(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136551
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ロックアップクラッチの制御装置及びロックアップクラッチの制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20220913BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20220913BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B60W10/02
B60W10/00 102
B60W10/06
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036220
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諏訪部 匡史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】今地 昇平
【テーマコード(参考)】
3D241
3J057
【Fターム(参考)】
3D241AA19
3D241AA59
3D241AC01
3D241AC06
3D241AC15
3D241AC19
3D241AD02
3D241AD10
3D241AD31
3D241AD51
3D241AD52
3D241AE02
3D241AE14
3D241AE30
3J057AA03
3J057BB03
3J057GB05
3J057GB09
3J057GB17
3J057GB26
3J057GB36
3J057GC04
3J057JJ06
(57)【要約】
【課題】ロックアップクラッチが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両が走行している状態でアクセルがオンになった場合に運転者が意図しない車両の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減することを目的とする。
【解決手段】車両に搭載されたエンジンと変速機構との間に設けられたロックアップクラッチを制御する制御装置は、前記ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、前記変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合に前記アクセルがオンになると、前記ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させて前記ロックアップクラッチのスリップ量を増加させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンと変速機構との間に設けられたロックアップクラッチを制御する制御装置であって、
前記ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、前記変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合に前記アクセルがオンになると、前記ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させて前記ロックアップクラッチのスリップ量を増加させる、
ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記車両のエアコンディショナが作動していない場合の前記所定変速比は第1変速比であり、作動している場合の前記所定変速比は前記第1変速比よりもHigh側の第2変速比である、
ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記車両のエアコンディショナが作動していない場合の前記所定車速は第1車速であり、作動している場合の前記所定車速は前記第1車速よりも高い第2車速である、
ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記車両のガソリンパティキュレートフィルタを再生処理していない場合の前記所定変速比は第1変速比であり、再生処理している場合の前記所定変速比は前記第1変速比よりもHigh側の第3変速比である、
ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記車両のガソリンパティキュレートフィルタを再生処理していない場合の前記所定車速は第1車速であり、再生処理している場合の前記所定車速は前記第1車速よりも高い第3車速である、
ロックアップクラッチの制御装置。
【請求項6】
車両に搭載されたエンジンと変速機構との間に設けられたロックアップクラッチを制御する制御方法であって、
前記ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、前記変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合に前記アクセルがオンになると、前記ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させて前記ロックアップクラッチのスリップ量を増加させる、
ロックアップクラッチの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチの制御装置及びロックアップクラッチの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両がアクセルオフでコースト走行中にロックアップクラッチを締結する自動変速機のロックアップ制御装置が開示されている。
【0003】
