(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136628
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】支持脚装置
(51)【国際特許分類】
B64C 25/66 20060101AFI20220913BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220913BHJP
B64C 27/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B64C25/66
B64C39/02
B64C27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036332
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】李 在勲
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 伸吾
(57)【要約】
【課題】離脱機構を必要とすることなく対象物への磁気的な吸着と対象物における移動とを両立する支持脚装置を提供する。
【解決手段】一実施形態による無人航空機10の支持脚装置13は、車輪部34、第一永久磁石31、第二永久磁石32および駆動部35を備える。車輪部34は、軟磁性体で円板状に形成されている2枚の円板部材36、37を有し、円板部材36、37が軸方向に離れて設けられている。第一永久磁石31は、車輪部34を構成する円板部材36、37の間において、径方向で一方の端部に設けられている。第二永久磁石32は、車輪部34を構成する円板部材36、37の間において、径方向で第一永久磁石31と反対側の端部に設けられている。駆動部34は、第一永久磁石31または第二永久磁石32の少なくともいずれか一方を駆動して、磁極の向きを変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人航空機および壁面移動体の支持脚装置であって、
軟磁性体で円板状に形成されている2枚の円板部材を有し、前記円板部材が軸方向に離れて設けられている車輪部と、
前記車輪部を構成する前記円板部材に磁界を形成する永久磁石と、
前記永久磁石が形成する磁気回路を、前記車輪部が磁気的に吸着する対象物を経由する状態、または前記車輪部で閉じた状態のいずれかに切り替えるために、前記永久磁石の磁極の向きを変更する駆動部と、
を備える支持脚装置。
【請求項2】
前記永久磁石は、2枚の前記円板部材の間に設けられている請求項1記載の支持脚装置。
【請求項3】
前記円板部材の径方向の端部に設けられている第一永久磁石と、
前記車輪部を構成する前記円板部材の間において、前記第一永久磁石と異なる位置に設けられている第二永久磁石と、を備え、
前記駆動部は、前記第一永久磁石または前記第二永久磁石の少なくともいずれか一方を駆動して、磁極の向きを変更する請求項2記載の支持脚装置。
【請求項4】
前記第一永久磁石は、前記円板部材の径方向で一方の端部に設けられ、
前記第二永久磁石は、前記円板部材の径方向で前記第一永久磁石と反対側の端部に設けられている請求項3記載の支持脚装置。
【請求項5】
前記第一永久磁石および前記第二永久磁石は、前記円板部材の軸方向に磁極が形成されている請求項3または4記載の支持脚装置。
【請求項6】
前記駆動部は、前記円板部材の径方向を中心軸として、前記第一永久磁石または前記第二永久磁石の少なくともいずれか一方を回転駆動することにより、前記円板部材と接する側の磁極を変更する請求項5記載の支持脚装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持脚装置に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるドローンと称される無人航空機は、例えば建物や橋梁といった建造物の検査などへの応用が期待されている。また、この無人航空機は、飛行に必要な推進力発生部を省略すると、壁面に沿って移動する壁面移動体としても活用できる。検査の対象となる対象物が鉄鋼製である場合、ドローンや壁面移動体は建造物に磁気的に吸着することができる。この場合、無人航空機や壁面移動体は、対象物への吸着と、吸着した状態で対象物における移動とを両立することが求められている。そこで、特許文献1は、車輪の内部に磁石を設けることにより、対象物への吸着と対象物における移動とを両立する機構を開示している。また、特許文献2は、駆動輪とは別に吸着部を設けることにより、吸着部による対象物への吸着と対象物における移動とを両立する機構を開示している。特許文献3は、永久磁石と電磁石とを組み合わせることにより、対象物への吸着および対象物からの離脱を可能とする機構を開示している。特許文献4は、磁気的に吸着する車輪とは別に離脱機構を開示している。
