(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136748
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220913BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220913BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220913BHJP
C09D 109/02 20060101ALI20220913BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/63
C09D109/02
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036511
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】ファム ホアイ ナム
(72)【発明者】
【氏名】劉 玉慶
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CA001
4J038CA071
4J038CD002
4J038DF002
4J038DL031
4J038DL032
4J038KA09
4J038KA20
4J038MA02
4J038MA09
4J038NA10
4J038NA11
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】プラスチック基材又はゴム基材、特にゴムから成る伸縮性基材に対して、優れた非粘着性(離型性)を長期間維持可能な塗膜を形成可能な塗料組成物を提供する。
【解決手段】ゴム又はプラスチック基材に適した塗料組成物であって、ゴムと25℃で液体であるオイルを含み、該オイルが平均粒径50μm以下で分散していることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと25℃で液体であるオイルを含み、該オイルが平均粒径50μm以下で分散していることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂粒子を含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
シランカップリング剤を含む請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記オイルが、塗料組成物中の前記ゴムの量(固形分)或いは前記ゴムと前記フッ素樹脂粒子の合計量(固形分)の1~35重量%の量で含有されている請求項1~3の何れか記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記ゴムが、塗料組成物中の前記ゴムと前記フッ素樹脂粒子の合計量(固形分)の40重量%以上の量で含有されている請求項2~4の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記ゴムが、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム又はシリコーンゴムである請求項1~5の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記オイルが、フッ素オイル又はシリコーンオイルである請求項1~6の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記フッ素樹脂粒子が、熱溶融性フッ素樹脂から成る請求項2~7の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記フッ素樹脂粒子が、PFA又はFEPから成る請求項2~8の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載の塗料組成物から成る塗膜を表面に有し、塗膜中でオイルが分散していることを特徴とするゴム又はプラスチック基材。
【請求項11】
前記塗膜のn-ヘキサデカン接触角が50度以上である請求項10記載のゴム又はプラスチック基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関し、より詳細には、ゴムやプラスチックのような耐熱性に劣る基材に適用可能であり、塗膜の非粘着性(離型性)が長期にわたって維持可能な耐久性に優れた塗膜を形成可能な塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料やゴム材料などの高分子材料やセラミック、セメント等を用いて成形する金型には、成形品を欠陥なく取り出すために、金型表面の離型性が求められる。このような金型表面の離型性を向上させるための塗膜を形成可能な塗料組成物として、本発明者等は、フッ素樹脂と特定のオイルを含有する塗料組成物を提案した(特許文献1及び2)。かかる塗料組成物から成る塗膜を表面に有する金型は優れた離型性を長期にわたって発現し得る優れた耐久性をも有しているが、塗膜形成のための熱処理に耐えることができない樹脂基材や、ゴム等の伸縮性を有する基材への塗工には適していなかった。
【0003】
その一方、樹脂基材やゴム基材においても、長時間の使用に耐え得る離型性を付与可能な塗料組成物が求められている。例えば、タイヤを成形する際には、金型の内側からタイヤとなるゴム組成物を押圧するためにブラダーと呼ばれる主にゴムからなる部材が一般に用いられているが、このブラダー表面に高耐久性及び高離型性を有する塗膜を形成可能な塗料が求められている。また、ゴム製の靴底(ゴムソール)を成形する際には、デザイン変更に容易に対応できるように樹脂製の型を用いて射出成形することも一般的であり、樹脂製の型からゴム成形品を取り出すにあたり、樹脂製の型においても離型性が求められている。
【0004】
合成樹脂や加硫又は未加硫のゴムのアンチブロッキング剤として使用可能な非粘着性の組成物として、下記特許文献3には、(A)4~20個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル又はアルケニル基を有する化合物、(B)数平均分子量50万以下のポリテトラフルオロエチレン、および(C)シリコンオイル、シリコン樹脂および一般式:CF2CFCln(式中、n=2~15)等で表される、沸点が100℃以上の高度にフッ素化された化合物((A)成分と(B)成分に含まれるものを除く。)よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物、を含んでなる非粘着性組成物が記載されている。
