(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136923
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】包装体用積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036758
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】本多 洋子
(72)【発明者】
【氏名】山川 秀之
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AH06C
4F100AK01C
4F100AK07E
4F100AK21C
4F100AK42A
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4F100EH20A
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4F100EJ61A
4F100EJ86C
4F100GB15
4F100GB23
4F100GB66
4F100JB09C
4F100JD02B
4F100JD03
4F100JD04
4F100JK06
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】樹脂フィルムを含む積層体の気密性を向上する。
【解決手段】包装体用積層体の製造方法であって、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルム10に反応性イオンエッチングによる表面改質処理を行う工程と、表面改質処理が行われた表面にガスバリア層11を積層する工程と、を有し、樹脂フィルム10は、積層体20は、樹脂フィルム10と、樹脂フィルム10に積層されたガスバリア層11と、を含み、樹脂フィルム10は、ポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分を含み、ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計質量に対するイソフタル酸成分のモル比率が2×10
-1mol%以上9×10
-1mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が1×10
-2mol%以上6×10
-2mol%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムに反応性イオンエッチングによる表面改質処理を行う工程と、
前記表面改質処理が行われた表面にガスバリア層を積層する工程と、を有し、
前記樹脂フィルムは、ポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分を含み、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計量に対する前記イソフタル酸成分のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、前記ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
包装体用積層体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムの前記ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計量に対する前記イソフタル酸成分のモル比率が5×10-1mol%以上9×10-1以下であり、前記ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が4×10-2mol%以上6×10-2以下である
請求項1に記載の包装体用積層体の製造方法。
【請求項3】
前記表面改質処理は、反応性イオンエッチング処理である
請求項1又は2に記載の包装体用積層体の製造方法。
【請求項4】
前記ガスバリア層を積層する工程は、
前記表面改質処理が施された表面に、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む第1被膜を積層する工程を含む
請求項1~3のいずれか1項に記載の包装体用積層体の製造方法。
【請求項5】
前記ガスバリア層を積層する工程は、
Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3(OR1およびOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む第2被膜を、前記第1被膜のうち前記樹脂フィルムの前記表面改質処理が行われた表面に接触する面に対して反対側の面に積層する工程を含む
請求項4に記載の包装体用積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装体用積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムは、食品、医薬品、化粧品などの内容物を包装するための包装体に広く用いられている。一般的に、この樹脂フィルムは、僅かに酸素や水素などの気体を透過させる性質を有する。そのため、包装体として、樹脂フィルムと、金属膜や金属酸化膜などを含むガスバリア層との積層体が使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、樹脂フィルム自体も、樹脂フィルムの材料が気体を透過させにくい性質であるガスバリア性が高い材料からなることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、内容物を樹脂フィルムとガスバリア層との積層体からなる包装体で包装した商品の流通過程では、摩擦、屈曲などの変形を生じさせる外力が商品に対して繰り返し加わる。このように外力が包装体に繰り返し加わると、ガスバリア層にクラックが形成され、包装体の気密性が失われてしまう。そのため、積層体には、ガスバリア性を高めるだけでなく、変形に対する耐性も高めて、包装体の気密性を包括的に向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する包装体用積層体の製造方法は、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムにプラズマ処理による表面改質処理を行う工程と、前記表面改質処理が施された表面にガスバリア層を積層する工程と、を有し、前記樹脂フィルムは、ポリエステルのジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分を含み、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計量に対する前記イソフタル酸成分のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、前記ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である。