【0003】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の場合、車輪とは別に離脱機構が必要となり、小型化および軽量化が望まれる無人航空機には適切でないという問題がある。特許文献3の場合、対象物における移動について考慮されていない。特許文献4の場合、離脱機構が別途必要になるだけでなく、磁気を帯びた車輪に鉄くずが付着し、清掃などの工数が増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-120809号公報
【特許文献2】特開2017-89211号公報
【特許文献3】特開2017-168562号公報
【特許文献4】特開2018-39468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、離脱機構を必要とすることなく対象物への磁気的な吸着と対象物における移動とを両立する支持脚装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の支持脚装置は、2枚の円板部材の間に永久磁石が設けられている。永久磁石は、駆動部によって少なくともいずれか一方の磁極の向きが変更される。2枚の円板部材の間に設けられている永久磁石の磁極の向きを変更することにより、磁気回路は、2枚の円板部材で閉じて形成された状態、または2枚の円板部材から外部の対象物を経由して形成される状態のいずれかとなる。磁気回路が外部の対象物を経由するとき、車輪部と対象物との間には磁気的な吸着力が発生する。一方、磁気回路が外部の対象物を経由せず2枚の円板部材で閉じて形成されるとき、車輪部と対象物との間には磁気的な吸着力が発生しない。そのため、永久磁石の磁界の向きを変更することにより、車輪部と対象物との間に磁気的な吸着力が発生する状態または発生しない状態が生成される。すなわち、永久磁石を駆動することにより、車輪部と対象物との間の吸着が断続される。また、2枚の円板部材で形成される車輪部は、回転することにより、対象物において移動可能である。さらに、磁気回路を2枚の円板部材で閉じた状態としたとき、鉄くずなどの異物が車輪部に付着することもない。したがって、構造の複雑化を招く離脱機構を必要とすることなく、対象物への磁気的な吸着と対象物における移動とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】第1実施形態による支持脚装置を適用した無人航空機を示す模式図
【
図3】第1実施形態による支持脚装置を適用した無人航空機の構成を示すブロック図
【
図4】第1実施形態による支持脚装置を示す模式的な斜視図
【
図5】
図1において車輪部を矢印V方向から見た模式図
【
図6】
図5のVI-VI線における断面に相当する模式図
【
図7】
図5のVI-VI線における断面に相当する模式図
【
図8】第1実施形態による支持脚装置において、第一永久磁石および第二永久磁石を示す模式図
【
図9】第2実施形態による支持脚装置において、
図1における車輪部を矢印V方向から見た状態に相当する模式図
【
図10】第2実施形態による支持脚装置において、永久磁石の磁極の向きと磁気回路との関係を示す模式図
【
図11】第2実施形態による支持脚装置において、永久磁石の磁極の向きと磁気回路との関係を示す模式図
【
図12】第3実施形態による支持脚装置において、
図1において車輪部を矢印V方向から見た状態に相当する模式図
【
図15】第4実施形態による支持脚装置において、
図1における車輪部を矢印V方向から見た状態に相当する模式図
【
図18】第5実施形態による支持脚装置の
図13に相当する模式図
【
図19】第5実施形態による支持脚装置の
図14に相当する模式図
【
図20】第6実施形態による支持脚装置の
図16に相当する模式図
【
図21】第6実施形態による支持脚装置の
図17に相当する模式図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態による支持脚装置を無人航空機に適用した例について、図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図2に示すように無人航空機10は、本体部11、推力発生部12および支持脚装置13を備えている。無人航空機10は、地上から離陸し、空中を飛行するとともに、磁気によって鉄鋼製の対象物14に吸着することができる。対象物14は、例えば鉄鋼製の橋梁や建物などである。推力発生部12は、本体部11の周囲に設けられている。本実施形態の場合、推力発生部12は、本体部11から放射状に伸びる腕部15の先端に設けられている。推力発生部12は、本体部11に対して放射状に設ける例に限らず、例えば本体部11の周囲に環状に配置するなど任意の配置とすることができる。推力発生部12は、モータ16およびプロペラ17を有している。プロペラ17は、モータ16によって回転駆動される。推力発生部12は、プロペラ17が回転することにより、無人航空機10が飛行するための推進力を発生する。
【0009】
