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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136140
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】人工気象室及び環境試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115263
(22)【出願日】2022-07-20
(62)【分割の表示】P 2019026319の分割
【原出願日】2019-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】細川 悟
(57)【要約】
【課題】実環境に近い気象条件を人工的に再現することが可能な人工気象室及び環境試験方法を提供する。
【解決手段】人工気象室は、被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、少なくとも水を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水及び空気のうち少なくとも水を前記ノズル機構に供給する供給機構と、前記供給機構を制御する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記供給機構を制御して前記ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、
水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、
水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、
空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、
前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記降雨運転と前記霧運転とを切り替える際には、前記降雨運転の水の圧力よりも前記霧運転の水の圧力が大きくなるように前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、人工気象室。
【請求項2】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、
水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、
水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、
空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、
前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記霧運転と前記降雪運転とを切り替える際には、前記霧運転の水の圧力よりも前記降雪運転の水の圧力が小さくなるように前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、人工気象室。
【請求項3】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、
水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、
水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、
空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、
前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構を制御して前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記降雨運転と前記降雪運転とを切り替える際には、前記降雨運転の水の圧力よりも前記降雪運転の水の圧力が大きくなるように前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、人工気象室。
【請求項4】
前記ノズル機構は、単一のノズルにより構成されており、
前記制御部は、前記少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構を制御して前記単一のノズルに供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構を制御して前記単一のノズルに供給される空気の圧力を調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載の人工気象室。
【請求項5】
前記少なくとも2つの運転の各々について、前記試験空間の温湿度、環境因子の量及び運転時間のうち少なくとも1つの運転条件を設定可能な操作設定部をさらに備えた、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工気象室。
【請求項6】
前記操作設定部は、前記降雨運転、前記降雪運転及び前記霧運転のうち少なくとも1つの運転について、前記環境因子の量の時間変化を設定可能に構成されており、
前記制御部は、設定された前記環境因子の量の時間変化に基づいて前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する、請求項5に記載の人工気象室。
【請求項7】
前記操作設定部は、前記降雨運転、前記降雪運転及び前記霧運転のうち少なくとも1つの運転について、各環境の温湿度の代表値が自動設定されるように構成されている、請求項5又は6に記載の人工気象室。
【請求項8】
前記操作設定部は、地域及び月を選択することにより、選択された地域及び月に対応する温湿度の代表値が設定されるように構成されている、請求項5~7のいずれか1項に記載の人工気象室。
【請求項9】
前記操作設定部は、前記少なくとも2つの運転を実行する順番を設定可能に構成されており、
前記制御部は、設定された前記順番に従って前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する、請求項5~8のいずれか1項に記載の人工気象室。
【請求項10】
前記少なくとも2つの運転を実行する順番を設定可能な操作設定部をさらに備え、
