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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136839
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】多孔質金属接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
B01D39/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036636
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000237374
【氏名又は名称】富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄作
【テーマコード(参考)】
4D019
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA02
4D019BB07
4D019BD01
4D019CB06
(57)【要約】
【課題】 十分な接合強度を得る。
【解決手段】 表面に微小凹部a1及び微小凸部a2を多数有する二つの多孔質金属部材1,2における少なくとも一部が重ね合わせられ圧接された接合部10を有し、接合部10では、一方の多孔質金属部材1の微小凸部a2が、他方の多孔質金属部材2の微小凹部a1に入り込んだ状態で、これら微小凸部a2及び微小凹部a1が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向に塑性変形している。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微小凹部及び微小凸部を多数有する二つの多孔質金属部材における少なくとも一部が重ね合わせられ圧接された接合部を有し、
前記接合部では、一方の前記多孔質金属部材の前記微小凸部が、他方の前記多孔質金属部材の前記微小凹部に入り込んだ状態で、これら微小凸部及び微小凹部が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向に塑性変形していることを特徴とする多孔質金属接合体。
【請求項2】
前記接合部では、多数の前記微小凸部及び前記微小凹部が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向であって且つそれぞれランダムな方向に塑性変形していることを特徴とする請求項1記載の多孔質金属接合体。
【請求項3】
前記接合部が二つの前記多孔質金属部材における一部であり、
前記接合部と前記接合部に隣接する部分とは、前記重ね合わせの方向の厚みが略同一であることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質金属接合体。
【請求項4】
二つの前記多孔質金属部材がそれぞれ板状の部材であり、前記接合部は、二つの前記多孔質金属部材における対向する端部側同士が重ね合わせられ圧接された部分であることを特徴とする請求項1~3何れか1項記載の多孔質金属接合体。
【請求項5】
前記各多孔質金属部材の一端部側に、この一端部の延設方向に間隔を置いて複数の切り込みが設けられるとともに、隣接する前記切り込み間が圧接片部を形成しており、
前記接合部では、一方の前記多孔質金属部材における複数の前記圧接片部と、他方の前記多孔質金属部材における複数の前記圧接片部とが、前記延設方向へわたって交互に重ね合わせられ圧接されていることを特徴とする請求項4載の多孔質金属接合体。
【請求項6】
前記接合部は、二つの前記多孔質金属部材の重ね合わせ部分を構成する一方の重ね合わせ面に、前記微小凹部及び前記微小凸部を多数含む凸状部を有し、その他方の重ね合わせ面に、前記微小凹部及び前記微小凸部を多数含むとともに前記凸状部に嵌り合う凹状部を有することを特徴とする請求項1~5何れか1項記載の多孔質金属接合体。
【請求項7】
二つの前記多孔質金属部材を何れも連続気孔の多孔質金属材料により形成することで、フィルターを構成したことを特徴とする請求項1~6何れか1項記載の多孔質金属接合体。
