(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136679
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】双方向DC/DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036400
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直久
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730BB13
5H730BB14
5H730BB62
5H730DD04
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】双方向DC/DCコンバータにつき、軽負荷時においてもARCP回路の動作を停止せずに継続させ、スイッチングロスの低減効果を実現する。
【解決手段】ARCP回路10における転流制御回路11は、ハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1とローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2とを含む転流用スイッチ直列回路11aと、共振用リアクトルLrと転流用スイッチ直列回路11aとの間に一次巻線L
T1が接続された共振用トランスT1とを有する。整流回路12は、共振用トランスの二次巻線L
T2に誘起される電力を受電して第1の平滑コンデンサC1に対してハイサイドライン側からローサイドライン側に向けた一方向にのみ電流を供給する。軽負荷時に共振用リアクトルLrのインダクタンスを減少させる共振インダクタンス減少手段(バイパス回路13)が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方端側のハイサイド入出力端子とローサイド入出力端子との間に接続された第1の平滑コンデンサと、
他方端側のハイサイド入出力端子とローサイド入出力端子との間に接続された第2の平滑コンデンサと、
前記一方端側のハイサイド入出力端子と前記他方端側のハイサイド入出力端子とを接続するハイサイドラインに挿入された、ハイサイドのメインスイッチング素子と出力用の直流リアクトルとの直列回路と、
前記一方端側のローサイド入出力端子と前記他方端側のローサイド入出力端子とを接続するローサイドラインと、前記ハイサイドのメインスイッチング素子と前記直流リアクトルとを接続する第1の接続ノードとの間に挿入されたローサイドのメインスイッチング素子と、
転流制御回路と整流回路からなり、前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に接続されたARCP回路とを備え、
前記転流制御回路は、
前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に直列に接続されたハイサイドの転流用スイッチング素子とローサイドの転流用スイッチング素子とを含む転流用スイッチ直列回路と、
前記第1の接続ノードに一端が接続された共振用リアクトルと、
前記共振用リアクトルの他端と前記転流用スイッチ直列回路との間に一次巻線が接続された共振用トランスとを有し、
前記整流回路は、前記共振用トランスの二次巻線に誘起される電力を受電可能な状態で前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に接続され、前記第1の平滑コンデンサに対して前記ハイサイドライン側から前記ローサイドライン側に向けた一方向にのみ電流を供給するように構成され、
さらに、軽負荷時に前記共振用リアクトルのインダクタンスを減少させる共振インダクタンス減少手段を備えることを特徴とする双方向DC/DCコンバータ。
【請求項2】
前記共振インダクタンス減少手段として、前記共振用リアクトルの両端子間に、当該共振用リアクトルを軽負荷時にバイパスして短絡するためのバイパス回路が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の双方向DC/DCコンバータ。
【請求項3】
前記共振用トランスは、前記ハイサイドの転流用スイッチング素子と前記共振用リアクトルの他端との間および前記ローサイドの転流用スイッチング素子と前記共振用リアクトルの他端との間に前記一次巻線が接続されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の双方向DC/DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電システムなどに用いられるARCP(Auxiliary Resonant Commutated Pole:補助共振転流ポール)回路を備えた双方向DC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
夜間に価格の安い電力を蓄電池に蓄電しておき、昼間に蓄電池からの放電で機器を運転する蓄電システムは、蓄電池のほか、系統電源に接続される双方向インバータ、双方向DC/DCコンバータなどを備えて構成される。
【0003】
蓄電システムはいまだ高価なものであり、蓄電池の直列数を削減することで価格を下げる努力がなされている。蓄電池の直列数を削減すると、電池電圧が低下し、双方向DC/DCコンバータの昇降圧比が増加(充電時は降圧比増加、放電時は昇圧比増加)するため、変換効率の悪化が問題となっていた。効率悪化の対策技術としてARCP回路が提案されている。
【0004】
しかしながら、ARCP回路を採用しても、蓄電池の低価格化を考慮すると、昇降圧比が5倍程度にもなり、変換効率のさらなる改善が求められている。そこで、本出願人は
図23、
図24、
図25および
図15に示すような改良型のARCP回路を備えた双方向DC/DCコンバータを提案している。これらの各回路の基本的動作はほぼ共通している。
【0005】
以下、
図15の回路構成を例に挙げて説明する。
図15において、T
p1は双方向インバータ側(本発明の「一方端側」)のハイサイド入出力端子、T
n1は双方向インバータ側のローサイド入出力端子、T
p2は蓄電池側(本発明の「他方端側」)のハイサイド入出力端子、BTは蓄電池、T
n2は蓄電池側のローサイド入出力端子、L1はハイサイドライン、L2はローサイドライン、C1は第1の平滑コンデンサ、C2は第2の平滑コンデンサ、Q
m1はハイサイドのメインスイッチング素子、Q
m2はローサイドのメインスイッチング素子、D
m1,D
m2は逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)、C
r1,C
r2は共振用コンデンサ(寄生コンデンサ)、Loutは出力用(充電方向で見た場合)の直流リアクトル、10はARCP回路、11は転流制御回路、12は整流回路、Lrは共振用リアクトル、Q
t1はハイサイドの転流用スイッチング素子、Q
t2はローサイドの転流用スイッチング素子、D
t1,D
t2は逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)、T1は充放電兼用の共振用トランス、L
T1は共振用トランスT1の一次巻線で、この一次巻線L
T1はセンタータップを有しない1つ巻線方式の巻線に構成されている。L
T2は共振用トランスT1のセンタータップ方式の二次巻線、L
T21 は二次巻線L
T2における第1の二次巻線、L
T22 は二次巻線L
T2における第2の二次巻線、D1は第1の整流ダイオード、D2は第2の整流ダイオードである。
【0006】
