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  • 特開-FM-CWレーダ 図1
  • 特開-FM-CWレーダ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136599
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】FM-CWレーダ
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20220913BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G01S7/03
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036292
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石嶺 真人
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AD02
5J070AH40
(57)【要約】
【課題】ガンダイオードVCOを用いたFM-CWレーダであって、既存技術を組み合わせることで周波数帯域幅を広げることができる新規な構成のものを提供する。
【解決手段】FM-CWレーダ10は、第1発振源としてのガンダイオードVCO11、第1発振源用の周波数制御手段12、第2発振源としてのMMIC-VCO13、第1発振源及び第2発振源の出力を受ける第1周波数ミキサ14、第1周波数ミキサの出力から所定信号を選択し出力するBPF15、BPFの出力を第1信号及び第2信号に分岐するカプラ16、第1信号を対象物60側に送信する送信手段17、対象物からの反射信号を受ける受信手段18、反射信号及び第2信号を受ける第2周波数ミキサ19、及び、第2周波数ミキサが出力するビート信号に基づいて対象物までの距離を算出する処理回路20を具えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FM-CWレーダであって、
第1発振源としてのガンダイオードVCOと、
前記第1発振源の周波数温度特性を緩和する周波数制御手段と、
前記第1発振源に比べ周波数温度特性が良好かつ周波数変調源としての第2発振源と、
前記第1発振源及び前記第2発振源の出力を受ける第1周波数ミキサと、
前記第1周波数ミキサの出力から所定信号を選択し出力するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタが出力する前記所定信号を第1信号及び第2信号に分岐するカプラと、
前記第1信号を対象物側に送信する送信手段と、
前記第1信号の前記対象物からの反射信号を受ける受信手段と、
前記反射信号及び前記第2信号を受ける第2周波数ミキサと、
前記第2周波数ミキサが出力する前記反射信号及び前記第2信号に起因するビート信号に基づいて前記対対象物までの距離を算出する処理回路と、
を備えたことを特徴とするFM-CWレーダ。
【請求項2】
前記第2発振源を、MMIC-VCOとしたことを特徴とする請求項1に記載のFM-CWレーダ。
【請求項3】
当該FM-CWレーダの法的に認められた使用周波数をF0(帯域も含む)と表し、前記第1発振源が出力する周波数をF1と表し、前記第2発振源が出力する周波数をF2(変調幅も含む)と表したとき、第1発振源は、下記(1)式で規定される周波数F1を出力するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のFM-CWレーダ。
F1=F0±F2 ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振源としてガンダイオードVCO(Voltage controlled Oscillator)を用いた、FM-CWレーダに関する。
【背景技術】
【0002】
安全運転支援や自動運転等を実現する重要部品の1つとして、ミリ波レーダが注目されている(例えば非特許文献1)。また、ミリ波の発振源としてガンダイオードVCOを用いたFM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダが、知られている(特許文献1)。