【請求項8】
一方の前記多孔質金属部材と他方の前記多孔質金属部材とを重ね合わせる工程と、これら両方の多孔質金属部材を重ね合わせ方向の両側から押圧して前記接合部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項1~7何れか1項記載の多孔質金属接合体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質金属部材は、多孔体基材に導電化処理をし、次いで電気めっきを施した後、前記多孔体基材を除去してなることを特徴とする請求項8記載の多孔質金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属部材同士を接合してなる多孔質金属接合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されるフィルター素材の接合方法がある。この接合方法では、連通細孔を多数有する2枚のメタルフォーム製フィルター基材について、それぞれの端部側を圧縮し高密度化した後に、高密度化された端部側同士を重ね合わせ、その重ね合わせ部分を溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-144380公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、高密度化された部分の溶接により接合強度を確保しようとするものであるが、作業工数が多く、生産性の改善が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
表面に微小凹部及び微小凸部を多数有する二つの多孔質金属部材における少なくとも一部が重ね合わせられ圧接された接合部を有し、前記接合部では、一方の前記多孔質金属部材の前記微小凸部が、他方の前記多孔質金属部材の前記微小凹部に入り込んだ状態で、これら微小凸部及び微小凹部が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向に塑性変形していることを特徴とする多孔質金属接合体。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上説明したように構成されているので、溶接部分がなくとも十分な接合強度を得ることができ、生産性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る多孔質金属接合体の一例を示す斜視図である。
図2図1の(II)-(II)線に沿う断面図である。
図3】同多孔質金属接合体の製造手順を図2と同じ断面位置にて示す断面図であり、(a)は二つの多孔質金属部材における対向する端部同士を重ね合わせた状態を示し、(b)は重ね合わせ部分を圧接した状態を示す。
図4】圧接せずに重ね合わせられた二つの多孔質金属部材の切断面の顕微鏡写真であり、拡大倍率は50倍である。なお、二つの多孔質金属部材のうち、図示の上側の多孔質金属部材のみを染料により染めている。
図5】圧接された二つの多孔質金属部材の切断面の顕微鏡写真であり、拡大倍率は50倍である。なお、二つの多孔質金属部材のうち、図示の上側の多孔質金属部材のみを染料により染めている。
図6図5において視認される上側の多孔質金属部材の下端縁線と、同図5において視認される下側の多孔質金属部材の上端縁線とを、それぞれトレースした図である。
図7】本発明に係る多孔質金属接合体の他例であって、重ね合わせ部分以外の部分も圧接した態様を示す縦断面図である。
図8】本発明に係る多孔質金属接合体の他例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)における(VIIIb)-(VIIIb)線に沿う断面図である。
図9】同多孔質金属接合体の製造手順を示す斜視図であり、(a)は切り込みを形成した多孔質金属部材を示し、(b)は同多孔質金属部材について隣接する切り込み間を曲げ加工した状態を示す。
図10】同多孔質金属接合体の製造手順を示す斜視図であり、(a)は二つの多孔質金属部材について圧接片部同士を対向させた状態を示し、(b)は、一方の多孔質金属部材の圧接片と他方の多孔質金属部材の圧接片とを重なわせた状態を示す。