ロックアップ制御装置は、ロックアップクラッチが締結状態、且つ、アクセルがオフで走行している状態でアクセルがオンになると、ロックアップクラッチの完全な締結を禁止すると共にエンジンの出力制御手段を介してエンジンの出力を所定時間だけ低下させる。これによれば、アクセルがオンになったときのエンジンのトルク変動により発生するショックを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、上記の制御を実行する際の車両の状態が十分に考慮されているとは言えない。そのため、車両の状態によっては、運転者が意図しない車両の挙動が発生し、運転者に違和感を与えてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、ロックアップクラッチが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両が走行している状態でアクセルがオンになった場合に運転者が意図しない車両の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、車両に搭載されたエンジンと変速機構との間に設けられたロックアップクラッチを制御する制御装置であって、前記ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、前記変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合に前記アクセルがオンになると、前記ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させて前記ロックアップクラッチのスリップ量を増加させる、ロックアップクラッチの制御装置が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、車両に搭載されたエンジンと変速機構との間に設けられたロックアップクラッチを制御する制御方法であって、前記ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、前記変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合に前記アクセルがオンになると、前記ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させて前記ロックアップクラッチのスリップ量を増加させる、ロックアップクラッチの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様では、ロックアップクラッチが締結状態、アクセルがオフ、車速が所定車速以下、且つ、変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合にアクセルがオンになると、ロックアップクラッチに供給する油圧を低下させてロックアップクラッチのスリップ量を増加させる。車速が所定車速以下で変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合は、アクセルがオンになったときのエンジンのトルク変動により運転者が意図しない車両の挙動が発生する可能性がある。そのため、車速が所定車速以下で変速機構の変速比が所定変速比よりもLow側である場合は、アクセルがオンになった場合にロックアップクラッチのスリップ量を増加させることで、運転者が意図しない車両の挙動が発生することを抑制できる。よって、これらの態様によれば、ロックアップクラッチが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両が走行している状態でアクセルがオンになった場合に運転者が意図しない車両の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るロックアップクラッチの制御装置を備える車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、スリップ制御が実行される車両の様子を示すタイムチャートである。
【
図3】
図3は、ロックアップクラッチの制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、スリップ制御が実行される条件について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下において、変速比(減速比)が大きい場合をLow、変速比(減速比)が小さい場合をHighと言う。また、変速比がLow側に変更されることをダウンシフトと言い、High側に変更されることをアップシフトと言う。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るロックアップクラッチ2aの制御装置としての変速機コントローラ40を備える車両100の概略構成図である。
図1に示すように、車両100は、駆動源としてのエンジン10と、自動変速機20と、エンジン10と自動変速機20との間に設けられたトルクコンバータ2と、エンジンコントローラ30と、変速機コントローラ40と、エアコンディショナ80と、を備える。
【0013】
エンジン10には排気通路11が接続されている。排気通路11には、触媒コンバータ12と、ガソリンパティキュレートフィルタ(Gasoline Particulate Filter(GPF))13と、マフラー14と、が設けられる。
【0014】
触媒コンバータ12は、三元触媒等の排気浄化触媒を内蔵し、GPF13の上流側に配置される。触媒コンバータ12は、エンジン10の排気に含まれるHC、CO等の未燃成分の酸化や、NOx等の酸化成分の還元を行うことにより排気を浄化する。
【0015】
GPF13は、エンジン10の排気中の粒子状物質(Particulate Matter(PM))を捕集するフィルタである。
【0016】
マフラー14は、GPF13の下流側に設けられ、通過する排気の排気音を低減する。
【0017】
上記の構成により、エンジン10からの排気は、排気通路11を流れ、触媒コンバータ12により浄化され、GPF13によりPMが除去された後、マフラー14から外部に排出される。
【0018】
