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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136918
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】穿刺針
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20220913BHJP
   A61M 5/158 20060101ALI20220913BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20220913BHJP
   A61M 5/42 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61B8/00
A61M5/158 500D
A61M5/32 520
A61M5/42 520
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036751
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】岡村 遼
(72)【発明者】
【氏名】神原 佳世
【テーマコード(参考)】
4C066
4C601
【Fターム(参考)】
4C066AA07
4C066BB01
4C066FF04
4C066FF05
4C066KK03
4C066QQ48
4C066QQ56
4C066QQ82
4C601EE10
4C601FF06
4C601GA27
(57)【要約】
【課題】先端部分の視認性を向上させた穿刺針を提供する。
【解決手段】穿刺針100は、棒状の本体部1と、本体部1の先端部に形成された刃面部2と、を備え、刃面部2は、本体部1の軸心Gと交差する刃面40が形成された刃面領域4を有し、刃面領域4は、刃面40とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が形成された反射制御領域5を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の本体部と、
前記本体部の先端部に形成された刃面部と、を備え、
前記刃面部は、前記本体部の軸心と交差する刃面が形成された刃面領域を有し、
前記刃面領域は、前記刃面とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が形成された反射制御領域を含む穿刺針。
【請求項2】
前記反射構造は、前記刃面と異なる方向を向く反射面を有する請求項1に記載の穿刺針。
【請求項3】
前記反射面は、前記本体部の軸心と平行な面である請求項2に記載の穿刺針。
【請求項4】
前記反射構造は、前記反射面を有する凹部である請求項2又は3に記載の穿刺針。
【請求項5】
前記凹部は、前記本体部の軸心と交差する方向に延在する溝である請求項4に記載の穿刺針。
【請求項6】
前記反射面として、第一反射面と、前記第一反射面と異なる方向を向く第二反射面とを含む請求項2から5のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項7】
前記反射面が粗面として形成されている請求項2から6のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項8】
前記刃面部は、前記反射制御領域を被覆する樹脂の被膜を更に有する請求項2から7のいずれか一項に記載の穿刺針。
【請求項9】
前記刃面部は、前記被膜と前記反射面との間に空気層を有する請求項8に記載の穿刺針。
【請求項10】
前記被膜は前記反射面に密着している請求項8に記載の穿刺針。
【請求項11】
前記刃面領域は、前記反射構造が形成されていない非制御領域を含み、
前記反射制御領域は、前記非制御領域に囲われている請求項1から10のいずれか一項に記載の穿刺針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺針に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波ガイド穿刺針及び留置針が開示されている。特許文献1に記載されている超音波ガイド穿刺針は、留置針の内針を構成している。超音波ガイド穿刺針は、超音波を反射させる凹凸部を有する。凹凸部は、刃面を有する先端部の近傍の外周面に設けられた溝部と、溝部の両側に設けられた隆起部とを備えている。
【0003】