図11】本発明に係る多孔質金属接合体の他例を示し、(a)は平面図、(b)は(a)における(XIb)-(XIb)線に沿う縦断面図である。
図12】同多孔質金属接合体の製造手順を図11(b)と同じ断面位置にて示す断面図であり、(a)は二つの多孔質金属部材における対向する端部同士を重ね合わせた状態を示し、(b)は重ね合わせ部分を圧接した状態を示す。
図13】本発明に係る多孔質金属接合体について、比較実験の結果を示す図及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第1の特徴は、表面に微小凹部及び微小凸部を多数有する二つの多孔質金属部材における少なくとも一部が重ね合わせられ圧接された接合部を有し、前記接合部では、一方の前記多孔質金属部材の前記微小凸部が、他方の前記多孔質金属部材の前記微小凹部に入り込んだ状態で、これら微小凸部及び微小凹部が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向に塑性変形している(図1図13参照)。
【0009】
第2の特徴として、前記接合部では、多数の前記微小凸部及び前記微小凹部が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向であって且つそれぞれランダムな方向に塑性変形している(図5及び図6参照)。
【0010】
第3の特徴は、前記接合部が二つの前記多孔質金属部材における一部であり、前記接合部と前記接合部に隣接する部分とは、前記重ね合わせの方向の厚みが略同一である(図7参照)。
【0011】
第4の特徴は、二つの前記多孔質金属部材がそれぞれ板状の部材であり、前記接合部は、二つの前記多孔質金属部材における対向する端部側同士が重ね合わせられ圧接された部分である(図1図3図7図8、及び図11図12参照)。
【0012】
第5の特徴は、前記各多孔質金属部材の一端部側に、この一端部の延設方向に間隔を置いて複数の切り込みが設けられるとともに、隣接する前記切り込み間が圧接片部を形成しており、前記接合部では、一方の前記多孔質金属部材における複数の前記圧接片部と、他方の前記多孔質金属部材における複数の前記圧接片部とが、前記延設方向へわたって交互に重ね合わせられ圧接されている(図8図10参照)。
【0013】
第6の特徴として、前記接合部は、二つの前記多孔質金属部材の重ね合わせ部分を構成する一方の重ね合わせ面に、前記微小凹部及び前記微小凸部を多数含む凸状部を有し、その他方の重ね合わせ面に、前記微小凹部及び前記微小凸部を多数含むとともに前記凸状部に嵌り合う凹状部を有する(図11図12参照)。
【0014】
第7の特徴として、二つの前記多孔質金属部材を何れも連続気孔の多孔質金属材料により形成することで、フィルターを構成した。
【0015】
第8の特徴として、一方の前記多孔質金属部材と他方の前記多孔質金属部材とを重ね合わせる工程と、これら両方の多孔質金属部材を重ね合わせ方向の両側から押圧して前記接合部を形成する工程とを含む(図3及び図12参照)。
【0016】
第9の特徴として、前記多孔質金属部材は、多孔体基材に導電化処理をし、次いで電気めっきを施した後、前記多孔体基材を除去してなる。
【0017】
<第一の実施態様>
次に、上記特徴を有する多孔質金属接合体及びその製造方法について、その具体例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1に示す多孔質金属接合体Aは、表面に微小凹部a1及び微小凸部a2を多数有する二つの多孔質金属部材1,2について、少なくともその一部(図示例によれば対向する端部同士)を重ね合わせ圧接して接合部10としている。
【0019】
圧接前の各多孔質金属部材1,2は、ニッケル(Ni)を主成分とした多孔体基材(図示せず)に導電化処理をし、次いで電気めっきを施した後、前記多孔体基材を除去することで形成され、その内部に、多数の気孔a(図4参照)を有する。多数の気孔aは、隣接する気孔間を連通した連続気孔である。
圧接前の各多孔質金属部材1,2は、気孔数がインチあたり26~34個、平均気孔径が0.85mmである。
【0020】
