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特開2022-136659混合液、混合液製造方法、繊維製品、および、繊維製品処理方法
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  • 特開-混合液、混合液製造方法、繊維製品、および、繊維製品処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136659
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】混合液、混合液製造方法、繊維製品、および、繊維製品処理方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/13 20060101AFI20220913BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20220913BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220913BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
D06M11/13
D06M11/74
A01P3/00
A01N59/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036371
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】502192502
【氏名又は名称】横沢 広嗣
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140763
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】横沢 広嗣
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA13
4L031BA02
4L031BA07
4L031BA33
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】繊維等に対する銀の付着力を向上させるための混合液等を提供する。
【解決手段】
混合液が、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む混合液。
【請求項2】
請求項1に記載の混合液において、
前記銀ハロゲン錯塩における銀の含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.05質量パーセント以上であり、
前記ナノダイヤモンドの含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.0003質量パーセント以上である混合液。
【請求項3】
請求項2に記載の混合液において、
前記ナノダイヤモンドの含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.001質量パーセント以上、1質量パーセント以下である混合液。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の混合液において、
前記ナノダイヤモンドの平均粒径が、3ナノメートル以上、200ナノメートル未満である混合液。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の混合液において、
前記ハロゲン化物水溶液のハロゲン化物の濃度が、前記混合液全体の質量に対して0.5質量パーセント以上である混合液。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の混合液において、
アルコールを更に含む混合液。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の混合液において、
前記銀ハロゲン錯塩が、銀クロロ錯塩である混合液。
【請求項8】
ハロゲン化物水溶液に、ハロゲン化銀を溶解させて銀ハロゲン錯塩水溶液を調整する調整ステップと、
前記銀ハロゲン錯塩水溶液にナノダイヤモンドを分散させる分散ステップと、
を含む混合液製造方法。
【請求項9】
繊維製品であって、
前記繊維製品の繊維に銀とナノダイヤモンドとを共に付着させた繊維製品。
【請求項10】
ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む混合液を、繊維製品に含浸させる含浸ステップと、
前記繊維製品に含浸した前記混合液の銀を、前記繊維製品の繊維に析出させる析出ステップと、
