(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136725
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】海面処分場での二酸化炭素固定化方法及び二酸化炭素固定化設備
(51)【国際特許分類】
B09B 1/00 20060101AFI20220913BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220913BHJP
【FI】
B09B1/00 H ZAB
B09B3/00 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036473
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智弘
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA37
4D004AC07
4D004BB02
4D004CA35
4D004CB42
4D004CC01
(57)【要約】
【課題】地球温暖化に起因する二酸化炭素を固定化でき、効率良く海面処分場を早期に安定化させる海面処分場での二酸化炭素固定化方法を提供する。
【解決手段】海面処分場50の埋立地盤53内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する際には、海面処分場50への廃棄物の埋立が完了した以降に、埋立地盤53に揚水側井戸13を設け、該揚水側井戸13の底部から埋立地盤53内の間隙水を汲み上げて、該揚水中に二酸化炭素を含ませた後、その処理水を揚水側井戸13とは別の位置から埋立地盤53内に戻すようにしている。これにより、埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物に対する浄化範囲を容易に拡大することができる。その結果、地球温暖化に起因する二酸化炭素を固定化でき、効率良く海面処分場を早期に安定化させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化方法であって、
前記廃棄物海面処分場への廃棄物の埋立が完了した以降に、前記埋立地盤に揚水側井戸を設け、
該揚水側井戸の底部に前記埋立地盤から浸出した間隙水を汲み上げて、その揚水中に二酸化炭素を含ませた後、その処理水を前記揚水側井戸とは別の位置から前記埋立地盤内に戻すことを特徴とする海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【請求項2】
前記処理水を前記埋立地盤内に戻す深度を、前記揚水側井戸から前記間隙水を汲み上げる深度より浅い位置から同じ位置までの範囲にて変化させることを特徴とする請求項1に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【請求項3】
二酸化炭素を含む気泡を前記揚水中に曝気することで、該揚水中に二酸化炭素を含ませ、
前記気泡の直径を、前記埋立地盤内から前記間隙水を汲み上げる揚水位置と、前記処理水として前記埋立地盤内に戻す注水位置との間の距離に基づいて設定することを特徴とする請求項1または2に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【請求項4】
二酸化炭素を含む気泡を前記揚水中に曝気することで、該揚水中に二酸化炭素を含ませ、
前記気泡の直径を、前記埋立地盤の透水係数に基づいて設定することを特徴とする請求項1または2に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【請求項5】
廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化方法であって、
前記廃棄物海面処分場へ廃棄物を埋め立てる際、二酸化炭素を含む気泡を曝気した水を廃棄物に混錬させてなる廃棄物スラリーを投入することで、二酸化炭素が水中に溶出された廃棄物からのアルカリ成分と中和反応させた状態で埋め立てることを特徴とする海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【請求項6】
廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化設備であって、
二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、
該二酸化炭素供給手段から供給された二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段と、
二酸化炭素を含む気泡を曝気した水に廃棄物を混錬する混錬プラントと、
該混錬プラントからの廃棄物スラリーを前記廃棄物海面処分場内に投入する圧送ポンプと、を備えていること特徴とする二酸化炭素固定化設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を管理型廃棄物海面処分場(以下、海面処分場という)の埋立地盤中に固定化すると共に、当該海面処分場の埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する、海面処分場での二酸化炭素固定化方法及び二酸化炭素固定化設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が進行していることから、二酸化炭素の固定化技術の開発が急がれており、様々な技術が提案されている。具体的に、特許文献1には、二酸化炭素と反応し固化する二酸化炭素吸収剤もしくは二酸化炭素吸収剤を含む水溶液を、改良対象の地盤表面に散布する又は地盤内部に混入する散布混入工程と、前記二酸化炭素吸収剤を前記地盤内の間隙に浸透させる浸透工程と、前記二酸化炭素吸収剤と二酸化炭素又は二酸化炭素を含む気体と反応させ、前記二酸化炭素吸収剤を固化させ前記間隙に結合剤として残留させる反応固化工程、を備えた、二酸化炭素を利用した地盤改良方法が開示されている。
