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特開2022-136030印加される励磁磁場の少なくとも1つの不均一磁場成分を用い、磁場中冷却によって超伝導バルク磁石を励磁するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136030
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】印加される励磁磁場の少なくとも1つの不均一磁場成分を用い、磁場中冷却によって超伝導バルク磁石を励磁するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
H01F6/00 160
H01F6/00 ZAA
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022032636
(22)【出願日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】21161113.2
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン アルフレート マルヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク ヒンダラー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ボルグノルッティ
(72)【発明者】
【氏名】ケネス ジェイ ギュンター
(57)【要約】      (修正有)
【課題】超伝導バルク磁石の捕捉磁場の均一性を簡単な方法で向上させる超伝導バルク磁石を磁化する方法を提供する。
【解決手段】励磁装置1で超伝導バルク磁石を磁化する方法は、磁石励磁システム10を、励磁後に試料体積5内に第1の磁場が発生するよう励磁する。超伝導バルク磁石90aは、T>Tである温度Tを有する。方法はさらに、超伝導バルク磁石90aを温度T<Tに冷却し、超伝導バルク磁石90aが試料体積5内の第2の磁場を捕捉するよう、超伝導バルク磁石90aを誘導的に励磁する磁石励磁システム10から磁場を開放する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石励磁システム(10)を使用して磁場中冷却によって超伝導バルク磁石(90a)を励磁する方法であって、
前記磁石励磁システム(10)はバックグラウンド励磁磁石(10a)と磁場調整ユニット(10b)とを備え、
前記超伝導バルク磁石(90a)はバルク磁石ボア(4)を備え、
前記バルク磁石ボア(4)は試料体積(5)を含み、
前記バックグラウンド励磁磁石(10a)は励磁ボア(3)を備え、
前記超伝導バルク磁石(90a)は前記励磁ボア(3)内に配置され、
前記バックグラウンド励磁磁石(10a)及び前記磁場調整ユニット(10b)は前記バルク磁石ボア(4)の径方向外側に配置され、
前記超伝導バルク磁石(90a)は臨界温度Tを有し、
ステップa)前記磁石励磁システム(10)を、励磁後に前記試料体積(5)内に第1の磁場が発生するよう励磁し、ここで、前記超伝導バルク磁石(90a)はT>Tである温度Tを有し(300)、
ステップb)前記超伝導バルク磁石(90a)を温度T<Tに冷却し(400)、
ステップc)前記超伝導バルク磁石(90a)が前記試料体積(5)内の第2の磁場を捕捉するよう、前記超伝導バルク磁石(90a)を誘導的に励磁する前記磁石励磁システム(10)から磁場を開放する(500)、というステップを有し、
前記ステップa)の前に、前記超伝導バルク磁石(90a)の外側から前記磁石励磁システム(10)によって印加される磁場と、前記印加により前記超伝導バルク磁石(90a)によって捕捉される磁場との間の相関を、前記試料体積(5)内で少なくとも近似的に決定し(100、550)、
前記ステップa)において、前記磁場調整ユニット(10b)を、前記試料体積(5)内の前記磁石励磁システム(10)によって生成される前記第1の磁場が均一磁場成分及び少なくとも1つの不均一磁場成分を有するように設定し(300)、
前記少なくとも1つの不均一磁場成分は、前記相関を使用して、前記ステップc)の前記第2の磁場が前記試料体積内で前記ステップa)の前記第1の磁場よりも高い均一性を有するように決定される、方法において、
前記相関が、前記第1の磁場を構成するとともに前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される、印加不均一磁場成分のそれぞれに対して一次関数を用いて決定され、
前記一次関数はそれぞれ、傾き及びオフセットによって定義され、対応する前記不均一磁場成分に関して、前記印加される磁場の成分強度値を前記捕捉される磁場の成分強度値と相関させるものであり、
前記相関の決定(100、550)において、計算及び/又は測定によって前記一次関数それぞれの前記オフセットを決定することを少なくとも行うこと、を特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の磁場を構成するとともに前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される、前記印加不均一磁場成分の大部分について、好ましくは前記第1の磁場を構成するとともに前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される、前記印加不均一磁場成分のそれぞれについて、前記第1の磁場の対応する印加磁場成分強度値が、前記第2の磁場の対応する捕捉磁場成分強度値よりも絶対値で大きいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の磁場の前記少なくとも1つの不均一磁場成分が、前記第1の磁場の1つ又は複数の勾配成分であり、
特に、前記勾配成分が一次以上の球面調和関数に関連付けられている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁場調整ユニット(10b)は、前記1つ又は複数の勾配成分を個別に直接調整することができる複数の磁場調整コイル(10c)を備え、
特に、前記磁場調整ユニット(10b)は、前記勾配成分ごとに1つの磁場調整コイル又は磁場調整コイルのセット(10c)を有するよう構成されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記相関を少なくとも近似的に決定するために、前記ステップa)、b)及びc)からなる工程サイクル(300、400、500、600、700)の前に、前記ステップ(300、400、500、600、700)の予備工程サイクルが少なくとも1回実施され、前記予備工程サイクルは、1回ごとに、
ステップa’)前記磁石励磁システム(10)を、励磁後に前記試料体積(5)内に第1の暫定磁場が発生するよう励磁し、ここで、前記第1の暫定磁場の磁場プロファイルは、特に前記磁石励磁システム(10)に印加される電流から測定又は計算され、前記超伝導バルク磁石(90a)はT>Tである温度Tを有し(300)、
ステップb’)前記超伝導バルク磁石(90a)を温度T<Tに冷却し(400)、
ステップc’)前記超伝導バルク磁石(90a)が前記試料体積(5)内の第2の暫定磁場を捕捉するよう、前記超伝導バルク磁石(90a)を誘導的に励磁する前記磁石励磁システム(10)から磁場を開放し(500)、ここで、前記第2の暫定磁場の磁場プロファイルが測定される(600)、というステップを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa’)(300)の過程において、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される前記少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれに対応する印加磁場成分強度値が、前記第1の暫定磁場の測定された又は計算された磁場プロファイルから決定され、
