(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136676
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】熱交換装置及び熱交換システム
(51)【国際特許分類】
G06F 1/20 20060101AFI20220913BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G06F1/20 D
G06F1/20 B
G06F1/20 C
H05K7/20 B
H05K7/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036397
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】幸 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA03
5E322AA11
5E322BA03
5E322FA04
(57)【要約】
【課題】通常の発熱時に熱交換により放熱して冷却することに加えて、通常時よりも大きい突発的な発熱が生じたときには、放熱の効率を高めて制御対象物を十分に冷却できる熱交換装置を提供する。
【解決手段】基端部に制御対象物20が接続され、吸湿材40で覆われたフィン2、及び該フィン2の周囲に熱媒を流通させるためのダクト3を有する熱交換器10と、フィン2の吸湿材40を湿潤状態とするための水分供給部11と、熱媒供給部12と、制御対象物20の突発発熱を感知して、熱媒を乾燥熱媒とするように制御する制御部13と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象物が接続され、少なくとも表面の一部が吸湿材で覆われたフィン、及び該フィンの周囲に熱媒を流通させるためのダクトを有する熱交換器と、
前記フィンの前記吸湿材を湿潤状態とするための水分供給部と、
前記フィンに前記熱媒を供給するための熱媒供給部と、
前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときに、前記熱媒を乾燥熱媒とするように制御する制御部と、
を有することを特徴とする熱交換装置。
【請求項2】
前記水分供給部は、前記熱媒の湿度を調整可能な湿度調整器であり、前記制御部は、通常時は前記熱媒を湿潤熱媒とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときに前記熱媒を乾燥させるように前記湿度調整器を制御することを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
前記熱媒供給部は、前記ダクトに前記熱媒として乾燥熱媒を供給可能であるとともに、 前記水分供給部は前記熱媒を加湿可能な加湿器であり、
前記制御部は、通常時は前記熱媒を前記加湿器により湿潤熱媒とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときに前記加湿器の作動を停止して前記乾燥熱媒を前記ダクトに供給するように制御することを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱交換装置を用いた熱交換システムであり、
前記制御対象物に前記熱交換器及び前記水分供給部が複数組接続されるとともに、前記熱媒供給部は前記熱交換器のそれぞれに前記熱媒を供給可能であり、
前記制御部は、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときにいずれかの前記熱交換器に前記熱媒として前記乾燥熱媒を供給するように制御することを特徴とする熱交換システム。
【請求項5】
請求項1に記載の熱交換装置を用いた熱交換システムであり、
前記制御対象物に前記熱交換器が複数組接続されるとともに、前記熱媒供給部は各前記熱交換器に前記熱媒を供給可能であり、前記熱媒供給部に乾燥熱媒を供給可能な乾燥熱媒供給源と、前記水分供給部としての湿潤熱媒供給源とを備え、
