(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136927
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】物質導入装置及び物質導入方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20220913BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220913BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20220913BHJP
C12N 13/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12M1/00 A
C12M1/42
C12N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036763
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 洋一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
【Fターム(参考)】
4B029AA24
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC01
4B033NE10
4B033NG05
4B033NH02
4B033NJ01
4B033NK02
(57)【要約】
【課題】物理的な導入手法を用いて改善された導入効率又は細胞障害性を実現可能な物質導入装置及び物質導入方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る物質導入装置は、細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体に乱流を生じさせる流路を形成するとともに前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加部を有する、物質導入装置である。本開示に係る物質導入方法は、乱流を生じさせる流路に細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体を流しながら前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加ステップを有する、物質導入方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体に乱流を生じさせる流路を形成するとともに前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加部を有する、物質導入装置。
【請求項2】
前記応力・電荷印加部が乱流格子を有する、請求項1に記載の物質導入装置。
【請求項3】
前記電荷が電気パルスを含む、請求項1又は2に記載の物質導入装置。
【請求項4】
前記流体の流速を調整可能な、請求項1~3の何れか1項に記載の物質導入装置。
【請求項5】
前記電荷を調整可能な、請求項1~4の何れか1項に記載の物質導入装置。
【請求項6】
乱流を生じさせる流路に細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体を流しながら前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加ステップを有する、物質導入方法。
【請求項7】
前記流体の流速を調整する流速調整ステップを有する、請求項6に記載の物質導入方法。
【請求項8】
前記電荷を調整する電荷調整ステップを有する、請求項6又は7に記載の物質導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は物質導入装置及び物質導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物や植物の細胞に対する遺伝子などの物質の導入手法の一つに、物理的な導入手法がある。物理的な導入手法の例としては、電荷の印加(エレクトロポレーション、電気穿孔法)、応力の印加(シェアストレスによる穿孔法)などが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの手法は生物学的・生化学的な物質導入手法と比較すると、導入の再現性や残渣物(ウイルスベクター等)の少なさ等の点で優れる一方、導入効率又は細胞障害性の点で劣っている。
【0005】
そこで本開示は、物理的な導入手法を用いて改善された導入効率又は細胞障害性を実現可能な物質導入装置及び物質導入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様としての物質導入装置は、細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体に乱流を生じさせる流路を形成するとともに前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加部を有する、物質導入装置である。
【0007】
本開示の一実施形態として、前記物質導入装置は、前記応力・電荷印加部が乱流格子を有する、物質導入装置である。
【0008】
本開示の一実施形態として、前記物質導入装置は、前記電荷が電気パルスを含む、物質導入装置である。
【0009】
