(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135897
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】テトラカルボン酸二無水物、ポリエステルイミド前駆体およびその製造方法、ならびに、ポリエステルイミドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/89 20060101AFI20220908BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C07D307/89 Z CSP
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169452
(22)【出願日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2021033625
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】木下 尚文
(72)【発明者】
【氏名】小倉 丈人
【テーマコード(参考)】
4C037
4J043
【Fターム(参考)】
4C037RA11
4J043PC015
4J043PC115
4J043PC135
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA06
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4J043ZA35
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4J043ZA60
(57)【要約】
【課題】誘電率の低いポリエステルイミドを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより得られるポリエステルイミド前駆体を環化反応させて、ポリエステルイミドを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物。
【化1】
【請求項2】
下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【化2】
前記式(2)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
【請求項3】
請求項1に記載のテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、直鎖状脂肪族ジアミンおよび分岐鎖状脂肪族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを重合させることにより請求項2に記載のポリエステルイミド前駆体を得る、ポリエステルイミド前駆体の製造方法。
【請求項4】
下記式(3)で表される繰り返し単位を有し、
下記式(3)で表される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して、30.0mol%超80.0mol%以下である、ポリエステルイミド。
【化3】
前記式(3)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
【請求項5】
請求項2に記載のポリエステルイミド前駆体を環化反応させることにより請求項4に記載のポリエステルイミドを得る、ポリエステルイミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラカルボン酸二無水物、ポリエステルイミド前駆体およびその製造方法、ならびに、ポリエステルイミドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、機械的性質などの特性にも優れる。
このため、ポリイミドは、現在、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンデイング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層問絶縁膜など、様々な電子デバイスに広く利用されている。
【0003】
また、ポリイミドは、製造方法の簡便さ、高い純度、物性改良のしやすさの点で、非常に有用な材料である。
このため、近年、様々な用途に適した機能性ポリイミドが設計されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules,1991,Vol.24,No.18,p.5001-5005
【非特許文献2】Macromolecules,1999,Vol.32,No.15,p.4933-4939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の情報処理能力を向上させるために、電気信号の高周波化が進められている。この高周波化に伴い、回路基板材料として、優れた高周波伝送特性を有する材料、つまり、誘電率の低い材料が求められている。
【0006】
ポリイミドの低誘電率化には、骨格中にフッ素置換基を導入することが有効である(例えば非特許文献1参照)。しかし、フッ素化モノマーの使用はコストの点で不利である。
【0007】
また、芳香族単位を脂環族単位に置き換えてπ電子を減少することも、ポリイミドの低誘電率化には有効である(例えば非特許文献2参照)。しかし、ポリイミドの優れた特性を維持しつつ、低誘電率を持つポリイミドを得ることは容易ではなく、このような特性を満足する実用的な材料は殆ど知られていない。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、誘電率の低いポリエステルイミドを提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記ポリエステルイミドの前駆体、および、上記前駆体の製造に用いるテトラカルボン酸二無水物を提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記ポリエステルイミドの前駆体を製造する方法、および、上記ポリエステルイミドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。
具体的には、下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミド前駆体を得て、これを環化反応させて、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドを得た。その結果、得られたポリエステルイミドが低誘電率であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物。
【化1】
【0011】
[2]下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【化2】
上記式(2)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
