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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136533
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】黒鉛材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20220913BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C04B35/52
C04B41/85 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036193
(22)【出願日】2021-03-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】320001444
【氏名又は名称】株式会社レイホー製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】上田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】細谷 佳弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐酸化損耗性を向上させた黒鉛材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】微量不純物元素であるFeの含有量を1massppm以下に減少させた黒鉛材料に対し、B,Al,Siから選択された一種又は二種以上の水酸化物を主成分とするリン酸塩溶液中に浸漬することにより金属水酸化物を黒鉛材料の細孔に含侵させ、次いで、乾燥・加熱処理により金属水酸化物を金属酸化物相として細孔に充填・封止した黒鉛材料及びその製法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有し、かつFe含有量が1mass ppm以下である黒鉛材料の該細孔に、B酸化物、Al酸化物及びSi酸化物の群から選択された一種または二種以上の金属酸化物を充填してなる耐高温酸化損傷性に優れた黒鉛材料。
【請求項2】
工業炉内ハースロール、電気炉の電極、鋳造鋳型及び加熱炉内の治具から選択されたいずれか一つの用途に適用される請求項1記載の黒鉛材料。
【請求項3】
細孔を有する黒鉛材料を用意する工程と、
前記黒鉛材料をフッ素イオンと塩素イオンの一種又は二種を含む酸性溶液中に浸漬して前記黒鉛材料中のFe含有量を1 mass ppm以下とする黒鉛純化工程と、
前記黒鉛材料を、B水酸化物,Al水酸化物,及び、Si水酸化物から選択された一種または二種以上の水酸化物を10~50%含有するリン酸塩溶液中に浸漬して、該水酸化物を前記黒鉛材料の細孔に含浸させる水酸化物含侵工程と、
前記細孔に前記水酸化物を含侵した黒鉛材料を、乾燥・加熱処理して、前記細孔に含侵された水酸化物を酸化物相として前記細孔に充填する工程とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載された耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化物含侵工程は、10~10Paの減圧下で行うことを特徴とする請求項3に記載の耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【請求項5】
水酸化物含侵処理工程を経た黒鉛材料の表面に光沢仕上処理を施すことを特徴とする請求項3又は4に記載の耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト(黒鉛)は、原料となるコークスやコールタールピッチを粉砕・混捏後に高圧で圧縮成形後、得られた成形体を2000℃前後で焼成して揮発成分を除去する工程と、揮発成分を除去する過程で形成された細孔にタールピッチを含侵する工程を繰り返すことにより、炭素ブロック中の細孔が埋まって、かさ密度が上昇し、かさ密度の上昇と共に細孔の径が小さくなる。過去の研究事例(非特許文献1:赤石憲也、真空、第31巻第9号(1988)、P796-800)によれば、かさ密度:1.77gcm-3で平均径:3μm、かさ密度:1.91 gcm-3で平均径:0.5μm程度まで小さくなるが、完全に細孔を無くすことは困難であり、平均径:1μm程度の細孔が分布していると推定される。そして、このように緻密化された炭素ブロックは、その後3000℃近くの高温で加熱して炭素をグラファイト化(黒鉛化)して黒鉛材料が製造される。
【0003】
黒鉛化処理された炭素材料(以下、本明細書では「黒鉛材料」と称する)は、真空中あるいは非酸化性雰囲気中では3,000℃までの耐熱性を有するため、工業炉の発熱体, 炉体部品, 熱処理用治具として広く使用されている。また、黒鉛材料は、鉄系、銅系、アルミ系の一般的な金属材料に比べて熱膨張係数が小さく、急熱急冷に伴う耐熱衝撃性が優れるばかりか溶融金属や溶融ガラスによって浸潤されないため、坩堝や鋳型などとしても広く使われている。更に、黒鉛材料は、2500℃程度まで安定した導電性を有するため、電気炉の電極材料としても広く使われている。