前記制御部は、前記熱交換器に前記乾燥熱媒供給源又は前記湿潤熱媒供給源のいずれかを接続状態とする切替機構を有し、通常時は前記熱交換器に前記湿潤熱媒供給源を接続状態とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱が予想されるときに前記切替機構によりいずれかの前記熱交換器に前記乾燥熱媒供給源を接続するように制御することを特徴とする請求項4に記載の熱交換システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱が予想されるときにいずれかの前記熱交換器に前記熱媒として前記乾燥熱媒を供給するとともに、突発発熱が繰り返され、その次の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱が予想されるときに、他の前記熱交換器に前記熱媒として前記乾燥熱媒を供給することを特徴とする請求項4又は5に記載の熱交換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体素子等の制御対象物の発熱部分を冷却するための熱交換装置及び熱交換システムに関し、特に、制御対象物の突発的な発熱に対しても冷却効果を発揮する熱交換装置及び熱交換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子等の制御対象物の発熱部分を冷却するために、冷却用のフィンを通して熱を外部に放出する熱交換器が用いられることが多い。この場合、放熱効率を上げるために、フィンの外周囲を吸湿材で被覆し、この吸湿材に水分を含ませた状態で、発熱が生じたときに液体が気体に変化するときの気化熱(蒸発潜熱)を利用して冷却効率を上げようとする熱交換器が知られている。
【0003】
この種の熱交換器として、例えば特許文献1が開示されている。この熱交換器では、熱良導体となる金属板の外周側に吸水性材料による吸水性物質層が形成され、この吸水性物質層に吸収されている水分の蒸発潜熱により熱良導体の放熱を促進することで、空冷の場合と比較して放熱効率を大きくしようとするものである。この場合、熱交換器を冷凍機器等に用いられる放熱部材に使用するときには、空冷用ファンや噴水用のポンプ等の動力機器を用いることなく、水分が自然に蒸発するときの蒸発潜熱で熱交換をおこなうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような構成の熱交換器に対して、パルス発熱のような突発的(瞬間的)な発熱が生じた場合には、その発熱量の大きさに放熱性能が追い付けず、制御対象物を十分に冷却することができなくなることがある。これに対し、フィンを大きくしたり、フィンの数を増やしたりして放熱効率を上げようとすると、熱交換器全体が大型化するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、通常の発熱時に熱交換により放熱して冷却することに加えて、通常時よりも大きい突発的な発熱が生じたときには、放熱の効率を高めて制御対象物を十分に冷却できる熱交換装置及び熱交換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱交換装置は、制御対象物が接続され、少なくとも表面の一部が吸湿材で覆われたフィン、及び該フィンの周囲に熱媒を流通させるためのダクトを有する熱交換器と、前記フィンの前記吸湿材を湿潤状態とするための水分供給部と、前記フィンに前記熱媒を供給するための熱媒供給部と、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときに、前記熱媒を乾燥熱媒とするように制御する制御部と、を有する。
【0008】
水分供給部により湿潤状態にある吸湿材で覆われたフィンが設けられた熱交換器のダクト内に熱媒を流通させることにより、制御対象物の通常の発熱時には、吸湿材に含まれる水分が水蒸気に気化するときの気化熱によって放熱して制御対象物を冷却する。さらに、通常時よりも大きい突発的な発熱が生じたとき、もしくは突発発熱が予想されるときには、そのことを制御部が感知して熱媒を乾燥熱媒に制御することにより、水蒸気の気化熱の発生を促進して放熱効率をより高め、制御対象物を十分に冷却することができる。
【0009】
熱交換装置の一つの実施態様として、前記水分供給部は、前記熱媒の湿度を調整可能な湿度調整器であり、前記制御部は、通常時は前記熱媒を湿潤熱媒とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想したときに前記熱媒を乾燥させるように前記湿度調整器を制御するとよい。
【0010】
