(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136471
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/00 20060101AFI20220913BHJP
B65D 1/40 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B65D1/00 110
B65D1/40 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036099
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓行
(72)【発明者】
【氏名】平出 幸和
【テーマコード(参考)】
3E033
【Fターム(参考)】
3E033AA02
3E033BA07
3E033BA08
3E033BA09
3E033BB08
3E033DA03
3E033DB01
3E033FA01
(57)【要約】
【課題】外表面に設けるデザインを意図どおりに、かつ容易に仕上げることのできる方法を提供する。
【解決手段】彩色を帯びた着色樹脂被覆を有する金属板に、絞り加工もしくはしごき加工を含む成形加工を施して、筒状の胴部を形成した後に、胴部の外表面にデザインを印刷する工程を有する方法であって、胴部の外表面の所定箇所に、色を変えて複数回のデザイン印刷を行って、デザイン印刷で使用した色と所定箇所の下地色との混色サンプルを得て、所定箇所における明度と彩度とが同じ色相グループであるトーン表を作成し、トーン表に基づいて前記デザインの配色を決定し、デザインを印刷する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
彩色を帯びた着色樹脂被覆を有する金属板に、絞り加工もしくはしごき加工を含む成形加工を施して、筒状の胴部を形成した後に、前記胴部の外表面にデザインを印刷する工程を有する、着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法において、
前記胴部の外表面の所定箇所に、色を変えて複数回の印刷を行って、前記印刷で使用した色と前記所定箇所の下地色との混色サンプルを得て、
前記所定箇所における明度と彩度とが同じ色相グループであるトーン表を作成し、
前記トーン表に基づいて前記デザインの配色を決定し、
決定された前記配色で前記デザインを前記所定箇所に印刷する
ことを特徴とする着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法において、
前記胴部の外表面のうち前記胴部における前記デザインを印刷する前記所定箇所以外の箇所を、前記着色樹脂被覆と同色もしくは同系色に印刷することを特徴とする着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法において、
前記ボトル型缶は、デザインを印刷していない底蓋を前記胴部の開口端に巻締めた構成であり、
前記所定箇所以外の箇所を前記着色樹脂被覆と同色もしくは同系色に印刷した後の色と前記金属板における前記着色樹脂被覆の色との色差ΔE*abを「10」以下としたことを特徴とする着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法において、
前記成形加工を行ったことにより前記胴部の外表面の色が、前記金属板の薄肉化に応じた劣化が生じていることを特徴とする着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法において、