【0005】
またタイヤ成形に用いるブラダー表面の離型性(潤滑性)を向上させる方法として、下記特許文献4には、反応性ポリオルガノシロキサン、架橋剤、非反応性線状ポリオルガノシロキサンオイル、ガラスビーズ、界面活性剤、添加剤等を含有する水中油エマルジョンの形の離型剤組成物をブラダー外表面にコーティングすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-90772号公報
【特許文献2】特開2019-203087号公報
【特許文献3】特許第3348433号
【特許文献4】特許第6255604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3に記載された組成物は、合成樹脂や加硫又は未加硫のゴムのアンチブロッキング剤として使用されるものであるが、ブラダーのように伸縮が繰り返される製品において優れた離型性を長期にわたって発現し得る耐久性が得られないおそれがある。
また上記特許文献4に記載された離型剤組成物は、その塗布により可能となる離型操作の回数を上昇、すなわち耐久性を向上させたものであるが、その具体的実施態様である実施例では離型操作の回数は最大で18回となっており、十分ではない。また、離型操作の回数の上昇の為に、平均粒子直径が最大150μmのガラスビーズを配合しているが、射出成形に用いる樹脂製の型に塗布した場合、ガラスビーズに起因する凹凸が成形品の表面に転写されて平滑な表面が得られないおそれがある。
【0008】
従って本発明の目的は、ゴム又はプラスチック基材のような耐熱性に劣る基材に対して、上記のような問題を生じることなく、優れた離型性を長期にわたって発現し得る塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、タイヤ製造に用いられるゴム製のブラダー等のように、伸縮性を有する基材に対しても追従し得る塗膜を形成可能な塗料組成物及びこの塗膜を有するゴム又はプラスチック基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ゴムと25℃で液体であるオイルを含み、該オイルが平均粒径50μm以下で分散していることを特徴とする塗料組成物が提供される。
本発明の塗料組成物においては、
(1)フッ素樹脂粒子を含むこと、
(2)シランカップリング剤を含むこと、
(3)前記オイルが、塗料組成物中の前記ゴムの量(固形分)或いは前記ゴムと前記フッ素樹脂粒子の合計量(固形分)の1~35重量%の量で含有されていること、
(4)前記ゴムが、塗料組成物中の前記ゴムと前記フッ素樹脂粒子の合計量(固形分)の40重量%以上の量で含有されていること、
(5)前記ゴムが、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム又はシリコーンゴムであること、
(6)前記オイルが、フッ素オイル又はシリコーンオイルであること、
(7)前記フッ素樹脂粒子が、熱溶融性フッ素樹脂から成ること、
(8)前記フッ素樹脂粒子が、PFA又はFEPから成ること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、上記塗料組成物から成る塗膜を表面に有することを特徴とするゴム又はプラスチック基材が提供される。
本発明のゴム又はプラスチック基材においては、前記塗膜のn-ヘキサデカン接触角が50度以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗料組成物においては、アルミニウム基材のように耐熱性を有する基材はもちろん、ゴム又はプラスチックから成る基材のように耐熱性に劣る基材に対しても、優れた非粘着性(離型性)を長期にわたって発現可能な優れた耐久性を有する塗膜を形成することができる。またゴム基材のように伸縮性を有する基材に対しても優れた追従性を有する塗膜を形成することができる。
また塗料組成物中で、オイルが平均粒径50μm以下に分散した状態で存在し、形成される塗膜内部にもオイルが分散した状態で存在することから、使用により塗膜が摩耗した場合にも、塗膜内部のオイルが徐々に表面に滲出し、長期にわたって高い非粘着性(離型性)を発現することが可能になる。
更に本発明の塗料組成物から成る塗膜を有する、ブラダーや樹脂製型等のゴム製基材やプラスチック製基材は、成形品の離型性に優れていることから、成形性に優れていると共に、かかる離型性が長期にわたって維持されるため、生産性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(塗料組成物)
本発明の塗料組成物は、ゴムと25℃で液体であるオイルを含み、該オイルが平均粒径50μm以下で分散していることが重要な特徴である。
本発明の塗料組成物においては、25℃(常温)で流動状態にあるオイルが形成される塗膜表面に滲出して基材に離型性を付与するものであるが、塗料組成物のベース樹脂としてゴムを使用することにより、形成される塗膜がゴム基材やプラスチック基材との密着性に優れていると共に、塗膜がゴム基材の伸縮に追従可能であることからクラックの発生等が有効に防止されており、ゴム基材に優れた離型性を長期にわたって付与することが可能となる。
また本発明においてベース樹脂となるゴムは、未加硫の状態で用い、塗膜形成の際に加硫されるが、加硫処理温度は200℃以下(好ましくは180℃以下)にて可能であることから、その温度以上で使用可能なプラスチック基材やゴム基材に対して、本発明の塗料組成物は問題なく使用できる。
【0013】
本発明の塗料組成物においては、オイルを含有することによって、塗膜表面に滲出したオイルにより塗膜の非粘着性(離型性)が改善される。更にオイルにより摩擦が軽減され、塗膜の摩擦係数が低減され(すべり性が改善され)、塗膜の耐摩耗性が向上される。更に本発明においては、オイルが塗料組成物中に平均粒径50μm以下に分散した状態で存在するため、形成される塗膜内部にもオイルが分散した状態で存在する。そのため、使用により塗膜が摩耗した場合にも、塗膜内部のオイルが徐々に表面に滲出することから、長期にわたって高い非粘着性(離型性)を発現することが可能になる。塗料組成物中のオイルの分散粒子の平均粒径は50μm以下であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、5μm以下であることが特に好適である。尚、平均粒径の測定については後述する。
