IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 千葉大学の特許一覧 ▶ 株式会社巴川製紙所の特許一覧

<>
  • 特開-窒素固定化材料及び窒素固定化方法 図1
  • 特開-窒素固定化材料及び窒素固定化方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136031
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】窒素固定化材料及び窒素固定化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220908BHJP
   B01J 35/06 20060101ALI20220908BHJP
   B01J 31/38 20060101ALI20220908BHJP
   C01C 1/16 20060101ALI20220908BHJP
   C01C 1/28 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J35/06 A
B01J31/38 M
C01C1/16 C
C01C1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032688
(22)【出願日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2021033712
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】塚田 学
(72)【発明者】
【氏名】影山 諒人
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA09
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA22C
4G169BA48A
4G169CB82
4G169CC40
4G169DA06
4G169EA09
4G169EA10
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169EB18Y
4G169FA02
4G169FA03
4G169FC04
4G169HA20
4G169HB01
4G169HC22
4G169HD06
4G169HD24
4G169HE20
(57)【要約】
【課題】 窒素固定収量が高い窒素固定化材料を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様に係る窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、酸化物粒子は、酸化チタンを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする、窒素固定化材料。
【請求項2】
前記酸化物粒子の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーを含み、
前記導電性ポリマーは、アニオンがドープされたp型導電性ポリマーである、請求項1に記載の窒素固定化材料。
【請求項3】
前記繊維は、透光性材料である、請求項1又は2に記載の窒素固定化材料。
【請求項4】
窒素固定化材料に、窒素を接触させると共に光を照射して、前記窒素固定化材料表面に窒素化合物を形成させる窒素固定工程を含み、
前記窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする、窒素固定化方法。
【請求項5】
前記窒素固定化材料は、前記酸化物粒子の少なくとも一部を被覆する、アニオンがドープされたp型導電性ポリマーを含み、
低酸素濃度雰囲気下で1回目の前記窒素固定工程を実施した後に、前記p型導電性ポリマーにアニオンをドープするイオン再ドープ工程を実施し、更に2回目の前記窒素固定工程を実施する、請求項4に記載の窒素固定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素固定化材料及び窒素固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素化合物は、肥料や燃料への適用等、工業的に重要な物質である。また、空気の主成分が窒素であることから、空気中の窒素を窒素化合物として固定化することで、窒素化合物を容易に得ることができる。
【0003】
窒素固定化方法としては種々の方法が提案されている。例えば、代表的な窒素固定化方法としてハーバーボッシュ法が挙げられる。ハーバーボッシュ法は、触媒上で、空気中の窒素ガスと水素ガスとを高温高圧下で反応させアンモニアを作り出す方法であり、窒素化合物を安価に合成できる。しかしながら、ハーバーボッシュ法は、大量のエネルギーを消費する必要があることから環境負荷が高いという問題がある。そのため、ハーバーボッシュ方に代わる、工業的に利用可能な窒素固定化方法が求められている。
【0004】