本体部11は、制御部21およびバッテリ22を収容している。制御部21は、例えばCPU、ROMおよびRAMからなる図示しないマイクロコンピュータなどで構成されている。制御部21は、CPUでコンピュータプログラムを実行することにより、無人航空機10の飛行などを制御する。具体的には、制御部21は、
図3に示すようにバッテリ22、推力発生部12のモータ16に接続している。また、制御部21は、センサ部23に接続している。センサ部23としては、例えば加速度センサ、角速度センサ、地磁気センサ、高度センサおよびGPSセンサなどが含まれる。制御部21は、これらセンサ部23で検出した検出値に基づいて、無人航空機10の飛行位置、飛行速度、飛行高度および飛行姿勢などの飛行条件を取得する。制御部21は、センサ部23で取得した飛行条件に基づいて、推力発生部12を制御する。制御部21は、例えば推力発生部12のモータ16の回転数やプロペラ17のピッチを変更することにより、推力発生部12から発生する推進力を個別に制御する。これにより、無人航空機10は、飛行速度、飛行高度および飛行姿勢などが制御部21によって制御される。
【0010】
また、無人航空機10は、制御部21に接続する通信部24を有していてもよい。通信部24は、操作者によって操作され、無人航空機10とは遠隔に設けられている操作入力部25と有線または無線で通信可能である。制御部21は、操作入力部25での操作に基づく信号を通信部24で受信し、受信した信号に基づいて無人航空機10の飛行を制御することができる。制御部21は、操作入力部25の操作によらず、例えば予め設定されている飛行プログラムなどに基づいて、センサ部23で取得した飛行条件を用いて自律的に飛行を制御してもよい。
【0011】
無人航空機10は、これらに加え、1つ以上の検査部26を有している。検査部26は、例えばカメラなどを有しており、無人航空機10によって検査の対象となる対象物14を検査する。検査部26は、カメラに限らず、赤外線、可視光線、もしくはX線などの電磁波、超音波などの音波、または磁界などを用いて対象物14を検査する構成としてもよい。検査部26は、これらの例に限らず、任意の構成とすることができる。
【0012】
次に、支持脚装置13について詳細に説明する。
無人航空機10は、
図2に示すように1つ以上の支持脚装置13を備えている。支持脚装置13は、無人航空機10が対象物14に接するときに用いられる。支持脚装置13は、
図1および
図4に示すように第一永久磁石31、第二永久磁石32、支持部33、車輪部34および駆動部35を備えている。支持部33は、支持脚装置13の本体であり、支持脚装置13を無人航空機10に取り付けるための部位である。車輪部34は、2枚の円板状の円板部材36および円板部材37を有している。車輪部34は、2枚の円板部材36と円板部材37との間に支持柱部38を有している。車輪部34は、例えばケイ素鋼やパーマロイなどの軟磁性体で形成されている。
【0013】
支持柱部38は、2枚の円板部材36、37の間に、軸方向つまり厚さ方向に伸びている。支持柱部38は、円板部材36と円板部材37との間に所定の間隔を形成している。つまり、車輪部34を構成する2枚の円板部材36、37は、互いの間に空間を形成しつつ軸方向に離れている。支持柱部38は、2枚の円板部材36、37の間の磁気的な短絡を低減するために非磁性体で形成することが好ましい。
【0014】
第一永久磁石31および第二永久磁石32は、2枚の円板部材36と円板部材37との間に設けられている。第一永久磁石31および第二永久磁石32は、
図5に示すように円板部材36、37の径方向において両端にそれぞれ設けられている。すなわち、第一永久磁石31は、円板部材36、37の径方向において一方の端部に設けられている。一方、第二永久磁石32は、円板部材36、37の径方向において、第一永久磁石31と反対側の端部に設けられている。このように、第一永久磁石31および第二永久磁石32は、円板部材36、37の中心を挟んで径方向の端部にそれぞれ設けられている。第一永久磁石31および第二永久磁石32という名称は、円板部材36、37の径方向で対をなすものを示しており、便宜的なものである。第一永久磁石31および第二永久磁石32は、
図5に示すように1対設ける例に限らず、2対以上設けてもよい。第一永久磁石31および第二永久磁石32の数は、多くなるほど車輪部34と対象物14との間に生じる磁気的な吸着力が増大する。第一永久磁石31および第二永久磁石32の数は、例えば無人航空機10の吸着に必要な磁力などに応じて任意に設定される。第一永久磁石31および第二永久磁石32は、例えばフェライト系や希土類系など任意の永久磁石を用いることができる。
【0015】
第一永久磁石31および第二永久磁石32は、同一の構成であり、
図6~
図8に示すように円筒状に形成され、円板部材36、37の軸方向に磁極が形成されている。つまり、第一永久磁石31および第二永久磁石32は、2枚の円板部材36、37のうち一方に対向する側がN極であるとき、他方に対向する側がS極となるように磁極が形成されている。
【0016】
駆動部35は、第一永久磁石31または第二永久磁石32の少なくともいずれか一方を駆動して、磁極の向きを変更する。本実施形態の場合、駆動部35は、第一永久磁石31および第二永久磁石32の双方を駆動する。駆動部35は、