特許文献1には、超音波撮像装置から超音波を発信し、穿刺する血管の位置を確認すると共に、穿刺した穿刺針に超音波を照射し、その反射波に基づいて得られた画像によって穿刺針の位置を確認しながら施術が行われる場合が開示されている。そして、穿刺針の位置を正確に把握するためには、鮮明なエコー画像を取得することが重要であり、鮮明なエコー画像を得るためには穿刺針から超音波撮像装置のプローブへ十分な強度の反射波が帰ってくる必要が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/077837号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
穿刺針の使用時において、血管や腫瘍細胞を捉える際に重要なのは穿刺針の先端部分(例えば刃面)の位置を把握できることである。しかし、特許文献1に記載されたような従来技術においては、依然として穿刺針の先端部分の視認性が十分ではなかった。そのため、先端部分の視認性を向上させた穿刺針の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、先端部分の視認性を向上させた穿刺針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る穿刺針は、
棒状の本体部と、
前記本体部の先端部に形成された刃面部と、を備え、
前記刃面部は、前記本体部の軸心と交差する刃面が形成された刃面領域を有し、
前記刃面領域は、前記刃面とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が形成された反射制御領域を含む。
【0008】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記反射構造は、前記刃面と異なる方向を向く反射面を有してもよい。
【0009】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記反射面は、前記本体部の軸心と平行な面でもよい。
【0010】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記反射構造は、前記反射面を有する凹部でもよい。
【0011】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記凹部は、前記本体部の軸心と交差する方向に延在する溝でもよい。
【0012】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記反射面として、第一反射面と、前記第一反射面と異なる方向を向く第二反射面とを含んでもよい。
【0013】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記刃面部は、前記反射制御領域を被覆する樹脂の被膜を更に有してもよい。
【0014】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記刃面部は、前記被膜と前記反射面との間に空気層を有してもよい。
【0015】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記被膜は前記反射面に密着していてもよい。
【0016】
本発明に係る穿刺針は、更に、
前記刃面領域は、前記反射構造が形成されていない非制御領域を含み、
前記反射制御領域は、前記非制御領域に囲われていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
先端部分の視認性を向上させた穿刺針を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】穿刺針の先端部を上面視で見た図である。
図2】穿刺針及びその刃面部の側面図である。
図3】プローブで刃面部を探知している状態の説明図である。
図4】刃面部の開口部内から側面視で見た部分拡大図である。
図5】穿刺針及びその刃面部の別の側面図である。
図6】プローブで刃面部を探知している状態の別の説明図である。
図7】刃面部の開口部内から側面視で見た別の部分拡大図である。
図8】穿刺針の先端部を上面視で見た別の図である。
図9図8のA-A矢視断面図である。
図10】刃面部の開口部内から側面視で見た別の部分拡大図である。
図11】溝を形成した場合の反射制御領域の斜視図である。
図12】粗面を形成した場合の反射制御領域の斜視図である。
図13】刃面部の開口部内から側面視で見た別の部分拡大図である。
図14】多面体の集合体で形成されている場合の反射構造を示す図である。
図15】刃面部の断面の部分拡大断面図である。
図16】刃面部における空気層を含む部分の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る穿刺針について説明する。
