(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137021
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】マイクロレーザ粒子のシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/06 20060101AFI20220913BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220913BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220913BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220913BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01S3/06
H01S3/00 A
G01N21/64 F
C12M1/00 A
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092672
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2018562936の分割
【原出願日】2017-06-05
(31)【優先権主張番号】62/345,070
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ユン ソク ヒョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生物学的な細胞及び組織のようなサンプルに埋め込まれ移植され又は注入され得る小型レーザに関する。
【解決手段】フォトニック粒子および生物学的サンプルにおいて粒子を使用する方法が開示される。粒子は、例えばポンプ源によってエネルギー的に刺激されたときにレーザー光を放出するように構成される。粒子は、無機材料を含む利得媒体、高屈折率を有する光学キャビティ、及び有機材料を含むコーティングを含み得る。粒子は、それらの最長軸に沿って3ミクロンより小さくあり得る。粒子は互いに結合して、例えば二重線および三重線を形成してもよい。ポンピングしながら注入ビームを粒子に結合することによって粒子を注入ロックすることができ、その結果、注入シードが増幅されてレーザ発振に発展する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギ的に励起されると光を放出するように構成されたフォトニック粒子であって、
1つ又は複数の半導体を有する1つ又は複数の無機材料を含む利得媒質と、
2より大きい屈折率を有する光学キャビティであって、該光学キャビティ内に配置され、
前記利得媒質及び光学キャビティが半導体ディスクレーザを構成する、光学キャビティと、
前記半導体ディスクレーザをカプセル化するSiO2パッシベーション層と、
実質的に前記光学キャビティの全てを覆う生体適合性ポリマーコーティングと、を備え、
前記粒子がエネルギ的に励起されたときにコヒーレント光を放出するために、前記粒子が生体サンプル内に配置されるように構成され、
前記粒子は、その最長軸に沿って3マイクロメートル以下の3次元形状を有する、
フォトニック粒子。
【請求項2】
前記光学キャビティが少なくとも3.5の屈折率を有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記光学キャビティのキャビティモードによって画定される1つ又は複数の狭帯域ピークを有するスペクトルを含む光を放出するように構成された、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
各ピークのスペクトル幅が1nmよりも大きくない、請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
前記粒子が量子井戸マイクロディスクレーザである、請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
前記粒子がウィスパリングギャラリモードを支持する、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
前記利得媒質が1つまたは複数の半導体を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
前記光学キャビティが1つ又は複数の誘電体材料を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項9】
前記光学キャビティが1つ又は複数の金属を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項10】
前記生体適合性ポリマーコーティングが生物学的に不活性である、請求項1に記載の粒子。
【請求項11】
前記生体適合性ポリマーコーティングが前記生体サンプル内で化学的に結合するように構成される、請求項1に記載の粒子。
【請求項12】
前記生体適合性ポリマーコーティングが誘電性シェルである、請求項1に記載の粒子。
【請求項13】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1つ又は複数のポリマを含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項14】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1つ又は複数のペプチドを含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項15】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1種以上のタンパク質を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項16】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1つ又は複数の抗体を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項17】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1つ又は複数の核酸を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項18】
前記生体適合性ポリマーコーティングが1つ又は複数の薬学的に活性な薬剤を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項19】
前記生体適合性ポリマーコーティングが実質的に前記光学キャビティの全てを覆う、請求項1に記載の粒子。
【請求項20】
前記光学キャビティの往復長さが前記利得媒質内の十分に多数の能動利得素子を支え、前記光学キャビティの光損失が十分に低く、その結果、前記フォトニック粒子がレーザ発振を維持する、請求項1に記載の粒子。
【請求項21】
光学的に刺激されたときにレーザ光を生成するように構成された、請求項1に記載の粒子。
【請求項22】
請求項1に記載の粒子の2つ以上の粒子のセットであって、各粒子は、前記光学キャビティのキャビティモードによって画定される1つ又は複数の狭帯域ピークを有するスペクトルを含む光を放出するように構成され、前記粒子のレージング波長が互いに異なっている、2つ以上の粒子のセット。
【請求項23】
レージング波長の差が前記レージングピークのスペクトル幅に実質的に等しいか又はそれより大きい、請求項22に記載の2つ以上の粒子のセット。
【請求項24】
請求項1に記載の粒子の2つ以上の粒子のセットであって、各粒子は、前記光学キャビティのキャビティモードによって画定される1つの狭帯域ピークを有するスペクトルを含む光を放出するように構成され、前記粒子のレージング波長は、前記レージングピークの前記スペクトル幅内で実質的に同一である、2つ以上の粒子のセット。
【請求項25】
請求項1に記載の粒子の2つ以上の粒子のセットであって、各粒子は、前記光学キャビティのキャビティモードによって画定される1つ又は複数の狭帯域ピークを有するスペクトルを含む光を放出するように構成され、前記粒子のレージング波長は実質的に同一である、2つ以上の粒子のセット。
【請求項26】
請求項1に記載の粒子の2つ以上の粒子のセットであって、互いに付着している少なくとも2つの粒子を含む、2つ以上の粒子のセット。
【請求項27】
各粒子は、前記光学キャビティのキャビティモードによって画定される1つの狭帯域ピークを有するスペクトルを含む光を放出するように構成され、前記粒子のレージング波長は互いに実質的に異なる、請求項26に記載の2つ以上の粒子のセット。
【請求項28】
生体サンプル内でレーザ光を放出する方法であって、
エネルギが励起又は刺激されたときにレーザ光を放出するように構成された1つ又は複数のフォトニック粒子を前記生体サンプルに配置するステップ、を含み、
前記1つ又は複数のフォトニック粒子が、
1つ又は複数の半導体を有する1つ又は複数の無機材料を含む利得媒質と、
前記光学キャビティ内に配置され2より大きい屈折率を有する光学キャビティと、
前記半導体ディスクレーザをカプセル化するSiO2パッシベーション層と、
実質的に前記光学キャビティの全てを覆う生体適合性ポリマーコーティングと、を備え、
前記1つ又は複数のフォトニック粒子それぞれは、その最長軸に沿って3マイクロメートル以下の3次元形状を有する、
レーザ光を放出する方法。
【請求項29】
光源を使用して前記フォトニック粒子を光学的に励起又は刺激するステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ポンプ光源を使用して前記生体サンプルの外側から前記フォトニック粒子に励起光を放出して、前記フォトニック粒子を励起し前記レーザ光を放出させるステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記生体サンプルが生物である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
本出願は、2016年6月3日に出願された「Laser Micro-Particles(レーザマイクロ粒子)」と題された米国仮出願第62/345,070号に基づきこれの優先権を主張しこれを全体として本明細書に援用する。上記仮特許出願に引用されている参考文献も参照により本明細書で援用される。
【0002】
[連邦支援研究に関する声明]
本発明は、国立科学財団によって授与されたECCS-1505569及び国立衛生研究所によって授与されたDP1-db024242の下での政府の支援によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本出願は、一般的に、生物学的な細胞及び組織のようなサンプルに埋め込まれ移植され又は注入され得る小型レーザに関する発明に関し、より詳細には、有機及び無機材料で作られた光学的に励起可能なレーザ粒子、レーザ粒子の製作/機能化/送達/画像化、並びに、超並列画像化、センサ及びアッセイへのプローブとしての使用、に関する。
【背景技術】
【0004】
色素、蛍光タンパク質、量子ドットなどの蛍光プローブは、生物医学的画像化、細胞選別、免疫組織学、ハイ・スループット・スクリーニング、及び他の多くの生化学測定において不可欠なツールとなっている。これらの発光プローブは非常に有用であるが、典型的には30~100nmの比較的広い発光スペクトルは、曖昧さを伴わずに同時に使用されるプローブの数を制限し、しばしばそのスペクトルは組織内の内因性分子のバックグラウンド発光と区別できなくなる。従来の蛍光顕微鏡は、3~4色素を分解するために装備されており、最先端のサイトメトリは11チャネルに限定されている。多重化する4つの異なる色素は、16(=24)の組み合わせを与えることができる。Brainbow及び
RGBマーキングのように、細胞内の青色、緑色及び赤色蛍光タンパク質を異なる比率でコードする3つの遺伝子の同時発現は、数百の色を生成することができる。しかし、トランスフェクションは確率論的であり、カラー読み取りの忠実度はノイズを生じ易い。今日まで、画像化のための蛍光色の数は、1ダース以下に制限されていた。
【0005】
分子内の電子レベルが量子力学的に広がるので、より狭い発光線幅の蛍光体を設計することは基本的に困難である。不規則な形状及び熱力学的変動は半導体量子ドットからの発光のスペクトル拡大に帰した。金属ナノ粒子におけるプラズモン電子振動の減衰は、50~100nmを超える放出幅に帰した。これらの電子共鳴と比較すると、光学共鳴は狭放出ラインを生成する効果的なアプローチを提供する。レーザがその素晴らしい例である。フルオロフォア及び半導体材料を光学キャビティ内に配置することにより、非常に狭いスペクトル線を生成することができる。単一周波数レーザの出力は、波長100万分の1ナノメートルであり、キャビティ共振を変化させることによって利得幅全体にわたって調整可能である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、少なくとも1つの利得媒質と少なくとも1つの光学キャビティとを含み、その最大寸法が好ましい実施形態では実質的に3μmより大きくない、又は他の好ましい実施形態では2μmより大きくない例示的の光粒子を提供する。利得媒質は、蛍光体及び電子-正孔対などの十分な数の利得要素を含み、キャビティは十分に低い光損失なので、利得媒質が十分に強い強度レベルでポンプ光によって励起又は刺激されると、利得素子は、
キャビティの光共振モードによって定義されるスペクトル特性を示す光を放出する。粒子は、量子井戸構造、球形、又はマルチレイヤブラッグ反射器のような適切な形状及び構造を有する半導体材料で作ることができる。あるいは、粒子は、蛍光利得分子、高屈折率誘電体共振器、及び潜在的に金属で構成されてもよい。
【0007】
例示的なレーザ粒子は、1つ又は複数のピークを有する出力放出スペクトルを有し、好ましい実施形態では5nmより狭い、他の好ましい実施形態では典型的には1nm未満又は0.3nm未満の各線幅を有する。ピークは、主に、粒子中の光学キャビティの共鳴に
よって決定される。出力スペクトルの中心波長は、例えば400~1900nmの可視及び近IR範囲全体をカバーすることができる。
【0008】
一態様では、本開示は、レーザ粒子を励起するための少なくとも1つのポンプ光源と、少なくとも1つの検出装置とを備える光学システムを提供する。検出配置は、回折付与及びダイクロイックフィルタなどのスペクトル分解要素を含む。ポンプ源は、100fs~10nsの範囲のパルス幅を有するパルスレーザを含む。
【0009】
レーザ粒子のための特定の好ましい実施形態には、量子井戸マイクロディスクレーザ、スタンドアローンの面発光ブラッグ反射器半導体レーザ、半導体球体が含まれ、全て500nm~3μmの範囲の直径又は長さを有する。
【0010】
本開示の前述の利点及び他の利点は、以下の説明から明らかになるであろう。この説明では、本明細書の一部を形成し、本開示の好ましい実施形態を例示として示す添付の図面を参照する。そのような実施形態は、必ずしも本開示の全範囲を表すものではなく、従って、本開示の範囲を解釈するため本明細書では特許請求の範囲を参照する。
【0011】