【0003】
そして、特許文献1に記載の地盤改良方法では、大気をそのまま斜面などの地盤の地中に取り込み、その中に含まれる二酸化炭素と二酸化炭素吸収剤との炭酸化反応によって、地中に炭酸塩を生成し、その生成物によって土粒子間の動きを抑制し、結果的に斜面の強度を向上させて、豪雨時の土砂災害に対する安全率を向上させることができる、とされている。しかしながら、特許文献1に記載の地盤改良方法だけでは、二酸化炭素を固定化できる量が少なく、すなわち、地球温暖化を抑制すべく二酸化炭素量の減少には至らず、そのために、その他、多方面の分野にて、コストをかけずに二酸化炭素を固定化する方法を模索する必要がある。
【0004】
そこで、海面処分場は、焼却灰や石炭灰等の廃棄物が埋め立てられる施設である。埋立初期においては、海面処分場内は海水(保有水という)で満たされているが、埋立完了時には、廃棄物で満たされ、最終的には覆土させて土地となる。埋立が進むにつれて、海面処分場内の保有水におけるpHは、廃棄物由来によりアルカリ化が進行し、また、埋立が完了すると埋立地盤中の間隙水のpHが9以上のアルカリ性となる場合が多い。そして、海面処分場内は、一定水位となるように管理されており、法令上、海面処分場を廃止するためには、海面処分場内への降雨等により余剰となる浸出水を外海に放流する際、その余剰分の浸出水のpHが9以下でなければならない。
【0005】
しかしながら、埋立地盤の廃棄物粒子にアルカリ化させる成分が残存していること、且つ埋立地盤内の間隙水のpHが9以上であることから、降雨等が埋立地盤中に浸透した後に、埋立地盤内を流動して浸出する水を、pH9以下に維持することは困難となっている。すなわち、埋立地盤中に浸透して流動する間隙水をpH9以下に維持し、浸出水を法令基準値以下とするためには、非常に長期間の対策やモニタリング、水処理施設の運営が必要となり、その結果、維持管理コストが膨らみ、さらに早期の跡地利用につながっていないという課題がある。
【0006】
そこで、埋立地盤中の間隙水のpHを9以下に低下させる技術としては、例えば、陸上処分場では、主に洗い出し工法が検討されている。洗い出し工法とは、埋立地盤上から人為的に散水し、廃棄物粒子に含まれるアルカリ成分の溶出を促進させることで、pHが9以下となるまでの期間を短縮する方法である。しかしながら、この洗い出し工法では、埋立後の短縮期間中に散水した水量分の余剰水を、pHの中和処理した後に処分場外に排水する必要があり、散水集水費用・水処理費用が要する。また、散水後の埋立地盤中の浸透路近傍の廃棄物は洗い出しにより浄化されるものの、例えば、埋立地盤上に建築物等が設置されて、埋立地盤内に上載荷重が伝達された場合、これまでの浸透経路が変化し、浄化されていない廃棄物中を雨水が浸透することとなれば、埋立地盤中の間隙水のpHは再び上昇することが懸念される。そのために、この洗い出し工法での対策効果は、その恒久性が懸念される。
【0007】
また、埋立地盤中の間隙水のpHを9以下に低下させる技術としては、例えば、海面処分場では、厚覆土工法が検討されている。厚覆土工法とは、海面処分場の埋立地盤内の管理水位より上方の気中部に、アルカリ成分が溶出する可能性のある廃棄物ではなく、汚染されていない土砂により埋め立てる工法である。この工法は、雨水が流出するまでの浸透経路中でそもそも浸出水のpHを上昇させない技術思想である。しかしながら、この工法では、処分場での廃棄物埋立容量が減り、処分場事業者の収入が減るだけでなく、汚染されていない土砂を購入しなければならないことも含め、経済的に採用が困難となる場合がある。さらに管理水位以深の埋立廃棄物及び間隙水は浄化されない状態となる。なお、厚覆土工法では、既に、気中部が廃棄物で埋め立てられた処分場(埋め立て完了後の処分場、あるいは埋め立て完了した部位)には適用することができない。
【0008】
その他、海面処分場を浄化できる従来技術として、特許文献2には、既設管理型廃棄物処分場の安定化方法として、廃棄物が堆積した廃棄物堆積層の保有水水位下限の近傍に排気口が位置するように給気管を埋設し、該給気管から二酸化炭素を含む中和用ガスを供給することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-163623号公報
【特許文献2】特開2019-166504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の既設管理型廃棄物処分場の安定化方法では、給気管の排気口からの中和用ガスが、給気管の排気口周辺の極めて近い範囲に位置する間隙水に溶け込み、当該間隙水中のアルカリ成分と中和反応することしかできず、またその二酸化炭素が溶け込んだ水は基本的には流動せず、その位置に留まるために、浄化範囲は排気口周辺の極めて狭い範囲となり、浄化効率が非常に悪い。そのために、浄化範囲を拡げるには、給気管を複数備え、各給気管の設置作業及び除去作業を何度も繰り返す必要があるが、その施工に対して、特に、工期、施工コスト等の観点から効率的ではない。
【0011】
そして、本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、地球温暖化に起因する二酸化炭素を固定化でき、効率良く海面処分場を早期に安定化させる海面処分場での二酸化炭素固定化方法及び二酸化炭素固定化設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0013】
(1)廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化方法であって、前記廃棄物海面処分場への廃棄物の埋立が完了した以降に、前記埋立地盤に揚水側井戸を設け、該揚水側井戸の底部に前記埋立地盤から浸出した間隙水を汲み上げて、その揚水中に二酸化炭素を含ませた後、その処理水を前記揚水側井戸とは別の位置から前記埋立地盤内に戻す、海面処分場での二酸化炭素固定化方法(請求項1の発明に相当)。