なお、前記製法によって製造された各多孔質金属部材1,2は、金属微粉末と溶媒の混合物を発泡樹脂に塗着した後に焼成(焼結)することで得られる、焼結体の金属多孔体とは異なる。本願発明者等は、前記焼結体の金属多孔体を圧接して略同じ外観形状の接合体を作成した場合、プレス強度によっては網目構造が破壊されて母材が灰のように崩れてしまい、当該多孔質金属接合体Aのような接合強度を得られないことを、実験的に確認している。
【0021】
当該多孔質金属接合体Aの応用製品には、例えば複数の母材同士をつなげた広大面積のフィルター等、様々な加工要求がある。そこで、当該多孔質金属接合体Aには、三次元網目構造の破壊が少なく、作業工数を増やさずに容易に加工できる技術が望まれる。
本願発明者等は、試行錯誤の上、ニッケルを主成分として前記製法により多孔質金属部材1,2を作成し、これら多孔質金属部材1,2を圧接すれば、接合部20の金属がもろくなって崩れることもなく、十分な接合強度を得ることができ、しかも、加工性にも優れていることを見出した。
【0022】
各多孔質金属部材1,2の表面と裏面には、気孔aの一部分や、気孔a周囲の壁部の一部分等からなる微小凹部a1及び微小凸部a2が、多数露出している。
【0023】
上記構成の各多孔質金属部材1,2は、所定形状(図示例によれば、矩形平板状)に形成されている。
【0024】
両多孔質金属部材1,2を接合する手順を詳細に説明すれば、先ず、一方の多孔質金属部材1と他方の多孔質金属部材2は、平坦な下金型M1面上で、対向する端部同士が重ね合わせられる(図3参照)。
この重ね合わせ部分は、上金型M2と下金型M1とによって、重ね合わせ方向の両側(図示例によれば上下方向)から挟まれるようにして押圧されることで、圧縮され一体的に接合された接合部10を形成する。
この接合状態において、二枚の多孔質金属部材1,2の上面には、上金型M2による凹状の押圧痕10aが形成される。
【0025】
下金型M1は、硬質金属材料からなり、接合部10を受けるための上面を平坦に形成している。この下金型M1には、例えば、上面を平坦に形成した定盤を用いることが可能である。
【0026】
上金型M2は、硬質金属材料からなり、接合部10を上方から押圧する下端面を、矩形平坦面状に形成している。この上金型M2は、全体としては、例えば直方体状等に構成される。
【0027】
上金型M2において、下端部M2aの縦方向の寸法は、多孔質金属部材1,2の幅方向の寸法W1(図1参照)を含む長さに設定される。
下端部M2aの横方向の寸法は、接合部10における重なり代W2(図3(b)参照)を含む長さに設定される。
【0028】
接合部10においては、気孔a、微小凹部a1及び微小凸部a2等を構成する金属部分が圧縮されて多様な方向に変形している(図5参照)。
【0029】
特に、接合部10において、一方の多孔質金属部材1と他方の多孔質金属部材2の境界付近の構造に注目すれば、一方の多孔質金属部材1(又は2)の微小凸部a2が、他方の多孔質金属部材2(又は1)の微小凹部a1に入り込んだ状態、もしくは嵌り合った状態で、これら微小凸部a2及び微小凹部a1が、重ね合わせの方向に対する交差方向であって且つそれぞれランダムな方向に塑性変形している。
【0030】
ここで、前記「重ね合わせの方向」とは、二枚の多孔質金属部材1,2のうちの一方に対し他方を重ね合わせる方向であり、図2の一例によれば上下方向である。
【0031】
また、前記「重ね合わせの方向に対する交差方向」には、前記重ね合わせ方向に対し直交する方向や、直交せずに交差する方向等を含む。
より具体的に説明すれば、この交差方向には、二枚の多孔質金属部材1,2の並び方向(図2の左右方向)や、この並び方向に交差する方向(図2の奥行方向)、これら並び方向や奥行方向に対しする傾斜方向等を含む。
【0032】
また、前記「ランダムな方向」とは、多数の微小凸部a2及び微小凹部a1が塑性変形する方向が、規則的な方向(例えば、同一方向等)でないことを意味する。
すなわち、前記塑性変形の方向には、前記並び方向の一方や他方、前記奥行方向やその反対側となる手前方向、前記傾斜方向等、多数の方向がある。
【0033】
