(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136974
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20220913BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220913BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20220913BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08L79/08 A
C08K5/3432
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006555
(22)【出願日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2021036744
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 尊書
【テーマコード(参考)】
2H290
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA18
2H290AA33
2H290AA72
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF24
2H290BF25
2H290BF62
2H290DA01
2H290DA03
4J002CM041
4J002EL027
4J002EL057
4J002EN037
4J002EN047
4J002EP027
4J002EU076
4J002EU086
4J002EU176
4J002EU178
4J002EU186
4J002EU188
4J002EU197
4J002EX067
4J002FD046
4J002FD056
4J002FD058
4J002FD070
4J002FD086
4J002FD207
4J002GP00
4J043PA01
4J043PA02
4J043PA04
4J043PA05
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA63
4J043SB01
4J043SB03
4J043SB04
4J043TA22
4J043TA66
4J043UA022
4J043UA032
4J043UA042
4J043UA082
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA331
4J043UA361
4J043UA381
4J043UA451
4J043UA632
4J043UB011
4J043UB062
4J043UB121
4J043UB131
4J043UB132
4J043UB152
4J043UB172
4J043UB241
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA062
4J043XA15
4J043XA16
4J043XA17
4J043XA19
4J043ZA51
4J043ZB11
4J043ZB23
(57)【要約】
【課題】液晶配向性及び耐光性が良好な液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される部分構造を有する重合体(P)と、ヒンダードアミン構造を有する化合物(H)と、オキシラニル基等を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(Q)とを液晶配向剤に含有させる。式(1)中、X
2は塩基性官能基を有する2価の基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を有する重合体(P)と、
ヒンダードアミン構造を有する化合物(H)と、
オキシラニル基、オキセタニル基、下記式(7)で表される部分構造、下記式(8)で表される部分構造、及び下記式(9)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(Q)と、
を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、X
1は、4価の有機基である。X
2は、下記式(2)で表される部分構造、下記式(3)で表される部分構造、下記式(4)で表される部分構造、及び下記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する2価の基である。)
【化2】
(式(2)~式(5)中、R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、R
3a、R
3b、R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
1及びL
2は、それぞれ独立して、水素原子、熱脱離性基、又は1価の炭化水素基である。L
3は、水素原子、熱脱離性基、又は1価の脂肪族炭化水素基である。Ar
1は2価の芳香族基である。Ar
2は含窒素複素芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた2価の基である。「*」は結合手を表す。)
【化3】
(式(7)~式(9)中、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a及びR
17bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
4~L
6は、それぞれ独立して、水素原子又は熱脱離性基である。ただし、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a、R
17b及びL
4~L
6は芳香環を有しない。「*」は結合手を表す。)
【請求項2】
前記重合体(P)は、光配向性部位を有する重合体である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
光配向性部位を有する重合体(ただし、前記重合体(P)を除く。)を更に含有する、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記X1は、シクロブタン環構造を有する4価の有機基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記化合物(H)は、ヒドロキシ基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記化合物(H)は、トリアジン環構造及びベンゾトリアゾール環構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記重合体(P)、前記化合物(H)及び前記化合物(Q)とは異なる成分として、紫外線吸収剤を更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶層中の液晶分子の配向を制御する機能を有する液晶配向膜を備えている。液晶配向膜の材料としては、機械的強度や液晶との親和性、電圧保持特性等の観点から、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル、ポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
液晶素子は、テレビやモバイル機器、各種モニターなどに広く利用されている。こうした多用途化に伴い、液晶素子には更なる高品質化が求められており、駆動方式や素子構造の改良とともに、液晶素子の構成材料の1つである液晶配向膜の改良が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、ヒンダードアミン構造を有する化合物と、ヒンダードフェノール構造を有する化合物とを用いるか、又はヒンダードアミン構造とヒンダードフェノール構造とを有する化合物を用いて液晶配向膜を形成することが開示されている。特許文献1では、ヒンダードアミン構造とヒンダードフェノール構造とを液晶配向膜に存在させることにより、液晶素子の残像特性や耐光性、シール剤周辺の表示ムラを改善するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討したところ、ヒンダードアミン構造を有する化合物のラジカル捕捉能を利用して液晶素子の特性を改善しようとした場合、アミック酸構造を有する重合体を含む液晶配向膜では、ヒンダードアミン構造を有する化合物の性能が十分に発現せず、液晶素子の耐光性が十分でないことが明らかとなった。また、液晶素子には、基本特性の一つである液晶配向性が良好であることも求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶配向性及び耐光性が良好な液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
<1> 下記式(1)で表される部分構造を有する重合体(P)と、ヒンダードアミン構造を有する化合物(H)と、オキシラニル基、オキセタニル基、下記式(7)で表される部分構造、下記式(8)で表される部分構造、及び下記式(9)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物(Q)と、を含有する、液晶配向剤。
【0010】
【化1】
(式(1)中、X
1は、4価の有機基である。X
2は、下記式(2)で表される部分構造、下記式(3)で表される部分構造、下記式(4)で表される部分構造、及び下記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する2価の基である。)
【0011】
【化2】
(式(2)~式(5)中、R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、R
3a、R
3b、R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
1及びL
2は、それぞれ独立して、水素原子、熱脱離性基、又は1価の炭化水素基である。L
3は、水素原子、熱脱離性基、又は1価の脂肪族炭化水素基である。Ar
1は2価の芳香族基である。Ar
2は含窒素複素芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた2価の基である。「*」は結合手を表す。)
【0012】
【化3】
(式(7)~式(9)中、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a及びR
17bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
4~L
6は、それぞれ独立して、水素原子又は熱脱離性基である。ただし、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a、R
17b及びL
4~L
6は芳香環を有しない。「*」は結合手を表す。)
【0013】
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液晶配向剤によれば、良好な液晶配向性を示し、かつ耐光性が良好な液晶素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の態様に関連する事項について詳細に説明する。なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0016】
