(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136132
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】躯体蓄熱空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 5/00 20060101AFI20220908BHJP
F24D 11/00 20220101ALI20220908BHJP
【FI】
F24F5/00 K
F24F5/00 102C
F24D11/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113638
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2018096208の分割
【原出願日】2018-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 満博
(72)【発明者】
【氏名】中本 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 吉章
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓司
(72)【発明者】
【氏名】村上 宏次
(72)【発明者】
【氏名】熊野 直人
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏
(72)【発明者】
【氏名】進藤 正人
(57)【要約】
【課題】システムの施工性、メンテナンス性を確保しつつ、居室内の熱負荷変動に対する追従性を向上させることができる躯体蓄熱空調システムを提供する。
【解決手段】建築物1の天井面11aを構成する上スラブ11に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システム2であって、冷温水が流れ方向に沿って流れる冷温水パイプ20と、冷温水パイプ20を流れ方向に沿って保持した状態で天井面11aに取り付けられたヒートシンク23と、ヒートシンク23が取り付けられた天井面11aに向けて気流を発生させるスポットファン24とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の天井面を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムであって、
前記熱エネルギーの媒体となる熱媒体が流れ方向に沿って流れる熱媒体配管と、
前記熱媒体配管を前記流れ方向に沿って保持した状態で前記天井面に取り付けられた熱交換部材と、
前記熱交換部材が取り付けられた前記天井面に向けて気流を発生させる送風装置と、
を備えることを特徴とする躯体蓄熱空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井面を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄熱空調システムの1つとして、熱容量の大きなコンクリートの床、壁、柱等の躯体を蓄熱材として利用した躯体蓄熱空調システムが知られている。躯体蓄熱空調システムでは、新たに蓄熱槽を設ける必要がないため、省スペース化、省コスト化を図ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、温水を循環するパイプを躯体の内部に埋め込み、パイプを介して躯体に蓄熱する躯体蓄熱構造が開示されている。また、特許文献2には、躯体の天井面に、熱交換パイプと、熱交換パイプを囲むように配置された輻射パネルとを取り付け、熱交換パイプを流れる冷温水による熱交換と、輻射パネルからの輻射熱とによって躯体に蓄熱する躯体蓄熱構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-274711号公報
【特許文献2】特許第5692603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された躯体蓄熱構造は、パイプを躯体の内部に埋め込む必要があるため、配管のメンテナンス性が悪く、施工時に配管を変形、破損させてしまう恐れもあった。
【0006】
また、特許文献2に記載された躯体蓄熱構造は、躯体に蓄熱された熱エネルギーを自然放熱で取り出し、自然放熱で取り出すだけでは空調能力が不足する場合には、冷温水の通水量を制御し、輻射パネルによる輻射熱で冷暖房を行うものであるが、空調能力を変動させる手段が、自然放熱や輻射熱を利用したものであるため、居室内の熱負荷変動に対する応答性が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するために、システムの施工性、メンテナンス性を確保しつつ、居室内の熱負荷変動に対する追従性を向上させることができる躯体蓄熱空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る躯体蓄熱空調システムは、建築物の天井面を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムであって、前記熱エネルギーの媒体となる熱媒体が流れ方向に沿って流れる熱媒体配管と、前記熱媒体配管を前記流れ方向に沿って保持した状態で前記天井面に取り付けられた熱交換部材と、前記熱交換部材が取り付けられた前記天井面に向けて気流を発生させる送風装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るパーソナル空調システムは、前記送風装置は、前記躯体に前記熱エネルギーを蓄熱する場合は停止させ、前記躯体から前記熱エネルギーを放熱する場合は稼働させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るパーソナル空調システムは、前記送風装置は、前記熱交換部材が取り付けられていない部分の天井面の下方に配置され、前記送風装置により発生させた気流は、上向きの気流であり、前記上向きの気流は、前記天井面によって横向きの気流となり、前記熱交換部材に到達することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るパーソナル空調システムは、前記熱交換部材と前記天井面との間に、前記躯体よりも熱伝導率が大きな弾性部材を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るパーソナル空調システムは、前記天井面に形成された凹部に、前記躯体よりも比熱容量が大きな潜熱蓄熱材を備え、前記熱交換部材は、前記凹部が形成された部分の前記天井面に取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る躯体蓄熱空調システムによれば、熱交換部材が、熱媒体配管を流れ方向に沿って保持した状態で天井面に取り付けられているので、躯体蓄熱空調システムが備える各部を躯体の内部に埋め込む必要がないため、システムの施工性、メンテナンス性を確保することができる。