本開示の前述の及び他の態様及び利点は、以下の説明から明らかになるであろう。この説明では、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照し1つ又は複数の例示的なバージョンを例示として示す。これらの態様は必ずしも本発明の全範囲を表すものではない。
【0012】
以下では、添付の図面を参照して本開示を説明し、同様の参照番号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】レーザが生物学的システムの外部に置かれているレーザの従来のユーティリティの図である。
【
図2】レーザ粒子の生物医学的使用を説明する図である。小さな生体適合性のレーザ粒子がシステム内に注入され、そのようなレーザは、画像化、診断、及び治療において新しいアプローチを可能にし、生体系との双方向相互作用を可能にする。拡張された概念として、生体サンプルをレーザに組み込んでサンプルの変化をレーザの出力放出に反映させることができる。さらに、レーザは、完全に生物学的なものから作られて、自己駆動、動作、及び維持される「生きた」レーザを実現することができる。
【
図3A】レーザ粒子の励起された利得媒質からの蛍光発光を示す図である。赤い矢印は蛍光光を示す。
【
図3B】レーザ粒子を形成する際に光学キャビティ内に位置する
図3Aに示されている利得媒質を示す図である。
【
図3C】
図3Bに示されたキャビティ内の利得媒質からの自発的及び刺激された光放出を示す図である。キャビティ内の赤い線はキャビティ内キャビティモードを表す。
【
図3D】エネルギレベル又はバンドの2つのグループを有する利得要素(黄色の円)の例示的なエネルギ図である。ポンピングは素子をより高い電子状態に励起し、そこから利得素子が基底状態に緩和し自然放出又は誘導放出のいずれかを放出する。この図には2つの電子状態が描かれているが、電子状態の各帯域内の非放出遷移を考慮すると、この利得媒質は準4レベルシステムを形成する。
【
図4A】β=0.01に対する定常状態におけるレーザモードの出力速度Piと自然放出Pfを数値的に計算したものである。レーザ出力は閾値付近で非線形に増加する。閾値の鋭さはβが減少するにつれて増加する。定常状態(a)に対する数値計算。β=0.01に対する定常状態におけるレーザモードの出力速度P
1と自然放出P
f。レーザ出力は閾値付近で非線形に増加し、閾値の鋭さはβが減少するにつれて増加する。
【
図4B】利得要素の数を示す図であり、以下の式(2)によれば、N
1=P
thτ
s・q/(1+q)、又は式(5)から等価的にN
1=P
fτ
s・/(1-β)として表わされる。
【
図5A】ポンプ持続時間20nsの数値シミュレーションを示す図である。シミュレーションパラメータは、τ
s=3ns、τ
c=30ps、β=0.01、及びP
th=3.54×10
12s
-1であった。パルスレートは、式(11)に従って閾値レートの2倍に設定される。
【
図5B】ポンプ持続時間100psに対する数値シミュレーションを示す図である。シミュレーションパラメータは、τ
s=3ns、τ
c=30ps、β=0.01、及びP
th=3.54×10
12s
-1であった。パルスレートは、式(11)に従って閾値レートの2倍に設定される。
【
図6A】色素レーザの分子エネルギレベルに関連し、フルオロフォア色素のフランク-コンドン原理エネルギ線図である。電子の遷移は核の動きと比較して非常に速いので、同じ核座標の振動レベル間で遷移が起こる。
【
図6B】有機蛍光色素分子の吸収(点線)及び自然蛍光(実線)スペクトルを示す図である。
【
図6C】示されたポンプ波長及び信号波長についての4レベルエネルギ準位図を示す図である。
【
図7A】GFPの化学構造を示す蛍光タンパク質に関する図である。フルオロフォア(挿入物)は、βバレル内で保護され、環境に対する安定性などの多くの望ましい特性を提供する。
【
図7B】異なる濃度のeGFP水溶液(□)及び固体eGFPの薄膜(40mM、■)の蛍光強度を示す図である。合成ピロメテン染料(○)の蛍光。すべてのデータはサンプルの厚さに正規化され励起欠乏が補正をされた。黒い点線:低濃度で線形適合(濃度消光無し)、緑色及びピンク色の線:それぞれeGFPのフォースター型クエンチモデル、及びピロメテン色素の凝集誘発型クエンチモデル。
【
図8A】直接半導体格子のためのキャリアのポテンシャルエネルギ及び運動量を関連付けるエネルギモーメント図(又はE-k線図)である。ポンピングによって伝導帯に電子が励起されると価電子帯に正孔が形成される。
【
図8B】伝導帯における自由電子と価電子帯における正孔との再結合による誘導放出を示す図である。
【
図9A】端反射を有するファブリペローキャビティの形態のスタンドアローンレーザ粒子のための光共振器を示す図である。
【
図9B】ディスク状、リング状、球状のウィスパリング・ギャラリ・モード(WGM)共振器をそれぞれ示す図である。
【
図9C】線形、平面、及び放出状の格子構造をそれぞれ有するフォトニック結晶共振器を示す図である。
【
図9D】散乱粒子のクラスタによって形成されるランダムマイクロ共振器を示す図である。
【
図10A】ホタル・ルシフェラーゼ-ルシフェリンが化学的に開始された電子交換ルミネセンス(CIEEL)反応を示す図である。
【
図10B】アルカリホスファターゼ(AP)-クロロ-5-置換アダマンティ-1,2-ジオキセタンリン酸(CSPD)CIEEL反応を示す図である。
【
図10C】ペルオキシキサレート-色素CIEEL反応を示す図である。ここで、ペルオキシシュウ酸塩としては、ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)シュウ酸塩、9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)が挙げられる。
【
図10D】ペルオキシダーゼ-ルミノールCIEEL反応を示す図である。
【
図11】レーザ粒子のパルス動作中の熱力学的プロセスを示す図である。
【
図12】緩和時間τ、異なる時間における温度分布(左)、r=0.5
*Rでの球内部の温度の時間プロファイル(中央)、及びパルス繰返し周期の関数として100ポンプパルス後の累積温度上昇(右)における、半径Rの球に対する温度プロファイルを示す図である。
【
図13】生物発光マイクロ共振器を示す。ルシフェリンがビーズの表面に付着したルシフェラーゼと反応すると、光を発生しその一部はウィスパリングギャラリーのキャビティモードに結合する(左)。ルシフェラーゼで被覆されたビーズからの発光が示されている(中央)。光学モードは放出された光のスペクトルにおいて明瞭に観察される(右)。
【
図14】レーザ粒子からの誘導放出を検出することによる高分解能光学切片化の原理を示す図である。左上には、密集した光ポンプビーム(灰色)によって励起される小型レーザ粒子(円)がある。異なるモダリティの比較:明視野画像化(右上);2光子顕微鏡(左下);レーザ粒子刺激発光(LASE)顕微鏡(右下)。
【
図15】セットアップの概略図である。L1、L2、L3:球面レンズ、λ/2:1/2波長板、CL:シリンドリカルレンズ、DM:ダイクロイックミラー、M:ミラー、Obj:対物レンズ(NA=0.8、水浸漬)、LF:ロングパスフィルタ、BS:ビームスプリッタ。SEM:典型的なヨウ化鉛ペロブスカイト・ナノワイヤの走査型電子顕微鏡像。挿入図(左から右へ):閾値未満のペロブスカイトナノワイヤの典型的な蛍光画像、ナノワイヤの閾値を超える刺激発光画像、及び電荷結合素子カメラに記録されたポンプビームプロファイル。
【
図16A】ペロブスカイト・ナノワイヤからの典型的なレーザ出力スペクトル(円)を示す図である。曲線:蛍光バックグラウンド(灰色)及び測定されたスペクトルから蛍光バックグラウンドを差し引いて計算された誘導放出レーザ出力スペクトル(マゼンタ)に対する曲線の当嵌め。
【
図16B】ポンプパルスエネルギ強度レベルの関数として測定された誘導放出出力パワー(四角形)を示す。線:式(6)に基づく曲線の当嵌め。挿入図:ログログスケールで同じプロット。
【
図16C】p(=P/P
th)<1(緑色の破線)での蛍光バックグラウンド、及び、それぞれp=1(金)、p=1.8(シアン)での刺激発光に対するナノワイヤの3つのポンプビーム走査プロファイルを示す図である。
【
図16D】レーザ発光プロファイル(青色の円)及び蛍光プロファイル(緑色の円)の測定されたFWHM値を示す。破線の曲線:シミュレーション結果。
【
図17A】1つ又は複数の実施形態に従って、レーザ粒子からレーザ放出を測定しそれによってレーザ粒子を識別し位置特定する例示的な超スペクトル顕微鏡を示す図である。
【
図17B】1つ又は複数の実施形態による、超スペクトル撮像及びマルチフォトン撮像を組み合わせた例示的なマルチモード顕微鏡を示す図である。
【
図18A】注入同期ドレーザ粒子の原理と応用を示す図で、ポンピング中に注入ビームがレーザ粒子に結合するのを注入同期が要求し、その結果、注入シードが増幅されレーザ発振に発展するの示す。
【
図18B】注入同期レーザ出力を示す図で、射出シード光のないフリーランニングモード出力の出力スペクトルとは通常異なる。注入同期出力は、射出ビームに対して高い程度のコヒーレンシーを有する。コヒーレンスは、射出レーザの出力との干渉によってレーザ出力が検出されることを可能にする。
【
図18C】生体組織などの散乱媒質に埋め込まれたレーザ粒子からの狭帯域光によって導かれる波面整形の概略図である。
【
図19A】1つ又は複数の実施態様による、制御された様式でレーザ粒子を細胞に装填するための例示的なマイクロ流体チップの概略図である。
【
図19B】1つ又は複数の実施形態による、各セル内のレーザ粒子を読み取るための装置を示す図である。選別装置を追加してレーザ発光スペクトルの読み出しに応じてセルをソートすることもできる。
【
図20】1つ又は複数の実施形態による、特定の細胞表面マーカーを標的とする発光プローブとしてのレーザ粒子に基づくフローサイトメトリの例示的な概略図である。
【
図21A】1つ又は複数の実装形態による、左側の例示的な近赤外InGaAsPマイクロレーザ(部分的に除去された犠牲ピラー上の200nm×1.8μm)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像;1つ又は複数の実装形態による、単一ウェーハから多数のレーザ粒子を生成する実現可能性を示す、部分エッチング後の例示的なマイクロレーザウェーハ;約5pJ(10ns、λ
P= 980nm)の閾値ポンプエネルギ(右)を用いて、水中及び空気中の200nm×1.8μmディスクからの出力スペクトルを示す。右のパネルでは、線幅はゲイン帯域幅のわずか1/1000である。熱分析は、1つ又は複数の実施形態に従って、10μm
2で堆積された10nJまでのエネルギによる無視できる加熱を予測する。
【
図21B】1つ又は複数の実施態様による、3つのInAlGaAs量子井戸層のあるマイクロディスクレーザの走査電子顕微鏡写真;イオンビームエッチング後、電子線リソグラフィー及び(左);部分ウエットエッチングの後、ピラーを残す(中央);完全エッチング(右)の後を示す。表示された分離されたディスクレーザ粒子(右)の厚さは200nmであり、直径は約2.3μmである。
【
図21C】1つ又は複数の実施形態による、プラスチック製の皿上の分離したディスクから左にレーザを照射する様子を示す。右側には、1つ又は複数の実施形態による、ネズミの耳の皮膚(厚さ約500μm)を通して収集された別のディスクレーザからの出力スペクトルが提供される。
【
図22A】1つ又は複数の実施形態による、異なるスペクトルバーコードフィーチャを有するレーザ粒子を生成する方法を示す。上部には、徐々に変化する直径を有するマイクロディスクレーザが示され、下部には、サイズによって明確に異なるレーザモード波長が示されている。
【
図22B】電子ビームリソグラフィによって異なるディスク直径に対して製造された様々な半導体マイクロディスクを示す。
【
図23】1つ又は複数の実施形態による、4つの異なる半導体ウェハから作製された512個のレーザディスク粒子の出力波長のヒストグラムを示し、色によって異なる合金組成を示す。ビンサイズは1nmである。
【
図24A】生体適合性及び目標とされる送達の戦略を達成するためのレーザ粒子の表面処理の好ましい実施形態、及び半導体ディスクレーザ(左)とパッシベーション層(例えばSiO
2)を用いたカプセル化(右)を示す。
【
図24B】ポリマ被覆(例えば、ポリ(エチレングリコール))(左)及び任意の機能性分子の付着(右)を示す。
【
図24C】リポソームビヒクル(左)及び標的化リポソームビヒクル(右)を用いた、全身送達のためのレーザ粒子のリポソーム封入の概略図を示す。
【
図25】1つ又は複数の実施形態による、異なる厚さのシリカ層で被覆された実施例2のマイクロディスクのSEM画像を提供する。
【
図26】1つ又は複数の実施形態による、例示的なレーザ粒子を含むセルの光学画像を提供する。GFP発現細胞の明視野及び蛍光画像が示されている。レーザディスクは、第1列の表示面に沿ってほぼ平坦であり、第2列の表示面から傾斜している。第3列では、顕微鏡画像内の輝点はその領域に集束されたポンプレーザビームによるものである。
【
図27】例示的な実施形態におけるセル内の例示的なレーザディスク粒子からのレーザ出力の特性を示す。左上には、ポンプエネルギの関数としての測定光子の数が示されている。曲線のねじれは、約20pJの閾値ポンプエネルギでのレーザ発振の開始を示す。右上には、約1時間の時間間隔で測定された3つのレーザ粒子L1、L2、及びL3からの出力スペクトルが示されている。左下には、3つのセルからの測定スペクトルの半値全幅(FWHM)が、それぞれのレーザ閾値に正規化されたポンプエネルギ準位の関数として示されている。右下には、異なる細胞にロードされてから1日後に測定された10種類の細胞内レーザディスク粒子からの出力スペクトルが示されている。
【
図28】1つ又は複数の実施形態による、レーザ粒子(四角形)の波長分割多重化に基づくセルタギング及びトラッキングの原理を示す。異なる数のレーザ及びその出力レーザラインを含むセルが示されている。単一のレーザ粒子(S;1重項)、二粒子に重鎖(D;2重項)、及び見え孔(T)の組み合わせの数が示されている。括弧内の数字は、セルあたりの要素の数mに対応する。セル(円)は、レーザプローブを追跡することによって、それらの分割によってトレースされる。
【
図29A】1つ又は複数の実装形態による、ダブレット及びトリプレット粒子を構築するための例示的なプロセスを示す図で、レーザ粒子の2つのアレイの結合を示している。
【
図29B】ダブレット粒子上に生体適合性被覆を有する2つのダブレット粒子(左2つの略図を示す)及び光学的に絶縁性のスペーサ(右2つの概略図)としてのビーズをそれぞれ示す。ダブレットが、アセンブリによって又は多層ウエハから直接生成され、生体適合性ポリマのような材料でさらに被覆されている。
【
図29C】1つ又は複数の実施形態による、異なる直径及び異なる出力波長(右)を有する3つのレーザからなるトリプレットレーザ粒子の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明は説明した特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。 本明細書で使用する用語は、特定の実施形態のみを説明するため
のものであり限定することを意図するものではないことも理解されたい。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り複数の実施形態を含む。