前記ステップc’)の過程において、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される前記少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれに対応する捕捉磁場成分強度値が、前記第2の暫定磁場の測定された磁場プロファイルから決定される(600)ことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップa)、b)c)からなる次に実行される工程サイクル又は前記ステップa’)、b’)、c’)からなる次に実行される予備工程サイクルサイクル(300、400、500、600、700)において、次に実行される前記ステップa)又は前記ステップa’)(300)で、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される前記第1の磁場の前記不均一磁場成分のそれぞれが、前に実行された前記ステップa’)の前記印加磁場成分強度値から前に実行された前記予備工程サイクルの前記捕捉磁場成分強度値を引いた値である次の印加磁場成分強度値を用いて決定されるように、前記磁場調整ユニット(10b)を設定することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップc)において、前記第2の磁場の磁場プロファイルが測定され(600)、
前記ステップc’)及び前記ステップc)のそれぞれにおいて、前記試料体積(5)内の測定された前記第2の暫定磁場又は前記第2の磁場の均一性が、所定の均一性閾値と比較され(700)、
前記ステップc’)において前記測定された第2の暫定磁場の均一性が前記均一性閾値よりも悪い場合(700)には、前記ステップa’)、b’)、c’)からなる次の予備工程サイクル又は前記ステップa)、b)及びc)からなる工程サイクル(300、400、500、600、700)実行し、
前記ステップc)において前記測定された第2の磁場の均一性が前記均一性閾値と同じかより良好である場合、前記試料体積(5)内の前記第2の磁場を維持し、前記方法を終了する(800)ことを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記相関を少なくとも近似的に決定するために、前記ステップa)、b)及びc)からなる工程サイクル(300、400、500、600、700)の前に、前記磁石励磁システム(10)及び前記超伝導バルク磁石(90a)の磁場捕捉挙動をあらかじめ計算し(100)、特に、少なくとも、
前記磁石励磁システム(10)又は前記磁石励磁システム(10)磁場の幾何学的形状、
及び前記超伝導バルク磁石(90a)の幾何学的形状を考慮して、あらかじめ数値的にシミュレートすることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記磁場捕捉挙動の前記計算(100)において、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整される前記少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれについて、前記第2の磁場中の所望の、特にゼロの、捕捉磁場成分強度値を得るために、前記第1の磁場中で印加される目標磁場成分強度値を決定し、
前記ステップa)、b)、c)からなる後続の工程サイクル又は前記ステップa’)、b)、c’)からなる後続の予備工程サイクル(300、400、500、600、700)において、前記試料体積(5)中の前記磁石励磁システム(10)によって生成される前記第1の磁場の前記不均一磁場成分がそれぞれ、前記決定された目標磁場成分強度値に対応する印加磁場成分強度値を有するように、前記磁場調整ユニット(10b)を設定することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記一次関数のそれぞれについて、前記傾きには、
1又は0.95から1の間の値が選択されるか、もしくは
前記傾きが計算及び/又は測定によって決定されるとともに、特に前記傾きが1より小さいことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記磁場調整ユニット(10b)は、複数の磁場調整コイル(10c)を備え、前記磁場調整コイル(10c)が、
前記超伝導バルク磁石(90a)の最大軸方向延伸長Lbulkよりも長い最大軸方向延伸長Ladjust、好ましくはLadjust>2*Lbulkを有し、さらに
前記超伝導バルク磁石(90a)の最大径方向延伸長Rbulkの1.5倍よりも長い前記最大径方向延伸長Radjust、好ましくはRadjust>2*Rbulkを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記磁石励磁システム(10)は、励磁クライオスタット(2)内に配置された超伝導バックグラウンド励磁磁石(10a)を備えることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記磁場調整ユニット(10b)は、前記励磁クライオスタット(2)内に配置された超伝導磁場調整コイル(10c)を備え、
特に、前記磁場調整コイル(10c)は、前記超伝導バックグラウンド励磁磁石(10a)の径方向外側に配置されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記超伝導バルク磁石(90a)が、前記超伝導バルク磁石(90a)に軸方向における一端で接触する冷却ステージ(90b)に取り付けられ、
前記少なくとも1つの不均一磁場成分が、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整された前記第1の磁場のz球面調和関数に関連付けられた勾配成分を含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記超伝導バルク磁石(90a)が一定の壁厚を有するシリンダジャケット形状を有するよう構成され、
前記少なくとも1つの不均一磁場成分が、前記磁場調整ユニット(10b)によって調整された前記第1の磁場のz球面調和関数に関連付けられた勾配成分を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石励磁システムを使用して磁場中冷却によって超伝導バルク磁石を励磁するための方法に関し、
磁石励磁システムはバックグラウンド励磁磁石及び磁場調整ユニットを備え、
超伝導バルク磁石はバルク磁石ボアを備え、
バルク磁石ボアは試料体積を含み、
バックグラウンド励磁磁石は、励磁ボアを備え、
超伝導バルク磁石は励磁ボア内に配置され、バックグラウンド励磁磁石及び磁場調整ユニットは、バルク磁石ボアの径方向外側に配置され、
超伝導バルク磁石は、臨界温度Tを有し、
該方法は、
ステップa)磁石励磁システムを、励磁後に試料体積内に第1の磁場が発生するよう励磁し、ここで、超伝導バルク磁石はT>Tである温度Tを有し、
ステップb)超伝導バルク磁石を温度T<Tに冷却し、
ステップc)超伝導バルク磁石が試料体積内の第2の磁場を捕捉するよう、超伝導バルク磁石を誘導的に励磁する磁石励磁システムから磁場を開放(ディスチャージ)する、というステップを有する。
【背景技術】
【0002】
そのような方法は、国際公開第2015/015892号パンフレットから知られている。
【0003】
超伝導体は、それぞれの超伝導体材料に固有の臨界温度T未満で電気抵抗が消失する材料である。したがって、超伝導体に電流を流しても実質的に抵抗損失は発生しない。しかしながら、これを達成するためには、超伝導体を極低温に曝す必要がある。超伝導体は、例えば、高強度の磁場を発生させるために使用され、特に粒子加速器又は核磁気共鳴(=NMR)の用途に使用される。
【0004】
一般的な超伝導体の用途では、テープ状又はワイヤ状の超伝導線などの、超伝導線が使用される。超伝導線を直接(例えば、電流を流すために)使用してもよいし、例えばコイル状に巻くなどして、所望の形状にした後に使用してもよい。特に、高磁場用途の超伝導コイルは、典型的には、ソレノイド型に巻かれた超伝導線から作られる。
【0005】
一方、超伝導バルク磁石も知られている。この場合、超伝導バルク磁石又はその部品であって典型的には閉じたリング形状である部品を用い、超伝導電流は超伝導体の部品又は積み重ねられた部品の内部を循環する。そのような構造は、製造が簡単で安価であり、しばしば高温超伝導体(=HTS)材料から作られる。
【0006】
超伝導バルク磁石は、例えば米国特許第7859374号明細書に記載されている「磁場中冷却」と呼ばれる方法によってロードすることができる。この方法では、超伝導バルク磁石が励磁用電磁石の励磁ボア内に配置し、次いで、超伝導バルク磁石の温度TがまだTを上回っている間に、励磁用磁石をオンにして磁場を発生させる。次いで、超伝導バルク磁石をT未満に冷却し、超伝導状態にする。続いて、TをT未満に維持したまま、励磁用磁石をオフにする。これにより、超伝導バルク磁石内の磁束が維持されるように、超伝導バルク磁石に電流が誘導される。言い換えれば、超伝導バルク磁石は、その内部に磁場を捕捉する。次いで、超伝導バルク磁石を励磁用磁石から取り外し、捕捉磁場を使用することができる場所に運ぶことができる。
【0007】
前記NMR用途などの多くの用途では、磁場が高い均一性を有することが望まれる。しかしながら、磁場中冷却プロセスを介して磁化され、その超伝導ボア内に設けられた超伝導バルク磁石の典型的な磁場は、比較的低い均一性を有する。