「脂肪族炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基及び脂環式炭化水素基を包含する意味である。重合体の「主鎖」とは、重合体の原子鎖のうち最も長い「幹」の部分をいう。重合体の「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0017】
《液晶配向剤》
本開示の液晶配向剤(以下、「本配向剤」ともいう)は、以下に示す重合体(P)、化合物(H)、及び化合物(Q)を含有する。
重合体(P):塩基性官能基を含む部分構造を有する重合体。
化合物(H):ヒンダードアミン構造を有する化合物。
化合物(Q):カルボキシ基と反応し得る部分構造(又は官能基)を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0018】
<重合体(P)>
重合体(P)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であり、下記式(1)で表される部分構造を有する。
【化4】
(式(1)中、X
1は、4価の有機基である。X
2は、下記式(2)で表される部分構造、下記式(3)で表される部分構造、下記式(4)で表される部分構造、及び下記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する2価の基である。)
【化5】
(式(2)~式(5)中、R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、R
3a、R
3b、R
4a及びR
4bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
1及びL
2は、それぞれ独立して、水素原子、熱脱離性基、又は1価の炭化水素基である。L
3は、水素原子、熱脱離性基、又は1価の脂肪族炭化水素基である。Ar
1は2価の芳香族基である。Ar
2は含窒素複素芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた2価の基である。「*」は結合手を表す。)
【0019】
上記式(1)において、X1は、テトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基である。なお、本明細書において、「テトラカルボン酸誘導体」とは、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を包含する意味である。
【0020】
X
1を構成するテトラカルボン酸誘導体としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの製造において使用することができるテトラカルボン酸誘導体として公知の化合物を使用することができる。重合体(P)の溶解性及び液晶配向膜の透明性の観点から、X
1は、置換又は無置換の4価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、例えば、下記式(9)~式(14)のそれぞれで表される4価の基が挙げられる。
【化6】
(式(9)~(14)中、R
20及びR
21は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロゲン化アルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のハロゲン化アルコキシ基、又はハロゲン原子である。「*」は結合手を表す。)
【0021】
これらのうち、X1は、置換又は無置換の4価の脂環式炭化水素基であることが好ましい。光配向法により液晶配向膜を形成する場合、X1は、シクロブタン環構造を有する4価の基であることが好ましい。具体的には、上記式(9)又は式(10)で表される4価の基であることが好ましく、上記式(10)で表される4価の基であることが特に好ましい。X1が上記式(10)で表される基である場合、R20及びR21は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のハロゲン化アルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のハロゲン化アルコキシ基、又はハロゲン原子であることが好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0022】
上記式(1)において、X2は、ジアミン化合物に由来する2価の有機基であり、上記式(2)で表される部分構造、上記式(3)で表される部分構造、上記式(4)で表される部分構造、及び上記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「部分構造(X)」ともいう)を有する。液晶配向膜の光による劣化を抑制し、液晶素子の耐光性改善の効果を十分に得る観点から、重合体(P)は、上記式(3)で表される部分構造、上記式(4)で表される部分構造、及び上記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましく、これらの1種以上を重合体の主鎖中に有することがより好ましい。
【0023】
上記式(2)~式(5)において、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4b(以下、「R1a~R4b」と示すことがある)が1価の有機基である場合、R1a~R4bは、炭素数1~10の1価の炭化水素基であることが好ましく、具体的には、炭素数1~10の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の1価の脂環式炭化水素基、及び炭素数6~10の1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0024】
液晶素子の電圧保持率をより高めることができる点及び液晶素子の液晶配向性を阻害しにくい点で、R1a~R4bは、水素原子又は炭素数1~8の1価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。
【0025】
L1~L3において、熱脱離性基は、アミノ基が有する水素原子を置換する基であって、熱付与により脱離して水素原子に置き換わる基をいう。L1~L3が熱脱離性基である場合、熱脱離性基は、液晶配向剤を基板に塗布し加熱して液晶配向膜を形成する過程において基L1~L3を脱離させ、これによりプロセスの簡略化を図る観点から、120~300℃の温度において分解し、水素原子に置き換わる基であることが好ましい。具体的には、L1~L3の熱脱離性基は、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)又は9-フルオレニルメトキシカルボニル基が好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0026】
L1及びL2が1価の炭化水素基である場合、当該炭化水素基は、炭素数1~8の1価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数3~8のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましい。L3が1価の脂肪族炭化水素基である場合、当該脂肪族炭化水素基は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数3~8のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましい。
【0027】
液晶素子の耐光性及び液晶素子の液晶配向性(より具体的には、非感光性ポリマーのブレンドにおける相分離性)をより良化させる観点から、L1~L3は、中でも、水素原子、炭素数1~8の1価の脂肪族炭化水素基又はtert-ブトキシカルボニル基が好ましく、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はtert-ブトキシカルボニル基であることがより好ましく、tert-ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
【0028】
Ar1の2価の芳香族基としては、芳香族炭化水素環又は複素芳香環の環部分から2個の水素原子を取り除いた基が挙げられる。この場合の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。複素芳香環は含窒素複素芳香環が好ましく、例えば、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環等が挙げられる。これらの芳香環は置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。なお、Ar1が含窒素複素芳香環である場合、X2は、上記式(4)で表される部分構造を有する基であり、また上記式(5)で表される部分構造を有する基でもある。
【0029】
Ar2を構成する含窒素複素芳香環としては、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、プリン環、キノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、フタラジン環、トリアジン環等が挙げられる。Ar2を構成する含窒素複素芳香環には、上記例示した環を構成する炭素原子に置換基が導入されていてもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。これらのうち、重合体中に導入しやすい点、及び液晶素子の耐光性の改善効果を高くできる点において、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環及びベンゾイミダゾール環が好ましく、ピリジン環、イミダゾール環及びベンゾイミダゾール環がより好ましい。
【0030】
<重合体(P)の合成>
重合体(P)の合成方法は特に限定されず、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより得ることができる。重合体(P)がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、例えば、テトラカルボン酸二無水物と、部分構造(X)を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう)を含むジアミン化合物と、を反応させる方法により得ることができる。
【0031】
・ポリアミック酸
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0032】
これらの具体例としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0033】
ポリアミック酸(P)の溶解性を高くできる点及び透明性の高い液晶配向膜を得ることができる点で、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。ポリアミック酸(P)を合成する際に脂肪族テトラカルボン酸二無水物を用いる場合、脂肪族テトラカルボン酸二無水物の割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、30モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、70モル%以上が更に好ましい。ポリアミック酸(P)の合成に際し、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
(ジアミン化合物)