前記制御部は、設定された前記順番に従って前記水供給機構及び前記空気供給機構を制御する、請求項1~4のいずれか1項に記載の人工気象室。
【請求項11】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、を備えた人工気象室を用いて、前記被試験物について環境試験を行う方法であって、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構から前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記降雨運転と前記霧運転とを切り替える際には、前記降雨運転の水の圧力よりも前記霧運転の水の圧力が大きくなるように前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、環境試験方法。
【請求項12】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、を備えた人工気象室を用いて、前記被試験物について環境試験を行う方法であって、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構から前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記霧運転と前記降雪運転とを切り替える際には、前記霧運転の水の圧力よりも前記降雪運転の水の圧力が小さくなるように前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、環境試験方法。
【請求項13】
被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、水及び空気を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水の圧力を調整可能に前記ノズル機構に水を供給する水供給機構と、空気の圧力を調整可能に前記ノズル機構に空気を供給する空気供給機構と、を備えた人工気象室を用いて、前記被試験物について環境試験を行う方法であって、
前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構から前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整し、
前記降雨運転と前記降雪運転とを切り替える際には、前記降雨運転の水の圧力よりも前記降雪運転の水の圧力が大きくなるように前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整する、環境試験方法。
【請求項14】
前記少なくとも2つの運転を実行する順番を予め設定し、
設定された前記順番に従って前記少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記水供給機構から前記ノズル機構に供給される水の圧力を調整すると共に、前記空気供給機構から前記ノズル機構に供給される空気の圧力を調整する、請求項11~13のいずれか1項に記載の環境試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工気象室及び環境試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日射、降雨、降雪、霧又は気圧等の様々な気象環境下における各種製品や部品の品質、性能等を評価する環境試験に用いられる人工気象室が知られている。このような人工気象室の1つとして、特許文献1に記載されているように、試験室内において霧環境を再現することが可能な環境試験装置がある。
【0003】
特許文献1に記載された環境試験装置は、環境試験室と、当該環境試験室内に水の微粒子を噴霧する2流体ノズルと、当該環境試験室内に外気を入れるための送風機と、を備えており、水の微粒子が空気中に浮遊することにより霧環境が形成される。この装置では、2流体ノズルからの水の噴霧量及び送風機による外気の換気量を調整することにより、試験室内における霧の濃さが変わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-51823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された環境試験装置は、試験室内において霧環境を再現可能な装置であるが、雨、雪及び霧等の環境因子が移り変わる様子を再現可能なものではなかった。このため、例えば雨から雪へ移り変わる様子、雪が止んだ後に雨が降って氷結が起こる様子又は雨が止んだ後に発生する靄の様子等、実環境における気象条件を再現することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、実環境に近い気象条件を人工的に再現することが可能な人工気象室及び環境試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る人工気象室は、被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、少なくとも水を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水及び空気のうち少なくとも水を前記ノズル機構に供給する供給機構と、前記供給機構を制御する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記供給機構を制御して前記ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替える。
【0008】
この人工気象室では、ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を制御部によって切り替えることにより、降雨運転、降雪運転及び霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わる。これにより、雨、雪及び霧のうち少なくとも2つの環境因子が移り変わる様子を試験空間で再現し、実環境に近い気象条件を人工的に再現することができる。
【0009】
上記人工気象室において、前記ノズル機構は、単一のノズルにより構成されていてもよい。前記制御部は、前記少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記供給機構を制御して前記単一のノズルへの水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替えてもよい。