【0006】
上記方法によれば、イソフタル酸のモル比率が上記範囲内であるため、樹脂フィルムの柔軟性が高められる。樹脂フィルムの柔軟性を高めることで、積層体に対して加えられた荷重を樹脂フィルムが吸収しやすくなるため、ガスバリア層に加わる荷重が低減され、耐屈曲性等が高められる。また、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が上記範囲内であるため、樹脂フィルムの面配向係数を大きくすることができる面配向係数を大きくすることにより、樹脂フィルム自体のガスバリア性を高めるとともに、ガスバリア層との密着性を高めることができる。よってガスバリア層を積層した積層体の気密性を包括的に高めることができる。一方、面配向係数が大きくなると樹脂フィルム及びガスバリア層の密着性が低下することがあるが、樹脂フィルムの積層面にはプラズマ処理が施されているため、樹脂フィルムとガスバリア層との密着性を高められる。そして樹脂フィルムとガスバリア層との密着性を高めることで、ガスバリア層の剥離や、クラックの発生を抑制することができる。よって、ガスバリア層を積層した樹脂フィルムの気密性を包括的に高めることができる。
上記包装体用積層体について、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計量に対する前記イソフタル酸成分のモル比率が5×10-1mol%以上9×10-1以下であり、前記ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が4×10-2mol%以上6×10-2以下であってもよい。
上記構成によれば、ガスバリア層を積層した包装体用積層体の気密性をさらに包括的に高めることができる。
【0007】
上記包装体用積層体の製造方法について、前記表面改質処理は、反応性イオンエッチング処理であってもよい。
上記方法によれば、樹脂フィルムの表面にガスバリア層との密着性を高めることが可能な官能基を付与するとともに、樹脂フィルムの表面に付着した不純物を除去して表面粗さを大きくすることができる。これにより、樹脂フィルムとガスバリア層との密着性を高めることができる。
【0008】
上記包装体用積層体の製造方法について、前記ガスバリア層を積層する工程は、前記表面改質処理が施された表面に、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む第1被膜を積層する工程を含んでいてもよい。
【0009】
上記方法によれば、樹脂フィルムに透明性を有する被膜を形成することができる。また、樹脂フィルムの積層面に付与された官能基により樹脂フィルムと第1被膜との密着性がより高められる。
【0010】
上記包装体用積層体の製造方法について、前記ガスバリア層を積層する工程は、Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3(OR1及びOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む第2被膜を、前記第1被膜のうち前記樹脂フィルムの前記表面改質処理が行われた表面に接触する面に対して反対側の面に積層する工程を含んでいてもよい。
上記構成によれば、ガスバリア層の水蒸気透過性及び酸素透過性等を低くすることによって、積層体のガスバリア性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂フィルムを含む積層体を備える包装体の気密性を包括的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態の樹脂フィルムの断面構造を示す図。
【
図7】
図6の
1H-NMRスペクトルの一部を拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、包装体用積層体の製造方法の一実施形態を説明する。
[樹脂フィルム]
図1を参照して、包装体用樹脂フィルムである樹脂フィルム10の構成を説明する。ポリエステルからなる樹脂フィルム10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。PET樹脂は、石油などの原料から新規に合成されたバージンPET、及び、再生されたPET樹脂であるリサイクルPETの少なくとも一方である。リサイクルの対象であるPET製品は、使用済みペットボトルを含む。樹脂フィルム10を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、及び、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0014】
メカニカルリサイクルは、PET製品を粉砕して樹脂片とする工程、樹脂片を洗浄することによって表面の汚れや異物を取り除く工程、高温下に樹脂片を曝して樹脂内部に留まっている汚染物質を除去する工程を含む。ケミカルリサイクルは、PET製品を粉砕して樹脂片とする工程、樹脂片を洗浄し表面の汚れや異物を取り除く工程、解重合により樹脂を中間原料まで戻す工程、中間原料を精製して再重合する工程を含む。メカニカルリサイクルは、ケミカルリサイクルと比較して、化学反応のための大掛かりな設備を要しないため、リサイクルPETの製造に要するコストを軽減することができる。また、二酸化炭素の排出量を削減できるため、環境への負荷が小さい。コスト及び環境負荷を低くする場合、樹脂フィルム10の原料となるリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPETであることが好ましい。
【0015】
樹脂フィルム10が、リサイクルPETに加えてバージンPETを含んでいる場合、コスト及び環境負荷を低くする観点では、リサイクルPETの割合は、樹脂フィルム10の60重量%以上100重量%以下であることが好ましい。
【0016】
また、樹脂フィルム10を構成するポリエステルは、繰り返し単位であるジカルボン酸成分として、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分を含む。ナフタレンジカルボン酸成分は、ナフタレン骨格を有する多価カルボン酸成分であって、例えば2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なお、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸を含んでいてもよい。
【0017】