【0012】
[3]上記[1]に記載のテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、直鎖状脂肪族ジアミンおよび分岐鎖状脂肪族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンとを重合させることにより上記[2]に記載のポリエステルイミド前駆体を得る、ポリエステルイミド前駆体の製造方法。
【0013】
[4]下記式(3)で表される繰り返し単位を有し、下記式(3)で表される繰り返し単位の割合が、全繰り返し単位に対して、30.0mol%超80.0mol%以下である、ポリエステルイミド。
【化3】
上記式(3)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
【0014】
[5]上記[2]に記載のポリエステルイミド前駆体を環化反応させることにより上記[4]に記載のポリエステルイミドを得る、ポリエステルイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘電率の低いポリエステルイミドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1に記載の3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)のプロトンNMRスペクトル図である。
【
図2】実施例1に記載の3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)の示差走査熱量曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施形態は一例であり、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されない。
【0018】
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明のテトラカルボン酸二無水物は、下記式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物である。
すなわち、本発明のテトラカルボン酸二無水物は、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)である。
【0019】
【0020】
〈テトラカルボン酸二無水物の製造方法〉
本発明のテトラカルボン酸二無水物を製造する方法は、特に限定されない。
例えば、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールとトリメリット酸無水物との直接脱水反応による方法;3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのジアセテートとトリメリット酸無水物とを高温で脱酢酸反応させる方法;3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールとトリメリット酸ハライドとを脱酸剤(塩基)の存在下で反応(エステル化反応)させる方法(酸ハライド法);ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水剤を用いて3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールとトリメリット酸とを脱水縮合させる方法;等が挙げられる。
これらのうち、トリメリット酸無水物の酸ハライド、すなわち、無水トリメリット酸クロリドが安価に入手可能であることから、酸ハライド法が好ましい。
【0021】
次に、酸ハライド法について、具体的に説明する。
まず、無水トリメリット酸クロリドAmolを溶媒に溶解し、溶液を得て、密栓する。
この溶液に、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオール0.5×Amolおよび所要量の脱酸剤を同一溶媒に溶解したものを、滴下ロートを用いてゆっくりと滴下する。すると、沈殿物が生成し、この沈殿物を含むスラリーが得られる。
滴下終了後、スラリーを攪拌する。撹拌時間は、例えば、10~30時間である。その後、沈殿物を濾別し、濾液を得る。得られた濾液からエバボレーターを用いて溶媒を留去し、残留物を得る。得られた残留物を真空乾燥して、黄色粉末状の粗生成物を得る。真空乾燥の際の温度は、100~150℃が好ましい。真空乾燥する時間は、10~30時間が好ましい。
次に、粗生成物を、無水酢酸を用いてリパルプ洗浄し、室温に放置してから、これを濾別し、トルエン等を用いて充分に洗浄した後、真空乾燥する。リパルプ洗浄に用いる無水酢酸の温度は、70~90℃が好ましい。真空乾燥の際の温度は、100~150℃が好ましい。真空乾燥する時間は、10~30時間が好ましい。
これにより、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(すなわち、本発明のテトラカルボン酸二無水物)が高純度で得られる。
これを更に溶媒を用いてリパルプ洗浄すれば、より純度を高めることができる。
【0022】
溶媒としては、特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ-プチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,2-ジメトキシエタン-ビス(2-メトキシエチル)エーテルなどの非プロトン性溶媒;フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノールなどのプロトン性溶媒;等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
これらのうち、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、クロロホルム、アセトンなどが好ましい。
【0023】
スラリーを撹拌する際の温度は、高すぎると副反応が起こり、収率が低下するおそれがあることから、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
一方、この温度は、-10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。
【0024】
副反応の制御、沈殿物の濾過などを考慮して、スラリー中の溶質(分散質)の濃度を調整する。この濃度は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0025】
脱酸剤としては、特に限定されず、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリンなどの有機3級アミン類;炭酸カリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基;等が挙げられる。
【0026】
生成する沈殿物は、主に、脱酸剤として用いる塩基の塩酸塩である。
