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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136970
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】パテ用主剤組成物及びパテ用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220913BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220913BHJP
   C09D 109/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D109/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003478
(22)【出願日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2021035976
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓矢
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CA041
4J038CG001
4J038GA11
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA24
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC06
(57)【要約】
【課題】木質基材に塗布した際に保水性が高く流動性が良好であるため、ナイフコーター等による連続塗布を安定して維持することができるパテ用主剤組成物、及びこれを用いたパテ組成物を提供する。
【解決手段】体積平均粒子系が200μm以下で不揮発分が30~60%のエマルジョンと、充填剤を含み、前記体積平均粒子系が200μm以下のエマルジョン配合比率が、エマルジョン成分の不揮発分全量に対して20重量%以上であり、前記充填剤の配合比率が組成物の不揮発分全量に対して70~95重量%であることを特徴とするパテ用主剤組成物、及びそれを用いたパテ用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョン(a)と、充填剤(b)を含むパテ組成物の主剤(A)であって、前記(a)として、体積平均粒子系が200μm以下のエマルジョン(a1)を(a)成分の不揮発分全量に対して20重量%以上含有し、(b)の配合比率が組成物の不揮発分全量に対して70~95重量%であることを特徴とするパテ用主剤組成物。
【請求項2】
前記(a1)がアクリル系樹脂、又は/及びSBR系であることを特徴とする請求項1記載のパテ用主剤組成物。
【請求項3】
前記(b)として、平均粒子径が0.5~40μmである充填剤を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載のパテ用主剤(A)とイソシアネート系硬化剤(B)を含むことを特徴とするパテ用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の粒子径と不揮発分を有するエマルジョンを含む、塗布性に優れるパテ用主剤組成物及びパテ用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に合板やパーティクルボードの様な木質材料の表面には、節穴、干割れ、プレスマーク等の様々な凹凸を有する欠陥部が存在する。そのため、木質材料の表面に紙、プラスチックシート、突板等を接着する場合、こうした欠陥部に起因する不具合箇所が表面に現れ、製品のグレードや見栄えを損なうという問題が発生する。このような欠点を解消するため、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等をベースとしたパテ組成物を用い、欠陥部を充填する方法が取られている。
【0003】
生産ラインにおいてパテ組成物を塗工する場合は、ナイフコーター等を用いて木質基材の全面に塗布する方法が一般的であり、塗布後は温風乾燥機等で乾燥して溶剤や水分を飛ばして、パテ組成物を硬化させた後、サンダー処理により余剰部分を研削して除去する。こうした塗布工程において、特に優れたサンダー特性を有するパテ組成物として、ガラス転移温度を特定した水性エマルジョンと、配合量を特定したポリビニルアルコールと無機充填剤を含む組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、こうした水溶性のパテ組成物を木質基材に塗布した際には、基材への水分吸収が早いためパテ組成物の流動性が失われやすく、塗布性が低下して塗布量のコントロールが難しくなり、膜厚が不均一になったり、欠陥部への埋め込み性が不十分となったりする場合があった。また長期的には、ナイフコーターのブレードの摩耗が激しくなる等の不具合が起きやすかった。