(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136804
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】液体推進剤用燃焼触媒、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 23/44 20060101AFI20220913BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20220913BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20220913BHJP
C06D 5/00 20060101ALI20220913BHJP
C06B 31/32 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B01J23/44 M
B01J23/42 M
B01J23/46 M
B01J23/46 301M
B01J23/46 311M
C06D5/00 A
C06B31/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036595
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】久保田 一浩
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA07A
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC43A
4G169BC69A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CD10
4G169DA06
4G169EB15X
4G169EC02X
4G169EC03X
4G169FB14
4G169FB30
(57)【要約】
【課題】推進剤自体の組成に依存せずとも、着火性を高める技術の提供。
【解決手段】多孔質担体と前記担体に担持された触媒成分とを備え、前記触媒成分は貴金属元素を含む金属単体、その酸化物又はその合金を含む、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤用燃焼触媒。前記燃焼触媒は飛翔体推進装置における燃焼室に充填して用いられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体と前記担体に担持された触媒成分とを備え、前記触媒成分は貴金属元素を含む金属単体、その酸化物又はその合金を含む、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤用燃焼触媒。
【請求項2】
前記貴金属元素がPt、Ir、Pd、Rh及びRuからなる群より選ばれた1種以上である請求項1記載の燃焼触媒。
【請求項3】
前記多孔質担体がアルミナ、シリカ、セシウム、ゼオライト及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種以上を含む焼結体である、請求項1又は2記載の燃焼触媒。
【請求項4】
比表面積が5~500m2/gである請求項1~3のいずれか1項記載の燃焼触媒。
【請求項5】
前記多孔質担体の表面に1~100μmの厚さで前記触媒成分が担持されてなる請求項1~4のいずれか1項記載の燃焼触媒。
【請求項6】
アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤を可燃性ガスに分解後、その可燃性ガスを燃焼して推進ガスを得るための燃焼室を有する飛翔体推進装置であって、前記燃焼室の少なくとも一部には請求項1~5のいずれか1項記載の燃焼触媒が充填されている、飛翔体推進装置。
【請求項7】
多孔質担体に貴金属元素を含む化合物を含む液状体を付着させる工程と、前記工程の後に、前記多孔質担体を加熱することにより前記液状体から貴金属元素を含む金属単体又はその酸化物又は合金を前記多孔質担体上に焼成により担持させる工程と、を有する、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤用燃焼触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニウムジニトラミドを含む液体推進剤のための燃焼触媒、前記燃焼触媒の製造方法及び前記燃焼触媒を用いた飛翔体推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体推進剤は一般にロケット等の飛翔体の推進源として用いられている。宇宙用ロケットの分野では燃焼の中断や再点火により推力の制御が可能であるため、ロケットのメインエンジンの他、スラスタを用いて人工衛星の姿勢制御等に利用されている。
