(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136321
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】アリ忌避製品
(51)【国際特許分類】
A01N 31/04 20060101AFI20220908BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220908BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220908BHJP
A01N 35/06 20060101ALI20220908BHJP
A01N 31/08 20060101ALI20220908BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20220908BHJP
A01N 37/10 20060101ALI20220908BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220908BHJP
A01N 35/04 20060101ALI20220908BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20220908BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A01N31/04
A01N25/00 101
A01N25/34 A
A01N35/06
A01N31/08
A01N37/02
A01N37/10
A01P17/00
A01N35/04
A01N31/06
A01N37/06
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122632
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2021083791の分割
【原出願日】2017-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 弘基
(72)【発明者】
【氏名】三木 悠記子
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】アリ類、特にヒアリやカミアリ等の特定外来アリに対する空間忌避効果が高いアリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品の提供。
【解決手段】(1)アリ忌避成分として、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種又は2種以上と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とを、(a)/(b)=0.1/1~10/1の配合比率で含有するアリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品。前記アリ忌避組成物には、更に(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類から選ばれる1種又は2種以上が配合されるのが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリ忌避組成物を用い、固形剤に調製してなるアリ忌避製品であって、
前記固形剤は、前記アリ忌避組成物を含有させた担持体からアリ忌避成分を空間に揮散させてアリに対する忌避効果を奏し得るようになしたものであり、
前記担持体は、プラスチック樹脂フィルム又は成形体、あるいはシリコーンゴム成形体であり、
前記アリ忌避組成物は、
アリ忌避成分として、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種又は2種以上と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とを、(a)/(b)=0.1/1~10/1の配合比率で含有し、
前記(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類は、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2-メチルウンデカナール、トリデカナール、10-ウンデセナール、シトラール、シンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、l-カルボン、メントン、プレゴン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、2-ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、又はメチルスチリルケトンであり、
前記(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類は、デヒドロリナロール、メントール、ボルネオール、1-フェニルエチルアルコール、又は2-フェニルエチルアルコールであり、
更に、アリ忌避成分として、(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類から選ばれる1種又は2種以上を含有し、
前記(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類は、メンチルアセテート、テルピニルアセテート、ネピルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、シンナミルプロピオネート、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、3-ヘキセニルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、エチルシンナメート、メチルサリシネート、エチルサリシネート、アミルサリシネート、メチルジャスモネート、又はメチルジヒドロジャスモネートであるアリ忌避製品。
【請求項2】
前記アリ忌避組成物は、