【0008】
超伝導バルク磁石は励磁用磁石によって発生した磁場を捕捉するので、捕捉磁場の高い均一性を得るために、現在の技術水準では一般に、印加される励磁磁場が高い均一性を有することが目標とされている。
【0009】
国際公開第2015/015892号パンフレットでは、大きな磁化ユニットのボア内に磁化される超伝導バルクを配置し、さらに、大型の磁化ユニットの該ボア内に、複数のコイルが超伝導バルクを中心として配置された、磁場調整ユニットを配置することが提案されている。超伝導バルクは磁化ユニットと磁場調整ユニットの両方を用いて磁化され、励磁中に超伝導バルク磁石に印加される磁場の均一性を最大化する。
【0010】
同様の手法が特開2009-156719に示されている。超伝導バルク磁石が外部磁場印加装置のボア内に配置され、超伝導バルク磁石のクライオスタット内には、超伝導バルク磁石の径方向外側に補正コイルが配置される。外部磁場印加装置及び補正コイルにより、できるだけ均一な磁場を発生させ、励磁中に超伝導バルク磁石に印加する。ここで、補正コイルは、超伝導バルク磁石よりも高さが低い。
【0011】
これらの手段により、捕捉磁場の均一性は改善されるが、それでも捕捉磁場の著しい不均一性が依然として残る可能性がある。
【0012】
実用においては、残った捕捉磁場の不均一性を単純に受け入れてもよいし、もしくはNMR測定などにおいて捕捉磁場を使用する場合、使用中にシミング装置(例えば、室温ボア内に配置された常伝導コイルを備える)によって生成された補正磁場と重ね合わせてもよい。しかしながら、シミング装置は、システムをより複雑にし、かなりの大きな空間を必要とするが、このような空間が常に利用できるとは限らない。
【0013】
欧州特許出願公開第3492941号明細書は、内径が異なる複数の区域を有する超伝導バルク磁石構造体を示す。最初の磁場中冷却ステップの後、超伝導バルク磁石構造体の温度を上昇させ、いくつかの区域を磁気飽和状態にして、より均一な磁場を達成するために超伝導電流をそれらの区域の間に再分布させることが提案されている。特に、超伝導バルク磁石構造体を励磁するために不均一な印加磁場を使用することが可能である。
【0014】
公開後の欧州特許出願第20174683.1号明細書では、捕捉磁場の均一性を改善するために、磁場中冷却プロセスの一部分の間、超伝導バルク磁石の複数のバルク副磁石の温度を独立して制御することが提案されている。
【0015】
欧州特許出願公開第3657193号明細書は、超伝導バルク磁石のボア内に磁場補正ユニットを配置し、磁場中冷却プロセス中に超伝導バルク磁石内に補助磁場を印加することを提案している。捕捉磁場の均一性を高めるためのプロセスを反復することが提案されている。
【0016】
欧州特許出願公開第3726544号明細書では、クライオスタット内で強磁性遮蔽体を使用し、強磁性遮蔽体を介して磁場中冷却を行うことが提案されている。これにより、強磁性遮蔽体を後から設置する場合と比較して磁力に対処することを回避でき、一般に、強磁性遮蔽体の位置精度が向上し、捕捉磁場の均一性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2015/015892号パンフレット
【特許文献2】米国特許第7859374号明細書
【特許文献3】特開2009-156719
【特許文献4】欧州特許出願公開第3492941号明細書
【特許文献5】公開後の欧州特許出願第20174683.1号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第3657193号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第3726544号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、超伝導バルク磁石の捕捉磁場の均一性を簡単な方法で向上させることができる超伝導バルク磁石を磁化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、本発明によれば、冒頭で紹介したような方法によって達成され、この方法は、
ステップa)の前に、超伝導バルク磁石の外側から磁石励磁システムによって印加される磁場と、これにより超伝導バルク磁石によって捕捉される磁場との間の相関を、試料体積内で少なくとも近似的に決定し、
ステップa)において、磁場調整ユニットを、試料体積内の磁石励磁システムによって生成される第1の磁場が均一磁場成分及び少なくとも1つの不均一磁場成分を有するように設定し、
該少なくとも1つの不均一磁場成分は、前述の相関を使用して、ステップc)の第2の磁場が試料体積中でステップa)の第1の磁場よりも高い均一性を有するように決定される、ことを特徴とする。
【0020】
概要として、本発明では、超伝導バルク磁石を磁化するための磁場中冷却プロセスに均一磁場成分及び少なくとも1つの不均一磁場成分を組み込むことを提案する。超伝導バルク磁石で(外部から印加される)磁場を捕捉する場合、この捕捉は一般に不完全である。言い換えれば、捕捉された磁場は、外部から印加される磁場とはある程度、特に均一性に関して異なる。そのため、磁場中冷却中に印加される外部磁場が完全に均一であったとしても、結果として得られる捕捉磁場は著しい不均一性を有する可能性がある。この理由は、例えば、超伝導バルク磁石自体の幾何学的形状、超伝導バルク磁石全体の温度勾配(特に局所的な電流容量に影響を与える)、わずかに磁性のある構成要素の存在(バルク磁石自体を含む)、又は材料のばらつき(例えば、成長プロセスに由来し、これも電流容量に影響を及ぼす)が考えられる。本発明によれば、印加磁場に意図的にいくらかの不均一性を導入することによって、不完全な磁場捕捉挙動を考慮し、それを補償し、均一な磁場、特に印加された磁場よりも均一な磁場に到達することが可能である。
【0021】
より詳細には、磁場中冷却プロセスが開始される前に、磁石励磁システムによる印加磁場と超伝導バルク磁石の捕捉磁場との間の相関を試料体積内において決定する。この相関は、基本的には、使用される励磁装置の特性、すなわち、磁石励磁システムの種類及び場合によってはその試料の特性、並びに特定の超伝導バルク磁石の種類及び場合によってはその試料の特性である。この相関は、典型的には予備測定によって測定されるが、セットアップ次第では、相関を計算することも可能である。磁石励磁システムによる印加磁場と試料体積中の超伝導バルク磁石の捕捉磁場との間の相関を知ることにより、超伝導バルク磁石の所望の捕捉された均一(第2の)磁場を得るために必要な(第1の)磁場を決定して印加することが可能である。
【0022】
本発明の手順の間、超伝導バルク磁石は、磁石励磁システムによって、すなわちバックグラウンド励磁磁石及び磁場調整ユニットによって生成された第1の磁場に曝される。磁場調整ユニットは、磁石励磁システムによって生成された第1の磁場が均一磁場成分及び少なくとも1つの不均一磁場成分を有するように設定(調整)される。この不均一な第1の磁場は磁場中冷却によって超伝導バルク磁石を励磁するために使用され、これによって、第1の磁場よりも均一な、超伝導バルク磁石内の第2の磁場を捕捉することが可能である。特に、この第2の磁場は、超伝導バルク磁石を励磁するために均一性の高い磁場を印加した結果として得られる捕捉磁場と比較して、より高い均一性を示す。
【0023】
試料体積内の第1の磁場の少なくとも1つの(非ゼロの)不均一磁場成分は、超伝導バルク磁石による試料体積内の磁場の捕捉が不完全であることを補い、均一な捕捉磁場をもたらすために、意図的に導入される。捕捉が不完全であることは、特に、超伝導バルク磁石が有限長であること、又は超伝導バルク磁石に温度勾配があることに起因することがあり、これら2つの要因は、励磁装置の捕捉挙動が不完全であることの最も重要な原因であることが多い。
【0024】
捕捉プロセスは、磁石励磁システムによって印加される第1の磁場に歪みをもたらし(又は追加し)、その結果、試料体積内の第2の磁場が第1の磁場から逸脱する。上述したように、均一な第2の磁場を得るために、磁石励磁システム及びバルク磁石の所定のセットアップに対する第1の磁場と第2の磁場との間の相関を把握することによって、均一な磁場成分及び適切な少なくとも1つの不均一磁場成分を有する第1の磁場を印加することができる。この少なくとも1つの不均一磁場成分は、意図的に加えられた「逆の」歪みと捕捉プロセスに固有の歪みとが相殺されるように、捕捉プロセスによって予想される歪みの「逆」を少なくとも近似的に表す。
【0025】
