(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136440
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】クロップシャーの切断制御方法及び切断制御装置
(51)【国際特許分類】
B23D 36/00 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
B23D36/00 503C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036043
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真野 大地
(57)【要約】
【課題】起動後に被切断材の搬送速度が変化した場合であっても精度高く被切断材を目標切断位置で切断可能なクロップシャーの切断制御方法及び切断制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係るクロップシャーの切断制御方法は、外周面にシャーブレードを備える円筒状のドラムを回転させることによって、搬送されてくる被切断材の先尾端部を切断するクロップシャーの切断制御方法であって、ドラムの回転開始後における被切断材の搬送速度の変化に応じてドラムの回転速度を変化させるステップを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にシャーブレードを備える円筒状のドラムを回転させることによって、搬送されてくる被切断材の先尾端部を切断するクロップシャーの切断制御方法であって、
前記ドラムの回転開始後における前記被切断材の搬送速度の変化に応じて前記ドラムの回転速度を変化させるステップを含むことを特徴とするクロップシャーの切断制御方法。
【請求項2】
外周面にシャーブレードを備える円筒状のドラムを回転させることによって、搬送されてくる被切断材の先尾端部を切断するクロップシャーの切断制御装置であって、
前記ドラムの回転開始後における前記被切断材の搬送速度の変化に応じて前記ドラムの回転速度を変化させる手段を備えることを特徴とするクロップシャーの切断制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロップシャーの切断制御方法及び切断制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロップシャーを利用して被切断材を切断する際には、まず、被切断材の搬送速度を検出し、検出された搬送速度にリード率又はラグ率を乗ずることによりクロップシャーの回転速度を算出する。そして、クロップシャーの加速度、回転速度、及び被切断材を切断するまでの回転距離から算出された被切断材の切断を開始するまでの時間と被切断材が切断点に到達するまでの時間とを比較することにより、被切断材の切断開始タイミングを決定する。なお、この演算処理はクロップシャーの起動(回転開始)前の処理であるため、クロップシャーの回転速度としては予め決定された速度を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、従来のクロップシャーの切断制御方法では、クロップシャーの起動前に被切断材の搬送速度に基づいて被切断材の切断開始タイミングを決定している。このため、従来のクロップシャーの切断制御方法によれば、クロップシャーの起動後に被切断材の搬送速度が変化した場合、被切断材の切断位置が事前の演算結果から変化し、被切断材の切断精度が低下する。なお、特許文献1には、クロップシャーの起動後に被切断材の搬送速度が変化することを見越して、被切断材の搬送速度の変化を予め設定することによって被切断材の切断精度を向上させる方法が提案されている。しかしながら、この方法を用いたとしても、被切断材の搬送速度が予め設定した変化とは異なる変化をした場合には切断誤差が発生する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、起動後に被切断材の搬送速度が変化した場合であっても精度高く被切断材を目標切断位置で切断可能なクロップシャーの切断制御方法及び切断制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクロップシャーの切断制御方法は、外周面にシャーブレードを備える円筒状のドラムを回転させることによって、搬送されてくる被切断材の先尾端部を切断するクロップシャーの切断制御方法であって、前記ドラムの回転開始後における前記被切断材の搬送速度の変化に応じて前記ドラムの回転速度を変化させるステップを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係るクロップシャーの切断制御装置は、外周面にシャーブレードを備える円筒状のドラムを回転させることによって、搬送されてくる被切断材の先尾端部を切断するクロップシャーの切断制御装置であって、前記ドラムの回転開始後における前記被切断材の搬送速度の変化に応じて前記ドラムの回転速度を変化させる手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るクロップシャーの切断制御方法及び切断制御装置によれば、起動後に被切断材の搬送速度が変化した場合であっても精度高く被切断材を目標切断位置で切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すクロップシャーの動作を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、従来のクロップシャーの切断制御方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本発明例及び従来例におけるシャー速度及びシャー移動量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置の構成及び動作について説明する。