水分供給部として湿度調整器を用いることにより、通常の発熱時には、乾燥熱媒を湿度調整器で適度な湿度に調整してフィンに供給し続けることで、このフィンを覆う吸湿材を湿らせた状態として制御対象物を冷却し、突発発熱を感知したとき、もしくは突発発熱が予想されるときには、湿度調整器で熱媒を突発発熱の放熱に適した乾燥熱媒に調整し、一つの流路を用いてこの流路を流れる熱媒で通常の発熱時と突発発熱時との何れの場合においても制御対象物を確実に冷却可能となる。これにより、水分供給手段への供給流体として乾燥熱媒のみを使用することで熱媒供給側を簡素化し、熱媒が流れる流路の複雑化を防いで全体のコンパクト化も可能になる。
【0011】
熱交換装置の他の一つの実施態様では、前記熱媒供給部は、前記ダクトに熱媒として乾燥熱媒を供給可能であるとともに、前記水分供給部は前記熱媒を加湿する加湿器であり、前記制御部は、通常時は前記熱媒を前記加湿器により湿潤熱媒とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想されるときに前記加湿器の作動を停止して前記乾燥熱媒を前記ダクトに供給するように制御する。
【0012】
この場合、通常時の発熱、又は突発発熱を感知もしくは予想したときに応じて制御部により熱媒供給部の熱媒を湿潤熱媒と乾燥熱媒とに切り替えることで、発熱の大きさに応じた放熱を行うことができる。これにより、全体を簡素化しつつ、簡便に制御対象物を冷却できるようになる。
【0013】
本発明の熱交換システムは、上述の熱交換装置を適用したものであり、前記制御対象物に前記熱交換器及び前記水分供給部が複数組接続されるとともに、前記熱媒供給部は各熱交換器に熱媒を供給可能であり、前記制御部は、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱を予想されるときにいずれかの熱交換器に熱媒として乾燥熱媒を供給するように制御する。
【0014】
また、熱交換システムは、前記制御対象物に前記熱交換器が複数組接続されるとともに、前記熱媒供給部は各熱交換器に熱媒を供給可能であり、前記熱媒供給部に乾燥熱媒を供給可能な乾燥熱媒供給源と、前記水分供給部としての湿潤熱媒供給源とを備え、前記制御部は、前記熱交換器に前記乾燥熱媒供給源又は前記湿潤熱媒供給源のいずれかを接続状態とする切替機構を有し、通常時は前記熱交換器に前記湿潤熱媒供給源を接続状態とし、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは前記制御対象物の突発発熱が予想されるときに前記切替機構によりいずれかの前記熱交換器に前記乾燥熱媒供給源を接続するように制御するようにしてもよい。
【0015】
この熱交換システムにおいて、前記制御部は、前記制御対象物の突発発熱を感知したとき、もしくは突発発熱が予想されるときに、いずれかの熱交換器に熱媒として乾燥熱媒を供給するとともに、前記突発発熱が繰り返され、2回目の突発発熱を感知もしくは予想したときに、他の熱交換器に熱媒として乾燥熱媒を供給することができる。
【0016】
制御対象物が、1回目の突発発熱時に放熱した後、1回目の突発発熱時に乾燥した吸湿材が十分に湿潤状態となる前に、短い間隔で突発発熱が繰り返される場合であっても、他の熱交換器に乾燥熱媒を供給することにより、その突発発熱に適切に対応することができる。この場合、この2回目の突発発熱時に乾燥熱媒を供給している間に、1回目の放熱に用いた熱交換器のフィンの吸湿材を湿潤状態に回復することで突発発熱に適切に対応でき、制御対象物を効率よく冷却することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通常の発熱時には、吸湿材で覆われたフィンを湿らせた状態として制御対象物を冷却できることに加えて、通常時よりも大きい突発的な発熱が生じたとき、もしくは突発発熱が予想されるときには、乾燥熱媒を吸湿材に供給することでフィンの放熱効率を高め、制御対象物を十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態の熱交換装置を示す模式図である。
【
図4】本発明の第2実施形態の熱交換装置を示す模式図である。
【
図5】本発明の熱交換システムを示す模式図である。
【
図6】
図5の熱交換システムにおける熱交換器の熱交換時のチャートである。
【
図7】本発明の他の熱交換システムを示す模式図である。
【
図8】
図7の熱媒供給部の流路を切り替えた状態を示す模式図である。
【
図9】熱交換器のフィンに用いられる吸湿材の特性を示すグラフである。
【
