(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136900
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】栽培施設および栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20220913BHJP
A01G 22/63 20180101ALI20220913BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G7/00 601Z
A01G22/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036726
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塙 千尋
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB17
2B022DA08
2B022DA17
(57)【要約】
【課題】胡蝶蘭の生長時期に最適な温度条件および照射条件とすることで、胡蝶蘭の生育を促進することが可能な栽培装置および栽培方法を提供する。
【解決手段】幼苗生長期間(S1)、花茎生長期間(S2)、開花期間(S3)、順化期間(S4)を経て生長する胡蝶蘭の花茎生長期間(S2)において用いられ、明期に遠赤色光を含む人工光を照射し、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定された照射手段(21)と、暗期の栽培温度を15~18℃となるように調節する温度調節手段(22)とを備える、栽培装置(20)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭の栽培施設であって、
前記花茎生長期間の胡蝶蘭を栽培する低温室と、
前記開花期間の胡蝶蘭を栽培する栽培室と、
前記順化期間の胡蝶蘭を栽培する順化室とを備え、
前記低温室は、
明期に遠赤色光を含む人工光を照射する第1照射手段と、
明期および暗期の栽培温度を調節する第1温度調節手段とを含み、
前記栽培室は、
明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第2照射手段と、
前記低温室よりも相対的に高温な栽培温度となるよう調節する第2温度調節手段とを含む、栽培施設。
【請求項2】
前記第1照射手段は、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定されている、請求項1に記載の栽培施設。
【請求項3】
前記低温室および前記栽培室において、
前記胡蝶蘭は多段状に配置されている、請求項1または2に記載の栽培施設。
【請求項4】
前記順化室は、
明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第3照射手段と、
明期の栽培温度を20~30℃となるように調節し、暗期の栽培温度を15~20℃の温度に調節する第3温度調節手段とを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の栽培施設。
【請求項5】
前記順化室は、太陽光取入れ手段を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の栽培施設。
【請求項6】
幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭を栽培施設で栽培するための栽培方法であって、
前記花茎生長期間の胡蝶蘭を低温室で栽培する工程と、
前記開花期間の胡蝶蘭を栽培室で栽培する工程と、
前記順化期間の胡蝶蘭を順化室で栽培する工程とを備え、
前記低温室で栽培する工程において、
明期に21~24℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含む人工光を[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように照射する工程と、
暗期に15~18℃の温度に調節する工程と、
を備える、栽培方法。
【請求項7】
前記栽培室で栽培する工程において、
明期に24~27℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含まない人工光を照射する工程と、
暗期に19~22℃の温度に調節する工程とをさらに備える、請求項6に記載の栽培方法。
【請求項8】
前記順化室で栽培する工程において、
明期に20~30℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含まない人工光を照射する工程と、
暗期に15~20℃の温度に調節する工程とをさらに備える、請求項6または7に記載の栽培方法。
【請求項9】
前記順化室で栽培する工程において、屋外と同じ照射条件で栽培する工程をさらに備える、請求項6または7に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に、胡蝶蘭の栽培施設および栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の胡蝶蘭の栽培方法として、たとえば特許文献1(特開2016-202108号公報)などが知られている。
【0003】
特許文献1は、ファレノプシス(胡蝶蘭)の生長時期に合わせて太陽光と併せて人工光を照射する栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、胡蝶蘭を所定の温度条件および照射条件で栽培することで、比較的短時間で胡蝶蘭を生産できると開示している。しかし、たとえば開花誘導期では十分に生長するまでに4か月も要しており、更なる期間の短縮が望まれる。
【0006】
この課題を解決するため、本発明は、胡蝶蘭の生長時期に最適な温度条件および照射条件とすることで、胡蝶蘭の生育を促進することが可能な栽培施設および栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る栽培施設は、幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭の栽培施設である。栽培施設は、花茎生長期間の胡蝶蘭を栽培する低温室と、開花期間の胡蝶蘭を栽培する栽培室と、順化期間の胡蝶蘭を栽培する順化室とを備える。低温室は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射する第1照射手段と、明期および暗期の栽培温度を調節する第1温度調節手段とを含む。栽培室は、明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第2照射手段と、低温室よりも相対的に高温な栽培温度となるよう調節する第2温度調節手段とを含む。