また、前記塑性変形の態様には、微小凸部a2又は微小凹部a1が前記交差方向の一方のみに変形する態様や、前記交差方向の一方と他方に膨張又は収縮するようにして変形する態様等がある。
【0034】
図5は、上記構成の多孔質金属接合体Aの一実施例について、接合部10の縦断面を顕微鏡撮影した画像である。
また、図6は、図5において視認される多孔質金属部材1の下端縁線と、同図5において視認される多孔質金属部材2の上端縁線とを、それぞれトレースした図である。
これらの図によれば、一方の多孔質金属部材1(又は2)の微小凸部a2が、他方の多孔質金属部材2(又は1)の微小凹部a1に入り込んだ状態で、これら微小凸部a2及び微小凹部a1が、重ね合わせの方向に対する交差方向に塑性変形している部分を、複数箇所確認することができる。
【0035】
そして、微小凸部a2と、この微小凸部a2に入り込んだ微小凹部a1との関係は、ほとんど隙間なく嵌り合った態様や、部分的な隙間を有して嵌り合った態様、食い込むようにして嵌り合った態様、噛み合うようにして嵌り合った態様等として確認することができる。
【0036】
接合部10の圧縮変形後の厚みtは、各多孔質金属部材1(又は2)の圧縮変形前の厚みTに対し、20~40%の範囲内とするのが好ましい。すなわち、この範囲内の下限を下回る場合、接合部10の変形が過剰になり、割れの発生等により強度低下のおそれがある。また、この範囲内の上限を上回る場合には、接合部10における接合強度が著しく低下するおそれがある。
本実施の形態の一例では、厚みtを、厚みTの約1/3にしている。
【0037】
よって、上記構成の多孔質金属接合体Aによれば、一方の多孔質金属部材1の微小凹部a1及び微小凸部a2と、他方の多孔質金属部材2の微小凹部a1及び微小凸部a2とが、上記したように複雑に係合し合っているため、溶接部分がなくとも十分な接合強度を得ることができ、生産性も良好である。
しかも、接合部10において、内部の連続する気孔a及び表面の微小凹部a1は、圧縮されて隙間が小さくなっているものの、溶接等による溶融物が詰まった状態ではないため、通気性を有する。
このため、当該多孔質金属接合体Aは、例えば厨房用のオイルフィルター、産業用空調装置のフィルター、ミストコレクター等の各種フィルターとして用いることができる。
【0038】
<第二の実施態様>
次に、本発明に係る他の実施態様について説明する。なお、以下の示す多孔質金属接合体及びその製造方法は、上記多孔質金属接合体A及びその製造方法について、一部を変更したものであるため、主にその変更部分について詳述する。
【0039】
図7に示す多孔質金属接合体Bは、上記多孔質金属接合体Aについて接合部10と、接合部10に隣接する部分とを、重ね合わせ方向の厚みが略同一になるように構成したものである。
【0040】
詳細に説明すれば、この多孔質金属接合体Bは、接合部10の重なり代W2を含む幅を有する下金型(図示せず)と上金型(図示せず)によって、重ね合わせ方向の両側から挟まれ押圧されることで、接合部10の厚みtと、この接合部10の両側に隣接する部分の厚みt’,t’が略同一になるように圧縮される。
【0041】
よって、図7に例示する多孔質金属接合体Bによれば、上記多孔質金属接合体Aと略同様の作用効果が得られる上、接合部10と隣接部分とでほとんど段差がないため、段差や角部等に起因する応力集中を生じない上、意匠上の体裁にも優れている。
【0042】
なお、他の製造方法としては、接合部10と、接合部10に隣接する部分とを別々に圧縮して、ほとんど段差のない多孔質金属接合体Bを製造することも可能である。
【0043】
<第三の実施態様>
図8(a)(b)に示す多孔質金属接合体Cは、上記多孔質金属接合体Aにおける接合部10を接合部20に置換したものである。
【0044】
この多孔質金属接合体Cの製造手順について説明すれば、先ず、圧接前の各多孔質金属部材1,2の一端部側に、この一端部の延設方向(換言すれば、各多孔質金属部材1,2の幅方向に間隔を置いて複数の切り込み1a,2aが形成される(図9(a)参照)。
次に、図9(b)に示すように、隣接する切り込み1a,1a(2a,2a)間が、図示しない専用治具等により、厚み方向の一方と他方へ交互に曲げられて、矩形平板状の圧接片部1b(2b)が複数形成される。
【0045】