【0004】
しかし、黒鉛材料の最大の弱点は、金属材料に比べて延靭性に劣る点と、大気中など酸素が存在する雰囲気中で加熱されると、酸化損耗が不可避な点である。他方、黒鉛材料は500℃以下の温度では殆ど酸化損耗しない。このため、酸素が存在する雰囲気で如何に高温まで使用可能温度を高める事が出来るかが、黒鉛材料の工業用途として極めて重要な要求性能となる。
黒鉛材料の耐酸化損耗性を向上させるためには、黒鉛材料と雰囲気中の酸素の接触を絶つ方法や黒鉛材料中の炭素粒子と酸素の反応を抑制する方法などが有効であり、従来から以下の(1)~(4)に記載した方法などが提示されている。
(1)加熱雰囲気中の酸素が黒鉛材料に侵入しないようにセラミック被覆を施す方法
(2)黒鉛材料の表面を改質してバリア層を形成する方法
(3)黒鉛材料中の細孔を湿式含浸処理で充填した上で耐酸化相を形成する方法
(4)黒鉛材料の粒子を適切に制御する方法
【0005】
(1)の代表例は黒鉛材料に溶射被覆を施す方法であり、黒鉛材料にアルミナ、マグネシア、ジルコニアなどの耐火材を溶射する技術(特許文献1:特開昭50-55540号公報)やMgOとAlのスピネル型複合酸化物を溶射する技術(特許文献2:特公昭57-028399号公報)などが開示されている。また、金属Siを溶射被覆した後に1300℃以上に加熱してSiC皮膜を形成する方法(特許文献3:特開昭61-30657号公報)なども有効な技術とされている。
しかし、黒鉛材料の表面に形成された溶射皮膜と材料の接合力は、金属材料に溶射したときの皮膜接合力に比べると遥かに小さく、溶射被覆材の特性が如何に優れていたとしても皮膜剥離の問題は不可避である。
この問題を解決するため、溶射金属と黒鉛材料との熱膨張係数の比を特定の範囲に制御する技術(特許文献4:特開平5-70268号号公報)や、黒鉛材料の表面に存在する細孔に気相反応によって金属クロムを充填した上で、黒鉛材料の表面を金属クロムで被覆する技術(特許文献5:特開平8-143385号公報)などが開示されている。
しかし、これらの方法によっても黒鉛材料と熱膨張係数の異なるセラミックや金属炭化物層で被覆する技術である以上、部品内の温度差や急激な温度変化などによる皮膜の破壊や材料からの剥離は避けられない。
【0006】
(2)の例としては、黒鉛材料の表面を炭化ホウ素で改質する方法(特許文献6:特開2001-106585号公報)が開示されている。この方法は、黒鉛材料の表面をプラズマイオン注入法または物理的蒸着法などドライプロセスによって炭化ホウ素を含む改質層を形成することを特徴とする。その本質は炭化ホウ素を含む改質層が加熱中に酸素と反応して溶融酸化ホウ素(B)となって黒鉛材料を被覆することで、酸素との接触を絶つ効果を期待した技術である。
この方法は小型精密部品などには好適であるものの、工業炉などに用いられる大型の黒鉛部品に均一な改質層を形成するためには設備上の制約が懸念される。更に製造コストの点でも適用部品は限定される。
【0007】
(3)の例としては、黒鉛材料中の細孔に湿式処理でアルミン酸ナトリウムを含浸した後、乾燥・焼成工程を経て酸化アルミニウムに変換して細孔を充てんして気孔率が小さくする事で炭素粒子と大気の接触表面積を減少させる方法(特許文献7:特開昭59-190266号公報)などが開示されている。更に特許文献8:特開昭58-69708号公報には、高露点雰囲気で操業される加熱炉内では、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛の何れのリン酸塩溶液においてもアルミナ超微粒子を適量配合して含浸させることで、酸化損耗率が減少する事が開示されている。含浸処理は比較的簡便な装置で処理可能であるため、一般の黒鉛材料に耐高温酸化性を付与するための公知技術として広範に活用されている。
【0008】
(4)の例は、黒鉛材料の耐発塵性を向上させるための方法(特許文献9:特開2014-58407号公報)であるが、黒鉛粒子径を30乃至60μmの範囲に制御することによって、発塵性とともに酸化損耗量が軽減する事が示されている。この事は、発塵を軽減することは黒鉛粒子と酸素の反応を軽減することに他ならず、同時に耐酸化損耗に対しても有効であることを示唆している。
【0009】
これらの発明に対して、特許文献10:特開昭58-115012号公報には、黒鉛材料の発塵性を逆手に取った発明が開示されている。この発明は、熱処理炉のカーボンハースロールの直径減少率が材料の黒鉛化度と材料中のFe含有量に支配される事から、ハースロールとして有効な煤状炭素の形成(現象としては炭素の酸化現象による発塵と同義と考えられる)を促すため、黒鉛化度を0.4%以下、Fe含有量を0.1wt% (1000ppm)以下に規定したものである。黒鉛中のFeによる発塵の促進は触媒作用によるものと解釈されており、上記特許文献10の実施例ではFe含有量を0.1wt%(1000ppm)から0.01wt%(100ppm)まで低減して黒鉛化度を1.0にする事でロール径減少率が限りなく零になる事が示されている。
【0010】
