(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136227
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/505 20060101AFI20220908BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C23C16/505
H05H1/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022119409
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】303034908
【氏名又は名称】村田 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田正義
(57)【要約】
【課題】
プラズマCVD装置は、液晶デイスプレイや有機ELデイスプレイ等の製造に活用されているが、一対の電極間に定在波が発生するので、例えば2mx2mの大面積基板への応用等では膜厚みが不均一になるという問題がある。VHFプラズマCVD装置では、例えば1mx1m基板で問題になる。この問題を解決可能なプラズマCVD装置を提供すること。
【解決手段】
非接地電極の一方の端部に設けた複数の第1給電点と、他方の端部に設けた複数の第2の給電点に位相差が一次関数的に移相する第1電力と第2電力を供給して、発生するプラズマを一方向へ移動させることにより、前記プラズマ分布の平均化を可能とし、その結果、膜厚み分布の一様化を可能としたことを特徴とするプラズマCVD装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置され、且つ互いに対向して設置された非接地電極と基板が載置される接地電極から成る一対の電極と、前記一対の電極の間に原料ガスを導入する原料ガス導入手段と、前記非接地電極の互いに対向する一方の端部に設けられた複数の第1給電点及び他方の端部に設けられた複数の第2給電点にそれぞれ第1電力及び第2電力を供給する高周波電力供給手段と、を備え、
前記一対の電極に挟まれたプラズマ生成領域で前記原料ガスをプラズマ化し前記基板に薄膜を形成するプラズマCVD装置において、
前記高周波電力供給手段は、前記複数の第1給電点に前記第1電力を供給する第1系統線路と、前記複数の第2給電点に前記第2電力を供給する第2系統線路と、前記第1電力及び前記第2電力の電圧の位相差を制御する移相器を備え、
前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧の位相が前記第2系統線路の出力部の電圧の位相に対して、一定の速度で遅れ続けるように、又は一定の速度で進み続けるように前者の位相と後者の位相を制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を、0°から360°までを1周期として一定の速度で繰り返し移相する、又は0°からマイナス360°までを1周期として一定の速度で繰り返し移相することを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を0°から180°まで、ランプ波の形態で繰り返し移相する、又は0°からマイナス180°まで、ランプ波の形態で繰り返し移相することを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を1周期略1μ秒~1m秒で繰り返し移相することを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記複数の第1給電点の隣り合う間隔は、前記第1電力の電圧の波長の八分の一以下になるように配置され、且つ前記複数の第2給電点の隣り合う間隔は前記第2電力の電圧の波長の八分の一以下になるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記第1給電点及び前記第2給電点は、前記非接地電極の前記接地電極と対向しない面の端部又は前記非接地電極の側面又は前記接地電極と対向する面の端部に設けられることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のプラズマCVD装置。
【請求項7】
前記高周波電力供給手段は、2出力位相可変発信器と、分配器と、電力増幅器と、整合器と、を備えていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載のプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記高周波電力供給手段が発生する電力の周波数は、13.56MHz又は30MHz~300MHzのVHF帯域から選ばれる周波数であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一つに記載のプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記原料ガスは、少なくともシランガス又は有機シランガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一つに記載のプラズマCVD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを利用して基板の表面に各種薄膜を形成する大面積プラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合型(SHJ型)太陽電池、液晶デイスプレイ用TFT、有機EL及び各種半導体デバイス等における光電変換膜、絶縁膜、パッシベーション膜あるいはバリア膜等の形成には、プラズマCVD装置が活用されている。一般に実用化されているプラズマCVD装置は、基板を保持することが可能な電気的に接地された接地電極と、該接地電極と対向するように配置された電気的に非接地の非接地電極とを備えた平行平板型電極を備えている。
従来の平行平板型電極を用いた高周波プラズマCVD装置は、一対の電極間の電界が供給される高周波電力波の干渉現象によって形成される定在波の影響により非一様となり、形成される薄膜の厚み分布が非一様になる。その結果、電力波の波長と同じような長さの基板を対象にした、例えば、超大面積の液晶デイスプレイ及び有機ELデイスプレイ等では超大画面製品の製造が困難である。また、小面積の製品製造では、プラズマCVD装置で一度に製造できる基板の枚数が増大できないことから、製造コストの低減化が困難である。
平行平板型電極を用いた高周波プラズマの生成における定在波の発生メカニズム及びその特性等に関し、例えば、非特許文献1ないし非特許文献3に記載されているように、一般に知られている。
従来の平行平板型電極を用いたプラズマCVD装置の実用機が抱える問題点に関し、例えば、特許文献1に、従来のプラズマCVD装置に用いられる高周波電圧の印加方法では、成膜ガスを均一にプラズマ化することが原理的に困難であり、これは高周波特有の定在波の問題である、ということが記載されている。また、例えば、特許文献2に、基板サイズが、少なくとも約1300mmx約1500mm(または約2.0m2)であると、大面積プラズマエンハンスド化学蒸着(PECVD)は、フィルム厚さ均一性及びフィルム特性均一性に問題が多くなってくる、ということが記載されている。
【0003】
プラズマCVD装置における定在波に起因する膜厚み分布の不均一性の問題を解決する方法(アイデイア)は、これまで、いくつか提案されている。大まかに分類すると、
次に示す3つに分けられる。なお、以下に示す数式は高周波電力波の伝搬を一次元的に表現している。
(1) 位相変調法:例えば、特許文献3に開示された方法である。この方法は、互い
に対向する電極端面に設けられた、例えば、対向する2つの給電点から連続波の高周波電力W1(x、t)とW2(x、t)を供給して、該高周波電力W1(x、t)とW2(x、t)の位相差Δθを時間的に変調させる方法である。原理的には、下記式(1)のΔθを時間的に変化させる、例えば、Δθ=sin(Ωt)で変動させるものである。ただし、Ωは角周波数である。
W1(x、t)=Asin{ωt+2πx/λ+θ1}
W2(x、t)=Asin{ωt-2πx/λ+θ2}
ただし、Aは振幅、ωは角周波数、xは電極端面からの伝搬距離、λは電力波の波長、tは時間、θ1、θ2は位相である。
一対の電極間の電力の強さは、下記式(1)で表されるI(x)の分布となる。 II(x)∝cos2{2π(x-L0/2)/λ-Δθ/2} ・・・(1)
ただし、L0は一対の電極の長さ、Δθ=θ1―θ2である。
この方法は、プラズマが時間的にxのプラス方向とマイナス方向へ交互に変動し、その結果、時間的に平均化されるので、プラズマの強さの分布が均一化される。なお、式(1)で表されるプラズマの強さの分布は、Δθを変動しなければ、時間的に不変である。
(2) 定在波重畳法:例えば、特許文献4及び特許文献5に開示された方法である。
