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特開2022-136305車両用灯具およびその制御装置、制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136305
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】車両用灯具およびその制御装置、制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/04 20060101AFI20220908BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20220908BHJP
   B60Q 1/24 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B60Q1/04 E
B60Q1/14 H
B60Q1/24 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122095
(22)【出願日】2022-07-29
(62)【分割の表示】P 2019523899の分割
【原出願日】2018-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2017114221
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017114321
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】柴田 佳典
(57)【要約】
【課題】ノイズの影響を低減した配光を形成可能な車両用灯具を提供する。
【解決手段】車両用灯具200の制御装置であるコントロールユニット220は、画像処理部221を含む。画像処理部221は、カメラユニット210が撮像した初期画像データIMG1を受け、初期画像データIMG1に応じた中間画像データIMG2を生成し、中間画像データIMG2にもとづいて車両用灯具200の照度分布を規定する照度制御データを生成する。初期画像データIMG1の画素のうち画素値が所定範囲に含まれる画素に関して、中間画像データIMG2における実効的な階調数は、初期画像データIMG1における階調数よりも小さい。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラで撮像した初期画像データを受け、前記初期画像データに応じた中間画像データを生成し、前記中間画像データにもとづいて車両用灯具の照度分布を規定する照度制御データを生成する画像処理部を備え、
前記初期画像データの画素のうち画素値が所定範囲に含まれる画素に関して、前記中間画像データにおける実効的な階調数は、前記初期画像データにおける階調数よりも小さいことを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記画素値を照度に変換する処理を行い、
前記照度分布においてノイズが目立つ照度範囲に含まれるノイズが低減されるように、前記所定範囲が規定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記画像処理部は、前記画素値を照度に変換する処理を行い、前記所定範囲は、前記画素値に対する前記照度の傾きが最大値をとる階調範囲であることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
前記照度制御データを生成する処理は、前記中間画像データまたはそれから得られる画像データの画素値を閾値と比較する処理を含み、
前記所定範囲は、前記閾値に対応して規定されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記照度制御データを生成する処理は、前記中間画像データまたはそれから得られる画像データのコントラストを変化させる処理を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
前記照度制御データを生成する処理は、前記中間画像データまたはそれから得られる画像データの画素値を階調反転する処理を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
前記中間画像データを生成する処理は、前記初期画像データの画素値の下位Nビット(N≧1の整数)を丸める処理を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項8】
前記中間画像データを生成する処理は、前記初期画像データの画素値に1より小さい係数を乗算する処理を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項9】
前記画像処理部は、前記階調数を減ずる程度を、前記初期画像データに含まれるノイズの振幅に応じて変化させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の制御装置を備えることを特徴とする車両用灯具。
【請求項11】
車両用灯具の制御方法であって、
カメラで撮像した初期画像データに応じた中間画像データを生成するステップと、
前記中間画像データにもとづいて車両用灯具の照度分布を規定する照度制御データを生成するステップと、
を備え、
前記初期画像データの画素のうち画素値が所定範囲に含まれる画素に関して、前記中間画像データにおける実効的な階調数は、前記初期画像データにおける階調数よりも小さいことを特徴とする車両用灯具の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間やトンネル内での安全な走行に車両用灯具が重要な役割を果たす。運転者による視認性を優先させて、車両前方を広範囲に明るく照射すると、自車前方に存在する先行車や対向車(以下、前方車という)の運転者や歩行者にグレアを与えてしまうという問題がある。
【0003】
近年、車両の周囲の状態にもとづいて、配光パターンを動的、適応的に制御するADB(Adaptive Driving Beam)技術が提案されている。ADB技術は、前方車や歩行者の有無を検出し、車両あるいは歩行者に対応する領域を減光あるいは消灯するなどして、前方車の運転者や歩行者に与えるグレアを低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-064964号公報
【特許文献2】特開2012-227102号公報
【特許文献3】特開2008-094127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、視認性に優れた配光パターンを形成可能な車両用灯具の提供にある。また別の目的のひとつは、車載カメラにとって物標を認識しやすい配光パターンを形成可能な車両用灯具の提供にある。
【0006】
また、本発明者らは、車両前方をカメラで撮像し、撮像した画像データにもとづいて配光を制御する灯具について検討したところ、以下の課題を認識するに至った。通常、車両用灯具が使用されるのは主に夜間であるため、カメラが撮像すべき対象は暗い。