そのため、木質基材に塗布した場合でも、保水性が高いことにより流動性が高く、良好な塗布性を維持できるパテ用組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-46542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、木質基材に塗布した際に保水性が高く流動性が良好であるため、ナイフコーター等による連続塗布を安定して維持することができるパテ用主剤組成物、及びこれを用いたパテ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため請求項1の発明は、エマルジョン(a)と、充填剤(b)を含むパテ組成物の主剤(A)であって、前記(a)として、体積平均粒子系が200μm以下のエマルジョン(a1)を(a)成分の不揮発分全量に対して20重量%以上含有し、(b)の配合比率が組成物の不揮発分全量に対して70~95重量%であることを特徴とするパテ用主剤組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(a1)がアクリル系樹脂、又は/及びSBR系であることを特徴とする請求項1記載のパテ用主剤組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、前記(b)として、平均粒子径が0.5~40μmである充填剤を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか記載の接着剤組成物を提供する。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1~3いずれか記載のパテ用主剤(A)とイソシアネート系硬化剤(B)を含むことを特徴とするパテ用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、木質基材に塗布した場合でも保水性が高いため流動性が良好であり、ナイフコーター等による連続塗布を安定して維持することができるので、パテ組成物の主剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のパテ主剤組成物は、特定の粒子径と不揮発分を有するエマルジョン(a1)と、充填剤(b)を含む。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートの双方を、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の双方を包含する。またアクリル共重合体とは(メタ)アクリレート及び/又は(メタ)アクリル酸の共重合体を示し、アクリル系重合体とは(メタ)アクリレート及び/又は(メタ)アクリル酸を含む重合体を示す。
【0013】
本発明で使用されるエマルジョン(a1)は、パテ用組成物の主剤を構成する主要バインダーであり、例えば、アクリル樹脂系、酢酸ビニル系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、合成ゴム系等を挙げることができ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、耐水性やポットライフ、取扱いの容易さ等の点からアクリル樹脂系及び合成ゴム系エマルジョンが好ましい。
【0014】
前記(a1)の体積平均粒子径は200μm以下であり、30~200μmが好ましく、50~180μmが更に好ましく、80~160μmが特に好ましい。30μm以上であれば皮膜形成後に十分な乾燥性を確保できる。また200μm超の場合は、木質基材に塗布した際の保水性が低下し、塗布性が低下するため不可である。なお体積平均粒子径は動的光散乱法によって求めることができ、散乱強度分布で最も頻度の高い粒子径を平均粒子径とした。
【0015】
前記(a1)の不揮発分は30~60重量%が好ましく、35~55重量%が更に好ましく、40~52重量%が特に好ましい。30重量%以上とすることで十分な乾燥性を確保することができ、また60重量%以下とすることで(b)との十分な混和性と塗布性を確保できる。
【0016】
前記(a1)の配合比率は、エマルジョン成分(a)の不揮発分全量に対して20重量%以上であり、21重量%以上が好ましく、22重量%以上が更に好ましい。20重量%未満では良好な塗工性を確保できず不適である。また(a1)を含む全エマルジョン(a)の配合量は、組成物の不揮発分全量に対し5~30重量%が好ましく、6~28重量%が更に好ましく、7~24重量%が特に好ましい。5重量%以上とすることで十分に良好な塗工性を確保でき、30重量%以下とすることで目ヤセの発生がなく、十分な欠陥部位への充填性を確保できる。
【0017】
本発明で使用される充填剤(b)は、木質基材凹部の欠陥部位への充填性を向上させると共に、組成物のコスト低減を目的に配合される。公知の無機充填剤及び有機充填剤を使用することができ、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カオリン、酸化チタン等の無機充填剤、アクリル系ビーズ、ポリオレフィン系ビーズ等の有機充填剤を挙げることができ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では(a)との混和性が良好で、入手性も容易な重質炭酸カルシウムが好ましい。
【0018】
前記(b)の平均粒子径は0.5~40μmが好ましく、1~30μmが更に好ましく、1~25μmが特に好ましい。0.5μm以上とすることで(a)との十分な混和性と作業性に適した粘度としやすく、40μm以下とすることで十分な塗工平滑性と保存安定性を確保できる。なお本発明における(b)の平均粒径とは、粒度分布から求めた質量50%に相当する粒径のことである。
【0019】
前記(b)の配合比率は、組成物固形分の全量に対し70~95重量%であり、75~93重量%が好ましく、80~92重量%が更に好ましく、85~92重量%が特に好ましい。70重量%未満では塗膜の硬化収縮により目ヤセが発生しやすくなり、95重量%超ではパテ組成物としての粘度が上昇して流動性が低下し、均一な塗布が出来なくなるため不可である。
【0020】