その結果、印加された不均一な第1の磁場から、均一な第2の磁場を得ることができる。具体的には、同じ試料体積に関して、印加された第1の磁場と比較してはるかに高い(例えば、少なくとも3倍高い)均一性を有する第2の磁場を達成することができ、均一な第1の磁場から結果として生じる第2の磁場と比較してはるかに高い(例えば、少なくとも3倍高い)均一性を有する第2の磁場を達成することもできる。
【0026】
本発明によれば、第1の磁場は、超伝導バルク磁石の径方向外側から磁石励磁システム(のみ)によって印加される。
【0027】
一般に、捕捉磁場の高い均一性レベル(例えば、100ppm以上、さらには10ppm以上)は、試料体積内側の小さな体積内でのみ必要とされ、確立されることに留意されたい。本発明による典型的な試料体積は、少なくとも-2mm~+2mm、好ましくは少なくとも-4mm~+4mmのz方向間隔と、少なくとも1.5mm、好ましくは少なくとも2.5mmのz軸の周りの半径とを含む。z軸は、バルクボア(及び励磁ボア)に沿って延びる。一般に、磁場のB成分のみがここで考慮される。
【0028】
超伝導バルク磁石は、典型的には、高温超伝導体、特にReBCOタイプから作られるか、又はMgBから作られる。典型的には、クライオスタットを乾燥状態で動作させることができるように、T≧30Kである。本発明で使用される典型的な超伝導バルク磁石は、3テスラ~10テスラ、多くの場合4.5テスラ~7.5テスラの強度の磁場を維持するように設計されており、典型的にはベンチトップサイズ(クライオスタットを含む)である。
【0029】
一般に、超伝導バルク磁石は、単一の超伝導体リング構造体、又は基板(シート金属又は箔など)上の複数のディスク又は複数のコーティングなどの複数のリング形状超伝導体サブ構造からなる、閉じたリング形状である。複数のリング形状サブ構造は同軸に配置され、軸方向及び/又は径方向に積み重ねられ、また、サブ構造同士を構造的に接続することによっていわゆる「複合バルク」に組み上げることができる。これらの変形例すべて、本発明による超伝導バルク磁石を構成する。超伝導バルク磁石の構造又はサブ構造は、溶融物から成長させてもよい。「複合バルク」に組み上げられるサブ構造は、通常、基板をコーティングすることによって作られる。本発明による超伝導バルク磁石は、そのボア内に磁場を捕捉することを可能にし、超伝導バルク磁石は、一般に電流供給源を有さず、代わりに誘導的な励磁のみを行うように構成される。
【0030】
本発明の好ましい変形例
本発明の方法の好ましい変形例では、第1の磁場を構成するとともに磁場調整ユニットによって調整される、印加不均一磁場成分の大部分について、好ましくは第1の磁場を構成するとともに磁場調整ユニットによって調整される、印加不均一磁場成分のそれぞれについて、第1の磁場の対応する印加磁場成分強度値は、第2の磁場の対応する捕捉磁場成分強度値よりも絶対値で大きく、特に、該第2の磁場中の捕捉磁場成分強度値は約0である。この変形例では、第1の磁場を構成するとともに磁場調整ユニットによって調整される、印加不均一磁場成分の大部分(好ましくは磁場成分のそれぞれ)について、最終的な第2の磁場に対する個々の不均一磁場の寄与それぞれが低減される。このようにして、第2の(捕捉)磁場全体の均一性を概して高めることができる。いくつかの適用例では、第1の磁場を構成するとともに磁場調整ユニットによって調整される、印加不均一磁場成分の磁場成分強度値のそれぞれを、同一の値であって、第2の磁場のより高い捕捉磁場成分強度値をもたらすように決定することが有益であり得ることに留意されたい。これにより、特定の別の不均一磁場成分が第1の磁場に存在し、及び/又は磁場調整ユニットによってアクセスできない第2の磁場内に生成される場合に、第2の磁場の均一性を改善することができる。
【0031】
好ましい変形例では、第1の磁場の前述の少なくとも1つの不均一磁場成分が、第1の磁場の1つ又は複数の勾配成分であり、特に、勾配成分が一次以上の球面調和関数に関連付けられている。言い換えれば、印加される不均一磁場成分のそれぞれが、典型的には球面調和関数と、勾配の球面調和展開の一部であるその係数とによって表される、第1の磁場の特定の勾配成分を表す。典型的には、磁場調整ユニットは、球面調和関数に関連付けられた第1の磁場の勾配成分を直接調整することができ、磁場計算は、標準的なソフトウェアツールでより容易に行うことができる。それぞれの成分の強度は、対応する成分強度値(勾配の「振幅」又は「係数」)によって表される。少なくとも1つの不均一磁場成分は、軸上及び/又は軸外勾配成分から構成されてもよいことに留意されたい。典型的には、本発明は、少なくとも1つ(通常、z)、好ましくは少なくとも2つ(zを含む)、しばしば少なくとも3つの異なる勾配成分を補う。
【0032】
上記変形例の好ましいさらなる発展形態では、磁場調整ユニットは、1つ又は複数の勾配成分を個別に直接調整することができる複数の磁場調整コイルを備え、
特に、磁場調整ユニットは、勾配成分ごとに1つの磁場調整コイル又は磁場調整コイルのセットを有するよう構成される。前述の複数の磁場調整コイル(磁石コイル)を使用すると、異なる勾配成分、したがって第1の磁場の調整が簡単になる。
【0033】
本発明の方法の好ましい変形例では、前述の相関を少なくとも近似的に決定するために、ステップa)、b)及びc)からなる工程サイクルの前に、予備工程サイクルが少なくとも1回実施され、予備のサイクルは、1回ごとに、
ステップa’)前記磁石励磁システムを、励磁後に試料体積内に第1の暫定磁場が発生するよう励磁し、ここで、該第1の暫定磁場の磁場プロファイルは、特に磁石励磁システムに印加された電流から測定又は計算され、超伝導バルク磁石は、T>Tである温度Tを有し、
ステップb’)超伝導バルク磁石を温度T<Tに冷却し、
ステップc’)超伝導バルク磁石が試料体積内の第2の暫定磁場を捕捉するよう、超伝導バルク磁石を誘導的に励磁する磁石励磁システムから磁場を開放(ディスチャージ)し、ここで、該第2の暫定磁場の磁場プロファイルが測定されることと、というステップを有する。この手法では、相関は実験的に決定される。設計パラメータに関する詳細な情報は不要であり、それらから相関を計算する必要はない。さらに、該相関は、使用中の特定の試料について、特定の試料の相関に影響を及ぼす可能性のある製造公差を考慮して決定することができる。
【0034】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、ステップa’)の過程において、磁場調整ユニットによって調整される少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれに対応する印加磁場成分強度値が、第1の暫定磁場の測定された又は計算された磁場プロファイルから決定され、
ステップc’)の過程において、磁場調整ユニットによって調整される少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれに対応する捕捉磁場成分強度値が、第2の暫定磁場の測定された磁場プロファイルから決定される。このようにして、磁場調整ユニットによって調整される少なくとも1つの不均一磁場成分の各々について、サブ相関を簡単な方法で決定することができる。サブ相関の総計は、印加磁場と印加の結果生じる捕捉磁場との間の相関を表す。次いで、それぞれのサブ相関を使用して、少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれに対してそれぞれの印加磁場成分強度値を具体的に調整する。
【0035】
別の好ましいさらなる発展形態では、ステップa)、b)c)からなる次に実行される工程サイクル又はステップa’)、b’)、c’)からなる次に実行される予備工程サイクルにおいて、次に実行されるステップa)又はステップa’)で、磁場調整ユニットによって調整される第1の磁場の不均一磁場成分のそれぞれが、前に実行されたステップa’)の印加磁場成分強度値から前に実行された予備工程サイクルの捕捉磁場成分強度値を引いた値である次の印加磁場成分強度値を用いて決定されるように、磁場調整ユニットを設定する。これにより、不均一磁場成分はそれぞれ、結果として生じる第2の(暫定的又は最終的な)磁場においてほぼ消滅する(0になる)はずである。良好な近似として、印加される勾配成分と捕捉される勾配成分との1:1の相関(「傾き1」)を仮定することができる。傾きが1未満である場合、次の印加磁場成分強度値を決定するために、対応する係数を適用する必要がある。
【0036】
好ましいさらなる発展形態では、ステップc)において、第2の磁場の磁場プロファイルが測定され、
ステップc’)及びステップc)のそれぞれにおいて、試料体積内の測定された第2の暫定磁場又は第2の磁場の均一性が、所定の均一性閾値と比較され、
ステップc’)において測定された第2の暫定磁場の均一性が均一性閾値よりも悪い場合には、ステップa’)、b’)、c’)からなる次の予備工程サイクル又はステップa)、b)及びc)からなる工程サイクルを実行し、
