(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137003
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】金属製カップの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/28 20060101AFI20220913BHJP
B21D 51/38 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B21D22/28 G
B21D51/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034375
(22)【出願日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2021036396
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】高倉 尽
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA11
4E137CA24
4E137EA40
4E137GA02
4E137GA08
4E137GB17
4E137HA10
(57)【要約】
【課題】広口のカップの開口端部にカール部を周方向に沿って正確に形成する。
【解決手段】底部から開口端部に向けて漸次拡径する筒体を形成する筒体形成工程と、筒体の開口端部の周方向に間隔を空けた複数個所にそれぞれカーリングツールの成形用溝の内面を当接し、前記カーリングツールを缶軸方向に押圧しながら筒体の周方向に旋回させることによりカール部を形成するカール工程とを有し、カーリングツールの成形用溝は、エッジを含む端部を折り返すための断面円弧状の凹円弧面部と、該凹円弧面部における筒体の半径方向内方側の側縁に連続し成形用溝の開口幅を広げる方向に傾斜するテーパ面とを有し、 カール工程では、筒体の開口端を各カーリングツールのテーパ面に当接させて、筒体の開口端部を各カーリングツールのテーパ面に沿ってそれぞれ押し広げた後、凹円弧面部に案内してカール部を形成する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板をプレス成形して金属製カップを製造する方法であって、底部から開口端部に向けて漸次拡径する筒体を形成する筒体形成工程と、前記筒体の開口端部の周方向に間隔を空けた複数個所にそれぞれカーリングツールの成形用溝の内面を当接させ、前記カーリングツールを缶軸方向に押圧しながら前記筒体の周方向に旋回させることにより、前記開口端部のエッジを含む端部を前記成形用溝の内面で折り返してカール部を形成するカール工程とを有し、
前記カーリングツールの前記成形用溝は、前記エッジを含む端部を折り返すための断面円弧状の凹円弧面部と、該凹円弧面部における前記筒体の半径方向内方側の側縁に連続し前記成形用溝の開口幅を広げる方向に傾斜するテーパ面とを有し、
前記カール工程では、前記筒体の前記開口端部を各カーリングツールの前記テーパ面に当接させて、前記筒体の前記開口端部を各カーリングツールの前記テーパ面に沿ってそれぞれ押し広げた後、前記凹円弧面部に案内して前記カール部を形成することを特徴とする金属製カップの製造方法。
【請求項2】
前記カール工程の最後に、前記成形用溝の前記凹円弧面部により丸められた丸め部の内周部を前記テーパ面で押圧することを特徴とする請求項1に記載の金属製カップの製造方法。
【請求項3】
前記筒体形成工程では、前記筒体の前記開口端部に、前記缶軸方向に沿う円筒部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の金属製カップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等からなる金属製カップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の飲料用カップには陶器製、ガラス製、金属製、紙製、プラスチック製等がある。このうち、金属製、紙製、プラスチック製のカップは、陶器製やガラス製と比べて、軽量でスタックしても嵩張りにくいので、持ち運びに優れている。