例えば溶媒としてテトラヒドロフラン、脱酸剤としてピリジンを用いる場合、ピリジン塩酸塩はテトラヒドロフランに殆ど溶解しないため、スラリーを濾過するだけで、ピリジン塩酸塩をほぼ完全に除去できる。
通常、濾液から溶媒を留去し、残留物を無水酢酸等でリパルプ洗浄するだけで、充分に高い純度の目的物(テトラカルボン酸二無水物)が得られる。
もっとも、痕跡量の塩素成分を分離除去するために、得られた目的物を、クロロホルムや酢酸エチル等に再溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗してもよい。また、単に目的物を充分に水洗してもよい。
塩酸塩が除去されたか否かは、洗浄液に対して、1質量%硝酸銀水溶液を添加し、塩化銀の白色沈殿が生成するか否かによって、容易に判断できる。
水洗の際に、テトラカルボン酸二無水物の一部が加水分解を受けてテトラカルボン酸に変化するが、真空乾燥することにより、テトラカルボン酸二無水物に戻すことができる。真空乾燥の際の温度は、80~250℃が好ましく、120~200℃がより好ましい。
有機酸の酸無水物を用いてテトラカルボン酸二無水物に戻すことも可能である。有機酸の酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられ、なかでも、除去しやすいという理由から、無水酢酸が好ましい。
【0027】
[ポリエステルイミド前駆体]
本発明のポリエステルイミド前駆体は、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミド前駆体である。
【0028】
【0029】
上記式(2)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
芳香族基としては、例えば、後述する芳香族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
脂環族基としては、例えば、後述する脂環族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
直鎖状脂肪族基としては、例えば、後述する直鎖状脂肪族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
分岐鎖状脂肪族基としては、例えば、後述する分岐鎖状脂肪族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
【0030】
本発明のポリエステルイミド前駆体において、上記式(2)で表される繰り返し単位の割合は、本発明のポリエステルイミド前駆体の全繰り返し単位に対して、例えば30.0mol%超が好ましく、31.0mol%以上がより好ましく、40.0mol%以上が更に好ましく、50.0mol%以上が特に好ましい。
同様に、本発明のポリエステルイミド前駆体において、上記式(2)で表される繰り返し単位の割合は、本発明のポリエステルイミド前駆体の全繰り返し単位に対して、80.0mol%以下が好ましく、70.0mol%以下がより好ましく、60.0mol%以下が更に好ましい。
【0031】
〈ポリエステルイミド前駆体の製造方法〉
本発明のポリエステルイミド前駆体を製造する方法は、特に限定されず、公知のポリイミド製造方法を適用できる。
例えば、本発明のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより、本発明のポリエステルイミド前駆体が得られる。
より具体的には、例えば、以下の方法により製造できる。
重合溶媒にジアミンを溶解させ、これに実質的に等モルの本発明のテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に添加し、室温で攪拌する。これにより、本発明のポリエステルイミド前駆体を含有する溶液が得られる。
以下、ポリエステルイミド前駆体を含有する溶液を、ポリエステルイミド前駆体溶液ともいう。
【0032】
このとき、本発明のテトラカルボン酸二無水物の一部を、他のテトラカルボン酸二無水物に置換してもよい。
他のテトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、例えば、ピロメリット酸無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)などが挙げられる。
本発明のテトラカルボン酸二無水物の一部を、他のテトラカルボン酸二無水物に置換する場合、本発明のテトラカルボン酸二無水物の割合は、例えば30.0mol%超が好ましく、31.0mol%以上がより好ましく、40.0mol%以上が更に好ましく、50.0mol%以上が特に好ましい。
同様に、本発明のテトラカルボン酸二無水物の一部を、他のテトラカルボン酸二無水物に置換する場合、本発明のテトラカルボン酸二無水物の割合は、80.0mol%以下が好ましく、70.0mol%以下がより好ましく、60.0mol%以下が更に好ましい。
【0033】
以下、好ましい具体例として、本発明のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて、本発明のポリエステルイミド前駆体を製造する方法について述べる。
まず、ジアミンを重合溶媒に溶解し、これに本発明のテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に漆加し、メカニカルスターラーを用いて撹拌する。撹拌の際の温度は、0~100℃が好ましく、5~60℃がより好ましい。撹拌時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましい。
ポリエステルイミド前駆体の重合度が高くなり、ポリエステルイミドの靭性を良好にできるという理由から、重合溶媒中のモノマー(ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物)の濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
一方、ジアミンとして脂環族ジアミンを用いる場合、モノマー濃度が高すぎると、形成される塩が溶解および消失するまでに長い時間を要して、生産性の低下を招く場合がある。このため、重合溶媒中のモノマーの濃度は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0034】
ジアミンとしては、ポリエステルイミド前駆体の重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲であれば、特に限定されない。
ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、直鎖状脂肪族ジアミンおよび分岐鎖状脂肪族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンが挙げられる。
【0035】
