(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136051
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】マルチスペクトル顕微鏡システムおよびマルチスペクトル顕微鏡システムを用いて第1の画像と第2の画像とを位置合わせする方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/18 20060101AFI20220908BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220908BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G02B21/18
G01N21/64 E
G02B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022033686
(22)【出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】21161036
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シューマン
(72)【発明者】
【氏名】カイ リッチェル
(72)【発明者】
【氏名】メイト ベルジャン
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043NA12
2H052AA09
2H052AB17
2H052AB24
2H052AB27
2H052AC04
2H052AC14
2H052AC30
2H052AF14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マルチスペクトル顕微鏡システムにおいて第1の画像と第2の画像の位置合わせをする方法を提供する。
【解決手段】マルチスペクトル顕微鏡システム(100)であって、第1のスペクトルチャネル(114)における試料(102)の第1の画像を捕捉するように構成された第1の検出器素子(118)と、第2のスペクトルチャネル(116)における試料(102)の第2の画像を捕捉するように構成された第2の検出器素子(120)と、プロセッサ(128)と、を備え、当該プロセッサ(128)は、第1のスペクトルチャネル(114)と第2のスペクトルチャネル(116)との間のスペクトルクロストークに基づいて第1の画像と第2の画像との間の空間相関を決定し、当該空間相関に基づいて第1の画像と第2の画像とを位置合わせするように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチスペクトル顕微鏡システム(100)であって、前記マルチスペクトル顕微鏡システム(100)は、
第1のスペクトルチャネル(114)における試料(102)の第1の画像を捕捉するように構成された第1の検出器素子(118)と、
第2のスペクトルチャネル(116)における前記試料(102)の第2の画像を捕捉するように構成された少なくとも1つの第2の検出器素子(120)と、
プロセッサ(128)と、
を備え、前記プロセッサ(128)は、前記第1のスペクトルチャネル(114)と前記第2のスペクトルチャネル(116)との間のスペクトルクロストークに基づいて前記第1の画像と前記第2の画像との間の空間相関を決定し、前記空間相関に基づいて前記第1の画像と前記第2の画像とを位置合わせするように構成されている、
マルチスペクトル顕微鏡システム(100)。
【請求項2】
前記空間相関は、前記第1の画像と前記第2の画像との間の相互情報または相互相関、特に位相相関である、
請求項1記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項3】
前記プロセッサ(128)は、前記第1の画像と前記第2の画像とを位置合わせするために、前記空間相関に基づいて少なくとも1つの変換パラメータを決定するように構成されている、
請求項1または2記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項4】
前記プロセッサ(128)は、粗位置合わせされた第1の画像および第2の画像を生成するために、所定の変換に基づいて、前記第1の画像と前記第2の画像との粗画像位置合わせを行い、粗位置合わせされた前記第1の画像および前記第2の画像に基づいて前記空間相関を決定するように構成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項5】
前記プロセッサ(128)は、予め定められた時間スケジュールに従って、前記空間相関の決定および前記第1の画像と前記第2の画像との位置合わせを行うように構成されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項6】