図11】吸湿材の有無によるダクトの入口と出口の露点の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の熱交換装置及び熱交換システムの実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の熱交換装置の模式図を示している。この熱交換装置1は、放熱用フィン(以下、単にフィンと称す)2とダクト3とを有する熱交換器10と、水分供給部11と、熱媒供給部12と、制御部13とを備えており、制御対象物20の発熱を熱交換によって冷却する。
【0020】
図1、
図2に示すように、フィン2は、柱状、板状等に形成され、ダクト3の内部に、ダクト3を横断し、かつ熱媒の流通方向に沿って設けられている。
図1及び
図2ではフィン2は板状に形成されており、その面方向が熱媒の流通方向に沿うように配置され、流通方向に直交する方向に複数並べられている。ダクト3は、フィン2が設けられている部分がボックス状に形成されており、その外側面に制御対象物20が固定されている。具体的には、ダクト3内のフィン2の基端部がダクト3の壁を介して制御対象物20に接続される位置関係で設けられており、制御対象物20で発生した熱がダクト3の壁を介してフィン2の基端部に伝わり、フィン2の長さ方向に伝導して、フィン2の全体から放散される構成である。
【0021】
また、フィン2は、銅やアルミニウムなどの熱伝導が良好なフィン材30が用いられ、フィン材30の表面が吸湿材40により覆われている。この吸湿材40は、
図9のグラフにおいて、相対湿度の変化に対して吸湿率の変化が大きい材料を使用することが望ましい。この熱交換器10においては、湿潤熱媒から乾燥熱媒に切り替えたときに、保持していた湿度をできるだけ多く放出できるものが望ましい。例えば、シリカゲル、メソポーラスシリカ、レーヨン、吸湿性アクリル、ポリビニルピロリドンなどのビニル系、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系、ゼオライトなどを用いるとよく、特に、樹脂製材料を用いるとよい。
これら吸湿材40は、図示しないバインダーを通して電着方式、或いはディップ方式により個々のフィン材30に塗布される。
【0022】
電着方式によりフィン材30に吸湿材40を被覆する場合、バインダーとしてポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂や、或いはこれらを混合した樹脂が用いられる。例えば、液状のバインダーと吸湿材40とを混合した電着液を製作してこれを電着槽(図示略)に満たし、この電着槽の中にフィン材(例えばアルミニウム材)30を投入する。この場合、電着槽を5~60℃に保持した状態で、フィン材30と電着槽との間に1~300Vの電圧を印加する。印加時間は、1~300秒程度とし、この時間の間で適切な膜厚となるように任意に設定する。
電着後には、電解槽からフィン材30を引き上げ、続いて100~500℃の範囲の温度で、10~60分程度の処理時間で吸湿材40の乾燥・焼付処理を実施する。
【0023】
一方、ディップ方式によりフィン材30に吸湿材40を被覆する場合、バインダーとしてポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニル系樹脂などの樹脂や、或いはこれらを混合した樹脂が用いられる。
【0024】
ディップ方式では、バインダー液と吸湿材とを混合したディップ液を設けてこれをディップ槽(図示略)に満たした状態で、ディップ槽の中にフィン材30を投入する。ディップ液の粘度は、10~1000cpであることが望ましく、10cpよりも低いときには膜厚として塗膜できる量が少なくなり、一方、1000cpよりも大きいときには塗膜する量が大きくなって膜厚の大きさが過剰になる。フィン材30の投入後には、このフィン材30を垂直に保持した状態で1~10cm/s程度の速度で引き上げるようにする。このとき、引き上げ速度が10cm/sよりも速いと気泡を巻き込みやすくなり、均質な膜厚を形成することが難しくなる。
【0025】
水分供給部11は、この実施形態の場合、熱媒の湿度を調整可能な湿度調整器よりなる。また、熱媒供給部12は、ダクト3の上流側に接続され、熱媒として乾燥熱媒を供給する。そして、水分供給部11としての湿度調整器が熱媒供給部12の途中に設けられている。この湿度調整器11に乾燥熱媒を供給することで、所望の湿度に調整された熱媒(湿潤熱媒)が生成され、この熱媒をフィン2に供給して吸湿材40を湿潤状態とすることができるようになっている。
【0026】