図1および
図5に示すように第一永久磁石31に接続する軸部材41およびギア42、ならびに第二永久磁石32に接続する軸部材43およびギア44を有している。軸部材41は、円板部材36、37の中心から径方向に外側へ伸びており、外側の端部に第一永久磁石31が接続し、内側の端部にギア42が接続している。また、軸部材43は、円板部材36、37の中心から径方向外側へ伸びており、外側の端部に第二永久磁石32が接続し、内側の端部にギア44が接続している。
【0017】
駆動部35は、
図1に示すように駆動軸45、ギア46および磁石駆動モータ47を有している。駆動軸45は、円板部材36、37の軸方向へ伸びており、円板部材36、37に近い側の端部にギア46が接続し、円板部材36、37から遠い側の端部に磁石駆動モータ47が接続している。駆動軸45は、磁石駆動モータ47によって回転駆動される。ギア46は、第一永久磁石31に接続するギア42および第二永久磁石32に接続するギア44と噛み合っている。ギア46、ギア42およびギア44は、例えばベベルギアによって形成されている。これにより、磁石駆動モータ47によって駆動軸45が回転すると、軸部材41を中心に第一永久磁石31が回転する。その結果、第一永久磁石31または第二永久磁石32は、
図8に示すように軸部材41および軸部材43を中心に回転し、円板部材36、37に対向する磁極の向きが変更される。
【0018】
支持脚装置13は、上記に加え、車輪駆動部51を備えている。車輪駆動部51は、車輪駆動モータ52および駆動軸53を有している。車輪駆動モータ52は、円板部材36、37の軸方向において磁石駆動モータ47と反対側の端部に設けられている。駆動軸53は、円板部材36、37の軸方向へ伸びており、一方の端部が車輪部34の円板部材37に接続し、他方の端部が車輪駆動モータ52に接続している。駆動軸53は、車輪駆動モータ52によって回転駆動される。これにより、車輪駆動モータ52によって駆動軸53が回転すると、車輪部34を構成する2枚の円板部材36、37が回転する。
【0019】
支持脚装置13は、
図3に示すように駆動制御部61を備えている。駆動制御部61は、磁石駆動モータ47および車輪駆動モータ52の駆動を制御する。本実施形態の場合、駆動制御部61は、
図3に示すように無人航空機10を制御する制御部21とともに一体的に構成されている。駆動制御部61は、車輪駆動モータ52を制御することにより、車輪部34を回転駆動する。車輪部34の回転により、無人航空機10は対象物14に吸着した状態を維持したまま対象物14に沿って移動する。このとき、駆動制御部61は、車輪駆動モータ52と同期して磁石駆動モータ47を駆動することにより、第一永久磁石31および第二永久磁石32の磁極の向きを所定の向きに維持する。
【0020】
次に、上記の構成による支持脚装置13および無人航空機10の作用について説明する。
図6および
図7に示すように車輪部34は、2枚で一対の円板部材36、37で構成されている。第一永久磁石31および第二永久磁石32は、これらの円板部材36と円板部材37との間に設けられている。第一永久磁石31および第二永久磁石32は、磁極の向きによって形成する磁気回路が変化する。
【0021】
図6に示すように円板部材36および円板部材37に対して第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとが同一であるとき、第一永久磁石31および第二永久磁石32が形成する磁気回路Gは、円板部材36、37と接する対象物14を経由する。すなわち、第一永久磁石31の円板部材36、37側の磁極と第二永久磁石32の円板部材36、37側の磁極とが同一に揃っているとき、磁気回路Gは対象物14を経由する。そのため、車輪部34の円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸引力が発生する。
【0022】
一方、
図7に示すように第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとが異なるとき、第一永久磁石31および第二永久磁石32が形成する磁気回路Gは、円板部材36および円板部材37とともに車輪部34において閉回路を形成する。すなわち、第一永久磁石31の円板部材36、37側の磁極と第二永久磁石32の円板部材36、37側の磁極とが異なるとき、磁気回路Gは対象物14を経由することなく、車輪部34で閉回路を形成する。そのため、車輪部34の円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸引力が発生しない。
【0023】
そこで、駆動制御部61は、車輪部34を対象物14に吸着するとき、