前記顕微鏡システム(100)は、少なくとも1つのセンサ素子(124)を備え、
前記プロセッサ(128)は、前記センサ素子(124)からのセンサ入力に従って、前記空間相関の決定および前記第1の画像と前記第2の画像との位置合わせを行うように構成されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項7】
前記センサ素子(124)は、温度センサである、
請求項6記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項8】
前記マルチスペクトル顕微鏡システム(100)は、蛍光顕微鏡システムである、
請求項1から7までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項9】
前記プロセッサ(128)は、位置合わせされた前記第1の画像および前記第2の画像についてスペクトル分解を行うように構成されている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項10】
前記プロセッサ(128)は、第1の歪補正画像を生成するために前記第1の画像内の第1の光学歪を補正し、第2の歪補正画像を生成するために前記第2の画像内の第2の光学歪を補正し、前記第1の歪補正画像および前記第2の歪補正画像に基づいて前記空間相関を決定するように構成されている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項11】
前記プロセッサ(128)は、前記顕微鏡システム(100)の少なくとも1つの所定の光学パラメータに基づいて、前記第1の光学歪および前記第2の光学歪を補正するように構成されている、
請求項10記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項12】
前記プロセッサ(128)は、前記空間相関に基づいて、前記第1の画像および前記第2の画像の画質を決定するように構成されている、
請求項1から11までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項13】
前記顕微鏡システム(100)は、ビームスプリッタ装置(112)を備え、前記ビームスプリッタ装置(112)は、前記第1のスペクトルチャネル(114)を規定するために、第1の波長スペクトルを有する第1の光を前記第1の検出器素子(118)へと配向し、前記第2のスペクトルチャネル(116)を規定するために、第2の波長スペクトルを有する第2の光を前記第2の検出器素子(120)へと配向するように構成されている、
請求項1から12までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項14】
前記顕微鏡システム(100)は、前記第1の検出器素子および前記第2の検出器素子を機械的に接続する機械的接続素子(122)を備える、
請求項1から13までのいずれか1項記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項15】
マルチスペクトル顕微鏡(100)によって第1の画像と第2の画像とを位置合わせする方法であって、前記方法は、
第1のスペクトルチャネル(114)における試料(102)の第1の画像を捕捉するステップと、
第2のスペクトルチャネル(116)における試料(102)の第2の画像を捕捉するステップと、
前記第1のスペクトルチャネル(114)と前記第2のスペクトルチャネル(116)との間のスペクトルクロストークに基づいて、前記第1の画像と前記第2の画像との間の空間相関を決定するステップと、
前記空間相関に基づいて前記第1の画像と前記第2の画像とを位置合わせするステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチスペクトル顕微鏡システムに関する。本発明はさらに、マルチスペクトル顕微鏡システムを用いて第1の画像と第2の画像とを位置合わせする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチスペクトル顕微鏡システムは、異なるスペクトルチャネルで捕捉された試料の複数の画像を重ね合わせることにより、試料のマルチスペクトル画像を生成する。異なる測定から得られた画像の重ね合わせには、画像の位置合わせが必要となる。当該プロセスは、共通の座標系への画像の変換として理解することができる。
【0003】
特に、マルチスペクトル顕微鏡システムの検出部の配置が異なる複数の検出器を含む場合、個々の測定間で、例えば異なる検出器を結合する機械的な構成要素の熱膨張に起因して、検出器間の機械的なミスアライメントが生じることがあり、これはドリフトとも称されている。こうしたドリフトによって、異なる検出器が捕捉した画像をオンラインで、すなわち実際の測定中に位置合わせするための変換を決定する必要が生じる。
【0004】