イソフタル酸成分及びナフタレンジカルボン酸成分は、リサイクルペット由来でもよく、バージンPET由来であってもよい。又は、製造工程のいずれかの工程で添加されてもよい。さらには、アジピン酸等のジカルボン酸成分、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等のグリコール成分を含ませることもできる。一般的に、PET樹脂は、ジカルボン酸であるテレフタル酸とジオールであるエチレングリコールとを重合させて作製されるが、樹脂フィルム10に用いられるPET樹脂は、テレフタル酸にイソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸を共重合させて作った樹脂、又は、テレフタル酸とイソフタル酸を共重合させて作った樹脂にポリエチレンナフタレート樹脂を混合した樹脂からなるもの等である。つまり、イソフタル酸成分、及びナフタレンジカルボン酸成分は、ポリエチレンテレフタレートとの共重合成分として含まれていてもよく、ポリエチレンテレフタレートとは別のポリエステルとして含まれていてもよい。
【0018】
樹脂フィルム10が含むPET樹脂の平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000~100万程度であることが好ましい。なお、樹脂フィルム10は、PET以外の樹脂や、可塑剤等の各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
樹脂フィルム10は、単一の層、あるいは、複数の層から構成される。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層を構成する材料は、同一、あるいは、互いに異なる。各層を構成する材料が互いに異なる構成の一例は、リサイクルPETから形成された層と、バージンPETから形成された層との積層体である。各層を構成する材料が互いに異なる構成の他の例は、バージンPETに対し第1の割合でリサイクルPETを含む層と、バージンPETに対し第1の割合とは異なる第2の割合でリサイクルPETを含む層との積層体である。
【0020】
樹脂フィルム10は、ガスバリア層11が積層される積層面12に表面改質処理が施されている。表面改質処理は、コロナ放電処理、反応性イオンエッチングであるリアクティブイオンエッチング(RIE)、誘導性結合プラズマ(ICP)エッチング、ICP-RIE処理、大気圧プラズマ処理、フレーム処理等のプラズマ処理である。換言すると、樹脂フィルム10は、表面改質処理が施された表面改質層13を有する。表面改質処理は、積層面12のみに施されていてもよいし、積層面12に加えて積層面12に対して反対側となる面に施されていてもよい。
【0021】
以下、表面改質処理としてRIE処理を用いた場合について説明する。RIE処理にはプラズマが利用される。プラズマ中に発生したラジカルやイオンにより、PET樹脂の基材の表面に官能基を付与する化学効果が得られる。また、反応性イオンエッチングによって表面不純物を除去すると共に、表面粗さを大きくする物理的効果も得られる。よってこれらの効果により、樹脂フィルム10とガスバリア層11との間の密着性が向上し、高温且つ高湿の環境下においても樹脂フィルム10とガスバリア層11との間の剥離が生じにくくなる。そのため、積層体20全体の耐熱性が向上し、ボイル処理、レトルト処理、加熱調理等の加熱処理を行ったときの、樹脂フィルム10とガスバリア層11との間のデラミネーションの発生やガスバリア性の劣化等が抑制される。
【0022】
RIE処理は、公知のRIE方式のプラズマ処理装置を用いて実施できる。該プラズマ処理装置としては、巻取り式のインラインプラズマ処理装置が好ましい。巻取り式のインラインプラズマ処理装置としては、プレーナ型プラズマ処理装置、ホローアノード型プラズマ処理装置等を用いることができる。
【0023】
樹脂フィルム10の厚さは、熱や水分などの各種の環境耐性、内容物の保存性、内容物の充填性、シール加工性、マーキングを含む印刷耐性など、包装体に求められる各種の特性に応じて選択される。樹脂フィルム10の加工性を高める観点では、例えば、樹脂フィルム10の厚さは、3μm以上100μm以下の範囲から選択されることが好ましく、6μm以上50μm以下の範囲から選択されることがさらに好ましい。
【0024】
樹脂フィルム10を形成する方法は、溶融押出成形法、あるいは、溶融共押出成形法である。樹脂フィルム10における流れ方向は、樹脂フィルム10の製造時においてPET樹脂の成形が進む方向である。流れ方向は、MD(Machine Direction)方向、又は、縦方向とも称される。流れ方向と直交する方向は、TD(Transverse Direction)方向、又は、横方向とも称される。樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の流れ方向は、同一である。
【0025】
樹脂フィルム10は、無延伸フィルム、MD方向又はTD方向に所定倍率で延伸された一軸延伸フィルム、MD方向とTD方向とに逐次又は同時に所定倍率で延伸される二軸延伸フィルムである。なお、樹脂フィルム10が複数の層から構成される場合、各層の延伸方向は、同一である。
【0026】
[積層体]
図2を参照して、包装体用積層体である積層体20を説明する。積層体20は、樹脂フィルム10と、ガスバリア層11とを備えている。ガスバリア層11は、積層体20におけるガスバリア性を高める機能を有する。なお、樹脂フィルム10の厚さ及びガスバリア層11の厚さの比は
図2に示される比に限定されない。
【0027】
ガスバリア層11は、樹脂フィルム10の積層面12に積層される。ガスバリア層11は、例えば化学気相成長又は物理気相成長により形成された気相堆積膜を含む。気相堆積膜は、無機酸化物膜または金属膜である。無機酸化物が含む無機物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物であってよい。金属は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、スズ、ナトリウム、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム、金、クロムなどであってよい。
【0028】
気相堆積膜の形成方法は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及び、プラズマ気相成長法(CVD)などであってよい。積層体の生産性を高める観点では、気相堆積膜の形成方法は真空蒸着法であることが好ましい。真空蒸着法において蒸着材料を加熱する方式には、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、及び、誘導加熱方式のいずれかを用いることが好ましい。蒸着材料の選択性における自由度を高める観点では、電子線加熱方式を用いることが好ましい。気相堆積膜と樹脂フィルム10との密着性を高める観点、及び、気相堆積膜の緻密性を高める観点では、真空蒸着法において、プラズマアシスト法及びイオンビームアシスト法を用いることが可能である。蒸着層の透明性を高める観点では、反応性蒸着法を用いてガスバリア層11を形成してもよい。反応性蒸着法では、例えば酸素ガスなどの反応ガスを成膜空間に供給する。
【0029】
透明な包装体を形成するための積層体20は、無機酸化物から形成された気相堆積膜を備える。特に、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素によって形成された気相堆積膜が好適である。遮光性を有した包装体を形成するための積層体20は、金属から形成された気相堆積膜を備える。特に、アルミニウムから形成された気相堆積膜が好適である。
