(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136521
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】電気接点劣化監視システム、電気接点劣化診断装置、電気接点劣化監視方法、電気接点劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036171
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】321007128
【氏名又は名称】株式会社明電エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】野田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】内野 博文
(72)【発明者】
【氏名】明石 延英
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA04
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】実際の劣化状況に近似した定量的な評価に基づき電気接点の劣化傾向(経時変化)を可視化することで誤診断の防止および劣化予兆の検出を図る。
【解決手段】電気室側の各電気室の配電盤内には、電気接点劣化診断装置が設置されている。この電機接点劣化診断装置は、配電盤内の補助リレーを供試体とした常開接点および常閉接点を備えている。この両接点の接触抵抗値を計測し、計測結果に基づき前記補助リレーの接点劣化を診断し、診断の結果に異常があれば警報を出力する。また、前記両接点の接触抵抗の時系列データは遠隔モニタリング2B側に送信され、各装置11,12,14により可視化されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気設備の配電盤内に配置され、前記配電盤の電気接点の劣化を計測する装置であって、
前記配電盤内の前記電気接点を供試体とした接点と、
前記接点の接触抵抗値を計測する計測部と、
前記計測部の計測結果に基づき前記電気接点の劣化を診断する診断部と、
前記計測部の計測結果を記憶する記憶部と、
前記診断の結果に異常があれば出力する出力部と、
を備えることを特徴とする電気接点劣化診断装置。
【請求項2】
前記接点は、前記配電盤内の補助リレーを前記供試体とした常開接点および常閉接点を備え、
前記診断部は、前記計測部の計測した前記両接点の接触抵抗値差に基づき前記電気接点の劣化を診断する
ことを特徴とする請求項1記載の電気接点劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の電気接点劣化診断装置と、
前記各電気接点劣化診断装置の計測部による計測結果を遠隔モニタリングする監視装置と、
を備えることを特徴とする電気接点劣化監視システム。
【請求項4】
前記監視装置は、
前記電気接点劣化診断装置の前記計測結果と、
前記配電盤内に設置された温湿度センサの検出結果と、
を遠隔モニタリングすることを特徴とする請求項3記載の電気接点劣化監視システム。
【請求項5】
前記監視装置は、前記電気室内の事前に定められた位置の前記配電盤内の前記電気接点に劣化を認めた場合、
前記電気室内の各配電盤の前記電気接点に劣化が進行しているものと推定することを特徴とする請求項3または4記載の電気接点劣化監視システム。
【請求項6】
請求項1または2記載に記載された電気接点劣化診断装置の実行する方法であって、
前記配電盤内の前記電気接点を供試体とした接点の接触抵抗値を計測する計測ステップと、
前記計測の結果に基づき前記電気接点の劣化を診断する診断ステップと、
前記計測の結果を記憶する記憶ステップと、
前記診断の結果に異常があれば出力する出力ステップと、
を有することを特徴とする電気接点劣化診断方法。
【請求項7】
前記接点は、前記配電盤内の補助リレーを前記供試体とした常開接点および常閉接点を備え、
前記診断ステップは、前記前記両接点の接触抵抗値差に基づき前記電気接点の劣化を診断する
ことを特徴とする請求項6記載の電気接点劣化診断方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の各ステップと、