この方法は、互いに対向する電極端面に設けられた少なくとも対向する2つの給電点から第1の時間帯にパルス電力W11(x、t)とパルスW12(x、t)を供給して第1の定在波を生成し、前記第1の時間帯と異なる第2の時間帯にパルス電力W21(x、t)とパルスW22(x、t)を供給して第2の定在波を生成し、その2つの定在波を重畳させることを特徴とする。即ち、上記2つのパルス波電力を時間的に交互に供給して重畳させる方法である。
この方法は、電力W11(x、t)とW12(x、t)により、
I1(x、t)∝cos2{2π(x-L0/2)/λ-Δθ/2}
を生成し、パルス波の電力W21(x、t)とW22(x、t)により、
I2(x、t)∝sin2{2π(x-L0/2)/λ-Δθ/2}
を生成する。発生時間が異なる2つの定在波を重畳することにより、一定値のプラズマ強度分布を形成する。
I(x、t)∝cos2{2π(x-L0/2)/λ-Δθ/2}
+sin2{2π(x-L0/2)/λ-Δθ/2}=1 ・・・(2)
この方法は、2つの定在波を重畳することにより、空間分布が一様なプラズマ強度分布が形成される。
(3)位相調整法:例えば、特許文献1に開示された方法である。この方法は、矩形電極の中央点から等距離の位置にある複数の位置に給電点を設けて、且つ前記複数の給電点に供給される電力波の位相を調整する。結果として、各給電点には周波数が等しく、互いに位相がずらされた高周波電圧が入力されることになる。
【0004】
特許文献1には次のことが記載されている。即ち、真空槽と、前記真空槽内部に配置された基板ホルダと、前記基板ホルダと対向する位置に配置された中空のシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドに電圧を印加する電源装置とを有し、 前記シャワーヘッドは、容器状のヘッド本体と、前記ヘッド本体の開口を覆い、前記中空を形成する一枚のシャワープレートとを有し、前記シャワープレートが前記基板ホルダに向けられ、前記シャワープレートには複数の放出口が設けられ、前記シャワーヘッドの内部に成膜ガスを供給し、前記放出口から前記成膜ガスを放出しながら、前記シャワーヘッドに電圧を印加すると、前記成膜ガスがプラズマ化され、プラズマ化した前記成膜ガスが前記基板ホルダに吹き付けられるように構成されたプラズマCVD装置であって、
前記電源装置を複数個有し、各前記電源装置には位相制御装置が接続され、前記位相制御装置は、各前記電源装置が出力する高周波電圧の位相をそれぞれ制御するように構成され、 各前記電源装置は、前記ヘッド本体の底面に中心から等距離で異なる位置に配置された給電点にそれぞれ接続され、各前記電源装置から前記給電点にそれぞれ供給された高周波電圧は、前記シャワープレートにそれぞれ電送され、前記シャワープレートをカソードにして放電が生じるように構成されたプラズマCVD装置。
特許文献3には次のことが記載されている。即ち、単一の保持電極に保持された被処理基板と単一の放電電極とを放電容器内に離間させて対面配置し、該放電電極と被処理基板との間に実質的に均一な放電状態を広範囲に発生させる放電電極への給電方法であって、
前記放電電極に複数の給電点を介して給電する際に、1つの給電点に供給される前記高周波電力の電圧波形の位相と、他の少なくとも1つの給電点に供給される前記高周波電力の電圧波形の位相との差を時間的に変化させることにより、前記放電電極内に生じる電圧分布を変化させ、これにより該電圧分布の単位時間当りの平均値または単位時間当りの積分値を実質的に均一なものとし、前記放電電極の電圧分布における定在波の発生を抑制することを特徴とする放電電極への給電方法。
【0005】
特許文献4には次のことが記載されている。即ち、発振周波数がVHF帯域ないしUHF帯域に属する高周波電源の出力の電力を用いて生成されるプラズマを利用して真空容器に配置された基板の表面を処理する表面処理装置に用いられる高周波プラズマ発生装置において、前記基板の表面の法線方向と実質的に同じ方向の電界を有する電磁波の定在波の腹の位置が異なる第1の定在波と第2の定在波を発生させ、かつ、該第1及び第2の定在波を重畳させる手段を備えたことを特徴とする高周波プラズマ発生装置。
特許文献5には次のことが記載されている。即ち、 互いに対向して設置された非接地電極と接地電極から成る少なくとも一対の電極と、 前記非接地電極に設けられた複数の給電点から前記非接地電極に高周波電力を供給するための電力供給手段とを備え、前記非接地電極と前記接地電極に挟まれたプラズマ生成領域でプラズマを発生させる高周波プラズマ発生装置において、前記複数の給電点は、前記非接地電極の上下面における中心を通る線に対して互いに対称となるように、前記非接地電極の接地電極と対向しない面の端部もしくは前記非接地電極の側面に設けられており、
前記電力供給手段は、前記非接地電極の複数の給電点の位相を揃える同相状態と、前記複数の給電点を二分したそれぞれの給電点での位相を反転させる逆相状態の少なくとも2つの状態を切り替えて高周波電力を供給ことを特徴とする高周波プラズマ発生装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4404303
【特許文献2】特許5506379
【特許文献3】特許3316490
【特許文献4】特開2005-123654
【特許文献5】特許5489803
【0007】
【非特許文献1】M. A. Lieberman, J. P. Booth, P. Chabert, J. M. Rax and M.M .Turner, Standing wave and skin effects in large-area, high-frequency capacitive discharge ,PLASMA SOURCES SCIENCE AND TECHNOLOGY, 11 (2002) ,283-293
【非特許文献2】A. Perret, P. Chabert, J.-P. Booth, J. Jolly, J. Guillon, and Ph. Auvray,Ion flux nonuniformities in large-area high-frequency capacitive discharges, APPLIED PHYSICS LETTERS, VOLUME 83, NUMBER 2, 14 July 2003,243-246
【非特許文献3】H. Kaneko, A. Kodera, Y. Soejima, S. Tsuji, M. Murata, Production of VHF excited H2 Plasma by New Method of Superposing the Standing Waves, Plasma Processes and Polymers, 2009,6, s269-s272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の装置では次に示す問題がある。特許文献1に記載の装置は、矩形電極の中央点から等距離の位置にある複数の位置に給電点を設けて、且つ前記複数の給電点に供給される電力波の位相を調整するので、前記矩形電極の中央点の方向へ伝搬する複数の電力波の干渉で生じる定在波となり、同心円的な強さの分布を持つ電界分布となる。しかも、各給電点に供給される電力の電圧の位相は時間的に固定されていることから、一様な電界分布を得るのは困難である。
特許文献3に記載の方法及び装置は、複数給電点に供給される電力の電圧の位相差を時間的に変動させることにより、プラズマの強さの分布を時間的に平均させる効果を期待しているがその効果は大きいものではない、という問題を抱えている。なお、特許文献3に記載の方法により、基板面積1.4mx1.1mにおいて、膜厚み分布±17%程度が得られたというデータは知られている。
また、特許文献3には、次の方法が記載されている。即ち、予め、例えば、位相差0°、45°、90°、135°での膜厚み分布を測定し、そのデータを基に均一分布を達成するために必要な各位相差における製膜時間の割合をコンピュータで計算し、その計算結果の情報を使って、上記選ばれた複数の位相値における複数のプラズマ分布を重畳させる、という方法である。この方法は、一対の電極間に発生する定在波の各種パターンを予め測定し、そのパターンを重畳させることにより、空間的に平均化操作を行うというアイデイアであるが、プラズマの均一化への効果は不明であるという問題がある。
特許文献4に記載の装置は、2つの定在波を時間的に交互に生成し、cos2{2πx/λ}+sin2{2πx/λ}=1というプラズマ分布の均一化の効果を期待したものである。本装置はパルス変調された電力を用いることから、該パルス電力の立ち上がり毎に発生する高電子温度のプラズマが生成されるので、イオンダメージが強くなるという問題を抱えている。パルス変調プラズマ方式はその応用が限定されるとういう問題がある。
特許文献5に記載の装置は、特許文献4に記載の装置と同様に2つの定在波を時間的に交互に生成し、cos2{2πx/λ}+sin2{2πx/λ}=1というプラズマ分布の均一化の効果を期待したものである。本装置はパルス変調された電力を用いることから、該パルス電力の立ち上がり毎に発生する高電子温度のプラズマが生成されるので、イオンダメージが強くなるという問題を抱えている。パルス変調プラズマ方式はその応用が限定されるとういう問題がある。