前記着色樹脂被覆の色は、前記金属板の素地の色よりも明度が低くもしくは彩度が高い色であることを特徴とする着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂フィルムや塗料などで被覆した金属板(ブランク)に絞り加工やしごき加工を施し、さらにその表面に適宜のデザインを印刷するボトル型缶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボトル型缶は、胴部に対して頸部および口部を細く絞った形状の缶であって、アルミニウムやその合金、あるいはスチールなどの金属板を素材として、従来のガラス瓶を模した形状に成形した缶である。ガラス瓶は、原料となるガラスを適宜の色に着色できるから、色彩の豊かなものとすることができる。ボトル型缶もガラス瓶と同様に色彩の豊かなものとすることが望まれる。しかしながら、金属板を素材としてボトル型缶を製造する場合、胴部から口部に到るいわゆる肩部や頸部、さらにはキャップが取り付けられる口部などを、胴部より小径に絞り、さらには細い筒状に延ばすことになり、変形量の大きい厳しい加工を施すことになる。そのため、金属板(ブランク)に色彩のある被覆を予め施し、これに絞り・しごき加工を施してボトル型缶とする場合、頸部や口部、さらには口部外面のねじ部に変形量の大きい厳しい加工を施すことになるから、被覆に亀裂や破断が生じてしまうことがある。また、ボトル型缶の外表面には、商品を消費者にアッピールするための図柄や文字など(以下、デザインと記す)を色彩豊かに印刷するのが通常である。その印刷に使用するインキは多種多様であり、光が透過して下地が見えることが多々ある。このような場合、下地色がデザインの色と混ざるから、デザイナーが意図し、あるいは指示されている色彩が出ない場合がある。
【0003】
このような不都合を解消するために、従来では、樹脂被覆の成分や組成などを種々に設定することが試みられている。例えば特許文献1に記載された発明では、透明な熱可塑性樹脂層をアルミニウム合金板に接着する接着層に有彩色顔料を混合し、成形加工によって薄くなった胴部では、薄くなった接着剤層を透して地金の銀色が見える金属光沢色の印刷下地となるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス瓶を模してボトル型缶のほぼ全体に任意の色彩を施すべくブランクに濃色の被覆を設けた場合、成形された胴部ではその被覆の色が印刷の下地色なり、その濃色の被覆の色がデザイン色に影響する。その影響の度合いや影響の仕方は、被覆の色や印刷インクの種類などによって異なると思われるが、ブランクに設けてある被覆は、いずれにしてもデザイナーが作成したデザインとは異なる色合いになってしまう要因になる。また、ボトル型缶を成形する場合、ブランクを引き延ばして薄くする程度は、ボトル型缶の部位毎に異なっており、それに併せて被膜の色が劣化する(薄くなる)。そのため、ブランクに設けられる被覆の色(彩度、色相、明度)に基づいてデザインを行ったとしても、成形によって下地色が変化していることにより、デザインされた色あるいはイメージの印刷デザインを得ることは困難である。このような場合、デザインをやり直して、再度、ボトル型缶の胴部に印刷を施して出来映えを見ることも可能である。しかしながら、デザインは単一色からなるものではないから、前回不都合とされた箇所が意図した色合いになったとしても、他の部分で色相や明度などが意図した通りにならないなど、度重なるデザインのやり直しや被覆の色の調整・変更が避けられない可能性がある。
【0006】
特許文献1に記載された発明では、成形加工に伴う下地色の劣化を考慮して、薄くなった接着剤層を透して地金の銀色が見える金属光沢色の印刷下地を設けることとしている。しかしながら、このような構成では、樹脂被覆の色が金属板の色もしくはこれに近い色などに限定されてしまい、色彩の豊かなボトル型缶を得ることができない。
【0007】
この発明は、上述した技術的課題に着目してなされたものであり、胴部のみならず肩部や口頸部などの全体を色彩豊かなものとすることが可能であるうえに、意図したデザインの印刷あるいはデザインの決定を容易なものとすることのできるボトル型缶の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、彩色を帯びた着色樹脂被覆を有する金属板に、絞り加工もしくはしごき加工を含む成形加工を施して、筒状の胴部を形成した後に、前記胴部の外表面にデザインを印刷する工程を有する、着色樹脂被覆金属板からなるボトル型缶の製造方法であって、前記胴部の外表面の所定箇所に、色を変えて複数回の印刷を行って、前記印刷で使用した色と前記所定箇所の下地色との混色サンプルを得て、前記所定箇所における明度と彩度とが同じ色相グループであるトーン表を作成し、前記トーン表に基づいて前記デザインの配色を決定し、決定された前記配色で前記デザインを前記所定箇所に印刷することを特徴とする方法である。