【0014】
また、送風装置が、熱交換部材が取り付けられた天井面に向けて気流を発生させることにより、送風装置により発生させた気流が天井面に到達すると、天井面近傍の対流が促進されるため、天井面を構成する躯体から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができ、さらに、送風装置により発生させた気流が、熱交換部材に到達すると、熱交換部材の表面近傍の対流が促進されるため、熱交換部材から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができるので、居室内の熱負荷変動に対する応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る空調システム100の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の一例を示し、(a)は概略構成図、(b)は天井面における配置図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の設置例を示し、(a)は、天井面11aに対する冷温水パイプ20及びヒートシンク23の設置例、(b)は第1の設置例におけるA-A線の拡大断面図、(c)は第2の設置例におけるA-A線の拡大断面図を示す図である。
【
図4】伝熱方式の差異による蓄熱時の熱流の推移を示す図である。
【
図5】伝熱方式の差異による蓄熱率の推移を示す図である。
【
図6】伝熱方式の差異による躯体内温度分布の推移を示す図である。
【
図7】蓄熱時及び放熱時における躯体蓄熱量と冷水の積算冷熱量との推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る空調システム100の全体構成の一例を示す図である。建築物1は、上スラブ11及び下スラブ12等のコンクリートの躯体により構成されるとともに、下スラブ12の上方に床材13が敷設されている。
【0017】
建築物1は、二重床の構造を有し、下スラブ12と床材13とに間には、床下チャンバ14が形成されている。上スラブ11の下面である天井面11aと床材13との間には、居室10が形成されている。天井面11aには、複数の梁11bがワッフル状に形成されている。
【0018】
空調システム100は、躯体蓄熱空調システム2と、床吹出し空調システム3とを組み合わせて居室10の空調を行うシステムである。躯体蓄熱空調システム2は、天井面11aを構成する上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱し、その蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行うシステムである。床吹出し空調システム3は、床材13に形成され複数の給気口(図示省略)から空調空気を吹き出することにより空調を行うシステムである。なお、空調システム100は、躯体蓄熱空調システム2の単独のシステムでもよいし、躯体蓄熱空調システム2に、床吹出し空調システム3以外の他の空調システムを組み合わせてもよい。
【0019】
躯体蓄熱空調システム2は、熱エネルギーの媒体となる冷温水(熱媒体)が流れる冷温水パイプ20と、冷熱又は温熱を熱エネルギーとして供給する熱源22と、熱源22から供給された熱エネルギーを、熱交換によって冷温水パイプ20を流れる冷温水に伝える熱交換器21とを備える。熱源22は、例えば、地中熱や、電気料金が安くなる夜間や深夜の電力を利用したものである。
【0020】
床吹出し空調システム3は、空調機能を有する空調部30と、床下チャンバ14及び複数の給気口を介して居室10に連通する給気配管31と、還気口(図示省略)を介して居室10に連通する還気配管32とを備える。空調部30は、外気OAを導入し、導入した外気OAを温度調整し、給気配管31により給気SAとして床下チャンバ14及び複数の給気口を介して居室10に供給する。また、空調部30は、居室10内の空気を還気口を介して還気RAとして還気配管32により吸入し、排気EAとして外部に排出する。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の一例を示し、(a)は概略構成図、(b)は天井面における配置図である。躯体蓄熱空調システム2は、冷温水が流れ方向(
図2(a)の紙面の表裏方向)に沿って流れる冷温水パイプ20(熱媒体配管)と、冷温水パイプ20を流れ方向に沿って保持した状態で天井面11aに取り付けられたヒートシンク23(熱交換部材)と、ヒートシンク23が取り付けられた天井面11aに向けて上向きの気流を発生させるスポットファン24(送風装置)と、冷温水パイプ20に設けられたポンプの稼働状態等を制御する制御装置(図示省略)とを備える。
【0022】
ヒートシンク23は、熱伝導率が高い、例えば、アルミニウム等の金属を用いて、押出成形により長尺の部材として作製されている。ヒートシンク23は、冷温水パイプ20を流れる冷温水の熱エネルギーを、熱伝導により上スラブ11に伝える熱交換部材である。
【0023】
図2(b)に示すように、ワッフル状に形成された梁11bで囲まれた天井面11aには、中央部付近にスポットファン24が配置されているとともに、スポットファン24の周囲を囲むように、冷温水パイプ20a~20c及びヒートシンク23が配置されている。
【0024】