【0007】
暗い視野を、物体が認識可能な明るさで撮像するためには、カメラの感度を高める必要があるが、感度を高めるとS/N比が低下する。S/N比が低い画像データにもとづいて配光を制御すると、投影される配光パターンにノイズ成分の影響が現れ、視認性が低下するおそれがある。なおこの問題を当業者の一般的な認識と捉えてはならない。
【0008】
本発明はこうした状況においてされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ノイズの影響を低減した配光を形成可能な車両用灯具の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、車両用灯具に関する。車両用灯具は、カメラで撮像した画像にもとづいて配光パターンを生成可能であり、配光パターンの空間的な解像度と、配光パターンの更新速度の組み合わせの異なる複数の制御モードが切り替え可能である。
【0010】
本発明のある態様は、車両用灯具の制御装置、あるいは車両用灯具に関する。制御装置は、カメラで撮像した初期画像データを受け、初期画像データに応じた中間画像データを生成し、中間画像データにもとづいて車両用灯具の照度分布を規定する照度制御データを生成する画像処理部を備える。初期画像データの画素のうち画素値が所定範囲に含まれる画素に関して、中間画像データにおける実効的な階調数は、初期画像データにおける階調数よりも小さい。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、視認性に優れた配光パターンを形成でき、あるいは車載カメラにとって物標を認識しやすい配光パターンを形成できる。また本発明の別の態様によれば、ノイズの影響が低減された配光を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。
図2図2(a)~(c)は、配光パターンの解像度を説明する図である。
図3図3(a)、(b)は、異なる制御モードにおける配光パターンの生成を説明する図である。
図4図4(a)、(b)は、異なる制御モードにおける車両用灯具の配光制御のタイムチャートである。
図5】一実施例における複数の制御モードを説明する図である。
図6図6(a)、(b)は、複数のサブ領域に分割されたカメラ画像を示す図である。
図7図7(a)は、ローコントラスト制御を説明する図であり、図7(b)は、ハイコントラスト制御を説明する図である。
図8】光源ユニットの構成例を示す図である。
図9】光源ユニットの別の構成例を示す図である。
図10】第2の実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。
図11図11(a)~(c)は、配光パターンの解像度を説明する図である。
図12図10の車両用灯具における信号処理を説明する図である。
図13】第1実施例に係る画像処理を説明する図である。
図14図14(a)は、ローコントラスト制御を説明する図であり、図14(b)は、ハイコントラスト制御を説明する図である。
図15】第2実施例に係る画像処理を説明する図である。
図16図16(a)、(b)は、第3実施例に係るコントラスト制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
はじめに、いくつかの代表的な実施の形態に係る車両用灯具の概要を説明する。
1. 本発明の一実施の形態は、車両用灯具に関する。車両用灯具は、カメラで撮像した画像にもとづいて配光パターンを生成可能であり、配光パターンの空間的な解像度と、配光パターンの更新速度の組み合わせの異なる複数の制御モードが切り替え可能である。
【0015】
走行環境やユーザの好みに応じて適切な信号処理を行うことにより、適切な配光パターンを生成できる。
【0016】
一実施の形態において、車両用灯具は、カメラで撮像した画像にもとづいて配光パターンを生成する配光パターン発生器と、配光パターンに応じて車両前方を照射する光源ユニットと、配光パターンの空間的な解像度と、配光パターンの更新速度の組み合わせを適応的に制御するモードコントローラと、を備えてもよい。
【0017】
複数の制御モードは、相対的に高解像かつ低速で配光パターンを生成する第1モードと、相対的に低解像かつ高速で配光パターンを生成する第2モードと、を含んでもよい。
これにより、高価な高速処理可能なハードウェアが不要となる。あるいは、人間の眼は、高速に動く物は低解像度でしか認識できず、低速で動く物は高解像度で認識するという特性を有しており、人間の眼の特性にマッチした配光パターンを生成できる。
【0018】
制御モードは、走行環境に応じて適応的に選択されてもよい。あるいは制御モードは、運転者がマニュアルで選択してもよい。
【0019】
制御モードは、環境照度に応じて適応的に選択されてもよい。人間の眼は、明るい環境と暗い環境で、特性が変化する。そこで環境照度を考慮することで、視認性の高い配光パターンを提供できる。あるいはカメラは、感度一定の条件下では、明るい環境下と暗い環境下とでは、1フレームの露光時間が変化しうる。したがって環境照度を考慮することで、カメラの動作に応じた動作を提供できる。
【0020】
環境照度を、カメラで撮像した画像にもとづいて検出してもよい。カメラを、照度センサとしても利用することでハードウェアを減らすことができる。
【0021】
制御モードは、走行速度に応じて適応的に選択されてもよい。走行速度は、被照射物(照射対象)の移動速度の指標として利用してもよい。
【0022】
制御モードは、被照射物(照射対象)の速度に応じて適応的に選択されてもよい。
【0023】
制御モードは、カメラで撮像した画像の空間周波数にもとづいて適応的に選択されてもよい。制御モードは、カメラで撮像した画像に含まれる物体の移動速度にもとづいて適応的に選択されてもよい。
【0024】
制御モードは、自車の走行する道路の種類にもとづいて選択されてもよい。
【0025】
カメラで撮像した画像が複数のサブ領域に分割され、サブ領域毎に制御モードが設定されてもよい。相対的に明るいサブ領域と相対的に暗いサブ領域に分割してもよい。あるいは、物標の変位速度が相対的に速いサブ領域と、相対的に遅いサブ領域に分割してもよい。
【0026】
2. 本発明の一実施の形態は、車両用灯具の制御装置に関する。制御装置は、カメラで撮像した初期画像データを受け、初期画像データに応じた中間画像データを生成し、中間画像データにもとづいて車両用灯具の照度分布(配光パターン)を規定する照度制御データを生成する画像処理部を備える。初期画像データの画素のうち画素値が所定範囲に含まれる画素に関して、中間画像データにおける実効的な階調数は、初期画像データにおける階調数よりも小さい。
【0027】