上記従来のプラズマCVD装置では、基板サイズとして、例えば、約1300mmx約1500mm(または約2.0m2)以上の大面積基板を対象とする場合、均一な膜の形成が困難であるという課題がある。
上記のような課題を鑑みて、本発明は、上記課題を解消可能なプラズマを用いた薄膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、排気系を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置され、且つ互いに対向して設置された非接地電極と基板が載置される接地電極から成る一対の電極と、前記一対の電極の間に原料ガスを導入する原料ガス導入手段と、前記非接地電極の互いに対向する一方の端部に設けられた複数の第1給電点及び他方の端部に設けられた複数の第2給電点にそれぞれ第1電力及び第2電力を供給する高周波電力供給手段と、を備え、
前記一対の電極に挟まれたプラズマ生成領域で前記原料ガスをプラズマ化し前記基板に薄膜を形成するプラズマCVD装置において、
前記高周波電力供給手段は、前記複数の第1給電点に前記第1電力を供給する第1系統線路と、前記複数の第2給電点に前記第2電力を供給する第2系統線路と、前記第1電力及び前記第2電力の電圧の位相差を制御する移相器を備え、
前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧の位相が前記第2系統線路の出力部の電圧の位相に対して、一定の速度で遅れ続けるように、又は一定の速度で進み続けるように前者の位相と後者の位相を制御することを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を、0°から360°までを1周期として一定の速度で繰り返し移相する、又は0°からマイナス360°までを1周期として一定の速度で繰り返し移相することを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明において、前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を0°から180°まで、ランプ波の形態で繰り返し移相する、又は0°からマイナス180°まで、ランプ波の形態で繰り返し移相することを特徴とする。
第4の発明は、第2の発明又は第3の発明のいずれか一つの発明において、前記移相器は、前記第1系統線路の出力部の電圧と前記第2系統線路の出力部の電圧の位相差を1周期略1μ秒~1m秒で繰り返し移相することを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれか一つの発明において、前記複数の第1給電点の隣り合う間隔は、前記第1電力の電圧の波長の八分の一以下になるように配置され、且つ前記複数の第2給電点の隣り合う間隔は前記第2電力の電圧の波長の八分の一以下になるように配置されることを特徴とする。
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか一つの発明において、 前記第1給電点及び前記第2給電点は、前記非接地電極の前記接地電極と対向しない面の端部又は前記非接地電極の側面又は前記接地電極と対向する面の端部に設けられることを特徴とする。
第7の発明は、第1の発明から第6の発明のいずれか一つの発明において、前記高周波電力供給手段は、2出力位相可変発信器と、分配器と、電力増幅器と、整合器と、を備えていることを特徴とする。
第8の発明は、第1の発明から第7の発明のいずれか一つの発明において、 前記高周波電力供給手段が発生する電力の周波数は、13.56MHz又は30MHz~300MHzのVHF帯域から選ばれる周波数であることを特徴とする。
第9の発明は、第1の発明から第8の発明のいずれか一つの発明において、 前記原料ガスは、少なくともシランガス又は有機シランガスを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のプラズマCVD装置が抱える課題を解消可能である。本発明のプラズマCVD装置の構成部材である高周波電力供給手段が発生する第1電力と第2電力を非接地電極の対向する端部に設けられた複数の第1給電点及び複数の第2給電点に供給し、前記複数の第1給電点及び前記複数の第2給電点から非接地電極と基板が載置された接地電極からなる一対の電極の間に伝搬させて、前記第1電力と前記第2電力の電圧の位相差Δθを移相器で、例えば、0°~360°を、例えば、1周期1m秒として、ランプ波的に繰り返して移相することにより、一方向へ移動するプラズマを生成することが可能となる。前記プラズマを一方向へ移動させることによって、前記基板上に形成される膜を均一化することが可能という効果が発生する。これにより、従来装置では困難である、例えば、2mx2mという超大面積の基板を対象にしたプラズマCVDによる均一厚みの製膜が可能になる、という効果がある。
本発明によるプラズマCVD装置は、大画面液晶デイスプレイ、大画面有機ELデイスプレイ、大面積太陽電池及び各種半導体デバイス等の分野にける大面積均一の薄膜形成が可能であり、製品製造コストの低減及び性能向上への貢献度は著しく大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の複数の第1給電点及び複数の第2給電点から一対の電極間へ供給される電力が電力波として伝搬する状況を示す概念図である。
【
図4】
図4は、本発明の本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極間を互いに対向して伝搬する電力波を示す概念図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成部材である2出力位相可変発信器の2つの出力電圧信号の位相の関係を示す概念図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極の間に供給される電力の1次元的分布を示す概念図である。
【
図7】
図7は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置のプラズマ生成領域における電力の強さの分布と供給電力の位相差との関係を示す概念図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置のラズマ生成領域におけるプラズマの強さの分布の均一化を示す概念図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の電力供給手段の構成を示す模式的斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極の間に生成されるプラズマの強さの分布を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。また、以下に示す図面は、説明の便宜上、各部材の縮尺が、実際と異なる場合がある。また、各図面間においても、縮尺が、実際と異なる場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置について、
図1~
図8を参照して、説明する。なお、本実施例では一対の電極として、形状が矩形の非接地電極と矩形の接地電極を用いるがが、これに限定されない。
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成を示す模式的斜視図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の複数の第1給電点及び複数の第2給電点から一対の電極間へ供給される電力が電力波として伝搬する状況を示す概念図である。
図4は、本発明の本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極間を互いに対向して伝搬する電力波を示す概念図である。
図5は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成部材である2出力位相可変発信器の2つの出力電圧信号の位相の関係を示す概念図である。
図6は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極の間に供給される電力の1次元的分布を示す概念図である。
図7は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置のプラズマ生成領域における電力の強さの分布と供給電力の位相差との関係を示す概念図である。
図8は、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置のラズマ生成領域におけるプラズマの強さの分布の均一化を示す概念図である。
【0014】
先ず、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成について、
図1~
図8を参照して、説明する。
