じ長さであってもよいし、連結部14がかしめ固定部13よりも周方向長さが長くされていてもよい。
【0079】
突出部12は、必ずしもストレートの円筒形状である必要はなく、例えば、かしめ固定部13が形成される部分が、連結部14が形成される部分よりもかしめ前の状態で大径とされていてもよい。
【0080】
前記実施形態では、リテーナー50の開口部51の内周面52がストレート部53と段差部54とを備えており、段差部54が内周へ向けて突出した構造を例示したが、リテーナー50の開口部51の内周面52は、例えば、ストレートな筒状面であってもよいし、軸方向外側へ向けて拡開するテーパー状面であってもよいし、複数の段差部(突出部)を備えていてもよい。また、段差部は全周にわたって連続していなくてもよく、例えば、周方向で断続的に複数が設けられる等してもよい。また、段差部54を設けることに加えて又は代えて、リテーナ50の開口部51の軸方向外側の開口端をテーパ状や面取り状に拡径させる等して、そこに突出部12の先端のかしめ固定部13を係合させてもよい。
【0081】
前記一実施形態では、連結部14がリテーナー50の開口部51の内周面52に対して、段差部54において当接し、且つストレート部53において離隔した態様を示すと共に、前記別の一実施形態では、連結部102がリテーナー50の開口部51の内周面52に対して全長にわたって離隔した態様を示したが、例えば、連結部のリテーナーの開口部の内周面に対する当接態様は、前記実施形態によって限定解釈されるものではない。以下、分かり易さのために、前記実施形態の符号を適宜引用して説明する。
【0082】
例えば、
図15に示す防振装置110のように、連結部112が段差部54とストレート部53の両方においてリテーナー50の開口部51の内周面52に当接していてもよい。連結部112は、かしめ固定部13ほど積極的に外周へ押し広げられておらず、例えば、かしめ固定部13が径方向の圧縮に伴って周方向両側へ伸びることにより、連結部112が厚肉化されて、リテーナー50の開口部51の内周面52と連結部112との間の隙間が略充填され、連結部112がストレート部53を含むリテーナー50の開口部51の内周面52に当接する。従って、連結部112は、例えば、リテーナー50の開口部51の内周面52に対して、かしめ固定部13よりも小さい接圧で接触していると共に、径方向の厚さ寸法がかしめ固定部13よりも大きくされて、かしめ固定部13よりも内周に突出する形状とされ得る。このように連結部112が軸方向の全長にわたってリテーナー50の開口部51の内周面52に当接していれば、リテーナー50と連結部112との間の隙間が低減乃至は回避されることによって、当該隙間への異物の侵入が防止され易くなる。なお、連結部は、リテーナー50の内周面52に対して、ストレート部53で当接すると共に、段差部54で内周へ離れていてもよい。
【0083】
また、前記一実施形態において、T2<T1<T3となるのが好適な旨を説明したが、各部位の厚さは周方向において一定である必要はない。T1及びT2は該当部位の最小厚さ寸法として、T3は該当部位の最大厚さ寸法として、T2<T1<T3を満足することが好ましい。なお、かかる一実施形態では、かしめ固定前において突出部12の全体が略一定の厚さ寸法をもって形成されていたが、突出部12の各部位の当初厚さが異なっていても良い。更に、かかる一実施形態のように、略円筒形状の突出部12に対して周方向で複数のかしめ固定部13を設けるに際しては、かしめ固定部13と連結部14のそれぞれの厚さ寸法を比較することに加えて又は代えて、かしめ固定部13の内径寸法を連結部14の内径寸法と比較して、前者(13)の内径寸法に比して後者(14)の内径寸法の方が小さくされている態様が好適である。また、同様に、外径寸法に関しては、前者(13)の外径寸法に比して後者(14)の外径寸法の方が小さくされている態様が好適である。
【0084】
インナ10に固定された突出部12におけるかしめ固定部13と連結部14は、軸方向先端が全周に亘って揃っていることが望ましいが、例えばかしめ固定部13のかしめ加工に伴う肉厚変化を軸方向にも逃がすことで、連結部14よりもかしめ固定部13が僅かに軸方向寸法が大きくされていても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 防振装置(一実施形態)
2 中間体
10 インナ
11 貫通孔
12 突出部
13 かしめ固定部
14 連結部
15 端面
18 内周面
20 アウタ
21 フランジ部
30 弾性体
31 スグリ
35 環状ストッパ
40 隙間
50 リテーナー
51 開口部
52 内周面
53 ストレート部
54 段差部
60 リテーナー
61 開口部
62 内周面
70 第1かしめ固定治具(かしめ治具)
71 拡径部
72 径方向内側凸部
73 曲面部
74 曲面連結部
76 挿入ガイド部
77 かしめ部
79 挿入孔
80 第2かしめ固定治具(かしめ治具)
81 拡径部
82 径方向内側凸部
83 曲面部
84 曲面連結部
86 挿入ガイド部
87 かしめ部
89 挿入部
100 防振装置(別の一実施形態)
102 連結部
104 隙間
106 隙間
110 防振装置(また別の一実施形態)
112 連結部
T1,T2,T3 径方向の厚み