上述した従来技術を俯瞰すると、黒鉛材料の表面に耐酸化性のコーティングを施して雰囲気ガスとの接触を遮断する方法より、黒鉛材料の内部に無数に存在する細孔を非酸化性の金属酸化物で充てんして炭素粒子と雰囲気中の酸素との反応を抑制する方法の方が、本質的かつ有効な対策になる事を確信させる。つまり、特許文献10:特開昭58-115012号公報ではFe含有量の下限値は100mass ppmであるが、更にFe含有量を低減させることの意義について有益なヒントを与えてくれる。
そこで、一般的な黒鉛の純度について見ると、3,000℃程度で黒鉛化される過程において、揮発性の元素は数ppm以下まで低減するが、Al,Ti,V,Feなどは不可避的に数10ppm残留する。とりわけ、Feに関しては、20乃至30ppm含有されている事が報告されている(非特許文献2:素材料学会編、カーボン材料実験技術(製造・合成編), 第1章, 1-6, 2013,11,13発行)。
【0011】
さて、更なる黒鉛材料の高純化処理に関しては、黒鉛化処理後あるいは製品加工後に、再度フッ素ガスあるいは塩素ガスからなるハロゲンガス中にて2000℃程度まで加熱してハロゲン化合物として不純物元素を除去し、全ての含有元素をサブppmからppbのレベルまで低減する工程が一般的である。これは、黒鉛材料が真空中や非酸化性雰囲気では優れた耐熱性と金属元素に対して不活性であるため、半導体製造装置、単結晶製造装置、真空熱処理炉、放電加工用電極などの用途に対しては不可欠の処理であり、半導体製造装置などに用いられる黒鉛材料では、Feについて見ると0.1ppm未満まで減少させる事が報告されている(上記非特許文献2)。
【0012】
しかしながら、上述した「酸素を含む高温雰囲気中での耐酸化損耗低減を目的とした黒鉛材料」と「高真空中あるいは非酸化性雰囲気中で用いられる高純度黒鉛材料」の両者のシーズ技術を複合化する試みは、これまでなされてこなかった。これは、高純化処理によって不純物元素を極限まで低減した炭素材料に含浸処理を行なって不純物元素をドープする発想自体が非現実的であったためと推定される。取り分けハロゲンガス雰囲気中で2000℃近傍まで加熱処理する事で大幅なコスト上昇を伴うため、半導体製造装置など超高真空が求められる用途に限定されていたのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭50-55540号公報
【特許文献2】特公昭57-028399号公報
【特許文献3】特開昭61-30657号公報
【特許文献4】特開平5-70268号公報
【特許文献5】特開平8-143385号公報
【特許文献6】特開2001-106585号公報
【特許文献7】特開昭59-190266号公報
【特許文献8】特開昭58-69708号公報
【特許文献9】特開2014-58407号公報
【特許文献10】特開昭58-115012号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】赤石憲也:真空、第31巻第9号(1988)、P796-800
【非特許文献2】炭素材料学会編:カーボン材料実験技術(製造・合成編), 第1章, 1-6, 2013,11,13発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
背景技術の欄で詳述した従来法(1)乃至(4)の中では、安定した耐高温酸化性を付与するためには、従来法(3),(4)の方法から示唆されるように、黒鉛材料の細孔を金属酸化物で充填して雰囲気中の酸素との反応面積を減少させる事が有効と考えられる。しかし、黒鉛材料中の細孔と含浸物質との反応に関して微量不純物金属元素の作用効果を明らかにした事例は見当たらない。
一方、黒鉛材料の高純化に関しては、耐酸化損耗に有効と考えられるAl,Si,K,Caなどの非金属元素に対して、触媒作用を介して耐酸化損耗に有害と考えられる残留含有量の多いTi,V,Fe,Niなどの金属元素を優先的に純化して、含浸処理効果を高める検討は成されてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、含浸処理効果を高める手法を鋭意検討した結果、黒鉛材料の細孔を金属酸化物で充填する際に、黒鉛材料中に含まれるFeが特に金属酸化物の充填を阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る黒鉛材料は、Fe含有量を1 mass ppmとした黒鉛材料の細孔にB酸化物、Al酸化物及びSi酸化物の群から選択された一種または二種以上の金属酸化物を充填した耐高温酸化損傷性の優れた黒鉛材料である。そして、特に本発明に係る黒鉛材料の有用な用途は、工業炉内ハースロール、電気炉の電極、鋳造鋳型、加熱炉内の治具である。
ここで「細孔にB,Al,Siの群から選択された一種又は二種以上の金属の酸化物が充填されている」とは、黒鉛材料の細孔中に上記金属の酸化物が検出可能な状態で存在している状態を意味する。
【0017】
また、上述した本発明に係る耐高温酸化損傷性の優れた黒鉛材料は、以下の手法により製造される。
すなわち、細孔を有する黒鉛材料に対して、フッ素イオンあるいは塩素イオンの一種または二種を含む酸性溶液中に浸漬してFe含有量を1 mass ppm以下とする(以下「高純度化処理」と略称する)。