【0009】
この発明の方法においては、前記胴部の外表面のうち前記胴部における前記デザインを印刷する前記所定箇所以外の箇所を、前記着色樹脂被覆と同色もしくは同系色に印刷することとしてもよい。
【0010】
また、この発明の方法においては、前記ボトル型缶は、デザインを印刷していない底蓋を前記胴部の開口端に巻締めた構成とし、前記所定箇所以外の箇所を前記着色樹脂被覆と同色もしくは同系色に印刷した後の色と前記金属板における前記着色樹脂被覆の色との色差ΔE*abを「10」以下としてよい。
【0011】
さらに、この発明では、前記着色樹脂被覆の色は、前記金属板の素地の色よりも明度が低くもしくは彩度が高い色であってよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明においては、金属板に成形加工を実際に施し、その結果としての胴部の有色の外表面についてのトーン表を作成し、そのトーン表に基づいてデザインの配色を決定する。したがって、白色無地の紙面などを下地として配色を決めるのとは異なり、有色で、また成形加工によって劣化している下地に基づいたデザインを行うことになる。そのため、決定された配色でデザインを胴部に印刷すれば、彩色どおりのデザインを印刷することができる。したがって、一旦配色を決めたデザインを胴部に実際に印刷して、その印刷の出来映えを検討した後、再度配色を決めてデザインを実際に印刷してその出来映えを検討するなど、トライ・アンド・エラー式に複数回の配色の検討および印刷を行うのとは異なり、配色の決定の時点で胴部の下地色が考慮されてそれに適した配色がなされるので、配色の失敗の頻度もしくは可能性が低く、デザインを容易に決定してボトル型缶を製造することが可能になる。特に、この発明では、胴部に色の劣化が生じている場合であっても、劣化した色を考慮したデザインが可能であるから、配色の失敗の頻度あるいは可能性を更に低下することができる。
【0013】
また、この発明では、デザインの印刷を行う箇所以外の箇所を、着色樹脂被覆と同色もしくは同系色で印刷するから、胴部に成形加工に伴う色の劣化が生じている場合であっても、その色の補正を行って意図通りのデザインとすることができる。
【0014】
その場合、着色樹脂被覆と同色もしくは同系色の印刷と、元の色である金属板における着色樹脂被覆の色との色差ΔE*abが「10」以下であるから、色の劣化や補完が目立つことがなく、この点においても、意図通りのデザインとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明で製造するボトル型缶の一例を示す正面図である。
【
図2】この発明による製造過程を説明するためのブロック図である。
【
図3】成形加工して得られた缶胴における壁厚をボトル型缶の各部に対応させて模式的に示す図である。
【
図4】(A)~(D)は、色の劣化の状態、デザイン印刷を行った状態、劣化箇所の補完を行った状態、補完後の加工によって得られたボトル型缶を順に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る方法で製造するボトル型缶は、金属板を素材として、胴部と口頸部とが一体となっている缶であり、底部が胴部と一体になっているいわゆるツーピースタイプのボトル型缶であってもよく、あるいは底蓋を胴部に巻締めて取り付けたいわゆるスリーピースタイプのボトル型缶であってもよい。
図1にスリーピースタイプのボトル型缶1の一例を模式的に示してある。円筒状の胴部2の上部に続けて、径が上方に向けて次第に小さくなる肩部3が形成され、その肩部3の上部に、円筒状の頸部4が繋がっており、その頸部4の上端部が開口していて口部5となっている。頸部4には雄ネジ6が形成され、ここに図示しないキャップを取り付けて、ボトル型缶1を封止し、またキャップは着脱可能であることにより、リシール可能な缶となっている。なお、胴部2の底部には、底蓋7が巻締めて取り付けられている。また、口部5の開口端は、外向きにカーリングされている。