【0008】
好ましくは、第1照射手段は、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定されている。
【0009】
好ましくは、低温室および栽培室において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。
【0010】
好ましくは、順化室は、明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第3照射手段と、明期の栽培温度を20~30℃となるように調節し、暗期の栽培温度を15~20℃の温度に調節する第3温度調節手段とを含む。
【0011】
好ましくは、順化室は、太陽光取入れ手段を含む。
【0012】
本発明の栽培方法は、幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭を栽培施設で栽培するための栽培方法である。栽培方法は、花茎生長期間の胡蝶蘭を低温室で栽培する工程と、開花期間の胡蝶蘭を栽培室で栽培する工程と、順化期間の胡蝶蘭を順化室で栽培する工程とを備える。栽培方法は、低温室で栽培する工程において、明期に21~24℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含む人工光を[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように照射する工程と、暗期に15~18℃の温度に調節する工程とを備える。
【0013】
好ましくは、栽培室で栽培する工程において、明期に24~27℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含まない人工光を照射する工程と、暗期に19~22℃の温度に調節する工程とをさらに備える。
【0014】
好ましくは、栽培方法は、順化室で栽培する工程において、明期に20~30℃の温度に調節し、かつ遠赤色光を含まない人工光を照射する工程と、暗期に15~20℃の温度に調節する工程とをさらに備える。
【0015】
好ましくは、栽培方法は、順化室で栽培する工程において、屋外と同じ照射条件で栽培する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の栽培施設および栽培方法によれば、胡蝶蘭の生長時期に最適な温度条件および照射条件とすることで、胡蝶蘭の生育を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係る栽培装置、栽培方法及び栽培施設を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態に係る栽培装置を示す模式図である。
【
図3】花茎生長に好適な光質を調べた実験例の結果を示すグラフであり、(a)は実験例1の結果を示し、(b)は実験例2の結果を示し、(c)は実験例3の結果を示し、(d)は実験例4の結果を示す。
【
図4】花茎生長の促進効果について調べた実験例の結果を示すグラフである。
【
図5】判別手段の実施の形態1を備える栽培装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】判別手段の実施の形態1を備える栽培装置の制御方法を示すフローチャートである。
【
図7】判別手段の実施の形態2を備える栽培装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】判別手段の実施の形態2を備える栽培装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
(胡蝶蘭の栽培方法について)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る栽培方法について説明する。本実施の形態に係る栽培方法は、幼苗生長期間S1、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4を経て生長する胡蝶蘭の栽培方法である。胡蝶蘭は、その花弁の大きさで3種類に大別でき、ミニ(花弁の直径が3~5cm)、ミディ(花弁の直径が5~9cm)および大輪(花弁の直径が10cm以上)と区別できる。本実施の形態では、ミニ胡蝶蘭の栽培方法を例として説明するが、これに限定されない。
【0020】
胡蝶蘭は、自然受粉の確率が極めて低く、1株が開花するまでに2年以上の栽培期間を要する。そのため時間的・費用的な効率の観点から、工業的にはメリクロン苗を用いる栽培方法が一般的である。幼苗生長期間S1は、栽培方法の違いから、前期、後期と区別できる。
【0021】
幼苗生長期間(前期)S1では、胡蝶蘭は高温高湿環境下で栽培され、たとえば25~30℃の温度条件下で栽培される。胡蝶蘭は単茎植物であるため、栽培管理下では1つの新芽が形成された後、さらなる新芽は形成されない。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、メリクロン苗を約1年8ヶ月程度フラスコ内で栽培する。
【0022】
幼苗生長期間(後期)S1では、生長したメリクロン苗を水苔などの培地が収容されたポットに植え替え、高温高湿環境下で栽培する。胡蝶蘭は着生植物であるため、根が培地に着生し、茎および葉が生長する。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、約6ヶ月程度ポットで栽培する。これにより、胡蝶蘭の幼苗が形成される。
【0023】
胡蝶蘭の幼苗が形成された後の工程である花茎生長期間S2では、幼苗の花茎を伸長するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培する。花茎とは、蕾をつける茎のことを指し、茎頂に蕾が形成される前の茎、および茎頂に蕾が形成された後の茎を含む。花茎生長期間S2において、明期に21~24℃の温度に調節し、暗期に15~18℃の温度に調節するよう栽培する。花茎生長期間S2中は、蕾は形成されない。すなわち、当該期間は、純粋な花茎のみが伸長する期間である。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、約8週間程度栽培する。工業的に生産される胡蝶蘭の花茎は、伸長に伴い茎頂部が垂れ下がるように生長するものの、その長さは胡蝶蘭の丈や後に形成できる蕾の数に大きな影響を与える要素である。花茎の長さは花茎生長期間S2中にある程度決定されるため、この期間の長さを調節することで、出荷時の胡蝶蘭の見た目を調節することができる。