前記電気接点劣化診断装置の計測部による計測結果を監視装置により遠隔モニタリングする監視ステップと、
を有することを特徴とする電気接点劣化監視方法。
【請求項9】
前記監視ステップは、
前記電気接点劣化診断装置の前記計測結果と、
前記配電盤内に設置された温湿度センサの検出結果と、
を遠隔モニタリングすることを特徴とする請求項8記載の電気接点劣化監視方法。
【請求項10】
前記監視ステップにおいて、前記電気室内の事前に定められた位置の前記配電盤内の前記電気接点に劣化を認めた場合、
前記電気室内の全配電盤の前記電気接点に劣化が進行しているものと推定することを特徴とする請求項8または9記載の電気接点劣化監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備に使用されている電気接点の劣化を診断・監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気設備の主要機器・制御機器の劣化進行には、設置環境(例えば腐食性ガス・温室度・塵埃など)が大きな要因となる。そのため、設置環境の良し悪しを把握し、電気設備に悪影響を及ぼす要因を除去・軽減することが予防保全上の重要事項となる。
【0003】
特に電気設備には電気接点を持つ機器・部品(例えばリレー・コネクタ・スイッチ・ソケットなど)が多く使用され、電気接点の劣化は設備停止や事故・障害に直結するおそれがある。
【0004】
(1)電気設備の主要機器・制御機器の劣化は、環境(腐食性ガス・温室度・じんあい(塵埃)など)が大きな要因となる。そこで、腐食性ガスを検知する機器として非特許文献1,2および特許文献1が提案されている。
【0005】
非特許文献1の診断キットによれば、待機中の腐食性物質の有無および腐食度合いが、現場に約1カ月間大気暴露させた金属試験片の実際の腐食から目視で診断される。ここでは銅・銀・鉄ニッケル合金・アルミニウム・鉄の五種類の金属試験片の腐食環境が診断され、硫化水素(H2S),亜硫酸ガス(S02),塩素系ガス(CL2)などの存在の有無が確認される。
【0006】
非特許文献2の濃度計は、幅広いガス種(VOC等800種)の測定が可能で、かつガス測定範囲が「1ppb~20000ppm」まであり、電気部品を腐食させて影響を与える低濃度(ppbオーダ)の環境ガス測定が可能である。
【0007】
特許文献1の装置は、目視型腐食センサと電気抵抗型腐食センサとを用いて硫化腐食環境を診断する。すなわち、目視型腐食センサとしての腐食インジケータ(銀薄膜)の反応(変色度合と変色の長さ)を目視で観察して環境の腐食性を診断する。また、電気抵抗型腐食センサとしての銀薄膜センサ電極の腐食による電気抵抗値の変化に応じて環境の腐食性を診断する。
【0008】
(2)一方、腐食性ガスを検知することなく、電気接点の劣化を診断する手法として、特許文献2,3も提案されている。
【0009】
特許文献2の装置は、補助リレーのメーカや型式に応じた複数の供試ソケットを備え、供試ソケットに差し込まれた補助リレーに応じた試験電圧を発生させて抵抗を測定して試験を行う。
【0010】
特許文献3の装置は、金属薄膜の色画像に基づき算出された色刺激値を三次元色空間にプロットした軌跡の移動距離を算出し、算出された移動距離を閾値と比較することで診断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6506849号公報
【特許文献2】特許第6412410号公報
【特許文献3】特開2013-171027号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“腐食性ガス診断キット:エコチェッカー”,富士通クオリティ・ラボ株式会社,令和3年2月1日検索,インターネットURL<https://www.fujitsu.com/jp/group/fql/services/analysis/corrosion/ecochecker/>
【非特許文献2】“PID式VOC(揮発性有機化合物)濃度計 TIGER”,理研計器株式会社,令和3年2月1日検索,インターネットURL<http://www.rikenkeiki.co.jp/products/detail/60>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来から用いられていた電気接点の劣化を診断する手法には以下の問題があった。