配光パターンは、複数の個別領域(メッシュ)の集合として扱われ、各メッシュの照度は、初期画像データに含まれる対応する位置の画素の画素値にもとづいて決定される。ここで画素値にはノイズが重畳されるところ、ある特定の画素値の範囲にノイズが含まれると、配光パターンでノイズの影響が目立ってしまう場合がある。そこで初期画像データに含まれる画素のうち、最終的な照度分布においてノイズの影響が顕著となる画素に関しては、実効的な階調数を減ずることにより、カメラ由来のノイズの影響が低減された配光を形成できる。所定範囲に限って階調数を減ずることにより、ノイズが目立ちにくい画素については、元の高い階調数を維持できる。
【0028】
所定範囲は、ゼロから所定の上限値までであってもよい。あるいは所定範囲は、所定の下限値から最高階調値までであってもよい。所定範囲は複数でもよい。
【0029】
照度制御データを生成する処理は、中間画像データまたはそれから得られる画像データの画素値を閾値と比較する処理を含んでもよい。この場合、所定範囲を、閾値と対応付けて規定することにより、ノイズの影響を低減できる。
【0030】
照度制御データを生成する処理は、中間画像データまたはそれから得られる画像データのコントラストを変化させる処理を含んでもよい。コントラストを低下(あるいは高める)させることにより、暗部のノイズが増幅される場合がある。そこで暗部に対応付けた所定範囲において階調数を減ずることでノイズの影響を低減できる。
【0031】
照度制御データを生成する処理は、中間画像データまたはそれから得られる画像データの画素値を階調反転する処理を含んでもよい。この場合、中間画像データのうち、暗部ほど照度が高くなるため、暗部に含まれるノイズが照度分布の明るい領域において強調されることとなる。そこで所定範囲を暗部に対応付けて階調数を減ずることでノイズの影響を低減できる。
【0032】
画像処理部は、中間画像データの画素値を閾値と比較し、比較結果にもとづいて照度制御データを生成してもよい。隣接する複数の画素に着目したときに、ノイズを含む画素値が閾値を超えたり超えなかったりすると、照度制御データに与えるノイズの影響が顕著となる。この場合に、中間画像データの階調数を落とすことで、ノイズの影響を抑制できる。
【0033】
中間画像データを生成する処理は、初期画像データの画素値に1より小さい係数を乗算する処理を含んでもよい。
【0034】
中間画像データを生成する処理は、初期画像データの画素値の下位Nビット(N≧1の整数)を丸める処理を含んでもよい。
【0035】
画像処理部は、階調数を減ずる程度を、初期画像データに含まれるノイズの振幅に応じて変化させてもよい。温度など環境に依存してノイズの量が変化する場合があるため、状況に応じて適切にノイズの影響を減ずることができる。
【0036】
以上が車両用灯具の概要である。以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0037】
図1は、第1の実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。車両用灯具システム100は、車両用灯具200、車両ECU(Electronic Control Unit)102、バッテリ104を備える。バッテリ104が発生するバッテリ電圧VBATは、車両用灯具200に電源電圧として供給される。車両ECU102と車両用灯具200は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などのプロトコルに準拠しており、通信可能となっている。車両ECU102は、車両用灯具200の点消灯を制御し、また、車速、ステアリングなどの車両の情報を車両用灯具200に送信する。車両用灯具200から車両ECU102へは、フェイル信号などが送信可能となっている。
【0038】
車両用灯具200は、カメラユニット210が撮像した画像(以下、カメラ画像IMGという)にもとづいて配光パターンPTNを動的、適応的に制御可能に構成される。なお、このカメラ画像IMGは、動画を構成する1枚のフレームデータに相当する。カメラユニット210は、ひとつのカメラのみを含んでもよいし、解像度および/またはフレームレートの異なる複数のカメラを含んでもよい。カメラユニット210が複数のカメラを含む場合、カメラ画像IMGは、複数のカメラの出力データの総称として把握される。
【0039】
配光パターンPTNは、車両用灯具200が自車前方の仮想鉛直スクリーン900上に形成する照射パターン902の2次元の照度分布と把握される。車両用灯具200は、配光パターンPTNの生成に関して、複数の制御モードを適応的に切り替え可能である。複数の制御モードは、配光パターンPTNの空間的な解像度と、配光パターンの更新速度(切替速度)の組み合わせが異なっている。
【0040】
配光パターンPTNは、複数のメッシュ(領域)に分割され、同一メッシュの照度は一定となっている。配光パターンPTNの空間的な解像度は、メッシュの細かさ(荒さ)に対応付けられる。
【0041】
図2(a)~(c)は、配光パターンPTNの解像度を説明する図である。図2(a)は、カメラ画像IMGの一例を示し、図2(b)、(c)は、図2(a)のカメラ画像IMGに対応する配光パターンPTNの一例を示す図である。ここで説明の容易化のために、カメラ画像IMGから特定物標を抽出し、特定物標が存在する箇所のメッシュを遮光(すなわち照度ゼロ)とする例を説明する。特定物標は、眩惑すべきでない対象物であり、先行車904、対向車906、歩行者908が例示される。図2(b)、(c)において、遮光される領域にはハッチングが付されている。図2(b)の配光パターンPTNは図2(c)の配光パターンより高解像度である。解像度が高い方が、より正確に特定物標の形状に即した遮光を実現できる。
【0042】
配光パターンPTNの解像度をさらに高めれば、先行車904のリアウィンドウの部分のみ、あるいは対向車906のフロントウィンドウの部分のみ遮光し、ボディは積極的に照度を高めることも可能である。同様に歩行者908の顔の部分のみを遮光し、体の部分は積極的に照度を高めることも可能である。これによりグレアを防止しつつ、自車運転者の視認性を一層高めることができる。
【0043】
図1に戻り、車両用灯具200の具体的な構成を説明する。車両用灯具200は、カメラユニット210に加えて、コントロールユニット220および光源ユニット230を備える。なお図1ではカメラユニット210は、車両用灯具200に内蔵されているが、車両側に設けられてもよい。
【0044】
コントロールユニット220は、配光パターン発生器222とモードコントローラ224を含む。コントロールユニット220は灯具ECUとも称される。配光パターン発生器222は、カメラ画像IMGにもとづいて配光パターンPTNを生成する。コントロールユニット220はデジタルプロセッサで構成することができ、たとえばCPUやマイコンとソフトウェアプログラムの組み合わせで構成してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified IC)などで構成してもよい。
【0045】