特許文献1にはテーパ状の金属カップ(金属製カップ)が開示されている。この金属製カップは、アルミニウム製で、プラスチックカップより硬く、耐久性があり、また、リサイクル性に優れていると記載されている。
【0003】
また、この金属製カップを製造する方法として、金属板を抜き及び絞り加工してカップを形成し、そのカップにしごき加工を施すことにより円筒状の垂直壁プリフォームを形成し(DI工程)、その開口端部を丸めてカール部を形成した後、段階的絞り処理により、カール部から底部に向けて、連続的に小さくなる直径及び異なる高さの垂直壁区画を有する垂直絞りカップを形成し、その後、テーパ状の輪郭を有するダイを用いて、垂直壁区画の各々を拡げることにより、各垂直壁区画をテーパ状側壁としたテーパ状カップを形成し、最後に、カップの底に、ドーム部を形成する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、開口端部にカール部を形成する場合、カーリングツールを缶の開口端に缶軸方向に押圧しながら周方向に旋回して成形する。開口端が小径の場合は剛性が高いため成形容易であるが、特許文献1のように広口であると、剛性が低いため、成形時に開口端部が部分的に広がるなどの変形が生じて、所望のカール形状になりにくいという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、広口のカップの開口端部にカール部を周方向に沿って正確に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属板をプレス成形して金属製カップを製造する方法であって、底部から開口端部に向けて漸次拡径する筒体を形成する筒体形成工程と、前記筒体の開口端部の周方向に間隔を空けた複数個所にそれぞれカーリングツールの成形用溝の内面を当接させ、前記カーリングツールを缶軸方向に押圧しながら前記筒体の周方向に旋回させることにより、前記開口端部のエッジを含む端部を前記成形用溝の内面で折り返してカール部を形成するカール工程とを有し、
前記カーリングツールの前記成形用溝は、前記エッジを含む端部を折り返すための断面円弧状の凹円弧面部と、該凹円弧面部における前記筒体の半径方向内方側の側縁に連続し前記成形用溝の開口幅を広げる方向に傾斜するテーパ面とを有し、
前記カール工程では、前記筒体の前記開口端部を各カーリングツールの前記テーパ面に当接させて、前記筒体の前記開口端部を各カーリングツールの前記テーパ面に沿ってそれぞれ押し広げた後、前記凹円弧面部に案内して前記カール部を形成する。
【0008】
広口の筒体を複数個のカーリングツールで成形する場合、カーリングツールが当接した部分で局部的に押し広げられるため、筒体の開口端部は真円でなく、各カーリングツールの当接位置を角部とする多角形状に変形する。例えば、6個のカーリングツールによりカール成形する場合、筒体の開口端部は六角形状に変形する。そこで、その変形の間は凹円弧面部に入り込まないように、まず開口端部のエッジをテーパ面で受けるとともに、変形した状態でもテーパ面に当接した状態を維持し、その状態でさらに押圧することにより、エッジをテーパ面から凹円弧面部に案内して折り返すようにしている。これにより、カール成形時に開口端部が半径方向外方に逃げてしまって成形できない現象の発生を防止し、所望の形状のカール部を形成することができる。
【0009】
本発明の金属製カップの製造方法において、前記カール工程の最後に、前記成形用溝の前記凹円弧面部により丸められた丸め部の内周部を前記テーパ面で押圧するとよい。
これにより、カール部の内周部がテーパ面で押圧された傾斜面に形成され、カール部の剛性が高められ、手で持ったときの広口の筒体の変形を防止することができる。
【0010】
本発明の金属製カップの製造方法において、前記筒体形成工程では、前記筒体の前記開口端部に、前記缶軸方向に沿う円筒部を形成するとよい。
底部から開口端部に向けて漸次拡径する形状を開口端まで連続させた状態の筒体とすると、カール成形工程での変形が大きくなるので、開口端部に円筒部を形成して、その変形強度を高めることにより、カール成形工程でカール部を変形させることなく、より正確に形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広口のカップの開口端部にカール部を周方向に沿って正確に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の製造方法で製造された金属製カップの缶軸を中心に半分を縦断面とした正面図である。