反応容器50は、内部を高真空状態に保てることが可能であり、不純物を発生しない真空容器であり、図示しない真空ポンプに接続された排気口51a、51bを備えている。排気口51a、51bは、それぞれ図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器50の内部を所定の真空度に真空引きすることが可能である。
反応容器50には、後述の非接地電極1と後述の接地電極60が、後述の原料ガスをプラズマ化するための一対の電極として、配置される。
接地電極60は、反応容器50の所定の場所に、例えば、底面に配置される。接地電極60は、主面60aを有し、該主面60aで基板61と接し、保持する。基板61の温度は、接地電極60の内部に設けられた図示しない基板ヒータにより所定の温度に制御される。接地電極60の形状は、例えば、後述の非接地電極1と同様に、短辺と長辺を備える矩形である。寸法は、後述の非接地電極1より一回り大きい寸法で、例えば、1.2mx2.2mである。
基板61は、基板搬入搬出用バルブ62を開閉することにより、大気側から基板保持台60の主面60aに搬入、載置され、目的とする膜を形成した後、大気側へ搬出される。
【0015】
非接地電極1は、接地電極60に対向して、所定の間隔で配置される。非接地電極1は、例えば、短辺1aと長辺1bの矩形で、寸法は、例えば、1.1mx2.1mである。非接地電極1は、原料ガスを導入する原料ガス導入管3と原料ガス分散空洞6と該原料ガスを噴出する原料ガス噴出孔5を備えている。非接地電極1は、反応容器50の電極支持棚53に絶縁体55を介して固定される。原料ガス導入管3から導入される原料ガスは原料ガス分散空洞6で分散し、原料ガス噴出孔5から非接地電極1と接地電極60の間に均等に噴出される。
原料ガス噴出孔5は、直径略0.4mm~略1mmの円形に形成される。ここでは、0.8mmとする。なお、原料ガス噴出孔の直径を略1mm以上にすると、ガスの噴出量の空間分布が不均一に成り、それを略1mm以下にすると、空間分布は均一になるが、孔加工に際し多大の労力と費用が発生する。前記孔直径0.8mmはガスの噴出量の空間分布が均一であり、製作加工費を抑制できることで妥当な数値と言える。
非接地電極1は、絶縁体55により反応容器50及び接地電極60と電気的に絶縁され、非接地状態にある。
ここで、非接地電極1の接地電極60と対向する面を、非接地電極1の表面1d、裏面を非接地電極1の裏面1cと呼ぶ。
非接地電極1の裏面1cの一方の短辺1aに、後述の2出力位相可変高周波発信器70の一方の出力端子から後述の第1系統線路69aを介して供給される電力を供給する複数の第1給電点77a及び77bを設ける。前記複数の第1給電点77a及び77bに対向する他方の短辺1aaに、後述の2出力位相可変高周波発信器70の他方の出力端子から後述の第2系統線路69bを介して供給される電力を供給する複数の第2給電点77c及び77dを設ける。
複数の第1給電点77aと77bの間隔及び複数の第2給電点77c及び77dの間隔は、後述の第1系統線路69aから供給される高周波電力の波長λの八分の一以下とする。
ここでは、後述するように、周波数60MHzが用いられるので、λ/8=40cmである。また、複数の第2給電点77c及び77dの間隔は、後述の第2系統線路69bから供給される高周波電力の波長λの八分の一以下とする。ここでは、後述するように、周波数60MHzが用いられるので、λ/8=40cmである。なお、周波数60MHzの真空中の波長は5m(プラズマ中では、波長短縮率0.65として、3.25m)である。
その理由は次の通りである。即ち、前記間隔を前記電力の波長の八分の一以下に設ければ、隣り合う給電点を結ぶ線上の電位が該線上に沿って略同様になるからである。
【0016】
符号70は2出力位相可変高周波発信器である。2出力位相可変高周波発信器70は、10MHz~100MHzの範囲の高周波数の正弦波電圧を出力する。2出力位相可変高周波発信器70の周波数は10MHz~100MHzの範囲から任意に選ぶことができる。ここでは、例えば、60MHzとする。なお、周波数60MHzの真空中の波長は5m(プラズマ中では、波長短縮率0.65として、3.25m)である。
なお、2出力位相可変高周波発信器70は、特別の装置ではなく、市販されている装置である。
2出力位相可変高周波発信器70は、2つの出力端子68a、68bを備え、該2つの出力端子68a、68bから出力される高周波数の2つの正弦波の電圧の位相差を一次関数的に制御可能である。また、2出力位相可変高周波発信器70は、該2つの出力端子68a、68bから出力される高周波数の2つの正弦波の電圧の位相差を、
図5(a)、(b)に示されるようなランプ波の形態に制御可能である。
即ち、2出力位相可変高周波発信器70は、例えば、前記2つの出力信号の電圧の位相差を0°~360°を1周期T
0とするランプ波の形態で制御する、又は0°~マイナス360°を1周期1周期T
0とするランプ波の形態で制御することが可能である。そして、例えば、前記2つの出力信号の電圧の位相差を0°~180°を1周期T
0とするランプ波の形態で制御する、又は0°~マイナス180°を1周期とするランプ波の形態で制御することが可能である。ここで、上記1周期T
0は、例えば、1μ秒~1m秒の範囲から選ばれ、例えば1m秒とする。
2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68aから出力される電圧信号は次式で表せる。
V
1(t)=sin{ωt+θ
11} ・・・(3)
ただし、ωは角周波数、θ
11は位相である。2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68bから出力される電圧信号は次式で表せる。
V
2(t)=sin{ωt+θ
22} ・・・(4)
ただし、ωは角周波数、θ
22は位相である。
上記2つの電圧信号の位相差は、2出力位相可変高周波発信器70が備える図示しない移相器によって、一次関数的に移相される。即ち、2出力位相可変高周波発信器70は、上記2つの電圧信号の位相差を、式(5)で示されるように、一定速度で移相することができる。
δθ=θ
11―θ
22
=αt ・・・(5)
ただし、αは比例定数、tは時間である。
そして、2出力位相可変高周波発信器70は、図示しない移相器によって、上記2つの電圧信号の位相差を0°~360°1周期T
0として、あるいは0°~180°を1周期として繰り返して移相することが可能である。即ち、式(6)で示されるように、0°~360°、あるいは0°~180°を一定の速度で、一定の周期T
0でランプ波の形態で移相することができる。
δθ=θ
11―θ
22
=t―floor(t) ・・・(6)
ただし、t―floor(t) は、
図5に示されるように0°~360°を一定速度で移相し、360°を1周期T
0として繰り返すランプ波の形態で移相することを表している。又は0°~180°を一定速度で移相し、180°を1周期T
0として繰り返すランプ波の形態で移相することを表している。なお、0°~マイナス360°を繰り返して移相する、又は、0°~マイナス180°を繰り返して移相しても良い。
ここで、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマを用いた薄膜形成装置において重要な技術的ポイントは、前記2つの電圧信号の位相差が、式(5)、又は式(6)で示されるように、あるいは
図5に示されるように、前記2つの電圧信号の位相差を制御することである。これにより、非接地電極1と接地電極60の間に生成される定在波を一方向へ移動させることを可能になる、という効果が発生する。
【0017】
符号72aは第1の電力増幅器である。第1の電力増幅器72aは、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68aから同軸ケーブルを介して送信された高周波信号の電力を増幅する。第1の電力増幅器72aの出力は、最大で、例えば、2kW~20kWである。ここでは、例えば。5kWとする。
第1の電力増幅器で72aは、出力電力を同軸ケーブルを介して、後述の第1の整合器73aに送電する。ここで、第1の電力増幅器72aから出力される電力を第1電力と呼ぶ。
符号73aは第1の整合器である。第1の整合器73aは、第1電力を第1給電点77a、77bにおける反射波が小さくなるように調整し、送電する。第1の整合器73aは、前記第1電力を同軸ケーブルを介して後述の第1の電力分配器79aに伝送する。
符号79aは第1の電力分配器である。第1の電力分配器79aは、第1の整合器73aから送電された第1電力を2分岐して、その一方の第1電力を同軸ケーブルを介して後述の第1の真空用電流導入端子75aへ送電するとともに、他方の第1電力を同軸ケーブルを介して後述の第2の真空用電流導入端子75bへ送電する
符号75aは第1の真空用電流導入端子である。第1の真空用電流導入端子75aは、第1の電力分配器79aから送電された第1電力を真空用導線76aを介して第1給電点77aに給電する。なお、第1給電点は77aと後述の77bで構成される。