【0014】
本発明の塗料組成物は、上述した通り、ゴム及びオイルの組み合わせを含有する限り、水系塗料組成物、溶剤系塗料組成物或いは粉体塗料組成物の形態の何れであってもよいが、環境面やコストの観点から水系塗料組成物であることが好適である。
【0015】
[ゴム]
本発明の塗料組成物においてベース樹脂として使用するゴムは、天然ゴム、合成ゴムの何れも用いることができる。
合成ゴムの具体例としては、シリコーンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、チオコール、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、フッ素ゴム等、従来公知の合成ゴムを例示することができる。
本発明においては、耐熱性や加硫後の耐久性、基材との密着性或いは離型性を兼ね備えると共に、塗膜形成後においても伸び率の50%以上を維持し得る等の観点から、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)及びシリコーンゴムを好適に使用することができる。
【0016】
水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)としては、部分水添又は完全水添の何れでもよく、アクリロニトリル含有量が10~50重量%の範囲にあることが好ましい。また100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)(JIS K6300準拠)が30~150の範囲にあることが好ましい。
またシリコーンゴムとしては、従来公知のものを使用することができ、これに限定されないがメチルシリコーンゴム、ビニル・メチルシリコーンゴム、フェニル・メチルシリコーンゴム等を好適に使用できる。
【0017】
塗料組成物中のゴム成分は、塗料組成物を適用する基材と同種のゴム成分を用いることにより、塗膜の密着性をさらに向上することができる。すなわち、シリコーンゴムから成る基材においては、塗料組成物におけるゴムとしてシリコーンゴムを用いることが好適であり、ブチルゴム(IIR)やアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの炭化水素系ゴムから成る基材においては、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)を用いることが好適である。
【0018】
本発明の塗料組成物において、ベース樹脂となるゴムは、塗料組成物中に固形分で10~50重量%の量で含有されていることが好ましい。
またフッ素樹脂粒子を含有する場合でも、ベース樹脂全体(ゴム及びフッ素樹脂粒子の固形分の合計量)の40%以上、特に50%以上がゴムから成ることが好ましい。これにより、上述した低温での塗膜形成が可能であり、プラスチック基材やゴム基材を劣化させることなく、優れた非粘着性(離型性)を有する塗膜を密着性よく形成できる。
【0019】
[オイル]
本発明の塗料組成物に使用する25℃で液体のオイルとは、常温(25℃)で流動性を示すものであり、この条件を満たす限り種々のオイルを使用することができるが、上述した通り、オイルは形成される塗膜表面に滲出し、塗膜の非粘着性(離型性)を向上させることが目的であるため、オイル自体の表面張力が小さいことが好ましい。すなわちオイルの25℃における表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以下であることがより好ましい。またゴムの架橋時の加熱に耐え得る耐熱性及びかかる加熱で揮発しないことが好ましく、分解(揮発)温度が200℃以上であることが好ましい。
このような条件を満たすためには、耐熱性に優れていると共に、分子間相互作用の小さいオイルであることが必要である。このようなオイルとしては、フッ素オイルや、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、或いは炭素数が15~100のアルカン、炭素数5~50の高級脂肪酸、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリフェニルエーテル等の炭化水素系オイルを例示することができ、これらを単独で用いるほか、混合して用いることができるが、本発明においては、フッ素オイル又はシリコーンオイルを好適に使用することができる。
【0020】
フッ素オイルとしては、これに限定されないが、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、パーフルオロアルキルポリエーテル、フッ化モノマー(例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、3フッ化エチレン、フッ化ビニリデン、クロロテトラフルオロエチレン(CTFE)、フッ化アクリルモノマーなど)のテロマー、その他特定のフッ素化炭化水素化合物等を例示できる。
本発明においては、表面エネルギーが小さく、塗膜の非粘着性(離型性)を効率よく向上可能なPFPEを好適に用いることができ、Krytox(登録商標)(ケマーズ株式会社製)やデムナム(登録商標)(ダイキン株式会社製)等の商品名で入手できる。
【0021】
シリコーンオイルとしては、これに限定されないが、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、モノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、脂環式エポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、ハイドロジェン変性シリコーンオイル、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・アラルキル変性シリコーンオイル等の反応性変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、ハロゲン変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル等の非反応性変性シリコーンオイルを例示できる。中でも、食品用途にも使用可能なメチルフェニルシリコーンオイルを好適に使用できる。
【0022】