ハーバーボッシュ法とは異なる窒素固定化方法として、特許文献1には、酸化チタンと導電性ポリマーを複合化することにより、空中窒素を固体窒素化合物もしくは固体燃料として固定化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-072985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る発明によれば、酸化チタンの空中窒素固定化能力と導電性ポリマーのドーピング・脱ドーピング能力とが複合化され、空中窒素が固体窒素化合物もしくは固体燃料として固定化される。
【0007】
特許文献1に係る発明は、得られる窒素化合物が固体であり、且つ、外部から大量のエネルギーを与えることなく反応が進むことから、工業的な利用価値が高いものであった。しかしながら、特許文献1に係る窒素固定化方法では、窒素固定収量が十分ではない場合があった。
【0008】
そこで本発明は、窒素固定収量が高い窒素固定化材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、光触媒作用を有する材料を特定の材料に複合させることによって、上記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
本発明は、
窒素固定化材料であって、
前記窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする、窒素固定化材料である。
前記酸化物粒子の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーを含み、前記導電性ポリマーは、アニオンがドープされたp型導電性ポリマーであることが好ましい。
前記繊維は、透光性材料であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、
窒素固定化方法であって、
前記窒素固定化方法は、窒素固定化材料に、窒素を接触させると共に光を照射させ、前記シート状構造体表面に窒素化合物を形成させる工程を含み、
前記窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする、窒素固定化方法であってもよい。
別の表現によれば、本発明は、
窒素固定化材料に、窒素を接触させると共に光を照射して、前記窒素固定化材料表面に窒素化合物を形成させる窒素固定工程を含み、
前記窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、当該繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化チタンを含む
ことを特徴とする、窒素固定化方法であってもよい。
前記窒素固定化材料は、前記酸化物粒子の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーを含んでいてもよい。
前記窒素固定化方法は、低酸素濃度雰囲気下で1回目の前記窒素固定工程を実施した後に、前記導電性ポリマーにアニオンをドープするイオン再ドープ工程を実施し、更に2回目の前記窒素固定工程を実施する方法であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、窒素固定収量が高い窒素固定化材料を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、窒素固定量評価に使用した露光装置の概略図である。
図2図2は、実施例における、窒素固定回数と窒素固定収量との関係を示したグラフである。
【0014】
以下、本発明に係る窒素固定化材料、窒素固定化材料の製造方法、窒素固定化材料を用いた窒素固定化方法について説明する。
【0015】
<<<<窒素固定化材料>>>>
窒素固定化材料は、繊維から構成される繊維シートと、繊維シートの繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子とを含む。繊維シートは、酸化物粒子の少なくとも一部を被覆する導電性ポリマーを含むことが好ましい。
【0016】
窒素固定化材料(繊維シート)の厚みとしては、特に限定されないが、30~1000μmとすることができる。
【0017】
<<<繊維シート>>>
<<繊維>>
<材料>
繊維は、特に限定されず、公知のものを使用することができる。繊維は、有機繊維を含んでもよいし、無機繊維を含んでもよい。また、繊維は、有機繊維と無機繊維とを含んでいてもよい。繊維は、合成品であっても天然由来のものであってもよい。より具体的には、繊維としては、ポリエチレンテレフタレ-ト(PET)繊維、ポリビニルアルコ-ル(PVA)繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維等、セルロース系繊維、フェノ-ル系繊維、フッ素繊維等の有機繊維を挙げることができる。無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、ロックウ-ル等が挙げられる。繊維は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0018】
<繊維径/繊維長>