光源ユニット230は、配光パターン発生器222から配光パターンPTNを指示するデータを受け、車両前方に配光パターンPTNに応じた照度分布を形成可能に構成される。光源ユニット230の構成は特に限定されず、たとえば、LD(レーザダイオード)やLED(発光ダイオード)などの半導体光源と、半導体光源を駆動して点灯させる点灯回路と、を含みうる。光源ユニット230は、配光パターンPTNに応じた照度分布の形成のために、たとえばDMD(Digital Mirror Device)や液晶デバイスなどの、マトリクス型のパターン形成デバイスを含んでもよい。
【0046】
モードコントローラ224は、配光パターンPTNの空間的な解像度と、配光パターンPTNの更新速度(フレームレート)の組み合わせ、すなわち配光パターン発生器222の制御モードを適応的に制御する。
【0047】
以上が車両用灯具200の基本構成である。続いてその動作を説明する。
【0048】
図3(a)、(b)は、異なる制御モードにおける配光パターンPTNの生成を説明する図である。図3(a)に示す制御モードにおける配光パターンPTNの更新周期Ts1は、図3(b)に示す制御モードの更新周期Ts2よりも短い。図3(a)に示す制御モードにおける配光パターンPTNの解像度は、図3(b)に示す制御モードの解像度よりも低い。
【0049】
図4(a)、(b)は、異なる制御モードにおける車両用灯具200の配光制御のタイムチャートである。図4(a)は、解像度を優先した制御モードを示す。カメラ画像IMGは、所定のフレーム周期TFごとに生成される。コントロールユニット220は、複数フレームに1回、カメラ画像IMGを受信し、受信したカメラ画像IMGにもとづいた画像処理によって配光パターンPTNを生成する。ひとつのカメラ画像IMGから、ひとつの高解像度の配光パターンPTNを生成するのに要する処理時間TPは、フレーム周期TFよりも長い。配光パターンPTNの更新周期TSは、処理時間TPによる制約を受けることになる。
【0050】
図4(b)は、更新速度を優先した制御モードを示す。コントロールユニット220は、フレームごとにカメラ画像IMGを受信し、受信したカメラ画像IMGにもとづいた画像処理によって配光パターンPTNを生成する。ひとつのカメラ画像IMGから、ひとつの低解像度の配光パターンPTNを生成するのに要する処理時間TPは、フレーム周期TFよりも短い。
【0051】
図5は、一実施例における複数の制御モードを説明する図である。横軸は配光パターンPTNの更新速度(更新周期の逆数)を、縦軸は解像度を表す。配光パターン発生器222は、少なくとも第1モードMODE1と第2モードMODE2が切り替え可能となっている。第1モードMODE1では、相対的に高解像かつ低速で配光パターンPTNが生成され、第2モードMODE2では、相対的に低解像かつ高速で配光パターンPTNが生成される。
【0052】
上述のようにコントロールユニット220は、マイコンやCPUなどのプロセッサで実装することができる。配光パターン発生器222の演算量は、配光パターンPTNの解像度が高いほど増加し、また配光パターンPTNの更新速度が高いほど増加する。
【0053】
図5では、最高解像度と最高更新速度に対応する領域910で配光パターンPTNを生成するためには、プロセッサに要求される演算パワーは非常に高くなるが、一般に高速なプロセッサは高価であり、コストの観点から車両用灯具に搭載することが難しい場合も多い。逆に言えば、プロセッサの演算パワーがそれほど高くない場合、解像度と更新速度はトレードオフの関係にあると言える。このようなハードウェアの制約が存在する場合には、配光パターン発生器222の動作領域を、図5の領域912に制限すればよい。これによりプロセッサに要求される演算パワーを低くできるため、高価なCPU等が不要となり、安価なプロセッサの採用が可能となる。
【0054】
領域912の内側において、第1モードMODE1、第2モードMODE2に加えて、それらの中間的な第3モードMODE3をサポートしてもよい。さらには、低解像度、低更新速度の組み合わせである第4モードMODE4をサポートしてもよい。
【0055】
第1モードMODE1と第2モードMODE2をサポートすることにより、以下の効果も享受できる。人間の眼は、高速に動く物は低解像度でしか認識できず、低速で動く物は高解像度で認識するという特性を有している。したがって、第1モードMODE1と第2モードMODE2を切替え可能とすることで、人間の眼の生物学的な特性にマッチした配光パターンを生成できる。
【0056】
続いて、制御モードの切り替えについて説明する。制御モードは、走行環境に応じて適応的に選択することが望ましい。具体的には、以下の3つのパラメータのうち、少なくともひとつにもとづいて選択することができ、あるいは複数のパラメータを複合的に考慮することにより、選択することができる。
【0057】
1. 周囲の明るさ(環境照度)
第1のパラメータは周囲の明るさである。ヘッドライトを点灯すべき環境下であっても、周囲の明るさは大きく異なる。たとえば夕方や早朝は、夜間よりも明るい。また同じ夜間であっても、街灯が多い市街地は、街灯の少ない郊外よりも明るい。またトンネル内でも、照明の個数や輝度によって明るさは大きく異なる。
【0058】
人間の眼は、分解能が低いが感度が高い桿体細胞と、分解能が高いが感度が低い錐体細胞を有しており、明るい環境下では錐体細胞が活性化し、暗い環境下では桿体細胞が活性化することが知られている。つまり人間の眼は、暗い環境下では分解能が低下するため、配光パターンPTNを高解像度で制御しても、それを認識できないと言える。
【0059】
そこでモードコントローラ224は、周囲の明るさに応じて、明るいほど高解像度の制御モードを選択し、暗くなるに従い、より低解像度の制御モードを選択してもよい。図5の第1モードMODE1~第3モードMODE3が選択可能である場合、周囲が明るい状況では第1モードMODE1を選択し、暗くなるにしたがい、第3モードMODE3、第2モードMODE2を選択してもよい。
【0060】
周囲の明るさを測定するために、図1に示すように車両用灯具200に、環境照度を測定する照度センサ240を設けてもよい。モードコントローラ224は、環境照度に応じて、適切な解像度を有する制御モードを選択してもよい。
【0061】
照度センサ240に代えて、カメラユニット210を照度センサとして利用してもよい。カメラ画像IMGは環境照度の情報を含んでいる。そこでモードコントローラ224は、カメラ画像IMGに演算処理を施すことにより、環境照度を推定してもよい。たとえばカメラ画像IMGの複数の画素の値(画素値)の平均をとることにより、環境照度を推定してもよい。あるいは、カメラ画像IMGのうち車両用灯具200の出射光が照射されない領域の画素値を抽出して、その画素値から環境照度を推定してもよい。カメラ画像IMGから環境照度を推定することにより、照度センサを省略できる。
【0062】
2. 被照射物と自車の相対速度
第2のパラメータは、被照射物(物標)と自車の相対速度である。ここでの被照射物は、車両、道路標識、歩行者、路面、デリニエータ、街灯などを含む。言い換えれば、自車前方の視野の時間周波数に応じて制御モードを選択してもよい。すなわち、被照射物の自車に対する相対速度が高速である場合には、更新速度の高い制御モードを選択し、相対速度が低速になるにしたがい更新速度の低い制御モードを選択してもよい。図5の第1モードMODE1~第3モードMODE3が選択可能である場合、相対速度が高い状況では第2モードMODE2を選択し、遅くなるにしたがい、第3モードMODE3、第1モードMODE1を選択してもよい。