【0015】
すでに説明した以外の多くの追加の変更が本発明の概念から逸脱することなく可能であることは当業者に明らかである。全ての用語は本開示を解釈する際に文脈と一致する最も広い可能な方法で解釈されるべきである。「備える」という用語の変形は、要素、構成要素、又はステップを非排他的な方法で参照するものとして解釈されるべきであり、従って、参照される要素、構成要素又はステップは、明示的にではない他の要素、構成要素、ステップと組み合わされてよい。ある要素を「備える」と言及された実施形態はそれらの要素から「本質的になる」及び「なる」とも考えられる。
【0016】
図1に示すように、生物医学的応用においてサンプルを特徴付け又は操作するために光を使用する標準的なパラダイムはいくつかの実用的及び概念的制限を生じさせる。例えば、生体組織内を伝播するときに光は散乱及び吸収されるため、可視及び近赤外領域で1/eの浸透深さは3mm以下である。これにより、光学的浸透を超えて組織に光が届くことが困難になり光の臨床的有用性が制限される。また、レーザを単に発行体として使用する場合、光源と生体システムとの間の相互作用は一方向であり、レーザはサンプルに影響しその逆は無い。
【0017】
生体適合性があり、細胞(又はより小さい)の大きさに小型化されたレーザは、ある持続時間の間体内に移植されるか又は組織に注入され、遠隔操作されることによって生体システム内で使用され得る。この新しいパラダイムには、光源を物理的にターゲットに届けることが含まれる。
図2を参照すると、このようなレーザ「粒子」は内部光源として役立
ち、侵入深さのような外部光の送達に使用されるレーザの実用上の問題の少なくとも一部を解決し、光線療法に光を使用する新しい方法を可能にする。さらに、組織に埋め込まれたレーザ粒子は、それらの局所環境と様々な方法で相互作用し、双方向相互作用を可能にすることができる。レーザ光は生物医学的環境に影響を及ぼすだけでなく、生体システムがレーザに影響を及ぼしその出力特性を変化させる可能性がある。この能力は診断及び健康モニタリングを改善するために利用され得る。
【0018】
レーザは、利得媒質、キャビティ、及びポンプエネルギ源の3つの要素で構成される。誘導放出を生成するためには、利得媒質中の光増幅が不可欠である。十分な利得と長さの伝搬長を持つ増幅器は、増幅された自然放出を生成することができる。このプロセスはスペクトル狭窄のようなレーザのような特性を有する出力を生成することができるが、レーザの狭い画定はキャビティによる光フィードバックを必要とする。キャビティは光の閉込めと共鳴を作る。
【0019】
光又は光キャビティに加えて、ポラリトン及びプラズモンなどの準粒子のための他のタイプのキャビティを使用して、レーザを可能にすることができる。励起子ポラリトンに基づくポラリトンレーザは、「非フォトニック」レーザの代表例である。ポラリトンレーザのメカニズムは、ポラリトンのボーズ-アインシュタイン凝縮で典型的に説明される。放出線又は「スパイサ」の誘導放出による表面プラズモン増幅は、一般に自由電子又はプラズモン共鳴のための金属キャビティを含む。
【0020】
固体結晶中に組み立てられた水溶液又は半導体原子中の色素分子のような能動利得要素を含む利得媒質を考える。
図3Aは利得媒質を示し、利得要素は、励起レーザのような励起源によってより高いエネルギ状態に励起され励起状態から元の基底状態に戻って蛍光を放出する。また、
図3B及び3Cでは、今度は同じ利得媒質が光キャビティ内に配置され、Pの速度でポンピングすると蛍光光の一部がキャビティ内に捕捉されキャビティ内光が誘導放出によって増幅される。十分なシングルパス利得と利得媒質を通る十分な通過があればキャビティ内光はレーザ放出に発展する。自発的な蛍光放出は全方向に放出されるが、レーザ発光はキャビティによって決定される特定の強度パターンでキャビティを出る。しかし、光学波長に匹敵するサイズの小さなキャビティの場合、出力結合における指向性はそれほど顕著ではなく、レーザは自然放出及び誘導放出の両方の点源のように振る舞う。
【0021】
図3Dは、蛍光体、半導体中の電子、又は結晶中のイオンなどの利得要素の電子状態のエネルギ図を用いた利得媒質中のポンピング及び放出プロセスを示す。利得要素は、最初は基底状態に配置され、基底状態は、通常、離散的又は連続的な多くの振動状態から構成される。ポンプエネルギを吸収する利得要素は、励起状態に励起され、次に、非放出内バンド遷移を介して励起状態の低エネルギレベルで蓄積され、次いで、キャビティ光子と相互作用すると自然放出又は誘導放出のいずれかを受ける。
【0022】
このタイプの4レベル利得媒質におけるレーザ粒子を記述する単純化された速度方程式は、以下のように書くことができる。
【0023】
【0024】
ここで、Nl(t)は利得媒質中の励起された蛍光体の数であり、q(t)はレーザキャビティモードにおける光子の数、P(t)はポンプ速度、τsは利得分子の自然放出(蛍光)寿命、及びβはレーザモードによって捕捉された自然放出の割合を表す自然放出係数、1/τsはすべての周波数及び方向におけるすべての可能な放出モードの自然放出速度に対応する。従って、β/τsはレーザモードに結合した自然放出の割合を表す。刺激された遷移速度はキャビティモードの数に比例し、光子の数を掛けたキャビティモードの自然遷移速度:βNl(t)q(t)/τsにも等しい。
【0025】
光ポンピングの場合、ポンプ速度は次のように表すことができる。
【0026】
【0027】
ここで、QYは、1つの吸収光子が自然放出又は誘導放出のいずれかを介して1つの光子を生成する確率を指定する量子収率であり、σ
aは利得要素の吸収断面積であり、Ng
(t)は基底状態の利得要素の数である。
図3Dの状況を含むほとんどの場合、Ng(t)とN
l(t)の和は利得要素N
tot(t)の総数に等しく、これは一定でも時間的にも変化することもできる。
【0028】
式(3)において、ポンプ光の強度は空間不変であると仮定した。この仮定は、ポンプビームのサイズよりもはるかに小さいサイズのレーザ粒子に対して有効である。不均一なポンプを有するより大きいレーザの場合、ポンプ速度は、ピークポンプ電力のみによって決定されるだけでなくポンプ強度プロファイルとレーザモードプロファイルとの間の重複によっても決定される。
【0029】
キャビティモードPl/(t)び自発的蛍光放出Pf/(t)の出力放出率は次式で与えられる。
【0030】
【0031】
ここで、ql(t)及びqf(t)はそれぞれレーザモード及び蛍光発光の放出光子の
数である。P(t)=Pl(t)+Pf(t)であり、光子の数の保存を表す(P(t)
の定義によって与えられる)。
【0032】
定常状態(t>>τs):
レーザが定常状態にあるとき(即ちdN1/dt=dql/dt=0)には次式を得る。
【0033】
【0034】
【0035】
また、
図4A及び
図4Bは、ポンプ速度の関数として刺激された自発放出速度のプロットを示す。グラフから、P
thはレーザモードの閾値におけるポンプ速度に対応することが明らかである。
【0036】
レーザ発振は利得要素の「リサイクル」速度を高める。レーザの閾値以下では、励起飽和に至らない限り、励起された元素N
lの数はポンプ速度とともに直線的に増加し、即ちN
lはN
totに匹敵するようになる(
図4B)。閾値を超えると、ポンプ速度に関係なく
N
lが一定レベルにクランプされるので、光学利得はキャビティ損失と等しくなり、即ちレーザの正味利得は1である。ポンプが増加するにつれてキャビティ内の光の強度が増加し、刺激された放出の割合も増加する。このプロセスは、励起された利得要素を増加した速度で基底状態にする。この改善された緩和速度はポンプ速度と均衡し、励起状態における一定数の利得要素と一定の光学利得をもたらす。その結果、励起状態の有効寿命はポンプ速度が閾値を超えて増加するにつれて減少する。
【0037】
過渡的な蓄積状態:
支配方程式(1)及び(2)は、レーザ発振のダイナミクスを記述する。レーザモードの構築に必要な条件はdq(t)/dt>0(t=0;q=0にて)、この条件から励起状態の利得要素の最小数が次の式を満足する。
【0038】
【0039】
ポンプエネルギが均一な速度でτpの持続時間に亘って提供される状況を検討する。q
=0(閾値以下)及び方形プロファイルポンプパルスの場合、式(1)は次のとおりである。
【0040】
【0041】
式(9)で閾値条件に達するのに必要とされるポンプ速度は次式で表される。
【0042】
【0043】
準連続的ポンピング(τp>τs)の場合、式(8):Pth=(βτc)-1を確認でき、
レージング閾値におけるポンプ出力はパルス持続時間とは無関係であり、閾値パルスエネルギはパルス持続時間に比例する。一方、短パルスポンピング(τp<τs)の場合、Pth=(βτc)-1・τs/τpとなる。ポンプ出力はパルス幅が減少するにつれて増加し、閾
値ポンプエネルギPthτpはポンプパルス持続時間とは無関係である。
【0044】
また、
図5A及び5Bは、2つのレジームの数値結果を示す。
図5Aでτ
p>τ
sであり、
図5Bでτ
p<τ
sであり、ここでτ
s=3ns、τ
c=30psである。まず、τ
p=2
0nsの場合、t=0でのポンピングの開始に続いて、励起された利得要素の数N
l及び
蛍光放出速度P
fが増加する(
図5A)。最初のオーバーシュート及び急速なリンギング
は緩和振動として知られ、これは方形パルスには典型的であるがガウスパルスではあまり顕著ではない。t>τ
sでレーザは定常状態に達する。このシミュレーションではポンプ
速度は式(11)に従って閾値の2倍に設定された。t=20nsでポンピングが終了した後、蛍光放出はτ
s=3nsに等しい緩和時間で指数関数的に減衰するが、誘導放出は
τ
c=30psのキャビティライフタイムで指数関数的に減少する。τ
p=100psの短
いポンプパルスを使用すると、短いレーザパルスが生成される(
図5B)。出力パルス持続時間は緩和振動のピーク幅と同じオーダーである。励起状態の利得要素の数は、ポンプパルスの終点でピークに達し、レーザパルスが放出されると急速に減衰し、閾値レベルを一旦下回ると指数関数的減衰が続く。
【0045】
式(9)において、レーザにおける励起された利得要素の最小数はτs/(βτc)より大きくなければならない。容積Vを有する利得媒質中のこの多くの要素を有するためには、絶対最小濃度はτs/(βτcV)より大きい。例えば、τs=3ns、τc=300fs、及びβ=0.05の場合、利得媒質は少なくとも2×105の利得要素を有するべきである。V=10μm2の場合、理論上の最小濃度は330nMであり、V=1μm2の場合、330μMよりもはるかに高い濃度が必要である。実際には、ほとんどのレーザは、ポンプエネルギの有限吸収のためにNlよりもはるかに大きなNtotを必要とする(以下でさらに論じる)。従って、利得要素の最小濃度は上記で推定されるものよりも1桁又は2桁高い。
【0046】
半導体レーザ及び固体レーザは色素レーザよりもコンパクトで維持が容易である。しかしながら、生物医学的レーザ粒子の場合、蛍光色素は利得材料として重要且つ実行可能な選択肢である。改良された輝度及び光安定性並びに初期のレーザ色素よりも最適化された生体感受性、を有する様々な蛍光色素は、蛍光ベースのバイオ画像化及び生化学アッセイに使用され得る。
【0047】
図6Aは、分子構造における原子分離の関数として典型的なフルオロフォア分子の電子及び振動エネルギレベルを示す。ポンプ光子を吸収すると、分子は最も高いエネルギ占有分子軌道又はHOMOバンドの基底状態(g)から、最も低いエネルギの非占有分子軌道又はLUMOバンドの励起状態(l’)への電子遷移を受ける。最初に励起された電子は、非放出(振動)緩和によってLUMOの最低エネルギ準位(l)に移動し、そこから電子がHOMOの基底状態(g’)に減衰し、光を放出する。このエネルギダイアグラムは任意の分子に一般に適用され、それには単離された蛍光色素、溶液中の蛍光プローブ(色素が互いに弱く相互作用するように低濃度で)、及びタンパク質構造内の保護されたフルオロフォアユニット(即ち蛍光タンパク質)が含まれる。
【0048】
図6Bは、フルオロフォアの典型的な吸収及び発光スペクトルを示す。吸収スペクトルと発光スペクトルは部分的に重なっており、このことは
図6Aのエネルギ線図から理解することができる。この例では、青色光(λ≒430~490nm)でポンピングした場合、分子はレーザ操作に有効な4レベルシステムを形成するものの蛍光発光はごくわずかである。4レベルシステムは、グランドレベル、g;ポンプレベル、l’;準安定な上部レーザレベル、l;より低いレーザレベル、g’(
図6C)で構成される。この上部状態の寿命τ
sは通常、大部分の有機分子では1~10nsであるが、急冷又はフォルスター共鳴エネルギ移動(FRET)などの外部摂動によって短くすることができる。上方レーザレベルから下方レーザレベルへの移行は自然放出又は誘導放出のいずれかによって行うことができる。
【0049】
典型的な色素分子のピーク吸光係数(ε)は、10,000~100,000M-1cm-1の範囲である。例えば、ε=56,000M-1cm-1及び蛍光0.6のQYの分子を考
察する。利得媒質中の分子の半分が与えられた時間に上方に励起されれば、16,800M-1cm-1までの誘導放出(利得)を得ることができた(信号誘起利得消耗を無視する)。1cm長さのキュベットの内部に1μMの濃度でこれらの分子の溶液を100.00168=1.039;即ち、光強度は3.9%又は0.168dBだけ増幅されるシングルパス光学利得を生成することができる。直径10μmの細胞質中に1mMの濃度で分子を含有する単一の哺乳動物細胞によって、同じ量のシングルパスゲインが達成される。
【0050】
蛍光タンパク質は蛍光を発することができるタンパク質である。緑色蛍光タンパク質(GFP)はオワンクラゲ(Aequorea victoria)に最初に見つかったタイプである。生物医学における蛍光タンパク質に人気が高まっていて、様々な生物からの新しい野生型タンパク質の発見、及び改善された蛍光特性を有する突然変異体の開発へと繋がる。クラゲ(eGFP、mCFP、eYFPなど)、サンゴ礁(DsRed、tdTomoto)、バブルチップアネモネ(TurboRFP)からいくつかの効率的な蛍光タンパク質が得られている。FPは、高いQY及び大きな吸収及び放出断面積を有し、典型的な蛍光色素に匹敵する又はそれより優れており、生物学的レーザの利得媒質としての使用に適している可能性がある。FPの最もユニークで有意な利点は小分子有機染料と比較してそれらが遺伝的にコードされ得ることである。これにより、遺伝的標的化によってFPを特定の標的細胞型で発現させることが可能になる。FPのこの性質はFPに基づくレーザ粒子の適用のための遺伝的特異性を獲得物質として達成するために使用され得る。
【0051】
図7Aを参照すると、FPは中心にフルオロフォアを有する共通の缶型円筒形状を有する。GFPは、実際のフルオロフォアである4-(p-ヒドロキシベンジリデン)-イミ
ダゾリジン-5-ワンを分子の中心に取り囲む11本の規則的なβ-バレルを有する。GFPの蛍光がその放出構造にSer-Tyr-Gly配列を必須とするので、β-缶構造はGFPの蛍光に必須である。独特の保護分子シェルは蛍光の濃度消光を防止する。GFPは明るいままである。これは、高濃度で急冷することによって高濃度で蛍光を失う小さな合成蛍光染料とは対照的である(
図7B参照)。高濃度でのGFPの低クエンチは、乾燥した増強GFPフィルムに対して96dBcm
-1の非常に高い利得係数をもたらした。
【0052】