繊維の平均繊維径は特に限定されないが、1μm~50μmが好ましい。繊維の平均繊維径は、次の方法によって測定される径を意味するものとする。顕微鏡で撮像された微細繊維の垂直断面に基づき微細繊維の断面積を算出し(例えば、公知ソフトにて)、前記断面積と同一面積を有する円の直径を算出することにより導かれた面積径の平均値(例えば、20個の繊維の平均値)とすることができる。
繊維の繊維長は特に限定されないが、繊維長は1mm~25mmが好ましい。本発明に関わる繊維シートを湿式抄紙法で作製する場合であっても、繊維間の交絡あるいは、接点を得易いという効果を奏する。
また、繊維の断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良い。尚、繊維は、芯鞘構造等の複合繊維であっても良く、フィブリル化されていても良い。
【0019】
<透光性>
繊維は、透光性を有することが好ましい。なお、繊維の透光性とは、20μm厚みのフィルムに成形した繊維のみからなるシートをJIS-K-7136に準じて測定したときの、全光線透過率のことを意味する。ここで、透光性を有する繊維とは、前記のシート(繊維のみをフィルム化させたシート)の全光線透過率が10%以上のものとする。
【0020】
本発明に係る窒素固定化材料は散乱性を有することが好ましい。前述した繊維シートを用いることにより、構造的に散乱性を有することとなる。
【0021】
<<繊維以外の成分>>
繊維シートは、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の成分(例えば、バインダー等の公知の添加剤)を含んでいてもよい。
【0022】
<<空隙率>>
繊維シートは、一般的な通気性を有する繊維シートであることが好ましい。例えば、繊維シートの空隙率は特に限定されないが、5~95%が好ましく、10~90%がより好ましく、20~80%であることが更に好ましく、30~75%であることが更により好ましく、40~70%であることが特に好ましい。なお、繊維シートの空隙率とは、繊維シートの体積に対して空隙が存在する部分の割合であり、公知の方法によって測定することができる。例えば、繊維シートの坪量、厚み、及び繊維の真密度から、式[(1-(繊維シートの坪量)/((繊維シートの厚み)×(真密度)))×100]によって求めることができる。空隙率が高くなるにつれて、繊維シート内部まで窒素が行きわたることと、シート内部に光が届くようになり、窒素固定効率が向上する。空隙率が低くなるにつれて、密度が向上することから、単位体積あたりの窒素固定収量が向上する。
【0023】
<<<酸化物粒子>>>
酸化物粒子は、酸化チタンを含む。
【0024】
酸化チタンの繊維シートへの付着量(担持量)は特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。例えば、酸化チタン粒子の付着量は、繊維及び酸化物粒子の合計量に対して、好ましくは5~90重量%であり、より好ましくは10~85重量%であり、特に好ましくは50~80重量%である。また、別の観点では、酸化チタン粒子の繊維シートへの付着量は、好ましくは10~250g/mであり、より好ましくは20~200g/mであり、更により好ましくは100~180g/mであり、特に好ましくは100~150g/mである。
【0025】
<<平均粒径>>
酸化物粒子(1次粒子)の平均粒径は、特に限定されないが、10nm~100μmであることが好ましく、20nm~80μmであることがより好ましく、50nm~50μmであることが更に好ましく、50nm~5μmであることが更により好ましく、100nm~1μmであることが特に好ましい。酸化物粒子の平均粒径をこのような範囲とすることで、窒素固定化反応を促進しつつ、繊維シートからの酸化物粒子の脱落を減少させることができる。酸化物粒子の平均粒径は、公知の方法(例えば、レーザー回折・散乱法)により測定することができる。
【0026】
酸化物粒子は、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン等の酸化チタン以外の酸化物を含んでいてもよい。
なお、窒素固定化材料は、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の光触媒効果を有する粒子(硫化物等)を含んでいてもよい。
【0027】
<<導電性ポリマー>>
p型導電性ポリマーは、アニオン(陰イオン)をド-プすることによりイオン複合体となって導電性が向上するπ電子共役系を主鎖とする導電性高分子を意味し、ポリチオフェン系、ポリピロ-ル系、ポリアニリン系、ポリセレノフェン系などの複素環ポリマー系;ポリアセチレン系;ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイドなどのポリフェニレンポリマー系;ポリアニリンなどのイオン性ポリマー系が例示される。
【0028】
これらのうちでは、ポリチオフェン系のp型導電性ポリマーは、安定性と透明性と成膜性に優れているので、最も好ましい。
【0029】
ドープするアニオンは特に限定されず、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、リン酸イオン等を使用することができるが、過塩素酸イオンであることが好ましい。