マルチスペクトル顕微鏡システムを用いて画像を位置合わせするための多数の方法が知られており、これらの方法は、画像の位置合わせのための変換を決定するために、基準試料の使用または所定のパラメータの使用のいずれかに依拠している。しかし、これらの公知の方法は、測定前または製造中のいずれかに実施される明示的な較正ステップに依拠しているため、いずれも、試料の実際の測定中に発生するドリフトを考慮することができない。
【0005】
代替的に、ドリフトは、検出器装置のアサーマル設計によって、例えばインバーもしくは低い熱膨張度を有する他の材料を使用することによって、最小化することができる。しかし、これらの材料は高価であって、機械加工および処理が困難であり、製造コストを大幅に増大させる。さらに、アサーマル設計は完全にテストされなければならず、開発およびテスト時間も長くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、試料の実際の測定中に発生するドリフトを考慮することのできるマルチスペクトル顕微鏡システムおよび第1の画像と第2の画像とを位置合わせするための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、各独立請求項の主題によって達成される。有利な実施形態は、各従属請求項および以下の説明に定義されている。
【0008】
提案のマルチスペクトル顕微鏡システムは、第1のスペクトルチャネルにおける試料の第1の画像を捕捉するように構成された第1の検出器素子と、第2のスペクトルチャネルにおける試料の第2の画像を捕捉するように構成された少なくとも第2の検出器素子と、第1のスペクトルチャネルと第2のスペクトルチャネルとの間のスペクトルクロストークに基づいて第1の画像と第2の画像との間の空間相関を決定し、当該空間相関に基づいて第1の画像と第2の画像とを位置合わせするように構成されたプロセッサと、を含む。
【0009】
特に、第1の検出器素子および第2の検出器素子はそれぞれ、2次元画像を捕捉するように構成された検出器アレイ、例えばCCD素子またはCMOS素子を含む。
【0010】
第1の画像と第2の画像とは、異なるスペクトルチャネルで捕捉される。換言すれば、第1の画像と第2の画像とは、試料から放出された電磁スペクトルの異なる帯域を示している。スペクトルクロストークは、放射スペクトルの部分的な重なり、いわゆる放射クロストークによって引き起こされることもあるし、またはスペクトルチャネルが少なくとも部分的に重なることによって引き起こされることもある。スペクトルクロストークに起因して、2つの画像として存在する画像データが生じる。2つの画像間の空間相関を決定することにより、第1の画像と第2の画像とのうちの同じ画像データを表す部分が識別される。次いで、当該情報を使用して、画像平面における第1の画像と第2の画像との間の位置関係が決定され、したがって2つの画像を共通の座標系に変換する変換が決定され、すなわち、第1の画像と第2の画像とが位置合わせされる。
【0011】
広視野検出ユニット、すなわちセンサアレイを備えた検出ユニットを有する典型的なマルチスペクトル顕微鏡システムでは、像側開口数は一般に小さく、例えば0.05である。よって、可視波長については、回折制限された横方向サンプリングは約2.5μmであるのに対し、焦点深度は約200μmである。このことは、こうしたシステムが、光軸方向のシフトに対してよりも像面におけるシフトに対して約100倍以上感度が高いことを意味しており、したがって、画像を位置合わせするには、像面における第1の画像と第2の画像との相対位置を特定すれば充分である。
【0012】
提案のマルチスペクトル顕微鏡システムは、画像の位置合わせのための変換を決定するために、第1の画像自体および第2の画像自体を使用する。これにより、明示的な較正ステップの必要がなくなる。さらに、第1の画像および第2の画像の後続の捕捉中に発生するドリフトも考慮される。
【0013】
提案のマルチスペクトル顕微鏡システムは、付加的な検出器素子を有していてよく、各付加的な検出器素子は、付加的なスペクトルチャネルにおいて試料の付加的な画像を捕捉するように構成されている。プロセッサは、全てのスペクトルチャネル間のスペクトルクロストークに基づいて全画像間の空間相関を決定し、当該空間相関に基づいて全画像を位置合わせするように構成されている。特に、プロセッサは、画像の全ての可能な対についてのこれらそれぞれのスペクトルチャネル間のスペクトルクロストークに基づいて、2つずつの画像間の対ごとの空間相関を決定することにより、全ての画像間の空間相関を決定するように構成されている。
【0014】
好ましくは、空間相関は、第1の画像と第2の画像との間の相互情報または相互相関、特に位相相関である。
【0015】
2つの画像を相互に位置合わせする変換は、それぞれの相関尺度を最適化する変換である。
【0016】
2つの画像間の位相相関は、2つの画像間の平行移動量(シフト量)を決定するために特に使用可能なタイプの相互相関である。2つの画像I