を含む繊維製品処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合液、混合液製造方法、繊維製品、および、繊維製品処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維に抗菌作用を持たせるために、繊維自体に銀を練り込んだり、衣服等の繊維製品に噴霧することで繊維の表面に銀がコーティングされたりしている。下記特許文献1には、錯体銀、担体に担持された銀、及び無機銀塩から選ばれる少なくとも1種の銀系抗菌剤、キレート剤、及びアクリル酸アルキル及びメタクリル酸アルキルから選ばれるモノマーに由来する1種以上のモノマー単位と、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるモノマーに由来する1種以上のモノマー単位とを含有する共重合体を含む、繊維製品用処理剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-180387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、洗濯等の物理的摩擦により、銀が繊維から取れて、抗菌作用が低下するという問題があった。
【0005】
そこで本願は、上記の各問題点に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、繊維等に対する銀の付着力を向上させる混合液等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、前記銀ハロゲン錯塩における銀の含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.05質量パーセント以上であり、前記ナノダイヤモンドの含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.0003質量パーセント以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、前記ナノダイヤモンドの含有量が、前記混合液全体の質量に対して0.001質量パーセント以上、1質量パーセント以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、前記ナノダイヤモンドの平均粒径が、3ナノメートル以上、200ナノメートル未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、前記ハロゲン化物水溶液のハロゲン化物の濃度が、前記混合液全体の質量に対して0.5質量パーセント以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、アルコールを更に含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る上記混合液の一実施形態においては、前記銀ハロゲン錯塩が、銀クロロ錯塩であることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する本発明は、ハロゲン化物水溶液に、ハロゲン化銀を溶解させて銀ハロゲン錯塩水溶液を調製する調製ステップと、前記銀ハロゲン錯塩水溶液にナノダイヤモンドを分散させる分散ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する本発明は、繊維製品であって、前記繊維製品の繊維に銀とナノダイヤモンドとを共に付着させたことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する本発明は、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む混合液を、繊維製品に含浸させる含浸ステップと、前記繊維製品に含浸した前記混合液の銀を、前記繊維製品の繊維に析出させる析出ステップと、を含む繊維製品処理方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む混合液を使用して、繊維製品に銀を付着させることにより、ナノダイヤモンドによって繊維等に銀の付着力が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる混合液の調製方法の一例を示すフローチャートである。
図2】ナノダイヤモンドの添加量に対する吸光度の一例を表すグラフである。
図3】本発明の第1の実施形態にかかる繊維製品処理方法の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施形態にかかる混合液の調製方法の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の第2の実施形態にかかる繊維製品処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0019】
<1.第1の実施形態>
(1.1 第1の実施形態にかかる混合液)
第1の実施形態にかかる混合液は、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む。より具体的には、混合液は、銀ハロゲン錯塩を、ハロゲン化物に対してハロゲン銀錯イオンとしてハロゲン化物水溶液中に含む。混合液には、ハロゲン化物水溶液中に銀ハロゲン錯塩を含んだ銀ハロゲン錯塩溶液に、ナノダイヤモンドが分散されている。