ステップc)において測定された第2の磁場の均一性が均一性閾値と同じかより良好である場合、試料体積内の第2の磁場を維持し、本方法を終了する。この手順により、所望の均一性レベルに安全に到達することが簡単かつ容易になる。第2の磁場の測定値を所定の均一性閾値と比較することにより、第2の磁場の均一性が、意図された後続の用途に必要とされるものであるかどうかを評価することができる。この所定の均一性閾値は、意図された用途及びその必要な均一性に応じて選択することができる。この所定の均一性閾値が何らかの理由で満たされない場合、ステップa’)、b’)、c’)からなる新たな予備工程サイクルが開始される。
【0037】
好ましい変形例では、前述の相関を少なくとも近似的に決定するために、ステップa)、b)及びc)からなる工程サイクルの前に、磁石励磁システム及び超伝導バルク磁石の磁場捕捉挙動をあらかじめ計算し、特に、少なくとも、
磁石励磁システム又はその磁場の幾何学的形状、
及び超伝導バルク磁石の幾何学的形状を考慮して、あらかじめ数値的にシミュレートする。つまり、ここでは、励磁装置の一般的な構成に基づいて相関が決定される。あるセットアップのタイプ(すなわち、磁石励磁システム及び超伝導バルク磁石のタイプ)に対する相関(又は捕捉挙動)をあらかじめ計算しておけば、この知見を、このセットアップのタイプの任意の数の試料に使用することができる。さらに、相関の測定は、原理的に不要である。この手法は、相関がセットアップのタイプの構成上の特徴によって左右され、特定の試料の製造公差や他の未知および/または変動する要因によって左右されない場合に特に有用である。磁石励磁システムと超伝導バルク磁石の相関又は磁場捕捉挙動の計算の精度は、磁石励磁システム(又はその磁場)の幾何学的形状及び超伝導バルク磁石の幾何学的形状をどれだけ正確に(具体的に)把握しているかに依存することに留意されたい。温度勾配又は特定の材料特性などのさらなる既知の要因を計算に含めることで、計算された相関又は捕捉挙動の精度を高めることができる。励磁装置の一般的な構成に基づいて決定された相関は、捕捉挙動の初期推測として使用することができ、具体的な励磁装置(磁石励磁システム及び超伝導バルク磁石の試料)を用いた測定によって後に精緻化されることに留意されたい。
【0038】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、磁場捕捉挙動の前述の計算において、磁場調整ユニットによって調整される少なくとも1つの不均一磁場成分のそれぞれについて、第2の磁場中の所望の、特にゼロの、捕捉磁場成分強度値を得るために、第1の磁場中で印加される目標磁場成分強度値を決定し、
ステップa)、b)、c)からなる後続の工程サイクル又はステップa’)、b)、c’)からなる後続の予備工程サイクルにおいて、試料体積中の磁石励磁システムによって生成された第1の磁場の不均一磁場成分がそれぞれ、決定された目標磁場成分強度値に対応する印加磁場成分強度値を有するように磁場調整ユニットを設定する。このようにして、ステップa)、b)、c)からなる前述の後続の工程サイクル又はステップa’)、b’)、c’)からなる後続の予備工程サイクルの後で、結果として生じる第2の(最終的又は暫定的な)磁場は高い均一性を有するようになる。より一般的に言えば、この手法は、高い均一性の第2の(最終)磁場を迅速に見つけるのに役立つ。第2の磁場内で所望の1つ又は複数の捕捉磁場成分強度値を得るために第1の磁場に適用される1つ又は複数の目標磁場成分強度値が計算された後、1つ又は複数の正確な不均一磁場成分が第1の磁場に含まれるように磁場調整ユニットを調整してもよい。必要に応じて、第2の(最終的又は暫定的な)磁場における1つ又は複数の所望の捕捉磁場成分強度値が得られたかどうかを測定によってチェックしてもよい。
【0039】
有利な変形例では、前述の相関は、第1の磁場を構成するとともに磁場調整ユニットによって調整される、印加不均一磁場成分それぞれに対して一次関数を用いて決定され、
一次関数はそれぞれ、傾き及びオフセットによって定義され、対応する不均一磁場成分に関して、印加される磁場の成分強度値を捕捉される磁場の成分強度値と相関させるものであり、
前述の相関の決定において、計算及び/又は測定によって一次関数のそれぞれのオフセットを決定することを少なくとも行う。本発明者らは、印加される不均一磁場成分ごとに一次関数を用いて前述の相関を決定することが、十分な精度を有し、処理が容易であることを見出した。一次関数のオフセットは、例えば、右向きの軸(横軸)に印加する磁場の成分強度値と、上向きの軸(縦軸)に捕捉される磁場の成分強度値とをプロットした図において、一次関数グラフと上向きの軸との交点を特定することによって求めることができる。傾きが未知である場合、少なくとも2つの測定点がわかっていれば、一次関数の関数直線を求めることができる。傾きが(少なくとも近似的に)分かっている場合、交点を決定するには1つの測定点で十分である。一次関数の傾きは、印加される磁場(又は第1の磁場)から捕捉される磁場(又は第2の磁場)への励磁の効率を表す。オフセットは、捕捉挙動に関するコア情報を表す。
【0040】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、一次関数のそれぞれについて、傾きには、
1又は約1の値が選択されるか、もしくは、
傾きが計算及び/又は測定によって決定されるとともに、特に、傾きが1より小さい。磁場調整ユニット又はそのコイルがそれぞれ超伝導バルク磁石から十分に離れて配置されている場合、傾きが(良好な近似で)1になり、傾きは1又は約1(例えば、0.95から1の間)であると計算又は測定なしで、安全に仮定することができる。後者は特に簡単である。磁場調整ユニット又はそのコイルがそれぞれ超伝導バルク磁石の近くに配置されている場合は、相関の精度を高めるために傾きを計算又は測定する必要がある。
【0041】
さらに好ましい変形例では、磁場調整ユニットが複数の磁場調整コイルを備え、該磁場調整コイルが、
超伝導バルク磁石の最大軸方向延伸長Lbulkよりも長い最大軸方向延伸長Ladjust、好ましくはLadjust>2*Lbulkを有し、さらに
超伝導バルク磁石の最大径方向延伸長Rbulkの1.5倍よりも長い最大径方向延伸長Radjust、好ましくはRadjust>2*Rbulk、を有する。これらの寸法により、相関の一次関数は、良好な近似で1の傾きを有すると仮定することができる。
【0042】
本発明の方法の好ましい変形例では、磁石励磁システムは、励磁クライオスタット内に配置された超伝導バックグラウンド励磁磁石を備える。このようにして、超伝導バルク磁石を励磁させるために特に高い強度の第1の磁場を発生させることが可能である。クライオスタットは、バックグラウンド励磁磁石の極低温を達成し維持するために、特にその超伝導状態を達成し維持するために必要である。
【0043】
この変形例の好ましいさらなる発展形態では、磁場調整ユニットは、励磁クライオスタット内に配置された超伝導磁場調整コイルを備え、
特に、磁場調整コイルは、超伝導バックグラウンド励磁磁石の径方向外側に配置される。超伝導磁場調整コイルは、高(第1)磁場を生成及び調整するために必要な大電流を流すことができる。調整コイルを励磁クライオスタット内に配置する場合、磁石励磁システム全体に対して1つのクライオスタットのみが必要である。磁場調整コイルを超伝導バックグラウンド磁石の径方向外側に配置すると、励磁ボア内のより多くの空間が超伝導バルク磁石のために利用可能であるという点で有利である。
【0044】
変形例として、超伝導バルク磁石が、軸方向における一端で超伝導バルク磁石に接触する冷却ステージに取り付けられ、
少なくとも1つの不均一磁場成分が、磁場調整ユニットによって調整された第1の磁場のz球面調和関数に関連付けられた勾配成分を含むことも好ましい。軸方向における一端で超伝導バルク磁石を冷却ステージに取り付けることは、実施が容易で費用効果が高い。しかしながら、そのような片側冷却ステージは、典型的には、超伝導バルク磁石の内部に温度勾配を生じ、電流容量に影響を及ぼす。これは、例えば磁場調整ユニットによりさらなる何らかの調整を行わずに印加磁場が均一になるように決定された場合、不均一な捕捉磁場をもたらす。z球面調和関数(「Z勾配成分」)の寄与を調整することによって、捕捉磁場の不均一性をそれぞれ補正又は回避することができる。
【0045】
有利な変形例では、超伝導バルク磁石は、一定の壁厚を有するシリンダジャケット形状を有するよう構成され、
少なくとも1つの不均一磁場成分が、磁場調整ユニットによって調整された第1の磁場のz球面調和成分に関連付けられた勾配成分を含む。
【0046】