無機半導体はレーザの利得材料として使用することができる。半導体は充填された価電子帯及び空の伝導帯を有する結晶又は非晶質の固体である。半導体は、バンドエネルギギャップEgが典型的に4eV未満であり、その結果、いくつかの電子が光又は熱励起によって空の伝導帯に遷移することができ、材料に不純物をドープして電子特性を変えることができるという点で絶縁体とは異なる。最もよく知られている半導体材料は結晶性無機固体である。これらは、シリコン(Si)及びゲルマニウム(Ge)などの第IV族材料、GaAs及びInPなどのIII-V化合物、AlGaAs及びInGaAsPなどのそれらの合金、並びにCdS及びZnOなどのII-VI化合物を含む。TiO2などの酸化物、MoS2やWS2などの2次元2次元(2D)遷移金属ジカルコゲナイドも半導体である。レーザ作用は効率的な放出プロセスに依存するので、シリコン及びゲルマニウムのような間接ギャップ材料は適切ではなく、直接ギャップIII-V及びII-VI化合物半導体が好ましい。
【0053】
これらのシステムにおけるレーザ作用の物理学について、
図8A及び8Bが直接バンドギャップを有する真性半導体材料の単純なエネルギ線図を示す。価電子帯はポンピングなしで完全に充填されるので、この半導体レーザは3レベルレーザシステムと同様に動作する。材料内の正味の利得を得るためには、励起状態の有限母集団が必要であり、そのような条件に達するキャリア密度は透明度集団と呼ばれ、典型的には10
18cm
-3のオーダーである。これらの材料中の光子の誘導発光は、自由電荷キャリア(即ち、伝導帯の電子と価電子帯の正孔)の放出再結合に由来する。
【0054】
有限利得を達成するために反転分布は必要である一方、反転を伴わないレーザの方式も存在する。導電性及び価電子帯の電子状態の数は、キャリアの状態密度、ρcから容易に
算出される。
【0055】
【0056】
バルク(3D)半導体の場合、m*はキャリアの有効質量である。バルク半導体の伝導
帯を体積Vで充填するための電子数Nlは、Ecを超えたエネルギΔEまで次の式で与え
られる。
【0057】
【0058】
例えば、バルクGaAsの場合、実効電子質量はm
e
*=0.61×10
-31kgであり
、T=0K、ΔE=0.1eVとすると、電子濃度の点で4.15mMであるクエンチを
伴わない有機蛍光体の最高密度に匹敵するN
l/V=2.5×10
18エレクトロン/cm
3となる(
図7B参照)。半導体は実際には1μm当たり~1%の非常に大きな利得を達成することができる。
【0059】
半導体はバンド端よりも短いすべての波長で光を効率的に吸収する。吸収係数(α、自然対数の底)はバンドギャップのすぐ上の光周波数において約104cm-1である。発光
寿命の放出寿命τs(電子-正孔の組み合わせ)は正孔の集団密度及び放出再結合係数B
(B≒10-10cm-3s-1)にほぼ比例しおおよそ次式の通りである。
【0060】
【0061】
レージング時の典型的な個体群密度(Nl/V≒1018-1019cm-3)について、放出寿命は1~10nsであり色素の蛍光寿命と同じオーダーである。
【0062】
以前の半導体レーザはp-nホモ接合の界面領域で得られた反転分布を利用していた。実際の活性領域は、少数キャリアの拡散により、比較的厚く(約1μm)、高い閾値のポンプエネルギを必要とする。より効率的な設計はダブルヘテロ構造であり、活性領域はより低いバンドギャップ及びより高い屈折率を有する異なる半導体の薄い層(約100nm)として区切られる。このアーキテクチャでは、電荷キャリアが薄い活性層内に閉じ込められ分布密度が増加する。より高いN
lは<<100nmの大きさにさらに電荷を閉じ込めることによって達成することができ、そこで量子効果が支配的になり、例えば1次元で閉じ込められた量子井戸(QW)、2D閉じ込めを伴う量子細線、及び3D閉込めの量子ドット(QD)である。QWの状態密度は
【数15】
に修正される。
【0063】
半導体の利得スペクトル範囲は、化合物の化学量論を調節し機械的応力を誘発することによってある程度調整することができる。AlGaAsの場合には720~850nm、InGaAsの場合には900~1100nmの発光スペクトルは、組織における光の透過のための光学窓とよく一致するため生物医学的用途に関連する。可視領域での発光のために、InGaAlP系が赤色(630-700nm)で働き、青緑色領域(400-530nm)ではIII族窒化物(GaN及びInGaNなど)が一般的に使用される。
【0064】
半導体材料は最終デバイスがリソグラフィプロセスによって製造されるウェーハ上のエピタキシャルプロセスを介して成長させることができる。ナノスケールの無機半導体は溶液中の化学合成によってコロイドナノ結晶の形態で成長させることもできる。種々のコロイド状ナノ結晶は、主にバイオ画像化及びバイオセンシングのための蛍光タグとして生物学的用途に広く使用されている。ナノスケールの寸法における高い量子閉込めのために、バンドギャップ、従って放出波長は粒子のサイズを制御することによって容易に調整することができる。典型的なナノクリスタルはコアが発光材料である球形コア/シェル量子ドットの形状であり、シェルは通常、表面欠陥からの非発光再結合を低減するためのパッシベーション層として働く。さらに、コア/シェル構造はこれらの材料で光学利得を得るために重要であることが示されている。ロッド又は分枝状ナノ結晶のようなより複雑な形状も開発されており、放出遷移の寿命、制御された分極及び多重放出バンドの利点がある。
【0065】
有機半導体は、蛍光性小分子、オリゴマ又はポリマを組み込んだ凝縮状態で非常に高濃度で形成され、個々の元素が結合され、集合的に非局在化電子を有するπ-共役系を形成する。π-共役系はそれらに目に見える強い電子遷移と電荷を伝導する能力を与える。有機半導体の典型的な構造は、中央共役主鎖から構成され、例えば、溶解性を改善するためのアルキル鎖のような分子に特定の官能基を付与するように調整することができる側基で装飾された主な光電子特性を決定する。有機半導体は、特に高分子共役ポリマの場合には、通常、かなり広い利得スペクトルを有し、材料を変えずに発光の微調整を可能にする。これらの材料からのレーザ光は一般に可視範囲で生じる。近IRにおけるバンドギャップを有する共役ポリマは一般に効率的な発光放出を有さない。
【0066】
有機材料のレーザ照射は単一励起の発光再結合を伴う。励起子の寿命は数百ピコ秒からナノ秒である。蛍光色素やタンパク質の場合と同様に、この短い寿命はレーザ閾値に達するために高いポンプ速度を必要とし、有機半導体レーザはパルス領域でのみ実証されている。有機半導体は結晶性無機半導体に比べて電荷移動度が低く、ポーラロン(電子-フォノン結合電荷キャリア)は吸収が大きく高キャリア密度で高い損失をもたらす。これらの理由から、有機半導体の電気ポンピングはこれまで成功していない。
【0067】
有機半導体の安定性は、生物学的環境における使用のために考慮すべき重要な要素である。これらの物質は、通常、酸素と水との物理化学的相互作用に非常に敏感で、電荷輸送及び蛍光発光の両方に特に有害であり得る。それにもかかわらず、有機半導体は、生物学的環境におけるレーザ粒子にとって潜在的に魅力的ないくつかの特性を提供する。その1つは、その有機組成、より従順な機械的性質、及び細胞に優しい表面粗さにより、無機材料と比較して一般に優れた生体適合性である。いくつかの有機材料は、イオン伝導及び電子伝導の両方を可能にし、電気信号がイオン移動によって一般に伝達される生物組織とのインターフェースに適している。さらに、有機材料は特定の検体に感応する官能基で化学的に調整することができる。蛍光変調及び共役材料からのレーザ放出に基づく化学的及び生物学的検知が報告されている。
【0068】
透明な固体ホストに不純物として含まれる希土類又は遷移金属のイオンは、レーザ用に十分に確立された利得要素である。1960年にT.H. Maimanによって示された
最初のレーザは、Al2O3結晶にCr3+イオンをドープしたルビーを使用した。ホスト材料は、酸化物結晶(例えば、Al2O3及びY3Al5O12又はYAG)、フッ化結晶(YLiF4又はYLF)、ガラス(SiO2又はシリカ)、又はポリマ(ポリスチレン)である。結晶質ホストと比較して、アモルファス材料はより容易にミクロンサイズに製造することができ、典型的には結晶よりも高い光減衰及び耐熱性が小さなレーザにとって望ましい。利得要素に使用される最も一般的なドーパントイオンは、三価ランタニドネオジム(Nd3+)、エルビウム(Er3+)、及びイッテルビウム(Yr3+)、並びに遷移金属チタン(Ti3+)、クロム(Cr2+、Cr3+、Cr4+)である。それらは通常、レーザ作用を支援することができる複数の電子遷移を有し、それらの放出特性も特定のホスト材料に依存する。ほとんどの場合、レーザ発振は0.9~1.6μmの近IR領域にあるが、短波長(694nmのルビーのような)及びそれより長い(Er:YAGの2.9μmのような)波長のあるシステムも存在する。イオンドープされた固体レーザの共通の特徴は、上部から基底状態への電子遷移がはるかに弱く、緩和時間τsが10msのオーダーでかなり長くなることである。長い緩和時間は連続操作に適している。
【0069】
長い寿命を考えると、希土類はポンプ光子よりも高いエネルギで放出を生成するアップ
コンバージョンに適している。このプロセスには、2つの光子を順番に吸収して電子を準安定状態にし、次にそこで電子が基底状態まで減衰して励起光子エネルギの約2倍の単一光子を放出する励起状態にすることが含まれる。中間状態が長い寿命を有するので、プロセスは非常に効率的である。アップコンバージョンは、中間状態(及び最終的なアッパー状態)がわずか数フェムト秒の寿命を有する仮想状態である典型的な非線形2光子吸収とは異なるので、高いピークを有する超高速パルスのみで効率的な励起を達成することができる。詳細な光物理学的経路は他の場所で広く検討されている。アップコンバージョンに基づく最初のレーザは1971年に実証され、このプロセスは近IRポンピングを使用して可視発光を得ることができるので、特に発光ナノ粒子のような生物医学的用途に顕著な興味を引いた。この材料は近IR励起光の主な利点を有するレーザ粒子にとって魅力的な候補であり、組織内で可視光線よりも深い侵入深さを有しより有害ではない。
【0070】
光共振器、即ちレーザキャビティは、位相コヒーレント光フィードバックを提供し、利得媒質中の再生増幅を可能にする。利得媒質を含む様々な光学素子をレーザキャビティに組み込んで、キャビティ内光の光学特性及び出力レーザ特性を制御及び調整することができる。
【0071】
キャビティモードは、キャビティ内で共鳴振動することができる特定の空間(横)及びスペクトル(縦)光波である。横モードは、光学振動の軸に平行な寸法に沿ったキャビティの形状及びサイズによって決定される。縦モードは、1つの往復伝播で蓄積された全光学位相が2πの整数倍に等しいことを満たす周波数成分のセットである。この共鳴条件は次式で表わされる。
【0072】
【0073】
ここで、lは正の整数であり、νlは第1縦共振モードの光周波数であり、Lcはキャ
ビティの往復長(例えば、線形キャビティの長さの2倍又はリングキャビティの半径の2π倍)であり、nは周波数がνlである第1モードの(実効)屈折率である。最小lが1であるので、共振器の最小の長さスケールは共振器の実効屈折率nで割った自由空間波長λに等しい。
【0074】
高いnは小さいLcを可能にするので、小さなレーザにとって有益である。従って、半
導体材料は共振器(及び利得媒質)を実現するのに魅力的な材料である。金属で作られたプラズモニックポラリトン共振器は、別の魅力的なアプローチで、キャビティ内に閉じ込められた自由電子のプラズモン集団運動と光の結合によって屈折率の実数部が増強されるということを利用する。
【0075】
キャビティモードの数はキャビティの体積に比例する。キャビティサイズが光波長に匹敵するようになると、放出モードの総数が減少し自然放出係数βは減少する(式1参照)。βが1に近づくと、吸収されたポンプエネルギの大部分がキャビティモードに移行する。極端な場合、サイズが光波長の半分未満である場合、モードの数は1になり既知の状況は「閾値のない」レーザを生じる。
【0076】
光キャビティは利得媒質中の利得素子の自然放出率にキャビティモードへの結合を介して影響を及ぼす可能性がある。パルセル効果と呼ばれる閉込めモードの自発的な減衰速度が向上するのは、マイクロ及びナノスケールのレーザにおいて有利になる可能性のある要
因である。
【0077】
サイズが光真空波長λに匹敵するか又はそれよりも小さい場合、レーザは点光源に類似して動作し広い立体角にわたって光を放出する。それで、レーザ出力のいわゆる「指向性」はそれほど顕著にならない。サイズが可能な最小サイズに近づくにつれて(即ち、Lc=λ/n)、キャビティから放出されたレーザ出力は全方向に放出される。単一分子からの蛍光と同様にレーザ出力はあらゆる方向に放出される。しかし、方向性を高めるために、非対称性などのいくつかの付加的な特徴をレーザキャビティに組み込むことができる。
【0078】
幾何学的形状及び光共振軸の観点から、レーザキャビティは様々なタイプに分類することができる。例を
図9A~Dに示す。
【0079】
キャビティ寿命率τcは、キャビティ損失率の逆数であり、キャビティのQファクタに関係し、これは次式で定義される。
【0080】
【0081】
ここでνは光周波数である。異なるキャビティモードは、異なるキャビティ損失を経験することがあり、従って、異なるQファクタを有する。小さなキャビティでは、キャビティ寿命は通常、自然放出の光学寿命τsよりもはるかに短い。例えば、λ=532nmの場合、Qファクタが106である場合にはτc=0.28nsであり、Qファクタが103である場合にはτc=280fsである。
【0082】
式(8)から、閾値ポンプ速度はQファクタに反比例する。
【0083】
【0084】
受動キャビティのスペクトル線幅(閾値以下)は次式で与えられる。
【0085】
【0086】
閾値を超えると、キャビティ損失が利得によって補償されるので、レーザモードの線幅を減少させることができる。Schawlow and Townesの限界によれば、レーザ線幅の基本的
な限界は次式の通りである。
【0087】
【0088】
実際には、レーザ線幅を広げるためにいくつかの要因が寄与する。レーザ動作中の熱加熱は、キャビティの屈折率neffを変化させ、線幅の広がりをもたらす。キャリア誘導屈
折率変調は、半導体レーザでは重要な線幅拡大因子である。
【0089】
一般に、パルス励起は連続波励起よりも広いスペクトル幅をもたらす。共振器の温度及び屈折率の変調は、時間とともにレーザ発振モードの共振周波数を増減させ出力スペクトルを広げる。レーザ蓄積中の緩和振動は変調を高める。パルス方式で動作する小型レーザでは、実際のレーザスペクトル幅は式(18)の理論上の限界より数桁大きい場合がある。キャビティQは、これらの多くの実用的なケースではレーザの線幅の直接決定要因ではないもののレーザ発振閾値(式17)に到達することが重要である。
【0090】
R1とR2の反射率を有し、距離L(Lc/2)で分離された一対の平面又は球面鏡によ
って形成される線形又は同心の共振器を考える。キャビティ寿命は次のように表される。
【0091】
【0092】
ここで、nはキャビティ内の媒質の屈折率であり、ηはキャビティ内の吸収損失又は散乱損失のために起こりうるパス当たりの端数内部損失である。
【0093】
n=1.6の屈折率を有する媒質で満たされファブリーペロー共振器(
図9A)を考え
てみると、λ=600nmで発光するための蛍光色素を含有し、R
1,2(1-η)=0.