【0020】
[銀ハロゲン錯塩]
本実施形態に係る混合液においては、例えば、一般式(1)
【化1】
で表される錯イオン構造を備えた銀ハロゲン錯塩の水溶液を用いる。
【0021】
該銀ハロゲン錯塩は、上記一般式(1)で表されるテトラハロゲン銀錯イオン構造を備えた塩であればよく、特に限定されるものではない。陰イオンであるハロゲン銀錯イオンの価数nは、通常3と考えられるが、価数1、価数2のハロゲン銀錯イオンが混在してもよい。例えば、価数2のハロゲン銀錯イオンの場合、トリハロゲン銀錯イオン構造が想定される。銀ハロゲン錯塩として、ハロゲンX以外の陰イオンが、銀イオンの周りに一部配位した状態でもよい。また、対イオン(陽イオン)は、用途に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0022】
ハロゲンとして、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。銀ハロゲン錯塩として、銀クロロ錯塩、銀ブロム錯塩が好ましい。特に、銀クロロ錯塩が好ましい。銀クロロ錯塩の場合、例えば、銀ハロゲン錯塩の水溶液として、一般式(2)
【化2】
で表される錯イオン構造を備えた銀クロロ錯塩の水溶液が挙げられる。
【0023】
銀クロロ錯塩は、上記一般式(2)で表されるテトラクロロ銀錯イオン構造を備えた塩であればよく、特に限定されるものではない。
【0024】
抗菌力、または、繊維製品に銀を付着させて抗菌力を発揮できるだけの量のハロゲン化銀が必要で、銀クロロ錯塩の場合、銀ハロゲン錯塩における銀の含有量が0.05質量パーセント以上であることが好ましい。
【0025】
[ハロゲン化物水溶液]
本実施形態に係る混合液は、銀ハロゲン錯塩を安定化させるためのハロゲン物イオンを供給するハロゲン化物水溶液が使用されている。過剰なハロゲン化物イオン(例えば、塩化物イオン)存在下に銀ハロゲン錯体(例えば、銀クロロ錯体)が形成される。ハロゲン化物水溶液にハロゲン化銀を溶解させ、銀ハロゲン錯塩を含む銀ハロゲン錯塩溶液が形成される。
【0026】
例えば、銀クロロ錯塩を含む塩化物水溶液からなる銀クロロ錯塩溶液は、酸/アルカリ、高温に対して安定で、太陽光や紫外線に対する高い耐分解性を有する。
【0027】
ハロゲン化物としては、具体例として、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンを対イオンとして含む、アルカリ金属の塩化物、臭化物等のアルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。
【0028】
また、ハロゲン化物としては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオンを対イオンとして含む、アルカリ土類金属の塩化物、臭化物等のアルカリ土類金属のハロゲン化物が挙げられる。また、他の無機ハロゲン化物の一例として、ポリ塩化アルミニウム等の無機塩化物が挙げられる。
【0029】
更に、有機ハロゲン化物の一例の有機塩化物として、塩化アンモニウム;塩化トリオクチルメチルアンモニウム、炭素数12~18の長鎖アルキル基を1つまたは2つ有する脂肪族4級アンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド等の脂肪族4級アンモニウム塩類;塩化コリン;エチレンジアミン塩酸塩、ヘキサメチレンジアミン塩酸塩、ヘキサメチレントリアミン塩酸塩等のポリアミン塩酸塩;メチルアミン塩酸塩、メチルアミン塩酸塩等の1級アミン塩酸塩類;トリメチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン塩酸塩等の3級アミン塩酸塩類;ピリジン塩酸塩、アニリン塩酸塩等の芳香族アミン塩酸塩類;塩化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化トリエチルベンジルアンモニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化イミダゾリニウム、塩化N-ラウリルピリジウム等の芳香族4級アンモニウム塩類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0030】
ハロゲン化物水溶液のハロゲン化物の濃度が、例えば、混合液全体の質量に対して5質量パーセント以上である。例えば、塩化物水溶液の濃度として、銀クロロ錯塩と塩化物との割合は、銀が析出しにくい所定の範囲内であればよく、特に限定されるものではないが、質量比で0.05:100~20:100の範囲内であることがより好適で、3:100~15:100の範囲内であることが最適である。
【0031】
[ナノダイヤモンド]