図2は、従来のFM-CWレーダ50の構成を示すブロック図である。FM-CWレーダ50は、ガンダイオードVCO51、カプラ52、送信手段53、受信手段54、周波数ミキサ55および処理回路56を備えている。ガンダイオードVCO51は、周波数変調したミリ波を出力する。カプラ52は、前記ミリ波を分岐する。送信手段53は、前記分岐された一方の信号を対象物60側に出力する。受信手段54は、対象物60からの反射波を受信する。周波数ミキサ55は、前記反射波と、カプラ52で分岐された他方の信号とに基づきビート信号を出力する。処理回路56は、前記ビート信号に基づき対象物60までの距離等を算出する。
【0003】
FM-CWレーダの場合、距離分解能は、下記(a)式で定義される(例えば、非特許文献1の55頁)。なお、下記(a)式において、ΔRは距離分解能、Aは信号処理の影響で検知性能が低下することを考慮した定数、cは光速、ΔFは周波数帯域幅である。
ΔR=Ac/2ΔF・・・(a)
従って、距離分解能を高く(ΔRの値を小さく)するためには、周波数帯域幅ΔFを広げれば良いことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-153915号公報
【非特許文献1】雑誌FUJITSU 2014年7月号(Vol.65,No.4,PP.53-57)
【特許文献2】特開平8-146125号公報
【0005】
FM-CWレーダの場合、電波法の規制から、周波数帯域幅は決められている。例えば、76~77GHz帯のFM-CWレーダの場合は、周波数帯域幅は、理想状態であっても、最大で1GHzである。しかし、ガンダイオードの周波数温度特性は、あまり良くないため、実際の周波数帯域幅は、上記理想の周波数帯域幅から、ガンダイオード自身の周波数温度特性による周波数変動分を差し引いた値になってしまう。
具体的には、発振周波数が例えば76~77GHz帯のガンダイオードでは、約10MHz/℃程度の周波数温度特性を示す。従って、温度が-20~60℃の範囲で変化する環境下では、ガンダイオード自身の周波数変動分は、10*80≒800MHzになるため、実際の周波数可変幅は、上記の理想周波数帯域幅1GHzから800MHzを差し引いた、200~300MHz程度になってしまう。
【0006】
一方、その対策に利用できそうな技術が、例えば特許文献2に開示されている。すなわち、環境温度の変化に応じてFM変調電圧振幅を補正する手段を設けることによって、環境温度の変動があっても、ミリ波を出力する発振器の中心周波数や周波数偏移の変動を防止する技術である(特許文献3の特許請求の範囲、段落17,18等)。しかし、特許文献2の技術の場合、複雑な回路構成が予想される等、困難が懸念される。
【0007】
この出願は上記の点に鑑みなされたものであり、従って、この発明の目的は、ガンダイオードVCOを用いたFM-CWレーダであって、既存技術を組み合わせることで周波数帯域幅を広げることができる新規な構成のFM-CWレーダを提供することにある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的の達成を図るため、この発明のFM-CWレーダによれば、第1発振源としてのガンダイオードVCOと、第1発振源の周波数温度特性を緩和する周波数制御手段と、第1発振源に比べ周波数温度特性が良好かつ周波数変調源となる第2発振源と、第1発振源及び第2発振源の出力を受ける第1周波数ミキサと、第1周波数ミキサの出力から所定信号を選択し出力するバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタが出力する所定信号を第1信号及び第2信号に分岐するカプラと、第1信号を対象物側に送信する送信手段と、第1信号の前記対象物からの反射信号を受ける受信手段と、前記反射信号及び前記第2信号を受ける第2周波数ミキサと、第2周波数ミキサが出力する前記反射信号及び前記第2信号に起因するビート信号に基づいて対象物までの距離を算出する処理回路と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この発明を実施するに当たり、前記第2発振源を、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)-VCOとすることが好ましい。
【0010】
この発明を実施するに当たり、当該FM-CWレーダの法的に認められた使用周波数をF0(帯域も含む)と表し、前記第1発振源が出力する周波数をF1と表し、前記第2発振源が出力する周波数をF2(変調幅も含む)と表したとき、前記F1は下記(1)式で規定される周波数とすることが好ましい。
F1=F0±F2 ・・・(1)
