(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136788
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】メタルボンド砥石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/02 20060101AFI20220913BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20220913BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B24D3/02 310A
B24D3/06 A
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036573
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 勝
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063AB05
3C063BA03
3C063BB02
3C063BB07
3C063BC02
3C063BD04
3C063BD20
3C063BG01
3C063BG07
3C063CC02
3C063CC17
3C063FF23
3C063FF30
(57)【要約】
【課題】サファイアや炭化ケイ素(SiC)などの高硬度脆性材料を安定した研削能力で、高能率、高寿命に研削することができるメタルボンド砥石を提供する。
【解決手段】メタルボンド12と、メタルボンド12に分散した砥粒14および硬質フィラー16と、を含む砥粒層10Aを備えたメタルボンド砥石であって、メタルボンド12が、砥粒14の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子12aから構成されるものである、メタルボンド砥石。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルボンドと、前記メタルボンドに分散した砥粒および硬質フィラーと、を含む砥粒層を備えたメタルボンド砥石であって、
前記メタルボンドが、前記砥粒の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子から構成される、メタルボンド砥石。
【請求項2】
前記硬質フィラーのビッカース硬さHv1が、20GPa以上であり、
前記硬質フィラーの平均粒径が、前記砥粒の平均粒径の0.05倍以上0.35倍以下であり、
前記砥粒層における前記硬質フィラーの含有量が、5体積%以上20体積%以下である、請求項1に記載のメタルボンド砥石。
【請求項3】
前記砥粒が、平均粒径28~62μmのダイヤモンド砥粒である、請求項1または2に記載のメタルボンド砥石。
【請求項4】
前記砥粒層の抗折強度が100MPa以上200MPa以下である、請求項1から3のいずれかに記載のメタルボンド砥石。
【請求項5】
砥粒と、前記砥粒の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子と、硬質フィラーとを含む原料混合物を型に充填する工程(P1)と、
前記型に充填された原料混合物を焼結する工程(P2)を有するメタルボンド砥石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルボンド砥石およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サファイアや炭化ケイ素(SiC)は、ビッカース硬さHv1で20GPa以上、ヤング率400GPa以上、破壊靭性値が10MPa√m以下の高硬度で、かつ、脆い、高硬度脆性材料である。省エネルギー効果に優れるLED照明の普及加速を図るためのコストダウン要求の高まりから、研削砥石においては、LEDの基板に用いられるサファイアやSiCを高能率、高精度に研削でき、かつ、高寿命な粗研削用の砥石が求められている。
【0003】
従来の一般的なメタルボンド砥石として、特許文献1には、金属結合相中に超砥粒を分散配置してなるメタルボンド砥石であって、前記金属結合相は銅及び錫の合金であって更に金属結合相中に固体潤滑剤としてグラッシーカーボンを分散配置したメタルボンド砥石が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ダイヤモンド砥粒をボンドにより保持した砥粒層であり、高硬度脆性材料の被削材を研削すると、仕事をしたダイヤモンド砥粒が脱落し、目変わりをして新しいダイヤモンド砥粒が出現して、前記被削材と接触する砥粒層表面に存在するダイヤモンド砥粒の数が1~5000個/cm2となるように砥粒集中度および前記ボンドの強度を調整した砥粒層を有する高硬度脆性材料の研削用砥石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-1668号公報