芳香族ジアミンとしては、例えば、3,5-ジアミノペンヅトリフルオリド、2,5-ジアミノペンヅトリフルオリド、3,3′-ビストリフルオロメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ビストリフルオロメチル-5,5′-ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)-4,4′-ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)-4,4′-ジアミノジフェニル、ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニル、ジブロモ-4,4′-ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)-4,4′-ジアミノジフェニル、ジフェニル-4,4′-ジアミノジフェニル、4,4′-ビス(4-アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4′-ビナフチルアミン、o-、m-、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノジユレン、ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニル、ジアルキル-4,4′-ジアミノジフェニル、ジメトキ-4,4′-ジアミノジフェニル、ジエトキシ-4,4′-ジアミノジフェニル、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノペンゾフェノン、3,3′-ジアミノペンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]へキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノ-5-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4′-ジアミノペンズアニリド、o-トリジン、m-トリジン、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
芳香族ジアミンとしては、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p-フェニレンジアミン、m-トリジン、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が好ましい。
【0036】
脂環族ジアミンとしては、例えば、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
脂環族ジアミンとしては、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス-1,4-シクロヘキサンジアミン等が好ましい。
【0037】
直鎖状脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
【0038】
分岐鎖状脂肪族ジアミンとしては、例えば、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
【0039】
ジアミンとしては、耐熱性などの点から、芳香族ジアミンが好ましい。
【0040】
重合反応に使用される溶媒(重合溶媒)は、モノマーであるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物が溶解できればよく、その種類は特に限定されないが、プロトン性溶媒が好ましい。
具体的には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどの環状エステル溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート溶媒;トリエチレングリコールなどのグリコール系溶媒;m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒;アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド;等が好適に挙げられる。
更に、その他の一般的な有機溶剤、具体的には、例えば、フェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソプチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0041】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、本発明のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合体におけるテトラカルボン酸基を必要に応じて変性して得ることができる。
【0042】
得られるポリエステルイミドの靭性が良好になるという理由から、本発明のポリエステルイミド前駆体の固有粘度は、0.1dL/g以上が好ましく、0.5dL/g以上がより好ましい。
一方、得られるポリエステルイミドの有機溶媒に対する溶解性が良好になるという理由から、本発明のポリエステルイミド前駆体の固有粘度は、8.0dL/g以下が好ましく、5.0dL/g以下がより好ましい。
【0043】
本発明のポリエステルイミド前駆体を含有する溶液(本発明のポリエステルイミド前駆体溶液)は、必要に応じて、希釈して、次工程であるポリエステルイミドの製造に供される。
ポリエステルイミド前駆体溶液を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、その後、濾過および乾燥することにより、ポリエステルイミド前駆体を、粉末として単離することもできる。
【0044】
[ポリエステルイミド]
本発明のポリエステルイミドは、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエステルイミドである。
【0045】
【0046】
上記式(3)中、Aは、芳香族基、脂環族基、直鎖状脂肪族基および分岐鎖状脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表す。
芳香族基としては、例えば、上述した芳香族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
脂環族基としては、例えば、上述した脂環族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
直鎖状脂肪族基としては、例えば、上述した直鎖状脂肪族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
分岐鎖状脂肪族基としては、例えば、上述した分岐鎖状脂肪族ジアミンから2つのアミノ基を取り除いた残基が挙げられる。
【0047】
本発明のポリエステルイミドにおいて、上記式(3)で表される繰り返し単位の割合は、本発明のポリエステルイミドの全繰り返し単位に対して、例えば30.0mol%超が好ましく、31.0mol%以上がより好ましく、40.0mol%以上が更に好ましく、50.0mol%以上が特に好ましい。