冷温水パイプ20は、冷温水を循環するものであり、上流部分の冷温水パイプ20aは、天井面11aから突設し、下流部分の冷温水パイプ20cは、天井面11aに埋設するように配置されている。そして、中流部分の冷温水パイプ20bは、スポットファン24の周囲4方向のそれぞれにおいて、ジグザグ状に交互に折り返した状態で天井面11aに配置されている。
【0025】
ヒートシンク23は、ジグザグ状に配置された中流部分の冷温水パイプ20bの直線部分の流れ方向を長手方向として、冷温水パイプ20bの流れ方向に沿って配置されている。
【0026】
スポットファン24は、例えば、軸流型の送風ファンであり、天井面11aから吊り下げられた状態で設置されており、天井面11aの下方から天井面11aに向けて気流を発生させる。本実施の形態では、スポットファン24は、
図2(a)に示すように、ヒートシンク23が取り付けられていない部分の天井面11aの下方に配置されており、ヒートシンク23が取り付けられていない部分の天井面11aに向けて上向きの気流を発生させる。また、スポットファン24は、制御装置により制御されて、上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱する場合は停止させ、上スラブ11から熱エネルギーを放熱する場合は稼働させる。
【0027】
スポットファン24により発生させた、天井面11aに向かう上向きの気流は、
図2(a)に示すように、天井面11aに到達すると、天井面11aによって放射状に拡散し、横向きの気流となる。そして、横向きの気流は、冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達し、さらにスポットファン24の周囲を囲む梁11bまで到達すると、下向きの気流となり、梁11bに沿って下降する。
【0028】
(躯体蓄熱空調システム2の設置例)
図3は、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の設置例を示し、(a)は、天井面11aに対する冷温水パイプ20及びヒートシンク23の設置例、(b)は第1の設置例におけるA-A線の拡大断面図、(c)は第2の設置例におけるA-A線の拡大断面図を示す図である。ヒートシンク23は、冷温水パイプ20の両側を挟み込むように保持する保持部230と、固定ボルト28Aにより天井面11aに固定される天井固定部231とを備える。
【0029】
図3(b)、(c)に示すように、保持部230は、C字状の断面形状を有する。また、天井面11aには、天井固定部231が固定される位置に、天井固定部231を固定するためのインサートやアンカーが設置されている。
【0030】
図3(b)に示す第1の設置例では、躯体蓄熱空調システム2は、ヒートシンク23と天井面11aとの間に配置された弾性部材25を備える。弾性部材25は、上スラブ11よりも熱伝導率が大きく、弾性を有する材料で形成されており、シート状の形状を有する。弾性部材25は、例えば、シリコンを材料とするシリコンゴムである。
【0031】
天井面11aに不陸がある場合には、躯体とヒートシンク23との間の空気層が生じ、躯体への熱伝導量が低下することになるが、弾性部材25が、ヒートシンク23Aと天井面11aとの間に挟まれることにより、弾性部材25が弾性を有することでヒートシンク23Aと天井面11aとの間の隙間(空気層)を小さくするとともに、弾性部材25が上スラブ11よりも熱伝導率が大きな材料で形成されていることでヒートシンク23Aと天井面11aとの間の熱伝導を促進することから、天井面11aの不陸による熱伝導量の低下を抑制することができる。
【0032】
図3(c)に示す第2の設置例では、躯体蓄熱空調システム2は、ヒートシンク23が取り付けられた部分の天井面11aに配置された潜熱蓄熱材26を備える。潜熱蓄熱材26は、例えば、PCM(Phase Change Material)と呼ばれる、上スラブ11、すなわち、コンクリートよりも比熱容量が大きな材料で形成され、天井面11aに形成された凹部11cに埋め込まれている。
【0033】
潜熱蓄熱材26は、上スラブ11よりも比熱容量が大きな材料で形成されているため、上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱する際に、熱エネルギーの放熱先である居室10に近い場所により大きな熱エネルギーを蓄熱することができるので、上スラブ11から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができる。
【0034】
(変形例)
第1の設置例と、第2の設置例とを組み合わせることにより、例えば、躯体蓄熱空調システム2が、第1の設置例における第1の設置例弾性部材25と、第2の設置例における潜熱蓄熱材26とを備えてもよい。
【0035】
天井面11aに対する冷温水パイプ20、ヒートシンク23及びスポットファン24の配置は、
図2(b)に示す配置に限られず、適宜変更してもよい。ヒートシンク23の大きさや形状は適宜変更してもよい。また、ヒートシンク23は、長手方向に複数に分割したものを並べてもよく、その際、長手方向の長さが異なるものを並べてもよい。
【0036】
スポットファン24は、天井面11aに向かって上向きの気流を発生させる代わりに、斜め上向きの気流を発生させてもよいし、スポットファン24により発生させた上向きの気流を天井面11aよって横向きの気流とすることで、スポットファン24により発生させた気流が、間接的に冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達する代わりに、スポットファン24により発生させた気流が、直接的に冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達するようにしてもよい。
【0037】
(躯体蓄熱空調システム2の熱的性能を検証するための実験について)
次に、本発明の躯体蓄熱空調システム2の熱的性能を検証するために実験を行った。以下、実験装置、実験条件及び実験結果について説明する。
【0038】
(実験装置及び実験条件)
実験装置は、発泡ポリスチレン板(100mm厚、0.028W/m/K)で作成したボックス内部に、上スラブ11を模擬したコンクリート製の試験体A(1400×1180×250mm)又は試験体B(1400×1180×150mm)を配置し、試験体A、Bの下側(居室10を模擬)と、試験体A、Bの上側(OAフロア+上階の居室10を模擬)の空間に分割した。内部空間の温度を調整するために、試験体A、Bの上側と下側にヒーターをそれぞれ設置した。