図23の場合、ARCP回路10の構成要素である転流制御回路11の共振用トランスT0の一次巻線N
H1,N
L1に転流用スイッチング素子Q
t1,Q
t2を接続する直列回路において、その内部に逆流防止用のダイオードD
G1,D
G2を挿入しておく必要がある。
図25の場合は、逆流防止用のダイオードD3,D4を挿入しておく必要がある。しかしながら、逆流防止用のダイオードにおいて電力消費が大きいという問題がある。
【0007】
図15の回路構成の場合、共振用トランスT1の一次巻線L
T1が共振用リアクトルLrに直列に接続されているため、逆流防止用のダイオードを省略できる。
【0008】
次に、
図15に示す双方向DC/DCコンバータについて、
図15~
図20および
図21のタイミングチャート(波形図)を用いて蓄電池からの放電モードの動作を説明する。
【0009】
[A1]転流前定常状態
図15に示すように、ハイサイドおよびローサイドのメインスイッチング素子Q
m1,Q
m2、ハイサイドおよびローサイドの転流用スイッチング素子Q
t1,Q
t2のいずれもがオフ状態にあるとき(
図21のタイミングt
1 )、直流リアクトルLoutがエネルギーを放出すると、第2の平滑コンデンサC2に並列接続されている蓄電池BTからの出力電流は、〔蓄電池BTの正極端子→直流リアクトルLout→ハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1に逆並列接続の寄生ダイオードD
m1→(ハイサイドラインL1)→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→(ローサイドラインL2)→蓄電池BTの負極端子〕の経路で流れる。ここでは蓄電池BTの放電によって第1の平滑コンデンサC1に対する充電が行われている。第1の平滑コンデンサC1の両端子間の印加電圧、すなわち、ハイサイド入出力端子T
p1とローサイド入出力端子T
n1間の電圧は当該端子間に接続された双方向インバータ(図示省略)に出力され、双方向インバータを介して端子T
p1から端子T
n1に向けて電流が流れる。この動作モードは、転流動作以前の定常状態である。転流前にあっては、転流制御回路11には電流は流れず、整流回路12にも電流は流れない。
【0010】
[A2]転流開始
図16に示すように、タイミングt
2 において、転流制御回路11におけるローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2がターンオンすると、上記[A1]で逆並列接続の寄生ダイオードD
m1に流れていた電流が徐々にローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2の側に転流する。その転流電流は、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→蓄電池BT〕の経路で流れる。
【0011】
併せて、共振用トランスT1の一次巻線LT1から二次巻線LT2に誘起された電力により、整流回路12において、〔第1の二次巻線LT21 →第1の整流ダイオードD1→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→二次巻線LT2のセンタータップ〕の経路と、〔第2の二次巻線LT22 →第2の整流ダイオードD2→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→二次巻線LT2のセンタータップ〕の経路とに電流が流れる。
【0012】
すなわち、ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2がターンオンすることによって、それまでエネルギーを蓄積していた直流リアクトルLoutからエネルギーの放出が開始される。これにより、共振回路系における共振電流の生成の開始点となる。ここでは、第1の平滑コンデンサC1に対する充電が継続されている。
【0013】
[A3]共振開始
図17に示すように、タイミングt
3 において、ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2はオン状態を継続し、上記[A2]の状態で流れていた〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→蓄電池BT〕の経路では引き続き電流が流れるが、共振用リアクトルLrおよび共振用トランスT1の一次巻線L
T1を流れる電流が直流リアクトルLoutを流れる電流を超えると、ハイサイドおよびローサイドの共振用コンデンサC
r1,C
r2が充放電を開始する。すなわち、〔ローサイドの共振用コンデンサC
r2→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→ローサイドの共振用コンデンサC
r2〕の経路と、〔第1の平滑コンデンサC1→ハイサイドの共振用コンデンサC
r1→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→第1の平滑コンデンサC1〕の経路で電流が流れる。その結果、ハイサイドおよびローサイドの共振用コンデンサC
r1,C
r2と共振用トランスT1のリーケージインダクタンスとで共振が開始される。
【0014】
ハイサイドの共振用コンデンサCr1では充電が行われ、ローサイドの共振用コンデンサCr2では放電が行われる。ローサイドの共振用コンデンサCr2、共振用リアクトルLr、共振用トランスT1の一次巻線LT1、ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2からなる共振回路系を流れる共振電流ir の波形は、0レベルから正弦波状に立ち上がり、ピークに達するとこんどは0レベルに向けて立ち下がる。
【0015】
また、タイミングt3 からタイミングt4 にかけて、ローサイドのメインスイッチング素子Qm2の印加電圧(ドレイン・ソース間電圧)が低減し、タイミングt4 におけるゼロボルトへと接近してゆく。なお、整流回路12での電流の流れは上記[A2]と同様のものとなる。
【0016】
[A4]定常状態への遷移
図18に示すように、ローサイドの共振用コンデンサC
r2の両端電圧つまりローサイドのメインスイッチング素子Q
m2にかかるドレイン・ソース間電圧が0レベルになったタイミングt
4 において、そのメインスイッチング素子Q
m2がターンオンする。このローサイドのメインスイッチング素子Q
m2のターンオンは、共振現象によるソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0017】
このタイミングt4 では、ハイサイドの共振用コンデンサCr1に対する充電とローサイドの共振用コンデンサCr2からの放電が終了し、第1の接続ノードN1の電圧がゼロボルトとなる。ただし、上記[A2]、[A3]の状態で流れていた〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線LT1→ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2→蓄電池BT〕の経路では引き続き電流が流れる。
【0018】