【特許文献2】特開2016-40075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の砥石は、固体潤滑材を添加することで、研削抵抗を減らし、摩擦熱の発生を抑制することで、耐摩耗性を向上させている。しかしながら、サファイアなどの高硬度脆性材料を高能率で加工すると、硬質な切屑がメタルボンドを抉って後退させることにより砥石摩耗が増大し、かつ、被削材への負荷がかかるため、チッピングが発生し易いという課題があった。更に、脱落したダイヤモンド砥粒が砥石と被削材の間で転動し、スクラッチが発生するという課題があった。
【0007】
特許文献2の砥石は、加工時に砥粒に作用する力と砥粒の脱落をコントロールすることで、サファイアやSiCのような高硬度脆性材料を安定した研削能力で研削することに適するものとしている。しかしながら、最新の市場要求の加工能率と砥石寿命とを両立するには十分とは言えず、更なる改良が求められていた。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、高硬度脆性材料を安定した研削能力で、高能率、高寿命に研削することができるメタルボンド砥石およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、メタルボンドを構成する金属粒子の大きさに着目し、鋭意検討したところ、砥粒に対して、メタルボンドを構成する金属粒子を特定の大きさとし、更に硬質フィラーを添加することで、砥石と被削材との接触時の抵抗を低減でき、かつ、耐摩耗性が良好な砥石とできることを発見し、本発明に至った。
【0010】
本発明のメタルボンド砥石は、メタルボンドと、メタルボンドに分散した砥粒および硬質フィラーと、を含む砥粒層を備えたメタルボンド砥石であって、メタルボンドが、砥粒の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子から構成されることを特徴とする。
【0011】
メタルボンドを構成する金属粒子の平均粒径は、砥粒の平均粒径の0.1倍よりも小さいと、砥粒保持力が強くなり、加工時に摩滅進行した砥粒が脱落せず、加工抵抗が増大する。また、メタルボンドを構成する金属粒子の平均粒径は、砥粒の平均粒径の0.5倍よりも大きいと、メタルボンド間の空隙が大きくなり、砥粒保持力が不足し、砥粒脱落時にメタルボンドも同時に脱落することから砥粒摩耗が多くなる。砥粒の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子から構成されたメタルボンドとすることで、砥粒脱落を抑制し砥石摩耗を低減するとともに、脱落した砥粒が被削材と砥石間の転動などで発生するスクラッチを低減することができる。
【0012】
なお、本願において、本発明のメタルボンド砥石のメタルボンドを構成する金属粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡、(SEM)を用いて、加速電圧を15kV、倍率500倍で撮影した反射電子像を2値化処理して得られる解析画像から選択した任意の30個の金属粒子の粒径の平均値である。各金属粒子の粒径は、解析画像の結晶の界面から判別される金属粒子から、それぞれ長径と短径を算出し、平均した値である。また、本発明のメタルボンド砥石を構成する砥粒および硬質フィラーの平均粒径は、粒度分布測定器(レーザー回析散乱法)によって測定した粒度分布のメジアン径(体積基準のD50の値)である。メジアン径はJISZ8825:2013に準じる測定方法にて、株式会社堀場製作所製のレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960)を用いて測定することができる。
【0013】
本発明のメタルボンド砥石は、硬質フィラーのビッカース硬さHv1が、20GPa以上であり、硬質フィラーの平均粒径が、砥粒の平均粒径の0.05倍以上0.35倍以下であり、砥粒層における硬質フィラーの含有量が、5体積%以上20体積%以下であることが好ましい。
【0014】
砥粒層中に、20GPa以上のビッカース硬さ、かつ、砥粒の平均粒径の0.05倍以上0.35倍以下の平均粒径を有する硬質フィラーを5体積%以上20体積%以下で含む構成とすることで、高硬度脆性材料の被削材を加工する際の切屑によるボンド後退を更に抑制でき、砥石摩耗が更に抑制され、高速送りでも、より高寿命研削が可能となる。
【0015】
本発明のメタルボンド砥石は、砥粒が、平均粒径28~62μmのダイヤモンド砥粒であることが好ましい。