【0039】
試験体A、Bの上側には、床吹出し空調システム3を模擬した送風ファンを設置し、試験体A、Bの下側には、試験体A、Bの表面に上向きの気流を吹き付けるスポットファン24を、試験体A、Bから0.3m離れた位置に設置した。
【0040】
試験体Aは、スラブ(150mm)の下に増コン部(100mm)を設けたものであり、試験体Aの増コン部に冷温水パイプ20を埋め込んだものを「第1の伝熱方式」とする。試験体Bの下側に、ヒートシンク23及び弾性部材25(厚さ3mm、熱伝導率2.1W/m・K)を介して冷温水パイプ20を設置したものを「第2の伝熱方式」とする。
【0041】
蓄熱時の条件は、冷水温度21℃、流量1.5L/minの冷水を冷温水パイプ20に供給し、蓄熱時間は10時間とした。また、蓄熱時には、上下の空間温度が26℃になるようにヒーターを制御した。
【0042】
放熱時の条件は、3つの放熱条件を採用し、「第1の放熱条件」は自然放熱とし、「第2の放熱条件」は送風ファンを稼働させ、「第3の放熱条件」は送風ファン及びスポットファン24を稼働させた。送風ファンは、OAフロア内の気流が送風温度26℃、風量は10m3/hとなるように送風し、スポットファン24は、吹出し風速3m/sで試験体A、Bの表面に上向きの気流を吹き付けた。また、放熱時には、蓄熱時と同様に、上下の空間温度が26℃になるようにヒーターを制御した。
【0043】
(実験結果)
図4は、伝熱方式の差異による蓄熱時の熱流の推移を示す図である。
図4では、30分ごとの熱流の平均値をプロットした結果を示している。「躯体への熱流」は、30分ごとの蓄熱量の差分を時間で除した値である。「空気への熱流+躯体からの空気への再放熱」は、30分間の冷水の平均熱流(以下、冷水熱流)から「躯体への熱流」を減じた値(式(1))である。試験体A、Bは、断熱性を確保するようにしているが、実験系の外に熱流が生じている場合は、「空気への熱流+躯体から空気への再放熱」にその値が含まれることとなる。
【0044】
「第1の伝熱方式」では、冷水熱流が、「第2の伝熱方式」と比べて大きくなることが分かった。これは、空気へ対流で伝わる熱伝達率よりも、躯体内へ熱伝導で伝わる熱伝達率の方が高いことを示している。
【0045】
一方、「第2の伝熱方式」では、冷水熱流が、「第1の伝熱方式」の6割~8割程度を推移しており、実験開始直後では差が大きく、時間経過と共にその差が小さくなる傾向になった。空気温度が一定に制御されているため、このような傾向になったものと推察される。また、「第2の伝熱方式」で実験開始直後の空気への熱流が大きくなっているのは、実験開始直後に躯体近傍の空気温度が低くなることに起因しており、実験開始直後の冷水熱流が過大評価されていることも推察される。
【0046】
弾性部材25(厚み3mm、熱伝導率2.1W/m・K)の有無について、弾性部材25が有る場合では、冷水熱流や躯体への熱流が、弾性部材25が無い場合と比べて大きくなった。これは、躯体表面に不陸がある場合には、躯体表面の不陸によって躯体とヒートシンク23との間の空気層が生じ、躯体への熱伝導量が低下することになるが、弾性部材25が有ることで、躯体とヒートシンク23との間の空気層の影響を小さくすることができ、躯体表面の不陸による熱伝導量の低下を抑制することができることを示している。
【0047】
図5は、伝熱方式の差異による蓄熱率の推移を示す図である。
図5では、冷水熱流が躯体の温度変化に使われた割合を示している。10時間の蓄熱時間で、「第1の伝熱方式」は、95~50%、「第2の伝熱方式」は、80~25%程度の蓄熱率の推移を示す結果となった。
【0048】
図6は、伝熱方式の差異による躯体内温度分布の推移を示す図である。
図6では、試験体A、Bの中央部鉛直方向断面における躯体内温度分布の推移を示している。図の黒丸は、温度計測点を示しており、計測点間の空間は、通常型Krigingにより補間した。
【0049】
蓄熱時について、「第1の伝熱方式」では、冷温水パイプ20の埋設部分近傍(試験体Aの下側面から距離50mmの高さ)から躯体が冷却され、躯体深部に最も低い温度部分が生じた。これに対して、「第2の伝熱方式」では、下側の躯体表面に最も低い温度部分が生じた。
【0050】
放熱時について、「第1の伝熱方式」では、送水停止から5時間経過した状況でも躯体内に冷熱だまりが残っており、躯体の厚みが大きく、冷温水パイプ20が躯体深部にあるほど、熱エネルギーを効率よく取り出すことが難しくなることが分かった。これに対して、「第2の伝熱方式」では、下側の躯体表面に最も低い温度部分が生じていることから、気流を躯体表面に吹き付けることで、躯体から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができることが推察される。
【0051】
図7は、蓄熱時及び放熱時における躯体蓄熱量と冷水の積算冷熱量との推移を示す図である。
図7において、冷水の送水を停止した時(10時間蓄熱時)の冷水の積算冷熱量と、躯体蓄熱量との差が、上下空間に放熱された冷熱量を表しており、この差が小さいほど、躯体に蓄熱された冷熱量の割合が大きいことを示す。いずれの伝熱方式においても、実験開始直後の段階では、躯体に蓄熱された冷熱量の割合が高く、時間の経過と共に、躯体に蓄熱されることなく空気に放熱される割合が増加した。また、10時間蓄熱時の冷水の積算冷熱量に対する躯体蓄熱量としては、「第1の伝熱方式」で約70%、「第2の伝熱方式」で約50%となった。
【0052】
冷水の送水を停止した後の躯体蓄熱量の推移としては、「第2の放熱条件」では、「第1の放熱条件」と比べてほとんど差異がなかった。床吹出しの風量は、放熱に与える影響が小さかったものと考えられる。一方、「第3の放熱条件」では、躯体からの放熱量が、「第1の放熱条件」と比べて、1.2倍~1.4倍程大きく、スポットファン24により気流を躯体表面に吹き付けることで、躯体の表面近傍における対流が促進されることが分かった。したがって、蓄熱時はスポットファン24を停止させ、放熱時はスポットファン24を稼働させることで、躯体に熱エネルギーを蓄熱する際の蓄熱性能を低下させることなく、躯体から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができる。