【0024】
本実施の形態の花茎生長期間S2は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射して栽培する。人工光の光量は、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定される。[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率は、15.0以上の場合に花茎の伸長促進効果が見られなかったことから、上限値は15.0としたが、より確実に胡蝶蘭に遠赤色光を照射する観点から、12.0以下であることが好ましい。また、より花茎の伸長を促進する観点から、7.5以下であることがより好ましい。しかしながら、遠赤色光の光量が多すぎてもたとえば生長阻害のおそれなどがあることから、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率の下限値は4.5とした。本実施の形態では、花茎生長期間S2に遠赤色光を照射するため、遠赤色光を照射しない場合に比して同期間における花茎の伸長量を促進することができる。なお、本発明者は、花茎生長期間S2に遠赤色光を照射しても、蕾の形成に対して(たとえば蕾の形成を早める等)ほとんど影響を及ぼさないことを見出している。
【0025】
本実施の形態の栽培方法では、人工光としてたとえばLED、蛍光灯、電球などを光源とする光が挙げられるが、葉表面の温度上昇を防止する観点から、LEDを光源として用いることが好ましい。これにより、胡蝶蘭の葉焼け防止効果が期待でき、葉表面への水やり作業が不要となる。すなわち本実施の形態の光源は、赤色(R)、青色(B)、緑色(G)、および遠赤色光(Fr)LEDである。なお、各LEDは、典型的にはR=660nm、B=460nm、G=530nm、Fr=730nmをピーク波長として含むものである。
【0026】
本実施の形態の光源は、光質がたとえばR:G:B=20:3:2の比率であり、かつ、R/Fr=3~11の比率であるものを使用した。しかしながら、光質は胡蝶蘭の品種や生育状況に好適な比率のものが使用されるべきであり、上記比率は例示的なものである。
【0027】
本実施の形態の花茎生長期間S2は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0028】
本実施の形態の花茎生長期間S2における人工光は、光量を表す指標である光量子束密度(PFD)が170~210μmolm-2s-1である。生長に十分な光合成量を確保する観点から、PFDは180μmolm-2s-1以上であることが好ましい。また、PFDの中で光合成に寄与する光の光量を表す指標である光合成光量子束密度(PPFD)は、少なくとも160μmolm-2s-1以上であることが好ましい。PPFDに含まれる光量は赤色(R)、青色(B)、緑色(G)光の光量であり、遠赤色光(Fr)の光量は含まれない。すなわち、人工光のPFDは、下記式のように切り分けてみることもできる。これにより、生長に十分な光量を確保できるため、完全人工光で栽培をすることができる。
式:PFD(μmolm-2s-1)=160(RBGの光量)+10~50(Frの光量)
【0029】
開花期間S3では、蕾が形成され、開花するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培する。胡蝶蘭は低温条件下で栽培した後、栽培温度を上昇させることで開花スピードが速くなるという特性を有している。そのため、開花期間S3は、花茎生長期間S2の栽培温度よりも相対的に高温条件下で栽培する。本実施の形態の栽培方法では、明期に24~27℃の温度に調節し、暗期に19~22℃の温度に調節するよう栽培する。開花期間S3は、蕾が形成されながら花茎が伸長し(開花期間前期)、一定期間後に蕾が開花する(開花期間後期)。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、開花期間S3として約6~8週間程度栽培する。
【0030】
本実施の形態の栽培方法は、開花期間S3の明期には遠赤色光を含まない人工光を照射する。これは、開花期間S3中に遠赤色光を照射しても、蕾の数、花茎の伸長量、および開花速度について有意な差が見い出されなかったためである。換言すれば、遠赤色光は、胡蝶蘭の開花期間S3に影響を与えるものではないと言うことができる。開花期間S3の明期に用いる人工光は、具体的には赤色(R)、緑色(G)、青色(B)LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。胡蝶蘭が十分に生長するため、人工光の光量子束密度(PFD)は、160μmolm-2s-1以上であることが好ましい。
【0031】
本実施の形態の開花期間S3は、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。人工光は明期にのみ照射し、暗期には照射しない。本実施の形態の栽培方法は人工光栽培であるため、実際の外環境の明暗周期と関係なく栽培できる。換言すれば、季節や時間によらず、1年中胡蝶蘭を栽培することができる。
【0032】
順化期間S4では、管理環境下で栽培された胡蝶蘭が外環境に慣れるように栽培する。本実施の形態の栽培方法では、順化期間の明期には、赤色、緑色、青色LEDを含む人工光を照射して栽培する。人工光の光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるよう設定される。また、人工光の光量子束密度(PFD)は、たとえば40μmolm-2s-1以上である。なお、順化期間S4に用いる光源は、人工光のみでもよいが、太陽光と併用してもよいし、後述するように太陽光のみでもよい。人工光のみで栽培する場合、栽培の効率化の観点から、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培することが好ましい。
【0033】
また、順化期間S4は屋外と同じ照射条件で栽培してもよい。すなわち、胡蝶蘭を太陽光で、かつ外環境と同じ明暗周期で栽培してもよい。温度条件は、開花期間S3の栽培温度から出荷時の外環境の温度帯に近づけていくように調節することが好ましい。すなわち、順化期間S4では、明期に20~30℃、暗期に15~20℃の範囲で栽培する。たとえばミニ胡蝶蘭の場合、順化期間S4では約2週間程度栽培する。これにより、胡蝶蘭を順化期間S4を経ないで出荷する場合と比較して長持ち(開花状態を長く維持)させることができる。
