(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136913
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】受電器およびそれを用いる無線給電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20220913BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J7/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036742
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
(72)【発明者】
【氏名】仲 泰正
【テーマコード(参考)】
5G503
【Fターム(参考)】
5G503BA01
5G503BB01
5G503FA01
5G503FA03
5G503GB09
(57)【要約】
【課題】 送受電電極がゼロギャップに配置可能な受電器およびそれを用いる無線給電装置を提供すること
【解決手段】 本発明に係る受電器は、適宜面積に形成された可撓性を有する2枚以上の受電電極と、送電器より送電され該受電電極により受電するとき該送電器及び該受電器間のインピーダンス整合を行う整合回路と、該整合回路の出力端に装荷され受電する交流電力を直流へ変換する整流回路と、を備え、該送電器と該受電器間の間隙を適宜調整することにより送受電電力の損失を抑制することを特徴とし、該受電器を用いる無線給電装置は、電界結合により電力を伝送する無線給電装置であって、電源と、送電器と、該受電器と、バッテリーと、からなり、前記送電器は、2枚以上の送電電極と、電源から得られる電力を高周波電力へ変換するインバータと、前記受電器とのインピーダンス整合を行う整合回路と、を備え、該受電器を用いて前記バッテリーに給電する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界結合により電力を無線で伝送する無線給電に用いる受電器であって、
適宜面積に形成された可撓性を有する2枚以上の受電電極と、
送電器より送電され該受電電極により受電するとき該送電器及び該受電器間のインピーダンス整合を行う整合回路と、
該整合回路の出力端に装荷され受電する交流電力を直流へ変換する整流回路と、を備え、
該送電器と該受電器間の間隙を適宜調整することにより送受電電力の損失を抑制することを特徴とする受電器。
【請求項2】
前記受電電極は金属膜シートであることを特徴とする請求項1に記載の受電器。
【請求項3】
前記受電電極は金属粒子または金属繊維を含む誘電体膜シートであることを特徴とする請求項1に記載の受電器。
【請求項4】
前記受電電極を収容する収容部と、該受電電極の出没を操作する操作部とを備え、
該受電電極は、該収容部から出没可能に設けられるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の受電器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の受電器を使用し、電界結合により電力を伝送する無線給電装置であって、
電源と、送電器と、該受電器と、バッテリーと、からなり、
前記送電器は、2枚以上の送電電極と、電源から得られる電力を高周波電力へ変換するインバータと、前記受電器とのインピーダンス整合を行う整合回路と、を備え、
該受電器を用いて前記バッテリーに給電することを特徴とする無線給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界結合により電力を受ける受電器およびそれを用いる無線給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動体に対する無線給電技術が検討されている。いくつかの方式があるが、コイルを用いない電界結合方式による先行技術では、給電用の電極形状や数だけでなく、送電電極と受電電極との間隔や相対的な位置および角度などの検討が必須である。さらに、電極の機械的接触による摩耗や送受電電極間の異物による電力伝送効率の低下の課題にも対処が必要である。
【0003】
例えば、特許文献1では、送受電電極の間に機能性複合材料シートを挟むことで、送受電電極の表面を密着させ、送受電間距離が一定に保たれることにより、電界結合方式の非接触給電に必要な結合容量を確保する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、送電部の電極、配線、基材に柔軟性を持たせることで、機械的接触などによる破損を防止し、さらには折り畳んだり、筒状に巻いたりすることができる構造が開示されている。送電部には導電性を持つエラストマー材料が必要である。
【0005】
先行技術の例にあるように、電界結合方式による電動体への無線給電では、電極のサイズや材料、送受電電極間のギャップに起因する結合容量の低下を防ぐことに課題がある。
【0006】
例えば、電動体が小型であれば受電電極もそれだけ小型になり、送電電極との結合容量が減少することによって電力伝送効率が低下する。また、送受電電極の間に異物が混入すると、送受電電極間の距離が開くことによって電力伝送効率が低下する。さらに、電力エネルギーが異物を通過することでも電力の損失が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013-065756号
【特許文献2】特開2013-126294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した先行技術の課題は、送受電電極を十分に近づけてゼロギャップ配置とすることで高い結合容量を確保することにより解決できる。一方、電極間の異物による電力伝送の低下は、その損失分を考慮して電源より電力を供給するか、伝送効率が高くなる適切な周波数に変更して電源より電力を供給すればよいが、当該周波数は電力デバイスの制約を受ける。