98にて銀鏡を有する。式(16)から、L=3.2λ/n=1.2μmのときに、Q=1,000が得られる。最小共振器はL=λ/2nによって与えられる。n=1.6とR
1,2=0.98に対して375nmのこの最小長のキャビティについては、Q=155.5とΔν
cavity=3.86nmを得る。
【0094】
フォトニック結晶キャビティは周期構造と欠陥を有する。欠陥にレーザ利得を有し十分に高いQファクタを有することにより、レーザ発振が達成される。周期構造は1D、2Dまたは3Dのいずれかであることができる(
図9C)。1D及び2Dフォトニック結晶の場合、他の次元の光閉込めは全内部反射によって達成される。線状格子構造を有するレーザには、分布帰還型レーザ(DFBs)及び垂直共振器面発光レーザ(VCSELs)が含まれる。2Dレーザは、通常、内部バンドギャップ構造を有する薄いスラブ上に実装される。3Dフォトニック結晶レーザは製造することはより困難であるが、成功したレーザが報告されている。液晶の自己組織化を用いて直径15μmの放出状ブラッグマイクロキャビティレーザ(3D物体上の1D周期性)が実証された。出力放出部は放出状であり全方向に均一である。
【0095】
それぞれ屈折率n1及びn2を有する2つの交互する四分の一波長の材料からなるm個の二重層の周期的なスラブを考える。ブラッグ波長λBは、次式で与えらえる。
【0096】
【0097】
ここでΛは二重層構造の周期性である。ブラッグ波長での反射率は、
【数23】
である。例えば、n
1=3.5の半導体材料の少なくとも4つの二重層及びn
2=1.33
の低屈折率の中間層が、99%の反射率を達成するために必要である。光学キャビティの各側の2つのこのようなスタックは約1.6μmに等しい全厚(8Λ)を有する。これは
細胞内で使用するのに十分小さいであろう。
【0098】
ウィスパリング・ギャラリ・モード(WGMs)は、球、トロイド、シリンダ、リングなどの円形形状の共振器で支持されている(
図9A-B)。周囲の媒質の屈折率よりも屈折率が大きくなければならないので、モードが外部界面での全内部反射によってキャビティ内に閉じ込められキャビティを循環させる。キャビティ内光の光学場は、キャビティから瞬間に拡張することができる。このエバネセント場は、利得媒質がキャビティの外に物理的に配置されることを可能にし、周囲の環境中の分子を感知するなどの特定の用途において重要である。
【0099】
WGMsは、放出モード番号q、極モード番号l、方位角モード番号m、及び偏波pによって指定することができる。球の場合、WGMsの周波数は、次の漸近展開を使用して近似することができる。
【0100】
【0101】
ここでn1は球の反射インデックス、n2は周囲媒質のインデックス、TEモードでχ=
1、TMモードで(=n2/n1、aは球の半径、αqはエアリ関数の負のq番目のゼロ(-2.3381、-4.0879...)である。上記の式は、さらに2πn1a/λ=lに近似することができ、これは式(15)に一致し、ここで、Lc=2πaである。
【0102】
WGM共振器のサイズが光波長に近づくと、そのQファクタは放出(曲率)損失によって制限される。
【0103】
【0104】
ここで、
【数26】
で、n
r=n
1/n
2は相対屈折率であり、TEモードでk=0、TMモードでk=1であ
る。数mMの典型的な有機蛍光色素とナノ秒ポンピングを含む球体では、レージングを達成するのに必要な最小Qファクタは~10,000である。上記の式から、以下の近似式
が得られる。
【0105】
【0106】
所与のQファクタに関しては、共振器のサイズを小さくするためには高いn1が必要で
ある。例えば、λ=0.6μmで細胞質内(n2=1.37)に2a<1μmでQ=104を達成するためには、共振器材料はn1>2.61でなければならない。
【0107】
誘電体材料で作られたキャビティでは、光エネルギが光波長と等しいか又はそれより長さスケールでフォトニックモードで保存される。例えば、サブ波長誘電体共振器上に薄い金属層を被覆することにより、より良好な閉込めを金属で達成することができる。この構成は、純粋に反射キャビティモードとプラズモンベースの共振モードの2つの異なるタイプの共振モードをサポートすることができる。
【0108】
第1の場合、キャビティ内エネルギは誘電キャビティの場合と同様に光波に蓄積される。金属層は金属面での高反射によってキャビティ内のモードを閉じ込めるミラーとして機能する。反射面によって提供される効率的な閉込めは光波長の大きさの次元についても高いQファクタを可能にする。
【0109】
第2のタイプのモードは、金属-誘電体界面で生じるプラズモン効果に基づいている。キャビティ内エネルギは、誘電体媒質と金属との間の界面に強く閉じ込められたプラズモニックモードで保存され、光波長よりもはるかに短い波長を有する。従って、光波長よりもはるかに小さいキャビティでプラズモンモード共鳴を達成することができる。プラズモニックモードは、一般に、長距離表面プラズモンポラリトン(LR-SPP’s)及び局在表面プラズモン(LSP’s)に分けられる。
【0110】
長距離ポラリトンは、金属と誘電体材料との間の界面に沿って伝播する電磁波である。それらは、表面に垂直な方向に瞬間閉じ込められる。典型的な構造には、金属/絶縁体/半導体/絶縁体/金属導波路及び金属-絶縁体/半導体ナノワイヤが含まれる。プラズモンモードは、主に絶縁領域内に1次元又は2次元に閉じ込められるが、キャビティは構造の端面によって伝播方向に沿って(少なくとも)数波長のオーダーで区切られる。しかしながら、電磁モードと金属中の電子との強力な結合は、プラズモンモードの本質的なより高い抵抗型(オーム)損失をもたらし、従って最小化することが困難であることに留意すべきである。従って、それらのQファクタはフォトニックモードに基づく同様の構造よりも低い。レージングはこれまで極低温でしか達成されていない。
【0111】
局在したプラズモンは、強烈な電磁場と結合することによる金属ナノ粒子の表面での電子の集合振動である。表面プラズモンは共鳴電気双極子として作用し、共鳴周波数はナノ粒子の形状及び金属及び周囲の誘電媒質の誘電率によって決定される。プラズモニックレーザは金属ナノ球体に色素ドープ誘電体シェルを被覆することによって実証されている。色素を光ポンピングすると、光エネルギはFRETを介して金属コアのスペクトル整合プラズモン共鳴に容易に移行する。表面プラズモンの励起は、色素からプラズモンモードへの放出の増大した結合を刺激する強い局所的場を生成する。このフィードバック機構は、放出線の誘導放出による表面プラズモン増幅と呼ばれ、この機構に基づいて作動する装置はスパイサとして知られている。
【0112】
いくつかの実験的観察にもかかわらずスパイサを安定した実現することは、Qファクタ値及び金属加熱が低いことやナノスケールの体積における利得要素の数が限られているので困難であった。例えば、40nmの球は、2mM(1.2×1018cm-3)の高濃度で
もわずか40個の色素分子しか含めない。今日まで、単一の粒子レベルでのスパイサの実験的実現についての説得力のある証拠は報告されていない。実験的に実証された全ての腐食材は基材を含めて数μmを超える寸法を有する。
【0113】
これまで説明した従来のキャビティは明確な光共振経路を提供する。ランダムレーザの場合、光は多重散乱によって無秩序な媒質中の利得領域に閉じ込められる(
図9D)。この媒質では、輸送平均自由経路l
tは光の伝播方向がランダム化された後の距離で定義さ
れ、lgは光が増幅される距離として定義される利得長さである(即ち4.34dB)。散乱媒質は十分な利得及び散乱フィードバックを有するように臨界最小体積を有するべきである。この条件から、ランダムレーザL
cの最小サイズは次式で与えられる。
【0114】
【0115】
例えば、散乱体としてTiO2ナノ粒子及び利得色素としてローダミン6Gを含む媒質
を考慮する。5.6×1010cm-3の高濃度で直径200nmのTiO2ナノ粒子はlt=
35μmを有する。10mMの高濃度でのローダミン6G溶液の増幅長さは約10μmである。このようなランダムレーザキャビティは、Lc≒10μmの臨界サイズを提供する
。即ち、強い励起光で10×10×10μm3よりも大きな体積を照射すると、原則的に
レーザ放出が生成される。典型的な皮膚組織はlt=50μmであり、10mMのローダ
ミン6Gを組織に投与するとLc=13μmとなる。
【0116】
ランダムレーザの発光スペクトルは、通常、異なる強度を有する不規則な波長にいくつかの狭帯域ピークを含む。出力放出の空間プロファイルはスペックルパターンに類似して非常に複雑である。レーザスペクトル及び空間プロファイルは原則的に散乱体の特定の分布から決定論的である。しかしながら、複数の散乱体からの散乱光を分析することは困難である。それにもかかわらず、散乱媒質へのレーザ出力の感度は感知に有用であり得る。
【0117】
レーザが動作して光を生成するためには何らかの形のエネルギが供給される必要がある。利得媒質によって吸収される入力エネルギは、利得媒質中で反転分布を生成し、キャビティにおける損失を克服するのに十分な増幅を生成するのに十分でなければならない。レーザ粒子を励起するにはいくつかの方法がある。光ポンピングは、最も便利な方法を提供し、レーザ粒子が光で容易にアクセスできる状況に適し、例えば、培養中の細胞中に置かれたか又は浅い深さの組織に移植されたレーザ粒子がある。
【0118】
電流注入は従来の半導体レーザを駆動するための確立された方法である。半導体粒子が生体系に埋め込まれている場合、電気ポンピングが可能であるが、正味の利得を生み出すために半導体媒質に十分な電流及び電圧を引き出す巧妙な方法が必要である。無線電気エネルギ伝達は1つの選択肢で、動物に埋め込まれたミリメートルサイズの発光ダイオード(LED)を駆動することができることが示された。装置がさらに小型化されるにつれて、対応するアンテナが小さくなり効率的な無線伝送に必要な共振周波数が増加する。サイズがミクロン又はサブミクロンのスケールに近づくと、最適な周波数範囲が光周波数に近づく。これにより、無線ポンピングが光ポンピングと同等になる。ここでは、さまざまなポンプ方式の基本について説明する。さらに、生きている系から引き出されたバイオエネルギを使用してレーザ粒子を操作するといった、まだわかりにくくも潜在的な励起性について論じる。
【0119】
光ポンピングは、レーザ粒子を操作するためのエネルギを提供するのに便利な方法である。εを利得媒質の吸収係数とする。これは吸収断面積σa、即ちε=ln(10)-1σa
Ng/V(式(3)参照)に関連している。レーザ粒子によって吸収される吸収効率ηabs又は入射ポンプエネルギの割合は、粒子の直径2aのほぼε倍によって決定される。
【0120】
【0121】
ここでνpはポンプ光の光周波数である。例えば、65,000M-1cm-1のモル吸光
係数を有する蛍光色素を考える。1mMの濃度の色素を含む増幅媒質はε=65cm-1を有する。厚さ10μmの色素のフィルムはポンプビームの14%を吸収することができる(ηabs=0.86)。
【0122】
半導体の吸収はキャリア密度ρcに比例する。直接バンドギャップを有するバルク半導
体の吸収係数はε=A(νp/νg-1)0.5として表わされ、ほとんどのバルク半導体に
おいてA=104-105cm-1で、νgはバンドギャップ周波数である。例えば、εは、
νp/νg=1.2におけるGaAs(hνg=1.42eV)に対して1.5×104c
m-1である。250nmの厚さを有する薄いGaAsスラブはポンプエネルギの58%を吸収することができる(ηabs=10-1.5×0.25=0.42)。
【0123】
エネルギがEpのビーム径を有するポンプパルスを考える。吸収されたエネルギは次にEabs=ηabsEp*ηareaによって与えられ、ここで、オーバーラップパラメータηarea
は、レーザ粒子のサイズのビームサイズとの比に等しく、ビームサイズが利得媒質のサイズよりも小さい場合には1になる。全吸収エネルギの一部は自然放出及び誘導放出によって光の形態でキャビティから放出される。残りは熱などのエネルギに変換される。
【0124】
ポンプ強度が増加するにつれて、より多くの利得要素が上部状態に励起される。式(1)、(3)及びNtot(t)=Ng(t)+Nl(t)から、定常状態で発光可能な上位レベルにおける利得要素の割合は次式に示される。
【0125】
【0126】
信号誘起利得飽和(即ち、分母の最後の項)が無視された場合(βq<<1、閾値近傍及び下限)、50%反転(Nl=0.5、Ntot=Ng)が次式に等しいポンプ強度に達する。