一定の壁厚を有するシリンダジャケット形状を有する超伝導バルク磁石の製造及び実装は容易である。しかしながら、該シリンダジャケット形状は、例えば磁場調整ユニットによりさらなる何らかの調整を行わずに、印加磁場が均一になるように決定された場合、不均一な捕捉磁場をもたらす。z球面調和関数(「Z勾配成分」)の寄与を調整することによって、捕捉磁場内の不均一性をそれぞれ補正又は回避することができる。
【0047】
さらなる利点は、本明細書及び添付の図面から明らかになる。前述及び後述の特徴は、本発明に従ってそれぞれ単独で、又はいくつかを任意に組み合わせて使用することができる。説明される実施形態は、すべてを網羅して列挙していると理解されるべきではなく、むしろ、本発明を説明するための例示的な性格を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明による超伝導バルク磁石を励磁するための設備の概略断面図を示す。
図2】超伝導バルク磁石を励磁するための本発明の方法の例示的な変形例の概略フロー図を示す。
図3】従来の印加均一磁場及び本発明による印加不均一磁場、並びにそれぞれの結果として生じる超伝導バルク磁石内の捕捉磁場を示す概略図を示す。
図4】第1の磁場を構成する不均一磁場成分の勾配成分強度値を決定する方法を説明する概略図を示す。
図5】本発明のための超伝導バルク磁石として実施可能な別の構成の概略断面図を示す。
図6図5の構成Bに対するzシミングの例を概略図で示す。
図7図5の構成Aについて印加磁場が均一であった場合の捕捉磁場マップを示す。
図8図5の構成Aの、本発明に従って印加磁場が不均一であった場合の捕捉磁場マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明の方法で使用される、磁場中冷却によって超伝導バルク磁石90aを磁化(励磁)するための例示的な装置1を概略的に示す。
【0050】
励磁装置1は、バックグラウンド励磁磁石10a及び磁場調整ユニット10bを備える磁石励磁システム10を備える。磁場調整ユニット10bは、複数の磁場調整コイル10cを有する。バックグラウンド励磁磁石10aは、ここでは超伝導バックグラウンド磁石が選択され、励磁クライオスタット2の内部に配置される。一般に、バックグラウンド励磁磁石10aは、第一の磁場に対して基本的に均一な磁場成分を生じさせる。バックグラウンド励磁磁石10aは、基本的に筒状であり、ここでは単一の電流で動作する単一のソレノイド型コイルを有する(あるいは、バックグラウンド励磁磁石10aは、例えば、別個の電流で動作する、複数の径方向に積み重ねられた同軸コイルを備えていてもよい)。バックグラウンド励磁磁石10aは、その内部に、第1の磁場の最大磁場強度を達成することができる励磁ボア3を有する。
【0051】
磁場調整ユニット10bは、自身の磁場調整コイル10cと共に、図示の例ではバックグラウンド励磁磁石10aの径方向外側に配置される。あるいは、磁場調整ユニット10bは、励磁磁石10aの径方向内側(ただし、バルク磁石ボア4の外側)に配置されてもよい(図示せず)。しかしながら、そのような変形例では、励磁ボア3内に利用可能な空間が少ない。磁場調整コイル10cは、ここでは超伝導磁場調整コイルが選択され、磁石励磁システム10の励磁クライオスタット2内に配置される。一般に、磁場調整ユニット10bは、基本的には、第1の磁場の少なくとも一つの不均一磁場成分を発生させる。磁場調整コイル10cは、複数の勾配成分、特にz及びzの勾配成分(H1及びH2と呼ばれることもある)を個別に直接設定できるように構成される。
【0052】
バックグラウンド励磁磁石10aの励磁ボア3内、及び励磁クライオスタット2の室温ボア2a内には、超伝導バルク磁石90aを有する磁場発生装置90が配置される。図示の例では、超伝導バルク磁石90aは、基本的に一定の壁厚のシリンダジャケット形状である。超伝導バルク磁石90aは、その中を円電流が流れるようになっている。好ましい変形例では、超伝導バルク磁石90aは、高温超伝導体材料で作られており、特に好ましい変形例では、超伝導バルク磁石90aはReBCOタイプの超伝導体材料で作られている。超伝導バルク磁石90aはバルク磁石ボア4を有し、バルク磁石ボア4はその中心に試料体積5を含む。試料体積5は、少なくとも一方の側からアクセスすることができる。選択された例では、試料体積は上部からアクセスすることができる。他の実施形態では、バルク磁石ボア4は、2つの側面が開いていてもよい(図示せず)。超伝導バルク磁石90aは、磁石励磁システム10の励磁クライオスタット2とは独立したクライオスタット90c内に配置され、試料体積5は、クライオスタット90cの室温ボア90d内に配置される。超伝導バルク磁石90aへの入熱を低減するために、放射シールド(図示せず)を追加することも可能である。図示の例では、超伝導バルク磁石90aは、その下端がクライオスタット90c内の冷却ステージ90bに取り付けられている。もしくは、超伝導バルク磁石90aの内部に温度勾配が形成されるのを防止するために、2つ以上の冷却ステージを使用することが可能である(図示せず)ことに留意されたい。冷却ステージ90bは、パルス管冷却器(図示せず)などの極低温冷凍機によって優先的に冷却される。もしくは、極低温流体(図示せず)で冷却されてもよい。
【0053】
バックグラウンド励磁磁石10aは、軸方向(z方向)において、超伝導バルク磁石90aの長さLbulkよりも大きい長さLchargerを有する(例えば、Lcharger>Lbulk、好ましくはLcharger>2*Lbulk)。磁場調整ユニット10bを構成する複数の補正コイル10cの合計の長さLadjustは、超伝導バルク磁石90aの長さLbulkよりも大きい(例えば、Ladjust>Lbulk、好ましくはLadjust>2*Lbulk)。さらに、補正コイル10cは、バックグラウンド励磁磁石10aの(最大)半径Rchargerよりも大きい(最大)半径Radjustを有する(例えば、Radjust>Rcharger)。補正コイル10cはまた、超伝導バルク磁石90aの(最大)半径Rbulkよりも1.5倍以上大きい(最大)半径Radjustを有する(例えば、Radjust>1.5*Rbulk、好ましくはRadjust>2*RBulk)。これらの寸法により、本発明の方法をより簡単な方法で実行することができる(図4の説明と比較されたい)。
【0054】
図2は、例示的な変形例における超伝導バルク磁石を磁化(励磁)するための本発明の方法を示す。本方法は、例えば、図1に示すような装置で実行することができる。
【0055】
第1のステップ100において、超伝導バルク磁石における所望の捕捉磁場と、所望の捕捉磁場を達成するための印加磁場との間の相関を、この装置に対し、その一般的な構成に基づき決定する。この相関は、特に磁石励磁システムの幾何学的形状及び超伝導バルク磁石の幾何学的形状を把握し、使用される装置の構成から計算してもよい。相関はまた、同様の磁場捕捉装置の過去の経験により、すなわち、同じタイプの励磁磁石システムと超伝導バルク磁石の他の試料から、把握してもよい。ステップ100は任意で実行されることに留意されたい。相関がわからない、又は事前に決定されていない場合、後述する予備工程サイクルを介して相関を決定することも可能である。
【0056】
図示の変形例では、ステップ200において、磁場発生装置(超伝導バルク磁石を有する)を、バルク磁石ボア内の(励磁磁石及び磁場調整ユニットを備える)磁石励磁システム内に配置する。一般に、磁石励磁システムは据え置かれており、例えば超伝導バルク磁石のメーカーの敷地内に設置されていることに留意されたい。さらに、一般に、超伝導バルク磁石は、内部温度を制御することができるクライオスタット内に保持されることに留意されたい。
【0057】
そして、次のステップ300では、磁石励磁システムを励磁し、超伝導バルク磁石に印加磁場を、特に試料体積内に第一の磁場を生成する。
【0058】
相関がステップ100又はステップ550(以下を参照)であらかじめ決定されている場合、第一の磁場は、均一磁場成分及び少なくとも1つの不均一磁場成分(「勾配成分」)を有し、後者は、本装置の(不完全な)捕捉挙動がステップ500(以下を参照)後に試料体積内に最適な(非常に均一な)第二の磁場をもたらすように、相関に従って決定される。
【0059】
相関がまだ決定されていない場合、第1の磁場は、任意の方法で暫定的に選択することができる。一般に、均一な第1の磁場が暫定的に選択されることが好ましい。
【0060】
励磁磁石は、一般に、均一磁場成分を主に生成し、磁場調整ユニットは、一般に、上記少なくとも1つの不均一磁場成分の全てを生成する。これらの磁場成分は、第1の磁場に加算するように重ね合わせられる。第1の(暫定的又は最終的な)磁場の磁場プロファイルは測定又は計算により得られる(計算は、例えば磁石励磁システムに印加される電流に基づいて行われる)。磁石励磁システムの電流を増加させることにより磁場が生成されるようになる。第1の磁場が生成されている間、超伝導バルク磁石の温度Tはその臨界温度Tよりも高いため、超伝導バルク磁石はステップ300の間は常伝導状態である。その結果、励磁磁石システムによって生成された磁場は、基本的に妨げられずに超伝導バルク磁石を貫通し、バルク磁石ボアを満たす。