制御部13は、制御対象物20と湿度調整器11に電気的に接続され、制御対象物20の突発発熱を感知し、熱媒を乾燥熱媒に制御するように設けられる。この実施形態の場合、制御対象物20は例えば電源回路であり、その駆動部21からの信号を受けて作動する。駆動部から高出力信号が発せられると制御対象物20である電源回路の発熱が急激に増大する突発発熱現象が生じる。
制御部13は、その駆動部21の高出力信号を受け取ることにより、制御対象物20の突発発熱を感知する。そして、制御部13がこの突発発熱を感知すると、水分供給部11の湿度を下げて、熱媒供給部12内の熱媒が乾燥熱媒となるように制御し、この乾燥熱媒をダクト3内に供給する。
【0027】
このように構成した熱交換装置1は、通常運転時は、制御部13が水分供給部11の湿度調整器により湿潤熱媒をダクト3に供給する。例えば、通常時としてフィン2が制御対象物20の熱を受けて40℃の温度であるとし、そのとき、室温25℃、露点温度20℃(相対湿度が約74%の状態)の湿潤熱媒を流通させる。フィン2の温度が40℃のときの相対湿度は約32%であり、この湿度に応じて吸湿材40が吸湿する。この通常時は、熱媒(湿潤熱媒)とフィン2との間で通常の熱交換がなされる。
【0028】
次いで、制御対象物20の出力上昇により約80℃の温度の突発発熱が生じたとすると、駆動部21からの出力増大の信号を受けて制御部13が突発発熱を感知し、水分供給部(湿度調整器)11により熱媒を乾燥熱媒とするように制御する。これにより、ダクト3内に乾燥熱媒が供給され、フィン2まわりの相対湿度が例えば約5%に低下する。このため、フィン2の吸湿材40に吸収されていた水分のうち、相対湿度の変化分に相当する水分が乾燥熱媒内に放出され、フィン2の保水量が減少するとともに、水分が蒸発する際の気化熱(蒸発潜熱)が制御対象物20の冷却に寄与することになる。
【0029】
これをチャートにしたのが
図3であり、制御対象物20の発熱量がパルス状に増大すると、制御部13により熱媒が湿潤熱媒から乾燥熱媒に変化し、ダクト3の入口3aにおける熱媒の湿度が低下し、乾燥熱媒がダクト3内に流通する。その乾燥熱媒によりフィン2の吸湿材40から水分が蒸発して、フィン2の保水量が低下するとともに、その保水量の低下に応じてフィン2の根本(言い換えると制御対象物20側の基端部)の温度が速やかに低下する。ダクト3の出口3bにおいては、フィン2からの水分の蒸発により湿度が高くなる。
因みに、
図3のフィン2の基端部温度における二点鎖線は吸湿材を有しないフィンの場合を示しており、吸湿材の蒸発潜熱による冷却がなく、通常時の熱交換と同程度の放熱しか得られないので、フィンの基端部の温度低下も緩やかで、制御対象物20の冷却効果に乏しい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態の熱交換装置1は、フィン2の吸湿材40に水分を吸収させておき、制御対象物20に瞬間的に発熱が生じたときには、水蒸気の気化熱により通常のフィン2の冷却性能よりも高い冷却性能を発揮することができる。
しかも、フィン2に吸湿材40を設けて吸湿させておき、突発発熱時に熱媒として乾燥熱媒を供給するという単純な構成であり、装置の小型化、省スペース化も可能である。
【0031】
なお、前述した水分供給部11として、吸湿材40の一部を水に浸漬させることにより、湿潤状態としておいてもよい。この場合は、制御部13が突発発熱を感知すると、ダクト3に乾燥熱媒を供給するとともに、水分供給部11において、吸湿材40と水との接触を断つことでフィン2への水分供給を減らしてもよい。
また、突発発熱を制御対象物20の出力増加で感知しているが、これ以外の手段を用いて感知するようにしてもよい。
【0032】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態の熱交換装置を示している。この実施形態以降において、前述した実施形態と同一部分は同一符号によってあらわし、その説明を省略する。
この実施形態における熱交換装置41の熱媒供給部42は、流路の途中が並列回路状に分岐して設けられ、その一方の流路には加湿器よりなる水分供給部43が設けられている。この熱媒供給部42には乾燥熱媒が供給され、熱媒が加湿器(水分供給部)43を経由することで加湿されるようになっている。加湿器(水分供給部)43が設けられている流路を加湿流路42a、他方を乾燥流路42bとする。
また、これら加湿流路42aと乾燥流路42bとの上流側の分岐部には切替弁(切替機構)44が設けられ、この切替弁44により熱媒が加湿流路42aと乾燥流路42bとのいずれか一方に切替えられ、乾燥熱媒又は湿潤熱媒がダクト3内のフィン2に供給される。
【0033】