【0030】
アニオンがドープされている複素環ポリマー系のp型導電性ポリマーは、下記化学式(1)、(2)若しくは(3)で示される繰返し単位又はそれら誘導体の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【化1】
(nは1以上の繰返し単位数を示す。Aはアニオンを示す。XはN-H,S,O,Seのいずれかを示す。Rm(m=1~12)は、水素原子又はアルキル基などの置換基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。また、上記繰返し単位の間に溶媒可溶性単位、例えば、アルキレン基の炭素原子数2-4のポリオキシアルキレン鎖を含んでいてもよい。)
【0031】
【化2】
(nは1以上の繰返し単位数を示す。Aはアニオンを示す。XはN-H,S,O,Seのいずれかを示す。Rm(m=1~12)は、水素原子又はアルキル基などの置換基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。また、上記繰返し単位の間に溶媒可溶性単位、例えば、アルキレン基の炭素原子数2-4のポリオキシアルキレン鎖を含んでいてもよい。)
【0032】
【化3】
(nは1以上の繰返し単位数を示す。Aはアニオンを示す。Rm(m=1~28)は、水素原子又はアルキル基などの置換基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。また、上記繰返し単位の間に溶媒可溶性単位、例えば、アルキレン基の炭素原子数2-4のポリオキシアルキレン鎖を含んでいてもよい。)
【0033】
ポリチオフェン系のp型導電性ポリマーは、下記式4で示される、Polyethylene Dioxythiophene(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))又はその誘導体の少なくともいずれかを含むことが好ましい。下記式5で示されるものは、アニオンとしてClO を8重量%含み、これが光との反応を介してHClOとなり、同様に光照射によって生成するNHと結合しアンモニウム塩を窒素固定化材料表面に析出させることができる。なお、下記式中xは1以上の整数であり、yは0以上の整数である。nは23℃において固体状であるのに充分な数である。
【化4】
【化5】
【0034】
p型導電性ポリマーは、主鎖を構成する繰り返し単位数(重合度)が、通常5以上2000以下であり、好ましくは、10以上1000以下であるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
かかるp型導電性ポリマーとアニオンとからなるイオン複合体を形成するには、例えば、そのようなp型導電性高分子を与えるモノマーと所定のアニオン性の親媒性化合物とを添加した系で溶液重合、ミセル重合、乳化重合、懸濁重合等を行う方法や、そのようなモノマーだけで溶液重合した後に、アニオン性の親媒性化合物を添加して、イオン複合体を生成せしめる方法が採用される。なお、かかる複合体は、一般に溶液または分散液の形態において生成せしめられることとなる。かかるアニオンでドープされたp型導電性ポリマーにおけるドープ率は、最大が100%であるが、少なくとも5%であることが好ましい。ドープ量は、エネルギー分散型X線分析により求めることができる。
【0036】
アニオンがドープされているp型導電性ポリマーは、p型導電性ポリマーとドーパントであるアニオンとの静電的な相互作用によりイオン複合体を形成しており、通常溶媒に可溶であり、あるいは、分散可能である。
アニオンがドープされているp型導電性ポリマーは、常温において、固体状、半固体状、液状のいずれでもよいが、固体状の場合は、粉状であることが好ましい。
アニオンがドープされているp型導電性ポリマーを溶解させるための溶媒は、この機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノール、ブタノール、γ-ブチロラクトン、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドンが例示される。
【0037】
なお、この溶媒に対する、アニオンがドープされているp型導電性ポリマーの濃度も適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、溶媒の重量を1とした場合、好ましくは0.001以上10以下の範囲、より好ましくは0.01以上4以下の範囲としておくことが溶解性、分散性を高めるうえで好ましい。
【0038】
導電性ポリマーの繊維シートへの付着量は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよく、好ましくは0.1~30g/mであり、より好ましくは0.5~20g/mであり、特に好ましくは1~15g/mである。
なお、窒素固定量を向上させるという観点では、導電性ポリマーの繊維シートへの付着量は、好ましくは0.5~15g/mであり、より好ましくは0.5~10g/mであり、特に好ましくは0.5~5g/mである。
【0039】
<<<窒素固定化材料の製造方法>>>