トルクコンバータ2には、ロックアップクラッチ2aが設けられる。ロックアップクラッチ2aは、車両100が所定のロックアップ車速以上で走行している場合に締結される。ロックアップクラッチ2aが締結されると、トルクコンバータ2の入力要素としての入力軸2bと出力要素としての出力軸2cとが直結し、入力軸2bと出力軸2cとが同速回転する。よって、ロックアップクラッチ2aが締結された状態では、エンジン1の出力軸10aの回転がそのままトルクコンバータ2の出力軸2cから自動変速機20に伝達される。
【0019】
自動変速機20は、動力伝達機構としての前後進切替機構3と、変速機構としてのバリエータ4と、油圧制御回路5と、オイルポンプ6と、を備える。
【0020】
車両100においては、エンジン10で発生した回転が、トルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4、歯車組7、ディファレンシャルギヤ装置8を経て駆動輪50に伝達される。
【0021】
前後進切替機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組を主たる構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ2を介してエンジン10に結合し、キャリアをバリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)に結合する。前後進切替機構3は更に、ダブルピニオン遊星歯車組のサンギヤ及びキャリア間を直結する前進クラッチ3a、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ3bを備え、前進クラッチ3aの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ4aに伝達し、後進ブレーキ3bの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転を逆転減速してプライマリプーリ4aへ伝達する。
【0022】
バリエータ4は、入力軸4dに伝達されたエンジン10の回転を変速して出力軸4eから駆動輪50に伝達する無段変速機構である。バリエータ4は、動力伝達経路においてエンジン10側に設けられたプライマリプーリ4aと、駆動輪50側に設けられたセカンダリプーリ4bと、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとに掛け回された無端状部材としてのベルト4cと、を備える。
【0023】
バリエータ4では、プライマリプーリ4aに供給される油圧とセカンダリプーリ4bに供給される油圧とが制御されることで、各プーリ4a、4bとベルト4cとの接触半径が変更され、変速比Rvが変更される。
【0024】
オイルポンプ6は、エンジン10の回転が入力されエンジン10の動力の一部を利用して駆動される機械式のオイルポンプである。オイルポンプ6から吐出された油は、油圧制御回路5に供給される。
【0025】
油圧制御回路5は、オイルポンプ6から供給された作動油の圧力を調圧して必要な油圧を生成するレギュレータバルブ5a、プライマリプーリ4aに供給される油圧を調整するプライマリソレノイドバルブ5b、セカンダリプーリ4bに供給される油圧を調整するセカンダリソレノイドバルブ5c、ロックアップクラッチ2aに供給される油圧(以下、LU圧という。)を調整するロックアップソレノイドバルブ5d、前進クラッチ3aに供給される油圧及び後進ブレーキ3bに供給される油圧を調整するセレクトソレノイドバルブ5e、前進クラッチ3a及び後進ブレーキ3bへの油圧の供給経路を切り換えるマニュアルバルブ5f、等を有する。
【0026】
油圧制御回路5は、変速機コントローラ40からの制御信号に基づき、調整された油圧をトルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4の各部位に供給する。
【0027】
エンジンコントローラ30は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。エンジンコントローラ30は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。エンジンコントローラ30は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0028】
エンジンコントローラ30は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきエンジン10の回転速度Ne(以下、エンジン回転速度Neという。)及びエンジントルクTe等を制御する。また、エンジンコントローラ30には、エアコンディショナ80の作動状態を示す信号が入力される。
【0029】
変速機コントローラ40は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。変速機コントローラ40とエンジンコントローラ30とは通信可能に接続されており、適宜情報が共有される。変速機コントローラ40は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。変速機コントローラ40は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。変速機コントローラ40とエンジンコントローラ30とを統合して1つのコントローラとしてもよい。
【0030】
変速機コントローラ40は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきロックアップクラッチ2aの締結状態、バリエータ4の変速比Rv、前進クラッチ3ab及び後進ブレーキ3bの締結状態等を制御する。
【0031】