【0010】
この構成によれば、単一のノズルにより環境因子の移り変わりを再現可能となり、各運転の切り替え後にノズル内に水が残るのを防ぐことができる。
【0011】
上記人工気象室は、前記少なくとも2つの運転の各々について、前記試験空間の温湿度、環境因子の量及び運転時間のうち少なくとも1つの運転条件を設定可能な操作設定部をさらに備えていてもよい。
【0012】
この構成によれば、環境試験の条件を詳細に設定することができる。
【0013】
上記人工気象室において、前記操作設定部は、前記降雨運転、前記降雪運転及び前記霧運転のうち少なくとも1つの運転について、前記環境因子の量の時間変化を設定可能に構成されていてもよい。前記制御部は、設定された前記環境因子の量の時間変化に基づいて前記供給機構を制御してもよい。
【0014】
この構成によれば、環境因子の量(降雨量、視程、降雪量)を時間と共に変化させることによって、より実環境に近い気象条件を再現することができる。
【0015】
上記人工気象室において、前記操作設定部は、前記降雨運転、前記降雪運転及び前記霧運転のうち少なくとも1つの運転について、各環境の温湿度の代表値が自動設定されるように構成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、温湿度の設定値を手入力する手間を省くことができるため、環境試験を円滑に行うことができる。
【0017】
上記人工気象室において、前記操作設定部は、地域及び月を選択することにより、選択された地域及び月に対応する温湿度の代表値が設定されるように構成されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、地域及び月を選択するだけで温湿度を簡単に設定することができるため、環境試験を円滑に行うことができる。
【0019】
上記人工気象室において、前記操作設定部は、前記少なくとも2つの運転を実行する順番を設定可能に構成されていてもよい。前記制御部は、設定された前記順番に従って前記供給機構を制御してもよい。
【0020】
上記人工気象室は、前記少なくとも2つの運転を実行する順番を設定可能な操作設定部をさらに備えていてもよい。前記制御部は、設定された前記順番に従って前記供給機構を制御してもよい。
【0021】
この構成によれば、例えば雨から雪に変わる過程、雪の後に雨が降る様子、雨の後に靄が発生する様子等、所望の順番で環境因子の移り変わりを再現することができる。
【0022】
本発明の一局面に係る環境試験方法は、被試験物が配置される試験空間が形成された試験室と、少なくとも水を前記試験空間に噴出するノズル機構と、水及び空気のうち少なくとも水を前記ノズル機構に供給する供給機構と、を備えた人工気象室を用いて、前記被試験物について環境試験を行う方法である。この環境試験方法では、前記試験空間において降雨環境を再現する降雨運転、前記試験空間において降雪環境を再現する降雪運転及び前記試験空間において霧環境を再現する霧運転のうち少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記供給機構から前記ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替える。
【0023】
この環境試験方法では、ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替えることにより、降雨運転、降雪運転及び霧運転のうち少なくとも2つの運転を切り替える。これにより、雨、雪及び霧のうち少なくとも2つの環境因子が移り変わる様子を試験空間で再現し、実環境に近い気象条件を人工的に再現することができる。したがって、この環境試験方法によれば、実環境に近い気象条件下において被試験物の品質や性能等を評価することができる。
【0024】
上記環境試験方法において、前記少なくとも2つの運転を実行する順番を予め設定し、設定された前記順番に従って前記少なくとも2つの運転が切り替わるように、前記供給機構から前記ノズル機構への水及び空気のうち少なくとも水の供給条件を切り替えてもよい。
【0025】
この方法によれば、所望の順番で環境因子の移り変わりを再現することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、実環境に近い気象条件を人工的に再現することが可能な人工気象室及び環境試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態1に係る人工気象室の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る人工気象室における水供給機構及び空気供給機構の構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態1に係る人工気象室の構成を模式的に示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態1に係る人工気象室における操作表示部を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態1に係る環境試験方法を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の実施形態1に係る環境試験方法の降雨運転を説明するための模式図である。
図7】本発明の実施形態1に係る環境試験方法の霧運転を説明するための模式図である。
図8】本発明の実施形態1に係る環境試験方法の降雪運転を説明するための模式図である。
図9】本発明の実施形態1に係る環境試験方法の水抜き運転を説明するための模式図である。
図10】本発明の実施形態1に係る環境試験方法の各運転における水供給条件及び空気供給条件を示すグラフである。
図11】本発明の実施形態2に係る人工気象室における操作表示部を示す模式図である。
図12】本発明の実施形態3に係る人工気象室の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る人工気象室及び環境試験方法について詳細に説明する。
【0029】
(実施形態1)
<人工気象室>