ローサイドのメインスイッチング素子Qm2がターンオンすると、そのメインスイッチング素子Qm2に電流が分流する。すなわち、共振用リアクトルLrに流れる電流(共振電流)が徐々に減少し、それまで〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→共振用リアクトルLr→共振用トランスT1の一次巻線LT1→ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2→蓄電池BT〕の経路で流れていた電流が、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→ローサイドのメインスイッチング素子Qm2→蓄電池BT〕の経路の流れへと遷移する。前者の共振電流は次第に減少し、後者のメインスイッチング素子Qm2を流れるドレイン電流は次第に増加する(タイミングt4 ~t5 )。共振回路系を流れる共振電流ir の波形は、ピーク経過後は0レベルに向けて立ち下がってゆく。
【0019】
なお、整流回路12での電流の流れは上記[A2],[A3]と同様のものとなる。
【0020】
[A5]定常状態
図19に示すように、タイミングt
5 は共振用リアクトルLrおよび共振用トランスT1の一次巻線L
T1を通る共振電流が無くなった時点であるが、その直後のタイミングt
6 において、ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2がターンオフする。この転流用スイッチング素子Q
t2のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電流スイッチング(ZCS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0021】
蓄電池BTからの電流は、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→ローサイドのメインスイッチング素子Qm2→蓄電池BT〕の経路のみを流れることになる。転流制御回路11における共振用リアクトルLrおよび共振用トランスT1の一次巻線LT1を通る共振電流は流れなくなるとともに、整流回路12でも電流は流れなくなり、定常状態に移行する。その結果、直流リアクトルLoutにエネルギーが蓄積される。
【0022】
[A6]転流前定常状態へ回帰
図20に示すように、タイミングt
7 において、ローサイドのメインスイッチング素子Q
m2がターンオフすると、[A1]の転流前定常状態に回帰する。このメインスイッチング素子Q
m2のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】“高効率・双方向絶縁型DCDCコンバータ”、[online]、2014年、ポニー電機株式会社、[令和3年2月17日検索]、インターネット<URL:http://pony-e.jp/High_efficiency_bi-directional_insulated_DCDCconverter.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記の従来例の説明において、
図21は負荷条件が標準負荷の場合のタイミングチャート(波形図)を表している。ここで、ローサイドのメインスイッチング素子Q
m2を流れる電流i
m2の波形と共振用リアクトルLrを流れる共振電流i
rの波形との関係を考察する。
【0025】
共振電流ir の波形がピークを過ぎた時点から0レベルに収束するタイミングt4 辺りからタイミングt6 の期間において、メインスイッチング素子Qm2を流れる電流im2の波形が立ち上がり、これに連動するかたちで共振電流ir の波形が立ち下がっている。つまり、一方の増加のタイミングと他方の減少のタイミングとが互いに重なり合って、全体としてバランスが図られており、共振電流ir の正弦波状の波形形成を支えている。
【0026】
しかしながら、このような適正な動作態様は、負荷条件が標準負荷であるという制約のもとに成立している。もし、負荷条件が軽負荷となれば、動作態様は不適正なものとなってしまう。以下、この問題点について説明する。
【0027】
軽負荷時にあっては、
図22に示すように、ローサイドのメインスイッチング素子Q
m2のオン期間が短いものとなり、これに伴ってローサイドのメインスイッチング素子Q
m2を流れる電流i
m2のパルス幅も短いものとなる。それにもかかわらず、共振電流i
r の波形が標準負荷の場合(
図21)と同様の比較的大きな時間幅をもつもののままであるために、メインスイッチング素子Q
m2を流れる電流i
m2の波形の立ち上がりの期間と同じ期間に共振電流i
r の波形も立ち上がることとなり、一方の増加のタイミングと他方の増加のタイミングとが互いに重なり合ってしまい、上記の標準負荷の場合の、一方の増加のタイミングと他方の減少のタイミングとが互いに重なり合ってバランスを保つという条件が崩れてしまっている。また、共振電流i
r のピークを過ぎた時点から0レベルに収束する時点までの正弦半波の後半部が、メインスイッチング素子Q
m2を流れる電流i
m2の波形の“H”レベル部分からはみ出したかたちになっている。
【0028】
このような共振電流ir の波形の位相関係の齟齬は、軽負荷時においてARCP回路の共振許容時間が確保できないということを意味し、そのことのために軽負荷時にはARCP回路の動作を一時的に停止させなければならず、結果としてスイッチングロスを増大させる不都合を招いていた。
【0029】
以上の不具合の問題は、
図15~
図20で説明したところの、ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2のターンオンからローサイドのメインスイッチング素子Q
m2のターンオンを経て、次いでローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2のターンオフからローサイドのメインスイッチング素子Q
m2のターンオフに至る遷移を伴う放電モード(昇圧モード)において、軽負荷時に発生するものであるが、同様の問題が、ハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1のターンオンからハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1のターンオンを経て、次いでハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1のターンオフからハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1のターンオフに至る遷移を伴う充電モード(降圧モード)においても、軽負荷時に発生する。
【0030】
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、負荷条件が軽負荷になっても、ARCP回路の動作を停止せずに継続させて対応でき、スイッチングロスの低減効果を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0032】
本発明による双方向DC/DCコンバータは、
一方端側のハイサイド入出力端子とローサイド入出力端子との間に接続された第1の平滑コンデンサと、
他方端側のハイサイド入出力端子とローサイド入出力端子との間に接続された第2の平滑コンデンサと、
前記一方端側のハイサイド入出力端子と前記他方端側のハイサイド入出力端子とを接続するハイサイドラインに挿入された、ハイサイドのメインスイッチング素子と出力用の直流リアクトルとの直列回路と、
前記一方端側のローサイド入出力端子と前記他方端側のローサイド入出力端子とを接続するローサイドラインと、前記ハイサイドのメインスイッチング素子と前記直流リアクトルとを接続する第1の接続ノードとの間に挿入されたローサイドのメインスイッチング素子と、
転流制御回路と整流回路からなり、前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に接続されたARCP回路とを備え、
前記転流制御回路は、