【0014】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法は、焼却灰や石炭灰等を含む廃棄物により埋め立てられた埋立地盤中の間隙水には、廃棄物からアルカリ成分が溶出しており、又、海面処分場では、これらの埋立廃棄物や間隙水が外海に漏洩することなく海面処分場内にとどまるため、pHが上昇している状態である。そのような間隙水を汲み上げて二酸化炭素を含ませた後、再び埋立地盤内に戻し、処理水中の二酸化炭素を、処理水に混ざった埋立地盤内の間隙水に溶出したアルカリ成分と中和反応させることにより、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の炭酸塩とすることで、二酸化炭素を固定化して、且つ埋立地盤中の間隙水のpHを低下させ、埋立廃棄物をも浄化することができる。
【0015】
炭酸塩として固定化された二酸化炭素は、海面処分場内に残存し、場外に放出されることなく半永久的にとどまることになる。このように、二酸化炭素の固定場所として海面処分場を利用することで、多量の二酸化炭素が半永久的に固定化されるものとなり、二酸化炭素の削減に寄与するものとなる。しかも、二酸化炭素によって中和反応が促進された、埋立地盤中の間隙水及び埋立廃棄物のpHが低下され、ひいては、埋立地盤から浸出する浸出水のpHも低下されるため、埋立完了から廃止までの期間が短縮されることとなり、海面処分場の早期安定化に貢献するものとなる。
【0016】
また、本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、まず、浄化する埋立地盤の深さ(例えば廃棄物層底部)まで揚水側井戸を設ける。続いて、揚水側井戸の底部に浸出した間隙水を揚水用ポンプ等により埋立地盤上まで汲み上げる。続いて、汲み上げられた間隙水に対して、例えば二酸化炭素供給手段等により二酸化炭素を含ませる。続いて、その処理水を揚水側井戸とは別の注水位置から埋立地盤内に戻す。すると、その処理水が揚水側井戸の底部に向かって流動することにより、埋立地盤内の間隙水と混ざり、処理水に含まれる二酸化炭素が、間隙水に溶出した廃棄物からのアルカリ成分と中和反応して埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物が浄化される。なお、本発明において、埋立完了後の埋立地盤内に貯溜される水を間隙水と言及して、当該間隙水が埋立地盤上まで汲み上げられたものを揚水と言及して、また該揚水に二酸化炭素を含ませたものを処理水として言及する。
【0017】
その後、処理水には、再び廃棄物からのアルカリ成分を多く含むようになり、再びpHが上昇した間隙水として、再び揚水側井戸の底部から埋立地盤上まで汲み上げられる。この作用が繰り返されることで、埋立地盤内であって、処理水が流動するその周辺の埋立廃棄物、及びそこに貯溜される間隙水が徐々に浄化されることになる。このように、処理水が、揚水側井戸の底部における揚水位置と、処理水を戻す注水位置との間を繰り返し流動することで、その埋立廃棄物及び間隙水の浄化範囲を徐々に拡大させることができる。
【0018】
(2)上記(1)項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法において、前記処理水を前記埋立地盤内に戻す深度を、前記揚水側井戸から前記間隙水を汲み上げる深度より浅い位置から同じ位置までの範囲にて変化させる、海面処分場での二酸化炭素固定化方法(請求項2の発明に相当)。
【0019】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、埋立地盤内において、処理水が流動する範囲または方向を適宜設定して、徐々に埋立廃棄物及び埋立地盤内に貯溜される間隙水に対する浄化範囲を拡大することができる。すなわち、本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、初期段階では、処理水を埋立地盤内に戻す深度を、揚水側井戸から間隙水を汲み上げる深度より浅く設定しておき、その処理水が動水勾配により流動できるようにして、その浄化範囲が処理水を戻す注水位置から間隙水を汲み上げる揚水位置に向かって下方傾斜する方向になるように設定する。その後、処理水を埋立地盤内に戻す深度を、揚水側井戸から間隙水を汲み上げる深度とほぼ同じに至るまで徐々に変化させていくことで、埋立廃棄物、及び埋立地盤内に貯溜される間隙水に対する深さ方向の浄化範囲を容易に拡大することができる。
【0020】
(3)上記(1)項または(2)項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法において、二酸化炭素を含む気泡を前記揚水中に曝気することで、該揚水中に二酸化炭素を含ませ、前記気泡の直径を、前記埋立地盤内から前記間隙水を汲み上げる揚水位置と、前記処理水として前記埋立地盤内に戻す注水位置との間の距離に基づいて設定する、海面処分場での二酸化炭素固定化方法(請求項3の発明に相当)。
【0021】
なお、二酸化炭素を含む気泡は、その直径により埋立地盤内に滞留する時間が相違される。すなわち、例えばナノバブルは、直径がナノメートルオーダー(1μm未満)のサイズの気泡であり、水中では浮上速度よりもブラウン運動にて不規則に移動する移動速度の方が速くなる。従って、埋立地盤内に、二酸化炭素を含むナノバブルが曝気された処理水として送り込まれると、そのナノバブルはすぐに上方に移動することなく、埋立地盤内の廃棄物粒子界面に補足されることなく、またすぐに埋立地盤内の間隙水に溶解することもなく、長時間、埋立地盤内の間隙水中に滞留することができる。
【0022】
また、ナノ(マイクロ)バブル相当ではない通常の大きさの気泡が曝気された水を埋立地盤内に流動させると、短時間で流動経路内に大気泡となってトラップされてしまう。そこで、浸透現象を考慮すると、浸透現象でいう不飽和領域が現出され、本来流動させたい水の浸透を妨げることになる。これに対処するために、また長距離、二酸化炭素を搬送するために、ナノ(マイクロ)バブルが曝気された処理水が適している。
【0023】