図6に示すように円板部材36、37に対する第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとを同一に揃える。これにより、第一永久磁石31および第二永久磁石32が形成する磁界は、対象物14を経由して1つの磁気回路Gを形成する。そのため、車輪部34と対象物14との間には磁気的な吸引力が発生し、車輪部34は対象物14に吸着する。一方、駆動制御部61は、車輪部34を対象物14に吸着しないとき、
図7に示すように円板部材36、37に対する第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとを異ならせる。これにより、第一永久磁石31および第二永久磁石32が形成する磁界は、対象物14を経由することなく2枚の円板部材36、37において閉じた磁気回路Gを形成する。そのため、車輪部34と対象物14との間には磁気的な吸引力が発生せず、車輪部34は対象物14に吸着しない。
【0024】
駆動制御部61は、無人航空機10が地上にあるときや飛行中のように対象物14に吸着する必要がないとき、
図7に示すように第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとを異ならせる。一方、駆動制御部61は、無人航空機10が対象物14に接近するときや対象物14に沿って移動するときのように対象物14に吸着する必要があるとき、
図6に示すように第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとを同一にする。これにより、車輪部34は、対象物14に磁気的に吸着する。そのため、無人航空機10は、磁気的な吸着力によって車輪部34が対象物14に吸着し、電力を消費することなく対象物14に保持される。
【0025】
また、無人航空機10が対象物14に沿って移動するとき、駆動制御部61は、
図6に示すように第一永久磁石31の磁極の向きと第二永久磁石32の磁極の向きとを同一にした状態で車輪駆動モータ52を用いて車輪部34を駆動する。これにより、無人航空機10は、車輪部34と対象物14との間に磁気的な吸着力が発生している状態で車輪部34によって移動する。そのため、無人航空機10は、対象物14への吸着状態を維持したまま対象物14に沿って移動する。このとき、駆動制御部61は、車輪駆動モータ52に同期して磁石駆動モータ47を駆動することにより、車輪部34が回転しても、第一永久磁石31および第二永久磁石32の磁極の向きを
図6に示す状態に維持する。
【0026】
以上説明したように、第1実施形態では、2枚の円板部材36と円板部材37との間に第一永久磁石31および第二永久磁石32が設けられている。第一永久磁石31と第二永久磁石32とは、円板部材36、37の径方向において両端部にそれぞれ設けられている。これらの第一永久磁石31および第二永久磁石32は、駆動部35によって少なくともいずれか一方の磁極の向きが変更される。2枚の円板部材36、37の間に設けられている第一永久磁石31および第二永久磁石32の磁極の向きを変更することにより、磁気回路Gは、
図6に示すように2枚の円板部材36、37から外部の対象物14を経由して形成される状態、または
図7に示すように2枚の円板部材36、37に閉じて形成された状態のいずれかとなる。磁気回路Gが外部の対象物14を経由するとき、車輪部34と対象物14との間には磁気的な吸着力が発生する。一方、磁気回路Gが外部の対象物14を経由せず2枚の円板部材36、37で閉じて形成されるとき、車輪部34と対象物14との間には磁気的な吸着力が発生しない。そのため、第一永久磁石31および第二永久磁石32の磁極の向きを変更することにより、車輪部34と対象物14との間に磁気的な吸着力が発生する状態または発生しない状態が生成される。このように、第一永久磁石31または第二永久磁石32の磁極の向きを制御することにより、車輪部34と対象物14との間の吸着が断続される。また、2枚の円板部材36および円板部材37で形成される車輪部34は、回転することにより、対象物14において移動可能である。一方、
図7に示すように磁気回路Gを2枚の円板部材36、37で閉じた状態としたとき、車輪部34に磁気的な吸引力が発生せず、鉄くずなどの異物が車輪部34に付着することはない。したがって、対象物14から無人航空機10を離脱させるための複雑な離脱機構を必要とすることなく、車輪部34を用いた対象物14への磁気的な吸着と、車輪部34を用いた対象物14における移動とを両立することができる。
【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態による支持脚装置13の要部を
図9に示す。
図9に示す第2実施形態では、車輪部34を構成する一対の円板部材36と円板部材37との間に、永久磁石71を備えている。永久磁石71は、円板部材36、37の周方向へ1つ設けてもよく、2つ以上設けてもよい。永久磁石71は、
図10および
図11に示すように円板部材36、37の径方向を中心軸として回転可能である。すなわち、永久磁石71は、
図10に示すように磁極が円板部材36および円板部材37にそれぞれ対向した状態、または
図11に示すように磁極が円板部材36および円板部材37と直交する状態のいずれかに切り替えられる。駆動部35は、永久磁石71を、