ナノダイヤモンドは、例えば、粒径が200ナノメートル以下であるナノマテリアルの粒子状のダイヤモンドである。ナノダイヤモンドの表面には、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、エステル基等の官能基が存在または修飾が可能である。ナノダイヤモンドの形状は、球形、切頂正八面体、楕円体等の球形状が好ましいが、歪な形状でもよい。
【0032】
銀ハロゲン錯塩溶液中に分散させるナノダイヤモンドとして、ナノダイヤモンドの平均粒径が、3ナノメートル以上、200ナノメートル未満であり、特に、50ナノメートル付近が好ましい。なお、ナノダイヤモンドの平均粒径が、3ナノメートル未満であると、ナノダイヤモンド同士が凝集してしまうなど、取扱が難しくなる。
【0033】
ナノダイヤモンドの濃度は、混合液全体の質量に対して0.0003質量パーセント以上が好ましい。さらに、ナノダイヤモンドの濃度が、0.001質量パーセント以上、1質量パーセント以下がより好ましい。分散保持性とコストを下げるためには、上記ナノダイヤモンドの濃度の範囲のうち、低めの濃度が好ましい。
【0034】
[繊維製品]
銀およびナノダイヤモンドを付着させる繊維として、綿、絹、毛糸の天然素材、ポリエステル、レーヨン等の化学繊維が挙げられる。銀およびナノダイヤモンドを付着させる繊維として、上記繊維の混紡、アセテート等の半合成繊維でもよい。繊維製品として、糸、布、生地、衣服でもよい。銀およびナノダイヤモンドを付着させた糸により織られた生地でもよい。
【0035】
(1.2 混合液の調製方法)
次に、第1の実施形態にかかる混合液の調製方法およびナノダイヤモンドの添加量について、図1および図2を用いて説明する。
【0036】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる混合液の調製方法の一例を示すフローチャートである。図2は、ナノダイヤモンドの添加量に対する吸光度の一例を表すグラフである。
【0037】
図1に示すように、ハロゲン化物水溶液が調製される(ステップS1)。具体的には、できるだけ高濃度のハロゲン化物水溶液を得るため、ハロゲン化物の溶解度に近い量が、純水に投入され撹拌される。塩化ナトリウム(NaCl)の場合、35.9g/100g(25℃)である。なお、塩化ナトリウム等のハロゲン化物を溶解させる水系溶媒としては、特に限定されるものではなく、市水(水道水)、蒸留水、脱イオン水等の水、水と水に相溶性を有する化合物の混合物などが例示できる。上記溶媒のうち、水が特に好ましい。これは、水に対する塩化物の溶解度が他の溶媒に対する塩化物の溶解度と比較して大きいため、溶液中における銀ハロゲン錯塩濃度を高くすることができるからである。
【0038】
次に、ハロゲン化銀が投入され、撹拌され、銀ハロゲン錯塩水溶液が調製される(ステップS2)。具体的には、ステップS1で調製されたハロゲン化物水溶液に、撹拌させながら、ハロゲン化銀が徐々に加えられて(ハロゲン化銀を所定濃度になるように全量加えて撹拌や超音波処理をして溶解させてもよい)、銀ハロゲン錯塩溶液の一例である銀クロロ錯塩水溶液が調製される。銀ハロゲン錯塩水溶液に抗菌力、または、繊維製品に銀を付着させて抗菌力を発揮できるだけの量のハロゲン化銀が投入されればよい。銀メタル換算で0.5g相当の銀メタルを含有する塩化銀(AgCl)を、例えば、100gの飽和塩化ナトリウム溶液に投入する。
【0039】
次に、ナノダイヤモンドが投入され、分散される(ステップS3)。具体的には、ステップS2で調製された銀ハロゲン錯塩水溶液に、撹拌させながら、ナノダイヤモンドが徐々に加えられていく。ナノダイヤモンドが投入されたら、超音波処理がされ、銀ハロゲン錯塩水溶液中に、ナノダイヤモンドが十分分散させられる。ナノダイヤモンドの濃度が混合液全体の質量に対して0.001質量パーセントになるように、平均粒径が50ナノメートルのナノダイヤモンドが投入される。例えば、銀ハロゲン錯塩水溶液1000gに0.01gのナノダイヤを添加する。
【0040】
これにより、本実施形態にかかる混合液である、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩水溶液が得られる。
【0041】
次に、ナノダイヤモンドの濃度と抗菌作用との関係について、図2を用いて説明する。
【0042】
実験に使用した、本発明にかかる混合液におけるナノダイヤモンドの濃度は、0.0001%[w/w]0.0005%[w/w]、0.001%[w/w]、0.005%[w/w]、0.01%[w/w]、および、0.03%[w/w]である。
【0043】
本実験では、黄色ブドウ球菌を使用し、濁度法による測定を用い、660nmの波長における抗菌活性を測定した。菌が増殖すると濁度があがることから、吸光値が低い場合は菌の増殖が確認されないことを示す。
【0044】
