(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136806
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】インダクタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20220913BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01F17/06 D
H01F17/06 F
H01F41/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036597
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
(72)【発明者】
【氏名】八巻 真
(72)【発明者】
【氏名】大西 直人
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062FF02
5E070AA01
5E070AB10
5E070BB02
5E070CA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コアに発生するクラックの抑制を図ることが可能なインダクタを提供する。
【解決手段】インダクタ10は、平面上に延在するコイル導体11が埋設されたコア12を備えている。コイル導体11は、平面上に延在する方向に垂直な断面形状が、水平方向に扁平な楕円形である。コア12は、充填率が80体積%以上100体積%未満の磁性金属体を有する。コイル導体11の断面形状における楕円形の外周の周長のうち合計75%以上100%以下の長さの部分に磁性金属体が食い込んでいる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に延在するコイル導体が埋設されたコアを備えるインダクタであって、
前記コイル導体は、前記延在する方向に垂直な断面形状が前記平面上に長軸を有する楕円形であり、
前記コアは、充填率が80体積%以上100体積%未満の磁性金属体を有し、
前記コイル導体の前記断面形状における前記楕円形の外周の周長のうち合計75%以上100%以下の長さの部分に前記磁性金属体が食い込んでいることを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記磁性金属体は、粉末状のFe系アモルファスからなることを特徴とする請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記コイル導体の前記断面形状における実外周の表面粗さRzが5μm以上40μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記コイル導体の断面形状における実外周の全長は、前記楕円形の外周の全長の1.1倍以上2.5倍以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記コイル導体の前記断面形状における前記楕円形の外周に、絶縁体が前記磁性体金属体の平均粒径以下の厚みで存在することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記コイル導体の延在する方向と直交する垂直方向における断面形状における楕円形は、長径が短径の1.3倍以上2.0倍以下であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のインダクタ。
【請求項7】
前記コイル導体の水平方向に位置する前記コアにおける前記磁性金属体の充填率は、前記コイル導体の垂直方向に位置する前記コアにおける前記磁性金属体の充填率の0.8倍以上1.0倍以下であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載のインダクタ。
【請求項8】
平面の上に延在するコイル導体を前記平面が水平になるように埋設した状態で、磁性金属粉末と結合材とを含む原料粉末を金型内に充填する工程と、
前記原料粉末を充填した前記金型に対して加熱しながら垂直方向に加圧し、前記コイル導体を前記延在する方向に垂直な断面形状が前記平面上に長軸を有する楕円形となるように変形させる工程と、を備えることを特徴とするインダクタの製造方法。
【請求項9】
前記磁性金属粉末はFe系アモルファスからなり、
前記加熱における加熱温度が、前記Fe系アモルファスの軟化温度を超えることを特徴とする請求項8に記載のインダクタの製造方法。
【請求項10】
前記コイル導体の表面に絶縁体膜が被覆されてなり、