図10に示す状態または
図11に示す状態のいずれかに回転駆動する。永久磁石71は、軟磁性体で形成されているホルダ72によって回転可能に支持されている。
【0028】
図10に示すように永久磁石71の磁極が円板部材36および円板部材37に対向しているとき、磁気回路Gは、対象物14を経由する。そのため、車輪部34を構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生する。一方、
図11に示すように永久磁石71の磁極が円板部材36および円板部材37に対向していないとき、磁気回路Gは、対象物14を経由することなく、車輪部34を構成する円板部材36、37およびホルダ72を通して閉回路を形成する。そのため、車輪部34を構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生しない。
【0029】
以上説明したように、第2実施形態では、少なくとも1つの永久磁石71によって、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力を断続することができる。したがって、より簡単な構成で対象物14への磁気的な吸着を達成することができ、車輪部34による移動を確保しつつ、さらなる軽量化を図ることができる。
【0030】
(第3実施形態)
第3実施形態による支持脚装置13の要部を
図12に示す。
図12に示す第3実施形態では、永久磁石71の位置および磁極の向きが第2実施形態と異なっている。永久磁石71は、車輪部34の円板部材36と円板部材37とに磁気的な回路を形成可能であれば、いずれの位置に設けてもよい。第3実施形態の場合、永久磁石71は、車輪部34において、対象物14と反対側に設けられている。そして、永久磁石71は、
図13および
図14に示すように円板部材36および円板部材37の軸に対して垂直な軸を中心に回転可能である。駆動部35は、永久磁石71を、
図13に示す状態または
図14に示す状態のいずれかに回転駆動する。永久磁石71は、軟磁性体で形成されているホルダ72によって回転可能に支持されている。
【0031】
図13に示すように永久磁石71の磁極が円板部材36および円板部材37に対向しているとき、磁気回路Gは、対象物14を経由する。そのため、車輪部34を構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生する。一方、
図14に示すように永久磁石71の磁極が円板部材36および円板部材37に対向していないとき、磁気回路Gは、対象物14を経由することなく、車輪部34を構成する円板部材36、37およびホルダ72を通して閉回路を形成する。そのため、車輪部34を構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生しない。
【0032】
以上説明したように、第3実施形態では、位置にかかわらず、少なくとも1つの永久磁石71によって、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力を断続することができる。
【0033】
(第4実施形態)
第4実施形態による支持脚装置13の要部を
図15に示す。
図15に示す第4実施形態では、支持脚装置13は磁気ユニット80を備えている。磁気ユニット80は、
図15~
図17に示すように永久磁石81、ホルダ82およびホルダ83を備えている。ホルダ82およびホルダ83は、永久磁石81を回転可能に支持している。永久磁石81は、
図16および
図17に示すように円板部材36および円板部材37の軸に対して垂直な軸を中心に回転可能である。駆動部35は、永久磁石81を、
図16に示す状態または
図17に示す状態のいずれかに回転駆動する。ホルダ82、83は、軟磁性体で形成されている。
【0034】
図16に示すように永久磁石81の磁極がホルダ82およびホルダ83に対向しているとき、磁気回路Gは、ホルダ82、ホルダ83および対象物14を経由する。そのため、車輪部34構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生する。一方、
図17に示すように永久磁石71の磁極が円板部材36および円板部材37に対向していないとき、磁気回路Gは、対象物14を経由することなく、車輪部34を構成する円板部材36、37、ならびにホルダ82およびホルダ83を通して閉回路を形成する。そのため、車輪部34を構成する円板部材36、37と対象物14との間には、磁気的な吸着力が発生しない。
【0035】
以上説明したように、第4実施形態では、永久磁石81は、円板部材36と円板部材37との間ではなく、これらから離れた位置に設けられている磁気ユニット80に設けられている。磁気ユニット80は、軟磁性体で形成されたホルダ82およびホルダ83を有している。ホルダ82は円板部材36と磁気的に接続され、ホルダ83は円板部材37と磁気的に接続されている。そのため、永久磁石81が回転することによって、永久磁石81によって形成される磁気回路Gは、対象物14を経由する状態または経由しない状態に切り替えられる。したがって、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力を断続することができる。