【0053】
以上のように、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2によれば、ヒートシンク23が、冷温水パイプ20を流れ方向に沿って保持した状態で天井面11aに取り付けられているので、躯体蓄熱空調システム2が備える各部を上スラブ11に埋め込む必要がないため、システムの施工性、メンテナンス性を確保することができる。
【0054】
以上のように、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2によれば、スポットファン24が、ヒートシンク23が取り付けられた天井面11aに向けて気流を発生させることにより、スポットファン24により発生させた気流が天井面11aに到達すると、天井面11a近傍の対流が促進されるため、天井面11aを構成する上スラブ11から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができ、さらに、スポットファン24により発生させた気流が、ヒートシンク23に到達すると、ヒートシンク23の表面近傍の対流が促進されるため、ヒートシンク23から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができるので、居室10内の熱負荷変動に対する応答性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・建築物
2・・・躯体蓄熱空調システム
3・・・床吹出し空調システム
10・・・居室
11・・・上スラブ
11a・・・天井面
11b・・・梁
11c・・・凹部
12・・・下スラブ
13・・・床材
14・・・床下チャンバ
20、20a~20c・・・冷温水パイプ
21・・・熱交換器
22・・・熱源
23、23A、23B・・・ヒートシンク
24・・・スポットファン
25・・・弾性部材
26・・・潜熱蓄熱材
28A~28C・・・固定ボルト
29・・・吊り金具
30・・・空調部
31・・・給気配管
32・・・還気配管
100・・・空調システム
230・・・保持部
231・・・天井固定部
【手続補正書】
【提出日】2022-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の天井を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムであって、
前記熱エネルギーの媒体となる熱媒体が内部を流れる熱媒体配管と、
前記熱媒体配管の内部を前記熱媒体が流れる流れ方向に沿って延び、前記熱媒体配管を保持した状態とされる熱交換部材と、
前記熱交換部材と前記躯体との間に、前記躯体よりも熱伝導率が大きな弾性部材と、を備える
ことを特徴とする躯体蓄熱空調システム。
【請求項2】
前記躯体に形成された凹部に、前記躯体よりも比熱容量が大きな潜熱蓄熱材を備え、
前記熱交換部材は、前記凹部に設けられた前記潜熱蓄熱材に対して伝熱可能とされている
ことを特徴とする請求項1に記載の躯体蓄熱空調システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井面を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄熱空調システムの1つとして、熱容量の大きなコンクリートの床、壁、柱等の躯体を蓄熱材として利用した躯体蓄熱空調システムが知られている。躯体蓄熱空調システムでは、新たに蓄熱槽を設ける必要がないため、省スペース化、省コスト化を図ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、温水を循環するパイプを躯体の内部に埋め込み、パイプを介して躯体に蓄熱する躯体蓄熱構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された躯体蓄熱構造は、パイプを躯体の内部に埋め込む必要があるため、配管のメンテナンス性が悪く、施工時に配管を変形、破損させてしまう恐れもあった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するために、システムの施工性、メンテナンス性を確保することができる躯体蓄熱空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る躯体蓄熱空調システムは、建築物の天井面を構成する躯体に蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行う躯体蓄熱空調システムであって、前記熱エネルギーの媒体となる熱媒体が内部を流れる熱媒体配管と、前記熱媒体配管の内部を前記熱媒体が流れる流れ方向に沿って延び、前記熱媒体配管を保持した状態とされる熱交換部材と、前記熱交換部材と前記躯体との間に、前記躯体よりも熱伝導率が大きな弾性部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るパーソナル空調システムは、前記躯体に形成された凹部に、前記躯体よりも比熱容量が大きな潜熱蓄熱材を備え、前記熱交換部材は、前記凹部に設けられた前記潜熱蓄熱材に対して伝熱可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る躯体蓄熱空調システムによれば、熱交換部材が、熱媒体配管を流れ方向に沿って保持した状態とされるので、躯体蓄熱空調システムが備える各部を躯体の内部に埋め込む必要がないため、システムの施工性、メンテナンス性を確保することができる。
【0010】
また、弾性部材が熱交換部材と躯体との間に挟まれることにより、熱交換部材と躯体との間の隙間(空気層)を小さくなり、空気層の影響を小さくすることができるとともに、弾性部材が躯体よりも熱伝導率が大きな材料で形成されていることで熱交換部材と躯体との間の熱伝導を促進することから、躯体の不陸による熱伝導量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る空調システム100の全体構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の一例を示し、(a)は概略構成図、(b)は天井面における配置図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の設置例を示し、(a)は、天井面11aに対する冷温水パイプ20及びヒートシンク23の設置例、(b)は第1の設置例におけるA-A線の拡大断面図、(c)は第2の設置例におけるA-A線の拡大断面図を示す図である。