【0034】
なお、本実施の形態の栽培方法は、胡蝶蘭の栽培方法として記載したが、同様の栽培方法を採用するラン科の植物に対しても好適に採用することができる。
【0035】
(栽培施設について)
次に、幼苗生長期間S1、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4を経て生長する胡蝶蘭の栽培施設1について説明する。本実施の形態の栽培施設1は、花茎生長期間S2の胡蝶蘭を栽培する低温室2と、開花期間S3の胡蝶蘭を栽培する栽培室3と、順化期間S4の胡蝶蘭を栽培する順化室4とを備える。
【0036】
低温室2は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射する第1照射手段21と、明期および暗期の栽培温度を調節する第1温度調節手段22とを含む。低温室2は、人工光で胡蝶蘭を栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0037】
低温室2において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。多段状とは、胡蝶蘭が収容された栽培棚が、垂直方向に複数設けられた形態や、階段状にずれて配置された形態などを指す。本実施の形態の低温室2は、2~6段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、低温室2内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0038】
第1照射手段21は、胡蝶蘭の花茎生長期間S2に適した光源を提供する手段であり、遠赤色光を含むことを特徴とする。第1照射手段21は、好ましくは胡蝶蘭の上方に設置される。
【0039】
第1温度調節手段22は、低温室2内を花茎生長期間S2に適した栽培温度に調節する手段である。第1温度調節手段22は、作業者が手動で温度調節を行ってもよいし、温度計および照度センサなどの外部部材からの情報に基づいて自動で温度調節を行ってもよい。
【0040】
栽培室3は、明期に遠赤色光を含まない人工光を照射する第2照射手段31と、低温室2よりも相対的に高温な栽培温度となるよう調節する第2温度調節手段32とを含む。栽培室3は、人工光で栽培する室であるため、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0041】
栽培室3において、胡蝶蘭は多段状に配置されている。本実施の形態の栽培室3は、2~4段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、栽培室3内の移動に要する労力を減らすことができ、作業者の時間的・体力的な負担を減らすことができる。
【0042】
第2照射手段31は、胡蝶蘭の開花期間S3に適した光源を提供する手段であり、遠赤色光を含まないことを特徴とする。第2照射手段31は、好ましくは胡蝶蘭の上方に設置される。
【0043】
第2温度調節手段32は、栽培室3内を開花期間S3に適した栽培温度に調節する手段である。第2温度調節手段32は、作業者が手動で温度調節を行ってもよいし、温度計および照度センサなどの外部部材からの情報に基づいて自動で温度調節を行ってもよい。
【0044】
順化室4は、人工光を照射する第3照射手段41と、外環境と近い栽培温度となるよう調節する第3温度調節手段42とを含む。順化室4は、人工光または太陽光の少なくともいずれか一方で栽培することができる。人工光で栽培する場合、壁面が遮光性を有する部材で構成されていてもよい。
【0045】
太陽光で栽培する場合、順化室4は、壁面に太陽光取入れ手段43を含む。太陽光取入れ手段43は、少なくとも順化室4の天井壁または側壁のいずれかに設けられ、室内に太陽光を入光できる構成であればよい。太陽光取入れ手段43は、たとえばアクリル板、ガラス板、ビニールシートなどの透光性を有する部材である。
【0046】
順化室4において、胡蝶蘭は1段または多段状に配置されている。本実施の形態の順化室4は、1~4段の棚で構成された栽培棚を有している。これにより、栽培面積を抑えることができ、栽培に要するコストを抑えることができる。また、太陽光で栽培する場合、全ての胡蝶蘭に太陽光を行き渡らせる観点から、上下の棚が垂直方向に重ならない位置にずれて配置されることが好ましい。
【0047】
なお、各室には、上記の構成の他、湿度センサ、照度センサなどを設けてもよい。室内の湿度、照度などを計測することで、花茎生長期間S2、開花期間S3、順化期間S4の胡蝶蘭を栽培するのに適した環境となるよう室内を管理することができる。
【0048】
(栽培装置について)
次に、
図2を参照して、本実施の形態に係る栽培装置20について説明する。
図2は、栽培装置20の模式図である。
【0049】
栽培装置20は、花茎生長期間S2の胡蝶蘭に対して好適に用いられる。栽培装置20は、明期に遠赤色光を含む人工光を照射し、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるように設定された照射手段21と、暗期の栽培温度を15~18℃となるように調節する温度調節手段(図示せず)とを備える。
【0050】
本実施の形態に係る栽培装置20は、胡蝶蘭の底面から水を染み込ませる底面灌水方式を採用する。栽培装置20は、概略的には、栽培棚23と、栽培棚23に配置される水受け24と、水受け24の内部に配置され、胡蝶蘭を収容する収容容器25とを備える。
【0051】
栽培棚23は、たとえば複数の柱232と、複数の柱232に掛け渡される棚231と、複数の柱232の上端を連結する上枠233とを含む。棚231の上には、水受け24が配置されている。上枠233には、胡蝶蘭に向けて人工光を照射する照射手段21が取付けられる。なお、照射手段21は、上枠233に取付けられることに限定されず、単に胡蝶蘭の上方に位置していればよい。
【0052】
水受け24は、突出部241を含み、水の液面高さを突出部241の高さ以下とすることにより、胡蝶蘭を収容する収容容器25と水とが接しない状態で水受け24内に水を溜めることができる。これにより、屋内において胡蝶蘭の生長に最適な湿度環境を保つことができる。また、給水時以外は根が水に浸漬されないため、根腐れを防ぐことができる。
【0053】