【0016】
本発明のメタルボンド砥石は、前記砥粒層の抗折強度が、100MPa以上200MPa以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のメタルボンド砥石の製造方法は、砥粒と、前記砥粒の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する金属粒子と、硬質フィラーとを含む原料混合物を型に充填する工程(P1)と、前記型に充填された原料混合物を焼結する工程(P2)を有する。
このような製造方法とすることにより、本発明のメタルボンド砥石を好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高硬度脆性材料を安定した研削能力で、高能率、高寿命に研削することができるメタルボンド砥石およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明にかかるメタルボンド砥石の模式図である。
【
図2】本発明にかかるメタルボンド砥石の砥粒層のSEM画像である。(a)は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM-IT500)を用いて、加速電圧を15kVとし、300倍の倍率で撮影した二次電子像である。(b)は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM-IT500)を用いて、加速電圧を15kVとし、500倍の倍率で撮影した反射電子像である。
【
図3】本発明にかかるメタルボンド砥石の研削加工時の砥粒層の研削面付近の状態を表す模式図である。(a)は、研削加工前の砥粒層の研削面付近の模式図である。(b)は、研削加工時の砥粒層の研削面付近の模式図である。
【
図4】メタルボンドが砥粒と同等の大きさの金属粒子から構成されたメタルボンド砥石(比較例)の砥粒層のSEM画像である。(a)は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM-IT500)を用いて、加速電圧を15kVとし、300倍の倍率で撮影した二次電子像である。(b)は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM-IT500)を用いて、加速電圧を15kVとし、500倍の倍率で撮影した反射電子像である。
【
図5】比較例のメタルボンド砥石の研削加工時の砥粒層の研削面付近の状態を表す模式図である。(a)は、研削加工前の砥粒層の研削面付近の模式図である。(b)は、研削加工時の砥粒層の研削面付近の模式図である。
【
図6】本発明にかかるメタルボンド砥石の製造方法の一例のフロー図である。
【
図7】本発明にかかるメタルボンド砥石を用いた研削の様子を表す模式図である。
【
図8】LED用のサファイア基板の主な加工プロセスを示したフロー図である。
【
図9】実施例1で用いた金属粒子および硬質フィラー、および実施例1の研削試験の結果を示す図である。
【
図10】実施例2で用いた金属粒子および硬質フィラー、および実施例2の研削試験の結果を示す図である。
【
図11】実施例3で用いた金属粒子および硬質フィラー、および実施例3の研削試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0021】
<メタルボンド砥石>
図1に示すメタルボンド砥石100は、金属製の円板状の台金20と、台金20の外周縁に沿って円環状に連ねて固着された複数のセグメント砥石10とを備えている。セグメント砥石10は、メタルボンド12と、砥粒14と、硬質フィラー16と、を含む砥粒層10Aを有し、砥粒層10Aは、一面側(回転軸心と平行な方向(図の下方))へ突き出す環状の研削面18を構成する。
【0022】
[砥粒層10A]
図2は、砥粒層10Aを表すSEM画像である。砥粒層10A中のメタルボンド12、砥粒14および硬質フィラー16は、SEM観察およびEDX測定により特定できる。
図3は、研削加工時の砥粒層10Aの研削面付近の状態を表す模式図である。
【0023】
図2、
図3(a)に示すように、砥粒層10Aにおいて、砥粒14および硬質フィラー16は、メタルボンド12に分散している。メタルボンド12は、金属粒子12aから構成され、金属粒子12aの平均粒径は、砥粒14の平均粒径の0.1以上0.5以下である。このように砥粒14を、砥粒14に対して細かい金属粒子12aによって結合することで、組織が均質となる。また、金属粒子12a間の(メタルボンド12の)空隙が小さくなるとともに、砥粒保持力が向上する。また、硬質フィラー16を含むことで、耐摩耗性が向上し、砥石強度が向上する。これにより、