まず、本発明の実施形態1に係る人工気象室1の構成について、図1図4を参照して説明する。人工気象室1は、試験室10内(試験空間S1)において降雨環境、降雪環境及び霧環境を連続的に切り替え可能な装置である。図1図3に示すように、人工気象室1は、試験室10と、空調室20と、空調部30と、送風機40と、ノズル機構50と、供給機構110(水供給機構60及び空気供給機構70)と、操作設定部80と、制御部90と、を主に備えている。なお、図1図3は、人工気象室1における主要な構成要素のみを示しており、人工気象室1は、これらの図に現れていない他の構成要素もさらに備え得るものである。以下、人工気象室1の各構成要素についてそれぞれ説明する。
【0030】
試験室10は、被試験物100が配置される試験空間S1が内部に形成された筐体である。図1に示すように、試験室10は、例えば直方体形状を有しており、被試験物100が設置される底壁11と、底壁11の端部から上方に立ち上がった前壁12、後壁13及び左右の側壁(図示しない)と、底壁11に対して上下方向に対向する天井壁14と、を有している。
【0031】
各壁は、例えば平面視矩形状を有しており、且つ断熱壁により構成されている。前壁12には、試験室10内への入口(図示しない)と、当該入口を開閉する扉(図示しない)と、がそれぞれ設けられている。また試験室10内には、試験空間S1の温度を測定する温度センサT1と、試験空間S1の湿度を測定する湿度センサH1と、がそれぞれ設置されている。被試験物100の種類は特に限定されないが、例えば自動車等であり、底壁11の床面11A上に設置される。
【0032】
空調室20は、空調部30及び送風機40が配置される空調空間S2が内部に形成された筐体であり、試験室10の後壁13に設けられている。図1に示すように、空調空間S2は、後壁13により試験空間S1に対して仕切られている。後壁13には、試験空間S1から空調空間S2に空調空気A1を吸い込むための吸込口22と、空調空間S2から試験空間S1に空調空気A1を吹き出すための吹出口21と、がそれぞれ設けられている。本実施形態では、吸込口22が後壁13の下部に設けられており、吹出口21が後壁13の上部に設けられているが、これらの位置は特に限定されない。また空調空間S2は、試験空間S1から離れた位置において独立して設けられていてもよい。
【0033】
空調部30は、空調空気A1の温度及び湿度を、降雨環境、降雪環境及び霧環境の各々の再現に適した温度及び湿度に調整するものである。図1に示すように、空調部30は、冷凍機31と、加湿器32と、を有している。
【0034】
冷凍機31は、蒸気圧縮冷凍サイクルを行う装置であり、冷媒が循環する冷媒回路34と、当該冷媒回路34に配置された冷却器33(蒸発器)、圧縮機、凝縮器及び膨張弁と、を有している。図1では、圧縮機、凝縮器及び膨張弁を、符号35で示す四角によって模式的に示している。
【0035】
図1に示すように、冷却器33は、空調空間S2において吸込口22よりも上方に配置されている。試験空間S1から吸込口22を通じて空調空間S2の下部に吸い込まれた空調空気A1は、吹出口21に向かって上方に流れつつ、冷却器33において冷媒と熱交換することにより温度調整(冷却)される。
【0036】
加湿器32は、空調空間S2を流れる空調空気A1を加湿するものである。図1に示すように、本実施形態における加湿器32は、蒸気発生用の水を貯留する容器36と、容器36内の水を加熱して蒸気を発生させる加湿ヒータ38と、容器36内で発生した蒸気V1を空調空間S2に供給する蒸気供給管37と、を有している。
【0037】
送風機40は、空調空気A1を試験空間S1と空調空間S2との間で循環させるためのファンである。図1に示すように、送風機40は、空調空間S2における冷却器33よりも上方の位置で吹出口21に臨むように配置されている。空調空気A1は、送風機40の吸引圧により試験空間S1から空調空間S2に吸い込まれ、空調部30によって温湿度が調整された後、送風機40により試験空間S1に吹き出される。
【0038】
ノズル機構50は、水及び空気を試験空間S1に噴出するものであり、本実施形態では単一のノズル51により構成されている。ノズル51は2流体ノズルであり、図1に示すように、試験室10の天井壁14において噴出口を下方に向けた状態で設置されている。なお、図1では、1つのノズル51のみが示されているが、試験空間S1の大きさや各環境因子の上限値(最大降雨量、最小視程、最大降雪量)等に応じて複数のノズル51が設置されてもよい。
【0039】
図2は、供給機構110の構成を示している。本実施形態における供給機構110は、水及び空気をノズル51に供給するものであり、水供給機構60と、空気供給機構70と、を有している。
【0040】
水供給機構60は、ノズル51に水W1を供給するものであり、貯水タンク61と、水供給配管62と、送水ポンプ63と、複数(3つ)の圧力調整バルブ64A,64B,64Cと、経路切替バルブ65A,65B,65Cと、流量調整バルブ66と、流量計67と、出口バルブ68と、を有している。
【0041】
貯水タンク61には、水W1が貯まっている。水供給配管62は、一端が貯水タンク61の流出口61Aに接続されていると共に、他端がノズル51の水入口52A(図1)に接続されている。図2に示すように、水供給配管62は、部位P1において複数(3つ)の分岐配管62A,62B,62Cに分岐しており、当該部位P1よりも下流側の部位P2において分岐配管62A~62Cが合流している。
【0042】
送水ポンプ63は、貯水タンク61から流出した水W1をノズル51(図1)に向かって送出するものである。送水ポンプ63は、例えば送水圧が5MPa程度の高圧ポンプであり、水供給配管62における部位P1よりも上流側に配置されている。
【0043】
圧力調整バルブ64A~64Cは、水供給配管62を流れる水W1の圧力を調整するものであり、分岐配管62A~62Cの各々に設置されている。圧力調整バルブ64A~64Cは、それぞれ圧力の調整範囲が異なるものであってバルブ径が異なり、降雨運転、降雪運転及び霧運転に応じて使い分けられる。具体的には、符号64Aのバルブが霧運転で用いられる霧用バルブであり、符号64Bのバルブが降雪運転で用いられる降雪用バルブであり、符号64Cのバルブが降雨運転で用いられる降雨用バルブである。バルブ径は、降雨用バルブ64C、降雪用バルブ64B、霧用バルブ64Aの順に小さくなる。圧力調整バルブ64A~64Cを用いて水W1の圧力を調整することにより、降雨運転、降雪運転及び霧運転の各々に応じて、ノズル51から噴出する水滴の径を調整することができる。
【0044】