【0014】
(1)従来、電気接点を持つ機器・部品の健全性評価については、一般的に設備停止(停電)による年次点検の一環として行われてきた。その際、目視確認やシーケンス制御の動作確認(シーケンス試験)/抜き取り検査での接点抵抗の確認が行われている。
【0015】
そのため、機器などの見た目や作業員の主観による判断、現状のシステムの動作良否のみが評価されていた。例えば特許文献1の装置や非特許文献1の診断キットは、腐食を目視で診断するため、劣化の予兆などを見落とすおそれがある。
【0016】
この場合、非特許文献1の診断キットにはオプションとして分析機関への持ち込みによる定量分析も可能なものの、約1ヵ月間の累積・平均濃度に限定されるため、経時変化の状況が把握できず、やはり劣化の予兆を見落とすおそれがある。
【0017】
また、非特許文献2の濃度計は、ディスプレイ表示のその場限りの計測なため、同様に経時変化の状況把握が難しい。さらに特許文献2の装置も、メンテナンス時のみの診断なため、経時変化の状況把握ができず、劣化の予兆を見落とすおそれがある。
【0018】
(2)そこで、設備の設置環境のうち特に腐食性環境を測定評価する手段として等価塩分測定(汚損度測定)なども行われている。しかしながら、腐食の進行は温度・湿度など他のファクターも大きく影響するため、実機の腐食との乖離が大きくなり、誤診断を生じるおそれがある。
【0019】
また、特許文献3の装置のように、金属薄膜の色画像の色刺激値に基づき劣化診断を行う手法が提案されているものの、金属皮膜の色刺激値と劣化の度合いとが一致しない場合には同じく誤診断のおそれがある。
【0020】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、実際の劣化状況に近似した定量的な評価に基づき電気接点の劣化傾向(経時変化)を可視化することで誤診断の防止および劣化予兆の検出を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)本発明の一態様は、電気設備の配電盤内に配置され、前記配電盤の電気接点の劣化を計測する装置であって、
前記配電盤内の前記電気接点を供試体とした接点と、
前記接点の接触抵抗値を計測する計測部と、
前記計測部の計測結果に基づき前記電気接点の劣化を診断する診断部と、
前記計測部の計測結果を記憶する記憶部と、
前記診断の結果に異常があれば出力する出力部と、
を備えることを特徴としている。
【0022】
(2)本発明の他の態様は、前記電気接点劣化診断装置と、
前記各電気接点劣化診断装置の計測部による計測結果を遠隔モニタリングする監視装置と、
を備えることを特徴とする電気接点劣化監視システムに関する。
【0023】
(3)本発明のさらに他の態様は、前記電気接点劣化診断装置の実行する方法であって、
前記配電盤内の前記電気接点を供試体とした接点の接触抵抗値を計測する計測ステップと、
前記計測の結果に基づき前記電気接点の劣化を診断する診断ステップと、
前記計測の結果を記憶する記憶ステップと、
前記診断の結果に異常があれば出力する出力ステップと、
を有することを特徴としている。
(4)本発明のさらに他の態様は、前記各ステップと、
前記電気接点劣化診断装置の計測部による計測結果を監視装置により遠隔モニタリングする監視ステップと、
を有することを特徴とする電気接点劣化監視方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、実際の劣化状況に近似した定量的な評価に基づき電気接点の劣化傾向を可視化することで誤診断の防止および劣化予兆の検出を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る電気接点劣化監視システムの構成図。
【
図2】同 電気接点劣化診断装置の配電盤内における設置状況図。
【
図7】実施例における管理棟電気室の接触抵抗の時系列変化を示すグラフ。
【
図8】実施例における汚泥処理棟電気室の接触抵抗の時系列変化を示すグラフ。
【
図9】(a)は
図7のA接点・B接点の表面状態図、(b)は同腐食成分の分析結果図。
【
図10】(a)は