【0061】
次のステップ400では、TがTよりも低くなるように(すなわち、T<T)クライオスタット内の温度を下げることによって超伝導バルク磁石を超伝導状態にする。なお、Tは、次のステップ500のための十分な電流容量が確保されるように、Tよりも著しく低い値を選択する必要があることに留意されたい。
【0062】
次に、ステップ500において、磁石励磁システムの磁場がオフになる。これを達成するために、励磁磁石システムを動作させる電流を急降下させる。超伝導バルク磁石は、そのバルク磁石ボア内に磁束を保存し、捕捉磁場をもたらす。より具体的には、第2の磁場が試料体積内に捕捉される。超伝導状態を維持するために、超伝導バルク磁石はT<Tに保たれる。第2の磁場は、一般に、第1の磁場とは幾分異なり、本装置の捕捉挙動が不完全であることを示すことに留意されたい。
【0063】
好ましい任意のサブステップにおいて、超伝導バルク磁石90aを動作温度Topまでさらに冷却してもよい。Topは、磁場Tを捕捉するための温度よりも低い(例えば、Top<T、好ましくはTop<(T-2.5K)。超伝導バルク磁石の温度をこのようにさらに下げることで、ドリフトを低減することができる。他の変形例では、このサブステップをステップ600の最中もしくは後又はステップ700の後に実行することも可能である。
【0064】
次に、ステップ600では、バルク磁石ボア内で第2の磁場の磁場プロファイルを測定する。
【0065】
次に、ステップ700において、測定された第2の磁場プロファイルの均一性を、所定の均一性閾値と比較する。ステップ700では、以下の2つの選択肢を取りうる。
【0066】
第2の磁場の均一性が均一性閾値と同じかより良好である場合、バルク磁石ボアの試料体積内の(最終的となる)第2の磁場を許容し、これを維持する。それまでのステップ300、400、500は、これ以降、(磁場中冷却)ステップの最終サイクルとなる。本方法はステップ800に進み、磁場発生装置を磁石励磁システムから取り外し、本方法は終了する。
【0067】
第2の磁場の均一性が均一性閾値よりも悪い場合、バルク磁石ボアの試料体積内の(暫定的となる)第2の磁場を拒絶する。本方法はステップ550に進み、超伝導バルク磁石をTより高い温度に上昇させ、再び励磁することができるよう、磁場を開放(ディスチャージ)する。印加磁場と捕捉磁場との相関がこれまでに決定されていない場合、ステップ300の印加された(暫定的な)第一の磁場とステップ600の測定された(暫定的な)第二の磁場とに基づいて相関がここで決定される。相関がこれまでに決定されている場合、ステップ300の(暫定的となる)第1の磁場及びステップ600の測定された(暫定的な)第2の磁場とを使用して、相関を更新又は精緻化することができる。それまでのステップ300、400、500は、これ以降、(磁場中冷却)ステップの予備のサイクルとなり、本方法はステップ300に進む。
【0068】
ステップ550の後にステップ300でさらなる工程サイクルが開始されると、第一の暫定磁場の磁場プロファイル及び第二の暫定磁場の磁場プロファイルを決定することにより得られた情報を使用して、それぞれの不均一磁場成分に対して、前の予備サイクルの捕捉磁場成分強度値が前の予備サイクルの印加磁場成分強度値から減算されるように磁場調整ユニットを設定することができ、その結果、次の工程サイクルで印加される磁場成分強度値が得られる。
【0069】
図3は、従来の印加均一磁場及び本発明による印加不均一磁場、並びに磁場中冷却後の超伝導バルク磁石のそれぞれの結果として生じた捕捉磁場を概略図で示す。この例では、zシミングが本発明に従って行われた。超伝導バルク磁石は、図5の構成Aに従って構築された。図3は、中心磁場が4.7Tである軸上磁場プロファイルを示す。横軸は、z方向をmmで示し、縦軸は、磁場変化をμTで示す。まず、印加均一磁場の場合を説明し(図3の点線AH)、次に印加不均一磁場の場合を示す(図3の破線AS)。
【0070】
印加均一磁場
最初の試みとして、可能な限り均一な印加磁場を生成する(曲線AHを参照)。この例では、バルク磁石ボア内に印加された均一磁場の軸上磁場プロファイルは、示された領域内でいかなる磁場変化も示さない。磁場中冷却による励磁プロセスは、図2のステップ300、400及び500に対応する。超伝導バルク磁石は、印加均一磁場で励磁されるが、結果として生じる捕捉磁場(曲線RH)は、印加磁場よりも低い均一性を示す。この例における捕捉磁場は、約2mmで既に変化し始め、zが大きくなると非線形に減少する(図3の一点鎖線RH)。
【0071】
このように印加磁場を不十分に捕捉できない原因は、超伝導バルク磁石の幾何学的形状、特にその長さが有限であることや空間的制約によりノッチを最適に設計できないこと、超伝導バルク磁石の温度勾配、装置における(わずかであっても)磁性のある構成要素の存在の存在、様々な部品の製造公差にあると考えられる。したがって、構成例に示すように、可能な限り均一な磁場を印加しても、均一な捕捉磁場にはならない。
【0072】
印加不均一磁場
前者の場合の捕捉磁場に関する知見を用いて、磁石励磁システムによって生成された第1の磁場が均一磁場成分とともに少なくとも1つの不均一磁場成分を含むように磁場調整ユニットを設定することがここで可能になる。少なくとも1つの不均一磁場成分は、最初の試みの捕捉磁場成分の逆数として決定される。図3に示す例では、曲線RHに対してz勾配成分強度値を決定した。次いで、逆のz勾配成分強度値を有する調整された磁場ASを印加した。磁場中冷却による励磁プロセスは、図2のステップ300、400、500に対応する。超伝導バルク磁石は、印加不均一磁場で励磁される。結果として、この例の捕捉磁場は非常に均一であり、約6mmまで変化し始めない(図3の実線RS)。結果として生じる捕捉磁場(図3の一点鎖線RH及び実線RS)を比較すると、本発明に従って印加磁場を不均一とした場合、捕捉磁場の均一性がより高いことが分かる。
【0073】
図4は、第1の磁場を構成する印加不均一磁場成分又はそれらの成分強度値のそれぞれを決定する方法を説明する概略図を示す。少なくとも1つの不均一磁場成分は、第1の磁場の1つ又は複数の勾配成分に対応する。それらは、それぞれ1次以上の球面調和関数又はそれらの係数として記述することができる。
【0074】
第1に、完全な励磁装置では、印加磁場(第1の磁場)と捕捉磁場(第2の磁場)との間にオフセットはない。言い換えれば、超伝導バルク磁石は、磁石励磁システムの印加磁場を正確に捕捉する。しかしながら、現実はこれと異なり、捕捉磁場勾配と印加磁場勾配との間にずれ(オフセット)が見られることがある。このずれには以下の2つの要素がある。
【0075】
設計された通りの励磁装置により生じる、設計オフセットであり、これは、例えば、実際の材料(超伝導バルク磁石の常磁性、磁性のある構成要素、温度勾配など)及び部品のサイズが有限であることに起因する。これは原則として事前に計算することができ、所与の構成(タイプ)及び所与の動作条件に対して同じである。
【0076】
設計された通りの励磁装置と比較した実際の励磁装置の差異により生じる、非設計オフセットであり、これは、例えば構成要素の製造公差、材料特性の変動などに起因する。
【0077】
設計オフセット及び非設計オフセットは、励磁装置の実際のオフセットを生じ、これは実験的に特定することができる(すなわち、測定される)。実際には、測定誤差及び測定手順におけるわずかな変動(例えば、測定時間、冷却プロセスでのわずかな違い、超伝導バルク磁石の沈降など)によって引き起こされるデータのばらつきもある。
【0078】
第1の磁場と第2の磁場との間には相関関係がある。さらに、該相関は、傾き及びオフセットによって勾配成分ごとに定義される一次関数で説明されてもよい。多くの設定では、特に図1で説明したような設定を使用する場合、一次関数の傾きは1又は約1として決定することができる。そうすれば、1つの測定点のみで必要な勾配成分を決定することが可能である。発散する場合、傾きを、計算及び/又は測定によって決定してもよい。これは、傾きが1よりも著しく小さくなり得る場合に特に当てはまる。この場合、1つではなく少なくとも2つの測定点が必要である。
【0079】
図4は、例として、捕捉磁場勾配の設計オフセット及び捕捉磁場勾配の実際のオフセットを示す。横軸には任意単位で印加磁場勾配、及び縦軸には任意単位で結果として生じる捕捉磁場勾配が示される。0に近い所望の捕捉磁場勾配を得るために印加されなければならない磁場勾配を決定するための手法は、以下のようになり得る。