【
図2】絞りしごき工程で得られる筒体の缶軸を中心に半分を縦断面図とした正面図である。
【
図3】下部段部形成工程で加工している状態を示す要部の縦断面図である。
【
図4】段部形成工程で加工している状態を示す要部の縦断面図である。
【
図5】
図4の段部形成工程に続く整形工程で加工している状態を示す要部の縦断面図である。
【
図6】
図5の整形工程に続く段部形成工程で加工している状態を示す要部の縦断面図である。
【
図7】カーリング工程においてカーリングツールで加工している状態を示す断面図である。
【
図9】カーリング工程の開始初期の状態を示す要部の断面図である。
【
図10】カーリング工程でカール部を形成する途中の状態を示す要部の断面図である。
【
図11】カーリング工程でカール部を形成した状態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る金属製カップの製造方法の実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態の製造方法によって製造される金属製カップ1は、
図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板をプレス成形により有底筒状に形成したものであり、底部2の直径より開口端部3の直径が大きく、全体として底部2から開口端部3に向けて漸次拡径するテーパ状の胴部4を有し、開口端部3に、エッジを含む端部を半径方向外方に巻き込んでなるカール部5が形成されている。この金属製カップ1の半径方向の中心を缶軸Cとする。
【0014】
底部2は、凹状に湾曲したドーム部6、その外周縁に連続し、缶軸方向下方に向かうにしたがって漸次拡径する内側テーパ壁部7、内側テーパ壁部7の外周縁に連続し、金属製カップ1をテーブル等に置いたときに接地するリム部8、リム部8の外周端から胴部4の最下端につながるテーパ状の立ち上がり部9を連続させた形状である。ドーム部6は、缶軸C上の位置において、リム部8先端からの距離が最も大きい凹状である。リム部8は、缶軸C周りにリング状に形成され、缶軸Cの下方に向けて凸となる屈曲面に形成され、その最も突出位置が接地部となる。リム部8の屈曲面の最外周端は胴部4の最も径の小さい最下端よりも小径に形成されており、このリム部8の最外周端と胴部4の最下端との間が立ち上がり部9により連結されている。
【0015】
胴部4は、底部2付近と開口端部3付近とに缶軸Cに沿うストレート状の下部円筒部11および上部円筒部12が形成されており、底部2から連続する下部円筒部11の上端に、わずかな範囲で下部段部13が形成されるとともに、カール部5に連続する上部円筒部12の下端にも、わずかな範囲で上部段部14が形成されている。これら下部段部13の上端と上部段部14の下端との間が、下方から上方に向けて漸次直径が大きくなるテーパ筒部15に形成されている。
【0016】
これらの諸寸法は必ずしも限定されるものではないが、例えば、カール部の直径(外径)D1が75mm以上100mm以下、接地部の直径D2が45mm以上60mm以下、全体の高さH1が80mm以上180mm以下、ドーム部6の深さH2が1mm以上15mm以下、下部円筒部11の直径D3が50mm以上70mm以下、上部円筒部12の直径D4が70mm以上95mm以下、底面から下部段部13の下端までの高さH3が8mm以上25mm以下、カール部5の上端から上部段部14の上端までの長さH4が8mm以上20mm以下、水平面に対するテーパ筒部15の角度θが80°以上88°以下に形成される。
【0017】
次に、この金属製カップ1の製造方法について説明する。
この金属製カップ1は、金属板を絞りしごき加工することにより有底円筒状の筒体21を形成する筒体形成工程と、筒体形成工程後に、外径の異なる複数のパンチ40~43を外径の小さい順に用いながら、前記筒体21に開口端部22側から前記パンチ40~43を押し込んで、前記筒体21の胴部23を、底部2側より開口端部22側に向けて徐々に拡径してテーパ状のテーパ状中間筒体50を形成する拡径工程と、この拡径工程により形成されたテーパ状中間筒体50の開口端部にカール部5を形成するカール工程と、を有する工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0018】
[筒体形成工程]