制御部13は、切替弁44に電気的に接続され、通常時は、加湿流路42aに熱媒(乾燥熱媒)を流通させることにより、加湿器(水分供給部)43によって湿潤状態となった熱媒(湿潤熱媒)をダクト3内のフィン2に供給し、制御対象物20の突発発熱を感知したときには、熱媒を乾燥流路42bに切り替えて、乾燥熱媒をダクト3内のフィン2に供給するようになっている。
このように、切替弁44の切り替えにより、熱媒を湿潤熱媒から乾燥熱媒に迅速に制御して供給可能となる。
【0034】
(第3実施形態)
図5は、本発明の熱交換装置を用いたシステム例を示している。この実施形態の熱交換システム50では、一つの制御対象物20に対して、2組の熱交換器10が設けられるとともに、それぞれの熱交換器10の一次側に湿度調整器11を有する熱媒供給部51A,51Bが設けられている。各熱媒供給部51A,51Bには、それぞれ乾燥熱媒が供給され、湿度調整器に11により所望の湿度に調整された熱媒を生成して各熱交換器10のフィン2に供給することができる。
【0035】
制御部13は、それぞれの湿度調整器11を制御可能に設けられ、制御対象物20の突発発熱を感知したときに、湿度調整器11を制御して、いずれか一方の熱媒供給部(例えば51A)に湿潤熱媒、他の熱媒供給部(例えば51B)に乾燥熱媒を供給するように制御する。
【0036】
図6のチャートにより説明すると、突発発熱Pが制御対象物20に生じたときには、制御部13により熱媒供給部51Aの湿度調整器11を制御して乾燥熱媒をダクト3に供給する。これにより、フィン2の吸湿材40中の水分が蒸発して、その気化熱の作用により制御対象物20が急激に冷却される。一方、熱媒供給部51Bでは、湿潤熱媒の供給状態が維持されるが、突発発熱の影響を受けて若干フィン2の吸湿材40からの蒸発が生じる場合は、その保水量もやや低下する。この熱媒供給部51Bでは常に湿潤熱媒が流通しているため、その湿度が発熱による蒸発量に比べて十分に高い場合には、フィン2からの若干の蒸発が生じても保水量があまり変化しない場合もある。
【0037】
この熱交換システム50において、突発発熱Pがなくなり、通常の発熱状態となると、熱媒供給部51Aにおいても湿潤熱媒が供給され、フィン2の吸湿材40が吸湿されるが、その後、フィン2の吸湿材40の保水量が十分に増大しないうちに、突発発熱Pから比較的短い間隔で再度突発発熱Qが生じた場合、再度熱媒供給部51Aに乾燥熱媒を供給しても、その気化熱では制御対象物20を冷却できない場合がある。
【0038】
そこで、この熱交換システム50では、制御部13により他方の熱媒供給部51Bの湿度調整器11を制御して、この熱媒供給部51Bに乾燥熱媒を供給する。このフィン2の吸湿材40は十分に保水されており、乾燥熱媒の供給により、その気化熱により制御対象物20を急激に冷却することができる。
以下、短い間隔で突発発熱が生じる場合には、上述した動作を繰り返して2つの熱媒供給部51A,51Bにより交互に乾燥熱媒をフィン2に供給して冷却することができる。
なお、熱交換器10、湿度調整器11及び熱媒供給部51A,51Bは、2系統以上の複数組設けられていてもよく、熱交換器10の数を増やすことで、突発発熱がより短い間隔で繰り返し発生する場合にも、これに対応して制御対象物20を冷却することができる。
【0039】
(第4実施形態)
図7、
図8は、本発明の他の熱交換システムを示している。
この実施形態の熱交換システム60では、
図5の実施形態と同様、熱交換器10が2組設けられるとともに、これら各熱交換器10に熱媒を供給可能な2系統の熱媒供給部61A,61Bが設けられているが、これら2つの熱媒供給部61A,61Bの両方が湿潤熱媒供給源62と乾燥熱媒供給源63とに接続され、切替弁64~67により乾燥熱媒か湿潤熱媒のいずれかを流通できるようになっている。
具体的には、各熱媒供給部61A,61Bの一方の端部にそれぞれ切替弁64,65を介して湿潤熱媒供給源62が接続され、他方の端部にそれぞれ切替弁66,67を介して乾燥熱媒供給源63が接続されている。なお、切替弁64~67には、これを切り替えたときに各熱媒供給部61A,61Bを経由した湿潤熱媒又は乾燥熱媒を排出するための排出部68がそれぞれ設けられている。
【0040】
制御部13は、制御対象物20の突発発熱を感知したときに、いずれかの熱媒供給部61A,61Bのフィン2に乾燥熱媒を供給するように各切替弁64~67を制御する。これら切替弁64~67が本発明の切替機構を構成する。
この実施形態の熱交換システム60も、