【0020】
〔第一実施形態〕
〔全体構成の説明〕
図1には、本実施形態に係る穿刺針100の先端側を上面視で図示している。図1に示すように、穿刺針100は、金属製で棒状の本体部1と、本体部1の先端部に形成された刃面部2と、を備えている。刃面部2は、本体部1の軸心Gと交差する刃面40が形成された刃面領域4を有する。刃面領域4は、刃面40とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が形成された反射制御領域5を含んでいる。
【0021】
〔各部の説明〕
図1に示すように、本体部1は、管の長手方向に貫通する中空部を有する筒状の管体である。本実施形態の本体部1は、管の軸心Gに交差する断面の外形が円形状である。本体部1は、筒内部に注射器のシリンジなどから供給された流体を通流可能とされている。なお、軸心Gの延在方向は、本体部1の長手方向と同じである。以下では、軸心Gの延在方向ないし長手方向を単に軸方向と記載する。
【0022】
図1において、符号G1は、軸方向における先端側であり前方向、符号G2は、軸方向における基端側であり後方向、符号Lは左方向、符号Rは右方向を表す。左右方向は軸方向と直行している。以下の説明では、図1に示す先端側、基端側、右及び左を基準として穿刺針100の各部を説明する。
【0023】
本体部1は、軸心Gと重複し、左右方向と直行する仮想面において左右対称(面対照)であってよく、本実施形態では左右対称である場合を例示して説明している。なお、図1は、上面視で穿刺針100を図示したものであるが、本実施形態において上面視とは、軸心Gと直行する方向の内、後述する開口部Hの開口面積が最大に見える方向から本体部1を見下ろす視点のことを言う。
【0024】
図1に示すように、本体部1は、本体部1の先端部に、刃面部2と、刃面部2において、本体部1の中空部が開口した開口部Hとが形成されている。本体部1は、刃面部2から人体などに差し込まれる。本体部1は、刃面部2を血管、体腔内、内臓、これらの腫瘍部などに導かれ、開口部Hを介して人体内に流体を注入可能とされ、また、流体を体外に取り出し可能とされている。本実施形態では、本体部1における刃面部2の背面側に左右側面に別の刃面が形成されて、刃面部2の先端部が三角形状に形成された先端刃面部21とされているバックカットタイプの穿刺針100を例示して説明している。
【0025】
図1,2に示すように、刃面部2は、軸心Gと交差する刃面40が形成された刃面領域4が設けられている。刃面40は、本体部1の先端から他端側にかけて傾斜する面である。刃面部2の先端は、軸方向に頂点が向く尖った形状とされる。なお、図2における部分拡大図は、図1において、開口部H内(例えば開口部Hの中心Qの位置)から側面視(一例として右方向視)で見た刃面部2の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示したものである。なお、中心Qは軸心Gと重複し、本体部1の筒内と筒外の境界面上に位置している。
【0026】
刃面領域4は、図1に示すように、本体部1の端面全体に刃面40が形成されてよい。図2に示すように刃面40は、本体部1の側面視で、刃面40に沿う仮想線L1が、軸心Gと鋭角に交差している。
【0027】
図1に示すように、刃面領域4は、刃面40とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が刃面40と共に形成された反射制御領域5と刃面40のみが形成されており反射構造が形成されていない非制御領域6とを含んでよい。この場合、反射制御領域5は、非制御領域6に囲われるように配置されるとよい。なお、囲うとは、反射制御領域5よりも非制御領域6を刃面領域4の外周側に配置することをいう。
【0028】
このような刃面領域4を有する穿刺針100は、例えば本体部1の先端を斜めにカットして刃面領域4すなわち刃面40を形成した刃面部2とし、刃面領域4のうち、反射制御領域5とする領域に反射構造を形成し、他の部分を非制御領域6として残存させることで形成できる。
【0029】
反射制御領域5は、図1に示すように、刃面40と、刃面40とは異なる方向に超音波を反射する反射構造が刃面40と共に形成された領域である。反射制御領域5は、反射構造の一例として、刃面40と異なる方向を向く反射面50を有する。
【0030】
反射面50は、上面視で、軸心Gと交差(一例として直行)する方向に延在するように配置されてよい。反射制御領域5における刃面40と反射面50は上面視で平行に設けられてよい。図1,2では、軸方向において、反射制御領域5に反射面50が形成された部分と刃面40となっている部分とが交互に配列されている場合を示している。反射面50における軸方向に沿う方向の幅は例えば、50マイクロメートルから300マイクロメートルであるが、この幅は逐次設定し、必要に応じて変更可能なものである。