【0127】
【0128】
50%ポンプ強度は量子収率で割った上位レベルの寿命あたりの吸収断面積あたりの1つの光子に対応する。50%の反転分布は高効率の利得媒質に対し光ポンピングによって達成することができる。例えば、eGFPの吸収断面積は、λ=488nm(hνp=4.1×10-19J)のポンプパルスについて、σa=2.1×10-16cm2及びQY=0.8で
ある。パルス持続時間がライフタイム(τs=τp)に等しい場合、分子の上位レベルを励起するのに必要なポンプ磁束Ip、50%τpは、約2.4mJ/cm2又は24pJ/μm2
である。このフルエンスレベルは、人間の皮膚組織の典型的な安全限界よりも光熱による損傷の点で、パルス幅に応じて1~3桁小さい。
【0129】
化学エネルギを用いて反転分布を作成することができる。1つの既知の例は、F+H2
→H+HF*の基本反応によるフッ化水素の回転振動励起を利用するフッ化水素レーザに
見られる。この反応は、ΔG=-31.6kcal/molの自由エネルギを放出する。この化学エネルギの一部は、2.7~2.9μm(9.8-10.6kcal/mol)のスペクトル範囲の光子に変換される。しかしながら、回転-振動励起に基づく典型的な発熱反応は1~10kcal/molのΔGしか生成しない。これは可視光子のエネルギよりもずっと小さい(例えば、400~700nmで40~70kcal/mol)。その結果、そのような化学エネルギに基づく従来の化学レーザはすべて赤外領域で動作する。
【0130】
振動的ではなく電子的な遷移を伴う化学反応は、可視レーザ又は近赤外レーザをポンピングするのに適している可能性がある。電子遷移は化学反応において比較的まれであり、いわゆる「化学的に開始される電子交換ルミネッセンス」(CIEEL)反応は電子遷移を独自にサポートする。CIEELは2つのタイプに分類することができる。タイプ1は、分子内のCIEELであり、溶媒ケージにおけるエネルギ移動及び反応生成物からの直接光放出を利用し、即ち、象徴的にA+B→[C+D*]及びC+D*→C+D+hνである。タイプ2は、分子間であり、光を放出するために蛍光染料を使用し、即ち、A+B→C+D*;D*+E→E*+D;及びE*→E+hν(式中、Eは色素を表す)である。
【0131】
また、
図10A~Dは、CIEEL反応の様々な例、即ちホタルルシフェラーゼ-ルシフェリン反応、アルカリホスファターゼ(AP)及びクロロ-5-置換アダマンチル1,
2-ジオキセタンホスフェート(CSPD)反応、ペルオキシシュウ酸塩-染料反応(グロースティック反応としても知られる)、及びペルオキシダーゼ-ルミノール反応を説明する。出発反応物において異なるが、これらの反応の全ては、同様の高エネルギ中間体、1,2-ジオキセタンを有する。1,2-ジオキセタンの化学発光反応中間体としてのユニークな利点がある。1,2-ジオキセタンの分解は、π2-π2光付加の逆過程であり熱励起が禁じられているので、エネルギの大部分は熱エネルギの代わりに光子によって放出される。1,2-ジオキセタンとその2つのカルボニル生成物との間のエネルギ差は~72.5kcal/molであり、可視光発光のための電子遷移が可能となる。
【0132】
生物発光及び化学発光反応はレーザ粒子をポンピングする潜在的な候補である。高エネ
ルギ中間状態は、電磁放出線(タイプ1)として光を放出するか、又は近接場FRET(タイプ2)を介して色素などの近くの発光粒子に光エネルギを移動させることができる。FRETが生物発光分子から生じるとき、それはしばしば「生物発光共鳴エネルギ移動」又はBRETと呼ばれる。
【0133】
運動条件は、ポンピング反応速度が減衰速度よりもはるかに速いことを必要とする。高い反応速度を達成するために、従来の化学レーザは気相反応を使用する。例えば、フッ化水素レーザのポンピング反応の律速段階はH+F2→F+HF*である。この反応の動力学定数は、室温で1.6×1010M-1s-1であり、拡散制御二分子反応のための典型的な動態定数109~1010M-1s-1に類似する。これと比較して、液相化学発光反応はより低
い運動速度を有する。例えば、ルシフェラーゼ-ルシフェリンの典型的な速度論定数はわずか10s-1である。動態速度定数は、ペルオキシオキセラート-ルブレン染料反応については105s-1より高く、フェノールエンハンサとのルミノール-ペルオキシダーゼ反
応については107s-1であり得る。後者はフッ化水素レーザでの反応よりわずか1,0
00倍遅い。
【0134】
グルコースの酸化は、大量のギブス自由エネルギ(Gibbs free energy)を放出し、即
ち、C6H12O6(s)+6O2(g)→6CO2(g)+6H2O(1)、ΔG=-685.7kcal/molである。この化学エネルギは、理論的には、例えば後続の化学発光反応を介して光を生成するために使用することができる。代謝エネルギは、細胞のエネルギ通貨として知られているアデノシン三リン酸(ATP)分子を産生するために消費される。このプロセスは、第3のリン酸基をアデノシン二リン酸(ADP)に添加することを含む。1つのグルコース分子から合計30又は32のATP分子が生成される。約1グラムのATPがいつでも体内に存在する。細胞がエネルギを必要とするとき、ATP分子は加水分解されてADP及びリン酸に解離する。典型的な細胞では、平均して百万~2百万のATP分子が毎秒加水分解され、様々な細胞機能に利用可能な自由エネルギーをプロセスを介して生成し、即ち、ATP(aq)+H2O(l)→ADP(aq)+Pi(aq)、ΔG=-7.3kcal/molである。このエネルギは、可視及び近赤外範囲の光子を直接生成するには十分ではない。ホタルやクオラムセンシング細菌などの生物発光生物の中には、化学発光反応における活性化障壁を克服するための補因子としてATPが必要である。選択肢として、レーザ粒子のためのポンプ源としての代謝エネルギを利用する。
【0135】
電気ポンピングの可能な方法には、電気化学発光、半導体への電流注入、及びガス中の放電が含まれる。He-NeレーザやCO2レーザなどのガスレーザはガスを介して放電
される電流を使用する。電子は高電圧(300~1400V)で加速され、プラズマを生成するガス分子と衝突する。励起された分子イオンは直接光を放出するか又は他の利得分子にエネルギを伝達する。
【0136】
電気化学発光の一般的なメカニズムは、電極の表面での電子移動反応及びラジカル中間体の消滅を含み、即ち、(1)A→A・++e-(電極での酸化);(2)B+e-→B・-(電極での還元)、(3)A・++B・-→A・+B(励起状態形成)、及び(4)A・→A+光である。この反応は、イオン消滅が律速段階である場合、拡散制御限界近くで起こる。9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)のイオン消滅工程の速度論的速度は2
×1010M-1s-1である。電気化学発光被ポンプDPAレーザは10Vのミラー電極を用いて実証されている。
【0137】
電気的にポンピングされた半導体レーザでは、p-n接合は電圧(典型的には1.5~
2.5V)で順バイアスされる。順方向にバイアスすると、n型側に注入された電子がp
型側に流れ、伝導帯の電子が価電子帯の正孔と再結合する。この放出再結合プロセスは以下の単純化された速度方程式を用いて記述することができる。
【0138】
【0139】
【0140】
ここで、Nlは利得領域のキャリア数、NOは光透過率におけるキャリア母集団、qは
キャビティ内の光子数、Iは注入電流、ηは結合効率(量子収率に等しい)、eは電子電荷、gは利得係数(≒β/τs)である。典型的な半導体材料はN0/V=~1018cm-3
有し、クロンレーザに対してV=~10-12cm3、No=106である。定常状態での閾値電流は、η=0.4,τc=1ps,τs=3nsを使用して、Ith≒eN0/(ητs)=~130μAで与えられる。
【0141】
電気ポンピングは半導体レーザに一般に採用されているが、従来のデバイス構造はスタンドアローンレーザ粒子に直接適用することはできない。有線と無線の両方のアプローチが検討されてよい。必要なバイアス電圧及び電流を供給するためにいくつかのタイプの細い電線を使用することは比較的簡単である。無線電力伝送はインビボ用途にとってより魅力的である。4.1mWの電力を供給された無線周波数伝送は、半導体LEDを1mの距離で駆動し、7mW/mm2の光出力を生成した。それにもかかわらず、有線及び無線の
両方の方法がスタンドアロンのミクロンサイズのレーザ粒子にとって実現可能であるとは考えにくい。レーザのサイズが小さくなるにつれて電気信号の波長が比例して減少しない限り、アンテナの効率は低下する。これは光周波数の周波数を必要とし、無線転送を光ポンピングと同等にする。
【0142】
この課題を考えると、周囲の生物学的物質からの電流及び電圧を取り込む可能性が検討される。関連する一例は化学エネルギを電気に変換するバイオ燃料電池である。例えば、0.5~0.8Vの世代の開回路電位が、グルコースを用いたピルビン酸及び生きた貝ベースのアノードを使用してミトコンドリアベースのアノードにおいて達成された。電気ウナギは600Vを生成することができる。電気ウナギからインスピレーションされた人工的なバッテリはレーザ粒子の電気ポンピングを可能にすることができる。
【0143】
他のタイプのエネルギには、筋肉及び体の動きによって生成される運動エネルギが含まれ、これは圧電材料を有することによって電気エネルギ、及びソノルミネッセンスに変換される。
【0144】
ポンプパルスが吸収されると、そのエネルギの一部が熱に変換され、利得媒質の温度が上昇する。10nsより短いポンプパルスでは、周囲の水性媒質への放熱はパルス期間中は無視できる。この場合、ポンプエネルギEabsの吸収直後のピーク温度上昇ΔTは次式
で表わされる。
【0145】
【0146】
ここで、ρは質量密度、Vは体積、cvは比熱である。ファクタ(1-QY)は熱に変換された吸収エネルギの割合を表す。
【0147】
3つの例を考えてみる。ケースI:サイズが20μm(3.8ng)、比熱(cp)が1.8Jg-1K-1である油滴の場合、液滴上の10nJのポンプエネルギ(即ち、3.1mJ/cm2のフルエンス)は4.5nJの熱エネルギを生じ、ΔT=0.7℃の温度上昇を引き起こす。ケースII:10μm(0.52ng)及びCP=1.4Jg-1K-1のサイズ
を有するポリスチレンビーズの場合、ビーズ上の1nJのポンプエネルギ(即ち、1.3mJ/cm2フルエンス)は0.45nJの熱エネルギとΔT=0.6℃の温度上昇を生じ
る。ケースIII:直径1μm、厚さ250nm及びcp=0.33Jg-1K-1のGaAsディスク(~1.1pg=5.8kg/m3(ρ)*0.2×10-12cm3)ディスクの場合、5pJのポンプエネルギ(フルエンスで0.6mJ/cm2)は2.2pJ及びΔT=6.1℃の熱を発生する。
【0148】
過度の温度上昇は周囲の媒質に悪影響を及ぼす可能性がある。代表的な効果はタンパク質の変性であり、これは、タンパク質構造のアンフォールディングを誘導しタンパク質活性の損失をもたらす。水中での典型的なタンパク質のアンフォールディングにおける自由エネルギ変化は10~20kcalmol
-1である。これは1分子当たり0.4-0.9eVの活性化エネルギEaに相当する。アレニウスモデルによると、分解速度は
【数35】
に比例する。
【0149】
パルス加熱の場合、タンパク質変性によって表される熱傷の大きさは、温度だけでなく高温への暴露の持続時間にも依存する。温度が持続時間τeの間に増加すると、変性の量
又は熱的損傷の大きさは次式で与えられる。
【0150】
【0151】
加熱時間が短縮されると、変性のためにかなり高い温度が必要とされる。例えば、タンパク質の変性は10nsの短時間で熱に暴露された場合ピーク温度90℃(ΔT=53℃)で起こるが、タンパク質変性は1秒間長時間露光で温度60℃(ΔT=23℃)で誘導される。
【0152】
温度上昇による内部圧力変化は、次式で与えられる。
【0153】
【0154】
ここで、αVは熱膨張係数(水に対して2.1×10-4K-1、軟組織に対して~4×1
0-4K-1、GaAs1.7×10-5K-1)で、KBは体積弾性率(水に対して2.2×109Pa、GaAsに対して8.6×1010Pa)で、p0およびp1はポンプパルスの前後
の圧力である。温度が1℃上昇すると、非圧縮性固体及び液体に対して0.4~1.5MPaが生じる。
【0155】
圧力と熱膨張が仕事を生成する。このエネルギの一部は機械的(音響的)な波を発生させる。音響エネルギは以下のように表される。