【0011】
〔構成〕
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置の構成を示す模式図である。
図2は、
図1に示すクロップシャー30の動作を説明するための模式図である。
【0012】
図1に示すように、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置1(以下、切断制御装置1と略記)は、熱延鋼板等の圧延ラインに設置されたクロップシャーの切断動作を制御する装置である。この切断制御装置1は、搬送装置20、クロップシャー30、被切断材検出器41、回転角検出器42、制御装置50、ドライブ装置61、モータ62、及び速度検出装置70を備えている。
【0013】
搬送装置20は、複数の搬送ロールによって構成され、被切断材Wを搬送する。搬送装置20は、制御装置50と接続されており、制御装置50によってその搬送速度が制御可能に構成されている。搬送装置20は、回転数検出ロール21を備えている。回転数検出ロール21は、搬送装置20の搬送ロールの回転数を検出し、検出された回転数を示す電気信号を速度検出装置70に出力する。
【0014】
クロップシャー30は、圧延ライン上に配置され、搬送装置20によって搬送される被切断材Wの先尾端の形状不良部を切断する。本実施形態では、クロップシャー30は、
図2に示すように、ドラム型クロップシャーにより構成され、被切断材Wを隔てて設けられる一対の円筒状の回転ドラム31(31a,31b)の外周面には2つのシャーブレード32(32a,32b)が周方向に間隔を空けてそれぞれ設けられている。また、クロップシャー30は、モータ62(
図1参照)によって所定の回転数で回転駆動される。
【0015】
このクロップシャー30では、シャーブレード32aにより被切断材Wを切断する際には、まず、回転ドラム31a,31bの周方向における所定の待機位置(TOP待機位置)にシャーブレード32aを移動させる。次に、所定の加速度で回転ドラム31a,31bの回転動作を開始し、シャーブレード32aを被切断材Wに噛込ませて被切断材Wを切断する。次に、被切断材Wの切断が完了し、シャーブレード32aが噛放し位置まで到達すると、所定の減速度で回転ドラム31a,31bの回転動作を停止させる。そして、回転ドラム31a,31bの逆転APC(Automatic Positioning Control)動作を実行し、回転ドラム31a,31bの周方向における所定の待機位置(BOT待機位置)にシャーブレード32aを移動させる。以後同様にしてシャーブレード32bにより被切断材Wを切断する。
【0016】
図1に戻る。被切断材検出器41は、クロップシャー30の上流側に配置され、被切断材W(具体的には先尾端)を検出する。そして、被切断材検出器41は、被切断材Wの検出信号を制御装置50の切断タイミング算出部51に出力する。
【0017】
回転角検出器42は、クロップシャー30の上方に配置され、クロップシャー30のシャーブレード32の回転角(以下、シャー角度と表記)を検出する。そして、回転角検出器42は、検出されたシャー角度を示す電気信号を制御装置50の切断タイミング算出部51に出力する。
【0018】
制御装置50は、クロップシャー30及び搬送装置20の動作を制御するものである。制御装置50は、具体的にはパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の情報処理装置によって実現されるものであり、例えばCPU、ROM、RAM等を主要構成部品としている。
【0019】
制御装置50は、切断タイミング算出部51及びクロップシャー制御部52を備えている。切断タイミング算出部51は、クロップシャー30による被切断材Wの切断タイミングを算出する。切断タイミング算出部51は、被切断材Wの搬送速度、クロップシャー30の回転速度(以下、シャー速度と表記)、シャー角度(シャー移動量)、被切断材検出器41からクロップシャー30までの距離、及び被切断材Wの切断長さに基づいてクロップシャー30の切断タイミングを算出する。なお、クロップシャー30の切断タイミングとは、所望の切断位置で被切断材Wを切断する際にクロップシャー30を起動するタイミング(起動タイミング)のことを示している。
【0020】
ここで、クロップシャー30の回転速度は、予め設定された値である。また、被切断材検出器41からクロップシャー30までの距離とは、具体的には被切断材検出器41が配置された位置、すなわち被切断材Wの先尾端(
図1では先端)の位置から、回転したクロップシャー30が被切断材Wを切断する位置(以下、シャー切断点と表記)までの距離のことを示している。また、被切断材Wの切断長さは、予め設定された値であり、
図1の符号Pで示した被切断材Wが切断される位置(以下、目標切断位置と表記)から、被切断材Wの先尾端(
図1では尾端)までの長さのことを示している。
【0021】
