(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136479
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/199 20060101AFI20220913BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220913BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220913BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C08G63/199
C08K3/08
C08K3/04
C08L67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036111
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 俊
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 弘毅
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF031
4J002CF041
4J002CF081
4J002DA058
4J002DA116
4J002DA117
4J002GG00
4J002GN00
4J029AA03
4J029AB04
4J029AB07
4J029AD07
4J029AE01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA08
4J029BA09
4J029BD07A
4J029CC06A
4J029CD05
4J029HA01
4J029HB03A
4J029JA091
4J029JA251
4J029JF361
4J029JF541
4J029KE02
4J029KE08
4J029LB04
(57)【要約】
【課題】耐熱性、透明性、ガスバリア性、UVバリア性及び成形性のバランスに優れる、ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A)と、ジオール由来の構成単位(B)を有するポリエステル樹脂と、
マンガンと、
ゲルマニウムと、
リンと、
を含む、ポリエステル樹脂組成物であって、
前記構成単位(A)の10~40モル%が2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(A)の60~90モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(B)の90モル%以上がエチレングリコールに由来する単位であり、
前記ポリエステル樹脂の全質量基準で、前記マンガンの含有量が20~100質量ppmであり、前記ゲルマニウムの含有量が90~400質量ppmであり、前記リンの含有量が7~80質量ppmである、ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A)と、ジオール由来の構成単位(B)を有するポリエステル樹脂と、
マンガンと、
ゲルマニウムと、
リンと、
を含む、ポリエステル樹脂組成物であって、
前記構成単位(A)の10~40モル%が2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(A)の60~90モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(B)の90モル%以上がエチレングリコールに由来する単位であり、
前記ポリエステル樹脂の全質量基準で、前記マンガンの含有量が20~100質量ppmであり、前記ゲルマニウムの含有量が90~400質量ppmであり、前記リンの含有量が7~80質量ppmである、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記構成単位(B)の100モル%が前記エチレングリコールに由来する単位である、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記マンガンが酢酸マンガンに由来し、前記ゲルマニウムが二酸化ゲルマニウムに由来し、前記リンがリン酸に由来する、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ジエステル及び/又はジカルボン酸と、前記ジオールとを、マンガンを含むエステル交換触媒の存在下、エステル交換反応させてオリゴマーを得る工程と、
前記オリゴマーを、ゲルマニウムを含む重縮合触媒及びリンを含む熱安定化剤の存在下、重縮合反応させる工程と、
を含む、ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂組成物及びポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族系飽和ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう。)は機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトルやフィルムなどの用途を中心に大量に用いられている。しかしながら、PETには結晶性、耐熱性に関して欠点が存在する。すなわち、結晶性に関してはPETの結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう。また、耐熱性に関してはPETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材等高い耐熱性、透明性が要求される用途には利用されていない。
【0003】
このため、従来、透明性を必要とする用途には1,4-シクロヘキサンジメタノールで一部共重合された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETといった低結晶性ポリエステル樹脂が用いられている。しかし、1,4-シクロヘキサンジメタノールで一部変性された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETはそれぞれ透明性についてはPETに対して改善されるものの、これらの樹脂のガラス転移温度は80℃前後であり、耐熱性としては改善の余地がある。
【0004】
また、耐熱性の要求される分野に対してはガラス転移温度の高い、ポリエチレンナフタレートやポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)等のポリエステル樹脂が用いられている。しかしながら、ポリエチレンナフタレートやポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)も耐熱性は改善されるものの、結晶性が高く透明性が要求される用途には利用されていない。
【0005】