図2に示すように、ナノダイヤモンドの濃度は、0.001質量パーセント以上になると、急激に吸光度が減少して、菌が減少していることが分かる。また、0.005質量パーセント以上では、吸光度の減少が少なくなる。従って、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用に関して、ナノダイヤモンドの濃度が、0.0005質量パーセントから効果が表れ始め、ナノダイヤモンドの濃度が、0.001質量パーセント~0.005質量パーセントで十分と考えられる。なお、図2における実験は、液自体の抗菌活性であるため、ナノダイヤモンドの濃度は、0.0003質量パーセント以上でもよい。ナノダイヤモンドの濃度は、銀ハロゲン錯塩との相互作用により得られる抗菌活性の強化および/または、繊維への銀の付着力が強化できる濃度であればよい。
【0045】
(1.3 繊維製品処理方法)
次に、第1の実施形態にかかる繊維製品処理方法および処理結果について、図3を用いて説明する。
【0046】
図3は、本発明の第1の実施形態にかかる繊維製品処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図3に示すように、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩水溶液が繊維製品に含浸する(ステップS5)。具体的には、銀ハロゲン錯塩を含むハロゲン化物水溶液にナノダイヤモンドを分散させた水溶液に、布や糸等の繊維製品が入れられる。
【0048】
次に、銀が析出される(ステップS6)。具体的には、繊維製品を浸した状態で水を加えて、混合液を水で希釈すると、ハロゲン化物の濃度が減少して、繊維製品の繊維に銀が析出する。または、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩水溶液から繊維製品を取り出し、取り出された繊維製品を、水に曝してもよい。
【0049】
次に、乾燥処理が行われる(ステップS7)。具体的には、銀を析出させた繊維製品を取り出し、自然乾燥、または、乾燥装置に入れて、繊維製品が乾燥される。なお、銀メタル換算で0.5g以下(例えば、0.05g)相当の銀メタルを含有する塩化銀の銀ハロゲン錯塩水溶液にナノダイヤモンドを分散させた場合、付着させる銀の量を増やすため、ステップS5からステップS7の工程を複数回繰り返してもよい。
【0050】
以上の行程により、繊維製品の繊維に銀とナノダイヤモンドとを共に付着された繊維製品が得られた。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、を含む混合液(例えば、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲンクロロ錯塩水溶液)を使用して、繊維製品に銀を付着させることにより、ナノダイヤモンドによって繊維等に銀の付着力が高まる。水洗いしても、銀がとれにくくなり、抗菌作用をより維持できる。
【0052】
また、ナノダイヤモンドの含有量が、混合液全体の質量に対して0.0003質量パーセント以上、1質量パーセント以下である混合液(例えば、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩水溶液)である場合、抗菌作用を有し、かつ、繊維への銀の付着力を向上させることができる。
【0053】
また、銀ハロゲン錯塩における銀の含有量がが、混合液全体の質量に対して0.05質量パーセント以上であり、ナノダイヤモンドの含有量が、混合液全体の質量に対して0.001質量パーセント以上である混合液の場合、銀とナノダイヤモンドとにより、抗菌作用が向上する。
【0054】
また、ナノダイヤモンドの平均粒径が、4ナノメートル以上、200ナノメートル未満である混合液の場合、ナノダイヤモンドが分散しやすく、容易にナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩水溶液を調製することができる。
【0055】
また、銀ハロゲン錯塩溶液が、銀ハロゲン錯塩を含むハロゲン化物水溶液である場合、ハロゲン化物水溶液の濃度を薄めるだけで、容易に繊維等に銀を付着させることができる。
【0056】
また、ハロゲン化物水溶液のハロゲン化物の濃度が、混合液全体の質量に対して0.5質量パーセント以上である場合、安定して、銀イオンが錯イオンとして安定して存在し、銀の析出が防止される。
【0057】
また、銀ハロゲン錯塩が、銀クロロ錯塩である場合、安価でありかつ安全性が高い。塩素剤にも容易に混溶が可能となる。
【0058】
また、繊維製品の繊維に銀とナノダイヤモンドとを共に付着された繊維製品により、例えば、洗濯などの物理的摩擦に対しても銀がとれにくい繊維製品を提供できる。特に、抗菌作用が低下しにくい繊維製品を提供できる。
【0059】
<2.第2の実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態の混合液の調製方法および繊維製品処理方法について説明する。
【0060】
(2.1 第2の実施形態にかかる混合液)
本実施形態の混合液の構成は、前記第1実施形態に係る銀ハロゲン錯塩、ハロゲン化物水溶液、ナノダイヤモンド、繊維製品と同様であるが、第1の実施形態にかかる溶液にアルコールを加えることが主に異なる。
【0061】