【0030】
なお、ガスバリア層11は、複数のバリア層から形成されてもよい。この場合には、各バリア層は同一の材料から形成されてもよいし、複数のバリア層は、第1の材料から形成されたバリア層と、第1の材料とは異なる第2材料から形成されたバリア層とを含んでいてもよい。
【0031】
ガスバリア層11の厚さは特に限定されないが、気相堆積膜である場合には例えば5nm以上300nm以下である。ガスバリア層11の厚さが5nm以上であることによって、ガスバリア層11の均一性を高めること、及び、ガスバリア層11が十分な厚さを有することが可能である。そのため、ガスバリア層11は、ガスバリア機能を十分に発揮することができる。一方、厚さが300nm以下であることによって、ガスバリア層11が可撓性を保持することができる。これにより、成膜後の折り曲げ、及び、引っ張りなどの外的要因に起因したガスバリア層11の亀裂が抑えられる。なお、ガスバリア層11の厚さは、ガスバリア層11を形成する無機化合物の種類、及び、積層体20が有する構成に応じて適宜選択される。なお、ガスバリア層11の厚さにおける均一性を高める観点では、ガスバリア層11の厚さは10nm以上150nm以下の範囲に含まれることがより好ましい。気相堆積膜は第1被膜に対応する。
【0032】
ガスバリア層11は、上述した気相堆積膜に加えて、あるいは、上述した気相堆積膜に代えて、ガスバリア性を有する塗布膜を含んでいてもよい。塗布膜は、樹脂を含む材料によって形成される。以下では、ガスバリア層11が、無機酸化物の気相堆積膜に形成された塗布膜を備える場合の一例を説明する。塗布膜は、気相堆積膜を保護し、これによってガスバリア層のガスバリア性を高めることが可能である。塗布膜は第2被膜に対応する。
【0033】
塗布膜は、例えば、水溶性高分子と無機化合物とから形成される。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどであってよい。ガスバリア層11のガスバリア性を高める観点では、水溶性高分子がポリビニルアルコール(PVA)であることが好ましい。
【0034】
塗布膜が含む無機化合物は、例えば、Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3によって表されるケイ素化合物、又は、当該ケイ素化合物の加水分解物であってよい。なお、ケイ素化合物を表す化学式において、OR1及びOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である。無機化合物は、1種以上のケイ素化合物、又は、当該ケイ素化合物の加水分解物を含んでよい。また、ケイ素化合物、又はケイ素化合物の加水分解物を塗布膜が含む場合、塗布膜は、水溶性高分子等の有機物とケイ素化合物とを結合させるカップリング剤を含んでいてもよい。
【0035】
Si(OR1)4は、例えばテトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)(TEOS)であってよい。TEOSは、加水分解後において、水系の溶媒中にて比較的安定である点で好ましい。また、R2Si(OR3)3が含むR2は、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、及び、イソシアネート基から構成される群から選択されることが好ましい。また、有機官能基R2が、γ-グリシドキシプロピル基又はβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)基であってもよい。
Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物を塗布膜に添加することにより、ガスバリア層11の膨潤を防ぐことができる。特にビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、イソシアネート基を持つものは、官能基が疎水性であるために耐水性はさらに向上する。
【0036】
塗布膜は、溶媒、水溶性高分子、ケイ素化合物又はケイ素化合物の加水分解物、及びカップリング剤等の添加剤を混合した混合溶液を蒸着層上に塗布した後に、加熱、及び乾燥を経ることによって形成される。溶媒は、水、又は、水とアルコールとの混合溶媒であってよい。混合溶液を形成する際には、まず、水溶性高分子を溶媒に溶解させ、その後、ケイ素化合物又はケイ素化合物の加水分解物を混合する。なお、混合溶液は、混合溶液を用いて形成された塗布膜がガスバリア性を損なわない範囲において、添加剤を含んでよい。添加剤は、例えば、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、及び、着色剤などであってよい。
【0037】
塗布膜の厚さは、例えば、0.05μm以上30μm以下である。ガスバリア層11が、気相堆積膜と塗布膜とを備える場合には、積層体20において、気相堆積膜が樹脂フィルム10上に位置し、塗布膜が気相堆積膜上に位置する。これにより、塗布膜が、気相堆積膜に接している。
【0038】
気相堆積膜は、樹脂フィルム10の積層面12に接し、塗布膜は、気相堆積膜に接していてもよい。また、気相堆積膜と塗布膜との間に他の層が位置してもよい。あるいは、気相堆積膜と樹脂フィルム10との間に、塗布膜以外の他の層が位置してもよい。
【0039】
積層体20は、樹脂フィルム10及びガスバリア層11に加えて、シール層、接着層、加飾層、及び、情報表示層などを備えてもよい。シール層は、熱可塑性樹脂を含んでいる。シール層は、積層体20を用いて包装体が形成される際に、ヒートシールにより融解される。これにより、2枚の積層体20において、一方の積層体20の端部が、他方の積層体20の端部に融着される。あるいは、1枚の積層体20において、当該積層体20の第1部分と第2部分とが融着される。接着層は、ガスバリア層11とガスバリア層11の上層との間の密着性、あるいは、ガスバリア層11とガスバリア層11の下層との間の密着性を高める。加飾層及び情報表示層は、印刷により形成された装飾及び情報などを表示する。
【0040】
積層体20の厚さは、積層体20を用いて形成される包装体に求められる各種の耐性、及び、積層体20に求められる加工性に応じて選択されればよい。積層体20の厚さは、例えば、30μm以上300μm以下であってよい。
【0041】
積層体20の形成には、上述した成膜法、各種の塗布法、ドライラミネート法、及び、押出ラミネート法などが用いられてよい。
[包装体]
図3を参照して、包装体を説明する。
【0042】
図3が示す包装体30は、積層体20から形成されている。包装体30は、当該包装体30の内部に包装対象を収容することが可能な空間を区画している。
図3が示す例では、包装体30は袋状を有している。包装体30において、端部が全周にわたって接合されることによって、包装体30が密封されている。包装体30において、ガスバリア層11は、樹脂フィルム10に対して内側に位置する。包装体30の形状及び大きさは、特に限定されない。包装体30の形状及び大きさは、包装対象の形状及び大きさに応じて設計されていればよい。包装対象は、例えば、食品、医薬品、化粧品などであってよい。