筒体形成工程では、アルミニウム又はアルミニウム合金製の板材を打ち抜いて絞り加工することにより、次工程の筒体21よりも大径で浅いカップ25を形成するカップ形成工程(
図2(a))と、このカップ25に絞り加工及びしごき加工(絞りしごき加工)(
図2(b))を加えて、カップ25より小径で図に示すように所定高さの有底円筒状の筒体21を形成する絞りしごき工程とを有する。この絞りしごき工程では、筒体21の底部2は、金属製カップ1の底部2の最終形状に仕上げられ、ドーム部6、内側テーパ壁部7、リム部8、テーパ状の立ち上がり部9を有している。
【0019】
[拡径工程]
拡径工程は、複数の工程からなり、筒体21の胴部23に底部2側の直径より開口端部22側の直径が大きい段部を形成する段部形成工程と、段部を押し広げながらテーパ面状に整形する整形工程とを、順次繰り返すことにより、
図2(c)に示すテーパ状中間筒体50を形成する。
この場合、筒体21の最下部に下部段部13を形成する下部段部形成工程の後、その下部段部13の若干上方位置に第1段部を形成する第1段部形成工程、その第1段部を整形する第1整形工程、その整形面の上端付近に第2段部を形成する第2段部形成工程、第2段部を整形する第2整形工程、・・・というように、最初の下部段部形成後は、段部形成工程と整形工程とを交互に施工し、一つの段部を形成して、その段部を整形しながら、全体をテーパ状に形成する。例えば、段部形成工程および整形工程を交互にそれぞれ10~30回行う。また、筒体21の最上部においては、最後に上部段部14を形成するための上部段部形成工程を施工し、これにより拡径工程を終了する。
【0020】
以下、その詳細を説明する。なお、この拡径工程においては、筒体21の形状が徐々に変化していくが、拡径工程の最後に形成される筒体をテーパ状中間筒体50とし、それまでの途中の工程で形成される筒体については、筒体形成工程で用いた筒体と同一の符号21を付して説明する。
【0021】
(段部形成工程)
段部形成工程は、
図3~
図6に示すように、直径の異なる複数の段付きパンチ40~42と、2個の下部段部用パンチ43と上部段部用パンチが用いられる(図には直径の異なる3個の段付きパンチ40~42と、1個の下部段部用パンチ43のみ示されている。上部段部用パンチは直径は異なるものの外形は下部段部用パンチと同様であるので、必要に応じて下部段部用パンチ43を参照して説明する)。
【0022】
段付きパンチ40~42は、
図4及び
図6(
図3及び
図5にも二点鎖線で示している)に示すように、ガイド部44と、ガイド部44より大径の成形部45とを連続させた段付き形状に形成されており、ガイド部44を先端側に配置している。ガイド部44は、筒体21内に先行して挿入されるが、このガイド部44では筒体21が成形されることはなく、筒体21との芯合わせのために用いられる。
【0023】
これら段付きパンチ40~42のガイド部44の外周面は、先端側が丸面取り面46に形成され、その丸面取り面46の外周端からほぼストレートの円柱状外面47に形成されている。各段付きパンチ40~42のガイド部44の最大径は、自身の段付きパンチ40~42によって段部が形成される前の筒体21の開口端部の内径よりわずかに小さく形成される。成形部45は、ガイド部44の円柱状外面47から半径方向外方に突出するように凸状湾曲面に形成され、その最大直径がガイド部44の円柱状外面47の直径より大きく形成されている。そして、その成形部45により筒体21の底部2側より開口端部22側の直径が大きい段部51~53(
図3~
図6において、それぞれ成形部位の異なる段部を符号51~53にて示す)が形成される。
【0024】
下部段部用パンチ43は、
図3に示すように、段付きパンチ40~42のようなガイド部44を有しない、成形部48の表面を先端まで延長させ、先端周縁の角部を凸円弧面状に面取りした形状のパンチである。
そして、下部段部用パンチ43は、段付きパンチ40~42のうちの最も直径の小さい段付きパンチ40の成形部45と同じかそれよりわずかに小さい直径に形成され、上部段部用パンチは、整形工程で用いられる整形パンチ61うちの最も直径の大きい整形パンチ61の整形面65の最大直径と同じかそれよりわずかに小さい直径に形成されている(上部段部用パンチの図示は省略するが、その形状については下部段部用パンチ43を代表して示すので、これを参照のこと)とから構成される。