【0156】
【0157】
音響エネルギの吸収された熱エネルギに対する比として定義される光音響発生の効率は次式で与えられる。
【0158】
【0159】
ここで、Γ=αVKB/(ρcv)はグリュナイゼン定数である。その値は水と細胞で~0.11、軟組織で0.7~0.8である。係数ΓαVは水については2.3×10-5(GaAsについては1.3×10-5)である。生物医学用途では、Tl-T∞は通常10℃未満に制限されているので、吸収されたエネルギのほんの一部(10-4未満)しか音波として放出されない。
【0160】
変換効率は一定ではなく温度上昇に比例する。音響エネルギが入力エネルギ自体に線形に比例するのではなく吸収エネルギの二乗に比例することを認識することは興味深い。この関係は、直観に反するように見えるかもしれないが、式(34)で与えられる初期圧力の増加がその後の(断熱的な)容積拡張の間実際に経時的に減少することによりものである(
図11)。光音響生成は熱エンジンと見ることができる。固体又は液体では効率が低い。ガス中、(αv=~1/T
1(ここで、TはKで与えられる)であり、Carnot熱機関の効率式≒(T
l-T
∞)/T
lに慣れ親しんだ式を得る。この場合、より高い光音響変換効率が得られる。
【0161】
放出対称ジオメトリにおける熱伝導は以下の式で表される。
【0162】
【0163】
ここで、kは熱伝導率、
【数41】
は単位体積あたりの熱発生率である。熱の黒体放出は無視されている。
【0164】
ケースI:短パルスポンピング:最初にT=T∞で媒質と熱平衡している半径Rの球形
粒子を考えてみる。次に、粒子をt<0で短い光パルスによって励起し、t=0でTlま
で温度に加熱する。単純化のために、粒子及び媒質は熱伝導率を含む同一の材料特性を有すると仮定する。周囲媒質中の分子の運動に由来する対流は短時間の間無視される。境界条件は次のように書き換えられる。
【0165】
【0166】
微分方程式のGreen関数は次のとおりである。
【0167】
【0168】
ここで、α=k/ρcpは媒質の熱拡散率である。与えられたtにおいて、Green
関数はr=(4αt)1/2で1/eの値になる。
【0169】
従って、熱が直径2Rの球を横切って拡散するのにかかる時間は次となる。
【0170】
【0171】
この時間τは球状粒子の熱緩和時間と呼ばれる。
【0172】
Green関数と上記の境界条件を使用すると、解は次のように示される。
【0173】
【0174】
ここで、
【数47】
は正規化された温度プロファイルであり、erfc=1-erfは相補誤差関数を示す。
図12の左のパネルでは、いくつかの時間遅延でΔT
norがプロットされる。粒子内の温
度勾配は粒子の有限の熱伝導率及び拡散率に起因する。
図12の中央のパネルは、r=0.5Rでの粒子温度が時間の経過とともにどのように減少するかを示している。t<0.2τのとき4τの1/e時間の、t>τのときT
∞t
-3/2の指数関数的減衰が続く。有限の緩和時間は繰返しのポンピングによる加熱に関係している。
図12の右のパネルは、パルス間の均一な周期Δtの100パルス後の累積温度上昇をプロットしている。Δt=0.3τでは、定常状態の温度上昇は単一のパルスによる温度上昇の約2倍である。これは、ポンピングの最大反復レート、例えばこの例では500kHzに限界が設定される。
【0175】
パルス幅が熱緩和時間よりも短いと、粒子に蓄積された熱はすべてパルス吸収中に媒質に拡散することができない。媒質が組織又は細胞である場合、その熱特性は水のものと類似している。従って、k=0.6Wm-1K-1及びα=0.14×10-6m2s-1を使用す
ることができる。緩和時間τは媒質への熱放散による粒子の冷却を支配する基本時定数である。時定数は熱拡散率の逆数に比例する。細胞質及び組織のような水性媒質は、空気よりも優れた熱伝導体であるが、半導体よりも絶縁性である。従って、生物学的媒質中の熱放散は通常、オンチップ半導体レーザにおける熱放散よりも遅い。τはR2即ち粒子の表
面積又に比例することに注意すべきである。粒子が大きい(小さい)ほど、熱緩和時間はより長く(短い)、R=10μmの場合、τ=700μs;R=1μmの場合、τ=7μs;R=100nmの場合、τ=70nsである。
【0176】
上記の分析は、均質材料、及び高い含水量を有するか又は液体及びポリマからなる粒子についての合理的な近似に有効であり、例えば、粒子に油(k=0.15Wm-1K-1)、ポリスチレン(k=0.14Wm-1K-1)及びシリカ(k=1.4Wm-1K-1)が含まれ
る。
【0177】
半導体と金属からなるレーザ粒子は熱伝導率が誘電体より2から3桁大きく、例えばGaAs(k=52Wm-1K-1)、シリコン(k=150Wm-1K-1)、銀(k=410W
m-1K-1)、及びダイヤモンド(k=約1000Wm-1K-1)である。この場合、粒子内の温度はほぼ一定である。この条件はしばしばビオ数、Bi=hR/k1の項で記述され
ることが多い。ここで、hは熱伝達係数であり、k1は粒子の熱伝導率である。特徴的な時間に匹敵する短い時間スケール、例えば、t<0.2τに対して、hは時間変化するが、h≒k2/Rに近似することができ、ここでk2は媒質の熱伝導率であり、従ってBi≒k2/k1である。ビオ数は粒子の表面における対流と体内の伝導との比に対応する。小さなビオ数は粒子内の熱伝導及び小さな温度勾配に対する小さな抵抗を表す。
【0178】
ケースII:連続的なポンピング:ここでは、ポンプエネルギが、
【数48】
の割合で粒子に連続的に供給され、定常状態に達したときに粒子の温度を計算することを考える。媒質中の熱方程式から、即ち∇
2T=0、
【数49】
であり、粒子の表面温度T
1が次式で表わされる。
【0179】
【0180】
ここで、単位体積あたりのエネルギ速度
【数51】
は、
【数52】
で与えられる。温度上昇は媒質の緩和時間に比例する。
【0181】
光放出に対する要件は、最大許容暴露量(MPE)で定量化され、これは、有害光熱及び光化学的影響の損傷閾値の約1/10と定義されている。ANSIZ136.1規格では、網膜及び皮膚に対する生命の危険に応じてレーザが分類される。標準的なガイドラインによれば、皮膚のレーザ暴露限度は、τp=1~100nsについては0.02*CAJ/cm2、τp=100nsから10sについては1.1*CAτp
0.25J/cm2で与えられ、
CAは波長依存性経験係数であり、即ち400~700nmのスペクトル範囲については
CA=1であり、700~1050nmについてはCA=100.002(λ‐700)であり
、1050~1400nmではCA=5である。τp>10sの長時間曝露の場合、MPEレベルは2*CAW/cm2であり、これはレーザ誘起加熱と導電冷却との間の熱平衡が長
時間にわたって達成されるので、フルエンスではなく光強度に関して与えられる。眼に750-1050nmのコリメートされた近IR光を長時間光学的に照射するために、網膜の安全性のためのMPEレベルはCAmW/cm2であって、強度が角膜で測定される。
【0182】
生物学的組織又は生細胞へのレーザ源の統合には、マイクロメータ寸法(HeLaのような典型的な哺乳動物細胞は直径約20μm)のスタンドアロンでコンパクトな装置、ポンプエネルギ源、及び良好な生体適合性を必要とする。現時点では、最大寸法が典型的に8μmを超える大きさのレージング構造をセルにうまく組み込む例は2つしかない。
【0183】
レーザ光源の小型化は、高速スイッチング時間及び/又は低消費電力の集積されたオプトエレクトロニクスデバイスを実現することを目的として過去数十年間に積極的に追求されてきた。小型の小型レーザを製造するための最も広範な選択肢の1つは、外部環境に対して十分に高い屈折率を有する小さな構造で生じるウィスパリングギャラリモード(WGM)を利用することである。WGM共振器は多数の異なる形状及び材料で実現されている。利得媒質を用いてキャビティ自体を構成することができ、又はその放出を不活性材料から作られた共振器内のWGMに結合することができる。色素でドープされたポリスチレンミクロスフェアは光ポンピングの際にレーザを生成することが示されている。今日までに報告された最小のマイクロスフィアレーザは約8μmであり、これはサイズの減少に伴い減少するQファクタによって制限される。約3.5μmのサイズの色素ドープマイクロスフェアからの自然放出が報告されているが、限られたキャビティQファクタ、利得、及びポンプエネルギのために、レーザ閾値以下の動作しか示されていない。
【0184】
マイクロメディアは利得媒質として半導体で作られたコンパクトレーザの一般的な例であり、何故ならばこれらの構造がエピタキシャル成長ウェーハからリソグラフィプロセスによって得ることができるためである。それらは数ミクロンから数十ミクロンの横方向の寸法によって特徴付けられるが、それらの厚さは約100nm(λ/4nのオーダーの限界に対応する)まで縮小することができる。最も一般的に使用されるIII-V化合物の約3~3.5である高い屈折率が与えられると、最小のキャビティが無機半導体で実証さ
れている。例えば、直径2~4μm、厚さ100~200nm、及び12,000~17,000までのQファクタの構造が約900~1000nmのレーザ発振に実現されている。デバイスの形状及び表面粗さの適切な工学によって実際にはるかに高い品質係数(108を超える)に到達することができるが、このような構造は一般にかなり大きな直径(数十ミクロン)を有する。もう一方の端では、より低いQファクタ(103のオーダー)であるにもかかわらず、約600nmという小さいデバイスが実証されている。しかしながら、これらのディスクレーザはディスクのサイズよりもはるかに大きいサイズを有する基板上に製造されることに留意されたい。確かに、そのようなディスクを被覆するか又はディスクレーザを細胞に挿入する試みは報告されていない。
【0185】
可視領域で高いトランスフェクション効率及び高輝度を有するいくつかの対の生物発光酵素及び基質が知られている。生物発光のスペクトル帯域幅は典型的に蛍光のスペクトル帯域幅と同様に50~100nmである。生物発光の寿命は典型的な有機フルオロフォアと同様にナノ秒のオーダーである。生物学的環境における典型的な生物発光反応速度は、酵素分子当たり0.1~10光子/sである。この速度は誘導放出を生成するには不十分
であるが、生物発光は光学的キャビティと結合することができる。
【0186】
例えば、好ましい実施形態として、ルシフェラーゼで被覆された非ドープポリスチレン
ビーズを作製し、キャビティモードによって変調された発光スペクトルを有する生物発光を生成することができる。ビオチン化ガウシアルシフェラーゼ(GLuc、19.9kDa)をポリスチレンマイクロビーズのストレプトアビジン被覆表面上に被覆した。ビードの表面上の接着剤は、ビードのWGMにエバネッセントに結合する生物発光(
図15、左パネル)を生成するためにセレンテラジン(CTZ、423.46Da)を酸化する。分散されたGLuc被覆ビードを含む媒質にCTZ(25μM)を添加すると、ビーズ表面から明るい生物発光が生成された(
図15、中央パネル)。CTZの添加後23から28秒後に得られた代表的な出力スペクトルは、よく識別可能なWGM構造を示す(
図15右のパネル)。出力放出におけるモード構造は生物発光の標準的な広い発光とは異なる。光学的にポンピングされた蛍光粒子と比較して、生物発光粒子は、光学ポンプの侵入深さによって課される制限なしに例えば静脈注射を介して基質分子を投与することによって、生体内の奥行きのある組織のほぼどこでも励起することができる。
【0187】
スタンドアローンのレーザ粒子は、いったん軟組織などの生体系に注入されると、蛍光顕微鏡などの光学画像化装置によって検出され局在化され得る。しかしながら、レーザ粒子からの誘導放出を検出するために、顕微鏡構成を新たに考案することができる。均一な分布のプローブを含む媒質に集束された励起ビームを考慮する(
図16、左上)。1光子励起では、zの断面積に亘って積分された信号の総量は一定であり(
図16、右上)、明視野画像化は厚いサンプルに対して光学的区画を提供しない。2光子顕微鏡では、信号強度は励起ビームの強度二乗に比例する。これにより、光学分割(
図16、左下)が得られる。レーザ粒子の場合、レーザ発振は強度がレーザ発振閾値を超える焦点でのみ達成することができる(
図16、右下)。これは回折限界以下の空間分解能を有する光学切片化を提供する。この技術はレーザ粒子刺激発光(LASE)顕微鏡法と呼ぶことができる。
【0188】