実質的に殺虫成分を含有しない請求項1に記載のアリ忌避製品。
【請求項3】
前記アリは、ヒアリ又はカミアリである請求項1又は2に記載のアリ忌避製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、屋外から家屋内に侵入するアリ類の被害や苦情が増加し、アリ類は重要な不快害虫の一つにあげられている。また、最近、特定外来生物に指定されている「ヒアリ」や「カミアリ」が日本数箇所で発見され社会問題になっているが、この種のアリは強い毒を持ち、繁殖力が高いことから速やかな侵入防止対策が求められている。従来、これらアリ類の防除方法としては、殺虫成分を含有する液剤やエアゾールを散布したり、ベイト剤を喫食させて巣に持ち帰らせ巣ごと退治する、いわゆる駆除が主体であった。
しかしながら、アリ類は、家屋内に侵入したり、危害を与えたりしなければ必ずしも駆除の必要がないとの声も聞かれる。更に、特定外来生物であるアリを駆除するために殺虫剤を多用すれば在来アリも殺してしまうことの問題点も指摘されている。このため、アリ類を駆除するのではなく、家屋の入り口や周辺等に予めアリ忌避剤を施用してアリ類を近づけない方法も模索されているのが現状である。
【0003】
例えば、特許第3848412号公報(特許文献1)には、天然精油であるオークモス、サンダルウッド油、スペアミント油、タイムホワイト油、バチョウリ油、ガーリック油、シナモンリーフ油、タイムレッド油、ペルーバルサムバルサムの1種又は2種以上を有効成分として含有するアリ類の忌避剤が記載されている。この忌避剤は、天然精油を使用するため安全性が高く屋内でも問題なく使用でき空間忌避効果も奏するとしているが、その忌避効果は十分とは言えない。
また、特許第5840477号公報(特許文献2)は、トリシクロデセニルアセテート、トリシクロデセニルプロピオネート、トリシクロデセニルイソブチレート、テトラヒドロゲラニオール、フェネチルイソアミルエーテル、ジヒドロインデニル-2,4-ジオキサン、マグノラン、及びルバフランから選ばれる1種又は2種以上をアリ忌避成分として含有するアリ防除剤を開示する。このアリ防除剤は、アリ忌避成分として比較的揮散性の低い香料成分を使用し、家屋の入り口や周辺等に施用するような場面では、1週間以上にわたりクロヤマアリ、アミメアリ等の在来アリ類を忌避させることができる反面、即効的な空間忌避効果を目的とするものではなかった。
このように、今般問題となっているヒアリやカミアリ等の特定外来生物に指定されているアリを含め、アリ類に対して十分実用的な空間忌避効果を奏するアリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品は未だ得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3848412号公報
【特許文献2】特許第5840477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アリ類、特にヒアリやカミアリ等の特定外来生物に指定されているアリに対する空間忌避効果が高いアリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)アリ忌避成分として、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種又は2種以上と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とを、(a)/(b)=0.1/1~10/1の配合比率で含有するアリ忌避組成物。
(2)前記(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類は、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2-メチルウンデカナール、トリデカナール、10-ウンデセナール、シトラール、ネラール、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、トリデカノン、l-カルボン、メントン、プレゴン、シス-ジャスモン、ジヒドロジャスモン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、α-イオノン、β-イオノン、2-ペンチルシクロペンタノン、2-ヘキシルシクロペンタノン、2-ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、メチルスチリルケトンであり、
前記(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類は、リナロール、デヒドロリナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、メントール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、イソプレゴール、ボルネオール、1-フェニルエチルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、チモール、オイゲノールである(1)に記載のアリ忌避組成物。
(3)アリ忌避成分として、(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類から選ばれる1種又は2種以上を更に含有する(1)又は(2)に記載のアリ忌避組成物。
(4)前記(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類は、デシルアセテート、リナリルアセテート、ゲラニルアセテート、シトロネリルアセテート、メンチルアセテート、テルピニルアセテート、ネピルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、トリシクロデセニルプロピオネート、トリシクロデセニルイソブチレート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、シンナミルプロピオネート、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、3-ヘキセニルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、エチルシンナメート、メチルサリシネート、エチルサリシネート、アミルサリシネート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネートである(3)に記載のアリ忌避組成物。