特定ジアミンは部分構造(X)を有していればよく、特に限定されない。液晶素子の耐光性改善の効果をより高くできる点で、特定ジアミンが有する部分構造(X)は、上記式(3)で表される部分構造、上記式(4)で表される部分構造、及び上記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも特に、特定ジアミンは、上記式(3)で表される部分構造、上記式(4)で表される部分構造、及び上記式(5)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を主鎖中に有する化合物であることが好ましい。
【0035】
特定ジアミンの具体例としては、例えば、下記式(d-1)~式(d-24)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、特定ジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化7】
【化8】
(式(d-12)中、tは1~20の整数である。)
【化9】
【0036】
ポリアミック酸(P)の合成に際して、ジアミン化合物としては特定ジアミンのみを用いてもよいが、特定ジアミンと共に、特定ジアミンとは異なるジアミン化合物(以下、「その他のジアミン」ともいう)を使用してもよい。
【0037】
その他のジアミンとしては、部分構造(X)を有しないジアミン化合物であれば特に限定されず、例えば脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンが挙げられる。
【0038】
これらの具体例としては、鎖状ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;
脂環式ジアミンとして、例えばp-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、2,5-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、下記式(E-1)
【化10】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を示す)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン:
パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-エチレンジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、O,O’-ビス(4-アミノフェニル)-エチレングリコール、N1,N6-ビス(4-アミノフェネチル)-N1,N6-ジ(tert-ブトキシカルボニル)アジパミド、N4,N4’-ビス(4-アミノフェニル)-N4,N4’-ジメチルベンジジン、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、ビス(4-アミノフェニル)アミン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4-(4-アミノフェノキシカルボニル)-1-(4-アミノフェニル)ピペリジン、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン等の非側鎖型ジアミンを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミン化合物を用いることができる。なお、ポリアミック酸(P)の合成に際し、その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
特定ジアミンの使用割合は、液晶素子の耐光性(特に、液晶配向膜や液晶セルに光ストレスが加わった後の電圧保持特性)の改善効果を十分に得る観点から、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、2モル%以上とすることが好ましく、5モル%以上とすることがより好ましく、10モル%以上とすることが更に好ましく、15モル%以上とすることがより更に好ましい。また、特定ジアミンと共にその他のジアミンを使用する場合、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、例えば80モル%以下である。
【0040】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸(P)は、上記の如きテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。分子量調整剤としては、例えば、酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物等が挙げられる。ポリアミック酸(P)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1モル当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2モル当量となる割合が好ましい。
【0041】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール等)との混合物である。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計量が、反応溶液の全量に対して0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。ポリアミック酸(P)を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0042】
本配向剤によれば、重合体(P)として光配向性部位を有する重合体を使用した場合にも、光ストレスによる液晶配向膜の劣化を抑制でき、耐光性が良化された液晶素子を製造できる点で好適である。ここで、光配向性部位とは、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光分解反応又は光転位反応等によって膜に異方性を付与する官能基である。光配向性部位の具体例としては、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基等が挙げられる。これらのうち、重合体(P)が有する光配向性部位は、シクロブタン環構造を基本骨格として含むシクロブタン構造含有基が好ましく、上記式(9)又は式(10)で表される基がより好ましく、上記式(10)で表される基が更に好ましい。これらのうち、光感度が高く、液晶配向性及び電圧保持特性を良好にすることができる点で、重合体(P)が有する光配向性部位は、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有することが特に好ましい。
【0043】
重合体(P)が光配向性部位を有する重合体である場合、重合体(P)において、光配向性部位を有する単量体に由来する構造単位の割合は、重合体(P)を構成する単量体に由来する構造単位の全量に対し、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。また、重合体(P)に光配位構成部位を与える単量体としてテトラカルボン酸誘導体を用いる場合、重合体(P)において、光配向性部位を有する単量体に由来する構造単位の割合は、重合体(P)を構成する単量体に由来する構造単位の全量に対し、通常、50モル%以下である。
【0044】
・ポリアミック酸エステル
重合体(P)がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記で得られたポリアミック酸(P)とエステル化剤(例えばメタノールやエタノール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等)とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、適当な脱水触媒(例えば4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムハライド、カルボニルイミダゾール、リン系縮合剤等)の存在下で反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、適当な塩基(例えばピリジン、トリエチルアミン等の3級アミンや、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類)の存在下で反応させる方法、等によって得ることができる。
【0045】
上記[II]で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、テトラカルボン酸二無水物を、アルコール類等を用いて開環することにより得ることができる。上記[III]で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。
【0046】
ポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、上記反応によりポリアミック酸エステルを溶液として得た場合、その溶液をそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0047】
・ポリイミド
重合体(P)がポリイミドである場合、当該ポリイミドは、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸(P)が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。ポリイミドは、そのイミド化率が90%以下であることが好ましく、30~90%であることがより好ましく、40~85%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。なお、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0048】
ポリアミック酸(P)の脱水閉環は、ポリアミック酸(P)を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われることが好ましい。脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(P)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。
【0049】
脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。使用する有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃であり、反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。こうして得られたポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0050】
重合体(P)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体(P)の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0051】
重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは5,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。なお、液晶配向剤に含有させる重合体(P)は1種のみでもよく、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0052】
<化合物(H)>
化合物(H)は、ヒンダードアミン構造を有する化合物であり、具体的には、下記式(6)で表される部分構造を有する化合物が挙げられる。
【化11】
(式(6)中、R
5は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基、1,3-ジオキソブチル基、又はヒドロキシアルキル基である。R