一方、ガスバリア性に関してはメタキシリレンジアミンと、アジピン酸と、イソフタル酸から合成されるポリアミド樹脂が優れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のポリアミド樹脂はガスバリア性に優れるものの、黄色度が高く、また、滞留安定性が低く連続成形性に劣る等の問題がある。このように、従来技術において、耐熱性、透明性、ガスバリア性、UVバリア性及び成形性のバランスに優れる材料は得られていない。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性、透明性、ガスバリア性、UVバリア性及び成形性のバランスに優れる、ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸素吸収性樹脂組成物について鋭意検討を進めた結果、所定の組成を有するポリエステル樹脂であって、同伴する金属成分が所定範囲にある場合、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
<1>
ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A)と、ジオール由来の構成単位(B)を有するポリエステル樹脂と、
マンガンと、
ゲルマニウムと、
リンと、
を含む、ポリエステル樹脂組成物であって、
前記構成単位(A)の10~40モル%が2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(A)の60~90モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する単位であり、
前記構成単位(B)の90モル%以上がエチレングリコールに由来する単位であり、
前記ポリエステル樹脂の全質量基準で、前記マンガンの含有量が20~100質量ppmであり、前記ゲルマニウムの含有量が90~400質量ppmであり、前記リンの含有量が7~80質量ppmである、ポリエステル樹脂組成物。
<2>
前記構成単位(B)の100モル%が前記エチレングリコールに由来する単位である、<1>に記載のポリエステル樹脂組成物。
<3>
前記マンガンが酢酸マンガンに由来し、前記ゲルマニウムが二酸化ゲルマニウムに由来し、前記リンがリン酸に由来する、<1>又は<2>に記載のポリエステル樹脂組成物。
<4>
<1>~<3>のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を製造する方法であって、
前記ジエステル及び/又はジカルボン酸と、前記ジオールとを、マンガンを含むエステル交換触媒の存在下、エステル交換反応させてオリゴマーを得る工程と、
前記オリゴマーを、ゲルマニウムを含む重縮合触媒及びリンを含む熱安定化剤の存在下、重縮合反応させる工程と、
を含む、ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、透明性、ガスバリア性、UVバリア性及び成形性のバランスに優れる、ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明以下の内容に限定する趣旨ではない。また、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0012】
<ポリエステル樹脂組成物>
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A)と、ジオール由来の構成単位(B)を有するポリエステル樹脂と、マンガンと、ゲルマニウムと、リンと、を含む、ポリエステル樹脂組成物であって、前記構成単位(A)の10~40モル%が2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する単位であり、前記構成単位(A)の60~90モル%が2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する単位であり、前記構成単位(B)の90モル%以上がエチレングリコールに由来する単位であり、前記ポリエステル樹脂の全質量基準で、前記マンガンの含有量が20~100質量ppmであり、前記ゲルマニウムの含有量が90~400質量ppmであり、前記リンの含有量が7~80質量ppmである。
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、このように構成されているため、耐熱性、透明性、ガスバリア性、UVバリア性及び成形性のバランスに優れる。
【0013】
[ポリエステル樹脂]
本実施形態におけるポリエステル樹脂は、ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A)と、ジオール由来の構成単位(B)とを有する。以下、構成単位(A)及び(B)とその他の任意成分について詳述する。
【0014】
(ジエステル及び/又はジカルボン酸由来の構成単位(A))
構成単位(A)には、2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する構成単位が10~40モル%含まれる。前記範囲とすることで、透明性及びガスバリア性が向上する。上記同様の観点から、構成単位(A)には、2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸に由来する構成単位が15~30モル%含まれることが好ましく、より好ましくは18~25モル%である。
【0015】
構成単位(A)には、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位が60~90モル%含まれる。前記範囲とすることで、耐熱性及びガスバリア性が向上する。上記同様の観点から、構成単位(A)には、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位が70~85モル%含まれることが好ましく、より好ましくは75~82モル%含まれる。
【0016】
(ジオール由来の構成単位(B))
構成単位(B)には、エチレングリコールに由来する単位が90モル%以上含まれる。前記範囲とすることで、耐熱性及びガスバリア性が向上する。上記同様の観点から、構成単位(B)には、エチレングリコールに由来する単位が95モル%含まれることが好ましく、より好ましくは100モル%含まれる。
【0017】
本実施形態におけるポリエステル樹脂は、その性能に影響しない程度であれば、2,6-テトラリンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-テトラリンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジエステル及び/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸以外の構成単位、並びに、エチレングリコール以外の任意の構成単位を含んでいてもよい。そのような任意の構成単位の具体例としては、以下に限定されないが、前述した単位以外のジカルボン酸又はその誘導体及びジオール又はその誘導体に由来する単位が挙げられる。
【0018】
任意の構成単位としてのジオール又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール等の脂環式ジオール類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。上記ジオール又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