前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に直列に接続されたハイサイドの転流用スイッチング素子とローサイドの転流用スイッチング素子とを含む転流用スイッチ直列回路と、
前記第1の接続ノードに一端が接続された共振用リアクトルと、
前記共振用リアクトルの他端と前記転流用スイッチ直列回路との間に一次巻線が接続された共振用トランスとを有し、
前記整流回路は、前記共振用トランスの二次巻線に誘起される電力を受電可能な状態で前記ハイサイドラインと前記ローサイドラインとの間に接続され、前記第1の平滑コンデンサに対して前記ハイサイドライン側から前記ローサイドライン側に向けた一方向にのみ電流を供給するように構成され、
さらに、軽負荷時に前記共振用リアクトルのインダクタンスを減少させる共振インダクタンス減少手段を備えることを特徴とする。
【0033】
本発明の上記構成によれば、次のような作用効果が発揮される。
【0034】
負荷条件が軽負荷でなくて標準負荷のときは、共振インダクタンス減少手段が不動作で、共振用リアクトルはARCP回路内の転流制御回路においてその本来の実効性を発揮し、共振回路系の全インダクタンス値は比較的大きなものとなる。このため、ハイサイド・ローサイドの各一方サイドにおいて転流用スイッチング素子およびメインスイッチング素子のオンデューティが比較的に大きくて標準負荷状態にあるときは、共振電流の0レベルからピーク値を経て0レベルへ戻るまでの時間幅を持つ半波相当部分が、転流用スイッチング素子の立ち上がりタイミングからメインスイッチング素子の立ち下がりタイミングまでの時間領域内に収まる。
【0035】
負荷条件が標準負荷から軽負荷になると、ハイサイドまたはローサイドのメインスイッチング素子のオン時間を短く、オフ時間を長くする必要がある。その結果、転流用スイッチング素子およびメインスイッチング素子のオンデューティが短いものとなるが、従来技術の場合、共振電流の半波相当部分が転流用スイッチング素子の立ち上がりタイミングからメインスイッチング素子の立ち下がりタイミングまでの時間領域内に収まりきらなくなる。つまり、軽負荷になると、ARCP回路の共振許容時間を確保することができなくなり、ARCP回路の動作を停止することで対応しなければならない(スイッチングロスの増加)。
【0036】
これに対し、本発明においては、負荷条件が標準負荷から軽負荷になると、共振インダクタンス減少手段が動作して共振用リアクトルのインダクタンスが減少する。共振回路系の全インダクタンス値を小さくすると、共振電流の周波数が高いものに切り替わり、共振電流の共振電流の0レベルからピーク値を経て0レベルへ戻るまでの半波相当部分の時間幅が短縮化される(共振電流の波形が急峻化する)。
【0037】
つまり、軽負荷時には転流用スイッチング素子およびメインスイッチング素子のオンデューティが短縮化するのに対応させて、共振電流の半波相当部分の時間幅も短縮化するので、共振電流の半波相当部分が、転流用スイッチング素子の立ち上がりタイミングからメインスイッチング素子の立ち下がりタイミングまでの時間領域内に収まることとなり、ARCP回路の共振許容時間を確保することができる。
【0038】
上記観点から、共振インダクタンス減少手段の動作タイミングとしては、転流用スイッチング素子の立ち上がりタイミングからメインスイッチング素子の立ち下がりタイミングまでの時間が共振電流の半波相当部分の時間幅を超えるタイミングで共振インダクタンス減少手段を動作させることが好ましい。
【0039】
ここで、共振インダクタンス減少手段として、共振用リアクトルの両端子間に、当該共振用リアクトルを軽負荷時にバイパスして短絡するためのバイパス回路が接続されていることが好ましい。この構成によれば、共振用リアクトルの両端子間を短絡し、共振用リアクトルを共振回路系から切り離すことができる。すなわち、共振用リアクトルが有しているインダクタンス値を共振回路系において無効化することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、軽負荷時に共振用リアクトルのインダクタンスを減少させる共振インダクタンス減少手段を設けたので、軽負荷時には転流用スイッチング素子およびメインスイッチング素子のオンデューティが短縮化するのに対応させて、共振電流の半波相当部分の時間幅も短縮化する。その結果、共振電流の半波相当部分が、転流用スイッチング素子の立ち上がりタイミングからメインスイッチング素子の立ち下がりタイミングまでの時間領域内に収まることとなり、ARCP回路の共振許容時間を確保することができ、負荷条件が軽負荷になっても、ARCP回路の動作を停止せずに継続させて対応し、スイッチングロスの低減効果を軽負荷時においても実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の実施例における双方向DC/DCコンバータの構成を示す回路図
【
図2】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その1)
【
図3】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その2)
【
図4】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その3)
【
図5】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その4)
【
図6】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その5)
【
図7】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の放電動作説明図(その6)
【
図8】実施例の双方向DC/DCコンバータの動作説明に供するタイムチャート(波形図)
【
図9】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その1)
【
図10】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その2)
【
図11】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その3)
【
図12】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その4)
【
図13】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その5)
【
図14】実施例の双方向DC/DCコンバータの軽負荷時の充電動作説明図(その6)
【
図15】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その1)
【
図16】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その2)
【
図17】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その3)
【
図18】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その4)
【
図19】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その5)
【
図20】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明図(その6)
【
図21】従来例の双方向DC/DCコンバータの動作説明に供するタイムチャート(波形図)
【