6~R
9は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基である。Y
1は、単結合、カルボニル基、**-(CH
2)
n-O-(ただし、nは1~4の整数である。)、-O-、又は**-CONH-である。「**」は、式(6)中の窒素原子に結合する結合手を表す。Y
2~Y
5は、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、-CH
2-CO-、又は-CH
2-CH(OH)-である。R
10~R
13は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、又は1価の有機基である。「*」は結合手を表す。)
【0053】
上記式(6)において、R5の炭素数1~20のアルキル基及びヒドロキシアルキル基のアルキル基部分としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が挙げられる。これらは、直鎖状でも分岐状でもよい。炭素数3~20のシクロアルキル基としては、例えばシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0054】
炭素数6~20のアリール基としては、例えばフェニル基、3-フルオロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基、3-クロロ-4-メチルフェニル基、4-ピリジニル基、2-フェニル-4-キノリニル基、2-(4’-t-ブチルフェニル)-4-キノリニル基、2-(2’-チオフェニル)-4-キノリニル基等が挙げられる。炭素数7~13のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0055】
R6~R9の炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基及び炭素数7~13のアラルキル基としては、上記R5の説明において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基及び炭素数7~13のアラルキル基として例示したものをそれぞれ挙げることができる。
【0056】
上記式(6)において、「-Y1-R5」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、オクチルオキシ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ホルミル基、アセチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルオキシ基、フェニル基、ベンジル基、1,3-ジオキソブチル基、1,4-ジオキソブチル基、4-ピリジニルカルボニル基、ベンゾイル基、2-フェニル-4-キノリニル基、2-(4’-t-ブチルフェニル)-4-キノリニル基、2-(2’-チオフェニル)-4-キノリニル基、式「-CONH-Ph(但し、Phはフェニル基、3-フルオロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、4-i-プロピルフェニル基、4-n-ブチルフェニル基又は3-クロロ-4-メチルフェニル基である。)」で表される基等が挙げられる。「-Y1-R5」で表される基は、好ましくは水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキルオキシ基、又は炭素数1~10のヒドロキシオキシ基である。
【0057】
上記式(6)において「-Y2-R6」、「-Y3-R7」、「-Y4-R8」、「-Y5-R9」で表される基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、ベンジル基、ベンゾイル基、4-ホルミルベンゾイル基、2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル基、2-オキソ-2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。なお、「-Y2-R6」、「-Y3-R7」、「-Y4-R8」、及び「-Y5-R9」は、互いに同じでも異なっていてもよい。「-Y2-R6」、「-Y3-R7」、「-Y4-R8」、「-Y5-R9」で表される基は、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
【0058】
R10~R13が1価の有機基である場合、当該1価の有機基としては、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基、及びヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
【0059】
化合物(H)は、光安定剤として本配向剤に配合される。紫外線の照射や熱付与によって、重合体(P)を含む配向膜中にラジカルが発生すると、このラジカルを基点に新たなラジカルや過酸化物が生じ、配向膜の機能低下を引き起こすことが考えられる。これに対し、本配向剤を用いて液晶配向膜を形成した場合、液晶配向膜中において化合物(H)が紫外線や熱により発生するラジカルを無効化するラジカル捕捉剤として機能すると考えられる。
【0060】
液晶素子の耐光性及び電圧保持特性をより良化できる点で、化合物(H)はヒドロキシ基を有することが好ましい。化合物(H)がヒドロキシ基を有する場合、膜形成時の加熱によって化合物(H)のヒドロキシ基と重合体(P)のカルボキシ基とが反応し、化合物(H)が酸失活剤としても機能すると考えられる。また、化合物(H)が、重合体(P)及び化合物(Q)の一方又は両方と結合することにより、化合物(H)が低分子成分として膜中に残存することを抑制でき、液晶配向膜や液晶セルに光ストレスが加わった後にも電圧保持特性が高く耐光性に優れた液晶素子を得ることができる。化合物(H)中におけるヒドロキシ基の位置は特に限定されない。化合物(H)は、上記式(6)中のR5の部分にヒドロキシ基を有していてもよく、上記式(6)で表される部分構造とは異なる部分に有していてもよい。
【0061】
化合物(H)は更に、トリアジン環構造及びベンゾトリアゾール環構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有していることが、光ストレス付与後にも良好な電圧保持特性を確保でき、液晶素子の耐光性を更に良化できる点で好ましい。化合物(H)がトリアジン環構造、ベンゾトリアゾール環構造又はそれらの両方を有する場合、これらの環構造が紫外線吸収部位となり、液晶配向膜のラジカル分解を更に抑制できると考えられる。化合物(H)において、トリアジン環構造及びベンゾトリアゾール環構造の合計数は、例えば1~3個であり、好ましくは1又は2個である。
【0062】
化合物(H)の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールとの重合物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル、炭酸=ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ウンデシルオキシピペリジン-4-イル)、ペンタメチルピペリジルメタクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン1,3,5-トリアジンN,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート等が挙げられる。
【0063】
光安定剤の市販品としては、例えば、アデカスタブLA-52、LA-57、LA-63、LA-68、LA-72、LA-77、LA-81、LA-82、LA-87、LA-402、LA-40、LA-502(以上、ADEKA製)、CHIMASSORB119、CHIMASSORB944、CHIMASSORB2020、TINUVIN111、TINUVIN123、TINUVIN144、Tinuvin 171、Tinuvin 249、Tinuvin 292、TINUVIN622、TINUVIN765、TINUVIN770、TINUVIN783、TINUVIN791、Tinuvin 5100、Tinuvin XT 55(以上、BASFジャパン製)等が挙げられる。
【0064】
本配向剤において、化合物(H)の含有量は、液晶素子の耐光性の改善効果を十分に得る観点から、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。また、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持特性を確保する観点から、化合物(H)の含有量は、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下が更に好ましい。化合物(H)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
<化合物(Q)>
化合物(Q)は、オキシラニル基、オキセタニル基、下記式(7)で表される部分構造、下記式(8)で表される部分構造、及び下記式(9)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「特定構造G」ともいう)を1分子内に合計2個以上有し、かつ芳香環を有しない化合物である。
【化12】
(式(7)~式(9)中、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a及びR
17bは、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基である。L
4~L
6は、それぞれ独立して、水素原子又は熱脱離性基である。ただし、R
14a、R
14b、R
15a、R
15b、R
16a、R
16b、R
17a、R
17b及びL
4~L
6は芳香環を有しない。「*」は結合手を表す。)
【0066】
上記式(7)において、R14a、R14b、R15a、R15b、R16a、R16b、R17a及びR17bが1価の有機基である場合、当該1価の有機基としては、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~13のアラルキル基等が挙げられる。これらのうち、R14a、R14b、R15a、R15b、R16a、R16b、R17a及びR17bで表される1価の有機基は、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。
【0067】
L
4が熱脱離性基である場合、L
4は、水酸基が有する水素原子を置換する基であって、熱付与により脱離して水素原子に置き換わる基をいう。L
4が熱脱離性基である場合、上記式(7)中の「-O-L
4」で表される基の具体例としては、例えば下記式(L4-1)~式(L4-10)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化13】
(式(L4-1)~式(L4-10)中、「*」は結合手を表す。)
【0068】
L5及びL6が熱脱離性基である場合の具体例としては、上記式(2)~式(4)の説明においてL1~L3で表される熱脱離性基として例示した基と同様のものが挙げられる。
【0069】
化合物(Q)は、重合体(P)が有するカルボキシ基と反応して失活させる酸失活剤として本配向剤に配合される。ここで、本配向剤の一成分である化合物(H)は塩基性を示し、酸性条件では塩を形成すると考えられる。この場合、化合物(H)のラジカル捕捉能が低下してしまう。これに鑑み、アミック酸構造を有する重合体(P)を含む液晶配向剤において、酸失活剤として化合物(Q)を含有させることにより、重合体(P)由来の酸(カルボキシ基)を失活させることができ、化合物(H)の機能低下を抑制できると考えられる。