【0063】
たとえばモードコントローラ224は、カメラ画像IMGに含まれる被照射物の変位速度にもとづいて、制御モードを切り替えてもよい。これにより被照射物と自車の相対速度を反映した制御が可能となる。
【0064】
あるいは自車の走行速度が速いとき相対速度は速くなり、自車の走行速度が遅いとき相対速度は遅くなる傾向がある。そこで配光パターン発生器222は、自車の走行速度にもとづいて制御モードを切り替えてもよい。
【0065】
3. 被照射物の形状、配置
第3のパラメータは、被照射物(あるいは物標)の形状や配置の細かさであり、言い換えれば自車前方の視野の空間周波数である。視野の空間周波数が高い場合には、解像度の高い制御モードを選択し、空間周波数が低くなるにしたがって、解像度の低い制御モードを選択してもよい。図5の第1モードMODE1~第3モードMODE3が選択可能である場合、空間周波数が高い状況では第1モードMODE1を選択し、低くなるにしたがい、第3モードMODE3、第2モードMODE2を選択してもよい。
【0066】
自車前方の視野の空間周波数は、カメラ画像IMGから計算してもよい。モードコントローラ224は、画像データをフーリエ解析し、空間周波数を計算してもよい。
【0067】
モードコントローラ224は、第1~第3のパラメータそれぞれを直接あるいは間接的に取得して、制御モードを選択してもよいが、第1~第3のパラメータは、走行環境から推定することも可能である。そこでモードコントローラ224は走行環境にもとづいて、制御モードを選択してもよい。
【0068】
一実施例において、制御モードを、自車が走行する道路の種別に応じて選択してもよい。道路の種別は、市街地、郊外、高速道路、トンネルなどで区分してもよい。道路の種別の判定は、カーナビゲーションシステムからの情報にもとづいて行ってもよいし、車速、ステアリングなどの自車情報にもとづいて行ってもよいし、カメラユニット210が撮像した画像にもとづいて行ってもよい。
【0069】
第1のパラメータに着目すると、市街地は相対的に明るく、高解像度で物体を認識できため、第1モードMODE1あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。反対に郊外は相対的に暗く、人間の眼は低解像度でしか物体を認識できないため、第2モードMODE2あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。
【0070】
第2のパラメータに着目すると、市街地では走行速度が遅くなり、被照射物と自車の相対速度は遅くなる傾向があるため、第1モードMODE1あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。反対に高速道路や郊外では走行速度が速くなり、被照射物と自車の相対速度は速くなる傾向があるため、第2モードMODE2あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。
【0071】
第3のパラメータに着目すると、市街地では歩行者や道路標識などの相対的に小さい物標が多数存在しうることから、空間周波数が高い傾向があるため、第1モードMODE1あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。一方、高速道路や郊外では歩行者や道路標識が相対的に少なくなることから空間周波数が低い傾向があるため、第2モードMODE2あるいは第3モードMODE3を選択してもよい。
【0072】
これまではひとつの配光パターンを、同一の制御モードで生成する場合を説明したが、その限りでなく、ひとつのカメラ画像IMGを複数のサブ領域に分割し、サブ領域ごとに最適な制御モードを選択してもよい。
【0073】
図6(a)、(b)は、複数のサブ領域に分割されたカメラ画像IMGを示す図である。図6(a)では、カメラ画像IMGは上下に2分割される。図6(b)では、カメラ画像IMGは中央と、上下、左右で5分割される。
【0074】
サブ領域ごとに、自車前方の視野の明るさ(第1パラメータ)、時間周波数(第2パラメータ)、空間周波数(第3パラメータ)の傾向は大きくことなる。したがって、複数のサブ領域に分割することにより、より適切な制御が可能となる。
【0075】
図6(a)の分割パターンにおいては、上側のサブ領域SR1は下側のサブ領域SR1よりも遠方の被照射物を含みうるため、変位速度が遅い、すなわち時間周波数が低い傾向にある。また遠方の物体は、近い物体よりも小さく見えるため、空間周波数が高い傾向にある。したがって上側のサブ領域SR1では解像度を優先したモードを使用し、下側のサブ領域SR2では更新速度を優先したモードを使用してもよい。
【0076】
図6(b)の分割パターンにおいては、中央のサブ領域SR1は消失点を含んでおり、他のサブ領域SR2~SR5よりも遠方の被照射物を含みうるため、変位速度が遅い、すなわち時間周波数が低い傾向があり、空間周波数が高い傾向にある。そこでサブ領域SR1は解像度を優先したモードを使用してもよい。
【0077】
一方、左右のサブ領域SR2,SR3は、対向車あるいは自車を追い越す車両が現れる可能性が高く、これらの物標は高速に変位する傾向にある。そこでサブ領域SR2,SR3では更新速度を優先したモードを使用してもよい。
【0078】
なお分割パターンを、走行道路の種類や、自車の車速などに応じて適応的に切替えてもよい。
【0079】
続いて、配光パターン発生器222における画像処理について説明する。
最も簡易には、配光パターン発生器222はカメラ画像IMGにもとづいて特定の物標を検出し、検出された物標の部分を遮光する制御を行ってもよい。
【0080】
より高度には、配光パターン発生器222は、配光パターンPTNの各メッシュの照度を、そのメッシュに対応するカメラ画像IMGの画素の値(画素値)にもとづいて変化させてもよい。これをコントラスト制御と称する。図6(a)、(b)は、コントラスト制御を説明する図である。横軸はカメラ画像の画素値を、縦軸は対応するメッシュの照度を表す。
【0081】
図7(a)は、ローコントラスト制御を説明する図である。ローコントラスト制御では、被照射物の明るさ、言い換えれば画素値に応じて、明るい物体ほど照度を低く、暗い物体ほど照度を高く設定する。これにより、暗い部分と明るい部分の明暗差が小さくなり、特に暗い部分の視認性を高めることができる。なお、右肩下がりの直線が実線の他、破線で示すように右肩下がりの階段状の離散的な制御を行ってもよいし、一点鎖線で示すようなカーブに沿った制御を行ってもよい。あるいは各メッシュの画素値が所定の目標値に近づくように、フィードバック制御によってメッシュの照度を調節してもよい。
【0082】