ちなみに、Fe含有量の検証可能な具体的な分析条件としては、黒鉛材料の表面から10mm程度の領域から採取したサンプル中のFeの含有量を1 mass ppm以下とすることにより検証する。
【0018】
次いで、Fe含有量を1 mass ppm以下とした黒鉛材料に対して、B,Al,Siの内一種または二種以上の水酸化物を10~50%含有するリン酸塩溶液中に含侵して、この水酸化物を、(Fe含有量を1 mass ppm以下とした)黒鉛材料の細孔に含侵させる。
なお、短時間で黒鉛材料の内部まで含侵処理を行うためには、工業的に容易に実施可能な10~10Pa程度の減圧下で実施するのが好ましい。
次いで、細孔に水酸化物を含侵させた黒鉛材料を、乾燥・加熱処理して、この水酸化物を酸化物相として細孔に充填する。
ここで、「金属水酸化物を金属酸化物相として細孔に充填する」とは、黒鉛材料を加熱・乾燥処理して、細孔中の金属水酸化物を金属酸化物相とすること自体を意味する。
【0019】
なお、水酸化物含侵工程の後、乾燥・加熱処理工程の前に、黒鉛材料表面を光沢に仕上げる処理が好ましい。光沢仕上処理をすることにより、黒鉛材料表面と酸素との反応面積を可能な限り減少させることができ、もって乾燥・加熱処理工程における酸化初期での耐酸化損傷性を更に向上することができる。
そして、このような製造工程を経て本発明に係る耐高温酸化損傷性の優れた黒鉛材料が製造される。
【0020】
なお、Fe含有量を1 mass ppm以下とする手法として、ハロゲン元素雰囲気中で2000℃近傍まで加熱するという手法も有効であり、この手法を用いて製造される黒鉛材料もまた、本発明に係る黒鉛材料の要件を充足する限り本発明に係る黒鉛材料である。
ただし、この手法を適用して本発明に係る黒鉛材料を製造する場合、本発明に係るフッ酸や塩酸溶液中に浸漬する方法と比較してコスト的に高くなるというデメリットがある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上述した高純度化処理(Feを1 mass ppm以下とする処理)と含浸処理(細孔に充填された金属水酸化物を金属酸化物相として細孔に充填する処理)とを組み合わせることで、得られる黒鉛材料の耐高温酸化損耗性を向上することができる。この結果、特に工業炉内ハースロール、電気炉の電極、鋳造鋳型、加熱炉内の治具など大気中の酸素による酸化損耗が不可避の黒鉛材料に対して、その寿命を有効に延長することができ、その結果、素材コスト低減のみならず、酸化消耗に伴うCOの発生を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含侵処理、表面被覆処理状態での、加熱温度600℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図2】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含侵処理、表面被覆処理状態での、加熱温度800℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図3】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含侵処理、表面被覆処理状態での、加熱温度1000℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図4】等方性CIP材を供試材として、(1):リン酸アルミ含浸処理, (2):フッ酸酸洗によって純化処理を施した後にリン酸アルミ含浸処理,(3):(2)の処理を行なったブロックの表面を光沢仕上げ処理,の3条件で処理した後、1000℃に1時間均熱後常温まで炉冷した時の質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
先ず、本発明の基盤となる湿式処理による黒鉛材料中の微量不純物金属元素(特にFe)の純化の可能性について検証した。
具体的には、汎用黒鉛材料として、(1)静水圧中で等方圧縮整形したCIP材、 (2)一方向に押出成形した押出成形材、(3)黒鉛繊維を圧縮成形したC/Cコンポジット材を対象として、耐酸化被覆処理と含浸処理の有効性について検証した。
この検証で採用した含浸処理水溶液は、Al2O3:1乃至5mass%, SiO2:8乃至12mass%, P2O5:5~8mass%でかつ全溶質濃度を10乃至50%、pH:3乃至4, 粘度:0.1乃至0.6 Poiseの低粘度の酸液に調整したもので、このように調整することで材料表面から約30mmの深さまでの細孔を充填することが可能になる。
なお、溶質濃度が10%未満の場合は細孔に十分な量の溶質元素を充填することが出来ず、逆に50%を超えると水溶液の粘度が上昇するため細孔に十分に処理液が材料内部に浸透することが出来なくなるため、本発明では溶質濃度を10乃至50%とした。
詳細は後述するが、本発明によれば、あらゆるタイプの黒鉛材料に対して含浸処理は表面被覆処理に比べて耐酸化損耗性の向上に有効である事が示された。この結果に基づいて、本発明方法では、耐酸化損耗性を担保する手法として細孔の含浸処理を選定した。