任意の構成単位としてのジカルボン酸又はその誘導体としては、以下に限定されないが、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸類、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ジカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
[ポリエステル樹脂に同伴する成分]
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は本実施形態におけるポリエステル樹脂の他、マンガン、ゲルマニウム及びリンを含む。
【0021】
(マンガン)
本実施形態のポリエステル樹脂組成物におけるマンガンの含有量は20~100質量ppmである。前記範囲とすることで色調及び滞留安定性が向上する。上記含有量が20ppm未満である場合、ポリエステル樹脂組成物の分子量が不十分となり成形性が低下する傾向にあり、100ppm以上である場合、ポリエステル樹脂組成物の透明性の悪化及び滞留安定性が低下する傾向にある。上記同様の観点から、マンガンの含有量は35~80質量ppmであることが好ましく、40~70質量ppmであることがより好ましい。
本実施形態において、マンガンは、後述する好ましい製造方法において使用し得る酢酸マンガンに由来するものであることが好ましく、例えば、酢酸マンガンの使用量を調整すること等により、ポリエステル樹脂組成物におけるマンガンの含有量を前述した範囲に調整することができる。
【0022】
(ゲルマニウム)
本実施形態のポリエステル樹脂組成物におけるゲルマニウムの含有量は90~400質量ppmの範囲である。前記範囲とすることで色調及び滞留安定性が向上する。上記含有量が90ppm未満である場合、ポリエステル樹脂組成物の分子量が不十分となり成形性が低下する傾向にあり、400ppm以上である場合、ポリエステル樹脂組成物の色調の悪化及び滞留安定性が低下する傾向にある。上記同様の観点から、ゲルマニウムの含有量は120~300質量ppmであることが好ましく、150~200質量ppmであることがより好ましい。
本実施形態において、ゲルマニウムは、後述する好ましい製造方法において使用し得る二酸化ゲルマニウムに由来するものであることが好ましく、例えば、二酸化ゲルマニウムの使用量を調整すること等により、ポリエステル樹脂組成物におけるゲルマニウムの含有量を前述した範囲に調整することができる。
【0023】
(リン)
本実施形態のポリエステル樹脂組成物におけるリンの含有量は7~80質量ppmの範囲である。前記範囲とすることで、色調及び滞留安定性が向上する。上記含有量が7ppm未満である場合、ポリエステル樹脂組成物の色調の悪化及び滞留安定性が低下する傾向にあり、80ppm以上であるとポリエステル樹脂組成物の分子量が不十分となり成形性が低下する傾向にある。上記同様の観点から、リンの含有量は20~70質量ppmであることが好ましく、30~60質量ppmであることがより好ましい。
本実施形態において、リンは、後述する好ましい製造方法において使用し得るリン酸に由来するものであることが好ましく、例えば、リン酸の使用量を調整すること等により、ポリエステル樹脂組成物におけるリンの含有量を前述した範囲に調整することができる。
【0024】
(チタン及び亜鉛)
本実施形態において、より良好な色調とする観点から、ポリエステル樹脂組成物におけるチタンの含有量は3質量ppm未満であることが好ましく、0質量ppmであることがより好ましい。
また、本実施形態において、より良好な色調とする観点から、ポリエステル樹脂組成物における亜鉛の含有量は10質量ppm未満であることが好ましく、0質量ppmであることがより好ましい。
【0025】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物において、マンガンが酢酸マンガンに由来し、前記ゲルマニウムが二酸化ゲルマニウムに由来し、前記リンがリン酸に由来することがとりわけ好ましい。
【0026】
[各種添加剤]
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、上述した各成分以外に、本実施形態の効果を過度に損なわない範囲で、当業界で公知の各種添加剤を含有していてもよい。かかる任意成分としては、例えば、顔料、染料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0027】
[極限粘度]
本実施形態のポリエステル樹脂組成物の極限粘度(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での測定値)は特に限定されないが、ポリエステル化合物の成形性の面から、0.4~1.3dL/gが好ましく、0.6~1.1dL/gがより好ましい。
【0028】
<ポリエステル樹脂組成物の使用態様>
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体、シート、フィルム、パイプ等の押し出し成形体、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。更に詳しく述べるとすれば、シートは単層でも多層でもよく、フィルムも単層でも多層でもよく、また未延伸のものでも、一方向、又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板などに積層してもよい。ボトルはダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成型されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押し出し発泡体でもよい。
特に自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う食品包装材等高い耐熱性が要求される用途、飲料用、食品用、医薬品用、化粧品用容器などの高い透明性及びガスバリア性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0029】
<ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のポリエステル樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、従来公知のエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を適用して製造することができる。上記した方法の中で、原料入手の容易さの点から、エステル交換法が好適に使用される。
ポリエステル樹脂組成物の製造時に用いるエステル交換触媒、エステル化触媒、重縮合触媒等の各種触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来公知のものをいずれも用いることができ、これらは反応速度やポリエステル樹脂の色調、安全性、熱安定性、自身の溶出性などに応じて適宜選択される。