図5に示した熱交換システム50と同様、比較的短い突発発熱が繰り返される場合に、熱媒供給部61A,61Bへの熱媒を湿潤熱媒と乾燥熱媒とのいずれかに切り替えて対応することができる。
【0041】
なお、各実施形態では、制御部13が制御対象物20の突発発熱を感知したときにフィン2に乾燥空気を供給するように制御したが、予め突発発熱が予想できるときは、突発発熱を予想したときに乾燥空気を供給するように制御してもよい。例えば、制御対象物が巨大なファンを有するモーターを含む電源回路である場合に、大電流を流すとモーターを含む電源回路がその後大きく発熱することが予想されるので、モーターを含む電源回路に大電流を流すと同時にその信号を制御部13に送って、モーターを含む電源回路が大きく発熱する前に、フィン2に乾燥空気を供給するようにしてもよい。また、気温が一定温度以上になったときに巨大なファンを動作させるシステムの場合、気温を継続監視しておき、気温が数秒~数分後に一定温度以上になることが予測され、モーターを含む電源回路に大電流が流れ、加速度的に制御対象物の温度が上昇する(突発発熱する)ことが分かっている場合、突発発熱の前(その一定温度を超えたとき)にフィン2に乾燥空気を供給するようにしてもよい。
【実施例0042】
次いで、本発明の効果確認のために行った実施例を説明する。
熱交換器として
図10に示す装置を用いた。便宜上、
図1に示したものと共通する要素には同じ符号を用いた。この熱交換器10のフィン2は、フィン材30として幅33mm×高さ45mm×厚さ0.2mmの44枚のアルミニウム製薄板を用い、このフィン材30どうしを厚さ0.5mmの粘着性伝熱シート31により隙間を空けた状態で相互に平行に保持し、その両側を高さ10mm程度のクランプ32、32で挟み込んだ。これによりフィン材30を一定間隔で並べた状態に一体化した。各フィン材30の高さ45mmのうち、粘着性伝熱シート31から突出している部分の両面に幅33mm、高さ35mm程度の領域に吸湿材40を塗布した。
【0043】
吸湿材40としては、メソポーラスシリカに、バインダーとしてPVP(ポリビニルピロリドン)を3:1の重量割合で混ぜたものを用い、これを適度に水と混合し、電着方式により厚さ100μm程度でフィン材30に塗布した後に乾燥した。
そして、このフィン2を
図9に示すようにダクト3内に収容し、フィン2の基端部に粘着性伝熱シート31を介して、制御対象物20として板状のペルチェ素子を接触させた。
粘着性伝熱シート31,31には積水ポリマテック株式会社製PT-V(商品名)を用いた。
【0044】
この熱交換器10の制御対象物(ペルチェ素子)20を30℃に保持し、フィン2に対して、湿潤熱媒として湿潤空気(露点約20℃、15L/minの速度)を流して十分に吸湿材40に水分を吸着させて湿潤させ、この状態から乾燥熱媒として乾燥空気(露点約-17℃)を流して出口3b側の露点を計測した。乾燥空気の流量は15L/minとした。
一方、比較例として、吸湿材40を有しないフィンを備える熱交換器も製作し、同様に湿潤空気を流した後に、乾燥空気を流して露点の変化を計測した。
測定した露点の変化を
図11(a)に示す。破線が入口側の露点、実線が出口側の露点である。
【0045】
吸湿材40を有するフィン2の場合、フィン2が制御対象物20により30℃に加熱されていることにより、乾燥空気を流し始めた時点でフィン2の吸湿材40に吸着されていた水分が蒸発し、出口3bの露点が上がることが確認された。この露点を5分間計測したときに、露点は乾燥空気を流してからの時間の経過とともに徐々に下降するが、5分経過後にも5℃程度の露点に保持されていることが確認された。
上記の露点計測時の5分間の放出水量に水の潜熱を掛け合わせ、放熱寄与熱量を求めると、5分間の乾燥空気の供給で約0.45gの水を放出し、およそ1024Jの熱量を放出したことになる。
【0046】
これに対して、吸湿材を設けていないフィンの場合には、
図11(B)に示すように、乾燥空気を流し始めた時点ではフィンの表面に若干の水分が付着しているためにこの水分が蒸発し、出口側の露点がやや上昇したが、吸湿材を設けた場合に比較して露点が低く、わずかな水分の蒸発後は急速に露点が下降することが確認された。
この場合、5分間の乾燥空気の供給で約0.014gの水を放出し、およそ33Jの熱量を放出したことが確認された。
【0047】
このように、吸湿材40を有するフィン2を用いて湿潤状態とし、これに乾燥空気を流通させることにより、その気化熱によって制御対象物を十分に冷却し、かつ長時間に渡ってこの冷却効果が持続されることが確認された。