0,I
1の位相相関のフーリエ変換は、
【数1】
として計算され、ここで、波線符号はフーリエ変換を示す。位相相関Pは、構造の最大相関が位置するシフト値に対して最大値を有し、例えば、画像が完全に位置合わせされていればピクセル位置(0,0)に、画像がx方向に1ピクセルだけオフセットされていればピクセル位置(1,0)に位置する。フーリエ変換はFFT法で容易に計算可能であり、ピクセルごとのレベルでフーリエ領域の乗算および除算が計算される。
【0017】
典型的には、熱膨張に起因するドリフトは、少数のピクセルのみの第1の検出器素子と第2の検出器素子との間のミスアライメントを生じさせる。したがって、位相相関Pの最大値はピクセル位置(0,0)に近いとの仮定は正しいものとされる。よって、位相相関のピクセル位置(0,0)の周囲の、限定されたサイズの小さなパッチだけを評価すればよい。このためには、位相相関の質量中心を計算することで、最大値位置の良好な推定値が見出される。このことは、関数、例えば2次元ガウシアンをデータにフィッティングすることにより、さらに洗練させることができる。この場合、フィッティングされた関数の最大値は、位相相関の最大値に対応する。これにより、サブピクセルの位置合わせが可能となる。
【0018】
好ましい実施形態では、プロセッサは、第1の画像と第2の画像とを位置合わせするために、空間相関に基づいて、少なくとも1つの変換パラメータ、特に平行移動パラメータ、回転パラメータおよび/またはスケーリングパラメータを決定するように構成されている。これらのパラメータから、第1の画像と第2の画像とを位置合わせするための線形変換が計算される。線形変換は高速に実行可能であり、これにより第1の画像と第2の画像とを位置合わせする高速の手段が提供される。
【0019】
さらに、パラメータは、後続して捕捉される第1の画像と第2の画像との位置合わせのためにメモリ素子に記憶させることができる。これにより、特に、例えば顕微鏡システムが所望の動作温度に到達したためにさらなるドリフトは発生しえないことが判定されると、空間相関の後続の決定の必要をなくすことができる。
【0020】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、粗位置合わせされた第1の画像および第2の画像を生成するために、所定の変換に基づいて第1の画像と第2の画像との粗画像位置合わせを実行し、粗位置合わせされた第1の画像および第2の画像に基づいて空間相関を決定するように構成されている。この実施形態では、所定の変換は、明示的な較正によって、例えば製造中に決定されている。粗位置合わせは、顕微鏡システムの製造および/または輸送に起因する第1の検出器素子および第2の検出器素子のミスアライメントを相殺するために使用される。空間相関に基づく位置合わせを行う前に粗位置合わせを行うと、全体的な計算負荷が軽減され、全体的な画像位置合わせをより迅速にかつより効率的にすることができる。
【0021】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、予め定められた時間スケジュールに従って、空間相関の決定および第1の画像と第2の画像との位置合わせを実行するように構成されている。熱膨張に起因するドリフトは、その後第1の画像を捕捉してから第2の画像を捕捉するまでの期間よりもはるかに大きくなりうる時間スケールで発生する。したがって、画像位置合わせに必要なステップは、第1の画像および第2の画像の捕捉のたびに行うのではなく、定期的に行えば充分である。こうして、不要なステップをスキップすることにより、画像位置合わせプロセス全体をより迅速にかつより効率的にすることができる。
【0022】
別の好ましい実施形態では、マルチスペクトル顕微鏡システムは、少なくとも1つのセンサ素子を備える。プロセッサは、センサ素子からのセンサ入力に従って、空間相関の決定および第1の画像と第2の画像との位置合わせを実行するように構成されている。好適には、センサ素子は温度センサである。さらに、顕微鏡システムが移動されたかどうかを決定するように構成された運動センサなど、他のタイプのセンサも使用することができる。この実施形態では、プロセッサは、顕微鏡の状態の変化、例えば著しい温度変化、ドリフトが発生したことを示すかもしれない動きなどに対応するセンサ入力をセンサ素子から受け取ると、画像位置合わせに必要なステップを実行する。このように、画像位置合わせに必要なステップは、ドリフトが発生したとの仮定が妥当性を有する場合にのみ実行される。これにより、不要なステップがスキップされ、画像位置合わせ処理の効率が向上する。
【0023】
別の好ましい実施形態では、マルチスペクトル顕微鏡システムは、蛍光顕微鏡システムである。この実施形態では、顕微鏡システムは、マルチスペクトル蛍光顕微鏡検査、すなわちそれぞれ異なる発光スペクトルを有する蛍光体を使用した蛍光顕微鏡検査に使用することができる。