(5)更に、アリ忌避増強成分として、ディート、イカリジン、及びブチルアセチルアミノプロピオン酸エチル(以下、IR3535と略す)から選ばれる1種又は2種以上を含有する(1)ないし(4)のいずれか1に記載のアリ忌避組成物。
(6)実質的に殺虫成分を含有しない(1)ないし(5)のいずれか1に記載のアリ忌避組成物。
(7)前記アリは、ヒアリ又はカミアリである(1)ないし(6)のいずれか1に記載のアリ忌避組成物。
(8)(1)ないし(7)のいずれか1に記載のアリ忌避組成物を用い、液状製剤又は固形剤に調製してなるアリ忌避製品。
(9)前記固形剤は、前記アリ忌避組成物を含有させた担持体からアリ忌避成分を空間に揮散させてアリに対する忌避効果を奏し得るようになしたものである(8)に記載のアリ忌避製品。
(10)前記担持体は、プラスチック樹脂フィルム又は成形体、もしくはシリコーンゴム成形体である(9)に記載のアリ忌避製品。
(11)前記アリは、ヒアリ又はカミアリである(8)ないし(10)のいずれか1に記載のアリ忌避製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアリ忌避組成物は、特定のアリ忌避成分を含有し、アリ類、特にヒアリやカミアリ等の特定外来生物であるアリに対する空間忌避効果に優れるので極めて実用性が高い。従って、このアリ忌避組成物を用いた本発明のアリ忌避製品も非常に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のアリ忌避組成物は、アリ忌避成分として、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種又は2種以上と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とを、(a)/(b)=0.1/1~10/1の配合比率で含有することを特徴とする。
【0009】
前記(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類の具体例としては、例えば、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、2-メチルウンデカナール、トリデカナール、10-ウンデセナール、シトラール、ネラール、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、リリアール、ペリルアルデヒド、トリベルタール、クミンアルデヒド、ヘリオトロピン、トリデカノン、l-カルボン、メントン、プレゴン、シス-ジャスモン、ジヒドロジャスモン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、α-イオノン、β-イオノン、2-ペンチルシクロペンタノン、2-ヘキシルシクロペンタノン、2-ヘプチルシクロペンタノン、メチルベンジルケトン、メチルスチリルケトンがあげられる。
【0010】
一方、前記(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類の具体例としては、例えば、リナロール、デヒドロリナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、メントール、テルピネオール、テルピネン-4-オール、イソプレゴール、ボルネオール、1-フェニルエチルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、チモール、オイゲノールがあげられる。
【0011】
本発明では、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種又は2種以上と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とを併用する必要がある。そして、本発明者らの検討結果によれば、(a)/(b)の配合比率が0.1/1~10/1の範囲において、アリ類、特にヒアリやカミアリ等の特定外来生物であるアリに対し相乗的に高い空間忌避効果を奏することが認められた。(a)/(b)の配合比率がこの範囲を外れると相乗効果が得られず併用するメリットはない。
【0012】
本発明のアリ忌避組成物は、アリ忌避成分として、(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類から選ばれる1種又は2種以上を更に含有するのが好ましい。このような炭化水素エステル類は、アリ忌避効果の増強に寄与し得るものであり、具体例としては、例えば、デシルアセテート、リナリルアセテート、ゲラニルアセテート、シトロネリルアセテート、メンチルアセテート、テルピニルアセテート、ネピルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、トリシクロデセニルプロピオネート、トリシクロデセニルイソブチレート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、シンナミルプロピオネート、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、3-ヘキセニルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、エチルシンナメート、メチルサリシネート、エチルサリシネート、アミルサリシネート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネートがあげられるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明のアリ忌避組成物には、上記以外の香料成分、例えば、d-リモネン、α-ピネン、β-ピネン等の炭化水素類、イソアミルフェニルエチルエーテル、リナロールオキサイド、1,8-シネオール、ローズオキサイド、ジフェニルエーテル、マグノラン、ルバフラン、ジヒドロインデニル-2,4-ジオキサン等の炭化水素エーテル類、2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、シトロネリルニトリル、ステモン、o-アミノアセトフェノン等の含窒素化合物類等を配合しても構わない。また、サンダルウッド油、スペアミント油、タイムホワイト油、バチョウリ油、ガーリック油、シナモンリーフ油、タイムレッド油、ジャスミン油、ネロリ油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油等の精油類も適宜配合可能である。