【0080】
励磁装置の一般的な構成(磁石励磁システムのタイプ、超伝導バルク磁石のタイプ)に基づいて、印加磁場と捕捉磁場との間の相関を決定(計算)することができる。一般的な構成に基づく相関により、印加磁場勾配がゼロの場合に生じる捕捉磁場は設計オフセットと呼ばれ、図中の対応する位置は初期設計点DIと呼ばれる。一般的な構成に基づく相関は、印加磁場勾配値が捕捉磁場勾配値にどの程度効率的に変換されるかを示す傾きも含む。この例では、前述の傾きは良好な近似で1であり、多くの場合、計算なしで仮定することができる。該傾きを有する設計直線は、初期設計点DIを通って引かれる。設計直線は横軸と交差し、そのように決定された点は目標設計点DTと呼ばれる。この目標設計点DTは、実際の磁場捕捉を試行するのに都合の良い開始点とすることができ、理想的にはゼロの捕捉成分強度値を有する第2の磁場を達成するように、励磁サイクルを実行するための磁場調整ユニットを設定するために使用することができる。図示の例では、設計オフセットは約+50a.uである。目標設計点は約-50a.u.の印加磁場勾配である。
【0081】
前述のように、捕捉磁場勾配の実際のオフセットは、例えば製造公差又はプロセス変動のために設計オフセットとは異なる場合がある。実際のオフセットを決定するために、例えば、第1の磁場の既知の磁場プロファイルに対する第2の暫定磁場の測定された磁場プロファイルを取得するために予備工程サイクルを実行する(図2を参照)。次に、印加磁場勾配強度値及び捕捉磁場勾配強度値を該磁場プロファイルから決定し、初期測定値(又は初期測定点)Iとして図に示される。この初期測定値Iについて、測定直線を構築することができ、これは初期測定点Iと交差し、再び傾き1を有すると仮定することができる(なお、実際の傾きが不確かな場合、少なくとも2点の測定点を取得する必要があり、直線フィッティングにより測定直線を求めることができる)。測定直線が縦軸と交差する点は、捕捉磁場勾配の実際のオフセット、ここでは約+60a.uを示す。さらに、測定直線が横軸と交差し、そのように決定された点は最終目標Tと呼ばれる。この最終目標Tは、捕捉磁場成分のオフセットのない捕捉磁場を得るために、第1の磁場で印加すべき正しい磁場成分強度値をもたらすはずであり、ここでは印加磁場勾配が約-60a.u.である。
【0082】
なお、1次関数の傾きは、励磁プロセスの効率を表す。一次関数の傾きは決して1をこえることはなく、これは、励磁プロセスの効率が物理的に不可能な100%を超えたことを意味するためである。
【0083】
図5は、本発明で使用することができる超伝導バルク磁石として実施可能な構成の概略断面図を示す。超伝導バルク磁石90aは、スタック直径SD、スタック高さSH、スタック内径(直径)SB、ノッチ高さNH、及びノッチ内径(直径)NBにより説明することができる。2つの異なる構成を説明する。
【0084】
構成A(図5の上部に示されている)は、SDが60mm、SHが140mm、SBが33mm、NHが100mm、及びNBが40mmである。この場合、超伝導バルク磁石90aはノッチを含む。ノッチを使用して、捕捉磁場の均一性を高めることができる。しかしながら、超伝導バルク磁石90a内の空間的な制約のために、最適化されたノッチ常に設計できるとは限らないことに留意されたい。
【0085】
構成B(図示せず)は、SDが60mm、SBが40mm、及びノッチなしであり、言い換えれば、超伝導バルク磁石90aはそのとき一定の壁厚を有する。例えば実験装置内の空間の制限に起因して、又は構造を単純化するために、ノッチを実装することが不可能又は望ましくない場合がある。
【0086】
図6は、図5の構成Bにおけるzシミングの実験を概略図で示す。この場合の超伝導バルク磁石はノッチを有さない。横軸は、印加(z)磁場勾配をmT/mで示し、縦軸は、結果として生じる捕捉磁場勾配をmT/mで示す。
【0087】
超伝導バルク磁石の温度が均一であると仮定した第1の単純化されたモデルでは、捕捉(z)磁場勾配の大きなオフセットはないはずである。図の原点にある簡略化された設計点Dは、この場合を示している。
【0088】
しかしながら、実際には、超伝導バルク磁石の冷却を軸方向における一端からのみ行った場合、超伝導バルク磁石の冷却プロセスは、バルク磁石に軸方向の温度勾配をもたらし、これが捕捉挙動に影響を及ぼす。初期測定値I(ここでは印加磁場勾配をゼロにして測定)は、捕捉磁場勾配の(実際の)オフセット、ここでは約+45mT/mがあることを示す。初期測定値Iに含まれる印加磁場勾配と捕捉磁場勾配との間の相関を使用することができる。相関、すなわち、より具体的にはz勾配成分に対するサブ相関は、(図4で説明したように)傾き1を有する一次関数と仮定される。測定直線(傾き1を有し、初期測定点Iを含む)と横軸との交点によって、ゼロの捕捉磁場勾配、ここでは約-45mT/mに達するために印加すべき対応する勾配成分を見つけることが可能である。この例では、均一性を改善し、相関の線形性を評価し、傾きの値1を確認し、測定の再現性を評価するために、いくつかの異なる勾配成分強度値を適用した(点T1、T2、T3)。すべての点T1、T2、T3は測定された線に近く、傾きの値の仮定が正当であること、再現性が高いことを示し、捕捉磁場の高い均一性を達成できることを示している。
【0089】
シミングは、超伝導バルク磁石が冷却ステージに取り付けられ、軸方向における一端のみで冷却ステージに接触する場合に使用することができる。この場合、少なくとも1つの不均一磁場成分は、磁場調整ユニットによって調整される第1の磁場のz球面調和関数に関連付けられた勾配成分を含むことが望ましい。
【0090】
図7及び図8は、図5の構成Aにおけるzシミングの実験の捕捉磁場マップを示す。超伝導バルク磁石はノッチを有するが、超伝導バルク磁石内の空間的な制約により、最適化されたノッチの設計はできなかった。
【0091】
図7では、印加磁場は均一であった。この場合、10ppmの筒状試料体積70(例えば、捕捉磁場の所望の高い均一性レベルを有する試料体積)は、28mmの直径及び15.4mmの高さを有する(黒い点線を参照)。
【0092】
この例における10ppmの筒状試料体積70を改善し、最適化されていないノッチ設計の問題を克服するために、不均一磁場を前述のように約75mT/mのz勾配成分で印加した(図3も比較されたい)。図8に見られるように、この場合、10ppmの筒状試料体積71ははるかに大きく、35mmの直径及び19.8mmの高さを有する(黒い点線を参照)。
【0093】
シミングは、超伝導バルク磁石が一定の壁厚を有する(図5の構成Bの場合のような)シリンダジャケット形状か、又は捕捉挙動を不完全にしか形成しない(図5の構成Aの場合のような)ノッチを有するシリンダジャケット形状を有する場合に使用することができる。これらの場合、少なくとも1つの不均一磁場成分は、磁場調整ユニットによって調整される第1の磁場のz球面調和関数に関連付けられた勾配成分を含むことが望ましい。
【0094】
参考文献リスト
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【符号の説明】
【0095】
1 (励磁)装置
2 励磁クライオスタット
2a 室温ボア(励磁クライオスタット)
3 励磁ボア
4 バルク磁石ボア
5 試料体積
10 磁石励磁システム
10a バックグラウンド励磁磁石
10b 磁場調整ユニット
10c 磁場調整コイル
70 10ppm筒状試料体積
71 10ppm筒状試料体積
90 磁場発生装置
90a 超伝導バルク磁石
90b 冷却ステージ
90c (バルク)クライオスタット
90d 室温ボア(バルククライオスタット)
100 相関の決定(一般的な構成に基づく)
200 磁場発生装置の設定
300 第1の(暫定的又は最終的な)磁場の発生
400 Tに冷却
500 超伝導バルク磁石の誘導的な励磁
550 超伝導バルク磁石の磁場解放と昇温、及び相関の決定(実験による)
600 第2の(暫定的又は最終的な)磁場の測定
700 均一性閾値との比較
800 磁場発生装置の取り外し
AH 印加均一磁場
AS 調整された印加磁場
DI 初期設計点
DT 目標設計点
I 初期点
adjust 磁場調整コイルの長さ
bulk 超伝導バルク磁石の長さ
charger バックグラウンド励磁磁石の長さ
NB ノッチ内径(直径)
NH ノッチ高さ
adjust 磁場調整コイルの半径
bulk 超伝導バルク磁石の半径
charger バックグラウンド励磁磁石の半径
SB スタックの内径(直径)
SD スタックの直径
SH スタックの高さ
RH 結果として生じる捕捉磁場
RS 結果として生じる捕捉磁場
T 目標点
T1、T2、T3 目標点

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【外国語明細書】