【0024】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、位置合わせされた第1の画像および第2の画像に対してスペクトル分解を実行するように構成されている。マルチスペクトル蛍光顕微鏡検査において、異なる蛍光体間の発光クロストーク、すなわち異なる発光スペクトル間の重なりは、異なる蛍光体の正確な位置特定を識別する際の困難につながる。スペクトル分解はこの問題を解決するための計算アプローチである。
【0025】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、第1の歪補正画像を生成するために第1の画像内の第1の光学歪を補正し、第2の歪補正画像を生成するために第2の画像内の第2の光学歪を補正し、第1の歪補正画像および第2の歪補正画像に基づいて空間相関を決定するように構成されている。これは、マルチスペクトル顕微鏡システムの光学システムによって引き起こされる既知のまたは所定の収差を相殺するために行われる。収差は、第1の画像および第2の画像に非線形の歪を導入し、これによって画像の位置合わせに必要な変換の決定を困難にする。このように、第1の光学歪および第2の光学歪を補正することにより、画像位置合わせプロセスをより高速とすることができる。
【0026】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、顕微鏡システムの少なくとも1つの所定の光学パラメータに基づいて、第1の光学歪および第2の光学歪を補正するように構成されている。光学パラメータは、製造中に、例えば測定によってかつ/または光学的計算によって決定可能である。
【0027】
別の好ましい実施形態では、プロセッサは、空間相関に基づいて、第1の画像および第2の画像の画質を決定するように構成されている。例えば、位相相関の最大値を見出すために使用される2次元ガウシアンの幅を、画像データが信頼できるか否かを判定するために使用することができる。
【0028】
別の好ましい実施形態では、マルチスペクトル顕微鏡システムは、第1のスペクトルチャネルを規定するために、第1の波長スペクトルを有する第1の光を第1の検出器素子上へ配向し、第2のスペクトルチャネルを規定するために、第2の波長スペクトルを有する第2の光を第2の検出器素子上へ配向するように構成されたビームスプリッタ装置を含む。ビームスプリッタ装置はさらに、励起光を、試料内部の蛍光体を励起させるために試料へ配向するように構成可能である。ビームスプリッタ装置は、任意の数の光学素子、特にプリズム、ビームスプリッタ素子、光学リレーシステムおよびミラーを含むことができる。
【0029】
別の好ましい実施形態では、マルチスペクトル顕微鏡システムは、第1の検出器素子と第2の検出器素子とを機械的に接続する機械的接続素子を備えている。特に、機械的接続素子は、ベースプレート素子を含む。第1の検出器素子および第2の検出器素子を単一の機械的接続素子上に実装することで、全体的なドリフトが低減される。特に、このことは、ドリフトの主な寄与量が機械的接続素子の熱膨張に起因することを保証する。つまり、ドリフトの主な寄与量は平行移動量であり、これは、第1の画像と第2の画像とを位置合わせするための単純な線形変換によって相殺される。
【0030】
本発明はさらに、マルチスペクトル顕微鏡を用いて第1の画像と第2の画像とを位置合わせする方法に関する。この方法は、第1のスペクトルチャネルにおける試料の第1の画像を取得するステップと、第2のスペクトルチャネルにおける試料の第2の画像を取得するステップと、第1のスペクトルチャネルと第2のスペクトルチャネルとの間のスペクトルクロストークに基づいて第1の画像と第2の画像との間の空間相関を決定するステップと、当該空間相関に基づいて第1の画像と第2の画像とを位置合わせするステップと、を含む。
【0031】
以下に、特定の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】マルチスペクトル顕微鏡システムの概略図である。
【
図2】マルチスペクトル顕微鏡システムを用いて画像を位置合わせするための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、マルチスペクトル顕微鏡システム100の概略図である。顕微鏡システム100は、試料102のマルチスペクトル画像を捕捉するように構成されている。
【0034】
顕微鏡システム100は、励起光源104を含んでいる。励起光源104は、試料102内の蛍光体を励起するための励起光106を放出する。したがって、顕微鏡システム100は、蛍光顕微鏡システムである。この特定の実施形態では、励起光源104はコヒーレント光源である。
【0035】
顕微鏡システム100は、試料102に面した対物レンズ108も有する。対物レンズ108は、試料102によって放出される検出光、特に、試料102内の蛍光体によって放出される蛍光を捕捉するように構成されている。この特定の実施形態では、顕微鏡システムと組み合わされた対物レンズ108は、約0.05の像側開口数を有し、すなわち、顕微鏡システム100は、ワイドフィールド顕微鏡またはライトシート顕微鏡である。