【0003】
液体推進剤は、一般に二液混合系と一液系の2種類がある。二液混合系は液体酸化剤と液体燃料を用い燃焼させることで大きな推力を得ることができるが、供給装置が二系統必要となるため、システムが複雑となる。一液系は触媒への接触や外部エネルギーにより燃焼させることができるため、システムを簡略化できるといった特徴があり、人工衛星の軌道修正や姿勢制御用スラスタに使用されている。
【0004】
人工衛星の軌道修正や姿勢制御用スラスタに使用される一液系推進剤は、ヒドラジンを含む推進剤が利用されていたが、ヒドラジンは毒性が高く取り扱いにくかった。このため、酸化剤としてアンモニウムジニトラミド(ADN)を用い、かつ、燃料にアルコールを用いた推進剤が提案されている。この推進剤の燃焼性向上のため、特許文献1にはADNと、モノメチルアミンナイトレートと、尿素と、銅化合物系燃焼助剤と、を含有する液体推進剤が開示されている。
【0005】
なお、特許文献2には、アンモニア分解触媒として、多孔質シリカアルミナ担体に鉄、銅等の金属とルテニウムパラジウム等の貴金属とを担持させた触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-199395号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/103754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ADN含有液体推進剤のさらなる利便性向上のためには、推進剤自体の組成の自由度をなるべく高くすること、言い換えれば、推進剤自体の組成の必要条件をなるべく少なくして、種々のニーズにしたがって推進剤組成を変動できるようにしておくことが好ましい。このような観点から、推進剤自体の組成に依存せずとも、着火性を高める技術の提供が望ましく、そのような技術の提供を本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成した。
【0009】
(1)多孔質担体と前記担体に担持された触媒成分とを備え、前記触媒成分は貴金属元素を含む金属単体、その酸化物又はその合金を含む、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤用燃焼触媒。
(2)前記貴金属元素がPt、Ir、Pd、Rh及びRuからなる群より選ばれた1種以上である(1)の燃焼触媒。
(3)前記多孔質担体がアルミナ、シリカ、セシウム、ゼオライト及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種以上を含む焼結体である、(1)又は(2)の燃焼触媒。
(4)比表面積が5~500m2/gである(1)~(3)の燃焼触媒。
(5)前記多孔質担体の表面に1~100μmの厚さで前記触媒成分が担持されてなる(1)~(4)の燃焼触媒。
(6)アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤を可燃性ガスに分解後、その可燃性ガスを燃焼して推進ガスを得るための燃焼室を有する飛翔体推進装置であって、前記燃焼室の少なくとも一部には(1)~(5)の燃焼触媒が充填されている、飛翔体推進装置。
(7)多孔質担体に貴金属元素を含む化合物を含む液状体を付着させる工程と、前記工程の後に、前記多孔質担体を加熱することにより前記液状体から貴金属元素を含む金属単体又はその酸化物又は合金を前記多孔質担体上に焼成により担持させる工程と、を有する、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤用燃焼触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ADN含有液体推進剤それ自体に燃焼助剤を混入させずとも、本発明の燃焼触媒を燃焼室に設置しておくなどの手段により、着火性を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の触媒は、アンモニウムジニトラミド含有液体推進剤のためのものである。ここで、液体推進剤とは、液体推進剤がロケットなどの飛翔体におけるエンジンシステムの上で供給、噴出される際に、流動性を有している推進剤を指す。液体推進剤は流動性を損なわなければ固体物質を含有してもよい。
【0013】
アンモニウムジニトラミド(ADN)は下記化学式(1)で表される化合物である。
【化1】
【0014】