図7(b)は、ハイコントラスト制御を説明する図である。ハイコントラスト制御では、被照射物の明るさに応じて、明るい物体ほど照度を高く、暗い物体ほど照度を低く設定する。これにより、暗い部分と明るい部分の明暗差が大きくなる。明暗差の大きい視野は、人間の眼が、瞬間的に物体の位置や形状をしやすいという利点がある。右肩上がりの直線にもとづく制御のほか、破線で示すように右肩上がりの階段状の制御を行ってもよいし、一点鎖線で示すようなカーブに沿った制御を行ってもよい。
【0083】
続いて光源ユニット230の構成例について説明する。図8は、光源ユニット230の構成例を示す図である。図8の光源ユニット230Aは、光源232、点灯回路234、パターニングデバイス236を含む。そのほか、光源ユニット230Aは、図示しない反射光学系や透過光学系を含んでもよい。
【0084】
光源232は、LEDやLDなどの高輝度な半導体光源が好適である。点灯回路234は、光源232に、安定化された駆動電流(ランプ電流)を供給し、光源232を所定の輝度で発光させる。光源232の出射光は、パターニングデバイス236に入射する。
【0085】
パターニングデバイス236は、DMDあるいは液晶パネルが利用可能である。DMDは反射角が個別に制御可能なマイクロミラーのアレイであり、マイクロミラーごとに実効的な反射率が多階調で制御可能となっている。液晶パネルは透過率が個別に制御可能な画素のアレイであり、画素ごとに透過率が多階調で制御可能となっている。
【0086】
図9は、光源ユニット230の別の構成例を示す図である。図9の光源ユニット230Bは、スキャン式の灯具であり、光源232、点灯回路234および走査光学系238を含む。走査光学系238は、光源232の出射ビームを走査可能に構成される。たとえば走査光学系238は、モータ239aと、モータ239aの回転軸に取り付けられたリフレクタ(ブレード)239bと、を含んでもよい。モータ239aが回転すると、リフレクタ239bの反射面と出射ビームがなす角度が変化し、それにともなって走査ビームBMSCANが走査される。走査ビームBMSCANの光路上には、透過系あるいは反射系の投影光学系235が設けられてもよい。
【0087】
以上、本発明の一側面について、第1の実施の形態をもとに説明した。続いて第1の実施の形態に関連する変形例を説明する。
【0088】
(変形例1)
実施の形態では、モードコントローラ224によって制御モードを適応的に切替えたが、制御モードを運転者が手動で選択可能としてもよい。人間の眼の細胞の特性は個人差が存在し、また、好ましいと感じる配光パターンにも個体差が存在する。そこで運転者に、制御モードを選択する自由を提供することにより、個々の運転者にとって適切な配光パターンを実現できる。
【0089】
(変形例2)
制御モードを自動制御する際に参照するパラメータを、運転者が入力できるようにしてもよい。これにより、運転者ごとに適切な制御モードの切替えを提供できる。
【0090】
(変形例3)
実施の形態では、コントロールユニット220のハードウェアの処理速度の制約を考慮したが、その限りではなく、コントロールユニット220は、図5において最高解像度、最高更新速度に対応する領域910において動作可能であってもよい。この場合であっても、本発明の利益を享受できる。
【0091】
(変形例4)
実施の形態では、主として運転者の視認性に主眼を置いた処理を説明したが、その限りでない。自動運転や半自動運転では、車載カメラによる物標認識が重要であるから、車載カメラにとって、物標認識がしやすいように、制御モードを適応的に切りかえてもよい。
【0092】
(第2の実施の形態)
図10は、第2の実施の形態に係る車両用灯具システムのブロック図である。車両用灯具システム100は、車両用灯具200、車両ECU(Electronic Control Unit)102、バッテリ104を備える。バッテリ104が発生するバッテリ電圧VBATは、車両用灯具200に電源電圧として供給される。車両ECU102と車両用灯具200は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などのプロトコルに準拠しており、通信可能となっている。車両ECU102は、車両用灯具200の点消灯を制御し、また、車速、ステアリングなどの車両の情報を車両用灯具200に送信する。車両用灯具200から車両ECU102へは、フェイル信号などが送信可能となっている。
【0093】
車両用灯具200は、カメラユニット210が撮像した画像(以下、初期画像データIMG1という)にもとづいて配光パターンPTNを動的、適応的に制御可能に構成される。なお、この初期画像データIMG1は、動画を構成する1枚のフレームデータに相当する。カメラユニット210は、ひとつのカメラのみを含んでもよいし、解像度および/またはフレームレートの異なる複数のカメラを含んでもよい。カメラユニット210が複数のカメラを含む場合、初期画像データIMG1は、複数のカメラの出力データの総称として把握される。
【0094】
配光パターンPTNは、車両用灯具200が自車前方の仮想鉛直スクリーン900上に形成する照射パターン902の2次元の照度分布と把握される。車両用灯具200は、配光パターンPTNの生成に関して、コントロールユニット(制御装置)220および光源ユニット230を備える。コントロールユニット220は灯具ECUとも称される。
【0095】
配光パターンPTNは、複数のメッシュ(個別領域)に分割され、同一メッシュの照度は一定となっている。配光パターンPTNの空間的な解像度は、メッシュの細かさ(荒さ)に対応付けられる。その限りでないが、たとえば配光パターンの解像度は、WUXGA(1920×1200)、FHD(1920×1080)、FWXGA(1366×768あるいは1280×720)、SXGA(1280×1024)、WXGA(1280×800)、WVGA(800×480)、VGA(640×480)、QVGA(320×240)のいずれかであってもよい。あるいはさらに粗い解像度であってもよいし、より高精細な4Kや8K相当の解像度を有してもよい。
【0096】
図11(a)~(c)は、配光パターンPTNを説明する図である。図11(a)は、初期画像データIMG1の一例を示し、図11(b)、(c)は、図11(a)の初期画像データIMG1に対応する配光パターンPTNの一例を示す図である。ここで説明の容易化のために、初期画像データIMG1から特定物標を抽出し、特定物標が存在する箇所のメッシュを遮光(すなわち照度ゼロ)とする例を説明する。特定物標は、眩惑すべきでない対象物であり、先行車904、対向車906、歩行者908が例示される。図11(b)、(c)において、遮光される領域にはハッチングが付されている。図11(b)の配光パターンPTNは図11(c)の配光パターンより高解像度である。解像度が高い方が、より正確に特定物標の形状に即した遮光を実現できる。
【0097】
配光パターンPTNの解像度をさらに高めれば、先行車904のリアウィンドウの部分のみ、あるいは対向車906のフロントウィンドウの部分のみ遮光し、ボディは積極的に照度を高めることも可能である。同様に歩行者908の顔の部分のみを遮光し、体の部分は積極的に照度を高めることも可能である。これによりグレアを防止しつつ、自車運転者の視認性を一層高めることができる。