【0017】
頸部4および口部5を合わせて口頸部と称しており、その口頸部から胴部2の全体に亘って着色されており、その着色は、後に説明するように、ボトル型缶1の素材であるアルミニウムやスチールなどの金属板(ブランク)に着色樹脂被覆を施しておくことにより行われる。したがって、そのブランクがこの発明における「着色樹脂被覆金属板」に相当する。その着色樹脂被覆の色の一例は、ブランクの素地の色よりも明度が低く、もしくは彩度が高い色である。なお、
図1では、着色樹脂被覆をクロスハッチングで示してある。胴部2においてはその有色の下地の上に、図柄や文字などからなるデザイン8が印刷されている。
【0018】
図2に上記のボトル型缶1の製造過程をブロック図で示してある。
図2における第1の工程は、カップ成形工程であり、ブランク9に絞りを加えてカップ10に成形する。ブランク9は、上述したように、アルミニウムやスチールなどの金属製の薄板であって、円形などの所定の形状に打ち抜かれている。また、ボトル型缶1の外面となる面には、フィルムの貼着や塗装などの方法によって着色樹脂被覆が施されている。
【0019】
つぎにカップ10に絞り加工あるいはしごき加工さらには絞り・しごき加工を施して、カップ10を軸線方向に引き延ばして深くし、併せて肉厚を減じた缶胴11を成形する缶胴成形が行われる。これに続けて、缶胴11の開口端側を切除して高さを揃えるトリミングを行う。絞りやしごきなどの加工では、潤滑油を使用するので、トリミングに続く工程では、その潤滑油を除去する。その潤滑油の種類や塗布、除去は、例えば前掲の特許文献1に記載されているものであってよい。このようにして得られた缶胴11に印刷を施すとともにその換装を行う。その印刷については後に詳しく説明する。
【0020】
ついでトップドーム成形を行う。ここで説明している方法は、いわゆるスリーピースタイプのボトル型缶1を製造する方法であり、したがってこの成形加工では、缶胴11の底部を小径の筒状に引き延ばしつつ、その周囲をドーム状に成形する。その筒状の部分は次第に外径を絞って口頸部とし、ドーム状の部分は滑らかな肩部に成形する。胴部2に繋がる肩部3や頸部4を所定の形状に成形した後、頸部4の先端を切除(トリミング)して口部5とし、さらに頸部4に雄ネジ6を成形するねじ加工や口部5の開口端部を外側に曲げるカーリング成形を行う。一方、胴部2の下端部にはネッキングおよびフランジングを行い、かつそのフランジを使用して底蓋7を巻締める。これらトップドーム成形、ネジ・カール成形ならびに底部のネック・フランジ・巻締めなどの加工は、従来知られているのと同様に行うことができる。
【0021】
上述した工程を経て得られるボトル型缶1には、製品自体としての強度もしくは剛性が要求されるだけでなく、製造過程で受ける荷重に対する強度や剛性が要求されるので、それらの要求を満たすように、かつ素材の量を可及的に少なくするように、各部の壁厚が設定される。
図3は、その壁厚を説明するための模式図であり、しごき加工によって薄肉化した後の各部分の壁厚を、缶胴11をボトル型缶1の各部分に対応させて示してある。
【0022】
先ず、缶胴11のうちボトル型缶1の胴部2に相当する缶胴相当部b3は、その形状が円筒状であって座屈に対する強度が高い。したがってこの缶胴相当部b3の壁厚は他の部分に比較して薄くしてある。これに対して、缶胴11のうちボトル型缶1における肩部3や頸部4に相当する肩相当部b1は、ボトル型缶1の状態で上方から掛かる荷重(軸荷重)に対して傾斜しているので、形状が要因となる強度が胴部2に比較して弱い。したがってこの肩相当部b1の壁厚は、缶胴相当部b3より厚くしてある。さらに、開口している底部相当部b5は、前述したネッキングによって径が絞られるとともに、フランジによって底蓋7を巻き締める部分であるから、径を絞った部分で軸荷重を受けることになり、そのため強度を確保するべく、壁厚を缶胴相当部b3より厚くしてある。このように缶胴相当部b3の上側の肩相当部b1と、缶胴相当部b3の下側の底部相当部b5とで壁厚が厚くなっており、それらの間に、壁厚が次第に変化する上部変遷部b2および下部変遷部b4とが存在している。