分岐配管62A~62Cの各々には、圧力調整バルブ64A~64Cの下流側に経路切替バルブ65A~65Cがそれぞれ設置されている。経路切替バルブ65A~65Cは、それぞれ開閉バルブであり、これらの開閉状態を切り替えることにより、分岐配管62A(霧用分岐配管)にのみ水W1が流れる状態、分岐配管62B(降雪用分岐配管)にのみ水W1が流れる状態、及び分岐配管62C(降雨用分岐配管)にのみ水W1が流れる状態を切り替えることができる。
【0045】
流量調整バルブ66は、水供給配管62を流れる水W1の流量を調整するものであり、水供給配管62における部位P2よりも下流側に設置されている。流量調整バルブ66は、例えば3方弁であり、水W1を貯水タンク61に戻すための水戻し配管69が接続されている。
【0046】
流量計67は、水供給配管62を流れる水W1の流量を測定するセンサであり、水供給配管62において流量調整バルブ66よりも下流側で且つ出口バルブ68よりも上流側に設置されている。出口バルブ68は、開閉バルブであり、水供給配管62を通じたノズル51への水W1の供給が許容される状態と、水供給配管62を通じたノズル51への水W1の供給が阻止される状態と、を切り替える。
【0047】
空気供給機構70は、ノズル51に空気を供給するものであり、エアーコンプレッサ71と、空気供給配管72と、圧力調整バルブ73A,73B,73Cと、経路切替バルブ74A,74B,74Cと、流量調整バルブ77と、流量計76と、出口バルブ75と、を有している。
【0048】
エアーコンプレッサ71は、圧縮空気を生成する。空気供給配管72は、一端がエアーコンプレッサ71の吐出口に接続されていると共に、他端がノズル51の空気入口52B(図1)に接続されている。また水供給配管62と同様に、空気供給配管72は、部位P3において複数(3つ)の分岐配管72A,72B,72Cに分岐しており、当該部位P3よりも下流側の部位P4において分岐配管72A,72B,72Cが合流している。
【0049】
圧力調整バルブ73A~73Cは、空気供給配管72を流れる空気の圧力を調整するものであり、分岐配管72A~72Cの各々に設置されている。圧力調整バルブ73A~73Cは、降雪運転、霧運転及び水抜き運転に応じて使い分けられる。具体的に、符号73Aのバルブが霧運転で用いられる霧用バルブであり、符号73Bのバルブが降雪運転で用いられる降雪用バルブであり、符号73Cのバルブが水抜き運転で用いられる水抜き用バルブである。
【0050】
分岐配管72A~72Cの各々には、圧力調整バルブ73A~73Cの下流側に経路切替バルブ74A~74Cがそれぞれ設置されている。経路切替バルブ74A~74Cは、それぞれ開閉バルブであり、これらの開閉状態を切り替えることにより、分岐配管72A(霧用分岐配管)にのみ圧縮空気が流れる状態、分岐配管72B(降雪用分岐配管)にのみ圧縮空気が流れる状態、及び分岐配管72C(水抜き用分岐配管)にのみ圧縮空気が流れる状態を切り替えることができる。
【0051】
流量調整バルブ77は、空気供給配管72を流れる圧縮空気の流量を調整するものであり、空気供給配管72における部位P4よりも下流側に設置されている。流量計76は、空気供給配管72を流れる圧縮空気の流量を測定するセンサであり、空気供給配管72において流量調整バルブ77よりも下流側で且つ出口バルブ75よりも上流側に設置されている。出口バルブ75は、開閉バルブであり、空気供給配管72を通じたノズル51への圧縮空気の供給が許容される状態と、空気供給配管72を通じたノズル51への圧縮空気の供給が阻止される状態と、を切り替える。
【0052】
水供給配管62と空気供給配管72とは、接続配管78により互いに接続されている。具体的には、図2に示すように、接続配管78の一端が水供給配管62における出口バルブ68よりも下流側の部位P5に接続されており、当該接続配管78の他端が空気供給配管72における出口バルブ75よりも下流側の部位P6に接続されている。また接続配管78には、開閉バルブ79が設置されている。
【0053】
図3は、人工気象室1の機能的な構成を模式的に示すブロック図である。操作設定部80は、降雨運転、降雪運転及び霧運転の各々について、試験空間S1の温湿度、環境因子の量(降雨量、降雪量、視程)及び運転時間の各運転条件を設定可能であると共に、降雨運転、降雪運転及び霧運転を実行する順番を設定可能なものであり、例えばタッチパネル等の入力機器により構成されている。
【0054】
図4は、操作設定部80におけるタッチパネル画面の一例を示している。図4に示すように、雨、雪及び霧の各環境因子について、温湿度、環境因子の量(降雨量、降雪量、視程)、順番及び運転時間を設定可能なエリアが設けられている。設定された各運転条件のデータは、制御部90に送信される(図3)。
【0055】
操作設定部80は、降雨運転、降雪運転及び霧運転の各々について、各環境の温湿度の代表値が初期値(デフォルト値)として自動設定されるように構成されている。一例として、降雨運転の温湿度設定値として20℃、95%RH、降雪運転の温湿度設定値として-20℃、50%RH、霧運転の温湿度設定値として20℃、98%RHが自動設定される。なお、この自動設定機能は、本発明の人工気象室において必須ではなく、省略されてもよい。
【0056】
また操作設定部80は、地域(日本及び外国)及び月を選択することにより、選択された地域及び月に対応する温湿度の代表値が設定されるように構成されている。例えば、大阪の1月に対応する温湿度の代表値のデータが予め記憶されており、ユーザーが「大阪の1月」を選択するだけで温湿度が自動設定される。なお、この機能も本発明の人工気象室において必須ではなく、省略されてもよい。
【0057】
制御部90は、人工気象室1の各動作を制御するコントローラであり、中央演算処理装置(CPU;Central Processing Unit)により構成されている。制御部90は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の記憶部94に記憶された各種プログラムを実行することにより、水供給制御部91、空気供給制御部92及び空調制御部93として動作する。以下、これらの具体的な制御内容について説明する。
【0058】
まず、水供給制御部91には、操作設定部80で設定された降雨量、降雪量及び視程の各データが入力される。一方、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置95には、ノズル51に供給される水W1の圧力及び流量の条件(水供給条件)と各環境因子の量(降雨量、降雪量及び視程)との相関関係を示すテーブルの情報が記憶されている。ここで、降雪量は温度毎に水供給条件と相関付けられており、視程は温湿度毎に水供給条件と相関付けられている。