ADNは公知化合物であり、例えば、特表平5-500795号公報に記載の製造方法に倣って、対応するカチオンを調製することにより、上記化学式(1)のアンモニウムジニトラミドを得ることができる。
【0015】
液体推進剤には、ADNに加えて種々公知の物質が含まれていてよい。例えば、液体推進剤には下記一般式(2)で表されるモノメチルアミンナイトレート(MMAN)が含まれていてもよい。
【化2】
【0016】
モノメチルアミンは公知化合物であり、市販のものを用いることができるし、公知の製法により得られたものを用いることもできる。前記製法としては、例えば、モノメチルアミンと硝酸とを反応させることなどが挙げられる。液体推進剤がADN及びMMANの両方を含有する場合において、液体推進剤におけるADNとMMANの比率に関しては特に限定は無く、(ADNの質量)/(MMANの質量)の比率は、好ましくは0.5~2.5であり、より好ましくは0.6~2.0である。該範囲にすることで、液体としての推進剤を得やすくなり、優れた比推力を得ることができる。また、ADN及びMMANは共融系を成していることが好ましい。
【0017】
液体推進剤には、化学式C(NH2)2で表される尿素が含まれていてもよい。尿素は公知化合物であり、市販のものを用いることができるし、公知の製法により得られたものを用いることもできる。液体推進剤に尿素が含まれる場合において、液体推進剤に占める尿素の質量の割合は、好ましくは0.5~20wt%である。
【0018】
本発明では燃焼触媒を用いるため、液体推進剤自体に燃焼助剤が含まれる必要は無いが、燃焼助剤の使用が否定される訳では無い。液体推進剤には銅化合物系燃焼助剤、特に、二価の銅化合物を含む銅化合物系燃焼助剤が含まれていてもよく、具体的な好適化合物として、テトラアンミン硝酸銅(Cu(NH3)4(NO3)2)、塩基性硝酸銅(Cu2(NO3)(OH)3)などを挙げることができる。なお、一価の銅の使用が否定される訳ではなく、例えば酸化第一銅(Cu2O)を銅化合物系燃焼助剤として用いることもできる。
【0019】
好ましくは、液体推進剤にはヒドラジンが実質的に含まれない。ヒドラジンが実施的に含まれないとは、例えば、含有量が1wt%以下であることを意味する。
【0020】
液体推進剤には、溶媒として水を用いても用いなくても液体状態となる場合には水を用いなくてもよいが、液体推進剤の凝固点等を降下させる目的で、適宜水を加えて用いてもよい。
【0021】
液体推進剤には、諸性能を調節するために、アルコール類、アミノ類、ケトン類等がさらに含まれていてもよい。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、エタンジオール、プロパノール、イソプロパノール、プロパンジオール、プロパントリオール、ブタノール、ブタンジオール等が挙げられる。
アミノ類としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0022】
液体推進剤には、上述の他に添加剤を含有させて用いてもよい。上述したように、本発明では燃焼触媒を用いるため、液体推進剤自体に燃焼助剤が含まれる必要は無いが、以下列挙するような、燃焼触媒、燃焼助剤等が液体推進剤に含まれていてもよい。
【0023】
燃焼触媒とは、燃焼を促進させる触媒のことであり、詳細には、反応活性を上昇させ、低温でも着火が可能となり、幅広い範囲で用いることができる。燃焼触媒としては、ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、イリジウム等が挙げられる。
【0024】
燃焼助剤とは、液体推進剤の比推力を向上させる添加剤であり、アルミニウム、マグネシウム、ホウ素、チタン、グラファイト等の粉末が挙げられる。
【0025】
本発明の燃焼触媒は多孔質担体に触媒成分が担持されてなる。多孔質担体は液体推進剤には溶解しない材質で反応場としての多数の細孔を有している。多孔質担体の好適な材質として無機固体材料が挙げられ、中でもセラミックス材料が好ましく、特に、アルミナ、シリカ、セシウム、ゼオライト及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種以上を含む焼結体が好ましい。多孔質担体の機械的強度と触媒反応の効率とのバランスの観点から、比表面積は好ましくは10~800m2/gである。多孔質担体の機械的強度については、50N以上の圧壊強度が好適である。多孔焼成担体の形状は定形または不定形のペレット状、球状、リング状、ハニカム状が好ましい。取り扱いやすさや充填しやすさの観点から、個々の多孔質担体の平均粒子径は好ましくは1~5mmである。
【0026】
多孔質担体の製法は特に限定は無く、例えば、セラミックスの製造における焼成技術や、生じる空孔の制御技術などを適宜参照することができる。あるいは、比表面積や空孔がコントロールされて製造されたセラミックス材料を市販品から入手することもできる。