符号75bは第2の真空用電流導入端子である。第2の真空用電流導入端子75bは、第1の電力分配器79aから送電された第1電力を第2の真空用導線76bを介して第1給電点77bに給電する。
ここで、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68aから、第1の電力増幅器72a、第1の整合器73a、第1の電力分配器79a、第1の真空用電流導入端子75a、第2の真空用電流導入端子75b、第1の真空用導線76a及び第2の真空用導線76bを備える第1電力の伝送線路を第1系統線路69aと呼ぶ。
【0018】
符号72bは第2の電力増幅器である。第2の電力増幅器72bは、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68bから同軸ケーブルを介して送信された高周波信号の電力を増幅する。第2の電力増幅器72bの出力は、最大で、例えば、2kW~20kWである。ここでは、例えば。5kWとする。
第2の電力増幅器で72bは、出力電力を同軸ケーブルを介して、後述の第2の整合器73bに電送する。ここで、第2の電力増幅器72bから出力される電力を第2電力と呼ぶ。
符号73bは第2の整合器である。第2の整合器73bは、第2の整合器73bは、第2電力を第2給電点7c、7dにおける反射波が小さくなるように調整し、送電する。第2の整合器73bは、前記第2電力を同軸ケーブルを介して後述の第2の電力分配器79bに送電する。
符号79bは第2の電力分配器である。第2の電力分配器79bは、第2の整合器73bから送電された第2電力を2分岐して、その一方の第2電力を同軸ケーブルを介して後述の第3の真空用電流導入端子75cへ送電するとともに、他方の第2電力を同軸ケーブルを介して後述の第4の真空用電流導入端子75dへ送電する
符号75cは第3の真空用電流導入端子である。第3の真空用電流導入端子75cは、第2の電力分配器79bから送電された第2電力を真空用導線76cを介して第2給電点77cに給電する。なお、第2給電点は77cと後述の77dで構成される。
符号75dは第4の真空用電流導入端子である。第4の真空用電流導入端子75dは、第2の電力分配器79bから送電された第2電力を第4の真空用導線76dを介して第2給電点77dに給電する。
ここで、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68bから、第2の電力増幅器72b、第2の整合器73b、第2の電力分配器79b、第3の真空用電流導入端子75c、第4の真空用電流導入端子75d、第3の真空用導線76c及び第4の真空用導線76dを備える第2電力の伝送線路を第2系統線路69bと呼ぶ。
また、ここで、2出力位相可変高周波発信器70と、前記第1系統線路69aと、前記第2系統線路69bを備え、複数の第1給電点77a、77bへ第1電力を給電し、且つ複数の第2給電点77c、77dへ第2電力を供給する高周波電力供給手段を、第1の高周波電力供給手段と呼ぶ。
【0019】
非接地電極1と接地電極60の間の距離は、プラズマ生成条件を考慮して決められる。即ち、非接地電極1と接地電極60の間に生成される原料ガスのプラズマ生成条件は、主として、非接地電極1と接地電極60の間隔dと圧力pと印加される高周波電圧Vに依存する。ここでは、パッシェンの法則に従って、パッシェン曲線の最小値の領域に設定する。例えば、pd積が、略133Pa・cm~1333Pa・cmを満たす値を選ぶ。ここでは、例えば、非接地電極1と接地電極60の間隔d=0.5cm、圧力p=133Pa~1333Paとする。
【0020】
原料ガスは、目的とする膜種によって選ばれる。例えば、シランガス、水素ガス及び希ガスの混合ガスである。ここでは、例えば、シランガスと水素を選び、流量比を水素流量/シランガス流量=100とする。シランガスと水素の混合ガスは、それぞれ、図示しない原料ガス源から図示しない原料ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御され、原料ガス導入管3から原料ガス分散空洞6を介して、原料ガス噴出孔5から噴出される。
【0021】
非接地電極1と接地電極60の間に原料ガスが導入された状態で、第1の高周波電力供給手段から複数の第1給電点77a、77b及び複数の第2給電点77c、77dに、それぞれ前記第1電力及び前記第2電力が供給されると、該一対の電極1、60の間にプラズマが発生する。
複数の第1給電点77a、77bに供給された第1電力は、
図3にV
p1で示されるように、非接地電極1の辺1aから該電極の側面と真空容器50の壁の間を伝搬し、非接地電極1と接地電極60の間へ進入し、該一対の電極1、60の間を伝搬する。
複数の第2給電点77c、77dに供給された第2電力は、
図3にV
p2で示されるように、非接地電極1の辺1aaから該電極の側面と真空容器50の壁の間を伝搬し、非接地電極1と接地電極60の間へ進入し、該一対の電極1、60の間を伝搬する。
V
p1及びV
p2の伝搬の様子を模式的に
図4に示す。V
p1(x、t)及びV
p2(x、t)は互いに対向して進む伝搬波である。
図4に示される伝搬波は、一次元座標軸xの原点を一対の電極間1の表面1dの一方の端部とし、非接地電極1の長辺の長さをL
0とすると、次のように表される。
V
p1(x、t)=V
01sin{ωt+2πx/λ+θ
11} ・・・(7)
ただし、V
01は振幅、ωは角周波数、θ
11は位相である。
V
p2(x、t)=V
02sin{ωt-2πx/λ+θ
22} ・・・(8)
ただし、V
02は振幅、ωは角周波数、θ
22は位相である。
上記2つの伝搬波V
p1(x、t)及びV
p2(x、t)は、一定方向に移動する電力波I(x、t)を生成する。これは、式(9)で表される。
I(x)∝cos
2{2π(x-L
0/2)/λ-Δθ/2} ・・・(9)
ただし、L
0は一対の電極の長さ、Δθは次式で示される。
Δθを時間的に変動するΔθ(t)に代えると、式(9)は、x方向に移動する電力波
になる。それは、次(10)で表される。
I(x、t)∝cos
2{2π(x-L
0/2)/λ-Δθ(t)/2} ・・・(10)
ここで、Δθ(t)を2出力位相可変高周波発信器70に内蔵される図示しない移相器
を用いて、式(5)あるいは式(6)に示されるΔθ(t)の形態で変化させる。
Δθ(t)=αt ・・・(5)
又は、
Δθ(t)=t―floor(t) ・・・(6)
ただし、Δθ(t)は
図5(a)に示されるように、0°~360°を1周期T
0として、一定の速度で、ランプ波的に移相することを表している。又はΔθは
図5(b)に示されるように、0°~マイナス180°を1周期T
0とし、一定の速度で、ランプ波的に移相することを表わしている。なお、T
0は1μ秒~1m秒の範囲で任意に選べる。T
0は、1μ秒~1m秒の範囲で任意に選べる。
Δθ(t)は、0°~マイナス360°を1周期T
0として、繰り返して移相しても良い。また、0°~180°を1周期T
0として、繰り返して移相しても良い。なお、T
0は1μ秒~1m秒の範囲で任意に選べる。
即ち、2出力位相可変高周波発信器70に内蔵される図示しない移相器を用いて、第1
系統線路69aの出力部の電圧と第2系統線路69bの出力部の電圧の位相差を、上記式
(5)又は式(6)の形態で移相させる。
【0022】
上記式(10)で表される電力波はΔθ(t)の影響を受ける。Δθ(t)が時間的に移相すると、それに対応して電力波は移動する。なお、一対の電極1、60の間に発生する電力波は、それと同様の形態を有するプラズマを該一対の電極1、60の間に生成する。
上記一定方向に移動する電力波I(x、t)は、時間を止めて見ると、
図6に示されるような形態の分布である。
Δθがゼロの場合、
図7に示されるように、非接地電極1の中央点に腹を持つ定在波となる。Δθが正の場合は、
図7に示されるように、非接地電極の中央点から一方の方向へずれた位置に腹を持つ定在波となる。Δθが負の場合は、
図7に示されるように、非接地電極の中央点から他方の方向へずれた位置に腹を持つ定在波となる。
Δθが上記式(5)あるいは上記式(6)で表される場合、電力波I(x、tは、x方向、又はxのマイナス方向に連続して一定速度で移動する。この様子を
図8(a)に示す。なお、プラズマは、電力波の強さに比例した形態で生成されることから、
図8(a)と
図6は、似たような形態となる。
接地電極60の主面60a上の任意の地点Bで一定方向に移動するプラズマを見ると、強いプラズマと弱いプラズマが一定方向に通過していくので、地点Bにおけるプラズマの強さは時間的に平均化される。この平均化は、
図8(b)に示される基板移動方式によるプラズマCVD装置での製膜プロセスにおける膜厚みの均一化と同様の平均化効果を有する。
即ち、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置における製膜プロセスは、
図8(b)に示される基板移動方式によるプラズマCVD装置での製膜プロセスと同様に、製膜される膜厚みは均一になる、という効果を有する。
【0023】
次に、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の動作について、
図1~