【0036】
(第5、第6実施形態)
第5実施形態による支持脚装置13の要部を
図18および
図19に示す。
図18および
図19に示す第5実施形態は、上述の第3実施形態の変形である。第5実施形態の場合、支持脚装置13は、第3実施形態の永久磁石71に加え、永久磁石91を備えている。永久磁石91は、円板部材36と円板部材37との間に固定されている。すなわち、永久磁石91は、磁極が変化しない。このような第5実施形態の場合、
図18および
図19に示すように永久磁石71が回転することにより、磁気回路Gが切り替えられる。すなわち、
図18に示すように永久磁石71の磁極の向きが固定された永久磁石91と同一のとき、磁気回路Gは対象物14を経由する。一方、
図19に示すように永久磁石71の磁極の向きが固定された永久磁石91と逆のとき、磁気回路Gは、永久磁石71と永久磁石91との間で閉回路を形成し、対象物14を経由しない。
したがって、第5実施形態では、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力を断続することができる。また、第5実施形態では、磁気回路Gは、対象物14を経由するとき、永久磁石71および永久磁石91によって形成される。そのため、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力をより増大することができる。
【0037】
第6実施形態による支持脚装置13の要部を
図20および
図21に示す。
図20および
図21に示す第6実施形態は、上述の第4実施形態の変形である。第6実施形態の場合、支持脚装置13は、第4実施形態の永久磁石81に加え、永久磁石91を備えている。永久磁石91は、円板部材36と円板部材37との間に固定されている。すなわち、永久磁石91は、磁極が変化しない。このような第6実施形態の場合、
図20および
図21に示すように永久磁石81が回転することにより、磁気回路Gが切り替えられる。すなわち、
図20に示すように永久磁石81の磁極の向きが固定された永久磁石91と同一のとき、磁気回路Gは対象物14を経由する。一方、
図21に示すように永久磁石81の磁極の向きが固定された永久磁石91と逆のとき、磁気回路Gは、永久磁石81と永久磁石91との間で閉回路を形成し、対象物14を経由しない。
したがって、第6実施形態では、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力を断続することができる。また、第6実施形態では、磁気回路Gは、対象物14を経由するとき、永久磁石81および永久磁石91によって形成される。そのため、車輪部34と対象物14との間の磁気的な吸着力をより増大することができる。
【0038】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
無人航空機10は、飛行に用いる推力発生部12を省略することにより、例えば建造物の壁面など対象物14に沿って移動する壁面移動体としても成立する。したがって、複数の実施形態は、無人航空機10に限らず、壁面移動体としても適用することができる。
上述の第1実施形態では、第一永久磁石31および第二永久磁石32の磁極の向きを変更する例について説明した。しかし、第一永久磁石31または第二永久磁石32のいずれか一方を車輪部34に固定する構成としてもよい。例えば第一永久磁石31の磁極の向きを固定し、第二永久磁石32の磁極の向きを変更することにより、形成される磁気回路Gの切り替えを行なう構成としてもよい。このように、駆動する永久磁石を第一永久磁石31または第二永久磁石32のいずれか一方とすることにより、さらなる構造の簡略化および消費電力の低減を図ることができる。すなわち、駆動部35は、第一永久磁石31または第二永久磁石32のうちいずれか一方を駆動する構成としてもよい。
【0039】
また、上述の第1実施形態では、第一永久磁石31および第二永久磁石32を
図8に示すように円筒状に形成する例について説明した。しかし、第一永久磁石31および第二永久磁石32は、磁気回路Gの切り替えが達成できるのであれば、円筒状に限らず、任意の形状とすることができる。
さらに、第一永久磁石31と第二永久磁石32とは、上述の第1実施形態のように円板部材36、37の径方向に同一の直線上に設ける例に限らない。すなわち、第一永久磁石31および第二永久磁石32は、磁気回路Gが対象物14を経由する状態、または磁気回路Gが円板部材36、37で閉じた状態のいずれかに切り替え可能であれば、上述の例に限らず任意に配置することができる。
【符号の説明】
【0040】
図面中、10は無人航空機、13は支持脚装置、31は第一永久磁石、32は第二永久磁石、34は車輪部、35は駆動部、36、37は円板部材、61は駆動制御部、71、81、91は永久磁石を示す。