なお、本発明においては、精油として配合されたとしても、前記アリ忌避成分が精油中に5質量%以上含まれる場合、個々のアリ忌避成分として配合されたものと定義する。
【0014】
本発明のアリ忌避組成物には、アリ忌避成分の揮散後の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2~20Paのグリコール類及び/又はグリコールエーテル類の1種又は2種以上を配合してもよい。このようなグリコール類及び/又はグリコールエーテル類は、溶剤としてのみならず、アリ忌避成分に対して特異的に忌避効果の持続作用を奏し得ることを初めて知見したものである。
その具体的代表例(20℃における蒸気圧を併記)としては、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルがあげられ、なかんずく、ジプロピレングリコールが本発明の目的に合致する。
なお、忌避効果持続成分の配合量としては、前記アリ忌避成分の0.2~10倍程度が適当である。
【0015】
本発明では、前記各種成分に、本発明の効果に支障を来たさない限りにおいて、例えば、蚊に対する忌避成分、殺虫成分、消臭成分、除菌・抗菌成分等の他の機能性成分を配合してアリ忌避組成物を構成してもよい。
かかる機能性成分のうち、蚊に対する忌避成分であるディート、イカリジン、IR3535は、アリ忌避成分と混用することによってそのアリ忌避効果を増強させ得ることが認められた。一方、殺虫成分としては、常温揮散性ピレスロイド系のエムペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等が好適な代表例としてあげられるが、本発明の趣旨に照らし、配合するとしても極力微量に留めるのが好ましい。また、消臭成分としては、イネ科、ツバキ科、イチョウ科、モクセイ科、クワ科、ミカン科、キントラノオ科、カキノキ科の中から選ばれる植物抽出物が代表的である。更に、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加してリラックス効果を付与することもできる。
なお、アリ忌避組成物を、例えば、マイクロカプセル化したり、サイクロデキストリン化して当該組成物の安定化を図ったり、アリ忌避成分の揮散性を調節することも可能である。
【0016】
こうして得られた本発明のアリ忌避組成物は、そのまま若しくは希釈して使用することもできるが、通常、これを用いて種々剤型のアリ忌避製品を調製する。
その剤型としては、スプレーの形態で用いられる液剤、乳剤、水溶剤、マイクロエマルジョンやエアゾール等の液状製剤と、粉剤、粒剤、ベイト剤等の固形剤があげられる。そして、かかるアリ忌避製品を製するにあたっては、必要に応じ、溶剤、界面活性剤、可溶化剤、ゲル化剤、分散剤、安定化剤、pH調整剤、着色剤等を適宜配合してもよい。
【0017】
アリ忌避製品の調製に用いる溶剤としては、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ノルマルパラフィンやイソパラフィン等の炭化水素系溶剤等があげられる。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤や、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤を例示することができる。
また、ゲル化剤としては、ポリビニルアルコール、アルギン酸、カラギーナン等が適宜用いられる。
【0018】
本発明のアリ忌避製品は、液状製剤よりも固形剤が好ましい。これは、使い易いこと、液漏れの心配がないことや薬液が手指に触れる危険性の少ないこと等のメリットが勘案されるためである。なかでも、アリ忌避組成物を担持体に含有させ、この担持体からアリ忌避成分を空間に揮散させる形態が好適に採用される。
ここで担持体としては、木粉、小麦粉等の各種植物質粉末、紙、織布、不織布等の基布、ビスコパール等の多孔質有機成形体、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、珪石、珪砂、セラミックス等の無機担持体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、スチレン系ジブロックポリマー、スチレン系トリブロックポリマー、熱可塑性プラスチックエラストマー(TPE、TPO)等から構成されるプラスチック樹脂フィルム又は成形体、シリコーンゴム等があげられるが、これらに限定されない。
これらのうち、担持体としてプラスチック樹脂フィルム又は成形体、もしくはシリコーンゴム成形体を用いて調製した固形剤は、アリ類に対して効率的に優れた空間忌避効果を奏し、有用性が高いアリ忌避製品の一つである。
【0019】
本発明のアリ忌避製品に含有されるアリ忌避組成物の配合量は、当該忌避製品の使用用途、使用期間、及びその仕様等によって適宜決定すればよいが、液状製剤の場合、0.01~20w/v%、一方、固形剤の場合、0.01~10w/w%程度が適当である。
なお、担持体にアリ忌避組成物を含有させる固形剤においては、1回あたり8~12時間使用の忌避製品の場合、アリ忌避組成物を担持体あたり10~50mg、一方、15~30日使用の忌避製品にあっては100~2000mg程度含有させればよい。
【0020】
本発明のアリ忌避製品を製造するに際しては何ら特別の技術を必要としない。