なお、第1発振源が出力する周波数F1を、F1=F0-F2で決まる周波数とした方が、第1発振源自体を周波数の低いものとできるから、好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、ガンダイオードVCOは、周波数制御手段の作用によって、ガンダイオードVCO単体の場合に比べ、一定周波数の信号を出力する。また、第2発振源はガンダイオードVCO単体に比べ周波数温度特性が良好な発振源であるため、ガンダイオードVCO単体に比べ、一定の周波数を中心とする変調信号を出力する。
そして、第1周波数ミキサは、第1発振源からの信号と第2発振源からの信号との、和信号及び差信号をバンドパスフィルタに出力し、バンドパスフィルタは、和信号又及び差信号のうちのいずれかをカプラに出力する。従って、上記和信号又は差信号を周波数変調信号(チャープ信号)として用いるミリ波レーダを構成できる。
この和信号又は差信号による周波数変調信号は、上記の通り、発振源自体の周波数温度特性が改善されたものに起因する信号であるため、周波数帯域幅に対するミリ波発振源の周波数温度特性の周波数変動分の影響が軽減できる。
然も、第1発振源用の周波数制御手段は、例えば恒温槽及び又はPLL(Phase Locked Loop)回路等の既に確立された手段で実現でき、第2発振源は例えばMMIC-VCO等の既に確立された手段で実現でき、バンドパスフィルタも既に確立された手段で実現できる。
従って、ガンダイオードVCOを用いたFM-CWレーダであって、既存技術を組み合わせることで周波数帯域幅を広げることができる新規な構成のFM-CWレーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、実施形態のFM-CWレーダの構成を説明するブロック図、図1(B)~(D)は、より具体的な例、特に周波数制御手段12の具体的な例を示した図である。
図2図2は、従来のFM-CWレーダの構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明のFM-CWレーダの実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。
【0014】
1.構成例
図1(A)は、実施形態のFM-CWレーダ10の構成を示すブロック図である。
実施形態のFM-CWレーダ10は、第1発振源11、周波数制御手段12、第2発振源13、第1周波数ミキサ14、バンドパスフィルタ15、カプラ16、送信手段17、受信手段18、第2周波数ミキサ19および処理回路20を備えている。
第1発振源11は、ガンダイオードVCOで構成してある。ガンダイオードVCO11は、従来公知の任意のものを用いることができる。
周波数制御手段12は、第1発振源であるガンダイオードVCO11の周波数温度特性を緩和するものである。詳細には、従来のFW-CWレーダの場合は、ガンダイオードVCOの制御電圧によって周波数変調をも実施していたのに対し、本発明の場合は、ガンダイオードVCOの周波数温度特性の影響を除外して中心周波数を極力一定値に維持する点を1つの目的とする。従って、周波数制御手段12は、上記目的を果たせるものであれば、任意のもので良い。その一例を、図1(B)~(D)に示してある。
図1(B)の例は、ガンダイオードVCO11を収容する恒温槽12aによって、周波数制御手段12を構成した例である。
図1(C)の例は、ガンダイオードVCO11に接続したPLL回路12bによって、周波数制御手段12を構成した例である。
図1(D)の例は、恒温槽12aとPLL回路12bとの双方によって、周波数制御手段12を構成した例である。
【0015】
第2発振源13は、第1発振源11に比べ周波数温度特性が良好かつ周波数変調源として機能するものである。従って、第1発振源11ほど高周波を出力する必要はなく、その目的に合うものであれば任意のものを用いることができる。第2発振源13として、例えば、MMIC-VCOを用いることが好ましい。MMIC―VCOは、1MHz/℃程度の周波数温度特性であるため、ガンダイオードVCOの10倍程度良好な周波数温度特性を示し、かつ、制御電圧を可変することで周波数変調源になるため、好ましい。なお、第2発振源13自体を、恒温槽に収容する場合があっても良い、
【0016】
第1周波数ミキサ14は、第1発振源11及び第2発振源13の出力を受け、両発振源11,13の信号の和信号及び差信号を出力するもので、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
【0017】
バンドパスフィルタ15は、第1周波数ミキサ14が出力する信号から所定信号、具体的には、第1周波数ミキサ14から出力される第1発振源と第2発振源の和信号及び差信号のうちの一方を選択して出力するもので、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