【0027】
本発明の燃焼触媒では、触媒成分の少なくとも一部として貴金属が上述の多孔質担体に担持されている。貴金属は、金、銀、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムの8種である。触媒成分は貴金属の金属単体でもよいし、貴金属の酸化物でもよいし、貴金属の1種以上を含む合金であってもよい。触媒成分が合金である場合は貴金属と非貴金属との合金であってもよく、そのような場合は、合金中の好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは合金のすべてが貴金属であることが望ましい。
【0028】
上述の触媒成分の担持形態については、液体推進剤が流れる状況において触媒成分が多孔質担体から剥離しない程度の結合が存在している限り、特に限定は無い。触媒効率の観点から、好適には、多孔質担体の表面に1~100μmの厚さで触媒成分が担持されている。
【0029】
触媒性能やコストなどの観点から、本発明の燃焼触媒の全質量に占める貴金属の質量は、好ましくは0.5~10.0wt%である。
【0030】
触媒成分を多孔質担体に担持させる方法は特に限定は無く、上述の特許文献2などの従来技術を適宜参照することができる。非限定的な例として、イオン交換法、含浸法、デップ法、スプレー法などにより多孔質担体に触媒成分を付着させた後、焼成する方法が挙げられる。
【0031】
好適例として、貴金属元素を含む化合物を含む液状体を用いる方法を説明する。
液状体は、塗布可能な程度の流動性を有していればよく、溶液であってもよいし、懸濁液であってもよい。好適には、液状体において貴金属元素はカチオンの状態で溶解していて、各貴金属の酸塩溶液などが挙げられる。前記酸塩溶液としては、塩酸塩溶液、硝酸塩溶液などが挙げられる。液状体の媒体は特に限定は無く、アルコールなどが挙げられる。
【0032】
得られた液状体を種々の手段により多孔質担体に付着させることができる。付着の手段としては、刷毛または筆による多孔質担体への塗布、液状体への多孔質担体の浸漬、スプレーまたは噴霧による多孔質担体への付着などが挙げられる。各付着手段の実施においては、従来技術を適宜参照して条件などを定めることができる。
【0033】
液状体を付着させた多孔質担体を加熱することにより、液状体中の貴金属元素が多孔質担体上で焼結して、多孔質担体に担持された状態の貴金属元素の金属単体又は合金を得ることができる。焼成条件などは、貴金属の焼成技術や金属担持などに関する従来技術を適宜参照することができる。貴金属の場合は空気中での300~700℃程度での加熱などが挙げられる。
【0034】
上記に例示されるような方法により、多孔質担体上に貴金属元素を含む金属単体又は合金を含む触媒成分が担持してなる、本発明の燃焼触媒を得ることできる。このような方法で燃焼触媒を得た場合は、得られた燃焼触媒の比表面積は、原料の多孔質担体の比表面積の概ね80~98%程度になる。
【0035】
本発明の燃焼触媒については、上述したADN含有液体推進剤を燃焼させる際に共存させることで、燃焼触媒として用いることができる。共存の形態については特に限定は無く、例えば、ADN含有液体推進剤を燃焼させるべき場所に本発明の燃焼触媒を設置しておくことなどが考えられる。
【0036】
本発明の燃焼触媒の使用例として、飛翔体推進装置の燃焼室の少なくとも一部に本発明の燃焼触媒を充填しておく態様が考えられる。ここで、飛翔体はロケットや人工衛星などが挙げられる。このような飛翔体では、ADN含有液体推進剤を燃焼して得られるガスにより推進力が得られる。ADN含有液体推進剤を燃焼させるべき領域を燃焼室と呼び、燃焼室を含む飛翔のための駆動系を推進装置と呼ぶ。
【0037】
図1は、本発明の推進装置の一例の模式断面図である。
ADN含有液体推進剤は導入管13を通りインジェクタ14によって触媒層12に噴射される。この際インジェクタの構造は公知の技術を用いて良い。ADN含有液体推進剤は触媒層12に噴射され、分解・着火し燃焼室11内で燃焼し、燃焼ガスがノズル15より排出され飛翔体は推進力を得る。
【0038】
触媒層12には本発明の燃焼触媒が充填されている。充填の態様や充填量などについては特に限定は無く、必要に応じて適宜設定することができる。この推進装置の使用時には、触媒層12を加熱することにより、本発明の燃焼触媒の触媒作用が働いてADN含有液体推進剤が燃焼し、推進力を与えるためのガスが生成する。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例で用いる各化合物は以下のようにして得た。