オイルは、塗料組成物中のベース樹脂(ゴム、或いはフッ素樹脂粒子を含有する場合にはゴム及びフッ素樹脂粒子の合計)の固形分量に対して1~35重量%、好適には2~20重量%、より好適には5~10重量%の量で含有されていることが好ましい。上記範囲よりもオイルの量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜の非粘着性(離型性)を十分に向上できないおそれがあり、その一方上記範囲よりもオイルの量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜形成が困難になり、塗膜欠陥を生じて、耐摩耗性が損なわれるおそれがある。
【0023】
[フッ素樹脂粒子]
本発明の塗料組成物においては、更にフッ素樹脂粒子を含有することが好適である。すなわちフッ素樹脂粒子が含有されることにより、塗膜の表面エネルギーが低下して、さらに滑り性が良くなり、塗膜の非粘着性(離型性)が改善される。また、摩擦係数低減により耐摩耗性も改善されることから、長期にわたって非粘着性(離型性)が維持されるため、耐久性も向上する。
また後述するように塗膜の形成に際して180℃程度の温度で焼成することにより、フッ素樹脂粒子が形成される塗膜中で溶融することなく、ゴムから成るマトリックス(海)中にフッ素樹脂粒子が島となる海島構造を形成するため、ゴムによる塗膜の伸縮性を損なうことがない。
このようなフッ素樹脂粒子としては、これに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等から成るフッ素樹脂粒子を用いることができる。
【0024】
上記フッ素樹脂粒子の中でも、熱溶融性フッ素樹脂を用いることが好ましく、塗膜の非粘着性、耐熱性の観点から、低分子量PTFEやPFA、FEP、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等の熱溶融性パーフルオロ樹脂を好適に用いることができ、中でもPFA及びFEPを好適に使用できる。
PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基は、炭素数が1~5であることが好ましく、中でもパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)が特に好適である。PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の量としては、1~50重量%の範囲にあることが好ましい。
【0025】
フッ素樹脂粒子は、フッ素樹脂の粉体粒子として用いることもできるが、好適にはフッ素樹脂粒子が塗膜中に細かく分散することで優れた離型性を得ることができるため、乳化重合により得られた分散液を塗料の原料として混合して用いることが好ましい。フッ素樹脂粒子の平均粒径は、0.5μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。
【0026】
フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂は、上述した熱溶融性パーフルオロ樹脂と共に、融点以上でも溶融流動性を示さない、高分子量のPTFEを用いることもできる。高分子量PTFEの粒子が充填材としても作用することで、塗膜の耐久性を改善しつつ、離型性も向上させることができる。
このようなPTFEとしては、乳化重合により得られたPTFE水性分散液が好適に用いられる。
【0027】
フッ素樹脂粒子は、塗料組成物中に含有されるベース樹脂全体(ゴム及びフッ素樹脂粒子の合計重量)の10重量%以上、好ましくは20~60重量%、より好ましくは30~50重量%の量で含有されることが望ましい。上記範囲よりもフッ素樹脂粒子の含有量が少ない場合には、フッ素樹脂粒子を含有することによる上述した効果を十分得ることができず、その一方、上記範囲よりもフッ素樹脂粒子の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、塗膜が軟らかくなりすぎ耐摩耗性を低下させるおそれがある。
【0028】
[シランカップリング剤]
本発明の塗料組成物においては、塗膜とプラスチック基材又はゴム基材との接着性を向上させるために、シランカップリング剤を含有することが好適である。特にシリコーンゴムを用いた場合にはシランカップリング剤の配合により、塗膜のゴム基材への接着性が更に向上される。
本発明の塗料組成物に使用し得るシランカップリング剤としては、従来公知のものを使用することができ、これに限定されないが、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有シランカップリング剤;γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤等を例示できる。
【0029】
シランカップリング剤は、塗料組成物中のベース樹脂全体(ゴム、或いはフッ素樹脂粒子を含有する場合にはゴム及びフッ素樹脂粒子の合計)の固形分量の0.5~3.0重量%、特に0.8~2.5重量%の量で配合することが好ましい。上記範囲よりもシランカップリング剤の量が少ない場合には、シランカップリング剤を配合することにより得られる上述した効果が十分得られず、その一方上記範囲よりもシランカップリング剤の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜の非粘着性(離型性)が損なわれるおそれがある。
【0030】
[塗料組成物の調製]
前述したとおり、本発明の塗料組成物は水系塗料組成物であることが好適であり、このような水系塗料組成物の調製は、これに限定されないが、下記の調製方法を例示できる。
本発明の塗料組成物を水系塗料組成物として調製する場合には、従来公知の方法によって調製されたゴムの水性分散液(ラテックス)或いはゴムの前駆体の溶液とオイル(あらかじめ液媒体に分散させておくことが好ましい)、必要により含有されるフッ素樹脂粒子の水性分散液或いはその混合液(例えば、既存のフッ素樹脂水系塗料など)、シランカップリング剤、或いは後述する他の添加剤を混合する方法により調製することができる。
【0031】
ゴムの水性分散液は、従来公知の方法により調製することができ、これに限定されないが、乳化重合や懸濁重合、或いは高速ホモジナイザー等の乳化装置を用いる方法、反転乳化法、転相温度乳化法、界面活性剤による乳化法等により調製することができる。