本開示の一実施形態として、前記物質導入装置は、前記流体の流速を調整可能な、物質導入装置である。
【0010】
本開示の一実施形態として、前記物質導入装置は、前記電荷を調整可能な、物質導入装置である。
【0011】
本開示の一態様としての物質導入方法は、乱流を生じさせる流路に細胞と前記細胞に導入すべき物質とを含む流体を流しながら前記流路に電荷を印加する、応力・電荷印加ステップを有する、物質導入方法である。
【0012】
本開示の一実施形態として、前記流体の流速を調整する流速調整ステップを有する、物質導入方法である。
【0013】
本開示の一実施形態として、前記電荷を調整する電荷調整ステップを有する、物質導入方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、物理的な導入手法を用いて改善された導入効率又は細胞障害性を実現可能な物質導入装置及び物質導入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態としての物質導入装置を示す概念図である。
【
図2】
図1に示す物質導入装置の応力・電荷印加部を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に例示説明する。
【0017】
図1~
図2に示すように、本実施形態に係る物質導入装置1は、所定量の細胞2と図示しない被導入物質(つまり、細胞2に導入すべき物質)とを含む流体3中の細胞2に対し、物理的な導入手法として応力の印加と電荷の印加の両方を適用することにより、細胞2に被導入物質を導入する装置である。
【0018】
流体3に含まれる細胞2の量は特に限定されない。また、細胞2は特に限定されず、例えば、動物細胞、植物細胞、細菌細胞などである。
【0019】
流体3に含まれる被導入物質の量は特に限定されない。また、被導入物質は特に限定されず、例えば、遺伝子、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、核酸、タンパク質、低分子化合物、脂質分子、リポソームなどである。
【0020】
流体3は、例えば、緩衝液(バッファ)に細胞2と被導入物質を懸濁させた懸濁液である。
【0021】
物質導入装置1は、閉ループ状の循環流路4と、循環流路4に流体3を導入可能な入口5と、循環流路4から流体3を排出可能な出口6と、を有する。
【0022】
入口5は、循環流路4からの流体3の逆流を抑制する構造であることが好ましい。また、入口5は、循環流路4に流体3を導入するために開放可能な開閉構造を有することが好ましい。入口5は例えば逆止弁で構成される。
【0023】
出口6は、循環流路4への流体3の逆流を抑制する構造であることが好ましい。また、出口6は、循環流路4から流体3を排出するために開放可能な開閉構造を有することが好ましい。出口6は例えば逆止弁で構成される。
【0024】
循環流路4は、流体3中の細胞2に応力と電荷を印加する応力・電荷印加部7を有する。応力・電荷印加部7は、
図2に示すように、流体3に乱流(
図2中の太線矢印参照)を生じさせる流路7aを形成するとともに流路7aに電荷を印加する。
【0025】
応力・電荷印加部7は、流体3に乱流を生じさせることで流体3中の細胞2にシェアストレスなどの応力を印加する。応力・電荷印加部7は、流体3に乱流を生じさせる少なくとも1つの乱流格子7bを有することが好ましい。乱流格子7bは乱流を生じさせることができる格子であれば特に限定されず、例えば、スリット格子、網目格子などである。スリット格子は、例えば、互いに間隔を開けて平行に延びる複数の棒状部材、或いは1つのみの棒状部材を有する。応力・電荷印加部7は、流れ方向に並ぶ複数の乱流格子7bを有することが好ましい。
【0026】
少なくとも1つの乱流格子7bは、応力・電荷印加部7内の流体3の流速に応じた応力を流体3中の細胞2に印加することにより、細胞2の細胞膜に、被導入物質を細胞2に導入するための孔を形成することができる。流体3の流速は、導入効率と細胞障害性を考慮して調整することができる。流速が高まれば高まるほど、細胞2に被導入物質を導入し易くなるものの、細胞2に障害を生じ易くなる。
【0027】
応力・電荷印加部7は、流路7aに電荷を印加することで流体3中の細胞2に電荷を印加する。電荷は電気パルスを含むことが好ましい。応力・電荷印加部7は、
図2に示すように、応力・電荷印加部7が形成する流路7aに電荷を印加する電極対などの導電材7cを有することが好ましい。電極対は、
図2に示すように流体3の流れ方向に交差する方向に並べて設けてもよいし、流体3の流れ方向に並べて設けてもよい。
【0028】
導電材7cは、電荷(大きさ、周波数など)に応じて、細胞2の細胞膜に、被導入物質を細胞2に導入するための孔を形成することができる。電荷は、導入効率と細胞障害性を考慮して調整することができる。電荷が強まれば強まるほど、細胞2に被導入物質を導入し易くなるものの、細胞2に障害を生じ易くなる。
【0029】
したがって、応力・電荷印加部7は、流体3に乱流を生じさせながら流体3中の細胞2に電荷を印加することで、流体3中の細胞2に応力と電荷を同時に印加することができる。
【0030】
応力・電荷印加部7は循環流路4内に全周に亘って設けてもよいし、
図1に示すように、全周の一部のみに設けてもよい。全周の一部のみに設けることにより、応力・電荷印加部7によって細胞2に穿孔した後、再び応力・電荷印加部7によって細胞2に穿孔するまでに、細胞2に生じた障害をある程度回復させる時間的猶予を与え、もって細胞障害性の改善を図ることができる。