【0043】
積層体20の端部を接合する方法は、特に限定されない。例えば、積層体20の端部は、上述したようにヒートシールを用いて接合されてもよいし、その他の方法によって接合されてもよい。なお、
図3が示す例では、包装体30が、2枚の積層体20において、第積層体の端部と第2積層体の端部とが接合された封止部31を有している。
【0044】
なお、包装体30は
図3が示す袋状に限られない。例えば、筒状、及び、一方の筒端が封止される一方で、他方の筒端が開放された袋状を有してもよい。又は、包装体30は、一部のみに積層体20を備えていてもよい。
【0045】
なお、積層体20を用いた包装体30が大量生産される場合には、ロールツーロール装置が用いられ、ロールツーロール装置によって積層体20が搬送されている間に、包装体30を形成するための処理が積層体20に施される。積層体20は、ロールツーロール装置によって樹脂フィルム10の流れ方向に沿って搬送される。この際に、積層体20は、樹脂フィルム10の流れ方向に沿って引っ張られた状態で、ロールツーロール装置によって搬送される。樹脂フィルム10には、積層体20の搬送を可能にする上で、また、積層体20を用いて形成された包装体30にしわなどが生じることを抑える上で、積層体20に弛み及び撓みなどが生じない程度の応力で流れ方向に沿って引っ張られる。
【0046】
[表面改質処理]
図4を参照して、プレーナ型プラズマ処理装置が表面改質処理を行う方法の一例を説明する。
図4は、プレーナ型プラズマ処理装置50の要部を模式的に示す図である。プレーナ型プラズマ処理装置50は、真空室と、真空室に位置する電極(カソード)51と、真空室に位置する円筒型の処理ロール52とを備える。電極51は処理ロール52の内側に配置されている。表面改質処理は、処理ロール52の外側にガスを導入し、RIE処理前の樹脂フィルム10である基材53を処理ロール52に沿って搬送しながら行う。その際、電極51に電圧を印加すると、処理ロール52の外側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール52側に引き寄せられ、基材53の表面に作用する。また、基材53には、高い自己バイアスが加わる。基材53の高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオン55が基材53側に引き寄せられ、基材53の表面にスパッタ作用(物理的作用)が働き、RIE処理が行われる。電圧を印加する電極51が処理ロール52の外側に配置されている装置でプラズマ処理する場合、基材53はアノード側に配置されることになる。この場合、高い自己バイアスは得られず、基材53にはラジカルのみが作用する。この種の処理装置において
図4のように電極51を処理ロール52の内側に配置することにより、ラジカルにより化学反応を発生させ、イオンにより基材53の表面をスパッタすることができる。
【0047】
次に
図5を参照して、ホローアノード型プラズマ処理装置60が表面改質処理を行う方法の一例を説明する。
図5に示すホローアノード型プラズマ処理装置60は、真空室と、真空室に位置する電極(アノード)61と、電極61の対極(カソード)として機能する処理ロール62と、インピーダンスを整合させるためのマッチングボックス63と、ガス導入ノズル64と、電極61の両端に配置された遮蔽板65とを備える。電極61は開口部を有し、開口部は処理ロール62に向かい合う。処理ロール62は、基材53を保持する。ガス導入ノズル64が、電極61の上方に配置され、電極61及び遮蔽板65と、処理ロール62との間の空隙に、RIE処理を行うためのガスを導入できるようになっている。マッチングボックス63は、電極61の背面に配置され、電極61に接続されている。遮蔽板65は、処理ロール62の外周に沿った局面形状を有しており、処理ロール62の外側に、処理ロール62と対向するように配置されている。箱状の電極61の内側の面積(S1)は、開口を介して対向する基材53の処理対象の面積(S2)よりも大きくなっている(S1>S2)。
【0048】
表面改質処理では、ホローアノード型プラズマ処理装置60の電極61及び遮蔽板65と、処理ロール62との間の空隙にガスを導入し、基材53を処理ロール62に沿って搬送する。そして、マッチングボックス63から電極61に電圧を印加すると、箱型の電極61の内側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール62側に引き寄せられ、基材53の表面に作用する。また、電極61の内側面積が基材53の処理対象の面積よりも大きいことにより、基材53に高い自己バイアスが発生し、この高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオンが基材53側に引き寄せられ、基材53の表面がスパッタされる。電極61の開口面積が基材53の処理対象の面積以下である装置でプラズマを基材53に照射すると、高い自己バイアスは得られず、基材53にはラジカルのみが作用する。ラジカルの作用は化学反応だけであり、化学反応だけでは基材53とガスバリア層11との密着性を充分に向上させることができない。
【0049】
ホローアノード型プラズマ処理装置60は、さらに、電極61中に磁石を組み込んで磁気電極とした磁気アシスト・ホローアノード型プラズマ処理装置であってもよい。磁気電極から発生される磁界により、プラズマ閉じ込め効果をさらに高め、大きな自己バイアスで高いイオン電流密度を得ることができる。これによって、より強力で安定したRIE処理を高速で行うことが可能となる。
【0050】
RIE処理を行うためのガス種としては、例えば、アルゴン、酸素、窒素、水素を使用することができる。これらのガスは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。RIE処理は、2基以上のプラズマ処理装置は同じものを使用する必要はない。例えば、プレーナ型プラズマ処理装置50で基材を処理し、その後連続してホローアノード型プラズマ処理装置60を用いて処理を行うこともできる。
【0051】
[樹脂フィルムの物性]
図6及び
図7を参照して、樹脂フィルム10についてより詳細に説明する。
図6及び
図7は、
1H-NMRで測定される樹脂フィルム10のスペクトルを示す。標準物質を1,4-ビス-トリメチルシリルベンゼン-d4とし、標準物質のシグナルの化学シフト値を0ppmとしたとき、7.11ppm~7.25ppmに、イソフタル酸骨格を有するイソフタル酸成分由来の3本のシグナル(ピーク)、7.40ppm~8.15ppmにテレフタル酸骨格を有するテレフタル酸成分由来のシグナル、8.34ppm~8.36ppmにナフタレンジカルボン酸骨格を有するナフタレンジカルボン酸成分のシグナルが現れる。また、4.1ppm~4.8ppmにエチレングリコール(EG)のシグナル、3.75ppm~3.90ppm,4.25ppm~4.35ppmにジエチレングリコール(DEG)のシグナルが現れる。