【
図4】伝熱方式の差異による蓄熱時の熱流の推移を示す図である。
【
図5】伝熱方式の差異による蓄熱率の推移を示す図である。
【
図6】伝熱方式の差異による躯体内温度分布の推移を示す図である。
【
図7】蓄熱時及び放熱時における躯体蓄熱量と冷水の積算冷熱量との推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る空調システム100の全体構成の一例を示す図である。建築物1は、上スラブ11及び下スラブ12等のコンクリートの躯体により構成されるとともに、下スラブ12の上方に床材13が敷設されている。
【0013】
建築物1は、二重床の構造を有し、下スラブ12と床材13とに間には、床下チャンバ14が形成されている。上スラブ11の下面である天井面11aと床材13との間には、居室10が形成されている。天井面11aには、複数の梁11bがワッフル状に形成されている。
【0014】
空調システム100は、躯体蓄熱空調システム2と、床吹出し空調システム3とを組み合わせて居室10の空調を行うシステムである。躯体蓄熱空調システム2は、天井面11aを構成する上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱し、その蓄熱した熱エネルギーを放熱することにより空調を行うシステムである。床吹出し空調システム3は、床材13に形成され複数の給気口(図示省略)から空調空気を吹き出することにより空調を行うシステムである。なお、空調システム100は、躯体蓄熱空調システム2の単独のシステムでもよいし、躯体蓄熱空調システム2に、床吹出し空調システム3以外の他の空調システムを組み合わせてもよい。
【0015】
躯体蓄熱空調システム2は、熱エネルギーの媒体となる冷温水(熱媒体)が流れる冷温水パイプ20と、冷熱又は温熱を熱エネルギーとして供給する熱源22と、熱源22から供給された熱エネルギーを、熱交換によって冷温水パイプ20を流れる冷温水に伝える熱交換器21とを備える。熱源22は、例えば、地中熱や、電気料金が安くなる夜間や深夜の電力を利用したものである。
【0016】
床吹出し空調システム3は、空調機能を有する空調部30と、床下チャンバ14及び複数の給気口を介して居室10に連通する給気配管31と、還気口(図示省略)を介して居室10に連通する還気配管32とを備える。空調部30は、外気OAを導入し、導入した外気OAを温度調整し、給気配管31により給気SAとして床下チャンバ14及び複数の給気口を介して居室10に供給する。また、空調部30は、居室10内の空気を還気口を介して還気RAとして還気配管32により吸入し、排気EAとして外部に排出する。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の一例を示し、(a)は概略構成図、(b)は天井面における配置図である。躯体蓄熱空調システム2は、冷温水が流れ方向(
図2(a)の紙面の表裏方向)に沿って流れる冷温水パイプ20(熱媒体配管)と、冷温水パイプ20を流れ方向に沿って保持した状態で天井面11aに取り付けられたヒートシンク23(熱交換部材)と、ヒートシンク23が取り付けられた天井面11aに向けて上向きの気流を発生させるスポットファン24(送風装置)と、冷温水パイプ20に設けられたポンプの稼働状態等を制御する制御装置(図示省略)とを備える。
【0018】
ヒートシンク23は、熱伝導率が高い、例えば、アルミニウム等の金属を用いて、押出成形により長尺の部材として作製されている。ヒートシンク23は、冷温水パイプ20を流れる冷温水の熱エネルギーを、熱伝導により上スラブ11に伝える熱交換部材である。
【0019】
図2(b)に示すように、ワッフル状に形成された梁11bで囲まれた天井面11aには、中央部付近にスポットファン24が配置されているとともに、スポットファン24の周囲を囲むように、冷温水パイプ20a~20c及びヒートシンク23が配置されている。
【0020】
冷温水パイプ20は、冷温水を循環するものであり、上流部分の冷温水パイプ20aは、天井面11aから突設し、下流部分の冷温水パイプ20cは、天井面11aに埋設するように配置されている。そして、中流部分の冷温水パイプ20bは、スポットファン24の周囲4方向のそれぞれにおいて、ジグザグ状に交互に折り返した状態で天井面11aに配置されている。
【0021】
ヒートシンク23は、ジグザグ状に配置された中流部分の冷温水パイプ20bの直線部分の流れ方向を長手方向として、冷温水パイプ20bの流れ方向に沿って配置されている。
【0022】
スポットファン24は、例えば、軸流型の送風ファンであり、天井面11aから吊り下げられた状態で設置されており、天井面11aの下方から天井面11aに向けて気流を発生させる。本実施の形態では、スポットファン24は、
図2(a)に示すように、ヒートシンク23が取り付けられていない部分の天井面11aの下方に配置されており、ヒートシンク23が取り付けられていない部分の天井面11aに向けて上向きの気流を発生させる。また、スポットファン24は、制御装置により制御されて、上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱する場合は停止させ、上スラブ11から熱エネルギーを放熱する場合は稼働させる。
【0023】
スポットファン24により発生させた、天井面11aに向かう上向きの気流は、
図2(a)に示すように、天井面11aに到達すると、天井面11aによって放射状に拡散し、横向きの気流となる。そして、横向きの気流は、冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達し、さらにスポットファン24の周囲を囲む梁11bまで到達すると、下向きの気流となり、梁11bに沿って下降する。
【0024】
(躯体蓄熱空調システム2の設置例)