【0023】
このような壁厚は、前述した絞り加工やしごき加工の際の材料流動の結果として設定される。その成形加工を受けるブランク9やカップ10の表面に設けられている着色樹脂被覆はブランク9やカップ10における材料流動と共に引き延ばされ、その色が変化する。その色の変化は、例えば彩度や明度が高くなる変化であり、劣化と称することもある。
図4の(A)に色の劣化の状態を模式的に示してあり、
図4の(A)において、横線の間隔が狭くかつクロスハッチングを施してある部分が色の劣化の少ない部分c1,c5であり、これらは前述した肩相当部b1や底部相当部b5に対応する部分である。また、横線の間隔が最も広くかつクロスハッチングを施していない部分が色の劣化が最も大きい部分c3であり、これは前述した缶胴相当部b3に対応する部分である。さらに、横線の間隔が次第に変化しかつクロスハッチングを施していない部分が色の劣化の程度が次第に変化している部分c2,c4であり、これらは前述した上下の変遷部b2,b4に対応している。これらの各部分c1~c5は、上述した壁厚に対応している。すなわち、缶胴相当部b3で色の劣化が最も大きく、ここから肩相当部b1や底部相当部b5に到る上部変遷部b2や下部変遷部b4で色の劣化の程度が次第に変化している。
【0024】
これら色の劣化の有無や程度が異なっている部分のうち、デザインDaは
図4の(B)に示すように、缶胴相当部b3から上下の変遷部b2,b4に亘る範囲に印刷することになる。その場合、白色などの任意の色の台紙などの上で、任意に選択した色およびインクもしくは塗料で描いたデザインを、色の劣化の生じている箇所に印刷した場合、劣化している色とデザインとの意図しない混色が生じ、結局は意図したデザインにならない場合がある。特許文献1に記載されているように地金の銀色が見える金属光沢色あるいはこれに近い薄い地色であれば、そのような地色を想定してデザインを行う場合が多いので、地色の影響を受けてデザインが意図したものとはならないことは殆ど生じないと思われるが、黒や茶色など彩度が高く、また明度が低い着色樹脂被覆の場合には、その色の影響がデザイン色に大きく現れ、かつその劣化の変化(濃淡)がそのままデザインに影響を及ぼし易い。
【0025】
そこで、この発明に係る方法では、成形加工によって色の劣化が生じている缶胴11に、デザインDaに使用を予定している複数の色のインクで試行的に印刷を施す。その結果として得られる、劣化しあるいは劣化していない下地と印刷した色との混色サンプルでトーン表を作成する。トーンは、周知のように明度と彩度とが同じ色相グループであり、デザインDaに使用を予定している色相のインクのそれぞれについてトーン表を作成する。その一例を
図5に模式的に示してある。なお、
図5では無彩色で記載してあるが、実際には、各色相のインクについての表である。
【0026】
このようなトーン表に基づいてデザインの各部の配色や使用するインクを決定し、缶胴11の所定箇所にデザインDaを印刷する。なお、デザインDa以外の部分で、色の劣化が生じている箇所Dbは、肩相当部b1や底部相当部b5などの劣化の生じない箇所と同色もしくは同系色のインク、言い換えれば、ブランク9に施されている着色樹脂被覆と同色もしくは同系色のインクで印刷する。このようないわゆる補完とデザインDaとの印刷を行った缶胴11を
図4の(C)に模式的に示してある。この
図4の(C)においても色を付けずに無彩色で記載し、缶胴11のいわゆる地色や濃さは、クロスハッチングで示してある。
図4の(D)は、
図4の(C)に示す印刷済みの缶胴11を使用してトップドーム成形、ネジ・カール成形、ネック・フランジ・底蓋巻締めのそれぞれを行って得たボトル型缶1の一例を示している。
【0027】