図8を参照して説明する。なお、説明の便宜上、微結晶シリコン膜の形成を例にとり、以下説明する。
原料ガスは、目的とする膜種によって選ばれる。目的とする膜種に応じて、シランガス、アンモニア、有機シランガス、水素、酸素等を選ぶことができる。ここでは、例えば、微結晶シリコン膜を形成する。ガス供給条件は、例えば、シランガスと水素を選び、流量比を水素流量/シランガス流量=100とする。
先ず、反応室50の基板搬入搬出バルブ62を開いて、基板61を基板保持台60の主面60aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブ62を閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口51a及び排気口51bを介して、反応室50内部を所定の真空度にする。
その後、図示しないシランガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないシランガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたシランガス及び水素ガスを、原料ガス導入管3及び原料ガス分散空洞6を介して、原料ガス噴出孔5から噴出する。
ここでは、水素ガスとシランガスの流量比を100倍、即ち、水素ガスの流量/シランガスの流量=100、とする。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器50の内部圧力を、略133Pa~略1333Paに保つ。なお、反応容器50の真空引きに用いる真空ポンプと製膜時に用いる真空ポンプは、異なるものを別々に用いてもよい。ここでは、例えば、500Paに設定し、維持する。
【0024】
次に、第1の高周波電力供給手段を用いて、第1電力を複数の第1給電点77a、77
bに給電し、第2電力を複数の第2給電点77c、77d給電する。即ち、2出力位相可
変高周波発信器70に内蔵される図示しない移相器を用いて、第1系統線路69aの出力
部の電圧と第2系統線路69bの出力部の電圧の位相差を、上記式(5)又は式(6)の
形態で移相させる。
そうすると、
図6に示されるような形態の電力分布が発生する。その結果、原料ガス噴出孔5から噴出する原料ガスがプラズマ化され、微結晶シリコン膜の前駆体であるS
iH
3、H等のラジカルが生成され、基板61に微結晶シリコンが堆積する。
前記プラズマは、
図8(a)に示されるような形態で生成されることから、均一な厚み分布を有する微結晶シリコン膜を形成する。
【0025】
次に、微結晶シリコン膜の厚みは該プラズマ生成時間に比例するので、第1の高周波電力供給手段の出力供給開始後後から所定の時間が経過した時点で、該第1の高周波電力供給手段の出力をゼロにする。
製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、1分~30分、例えば5分とする。なお、製膜時間は、電極間隔、基板温度、シランガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とする微結晶シリコン膜の製膜が終了後、上記シランガスガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器50内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器50を大気条件に戻す。反応容器50が大気条件に戻された後、基板搬入搬出バルブ62を開とし、基板61を取り出す。
反応容器50から取りだされた基板61には、均一な微結晶シリコン膜が形成されている。
【0026】
本発明の第1の実施形態に係わるプラズマを用いた薄膜形成装置では、上述の通り、複数の第1給電点77a、77bに給電される第1電力の電圧の位相と、複数の第2給電点77c、77dに給電される第2電力の電圧の位相の位相差Δθが、
図5(a)に示されるように、例えば、0°~360°を1周期T
0として、一定の速度で、ランプ波的に移相するので、一対の電極1、60間に生成されるプラズマは一定の方向へ移動し続ける。その結果、接地電極60の上に載置された基板に体積される膜の厚みは均一に形成される。
なお、一対の電極1、60間に生成されるプラズマを一定の方向へ移動し続ける方法として、複数の第1給電点77a、77bに給電される第1電力の電圧の位相と、複数の第2給電点77c、77dに給電される21電力の電圧の位相の位相差Δθ(t)を、
図5(b)に示されるように、0°~マイナス180°、又は0°~180°を1周期T
0とし、一定の速度で、ランプ波的に移相しても良い。また、1周期T
0は、T
0は1μ秒~1m秒の範囲で任意に選べる。
その結果、本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置は、従来装置では困難である超大面積基板を対象にしたプラズマCVDによる膜の形成を均一に行うことが可能である。
【0027】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置について、
図9及び
図10を参照して、説明する。
図1~
図8も参照する。
図9は、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の電力供給手段の構成を示す模式的斜視図である。
図10は、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の一対の電極の間に生成されるプラズマの強さの分布を示す概念図である。
先ず、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成を説明する。本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成と前述の本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置の構成の異なる点は、次の通りである。
(イ)給電点の位置が、前者は非接地電極の裏面1cの端部にあることに対して、後者は非接地電極の表面2dの端部に設けられることである。これにより、後者の場合は前者に比べて、供給される電力波が非接地電極と接地電極間に効果的に伝搬することが可能になる。
(ロ)給電点の個数が、前者の場合は対向する辺1aと1aaにそれぞれ2個であることに対して、後者の場合は対向する辺2aと2aaにそれぞれ4個が設けられることである。これにより、後者の場合は前者に比べて、大面積の基板への対応において均一膜の形成が可能となる。
(ハ)本発明の第1の実施形態に係わるプラズマCVD装置では、第1電力と第2電力の電圧の位相差の制御を、2出力位相可変高周波発信器70が備える移相器を用いて行うが、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置では、前記2出力位相可変高周波発信器70が備える移相器に加えて、別の移相器が追加して配置されることである。これにより、非接地電極に供給される電力の位相差を揃えることが可能となる。
【0028】
符号2は矩形平板状の非接地電極である。矩形平板状の非接地電極2は、接地電極60と組み合わせて用いられる。矩形平板状の非接地電極2は、接地電極60と対向する表面2dと、接地電極60と対向しない裏面2cを備える。また、矩形平板状の非接地電極2は、表面2dが有する4辺の中の互いに対向する2つの辺2a、2aaを備える。矩形平板状の非接地電極2は、例えば、2つの辺2a、2aaの長さが、例えば、2.1mx2.1mである。
矩形平板状の非接地電極2は、原料ガスを導入する原料ガス導入管3と原料ガス分散空洞6と該原料ガスを噴出する原料ガス噴出孔5を備えている。矩形平板状の非接地電極2は、反応容器50の電極支持棚53に絶縁体55を介して固定される。原料ガス導入管3から導入される原料ガスは原料ガス分散空洞6で分散し、原料ガス噴出孔5から矩形平板状の非接地電極2と接地電極60の間に均等に噴出される。
符号7a、7b、7c、7dは第3給電点である。第3給電点7a、7b、7c、7dは、複数の給電点を有し、矩形平板状の非接地電極2の辺2aに等間隔で配置される。
符号7e、7f、7g、7hは第4給電点である。第4給電点7e、7f、7g、7hは、複数の給電点を有し、矩形平板状の非接地電極2の辺2aaに等間隔で配置される。
複数の第3給電点7aと7b、7bと7c、7cと7dのそれぞれの間隔は、後述の第3系統線路69cから供給される高周波電力の波長λの八分の一以下とする。ここでは、後述するように、周波数40MHzが用いられるので、λ/8=61cmである。なお、40MHzの電磁波の波長λは、真空中でλ=7.5m(プラズマ中では、波長短縮率0.65として、4.9m)である。λ/8=0.61m である。
複数の第4給電点7eと7f、7fと7g、7gと7hのそれぞれの間隔は、後述の第4系統線路69dから供給される高周波電力の波長λの八分の一以下とする。ここでは、後述するように、周波数40MHzが用いられるので、λ/8=61cmである。
その理由は次の通りである。即ち、前記間隔を八分の一以下に設ければ、隣り合う給電点を結ぶ線上の電位が該線上に沿って略同様になるからである。