前記加熱における加熱温度が、前記絶縁体膜の耐熱温度を超えることを特徴とする請求項8又は9に記載のインダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なインダクタは、強磁性材料またはフェリ磁性材料からなるコアに、電気伝導体からなる線材をコイル状に巻いたものからなる。近年は、高周波領域で作動するコンピュータの電源回路などで好適に使用するために、高周波電流において飽和磁束密度が高い磁性金属粉末にコイル導体を埋設した圧粉磁芯を備えたインダクタが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、特許文献2には、コイル導体の表面に磁性金属粉末が食い込むまで加圧成形することにより、磁性金属粉末が高充填されてなるコアを得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-530217号公報
【特許文献2】国際公開第2009/075110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された技術においては、コイル導体は断面矩形状の平角線であり、加圧成形時に、コイル導体の角部を起点とするクラックがコアに生じ易いという課題がある。なお、特許文献2に開示の技術においては、加圧成形後に加熱することにより、磁性金属粉末の内部歪みを除去しているが、クラックの消滅を図ることは困難である。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、コアに発生するクラックの抑制を図ることが可能なインダクタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインダクタは、平面上に延在するコイル導体が埋設されたコアを備えるインダクタであって、前記コイル導体は、前記延在する方向に垂直な断面形状が前記平面上に長軸を有する楕円形であり、前記コアは、充填率が80体積%以上100体積%未満の磁性金属体を有し、前記コイル導体の前記断面形状における前記楕円形の外周の周長のうち合計75%以上100%以下の長さの部分に前記磁性金属体が食い込んでいることを特徴とする。
【0008】
本発明のインダクタによれば、コイル導体の断面形状が楕円形であって角部が存在しないので、角部を起点としてコアに発生し易いクラックの発生を抑制することが可能になる。また、コアにおける磁性金属体の充填率が80体積%以上と高充填率であり、高インダクタンスのインダクタを得ることが可能となる。さらに、コイル導体の断面形状における楕円形の外周の周長のうち合計75%以上100%以下の長さの部分に磁性金属体が食い込んでいるので、コイル導体とコアとの密着性が高い。
【0009】
なお、コイル導体の断面形状は、その外周から磁性金属体が食い込んでいる場合もあることから、厳密な楕円形ではなく、さらに、水平方向及び垂直方向などにおいて線対称でなくともよい。外周の周長を規定する楕円形は、コイル導体の実断面形状を多数の点の集合体とみなしたうえで、最小二乗法を用いて求められる最も近似する楕円形である。最小二乗法として、例えば、線形最小二乗法、多変量線形最小二乗法、多変量非線形最小二乗法を用いればよい。そして、磁性金属体が食い込んでいる部分の長さとは、この近似した楕円形の外周上又はその内側に磁性金属体が存在している部分の外周における長さをいう。
【0010】
本発明のインダクタにおいて、前記磁性金属体は、粉末状のFe系アモルファスからなることが好ましい。
【0011】
この場合、コアを加圧成形して形成した場合、加圧成形時にFe系アモルファスの軟化温度を超える温度で加熱することにより、Fe系アモルファスが軟化してコイル導体の変形が容易になるので、コアにクラックが生じることをさらに抑制することが可能となる。
【0012】
また、本発明のインダクタにおいて、前記コイル導体の前記断面形状における実外周の表面粗さRzが5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0013】
この場合、コイル導体の断面形状における実外周の表面粗さRzが40μmを超えれば直流抵抗が増大し、5μm未満であれば変形が不十分となるという問題が生じるからである。なお、コイル導体の断面形状における実外周とは、コイル導体の断面形状の実際の外周であり、上述したように近似させた楕円形の外周ではない。そして、実外周の表面粗さRzは、前述した近似する楕円形の外周を平均線としたときの当該平均線に対する垂直方向の偏差を示す曲線を粗さ曲線として十点平均粗さを算出すればよい。
【0014】
また、本発明のインダクタにおいて、前記コイル導体の断面形状における実外周の全長は、前記楕円形の外周の全長の1.1倍以上2.5倍以下であることが好ましい。