【0024】
次に、本発明の基盤となる湿式処理に拠る黒鉛材利用中の微量不純物(取り分けFe)の純化の可能性を見極めるため、未処理材と従来のハロゲンガス中で純化した材料とともに微量元素分析を行った。
1.汎用の黒鉛材料、2.フッ酸を主とする酸液に浸漬して純化した黒鉛材料、3.ハロゲンガス中で2000℃に加熱して高純度化した黒鉛材料の3種類のサンプルを用意して、各々からlg程度のブロック状又は2乃至3mm程度の粒を採取した後、清浄な器具を用いて粉状に破砕して分析に供した。元素分析は、分光光度計UVmini-1240 (島津製作所製)及びICP質量分析装置 Agilent8800 (アジレント.テクノロジー製)を用いて行なった。
各元素に対して以下の条件で定量した。
ボロン(B):試料約lg及び揮散防止剤を白金るつぼに入れて電気炉で灰化した。灰化後アルカリ溶融剤を入れて灰分を加熱融解し、融解物を酸で溶解して溶液化した。溶液中のBをクルクミン吸光光度法で定量し、試料中のB濃度を求めた。
Si:試料約lgを白金るつぼに入れて電気炉で灰化した。灰化後アルカリ溶融剤を入れて灰分を 加熱融解し、融解物を酸で溶解して溶液化した。溶液中のSiをモリブドケイ酸青吸光光度法で定量し、試料中のSi濃度を求めた。
Li,Na,Al,Ti,V,Fe,Ni:試料約lgを石英ボートに入れ、環状電気炉で酸素を流しながら灰化した。灰化後に灰分を酸分解して、分解液中の各元素濃度をICP質量分析法で定量し、試料中の各元素濃度を求めた。
汎用黒鉛材料(比較材)、フッ素を主とする酸液に浸漬して純化した黒鉛材料(本発明材)、ハロゲンガス中で2000℃に加熱して高純度化した高純度黒鉛材料(本発明材)中の微量不純物分析結果を表1に示す。
なお、この段落及び表1の記載において、ハロゲン純化した試料を「発明材」としているが、これは試料自体が本発明に係る黒鉛材料の要件を充足していることを意味する。
【0025】
【表1】

【0026】
本発明で特に着目したFe含有量に関しては、フッ酸酸洗によってハロゲン純化の分析値(<0.5ppm)に近いレベルである0.6ppmまで低減可能であることが確認された。その他の触媒作用が懸念される金属元素に関しても、ハロゲン純化のレベルには及ばないものの一般黒鉛に比べて明らかな純化が確認された。第二の工程で含浸処理を行う主要元素であるB,Al,Siに関して見ると、Bは全ての条件で<10ppmであるのに対し、Al,Siに関してはハロゲン純化では何れも<0.1ppmまで純化するがフッ酸酸洗では同レベルか増加する傾向が認められた。
【0027】
以上の結果は、フッ酸酸洗では第二工程で含浸処理を行うAl,Siなどを減少させる事なく、触媒作用が懸念される金属不純物元素、取分けFeの純化を選択的に実現できることを示した。従って、微量のFeの純化に限って見ればハロゲンガス純化でもフッ酸酸洗でも同等の効果は期待できる。換言すれば、次工程の含浸処理でAl,Siを細孔に充填する事を考慮すれば、ハロゲンガス純化と比較してフッ酸酸洗の方が好適であり、製造コスト上も有利であると言える。
【0028】
本発明では、汎用の黒鉛サンプル、同黒鉛に直接含浸処理を行なったサンプルとフッ酸酸洗で純化処理を行なったサンプルについて、大気雰囲気中において800℃で、2時間加熱処理前後での重量変化から酸化損耗量を定量した。その結果、以下に示す実施例1において、含浸処理は表面被覆処理に比べて耐酸化損耗性の向上に有効である事が立証された。
また、以下に示す実施例2ではフッ酸酸洗を行なって含浸処理を行う事で、含浸処理単独では到達出来ないレベルの優れた耐酸化損耗性が得られる事が確認された。すなわち、フッ酸酸洗を行って含侵処理を行うことで、含侵処理単独では到底到達できないレベルの優れた耐酸化損傷性が得られることが実証された。純化処理のみでは黒鉛の酸化反応が抑止させないことは自明であり、含侵処理の前段階の処理として純化処理を行った効果と解釈できる。
その際に、純化効果の支配因子とみなしたFe含有量の閾値に関しては、上記表1の結果に基づいて1 mass ppmに設定した。その場合、検証可能な分析条件として、材料表面から深さ10mm程度の領域から採取したサンプルで分析した。
更に、実施例3では表面を光沢に仕上げることで耐酸化損耗性が向上する事が確認され、黒鉛材料中の細孔を充填する効果に加えて、材料表面を平滑に仕上げる事で酸素との反応面積を低減させることが、耐酸化損耗性の向上に有効である事が確認された。
【0029】
(実施例1)
先ず、純化処理を行わない以下の代表的な黒鉛材料について耐酸化損耗に対する含浸処理と表面コーティング処理の有意差について確認した。
下記の(1)乃至(3)の三種類の代表的黒鉛材料から20x20x5mmの試験片を加工して、無処理材を含めて(a) 乃至(e)の処理を行なったサンプルについて、大気中で600℃乃至1000℃に加熱前後の重量変化を測定した。
試験材:(1)等方性CIP材、(2)押出成形材、(3)C/Cコンポジット材
耐酸化処理:(a)無処理、(b)DN含浸処理、(c)BN含浸処理、(d)アモルファス状カーボン浸漬コーティング処理(ACC)、(e)アークイオンプレーティング処理(AIP)