ゴムの水性分散液においては、0.01~0.5μmの平均粒径を有するゴム粒子が、水性分散液中に10~70重量%となるように分散していることが好適である。
フッ素樹脂粒子の水性分散液は、界面活性剤などを用いてフッ素樹脂粒子を水溶液中に均一且つ安定に分散させることにより調製することができるし、或いはフッ素樹脂を界面活性剤及び開始剤、或いは必要により連鎖移動剤等を用いて水系乳化重合することにより調製することもできる。
フッ素樹脂水性分散液においては、0.01~180μmの平均粒径を有するフッ素樹脂粒子が、水性分散液中に10~70重量%となるように分散していることが好適である。
【0032】
本発明の塗料組成物においては、上述したゴムの水性分散液、及び必要により含有されるフッ素樹脂の水性分散液はそのまま使用することもできるが、分散性・導電性・発泡防止・耐摩耗改善等、求める特性に応じて通常の塗料に使用される充填材や各種の添加剤を添加することができる。
例えば、界面活性剤(例えばライオン(株)製レオコール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製 TRITON(登録商標)、TERGITOL(登録商標)シリーズ、花王(株)製エマルゲン(登録商標)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の非イオン系界面活性剤や、ライオン(株)製リパール(登録商標)、花王(株)製エマール(登録商標)、ペレックス(登録商標)などのスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、硫酸モノ長鎖アルキル系の陰イオン系界面活性剤、ライオン(株)製レオアール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製OROTAN(登録商標)などのポリカルボン酸塩、アクリル酸塩系の高分子界面活性剤などが挙げられる)、造膜剤(例えば、ポリアミドやポリアミドイミド、アクリル、アセテートなどの高分子系造膜剤、高級アルコールやエーテル、造膜効果を有する高分子界面活性剤などが挙げられる)、増粘剤(水溶性セルロース類や、溶剤分散系増粘剤、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、アクリル酸エステルなどが挙げられる)等を加えることもできる。
【0033】
<水性塗料組成物>
本発明の水系塗料組成物は、上記方法により調製されたゴムの水性分散液、フッ素樹脂の水性分散液あるいはその水系組成液に、オイルを塗料組成物中のベース樹脂(ゴム、或いはフッ素樹脂粒子を含有する場合にはゴム及びフッ素樹脂粒子の合計)の固形分量に対して1~35重量%、好適には2~20重量%、より好適には5~10重量%の量となるように配合し、混合・撹拌することによって調製することができる。
本発明の塗料組成物においてオイルは塗料組成物中で細かく分散していることが、ブツなどの欠陥がなく平滑性に優れた塗膜を形成する上で重要であり、またオイルがこのように細かく分散していることにより形成される塗膜中でもオイルが分散した状態となり長期にわたってオイルが塗膜表面に滲出して高い非粘着性(離型性)を発現する上で重要である。
このような観点から、オイルは平均粒径50μm以下、特に20μm以下で塗料組成物中に分散していることが好ましい。オイルはそれ単独で使用することもできるが、オイルを細かく分散させるために界面活性剤を併用することが好適である。
【0034】
オイルの分散性を向上するために使用する界面活性剤としては、従来公知の界面活性剤を使用することができる。
本発明において、フッ素オイルを用いる場合には、フッ素オイルとの親和性に優れた界面活性剤を用いることによりフッ素オイルを高分散させることが可能になることから、疎水基としてフッ化炭素構造を有するフッ素系界面活性剤を用いることが望ましい。
フッ素系界面活性剤の具体例としては、Capstone(登録商標)シリーズ(ケマーズ株式会社製)、メガファックシリーズ(DIC株式会社製)、フタージェント(株式会社ネオス製)等が挙げられる。
本発明において、シリコーンオイルを用いる場合には、シリコーンオイルとの親和性に優れた界面活性剤を用いることによりシリコーンオイルを高分散させることが可能になることから、疎水基としてシリコーン構造を有するシリコーン系界面活性剤を用いることが望ましい。なお、シリコーンオイルを用いる場合に、シランカップリング剤を配合するときは、塗装直前に添加することが、シリコーンの架橋を促進する上で好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(POE)変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)変性オルガノポリシロキサン、POEソルビタン変性オルガノポリシロキサン、POEグリセリル変性オルガノポリシロキサン等の親水基で変性されたオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
具体例として、DBE‐712、DBE‐821(アヅマックス株式会社製)、KF‐6015、KF‐6016、KF‐6017、KF‐6028(信越化学工業株式会社製)、ABIL‐EM97(ゴールドシュミット社製)、ポリフローKL‐100、ポリフローKL‐401、ポリフローKL‐402、ポリフローKL‐700(共栄社化学株式会社製)等を挙げることができる。
上記界面活性剤は、オイル100重量部に対して、1~200重量部の量で配合することが好ましく、5~100重量部の量で配合することがより好ましい。
【0035】
また上記界面活性剤の使用に際して、オイルをフッ素系溶剤やその他溶剤で希釈して低粘度化しておくこともでき、これにより水やゴム水性分散液、及びフッ素樹脂水性分散液との混合液と混合・撹拌する際にオイルがより細かく分散した分散体とすることができる。
オイル希釈のために使用し得るフッ素系溶剤としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ペルフルオロカーボン(PFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等のフッ素系溶剤を例示できる。
溶剤は、オイル100重量部に対して、100~500重量部の量で配合することが望ましい。
【0036】