【0070】
化合物(Q)が1分子内に有する特定構造Gの数は、1個以上であればよい。液晶素子の耐光性の改善効果を十分に得る観点からすると、特定構造Gの数は2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、液晶素子において、良好な液晶配向性及び電圧保持特性を確保する観点から、特定構造Gの数は10個以下が好ましく、8個以下がより好ましい。
【0071】
化合物(Q)が有する特定構造Gは、本配向剤の保存安定性を良好に保ちながら、膜形成時の加熱によるカルボキシ基との反応性が高い点で、オキシラニル基、オキセタニル基、上記式(7)で表される部分構造、及び下記式(8)で表される部分構造が好ましく、オキシラニル基及びオキセタニル基がより好ましく、オキシラニル基が特に好ましい。
【0072】
化合物(Q)の具体例としては、エポキシ基(オキシラニル基、オキセタニル基)を有する化合物として、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,3’-(1,3-(2-メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス-(3-エチルオキセタン)、1,2-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、1,4-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジ[2-(3-オキセタニル)ブチル]エーテル、1,6-ビス〔(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ〕-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン、3(4),8(9)-ビス[(1-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル〕-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、2,3-ビス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシメチル]ノルボルナン、2-エチル-2-[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシメチル]-1,3-O-ビス[(1-エチル-3-オキセタニル)メチル]-プロパン-1,3-ジオール、2,2-ジメチル-1,3-O-ビス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル]-プロパン-1,3-ジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-O-ビス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル]-プロパン-1,3-ジオール、1,4-O-ビス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル]-ブタン-1,4-ジオール、オキセタニルシルセスキオキサン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンのシリコンアルコキサイド等が挙げられる。
【0073】
また、化合物(Q)の市販品としては、例えばデナコールEX611、同EX612、同EX614、同EX622、同EX512、同EX621、同EX411、同EX421、同EX313、同EX321、同EX201、同EX211、同EX212、同EX252、同EX911、同EX941、同EX920、同EX931、同EX111、同EX121、同EX141、同EX142、同EX146、同EX192、同EX721、同EX203、同EX711、同EX147、同EX221、同EX150、デナレックスR45EPT、同EX810、同EX811、同EX850、同EX851、同EX821、同EX830、同EX832、同EX841、同EX861、同EX145、同EX147(以上、ナガセケムテックス社製)、アロンオキセタンOXT-121(XDO)、同221(DOX)、HQOX、RSOX、CTOX、4,4’-BPOX、2,2’-BPOX、TM-BPOX、2,7-NpDOX、OFH-DOX、NDMOX、TMPTOX、NPGOX、BisAOX、BisFOX、PNOX、CNOX、OX-SQ、OX-SC(以上、東亞合成社製)、ETARNACOLL OXBP(以上、宇部興産社製)等が挙げられる。また、その他、化合物(Q)としては、国際公開第2009/096598号に記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサンを用いることもできる。
【0074】
上記式(7)で表される部分構造を有する化合物としては、多官能脂肪族アルコール、及び保護された水酸基を有する多官能脂肪族アルコールを挙げることができる。上記式(7)で表される部分構造において、式(7)中の結合手「*」は窒素原子に結合していることが好ましい。上記式(7)で表される部分構造を有する化合物は、中でも、下記式(7-1)で表される部分構造を有する化合物であることが好ましく、下記式(7-1)で表される部分構造を1分子中に2個以上有することがより好ましい。
【化14】
(式(7-1)中、Z
1は、上記式(7)で表される1価の基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0075】
上記式(7)で表される部分構造を有する化合物の具体例としては、例えば下記式(q-1-1)~式(q-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化15】
(式(q-1-3)及び式(q-1-4)中、L
7は、水素原子又は熱脱離性基である。ただし、式中の複数のL
7の1個以上は熱脱離性基である。式中の複数のL
7は、互いに同一又は異なる。)
【0076】
上記式(8)で表される部分構造及び上記式(9)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有する化合物としては、多官能脂肪族アミン及び保護されたアミノ基を有する多官能脂肪族アミンを挙げることができる。化合物(Q)が上記式(8)で表される部分構造、上記式(9)で表される部分構造又はそれらの両方を有する場合、多官能の鎖状アミン、保護されたアミノ基を有する多官能の鎖状アミン、及びイソシアヌレート環を有する多環能の複素環式アミンよりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができ、中でも、多官能の鎖状アミン及び保護されたアミノ基を有する多官能の鎖状アミンよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0077】
化合物(Q)の具体例としては、例えば下記式(q-2-1)~式(q-2-12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【化17】
(式(q-2-7)~式(q-2-12)中、L
8は、水素原子又は熱脱離性基である。ただし、式中の複数のL
8の1個以上は熱脱離性基である。式中の複数のL
8は、互いに同一又は異なる。)
【0078】
本配向剤において、化合物(Q)の含有量は、液晶素子の耐光性の改善効果を十分に得る観点から、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましい。また、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持特性を確保する観点から、化合物(Q)の含有量は、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下が更に好ましい。化合物(Q)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)、化合物(H)及び化合物(Q)以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記部分構造(X)を有しない重合体(以下、「他の重合体」ともいう)、紫外線吸収剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0080】
(他の重合体)
本配向剤に配合される他の重合体の主骨格は、特に限定されない。他の重合体としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。信頼性の高い液晶素子を得る観点から、他の重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、及びスチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。
【0081】
光配向法により液晶配向膜を形成する場合、他の重合体として光配向性部位を有する重合体を用いてもよい。他の重合体が有する光配向性基の具体例としては、重合体(P)が有していてもよい光配向性部位の例示と同様の基が挙げられる。これらのうち、その他の重合体が有する光配向性部位は、シクロブタン環構造を基本骨格として含むシクロブタン構造含有基が好ましく、上記式(9)又は式(10)で表される基であることがより好ましく、上記式(10)で表される基であることが更に好ましい。これらのうち、光感度が高い点で、その他の重合体が有する光配向性部位は、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含むことが特に好ましい。
【0082】
他の重合体を液晶配向剤に含有させる場合、他の重合体の含有量は、重合体(P)と他の重合体との合計量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、他の重合体の含有量は、重合体(P)と他の重合体との合計量に対して、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。他の重合体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0083】
<紫外線吸収剤>
本配向剤に配合する紫外線吸収剤としては、アゾメチン系化合物、インドール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、メロフタロシアニン系化合物、オキサゾール系化合物、ナフチルイミド系化合物、オキサジアゾール系化合物、オキサジン系化合物、オキサゾリジン系化合物、アントラセン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等が挙げられる。これらのうち、波長290nm~420nmに1つ以上の吸収極大を持つ化合物を好ましく使用することができる。中でも特に、本配向剤に配合する紫外線吸収剤は、トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、トリアジン系化合物が特に好ましい。
【0084】
トリアジン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、例えば、下記式(U-1)~式(U-4)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化18】
(式(U-1)~式(U-3)中、R