酸化物粒子と導電性ポリマーとが付着した繊維シートからなる窒素固定化材料の製造方法としては、(1)酸化物粒子が付着した繊維を繊維シートに成形し、その後繊維表面の酸化物粒子を被覆するように導電性ポリマーを付着させる方法、(2)繊維シートを準備し、繊維シートの繊維表面に酸化物粒子を付着させ、酸化物粒子を被覆するように導電性ポリマーを付着させる方法、(3)繊維シートを準備し、酸化物粒子及び導電性ポリマーを含む複合体を繊維シートの繊維表面に付着させる方法、(4)酸化物粒子及び導電性ポリマーを含む複合体を繊維の表面に付着させ、その後繊維を繊維シートに成形する方法、等が挙げられる。
なお、導電性ポリマーを含まない窒素固定化材料は、導電性ポリマーを繊維に付着させる工程を省略することで製造することができる。
以下、窒素固定化材料の好ましい製造方法として、上記(1)の方法について説明する。
【0040】
<<酸化物粒子が付着した繊維シートの形成>>
繊維シートの形成は、公知の方法で実施することができ、特に限定されない。例えば、織布とする場合には、シャットル織機、レピア織機、グリッパー織機等の織機を用いて繊維シートとすることができる。また不織布とするには、カーディング方式、エアレイド方式等の乾式法、紙のように漉いて形成する湿式抄造法、スパンボンド法、メルトブロー法等のフリース形成法;サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)、ステッチボンド法、スチームジェット法等のフリース結合法が挙げられる。
【0041】
酸化物粒子が付着した繊維シートを形成するに際しては、湿式抄造法が好ましい。より具体的には、一つ又は複数の繊維と、酸化物粒子と、必要に応じてその他の成分と、を水に分散させて原料スラリーを調製し、得られた原料スラリーを湿式抄紙して繊維シートを得る。その後、必要に応じて脱水や乾燥を行い、酸化物粒子が付着した繊維シートを形成する。
【0042】
原料スラリーの調整に際して、必要に応じて凝集剤を添加することで、繊維と酸化物粒子との凝集物を形成してもよい。原料スラリー中の酸化物粒子の濃度や、凝集剤の添加量を変更することで、繊維に対する酸化物粒子の付着量を変更することができる。
【0043】
湿式抄造法等においては、抄紙後の脱水及び乾燥のプレス圧力や、乾燥工程のロール表面温度を調節することで、空隙率を適宜調整することができる。
【0044】
また、乾燥工程のロール温度を調節することで、有機繊維同士の結合を高めることができる。
【0045】
<<導電性ポリマーの付着>>
酸化物粒子が付着した繊維シートに導電性ポリマーを含む導電性ポリマー組成物を塗布する。なお、酸化物が付着した繊維シートを導電性ポリマー組成物中に含浸させてもよい。その後、余分な導電性ポリマー組成物を除去し、必要に応じて乾燥させ、窒素固定化材料を形成する。
【0046】
繊維シートに導電性ポリマーを付着させるに際して、余剰な導電性ポリマー組成物の除去を容易にするために、導電性ポリマー組成物の粘度を適宜調整してもよい。導電性ポリマー組成物中における導電性ポリマーの濃度は、特に限定されないが、導電性ポリマー組成物全体に対して、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。
【0047】
導電性ポリマー組成物中の導電性ポリマーの濃度、導電性ポリマー組成物の粘度及び含浸時間等によって、繊維シートに対する導電性ポリマーの付着量を調整することができる。
【0048】
以下に、導電性ポリマー組成物中の導電性ポリマーの濃度を変更して導電性ポリマーの付着量を調整した場合の具体例について述べる。
濃度が1,2および3wt%の導電性ポリマーのニトロメタン溶液に、酸化チタン担持量70wt%の酸化チタン担持紙を一定スピードでディップコートした。具体的には、2mm/sの速度で酸化チタン担持紙を塗布液中に入れてゆき、1cmが浸漬したときに担持紙を3秒間停止させる。そして、3秒後に2mm/sの速度で担持紙を引き上げ、導電性ポリマーのコーティングを行う。その後、45℃で60分間の真空乾燥を行い、接合試料を得る。
導電性ポリマーの担持量は、得られた1cm×1cmの接合試料をニトロメタンに浸漬して、導電性ポリマーをニトロメタン中に溶解させ、その吸収スペクトルを測定することによって導電性ポリマーの付着量を算出する。導電性ポリマーは、770nmに吸収極大を示すが、その吸収極大からランバートベールの法則を用いてニトロメタン中の導電性ポリマーの濃度を決定し、それを導電性ポリマーの絶対量に換算することで付着量の計算を行う。
下記表に、そのようにして決定された導電性ポリマーの単位面積当たりの付着量を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
<<<窒素固定化方法>>>
窒素固定化方法は、窒素固定化材料を、窒素を含む雰囲気中に配置させることで、窒素固定化材料に窒素を接触させ、且つ、窒素固定化材料に光を照射すること(窒素固定工程)により実施することができる。
本実施形態に係る窒素固定化材料の表面に固定化される窒素化合物(窒素固定化物)は、好ましくは固体窒素化合物である。また、窒素固定化物は、ガス状の窒素化合物(例えば、アンモニアガス)であってもよい。換言すれば、窒素固定化物は、窒素固定化材料の表面にガスとして付着していてもよい。また、窒素固定化物は、固体窒素化合物とガス状の窒素化合物とを含んでいてもよい。