【0015】
この場合、前記コイル導体の断面形状における実外周の全長は、前記楕円形の外周の全長の1.1倍未満であれば変形が不十分となり、2.5倍を超えれば直流抵抗が増大するという問題が生じるからである。
【0016】
また、本発明のインダクタにおいて、前記コイル導体の前記断面形状における前記楕円形の外周に、絶縁体が前記磁性体金属体の平均粒径以下の厚みで存在してもよい。なお、磁性体金属体の平均粒径は、粒度頻度の累積が50%になるメジアン径D50を用いればよい。
【0017】
この場合、絶縁体によるコイル導体とコアの密着性はある程度維持されるからである。なお、この絶縁体は、例えば、コイル導体の表面を被覆していた絶縁体膜がコアを熱間加圧成形して形成した際に、残存したものである。
【0018】
また、本発明のインダクタにおいて、前記コイル導体の延在する方向と直交する垂直方向における断面形状における楕円形は、長径が短径の1.3倍以上2.0倍以下であることが好ましい。
【0019】
この場合、丸線からなるコイル導体を埋設した状態で垂直方向に加圧してコアを加圧成形して形成した場合、コアが十分に加圧され、かつコアに生じるクラックを抑制することが可能となる。
【0020】
前記コイル導体の水平方向に位置する前記コアにおける前記磁性金属体の充填率は、前記コイル導体の垂直方向に位置する前記コアにおける前記磁性金属体の充填率の0.8倍以上1.0倍以下であることが好ましい。
【0021】
この場合、コイル導体を埋設した状態で垂直方向に加圧してコアを加圧成形して形成した場合、コアが均一に加圧される。
【0022】
本発明のインダクタの製造方法は、平面の上に延在するコイル導体を前記平面が水平になるように埋設した状態で、磁性金属粉末と結合材とを含む原料粉末を金型内に充填する工程と、前記原料粉末を充填した前記金型に対して加熱しながら垂直方向に加圧し、前記コイル導体を前記延在する方向に垂直な断面形状が前記平面上に長軸を有する楕円形となるように変形させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明のインダクタの製造方法によれば、コイル導体の断面形状が円形から楕円形に変形し角部が存在しないので、角部を起点としてコアに発生し易いクラックの発生を抑制することが可能になる。
【0024】
本発明のインダクタの製造方法において、前記磁性金属粉末はFe系アモルファスからなり、前記加熱における加熱温度が、前記Fe系アモルファスの軟化温度を超えることが好ましい。
【0025】
この場合、加熱によってFe系アモルファスが軟化して、コイル導体の変形が容易になるので、コアにクラックが生じることをさらに抑制することが可能となる。
【0026】
また、本発明のインダクタの製造方法において、前記コイル導体の表面に絶縁体膜が被覆されてなり、前記加熱における加熱温度が、前記絶縁体膜の耐熱温度を超えることが好ましい。
【0027】
この場合、加熱によって絶縁体膜が全て又は大部分が消失するので、コイル導体とコアの密着性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係るインダクタの製造方法を示す断面説明図。
【
図2】本発明の実施形態に係るインダクタを示す説明断面図。
【
図3】
図2のコイル導体の周囲を拡大して模式的に示す説明断面図。
【
図4】実施例1~3におけるインダクタの断面写真図。
【
図5】実施例4,5におけるインダクタの断面写真図。
【
図6】比較例1~3におけるインダクタの断面写真図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係るインダクタの製造方法について
図1から
図3を参照して説明する。本製造方法は、後述する本発明の実施形態に係るインダクタ10を製造する方法であり、主として、コイル導体1を埋設した原料粉末2を金型3に充填させる準備工程と、この金型3を用いて熱間加圧(熱プレス)成形を行う熱間加圧成形工程とを備えている。なお、
図1から
図3は実施形態を模式的に説明するための図であり、寸法はデフォルメされている。
【0030】
準備工程においては、まず、コア12を形成するための原料粉末2を用意する。原料粉末2は、例えば、磁性金属粉末、結合材(バインダ)などを混合して製造した造粒粉である。
【0031】
磁性金属粉末は、例えば、Fe系軟磁性金属粉末であり、Fe、Fe-Si系、Fe-Ni系、Fe-Ni-Mo系、Fe-Si-Al系、Fe-Si-Cr系、Fe系アモルファス、Fe系軟磁性ナノ結晶などから選ばれる少なくとも一種を含むFe系軟磁性材料からなる金属粉末である。磁性金属粉末は、これら二種以上の材料を含む場合、その割合は限定されない。
【0032】