a1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~15の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数3~8の置換若しくは無置換のシクロアルキル基、炭素数3~8の置換若しくは無置換のアルケニル基、炭素数6~18の置換若しくは無置換のアリール基、炭素数7~18の置換若しくは無置換のアルキルアリール基、又は炭素数7~18の置換若しくは無置換のアリールアルキル基である。R
a1~R
a9は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~15のアルキル基、炭素数3~8 のシクロアルキル基、炭素数3~8のアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、又は炭素数7~18のアリールアルキル基である。)
【化19】
(式(U-4)中、R
b1~R
b3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アラルキル基、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数1~18のアルコキシカルボニルアルキル基である。)
【0085】
上記式(U-1)~式(U-3)において、Ra1が置換されたアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基である場合、Ra1としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基の任意の水素原子が、ヒドロキシ基、ハロゲン原子で置換された基、及び、任意のメチレン基が、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で置換された基が挙げられる。
【0086】
紫外線吸収剤の具体例としては、市販品として、例えばアデカスタブLA-24、LA-29、LA-31、LA-32、LA-36、LA-46、LA-F70、1413(以上、ADEKA社製)、Tinuvin P、Tinuvin 234、Tinuvin 326、Tinuvin 329、Tinuvin 360、Tinuvin 1577 ED、Tinuvin 1600、Chimassorb 81、Tinuvin PS、Tinuvin 99-2、Tinuvin 384-2、Tinuvin 900、Tinuvin 928、Tinuvin 1130、Tinuvin 970、Tinuvin 400、Tinuvin 405、Tinuvin 460、Tinuvin 477、Tinuvin 479、Tinuvin B 75、UVA-903KT、UVA-935LH、UVA-805(以上、BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0087】
本配向剤に紫外線吸収剤を含有させる場合、紫外線吸収剤の含有量は、光ストレスが加えられた後にも良好な電圧保持特性を保持でき、耐光性の改善効果を十分に得る観点から、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持特性を確保する観点から、紫外線吸収剤の含有量は、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。紫外線吸収剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
<酸化防止剤>
本配向剤に配合する酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。これらの酸化防止剤を本配向剤に含有させることにより、光、熱、湿気等の過酷な環境下で液晶素子を長時間連続して駆動させた場合にも良好な電圧保持特性を維持できる点で好適である。
【0089】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばトリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート、トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-ブタン、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0090】
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えばアデカスタブAO-20、同AO-30、同AO-40、同AO-50、同AO-60、同AO-80、同AO-330(以上、ADEKA社製)、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGAOX1076、IRGANOX1098、IRGANOX1135、IRGANOX1330、IRGANOX1726、IRGANOX1425、IRGANOX1520、IRGANOX245、IRGANOX259、IRGANOX3114、IRGANOX3790、IRGANOX5057、IRGANOX565、IRGAMOD295(以上、BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0091】
リン系酸化防止剤としては、例えば3,9-ビス(4-ノニルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5-メチルフェニル)[1,1-ビフェニル]-4,4’-ジイルビスホスホナイト、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェフィン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス[2,4-ビス(1,1ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸等が挙げられる。
【0092】
リン系酸化防止剤の市販品としては、例えばアデカスタブPEP-4C、同PEP-8、同PEP-36、HP-10、2112、1178、1500、C、135A、3010、TPP(以上、ADEKA社製)、GSY-P101(以上、堺化学工業社製)、IRGAFOS168、IRGAFOS12、IRGAFOS126、IRGAFOS38、IRGAFOS P-EPQ(以上、BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0093】
本配向剤に酸化防止剤を含有させる場合、酸化防止剤の含有量は、液晶配向膜に光ストレスが加えられた後にも良好な電圧保持特性を示す液晶素子を得る観点から、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、液晶素子の液晶配向性を良好に維持する観点から、酸化防止剤の含有量は、本配向剤に含まれる重合体成分の合計100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。酸化防止剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0094】
本配向剤において、重合体(A)と共に添加剤として配合される成分としては、上記のほか、例えば官能性シラン化合物、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤等が挙げられる。各成分につき、本配向剤における含有量は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0095】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)、化合物(H)、化合物(Q)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは、適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0096】
使用する有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ジアセトンアルコール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0097】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%以上であると塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜を得やすい点で好適である。また、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜の膜厚が過大となりすぎず良好な液晶配向膜を得ることができるとともに、液晶配向剤の粘性を適度に確保でき、塗布性を良好にすることができる。
【0098】
液晶配向剤中の重合体(P)の含有量は、本開示の効果を十分に得る観点から、液晶配向剤中の固形成分(すなわち、溶媒以外の成分)の合計100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、更に好ましくは2質量%以上である。また、重合体(P)の含有量は、液晶配向剤の固形成分の合計100質量部に対して、好ましくは90質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下である。
【0099】
《液晶配向膜及び液晶素子》
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を備える。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型等といった種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0100】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜等を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0101】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは40~150℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜、又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0102】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0103】
光配向処理における光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法;プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法;プレベーク工程、ポストベーク工程又はそれらの両方において塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0104】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400~20,000J/m2であり、より好ましくは1,000~5,000J/m2である。塗膜に対する光照射は、反応性を高めるために塗膜を加温しながら行ってもよい。
【0105】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された有機膜を更に加熱してもよい。この加熱処理(加熱再配向)により液晶配向性が更に良化された液晶素子を得ることができる点で好ましい。この加熱は、ポストベークであってもよく、ポストベークとは別にポストベーク後に行う加熱処理であってもよい。加熱温度は、加熱による分子鎖の再配向を促進させる観点から、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。加熱時間は、好ましくは5~200分、より好ましくは10~60分である。