上記各種触媒としては、例えば、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、スズ等の金属の化合物(例えば、脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、アルコキシド)や金属マグネシウムなどが挙げられ、これらは単独で用いることもできるし、複数のものを組み合わせて用いることもできる。
エステル交換法におけるエステル交換触媒としては、活性が高く、副反応が少ないことから、上記した中でマンガンの化合物が好ましく、重縮合触媒としては得られるポリエステル樹脂の色調が良好であることから、上記した中でゲルマニウムの化合物が好ましい。
【0030】
ポリエステル樹脂組成物の製造時において、熱安定剤としてリン原子が含まれるものを用いることができる。かかる熱安定剤を用いる場合、重縮合活性を十分に確保し、色調及び滞留安定性が向上する傾向にある。
前記リン原子を含む熱安定剤としてはリン酸トリエチル、リン酸などの公知の化合物が挙げられる。これらの中でも色調、滞留安定性の観点からリン酸が好ましい。
【0031】
本実施形態のポリエステル樹脂組成物は、好適には、前記ジエステル及び/又はジカルボン酸と、前記ジオールとを、マンガンを含むエステル交換触媒の存在下、エステル交換反応させてオリゴマーを得る工程と、前記オリゴマーを、ゲルマニウムを含む重縮合触媒及びリンを含む熱安定化剤の存在下、重縮合反応させる工程と、を含む方法により製造することができる。また、本実施形態においては、2,6-テトラリンジカルボン酸及び2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルの混合物よりなるジカルボン酸/ジエステル成分と、エチレングリコール90モル%以上を含むジオール成分とを、マンガンを含むエステル交換触媒の存在下、エステル交換反応させてオリゴマーを得る工程と、前記オリゴマーを、ゲルマニウムを含む重縮合触媒及びリンを含む熱安定化剤の存在下、重縮合反応させる工程と、を含むことが特に好ましい。
【実施例0032】
以下に実施例と比較例を用いて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0033】
<ポリエステル樹脂組成物の評価方法>
(1)各原子の濃度
ポリエステル樹脂組成物中の各原子の濃度は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名: ZSX-Primus)を用いて測定した。
【0034】
(2)ガラス転移温度(Tg)
ポリエステル樹脂組成物のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA-60WSを使用し、ポリエステル樹脂組成物約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(50ml/m in)気流中、昇温速度20℃/minで280℃まで加熱、溶融したものを急冷して測定用試料とした。該試料を昇温速度10℃/minで280℃まで加熱し、3分保持した後、降温速度5℃/minで100℃まで降温してDSC曲線を測定した。DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度、吸熱ピークが検出された場合はピーク温度を融点とした。
【0035】
(3)酸素バリア性
酸素バリア性は、酸素透過係数により評価した。
酸素透過係数は、株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wを用いてシリンダー温度270℃、Tダイ温度270℃の条件で溶融押出成形して得た200μm厚のフィルムを測定用試料として、MOCON社製OX-TRAN2/21を用いて、23℃、65%RHの測定条件で測定して得られたポリエステル樹脂組成物の酸素透過率から、下記式より算出した。
酸素透過係数(cc・mm/m2/日/atm)=酸素透過率(cc/m2/日/atm)×厚さ(mm)
【0036】
(4)色調
黄色度(YI)は、上記(3)の押出成形にて得た厚さ200μm厚のフィルムを測定用試料とし、日本電色工業株式会社製色差濁度測定器COH-300Aを使用して測定した。
【0037】
(5)UVバリア性
UVバリア性は、上記(3)の押出成形にて得た厚さ200μm厚のフィルムを測定用試料とし、株式会社島津製作所製UV-3100PCを使用して320nmの波長の透過率を測定した。
【0038】
(6)樹脂組成
ポリエステル樹脂中のジオール単位及びジカルボン酸単位の割合は、1H-NMR測定にて算出した。測定装置は、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製、商品名:JNM-A L400)を用い、400MHzで測定した。溶媒には重トリフルオロ酢酸/重クロロホルム(1/9:質量比)を用いた。
【0039】
(7)成形性
成形性は、後述の方法によって得られたバイアルのゲート付近の白化の有無を、目視により確認した。白化のないものを合格とした。
【0040】
(8)耐熱性
耐熱性は、後述の方法により得たバイアルを測定用試料とし、オートクレーブ((株)トミー精工製、製品名:「SR-240」)を用いて多層容器を121℃20分高圧蒸気処理し、処理前後の容器の外観を目視で観察した。外観の変化が無いものを合格とした。
【0041】
<バイアルの製造>
下記の条件により、ISO8362-1に従った形状の内容積10cc、全高45mm、外径24mmφ、肉厚1mmの、外側から層A/層B/層Aの3層構成のバイアルを得た。
2機の射出シリンダーを備えた射出ブロー一体型成形機(日精エー・エス・ビー機械社製、型式「ASB12N―10T」を使用し、層Aを構成する材料を射出シリンダーから射出し、次いで層Bを構成する材料を別の射出シリンダーから、層Aを構成する樹脂と同時に射出し、次に層Aを構成する樹脂を必要量射出して射出金型内キャビティーを満たすことにより、A/B/Aの3層構成の射出成形体を得た。得られた射出成形体を所定の温度まで冷却し、ブロー金型へ移行した後にブロー成形を行うことでバイアル(ボトル部)を製造した。
なお、層Aにはポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:「ユーピロンS2000」)、層Bには実施例及び比較例のポリエステル樹脂組成物を使用した。
【0042】
[ポリエステル樹脂組成物の製造例]