【0031】
循環流路4は、
図1に示すように、1つの応力・電荷印加部7を有する。なお、循環流路4に設ける応力・電荷印加部7の数は適宜設定可能である。
【0032】
循環流路4は、流体3を循環流路4内で循環させる蠕動ポンプなどのポンプ(不図示)を有する。
【0033】
物質導入装置1は、循環流路4内で流体3を循環させながら、応力・電荷印加部7によって流体3中の細胞2に応力と電荷を印加することにより、循環の程度(時間、循環回数など)に応じた量の被導入物質を細胞2に導入することができる。
【0034】
循環の程度は、入口5と出口6を通る流体3の量、或いは流体3が入口5と出口6を通るタイミングなどを調整することにより、調整することができる。被導入物質を導入された細胞2を含む流体3は、循環流路4から出口6を通して排出することができる。
【0035】
本実施形態に係る物質導入装置1によれば、応力印加と電荷印加という異なる機序の物理的な穿孔法を同時に且つ循環流路4内で所望の程度まで適用することができるので、改善された導入効率又は細胞障害性を実現することができる。
【0036】
次に、本実施形態に係る物質導入方法として、
図1~
図2を参照して前述した実施形態に係る物質導入装置1を用いる物質導入方法を例示説明する。
【0037】
本実施形態に係る物質導入方法は、流体導入ステップと、循環ステップと、流体排出ステップと、流速調整ステップと、電荷調整ステップと、を有する。
【0038】
流体導入ステップは、循環流路4に入口5を通して流体3を導入するステップである。
【0039】
循環ステップは、前述のポンプにより循環流路4内で流体3を所望の程度まで循環させながら応力・電荷印加ステップを行う、ステップである。応力・電荷印加ステップは、応力・電荷印加部7により、乱流を生じさせる流路7aに流体を流しながら流路7aに電荷を印加する、ステップである。
【0040】
流体排出ステップは、循環流路4から出口6を通して流体3を排出するステップである。
【0041】
循環ステップにおける循環の程度は、流体導入ステップと流体排出ステップにおいて、入口5と出口6を通る流体3の量、或いは流体3が入口5と出口6を通るタイミングなどを調整することにより、調整することができる。被導入物質を導入された細胞2を含む流体3は、流体排出ステップにより循環流路4から取り出すことができる。
【0042】
流速調整ステップは、応力・電荷印加部7内(循環流路4内)の流体3の流速を調整するステップである。流体3の流速は、前述したように、導入効率と細胞障害性を考慮して調整することができる。流速調整ステップは、応力・電荷印加ステップ(循環ステップ)と同時に行ってもよいし、応力・電荷印加ステップ(循環ステップ)を行う前に予め行っておいてもよい。
【0043】
電荷調整ステップは、応力・電荷印加部7によって流体3中の細胞2に印加する電荷(大きさ、周波数など)を調整するステップである。電荷は、導入効率と細胞障害性を考慮して調整することができる。電荷調整ステップは、応力・電荷印加ステップ(循環ステップ)と同時に行ってもよいし、応力・電荷印加ステップ(循環ステップ)を行う前に予め行っておいてもよい。
【0044】
本実施形態に係る物質導入方法によれば、応力印加と電荷印加という異なる機序の物理的な穿孔法を同時に且つ循環流路4内で所望の程度まで適用することができるので、改善された導入効率又は細胞障害性を実現することができる。
【0045】
前述した実施形態は本開示の一例にすぎず、例えば以下に述べるような種々の変更が可能である。
【0046】
前述した実施形態に係る物質導入装置1は、細胞2と細胞2に導入すべき物質とを含む流体3に乱流を生じさせる流路7aを形成するとともに流路7aに電荷を印加する、応力・電荷印加部7を有する、物質導入装置1である限り、種々変更可能である。
【0047】
例えば、前述した実施形態に係る物質導入装置1は、循環流路4を有する代わりに、応力・電荷印加部7を備える閉ループ状でない流路を有する、物質導入装置1であってもよい。
【0048】
なお、前述した実施形態に係る物質導入装置1は、応力・電荷印加部7が乱流格子bを有する、物質導入装置1であることが好ましい。
【0049】
前述した実施形態に係る物質導入装置1は、電荷が電気パルスを含む、物質導入装置1であることが好ましい。
【0050】
前述した実施形態に係る物質導入装置1は、流体3の流速を調整可能な、物質導入装置1であることが好ましい。
【0051】
前述した実施形態に係る物質導入装置1は、電荷を調整可能な、物質導入装置1であることが好ましい。
【0052】
前述した実施形態に係る物質導入方法は、乱流を生じさせる流路7aに細胞2と細胞2に導入すべき物質とを含む流体3を流しながら流路7aに電荷を印加する、応力・電荷印加ステップを有する、物質導入方法である限り、種々変更可能である。
【0053】
例えば、前述した実施形態に係る物質導入方法は、循環ステップを有する代わりに、流体3を閉ループ状でない流路に流しながら応力・電荷印加ステップを行う、物質導入方法であってもよい。
【0054】
前述した実施形態に係る物質導入方法は、流体3の流速を調整する流速調整ステップを有する、物質導入方法であることが好ましい。
【0055】
前述した実施形態に係る物質導入方法は、電荷を調整する電荷調整ステップを有する、物質導入方法であることが好ましい。
【符号の説明】
【0056】
1 物質導入装置
2 細胞
3 流体
4 循環流路
5 入口
6 出口
7 応力・電荷印加部
7a 応力・電荷印加部が形成する流路
7b 乱流格子
7c 導電材