【0106】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された有機膜を、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に接触させる接触工程を更に含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンが挙げられる。有機膜と溶媒との接触方法としては、例えば噴霧(スプレー)処理、シャワー処理、浸漬処理、液盛り処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機膜と溶媒との接触時間は特に限定されないが、例えば5秒~15分である。接触工程の後に有機膜の加熱処理を行ってもよい。
【0107】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、(1)液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルに対しては、更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷する処理を行うことにより、液晶充填時の流動配向を除去することが好ましい。
【0108】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。本開示の液晶配向剤により形成された液晶配向膜は耐光性に優れていることから、シール剤の光硬化により液晶セルの封止構造を形成する場合に、液晶の配置領域(表示領域)をマスクする工程を省略することも可能である。
【0109】
液晶としては、ポジ型及びネガ型のいずれを用いてもよい。IPS型及びFFS型の液晶素子においてネガ型液晶を用いた場合、電極上部での透過損失を小さくでき、コントラスト向上を図ることができる点で好ましい。また、使用する液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。ネマチック液晶としては、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等を用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶などを添加して使用してもよい。
【0110】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。これにより液晶素子が得られる。
【0111】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子は、位相差フィルム等の光学フィルムに適用することもできる。
【実施例0112】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
<化合物の構造と略号>
以下の例で使用した主な化合物の構造と略号は以下のとおりである。
[テトラカルボン酸二無水物]
TA-1;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
TA-2;(1R,2R,3S,4S)-1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物
TA-3;2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
【化20】
【0114】
[ジアミン]
DA-1;N,N’-ビス(5-アミノピリジン-2-イル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン
DA-2;tert-ブチル(4-アミノベンジル)(4-アミノフェネチル)カーバメート
DA-3;1,5-ビス(5-アミノベンズイミダゾール-1-イル)ペンタン
DA-4;p-フェニレンジアミン
DA-5;2,2’-ジメチルベンジジン
DA-6;4,4’-ジアミノジフェニルメタン
DA-7;4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
DA-8;O,O’-ビス(4-アミノフェニル)-エチレングリコール
DA-9;N1,N6-ビス(4-アミノフェネチル)-N1,N6-ジ(tert-ブトキシカルボニル)アジパミド
DA-10;N4,N4’-ビス(4-アミノフェニル)-N4,N4’-ジメチルベンジジン
【0115】
【0116】
[化合物(H):ヒンダードアミン系光安定剤]
H-1;アデカスタブ LA-72(ADEKA社製)
H-2;アデカスタブ LA-77Y(ADEKA社製)
H-3;Tinuvin 123(BASF社製)
H-4;4-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン
H-5;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン
H-6;Chimassorb 944(BASF社製)
H-7;Tinuvin 152(BASF社製)
【0117】
【0118】
[化合物(Q):酸失活剤]
Q-1;ショウフリー PETG(昭和電工社製)
Q-2;デナコール EX-614B(ナガセケムテックス社製)
Q-3;デナコール EX-512(ナガセケムテックス社製)
Q-4;N1,N1,N6,N6-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジパミド
Q-5;tert-ブチル ビス(6-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)へキシル)カルバメート
【化23】
【0119】
[化合物(U):紫外線吸収剤]
U-1;Tinuvin 405(BASF社製)
U-2;Tinuvin 928(BASF社製)
U-3;2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン
【化24】
【0120】
[化合物(A):酸化防止剤]
A-1;2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール
A-2;亜リン酸トリフェニル
【化25】
【0121】
[その他の添加剤]
AD-1;ジペンタエリスリトール ヘキサアクリレート
AD-2;N,N’-1,3-フェニレンジマレイミド
AD-3;N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン
AD-4;2,2’-(1,3-フェニレン)ビス(2-オキサゾリン)
【化26】
【0122】
[溶剤]
NMP;N-メチル-2-ピロリドン
GBL;γ-ブチロラクトン
DAA;ジアセトンアルコール
BC;ブチルセロソルブ
【0123】
<重合体の合成及び評価>
以下の合成例1~6において重合体をそれぞれ合成した。なお、以下の例において、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトル(400MHz)から、下記数式(1)によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A1/(A2×α)))×100 …(1)
(数式(1)中、A1は化学シフト10ppm付近に現れるアミド基のプロトン由来のピーク面積であり、A2は化学シフト6~9ppm付近に現れる芳香族基のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるアミド基のプロトン1個に対する芳香族基のプロトンの個数割合である。)
【0124】
[合成例1]
ジアミン(ジアミン(DA-1)50モル部、及びジアミン(DA-5)50モル部)をNMPに溶解し、ジアミン合計量に対して0.95モル当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-2)を加え、室温で6時間反応を行い、ポリアミック酸の溶液を得た。得られた溶液に、脱水剤として、ポリアミック酸のカルボキシ基に対して0.80モル当量の1-メチルピペリジン及び無水酢酸を加え、60℃で3時間加熱撹拌した。得られた溶液に対して、減圧濃縮とNMPによる希釈を繰り返して、下記式(PI-1)で表される部分構造を有するポリイミド(PI-1)の10質量%溶液を得た。ポリイミド(PI-1)のイミド化率は78%であった。
【化27】
【0125】
[合成例2]
ジアミン(ジアミン(DA-4)100モル部)をNMPに溶解し、ジアミン合計量に対して0.95モル当量のテトラカルボン酸二無水物(TA-2)を加え、室温で6時間反応を行い、下記式(PI-2)で表される部分構造を有するポリアミック酸(PI-2)の15質量%溶液を得た。
【化28】
【0126】
[合成例3~6]
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及びモル比をそれぞれ下記表1に記載のとおりに変更した以外は合成例2と同様にしてポリアミック酸(PI-3~PI-6)をそれぞれ得た。なお、表1中の数値は、酸二無水物については、合成に使用した酸二無水物の合計量(100モル%)に対する各化合物の使用割合(モル%)を示し、ジアミンについては、合成に使用したジアミンの合計量(100モル%)に対する各化合物の使用割合(モル%)を示す。
【0127】
【0128】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:光配向FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
重合体成分(固形分換算:重合体(PI-1)5質量部、重合体(PI-5)95質量部、光安定剤(H-1)10質量部、及び酸失活剤(Q-1)10質量部)をNMP、GBL、DAA及びBCによって希釈することにより、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:GBL:DAA:BC=30:30:30:10(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0129】
(2)光配向法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スピンコーターを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg-Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線300mJ/cm2を、基板法線方向から照射して光配向処理を行った。この光配向処理が施された塗膜を、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱して熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
【0130】
(3)FFS型液晶表示素子の製造
上記(2)で作製した基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、液晶注入口を残して直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をディスペンサー塗布した後、一対の基板の液晶配向膜を有する面を対向させ、各基板の配向処理方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型ネマチック液晶(Merck社製、MJ20195NCMP)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、120℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の配向処理方向と45°の角度をなすように貼り合わせることによりFFS型液晶表示素子を製造した。