このような事情に鑑みて、本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、気泡の直径を、間隙水の揚水位置と処理水を戻す注水位置との間の距離に基づいて設定するものである。すなわち、間隙水の揚水位置と処理水の注水位置との間の距離が大きくなるにしたがって、気泡の直径を通常サイズから小さくなるようにして設定する。これにより、気泡中の二酸化炭素が、処理水に混ざった間隙水に溶出されたアルカリ成分と中和反応する時間を適宜確保することができる。
【0024】
(4)上記(1)または(2)項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法において、二酸化炭素を含む気泡を前記揚水中に曝気することで、該揚水中に二酸化炭素を含ませ、前記気泡の直径を、前記埋立地盤の透水係数に基づいて設定する、海面処分場での二酸化炭素固定化方法(請求項4の発明に相当)。
【0025】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、気泡の直径を、埋立地盤の透水係数に基づいて設定するものである。すなわち、埋立地盤の透水係数が小さくなるにしたがって、気泡の直径を小さくするようにして設定する。これにより、気泡中の二酸化炭素が、処理水に混ざった間隙水に溶出されたアルカリ成分と中和反応する時間を適宜確保することができる。このように、上記(3)項及び(4)項に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、処理水を戻す注水位置から間隙水の揚水位置に至る範囲までの埋立地盤中の間隙水及び埋立廃棄物の浄化を良好とする条件として、気泡の直径を、埋立地盤の透水係数(または処理水が埋立地盤内を流動する流速)や、揚水位置と注水位置との間の距離等の諸条件によって異なるように設定するものである。しかも、上記(3)項及び(4)項に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、二酸化炭素を含む気泡が揚水中に曝気され、処理水における二酸化炭素の飽和溶解度以上の二酸化炭素を気泡として処理中に含ませることで、処理水に溶解している二酸化炭素が、処理水中に溶出されたアルカリ成分と中和反応して消費された際に、気泡内の二酸化炭素が処理中に溶解して補充され、さらに中和反応が促進される。
【0026】
(5)上記(1)項~(4)項いずれかに記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法において、前記揚水側井戸を前記埋立地盤内の管理水位付近まで設け、前記埋立地盤の表層から前記揚水側井戸に沿って前記間隙水を汲み上げて、前記揚水中に二酸化炭素を含ませた後、その処理水を前記埋立地盤の表層に戻す、海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【0027】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、特に、揚水側井戸の底部に浸出された間隙水を揚水用ポンプ等により埋立地盤上まで汲み上げ、汲み上げられた間隙水(揚水)に対して二酸化炭素を含ませた後、その処理水を再び埋立地盤の表層に戻すものである。この作用が繰り返されることで、埋立地盤内において、表層部位における埋立廃棄物及び間隙水に対して浄化することができる。なお、本項に記載の方法は、従来技術において説明した厚覆土工法に類似しているが、本項に記載の方法では、埋立地盤の表層の浄化範囲においても、その地下水位を自由に調整することで対応することができる。しかも、本項に記載の方法では、経済的に不都合な点もなく、また、地球温暖化に起因する二酸化炭素の固定化にも貢献することができ、従来技術において説明した厚覆土工法よりも、より多くの作用効果を得ることができる。
【0028】
(6)上記(1)項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法において、前記揚水中に含ませる二酸化炭素として、大気中の二酸化炭素と、海面処分場の近隣施設から排出される排ガス中の二酸化炭素と、ボンベに圧縮された液化二酸化炭素とのうち、少なくとも1つを利用する、海面処分場での二酸化炭素固定化方法。
【0029】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、大気中の二酸化炭素を利用する場合は、安価且つ容易な方法で利用でき、また、海面処分場の近隣施設、例えば、火力発電所や石油関連工場等の大規模施設から排出される排ガス中の二酸化炭素を利用する場合は、その施設からの二酸化炭素の排出量削減に寄与することができる。さらに、ボンベに圧縮された液化二酸化炭素を利用する場合は、揚水中に効率よく多量の二酸化炭素を含ませることができる。
【0030】
(7)廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化方法であって、前記廃棄物海面処分場へ廃棄物を埋め立てる際、二酸化炭素を含む気泡を曝気した水を廃棄物に混錬させてなる廃棄物スラリーを投入することで、二酸化炭素が水中に溶出された廃棄物からのアルカリ成分と中和反応させた状態で埋め立てる、海面処分場での二酸化炭素固定化方法(請求項5の発明に相当)。
【0031】
本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、海面処分場内に廃棄物を埋め立てる前段階において、廃棄物を含むスラリーのpHを低下させるので、埋立完了後の埋立地盤全域における埋立廃棄物、及びそこに貯溜する間隙水のpH上昇を抑制することができる。これにより、海面処分場の埋立地盤内に地球温暖化に起因する二酸化炭素を半永久的に固定化することができ、且つ海面処分場を早期に安定化させることができる。
【0032】