【0059】
水供給制御部91は、上記相関テーブルを参照することにより、設定された各環境因子の量(降雨量、降雪量又は視程)に対応する水供給条件を決定する。そして、水供給制御部91は、決定された水供給条件でノズル51に水W1が供給されるように、圧力調整バルブ64A~64C及び流量調整バルブ66の開度を制御すると共に、経路切替バルブ65A~65Cの開閉を制御する。この時、流量計67から制御部90に入力される測定値に基づいて、流量調整バルブ66の開度がフィードバック制御される。水供給制御部91は、操作設定部80で設定された順番に従って水供給機構60を制御する。
【0060】
空気供給制御部92にも、操作設定部80で設定された降雪量及び視程の各データが入力される。そして、上記相関テーブルは、ノズル51に供給される空気の圧力及び流量の条件(空気供給条件)と各環境因子の量(降雪量及び視程)との相関関係を示す情報も含んでいる。上記同様に、降雪量は温度毎に空気供給条件と相関付けられており、視程は温湿度毎に空気供給条件と相関付けられている。
【0061】
空気供給制御部92は、上記相関テーブルを参照することにより、設定された環境因子の量(降雪量又は視程)に対応する空気供給条件を決定する。そして、空気供給制御部92は、決定された空気供給条件でノズル51に圧縮空気が供給されるように、圧力調整バルブ73A~73C及び流量調整バルブ77の開度を制御すると共に、経路切替バルブ74A~74Cの開閉を制御する。この時、水供給制御部91の場合と同様に、流量計76から制御部90に入力される測定値に基づいて、流量調整バルブ77の開度がフィードバック制御される。空気供給制御部92は、操作設定部80で設定された順番に従って空気供給機構70を制御する。
【0062】
空調制御部93は、操作設定部80で設定された温度及び温度センサT1から入力される温度に基づいて、冷凍機31の出力を制御する。具体的には、温度センサT1により測定される試験空間S1の実温度が設定温度に近づくように、冷凍機31における冷媒循環量を制御する。
【0063】
また空調制御部93は、操作設定部80で設定された湿度及び湿度センサH1から入力される湿度に基づいて、加湿器32の出力を制御する。具体的には、湿度センサH1により測定される試験空間S1の実際の湿度が設定湿度に近づくように、加湿ヒータ38の出力を制御する。
【0064】
制御部90は、試験空間S1において降雨環境を再現する降雨運転、試験空間S1において降雪環境を再現する降雪運転及び試験空間S1において霧環境を再現する霧運転が連続的に切り替わるように、水供給機構60及び空気供給機構70を制御してノズル51への水及び空気の供給条件を切り替える。以下、この制御内容を、本実施形態に係る環境試験方法において具体的に説明する。
【0065】
<環境試験方法>
次に、本実施形態に係る環境試験方法を、図5に示すフローチャートに従って説明する。この環境試験方法は、上記人工気象室1を用いて被試験物100の品質や各種性能等を評価する方法であり、降雨運転、霧運転、降雪運転の順に連続的に切り替わる場合を一例として説明する。
【0066】
図6は降雨運転中のバルブの開閉状態を示し、図7は霧運転中のバルブの開閉状態を示し、図8は降雪運転中のバルブの開閉状態を示し、図9は水抜き運転中のバルブの開閉状態を示している。図6図9において、白抜きのバルブが開状態であることを示し、黒塗りのバルブが閉状態であることを示している。また図10は、各運転におけるノズル51への水供給条件(水圧、水流量)及び空気供給条件(空気圧、空気流量)を示すグラフであり、上から順に、ノズル51に供給される水W1の圧力、ノズル51に供給される水W1の流量、ノズル51に供給される空気の圧力、ノズル51に供給される空気の流量をそれぞれ示している。
【0067】
まず、図1に示すように、被試験物100を試験室10内に設置する(ステップS10)。このステップS10では、試験室10の前壁12に設けられた入口(図示しない)から、自動車等の被試験物100を試験空間S1に入れる。
【0068】
次に、人工気象室1の運転モードを選択すると共に、各運転モードにおける運転条件を設定する(ステップS20)。具体的には、図4に示すように、操作設定部80のタッチパネル画面上で、各運転モードにおける温湿度の設定値(℃、%RH)、降雨量(mm/h)、視程(m)、降雪量(mm/h)、各運転を実行する順番及び各モードの運転時間(h)をそれぞれ設定する。本実施形態では、1番目が降雨運転、2番目が霧運転、3番目が降雪運転のように、実行順番を設定する。
【0069】
人工気象室1の運転を開始すると、まず、降雨運転が開始する(ステップS30)。このステップS30では、空調部30により試験空間S1の温湿度が降雨運転の設定値(例えば20℃、95%RH)に制御されると共に、図6に示すように、経路切替バルブ65A,65B及び出口バルブ75が閉状態で且つ他のバルブが全て開状態とされる。これにより、図6中の破線矢印で示すように、貯水タンク61から流出した水W1が、降雨用分岐配管62Cを含む経路を通じてノズル51に供給される。また一部の水W1は、部位P5から接続配管78に流入し、部位P6から空気供給配管72に流入した後、ノズル51に供給される。なお、開閉バルブ79を開状態とする目的は降雨量を確保することであるが、開閉バルブ79を閉状態としてもよい。
【0070】
図10に示すように、ノズル51に供給される水W1の圧力は、圧力調整バルブ64C(降雨用バルブ)によりPW1に制御され、ノズル51に供給される水W1の流量は、流量調整バルブ66によりVW1に制御される。なお、水圧PW1及び水流量VW1の値は、それぞれ降雨量の設定値と相関付けられた値である。
【0071】
これにより、温湿度が制御された試験空間S1に向けてノズル51から水W1が噴出し、水W1が床面11Aに向かって落下することにより、試験空間S1において降雨環境が再現される。そして、設定された運転時間が経過すると(ステップS40、YES)、以下のようにして降雨運転から霧運転に連続的に切り替わる(ステップS50)。
【0072】
具体的には、空調部30により試験空間S1の温湿度が霧運転の設定値(例えば、20℃、98%RH)に制御され(加湿器32の出力を上げる)、バルブの開閉状態が図6の状態から図7の状態(経路切替バルブ65B,65C、出口バルブ75及び開閉バルブ79が閉状態で且つ他のバルブが全て開状態)に切り替わると共に、流量調整バルブ66の開度が降雨運転時よりも絞られる。
【0073】