(実施例1)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積1Lのポリエステル樹脂製造装置に、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル91.9g、ナフタレンジカルボン酸ジメチル361.8g、エチレングリコール206.9g、酢酸マンガン四水和物0.101gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液26.0g、リン酸0.032gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル樹脂組成物(1)を得た。得られたポリエステル樹脂組成物(1)を株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wにて270℃で溶融押出成形し、200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積1Lのポリエステル樹脂製造装置に、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル91.9g、ナフタレンジカルボン酸ジメチル361.8g、エチレングリコール206.9g、酢酸マンガン四水和物0.101gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液52.0g、リン酸0.032gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル樹脂組成物(2)を得た。得られたポリエステル樹脂組成物(2)を株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wにて270℃で溶融押出成形し、200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積1Lのポリエステル樹脂製造装置に、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル91.9g、ナフタレンジカルボン酸ジメチル361.8g、エチレングリコール206.9g、酢酸マンガン四水和物0.101gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液13.0g、リン酸0.016gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル樹脂組成物(3)を得た。得られたポリエステル樹脂組成物(3)を株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wにて270℃で溶融押出成形し、200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積1Lのポリエステル樹脂製造装置に、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル45.6g、ナフタレンジカルボン酸ジメチル404.0g、エチレングリコール188.9g、1,4-ブタンジオール23.8g、酢酸マンガン四水和物0.101gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液26.0g、リン酸0.032gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル樹脂組成物(4)を得た。得られたポリエステル樹脂組成物(4)を株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wにて270℃で溶融押出成形し、200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えた容積1Lのポリエステル樹脂製造装置に、テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチル69.0g、ナフタレンジカルボン酸ジメチル384.7g、エチレングリコール207.0g、酢酸マンガン四水和物0.102gを仕込み、窒素雰囲気で230℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を95%以上とした後、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液26.0g、リン酸0.032gを添加し、昇温と減圧を徐々に行い、270℃、133Pa以下で重縮合を行い、所定トルクに達した後に製造装置底部からストランド状で取出し、ペレタイザーでカットしたペレット形状のポリエステル樹脂組成物(5)を得た。得られたポリエステル樹脂組成物(5)を株式会社東洋精機製作所製2軸押出機ラボプラストミル2D15Wにて270℃で溶融押出成形し、200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを274.0g、ナフタレンジカルボン酸ジメチルを179.7g、エチレングリコールを205.5gとした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(6)を合成し、溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを173.3g、ナフタレンジカルボン酸ジメチルを255.7g、エチレングリコールを97.8g、1,4-ブタンジオールを142.0gとした以外は実施例4と同様にしてポリエステル樹脂組成物(7)を合成し、溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
酢酸マンガン四水和物に変えて酢酸亜鉛0.026g及びシュウ酸チタンカリウム0.017gとし、酸化ゲルマニウム0.5wt%エチレングリコール溶液を無添加とした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(8)を合成し、溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0050】
(比較例4)
テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを不使用とし、ナフタレンジカルボン酸ジメチルを453.7g、エチレングリコールを207.6gとした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(9)を合成し、溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0051】
(比較例5)
テトラリン-2,6-ジカルボン酸ジメチルを453.7g、ナフタレンジカルボン酸ジメチルを不使用とし、エチレングリコールを204.2gとした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(10)を合成し、溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例6)
ポリエステル樹脂に変えてEMS-CHEMIE AG製Gribory G21を使用して溶融押出成形にて200μm厚のフィルムを得た。また、前述の方法によりバイアルを得た。評価結果を表1に示す。
【0053】
なお、表中の略記の意味は下記の通りである。
NDCM:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
TDCM:2,6-テトラリンジカルボン酸ジメチル
EG:エチレングリコール
BD:1,4-ブタンジオール
【0054】
【0055】
実施例1~5から明らかなように、本実施形態のポリエステル樹脂組成物は成形性が良好であり、さらに、耐熱性、透明性、ガスバリア性及びUVバリア性に優れる。