【0051】
窒素を含む雰囲気とは、特に限定されず、空気雰囲気であってもよいし、空気雰囲気以外のガス雰囲気であってもよい。雰囲気中の窒素含有量は限定されず、窒素固定可能であれば、雰囲気における窒素含有量が微量であってもよい。また、一回の窒素固定工程中、窒素濃度を変更することもできる。例えば、窒素固定工程前期を比較的高窒素濃度雰囲気とし窒素固定工程後期を比較的低窒素濃度雰囲気乃至は無窒素雰囲気としてもよい。また、光とは、酸化物粒子の光反応が生じるものであれば限定されず、太陽光であってもよいし太陽光以外であってもよい。
【0052】
導電性ポリマーにドープするアニオンをClO とした場合の窒素固定化の原理について詳述する。
まず、導電性ポリマーに太陽光が当たると、酸化物粒子表面の酸素欠陥部位において水が原子状の水素になる反応が進行する。
一方、酸素欠陥部位のなかには窒素を捕獲している部位もあり、この水素と窒素とが結合してアンモニアとなる。
一方、導電性ポリマー中ではClO がドープされており、太陽光によってClO が遊離し、水素イオンと結合してHClOとなる。そして上記アンモニアとHClOとが反応して過塩素酸アンモニウム(NHClO)の針状結晶として導電性ポリマー表面に析出することとなる。
ここで、本形態に係る窒素固定化方法において、窒素固定化材料は繰り返し使用することができる。
例えば、本形態に係る窒素固定化方法は、以下の方法であってもよい。
繊維シートと、繊維シートを構成する繊維表面の少なくとも一部に設けられた酸化物粒子と、酸化物粒子の少なくとも一部を被覆し、イオンがドープされた導電性ポリマー(例えば、アニオンがドープされたp型導電性ポリマー)と、を含む窒素固定化材料を用いる。
窒素固定化材料に、窒素を接触させると共に光を照射して、窒素固定化材料表面に窒素固定化物(例えば、固体窒素化合物)を形成させる工程(窒素固定工程)を実施する。
窒素固定工程を実施することで導電性ポリマーから脱離したイオン(例えば、アニオン)を再度導電性ポリマー(例えば、p型導電性ポリマー)にドープする工程(イオン再ドープ工程)を実施する。
イオン再ドープ工程後、再度、窒素固定工程を実施する。
このように、導電性ポリマーにイオンをドープする工程(イオン再ドープ工程)を介して、窒素固定化材料表面に窒素固定化物(例えば、固体窒素化合物)を形成させる工程(窒素固定工程)を複数回実施することが可能である。
換言すれば、本形態に係る窒素固定化方法は、窒素固定工程(1回目の窒素固定工程)を実施した後に、イオン再ドープ工程を実施し、更に窒素固定工程(2回目の窒素固定工程)を実施する工程を含む方法であってもよい。1回目の窒素固定工程後に、イオン再ドープ工程及び窒素固定工程を2セット以上繰り返して実施してもよい。このように、窒素固定工程を複数回実施する工程を、繰り返し窒素固定工程と称する。
イオン再ドープ工程は、導電性ポリマーにイオンをドープ可能であれば限定されず、従来公知の方法により実施することができる。例えば、イオン再ドープ工程は、イオンを含む液体媒体(適宜の添加剤を含んでいてもよい)中に、導電性ポリマーを含む窒素固定化材料を含侵させる等の方法により実施することができる。この場合、イオンを含む液体媒体の濃度や浸漬時間等は特に限定されず、導電性ポリマーの付着量や導電性ポリマーの種類等を考慮して、導電性ポリマーにイオンが十分にドープされる条件とすればよい。
繰り返し窒素固定工程を実施する場合、イオン再ドープ工程と窒素固定工程とは、同一の雰囲気で実施してもよい。より具体的には、イオン再ドープ工程と窒素固定工程とを、雰囲気を変更せずに連続的に実施してもよい。
また、繰り返し窒素固定工程を実施する場合、ある窒素固定工程と、別の窒素固定工程と、における雰囲気(窒素濃度や酸素濃度)を変更してもよい。例えば、繰り返し窒素固定工程は、窒素濃度を変化させながら(例えば、窒素濃度を徐々に高くしながら)、窒素固定工程を複数回実施する工程であってもよい。
また、繰り返し窒素固定工程を実施する場合、窒素固定工程及び/又はイオン再ドープ工程は、低酸素濃度雰囲気にて実施されることが好ましい。この場合、複数回実施される窒素固定工程のうち、一部の窒素固定工程(例えば、1回目の窒素固定工程のみ)を低酸素濃度雰囲気にて実施してもよいし、複数の窒素固定工程(例えば、1回目の窒素固定工程及び2回目の窒素固定工程)を低酸素濃度雰囲気としてもよい。繰り返し窒素固定工程を実施する場合、最後に実施される窒素固定工程以外の少なくとも一部の窒素固定工程を低酸素濃度雰囲気にて実施することで、導電性ポリマーの骨格構造が破壊され難くなる等の理由により、窒素の収量を向上することができる。
なお、低酸素濃度雰囲気とは、通常の空気雰囲気(酸素濃度21%)よりも低い酸素濃度であることを示す。低酸素濃度雰囲気は、空気と空気以外のガス(例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガス、水素等の活性ガス)とを混合する、又は、空気以外のガス(酸素濃度21%未満であるガス)で雰囲気ガスを置換する、等の方法によって得られる。