【0131】
(4)液晶配向性の評価
上記(3)で製造した液晶表示素子につき、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を顕微鏡によって倍率50倍で観察した。評価は、異常ドメインが観察されなかった場合を「良好」、異常ドメインが観察された場合を「不良」とした。その結果、本実施例では「良好」の評価であった。
【0132】
(5)電圧保持率及び耐光性の評価
液晶配向剤を塗布する一対の基板を、ITO電極を有するガラス基板に変更した以外は上記(2)と同様にして液晶配向膜を形成した。また、液晶表示素子の製造に用いる一対の基板を、液晶配向膜を形成したITO電極を有するガラス基板に変更した以外は上記(3)と同様の操作を行うことにより、ECB(電界制御複屈折)型液晶表示素子を製造した。この液晶表示素子に対して、冷陰極管(CCFL)を光源とするバックライト上で168時間の光照射を行った。光照射後の液晶表示素子につき、70℃において1Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、1670ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率を測定したところ、77%であった。耐光性の評価は、電圧保持率が80%以上を「優良」、70%以上80%未満を「良好」、70%未満を「不良」とした。その結果、本実施例では「良好」の評価であった。なお、電圧保持率の測定装置としては、(株)東陽テクニカ社製の型式名「VHR-1」を使用した。
【0133】
[実施例2~15、比較例1~14]
上記実施例1において、液晶配向剤に含有させる成分を下記表2に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製し、光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子及びECB型液晶表示素子を製造して各種評価を行った。評価結果を下記表2に示した。
【0134】
[実施例16:ラビング配向FFS型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤の調製
重合体成分(固形分換算:重合体(PI-4)40質量部、重合体(PI-6)60質量部、光安定剤(H-4)10質量部、及び酸失活剤(Q-1)10質量部)をNMP、GBL、DAA及びBCにより希釈することにより、固形分濃度が4.0質量%、溶剤組成比がNMP:GBL:DAA:BC=30:30:30:10(質量比)となる溶液を得た。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-30)を調製した。
【0135】
(2)ラビング法による液晶配向膜の形成
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-30)を、スピンコーターを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱した後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱を行い、平均膜厚100nmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロール回転数1000rpm、ステージ移動速度30mm/秒、毛足押し込み長さ0.3mmにて2回ラビング処理を行った。このラビング配向処理が施された塗膜を、超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のオーブンで10分間乾燥を行い、液晶配向膜を形成した。
【0136】
(3)FFS型液晶表示素子の製造
上記(2)で作製した液晶配向膜を有する一対の基板を用いた以外は、実施例1と同様にしてFFS型液晶表示素子を製造した。
【0137】
(4)液晶配向性の評価
上記(3)で製造したFFS型液晶表示素子について、実施例1と同様にして液晶配向性の評価を行った。その結果、本実施例では「良好」の評価であった。
【0138】
(5)電圧保持率及び耐光性の評価
液晶表示素子の製造に用いる一対の基板を、ラビング法により形成した液晶配向膜に変更した以外は実施例1と同様にしてECB型液晶表示素子を製造し、電圧保持率に基づき耐光性の評価を行った。その結果、本実施例では「良好」の評価であった。
【0139】
【0140】
表2中、液晶配向剤の各成分の質量比は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分及び添加剤成分の合計100質量部に対する各化合物の配合割合(質量部)を示す。
【0141】
表2に示すように、重合体(P)、光安定剤(H)、及び酸失活剤(Q)を含む実施例1~16の液晶配向剤はいずれも、液晶表示素子の液晶配向性が「良好」であり、かつ耐光性が「優良」又は「良好」であり、液晶配向性及び耐光性のバランスが取れていた。これに対して、重合体(P)、光安定剤(H)若しくは酸失活剤(Q)を含まないか、又はこれらの2種以上を含まない比較例1~14の液晶配向剤は、液晶表示素子の液晶配向性は「良好」であったが、耐光性は「不良」の評価であり、実施例1~16よりも劣っていた。
【0142】
重合体(P)、光安定剤(H)、及び酸失活剤(Q)を含有する液晶配向剤では、メカニズムは定かではないが、これら3成分の相乗効果により、光励起によるラジカルが捕捉されることで液晶配向膜のラジカル分解が抑制され、耐光性が改善されたと推測される。
【0143】
詳細には、光安定剤(H)は塩基性を示し、酸性条件では塩を形成するためラジカル捕捉能が低下する傾向がある。また、ポリアミック酸を含有する液晶配向剤では、液晶配向膜を形成する際の加熱によってイミド化反応が進行するが、ポリアミック酸由来のカルボキシ基は完全には消失せずに残存する傾向がある。このため、液晶配向剤に配合した光安定剤(H)がポリアミック酸由来のカルボキシ基と反応し塩を形成することにより、光安定剤(H)によるラジカル捕捉能が低下することが考えられる。
【0144】
ここで、実施例1~16では、重合体(P)が塩基性を発現する部分構造(脂肪族アミノ基、ピリジン環、ベンズイミダゾール環)を有するため、液晶配向膜中において、ポリアミック酸由来の酸が部分的に失活しており、かつ重合体がイオン結合によって架橋されていると考えられる。一方、比較例14では、重合体(PI-2)及び重合体(PI-5)は塩基性を発現する部分構造を有しないため、液晶配向膜中においてポリアミック酸由来の酸が残存していると考えられる。
【0145】
さらに、液晶配向剤に酸失活剤(Q)を含むことにより、液晶配向膜を形成する際の加熱によってポリアミック酸由来のカルボキシ基と酸失活剤(Q)との反応が進行し、エステルやカルボン酸塩が生成されることで、ポリアミック酸由来の酸を部分的に失活させることができると考えられる。また、酸失活剤(Q)は2個以上の官能基を有するため、上記反応により共有結合やイオン結合が形成され、これにより重合体を架橋できるといえる。
【0146】
このように、光安定剤(H)を含有する液晶配向剤において、重合体(P)及び酸失活剤(Q)を含むことにより液晶配向膜中の酸が中和され、これにより光安定剤(H)の活性が向上し、液晶表示素子の耐光性が改善されたことが推測される。また、液晶配向膜を構成する重合体が架橋されることによって、液晶による配向膜の膨潤が抑制されるとともに、膜中に取り込まれた不純物イオン等の物質移動を抑制し、液晶表示素子の電圧保持率が改善されたと推測される。
【0147】
また、液晶としてアルケニル構造等を有する液晶組成物は光照射で酸化分解し、ギ酸等の酸性分解物を生じ、液晶素子の電気特性や耐光性を低下させる可能性が考えられる。これに対し、重合体(P)及び酸失活剤(Q)が共存する場合には、重合体(P)が有する塩基性官能基が液晶配向膜中の酸に束縛されず、フリーの塩基として振る舞うことができ、液晶由来の酸性分解物等を捕捉できるようになると推測される。
【0148】
一方、光安定剤(H)に代えてフェノール系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤を配合した場合には、液晶表示素子の耐光性は改善されなかった(比較例6~9)。これは、液晶セル中では過酸化物の生成が少なく、フェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤では効果が発現しなかった可能性が考えられる。
【0149】
また、本配向剤において紫外線吸収剤(U)を併用することによって、僅かに耐光性が改善されることが分かった(実施例10、11)。これは、光安定剤(H)によって液晶配向膜のラジカル分解反応が抑制されたことに加えて、紫外線吸収剤(U)によって光励起によるラジカル発生が抑制されたことで耐光性が更に改善されたものと推測される。
【0150】
一方、比較例10~13に示すように、添加剤(AD-1)~(AD-4)では、光安定剤との併用による耐光性の改善は限定的であった。添加剤(AD-1)及び(AD-2)は、ポリアミック酸のカルボキシ基と反応せず、液晶配向膜中の酸を失活できなかったためと考えられる。また、添加剤(AD-3)及び(AD-4)は、ポリアミック酸のカルボキシ基と反応すると考えられるが、耐光性の改善は見られなかった。芳香族構造を有する添加剤(AD-3)及び(AD-4)に対して、脂肪族構造の酸失活剤(Q)において耐光性が良化する要因は定かではないが、脂肪族構造の酸失活剤(Q)は光吸収が少ないこと、配向膜中での分子運動性が高くカルボキシ基との反応速度が高いこと等が予想される。
【0151】
[実施例17~20]
液晶配向剤に含有させる成分を下記表3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製し、光配向法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子及びECB型液晶表示素子を製造して、実施例1と同様に各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0152】
[実施例21~24]
液晶配向剤に含有させる成分を下記表3に示すとおりに変更した以外は実施例16と同様にして液晶配向剤を調製し、ラビング法により液晶配向膜を形成するとともに、FFS型液晶表示素子及びECB型液晶表示素子を製造して、実施例16と同様に各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0153】
【0154】
表3中、液晶配向剤の各成分の質量比は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分及び添加剤成分の合計100質量部に対する各化合物の配合割合(質量部)を示す。
【0155】
なお、シクロブタン環構造を有する重合体(P)を含有する液晶配向剤を用いて形成される液晶表示素子は、光分解反応によって耐光性が低下しやすいと推測される。これに対し、シクロブタン環構造を有する重合体(P)と共に光安定剤(H)及び酸失活剤(Q)を含有する液晶配向剤を用いた場合、液晶表示素子の耐光性が改善される結果となった。
【0156】
以上より、重合体(P)、光安定剤(H)、及び酸失活剤(Q)を含有する本開示の液晶配向剤によれば、これら3成分の相乗効果により液晶配向膜の劣化(液晶配向膜の分解等)が抑制され、液晶素子の耐光性を改善できることが分かった。また、本開示の液晶配向剤により形成された液晶配向膜を備える液晶素子は、光ストレス付与後にも高い電圧保持率を示すことが分かった。