収容容器25は、トレイ251とポット252とを含む。トレイ251は、水受け24内に収容される。トレイ251は育苗用のトレイであり、複数のポット252を収容することができる。なお、本実施の形態では、トレイ251とポット252とを別の部材としたが、トレイ251に胡蝶蘭を直接収容してもよい。トレイ251およびポット252の底部には、水を通す穴が設けられている。これにより、給水時に水受け24に水が溜まって水の液面高さが上昇すると、底面灌水方式により底部の穴から水が浸透し、胡蝶蘭に水が供給される。これにより、収容容器25に収容された全ての胡蝶蘭に均等に水を供給することができる。
【0054】
胡蝶蘭が収容された水受け24には水が供給され、排水される。具体的には、栽培装置20は、水受け24に水を供給する給水路26と、給水路26を開閉する給水弁261と、水受け24に溜まった水を排水する排水路27と、排水路27を開閉する排水弁271とを備える。
【0055】
給水路26は、水が通る管であり、その先端に給水口262を有する。給水口262は、水受け24の上方に配置される。この場合、給水口262は、給水時に胡蝶蘭に直接かからない位置に設けられることが好ましい。なお、給水される水は、典型的には汲み置きタンクまたは上水道から供給される水、井戸水などであるが、胡蝶蘭の生長に必要な養分を含んだ培養液であってもよい。
【0056】
給水弁261は、給水路26から水受け24へ供給される水の給水量を調節するものであり、たとえばバルブである。給水弁261を開けることで、水受け24内へ水を供給し、給水弁261を閉めることで、水の供給を停止する。
【0057】
排水路27は、水が通る管であり、その先端に排水口272を有する。排水口272は、水受け24の底面に配置される。排水口272は、水受け24の長手方向の他方端部に設けられる。これにより、給水口262と排水口272は、水受け24の両端部に位置するため、効率よく給排水することができる。なお、排水路27へ排出される水は、衛生面を向上する観点から再利用せずに廃棄される。
【0058】
また、給水口262および排水口272は、水受け24の長手方向の一方端部側に上下方向に整列するよう設けてもよい。これにより、給水口262および排水口272が、水受け24の長手方向の一方端部側に集約されるため、すっきりとした外観となる。また、水受け24の長手方向の他方端部側の空間に余裕が生じるため、作業を容易かつ効率的に行うことができる。
【0059】
排水弁271は、水受け24から排出される水の排水量を調節するものであり、たとえばバルブである。排水弁271を開けることで、水受け24に溜まった水を排水路27へ排出し、排水弁271を閉めることで、水の排出を停止する。
【0060】
なお、給水弁261および排水弁271は、作業者が手動で開閉してもよいが、外部部材からの入力により自動で開閉制御される構成であってもよい。
【0061】
本実施の形態に係る栽培装置20は、底面灌水方式で給排水を行う。これにより、給水弁261および排水弁271の開閉のみで胡蝶蘭の水やり作業ができ、作業者の負担を軽減することができる。
【0062】
(花茎生長に最適な光質について)
次に、花茎生長期間に適した光質を調べる実験について説明する。光質の異なる複数の照射条件A~Dを設定し、実験例1~4で使用した株が、照射条件ごとにどれだけ花茎伸長したかを測定した。
【0063】
照射条件A~Dを表1に示す。照射条件A~Cは遠赤色光に対する人工光(赤色光、緑色光、青色光および遠赤色光)の比率を示しており、照射条件Dは、遠赤色光を含まない(赤色光、緑色光、青色光しか含まない)ことを示している。
【0064】
【0065】
また、その他の条件を表2に示す。以下に説明する実験例1~4は、全て表2に記載の条件で栽培した。
【0066】
【0067】
(実験例1)
実験例1では、ミニ胡蝶蘭の品種であるF4292株について、照射条件A~Dで栽培した。結果を
図3(a)に示す。
図3(a)より、遠赤色光を含む照射条件A~Cで栽培した場合の方が、遠赤色光を含まない照射条件Dで栽培した場合よりも15mm程度多く伸長した。特に照射条件B、Cでは、20mm以上多く伸長した。この結果より、胡蝶蘭の花茎伸長期間では、遠赤色光を含む照射条件で栽培した方が、生長速度が速くなることがわかった。
【0068】
(実験例2)
実験例2では、ミニ胡蝶蘭の品種であるF2244株について、照射条件A~Dで栽培した。結果を
図3(b)に示す。
図3(b)より、遠赤色光を含む照射条件A~Cで栽培した場合の方が、遠赤色光を含まない照射条件Dで栽培した場合よりも15mm以上多く伸長した。特に照射条件Aでは、20mm以上多く伸長した。この結果より、胡蝶蘭の花茎伸長期間では、遠赤色光を含む照射条件で栽培した方が、生長速度が速くなることがわかった。
【0069】
(実験例3)
実験例3では、ミニ胡蝶蘭の品種であるF4482株について、照射条件A~Dで栽培した。結果を
図3(c)に示す。
図3(c)より、遠赤色光を含む照射条件A~Cで栽培した場合の方が、遠赤色光を含まない照射条件Dで栽培した場合よりも8mm以上多く伸長した。特に照射条件Bでは、20mm以上多く伸長した。この結果より、胡蝶蘭の花茎伸長期間では、遠赤色光を含む照射条件で栽培した方が、生長速度が速くなることがわかった。
【0070】
(実験例4)
実験例4では、ミニ胡蝶蘭の品種であるF4485株について、照射条件A~Dで栽培した。結果を
図3(d)に示す。
図3(d)より、遠赤色光を含む照射条件A~Cで栽培した場合の方が、遠赤色光を含まない照射条件Dで栽培した場合よりも20mm以上多く伸長した。特に照射条件A、Cでは、約30mm以上多く伸長した。この結果より、胡蝶蘭の花茎伸長期間では、遠赤色光を含む照射条件で栽培した方が、生長速度が速くなることがわかった。
【0071】
実験例1~4より、胡蝶蘭の品種によって差はあるものの、いずれの胡蝶蘭も花茎生長期間に遠赤色光を含む人工光で栽培をすることで、遠赤色光を含まない人工光で栽培した場合よりも多く伸長した。換言すれば、花茎生長期間に遠赤色光を含む人工光で栽培をすることで、早く花茎を伸長させることができた。なお、実験例1~4では、[人工光の全光量]/[遠赤色光の光量]の比率が4.5~15.0となるよう照射したが、比率が15.0以上の場合は、花茎伸長促進効果が確認できなかった。すなわち、上記比率は、花茎の伸長に好適な比率であることがわかった。
【0072】
(花茎生長の促進効果について)
(実験例5)
実験例5では、ミニ胡蝶蘭の品種であるF4482株を2.5寸のポットに収容したものを用いて、遠赤色光が花茎生長にどのように寄与するのかを調べた。光質の異なる複数の照射条件A~Dを設定し、基準日からの花茎伸長量を測定した。照射条件A~Dは、表1の通りであり、その他の栽培条件は表2の通りである。結果を
図4および表3、4に示す。表3は、花茎の長さの測定値であり、表4は、日毎の花茎の長さから基準日における花茎の長さを引いた、花茎伸長量である。