図3(b)に示すように、被削材50の研削により生じる切屑52によるボンド後退を抑制できる。また、被削材50の研削中に砥粒14が脱落するときには、砥粒14がその周辺のメタルボンド12とともに微小な塊で脱落するため、負荷を低減でき、摩耗も低減できる。
【0024】
(比較例のメタルボンド砥石)
一方、
図4は、砥粒34と同等の大きさの金属粒子32aを用いたメタルボンド砥石(比較例)の砥粒層30AのSEM画像であり、
図5は、研削加工時の砥粒層30Aの研削面付近の状態を表す模式図である。
図4、5(a)に示すように、砥粒層30Aは、金属粒子32aの焼結体であるメタルボンド32と、メタルボンド32に分散した砥粒34および固体潤滑材36を有する。また、金属粒子32aは、砥粒34の平均粒径の0.5倍よりも大きい平均粒径を有する。この場合、金属粒子32a間に生じる空間が大きく、砥粒保持力が小さくなる。
図5(b)に示すように、被削材50の研削加工時には、砥粒34がその周りのメタルボンド32とともに大きな塊(集団)で脱落する。また、被削材50の切屑52により摩耗も大きく、スクラッチが発生しやすくなる。
【0025】
以下、本発明にかかるメタルボンド砥石100の砥粒層10Aを構成する、メタルボンド12、砥粒14および硬質フィラー16について詳しく説明する。
【0026】
[メタルボンド12]
メタルボンド12は、金属粒子12aから構成される、金属粒子12aの焼結体であり、砥粒14同士を結合するボンド(結合材)として機能する。金属粒子12aは、金属単体であっても、合金であってもよく、銅、錫、コバルト、鉄、タングステン、ニッケル、チタン、およびアルミニウムからなる群から選択される1種類以上を含むことが好ましい。また、金属粒子12aの粒子形状は、球形状や楔形状、不定形状など任意である。金属粒子12aが2種類以上の金属の粒子を含む場合、それぞれの金属の粒子は同一の形状であっても、異なる形状であってよい。
【0027】
金属粒子12aの平均粒径は、砥粒14の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下であるが、砥石摩耗をより低減するため、砥粒14の平均粒径の0.4倍以下が好ましく、0.3倍以下がより好ましい。また、研削抵抗の観点から、金属粒子12aの平均粒径は、砥粒14の平均粒径の0.15倍以上や、0.2倍以上としてもよい。
【0028】
[砥粒14]
砥粒14は、ダイヤモンド砥粒が好ましい。砥粒14の集中度は、例えば、1~50とすることができる。
【0029】
砥粒14の大きさは、被削材や研削目的等に応じて適宜決定すればよいが、砥粒14の平均粒径は小さすぎると、被削材に砥粒が食いこみにくくなり、加工が困難となる。また、砥粒14の平均粒径が大きすぎると、被削材に砥粒が深く食い込みダメージが大きくなる傾向にある。そのため、砥粒14の平均粒径は、28μm~62μmが好ましい。
【0030】
[硬質フィラー16]
硬質フィラー16は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(cBN)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)などである。なお、硬質フィラー16は、砥粒14と同素材であってもよい。硬質フィラー16は、通常、砥粒14よりも粒径が小さいことから、同素材の場合も、切れ味や粒径差により砥粒14と硬質フィラー16とは判別することができる。
【0031】
硬質フィラー16の平均粒径は、砥粒14の大きさ等によって適宜決定することができる。硬質フィラー16が砥粒14に対して小さすぎると、より緻密となり、加工時に摩耗した砥粒が脱落しにくくなり、加工負荷が上昇する傾向にある。また、硬質フィラー16が砥粒14に対して大きすぎると、摩耗しやすくなったり、被削材接触時に抵抗となるため被削材への負荷が高くなる傾向にある。これにより、砥石の耐摩耗性も低下する傾向にある。そのため、硬質フィラー16の平均粒径は、砥粒14の平均粒径の0.05倍以上が好ましく、0.08倍以上がより好ましく、0.09倍以上がさらに好ましい。また、硬質フィラー16の平均粒径は、砥粒14の平均粒径の0.35倍以下であることが好ましく、0.33倍以下であることがより好ましく、0.30倍以下であることがさらに好ましい。
【0032】
硬質フィラー16のビッカース硬さHv1は、20GPa以上であることが好ましい。硬質フィラー16が、サファイアなどの高硬質脆性な被削材の切屑と同等以上の硬さであることで、切屑によるメタルボンドの後退をさらに抑制することができる。硬質フィラー16のビッカース硬さHv1の上限は特に限定されないが、例えば、100GPa以下とすることができる。
なお、硬質フィラー16のビッカース硬さHv1は、JIS Z2244(2009)に準じた方法で測定した値である。
【0033】