Fe系アモルファスは結晶組織を持たない非晶質である。Fe系アモルファスは、その軟化温度が熱間加圧成形工程における加熱温度以下であり、熱間加圧成形時に軟化してコイル導体1の変形を阻害しないので、磁性金属粉末として特に好ましい。
【0033】
磁性金属粉末は、例えば、その粒径が1μm以上100μm以下であり、より好ましくは1μm以上50μm以下である。磁性金属粉末の粒径分布は、ピークが1つのものであっても複数であってもよい。特に、磁性金属粉末がFe系アモルファス粉末である場合、熱間加圧成形時の加熱によって軟化するもので、必ずしも粒径分布のピークを複数にすることによる磁性金属粉末の充填率の向上を図る必要はない。
【0034】
結合材は、熱硬化性樹脂が好適であり、その樹脂の種類はインダクタ10の用途などに応じて適宜選択すればよい。結合材として用いる樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などであるが、これらに限定されない。
【0035】
結合材の磁性金属粉末に対する添加量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは0.4重量%以上5重量%以下である。さらには、原料粉末2には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の機能性を付与するために、分散剤、潤滑剤、助剤などを含有していてもよい。
【0036】
そして、原料粉末2を、コア12の外形状に倣った形状を有する耐熱性が高い金型3内に、所定の高さまで充填し、上面を水平にならす。
【0037】
次に、上面が水平にならされた原料粉末2の上にコイル導体1を載置する。
【0038】
コイル導体1は、インダクタ10のコイルを構成する導体であり、例えば、金属導体からなるが、熱間加圧成形工程において変形し易いように、銅又は銅合金からなることが特に好ましい。
【0039】
コイル導体1は、延在する方向に垂直な断面(以下、垂直断面という)の形状が円形状の1本の丸線からなる。そして、コイル導体1は、この丸線が、ジグザグ状、波状、S字状、Z字状、N字状、円弧状、渦状などの任意の一筆書きの形状となるように平面上に屈曲されて延在している。すなわち、コイル導体1は、その中心線が所定の平面上に位置する平面コイルである。平面上に延在するコイル導体は、その平面が水平になるように原料粉末2内に埋設される。なお、図示しないが、コイル導体1の両端にはリードフレームなどの外部との接続部が設けられている。
【0040】
コイル導体1の垂直断面の直径は、例えば、0.3mm以上3mm以下であり、より好ましくは0.5mm以上2mm以下である。ただし、コイル導体1の垂直断面は、必ずしも完全な円形状である場合に限定されず、扁平した形状、例えば楕円形状などであってもよい。
【0041】
そして、後述の熱間加圧成形工程に至るまでの表面酸化を防ぐため、コイル導体1は、絶縁体膜4で表面が被覆されていることが好ましい。絶縁体膜4は、例えば、ポリウレタン、ポリアミドイミドなどの耐熱温度が熱間加圧成形工程における加熱温度以下、例えば500℃以下、より好ましくは300℃以下の絶縁性樹脂からなる。絶縁体膜4の厚さは、熱間加圧成形工程において、絶縁体膜4が全て又は大部分が消失するように定めればよく、材質によって相違するが、例えば、30μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。
【0042】
次に、原料粉末2をコイル導体1の上にも追加して、金型3内を原料粉末2で充填させる。これにより、コイル導体1は原料粉末2内に埋設される。ただし、コイル導体1の両端の接続部は、原料粉末2から露出している。
【0043】
次に、例えば、200℃以上550℃以下、より好ましくは400℃以上500℃以下の加熱温度、30秒以上15分以下、より好ましくは30秒以上5分以下の加熱時間、4t/cm2以上15t/cm2以下、より好ましくは、6t/cm2以上10t/cm2以下の加圧力で、加熱しながら加圧する熱間加圧成形工程を行う。加圧方向は垂直方向である。
【0044】
加圧は、上パンチ及び下パンチを用いて上下両方向に同時に加圧することが好ましい。ただし、上方向又は下方向の何れか一方向に加圧しても、上方向と下方向との加圧に時間差を設けてもよい。なお、加圧時に、加圧機に備わる図示しないヒータによって加熱することが好ましい。
【0045】
これにより、本発明の実施形態に係るインダクタ10が得られる。このインダクタ10は、以下で説明するように、熱間加圧成形によって、粉末状の磁性金属体となったものを含むコア12が形成されるとともに、コイル導体1が垂直方向の断面形状が楕円形に変形してコイル導体11となり、さらに、このコイル導体11の表面の少なくとも一部に粉末状の磁性金属体が食い込み、コイル導体11とコア12との間には隙間がほぼ存在しない密着したものとなる。