また、本項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、廃棄物スラリーが、二酸化炭素を含む気泡を曝気した水を廃棄物に混錬させて構成されるので、廃棄物中の二酸化炭素は、混錬された廃棄物(アルカリ化させる成分)に対して中和反応するとともに、未反応で残存した二酸化炭素を含む気泡が海面処分場内に拡散した場合には、その気泡を長い時間、海面処分場内の保有水中に滞留させることができる。その結果、海面処分場内の保有水に滞留している気泡中の二酸化炭素が、海面処分場内の保有水に溶出した廃棄物からのアルカリ成分と中和反応するので、海面処分場内へ圧送ポンプにより廃棄物スラリーを投入している最中においても、海面処分場内の保有水をも浄化することができる。なお、未反応で残存した二酸化炭素を含む気泡が海面処分場内に拡散した場合に、その滞留時間を長くするために、気泡の直径をなるべく小さく設定したほうがよい。
【0033】
(8)廃棄物海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、前記埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する二酸化炭素の固定化設備であって、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段と、該二酸化炭素供給手段から供給された二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段と、二酸化炭素を含む気泡を曝気した水に廃棄物を混錬する混錬プラントと、該混錬プラントからの廃棄物スラリーを前記廃棄物海面処分場内に投入する圧送ポンプと、を備えている二酸化炭素固定化設備(請求項6の発明に相当)。
【0034】
本項に記載の二酸化炭素固定化設備では、(7)項に記載の海面処分場での二酸化炭素固定化方法と同様に、海面処分場内に廃棄物を埋め立てる際に、二酸化炭素を含む気泡を曝気した水と廃棄物とを含むスラリーのpHを低下させるので、埋立完了後の埋立地盤全域における埋立廃棄物、及びそこに貯溜する間隙水のpH上昇を抑制することができる。これにより、海面処分場の埋立地盤内に地球温暖化に起因する二酸化炭素を半永久的に固定化することができ、且つ海面処分場を早期に安定化させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明では、地球温暖化に起因する二酸化炭素を固定化することができ、効率良く海面処分場を早期に安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法によって、海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する様子を示しており、処理水の注水位置の深度が間隙水の揚水位置の深度より浅い状態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法によって、海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する様子を示しており、処理水の注水位置の深度が間隙水の揚水位置の深度より若干浅い状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法によって、海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する様子を示しており、処理水の注水位置の深度と間隙水の揚水位置の深度とが同じ状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法によって、海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する様子を示しており、注水側配管の先端が埋立地盤の上面に若干埋設した状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法を具現化する二酸化炭素固定化設備を埋立地盤上に順次配置する配置例を示した模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法によって、海面処分場の埋立地盤内に二酸化炭素を固定化すると共に、埋立地盤内の間隙水及び埋立廃棄物を浄化する様子を示しており、揚水側配管の先端が管理水位より若干下方に配置され、注水側配管の先端が埋立地盤の上面に若干埋設した状態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る二酸化炭素固定化設備を用いて、海面処分場内に廃棄物スラリーとして埋め立てる様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図7に基づいて詳細に説明する。
図1を参照して、海面処分場50は、遮水護岸又は岸壁52により囲われた海水を保有水として、外海に隣接して設置されるものである。この海面処分場50は、埋立地盤53として、囲われた海水内に焼却灰や飛灰、石炭灰等を含む廃棄物が埋め立てられて構成される。海面処分場50は、最終的に、処分場50内の管理水位を超えるまで廃棄物が堆積されることで、その埋め立てが完了するものである。本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法は、海面処分場50内の埋立地盤53上に覆土する前段階で施工されるものである。当然ながら、覆土施工した後に行っても問題はない。
【0038】
まず、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法を具現化するための二酸化炭素固定化設備1を以下に説明する。
図1~
図4に示すように、二酸化炭素固定化設備1は、主として、埋立地盤53内の間隙水を汲み上げ、再び埋立地盤53内に圧送する揚水用ポンプ4と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段5と、該二酸化炭素供給手段5から供給された二酸化炭素を気泡化するバブル生成手段6と、を備えている。揚水用ポンプ4には、埋立地盤53内の間隙水を汲み上げるための揚水側配管9が連通されると共に、揚水中に二酸化炭素が含まれてなる処理水を埋立地盤53内に戻す注水側配管10に連通される。揚水側配管9は、埋立地盤53に予め設けた揚水側井戸13内に配置される。一方、注水側配管10は、埋立地盤53に予め設けた注水側井戸14内に配置される。なお、本実施形態の説明において、埋立完了後の埋立地盤53内に貯溜される水を間隙水と言及して、当該間隙水が埋立地盤53上まで汲み上げられたものを揚水と言及して、また該揚水に二酸化炭素が含まれたものを処理水として言及する。