変速機コントローラ40には、アクセルペダル41の操作量に対応したアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ61からの信号、ブレーキペダル42の操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ62からの信号、シフター63の位置を検出するインヒビタスイッチ64からの信号、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Nt(以下、タービン回転速度Ntという。)を検出するタービン回転速度センサ65からの信号、バリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)の回転速度Np(以下、プライマリ回転速度Npという。)を検出するプライマリ回転速度センサ66からの信号、バリエータ4の出力軸4e(セカンダリプーリ4b)の回転速度Nsを検出するセカンダリ回転速度センサ67からの信号、プライマリプーリ4aに供給されるプライマリ油圧Ppを検出するプライマリ油圧センサ68からの信号、セカンダリプーリ4bに供給されるセカンダリ油圧Psを検出するセカンダリ油圧センサ69からの信号、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ70からの信号、等が入力される。
【0032】
本実施形態では、変速機コントローラ40は、車両100がアクセルオフ(アクセル開度APO=0)でコースト走行中に、ロックアップクラッチ2aを締結状態とするコーストロックアップ制御を実行する。これにより、コースト走行中に車両100にエンジンブレーキを作用させることができる。なお、以下では、コーストロックアップ制御によりロックアップクラッチ2aを締結状態としたコースト走行をコーストロックアップ走行という。
【0033】
ところで、コーストロックアップ走行中にアクセルがオンになると、エンジン10のトルク変動により車両100にショックが発生する可能性がある。そのため、変速機コントローラ40は、コーストロックアップ走行中にアクセルがオンになると、LU圧を低下させてロックアップクラッチ2aのスリップ量を増加させるスリップ制御を実行する。これによれば、エンジン10のトルク変動により発生するショックを低減することができる。つまり、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制できる。
【0034】
以下、
図2を参照しながらスリップ制御について説明する。
図2は、スリップ制御が実行される車両100の様子を示すタイムチャートである。
【0035】
時刻t1よりも前は、車両100がロックアップ車速以上で走行しており、ロックアップクラッチ2aは完全締結状態である。
【0036】
時刻t1でアクセルがオフ(アクセル開度APO=0)になると、LU圧が低下し、ロックアップクラッチ2aがスリップ状態となる。これにより、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの差回転が増加する。
図2では、時刻t1から時刻t3にかけてロックアップクラッチ2aのスリップ量が増加していき、時刻t3で所定のスリップ量になる。
【0037】
時刻t2では、エンジン10への燃料噴射が停止され、エンジントルクTeがマイナスになる。コースト走行中はエンジン10からの動力が不要であるから、エンジン10への燃料噴射を停止することで燃費を向上させることができる。
【0038】
時刻t3では、ロックアップクラッチ2aのスリップ量が所定量となる。時刻t3以降は、ロックアップクラッチ2aのスリップ量が所定量となるようにLU圧が制御される。
【0039】
時刻t4でアクセルがオン(アクセル開度APO≠0)になると、スリップ制御が開始されてLU圧が低下し、ロックアップクラッチ2aのスリップ量が増加する。
【0040】
時刻t5では、エンジン10への燃料噴射が再開される。また、LU圧が上昇する。
【0041】
時刻t5では、解放状態になる直前までロックアップクラッチ2aのスリップ量が増加している。よって、時刻t5でエンジン10への燃料噴射が再開されてエンジントルクTeが上昇しても、車両100に大きなショックが発生しない。
【0042】
時刻t5以降はLU圧が上昇し、時刻t6でLU圧が締結圧になる。これにより、ロックアップクラッチ2aが完全締結状態となり、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntと一致する。
【0043】
時刻t4でアクセルがオンになってLU圧を低下させてから上昇させるまでの時間と、時刻t4でアクセルがオンになってからエンジントルクTeを上昇させるまでの時間は、車両100の諸元や実験結果に基づいて予め設定される。よって、LU圧を上昇させるタイミングとエンジントルクTeを上昇させるタイミングとが異なっていてもよい。
【0044】
なお、
図2の例では、時刻t1から時刻t4の間は、ロックアップクラッチ2aをスリップ状態とするコーストスリップ制御が実行されている。コーストスリップ制御を実行することで、コースト走行中に急制動により駆動輪50がロックした場合に、速やかにロックアップクラッチ2aを解放状態としてエンジンストールを防止できる。なお、コーストスリップ制御を実行しなくてもよい。
【0045】
また、
図2の例では、時刻t2から時刻t4の間は、燃料噴射を停止するフューエルカット制御が実行されている。コースト走行中は燃料噴射を停止することで燃費の向上を図ることができる。なお、フューエルカット制御を実行しなくてもよい。
【0046】
ところで、スリップ制御は、車両100の状態に応じて実行することで、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを効果的に抑制できる。
【0047】
そこで、本実施形態の変速機コントローラ40は、
図3に示す処理を行うことで、車両100の状態に応じてスリップ制御を実行するようになっている。以下、
図3を参照しながら、変速機コントローラ40が実行する処理について説明する。
図3の処理は、一定時間毎に実行される。
【0048】
ステップS11では、変速機コントローラ40は、アクセルがオフか判定する。
【0049】
変速機コントローラ40は、アクセルがオフであると判定すると、処理をステップS12に進める。また、変速機コントローラ40は、アクセルがオフでないと判定すると、処理を終了する。