次に、一方の多孔質金属部材1における複数の圧接片部1bと、他方の多孔質金属部材2における複数の圧接片部2bとは、前記一端部の前記延設方向へわたって交互に重ね合わせられる。そして、この重ね合わせ部分は、上述した下金型M1と上金型M2に挟まれて押圧されることで、圧縮変形するとともに一体的に接合されて、接合部20を形成する。
この接合状態において、二枚の多孔質金属部材1,2の上面には、上金型M2による凹状の押圧痕20aが形成される(図8(b)参照)。
【0046】
以上のようにして形成された接合部20では、上下に重なり合った圧接片部1b,2b間において、一方の多孔質金属部材1(又は2)の微小凸部a2が、他方の多孔質金属部材2(又は1)の微小凹部a1に入り込んだ状態で、これら微小凸部a2及び微小凹部a1が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向であって且つそれぞれランダムな方向に塑性変形している。
【0047】
よって、図8(a)(b)に例示する多孔質金属接合体Cによれば、上記多孔質金属接合体Aと略同様の作用効果が得られる上、複数の圧接片部1b,2bによる交互の噛み合いや、圧接片部1bと圧接片部2bの側端部間の接触等により、二枚の多孔質金属部材1,2間の接合強度をいっそう向上することができる。
特に母材を繋げ合わせて曲面を有する金属成形品を得ようとする場合、その繋ぎ合わせ部分の接合強度が懸念されるが、多孔質金属接合体Cでは、繋ぎ合わせ部分に曲面を有する金属製品であっても、上述した噛み合い構造等により、接合強度を比較的高く保持することができる。
【0048】
<第四の実施態様>
図11(a)(b)に示す多孔質金属接合体Dは、上記多孔質金属接合体Aにおける接合部10を接合部30に置換したものであり、上記多孔質金属接合体Aの製造方法において上金型M2を上金型M3(図3参照)に置換することで形成される。
【0049】
多孔質金属接合体Dの製造手順について詳細に説明すれば、先ず、圧接前の一方の多孔質金属部材1と、圧接前の他方の多孔質金属部材2とは、対向する端部同士が重ね合せられる(図12(a)参照)。この工程は、上記多孔質金属接合体Aの製造手順と同様である。
【0050】
次に、前記端部同士の重ね合わせ部分を、複数の上金型M3と、下金型M1とによって、重ね合わせ方向の両側(図示例によれば上下方向)から挟むようにして押圧する。この工程により、前記重ね合わせ部分が、圧縮されて一体的に接合された接合部30を構成する。
この接合状態において、二枚の多孔質金属部材1,2の上面には、複数の上金型M3による複数の凹状の押圧痕30aが形成される。
【0051】
各上金型M3は上下方向へわたる略円柱状に形成され、その下端の平坦部分の周縁が凸曲面状に面取りされている(図12(b)参照)
この上金型M3は、二枚の多孔質金属部材1,2の並び方向に複数(図11の一例によれば左右方向に二つ)設けられ、多孔質金属部材1,2の幅方向にも複数(図11の一例によれば五つ)設けられる。
これら複数の上金型M3は、上端側が連結されており、一体的に上下動する。
【0052】
圧縮変形した接合部30において、二つの多孔質金属部材1,2の重ね合わせ部分を構成する一方の重ね合わせ面には、微小凹部a1及び微小凸部a2を多数含む凸状部31が複数形成される(図11(b)参照)。
また、他方の重ね合わせ面には、微小凹部a1及び微小凸部a2を多数含む凹状部32が、それぞれ凸状部31に嵌り合うようにして複数形成される。
【0053】
接合部30では、上下に嵌り合った凸状部31と凹状部32の間において、一方の多孔質金属部材1(又は2)の微小凸部a2が、他方の多孔質金属部材2(又は1)の微小凹部a1に入り込んだ状態で、これら微小凸部a2及び微小凹部a1が、前記重ね合わせの方向に対する交差方向であって且つそれぞれランダムな方向に塑性変形している。
【0054】
よって、図11(a)(b)に例示する多孔質金属接合体Dによれば、上記多孔質金属接合体Aと略同様の作用効果が得られる上、凸状部31と凹状部32間の嵌り合い及び圧接により、多孔質金属部材1,2の水平方向の移動が制限されることになり、二枚の多孔質金属部材1,2間の接合強度をいっそう向上することができる。
【0055】