加熱処理:ボックス炉を使用して、大気雰囲気で600℃、800℃、1000℃に加熱し、2時間保持した後に炉冷却した。これらの供試材の加熱処理前後の重量変化から酸化消耗率を定量化した結果をそれぞれ図1乃至図3に示す。
【0030】
図1図3に示す実験結果から分かるように、何れの黒鉛材料においても無垢材(a)の酸化損耗量は加熱温度の上昇とともに増大するが、その程度は(1)等方性CIP材<(2)押し出し剤<(3) C/Cコンポジット材の順に大きくなる。これは材料のかさ密度に依存した変化と解釈することができる。
次に、耐酸化損耗性向上を狙いとした本発明に係る含浸材((b), (c))と、比較例としての表面コーティング材((d), (e))の酸化損耗挙動を比較すると、酸化損耗量に対するコーティング処理の効果は余り顕著では無いのに対して、本発明に係る含浸処理材は全ての加熱温度で酸化損耗率の改善が認められている。
以上の結果は、表面コーティングによる雰囲気とのバリア効果を狙うより、本発明に係る含浸処理による細孔の充てん効果を狙う方がより有効である事を示唆している。
【0031】
(実施例2)
次に、黒鉛材料として、かさ密度の大きい等方性CIP材を対象として、含浸処理前に湿式純化処理を行う事による耐酸化損耗性の改善効果について確認した。
等方性CIP材から20 x 20 x 5mmの試験辺を加工後、フッ酸酸洗によって純化処理したサンプルと無処理のサンプルについて、リン酸アルミ含浸処理を行なって加熱試験を行なった。
本実験では、予めサンプル重量を測定した上で、含浸処理後の乾燥処理を模擬するため昇温速度:10℃/minで500℃まで加熱して1時間均熱後に炉外に取り出して放冷した。
サンプル重量を測定後、以下の加熱処理を行なった。
800℃加熱:800℃に保持した炉に挿入して、2時間保持後に炉外に取り出して大気中で放冷した。1000℃加熱:800℃に保持した炉に挿入後、直ちに昇温速度:10℃/minで1000℃まで加熱して2時間保持後に800℃まで炉内で冷却し、その後炉外に取り出して大気中で放冷した。そこで、全てのサンプルについて、処理後の重量を測定した。
【0032】
得られた結果を表2に示す。
無処理材では、500℃での空焼き中の重量変化を認められなかったが、800℃で2時間加熱すると-44.7%の酸化損耗が確認された。これに(本発明に係る)含浸処理を施す事で、酸化損耗率が-24%まで軽減する。更に、含浸処理前に(本発明に係る)純化処理を施す事によって酸化損耗は全く生じない。
加熱温度を1000℃まで上げる事で、-29.5%の酸化損耗が確認されたが、同一加熱条件である表2の下段に記載された2件の比較例*(図3の(1)-DN,(1)-BNから転用)の損耗率:-49.0%,-45.1%と比較して、(本発明に係る黒鉛材料は)耐酸化損耗性が格段に向上している事がわかる。
【0033】
【表2】
【0034】
(実施例3)
上記試験結果から、雰囲気中の酸素と黒鉛材料の酸化反応を抑えることが有効であることが示唆された。この結果は、黒鉛材料の細孔での反応を抑えるだけでなく、酸化初期での黒鉛材料表面と酸素の反応面積をできる限り減少させるため、含侵処理後の材料表面を光沢に仕上げることで耐酸化損傷性を更に向上させることが可能であることも示唆している。
そこで、実施例2で用いた等方性CIP材から12 x 25 x 50mm(質量:約26g)のブロックを加工後、(1):リン酸アルミ含浸処理, (2):フッ酸酸洗によって純化処理を施した後にリン酸アルミ含浸処理, (3):(2)の処理を行なったブロックの表面を光沢仕上げ処理,の3条件で処理した後、予めサンプル重量を測定した上で、1000℃に保持した炉底昇降型の加熱炉に挿入して1時間均熱後常温まで炉冷した。炉底昇降型の炉で一度に処理する事で、ブロック間での温度差や酸化反応の違いを極力小さくした。
【0035】
得られた結果を図4に示す。酸化損耗率は(1)>(2)>(3)の順で減少しており、含浸の前処理として純化処理を、後処理として表面光沢処理を施すことで、酸化損耗量が段階的に減少することが実証された。表2に示した1000℃加熱材の結果に比べて酸化損耗率が小さい値となっているのは、均熱時間が1時間である点と炉底昇降型の炉内で炉冷したため酸素分圧が低いためであるが、(1)乃至(3)の処理条件の違いによる酸化損耗率の差をより高精度で比較する事が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、工業炉内ハースロール、電気炉の電極、鋳造鋳型、加熱炉内の治具など、大気中の酸素による酸化損耗が不可避の黒鉛材料の寿命延長に有効な技術であり、本発明に係る高純度化処理と含浸処理を組み合わせることによる得られる黒鉛材料は、従来法では想定出来なかった延命効果によって素材コスト低減のみならず、酸化消耗に伴うCOの発生抑制にも有効である。特に、電気炉電極用黒鉛の場合、電極先端のみならず電極側面の炉内雰囲気による酸化消耗量は、全消耗量の50%前後を占めるため、本発明により、電極の耐酸化損傷系の大幅な向上が期待できる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有し、かつFe含有量が1mass ppm以下である黒鉛材料の該細孔に、B酸化物、Al酸化物及びSi酸化物の群から選択された一種または二種以上の金属酸化物を充填してなる耐高温酸化損傷性に優れた黒鉛材料を製造する方法であって、