砥粒層10Aにおける硬質フィラー16の含有量(硬質フィラー16の体積/砥粒層10Aの体積×100(%))は少なすぎると、ボンド面擦れが支配的となり加工抵抗が増大する傾向にある。また、硬質フィラー16の含有量が多すぎると、砥粒14を保持するボンド量が不足し、摩耗が増大する傾向にある。そのため、砥粒層10Aにおける硬質フィラー16の含有量は、5体積%以上が好ましく、7体積%以上がより好ましい。また、砥粒層10Aにおける硬質フィラー16の含有量は、20体積%以下が好ましく、15体積%以下がより好ましい。
【0034】
被削材や求める機能に応じて、砥石は、切れ味の維持、砥粒保持を左右するボンド、砥石寿命や切れ味を左右するフィラー、切屑の逃げを左右する砥石構造のそれぞれをコントロールして設計することが必要となる。サファイアやSiCのような高硬度脆性材料用の砥石とする場合、硬質フィラー16は、ビッカース硬さHv1が、20GPa以上のビッカース硬さHv1、かつ、砥粒の平均粒径の0.05倍以上0.35倍以下の平均粒径を有することが好ましく、このようなビッカース硬さおよび平均粒径の硬質フィラー16を砥粒層に対して5体積%以上20体積%以下含むことがより好ましい。
【0035】
なお、砥粒層10Aは、メタルボンド12と砥粒14と硬質フィラー16以外の成分を含んでもよいが、メタルボンド12と砥粒14と硬質フィラー16から実質的になるものとしてもよい。
【0036】
[抗折強度]
砥粒層10Aの抗折強度は、100~200MPaが好ましい。砥粒層10Aの抗折強度が100MPaよりも小さいと、砥粒保持力が不足し、高能率条件下では、砥粒の脱落が活発となり、砥粒摩耗が増大し、スクラッチが発生しやすくなる傾向にある。また、砥粒層10Aの抗折強度が200MPaよりも大きいと、砥粒保持力が大きいため、加工によっては少しずつ摩耗進行した砥粒が保持されたままとなり、研削不能となり、短寿命となる傾向にある。砥粒層10Aの抗折強度を100~200MPaとすることで、研削で寿命となった砥粒を脱落させ、次の砥粒に役割を譲る自生作用が効果的に作用し、安定した負荷で連続研削することが可能となり、ウェハチッピングも低減させることができる。
なお、砥粒層10Aの抗折強度は、JISZ 2248(2014)に準じた方法で測定した値(3点曲げ強度)である。
【0037】
<メタルボンド砥石の製造方法>
本発明にかかるメタルボンド砥石100は、例えば、
図6に示す製造方法で製造することができる。
図6に示す製造方法は、金属粒子(以下、製造に用いる金属粒子を「原料金属粒子」と記載する場合がある。)と、砥粒14と、硬質フィラー16とを含む原料混合物を型に充填する工程(P1)と、型に充填された原料混合物を焼結する工程(P2)と、工程(P2)で得られた焼結体を台金に接着する工程(P3)と、台金に接着した焼結体を所定の寸法に仕上げる工程(P4)を有する。
【0038】
工程(P1)では、砥粒14の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下の平均粒径を有する原料金属粒子と、砥粒14と、硬質フィラー16とを混合し(
図6の工程(P1)の原料混合)、型に充填する(
図6の工程(P1)の型充填)。工程(P1)において、原料金属粒子と砥粒14と硬質フィラー16は、上記の通りの砥粒14の集中度や、硬質フィラー16の含有率となるように配合し、混合することが好ましい。また、工程(P1)では、原料金属粒子は、粒度分布測定器(レーザー回析散乱法)によって測定した粒度分布のメジアン径(体積基準のD50の値)が、砥粒14の平均粒径の0.1倍以上0.5倍以下となるものを用いればよい。
【0039】
工程(P2)の焼結は、原料混合物が充填された型を焼結炉に入れて、型に充填された原料混合物を加圧下で加熱する加圧焼結が好ましい。プレス圧は、例えば、100~5000kg/cm2の範囲である。好適な焼結の温度(加熱温度)は、例えば、400~900℃である。これにより、金属粒子12aと、砥粒14と、硬質フィラー16を含む焼結体が得られ、この焼結体はセグメント砥石10とできる。
【0040】
次いで、工程(P2)で得られた焼結体を台金に取り付け、所定の寸法に仕上げることでメタルボンド砥石100が得られる。工程(P3)では、台金20の下面の外周縁に沿って円環状に連ねて複数個の焼結体を固着する。次いで、工程(P4)で、固着された焼結体をセグメント砥石10の製品規格に応じた寸法にする仕上げ等がドレッサを用いて行われる。
【0041】
なお、メタルボンド砥石100は、セグメント砥石10は砥粒層10Aからなるが、セグメント砥石10の表層だけが砥粒層10Aとなるように接着させてもよい。
【0042】
<研削>