図4は、表4をグラフにして表したものである。なお、本実験例では、胡蝶蘭を各照射条件で56日間栽培しているが、栽培開始から28日目以前は花茎長が短く、各照射条件間に差が見られなかった。そのため、表3,4では28日目以降の結果を記載している。
【0073】
【0074】
【0075】
表4より、照射条件A~Cの方が、照射条件Dよりも同期間内における花茎伸長量が約30~40mm多かった。すなわち遠赤色光は、胡蝶蘭の花茎生長期間、すなわち胡蝶蘭の蕾形成前の花茎の伸長促進に寄与することがわかった。なお、蕾に関しては、遠赤色光を照射したことによる花茎生長期間中の蕾の形成は見られなかった。また、後の開花期間中に形成される蕾の数に有意差は見られなかった。
【0076】
花茎伸長量が多いと言うことは、換言すれば、目標花茎長に早期に到達することができる、ということができる。目標花茎長とは、胡蝶蘭を開花期間に移行する目安となる花茎長(胡蝶蘭の丈)である。表3および
図4より、たとえば目標花茎長を70mmとする場合、照射条件Dでは56日程度要していることがわかる。これに対し、照射条件A、Bでは、49日目の時点で70mm以上を達成しており、照射条件Cでは51日目付近で70mm以上を達成していることがわかる。すなわち本実験例によれば、花茎生長期間を短縮することができ、目標花茎長に達するのに必要な日数を短縮することができた。
【0077】
表4より、各照射条件における1日当たりの花茎伸長量を算出すると、照射条件Aが4.2mm、照射条件Bが4.1mm、照射条件Cが3.7mm、照射条件Dが2.5mmであった。すなわち、花茎生長期間に遠赤色光を照射しない場合は1日当たり2.5mmしか伸長しないのに対し、花茎生長期間に遠赤色光を照射した場合は1日当たり少なくとも3.7mm以上伸長することができた。これにより、遠赤色光は1日当たりの伸長量でみても花茎生長期間における花茎の伸長量を有意に促進することがわかった。
【0078】
(他の実施の形態)
図5~8を参照して、本発明の他の実施の形態に係る栽培装置20Aについて説明する。栽培装置20Aは、少なくとも花茎生長期間S2および開花期間S3の胡蝶蘭を栽培する。
図5は、判別手段の実施の形態1を備える栽培装置20Aの機能構成を示す機能ブロック図であり、
図6は、判別手段の実施の形態1を備える栽培装置20Aの制御方法を示すフローチャートであり、
図7は、判別手段の実施の形態2を備える栽培装置20Aの機能構成を示す機能ブロック図であり、
図8は、判別手段の実施の形態2を備える栽培装置20Aの制御方法を示すフローチャートである。
【0079】
(基本構成について)
栽培装置20Aは、花茎生長期間S2に胡蝶蘭に遠赤色光を含む人工光を照射する第1照射条件と、開花期間S3に胡蝶蘭に遠赤色光を含まない人工光を照射する第2照射条件とを有する人工光照射手段21Aを備える。人工光照射手段21Aは、照射条件切換え手段28Aによって、花茎生長期間S2から開花期間S3に移行した段階で第1照射条件から第2照射条件に切り換える。
【0080】
人工光照射手段21Aは、順化期間S4に胡蝶蘭に遠赤色光を含まない人工光を照射する第3照射条件をさらに有していてもよい。この場合、人工光照射手段21Aは、照射条件切換え手段28Aによって、開花期間S3から順化期間S4に移行した段階で第2照射条件から第3照射条件に切り換えることとしてもよい。
【0081】
本実施の形態の人工光照射手段21Aが有する第1照射条件、第2照射条件、および第3照射条件を表5に示す。しかしながら、この照射条件はあくまで例示的なものであり、栽培する胡蝶蘭に合わせて適宜変更することができる。
【0082】
【0083】
栽培装置20Aは、花茎生長期間S2に低温条件に栽培温度を調節する第1温度条件と、開花期間S3に高温条件に栽培温度を調節する第2温度条件とを有する栽培温度調節手段22Aを備える。栽培温度調節手段22Aは、温度条件切換え手段29Aによって、花茎生長期間S2から開花期間S3に移行した段階で第1温度条件から第2温度条件に切り換える。
【0084】
栽培温度調節手段22Aは、順化期間S4に栽培温度を調節する第3温度条件をさらに有していてもよい。この場合、栽培温度調節手段22Aは、温度条件切換え手段29Aによって、開花期間S3から順化期間S4に移行した段階で第1温度条件から第2温度条件に切り換えることとしてもよい。
【0085】
本実施の形態の栽培温度調節手段22Aが有する第1温度条件、第2温度条件、および第3温度条件を表6に示す。しかしながら、この温度条件はあくまで例示的なものであり、栽培する胡蝶蘭に合わせて適宜変更することができる。
【0086】
【0087】
本実施の形態の栽培装置20Aによれば、人工光照射手段21Aおよび栽培温度調節手段22Aを調節するだけで、1つの室内の温度条件および照射条件を胡蝶蘭の生長に最適なものにすることができる。これにより、胡蝶蘭を別の室へ移動させる必要がないため、作業者の負担を減らすことができる。また、栽培装置20Aは、花茎生長期間S2に遠赤色光を照射しているため、従来よりも栽培サイクルを短縮することができ、栽培コストを削減することができる。
【0088】
本実施の形態の栽培装置20Aによれば、胡蝶蘭を完全人工光で栽培することができる。これにより、胡蝶蘭の生長を促進する環境で栽培することができるため、従来よりも短期間で出荷することができる。
【0089】
(判別手段について)
栽培装置20Aは、花茎生長期間S2から開花期間S3への移行を判別する判別手段50をさらに備える。判別手段50は、花茎生長期間S2から開花期間S3への移行が判別されたことに応じて、室内に配置された照明装置の照射条件切換え手段28A、および室内に配置された空調装置の温度条件切換え手段29Aへ向けて指令を出す、制御部53を含む。
【0090】
照射条件切換え手段28Aは、たとえば照明装置に内蔵された制御部、または照明装置の外部部材であるリモコンなどである。温度条件切換え手段29Aは、たとえば空調装置に内蔵された制御部、または空調装置の外部部材であるリモコンなどである。すなわち、照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aは、照明装置および空調装置の内部に収容されていることに限定されない。
【0091】
制御部53は、典型的にはCPU(CENTRAL PROCESSING UNIT)などのプロセッサである。制御部53からの指令により、照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を、第1照射条件から第2照射条件へ切換える。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を、第1温度条件から第2温度条件へ切換える。