【0098】
図10に戻り、車両用灯具200の具体的な構成を説明する。車両用灯具200は、カメラユニット210に加えて、コントロールユニット220および光源ユニット230を備える。なお図10ではカメラユニット210は、車両用灯具200に内蔵されているが、車両側に設けられてもよい。
【0099】
コントロールユニット220は、車両用灯具200を統合的に制御する。コントロールユニット220は、画像処理部221や、図示しないその他の処理部を含む。画像処理部221は、デジタルプロセッサで構成することができ、たとえばCPUやマイコンとソフトウェアプログラムの組み合わせで構成してもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specified IC)などで構成してもよい。
【0100】
前処理部226は、カメラユニット210が撮像した初期画像データIMG1を受け、初期画像データIMG1に応じた中間画像データIMG2を生成する。
【0101】
初期画像データIMG1の画素のうち、画素値が所定範囲RNGに含まれる画素に関して、中間画像データIMG2における実効的な階調数は、初期画像データIMG1における階調数よりも小さい。本実施の形態では簡単のためにモノクロ画像を考えるが、カラー画像であってもよい。前処理部226は、初期画像データIMG1から中間画像データIMG2を生成する際に、解像度を低下する処理を行ってもよい。
【0102】
配光パターン発生器222は、中間画像データIMG2にもとづいて車両用灯具200の照度分布(配光パターンPTN)を規定する照度制御データを生成する。中間画像データIMG2にもとづく配光パターンPTNの生成方法は特に限定されないが、配光パターンPTNに含まれる個別領域(メッシュ)の照度は、中間画像データIMG2の対応する画素の値(画素値)にもとづいている。
【0103】
光源ユニット230は、配光パターン発生器222から配光パターンPTNを指示する照度制御データを受け、車両前方に配光パターンPTNに応じた照度分布を形成可能に構成される。光源ユニット230の構成は特に限定されず、たとえば、LD(レーザダイオード)やLED(発光ダイオード)などの半導体光源と、半導体光源を駆動して点灯させる点灯回路と、を含みうる。光源ユニット230は、配光パターンPTNに応じた照度分布の形成のために、たとえばDMD(Digital Mirror Device)や液晶デバイスなどの、マトリクス型のパターン形成デバイスを含んでもよい。
【0104】
以上が車両用灯具200の構成である。続いてその動作を説明する。図12は、図10の車両用灯具200における信号処理を説明する図である。図12では、説明の簡潔化のために、画像データを一次元に簡素化して示す。階調数の低減処理の対象となる所定範囲RNGにはハッチングが付されている。この例では、画素値0~11の12階調分が所定範囲RNGとなっている。中間画像データIMG2を参照すると、所定範囲RNGの実効的な階調数は3階調となっている。
【0105】
もとの初期画像データIMG1には、ノイズNがランダムに含まれている。このノイズのうち、所定範囲RNGに含まれるノイズは、階調数を減ずることにより除去することができる。
【0106】
なお階調数を減ずる処理は、下位の数ビットを丸める(切り上げあるは切り下げる処理)であってもよい。図12の例では、下位2ビットをゼロとすることにより、丸め処理が行われている。下位何ビットを丸めるか、言い換えればどの程度階調数を減ずるかは、ノイズNの振幅およびノイズNが最終的な配光パターンに与える影響を考慮して規定すればよい。そこで画像処理部221は、階調数を減ずる程度を、初期画像データIMG1に含まれるノイズの振幅(言い換えればS/N比)に応じて変化させてもよい。
【0107】
以上が車両用灯具200の動作である。この車両用灯具200によれば、初期画像データIMG1に含まれる画素のうち、最終的な照度分布においてノイズの影響が顕著となる画素に関しては、実効的な階調数を減ずることにより、カメラ由来のノイズの影響が低減された配光を形成できる。またハッチングを付した所定範囲RNGに限って階調数を減ずることにより、ノイズが目立ちにくいそれ以外の範囲の画素については、元の高い階調数を維持できる。
【0108】
本発明は、図10のブロック図や回路図から把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や変形例を説明する。
【0109】
配光パターン発生器222における画像処理と、中間画像データの生成の関係について、いくつかの実施例を参照しながら詳細に説明する。
【0110】
(第1実施例)
図13は、第1実施例に係る画像処理を説明する図である。最も簡易には、配光パターン発生器222は初期画像データIMG1にもとづいて特定の物標を検出し、検出された物標の部分を遮光(もしくは減光)する制御を行ってもよい。たとえば、遮光すべき物体としては、対向車、先行車、街灯や電子掲示板などの発光体などが例示される。対向車、先行車はグレア抑制の観点から遮光が要請され、街灯や電子掲示板などの発光体は、そもそも前照灯を照射しても意味がない。
【0111】
そこで画像処理部221は、初期画像データIMG1のうち、画素値が所定の閾値THを超える画素に関しては、発光体が存在する蓋然性が高い範囲と判定し、遮光(あるいは減光)する制御を行ってもよい。
【0112】
このような制御を行う場合、初期画像データIMG1の画素値が閾値THの近傍にあるときに、ノイズが重畳された画素値が、閾値THとクロスすることになり、ランダムなノイズに応じて遮光領域が形成されてしまう。この様子は、図13の上から3段目の配光パターンに示される。
【0113】
そこで所定範囲RNGおよび所定範囲RNG内における中間画像データの階調数を、ノイズの振幅および閾値THと対応付けて規定することにより、ノイズの影響を低減できる。この様子は、図13の上から4段目の配光パターンに示される。
【0114】
(第2実施例)
配光パターン発生器222は、初期画像データIMG1にもとづいて、車両前方視野のコントラストを低下させる、あるいはコントラストを高める処理を行ってもよい。ここでのコントラストとは、暗部と明部の明るさの比として把握される。
【0115】
より詳しくは、コントラストを低下させるためには、暗い部分(反射率の低い部分)の照度を高め、反対に明るい部分の照度を低下させればよく、言い換えれば被照射物の明るさに応じて、明るい物体ほど照度を低く、暗い物体ほど照度を高く設定する。すなわち、配光パターンの各個別領域について、初期画像データIMG1の対応する画素の画素値が低いほど、照度を高め、画素値が高いほど照度を低く設定すればよい。本明細書において、この処理をローコントラスト制御という。
【0116】
図14(a)は、ローコントラスト制御を説明する図である。これにより、暗い部分と明るい部分の明暗差が小さくなり、特に暗い部分の視認性を高めることができる。なお、右肩下がりの直線が実線の他、破線で示すように右肩下がりの階段状の離散的な制御を行ってもよいし、一点鎖線で示すようなカーブに沿った制御を行ってもよい。あるいは各メッシュの画素値が所定の目標値に近づくように、フィードバック制御によってメッシュの照度を調節してもよい。