図8のA接点・B接点の表面状態図、(b)は同腐食成分の分析結果図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る電気接点劣化監視システムを説明する。このシステムは、実機で使用されている有接点デバイスの設置環境における接点劣化の程度を監視する。
【0027】
すなわち、電気設備の主要機器・制御機器の劣化進展には、環境(腐食性ガス・温室度・じんあい(塵埃)など)が大きな要因となる。そのため、設備や機器の置かれている環境を把握し、設備に悪影響を及ぼす要因を少しでも除去・軽減することが予防保全上の重要事項となる。
【0028】
特に電気設備には電気接点を持つ機器・部品(リレー・コネクタ・スイッチ・ソケットなど)が多く使用され、電気接点の劣化は設備停止や事故・障害に直結するおそれがある。そこで、実際の環境下で電気設備内の電気接点を模擬し、該模擬された電気接点の接点接触抵抗の上昇をモニタリングすることにより、実機で使用されている有接点デバイスの環境による接点劣化の程度を診断する。
【0029】
すなわち、腐食進行のパラメータとして電気接点の接触抵抗値が用いられ、該接触抵抗値の情報を連続的に取得することで腐食性ガスなどによる電気接点の劣化傾向を可視化し、トラブルの未然防止および環境改善による障害リスクの低減を図っている。
【0030】
≪システム構成≫
図1中の1は、電気設備の配電盤内の電気接点の劣化を遠隔監視する前記電気接点劣化監視システムを示している。この電気接点劣化監視システム1は、電気室2A側(計測側)と遠隔モニタリング2B側(監視側)とで構成されている。
【0031】
(1)電気室2A側は、複数の電気室R1~Rnにより構成されている。この各電気室R1~Rnには電気設備の配電盤が設置され、前記各配電盤内にはセンサとしての電気接点劣化診断装置3および温湿度ロガー4が設置されている。
【0032】
また、各電気室R1~Rnには、アナログユニット5および無線ユニット(子機)6が配置されている。このアナログユニット5は電気接点劣化診断装置3および温湿度ロガー4とデータ通信自在に接続されている一方、無線ユニット6はアナログユニット5とデータ通信自在に接続されている。
【0033】
ここでは電気接点劣化診断装置3および温湿度ロガー4の取得情報をアナログユニット5によりAD変換し、該変換された前記取得情報を無線ユニット6により遠隔モニタリング2B側に送信している。
【0034】
(2)遠隔モニタリング2B側は、各無線ユニット6から送信された前記取得情報を受信する無線ユニット(親機)10と、無線ユニット10とデータ通信自在に接続されて前記取得情報をモニタリングする監視サーバ11と、監視サーバ11とデータ通信自在に接続された監視員のPC端末12および無線LANルータ13と、無線LANルータ13とモバイル通信で接続された保守点検の作業員のモバイル端末14とを備えている。
【0035】
この監視サーバ11は、無線ユニット10から前記取得情報を入手して前記各配電盤内の電気接点の劣化を監視し、監視する前記取得情報をPC端末12に送信する。また、監視サーバ11は、前記取得情報を無線LANルータ13経由でモバイル端末14に送信する。この構成により前記配電盤内の電気接点の劣化を遠隔から監視し、また保守点検の作業員に送信する。以下、前記電気接点劣化監視システムの主要構成となる電気接点劣化診断装置3を説明する。
【0036】
≪電気接点劣化診断装置3≫
図2中の30は、電気接点劣化診断装置3の設置された電気設備の配電盤を示している。ここでは配電盤30の最下段の収容―スペース34内に電気接点劣化診断装置3が設置されている。
【0037】
この収容スペース34は配電盤30内で最も劣悪な環境となっており、かかる収容スペース34の底板35(
図3参照)上に電気接点劣化診断装置3が載置されている。なお、温湿度ロガー4も同様に収容スペース34内に設置されているものとする。
【0038】
具体的には電気接点劣化診断装置3は、
図4に示す保護ケース36と、保護ケース36内に収納された
図5に示す装置本体37とを備えている。この保護ケース36の上下板・前後板・両側板には複数の長孔が形成され、装置本体37が収容スペース34内の空気に晒された状態となっている。
【0039】
装置本体37は、