図22】従来例の問題点を指摘するタイミングチャート(波形図)
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、上記構成の本発明の双方向DC/DCコンバータにつき、その実施の形態を具体的な実施例のレベルで詳しく説明する。
【0043】
図1は本発明の実施例における双方向DC/DCコンバータの構成を示す回路図である。
図1において、T
p1は双方向インバータ側(本発明の「一方端側」)のハイサイド入出力端子、T
n1は双方向インバータ側のローサイド入出力端子、T
p2は蓄電池側(本発明の「他方端側」)のハイサイド入出力端子、T
n2は蓄電池側のローサイド入出力端子、L1はハイサイド入出力端子T
p1とハイサイド入出力端子T
p2とを接続するハイサイドライン、L2はローサイド入出力端子T
n1とローサイド入出力端子T
n2とを接続するローサイドライン、C1はインバータ側のハイサイド入出力端子T
p1とローサイド入出力端子T
n1との間に接続された第1の平滑コンデンサ、C2は蓄電池側のハイサイド入出力端子T
p2とローサイド入出力端子T
n2との間に接続された第2の平滑コンデンサ、Q
m1はハイサイドのメインスイッチング素子(NMOSトランジスタ)、Q
m2はローサイドのメインスイッチング素子(NMOSトランジスタ)、D
m1はハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1の両端子間(ドレイン・ソース間)の逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)、C
r1は同じ両端子間の共振用コンデンサ、D
m2はローサイドのメインスイッチング素子Q
m2の両端子間(ドレイン・ソース間)の逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)、C
r2は同じ両端子間の共振用コンデンサ、Loutは出力用の直流リアクトルである。
【0044】
なお、ハイサイドおよびローサイドの入出力端子Tp1-Tn1間に接続される機器は双方向インバータに限らず、またハイサイドおよびローサイドの入出力端子Tp2-Tn2間に接続される機器も蓄電池BTに限らず、直流電力を入出力可能な機器であればよい。
【0045】
ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1と直流リアクトルLoutとの直列回路がハイサイドラインL1に挿入されている。ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1はそのドレインがインバータ側のハイサイド入出力端子Tp1に接続され、そのソースが直流リアクトルLoutの一端に接続され、直流リアクトルLoutの他端が蓄電池側のハイサイド入出力端子Tp2に接続されている。ローサイドのメインスイッチング素子Qm2は、そのドレインがハイサイドのメインスイッチング素子Qm1と直流リアクトルLoutとの接続点である第1の接続ノードN1に接続され、そのソースがローサイドラインL2に接続されている。
【0046】
10はハイサイドラインL1とローサイドラインL2との間に接続されたARCP(補助共振転流ポール)回路であり、転流制御回路11と整流回路12を備えている。
【0047】
転流制御回路11の構成要素として、11aは転流用スイッチ直列回路、Lrは共振用リアクトル、T1は共振用トランス(ARCP共振用トランス)、Qt1はハイサイドの転流用スイッチング素子(NMOSトランジスタ)、Qt2はローサイドの転流用スイッチング素子(NMOSトランジスタ)である。LT1は共振用トランスT1の一次巻線で、この一次巻線LT1はセンタータップを有しない1つ巻線方式の巻線に構成されている。LT2は共振用トランスT1のセンタータップ方式の二次巻線、LT21 は二次巻線LT2における第1の二次巻線 共振用リアクトルLrの一端は第1の接続ノードN1に接続され、共振用リアクトルLrの他端は共振用トランスT1における一次巻線LT1の一端に接続されている。
【0048】
転流制御回路11の構成要素であるハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1のハイサイド端子(ドレイン)はハイサイドラインL1に接続され、ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2のローサイド端子(ソース)はローサイドラインL2に接続され、ハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1のローサイド端子およびローサイドの転流用スイッチング素子Qt2のハイサイド端子は共通接続されている。この共通接続の接続点が第2の接続ノードN2である。さらに、1つ巻線方式の一次巻線LT1の他端(共振用リアクトルLrとの接続点とは反対側の接続点)は第2の接続ノードN2に接続されている。
【0049】
つまり、ハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1とローサイドの転流用スイッチング素子Qt2とは直接に接続され(共通接続点N2)、共振用トランスT1における1つ巻線方式の一次巻線LT1は、その一端が共振用リアクトルLrに接続され、その他端がハイサイド・ローサイドの転流用スイッチング素子Qt1,Qt2の共通接続点である第2の接続ノードN2に接続されている。
【0050】
本実施例においては、ハイサイドラインL1とローサイドラインL2との間に直列に接続されたハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1とローサイドの転流用スイッチング素子Qt2とを含む状態で、発明の構成にいう転流用スイッチ直列回路11aが構成されている。
【0051】
共振用トランスT1において、1つ巻線方式の一次巻線LT1に磁気結合される二次巻線LT2は、センタータップ方式の巻線に構成されている。すなわち、センタータップ方式の二次巻線LT2は、第1の二次巻線LT21 と第2の二次巻線LT22 とからなり、これらの巻線L21と巻線L22とがセンタータップにおいて結線された構成を有している。
【0052】
整流回路12は、共振用トランスT1におけるセンタータップ方式の二次巻線LT2に接続された第1の整流ダイオードD1と第2の整流ダイオードD2を有している。二次巻線LT2における第1の二次巻線LT21 と第2の二次巻線LT22 とを接続するセンタータップがローサイドラインL2に直接に接続され、第1の二次巻線LT21 の両端部のうちセンタータップとは反対側の端部が第1の整流ダイオードD1を介してハイサイドラインL1に接続され、同様に第2の二次巻線LT22 の両端部のうちセンタータップとは反対側の端部が第2の整流ダイオードD2を介してハイサイドラインL1に接続されている。
【0053】
この構成によれば、第1の平滑コンデンサC1へ充電を行わせるための整流回路12の回路構成が簡素化され、整流ダイオードでの損失を低減することが可能となっている。
【0054】
共振用リアクトルLrと共振用トランスT1における1つ巻線方式の一次巻線LT1との直列回路は、ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1、ローサイドのメインスイッチング素子Qm2および直流リアクトルLoutを共通に接続する第1の接続ノードN1と、ハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1とローサイドの転流用スイッチング素子Qt2とを接続する第2の接続ノードN2との間に接続されている。
【0055】