【0050】
ステップS12では、変速機コントローラ40は、ロックアップクラッチ2aが締結状態か判定する。具体的には、変速機コントローラ40は、LU圧に基づいてロックアップクラッチ2aが締結状態か判定する。また、エンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの差回転に基づいてロックアップクラッチ2aが締結状態か判定してもよい。
【0051】
変速機コントローラ40は、ロックアップクラッチ2aが締結状態であると判定すると、処理をステップS13に進める。また、変速機コントローラ40は、ロックアップクラッチ2aが締結状態でないと判定すると、処理を終了する。なお、締結状態には、完全締結状態だけでなくスリップ状態も含まれる。つまり、解放状態以外は締結状態である。
【0052】
ステップS13では、変速機コントローラ40は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上、且つ、上限回転速度NeH以下であるか判定する。
【0053】
変速機コントローラ40は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上、且つ、上限回転速度NeH以下であると判定すると、処理をステップS14に進める。また、変速機コントローラ40は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上、且つ、上限回転速度NeH以下でないと判定すると、処理を終了する。
【0054】
下限回転速度NeLは、車両100の諸元や実験結果に基づいて予め設定された変速マップにおけるコースト線に沿ってバリエータ4が変速された場合に、エンジン回転速度Neが下回ることがない値に設定される。下限回転速度NeLは、例えば、1000[rpm]~1200[rpm]とされる。
【0055】
上限回転速度NeHは、エンジン回転速度Neが上限回転速度NeHよりも高い場合にスリップ制御を実行しなくても、運転者に違和感を与えるほどの車両100の挙動が発生しないと考えられる値に設定される。具体的には、上限回転速度NeHは、車両100の諸元や実験結果に基づいて設定される。また、エンジン回転速度Neが高い状態では、スリップ制御を実行せずにアクセルオンで速やかに車両100を加速させることがより運転者の意図に沿うとも言える。上限回転速度NeHは、例えば、3000[rpm]~4000[rpm]とされる。
【0056】
ステップS14では、変速機コントローラ40は、GPF13の再生処理が実行されているか判定する。
【0057】
GPF13は、PMが堆積すると目詰まりが発生するおそれがあるため、適切なタイミングでGPF13に堆積したPMを燃焼させてGPF13を再生する必要がある。GPF13は、エンジン10を通常よりも負荷が高いGPF再生モードで作動させることで再生される。よって、GPF13の再生処理中は、アクセルオンにより運転者が意図しない車両100の挙動が発生する可能性が高くなる。そのため、変速機コントローラ40は、車両100の状態に応じて適切にスリップ制御を実行できるように、GPF13の再生処理が実行されているかを判定する。
【0058】
変速機コントローラ40は、GPF13の再生処理が実行されていると判定すると、処理をステップS15に進める。また、変速機コントローラ40は、GPF13の再生処理が実行されていないと判定すると、処理をステップS19に進める。
【0059】
ステップS15では、変速機コントローラ40は、車速Vspが第3車速Vspg以下であるか判定する。第3車速Vspgについては後述する。
【0060】
変速機コントローラ40は、車速Vspが第3車速Vspg以下であると判定すると、処理をステップS16に進める。また、変速機コントローラ40は、車速Vspが第3車速Vspg以下でないと判定すると、処理を終了する。
【0061】
ステップS16では、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第3変速比Rvgよりも大きいか判定する。言い換えると、変速比Rvが第3変速比RvgよりもLow側であるか判定する。第3変速比Rvgについては後述する。
【0062】
変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第3変速比Rvgよりも大きいと判定すると、処理をステップS17に進める。また、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第3変速比Rvgよりも大きくないと判定すると、処理を終了する。
【0063】
ステップS17では、変速機コントローラ40は、アクセルがオンになったか判定する。
【0064】
変速機コントローラ40は、アクセルがオンになったと判定すると、処理をステップS18に進める。また、変速機コントローラ40は、アクセルがオンになっていないと判定すると、処理をステップS12に戻す。
【0065】
ステップS18では、変速機コントローラ40は、スリップ制御(
図2の時刻t4以降参照)を実行する。
【0066】
ステップS19では、変速機コントローラ40は、車両100のエアコンディショナ80が作動しているか判定する。
【0067】
エアコンディショナ80の作動中はエンジン10の負荷が大きくなるので、アクセルがオンになったときのエンジン10の出力変動が、エアコンディショナ80が作動していない場合よりも大きくなる。よって、エアコンディショナ80の作動中は、アクセルオンにより運転者が意図しない車両100の挙動が発生する可能性が高くなる。そのため、変速機コントローラ40は、車両100の状態に応じて適切にスリップ制御を実行できるように、エアコンディショナ80が作動しているかを判定する。
【0068】
変速機コントローラ40は、エアコンディショナ80が作動していると判定すると、処理をステップS20に進める。また、変速機コントローラ40は、エアコンディショナ80が作動していないと判定すると、処理をステップS23に進める。
【0069】