ここで、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール等が挙げられる。エチレングリコールのような2価のアルコールや、グリセリン(グリセロール)のような3価のアルコールでもよい。水に相溶性を有する化合物で、水より揮発しやすい化合物ならばよい。また、上記複数のアルコールの混合でもよい。なお、加えるアルコールの種類によって、ナノダイヤモンドの分散特性が異なるので、溶媒種に合わせて、ナノダイヤモンドの粒度を適宣調製してもよいし、所定濃度のナノダイヤモンドの分散特性を付与するために、アルコール類を組合せなどとして極性を調製してもよい。
【0062】
(2.2 混合液の調製方法)
次に、第2の実施形態にかかる混合液の調製方法およびナノダイヤモンドの添加量について、図4を用いて説明する。
【0063】
図4は、本発明の第2の実施形態にかかる混合液の調製方法の一例を示すフローチャートである。
【0064】
図4に示すように、ハロゲン化物水溶液を調製する(ステップS10)。具体的には、ステップS1のようにハロゲン化物水溶液が調製される。
【0065】
次に、ハロゲン化銀が投入され、撹拌され、銀ハロゲン錯塩水溶液が調製される(ステップS11)。具体的には、ステップS2のように銀ハロゲン錯塩水溶液が調製される。
【0066】
次に、アルコールに銀ハロゲン錯塩水溶液が加えられて撹拌される(ステップS12)。具体的には、ステップS11で調製されたら銀ハロゲン錯塩水溶液をアルコールに加えて、銀ハロゲン錯塩溶液の一例である銀ハロゲン錯塩アルコール溶液が調製される。例えば、メタノール、エタノールまたは、プロパノールの単独あるいは混合液で、アルコール類総濃度が75%になるように、銀ハロゲン化物水溶液を用いて希釈することによって銀ハロゲン錯塩アルコール混合液が調製される。
【0067】
次に、ナノダイヤモンドが投入され、分散される(ステップS13)。具体的には、ステップS12で調製された銀ハロゲン錯塩アルコール混合液に、撹拌させながら、ナノダイヤモンドが徐々に加えられていく。ナノダイヤモンドが投入されたら、超音波処理がされ、銀ハロゲン錯塩アルコール溶液中に、ナノダイヤモンドが十分分散させられる。ナノダイヤモンドの濃度が0.001質量パーセントになるように、平均粒径が50ナノメートルのナノダイヤモンドが投入される。
【0068】
これにより、本実施形態にかかる混合液である、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩アルコール混合液が得られる。
【0069】
(2.3 繊維製品処理方法)
次に、第2の実施形態にかかる繊維製品処理方法および処理結果について、図5を用いて説明する。
【0070】
図5は、本発明の第2の実施形態にかかる繊維製品処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0071】
図5に示すように、繊維製品にアルコール混合液が噴霧される(ステップS15)。具体的には、繊維製品に、スプレー等により、ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩アルコール混合液が噴霧される。なお、この銀ハロゲン錯塩アルコール混合液に繊維製品を含浸させ、引き上げてもよい。
【0072】
次に、アルコールが揮発して、銀が析出される(ステップS16)。ナノダイヤモンドが分散した銀ハロゲン錯塩アルコール混合液が付着した繊維は、アルコール成分が揮発することによって銀ハロゲン錯塩の錯体の構造が崩壊し、塩化銀等のハロゲン化銀が析出し繊維表面に固着する。ハロゲン化銀はやがて銀メタルとなり繊維表面に定着する。当該ハロゲン化銀の析出と同時にナノダイヤモンドが同時に分散状態から該ハロゲン化銀に担持されるように同一出現し、繊維表面に固着する。なお、結晶化したハロゲン化銀は、光などの外的要因により、徐々に銀に変わっていく。
【0073】
なお、ステップS6のように、銀ハロゲン錯塩アルコール混合液を水で希釈して銀が析出されるようにしてもよい。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、ハロゲン化物水溶液中に含む銀ハロゲン錯塩と、ナノダイヤモンドと、アルコールと、を含む銀ハロゲン錯塩アルコール混合液を使用して、繊維製品に銀を付着させることにより、ナノダイヤモンドによって繊維等に銀の付着力が高まる。第1の実施形態と同様、水洗いしても、銀がとれにくくなり、抗菌作用をより維持できる。
【0075】
混合液が、アルコールを更に含む場合、銀ハロゲン錯塩アルコール混合液を噴霧または含浸させた繊維製品のアルコールを揮発させるだけで、容易に銀およびナノダイヤモンドを付着させることができる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を容易とする目的のためにのみ開示するものであって、本発明が以下の例示的な実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