【0036】
対物レンズ108は、捕捉された検出光を、検出光路110に沿ってビームスプリッタ装置112へ向かって配向する。ビームスプリッタ装置112は、検出光路110を第1のスペクトルチャネル114と第2のスペクトルチャネル116とに分割するように構成されている。第1のスペクトルチャネル114および第2のスペクトルチャネル116を形成するために、ビームスプリッタ装置112は、検出光をスペクトル的に、第1の波長スペクトルを有する第1の光と第2の波長スペクトルを有する第2の光とに分離する。さらに、ビームスプリッタ装置112は、対物レンズ108を介して励起光106を試料102へ配向するように構成可能である。ビームスプリッタ装置112は、複数の光学素子、例えばプリズム、ビームスプリッタ、特にダイクロイック素子およびミラーを含むことができる。
【0037】
第1の検出器アレイ118、例えばCMOS素子が、第1のスペクトルチャネル114内に配置されている。第1の検出器アレイ118は、第1の波長スペクトルにおいて試料102の第1の2D画像を捕捉するように構成されている。第2の検出器アレイ120は、第2のスペクトルチャネル116内に配置されている。第2の検出器アレイ120は、第2の波長スペクトルにおいて試料102の第2の2D画像を捕捉するように構成されている。第1の検出器アレイ118および第2の検出器アレイ120は、機械的接続素子を構成する単一のベースプレート122に取り付けることができる。
【0038】
この特定の実施形態では、ベースプレート122は、約20cm~30cmの幅を有するのに対し、検出器アレイ118,120の単一のピクセルは、約3.5μmの幅を有する。したがって、通常の顕微鏡動作の温度範囲内でのベースプレート122の熱膨張は、単一のピクセルを測定されうる程度にシフトさせ、これによりドリフトが生じる。したがって、顕微鏡システム100は、ベースプレート122に配置された温度センサ124を備える。温度センサ124は、ベースプレート122の温度および/またはベースプレート122および検出器アレイ118,120の設置空間126の温度を測定するように構成されている。
【0039】
顕微鏡システム100はさらに、顕微鏡システム100の全体的な動作を制御するように構成されたプロセッサ128を含んでいる。プロセッサ128はメモリ素子130を含んでおり、第1の検出器アレイ118および第2の検出器アレイ120、温度センサ124、ならびに励起光源104に接続されている。
【0040】
プロセッサ128はさらに、第1の検出器アレイ118および第2の検出器アレイ120により捕捉された第1の画像および第2の画像を受信し、これらの画像の位置合わせを行うように構成されている。第1の粗位置合わせは、メモリ素子130に記憶されている粗変換に基づいて行うことができる。粗変換は、例えば製造中に決定される。第1の画像と第2の画像との間の空間相関に基づいて、第2のより微細な位置合わせを行うことができる。
【0041】
空間相関は、プロセッサ128によって第1の画像および第2の画像に基づいて決定される。特に、第1の画像および第2の画像を共通の座標系に変換するための、すなわち第1の画像と第2の画像とを位置合わせするための微変換は、空間相関に基づいてプロセッサ128により決定される。空間相関およびこれに基づく微変換は、第1の画像および第2の画像のそれぞれの捕捉のたびに決定される。代替的に、空間相関およびこれに基づく微変換は、ユーザ入力によって予め定められたまたは設定されたスケジュールに従って、または温度センサ124からのセンサ入力に従って、決定されてもよい。微変換が捕捉のたびに決定されない場合、後続の画像位置合わせでの使用のために、微変換はメモリ素子130に記憶される。第1の画像と第2の画像との画像位置合わせは、以下で、
図2に関連してより詳細に説明される。
【0042】
プロセッサ128または別のプロセッサはまた、第1の画像および第2の画像のスペクトル分解を実行して、画像の個々のピクセルのスペクトルを、試料102内の蛍光体の発光スペクトルに対応する成分スペクトルに分解するように構成されている。
【0043】
さらに、プロセッサ128または別のプロセッサは、歪補正画像を生成するために、第1の画像および第2の画像における光学歪を補正するように構成されている。光学歪は、実際の光学系、例えば対物レンズ108およびビームスプリッタ装置112から成る顕微鏡システム100の光学系の不完全な性質および製造公差によるものである。プロセッサ128は、メモリ素子130に記憶されている光学パラメータに基づいて、これらの光学歪を補正する。これらの光学パラメータは、光学シミュレーションによって、かつ/または顕微鏡システム100の製造中の測定によって決定される。
【0044】
図2は、