【0039】
二酸化炭素供給手段5は、二酸化炭素を含む大気中の空気を圧縮して供給するコンプレッサが採用される。なお、海面処分場50の近隣施設から排出される二酸化炭素を含む排ガスを使用してもよい。すなわち、海面処分場50は臨海部に築造されることが多く、火力発電所や石油関連工場等の大規模施設が隣接している可能性が高いため、そのような近隣施設から排ガスをパイプラインにて導流して使用してもよい。その他、同排ガスから二酸化炭素を分離してボンベやタンクにて運搬しても良い。さらに、二酸化炭素供給手段5として、工場等で圧縮された液化二酸化炭素を供給するボンベやタンク等を採用してもよい。
【0040】
バブル生成手段6は、揚水用ポンプ4に接続される揚水側配管9に連通している。その結果、揚水側配管9を流れる揚水に、バブル生成手段6からの二酸化炭素を含む気泡が曝気される。
図1~
図4において、バブル生成手段6を境にその上流側が、揚水が流動する揚水側配管9であり、その下流側が、処理水が流動する注水側配管10となる。そこで、バブル生成手段6により生成される、二酸化炭素を含む気泡の直径は、埋立地盤53内から間隙水を汲み上げる揚水位置、すなわち、揚水側配管9の先端位置(間隙水の揚水位置)と、処理水として埋立地盤53内に戻す注水位置、すなわち、注水側配管10の先端位置(処理水を戻す注水位置)との間の距離Lに基づいて設定される。
【0041】
すなわち、揚水側配管9の先端位置と注水側配管10の先端位置との間の距離Lが小さくなるにしたがって、気泡の直径を大きくなるようにして設定する。これは、気泡の特性として、その直径が大きくなるにしたがって水中で気泡が破裂しやすく、二酸化炭素が水中に溶解しやすいという特性を利用したものである。一方、埋立地盤53内に戻す処理水内の気泡の直径を小さく設定することで、気泡が崩れる(破裂する)までの時間を長くできるため、注水位置から離れた場所で水中に溶け出し、同箇所での中和作用に寄与することが可能となる。
【0042】
具体的には、揚水側配管9の先端位置と注水側配管10の先端位置との間の距離Lが、予め設定された閾値(例えば、10m)より大きい場合には、直径がナノメートルオーダーの気泡が採用される。一方、揚水側配管9の先端位置と注水側配管10の先端位置との間の距離Lが、予め設定された閾値より小さい場合には、直径がマイクロメートルオーダーの気泡が採用される。これにより、気泡中の二酸化炭素が処理水に溶出されたアルカリ成分と中和反応する時間を適宜確保することができる。
【0043】
ところで、ナノ(マイクロ)バブル相当ではない通常の大きさの気泡が曝気された水を埋立地盤内に流動させると、短時間で流動経路内に大気泡となってトラップされてしまう。そこで、浸透現象を考慮すると、浸透現象でいう不飽和領域が現出され、本来流動させたい水の浸透を妨げることになる。これに対処するために、また長距離、二酸化炭素を搬送するために、ナノ(マイクロ)バブルが曝気された処理水を採用するのが好ましい。
【0044】
なお、二酸化炭素を含む気泡の直径を、埋立地盤53の透水係数(または埋立地盤53内を流動する処理水の流速)に基づいて設定してもよい。具体的には、気泡の直径を、埋立地盤53の透水係数が小さくなるにしたがって、気泡の直径を小さくするようにして設定する。要するに、埋立地盤53の透水係数が、予め設定された閾値(例えば1×10-5cm/s)より小さい場合には、直径がナノメートルオーダーの気泡が採用される。一方、埋立地盤53の透水係数が、予め設定された閾値より大きい場合には、直径がマイクロメートルオーダーの気泡が採用される。これにより、気泡中の二酸化炭素が処理水に溶出されたアルカリ成分と中和反応する時間を適宜確保することができる。
【0045】
次に、本実施形態に係る二酸化炭素固定化設備1を用いて、海面処分場50を浄化する方法を
図1~
図6に基づいて以下に説明する。
図1に示すように、まず、埋立地盤53の底部付近(例えば廃棄物層底部付近)に至るまで揚水側井戸13を設ける。また、揚水側井戸13から水平方向に沿って所定距離離れた位置に、注水側井戸14を埋立地盤53の比較的表層であって、埋立処分場50内の管理水位付近まで設ける。
【0046】
続いて、二酸化炭素固定化設備1の揚水側配管9を、揚水側井戸13内にその先端が揚水側井戸13の底部に近接する位置まで挿入する。一方、二酸化炭素固定化設備1の注水側配管10を、注水側井戸14内にその先端が該注水側井戸14の底部に近接する位置まで挿入する。すると、二酸化炭素固定化設備1の注水側配管10の先端位置(注水位置)が、揚水側配管9の先端位置(揚水位置)よりも浅い位置に位置決めされる。そして、処理水を注水側井戸14から埋立地盤53内に戻す深度を、間隙水を揚水側井戸13から汲み上げる深度よりも浅く設定することができる。そこで、本実施形態では、例えば、揚水側配管9の先端位置と注水側配管10の先端位置との間の距離Lが予め設定された閾値より大きいために、バブル生成手段6では、直径がナノメートルオーダーの気泡(以下、ナノバブルという)が生成されるものとする。
【0047】
続いて、揚水用ポンプ4、バブル生成手段6及び二酸化炭素供給手段5が作動される。具体的には、揚水用ポンプ4が作動されることで、揚水側配管9の先端から揚水側井戸13の底部に浸出した埋立地盤53内の間隙水が埋立地盤53上まで汲み上げられる。続いて、二酸化炭素供給手段5からバブル生成手段6に二酸化炭素が供給され、当該バブル生成手段6にて、二酸化炭素を含むナノバブルが生成される。そして、揚水側配管9に沿って汲み上げられた揚水に対して、二酸化炭素を含むナノバブルが曝気されてなる処理水が生成される。その後、その処理水は、注水側配管10に沿ってその先端から埋立地盤53内において管理水位近くに戻される。なお、揚水に対して二酸化炭素を含むナノバブルが曝気された時点から、二酸化炭素が揚水に溶出された廃棄物からのアルカリ成分と中和反応することで、処理水のpHが若干低下される。