同様に、本発明のポリエステルイミドにおいて、上記式(3)で表される繰り返し単位の割合は、本発明のポリエステルイミドの全繰り返し単位に対して、80.0mol%以下が好ましく、70.0mol%以下がより好ましく、60.0mol%以下が更に好ましい。
【0048】
〈ポリエステルイミドの製造方法〉
本発明のポリエステルイミドを製造する方法は、特に限定されず、公知のポリイミド前駆体を環化反応(イミド化反応)させる方法を採用できる。環化反応は、本発明のポリエステルイミド前駆体の態様が、フィルム、塗膜、粉末、成形体および溶液のいずれであっても実施できる。
【0049】
まず、ポリエステルイミドの膜(ポリエステルイミド膜)を製造する方法を述べる。
ポリエステルイミド前駆体溶液を、ガラス、鋼、アルミニウム、シリコン等からなる基板上に塗布し、オーブン中で乾燥する。乾燥温度は、40~180℃が好ましく、50~150℃がより好ましい。こうして、ポリエステルイミド前駆体膜を得る。
得られたポリエステルイミド前駆体膜を、基板上で加熱する。これにより、環化反応が生じて、ポリエステルイミド膜が基板上に製造される。
環化反応を充分に生じさせる観点から、加熱温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
一方、得られるポリエステルイミド膜が着色したり一部熱分解したりすることを抑制する観点から、加熱温度は、430℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
環化反応は、真空中または窒素等の不活性ガス中で行なうことが好ましいが、加熱温度が高すぎなければ空気中で行なってもよい。
【0050】
環化反応は、ポリエステルイミド前駆体膜を加熱する方法以外の方法によって行なうこともできる。
例えば、ポリエステルイミド前駆体膜を、ピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸などの脱水剤を含有する溶液に浸漬することによって行なうこともできる。
【0051】
また、ポリエステルイミド前駆体溶液をそのまま、または、同一の溶媒を用いて適度に希釈した後、150~200℃に加熱することにより、ポリエステルイミドを含有する溶液を容易に製造できる。
以下、ポリエステルイミドを含有する溶液を、ポリエステルイミド溶液ともいう。
このとき、環化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加してもよい。触媒としてγ-ピコリン等の塩基を添加してもよい。
【0052】
得られたポリエステルイミド溶液を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下した後、濾過することにより、ポリエステルイミドを粉末として単離することもできる。
ポリエステルイミド粉末を、上述した重合溶媒に再溶解して、ポリエステルイミド溶液を得ることもできる。
ポリエステルイミド溶液を基板上に塗布し、乾燥することによってもポリエステルイミド膜を形成できる。乾燥温度は、40~400℃が好ましく、100~250℃がより好ましい。
ポリエステルイミド粉末を加熱圧縮することにより、ポリエステルイミド成形体を製造できる。加熱圧縮の際の温度は、200~450℃が好ましく、250~430℃がより好ましい。
ポリエステルイミドおよびポリエステルイミド前駆体には、必要に応じて、酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤など添加物を加えることができる。
【0053】
ポリエステルイミド前駆体溶液に、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸などの脱水剤を添加し、攪拌して、反応させる。反応温度は、0~100℃が好ましく、0~60℃がより好ましい。これにより、ことにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。つまり、ポリイソイミド化が生じる。
ポリイソイミド化は、脱水剤を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体膜を浸漬することによっても可能である。
ポリイソイミド溶液を、上記と同様な手順で製膜した後、加熱することにより、ポリエステルイミドに容易に変換できる。加熱温度は、250~450℃が好ましく、270~400℃がより好ましい。
【実施例0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0055】
〈物性測定〉
以下の例における、テトラカルボン酸二無水物、ポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミドの物性測定は、次の方法により実施した。
【0056】
《プロトンNMRスペクトル》
テトラカルボン酸二無水物の分子構造を確認するために、卓上型NMR(Magritek社製、spinsolve 80 Carbon)を用いて、重水素化クロロホルム中でプロトンNMRスペクトルを測定した。
【0057】
《示差走査熱量分析(融点および融解曲線)》
テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、示差走査熱量分析装置(島津製作所社製、DSC-60)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
【0058】
《弾性率、破断強度および破断伸び率》
引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAGS-J)を用いて、ポリエステルイミド膜の試験片(10mm×70mm)について、引張試験(延伸速度:102mm/分)を実施した。応力-歪曲線の初期の勾配から弾性率[GPa]を、膜が破断した時の荷重から破断強度[MPa]を、その時の伸び量から破断伸び率[%]を求めた。
【0059】
《ガラス転移温度:Tg》
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、DMAQ800)を用いて、動的粘弾性測定を実施して、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから、ポリエステルイミド膜のガラス転移温度を求めた。
【0060】
《5%質量減少温度:Td5》
熱重量分析装置(島津製作所製、DTG-60)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミド膜の初期質量が5%減少したときの温度を測定した。この温度が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0061】
《線熱膨張係数:CTE》
熱機械分析装置(島津製作所製、TMA60)を用いて、熱機械分析を実施して、荷重1.6g/膜厚1μm、昇温速度10℃/分における試験片の伸びから、50~150℃の範囲での平均値として、ポリエステルイミド膜の線熱膨張係数を求めた。