【0117】
反対にコントラストを高めるためには、暗い部分(反射率の低い部分)の照度を低く、反対に明るい部分の照度を高めればよく、言い換えれば被照射物の明るさに応じて、明るい物体ほど照度を高く、暗い物体ほど照度を低く設定する。すなわち、配光パターンの各個別領域について、初期画像データIMG1の対応する画素の画素値が低いほど、照度を低く、画素値が高いほど照度を高く設定すればよい。本明細書においてこの処理を高コントラスト処理という。図14(b)は、ハイコントラスト制御を説明する図である。ハイコントラスト制御では、これにより、暗い部分と明るい部分の明暗差が大きくなる。明暗差の大きい視野は、人間の眼が、瞬間的に物体の位置や形状をしやすいという利点がある。右肩上がりの直線にもとづく制御のほか、破線で示すように右肩上がりの階段状の制御を行ってもよいし、一点鎖線で示すようなカーブに沿った制御を行ってもよい。
【0118】
図15は、第2実施例に係る画像処理を説明する図である。ここでは図14(a)に示すローコントラスト制御を、階調反転によって実現する場合を説明する。たとえば最大階調をMAX、ある画素の画素値をXとするとき、反転された階調Yは以下の式で与えられる。
Y=MAX-X
【0119】
初期画像データIMG1について直接階調反転を行うと、低階調が照射分布の高階調領域に移動する。したがって、初期画像データIMG1の低階調に含まれるノイズが、照度の高い領域に含まれることになり、目立ってしまう(図15の右上の丸めなし)。具体的には配光パターンの明るい領域内に、ノイズにより暗くなるスポットが含まれることになり、視認性が低下するおそれがある。
【0120】
そこで初期画像データIMG1をそのまま階調反転するのではなく、初期画像データIMG1において低階調の範囲(0~A)において画素値を丸めて中間画像データIMG2を生成し、中間画像データIMG2を階調反転することで、照度の高い領域のノイズを低減できる(図15の右下の丸めあり)。
【0121】
まとめると以下の技術的思想を導くことができる。すなわち画像処理部221は、照度分布でノイズが目立つ照度範囲に含まれるノイズが低減されるように、所定範囲RNGを規定すればよい。画素値をX、それに対応する照度をYとするとき、それの関係が任意の関数で表されるとする。
Y=f(X)
このとき、照度分布にノイズが含まれる場合に、そのノイズが目立つ照度範囲の上限値をYMAX,下限値をYMAXとする。YMAX、YMINに対応する画素値XMAX、XMINは以下の式で与えられる。
XMAX=f-1(YMAX)
XMIN=f-1(YMIN)
f-1は、関数fの逆関数である。そこで、所定範囲の上限および下限を、XMAXとXMINで規定すればよい。なお、XMAX>XMINの場合もあり得るし、XMAX<XMINの場合もあり得る。
【0122】
(第3実施例)
コントラスト制御の別の例を説明する。図16(a)、(b)は、第3実施例に係るコントラスト制御を説明する図である。図16(a)は、物体の反射率(%)と明るさの関係を示し、被写体に依存しない一定の照度で照射した場合、(i)で示すように物体の明るさと反射率は比例する。いわゆる画像処理の分野におけるハイコントラスト画像とは、(ii)に示すような階調分布を有し、ローコントラスト画像とは、(iii)に示すような階調分布を有する場合がある。
【0123】
図16(b)は、物体の反射率と照度(正規化した相対値)の関係を示す。物体の反射率は画素値と読み替えてもよい。ハイコントラスト制御あるいはローコントラスト制御いずれの場合も、反射率が低い領域において、反射率-照度特性の傾きが大きい。このことは、画素値の低階調領域におけるノイズの振幅が増幅されることを意味する。このことから図16(a)に示すようなコントラスト制御を行う場合には、低階調領域を、所定範囲RNGとして丸め処理を行い、中間画像データIMG2を生成するとよい。
【0124】
まとめると以下の技術的思想を導くことができる。すなわち画像処理部221は、画素値から照度に変換(写像)する際に、ノイズの振幅が増幅される階調範囲が存在する場合に、その階調範囲を、所定範囲RNGを規定すればよい。
【0125】
画素値をX、それに対応する照度をYとするとき、それの関係が任意の関数で表されるとする。
Y=f(X)
ノイズの増幅率が高い範囲は、関数f(X)の傾きが大きい範囲であり、微分関数f’(X)の絶対値が大きい範囲に相当する。そこで、傾き|f’(X)|の最大値を与える画素値をXMAXとするとき、画素値XMAXを含むように、所定範囲RNGを規定すればよい。
【0126】
以上、本発明の一側面について、第2の実施の形態をもとに説明した。続いて第2の実施の形態に関連する変形例を説明する。
【0127】
(変形例1)
実施の形態では、主として運転者からみたときのノイズ対策について説明したが、その限りでない。自動運転や半自動運転では、車載カメラによる物標認識が重要であるから、車載カメラにとって好ましくないノイズが低減されるように、丸め処理を行うべき所定範囲RNGを決定してもよい。
【0128】
(変形例2)
実施の形態では、配光パターンの明るい領域内に、ノイズにより暗くなるスポットが含まれると視認性が低下する場合を説明したがその限りでない。人間の眼は、明るい領域の輝度変化よりも、暗い領域における輝度変化の方に敏感である。この観点からみると、配光パターンの暗い領域内に、ノイズにより明るくなるスポットが含まれると、不快な場合もあり得る。したがってこの場合には、照度の暗い階調内に含まれるノイズが低減されるように、所定範囲RNGを規定すればよい。
【0129】
(変形例3)
実施の形態では、階調数を減ずる丸め処理として、ビットの切り捨て(切り上げ)を説明したがその限りでない。所定範囲RNGに含まれる画素値については、1より小さい係数を乗算することにより、実質的な階調数を減らしてもよい。この処理は所定範囲RNGが、低階調領域である場合に有効である。
【0130】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0131】
100…車両用灯具システム、102…車両ECU、104…バッテリ、200…車両用灯具、210…カメラユニット、220…コントロールユニット、221…画像処理部、222…配光パターン発生器、224…モードコントローラ、226…前処理部、230…光源ユニット、232…光源、234…点灯回路、236…パターニングデバイス、238…走査光学系、240…照度センサ、PTN…配光パターン、IMG…カメラ画像、900…仮想鉛直スクリーン、902…照射パターン、904…先行車、906…対向車、908…歩行者。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、車両用灯具に利用できる。
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