また、低酸素濃度雰囲気は、酸素を含まないガスによって雰囲気ガスを置換して得られる、脱酸素雰囲気であってもよい。
窒素固定工程の後乃至は再ドープ工程の前に、窒素固定工程によって形成された窒素固定化物(例えば、固体窒素化合物)を回収する工程(例えば、液体媒体に固体窒素化合物を溶解させる工程や、固体窒素化合物を窒素固定材料から物理的に分離させる工程)を実施してもよい。
【0053】
窒素固定化材料は、複数の窒素固定化材料を重ねて使用してもよい。
【0054】
また、窒素固定化材料は、基材上に設けられる等、その他の公知の材料と複合化されて使用されてもよい。
【0055】
本発明に係る窒素固定化材料によれば、繊維シートを構成する繊維の表面に酸化チタンが存在することから、繊維シートの内部に存在する酸化チタン等が光反応に寄与することとなり、窒素化合物の収量が改善される。また、繊維シートの内部の導電性ポリマーが複合的に作用し、窒素化合物の収量がより向上する。
更に、繊維シートを構成する繊維が透光性材料であることや繊維シートの構造を最適なものとすることで、繊維シート内部に存在する酸化チタン等に対する光の導入が最適なものとなり、窒素化合物の収量が格段に向上する。
【実施例0056】
<<<窒素固定化材料(接合試料)の作製>>>
<<酸化チタンが付着した繊維シートの作製方法>>
透光性を有する繊維として、セルロース繊維とPET繊維とを準備した。
また、セルロース繊維及びPET繊維以外の繊維として、ロックウールと炭素繊維とを準備した。
繊維と、酸化チタン(粒径590nm)とを表2-4に示す割合となるように水に分散させて原料スラリーを調製し、得られた原料スラリーを湿式抄紙して繊維シートを得た。その後、必要に応じて脱水や乾燥を行い、酸化物粒子(酸化チタン)が付着した繊維シートを形成した。
【0057】
<<酸化チタンが付着していない繊維シートの作製方法>>
セルロース繊維と、PET繊維とを水に分散させて原料スラリーを調製し、得られた原料スラリーを湿式抄紙して繊維シートを得た。その後、必要に応じて脱水や乾燥を行い、酸化物粒子(酸化チタン)が付着していない繊維シートを形成した。
【0058】
<<実施例及び比較例に係る接合試料(窒素固定材料)の作製方法>>
ディップコーター(SDI社製、ナノスピードディップコーティング ND-0407-S4型)を用いて、繊維シートを導電性ポリマー(過塩素酸イオンドープチオフェン系導電性ポリマー)のニトロメタン溶液に浸漬し、導電性ポリマーのディップコーティングを行った。なお、導電性ポリマーのニトロメタン溶液の濃度を調整することにより、導電性ポリマーの付着量を調整した。使用した繊維シート及び導電性ポリマーの濃度を各表に示す。
繊維シートを、2mm/sの速度で溶液に浸漬し、1cm浸漬したときに3秒間静止した。そしてその後、2mm/sの速度で酸化チタン担持紙あるいは酸化チタンが担持されていない紙を引き上げた。得られた導電性ポリマーコート試料を45℃、60分間真空乾燥を行うことにより、酸化チタンが付着した繊維シートあるいは酸化チタンが付着しない繊維シートに、導電性ポリマーがコートされた接合試料(窒素固定材料)を得た。
【0059】
<<<評価>>>
<<窒素固定実験>>
次に接合試料に白色光露光を行い、窒素固定実験を行った。試料への光照射には擬似太陽光灯(セリック社製、XC-100 BF1RC、100W)を用いた。露光装置の概略図を図1に示す。露光装置は、石英窓を上部に有するアクリルボックスであり、内部の排気やガス置換を可能とするように2つのバルブが設置されている。通常の大気中には、種々の微量成分ガスが含まれており、窒素固定実験に支障を与える可能性がある。そこで、露光の前には、アクリルボックス内を排気し、その後、窒素と酸素から成る人工空気(大陽日酸社製 空気ガス)を導入することで内部雰囲気を形成した。また、アクリルボックス内部には、湿度を一定に保つために塩を水に溶解することによって調製した調湿液と温湿度計が備えられている。露光環境は常温・常圧であり、アクリルボックス内は温度22℃に保たれており、調湿液としてNaCl飽和水溶液を用いた場合には湿度は約65%RHに保たれている。作製した接合材料を1cm四方にカットしてアクリルボックス内に置き、上部にある円形の石英窓を通して擬似太陽光灯の光を接合試料に照射した。光強度は英弘精機社製の日射計MS-601とKEITHLEY社製2000 MULTI METERを用いて260W/mに調整した。また、露光時間は7日間である。
【0060】
露光後、固定化された過塩素酸アンモニウムの結晶およびアンモニアの収量を、インドナフトール法を用いて定量した。この方法では、アンモニアが次亜塩素酸塩によってモノクロラミンとなり、これがα-ナフトールと反応してナフトキノンクロルイミン、または4-アミノ-1-ナフトールからナフトキノンクロルイミンとなる。そして最終的にインドフェノール型の色素を生成して呈色する。この色素の量を紫外可視吸収スペクトル測定によって定量化し、アンモニアおよびアンモニウムイオンの生成量を決定することができる。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