整流回路12は、共振用トランスT1において1つ巻線方式の一次巻線LT1からセンタータップ方式の二次巻線LT2に誘起される電力を受電可能な状態でハイサイドラインL1とローサイドラインL2との間に接続されている。整流回路12における第1の整流ダイオードD1、第2の整流ダイオードD2はいずれも、第1の平滑コンデンサC1に対してハイサイドラインL1側からローサイドラインL2側に向けた一方向にのみ電流を供給する。
【0056】
13は転流制御回路11の構成要素としてのバイパス回路であり、軽負荷時において、転流制御回路11における共振用リアクトルLrをバイパスして短絡する機能を有している。バイパス回路13は、第1のバイパス用スイッチング素子Qb1と第2のバイパス用スイッチング素子Qb2を逆極性で直列接続した双方向スイッチの構成となっている。第1のバイパス用スイッチング素子Qb1のソースと第2のバイパス用スイッチング素子Qb2のソースが共通に接続され、第1のバイパス用スイッチング素子Qb1のドレインと第2のバイパス用スイッチング素子Qb2のドレインがそれぞれ共振用リアクトルLrの一端と他端とに接続されている。第1のバイパス用スイッチング素子Qb1の両端子間の逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)Db1は第2のバイパス用スイッチング素子Qb2との協働でバイパス経路を形成し、第2のバイパス用スイッチング素子Qb2の両端子間の逆並列接続のダイオード(寄生ダイオード)Db2は第1のバイパス用スイッチング素子Qb1との協働でバイパス経路を形成する。
【0057】
次に、上記のように構成された実施例の双方向DC/DCコンバータの動作を説明する。
【0058】
負荷条件が標準負荷であるときにはバイパス回路13が動作せず、共振用リアクトルLrは常時的に有効に機能するので、双方向DC/DCコンバータの動作態様は、従来例(
図15)の場合と同じものとなる。負荷条件が軽負荷である場合には、第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2に対するゲート信号が印加され、両第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2がともにターンオンして共振用リアクトルLrを短絡し、共振用リアクトルLrの機能を無効化する(不動作状態とする)。その結果、共振回路系の全インダクタンス値が小さくなる。
【0059】
以下、軽負荷状態において蓄電池BTから放電される動作モードについて、
図2~
図8を用いて説明する。
【0060】
(A)軽負荷状態における蓄電池BTからの放電の動作モード
(A1)転流前定常状態
図2に示すように、ハイサイドおよびローサイドのメインスイッチング素子Q
m1,Q
m2、ハイサイドおよびローサイドの転流用スイッチング素子Q
t1,Q
t2、さらに軽負荷対応のために追加されたバイパス回路13における第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2のいずれもがオフ状態にあるとき(
図8のタイミングt
11)、直流リアクトルLoutがエネルギーを放出する。その結果、第2の平滑コンデンサC2に並列接続されている蓄電池BTからの出力電流は、〔蓄電池BTの正極端子→直流リアクトルLout→ハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1に逆並列接続の寄生ダイオードD
m1→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→蓄電池BTの負極端子〕の経路で流れる。この転流動作以前の定常状態においては、転流制御回路11には電流は流れず、整流回路12にも電流は流れない。その他の動作態様は上記[A1]と同様である。
【0061】
(A2)転流開始
負荷条件が軽負荷であることから、
図3に示すように、タイミングt
12において、転流制御回路11におけるローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2および第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2がターンオンする。ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2のターンオンにより、蓄電池BTに対して共振回路系が接続され、同時に第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2のターンオンにより共振用リアクトルLrがバイパス(短絡)され、共振回路系のインダクタンス値が減少する。この状態では、共振用リアクトルLrは共振回路系から切り離される。
【0062】
すると、上記(A1)でハイサイドのメインスイッチング素子Qm1に逆並列接続の寄生ダイオードDm1を流れていた電流が徐々にローサイドの転流用スイッチング素子Qt2の側である共振回路系に転流する。その結果、蓄電池BTからの出力電流は、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→逆並列接続の寄生ダイオードDm1→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→蓄電池BT〕の経路に流れるとともに、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→第1および第2のバイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2→共振用トランスT1の一次巻線LT1→ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2→蓄電池BT〕の経路で流れる。
【0063】
その他の動作態様は上記(A2)と同様である。すなわち、共振用トランスT1の一次巻線LT1から二次巻線LT2に誘起された電力により、〔二次巻線LT2→第1の整流ダイオードD1、第2の整流ダイオードD2→第1の平滑コンデンサC1→二次巻線LT2のセンタータップ〕の経路に電流が流れ、第1の平滑コンデンサC1に対する充電が開始される。
【0064】
(A3)LC共振
図4に示すように、第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2および共振用トランスT1の一次巻線L
T1を流れる電流が直流リアクトルLoutを流れる電流を超えると、タイミングt
13で共振用コンデンサC
r1,C
r2が充放電を開始する。すなわち、〔共振用コンデンサC
r2→バイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→共振用コンデンサC
r2〕の経路と、〔第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→ハイサイドの共振用コンデンサC
r1→バイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)〕の経路で電流が流れる。その結果、共振用コンデンサC
r1,C
r2と共振用トランスT1のリーケージインダクタンスとで共振動作が行われる。ハイサイドの共振用コンデンサC
r1では充電が行われ、ローサイドの共振用コンデンサC
r2では放電が行われる。
【0065】
この動作モードにおいても、(A2)の場合と同様に、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2の機能により共振用リアクトルLrがバイパスされているため共振回路系のインダクタンス値が減少している。