【0041】
モノメチルアミンナイトレート(MMAN)は、以下のように合成した。
モノメチルアミン40%水溶液146.5部に、70%硝酸187.6部を滴下して10℃以下で撹拌して反応させた。反応後、得られた水溶液を60℃、30mmHgの条件で水を留去させ、モノメチルアミンナイトレートの飽和水溶液を得た。モノメチルアミンナイトレートの飽和水溶液をイソプロピルアルコール280部に入れ撹拌させて、モノメチルアミンナイトレートの結晶を析出させた。得られた結晶を濾別し、イソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させて、モノメチルアミンナイトレート186.4部を得た。
【0042】
アンモニウムジニトラミド(ADN)及び尿素は、市販品を用いた。
【0043】
液体推進剤を製造するために、ADNと、MMANと、尿素とを質量比率4:4:2で室温にて混合し、60℃で1時間静置することにより共融イオン液体を得た。得られた共融イオン液体を液体推進剤として用いた。
【0044】
多孔質担体として、市販のアルミナボール(瀬戸チップ工業製、直径3mm)を用いた。このアルミナボールの比表面積は175m2/gである。
【0045】
触媒成分を多孔質担体に担持させるために、以下のように塗布液を調製した。
・塗布液1
触媒用の金属原料として塩化イリジウム(IV)酸六水和物を、有機溶媒として塩酸を1質量%含有させたイソプロパノールを用い、金属原料と有機溶媒とのモル比が2:10になるように配合し、窒素雰囲気下で1時間撹拌することで、塗布液1を調製した。
・塗布液2
触媒用の金属原料として、塩化白金(IV)酸六水和物を用いた他は、塗布液1と同様にして塗布液2を調製した。
・塗布液3
触媒用の金属原料として、塩化パラジウム(II)を用いた他は、塗布液1と同様にして塗布液3を調製した。
・塗布液4
触媒用の金属原料として、塩化ロジウム(III)水和物を用いた他は、塗布液1と同様にして塗布液4を調製した。
・塗布液5
触媒用の金属原料として、塩化ルテニウム(II)水和物を用いた他は、塗布液1と同様にして塗布液5を調製した。
・塗布液6
塗布液1と塗布液2を、IrとPtのモル比が1:1となるように混合し、塗布液6を調製した。
・塗布液7
塗布液1と塗布液3を、IrとPdのモル比が1:1となるように混合し、塗布液7を調製した。
・塗布液8
塗布液1と塗布液4を、IrとRhのモル比が1:1となるように混合し、塗布液8を調製した。
・塗布液9
塗布液1と塗布液5を、IrとRuのモル比が1:1となるように混合し、塗布液9を調製した。
【0046】
上記のようにして得た各塗布液1~9を、上述の孔質担体の表面に刷毛塗り法で塗布し、空気中で400℃にて1時間焼成した。焼成後、常温で3時間静置し、各燃焼触媒1~9を作製した。
【0047】
塗布液を塗らずに上述の孔質担体を上記と同じ条件で焼成したものを燃焼触媒10とした。
【0048】
燃焼触媒1~10のそれぞれにおいて、触媒成分の厚さ、燃焼触媒における触媒成分の質量割合は以下のとおりであった。
燃焼触媒 厚さ 触媒成分の質量割合
燃焼触媒1 7.5μm 5.6wt%
燃焼触媒2 7.0μm 5.0wt%
燃焼触媒3 8.3μm 3.3wt%
燃焼触媒4 7.1μm 2.9wt%
燃焼触媒5 7.5μm 3.1wt%
燃焼触媒6 8.0μm 5.8wt%
燃焼触媒7 8.1μm 4.6wt%
燃焼触媒8 7.9μm 4.6wt%
燃焼触媒9 7.5μm 4.4wt%
燃焼触媒10 (触媒成分無し)
【0049】
上述の液体推進剤及び燃焼触媒1~10をそれぞれ用いて、実験例1~10としての燃焼性評価を行った。実験は以下の方法で行った。
1)るつぼ底面に燃焼触媒を敷き詰め、外部から設定温度にまで加温した。
2)燃焼触媒表面温度が設定温度に到達後、1滴の液体推進剤を燃焼触媒表面に滴下した。
3)火炎が目視されれば燃焼(〇)、目視できなければ不燃焼(×)であると判断した。
【0050】
評価結果を以下に示す。なお、本発明の実施例に相当する実験例には*印を付した。
実験例 触媒成分 300℃ 350℃ 400℃ 450℃ 500℃
実験例1* Ir × × 〇 〇 〇
実験例2* Pt × × × 〇 〇
実験例3* Pd × × × 〇 〇
実験例4* Rh × × × 〇 〇
実験例5* Ru × × × 〇 〇
実験例6* Ir+Pt × 〇 〇 〇 〇
実験例7* Ir+Pd × × 〇 〇 〇
実験例8* Ir+Rh × × × 〇 〇
実験例9* Ir+Ru × × × 〇 〇
実験例10 触媒成分無し × × × × ×
【0051】
以上のとおり、実施例では、ADN含有液体推進剤に燃焼助剤を加えずとも、良好な着火状態を得ることができた。