【0048】
その後、注水側配管10の先端から噴出された処理水は、埋立地盤53内を揚水側配管9の先端位置に向かって流動しつつ、当該処理水に埋立地盤53内の間隙水が混合することになる。そして、処理水の流動中に、ナノバブル中の二酸化炭素が、間隙水に溶出されたアルカリ成分と中和反応することで、その流動範囲の間隙水のpHが低下される。その後、埋立廃棄物から処理水に溶出されたアルカリ成分により処理水のpHが再び高くなり、再び揚水として揚水側配管9から汲み上げられて、上述した作用が繰り返される。この作用が継続されることにより、埋立地盤53内において、注水側配管10の先端位置から揚水側配管9の先端位置に向かう方向に沿って、その貯溜された間隙水及びその周辺の埋立廃棄物を浄化することができ、またその浄化された間隙水及び埋立廃棄物の幅方向の範囲を次第に大きくすることができる。
【0049】
続いて、
図2に示すように、注水側井戸14の深度を若干深くすると共に、注水側井戸14内の注水側配管10の先端を、揚水側井戸13内の揚水側配管9の先端より若干浅くなるように設定する。そして、注水側配管10の先端から噴出された処理水が、揚水側配管9の先端位置に向かって流動する作用が継続されることにより、注水側井戸14(注水側配管10)と揚水側井戸13(揚水側配管9)との間における、その埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物に対する浄化範囲を徐々に深くすることが可能になる。
【0050】
続いて、
図3に示すように、注水側井戸14の深度を深くすると共に、注水側配管10の先端を揚水側井戸13内の揚水側配管9の先端と深さ方向に沿ってほぼ同じにする。そして、注水側配管10の先端から噴出された処理水が、揚水側配管9の先端位置に向かって流動する作用が継続されることにより、注水側井戸14(注水側配管10)と揚水側井戸13(揚水側配管9)との間における、その埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物に対して深さ方向ほぼ全域を浄化することが可能になる。なお、
図4に示すように、初期段階において、二酸化炭素固定化設備1の注水側配管10を、その先端が埋立地盤53の上面に僅かに埋設するように配置して、注水側配管10の先端から処理水を噴出させて、当該処理水を埋立地盤53内に浸透させるようにしてもよい。また、注水側配管10の先端を、埋立地盤53の上面に当接または近接するように配置してもよい。
【0051】
また、
図5に示すように、埋立地盤53上に二酸化炭素固定化設備1を単一または複数設置して、二酸化炭素固定化設備1の周辺に、揚水側井戸13を複数設け、また各揚水側井戸13に対応する注水側井戸14を複数設けるようにする。
図5における黒丸が揚水側井戸13(揚水側配管9)の位置を示しており、白丸が注水側井戸14(注水側配管10)の位置を示している。そして、二酸化炭素固定化設備1において、上述した作用を施すことで、二酸化炭素固定化設備1周辺の埋立地盤53における埋立廃棄物及び間隙水に対してその深さ方向ほぼ全域を浄化することができる。その後、二酸化炭素固定化設備1を順次移動させて(
図4では二点鎖線で示す)、上述した作用を繰り返すことで、埋立地盤53の全域(水平方向及び深さ方向ほぼ全域)の埋立廃棄物及び間隙水に対して浄化することができる。
【0052】
二酸化炭素固定化設備1を順次移動させて配置する具体的な方法は、特に限定されることはない。すなわち、施工コスト、工期、注水側配管10内における処理水の移動距離(注水側配管10の長さ)等、コストや性能等全体のバランスを考慮したうえで適宜決定される。例えば、注水側配管10内における処理水の移動距離を長く、言い換えれば、注水側配管10の長さを相当長く設定しまうと、圧送により、気泡が注水側配管10内で消散する虞があり、性能上、すなわち、気泡の状態で埋立地盤53内に送れないなど性能上好ましくなく、このような性能上の観点も考慮したうえで適宜決定される。
【0053】
なお、
図6に示すように、揚水側井戸13を、その先端が管理水位より若干下方に位置するように設ける。二酸化炭素固定化設備1の揚水側配管9を、揚水側井戸13内に、その先端が揚水側井戸13の底部に近接するように挿入する。一方、二酸化炭素固定化設備1の注水側配管10を、その先端が埋立地盤53の上面に僅かに埋設するように配置する。なお、注水側配管10の先端を、埋立地盤53の上面に当接または近接するように配置してもよい。そして、上述したように、揚水用ポンプ4、二酸化炭素供給手段5及びバブル生成手段6を作動させることで、揚水用ポンプ4により埋立地盤53の管理水位近くの間隙水を汲み上げて、該揚水に、二酸化炭素供給手段5及びバブル生成手段6により、二酸化炭素を含むナノバブルを曝気させた後、その処理水を注水側配管10の先端から噴出させて、当該処理水を埋立地盤53の表層内に浸透させる。
【0054】
その結果、埋立地盤53の表層における埋立廃棄物及びその間隙水、すなわち、管理水位より浅い位置の埋立廃棄物及びその間隙水に対して浄化することができる。また、岸壁52に近接する位置に放流用井戸20を設け、該放流用井戸20に、放流用ポンプ21から延出された放流用配管22を配置する。そして、浄化された間隙水(pH9以下)を放流用ポンプ21により、放流用配管22に沿って処分場外に放流する。その結果、埋立地盤53内の管理水位を下げることができ、雨水等が埋立地盤53に浸透しても、管理水位を一定に管理し、上記二酸化炭素固定化設備1の機能を維持することができる。しかも、pH9以上の間隙水が埋立地盤53上に浸出することを抑制することもできる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、埋立地盤53に揚水側井戸13を設け、該揚水側井戸13の底部に埋立地盤53内から浸出した間隙水を汲み上げて、該揚水中に二酸化炭素を含ませた後、その処理水を揚水側井戸13とは別の位置から埋立地盤53内に戻す方法が採用されている。