細孔を有する黒鉛材料を用意する工程と、
前記黒鉛材料をフッ素イオンと塩素イオンの一種又は二種を含む酸性溶液中に浸漬して前記黒鉛材料中のFe含有量を1 mass ppm以下とする黒鉛純化工程と、
前記黒鉛材料を、B水酸化物,Al水酸化物,及び、Si水酸化物から選択された一種または二種以上の水酸化物を10~50%含有するリン酸塩溶液中に浸漬して、該水酸化物を前記黒鉛材料の細孔に含浸させる水酸化物含浸工程と、
前記細孔に前記水酸化物を含浸した黒鉛材料を、乾燥・加熱処理して、前記細孔に含浸された水酸化物を酸化物相として前記細孔に充填する工程とを備えたことを特徴とする、耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【請求項2】
黒鉛材料は、工業炉内ハースロール、電気炉の電極、鋳造鋳型及び加熱炉内の治具から選択されたいずれか一つの用途に適用される、請求項1記載の黒鉛材料の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化物含浸工程は、10~10Paの減圧下で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【請求項4】
水酸化物含浸処理工程を経た黒鉛材料の表面に光沢仕上処理を施すことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、耐高温酸化損耗性に優れた黒鉛材料の製造方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
グラファイト(黒鉛)は、原料となるコークスやコールタールピッチを粉砕・混捏後に高圧で圧縮成形後、得られた成形体を2000℃前後で焼成して揮発成分を除去する工程と、揮発成分を除去する過程で形成された細孔にタールピッチを含浸する工程を繰り返すことにより、炭素ブロック中の細孔が埋まって、かさ密度が上昇し、かさ密度の上昇と共に細孔の径が小さくなる。過去の研究事例(非特許文献1:赤石憲也、真空、第31巻第9号(1988)、P796-800)によれば、かさ密度:1.77gcm-3で平均径:3μm、かさ密度:1.91 gcm-3で平均径:0.5μm程度まで小さくなるが、完全に細孔を無くすことは困難であり、平均径:1μm程度の細孔が分布していると推定される。そして、このように緻密化された炭素ブロックは、その後3000℃近くの高温で加熱して炭素をグラファイト化(黒鉛化)して黒鉛材料が製造される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
次いで、Fe含有量を1 mass ppm以下とした黒鉛材料に対して、B,Al,Siの内一種または二種以上の水酸化物を10~50%含有するリン酸塩溶液中に含浸して、この水酸化物を、(Fe含有量を1 mass ppm以下とした)黒鉛材料の細孔に含浸させる。
なお、短時間で黒鉛材料の内部まで含浸処理を行うためには、工業的に容易に実施可能な10~10Pa程度の減圧下で実施するのが好ましい。
次いで、細孔に水酸化物を含浸させた黒鉛材料を、乾燥・加熱処理して、この水酸化物を酸化物相として細孔に充填する。
ここで、「金属水酸化物を金属酸化物相として細孔に充填する」とは、黒鉛材料を加熱・乾燥処理して、細孔中の金属水酸化物を金属酸化物相とすること自体を意味する。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
なお、水酸化物含浸工程の後、乾燥・加熱処理工程の前に、黒鉛材料表面を光沢に仕上げる処理が好ましい。光沢仕上処理をすることにより、黒鉛材料表面と酸素との反応面積を可能な限り減少させることができ、もって乾燥・加熱処理工程における酸化初期での耐酸化損傷性を更に向上することができる。
そして、このような製造工程を経て本発明に係る耐高温酸化損傷性の優れた黒鉛材料が製造される。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
図1】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含浸処理、表面被覆処理状態での、加熱温度600℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図2】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含浸処理、表面被覆処理状態での、加熱温度800℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図3】代表的な各種黒鉛材料(等方性CIP材、押出成形材、C/Cコンポジット材)を供試材として、無処理、含浸処理、表面被覆処理状態での、加熱温度1000℃大気加熱による質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