図7はNMRスペクトルの拡大図である。7.11ppm~7.25ppmに現れるシグナルは、下記の一般式(1)で示すイソフタル酸骨格が有する芳香環に結合する水素のうち、矢印で示す位置「A」の水素に由来するシグナルである。
【化1】
7.40ppm~8.15ppmに現れるシグナルは、下記の一般式(2)で示すテレフタル酸骨格が有する芳香環に結合する4つの水素に由来するシグナルである。
【化2】
8.34ppm~8.36ppmに現れるシグナルは、下記の一般式(3)で示すナフタレンジカルボン酸骨格が有する芳香環に結合する水素のうち、矢印で示す位置「C」の水素に由来する2つのシグナルである。
【化3】
【0052】
なお、シグナルの積分値は、化学シフトを0.01ずつ変化させたときの各化学シフトでのプロトンシグナルの相対強度を積分した値である。また、イソフタル酸成分に由来する7.11ppm~7.25ppmにおいては、積分値IAは3本のシグナルの積分値の合計である。
【0053】
このスペクトルからイソフタル酸成分のモル比率を算出したとき、イソフタル酸成分のモル比率は、ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計質量に対して、2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下である。
【0054】
イソフタル酸成分のモル比率は以下のように求められる。スペクトルのうち、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、エチレングリコール成分、ジエチレングリコール成分にそれぞれ対応するシグナルの積分値の合計(Ism)を算出し、これを「100mol%」とする。さらに、シグナルの積分値の合計Ismに対する7.11ppm~7.25ppmにおけるイソフタル酸成分のシグナルの積分値(IA)の比率〔(IA/Ism)×100〕を、イソフタル酸成分のモル比率とする。
【0055】
また樹脂フィルム10に含まれるナフタレンジカルボン酸成分のモル比率は、ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計質量に対して、1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である。
【0056】
ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率は、イソフタル酸成分のモル比率と同様に求められる。すなわち、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、エチレングリコール成分、ジエチレングリコール成分にそれぞれ対応するシグナルの積分値の合計(Ism)を「100mol%」とする。そして、シグナルの積分値の合計Ismに対する8.34ppm~8.36ppmにおけるナフタレンジカルボン酸成分のシグナルの積分値(IB)の比率〔(IB/Ism)×100〕を、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率とする。
【0057】
イソフタル酸成分のモル比率が上記範囲を満たすことにより、樹脂フィルム10は、包装体30に用いられるフィルムとして適した柔軟性を有する。これにより、包装体30に、摩擦、突き刺し、屈曲、又は衝撃等の外力が加わっても、樹脂フィルム10が外力に追従して変形することで荷重を吸収し、樹脂フィルム10に接するガスバリア層11にクラックが形成されにくくなる。イソフタル酸成分のモル比率が2×10-1mol%未満であると、樹脂フィルム10が、十分な柔軟性を得ることができず、耐屈曲性が低下する。樹脂フィルム10の柔軟性が低いと、ガスバリア層11にクラックが発生しやすくなり、クラックの数が多くなったり、幅及び長さが大きくなったりする。その結果、包装体30の内容物の品質を良好に保つことが困難となる。一方、イソフタル酸成分のモル比率が9×10-1mol%を超えると、樹脂フィルム10の融点や軟化温度が低下する等、耐熱性が低下し、樹脂フィルム10の上に均一で緻密な酸化アルミニウムや酸化ケイ素の気相堆積膜が形成されなくなる。よって、ガスバリア性の高い積層体20が得られにくくなる。包装体用の樹脂フィルム10としての強度が低下する可能性がある。
樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有率を上記の範囲を満たすように調整するためには、樹脂フィルム10の製造時に、例えばPET全体に対するリサイクルPETの割合を調整すること、又はPETを重合する際にイソフタル酸成分を添加することが挙げられる。ペットボトルには加工性を向上させるためにイソフタル酸成分が含まれていることがあるため、リサイクルPETはバージンPETよりもイソフタル酸成分が多く含まれる傾向にある。このため、樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有率を増加させる場合にはリサイクルPETの割合を増やすことが考えられる。
【0058】
ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が上記範囲を満たすことにより、樹脂フィルム10の表面における面配向係数が高くなる。面配向係数は、フィルムの配向や結晶性の目安となるものであり、以下の式(1)で表すことができる。なお、屈折率が最大となる方向における屈折率をn1、屈折率が最大となる方向と直交する方向の屈折率をn2、フィルムの厚さ方向の屈折率をn3とする。
【0059】
面配向係数Fn=(n1+n2)/2-n3 …(1)
樹脂フィルム10の面配向係数を高くすることにより、樹脂フィルム10が高いガスバリア性を維持できるとともにガスバリア層11との密着性が良好となる。ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が1×10-2mol%未満であると、樹脂フィルム10のガスバリア性が低下するとともに、包装体30として用いられ、屈曲等の負荷が加わることによってガスバリア層11にクラックが形成されやすくなる。樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着性が低くなると、ガスバリア層11に発生するクラックの数が多くなったり、クラックの幅及び長さが大きくなったりする。このようにクラックの数が多くなったり、幅や長さが大きくなったりした場合、包装体30の内容物の品質を良好に保つことができない。ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が6×10-2mol%を超えると、ガスバリア層11との密着性が低下し、ガスバリア層11が樹脂フィルム10から剥離する程度に、ガスバリア層11との密着性が低下する可能性がある。