図3は、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2の設置例を示し、(a)は、天井面11aに対する冷温水パイプ20及びヒートシンク23の設置例、(b)は第1の設置例におけるA-A線の拡大断面図、(c)は第2の設置例におけるA-A線の拡大断面図を示す図である。ヒートシンク23は、冷温水パイプ20の両側を挟み込むように保持する保持部230と、固定ボルト28Aにより天井面11aに固定される天井固定部231とを備える。
【0025】
図3(b)、(c)に示すように、保持部230は、C字状の断面形状を有する。また、天井面11aには、天井固定部231が固定される位置に、天井固定部231を固定するためのインサートやアンカーが設置されている。
【0026】
図3(b)に示す第1の設置例では、躯体蓄熱空調システム2は、ヒートシンク23と天井面11aとの間に配置された弾性部材25を備える。弾性部材25は、上スラブ11よりも熱伝導率が大きく、弾性を有する材料で形成されており、シート状の形状を有する。弾性部材25は、例えば、シリコンを材料とするシリコンゴムである。
【0027】
天井面11aに不陸がある場合には、躯体とヒートシンク23との間の空気層が生じ、躯体への熱伝導量が低下することになるが、弾性部材25が、ヒートシンク23Aと天井面11aとの間に挟まれることにより、弾性部材25が弾性を有することでヒートシンク23Aと天井面11aとの間の隙間(空気層)を小さくするとともに、弾性部材25が上スラブ11よりも熱伝導率が大きな材料で形成されていることでヒートシンク23Aと天井面11aとの間の熱伝導を促進することから、天井面11aの不陸による熱伝導量の低下を抑制することができる。
【0028】
図3(c)に示す第2の設置例では、躯体蓄熱空調システム2は、ヒートシンク23が取り付けられた部分の天井面11aに配置された潜熱蓄熱材26を備える。潜熱蓄熱材26は、例えば、PCM(Phase Change Material)と呼ばれる、上スラブ11、すなわち、コンクリートよりも比熱容量が大きな材料で形成され、天井面11aに形成された凹部11cに埋め込まれている。
【0029】
潜熱蓄熱材26は、上スラブ11よりも比熱容量が大きな材料で形成されているため、上スラブ11に熱エネルギーを蓄熱する際に、熱エネルギーの放熱先である居室10に近い場所により大きな熱エネルギーを蓄熱することができるので、上スラブ11から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができる。
【0030】
(変形例)
第1の設置例と、第2の設置例とを組み合わせることにより、例えば、躯体蓄熱空調システム2が、第1の設置例における第1の設置例弾性部材25と、第2の設置例における潜熱蓄熱材26とを備えてもよい。
【0031】
天井面11aに対する冷温水パイプ20、ヒートシンク23及びスポットファン24の配置は、
図2(b)に示す配置に限られず、適宜変更してもよい。ヒートシンク23の大きさや形状は適宜変更してもよい。また、ヒートシンク23は、長手方向に複数に分割したものを並べてもよく、その際、長手方向の長さが異なるものを並べてもよい。
【0032】
スポットファン24は、天井面11aに向かって上向きの気流を発生させる代わりに、斜め上向きの気流を発生させてもよいし、スポットファン24により発生させた上向きの気流を天井面11aよって横向きの気流とすることで、スポットファン24により発生させた気流が、間接的に冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達する代わりに、スポットファン24により発生させた気流が、直接的に冷温水パイプ20及びヒートシンク23に到達するようにしてもよい。
【0033】
(躯体蓄熱空調システム2の熱的性能を検証するための実験について)
次に、本発明の躯体蓄熱空調システム2の熱的性能を検証するために実験を行った。以下、実験装置、実験条件及び実験結果について説明する。
【0034】
(実験装置及び実験条件)
実験装置は、発泡ポリスチレン板(100mm厚、0.028W/m/K)で作成したボックス内部に、上スラブ11を模擬したコンクリート製の試験体A(1400×1180×250mm)又は試験体B(1400×1180×150mm)を配置し、試験体A、Bの下側(居室10を模擬)と、試験体A、Bの上側(OAフロア+上階の居室10を模擬)の空間に分割した。内部空間の温度を調整するために、試験体A、Bの上側と下側にヒーターをそれぞれ設置した。
【0035】
試験体A、Bの上側には、床吹出し空調システム3を模擬した送風ファンを設置し、試験体A、Bの下側には、試験体A、Bの表面に上向きの気流を吹き付けるスポットファン24を、試験体A、Bから0.3m離れた位置に設置した。
【0036】
試験体Aは、スラブ(150mm)の下に増コン部(100mm)を設けたものであり、試験体Aの増コン部に冷温水パイプ20を埋め込んだものを「第1の伝熱方式」とする。試験体Bの下側に、ヒートシンク23及び弾性部材25(厚さ3mm、熱伝導率2.1W/m・K)を介して冷温水パイプ20を設置したものを「第2の伝熱方式」とする。
【0037】
蓄熱時の条件は、冷水温度21℃、流量1.5L/minの冷水を冷温水パイプ20に供給し、蓄熱時間は10時間とした。また、蓄熱時には、上下の空間温度が26℃になるようにヒーターを制御した。
【0038】
放熱時の条件は、3つの放熱条件を採用し、「第1の放熱条件」は自然放熱とし、「第2の放熱条件」は送風ファンを稼働させ、「第3の放熱条件」は送風ファン及びスポットファン24を稼働させた。送風ファンは、OAフロア内の気流が送風温度26℃、風量は10m3/hとなるように送風し、スポットファン24は、吹出し風速3m/sで試験体A、Bの表面に上向きの気流を吹き付けた。また、放熱時には、蓄熱時と同様に、上下の空間温度が26℃になるようにヒーターを制御した。
【0039】
(実験結果)
図4は、伝熱方式の差異による蓄熱時の熱流の推移を示す図である。
図4では、30分ごとの熱流の平均値をプロットした結果を示している。「躯体への熱流」は、30分ごとの蓄熱量の差分を時間で除した値である。「空気への熱流+躯体からの空気への再放熱」は、30分間の冷水の平均熱流(以下、冷水熱流)から「躯体への熱流」を減じた値(式(1))である。試験体A、Bは、断熱性を確保するようにしているが、実験系の外に熱流が生じている場合は、「空気への熱流+躯体から空気への再放熱」にその値が含まれることとなる。