図4】等方性CIP材を供試材として、(1):リン酸アルミ含浸処理, (2):フッ酸酸洗によって純化処理を施した後にリン酸アルミ含浸処理,(3):(2)の処理を行なったブロックの表面を光沢仕上げ処理,の3条件で処理した後、1000℃に1時間均熱後常温まで炉冷した時の質量変化率(酸化消耗性)を示した説明図である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
本発明では、汎用の黒鉛サンプル、同黒鉛に直接含浸処理を行なったサンプルとフッ酸酸洗で純化処理を行なったサンプルについて、大気雰囲気中において800℃で、2時間加熱処理前後での重量変化から酸化損耗量を定量した。その結果、以下に示す実施例1において、含浸処理は表面被覆処理に比べて耐酸化損耗性の向上に有効である事が立証された。
また、以下に示す実施例2ではフッ酸酸洗を行なって含浸処理を行う事で、含浸処理単独では到達出来ないレベルの優れた耐酸化損耗性が得られる事が確認された。すなわち、フッ酸酸洗を行って含浸処理を行うことで、含浸処理単独では到底到達できないレベルの優れた耐酸化損傷性が得られることが実証された。純化処理のみでは黒鉛の酸化反応が抑止させないことは自明であり、含浸処理の前段階の処理として純化処理を行った効果と解釈できる。
その際に、純化効果の支配因子とみなしたFe含有量の閾値に関しては、上記表1の結果に基づいて1 mass ppmに設定した。その場合、検証可能な分析条件として、材料表面から深さ10mm程度の領域から採取したサンプルで分析した。
更に、実施例3では表面を光沢に仕上げることで耐酸化損耗性が向上する事が確認され、黒鉛材料中の細孔を充填する効果に加えて、材料表面を平滑に仕上げる事で酸素との反応面積を低減させることが、耐酸化損耗性の向上に有効である事が確認された。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
(実施例1)
先ず、純化処理を行わない以下の代表的な黒鉛材料について耐酸化損耗に対する含浸処理と表面コーティング処理の有意差について確認した。
下記の(1)乃至(3)の三種類の代表的黒鉛材料から20x20x5mmの試験片を加工して、無処理材を含めて(a) 乃至(e)の処理を行なったサンプルについて、大気中で600℃乃至1000℃に加熱前後の重量変化を測定した。
試験材:(1)等方性CIP材、(2)押出成形材、(3)C/Cコンポジット材
耐酸化処理:(a)無処理、(b)DN含浸処理、(c)BN含浸処理、(d)アモルファス状カーボン浸漬コーティング処理(ACC)、(e)アークイオンプレーティング処理(AIP)
加熱処理:ボックス炉を使用して、大気雰囲気で600℃、800℃、1000℃に加熱し、2時間保持した後に炉冷却した。これらの供試材の加熱処理前後の重量変化から酸化消耗率を定量化した結果をそれぞれ図1乃至図3に示す。
なお、「DN含浸処理」のDは、純化と含浸を行う処理を意味し、「BN含浸処理」のBは、ボロン処理を意味する。また、「DN含浸処理」、「BN含浸処理」の「N」は非酸化処理であることを意味する。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
(実施例3)
上記試験結果から、雰囲気中の酸素と黒鉛材料の酸化反応を抑えることが有効であることが示唆された。この結果は、黒鉛材料の細孔での反応を抑えるだけでなく、酸化初期での黒鉛材料表面と酸素の反応面積をできる限り減少させるため、含浸処理後の材料表面を光沢に仕上げることで耐酸化損傷性を更に向上させることが可能であることも示唆している。
そこで、実施例2で用いた等方性CIP材から12 x 25 x 50mm(質量:約26g)のブロックを加工後、(1):リン酸アルミ含浸処理,(2):フッ酸酸洗によって純化処理を施した後にリン酸アルミ含浸処理,(3):(2)の処理を行なったブロックの表面を光沢仕上げ処理,の3条件で処理した後、予めサンプル重量を測定した上で、1000℃に保持した炉底昇降型の加熱炉に挿入して1時間均熱後常温まで炉冷した。炉底昇降型の炉で一度に処理する事で、ブロック間での温度差や酸化反応の違いを極力小さくした。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
(実施例1)
先ず、純化処理を行わない以下の代表的な黒鉛材料について耐酸化損耗に対する含浸処理と表面コーティング処理の有意差について確認した。
下記の(1)乃至(3)の三種類の代表的黒鉛材料から20x20x5mmの試験片を加工して、無処理材を含めて(a) 乃至(e)の処理を行なったサンプルについて、大気中で600℃乃至1000℃に加熱前後の重量変化を測定した。
試験材:(1)等方性CIP材、(2)押出成形材、(3)C/Cコンポジット材
耐酸化処理:(a)無処理、(b)DN含浸処理、(c)BN含浸処理、(d)アモルファス状カーボン浸漬コーティング処理(ACC)、(e)アークイオンプレーティング処理(AIP)
加熱処理:ボックス炉を使用して、大気雰囲気で600℃、800℃、1000℃に加熱し、2時間保持した後に炉冷却した。これらの供試材の加熱処理前後の重量変化から酸化消耗率を定量化した結果をそれぞれ図1乃至図3に示す。