【0046】
以下、本発明の実施形態に係るインダクタ10について説明する。このインダクタ10は、コイル導体1の巻き数が1である1Tインダクタである。
【0047】
インダクタ10は、垂直方向の断面が楕円形であるコイル導体11がコア12に埋設されており、磁性金属体の充填率が80体積%以上100体積%未満であって、高インダクタンスとなる。
【0048】
さらに、インダクタ10は、
図3から
図5を参照して、コイル導体11の断面形状における楕円形の外周の周長のうち合計75%以上100%以下の長さの部分に粉末状の磁性金属体が食い込んでおり、コイル導体11とコア12との密着性が高い。
【0049】
なお、コイル導体11の断面形状は、その外周から磁性金属体が食い込んでいるなどのように厳密な楕円形ではなく、さらに、水平方向及び垂直方向などにおいて線対称でなくともよい。また、外周の周長を規定する楕円形は、コイル導体11の実断面形状の多数の点の集合体とみなしたうえで、最小二乗法を用いて求められる最も近似する楕円形である。最小二乗法として、例えば、線形最小二乗法、多変量線形最小二乗法、多変量非線形最小2乗法などを用いればよい。そして、磁性金属体が食い込んでいる部分の長さとは、この近似した楕円形の外周上又はその内側に磁性金属体が存在している部分の外周における長さをいう
【0050】
コア12における磁性金属体の充填率は、高インダクタンスを得るために、80体積%以上であるが、90体積%以上であることがより好ましい。磁性金属体の充填率は、部分的に切り出したコア12を実測して得た密度に基づいて算出することができる。
【0051】
コイル導体11の表面に食い込んでいるなどの粉末状の磁性金属体は、前述した磁性金属粉末がそのままの形状で残存しているものであってもよい。コイル導体11の表面に食い込む粉末状の磁性金属体は、例えば、その粒径が1μm以上100μm以下であり、より好ましくは5μm以上50μm以下である。
【0052】
また、コイル導体11の断面形状における実外周の表面粗さRzは、例えば、5μm以上40μm以下であり、より好ましくは5μm以上30μm以下である。これは、この実外周の表面粗さRzが40μmを超えれば直流抵抗が増大し、5μm未満であれば変形が不十分となるという問題が生じるからである。そして、コイル導体11の断面形状における実外周の全長は、例えば、前記楕円形の外周の全長の1.1倍以上2.5倍以下である。
【0053】
なお、コイル導体11の断面形状における実外周とは、コイル導体11の断面形状の実際の外周であり、上述したように近似した楕円形の外周ではない。そして、実外周の表面粗さRzとは、前記近似した楕円形の外周を平均線としたときの当該平均線に対する垂直方向の偏差を示す曲線を粗さ曲線として十点平均粗さを算出すればよい。
【0054】
コイル導体11の延在する方向と直交する垂直方向(加圧方向)の前記近似した楕円形の短径(高さ)hに対する、水平方向(加圧方向と垂直な方向)の長径(幅)wの比は、短径hが1に対して長径wは、例えば、1.3以上2.0以下であり、より好ましくは1.5以上1.8以下である。これにより、適宜な加圧力が作用して磁性金属体が高充填され、高インダクタンスのインダクタ10を得ることが可能となる。さらに、磁性金属体とコイル導体11との間に隙間が生じることが抑制される一方、コア12にクラックが生じることが抑制される。
【0055】
また、コイル導体11の垂直方向と水平方向に存在する磁性金属体の充填率の比は、垂直方向が1に対して水平方向が、例えば0.8以上1.0以下であり、より好ましくは0.9以上1.0以下である。さらに、上方向と下方向における差及び水平方向の一方と他方との差は、例えば、10%以下であり、より好ましくは5%以下である。これらにより、適宜な加圧力が作用して磁性金属体が均一に高充填され、高インダクタンスのインダクタ10を得ることが可能となる。また、磁性金属体とコイル導体11との間に隙間が生じることが抑制される。
【0056】
なお、コイル導体11の表面には、絶縁体膜4が残存していてもよい。残存する絶縁体膜4は、コイル導体11の断面の外周に、絶縁体膜4が粉末状の磁性体金属体の平均粒径以下の厚みで存在してもよい。なお、磁性体金属体の平均粒径は、粒度頻度の累積が50%になるメジアン径D50を用いればよい。また、残存する絶縁体膜4は、10μm以下であることが好ましい。
【0057】