またオイルを細かく分散させるために、上記界面活性剤の使用と共に、超音波分散や高せん断速度による分散を行うことも好ましい。これらの分散には、一般に用いられている、超音波分散機、攪拌機、各種(高圧、高速、超音波など)のホモジナイザーを利用することができる。これらを利用することで、オイルを溶剤で希釈しなくても細かく分散することができ、プロセスの簡略化、フッ素系溶剤の利用に係るコストの低減という観点から好ましい。またオイルを溶剤で希釈した上で、上記の分散を行うことも勿論可能であり、これにより、より細かな分散が期待できる。
【0037】
<溶剤系塗料組成物>
溶剤系塗料組成物とする場合には、液状ゴム、ゴム溶剤分散液、フッ素樹脂の溶液、あるいはフッ素樹脂溶剤分散液を調製し、これに、オイル、好適には上述したオイルの分散体を、塗料組成物中のベース樹脂固形分(塗料組成物に含まれるゴム及び必要により含有するフッ素樹脂粒子の合計重量)の1~35重量%の量となるように配合して、撹拌・混合することにより調製することができる。
【0038】
<粉体塗料組成物>
粉体塗料組成物とする場合には、上記方法により調製されたゴムの水性分散液、フッ素樹脂水性分散液に、オイル、好適には上記オイル分散体を、塗料組成物中の樹脂固形分(塗料組成物に含まれるゴム及び必要により含有するフッ素樹脂の合計重量)の1~35重量%の量となるように配合し、撹拌してゴム、フッ素樹脂及びオイルを共凝集させる。100~500rpmの撹拌速度で10~60分間撹拌することにより、平均粒径が1~200μmの凝集造粒物を造粒した後、分離・洗浄・乾燥することにより、ゴム・フッ素樹脂の一次粒子の空隙にオイルが充填され、オイルが粉体中に均一に存在するゴム・フッ素樹脂/オイルの複合粉末を調製できる。必要に応じて、凝集や造粒過程で生成した粒径が200μm以上の大きな粗粒子を粉砕して細かくすることもできる。
尚、ゴム・フッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させるために、HCl,H2SO4,HNO3,H3PO4,Na2SO4,MgCl2,CaCl2,HCOONa、CH3COOK、(NH4)2CO3等の電解物質を配合することが好ましい。更に必要により、水と非相溶の有機溶剤(好ましくは、フッ素系溶剤)を加えることで、凝集された粒子が均一に造粒されるため好ましい。
【0039】
<その他>
本発明の塗料組成物は、求める特性に応じて、各種の有機・無機充填材を加えることもできる。有機充填材としては、例えば、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。充填材の形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状の充填材が使用可能である。
また上記以外にも、導電性、発泡防止、耐摩耗性改善等、求める特性に応じて、従来より塗料に使用されていた顔料や各種添加剤を配合することができる。
これらの充填材を用いることで、塗膜に各種の特性を与えるだけでなく、本発明の塗料組成物を成形用の型にコーティングした場合の相手材(成形品)の表面に微細な凹凸を与えて、光沢を抑制することもできる。
【0040】
前述したとおり、本発明の塗料組成物においてはオイルの存在により、耐摩耗性が向上されているが、充填材を配合することによって、耐摩耗性をより向上させることができる。特に好適な充填材としては、これに限定されないが、炭化珪素(SiC)、シリカ、ポリイミド(PI)を例示できる。
また充填材の配合量は、用いる充填材の種類によって一概に規定できないが、塗料組成物の塗料固形分(オイルを除いた塗膜として残留する全固形分、すなわちゴムとフッ素樹脂と充填材の合計量)に対して0.1~10重量%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも充填材の配合量が少ないと、充填材配合による耐摩耗性の向上が乏しく、一方上記範囲よりも多いと上記範囲にある場合に比して離型性が低下するおそれがある。
充填材は、塗料組成物が水系塗料等の液体塗料である場合は、充填材を水等の液媒体に分散させて用いることが好ましい。
【0041】
(コーティング方法)
本発明の塗料組成物は、スプレー塗装、ディップ塗装等、従来公知のコーティング方法によって塗装することができる。
塗装後、塗工された塗料組成物をゴムの架橋温度に加熱処理することにより塗膜を形成する。前述した通り、本発明の塗料組成物においては、ゴムの架橋温度が120~200℃と低いことから、プラスチック基材やゴム基材に直接塗装して加熱処理を行っても基材を損なうことなく、均一な塗膜を形成することができる。
尚、本発明の塗料組成物の加熱条件(焼付条件)は、塗料組成物の組成や形態、塗工量、所望の架橋温度等によって異なり、一概に規定することはできないが、使用するゴムの架橋温度以上の温度で5~120分間加熱することが好ましい。また加熱処理を複数回行うことにより架橋を促進することが可能となり、耐摩耗性を向上することもできる。
また本発明の塗料組成物は、プラスチック基材やゴム基材との接着性に優れていることから、プライマー層を設けたり、或いは基材の表面処理等を行う必要がなく、基材表面に直接塗装することができる。
【0042】
(プラスチック基材又はゴム基材)
本発明の塗料組成物は、前述した通り、低温での塗膜形成が可能であることから耐熱性に劣る基材に適用可能であり、特にプラスチック基材又はゴム基材に好適に使用でき、具体的には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化型樹脂等の樹脂又は樹脂組成物の他、ゴム、熱可塑性エラストマー等、従来公知の高分子材料に使用することができる。
本発明の塗料組成物から成る塗膜は、基材の伸縮に追従できる性質を有することから、上記基材の中でも伸縮性を有するゴム基材にも好適に使用することができる。
【0043】
基材を構成可能な熱可塑性樹脂としては、これに限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド樹脂等を例示できる。
また熱硬化性樹脂としては、これに限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を例示できる。
光硬化性樹脂としては、これに限定されないが、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する1~2官能モノマー、多官能モノマー、多官能オリゴマー、又は多官能ポリマーから成るアクリル系樹脂等を例示でき、電子線硬化型樹脂としては、これに限定されないが、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、エポキシメタクリレート、ポリエステルメタクリレート、ポリウレタンメタクリレート等を例示できる。