ステップS20では、変速機コントローラ40は、車速Vspが第2車速Vspa以下であるか判定する。第2車速Vspaについては後述する。
【0070】
変速機コントローラ40は、車速Vspが第2車速Vspa以下であると判定すると、処理をステップS21に進める。また、変速機コントローラ40は、車速Vspが第2車速Vspa以下でないと判定すると、処理を終了する。
【0071】
ステップS21では、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第2変速比Rvaよりも大きいか判定する。言い換えると、変速比Rvが第2変速比RvaよりもLow側であるか判定する。第2変速比Rvaについては後述する。
【0072】
変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第2変速比Rvaよりも大きいと判定すると、処理をステップS17に進める。また、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第2変速比Rvaよりも大きくないと判定すると、処理を終了する。
【0073】
ステップS23では、変速機コントローラ40は、車速Vspが第1車速Vspr以下であるか判定する。第1車速Vsprについては後述する。
【0074】
変速機コントローラ40は、車速Vspが第1車速Vspr以下であると判定すると、処理をステップS24に進める。また、変速機コントローラ40は、車速Vspが第1車速Vspr以下でないと判定すると、処理を終了する。
【0075】
ステップS24では、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第1変速比Rvrよりも大きいか判定する。言い換えると、変速比Rvが第1変速比RvrよりもLow側であるか判定する。第1変速比Rvrについては後述する。
【0076】
変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第1変速比Rvrよりも大きいと判定すると、処理をステップS17に進める。また、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比Rvが第1変速比Rvrよりも大きくないと判定すると、処理を終了する。
【0077】
続いて、
図4を参照しながらスリップ制御を実行する条件について説明する。
【0078】
図4の領域Aは、GPF13の再生処理が実行されておらずエアコンディショナ80も作動していない状態(以下、通常状態という。)で車両100がコーストロックアップ走行している場合に、スリップ制御が実行される領域を示している。
【0079】
つまり、車両100が通常状態でコーストロックアップ走行している場合は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上で上限回転速度NeH以下、車速Vspが第1車速Vspr以下、且つ、バリエータ4の変速比Rvが第1変速比Rvrよりも大きい(Low側)という条件を満たす場合にアクセルがオンになると、スリップ制御が実行される。
【0080】
車両100がコーストロックアップ走行中にアクセルがオンになった場合は、車速Vspが低いほど、また、変速比Rvが大きいほど、運転者が意図しない車両100の挙動が発生しやすい。
【0081】
よって、第1車速Vspr及び第1変速比Rvrは、車両100が通常状態でコーストロックアップ走行中にアクセルがオンになった場合に、運転者が意図しない車両100の挙動が発生する可能性があると考えられる領域でスリップ制御が実行されるように設定される。具体的には、第1車速Vspr及び第1変速比Rvrは、車両100の諸元や実験結果に基づいて設定される。第1車速Vsprは、例えば、50[km/h]~60[km/h]とされる。
【0082】
図4の領域Bは、GPF13の再生処理が実行されておらずエアコンディショナ80が作動している状態(以下、A/C作動状態という。)で車両100がコーストロックアップ走行している場合に、領域Aに加えてスリップ制御が実行される領域を示している。
【0083】
つまり、車両100がA/C作動状態でコーストロックアップ走行している場合は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上で上限回転速度NeH以下、車速Vspが第2車速Vspa以下、且つ、バリエータ4の変速比Rvが第2変速比Rvaよりも大きい(Low側)という条件を満たす場合にアクセルがオンになると、スリップ制御が実行される。
【0084】
上述したように、エアコンディショナ80の作動中はエンジン10の負荷が大きくなるので、アクセルがオンになったときのエンジン10の出力変動が、エアコンディショナ80が作動していない場合よりも大きくなる。
【0085】
そのため、車両100がA/C作動状態でコーストロックアップ走行中にアクセルがオンになった場合は、通常状態の場合と比べて車速Vspが高い領域でも運転者が意図しない車両100の挙動が発生しやすくなる。同様に、通常状態の場合と比べて変速比RvがLow側の領域でも運転者が意図しない車両100の挙動が発生しやすくなる。
【0086】
よって、第2車速Vspaは、第1車速Vsprよりも高い値に設定され、第2変速比Rvaは、第1変速比Rvrよりも小さい値(High側の値)に設定される。具体的には、第2車速Vspa及び第2変速比Rvaは、車両100の諸元や実験結果に基づいて設定される。
【0087】
図4の領域Cは、GPF13の再生処理が実行されている状態(以下、GPF再生状態という。)で車両100がコーストロックアップ走行している場合に、領域A、領域Bに加えてスリップ制御が実行される領域を示している。
【0088】
つまり、車両100がGPF再生状態でコーストロックアップ走行している場合は、エンジン回転速度Neが下限回転速度NeL以上で上限回転速度NeH以下、車速Vspが第3車速Vspg以下、且つ、バリエータ4の変速比Rvが第3変速比Rvgよりも大きい(Low側)という条件を満たす場合にアクセルがオンになると、スリップ制御が実行される。