【0029】
2出力位相可変高周波発信器70は、本発明の第1実施例で説明したように、10MHz~100MHzの範囲の高周波数の正弦波電圧を出力する。ここでは、例えば、40MHzとする。40MHzの電磁波の波長λは、真空中でλ=7.5m(プラズマ中では、波長短縮率0.65として、4.9m)である。λ/8=0.61m である。
なお、2出力位相可変高周波発信器70は、特別の装置ではなく、市販されている装置である。
2出力位相可変高周波発信器70は、本発明の第1実施例で説明したように、2つの出力端子68a、68bを備え、該2つの出力端子68a、68bから出力される高周波数の2つの正弦波の電圧の位相差を一次関数的に制御可能である。また、本発明の第1実施例で説明したように、2出力位相可変高周波発信器70は、該2つの出力端子68a、68bから出力される高周波数の2つの正弦波の電圧の位相差を、
図5(a)、(b)に示されるようなランプ波の形態に制御可能である。2出力位相可変高周波発信器70は2つの出力端子から、正弦波電圧信号を、それぞれ、同軸ケーブルを介して、後述の第3の分配器10a及び第4の分配器10bへ伝送する。
【0030】
符号10aは、第3の分配器である。第3の分配器10aは、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68aから伝送された正弦波電圧信号を4分配し、後述の第1の移相器11a、第2の移相器11b、第3の移相器11c及び第4の移相器11dへ伝送する。
符号11a、11b、11c及び11dは、それぞれ、第1の移相器、第2の移相器、第3の移相器及び第4の移相器である。第1の移相器11a、第2の移相器11b、第3の移相器11c及び第4の移相器11dは、入力された正弦波電圧信号の位相を調整して出力することが可能であり、後述の第1の位相モニター15aと組み合わせて用いられる。後述されるように、第1の移相器11a、第2の移相器11b、第3の移相器11c及び第4の移相器11dは、後述の第1の位相モニター15aで観測された、それぞれの正弦波電圧信号の位相が揃うように、移相器11a、11b、11c、11dの出力の位相を、それぞれに調整する。第1、第2、第3及び第4の移相器11a、11b、11c、11dは、それぞれの出力信号を同軸ケーブルを介して、後述の電力増幅器12a、12b、12c、12dへ伝送する。
符号12a、12b、12c、12dは電力増幅器である。電力増幅器12a、12b、12c、12dは、それぞれ、第1、第2、第3及び第4の移相器11a、11b、11c、11dから送信された高周波正弦波信号の電力を増幅する。電力増幅器12a、12b、12c、12dの出力は、最大で、例えば、2kW~20kWである。ここでは、例えば、5kWとする。電力増幅器12a、12b、12c、12dは、それぞれ、後述の整合器13a、13b、13c、13dへ同軸ケーブルを介して送電する。
【0031】
符号13a、13b、13c、13dは整合器である。整合器13a、13b、13c、13dは、それぞれ、電力増幅器12a、12b、12c、12dから送電された電力を、複数の第3給電点7a、7b、7c、7dにおける反射波が小さくなるようにインピーダンス調整する機能を有する。整合器13a、13b、13c、13dは、それぞれに、インピーダンス調整された電力を後述の第1、第2、第3及び第4の真空用電流導入端子75aa、75bb、75cc、75ddへ送電する。
符号75aa、75ab、75ac、75adは第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子である。第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75adは、それぞれ整合器13a、13b、13c、13dから送電された電力を、それぞれ、真空用同軸ケーブル76aaを介して、複数の第3給電点7a、7b、7c、7dに給電する。
なお、真空用同軸ケーブル76aaは不純物を発生しない誘電体を用いた同軸ケーブルである。
符号15aは第1の位相モニターである。第1の位相モニター15aは、第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75adに入力される電力の電圧の位相を観測する。第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75adに入力される電力のそれぞれの電圧の位相が揃っていない場合は、第1、第2、第3及び第4の移相器11a、11b、11c、11dで調整し、且つ整合器13a、13b、13c、13dを調整する。第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75adに入力される電力の電圧の位相が±10°以内に揃うように、上記第1、第2、第3及び第4の移相器11a、11b、11c、11d及び整合器13a、13b、13c、13dを調整する。この位相調整操作において、上記整合器13a、13b、13c、13dの整合性の条件設定よりも位相調整条件の設定を優先させる。
ここで、第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75adに入力される電力の電圧の位相が±10°以内に揃っている電力を、第3電力と呼ぶ。なお、前記電圧の位相が±10°以内に揃っていれば、複数の第3給電点から一対の電極2、60の間に伝搬する電力波の波面は略揃っている。
また、ここで、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68aから、第3の分配器10a、移相器11a、11b、11c、11d、電力増幅器12a、12b、12c、12d、整合器13a、13b、13c、13d、第5、第6、第7、第8の真空用電流導入端子75aa、75ab、75ac、75ad及び真空用同軸ケーブル76aaを備えている電力伝送回路を第3系統線路69cと呼ぶ。
【0032】
符号10bは、第4の分配器である。第4の分配器10bは、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68bから伝送された正弦波電圧信号を4分配し、後述の第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11hへ伝送する。
符号11e、11f、11g及び11hは、それぞれ、第5の移相器、第6の移相器、第7の移相器及び第8の移相器である。第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11hは、入力された正弦波電圧信号の位相を調整して出力することが可能であり、後述の第2の位相モニター15bと組み合わせて用いられる。後述されるように、第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11hは、後述の第2の位相モニター15bで観測された、それぞれの正弦波電圧信号の位相が揃うように、該移相器11e、11f、11g、11hの出力の位相を、それぞれに調整する。第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11hは、それぞれの出力信号を同軸ケーブルを介して、後述の電力増幅器12e、12f、12g、12hへ伝送する。
符号12e、12f、12g、12hは電力増幅器である。電力増幅器12e、12f、12g、12hは、それぞれ、第5、第6、第7及び第8の移相器11e、11f、11g、11hから送信された高周波正弦波信号の電力を増幅する。電力増幅器12e、12f、12g、12hの出力は、最大で、例えば、2kW~20kWである。ここでは、例えば、5kWとする。電力増幅器12e、12f、12g、12hは、それぞれ、後述の整合器13e、13f、13g、13hへ同軸ケーブルを介して送電する。
【0033】
符号13e、13f、13g、13hは整合器である。整合器13e、13f、13g、13hは、それぞれ、電力増幅器12e、12f、12g、12hから送電された電力を、それぞれ、複数の第4給電点7e、7f、7g、7hにおける反射波が小さくなるようにインピーダンス調整する機能を有する。整合器13e、13f、13g、13hは、それぞれに、インピーダンス調整された電力を後述の第9、第10、第11及び第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdへ送電する。
符号75ba、75bb、75bc、75bdは第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子である。第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdは、それぞれ、整合器13e、13f、13g、13hから送電された電力を、真空用同軸ケーブル76bbを介して、複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに給電する。