【0066】
(A4)定常状態への遷移
図5に示すように、ローサイドの共振用コンデンサC
r2の両端電圧つまりローサイドのメインスイッチング素子Q
m2の印加電圧が0レベルになったタイミングt
14において、そのメインスイッチング素子Q
m2がターンオンする。このローサイドのメインスイッチング素子Q
m2のターンオンは、共振現象によるソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0067】
ローサイドのメインスイッチング素子Qm2がターンオンしてそのメインスイッチング素子Qm2に電流が分流すると、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2に流れる電流(共振電流)が徐々に減少し、それまで〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2→共振用トランスT1の一次巻線LT1→ローサイドの転流用スイッチング素子Qt2→蓄電池BT〕の経路で流れていた電流が、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→ローサイドのメインスイッチング素子Qm2→蓄電池BT〕の経路の流れへと遷移する。
【0068】
このモードにおいては、ローサイドのメインスイッチング素子Qm2を流れるドレイン電流が徐々に増加し、共振電流は徐々に減少する。
【0069】
上記の(A2)から(A3)を経て(A4)に至る期間においては、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2の機能により共振用リアクトルLrがバイパスされているため共振回路系のインダクタンス値が減少している。そのため、共振電流の波形が尖鋭化し、共振の周期が減少(共振周波数が増加)する。共振電流は急速に増加し、ピークに達した後に減少へ転じる。タイミングt14にかけて、ローサイドのメインスイッチング素子Qm2の印加電圧(ドレイン・ソース間電圧)が低減し、タイミングt14においてゼロボルトとなる。
【0070】
このように、軽負荷のためにARCP回路の充分な共振許容時間が確保できなくなっても、共振回路系を流れる共振電流の周期を短縮化することにより、その短縮化した共振許容時間内で共振電流を所期通り適正に発生させることができるため、ARCP回路の動作を停止させる必要がなく、したがって、軽負荷時のスイッチングロス増加の問題を解消することができる。
【0071】
(A5)定常状態
共振用リアクトルLrおよび共振用トランスT1の一次巻線L
T1の電流が無くなった直後のタイミングt
15において、
図6に示すように、ローサイドの転流用スイッチング素子Q
t2がターンオフする。この転流用スイッチング素子Q
t2のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電流スイッチング(ZCS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0072】
この定常状態では、電流は、〔蓄電池BT→直流リアクトルLout→ローサイドのメインスイッチング素子Qm2→蓄電池BT〕の経路のみを流れることになる。したがって、直流リアクトルLoutにエネルギーが蓄積される。
【0073】
(A6)転流前定常状態へ回帰
図7に示すように、タイミングt
17において、ローサイドのメインスイッチング素子Q
m2がターンオフすると、(A1)の転流前定常状態に回帰する。このメインスイッチング素子Q
m2のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0074】
(B)軽負荷状態における蓄電池BTへの充電の動作モード
(B1)転流前定常状態
図9に示すように、ハイサイドおよびローサイドのメインスイッチング素子Q
m1,Q
m2、ハイサイドおよびローサイドの転流用スイッチング素子Q
t1,Q
t2、さらに軽負荷対応のために追加されたバイパス回路13における第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2のいずれもがオフ状態にあるとき、直流リアクトルLoutがエネルギーを放出する。その結果、直流リアクトルLoutから放出される電流は、〔直流リアクトルLout→蓄電池BT→ローサイドのメインスイッチング素子Q
m2に逆並列接続の寄生ダイオードD
m2→直流リアクトルLout〕の経路で流れ、蓄電池BTに対する充電が行われる。この転流動作以前の定常状態においては、転流制御回路11には電流は流れず、整流回路12にも電流は流れない。
【0075】
(B2)転流開始
図10に示すように、転流制御回路11におけるハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1がターンオンするとともに、負荷条件が軽負荷であることから、バイパス回路13における第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2がターンオンする。第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2のターンオンにより共振用リアクトルLrがバイパス(短絡)され、共振回路系のインダクタンス値が減少する。この状態では、共振用リアクトルLrは共振回路系から切り離される。
【0076】
すると、ハイサイド入出力端子Tp1から流入した電流は、〔ハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1→共振用トランスT1の一次巻線LT1→第1のバイパス用スイッチング素子Qb1→逆並列接続の寄生ダイオードDb2→直流リアクトルLout→蓄電池BT→ローサイド入出力端子Tn1〕の経路で流れる。
【0077】
共振電流が共振用トランスT1の一次巻線LT1を流れることから、二次巻線LT2に誘起された電力により、〔二次巻線LT2→第1の整流ダイオードD1、第2の整流ダイオードD2→第1の平滑コンデンサC1→二次巻線LT2のセンタータップ〕の経路に電流が流れ、第1の平滑コンデンサC1に対する充電が開始される。この第1の平滑コンデンサC1からの電流によって蓄電池BTに対する充電が補償される。
【0078】
(B3)LC共振
図11に示すように、共振用トランスT1の一次巻線L
T1および第1および第2のバイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2を流れる電流が直流リアクトルLoutを流れる電流を超えると、共振用コンデンサC
r1,C
r2が充放電を開始する。すなわち、〔ハイサイドの共振用コンデンサC
r1→ハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→バイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2→共振用コンデンサC
r1〕の経路と、〔ローサイドの共振用コンデンサC
r2→第1の平滑コンデンサC1(双方向インバータ)→ハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1→共振用トランスT1の一次巻線L
T1→バイパス用スイッチング素子Q
b1,Q
b2→共振用コンデンサC
r2〕の経路で電流が流れる。その結果、共振用コンデンサC
r1,C
r2と共振用トランスT1のリーケージインダクタンスとで共振動作が行われる。ハイサイドの共振用コンデンサC
r1では放電が行われ、ローサイドの共振用コンデンサC
r2では充電が行われる。
【0079】