【0009】
本発明は、これらの課題を鑑みてなされたものであり、送受電電極がゼロギャップに配置された受電器およびそれを用いる無線給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る第一の受電器は、電界結合により電力を無線で伝送する無線給電に用いる受電器であって、
適宜面積に形成された可撓性を有する2枚以上の受電電極と、
送電器より送電され該受電電極により受電するとき該送電器及び該受電器間のインピーダンス整合を行う整合回路と、
該整合回路の出力端に装荷され受電する交流電力を直流へ変換する整流回路と、を備え、
該送電器と該受電器間の間隙を適宜調整することにより送受電電力の損失を抑制することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る第二の受電器は、前記第一の受電器であって、前記受電電極は金属膜シートであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る第三の受電器は、前記第一の受電器であって、前記受電電極は金属粒子または金属繊維を含む誘電体膜シートであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る第四の受電器は、前記第一乃至三のいずれかに記載の受電器であって、前記受電電極を収容する収容部と、該受電電極の出没を操作する操作部とを備え、
該受電電極は、該収容部から出没可能に設けられるものであることを特徴とする。
【0014】
前記第四の受電器によれば、該受電器を備える電動体の移動を容易にするとともに、該受電器が備える受電電極の機械的摩耗や損失を抑えることができる。また、送受電電極間の異物に妨げられることなく、収容した受電電極を適宜出没させ該異物を覆うことにより、送受電電極のゼロギャップ配置を生じさせ、電気的損失を抑えることができる。
【0015】
本発明に係る無線給電装置は、前記第一乃至四のいずれかに記載の受電器を使用し、電界結合により電力を伝送する無線給電装置であって、
電源と、送電器と、該受電器と、バッテリーと、からなり、
前記送電器は、2枚以上の送電電極と、電源から得られる電力を高周波電力へ変換するインバータと、前記受電器とのインピーダンス整合を行う整合回路と、を備え、
該受電器を用いて前記バッテリーに給電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る受電器およびそれを用いる無線給電装置によれば、送受電電極がゼロギャップに配置され、受電器が小型になったり、送受電極間に異物が挟まれたりしても、安定して高効率で電力伝送を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る受電器およびそれを用いる無線給電装置の概要図である。
【
図2】シート状受電電極の使用に関する模式図である。床などの送電器に対しシート状電極を出没させ広げた状態である。
【
図3】回路シミュレータに用いる本発明に係る受電器およびそれを用いる無線給電装置の等価回路である。
【
図4】プレート状電極とシート状電極との比較において受電効率に対する発熱割合の関係を示すグラフである。
【
図5】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の概要を示すものである。左:高さ100mmのアクリル水槽が送電器の上に置かれている。右:高さ50mmのアクリル水槽をシート状電極で覆っている。
【
図6】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の概要を示すものである。プレート状電極を送受電器ともに用いる場合を示す。50mmのアクリル水槽が送受電電極間に置かれている。
【
図7】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の概要を示すものである。シート状電極を受電器に用いる場合を示す。50mmのアクリル水槽が送受電電極間に置かれている。
【
図8】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の結果を示すものである。シート状電極を用いる場合の電力伝送効率に対する伝送周波数の関係を示すグラフである。
【
図9】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の結果を示すものである。プレート状電極を用いる場合の電力伝送効率に対する伝送周波数の関係を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の結果を示すものである。プレート状電極とシート状電極を用いる場合の電力伝送効率に対する電極間ギャップの関係を示すグラフである。
【
図11】本発明に係る実施例において電力伝送の測定の結果を示すものである。プレート状電極とシート状電極を用いる場合の電力伝送効率に対する電力伝送効率が最大となる周波数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、適宜図を用いながら説明する。
【0019】
本発明に係る電極について次のように記載する。適宜面積に形成された可撓性を有しない電極をプレート状電極と記す。一方、適宜面積に形成された可撓性を有する電極をシート状電極と記す。例えば、プレート状電極には、アルミニウムプレートがあり、シート状電極にはアルミニウム薄膜シートがある。
【0020】
本発明に係る受電器では、電極として金属膜シートを用いる。金属はアルミニウムや鉄のほか銅が望ましいが、これら金属材料に限定されない。また、当該電極は、金属繊維を編み込んだ布や金属粒子または繊維が含まれる誘電体膜からなるシートであってもよい。
【0021】
前記電極は、電極全体またはその一部に適宜絶縁体による保護層が積層されていてもよい。
【0022】