図1に関連して説明したマルチスペクトル顕微鏡システム100によって画像を位置合わせするための方法のフローチャートである。
【0045】
ステップS1では、第1の画像および第2の画像が、第1の検出器アレイ118および第2の検出器アレイ120によって捕捉される。対応する画像データが、プロセッサ128に送信される。ステップS2では、プロセッサ128が、メモリ素子130に記憶されている光学パラメータに基づいて、第1の画像および第2の画像における光学歪を補正する。特に、プロセッサ128は、第1の歪補正画像を生成するために第1の画像内の第1の光学歪を補正し、第2の歪補正画像を生成するために第2の画像内の第2の光学歪を補正する。その後、ステップS3において、プロセッサ128は、第1の歪補正画像および第2の歪補正画像を共通の座標系において粗位置合わせするために、メモリ素子130に記憶されている粗変換に基づいて、第1の粗画像位置合わせを実行する。ステップS4では、第1の歪補正画像と第2の歪補正画像との間の空間相関が、プロセッサ128により決定される。
【0046】
特に、空間相関は、第1の歪補正画像と第2の歪補正画像との間の位相相関であってよい。位相相関は、第1の歪補正画像と第2の歪補正画像とを関連付ける平行移動量を決定するために使用される。平行移動は、各補正画像を共通の座標系へと変換する微変換を表している。換言すれば、位相関係から決定された微調整を使用して、第1の歪補正画像および第2の歪補正画像を共通の座標系において微調整することができる。なお、空間相関はまた、任意の相互相関、相互情報、あるいは第1の画像および第2の画像および/または第1の歪補正画像および第2の歪補正画像に含まれる情報の相互依存性を測定することで得られる他の観測量であってもよい。これらの観測量から、第1の画像および第2の画像および/または第1の歪補正画像および第2の歪補正画像を共通の座標系へ変換するための複数の微変換を決定することができる。いずれの場合も、次いで、得られた微変換がメモリ素子130に記憶される。ステップS3およびS4は、任意の順序で実行されてよく、または並行して実施されてもよい。
【0047】
ステップS5では、メモリ素子130に記憶されている微変換を使用して、第1の歪補正画像と第2の歪補正画像との微位置合わせが行われる。これにより、試料102についての位置合わせされたマルチスペクトル画像が得られる。次いで、試料102の後続のマルチスペクトル画像を生成するために、ステップS1~S5が繰り返される。
【0048】
方法の後続の反復において、ステップS4は省略されてもよい。ステップS4が行われるかどうかはスケジュールによって決定することができ、すなわち、ステップS4が最後に行われてから所定の期間が経過した場合にのみ当該ステップS4が行われる。これにより、顕微鏡システム100の状態が大幅に変化してさらなる調整が必要となるインターバルが経過した場合にのみ、空間相関および微変換が計算されることが保証される。代替的にもしくは付加的に、ステップS4が行われるかどうかは、温度センサ124からのセンサ入力によって決定されてもよい。このために、微変換が決定されるたびに、センサ入力、すなわちベースプレート122および/または設置空間126の温度が、メモリ素子130に記憶される。メモリ素子130に記憶されている温度から測定された温度が大きく変化したと判定された場合にはつねに、ステップS4を行うフラグがセットされる。したがって、空間相関および微変換は、必要な場合にのみ計算される。
【0049】
上述したマルチスペクトル顕微鏡100の実施形態は2つの検出器アレイ118,120しか含んでいないが、マルチスペクトル顕微鏡システム100が任意の数の付加的な検出器アレイを含んでいてよいことに留意されたい。各付加的な検出器素子は、付加的なスペクトルチャネルにおける試料の付加的な画像を捕捉するように構成されている。同様に、この方法は、例えば、画像の対ごとにステップS2~S5を実行することにより、3つ以上の画像を位置合わせするためにも容易に適応化可能である。
【0050】
本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆる全ての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0051】
いくつかの態様を装置の文脈において説明してきたが、これらの態様が、対応する方法の説明も表していることが明らかであり、ここではブロックまたは装置がステップまたはステップの特徴に対応している。同様に、ステップの文脈において説明された態様は、対応する装置の対応するブロックまたは項目または特徴の説明も表している。
【符号の説明】
【0052】
100 顕微鏡システム
102 試料
104 光源
106 光
108 対物レンズ
110 光路
112 ビームスプリッタ装置
114,116 スペクトルチャネル
118,120 検出器素子
122 機械的接続素子
124 センサ
126 設置空間
128 プロセッサ
130 メモリ素子
【外国語明細書】