なお、これら下部段部用パンチ43及び上部段部用パンチはガイド部44を有しないので、成形部48の凸状湾曲面48aが先端方向に延びて形成されており、その最小径が、これら下部段部用パンチ43及び上部段部用パンチにより成形される前の筒体21の内径よりそれぞれ小さく形成されている。
【0025】
(整形工程)
整形工程では、段部形成工程で形成した段部52,53を滑らかなテーパ面状に整形する工程である。この整形工程で用いられる整形パンチ61は、
図5に示すように、先端部が丸面取り面62に形成されるとともに、丸面取り面62の後端に先端から後方に向かうにしたがって漸次拡大するテーパ状面63が連続し、そのテーパ状面63の後端面に大きな曲率半径の凸状湾曲面64が形成されている。そして、そのテーパ状面63の途中位置から凸状湾曲面64の前半部分にかけた領域が整形面65とされている。
【0026】
この場合、整形面65は、その先端を符号65aで示したように、段部形成工程で形成された段部52よりも先端方向に十分離れた位置から整形できるように先端方向に長く形成されており、一方、整形面65の後端65bが段部形成工程で形成された段部52,53の若干後方位置まで整形できる長さに形成されている。したがって、この整形面65は、ストレートのテーパ面ではなく、半径方向外方にわずかに膨らむように湾曲した凸状湾曲面64を有するテーパ面である。このような形状とすることにより、段部52,53の前後を含む広い領域を半径方向外方に押し広げたときの弾性回復(スプリングバック)を抑えることができ、筒体21の胴部23を確実にテーパ面に形成することができる。したがって、この整形工程では、段部形成工程で形成した段部52,53の前後の広い領域を滑らかなテーパ状に整形することができる。
【0027】
これら段部形成工程と整形工程とにおいて、まず、胴部4の最も下方に配置されている下部段部13を成形する(
図3、下部段部形成工程)。この下部段部13は、最も直径の小さい段付きパンチ40と下部段部用パンチ43とにより形成され、最初に段付きパンチ40により底部2付近に段部(このときの段部を初期段部とする)51を形成する。この場合、筒体21の底面に近い位置での加工であり、段付きパンチ40で底部2に接近した位置まで加工すると、先に加工した底部2にガイド部44が衝突して変形させるおそれがあるため、底部2に到達しない位置まで段付きパンチ40で加工する。この段付きパンチ40で加工した状態を
図3の二点鎖線で示している。次いで、下部段部用パンチ43を筒体21に嵌合して、この段付きパンチ40で形成した初期段部51の位置を下方に押し下げるように、初期段部51の下方を拡径しながら加工して、下部段部13を形成する。この下部段部用パンチ43は、段付きパンチ40の成形部45と同じかわずかに小さい外径に形成されているため、段部52により拡径された筒体21の胴部23に嵌合され、該胴部23と芯合わせされる。また、この下部段部用パンチ43は、ガイド部44を有していないため、段付きパンチ40よりも底部2近くまで接近させることができる。
なお、この下部段部用パンチ43により形成される下部段部13より下方位置は、下部段部形成工程を含め、拡径工程時にチャック部70により筒体21の外周面が保持される部分であり、テーパ状に形成しないで下部円筒部11をストレートのまま残しておく。
【0028】
次に、二番目に直径の小さい段付きパンチ(便宜的に
図4により説明する)41により、下部段部13(
図4には図示略)の若干上方位置に第1段部52を形成する。このとき、段付きパンチ41のガイド部44が下部段部13の大径部内に挿入して、パンチ41の筒体21への芯合わせがなされる。
【0029】
そして、この第1段部52を形成した後、第1段部52の前後が整形パンチ61によって滑らかなテーパ状に整形される(
図5)。この場合、前述したように整形パンチ61の整形面65がストレートのテーパ面ではなく、半径方向外方にわずかに膨らんだ湾曲面状に形成されているので、前工程で形成された段部52を半径内方から十分に押し広げて、その痕跡を有効に消すことができ、滑らかなテーパ状に形成することができる。
【0030】