また、本発明に係るシート状電極を含む受電器は、送電電極を含む送電器との摩擦により帯電する可能性があるが、導電スリットなど導電性の帯電除去のための機構を備えていてもよい。
【0023】
本発明に係る無線給電装置は、床および路面に送電電極を備え、当該床などの上に受電器を備えた電動体が載っている。異物は、前記電動体と同じ床などの上にあって、かつ送受電電極間のギャップの空間に挟まれる。このとき、ゼロギャップを実現するために、受電器を電動体より降下させ床などに接近させるが、異物が存在する場合、当該異物の高さだけの余分なギャップが生じ、当該ギャップにより電力伝送の効率が低下する。また、異物が電気的損失を有するときはさらに効率が低下する。
【0024】
本発明に係るシート状電極を用い、該電極を広げることで、前記床などの上の異物を覆うことによって、異物周辺にゼロギャップ配置を生じさせる。よって、結合容量が高くなり、電力伝送効率が向上する。さらに、ゼロギャップ配置の送受電極間を電力が通過することから、異物による電力の損失が抑えられるようになる。
【0025】
図1に、本発明に係る受電器およびそれを用いる無線給電装置の概要を示す。送電器は高周波電源を有し、インバータ、整合回路、不平衡―平衡変換回路、送電電極からなる。受電器は、高周波電力を受電して直流に変換し、シート状電極、整合回路、整流回路、バッテリーからなる。前記シート状電極は、受電器の収容部において、受電器の操作部によって出没できるように収容されている。
【0026】
図2に示すように、シート状電極は、異物が無いときは、シートを広げても広げなくても送電器に接して、あるいは、適宜距離を設けて、給電に必要な結合容量が得られる。一方、送電器と受電器との間に異物があるときは、シート状電極を広げて異物周辺に送電器と受電器が接するようにする。異物周辺では給電に必要な結合容量が得られるので、異物に流れる電力損失を減らし十分な電力を伝送できる。
【0027】
受電器に生じた電荷は直流電圧としてバッテリーに蓄えられる。バッテリーの前段には整流回路が装荷されており、伝送された交流を直流に変換する。直流は整流回路を介して逆流しないため、シート状電極を介して受電器に生じた電荷は漏洩しない。
【0028】
本発明に係るシート状電極に帯電した異物が触れるとき、蓄積された静電気が受電器に侵入する場合の対策として、受電器の整流回路の前段にバリスタを装荷することで対処できる。
【実施例0029】
プレート状電極およびシート状電極を受電電極として使用する場合の受電効率および電力の損失として発熱割合を回路シミュレーションにより求める。
【0030】
送受電電極間の異物として、水道水(比誘電率80、導電率0.02 S/m)の入ったペットボトルが存在する状況を設定する。送受電電極は共に200平方mmとし、ペットボトルは、断面64平方mm、長さ200mmのサイズとする。
図3は、回路シミュレータ(アナログ・デバイセズ製LTspice(登録商標)XVII)を用いた本発明に係る受電器を含む無線給電装置の等価回路を示す。シート状電極はペットボトル周辺から距離1mmだけ離れた範囲で電界結合が生じるものとする。結合容量および損失抵抗は次のように求められる。真空の誘電率をε
0(8.854×10
-12)とすると、表1となる。
【0031】
【0032】
回路シミュレーションの結果を
図4に示す。受電効率は送電電力に対する直流負荷での消費電力として定義した。発熱割合は送電電力に対する異物での損失電力として定義した。プレート状電極からシート状電極に変更すると、受電効率が35ポイント上昇し、発熱割合は35ポイント低下した。つまり、シート状電極を用いると、異物による電力損失が改善し、受電電力が増加するといえる。
【0033】
図5、6、7に実証実験に用いたプレート状送受電電極、アクリル水槽、シート状受電電極をそれぞれ示す。プレート状電極では、異物すなわちアクリル水槽の高さだけ電極間のギャップが生じる。一方、シート状電極では、アクリル水槽を覆うように広げることで電極間がゼロギャップとなる部分が生じる。
【0034】
ゼロギャップとなる部分では金属の送受電電極が直に接するのではなく、厚さ3mmのプラスチック段ボールを挿入してあり、該段ボールは電気的に空気層と同等な特性であるので、空気層と同様な特性で容量結合する。アクリル水槽の高さを14mm、20mm、50mm、100mmに変更して測定を行った。
【0035】
シート状電極とプレート状電極の電力伝送効率を比較する。
図8および9に、電力伝送効率(S
21と記載する。)の測定結果を示す。
図8より、シート状電極ではアクリル水槽の高さが50mmおよび100mmの場合を比較すると、S
21が最大になる周波数はほとんど変動せず一定と見なせる。一方、
図9では、プレート状電極ではアクリル水槽の高さが14mmおよび50mmの場合を比較すると、S
21が最大になる周波数が2MHzほど変動している。
【0036】
シート状電極ではアクリル水槽の高さによらず送受電極間のゼロギャップ部分が生じることから、十分な結合容量を形成できる。つまり、電極間ギャップによらずインピーダンスを一定に保つことが可能である。それに対して、プレート状電極では、送受電極間のゼロギャップ部分が生じないことから、電極間ギャップによって結合容量が低下し、インピーダンスが変動する。電力伝送効率S21が最大になる周波数はインピーダンスに依存するため、シート状電極では一定、プレート状電極では変動する。
【0037】
電力伝送効率S
21と電力伝送効率が最大になる周波数の送電電極間のギャップとの関係を
図10および11に示す。電力伝送効率はS
21
2×100(%)として求められる。両図より、シート状電極では電極間ギャップにかかわらず高い電力伝送効率を達成しており、かつ、電力伝送効率が最大になる周波数の変動が小さいことがわかる。つまり、電極間ギャップの変動に対し高い頑健であることがわかる。それに対して、プレート状電極では、電極間のギャップの増加につれて電力伝送効率が低下し、かつ、電力伝送効率が最大になる周波数の変動が大きいことから電極間ギャップの変動に対し頑健でないことがわかる。