クロップシャー制御部52は、切断タイミング算出部51によって算出された切断タイミングに基づいてクロップシャー30を制御し、被切断材Wの先尾端(同図では尾端)の形状不良部を切断する。
【0022】
ドライブ装置61は、モータ62の動作を制御するものである。ドライブ装置61は、制御装置50及びモータ62と接続されており、制御装置50のクロップシャー制御部52の指示に従ってモータ62の回転数を制御する。
【0023】
モータ62は、クロップシャー30の回転ドラム31を回転させるものである。モータ62は、ドライブ装置61及び回転ドラム31と接続されており、ドライブ装置61の制御に従って回転ドラム31を回転させる。
【0024】
速度検出装置70は、搬送装置20の搬送速度を検出するものである。速度検出装置70は、回転数検出ロール21から入力された搬送ロールの回転数を、搬送ロールの径等に基づいて速度に換算することにより搬送速度を検出する。そして、速度検出装置70は、搬送速度を示す電気信号を制御装置50に出力する。
【0025】
〔動作〕
次に、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置1の動作について説明する。
【0026】
従来のクロップシャーの切断制御方法(従来手法)や特許文献1の記載の方法では、
図3に示すようなシャー速度の時間変化曲線から導出した例えば以下の数式(1)に示すような距離(演算起点センサの設置位置から切断点までの距離)Dの値がマイナスになった時点で被切断材Wの切断を開始している。このため、シャー起動開始後に被切断材Wの搬送速度が減少した場合、被切断材Wの切断位置が事前の演算結果と異なり、被切断材Wの切断タイミングが早まることになる。つまり、被切断材Wの先端の形状不良部の切断であれば、目標よりも短いクロップ片となり、被切断材Wの切断精度が低下する。シャー起動開始後に被切断材Wの搬送速度が増加した場合も同様に被切断材Wの切断精度は低下する。
【0027】
【0028】
そこで、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置1では、クロップシャー制御部52が、シャー起動開始後に速度検出装置70からの電気信号に基づいて被切断材Wの搬送速度の変化を検出する。そして、クロップシャー制御部52は、シャー起動開始後における被切断材Wの搬送速度の変化に応じてシャー速度を変化させる。具体的には、
図4に示すように、シャー起動開始後に被切断材Wの搬送速度が減少した場合、クロップシャー制御部52はシャー速度を減少させる。一方、シャー起動開始後に被切断材Wの搬送速度が増加した場合には、クロップシャー制御部52はシャー速度を増加させる。これにより、起動後に被切断材Wの搬送速度が変化した場合であっても精度高く被切断材Wを目標切断位置で切断することができる。
【0029】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置1では、クロップシャー制御部52が、シャー起動開始後における被切断材Wの搬送速度の変化に応じてシャー速度を変化させるので、起動後に被切断材Wの搬送速度が変化した場合であっても精度高く被切断材Wを目標切断位置で切断することができる。また、クロップ量の削減によって歩留まりを向上させることもできる。
【0030】
なお、本発明の一実施形態であるクロップシャーの切断制御装置1においても被切断材Wの切断誤差を完全に無くすことはできない。その原因は、起動前に演算した被切断材Wの搬送速度での移動距離に到達した時点でクロップシャーが被切断材Wを切断するタイミングが理論的に切断誤差をゼロとすることができるが、そのタイミングにしようとした場合、制御遅れ等の要因によって必ずシャー速度を被切断材Wの搬送速度よりも遅くしなければならないためである。しかしながら、被切断材Wの速度変化が切断タイミングの直前であればその誤差を限りなく少なくすることができる。
【0031】
〔実施例〕
本実施例では、以下のシミュレーション条件にて、起動開始後に被切断材の搬送速度が減少した場合について、起動開始後における本発明例及び従来例のシャー速度及びシャー移動量の時間変化をシミュレーションにより求めた。
【0032】
被切断材の搬送速度:90mpm
リード率:5%
クロップシャー装置の加速度:1450mm/s2
被切断材の搬送速度の変化率:1423mm/s2
クロップシャー装置のドラム径:1m
クロップシャー装置の起動後の移動量:1.05mm(切断点から120°手前を待機位置とした)
サンプリング周期:50msec
被切断材の搬送速度の変化点:クロップシャー装置の起動開始時点から800msec後
被切断材の減速後の搬送速度:50mpm
【0033】
図5にシミュレーション結果を示す。
図5に示すように、従来例における被切断材の切断位置と本発明例における被切断材の切断位置との間の距離は85mmであった。このことから、起動開始後に被切断材の搬送速度が変化した場合であっても、本発明例によれば、従来例と比較して、被圧延材の切断精度が向上し、結果として、クロップ量の削減によって歩留まりを向上できることが確認された。
【0034】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1 クロップシャーの切断制御装置
20 搬送装置
30 クロップシャー
31,31a,31b 回転ドラム
32,32a,32b シャーブレード
41 被切断材検出器
42 回転角検出器
50 制御装置
51 切断タイミング算出部
52 クロップシャー制御部
61 ドライブ装置
62 モータ
70 速度検出装置
W 被切断材