そして、この段部形成工程と整形工程とを必要回数繰り返した後、最後に、上部段部用パンチ(図示略)によって筒体21の開口端部22の若干下方位置に上部段部14を形成する(上部段部形成工程)。この上部段部用パンチも下部段部用パンチ43と同様、ガイド部を有しない成形部48のみのパンチである。この上部段部形成パンチは、最も直径の大きい整形パンチ61の整形面65と同じかわずかに小さい直径に形成されているので、それまでに形成した筒体21の開口端部から抵抗なく嵌合して芯合わせされる。そして、整形パンチ61で整形したテーパ面の最上部を加工して、上部段部14を形成する。上部段部14の上方はストレートの円筒状の上部円筒部12´(
図7の二点鎖線参照)となる。
【0031】
この上部段部14を形成した後は上部円筒部12´をストレートのまま残しておくため整形工程を実施しないが、上部段部14を段付きパンチ41,42により形成すると、その前に実施された整形工程で整形したテーパ状部分がガイド部44により変形させられてしまうため、ガイド部44を有しないパンチ(上部段部用パンチ)を用いることにより上部段部14の下方部位を変形させないようにしている。
したがって、この一連の拡径工程によって形成されるテーパ状中間筒体50は、その底部2付近が缶軸Cに沿うストレート状の下部円筒部11に形成され、開口端部22が同じくストレート状の上部円筒部12´に形成される。
【0032】
[カール工程]
拡径工程の後、テーパ状中間筒体50の上部円筒部12´のエッジEを含む端部を径方向の外側に折り返しながら巻回することによりカール部5を形成する。このカール工程では、
図7に示すように、複数のカーリングツール71が用いられる。このカーリングツール71は、缶軸Cに交差する方向に沿う軸C1を中心に回転自在であり、テーパ状中間筒体50の周方向に等間隔で複数設けられている。
図8に示す例では、6個のカーリングツールが設けられており、それぞれの軸C1がテーパ状中間筒体50の缶軸Cに直交し、缶軸Cを中心として放射状に配置されている。
【0033】
各カーリングツール71は、カーリング成形のための成形用溝72が形成されている。この成形用溝72は、カーリングツール71の全周に周方向に連続して形成されており、カーリングツール71が
図8に示す配置であることから、テーパ状中間筒体50の接線方向に沿って配置される。そして、この成形用溝72において、テーパ状中間筒体50の半径方向内側の側面にテーパ状中間筒体50の上部円筒部12´のエッジEを当接させながらテーパ状中間筒体50とカーリングツール71とを缶軸Cを中心として相対回転させることにより、成形用溝72に沿って巻回することにより、エッジEを含む端部を折り返しながらカール部5を形成する。
【0034】
この場合、
図9に示すように、成形用溝72は、断面円弧状の凹円弧面部73と、凹円弧面部73におけるテーパ状中間筒体50の半径方向内方側の側縁に連続し成形用溝72の開口幅を広げる方向に傾斜するテーパ面74と、凹円弧面部73におけるテーパ状中間筒体50の半径方向外方側の側縁に連続し軸C1にほぼ直交する平面部75とを有している。テーパ面74におけるテーパ状中間筒体50の半径方向内側の側縁には凸円弧面状の面取り部76がさらに連続している。
【0035】
そして、このカーリングツール71の成形用溝72の内面をテーパ状中間筒体50の開口端に缶軸C方向に押し付けながら、上部円筒部12´の周囲を旋回させることにより、成形用溝72の内面によって上部円筒部12´のエッジEを含む端部を拡開しながら折り返して、カール部5を形成する。
【0036】
ところで、本実施形態のような広口(カール部5の外径D1が75mm以上100mm以下)のテーパ状中間筒体50を複数個のカーリングツール71で成形する場合、カーリングツール71が当接した部分で局部的に押し広げられるため、テーパ状中間筒体50の開口端部は真円でなく、各カーリングツール71の当接位置を角部とする多角形状に変形する。実施形態のように6個のカーリングツール71によりカール成形する場合、テーパ状中間筒体50の開口端部は六角形状に変形する。
【0037】
胴部に比べて口部が小さい、いわゆるボトル缶の場合は、小径(例えば直径28mm~38mm)の口部の剛性が高いので、カーリングツールで押圧されても、口部の筒形状が変形することは抑制される。このため、カーリングツールを缶軸方向に押圧することにより、比較的容易にカール部を成形できる。
【0038】
本実施形態の広口のカップの場合、各カーリングツール71が開口端部を缶軸方向に押圧した際に開口端部が多角形状に変形するので、その変形の間は成形用溝72の凹円弧面部73に入り込まないように、