本発明の組成物には、性能を損なわない範囲で必要に応じて、粘着付与剤、チクソトロピック剤、密着促進剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈殿防止剤、発泡剤、着色顔料、湿潤分散剤、浸透防止剤等を添加してもよい。
【0021】
本発明のパテ用主剤組成物は、イソシアネートを含む硬化剤と混合することにより使用することができる。イソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDI)、トリレンジイソシアネート(以下TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDI)、キシリレンジイソシアネート(以下XDI)、イソホロンジイソシアネートや、これらのアダクト体、二量体、三量体、及びこれらのブロックイソシアネートなどを挙げることができ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、MDIと高分子量のポリイソシアネートの混合物であるポリメリックMDIを含むことが耐水性及び硬化性の点で好ましい。
【0022】
前記イソシアネートの配合量は、パテ用主剤100重量部に対し0.1~3.0重量部が好ましく、0.15~2.5重量部が更に好ましく、0.18~2.2重量部が特に好ましい。0.1重量部以上とすることで十分な硬化性を確保することができ、3.0重量部以下とすることで十分な可使時間を確保することができる。
【0023】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、25℃相対湿度50%の条件下で測定を行った。また配合表の単位は固形分換算での重量部を示す。
【実施例0024】
実施例1
前記(a1)としてULA-9(商品名:アイカ工業社製、平均粒子径110μm、不揮発分45%、アクリル共重合体)を、(b)としてエスカロン#200(商品名:三共製粉社製、重質炭酸カルシウム、平均粒子径4μm)を、その他のエマルジョン(a)としてULA-326(商品名:アイカ工業社製、平均粒子径260μm、不揮発分50%、アクリル共重合体)を、表1に記載された量を用い、撹拌ハネ付きモータにより均一に成るまで撹拌し、実施例1のパテ用主剤組成物を得た。
【0025】
実施例2~14
実施例1で用いた材料の他、(a1)としてウルトラゾールA-25(商品名:アイカ工業社製、平均粒子径170μm、不揮発分48%、アクリル共重合体)及びウルトラゾールA-40(商品名:アイカ工業社製、平均粒子径100μm、不揮発分45%、アクリルスチレン系)及びウルトラゾールA-35(商品名:アイカ工業社製、平均粒子径140μm、不揮発分48%、アクリルスチレン系)及びE316S(商品名:旭化成社製、平均粒子径120μm、不揮発分45%、アクリルラテックス系)及びES300(商品名:旭化成社製、平均粒子系160μm、不揮発分45%、アクリル系重合体)及びA7852(商品名:旭化成社製、平均粒子径130μm、SBR系、不揮発分50%)を、(b)として重質炭酸カルシウムA(商品名:三共製粉社製、重質炭酸カルシウム、平均粒子径9μm)及び重質炭酸カルシウム一級(商品名:三共製粉社製、重質炭酸カルシウム、平均粒子径20μm)及びomyalight(商品名:omya社製、重質炭酸カルシウム、平均粒子径1.2μm)及びヒューズレックスE1(商品名:龍森社製、溶融シリカ、平均粒子径10μm)及びA-21S(商品名:ヤマグチマイカ社製、マイカ、平均粒子径23μm)を、表1及び2に記載された量を用い、撹拌ハネ付きモータにより均一に成るまで撹拌し、実施例2~14のパテ用主剤組成物を得た。
【0026】
比較例1~3
実施例で用いた材料の他、その他のエマルジョン(a)としてポリトロンT8200(商品名:旭化成社製、平均粒子径400μm、不揮発分50%、アクリル系重合体)を、表2に記載された量を用い、撹拌ハネ付きモータにより均一に成るまで撹拌し、比較例1~3のパテ用主剤組成物を得た。
【0027】
パテ用組成物
主剤(A)として実施例3の配合を100部、硬化剤(B)としてポリメリックMDI(ミリオネートMR-100、商品名:東ソー社製)及びヌレート型HDI(デュラネートTPA-100、商品名:旭化成社製)及びビウレット型HDI(デュラネートWB40-100、商品名:旭化成社製)及びアロファネート型HDI(アクアネート210、商品名:東ソー社製)及びXDI(タケネート500、商品名:三井化学社製)及びTDI(コロネートT-100、商品名:東ソー社製)及びブロックイソシアネート(コロネートBI301、商品名:東ソー社製)を表3に記載された量を用い、スパーテルにより均一になるまで撹拌し、実施例15~34のパテ用組成物を得た。
【0028】
塗布性:厚さ10mmt×150mm×150mmの針葉樹合板上で、インチアプリケーターFAIS-3234(商品名:コーティングテスター社製)に組成物を2g乗せ、60秒及び90秒放置する。その後、素早くアプリケーターを動かして合板上に組成物を塗布し、塗布部分のかすれた状態を確認した。放置時間90秒でもかすれ無しを○、放置時間90秒で縁部分がかすれ、60秒ではかすれ無しを△、放置時間60秒でも縁部分がかすれる場合を×とした。
【0029】
パテ剤混和性:配合した時に均一に混和できる場合を〇、均一に混和できずパテとして使用できない場合を×とした。
【0030】
表1
【0031】
表2
【0032】
表3
【0033】
実施例は塗布性、パテ材混和性いずれの評価も良好であった。
【0034】
一方、(a1)の配合量が少ない比較例1は塗布性が十分ではなく、平均粒子径が大きい(a)を用いた比較例2及び比較例3は塗布性が劣り、いずれも本願発明に適さないものであった。