【0031】
図2中の部分拡大図に示すように、反射面50は、側面視で、反射面50が形成された部分と、刃面40となっている部分とが交互に階段状に配列されるように配置されてよい。図2では、反射面50が刃面40よりも凹み、凹部を形成してその一部となるように形成されている場合を例示している。このように反射面50を配列することで、反射制御領域5内の全域にわたり反射面50を配置しつつ、刃面部2の切れ味を維持することができる。
【0032】
このように凹部として反射面50を形成する場合、例えば本体部1の先端を斜めにカットして刃面領域4すなわち刃面40を形成した刃面部2とし、刃面領域4のうち、反射制御領域5とする領域に削り加工、エッチング、レーザ加工などにより凹部を設けて反射面50を形成し、他の部分を非制御領域6として残存させればよい。
【0033】
なお、切れ味の維持とは、刃面部2の所定の切れ味を確保することをいい、例えば反射構造の形成によって、刃面部2の切れ味を落とさず、もしくは反射構造を形成した刃面部2の切れ味を改善することをいう。
【0034】
図2に示すように、反射面50は、刃面部2を開口部H(図1参照)内から右方向視で見た場合、反射面50に沿う仮想線L2が、刃面40に沿う仮想線L1と鋭角に交差している。すなわち、反射面50は、刃面40と異なる方向を向いている。以下では、仮想線L1と仮想線L2との交差角βが、仮想線L1と軸心Gの交差角αの大きさ以下である場合を説明する。図2では、仮想線L2が軸心Gと平行である場合(交差角βが交差角αと等しい場合)を示している。
【0035】
ここで、穿刺針100の使用に関し、体内における穿刺針100の位置の把握について説明する。穿刺針100の使用時において、血管や腫瘍細胞を捉える際に重要なのは穿刺針の先端部分(本実施形態では刃面部2)の位置の把握である。図3に示すように、体内における刃面部2の位置の把握ないし探知(以下の記載において単に位置の把握と記載する場合は探知を含む)は、例えば超音波プローブ(以下、単にプローブPと記載する)を有するエコー装置による画像診断により行われる。図3では、説明の便宜のため、プローブPの表示サイズとの関係において、穿刺針100をデフォルメして現実のサイズ比よりも拡大して表示している。図3以後の図示では説明は省略するが、図3同様に穿刺針100ないしその一部をデフォルメして拡大表示等を行うものとする。
【0036】
図3に示すように、穿刺針100を皮膚Sから体内(皮膚S下)に穿刺して、プローブPのセンサ面Psを皮膚Sに当てて(当接させて)、穿刺針100の先端部を狙って超音波Wを照射する。図3では、プローブPを体表面に対して斜めに押し当てて(例えばセンサ面Psないしセンサ面Psを押し当てた部分の皮膚Sが本体部1の軸方向に沿うようにプローブPを押し当てて)いる場合を例示して図示している。穿刺針100の体内位置は、反射波R1,R2により探知され、エコー装置の表示部などに表示される。ここで反射波R1は、刃面部2以外の本体部1からの超音波Wの反射波である。また、反射波R2は、刃面部2からの反射波である。なお、本実施形態において、超音波Wの周波数は、少なくとも3MHzから14MHzである場合を含む。
【0037】
図3に示すように、センサ面Psが本体部1の軸方向に沿うようにプローブPが皮膚Sに押し当てられているため、プローブPは、本体部1からの超音波Wの正反射成分を含む反射波R1を強い強度で受波できる。したがって、エコー装置は、反射波R1に基づいて本体部1を鮮鋭に描くことができ、穿刺針100の使用者(例えば医者)は、本体部1の位置を良く把握できる。また、エコー装置は、プローブPが受波した反射波R2に基づいて刃面部2を描く。
【0038】
刃面部2での超音波Wの反射について、更に図4を参照しつつ詳述する。図4は、図1において、開口部H内(例えば開口部Hの中心Qの位置)から側面視(一例として右方向視)で見た刃面部2の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示した図(部分拡大図)である。図4では、反射波R2の内、刃面40から反射された超音波を反射波R21、反射構造としての反射面50から反射された反射波R22として示している。
【0039】
刃面40に沿う仮想線L1は、軸心Gと鋭角に交差しており(図2参照)、プローブPのセンサ面Psに対して刃面40は沿う状態ではないため、刃面40における超音波Wの正反射成分の多くはセンサ面Psに向かわず、プローブPは反射波R21をさほど強い強度で受波できない。