【0062】
《比誘電率および誘電正接》
マイクロ波信号発生器(Hittite Microwave Corporation社製、HMC-T2220)を用いて、空洞共振器法により、ポリエステルイミド膜の1GHz、10GHzおよび18GHzにおける乾燥条件下での比誘電率および誘電正接を室温で測定した。
【0063】
〈実施例1〉
《テトラカルボン酸二無水物の製造》
無水トリメリット酸クロリド60mmolをナスフラスコに入れ、テトラヒドロフラン70mLを加えて溶解し、無水トリメリット酸クロリド溶液を得て、密栓した。
一方、別のフラスコ中で、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオール30mmolを、テトラヒドロフラン25mLおよびピリジン15mLに溶解した。これを滴下ロートに移し、氷浴中で攪拌しながら、先の無水トリメリット酸クロリド溶液に対して、1時間かけてゆっくりと滴下し、白色沈殿を含むスラリーを得た。
滴下終了後、スラリーを、室温まで昇温し、更に12時間攪拌した。撹拌終了後、スラリーを濾過して、白色沈殿であるピリジン塩酸塩を濾別した。次いで、淡黄色の透明な濾液から、エバボレーターを用いて溶媒を留去し、残留物を得た。得られた残留物を、120℃で12時間真空乾燥して、淡黄色の粗生成物を得た。
次に、この粗生成物をナスフラスコに入れ、50mLの無水酢酸を加えて80℃で1時間リパルプ洗浄した。室温まで冷却した後、リパルプ洗浄した粗生成物を、濾別し、トルエンで充分に洗浄した後、120℃で24時間真空乾燥した。
こうして、重合に供することのできる、高純度の、上記式(1)で表される3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)を、75.5%の収率で得た。これに対して、更に無水酢酸によるリパルプ洗浄を繰り返して実施することにより、より高純度のテトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
得られた3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)のプロトンNMRスペクトル、示差走査熱量曲線(融解曲線)を
図1~2にそれぞれ示した。
【0064】
《ポリエステルイミド前駆体の製造》
よく乾燥した攪拌機付き密閉反応容器の中で、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)10mmolを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解し、溶液を得た。
得られた溶液に、上記式(1)で表される3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)粉末3.1mmolと、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)6.9mmolとを徐々に加え、メカニカルスターラーを用いて、室温で22時間攪拌しながら重合反応を行なった。重合溶媒(N-メチル-2-ピロリドン)中のモノマー(ODA、SPI-TMEDAおよびBPDA)の濃度は、20~30質量%とした。こうして、透明で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得た。用いた各モノマーの使用量を、下記表1の「ポリマー組成」の欄に記載した。
得られたポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、100℃(30分)→150℃(30分)→200℃(30分)の条件で加熱乾燥して、ポリエステルイミド前駆体膜を得た。得られたポリエステルイミド前駆体膜は可撓性を示し、180°折り曲げ試験において破断が見られなかった。これは、得られたポリエステルイミド前駆体が充分な高分子量体であることを示している。
【0065】
《ポリエステルイミド膜の製造》
得られたポリエステルイミド前駆体膜を、基板上で、200℃(10分)→250℃(30分)→350℃(30分)の条件で加熱処理して環化を行なった。こうして、膜厚50μm程度の可撓性のあるポリエステルイミド膜を得た。得られたポリエステルイミド膜は、180°折り曲げ試験によって、破断せず、可撓性を示した。
【0066】
得られたポリエステルイミド膜の物性は、以下のとおりであった。
弾性率は2.3GPa、破断強度は94MPa、破断伸び率は15%であった。
ガラス転移温度(Tg)は302℃であり、高い耐熱性を示した。
5%質量減少温度(Td
5)は485℃であり、比較的高い熱安定性を示した。
線熱膨張係数(CTE)は33ppm/Kであった。
比誘電率および誘電正接は、1GHzで比誘電率3.24、誘電正接0.0068、10GHzで比誘電率3.14、誘電正接0.0097、18GHzで比誘電率2.96、誘電正接0.0100であった。
これらの評価結果を下記表1に示す。
【0067】
〈実施例2〉
3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)の使用量を5.0mmol、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の使用量を5.0mmolに変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルイミド膜を作製し、評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0068】
〈実施例3〉
3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)の使用量を6.0mmol、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の使用量を4.0mmolに変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルイミド膜を作製し、評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0069】
〈比較例1〉
3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)を用いずに、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体を作製し、評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0070】
【0071】
〈評価結果まとめ〉
実施例1~3の機械特性および熱特性は、比較例1よりも低いものもあったが、実用レベルである。
実施例1~3は、比較例1と比較して、低誘電率を示した。
実施例1~3を対比すると、3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビ[インダン]-6,6′-ジオールのトリメリット酸エステルのテトラカルボン酸二無水物(SPI-TMEDA)の使用量が多いほど、より低誘電率を示した。