【0044】
基材を構成可能なゴムとしては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン等の飽和ポリオレフィン系ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・ジエン共重合体、プロピレン・ジエン共重合体、これらのハロゲン化物、水素添加物等のα-オレフィン・ジエン共重合体系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、これらのハロゲン化物、水素添加物等のジエン重合体系ゴム、メチルシリコーンゴム、ビニル・メチルシリコーンゴム、フェニル・メチルシリコーンゴム等のシリコーン系ゴム、フッ化シリコーンゴム、フッ化ビニリデンゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、四フッ化エチレン・パーフルオロメチルビニルエーテルゴム等のフッ素系ゴム、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・ジエン共重合体系ゴム、ブチルゴム、そのハロゲン化物、水素添加物等のブチル系ゴム、クロロプレン、そのハロゲン化物、水素添加物等のクロロプレン系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン・エチレンオキシドゴム等のエピクロルヒドリン系ゴム、ポリエーテルウレタンゴム、ポリエステルウレタンゴムなどのウレタン系ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、そのハロゲン化物、水素添加物等のアクリロニトリル・ブタジエン系ゴム、天然ゴム等を例示できる。
【0045】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン・ブロック共重合体、これらのハロゲン化物、水素添加物等のポリスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン樹脂とオレフィンゴムのブレンド体、オレフィン樹脂とオレフィン・ジエン共重合体のブレンド体、これらのハロゲン化物、水素添加物などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が例示される。
【0046】
また、基材を構成する上記高分子材料には、使用する材料に応じて、架橋剤、重合開始剤、充填材、顔料、紫外線吸収剤、老化防止剤、発泡剤、消泡剤、酸化防止剤等を従来公知の処方によって添加することができる。
本発明の塗料組成物により形成される塗膜は、耐久性に優れ、非粘着性(離型性)を長時間維持可能であることから、特にゴム組成物から成るタイヤ製造用のブラダー等のゴム製品や、プラスチック製の成形型等の表面に塗布するトップコートとして用いることが好適である。
【0047】
(塗膜)
塗膜の厚みは、基材の用途や適用部分などによって適宜選択することができるが、上述したようなブラダーやプラスチック製成形型の離型性を向上するために使用する場合には、加熱処理後の膜厚が、5μm以上、特に5~300μmとなるように塗装することが好ましい。膜厚が上記範囲よりも薄い場合には、上記範囲にある場合に比して連続的な塗膜を形成できず、塗膜欠陥を生じるおそれがあると共に、摩耗により塗膜性能(非粘着性(離型性)、滑り性)が早期に失われるおそれがある。その一方膜厚が上記範囲よりも厚くても離型性等の塗膜性能のさらなる向上は望めず、経済性に劣るようになる。
【0048】
基材表面に形成された本発明の塗料組成物により得られる塗膜は、塗膜中にオイルを1~35重量%の量で含有しており、n-ヘキサデカン接触角が50度以上、好適には60度以上の高い非粘着性(離型性)を有している。
【実施例0049】
(物性の測定)
[塗料中のオイル粒子の平均粒径]
得られた塗料組成物をスポイトによりガラススライド(Micro slide glass 76x26mm,1~1.2mmt、Matsunami製)の上に滴下した後、基材アルミニウム(50mm×100mm、厚み1mm)の上に乗せてから、光学顕微鏡(株式会社ハイロックス製、KH-1300)の反射モードにより観察を行い、2000~2500倍率の写真でオイル粒子を観察した。n=20サンプルの平均値を求め、平均粒径とした。平均粒径が50μm以下の場合「◎」と表記する。
【0050】
[テストピースの作成]
基材として下記の2種を使用した。
・ブチルゴム(IIR)シート(サイズ:100mm×50mm×1mmt(株式会社パルテック社製)
・シリコーンゴムシート(サイズ:100mm×50mm×1mmt(株式会社パルテック社製)
・アルミテストピース(サイズ:100mm×50mm×1mmt、JIS A5052準拠品)
【0051】
[基材表面処理]
ゴム基材(ブチルゴムシート及びシリコーンゴムシート)については、表面を、エアブローを実施したものをそのまま用いた。
アルミ基材については、表面をイソプロピルアルコールで脱脂し、その表面にサンドブラスタ―((株)不二製作所製 ニューマブラスター SGF-4(A)S-E566)を用い、#60番アルミナ(昭和電工社製 ショウワブラスター)によるショットブラストを施し粗面化して、更にイソプロピルアルコールで拭いたものを用いた。
【0052】
[塗装及び塗膜形成]
上記各基材に、エアースプレー塗装ガン(アネスト岩田(株)製 W-88-10E2 φ1mmノズル(手動ガン))を用いて、エアー圧力2.5~3.0kgf/cm2で、得られた塗料組成物を吹き付け、塗装を行った。塗装された液体質量が、基材1枚あたり約0.65g(0.60~0.70g)となるように塗装し、テストピースを作成した。
尚、焼き付け条件は以下のとおりである。
60℃で10分間加熱乾燥した後、別オーブンに移動し120℃で10分間加熱し、更に別オーブンに移動して180℃で10分間加熱架橋処理した後、別オーブンに移動して
120℃で60分間加熱して2次架橋処理を行った。
【0053】
[離型性評価(n-ヘキサデカン接触角)]
上記の方法で得られたテストピースを用い、全自動接触角計(協和界面化学株式会社 DM-701)を用いて、測定環境:25℃湿度60%RHにて、n-ヘキサデカンの接触角(液滴サイズ:約2μL)を測定した。
【0054】