【0040】
しかし、反射面50に沿う仮想線L2は、仮想線L2が軸心Gと平行であり(図2参照)、プローブPのセンサ面Psは反射面50に沿う(平行になる状態で対向する)状態となるため、反射面50における超音波Wの正反射成分がセンサ面Psに向かい、プローブPは反射波R22を反射波R21より強い強度で受波できる。したがって、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を鮮鋭に描くことができ、穿刺針100の使用者(例えば医者)は、刃面部2の位置を良く把握できる。すなわち、反射構造によって穿刺針100の先端部分の視認性を向上させることができるのである。なお、反射面50は、上述のごとく反射制御領域5内の全域にわたり配置されているため、プローブPは反射制御領域5の全域から反射波R22をより強い強度で受波できる。これにより、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2における反射制御領域5の全域を鮮鋭に描くことができ、穿刺針100の先端部分の視認性を向上させることができる。
【0041】
図1に示すように、非制御領域6は、刃面領域4のうち、反射構造が形成されていない領域である。非制御領域6は、刃面領域4の外周部分に配置され、刃面部2の周縁領域を含む。非制御領域6は、刃面部2において、反射制御領域5の外側に配置される。本実施形態において、非制御領域6は反射制御領域5の外周縁の全部を囲うように配置されている。換言すれば、反射制御領域5は、非制御領域6に外周縁の全部を囲われており、刃面領域4において、反射制御領域5の全部が非制御領域6よりも内側に配置されている。
【0042】
非制御領域6には反射構造が設けられていないため、非制御領域6を刃面領域4の外周部分(反射制御領域5の外側)に配置することで、反射構造を刃面領域4の外周部分に配置することを避けて、刃面部2の切れ味を維持することができる。すなわち、穿刺針100を穿刺する際の抵抗が大きくなることを回避することができる。
【0043】
〔第二実施形態〕
第二実施形態は、図5に示すように、仮想線L1と仮想線L2との交差角βが、仮想線L1と軸心Gの交差角αの大きさを超えている点で第一実施形態と異なり、その他は同じである。以下では、本実施形態の穿刺針100の使用に関し、第一実施形態と相違する部分について説明する。
【0044】
図6に示すように、穿刺針100を皮膚Sから体内(皮膚S下)に穿刺して、プローブPのセンサ面Psを皮膚Sに当てて、穿刺針100の先端部を狙って超音波Wを照射する。図6では、プローブPを体表面に沿わせて(皮膚Sにセンサ面Psを沿わせて)当てている場合を例示して図示している。この例では、センサ面Psないしセンサ面Psを当てた部分の皮膚Sが本体部1の軸方向と交差するようにプローブPを当てている場合を示している。
【0045】
図6に示すように、センサ面Psが本体部1の軸方向と交差するようにプローブPが当てられているため、本体部1からの超音波Wの正反射成分はセンサ面Psへ向く方向から反れた方向に反射する。そのため、第一実施形態の場合と比べて、プローブPは、反射波R1を十分な強度で受波できない場合がある。
【0046】
刃面部2での超音波Wの反射について、更に図7を参照しつつ詳述する。図7は、図1において、開口部H内(例えば開口部Hの中心Qの位置)から側面視(一例として右方向視)で見た刃面部2の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示した図である。
【0047】
刃面40に沿う仮想線L1は、軸心Gと鋭角に交差しており(図1参照)、センサ面Psに対して刃面40は大きく反れているため、反射波R21(特に刃面40における超音波Wの正反射成分の大部分)はセンサ面Psに向かわず、プローブPは反射波R21をほとんど受波できない。
【0048】
仮想線L1と仮想線L2との交差角βが、仮想線L1と軸心Gの交差角αの大きさを超えている(図5参照)ため、反射面50はセンサ面Psと沿う(平行又は平行に近い)状態になる。これにより、反射面50における超音波Wの正反射成分の多くはセンサ面Psに向かうから、プローブPは反射波R22を反射波R21より強い強度で受波できる。したがって、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を鮮鋭に描くことができ、穿刺針100の使用者(例えば医者)は、刃面部2の位置を良く把握できる。すなわち、反射構造によって穿刺針100の先端部分の視認性を向上させることができるのである。
【0049】
〔第三実施形態〕