この動作モードにおいても、(B2)の場合と同様に、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2の機能により共振用リアクトルLrがバイパスされているため共振回路系のインダクタンス値が減少している。
【0080】
(B4)定常状態への遷移
図12に示すように、ハイサイドの共振用コンデンサC
r1の両端電圧つまりハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1の印加電圧が0レベルになったタイミングにおいて、そのメインスイッチング素子Q
m1がターンオンする。このハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1のターンオンは、共振現象によるソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0081】
ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1がターンオンしてそのメインスイッチング素子Qm1に電流が分流すると、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2に流れる電流(共振電流)が徐々に減少し、それまで〔蓄電池BT→第1の平滑コンデンサC1→ハイサイドの転流用スイッチング素子Qt1→共振用トランスT1の一次巻線LT1→バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2→直流リアクトルLout→蓄電池BT〕の経路で流れていた電流が、〔蓄電池BT→第1の平滑コンデンサC1→ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1→直列リアクトルLout →蓄電池BT〕の経路の流れへと遷移する。
【0082】
このモードにおいては、ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1を流れるドレイン電流が徐々に増加し、共振電流は徐々に減少する。
【0083】
上記の(B2)から(B3)を経て(B4)に至る期間においては、バイパス用スイッチング素子Qb1,Qb2の機能により共振用リアクトルLrがバイパスされているため共振回路系のインダクタンス値が減少している。そのため、共振電流の波形が尖鋭化し、共振の周期が減少(共振周波数が増加)する。共振電流は急速に増加し、ピークに達した後に減少へ転じる。時間経過とともにハイサイドのメインスイッチング素子Qm1の印加電圧(ドレイン・ソース間電圧)が低減し、次いでゼロボルトとなる。
【0084】
このように、軽負荷のためにARCP回路の充分な共振許容時間が確保できなくなっても、共振回路系を流れる共振電流の周期を短縮化することにより、その短縮化した共振許容時間内で共振電流を所期通り適正に発生させることができるため、ARCP回路の動作を停止させる必要がなく、したがって、軽負荷時のスイッチングロス増加の問題を解消することができる。
【0085】
(B5)定常状態
共振用トランスT1の一次巻線L
T1および共振用リアクトルLrの電流が無くなった直後のタイミングにおいて、
図13に示すように、ハイサイドの転流用スイッチング素子Q
t1がターンオフする。この転流用スイッチング素子Q
t1のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電流スイッチング(ZCS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0086】
この定常状態では、電流は、〔第1の平滑コンデンサC1→ハイサイドのメインスイッチング素子Qm1→直流リアクトルLout→蓄電池BT→第1の平滑コンデンサC1〕の経路のみを流れることになる。したがって、直流リアクトルLoutにエネルギーが蓄積される。
【0087】
(B6)転流前定常状態へ回帰
図14に示すように、ハイサイドのメインスイッチング素子Q
m1がターンオフすると、(A1)の転流前定常状態に回帰する。このメインスイッチング素子Q
m1のターンオフはソフトスイッチング(ゼロ電圧スイッチング(ZVS))を利用するものであり、スイッチングロスの軽減が図られている。
【0088】
以上のように、軽負荷時においては共振用リアクトルLrを短絡して共振回路系の全インダクタンス値を減少させるので、ARCP回路の共振許容時間を確保することができ、負荷条件が軽負荷になっても、ARCP回路の動作を停止せずに継続させて対応し、スイッチングロスを適切に低減することができる。
【0089】
重負荷時に共振許容時間を低減する場合には共振電流の波高値が増加して導通損失が増加するが、軽負荷時は共振電流の波高値が小さいので、共振許容時間を低減しても導通損失は問題にならない。
【0090】
なお、軽負荷がさらに進行し共振許容時間の確保が制御上困難になる場合があるが、その場合には、バイパス回路作動によるインダクタンス値軽減に加えて、発振周波数を低減して1周期の絶対的長さを増やすことにより、その1周期の中でのARCP動作の実効期間を相対的に短くすることで共振期間を確保するようにしてもよい(発振周波数を低減しても、共振許容時間は共振用のインダクタンス値で決定されるので不都合はない)。さらには、先に発振周波数を低減させ、そののちに共振用リアクトルLrの両端を短絡させてもよい。
【0091】
無負荷に近い軽負荷の場合は、発振周波数を20kHzまで低下させても共振許容時間の確保が制御上困難なので、ARCP回路を動作停止させ、単なるPMW制御に移行させる。
【0092】
可聴周波数領域まで発振周波数を低減させると異音の問題があるので、最低発振周波数は20kHz程度に抑えることが好ましい。無負荷に近い軽負荷では、スイッチングしている電流が小さく、また発振周波数を20kHzまで低減させれば、スイッチングロスは大きくない。
【0093】
本発明の適用については、
図1の方式の回路構成に限るものではなく、
図23の方式や
図24の方式や
図25の方式などの各種の回路構成に適用可能である。
【0094】
また、共振用リアクトルLrの両端を短絡するバイパス回路13は、上記実施例に記載の回路に限定されず、本発明の目的を達成する限り、他の回路で代替してもよい。また、バイパス回路13に限らず、共振用リアクトルLrのインダクタンスを減少させる共振インダクタンス減少手段を設けてもよい。共振用リアクトルLrのインダクタンスを減少させ、共振回路系を流れる共振電流の周期を短縮化することにより、その短縮化した共振許容時間内で共振電流を所期通り適正に発生させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、軽負荷時においてもARCP回路の動作を停止せずに継続させ、スイッチングロスの低減効果を実現する技術として有用である。
【符号の説明】
【0096】
10 ARCP回路
11 転流制御回路
11a 転流用スイッチ直列回路
12 整流回路
13 バイパス回路(共振インダクタンス減少手段)
C1 第1の平滑コンデンサ
C2 第2の平滑コンデンサ
L1 ハイサイドライン
L2 ローサイドライン
Lout 直流リアクトル
Lr 共振用リアクトル
LT1 一次巻線
LT2 二次巻線
N1 第1の接続ノード
Qm1 ハイサイドのメインスイッチング素子
Qm2 ローサイドのメインスイッチング素子
Qt1 ハイサイドの転流用スイッチング素子
Qt2 ローサイドの転流用スイッチング素子
T1 共振用トランス
Tp1 一方端側のハイサイド入出力端子
Tp2 他方端側のハイサイド入出力端子
Tn1 一方端側のローサイド入出力端子
Tn2 他方端側のローサイド入出力端子