なお、真空用同軸ケーブル76baは不純物を発生しない誘電体を用いた同軸ケーブルである。
符号15bは第2の位相モニターである。第2の位相モニター15bは、第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdに入力される電力の電圧の位相を観測する。第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdに入力される電力のそれぞれの電圧の位相が揃っていない場合は、第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11hを調整し、且つ整合器13a、13b、13c、13dを調整する。第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdに入力される電力の電圧の位相が±10°以内に揃うように、上記第5の移相器11e、第6の移相器11f、第7の移相器11g及び第8の移相器11h及び整合器13e、13f、13g、13hを調整する。この調整操作において、上記整合器13e、13f、13g、13hの整合性の条件設定よりも位相調整条件の設定を優先させる。
【0034】
ここで、第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bdに入力される電力の電圧の位相が±10°以内に揃っている電力を、第4電力と呼ぶ。
また、ここで、2出力位相可変高周波発信器70の出力端子68bから、第4の分配器10b、第1、第2、第3、第4及び第5の移相器11e、11f、11g、11h、電力増幅器12e、12f、12g、12h、整合器13e、13f、13g、13h、第9、第10、第11、第12の真空用電流導入端子75ba、75bb、75bc、75bd、及び真空用同軸ケーブル76baを備えている電力伝送回路を第4系統線路69dと呼ぶ。
また、ここで、2出力位相可変高周波発信器70と、前記第3系統線路69cと、前記第4系統線路69dを備え、複数の第3給電点7a、7b、7c、7dへ第3電力を給電し、且つ複数の第4給電点7e、7f、7g、7hへ第4電力を供給する電力供給手段を、第2の高周波電力供給手段と呼ぶ。該第2の高周波電力供給手段は、2出力位相可変高周波発信器70に内蔵される図示しない移相器を用いて、第3系統線路69cから出力される第3電力の電圧と第4系統線路69dから出力される第4電力の電圧の位相差を上記式(5)又は式(6)の形態で移相させる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマを用いた薄膜形成装置の動作について、
図9及び
図10を参照して説明する。
図1~
図8も参照する。なお、説明の便宜上、微結晶シリコン膜の形成を例にとり、以下説明する。
先ず、反応室50の基板搬入搬出バルブ62を開いて、基板61を基板保持台60の主面60aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブ62を閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口51a及び排気口51bを介して、反応室50内部を所定の真空度にする。
その後、図示しないシランガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないシランガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたシランガス及び水素ガスを、原料ガス導入管3及び原料ガス分散空洞6を介して、原料ガス噴出孔5から噴出する。
ここでは、水素ガスとシランガスの流量比を100倍、即ち、水素ガスの流量/シランガスの流量=100、とする。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器50の内部圧力を、略133Pa~略1333Paに保つ。なお、反応容器50の真空引きに用いる真空ポンプと製膜時に用いる真空ポンプは、異なるものを別々に用いてもよい。ここでは、例えば、500Paに設定し、維持する。
【0036】
次に、第2の高周波電力供給手段を用いて、第3電力を複数の第3給電点7a、7b、7c、7dに給電し、第4電力を複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに給電する。そうすると、時間を止めてプラズマを見た場合、
図10に示されるような、波状の強さの分布を持つプラズマが生成される。
図10は、非接地電極2の接地電極60と対向する面2dの辺2bをx軸、辺2aをy軸として、xy面にプラズマの強さを描いた概念図である。
複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに供給される第3の電力の電圧の位相と、複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに供給される第3の電力の電圧の位相とは、その位相差Δθが、
図5(a)(b)のように、0°~360°を1周期T
0としたランプ波的に移相することから、
図10に示されるプラズマはx軸のプラス方向、又はマイナス方向へ移動を続ける。ここで、上記1周期T
0は、例えば、1μ秒~1m秒の範囲から選ばれ、例えば、1m秒とする。
図10に示されるプラズマが生成されると、即ち、原料ガス噴出孔5から噴出する原料ガスがプラズマ化されると、微結晶シリコン膜の前駆体であるS
iH
3、H等のラジカルが生成され、基板61に微結晶シリコンが堆積する。
微結晶シリコン膜は、
図10に示されるように、該プラズマが基板に対して一方向へ移動することから、該微結晶シリコン膜は移動平均化される。その結果、基板61上に形成される膜の厚みは均一化される。このことは、
図8(b)に示されるような基板移動方式によるプラズマCVD装置での製膜プロセスにおいて、一対の電極1、60間のプラズマと基板との関係で起こる平均化効果と同様な効果によるものである。
【0037】
次に、微結晶シリコン膜の厚みは該プラズマ生成時間に比例するので、第2の高周波電力供給手段の出力供給開始後後から所定の時間が経過した時点で、該第2の高周波電力供給手段の出力をゼロにする。
製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、1分~30分、例えば5分とする。なお、製膜時間は、電極間隔、基板温度、シランガスの流量、水素ガスの流量、圧力、電力等の関係に係わるデータを、予め把握し、そのデータを基に決められる。
目的とする微結晶シリコン膜の製膜が終了後、上記シランガスガス及び水素ガスの供給を停止し、反応容器50内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器50を大気条件に戻す。反応容器50が大気条件に戻された後、基板搬入搬出バルブ62を開とし、基板61を取り出す。
反応容器50から取りだされた基板61には、均一な微結晶シリコン膜が形成されている
【0038】
本発明の第2の実施形態に係わるプラズマを用いた薄膜形成装置では、上述の通り、複数の第3給電点7a、7b、7c、7dに供給される第3電力の電圧と、複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに供給される第4電力の電圧の位相差Δθ(t)が、
図5(a)に示されるように、例えば、0°~360°を1周期T
0として、一定の速度で、ランプ波的に移相するので、一対の電極1、60間に生成されるプラズマは一定の方向へ移動し続ける。その結果、接地電極60の上に載置された基板に体積される膜の厚みは均一に形成される。
なお、一対の電極1、60間に生成されるプラズマを一定の方向へ移動し続ける方法として、複数の第3給電点7a、7b、7c、7dに給電される第3電力の電圧の位相と、複数の第4給電点7e、7f、7g、7hに給電される第4電力の電圧の位相の位相差Δθを、
図5(b)に示されるように、0°~マイナス180°、又は0°~180°を1周期T
0とし、一定の速度で、ランプ波的に移相しても良い。1周期T
0は1μ秒~1m秒の範囲で任意に選べる。
その結果、本発明の第2の実施形態に係わるプラズマCVD装置は、従来装置では困難である超大面積基板を対象にしたプラズマCVDによる膜の形成を均一に行うことが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1・・・非接地電極、
3・・・原料ガス導入管、
5・・・原料ガス噴出孔、
6・・・原料ガス分散空洞、
55・・・絶縁体、
60・・・接地電極、
60a・・・接地電極の主面、
61・・・基板、
70・・・2出力位相可変高周波発信器、
72a・・・第1の電力増幅器、
72b・・・第2の電力増幅器、
73a・・・第1の整合器、
73b・・・第2の整合器、
75a、75b・・・第1及び第2の真空用電流導入端子、
75c、75d・・・第4及び第5の真空用電流導入端子、
76a、76b、76c、76d・・・真空用導線、
77a、77b・・・第1給電点、
77c、77d・・・第2給電点、
79a、79b・・・第1及び第2の分配器。