図6に示すように、前記配電盤30に設置された実物の補助リレーを供試体38として使用する。具体的には装置本体37は、供試体38の接触抵抗を計測する計測部(センサ部)と、該計測部の計測情報に基づき実物の補助リレーの接点劣化を診断する診断部と、該診断時に異常があれば現場にアラーム(警報)を出力する出力部と、前記計測部の計測情報を時系列に記憶する記憶部と、該記憶部の記憶情報を記憶媒体(SDカードなど)に格納するための外部記憶スロット39と、前記記憶部の記憶情報をアナログユニット5などに送信する通信機能部と、電源ボタン40および運転スイッチ41とを備えている。
【0040】
ここでは前記記憶部はRAMなどの主記憶装置/SSDなどの副記憶装置などに構築されている。また、前記センサ部は、特許文献2記載の直流二端子・四端子法,交流二端子・四端子法,ホイートストンブリッジ法などの公知の手法を用いて、供試体38の実環境下における接点暴露によるA接点およびB接点の接触抵抗値を計測する。
【0041】
すなわち、コイルの電流を切ると可動接点とB接点とが接触して導通する一方、コイルに電流を流すと可動接点とA接点とが接触して導通する。このときA接点は、動作時以外の通常時において接点開路(OFF)状態なため、その接点表面が空気にさられている。一方、B接点は、前記通常に接点閉路(ON)状態なため、その接点表面が空気にさられていない。
【0042】
その結果、腐食性環境下においては、A接点の方がB接点より先に接点表面の腐食が進行する。このとき前記診断部による接点劣化の診断方法として、以下の手法(1)(2)を採用することができる。
(1)事前に接触抵抗値に閾値を設定し、測定した供試体のA接点の接触抵抗値が前記閾値を越えたときを異常とし、前記出力部から警戒レベルの警報を出力する。
(2)A接点とB接点とで接触抵抗値を比較してA接点の接触抵抗値が高い場合、A接点の表面が腐食性ガスに侵されていることが予想される。したがって、事前に両接点A,B間の接触抵抗値差に閾値を設定し、測定された両接点A,B間の接触抵抗値差が前記閾値を越えた場合を異常とし、前記出力部から要注意レベルの警報を出力する。
【0043】
ただし、腐食が進行してB接点もA接点と同様に接触抵抗値が高くなったときには雰囲気中の腐食性ガスにより設備の電気接点を有する機器・部品類は劣悪な状態と推定されるものの、両接点A,Bの接触抵抗値差が逆に小さくなるおそれがある。そこで、前記手法(1)(2)を併用して接点劣化を診断することが好ましい。
【0044】
通常、装置本体37には、
図6に示すように、供試体38としての補助リレーを2個装着して接触抵抗値が測定されている。このとき各供試体38はA接点とB接点それぞれ4つの接点を備え、2個装着時は接点数が2倍(それぞれ8つ)となっており、この点で接触抵抗値のデータ数が増加し、計測精度が向上する。また、供試体38の各補助リレーは独立して動作し、装置本体37内部に時計機能を持たせることでリレー動作する間隔を設定し、自動的に連続的な接点劣化の診断を行うことができる。
【0045】
このように電気接点劣化診断装置3を用いた電気接点劣化監視システム1によれば、実機に使用されている補助リレーと同一の腐食環境に供試体38を暴露し、実環境に沿ったA接点・B接点の接触抵抗値を腐食進行のパラメータとして用いることができる。
【0046】
特にA接点・B接点の接触抵抗値の情報は、遠隔モニタリング2Bの監視サーバ11に送られるため、実機の電気接点の劣化状況に近似した定量的な評価結果を連続的にモニタリングすることができる。
【0047】
また、PC端末12およびモバイル端末14に前記接触抵抗値の情報が送信されるため、監視員・保守点検の作業員が配電盤内の電気接点の劣化傾向を容易に把握することができる。
【0048】
このとき電気接点の劣化診断には前記(1)(2)の手法を用いればよく、これにより実環境に沿って接点劣化の予兆を正確に検出でき、この点で誤診断が抑制され、また配電盤30の保守点検・整備ポイントが明確になり、保全作業の合理化や保全コストの最適化が実現できる。
【0049】
また、収容スペース34内に配置された温室度ロガーなどのセンサ類の検知情報と組わせて総合的な環境診断を行うことが可能なため、電気接点の接触抵抗の増加と腐食性ガスとの関係を利用して環境要因による劣化リスクを把握し、部品交換周期の最適化や設置環境自体の改善要否材料など必要な情報を監視員および保守点検の作業員に提供することもできる。
【0050】