【0092】
また、判別手段50は、開花期間S3から順化期間S4への移行をさらに判別してもよい。この場合、開花期間S3から順化期間S4への移行が判別されたことによる制御部53からの指令により、照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を、第2照射条件から第3照射条件へ切換える。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を、第2温度条件から第3温度条件へ切換える。なお、照射条件および温度条件は表5、表6の通りである。
【0093】
(判別手段の実施の形態1について)
図5、6を特に参照して、本実施の形態の栽培装置20Aの判別手段50が記憶手段51をさらに備える場合について説明する。
【0094】
記憶手段51は、胡蝶蘭の花茎生長期間S2の日数、開花期間S3の日数、および順化期間S4の日数の情報51aを記憶している。日数情報51aは、予め記憶させた情報でもよいし、栽培初日までに作業者が入力した情報でもよい。本実施の形態において、記憶手段51が記憶する花茎生長期間S2の日数情報51aを日数Xといい、その期間における実際の栽培日数を経過日数xという。同様に、開花期間S3の日数情報51aを日数Yといい、栽培日数を経過日数yという。順化期間S4の日数情報51aを日数Zといい、栽培日数を経過日数zという。
【0095】
次に、記憶手段51を備える栽培装置20Aの制御方法について説明する。
【0096】
胡蝶蘭は、はじめに花茎生長期間S2の栽培条件である、第1照射条件・第1温度条件で栽培している(ステップS11)。判別手段50は、花茎生長期間S2の経過日数xをカウントしており、日数情報51aに基づいて、花茎生長期間S2の日数Xが満たされたか否かを判別する(ステップS12)。経過日数xが花茎生長期間S2の日数Xよりも大きい場合(x>XがYESの場合)、判別手段50は花茎生長期間S2から開花期間S3に移行したことを判別し、制御部53から照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて条件を切り換えるよう指令する。なお、経過日数xが花茎生長期間S2の日数Xよりも小さい場合(x>XがNOの場合)は、第1照射条件・第1温度条件での栽培が継続される。
【0097】
指令を受けた照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を第1照射条件から第2照射条件へ切換える(ステップS13)。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を第1温度条件から第2温度条件へ切換える(ステップS13)。条件切換え後、栽培装置20Aは、第2照射条件および第2温度条件で胡蝶蘭を栽培する。
【0098】
判別手段50は、開花期間S3の経過日数yをカウントしており、日数情報51aに基づいて、開花期間S3の日数Yが満たされたか否かを判別する(ステップS14)。経過日数yが開花期間S3の日数Yよりも大きい場合(y>YがYESの場合)、判別手段50は開花期間S3から順化期間S4に移行したことを判別し、制御部53から照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて条件を切り換えるよう指令する。なお、経過日数yが開花期間S3の日数Yよりも小さい場合(y>YがNOの場合)は、第2照射条件・第2温度条件での栽培が継続される。
【0099】
指令を受けた照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を第2照射条件から第3照射条件へ切換える(ステップS15)。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を第1温度条件から第2温度条件へ切換える(ステップS15)。条件切換え後、栽培装置20Aは、第3照射条件および第3温度条件で胡蝶蘭を栽培する。
【0100】
判別手段50は、順化期間S4の経過日数zをカウントしており、日数情報51aに基づいて、順化期間S4の日数Zが満たされたか否かを判別する(ステップS16)。経過日数zが順化期間S4の日数Zよりも大きい場合(z>ZがYESの場合)、判別手段50は順化期間S4が終了したことを判別し、制御部53から照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて終了するよう指令する。なお、経過日数zが順化期間S4の日数Zよりも小さい場合(z>ZがNOの場合)は、第3照射条件・第3温度条件での栽培が継続される。
【0101】
本実施の形態の栽培装置20Aは、記憶手段51に記憶された日数情報51aのみで温度条件および照射条件を自動制御できるため、容易に胡蝶蘭の生長に最適な室内環境にすることができる。また、作業者が温度条件および照射条件の調節に要する労力を減らすことができるため、作業者の負担を減らすことができる。
【0102】
(判別手段の実施の形態2について)
図7、8を特に参照して、判別手段の他の実施の形態として、判別手段50Bが撮影手段52Bをさらに備える場合について説明する。
【0103】
撮影手段52Bは、胡蝶蘭を撮影することができるものであり、典型的にはカメラである。撮影手段52Bは、たとえば常に撮影を行う連続撮影や、毎日予め決められた時間に撮影を行うインターバル撮影を行う。なお、撮影手段52Bにより撮影される画像はカラー画像が好ましいが、白黒画像であってもよい。撮影手段52Bは撮影した胡蝶蘭の画像データを取得して、制御部53Bに向けて出力する。
【0104】
制御部53Bは、取得した画像データに基づいて画像解析を行う。本実施の形態では画像処理方法として二値化処理を行う。二値化処理とは、1枚の画像について閾値を境に白と黒の2階調に変換する処理である。二値化処理では、カラー画像をRGB分割することで、R画像が取得される。取得したR画像はグレースケール画像に変換され、設定した閾値に基づいて二値化処理が行われる。なお、後述する記憶手段51Bが画像データ情報を蓄積するものである場合、記憶手段51Bに向けて画像データ情報51bを出力することができる。
【0105】
判別手段50Bは、花茎生長期間S2の画像データ、開花期間S3の画像データ、および順化期間S4の画像データの情報51bを記憶する記憶手段51Bを備える。画像データ情報51bは、たとえば二値化処理後の黒画素のピクセル数であり、作業者が設定したピクセル数であってもよいし、過去に行った画像データ情報を記憶させたものであってもよい。