<比較実験の結果>
次に、上記構成の多孔質金属接合体について引張強度試験を行った結果を説明する(図13参照)。
本実験では、実施例1~4、及び比較例のそれぞれについて、2枚の多孔質金属部材1,2を、引張速度10[mm/min]にて、引き離す方向へ引張り、引張強度を測定した。なお、本実験は、JISK6850を参考にした独自の試験方法による。
【0056】
本実験では、実施例1~4、及び比較例のそれぞれについて、縦横寸法が40mm×150mm、板厚Tが2mm、5mm、10mmの試験体を各10個ずつ測定し、引張強度の平均値を求めた。
各試験体において、接合部10の圧縮変形後の厚みtは、各多孔質金属部材1,2の圧縮変形前の厚みTの約1/3とした。
多孔質金属部材1,2の重ね合わせ部分を圧縮して接合部10を形成する際の加圧圧力は、5MPとした。
【0057】
実施例1は、多孔質金属接合体Aの基本構造を有する。
実施例2は、多孔質金属接合体Cの基本構造を有する。
実施例3は、多孔質金属接合体Dの基本構造を有する。
【0058】
実施例4は、多孔質金属接合体Cと多孔質金属接合体Dの双方の基本構造を兼ね備えたものである。すなわち、この実施例4は、複数の圧接片部1b,2bを有する多孔質金属接合体C(図8参照)に対し、複数の凸状部31及び凹状部32(図11参照)を形成したものである。
【0059】
また、比較例は、多孔質金属部材1と多孔質金属部材2の対向する重ね合わせ部分を、フラットな金型でプレス圧縮した後、2か所のスポット溶接をしたものである。スポット溶接条件は、通電9サイクル、電流7000A、加圧力0.25MPaである。
【0060】
引張強度の測定結果は、図13の表に示すとおりである。
すなわち、板厚T2mmでは、実施例1~4が、何れも、比較例よりも若干小さかった。
板厚T5mmでは、実施例1,2,4が比較例よりも大きく、実施例3が比較例よりも若干小さかった。
板厚T10mmでは、実施例3,4が比較例よりも大きく、実施例1,2が比較例よりも若干小さかった。
【0061】
これらの結果より、実施例1~4では、板厚Tを適宜に選定すれば、スポット溶接したものと同等又は同等以上の引張強度を得られるものといえる。
【0062】
<他の変形例>
上記実施態様によれば、インチあたりの気孔数や、平均気孔径を、一方の多孔質金属部材1と他方の多孔質金属部材2で略同一にしたが、他例としては、前記気孔数及び/又は平均気孔径を、一方の多孔質金属部材の気孔率と、他方の多孔質金属部で異ならせることも可能である。
【0063】
また、上記実施態様によれば、厚みを、一方の多孔質金属部材1と他方の多孔質金属部材2で略同一にしたが、他例としては、前記厚みを、一方の多孔質金属部材と他方の多孔質金属部で異ならせることも可能である。
【0064】
また、上記実施態様によれば、多孔質金属部材1の一方の面の一部分と、多孔質金属部材2の一方の面の一部分を重ね合わせて圧接したが、他例としては、多孔質金属部材1の一方の面の全面と、多孔質金属部材2の一方の面の全面とを重ね合わせて圧接することも可能である。
【0065】
また、上記実施態様において、圧接部分の形状は、上述した平坦面状や円形状以外の形状にすることが可能である。すなわち、圧接部分の形状は、上金型の形状を変えることにより、例えば、三角形状や六角形状等の多角形状や、星形等の特定の図形状、文字形状等とすることが可能である。
【0066】
また、上記実施形態では、多孔質金属部材1と多孔質金属部材2の重なり合う部分を、溶接することなく、上述した圧接のみによって十分な接合強度を得ているが、他例としては、前記重なり合う部分を、上記のように圧接するのに加えて、溶接することも可能である。
【0067】
また、本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
1,2:多孔質金属部材
1a,2a:切り込み
1b,2b:圧接片部
10,20,30:接合部
31:凸状部
32:凹状部
A~D:多孔質金属接合体
M1:下金型
M2,M3:上金型
a:気孔
a1:微小凹部
a2:微小凸部
図1
図2
図3
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図13