第三実施形態は、図8に示すように、穿刺針100が第一実施形態で説明した刃面部2の先端部が三角形状に形成された先端刃面部21とされているバックカットタイプである場合に代えて、刃面領域4が、刃面40として第一刃面41が形成された第一刃面領域4aと、刃面40として第二刃面42が形成された第二刃面領域4bと、刃面40として第三刃面43が形成された第三刃面領域4cとを備え、第一刃面41、第二刃面42及び第三刃面43がそれぞれ異なる方向を向くランセットタイプである点で第一実施形態と異なり、その他は同じである。本体部1は、軸心Gと重複し、左右方向と直行する面において左右対称(面対照)であってよく、以下では、本体部1が左右対称である場合を例示して説明する。
【0050】
第一刃面領域4aは、刃面領域4における基端側の領域に配置されている。第二刃面領域4bは刃面領域4における第一刃面領域4aよりも先端側かつ、右側の領域に配置されている。第三刃面領域4cは刃面領域4における第一刃面領域4aよりも先端側かつ、第二刃面領域4bの左側の領域に配置されている。
【0051】
図9図8に示すA-A矢視断面である。図9に示すように、本実施形態では、第二刃面42は右側に傾斜した面とされている。また同様に、第三刃面43は左側に傾斜した面とされている。
【0052】
刃面領域4における第二刃面領域4bや第三刃面領域4cにおいても、第一実施形態と同様に刃面領域4の外周部分に非制御領域6が配置されている。これにより、刃面部2の切れ味を維持している。
【0053】
第二刃面領域4bにおいて、反射制御領域5内の第二刃面42(刃面42a)と反射面50は非平行に設けられている。すなわち前方視(軸方向視)において刃面42aと反射面50は交差する方向に設けられている。
【0054】
第三刃面領域4cにおいて、反射制御領域5内の第三刃面43(刃面43a)と反射面50は非平行に設けられている。すなわち前方視において刃面43aと反射面50は交差する方向に設けられている。
【0055】
第二刃面領域4b及び第三刃面領域4cの反射面50は、前方視において第一刃面領域4aの反射面50と平行に設けられている。これにより超音波Wの正反射成分の多くは反射波R22として強い強度で受波できる。
【0056】
図10は、図8において、開口部H内(例えば開口部Hの中心Qの位置)から側面視(一例として右方向視)で見た刃面部2の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示した図である。図10に示すように、刃面部2を開口部H(図1参照)内から右方向視で見た場合、第二刃面42に沿う仮想線L12(仮想線L1の他の例)は、第一刃面41に沿う仮想線L11(仮想線L1の他の例)に対して、軸心Gとの交差角が大きくなる方向に傾斜している。本体部1は上述のごとく面対照であるので、図示は省略するが、第三刃面43と第一刃面41との関係も同様である。なお、反射面50は第一実施形態の説明と同じく、刃面部2を開口部H内から右方向視で見た場合、反射面50に沿う仮想線L2が、仮想線L11及び仮想線L12と鋭角に交差している。これにより、エコー装置は、反射構造としての反射面50から反射された反射波R22に基づいて刃面部2を鮮鋭に描くことができ、刃面部2の位置を良く把握できる。
【0057】
〔上記実施形態の変形例〕
以下では、上記実施形態の変形例を説明する。
【0058】
〔変形例1〕
上記実施形態では、反射構造の一例として、刃面40と異なる方向を向く反射面50を有する場合を説明した。そして、反射面50は、上面視で、軸心Gと交差する方向に延在するように配置されてよく、反射面50は、側面視で、反射面50が形成された部分と、刃面40となっている部分とが交互に階段状に配列されるように配置されてよいことを説明した。しかし、反射面50と刃面40となっている部分とは階段状に配列される場合に限らない。
【0059】
図11には、反射制御領域5の変形例を斜視図で示している。図11に示すように、反射構造として刃面40と異なる方向を向く反射面50形成する場合に、例えば凹部を溝状に形成した溝Cを反射構造として形成し、溝Cの底面を反射面50としてもよい。溝Cは、軸心G(図1参照)と交差する方向に延在するように配置してよい。
【0060】
〔変形例2〕
上記実施形態では、反射構造の一例として、刃面40と異なる方向を向く反射面50を有する場合を説明した。反射面50は、平面状である場合に限られず、図12に示すように粗面50Rとして形成してもよい。換言すれば、反射構造として、粗面状の微小な凹凸を採用してもよい。なお、微小な凹凸との記載における、微小な凹凸とは、例えば、隣接する凹凸の山谷間の高さの差が数マイクロメートルから20マイクロメートル程度のである場合のことを言う。反射面50を粗面50Rとして形成することで、反射波R22(図4等参照)の正反射成分が特定方向のみに反射されず不特定の方向に反射されるようになる。これにより、プローブP(図3図6参照)と刃面部2の位置関係が変化した場合においても、プローブPは反射波R22を必要十分な強度で受波できる。これにより、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を必要十分な精度で描くことができる。