【0106】
次に、撮影手段52Bを備える栽培装置20Aの制御方法について説明する。なお、以下の説明において、胡蝶蘭の品種はF4482株であり、画像データの画素数は425×300ピクセルである。
【0107】
胡蝶蘭は、はじめに花茎生長期間S2の栽培条件である、第1照射条件・第1温度条件で栽培している(ステップS20)。栽培開始後、撮影手段52Bは胡蝶蘭の撮影を開始する(ステップS21)。撮影開始後、制御部53は撮影された画像データを取得して、画像解析(二値化処理)を行う(ステップS22)。二値化処理において、本実施の形態では閾値を235~255で設定している。これにより、画像データは胡蝶蘭の葉および花茎部分の部分が黒画素で表示された状態となる。画像解析により、制御部53Bは黒画素のピクセル数nを算出する。
【0108】
次に、制御部53Bは、算出したピクセル数nについてn>1200であるか否かを判別する(ステップS23)。なお、本実施の形態では1200ピクセルを基準値としたが、ステップS23における黒画素のピクセル数は、1000以上2000以下の範囲から選択することができる。ピクセル数nが1200以上である場合(n>1200がYESの場合)、判別手段50Bは花茎生長期間S2から開花期間S3に移行したことを判別し、制御部53Bから照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて条件を切換えるよう指令する。なお、ピクセル数nが1200以下である場合(n>1200がNOの場合)は、第1照射条件・第1温度条件での栽培が継続される。
【0109】
指令を受けた照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を第1照射条件から第2照射条件へ切換える(ステップS24)。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を第1温度条件から第2温度条件へ切換える(ステップS24)。条件切換え後、栽培装置20Aは、第2照射条件および第2温度条件で胡蝶蘭を栽培する。
【0110】
撮影手段52Bは、開花期間S3中も撮影を継続している。制御部53Bは、撮影手段52Bからの画像データを取得して、ステップS22と同様にして画像解析を行う(ステップS25)。ここでの二値化処理において、本実施の形態では閾値を215~255で設定している。これにより、画像データは胡蝶蘭の葉、花茎および花の部分が黒画素で表示された状態となる。画像解析により、制御部53Bは黒画素のピクセル数nを算出する。
【0111】
制御部53Bは、算出したピクセル数nについてn>3600であるか否かを判別する(ステップS26)。なお、本実施の形態では3600ピクセルを基準値としたが、ステップS26における黒画素のピクセル数は、3000以上5000以下であることが好ましい。ピクセル数nが3600以上である場合(n>3600がYESの場合)、判別手段50Bは開花期間S3から順化期間S4に移行したことを判別し、制御部53Bから照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて条件を切換えるよう指令する。なお、ピクセル数nが3600以下である場合(n>3600がNOの場合)は、第2照射条件・第2温度条件での栽培が継続される。
【0112】
指令を受けた照射条件切換え手段28Aは、人工光照射手段21Aの照射条件を第2照射条件から第3照射条件へ切換える(ステップS27)。同様に、温度条件切換え手段29Aは、栽培温度調節手段22Aの温度条件を第2温度条件から第3温度条件へ切換える(ステップS27)。条件切換え後、栽培装置20Aは、第3照射条件および第3温度条件で胡蝶蘭を栽培する。
【0113】
撮影手段52Bは、順化期間S4中も撮影を継続している。制御部53Bは、撮影手段52Bからの画像データを取得して、ステップS22と同様にして画像解析を行う(ステップS28)。画像解析により、制御部53Bは黒画素のピクセル数nを算出する。
【0114】
制御部53Bは、算出したピクセル数nについてn>20000であるか否かを判別する(ステップS29)。ステップS29では、順化期間S4を終了する際の黒画素のピクセル数nは、20000以上であることが好ましい。ピクセル数nが20000以上である場合(n>20000がYESの場合)、判別手段50Bは順化期間S4が終了したことを判別し、制御部53Bから照射条件切換え手段28Aおよび温度条件切換え手段29Aに向けて栽培を終了するよう指令する。なお、ピクセル数nが20000以下である場合(n>20000がNOの場合)は、第3照射条件・第3温度条件での栽培が継続される。
【0115】
本実施の形態の栽培装置20Aは、撮影手段により撮影された画像データに基づいて温度条件および照射条件を自動制御することができるため、容易に胡蝶蘭の生長に最適な環境にすることができる。また、花茎生長期間から開花期間へ移行したことを判別することができるため、容易に温度条件および照射条件を制御することができる。また、作業者が温度条件および照射条件の調節に要する労力を減らすことができるため、作業者の負担を減らすことができる。
【0116】
なお、本実施の形態の栽培装置20Aは、判別手段で二値化処理を行う例について示したが、画像処理方法としてはここで開示した方法に限定されない。たとえば、判別手段50Bは図示しない学習装置を備えていてもよい。この場合、学習装置に各期間の胡蝶蘭の画像データを学習させておくことで、より正確に胡蝶蘭の生長期間の移行を判別することができる。
【0117】
また、本実施の形態では、カラー画像を二値化処理することで胡蝶蘭の期間を判別したが、カラー画像をそのまま利用してもよい。カラー画像をそのまま利用する方法としては、たとえばディープラーニングによる画像処理方法がある。この場合、判別手段は学習装置を備えており、学習装置に各期間における胡蝶蘭の特徴を学習させることで、より正確に胡蝶蘭の生長期間の移行を判別することができる。
【0118】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 栽培施設、2 低温室、3 栽培室、4 順化室、20,20A 栽培装置、21 (第1)照射手段、21A 人工光照射手段、22 第1温度調節手段、22A 栽培温度調節手段、23 栽培棚、24 水受け、25 収容容器、26 給水路、27 排水路、31 第2照射手段、32 第2温度調節手段、41 第3照射手段、42 第3温度調節手段、43 太陽光取入れ手段、50,50B 判別手段、51,51B 記憶手段、52B 撮影手段、53,53B 制御部。