これにより、図7中の破線矢印で示すように、貯水タンク61から流出した水W1が、霧用分岐配管62Aを含む経路を通じてノズル51に供給される。この結果、図10に示すように、ノズル51に供給される水W1の圧力は、圧力調整バルブ64A(霧用バルブ)によって調整されることにより、PW1から当該PW1よりも大きいPW2に切り替わる。またノズル51に供給される水W1の流量は、流量調整バルブ66によって調整されることにより、VW1から当該VW1よりも小さいVW2に切り替わる。なお、水圧PW2及び水流量VW2は、それぞれ視程の設定値と相関付けられた値である。
【0074】
これにより、温湿度が制御された試験空間S1に向けて微粒化された水W1がノズル51から噴霧され、当該水W1の微粒子が試験空間S1を漂うことにより霧環境が再現される。そして、設定された運転時間が経過すると(ステップS60、YES)、霧運転から降雪運転に連続的に切り替わる(ステップS70)。
【0075】
具体的には、空調部30により試験空間S1の温湿度が降雪運転の設定値(-20℃、50%RH)に制御され、バルブの開閉状態が、図7の状態から図8の状態(経路切替バルブ65A,65C,74A,74C及び開閉バルブ79が閉状態で且つ他のバルブが全て開状態)に切り替わる。これにより、図8中の破線矢印で示すように、貯水タンク61から流出した水W1が、降雪用分岐配管62Bを含む経路を通じてノズル51に供給されると共に、同図中の一点鎖線の矢印で示すように、エアーコンプレッサ71で生成した圧縮空気が、降雪用分岐配管72Bを含む経路を通じてノズル51に供給される。降雪運転では、試験空間S1において水W1を凍結させるのに水W1を微粒化する必要があるため、水W1及び圧縮空気の両方をノズル51に供給する。
【0076】
この結果、図10に示すように、ノズル51に供給される水W1の圧力は、圧力調整バルブ64B(降雪用バルブ)によって調整されることにより、PW1よりも大きく且つPW2よりも小さいPW3に切り替わる。またノズル51に供給される水W1の流量は、VW2のまま維持される。一方、ノズル51に供給される空気の圧力は、圧力調整バルブ73BによりPA1に制御され、当該空気の流量は、流量調整弁77によりVA1に制御される。
【0077】
これにより、氷点下の試験空間S1に向けて微粒化された水W1がノズル51から噴霧され、当該水W1が試験空間S1で凍結することにより人工雪が形成され、試験空間S1において降雪環境が再現される。そして、設定された運転時間が経過すると(ステップS80、YES)、降雪運転から水抜き運転に切り替わる(ステップS90)。
【0078】
具体的には、バルブの開閉状態が、図8の状態から図9の状態(出口バルブ68及び経路切替バルブ74A,74Bが閉状態で且つ他のバルブが全て開いた状態)に切り替わる。これにより、エアーコンプレッサ71で生成した圧縮空気が、水抜き用分岐配管72Cを含む経路を通じてノズル51に供給される。この時、ノズル51に供給される空気の圧力は、圧力調整バルブ73CによりPA1よりも高いPA2に調整される。また一部の圧縮空気が、部位P6から接続配管78に流入し、部位P5から水供給配管62に流入した後ノズル51に供給される。これにより、ノズル51内に残った水W1が凍結するのを防ぐことができる。以上のようにして、本実施形態に係る環境試験方法が実施される。なお、試験室10内の温度を氷点下まで下げない人工気象室においては、水抜き専用の回路が省略され、水抜き運転を実行しない構成となっていてもよい。
【0079】
以上の通り、本実施形態では、降雨運転、降雪運転及び霧運転が連続的に切り替わるように、供給機構110(水供給機構60及び空気供給機構70)からノズル機構50(単一のノズル51)への水W1及び空気の供給条件を切り替える。これにより、雨、雪及び霧の各環境因子が連続的に移り変わる様子を試験空間S1において再現することが可能になり、実環境に近い気象条件の下で環境試験を行うことができる。
【0080】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る人工気象室について説明する。実施形態2に係る人工気象室は、基本的に上記実施形態1に係る人工気象室1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、操作設定部80において各環境因子の量(降雨量、視程、降雪量)の時間変化を設定可能である点で上記実施形態1に係る人工気象室1とは異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0081】
図11は、実施形態2における操作設定部80のタッチパネル画面の一例を示している。実施形態2における操作表示部80は、降雨運転、霧運転及び降雪運転の各々について、環境因子の量(降雨量、視程及び降雪量)の時間変化を設定可能に構成されている。すなわち、本実施形態に係る操作表示部80は、図4の定常設定画面に加えて、図11の非定常設定画面を表示可能となっている。具体的に、図4の画面に表示された「非定常設定」の部分にタッチすることにより、図11の設定画面に移行できる。
【0082】
図11に示すように、非定常設定画面では、各環境因子の量(降雨量、視程、降雪量)の初期値、終了値及び時間をそれぞれ設定することができる。具体的に、図11の例では、0.1時間の間に降雨量が0から100mm/hまで増加し、0.5時間の間降雨量が100mm/hに維持され、0.1時間の間に降雨量が100から50mm/hに減少し、その後0.5時間の間に降雨量が50から0mm/hに減少するように、降雨運転の条件をプログラム設定することができる。また霧運転について、1時間の間に視程が0から100mに増加し、1時間の間視程が100mに維持され、1時間の間に視程が100から500mに増加し、その後2時間の間に視程が500から0mに減少するように、運転条件をプログラム設定することができる。また降雪運転について、0.5時間の間に降雪量が0から30mm/hに増加し、1時間の間に降雪量が30から40mm/hに増加し、0.5時間の間に降雪量が40から30mm/hに減少し、その後0.1時間の間に降雪量が30から0mm/hに減少するように、運転条件をプログラム設定することができる。そして、制御部90は、操作設定部80で設定された環境因子の量の時間変化に基づいて、上記実施形態1と同様に水供給機構60及び空気供給機構70を制御する。
【0083】