【0061】
〔変形例3〕
上記実施形態では、反射構造の一例として、刃面40と異なる方向を向く反射面50を有する場合を説明した。反射面50は同じ方向を向く面のみで形成される場合に限られず、異なる方向を向く二面以上で形成されてもよい。
【0062】
図13は、反射面50が異なる方向を向く二面で形成された場合における、開口部H内から側面視(一例として右方向視)で見た刃面部2の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示した図である。図13に示すように、反射面50として、第一反射面51と、第一反射面51と異なる方向を向く第二反射面52とを含んでよい。図13には側面視で見た刃面部2を示しており、第一反射面51と第二反射面52との間に刃面40となっている部分が配置されている場合を示している。
【0063】
反射面50をそれぞれ異なる方向を向く2面以上で形成することで、反射波R22の正反射成分が特定方向のみに反射されず2以上の複数の方向に反射されるようになる。これにより、プローブP(図3図6参照)と刃面部2の位置関係が変化した場合においても、プローブPは反射波R22を必要十分な強度で受波できる。これにより、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を必要十分な精度で描くことができる。
【0064】
〔変形例4〕
上記実施形態では、上記変形例3のように反射面50を異なる方向を向く2面以上で形成する場合を説明し、一例として、反射面50として、第一反射面51と、第一反射面51と異なる方向を向く第二反射面52との二面を含んでいる場合を説明した。反射面50は、図14に示すように、異なる方向を向く多数の面を含んで形成されてもよい。
【0065】
図14には、反射面50が、立体としての多面体50a~50eの表面の集合体で形成されている場合を例示している。換言すれば、反射構造が多面体(立体)又はその集合体で形成されている場合を示している。図14では、多面体50a~50eがそれぞれ、三角錐状の突起である場合を例示しているが、多面体50a~50eは、四角錐状ないし、それ以上の角数の錐状体であってもよい。
【0066】
反射構造として、多面体又はその集合体を採用することで、反射波R22の正反射成分が特定方向のみに反射されず複数の方向に反射されるようになる。これにより、プローブPや穿刺針100を動かした際にも、反射波R22が多面体のいずれかの面で反射された正反射成分を含むようになる。すなわち、プローブP(図3図6参照)と刃面部2の位置関係が変化した場合においても、プローブPは反射波R22を必要十分な強度で受波できる。これにより、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を必要十分な精度で描くことができる。
【0067】
〔変形例5〕
上記実施形態において、反射構造は樹脂などの被膜材料によって被覆されていてもよい。図15には、刃面部2の左右方向に向く断面の一部(反射制御領域5を含む部分)を拡大して表示した図(部分拡大断面図)を示している。一例として、図15に示すように、刃面部2に被膜Fを設け、刃面領域4の全面が被膜Fで覆われるようにしてもよい。また、刃面領域4の一部、例えば、反射制御領域5のみ、ないし、反射構造のみが被膜Fで覆われていてもよい。被膜Fの厚みは、例えば、10マイクロメートルから200マイクロメートルである。
【0068】
刃面領域4の少なくとも一部を被膜Fで覆うことにより、反射構造を被覆して刃面部2の切れ味を維持することができる。たとえば、反射構造として粗面50Rが形成されている場合、粗面50Rの表面の凹凸を被膜Fで隠ぺいして切れ味を維持することができる。
【0069】
反射構造を被覆するように被膜Fを形成する場合、被膜Fを反射構造の表面(例えば反射面50や粗面50R)に密着させてもよい。被膜Fを反射構造の表面に密着させることで、刃面部2に被膜Fを強固に固定することができる。特に粗面50Rの表面に被膜Fを密着させる場合は、その微小な凹凸に被膜Fを絡ませて強固に固定することができる。被膜Fを反射構造の表面に密着させるために、反射構造としての凹部に立体的に係止されるようにして被膜Fを絡ませて強固に固定することもできる。