図9の実線で示すように、まず開口端部のエッジEをテーパ面74で受ける。そして、缶軸C方向(
図9の矢印A方向)に押圧することにより、テーパ状中間筒体50のエッジEが鎖線で示す位置に矢印Bで示すように変形した状態でも、テーパ面74に当接した状態を維持する。その状態でさらに矢印Aで示すように押圧することにより、エッジEをテーパ面74から凹円弧面部73に案内して丸め、
図10に示すように丸め部80を形成する。
【0039】
さらにカーリングツール71を丸め部80に押しつけながら回動させることにより、丸め部80の一部がテーパ面74で押圧されて内周部に若干の傾斜面81が形成され、カール部5が形成される(
図11参照)。これにより、カール成形時に開口端部が半径方向外方に逃げてしまって(開口端部がカーリングツール71から離れる変形により)成形不良になったり、開口端部にクラックが生じたりする不具合の発生を防止し、所望の形状のカール部5を形成することができる。
このテーパ面74の缶軸C方向と平行な方向(垂直方向)に対する角度γは50°以上80°以下、テーパ状中間筒体50の半径方向に沿うテーパ面74の距離Lは0.1mm以上0.5mm以下が好ましい。
【0040】
なお、このカール工程では、カーリングツール71がテーパ状中間筒体50を缶軸C方向に押圧することになるが、テーパ状中間筒体50の開口端部は缶軸Cに沿うストレートの上部円筒部12´により形成されているとともに、それまでの拡径工程を経たことによる加工硬化の効果も相俟って、座屈や変形が生じにくい。
【0041】
このようにして製造される金属製カップ1は、底部2及び開口端部3付近に若干の長さのストレートの円筒部11,12が形成され、その間の胴部4の大部分が底部2から開口端部3に向けて漸次拡径するテーパ状に形成されている。その製造方法においては、筒体21の底部2側より開口端部22側の直径が大きい段部52,53を形成した後、その段部52,53を押し広げるようにテーパ状に整形するという工程を繰り返すことにより、胴部4の全体を滑らかなテーパ状に形成している。
【0042】
内周側から半径方向外方に金属材料を押し広げる加工となるので、しわが生じにくい。また、最初に段部52,53を形成してからテーパ状に整形しているので、段部52,53を形成せずにテーパ状に加工する場合に比べて割れの発生も少なくなる。このため、滑らかなテーパ状の胴部4を形成することができる。
【0043】
また、この金属製カップ1の底部2は、最初の段階で形成される有底円筒状の筒体21に形成した底部2をそのまま用いており、この底部2より上方部分を拡径加工している。したがって、筒体21を形成する工程(筒体形成工程)は、既存の飲料缶用の設備をそのまま用いて実施することができる。
なお、開口端部3にはカール部5が形成されているため、口触りも滑らかである。カーリングツール71のテーパ面74で押圧されるため、カール部5の内周部に若干の傾斜面81が形成される(
図11参照)。
【0044】
上記実施形態では、カール工程において、6個のカーリングツール71を用いたが、その個数は限定されない。3個以上あればよい。
また、拡径工程において、一つの段部を形成した後、この段部をテーパ面状に整形し、その後、その上方に新たな段部を形成してテーパ面状に整形するというように、段部形成工程と整形工程とを交互に繰り返したが、段部形成工程を複数回実施することにより、缶軸Cに沿って複数個の段部を形成した後、これら段部を底部側から1個ずつ順次整形することとしてもよい。また、2個以上の段部をまとめて整形することも可能である。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0045】
C 缶軸
1 金属製カップ
2 底部
3 開口端部
4 胴部
5 カール部
6 ドーム部
7 内側テーパ壁部
8 リム部
9 立ち上がり部
11 下部円筒部
12 上部円筒部
13 下部段部
14 上部段部
15 テーパ筒部
21 筒体
25 カップ
41,42 段付きパンチ
43 段無しパンチ(下部段部用パンチ)
44 ガイド部
45 成形部
47 円柱状外面
48 成形部
48a 凸状湾曲面
50 テーパ状中間筒体
51 段部(初期段部)
52,53 段部
61 整形パンチ
63 テーパ状面
64 凸状湾曲面
65 整形面
70 チャック部
71 カーリングツール
72 成形用溝
73 円弧面溝部
74 テーパ面部
75 面取り部
80 丸め部
81 傾斜面