本実施形態に係る人工気象室によれば、各環境因子の量(降雨量、視程、降雪量)を時間と共に変化させることによって、より実環境に近い気象条件を試験空間S1において再現することができる。なお、各環境因子を変化させる態様は特に限定されず、例えば線形的に時間変化させてもよいし、ステップ状に時間変化させてもよい。
【0084】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係る人工気象室1Aについて、図12を参照して説明する。実施形態3に係る人工気象室1Aは、基本的に上記実施形態1に係る人工気象室1と同様の構成を備え且つ同様の効果を奏するものであるが、ノズル機構50が複数のノズル53,54,55により構成されている点で上記実施形態1に係る人工気象室1とは異なっている。以下、上記実施形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0085】
図12は、実施形態3に係る人工気象室1Aにおけるノズル機構50、水供給機構60及び空気供給機構70の構成をそれぞれ示している。なお、図12中において、上記実施形態1で説明した構成要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0086】
図12に示すように、ノズル機構50は、降雨用ノズル53、降雪用ノズル54及び霧用ノズル55により構成されている。そして、当該ノズル機構50(1組の降雨用ノズル53、降雪用ノズル54及び霧用ノズル55)が、試験室10の天井壁14に複数設置されている。
【0087】
水供給機構60は、上記実施形態1と同様に3つの分岐配管62A~62Cを有しており、各分岐配管62A~62Cが合流することなく霧用ノズル55、降雪用ノズル54及び降雨用ノズル53の水入口にそれぞれ接続されている。また空気供給機構70は、2つの分岐配管72A,72Bを有しており、各分岐配管72A,72Bが合流することなく霧用ノズル55及び降雪用ノズル54にそれぞれ接続されている。
【0088】
このように、実施形態3に係る人工気象室1Aは、雨、雪及び霧のそれぞれに対応した専用のノズルを備えるものであるが、上記実施形態1と同様にバルブの開閉を制御部90によって切り替えることにより、降雨運転、霧運転、降雪運転の順に連続的に運転を切り替えることができる。なお、空気供給機構70が、降雨用ノズル53の水入口に接続された分岐配管をさらに有していてもよい。この場合、当該分岐配管を通じてエアーコンプレッサ71から降雨用ノズル53に圧縮空気を供給することにより、降雨用ノズル53の水抜き運転を行うことができる。
【0089】
(その他実施形態)
ここで、本発明のその他実施形態について説明する。
【0090】
上記実施形態1では、降雨運転、霧運転、降雪運転の順に運転を連続的に切り替える場合を一例として説明したが、各運転を実行する順番はこれに限定されない。例えば、降雨運転、降雪運転、霧運転の順番でもよいし、霧運転、降雨運転、降雪運転の順番でもよいし、霧運転、降雪運転、降雨運転の順番でもよいし、降雪運転、降雨運転、霧運転の順番でもよいし、降雪運転、霧運転、降雨運転の順番でもよい。また降雨運転、霧運転及び降雪運転がそれぞれ1回ずつ実行される場合にも限定されず、これらの運転のうち少なくとも1つの運転が2回以上実行されてもよい。また複数の運転を連続的に切り替えるものにも限定されず、各運転が時間間隔を空けて順に実行されてもよい。
【0091】
上記実施形態1では、降雨運転、霧運転及び降雪運転の全ての運転を実行する場合について説明したが、これらの運転のうち2つの運転のみを実行してもよい。すなわち、降雨運転と霧運転との間でのみ連続的な切り替えが可能であってもよいし、降雨運転と降雪運転との間でのみ連続的な切り替えが可能であってもよいし、降雪運転と霧運転との間でのみ連続的な切り替えが可能であってもよい。またこれら2つの運転を連続的に切り替えるものに限定されず、各運転が時間間隔を空けて順に実行されてもよい。
【0092】
ここで、図10に示したように、降雨運転及び霧運転は、いずれも、ノズル51に圧縮空気を供給せず、水W1のみを供給することにより実行可能である。したがって、降雨運転と霧運転との間でのみ切り替え可能な人工気象室においては、ノズル51が1流体ノズルであり且つ供給機構110が水供給機構60のみ有していてもよい(空気供給機構70を含まない)。
【0093】
上記実施形態1では、操作設定部80の一例としてタッチパネルを説明したがこれに限定されず、例えば、パーソナルコンピュータのキーボードやマウスにより各運転条件を入力可能となっており、図4及び図11の画面がパーソナルコンピュータのディスプレイ上に表示されてもよい。
【0094】
上記実施形態1では、霧運転時においてノズル51に圧縮空気を供給しない場合について説明したが、ノズル51に圧縮空気を供給してもよい。この場合、図7に示すバルブ開閉状態からの変更点として、経路切替バルブ74B,74Cが閉じられると共に出口バルブ75が開かれる。これにより、ノズル51から噴霧される水滴がより微粒化され、霧環境をより再現し易くなる。
【0095】
上記実施形態1では、ノズル51への水供給条件と霧運転時の視程との相関関係を示すテーブルを用いて水供給機構60を制御する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、試験空間S1内の視程を測定する視程計を配置し、その測定結果が視程の設定値に近づくように水供給機構60をフィードバック制御してもよい。
【0096】
水供給機構60は、霧用回路、降雪用回路及び降雨用回路をそれぞれ分けて構成しているものに限定されず、また空気供給機構70は、霧用回路、降雪用回路及び水抜き用回路をそれぞれ分けて構成しているものに限定されない。例えば、水供給機構60は、1つの回路によって霧運転、降雪運転及び降雨運転を切り替えるように構成されていてもよいし、2つの回路でこれらの運転を切り替えるように構成されていてもよい。また空気供給機構70は、1つの回路によって霧運転、降雪運転及び水抜き運転を切り替えるように構成されていてもよいし、2つの回路によってこれらの運転を切り替えるように構成されていてもよい。
【0097】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
1,1A 人工気象室
10 試験室
50 ノズル機構
51 ノズル
60 水供給機構
70 空気供給機構
80 操作設定部
90 制御部
100 被試験物
110 供給機構
S1 試験空間
W1 水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12