【0089】
上述したように、GPF13は、エンジン10を通常よりも負荷が高いGPF再生モードで作動させることで再生される。また、GPF再生モードでは、エンジン10の負荷がエアコンディショナ80の作動中よりも高くなる場合がある。
【0090】
そのため、車両100がGPF再生状態でコーストロックアップ走行中にアクセルがオンになった場合は、A/C作動状態の場合と比べて車速Vspが高い領域でも運転者が意図しない車両100の挙動が発生しやすくなる。同様に、A/C作動状態の場合と比べて変速比RvがLow側の領域でも運転者が意図しない車両100の挙動が発生しやすくなる。
【0091】
よって、第3車速Vspgは、第1車速Vspr及び第2車速Vspaよりも高い値に設定され、第3変速比Rvgは、第1変速比Rvr及び第2変速比Rvaよりも小さい値(High側の値)に設定される。具体的には、第3車速Vspg及び第3変速比Rvgは、車両100の諸元や実験結果に基づいて設定される。
【0092】
以上のように構成された変速機コントローラ40の主な作用効果についてまとめて説明する。
【0093】
(1)(6)変速機コントローラ40は、車両100に搭載されたエンジン10とバリエータ4との間に設けられたロックアップクラッチ2aを制御する。ロックアップクラッチ2aが締結状態、アクセルがオフ、車速Vspが所定車速(Vspr、Vspa、Vspg)以下、且つ、バリエータ4の変速比Rvが所定変速比(Rvr、Rva、Rvg)よりもLow側である場合にアクセルがオンになると、ロックアップクラッチ2aに供給する油圧(LU圧)を低下させてロックアップクラッチ2aのスリップ量を増加させる。
【0094】
車速Vspが所定車速以下でバリエータ4の変速比Rvが所定変速比よりもLow側である場合は、アクセルがオンになったときのエンジン10のトルク変動により運転者が意図しない車両100の挙動が発生する可能性がある。そのため、車速Vspが所定車速以下でバリエータ4の変速比Rvが所定変速比よりもLow側である場合は、アクセルがオンになった場合にロックアップクラッチ2aのスリップ量を増加させることで、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制できる。よって、これによれば、ロックアップクラッチ2aが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両100が走行している状態でアクセルがオンになった場合に運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。なお、ロックアップクラッチ2aのスリップ量を増加させることには、ロックアップクラッチ2aを完全締結状態からスリップ状態にすることが含まれる。
【0095】
(2)車両100のエアコンディショナ80が作動していない場合の所定変速比は第1変速比Rvrであり、作動している場合の所定変速比は第1変速比RvrよりもHigh側の第2変速比Rvaである。
【0096】
これによれば、エアコンディショナ80の作動中において、ロックアップクラッチ2aが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両100が走行している状態でアクセルがオンになった場合でも、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。
【0097】
(3)車両100のエアコンディショナ80が作動していない場合の所定車速は第1車速Vsprであり、作動している場合の所定車速は第1車速Vsprよりも高い第2車速Vspaである。
【0098】
これによれば、エアコンディショナ80の作動中において、ロックアップクラッチ2aが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両100が走行している状態でアクセルがオンになった場合でも、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。
【0099】
(4)車両100のGPF13を再生処理していない場合の所定変速比は第1変速比Rvrであり、再生処理している場合の所定変速比は第1変速比RvrよりもHigh側の第3変速比Rvgである。
【0100】
これによれば、GPF13の再生処理中において、ロックアップクラッチ2aが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両100が走行している状態でアクセルがオンになった場合でも、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。
【0101】
(5)車両100のGPF13を再生処理していない場合の所定車速は第1車速Vsprであり、再生処理している場合の所定車速は第1車速Vsprよりも高い第3車速Vspgである。
【0102】
これによれば、GPF13の再生処理中において、ロックアップクラッチ2aが締結状態、且つ、アクセルがオフで車両100が走行している状態でアクセルがオンになった場合でも、運転者が意図しない車両100の挙動が発生することを抑制し、運転者に与える違和感を低減できる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0104】
例えば、上記実施形態では、変速機構がバリエータ4である場合について説明した。しかしながら、変速機構は、他の変速機構であってもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、スリップ制御を実行する条件を、通常状態、A/C作動状態、及びGPF再生状態のそれぞれに対応して設定している。しかしながら、A/C作動状態に対応する条件及びGPF再生状態に対応する条件は、必ずしも設ける必要はない。
【符号の説明】
【0106】
100 車両
10 エンジン
2a ロックアップクラッチ
4 バリエータ(変速機構)
13 ガソリンパティキュレートフィルタ
40 変速機コントローラ(制御装置)
80 エアコンディショナ