更に、比較例5として、繊維シートを含まない窒素固定化材料として、酸化チタン粒子と導電性ポリマーのみからなる接合試料を準備した。
酸化チタン粒子と導電性ポリマーの接合試料は以下のようにして作製した。
酸化チタン粒子は日本アエロジル社P25を用いた。P25の平均粒形は21 nmであり、結晶系はルチル20%,アナターゼ80%である。円筒型のラボラン社製サンプル管瓶(容量5ml,瓶の底面積1.76cm)に1wt%の導電性ポリマー溶液0.1gを入れ、次に酸化チタン粒子0.01gを入れてマグネティックスターラーを用いてかくはんした。その後、45℃で1時間真空乾燥し、ニトロメタンを蒸発させることでサンプル管瓶の底に接合試料を作製した。接合試料における導電性ポリマーと酸化チタンの重量比は1:10となる。そしてその後、前述した方法と全く同じ方法および条件下で、サンプル瓶管上方の開放口から疑似太陽光を露光した。
露光実験の結果、窒素固定収量は1mmol/m未満であった。
【0065】
<<<考察>>>
酸化チタンが70wt%担持された担持紙を用いた場合、溶液濃度が1wt%の時に収量が最大となった。
また、溶液濃度(ポリマー付着量)がこれよりも高い、または小さい場合は収量が減少した。
溶液濃度が低い場合、ディップコーティングによって付着する導電性ポリマーの量が少ない。窒素固定反応における生成物は、過塩素酸アンモニウムとアンモニアであるが、導電性ポリマーの量が少ない場合には、その中にドーピングされている過塩素酸イオンの量も少なくなり、窒素固定の結果生成される過塩素酸アンモニウムの収量が減少する。従って、正味の窒素固定化物の量が減少する。
一方で、溶液濃度が高い場合、付着する導電性ポリマーの量が多く、導電性ポリマーの被覆膜厚が厚くなる。このとき、窒素固定の反応場と考えられる、導電性ポリマー層と酸化チタンとの界面へ光が届きにくくなるため、収量が減少したと考えられる。
【0066】
酸化チタンが20wt%担持された担持紙を用いた場合、酸化チタンが70wt%担持された担持紙を用いた場合と比較すれば、収量は大きく低減した。しかしながら、比較例5(酸化チタン粒子と導電性ポリマーだけの組み合わせ)を用いて窒素固定実験を行ったときの収量(1mmol/m未満)と比較すると、高い収量を示しており、紙に酸化チタンを担持した効果が発現されている。
【0067】
また、酸化チタンが担持されていない紙(0wt%)を用いた場合、その窒素固定量は、溶液濃度によらず1mmol/m未満であった。都市の空気中には、人間の活動が行われているためにアンモニア及びアンモニウム塩が浮遊している。おそらくは、この1mmol/m未満の収量は、インドナフトール法による窒素固定の定量化実験の際に、大気から混入した大気由来の窒素化合物と考えられる。
【0068】
更なる実施例として、窒素固定に使用するガス雰囲気を、人工空気から、窒素ガス、又は、窒素ガスと水素ガスの混合ガス[窒素ガス:水素ガス(体積比)=95.25:4.75]に変更したこと以外は、実施例4と同様に窒素固定を行った。その結果、2mmol/m以上の収量となることが確認された。この結果から、種々の雰囲気にて窒素固定が可能であることが理解される。
【0069】
また、更に別の実施例として、窒素固定と、導電性ポリマーへの再ドーピングと、を繰り返して実施する窒素固定を行った。具体的には、以下の通りである。
【0070】
先ず、窒素固定に使用するガス雰囲気を、人工空気から窒素ガスに変更したこと以外は、実施例4と同様に窒素固定を行った(工程1)。
工程1を実施した後に、接合試料を装置から取り出した。室温にて、接合試料を純水に2分間浸漬させることで窒素固定化物を純水に溶解させ、窒素固定化物を回収した。次に、湿度6%に保たれたガラス製デシケーター内に接合試料を12時間以上保管することで、接合試料を乾燥させた。次に、17.5%濃度のHClO4水溶液に接合試料を20分間浸漬し、導電性ポリマーへのアニオンの再ドープを行った(工程2)。
工程2を実施した後に、工程1と同様に窒素固定を行った(工程3)。
工程3を実施した後に、工程2と同様に、窒素固定化物の回収、接合試料の乾燥及び導電性ポリマーへのアニオンの再ドープを行った(工程4)
工程4を実施した後に、工程1と同様に窒素固定を行った(工程5)。
【0071】
露光1回目(工程1)、露光2回目(工程3)、露光3回目(工程5)を実施した直後の、各々の窒素固定収量を図2に示す。
【0072】
このように、本形態に係る接合試料は、複数回の窒素固定工程を実施しても、一定以上の窒素収量を達成することができた。即ち、本形態に係る接合試料は、繰り返しの窒素固定に有用であることが示唆された。
【0073】
なお、各工程において窒素収量が変化した理由については、以下のように推測される。
露光2回目(工程3)の窒素固定収量が高い理由は、HClO4由来の高い酸化力によって、導電性ポリマーにおけるドープ率が向上したため、窒素固定収量が向上したものと推測される。
露光3回目(工程5)の窒素固定収量が低い理由は、微量の酸素により導電性ポリマーの骨格の一部が破壊され、ドープ率が低下し、結果として窒素固定収量が低下したものと推測される。
従って、繰り返し露光を窒素ガス雰囲気(低酸素濃度雰囲気)にて実施することが窒素収量の向上に寄与する、ということが示唆された。

図1
図2