樹脂フィルム10のナフタレンジカルボン酸成分の含有率を上記の範囲を満たすように調整するためには、樹脂フィルム10の製造時に、例えばPET全体に対するリサイクルPETの割合を調整すること、又はPETを重合する際にナフタレンジカルボン酸成分を添加することが挙げられる。リサイクルPETはバージンPETよりもナフタレンジカルボン酸成分が多く含まれる傾向にある。このため、樹脂フィルム10のナフタレンジカルボン酸成分の含有量を増加させる場合にはリサイクルPETの割合を増やすことが考えられる。そして、包装体30を作製する際には、予め樹脂フィルム10のイソフタル酸成分の含有比率及びナフタレンジカルボン酸成分の含有比率を測定し、それらの含有比率がそれぞれ条件1,2を満たす樹脂フィルムを選別することができる。
また、ジカルボン酸成分及びジオール成分の合計量に対するイソフタル酸成分のモル比率を5×10-1mol%以上9×10-1以下とし、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率を4×10-2mol%以上6×10-2以下とすることにより、ガスバリア層を積層した包装体用積層体の気密性をさらに包括的に高めることができる。
【0060】
以上説明したように、樹脂フィルム、積層体、及び、包装体の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)樹脂フィルム10に含まれるイソフタル酸成分のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であるため、樹脂フィルムの柔軟性が高められる。樹脂フィルムの柔軟性を高めることで、樹脂フィルムが外力に追従して変形し荷重を吸収しやすくなり、包装体用の積層体20及び包装体30の耐屈曲性が高められる。また、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下であるため、樹脂フィルムの面配向係数が大きくなり、樹脂フィルム10自体のガスバリア性が高められる。一方、面配向係数が大きくなるに伴い樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着性が低下することがあるが、樹脂フィルム10の積層面12にはプラズマ処理が施されているため、樹脂フィルム10のガスバリア性の向上及びガスバリア層11の密着性を両立させることができる。よって、ガスバリア層11を積層した樹脂フィルム10の気密性を包括的に高めることができる。
【0061】
(2)樹脂フィルム10の表面改質処理をRIE処理としたため、樹脂フィルムの表面に官能基を付与するとともに、樹脂フィルムの表面に付着した不純物を除去して表面粗さを大きくすることができる。これにより、樹脂フィルム10とガスバリア層11との密着性を高めることができる。
【0062】
(3)ガスバリア層11は、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素の少なくとも一方を含む構成によれば、樹脂フィルム10に透明性を有する被膜を形成することができる。また、ガスバリア層11の水蒸気透過性及び酸素透過性等を低くすることによって、積層体のガスバリア性を向上させることができる。
【0063】
(4)Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3(OR1およびOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む第2被膜である塗布膜が、気相堆積膜に積層される。これにより、酸素透過性等を高めて、積層体20のガスバリア性をさらに向上することができる。
【0064】
[実施例]
樹脂フィルムを備えた積層体の実施例1~4及び比較例1を説明する。なお、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0065】
[実施例1]
共押出しにより三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した実施例1の樹脂フィルムを形成した。樹脂層を構成するPETは、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETとバージンPETとが混合されたPETを用いた。リサイクルPETの質量の割合は、樹脂フィルムの80重量%とし、バージンPETの割合は樹脂フィルムの20重量%とした。この樹脂層の一部を切断し、溶媒であるトリフルオロ酢酸に切断した樹脂片を溶解させて、NMR測定用のサンプルを作製した。
【0066】
このサンプルを、1H-NMR(AVANCE NEO400、ブルカージャパン)で測定し、NMRスペクトルを得た。測定条件は、積算回数を256scan,フリップ角を30°、取り込み時間を4.19sec、待ち時間を2.00secとした。得られた1H-NMRスペクトルを用いて、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分、エチレングリコール成分、ジエチレングリコール成分のシグナルの積分値の合計Ismを算出し、これを「100mol%」とした。また、7.11ppm~7.25ppmにおけるイソフタル酸成分のシグナルの積分値(IA)と、8.34ppm~8.36ppmにおけるナフタレンジカルボン酸成分のシグナルの積分値IBとを算出した。そして、合計Ism、イソフタル酸成分のシグナルの積分値IA、ナフタレンジカルボン酸成分のシグナルの積分値IBを用いて、イソフタル酸成分のモル比率〔(IA/Ism)×100%〕と、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率〔(IB/Ism)×100%〕とを求めた。
【0067】
イソフタル酸成分のモル比率は9×10-1mol%であり、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率は4×10-2mol%であった。
樹脂フィルムの片面に、ホローアノード型プラズマ処理装置を用いてRIE処理を行った。印加電力を120W、処理時間を0.1sec、処理ガスをアルゴン、処理ユニット圧力を2.0Paとした。また、電極には周波数13.56MHzの高周波電源を用いた。
【0068】
RIE処理を施したこの樹脂フィルムに、気相堆積膜を形成した。気相堆積膜の形成には、電子線加熱方式による真空蒸着装置を用い、酸素ガスを導入しながら金属アルミニウムの薄膜を蒸発させ、厚さ15nmの酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜を成膜した。
【0069】
気相堆積膜に塗布膜を形成した。下記に示す第1液、第2液、及び第3液を混合した混合液を、グラビアコート法により気相堆積膜の上に塗布し、乾燥させて塗布膜を得た。塗布膜の厚さは、0.3μmであった。
【0070】
第1液:テトラエトキシシラン17.9g、メタノール10g、0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌し、加水分解させた固形分5質量%(SiO2換算)の加水分解溶液。
【0071】
第2液:質量比が5%のポリビニルアルコール、水、及びメタノールを混合した水溶液。水とメタノールとの質量比は95:5に調整した。