メタルボンド砥石100は、サファイアウェハやSiCウェハなどの高硬度脆性材料の研削のために用いることができる。具体的には、メタルボンド砥石100の台金20の回転に伴って研削面18を、サファイアウェハやSiCウェハなどの高硬度脆性材料と摺接させることで、その高硬度脆性材料を平面状に研削することができる(
図7参照)。特に、高硬度脆性材料の粗研削は、最も加工量が多いプロセスであり、高能率、高寿命が求められている。メタルボンド砥石100は、高硬度脆性材料であっても、安定した研削能力で、高能率、高寿命に研削することができるため、この高硬度脆性材料の粗研削用の砥石として好適である。
【0043】
例えば、
図8は、LED用のサファイア基板の主な加工プロセスを示したフロー図である。
図8で示すように、LED用のサファイア基板は、主に、ウェハ貼付け(S1)、粗研削(S2)、仕上研削(S3)、鏡面研磨(S4)、チップ切断(S5)の順に加工される。粗研削(S2)の研削砥石としてメタルボンド砥石100を用いることで、より短時間で加工が可能である。
【0044】
以上で説明したメタルボンド砥石100は、本発明にかかるメタルボンド砥石を例示するものであり、本発明にかかるメタルボンド砥石は、メタルボンド砥石100に限定されない。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>:金属粒子の平均粒径差による研削性能評価
[メタルボンド砥石(ホイール)の製造]
図6の製造方法に従い、砥粒層(幅4mm)を製造し、得られた砥粒層を台金(Φ300)に接着した。研削面となる砥粒層の表面を研磨し、実施例1-1~実施例1-3、比較例1~比較例3のホイール(メタルボンド砥石)とした。なお、砥粒は、粒度#325(平均粒径55μm)のダイヤモンド砥粒を用い、金属粒子(メタルボンドを形成する材料)は、Cu60質量%とSn40質量%の混合物を用い、硬質フィラーは、ダイヤモンドを用いて、砥粒層は製造した。各実施例において、砥粒層の製造に用いた金属粒子の平均粒径と、硬質フィラーの硬度、平均粒径および含有率は、
図9に示す通りとした。また、走査型電子顕微鏡、(SEM)を用いて、加速電圧を15kV、倍率500倍で砥粒層の反射電子像を撮影した。この反射電子像を2値化処理して得られた解析画像から任意の30個の金属粒子を選択して、平均粒径を算出したところ、砥粒層の製造に用いた金属粒子の平均粒径と対応するものであった。
【0047】
[サファイアウェハの研削試験]
製造したホイールを縦軸平面研削盤(インフィード方式)に取付け、テーブル上に円周状に5枚配列した厚み650μmの4インチ単結晶c面サファイアウェハを下記加工条件で研削し、研削抵抗と砥石摩耗率を評価した。
図9に結果を示す。
なお、研削抵抗は、下記加工条件の研削において、メタルボンド砥石100を回転駆動する電動機の駆動電流値である。砥石摩耗率は、下記加工条件での1回の研削における砥石試料の摩耗量を割合で示したものである。
【0048】
(加工条件)
・砥石回転数:1,000rpm
・ウェハ回転数:60rpm
・切込み速度:1.5μm/sec
・加工取り代:500μm
【0049】
図9に示すように、実施例1-1~実施例1-3、比較例2、および比較例3は、所定の加工速度で加工が可能であったが、比較例2のホイールでは、加工後にウェハ表面にスクラッチが見られた。また、比較例3のホイールでは、チッピングが見られた。実施例1-1~実施例1-3は、研削抵抗、砥石摩耗ともに良好であった。
【0050】
<実施例2>:フィラー硬度差による研削性能評価
図9に示す金属粒子および硬質フィラーの代わりに、
図10に示す金属粒子および硬質フィラーを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2-1~実施例2-4のホイールを製造した。次いで、実施例2-1~実施例2-4のホイールを用いて、実施例1と同様の方法でサファイアウェハの研削試験を行った。
図10に結果を示す。
【0051】
図10に示すように、硬質フィラーの硬度が20GPa以上であると、所定の加工速度に対して、より低摩耗で加工可能であった。
【0052】
<実施例3>:硬質フィラーの含有率差または平均粒径差による研削性能評価
図9に示す金属粒子および硬質フィラーの代わりに、
図11に示す金属粒子および硬質フィラーを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3-1~実施例3-4のホイールを製造した。次いで、実施例3-1~実施例3-4のホイールを用いて、実施例1と同様の方法でサファイアウェハの研削試験を行った。
図11に結果を示す。
【0053】
また、実施例1~3のホイールは、切込み速度を2.0μm/secまで上げても加工負荷は安定して推移し、かつ、砥石摩耗も比較例1、2のホイールに比べて大幅に低減することができた。また、厚み110μmまでウェハチッピングなく薄く削ることができた。