表1に示すように、本実施例にかかる混合液の抗菌作用の結果について、説明する。用いた菌は、病原性大腸菌O-157、MRSA(Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus;メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、サルモネラ菌、および、緑膿菌である。比較のため、ナノダイヤモンドを含まない銀クロロ錯塩溶液、ナノダイヤモンドのみを分散させた混合液を用いた。また、標準一般培地を用いて各種菌体の前培養液を1白金耳添加したものをコントロールとし、銀クロロ錯塩水溶液(銀含有量1ppm)、0.001%ナノダイヤモンド分散液、上記2種を混合した本発明の混合液の抗菌性比較を行った。大腸菌(O-157)、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、緑膿菌は、それぞれ1/1000トリプトソーヤブイヨン培地を用い37℃にて振とう培養を所定時間行い、生菌数測定を行った。
【0078】
表1に示すように、大腸菌O-157に関しては、コントロールに対し、銀のクロロ錯塩水溶液は7.5[CFU/ml]という高い抗菌活性を示した。またナノダイヤモンド分散液においても4オーダー低い抗菌活性が確認された。一方、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加した本発明の混合液では、大腸菌の生育が確認されなかったことから、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加することにより相乗効果が得られ、高い抗菌活性が得られることがわかった。
【0079】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に関しては、コントロールに対し、銀のクロロ錯塩水溶液は2オーダー低い抗菌活性を示した。またナノダイヤモンド分散液においても3オーダー低い抗菌活性が確認された。一方、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加した本発明の混合液では、MRSAの生育が確認されなかったことから、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加することにより相乗効果が得られ、高い抗菌活性が得られることがわかった。
【0080】
サルモネラ菌に関しては、コントロールに対し、銀のクロロ錯塩水溶液はと高い抗菌活性を示した。またナノダイヤモンド分散液においても3オーダー低い抗菌活性が確認された。一方、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加した本発明の混合液では、サルモネラ菌の生育が確認されなかったことから、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加しても銀のクロロ錯塩水溶液の効果に拮抗することなく、高い抗菌活性が得られることがわかった。
【0081】
緑膿菌に関しては、コントロールに対し、銀のクロロ錯塩水溶液は2.4[CFU/ml]という高い抗菌活性を示した。またナノダイヤモンド分散液においても3オーダー低い抗菌活性が確認された。一方、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加した本発明の混合液では、緑膿菌の生育が確認されなかったことから、銀のクロロ錯塩水溶液にナノダイヤモンド分散液を添加することにより相乗効果が得られ、高い抗菌活性が得られることがわかった。
【0082】
【表1】
【0083】
[実施例2]
次に、表2を用いて、洗濯回数に対する銀の付着量について説明する。
【0084】
サンプル繊維製品としてナイロン50デニールが、標準洗剤で洗浄され、濯ぎ後乾燥させてから、各サンプル溶液を10分間浸漬され乾燥させた。サンプル繊維製品が、標準洗剤を用いて5分間洗浄され、2分間の濯ぎ2回を10回繰り返された。各サンプル繊維製品を灰化しICP発光分光法により定量を行った。炭素分析はポリアミド樹脂中の炭素量を差し引いて定量した。
【0085】
表2に示すように、銀クロロ錯塩水溶液の単独での繊維固着試験区では、10回洗濯後においても繊維に20ppmの銀の残存付着が確認された。一方、銀クロロ錯塩水溶液とナノダイヤモン混溶させた本発明の混合液では、銀クロロ錯塩水溶液の単独使用による銀の残存量にくらべ約8.5倍の銀が繊維上に残存していることがわかった。このことより、銀クロロ錯塩水溶液とナノダイヤモン混溶させた方が、強力に繊維上に銀を固着させることがわかった。
【0086】
【表2】
【0087】
例えば、上述の実施形態および例に実施例おいて挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、上述の実施形態および実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5