第3液:シランカップリング剤である1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを、水及びイソプロピルアルコールで固形分が5質量%となるように希釈した加水分解溶液。水、及びイソプロピルアルコールの質量比は、1:1とした。
【0072】
なお、第1液、第2液、及び第3液の固形分重量比率(重量%)は、70:20:10とし、且つ第1液及び第2液の配合比は、70重量%:30重量%とした。これにより、樹脂フィルムと、蒸着層及び塗布膜を含むガスバリア層とを備えた積層体を得た。
【0073】
さらに塗布膜上にポリウレタン系接着剤からなる接着層を厚さが3μmとなるように積層し、無延伸ポリプロピレン(CPP,厚さ70μm)をラミネートした。この積層体を、210mm×297mmのA4サイズの大きさに切り出し、その長辺の中央でガスバリア層が内側となるように二つ折りにした後、2辺をヒートシールすることにより開口を有する包装体を作製した。ヒートシールは、卓上・脱気シーラーV-301(富士インパルス社製)を用いて、190℃、0.3MPa、2secの条件で行った。このパウチ内に、0.6質量%のシステイン水溶液150mLを収容した。その後、パウチの開口している1辺をヒートシールして、密封されたパッケージを得た。
【0074】
[実施例2]
樹脂フィルムに含有されるイソフタル酸成分のモル比率が9×10-1mol%であり、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が6×10-2mol%であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。さらに実施例1と同様にして積層体を用いた包装袋及びパッケージを作製した。
【0075】
[実施例3]
樹脂フィルムに含有されるイソフタル酸成分のモル比率が7×10-1mol%であり、ナフタレンジカルボン酸成分のモル比率が6×10-2mol%であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。さらに実施例1と同様にして積層体を用いた包装袋及びパッケージを作製した。
【0076】
[実施例4]
樹脂フィルムに含有されるイソフタル酸のモル比率が5×10-1mol%であり、ナフタレン‐2,6‐ジカルボン酸のモル比率が4×10-2mol%であった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。さらに実施例1と同様にして積層体を用いた包装袋及びパッケージを作製した。さらに実施例1と同様にして積層体を用いた包装袋及びパッケージを作製した。
【0077】
[比較例1]
イソフタル酸成分、ナフタレンジカルボン酸成分を含有していないPET(PET P60、東レ株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に樹脂フィルムを形成した。つまり、7.11ppm~7.25ppmにおけるシグナル、及び8.34~8.36ppmにおけるシグナルは検出されなかった。これ以外は、実施例1と同様にして樹脂フィルム及び樹脂フィルムを備えた積層体を作製した。さらに実施例1と同様にして積層体を用いた包装袋及びパッケージを作製した。
【0078】
[評価方法]
[面配向係数]
面配向係数ΔPは位相差測定装置(王子計測機器社製、KOBRA-WR)を用い、位相差測定法により測定した。具体的には、樹脂フィルムのTD方向における中央部と、TD方向における端部とにおいて40mm×40mmの領域を設定した。そしてこの領域に対し、0°~50°(10°ピッチ)の入射角で位相差を測定した。
【0079】
[ガスバリア性]
パッケージの各々を、貯湯式レトルト釜を用いて、110℃で110分(加熱条件1)、135℃で30分間(加熱条件2)加熱して、レトルト処理を行った。レトルト後のパッケージを切断して2つの試験片を作製し、酸素透過度及び水蒸気透過度を評価した。
【0080】
(酸素透過度)
サンプルの各々について、酸素透過度測定装置(商品名:OX-TRAN-2/20、MOCON社製)を用いて酸素透過度を測定した。測定条件を、温度30℃、相対湿度70%RHとした。この際に、JIS K 7126‐2:2006、及び、ASTM D3985‐81に準拠する方法を用いた。酸素透過度の測定値における単位は[cc/m2・day・atm]に設定した。
【0081】
(水蒸気透過度)
サンプルの各々について、水蒸気透過度測定装置(商品名:PERMATRAN-W-3/31、MOCON社製)を用いて、水蒸気透過度(g/(m2・day))を測定した。測定条件を、温度40℃、相対湿度90%RHとした。測定方法は、JIS K 7129‐2:2019、及び、ASTM F1249‐90に準拠する方法を用いた。
【0082】
[ラミネート強度(ドライ条件)]
レトルト後のパッケージについて、15mm×200mmの大きさに切断した試験片を作製した。試験片に対し、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、テンシロン万能材料試験機(東洋ボールドウイン社製「テンシロンUMT-II-500型」)を用いて、ラミネート強度(単位:N/15mm)を測定した。ラミネート強度は、引張速度を200mm/分とし、剥離角度90度で剥離させたときの強度とした。なお、ラミネート強度は、ヒートシール強度ともいう。
【0083】
[ラミネート強度(湿潤条件)]
また、レトルト後のパッケージについて、ドライ条件下でのラミネート強度の試験と同様の試験片を作製した。試験片に対し、130℃の熱水中に30分間保持する湿熱処理を行い、未乾燥のままの状態で、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、テンシロン万能材料試験機を用いてラミネート強度を測定した。ラミネート強度は、引張速度を200mm/分とし、積層フィルムとヒートシール性樹脂層との間に水を付けて、剥離角度90度で剥離させたときの強度とした。
【0084】
[評価結果]
実施例1~4の積層体、及び比較例1の積層体における面配向係数、レトルト後の酸素透過度及び水蒸気透過度は、表1の通りであった。
【0085】
【表1】
表1が示すように、実施例1~4の面配向係数は、比較例1の面配向係数に比べ、樹脂フィルムの中央行及び端行の両方で大きくなった。レトルト後において、実施例1~4の樹脂フィルムの酸素透過度は、比較例1の樹脂フィルムの酸化透過度に比べ小さくなった。同様に、実施例1~4の樹脂フィルムの水蒸気透過度は、比較例1の樹脂フィルムの水蒸気透過度に比べ小さくなった。また、乾燥条件下でのラミネート強度について、実施例1~4は、比較例1よりも大きくなった。これにより、実施例1~4の積層体は比較例1の積層体に比べ、その気密性が高められることが示唆された。同様に湿潤条件下でのラミネート強度について、実施例1~4は、比較例1よりも大きくなった。これにより、実施例1~4の積層体は比較例1の積層体に比べ、樹脂フィルムとガスバリア性の密着性が高いことが示唆された。
【符号の説明】
【0086】
10…樹脂フィルム
11…ガスバリア層
20…積層体
30…包装体