【0040】
「第1の伝熱方式」では、冷水熱流が、「第2の伝熱方式」と比べて大きくなることが分かった。これは、空気へ対流で伝わる熱伝達率よりも、躯体内へ熱伝導で伝わる熱伝達率の方が高いことを示している。
【0041】
一方、「第2の伝熱方式」では、冷水熱流が、「第1の伝熱方式」の6割~8割程度を推移しており、実験開始直後では差が大きく、時間経過と共にその差が小さくなる傾向になった。空気温度が一定に制御されているため、このような傾向になったものと推察される。また、「第2の伝熱方式」で実験開始直後の空気への熱流が大きくなっているのは、実験開始直後に躯体近傍の空気温度が低くなることに起因しており、実験開始直後の冷水熱流が過大評価されていることも推察される。
【0042】
弾性部材25(厚み3mm、熱伝導率2.1W/m・K)の有無について、弾性部材25が有る場合では、冷水熱流や躯体への熱流が、弾性部材25が無い場合と比べて大きくなった。これは、躯体表面に不陸がある場合には、躯体表面の不陸によって躯体とヒートシンク23との間の空気層が生じ、躯体への熱伝導量が低下することになるが、弾性部材25が有ることで、躯体とヒートシンク23との間の空気層の影響を小さくすることができ、躯体表面の不陸による熱伝導量の低下を抑制することができることを示している。
【0043】
図5は、伝熱方式の差異による蓄熱率の推移を示す図である。
図5では、冷水熱流が躯体の温度変化に使われた割合を示している。10時間の蓄熱時間で、「第1の伝熱方式」は、95~50%、「第2の伝熱方式」は、80~25%程度の蓄熱率の推移を示す結果となった。
【0044】
図6は、伝熱方式の差異による躯体内温度分布の推移を示す図である。
図6では、試験体A、Bの中央部鉛直方向断面における躯体内温度分布の推移を示している。図の黒丸は、温度計測点を示しており、計測点間の空間は、通常型Krigingにより補間した。
【0045】
蓄熱時について、「第1の伝熱方式」では、冷温水パイプ20の埋設部分近傍(試験体Aの下側面から距離50mmの高さ)から躯体が冷却され、躯体深部に最も低い温度部分が生じた。これに対して、「第2の伝熱方式」では、下側の躯体表面に最も低い温度部分が生じた。
【0046】
放熱時について、「第1の伝熱方式」では、送水停止から5時間経過した状況でも躯体内に冷熱だまりが残っており、躯体の厚みが大きく、冷温水パイプ20が躯体深部にあるほど、熱エネルギーを効率よく取り出すことが難しくなることが分かった。これに対して、「第2の伝熱方式」では、下側の躯体表面に最も低い温度部分が生じていることから、気流を躯体表面に吹き付けることで、躯体から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができることが推察される。
【0047】
図7は、蓄熱時及び放熱時における躯体蓄熱量と冷水の積算冷熱量との推移を示す図である。
図7において、冷水の送水を停止した時(10時間蓄熱時)の冷水の積算冷熱量と、躯体蓄熱量との差が、上下空間に放熱された冷熱量を表しており、この差が小さいほど、躯体に蓄熱された冷熱量の割合が大きいことを示す。いずれの伝熱方式においても、実験開始直後の段階では、躯体に蓄熱された冷熱量の割合が高く、時間の経過と共に、躯体に蓄熱されることなく空気に放熱される割合が増加した。また、10時間蓄熱時の冷水の積算冷熱量に対する躯体蓄熱量としては、「第1の伝熱方式」で約70%、「第2の伝熱方式」で約50%となった。
【0048】
冷水の送水を停止した後の躯体蓄熱量の推移としては、「第2の放熱条件」では、「第1の放熱条件」と比べてほとんど差異がなかった。床吹出しの風量は、放熱に与える影響が小さかったものと考えられる。一方、「第3の放熱条件」では、躯体からの放熱量が、「第1の放熱条件」と比べて、1.2倍~1.4倍程大きく、スポットファン24により気流を躯体表面に吹き付けることで、躯体の表面近傍における対流が促進されることが分かった。したがって、蓄熱時はスポットファン24を停止させ、放熱時はスポットファン24を稼働させることで、躯体に熱エネルギーを蓄熱する際の蓄熱性能を低下させることなく、躯体から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができる。
【0049】
以上のように、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2によれば、ヒートシンク23が、冷温水パイプ20を流れ方向に沿って保持した状態で天井面11aに取り付けられているので、躯体蓄熱空調システム2が備える各部を上スラブ11に埋め込む必要がないため、システムの施工性、メンテナンス性を確保することができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態に係る躯体蓄熱空調システム2によれば、スポットファン24が、ヒートシンク23が取り付けられた天井面11aに向けて気流を発生させることにより、スポットファン24により発生させた気流が天井面11aに到達すると、天井面11a近傍の対流が促進されるため、天井面11aを構成する上スラブ11から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができ、さらに、スポットファン24により発生させた気流が、ヒートシンク23に到達すると、ヒートシンク23の表面近傍の対流が促進されるため、ヒートシンク23から熱エネルギーを放熱する際の放熱性能を向上させることができるので、居室10内の熱負荷変動に対する応答性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1・・・建築物
2・・・躯体蓄熱空調システム
3・・・床吹出し空調システム
10・・・居室
11・・・上スラブ
11a・・・天井面
11b・・・梁
11c・・・凹部
12・・・下スラブ
13・・・床材
14・・・床下チャンバ
20、20a~20c・・・冷温水パイプ
21・・・熱交換器
22・・・熱源
23、23A、23B・・・ヒートシンク
24・・・スポットファン
25・・・弾性部材
26・・・潜熱蓄熱材
28A~28C・・・固定ボルト
29・・・吊り金具
30・・・空調部
31・・・給気配管
32・・・還気配管
100・・・空調システム
230・・・保持部
231・・・天井固定部