以上説明したこの発明に係る方法では、デザインDaの色あるいはインクは、成形加工後の缶胴11の外表面の色を下地として決めた色あるいはインクであるから、実際の製造工程でデザインどおりの印刷を行うことにより、デザインしたのと同じ色あるいは色調のデザイン8を付したボトル型缶1を得ることができる。すなわち、缶胴11に実際にデザイン印刷を行って各部の色を調整して再度印刷を行うなどのいわゆるトライ・アンド・エラーによって徐々にデザインを決定するのと比較して、デザインの繰り返しや印刷の繰り返しの頻度を大きく低下させることができる。言い換えれば、ボトル型缶1のデザイン印刷あるいは製造を簡素化でき、意図したデザインと齟齬のないデザインを容易に作成できる。
【0028】
なお、この発明においては、成形加工によって色の劣化が生じている箇所のうちデザインDa以外の部分Dbには、上述した劣化の補完のための印刷を行うことが好ましい。その場合、ボトル型缶1の色彩の統一感を担保するために、下地の補完箇所と非補完箇所との区分けが付かないように印刷することが好ましい。そこで本発明者等は、缶底にデザインの印刷を行わない(塗装もしくは着色を行うことのできない)いわゆるスリーピースタイプのボトル型缶1について、中間色として金色(ゴールド)の着色樹脂被覆を施したブランク9と、濃色として黒色(ブラック)の着色樹脂被覆を施したブランク9とを使用して前述した成形加工を行い、得られた缶胴11における上記の
図4の(A)に符号c1~c5で示す各部の色差ΔE
*ab(印刷のできない缶底を基準とした色差)を求めた。使用した色差計は、KONICA MINOLTA社製のCR-5であり、色差は下記の式で与えられる数値である。
ΔE*ab=〔(ΔL*)
2+(Δa*)
2+(Δb*)
2〕
1/2 …式
ΔL*は、L*a*b*色空間における比較する2色の明度の差、Δa*は彩度の差、Δb*は色相の差である。
【0029】
【0030】
表1において、「補完前」とは、しごき加工によって色の劣化が生じている状態の缶もしくはその缶胴のことであり、また「補完後」とは、しごき加工によって劣化した箇所を、成形加工前(劣化前)の着色樹脂被覆と同色もしくは同系色に印刷して色の補完を行った缶もしくは缶胴のことである。表1に示すように、金色の被服を施した缶胴および黒色を施した缶胴のそれぞれにおいて、缶胴相当部b3に対応する部分c3での色差ΔE*abが最も大きく、この部分での色の劣化が大きいことが認められた。特に、濃色である黒色の場合には、色差ΔE*abが「23.84」となっていて、中間色の金色の場合に比較して色差ΔE*abが大きくなることが認められた。したがって、濃色ほど、成形加工による色の劣化が大きく、補完のための印刷の必要性が高いことが推察される。
【0031】
成形加工によって色が劣化している缶胴11について、補完のための印刷を行い、その後の各部分c1~c5における色差ΔE*abを測定した。なお、補完のための印刷は、ブランク9に設けてある着色樹脂被覆と同色もしくは同系色のインキのベタ印刷、もしくは網点によるグラデーション印刷など、従来知られている方法で行った。補完後の色差ΔE*abは表1に示すとおりであり、このように色の補完を行った缶胴11もしくはボトル型缶1の色ムラの有無ならびに程度をモニターテストした。
【0032】
そのモニターテストは、任意に選んだ10名のモニターに、色の補完を完了した缶胴11もしくはボトル型缶1を提供し、目視により色ムラを判定してもらった。10名のモニターのうち2名が、色ムラを多少感じるとの判定を行い、他の8名は色ムラを感じない、との判定であった。このモニターテストの結果から、この発明では、底蓋にデザイン印刷を施さないいわゆるスリーピースタイプのボトル型缶における、缶胴のデザイン印刷以外の箇所の、元の着色樹脂被覆の色(ブランク9の着色樹脂被覆の色)を基準とした色差ΔE*abを「10」以下とした。このように構成すれば、中間色は勿論のこと、黒色などの濃色であっても、消費者などの看る者に色ムラを感じさせない、外観の優れたボトル型缶とすることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ボトル型缶
2 胴部
3 肩部
4 頸部
5 口部
6 雄ネジ
7 底蓋
8 デザイン
9 ブランク
10 カップ
11 缶胴
b1 肩相当部
b2 上部変遷部
b3 缶胴相当部
b4 下部変遷部
b5 底部相当部