[密着性評価(クロスカット試験)]
上記の方法で得られたテストピースの塗膜表面について、JIS K 5600.5.6に準じて、下記のクロスカット試験を行った。
(1)試験面にカッターナイフを用いて、素地に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作る。カッターガイドを使用し、切り傷の間隔は1mmとした。
(2)碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を標準図と比較して評価する。
評価結果は、剥離した碁盤目数(個/100個)で表示した。
【0055】
[延伸テスト]
得られた塗料組成物を、縦100mm、横50mm、1mm厚ブチルゴム基材(株式会社パルテック製)の片面に塗布し、180℃で10分間、そして120℃で60分間加熱架橋処理して厚み50μmの塗膜を形成した。塗装した基材からダンベル型の試験片(ASTM D-2116に準拠)を切り出し、定伸張繰り返し疲労試験機(株式会社マイズ試験機製 MYSS Tester、H9537/H9606)で測定温度:200℃、変異ストローク:11mm (50%延伸)、延伸速度及び戻り速度:11mm/min、延伸回数200回の条件で延伸試験を行った。試験が終わった後、塗膜の状態を確認し、クラックや剥離が発生しない場合、合格と判断した。
【0056】
[生ゴム加硫テスト(ホットプレス)]
上記の方法で得られたテストピース(塗装したゴム基材)を金型に置いて、その上に約3mm厚の生ゴム(未架橋ブチルゴム)のシートを約3cm×10cmに切り出したものを乗せ、その上から圧縮成形機(ホットプレスWFA-37、神藤金属工業所製、シリンダー径:152mm)を用いて、180℃×2MPa×10分で加熱及び加圧することにより加硫を実施した。加硫が終わった後、基材から加硫されたゴム層を剥がして、塗膜状態を確認した。加硫ゴムから基材を簡単に外すことができ、かつ塗膜が基材から剥がれない場合は「〇」、加硫ゴムからゴム基材を外すことはできるが、一部汚れが残った場合は「△」、加硫ゴムからゴム基材が剥がれない、或いは塗膜がゴム基材から剥がれた場合「×」と評価した。
【0057】
(実施例1)
フッ素オイルとしてPFPE(ケマーズ株式会社製Krytox XHT1000、分解温度426℃)15.39gと、フッ素系界面活性剤(ケマーズ株式会社製Capstone FS-31)30.78gを1リットルのステンレスビーカ―に入れ、超音波生成装置(超音波工業株式会社製 Ultrasonic MINIWELDER HS3-4)を用いて、10分間超音波分散処理を行ってから、純水1.94gとフッ素樹脂粒子としてFEP水性分散液 (三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)FEP 120-JR(FEP樹脂固形分54.5重量%))189.94gを加えて、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて200rpmで10分間撹拌してから、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム分散液 (日本ゼオン株式会社製 Zetpol(登録商標)2230LX(HNBR固形分40.6重量%)) 250.63gを加えて、更に150rpmで5分間撹拌した。これに、10重量%メチルセルロース水溶液9.02gとシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 KBM-603)2.3gを加えて、250rpmで15分間撹拌し、塗料組成物を得た。
【0058】
(実施例2及び3)
フッ素オイルの含有割合を表1に示した割合となるようにした以外は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0059】
(実施例4)
フッ素樹脂粒子としてPFA水性分散液 (三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)PFA 334-JR(PFA樹脂固形分60重量%))を使用した以外は実施例1と同様の含有割合となるようにして塗料組成物を調製した。
【0060】
(実施例5)
フッ素オイルの含有割合を表1に示した割合となるようにした以外は実施例4と同様にして塗料組成物を調製した。
【0061】
(実施例6)
フッ素樹脂粒子としてPTFE水性分散液 (三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)PTFE 34-JR(PTFE樹脂固形分58重量%))を使用した以外は実施例1と同様の含有割合となるようにして塗料組成物を調製した。
【0062】
(実施例7)
シランカップリング剤を使用しない以外は、実施例2と同様にして塗料組成物を調製した。
【0063】
(実施例8)
フッ素オイルとしてPFPE(ケマーズ株式会社製、Krytox XHT-1000)6.15gをフッ素系界面活性剤(ケマーズ株式会社製 Capstone FS―31)12.3gに入れて、10分間超音波分散処理を行った。この混合組成液を、純水45.78gとFEP水性分散液(三井・ケマーズ フロロプロダクツ製 テフロン(登録商標)FEP 120-JR(FEP樹脂固形分54.5重量%))182.97gを混合した液に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて200rpmで10分間攪拌した。シリコーンゴム分散液(信越化学工業株式会社製 KM-2002-T(シリコーンゴム固形分40重量%))241.44gを加え、200rpmで更に5分間攪拌した。次いで、10重量%メチルセルロース水溶液4.34gと黒顔料(ケマーズ株式会社製CB 853-4297)7.01gを上記の混合液に入れて250rpmで15分間攪拌し、500gの塗料組成物を得た。
【0064】
(実施例9及び10)
シリコーンゴムとフッ素樹脂粒子の配合割合を表1に示す割合とした以外は実施例7と同様にして塗料組成物を調製した。
【0065】
(比較例1)
フッ素オイルを使用しない以外は実施例1と同様の含有割合となるようにして塗料組成物を調製した。
【0066】
(比較例2)
フッ素オイルとフッ素樹脂粒子を使用せず、表1に示す組成比にて比較例1と同様に塗料組成物を調製した。
【0067】
(比較例3)
フッ素オイルを使用せず、表1に示す組成比にて実施例10と同様に塗料組成物を調製した。
【0068】