【0070】
被膜Fを反射構造の表面に密着させた場合においても、反射波R2は、刃面部2の金属表面からの超音波W(以上図3など参照)の反射が支配的になる。これは、体内の音響インピーダンスと被膜Fを形成する樹脂の音響インピーダンスは通常は近似するため、被膜Fの表面での超音波Wの反射は小さくなり、大部分の超音波Wが被膜Fを透過して刃面部2の表面に到達して反射するためである。なお被膜Fを形成する樹脂の音響インピーダンスと金属製の刃面部2(本体部1)の音響インピーダンスとの差は、体内の音響インピーダンスと被膜Fを形成する樹脂の音響インピーダンスとの差よりも大きな差となっている。
【0071】
〔変形例6〕
上記実施形態では、変形例5のように反射構造を被膜Fで被覆する場合に、被膜Fと反射構造の表面との間に空気層Aを形成してもよい。換言すれば、被膜Fと反射構造の表面の全部ないし一部とを離間させてもよい。
【0072】
図16には、刃面部2の左右方向に向く断面の一部であって、空気層Aを含む部分を拡大して表示した図(部分拡大断面図)を示している。図16には、粗面50Rの微小突起Tの頂部に被膜Fが固定され、被膜Fが粗面50Rの微小凹部Vの底面と離間しており、粗面Rと被膜Fとの間に空気層A(空間)が形成されている場合を示している。このように粗面Rと被膜Fとの間に空気層Aが形成された場合であっても、粗面50Rの表面の凹凸を被膜Fで隠ぺいして切れ味を維持することができる。なお、微小突起Tの頂部と微小凹部Vの底面との逆さの差は、数マイクロメートルから20マイクロメートルである。すなわち、空気層Aの厚みは、数マイクロメートルから20マイクロメートルである。
【0073】
粗面Rと被膜Fとの間に空気層Aが形成された場合においては、反射波R2は、粗面50Rと刃面部2の金属表面からの超音波W(以上図3など参照)の反射が支配的になる。これは、被膜Fの音響インピーダンスと、粗面Rと被膜Fとの間に形成された空気層Aの音響インピーダンスとの差が大きいため、被膜Fと空気層Aとの境界で超音波Wの大部分が反射するためである。これにより、プローブP(図3図6参照)は反射波R22をより強い強度で受波できるため、エコー装置は、反射波R22に基づいて刃面部2を鮮鋭に描くことができる。
【0074】
以上のようにして、先端部分の視認性を向上させた穿刺針を提供することができる。
【0075】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、穿刺針100がバックカットタイプである場合とランセットタイプである場合とを説明したが、これらは例示に過ぎない。刃面領域4に反射構造が形成された反射制御領域5を含んでいれば、本体部1の形状や刃面部2の形状は問わない。例えば、穿刺針100が、本体部1の先端部を刃面部2の刃面領域4の側に屈曲させたフーバータイプであってもよいし、刃面部2における刃面領域4の裏側に、開口部Hとは別の開口を形成したバックアイタイプであってもよい。
【0076】
(2)上記実施形態では、非制御領域6は反射制御領域5の外周縁の全部を囲うように配置されている場合を説明した。しかし、非制御領域6は、必ずしも配置しなくてもよいし、配置する場合であっても、反射制御領域5の外周縁の全部を囲わなくてもよい。例えば、反射制御領域5の外周縁の内、先端側の部分のみを囲うように、刃面領域4における反射制御領域5よりも先端側にのみ配置してもよい。このようにしても、刃面部2における先端側の切れ味を維持できる。
【0077】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、穿刺針に適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 :本体部
2 :刃面部
4 :刃面領域
4a :第一刃面領域
4b :第二刃面領域
4c :第三刃面領域
5 :反射制御領域
6 :非制御領域
21 :先端刃面部
40 :刃面
41 :第一刃面
42 :第二刃面
42a :刃面
43 :第三刃面
43a :刃面
50 :反射面
50R :粗面
50a~50e:多面体
51 :第一反射面
52 :第二反射面
100 :穿刺針
C :溝
F :被膜
G :軸心
H :開口部
L1 :仮想線
L11 :仮想線
L12 :仮想線
L2 :仮想線
P :プローブ
Ps :センサ面
Q :中心
R :粗面
R1 :反射波
R2 :反射波
R21 :反射波
R22 :反射波
A :空気層
S :皮膚
T :微小突起
V :微小凹部
W :超音波
α :交差角
β :交差角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16