アリ忌避組成物を担持体に含有させるに際しても、必要に応じて溶剤や界面活性剤等を添加し、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、担持体が不織布の場合、アリ忌避組成物を薬液分注方式や塗布方式によって担持させてもよいし、あるいはパラフィンワックスと共に包埋させるようにしても構わない。
また、プラスチック樹脂フィルム又は成形体、もしくはシリコーンゴム成形体等にこれを担持させるにあたっては、本発明のアリ忌避組成物が揮散性のため高温下での混合工程は避け、薬液分注方式や塗布方式を採用したり、アリ忌避組成物を必要に応じ溶剤と共に噴霧又は滴下して成形体に浸透させる方式が適当である。あるいは、高濃度にアリ忌避組成物を含有させたシリコーンゴム成形体と無処理のシリコーンゴム成形体を密閉容器中に混在させ、適当時間放置してシリコーンゴム成形体全体に亘ってアリ忌避組成物濃度を平均化させる方法によっても本発明のアリ忌避製品を製造可能である。
【0021】
こうして得られた本発明のアリ忌避製品は、その剤型に応じて様々な使用場面に適用される。アリ忌避製品が液剤、エアゾール剤、粉剤、粒剤のような製剤の場合、玄関、台所、トイレ、リビングルーム、寝室などの室内、倉庫、車中等や、ベランダ、ポーチ、庭先、家屋の周囲などに、所定量を散布したり載置したりして、アリ類が近づかない空間を形成することが可能である。その施用量としては、例えば、玄関まわりで液状製剤を使用する場合、10~50mL/m2、固形剤にあっては、10~50g/m2程度が適当である。
一方、上記担持体がプラスチック樹脂成形体やシリコーンゴム成形体の場合、足バンドとして足首や靴等に巻装したり、当該成形体をクリップのような固定具で靴等に装着して使用すれば効果的であるし、また、担持体がシールのような場合、フィルム状担持体の下面に粘着層を設けズボンの下部や靴等に貼付して用いるのが便利である。
【0022】
本発明のアリ忌避製品は、アリ類、具体的には、クロヤマアリ、アミメアリ、トビイロケアリ、トビイロシワアリ、ルリアリ、クロオオアリ、イエヒメアリ、アルゼンチンアリ等に対して実用的な空間忌避効果を示し、特にヒアリやカミアリ等の特定外来生物であるアリに対して効果的である。本発明者らの検討結果によれば、当該アリ忌避製品は、これらのアリによる刺咬被害を防止できるだけでなく、ハチ類、ヤマビル等にも忌避効果を示すことが認められた。しかも、実質的に殺虫成分を含有していない本製品は、殺虫剤の使用を嫌がる人にも手軽に使用できるのでその実用性は極めて高い。
【0023】
次に具体的な実施例に基づき、本発明のアリ忌避組成物、及びこれを用いたアリ忌避製品について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0024】
表1に示す供試アリ忌避組成物をアセトン10mLに溶解して供試薬液を調製し、下記の忌避効力試験を実施した。
[忌避効力試験-1]
供試薬液0.5mLを直径9cmの濾紙に滴下し、風乾後この濾紙を半分に切断した。この半面と無処理濾紙の半面を重ならないように直径9cmのガラスシャーレに置いた。ガラスシャーレの内壁にタルクを塗り、トビイロシワアリ50匹又はヒアリ50匹を放し、5分後、ならびに2時間後に処理面及び無処理面にいる虫数を数え、下式に従って忌避率を求めた。結果を表2に示す。
忌避率=[(無処理面の侵入虫数-処理面の侵入虫数)/供試虫数×100]
【0025】
【0026】
【0027】
試験の結果、アリ忌避成分として、(a)総炭素数が8~16の炭化水素アルデヒド類及び/又は炭化水素ケトン類から選ばれる1種と、(b)総炭素数が8~12のモノテルペン系アルコール類及び/又は芳香族アルコール類から選ばれる1種とを、(a)/(b)=0.1/1~10/1の配合比率で含有する本発明のアリ忌避組成物は、トビイロシワアリのような在来アリはもちろん、特定外来生物であるヒアリに対しても同等以上のアリ忌避効果を示すことが確認された。なお、本発明5、本発明6、本発明12及び本発明13のように、(a)及び(b)のアリ忌避成分に、更に(c)総炭素数が8~16の炭化水素エステル類や人体用の蚊忌避剤であるIR3535やイカリジンを配合することによってアリ忌避効果が増強した。また、本発明7及び本発明14が示す如く、ジプロピレングリコールやヘキシレングリコールの配合は、アリ忌避成分の忌避効果を持続させるうえで効果的であることが認められた。
これに対し、本発明が規定するアリ忌避組成物以外を用いた比較例では、アリ忌避効果が十分と言えないばかりか、ヒアリに対するアリ忌避効果はトビイロシワアリを対象とする場合よりも劣る傾向が認められた。
表3に示す供試アリ忌避組成物にn-パラフィン(ネオチオゾール)を加えエアゾール原液を調製した(アリ忌避組成物含量:エアゾール原液に対し2.0w/v%)。このエアゾール原液50mLをエアゾール容器に充填後、液化石油ガス(LPG)50mLを加圧充填してエアゾール形態の本発明のアリ忌避製品を得た。このアリ忌避製品につき、下記の忌避効力試験を実施した。
[忌避効力試験-2]
20cm角のタイルに供試アリ忌避製品を1m2あたり20mLになるように滴下した。このタイルの中央に誘引剤として3%ショ糖水溶液を含浸させた脱脂綿を置き、在来アリ又は特定外来生物であるアリが生息する草むらに設置した。設置直後、及び設置3日後に、誘引剤に集まったアリを数え、アリ忌避効果を調べた。結果を表4に示す。
評価基準(集まったアリ数);
0匹;◎、 1~5匹;○~◎、 6~10匹;〇、 11~20匹;△、
21~30匹;×~△、 31匹以上;×
試験の結果、本発明のアリ忌避組成物を用いて調製したエアゾール形態のアリ忌避製品は、実施例1と同様、在来アリ及び特定外来生物であるアリのいずれに対しても優れたアリ忌避効果を示した。なお、IR3535の配合は忌避効果増強の点で有用であり、また、ジプロピレングリコールの配合は忌避効果の持続性向上に寄与することが認められた。
別途、本発明21につき、勝手口や玄関のスペースに1m2あたり約20mL噴霧処理したところ、7日間にわたりアリ類の家屋内への侵入は見られなかった。また、処理した所から少し離れた場所に死亡したクロヤマアリやアミメアリが何個体か観察され、アリ忌避成分の忌避効果に加え、殺虫成分であるエムペントリンの作用が覗えた。