例えば下水処理施設において、複数の電気室Rの配電盤30にそれぞれ電気接点劣化診断装置3および温湿度ロガー4を設置し、遠隔モニタリング2Bで監視することにより、各電気室R内の設置環境状態に応じた部品交換や修繕の判断材料や優先付けの情報を提供することができる。この提供情報に基に配電盤30の設置環境を管理・改善することで環境要因によるトラブルの未然防止・障害リスクの低減などの予防保全を図ることが可能となる。
【0051】
この場合に電気室R内の事前に定められた位置の配電盤30内に電気接点の劣化が認められた場合に遠隔モニタリング2B側(例えば監視サーバ11など)において、電気室R内の全配電盤の電気接点に劣化が進行しているものと推定し、警告をPC端末12/モバイル端末14に発してもよい。
【0052】
この警報により電気室R内の各配電盤30を保守・点検し、必要な部品交換などを行うことでトラブルを未然に防止することができる。なお、事前に定められた位置のとしては、例えば電気室R内の最も劣悪な環境の位置/電気室R内の真ん中の位置などが想定される。
【0053】
≪実施例≫
(1)
図7~
図12に基づき実施例を説明する。本実施例では、下水処理施設の二か所の電気室(比較的環境の良い場所と比較的環境の悪い場所)に電気接点劣化診断装置3を設置し、電気接点(A接点・B接点)の劣化を時系列で観察した。
【0054】
すなわち、比較的環境の良い場所として管理棟電気室に電気接点劣化診断装置3が設置されている一方、比較的環境の悪い場所として汚泥処理棟電気室に電気接点劣化診断装置3が設置されている。
【0055】
ここでは
図7および
図8に示すように、環境の良い管理棟電気室に比べて環境の悪い汚泥処理棟電気室の計測データは僅か数か月でA接点のみ接触抵抗の増加が確認された。
【0056】
また、電気接点劣化診断装置3のA接点・B接点を約1年間に亘って環境暴露した場合、環境の良い管理棟電気室の両接点については、
図9(a)に示すように、表面変色が無く、また
図9(b)に示すように、腐食性を示す成分も検出されなかった。
【0057】
一方、環境の悪い汚泥処理棟管理室の両接点については、
図10(a)に示すように、A接点の接点表面がB接点の接点表面に比べて変色が顕著であり、また
図10(b)に示すように、腐食性を有する成分「硫黄元素」も検出された。
【0058】
その結果、A接点・B接点の接触抵抗値をパラメータとする電気接点の劣化診断は、実環境に沿った劣化診断であることが実証された。
【0059】
(2)
図11および
図12に基づき電気接点劣化診断装置3と併せて非特許文献2の腐食性ガス診断キットを前記両電気室の同じ配電盤内に設置した場合における腐食性ガスの比較結果についても付言しておく。
【0060】
前記比較結果では、環境の悪い汚泥処理棟電気室の硫化水素(目安濃度)が、環境の良い関東電気室に比べて大きな値であった。また、銀の試験片の外観についても汚泥処理棟電気室のみ変色が確認されたことから、リレー接点の接触抵抗増大についての根拠が裏付けられた。
【0061】
≪その他・他例≫
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えば温湿度ロガー4を用いることなく、電気接点劣化診断装置3のみを用いることができる。
【0062】
また、電気接点劣化診断装置3は、電気接点劣化監視システム1に用いるだけではなく、オフラインのスタンドアローンで用いることができる。この場合には、遠隔モニタリング2B側にA接点・B接点の接触抵抗値の情報を送信することができない。
【0063】
ただし、前記(1)(2)の手法により電気接点の劣化を診断でき、また外部記憶スロット39から記憶媒体にA接点・B接点の接触抵抗値の時系列データを取得してモニタリングすることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…電気接点劣化監視システム
2A…電気室側
2B…遠隔モニタリング側(監視装置)
3…電気接点劣化診断装置
4…温湿度ロガー
5…アナログユニット
6,10…無線ユニット
11…監視サーバ
12…PC端末
13…無線LANルータ
14…モバイル端末
30…配電盤
34…収納スペース
35…底板
36…保護ケース
37…装置本体
38…供試体
39…外部記憶スロット
40…電源ボタン
41…運転スイッチ