このように、丸線からなるコイル導体1を原料粉末2に埋設した状態で熱間加圧成形を行うことによって、コイル導体11の垂直断面は大略楕円形形状となる。そのため、従来のようにコイル導体が平角線からなる場合とは異なり、コイル導体11に角部が存在しないので、角部を起点としてコア12に発生し易いクラックの発生を抑制することが可能になる。なお、熱間加圧成形前のコイル導体1は必ずしも丸線である必要は無いが、垂直断面が円形から楕円形形状に変形することによるクラック発生の抑制効果を発揮するには、熱間加圧成形前には丸線、又は断面が円形に近い導体であることが望ましい。
【0058】
さらに、コイル導体1は垂直断面が円形状であるので、垂直方向から加圧を受けることによって水平方向へ扁平して楕円形状に容易に変形する。また、この変形によっても磁性金属粉末も移動するので、磁性金属体の充填率が向上する。
【0059】
例えば、従来のようにコイル導体1が平角線である場合、さらに水平方向に延びるように変形することが困難であるとともに、例え変形してもスプリングバックによりコア12にクラックが発生するおそれがある。
【0060】
さらに、磁性金属粉末がアモルファス金属粉末である場合、熱間加圧工程における加熱温度が軟化温度よりも高ければ、アモルファス金属粉末が軟化してコイル導体1の変形を妨げず、加圧力が水平方向に及ぼされてコア12が均一化されるので、クラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0061】
さらに、コイル導体1の表面に被覆する絶縁体膜4の耐熱温度を超える加熱温度で熱間加圧成形を行うことによって、絶縁体膜4の全て又は大部分の消失を図ることが可能となり、コイル導体11に磁性金属粒が食い込むので、コイル導体11とコア12との密着性の向上を図ることが可能となる。
【0062】
なお、本発明は、上述したものに限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、コイル導体11が水平面に延在するものについて説明したが、コイル導体11が延在する面は傾斜平面や垂直面などであってもよい。
【実施例0063】
(実施例1~5,比較例1~3)
原料粉末2として、アモルファス金属粉末を磁性金属粉末とし、エポキシ樹脂を結合材として造粒したものを用いた。結合材の磁性金属粉末に対する添加量は0.4重量%であった。磁性金属粉末の第1結晶温度は400℃であり、第2結晶温度は500℃であった。
【0064】
実施例1~5及び比較例1~3では、コイル導体1は、長さ50mmの一直線状の棒体であった。
【0065】
実施例1~5では、コイル導体1として銅からなる断面が円形状の丸線を用いた。断面の直径は、実施例1では0.10mm、実施例2では0.37mm、実施例3では0.50mm、実施例4では0.17mm、実施例5では0.26mmであった。そして、実施例1~3のコイル導体1の表面には、厚さ12μmの耐熱温度が130℃のポリウレタンが絶縁体膜4として被覆されていた。また、実施例4,5のコイル導体1の表面には、それぞれ厚さ7μm、20μmの耐熱温度が220℃のポリアミドイミドが絶縁体膜4として被覆されていた。
【0066】
比較例1~3では、コイル導体1として銅からなる断面が矩形状の平角線を用いた。断面の高さ及び幅は、比較例1では高さ0.1mm、幅1.0mm、比較例2では高さ0.16mm、幅1.27mm、比較例3では高さ0.45mm、幅1.8mmであった。そして、比較例1~3のコイル導体1の表面には、厚さ15μmの耐熱温度が220℃のポリアミドイミドが絶縁体膜4として被覆されていた。
【0067】
中央にてコイル導体1が水平に延びるように、金型3内に原料粉末2を充填した。これにより、準備工程が完了した。
【0068】
次に、熱間加圧成形工程を行った。これにより、コイル導体11がコア12に埋設されてなるインダクタ10が得られた。そして、このインダクタ10を垂直面が露出するように切断し、その切断面を電子顕微鏡で観察した。
【0069】
実施例1~3においては、
図4に示すように、コイル導体11は垂直断面が大略楕円形状であり、その表面に粉末状の磁性金属体が食い込んでおり、コイル導体11とコア12の隙間が僅かであることが分かった。
【0070】
実施例4,5においては、
図5に示すように、コイル導体11は垂直断面が大略楕円形状であり、その表面に粉末状の磁性金属体が食い込んでいることが分かった。ただし、倍率300倍の顕微鏡写真にて、実施例4ではコイル導体11の断面の右上部に、実施例5ではコイル導体11の断面の上部及び左部に、絶縁体膜4が残存していていた。
【0071】
比較例1~3においては、
図6に示すように、コイル導体11は垂直断面が左右に長い大略長円形状であり、コイル導体11とコア12の間に連続する隙間が、実施例1~5と比較して多く、密着性に劣ることが分かった。また、倍率50倍の顕微鏡写真にて、比較例2ではコイル導体11の断面の左側に、比較例2ではコイル導体11の断面の左側と右側に、クラックが発生していた。