【0018】
カプラ16は、バンドパスフィルタ15が出力する前記所定信号を第1信号及び第2信号に分岐するもので、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
送信手段17は、カプラ16で分けられた前記第1信号を対象物60側に送信するものであり、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
受信手段18は、送信手段17が発した第1信号の対象物60からの反射信号を受けるもので、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
第2周波数ミキサ19は、受信手段18が受信した前記反射信号と、カプラ16で分けられた前記第2信号を受けて、これら信号のビート信号を処理回路20に出力するものであり、従来公知の種々の構成のもので構成できる。
処理回路20は、第2周波数ミキサ19が出力する前記反射信号及び前記第2信号に起因するビート信号に基づいて、対対象物60までの距離を算出するものであり、従来公知の種々の回路で構成できる。なお、この実施形態の場合、処理回路20は、第2発振源13の変調信号も出力する。
【0019】
2.動作例
次に、この発明の理解を深めるため、具体的な動作例を説明する。ここでは、77GHz帯(変調域は76~77GHz)の例により説明する。すなわち、FM-CWレーダの法的に認められた使用周波数F0(帯域も含む)が76~77MHzの例により動作説明をする。しかも、第2発振源13として、MMIC-VCOは発振周波数が7~8GHzで変化する周波数変調源、すなわち、第2発振源13が出力する周波数F2(変調幅も含む)が7~8GHzである例により動作説明をする。従って、第1発振源であるガンダイオードVCO11が出力する周波数F1は、F1=F0-F2=(76~77)―(7~8)=69GHz又はF1=F0+F2=(76~77)+(7~8)=84GHzにできるが、ここでは、F169GHzの例で説明する。
【0020】
従って、第1発振源11及び周波数制御手段12は、周波数が69GHzの信号を極力安定して出力するよう動作する。一方、第2発振源13は、7~8GHzの範囲で変化する周波数変調用の信号を出力する。これらの信号を受けた第1周波数ミキサ14は、これらの信号の和信号である76~77GHzの信号及び差信号である61~62GHzの信号をバンドパスフィルタ15に出力する。
ここで、電波法の規制から使用周波数はこの例の場合は76~77GHzなので、バンドパスフィルタ15の使用はこれに合致するものとしてあるので、バンドパスフィルタ15は、和信号である76~77GHZの信号を選択してカプラ16に出力する。
その後は、従来のFM-CWレーダで行われることと同じ処理によって処理が行われて、対象物60までの距離が算出される。
この使用例の場合は、MMIC-VCOの周波数温度特性が1MHz/℃だとすると、
温度が-20~60℃の範囲で変化する環境下では、MMIC-VCO自身の周波数変動分は、1*80≒80MHzであるから、実際の周波数可変幅は、上記の理想周波数帯域幅1GHzから80MHzを差し引いた、920MHz程度にできる。従来の場合の周波数帯域幅は、上記したように200~300MHz程度だったことを考えると、本発明は、周波数帯域幅を、従来の3倍程度に改善できる。
【0021】
上記の動作説明から理解できるように、本発明のFM-CWレーダでは、第1発振源であるガンダイオードVCOに対し極力単一の周波数を出力する機能を持たせ、かつ、第1発振源に比べて周波数温度特性が良い第2発振源に対し周波数変調源の機能をもたせるという、機能分離の構成とし、既存の技術の組み合わせで、周波数帯域幅を確保できるFM-CWレーダを実現できる。
【0022】
上述においては、この発明の実施形態を説明したが、対応できる周波数は上記の76~77GHz帯に限られず他の周波数帯であっても良い。また、第2発振源の周波数も上記例に限られない。ただし、第2発振源の周波数は、和信号と差信号との差が、バンドパスフィルタの選択可能な値になるよう選択する。
【符号の説明】
【0023】
10:実施形態のFM-CWレーダ 11:第1発振源(ガンダイオードVCO)
12:周波数制御手段 13:第2発振源(MMIC-VCO)
14:第1周波数ミキサ 15:バンドパスフィルタ
16:カプラ 17:送信手段
18:受信手段 19:第2周波数ミキサ
20:処理回路 60:対象物






































図1
図2