その結果、注水側配管10の先端位置(注水位置)と、揚水側配管9の先端位置(揚水位置)との間を処理水が繰り返し流動(循環)するので、従来技術(特許文献2に係る発明)よりも、はるかに埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物に対する浄化範囲を拡大することができる。また、二酸化炭素固定化設備1についても、主に、揚水用ポンプ4、二酸化炭素供給手段5及びバブル生成手段6を備えるだけであるので、その設備費を抑制することができる。そして、地球温暖化に起因する二酸化炭素を埋立地盤53内に半永久的に固定化することができ、しかも、海面処分場50を、工期、施工コストの観点から効率良く早期に安定化させることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、初期段階では、処理水を埋立地盤53内に戻す深度を、間隙水を埋立地盤53から汲み上げる深度より浅く設定しておき、注水側配管10の先端位置(注水位置)と揚水側配管9の先端位置(揚水位置)との間の範囲における間隙水及び埋立廃棄物に対して浄化する。その後、間隙水を埋立地盤53から汲み上げる深度はそのままで、処理水を埋立地盤53内に戻す深度を、間隙水を埋立地盤53から汲み上げる深度と同じまで徐々に変化させて水循環による浄化を実施することで、その間隙水及び埋立廃棄物に対する浄化範囲を容易に拡大することができる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法では、二酸化炭素供給手段5及びバブル生成手段6により、二酸化炭素を含む気泡を埋立地盤53から汲み上げた揚水中に曝気することで、該揚水中に二酸化炭素を含ませ、気泡の直径を、埋立地盤53内から間隙水を汲み上げる揚水位置(注水側配管10の先端位置)と、処理水として埋立地盤53内に戻す注水位置(揚水側配管9の先端位置)との間の距離Lに基づいて設定する方法が採用されている。また、気泡の直径を、埋立地盤53の透水係数(または埋立地盤53内を流動する処理水の流速)に基づいて設定する方法を採用してもよい。その結果、気泡中の二酸化炭素が、処理水に混ざった間隙水に溶出された廃棄物からのアルカリ成分と中和反応する時間を適宜確保することができる。これにより、埋立地盤53内の間隙水及び埋立廃棄物に対する浄化精度を向上させることができる。
【0058】
次に、他の実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法を
図7に基づいて説明する。
図7を参照して、他の実施形態に係る海面処分場での二酸化炭素固定化方法を具現化するための二酸化炭素固定化設備1’は、海面処分場50内、あるいは外海等から海水を汲み上げる汲上用ポンプ25と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給手段5と、該二酸化炭素供給手段5から供給された二酸化炭素を気泡化(ナノバブル化またはマイクロバブル化)するバブル生成手段6と、廃棄物に、海水に二酸化炭素を含む気泡が曝気されたものを混錬する混錬プラント26と、該混錬プラント26から廃棄物スラリーを海面処分場50内に圧送する圧送ポンプ27と、を備えている。なお、バブル生成手段6では、二酸化炭素を含むマイクロバブル、またはナノバブル相当が生成される。
【0059】
そして、本実施形態では、海面処分場50内に埋め立てる前段階であって、混錬プラント26内には、汲上用ポンプ25により汲み上げられた海面処分場50内の海水(保有水)に対して二酸化炭素を含む気泡が曝気された処理水が圧送される。そして、混錬プラント26内において、廃棄物と、海水に二酸化炭素を含む気泡が曝気されてなる処理水とが混錬される。このとき、混錬プラント26内にて、気泡中の二酸化炭素が、海水に溶出された廃棄物からのアルカリ成分と中和反応することで、pHの上昇が抑制された廃棄物スラリーが生成される。
【0060】
その後、圧送ポンプ27により、当該廃棄物スラリーが混錬プラント26から海面処分場50内に圧送される。そして、海面処分場50内に廃棄物が埋め立てられる際、廃棄物を含むスラリーをpHの上昇を抑制させた状態で、海面処分場50内に埋め立てることができる。その結果、海面処分場50内であって、埋立完了後の埋立地盤53全域における埋立廃棄物、及びそこに貯溜する間隙水のpH上昇を抑制することができる。これにより、海面処分場50の埋立地盤53内に、地球温暖化に起因する二酸化炭素を半永久的に固定化することができ、且つ海面処分場50を早期に安定化させることができる。
【0061】
なお、本実施形態に係る二酸化炭素固定化設備1’はバブル生成手段6を備え、当該バブル生成手段6により、海水に二酸化炭素を含むマイクロバブルまたはナノバブルが曝気されている。そして、混錬プラント26において、大半のマイクロバブルまたはナノバブル中の二酸化炭素は、海水に溶出した廃棄物からのアルカリ成分と中和反応するが、海面処分場50内に廃棄物スラリーが投入された後、その廃棄物スラリー中に残存した未反応の二酸化炭素を含むマイクロバブルまたはナノバブルを、海面処分場50内に長い時間滞留させることができる。
【0062】
その結果、混錬プラント26から投入される廃棄物スラリーのpHを低下させるだけでなく、海面処分場50内に滞留しているマイクロバブルまたはナノバブル中の二酸化炭素が、海面処分場50内の保有水に溶出した廃棄物からのアルカリ成分と中和反応することができる。これにより、海面処分場50内へ圧送ポンプ27により廃棄物スラリーを投入している最中においても、その海面処分場50内の保有水を浄化することができる。なお海面処分場50内に滞留する時間を考慮するとナノバブルが適している。
【符号の説明】
【0063】
1 二酸化炭素固定化設備,1’ 二酸化炭素固定化設備,5 二酸化炭素発生手段,6 バブル生成手段,13 揚水側井戸,14 注水側井戸,26 混錬プラント,27 圧送ポンプ,50 海面処分場,53 埋立地盤