閾値以上では、PSFの全幅半値(FWHM)ALASEは、軸(z)及び横(x、y)の方向に対し式(6)から得られる。解像度向上ファクタの近似形式は次式で与えられる。
【0189】
【0190】
ここで、Δ
0は、ガウスビームの回折限界であり、Δ
0、
z=2z
R、Δ
0、
x、
Y=1.67z
RNAで、ここで、z
R及びNAはそれぞれ励起ビームのレイリー長さ及び開口数である。分解能は常に回折限界以下であり、
【数54】
で、閾値P
th付近で最小である。
【0191】
LASE顕微鏡法は、単一フォトン吸収(2光子ポンピングが可能であるが)を使用し、焦点体積でのみ誘導放出を生成し、タイトなピンホールを必要としない。この意味で、LASE顕微鏡法は、回折限界以下の分解能で信号の効率的な生成及び収集を達成するための共焦点及び2光子顕微鏡法の有利な特徴を有する。
【0192】
別の有利な特徴は、焦点が合っていない背景が低いことである。レーザ出力の狭いスペクトル特性は、レーザ粒子の周囲に存在し得る他の蛍光分子からの自己蛍光と容易に区別される。誘導放出の減衰時間は、蛍光減衰時間よりもはるかに短いキャビティ寿命によって決定される。従って、寿命測定はレーザモードを自発的なバックグラウンドと区別することができる。LASE顕微鏡法の背景が低いため、散乱組織において、500μm以上又はさらには1~2mm以上の画像深度が増強される。
【0193】
反転画像化セットアップが構築された(
図15)。装置の構成は、ラインコンフォーカ
ルハイパースペクトル蛍光顕微鏡に類似しているが、典型的なハイパースペクトル顕微鏡とは異なり、同調可能な入射スリット、回折格子、及び1024-4096ピクセルの解像度の電荷結合素子(CCD)カメラを備えた高分解能(0.05-2nm)分光計を用
いる。
【0194】
レーザ粒子として、鉛ヨウ化ペロブスカイト(CH3NH3PbI3)ナノワイヤを用い
、典型的な幅300~500nm、長さ3~7μmに成長させた。サンプルをスライドグラスに移し、水分と酸素による劣化を防ぐためにカバーガラス光学エポキシで空気から密封した。
【0195】
ナノワイヤの長い形状が与えられると、ポンプビームは、一致する細長い形状を有するように成形され、ナノワイヤの短軸を横切って走査プロファイルが測定された。ポンプ光源は、反復速度5kHz、パルス持続時間~2.5nsの532nmで発光するマイクロチップレーザであり、ペロブスカイトの蛍光寿命(τ≒2ns)よりわずかに長かった。対物レンズは0.8NA、40倍水浸レンズ(Nikon)であった。焦点で楕円形のポ
ンプビームプロファイルを作るために、円柱レンズ(CL;f=500mm)を用い、FWHMはx軸に2.4μm、y軸に9.5μmであった。楕円形のポンププロファイルを用いてナノワイヤの全長を照らし、効率的なポンピングを達成した。サンプルステージ上のナノワイヤは、ポンプビームの主軸(y)に平行に向けられていた。ポンプ光の偏光軸は、閾値強度が最も低いナノワイヤの長軸(y)に直交するように整列させた。ポンプビームがコリメーションレンズ(CollimationLens)(LI)を平行移動させることによってx軸に沿って走査し、結像面において35nmステップ解像度を得た。出力放出は、カメラ及び偏波非依存性の回折格子ベースの分光計に向けられた。分光計の入射スリットは、ナノワイヤの長軸(y)に沿って配向され、その結果、ナノワイヤ全体からの発光が分光計によって収集された。スペクトル分解能は約1nmであった。
【0196】
図15の挿入図は、CCD上に結像された典型的なポンプビームプロファイル、及び長さ5μmのナノワイヤからの蛍光及びレーザ発光画像を示し、それぞれ閾値以下及び閾値以上のポンプエネルギレベルでCCD上のロングパスフィルタ(LF)を介して収集された。レーザ放出プロファイルは、長手方向レーザ発振を示す両端部に明るいスポットを示し、コヒーレントレーザ放出の特徴的な干渉パターンを示す。検出器平面におけるレーザ出力の偏光状態は短い(x)軸にほぼ平行であった。
【0197】
実験はLASE画像化の概念実証を支援するために実施された。
図16Aは閾値より上のナノワイヤからの典型的な出力スペクトルを示す。スペクトルが低ポンプパワーで得られた蛍光スペクトルと同じプロファイルを有する広帯域蛍光バックグラウンド(
図16Aの灰色の曲線)及び狭帯域誘導発光成分(マゼンタ曲線)に分解された。レーザパワーを誘導放出スペクトルを積分することによって測定した。
図16Bは測定された出力をポンプエネルギの関数として示す。データは0.58mJ/cm
2のポンプパルスエネルギで
明確に定義されたレーザ発振閾値を示す。式(6)に基づく最良の曲線適合はβ=1.3×10
-3で得られた。
【0198】
図16Cは、2つの異なるポンプレベルp(=P/P
th)=1及び1.8でのナノワイ
ヤのx走査プロファイルをそれぞれ示す。測定された横方向(x軸)分解能Δ
LASEは、p=1(FWHM、~2.5μm)での蛍光バックグラウンド発光の走査プロファイルから測定して、蛍光検出の分解能よりも約5倍低いp=1で520nmである。
図16Dに示すように、LASE顕微鏡のFWHMはp≒1で最小であり、ポンプパルスエネルギが増加すると増加した。実際のポンププロファイルと推定ナノワイヤサイズ(5μm×0.3
μm)を用いた数値シミュレーションに基づくフィット曲線は実験データと良好な一致を示した。ポンプの増加に伴う蛍光FWHMの僅かな増加はおそらくポンプ誘起蛍光飽和又は利得枯渇(即ち、N
0がqと共に減少する)によるものである。
【0199】
約5倍と同等の解像度が向上したのは、類似の長さ及びβ値を有する数多くの異なるナノワイヤから一貫して測定された。分光器の前の共焦点スリットの開口幅は、わずかに異なるβ値につながるレーザ出力測定値へのその影響を通して僅かな分解能にしか影響しなかった。
【0200】
図17Aに示すように、ビームスキャナを使用することによって、LASE顕微鏡を
図15の構成からビーム走査画像形成装置に拡張することができる。ガルバノミラーミラースキャナ及び音響光学ビーム偏向器は周知のものである。
【0201】
LASE顕微鏡は、共焦点蛍光画像化、多光子画像化、反射画像化、及び光干渉断層撮影(OCT)などの他の画像化様式とさらに組み合わせることができる。例えば、システムは、フェムト秒レーザを用いて、レーザ粒子を取り囲む構造体例えば細胞及び組織から、2光子又は3光子励起蛍光又は高調波発生信号を生成及び収集することができる。例示的な実施形態を
図17Bに示す。当技術分野で公知の適切なダイクロイックフィルタ及びビームスプリッタを使用して、フェムト秒励起ビーム、ポンプビーム、蛍光粒子、高調波信号、及びレーザ粒子からの誘導放出を管理することができる。
【0202】
光学的検出の代わりに、レーザ粒子を光音響顕微鏡法を用いて検出し画像化することができる。レーザ粒子は、吸収されたポンプエネルギのほんの一部を音波エネルギとして放出することができる。このメカニズムにより、粒子は光音響検出のように音響トランスデューサによって検出することができる。音響波の振幅はポンプ速度P(t)に比例する。Ng≒Ntotである不飽和レジームでは、光音響信号は単純にポンプ強度に比例する。
【0203】
しかし、励起状態Nlの分子の数はNtotに匹敵するようになり、基底状態の枯渇はポンプ吸収を制限し、その結果、同じ強度の不飽和の場合と比較して光音響信号を減衰させる。閾値以上で励起放出が励起状態の分子を基底状態に下げるので、レーザ発振は励起された分子の数を一定のレベルにクランプすることに留意されたい。利得分子がレーザでより迅速に再循環されるので、このプロセスにより飽和領域内にキャビティを有さない同じ利得媒質と比較してレーザ粒子においてより高い光音響信号がもたらされる。
【0204】
ガイドスターは大気の乱れによる波面歪みを推定するための天文技術である。乱気流が存在すると空気の密度が変化するため、屈折率の不均質よって光の波面が変形し、地上観測所の望遠鏡で星像が大きく劣化する。この問題を解決するために、レーザビームを空に直接照射し、入射光と戻り光の差を比較することによって波面歪みを測定する。戻り光は、高度10~15kmの空気分子からのレーザ光のレイリ散乱、又は高度95kmの原子状ナトリウムのレーザ誘起蛍光によって生成することができる。ぼやけた星像は、ガイドスターアシスト波面測定の後、波面歪みを補償するための変形可能なミラーのアレイなどの適応光学素子を介して回復することができる。
【0205】
天文学における同じ原理を用いて、ガイドスターは生物学的画像化においても重要な役割を果たす。生物学的組織は、その不均質な光学特性のために波面の散乱及び歪みを引き起こし、特に深度に置かれたサンプルの画像化を制限する。透過行列が任意の入力フィールドでの散乱後の出力場の推定を提供するので、透過行列の情報に基づいて入力光の波面を整形することで深部組織の標本の集光スポットが補正され得る。このプロセスでは、ガイドスターが所定の組織の伝達行列を測定するのに役立つ。ガイドスターの原理はフィードバックと結合プロセスを含む。第1に、フィードバック法は、深部組織に配置された蛍光粒子を利用し、蛍光強度をモニタし最大強度を見出す。第2に、共役法は、標的から放出された光を集め組織に照射されたときに焦点に戻ることができる位相共役ビームを合成する。このプロセスは、組織内の光の散乱及び伝搬が時間反転可能であるため可能である。
【0206】
通常の蛍光標識ではなく、レーザ粒子はガイドスターとしてより良い性能を示す可能性のある候補になり得る。例えば、レーザ粒子のレーザ閾値はフィードバックガイドスターの敏感な指標となり得る。レーザ粒子は、空間的及び時間的にコヒーレントな光を生成することができるので、コンジュゲーションガイドスターの理想的な源となり得る。レーザ粒子から放出された光に時間的位相を与える注入同期と組み合わせることにより、コヒーレンスゲーティングを用いた共役ベースの補正などの様々なアプリケーションにレーザ粒子を実装することができる。
【0207】
注入同期(
図18A)を使用することにより、出力のコヒーレンシを光位相レベルまで拡大することができる。注入同期により、狭帯域光が外部からレーザに入ると、光がキャビティ内で増幅され、レーザ出力の位相が注入ビームに位相同期されるように出力を同期することができると言われる。注入同期は、注入ビームに対して位相コヒーレンシを確立し、コヒーレント干渉計を使用してレーザ粒子を検出できるようにする必要がある(
図18B)。この原理を使用して、ポンプがオンとオフに調整されている間に、注入ビームの干渉を介して組織外のレーザ出力の波面を測定することができる(点滅するガイドスター)。共役波面を有する同じ波長の共役ビームが組織上に照射されると、レーザ粒子がどこに位置するかを追跡することができる(
図18C)。この技術は精密深部組織光変調に有用であり得る。さらに、注入同期レーザ粒子は原則的に造影剤として役立つ可能性がある光干渉断層撮影法で検出することができる。
【0208】
レーザ粒子は生きた細胞の細胞質に取り込まれ得る。エンドサイトーシス、食作用及びマクロピノサイトーシスを含む様々な生物学的な細胞内取り込みプロセスが存在する。細胞は、粒子の細胞取り込みが起こるように十分な時間にレーザ粒子を含む媒質と共に培養され得る。
【0209】
粒子を効率的に摂取しない細胞については、ロボットピペットに基づく注射のような物理的挿入方法を使用することができる。
【0210】
より制御された取り込み又はレーザローディングプロセスは、マイクロ流体滴装置を使用することによって達成することができる。シリンジポンプを用いて油中にマイクロ及びナノスケールの物体を封入する水性液滴を生成するための技術のいくつかは当技術分野で周知である。
図19Aは例示的な微小流体チャネルデバイスの概略図を示しており、各々がレーザ粒子又は細胞を含む2つの液滴が単一の液滴に合流するように構成され、液滴のセルがその後にレーザ粒子を内在化する(
図19A)。
【0211】
図19Bは、微小流体チャネルデバイス、ポンプ光源、及び細胞内のレーザ粒子の出力スペクトルを測定することができるスペクトル分解検出デバイスを使用する装置の概略図を示す。この装置は、高速での細胞内レーザのスペクトルシグネチャ又はバーコードの高
スループット読取りによく適する。
【0212】
ピラー及び高電圧電極などの受動的又は能動的選別構成を使用すると、装置は、レーザ粒子からの出力放出スペクトルに基づく光学情報を使用することによって、レーザ粒子又はレーザ粒子を保持する又は含むセルを分類するように動作することができる。
【0213】
その狭い発光スペクトルのために、細胞内に埋め込まれたレーザ及び光学キャビティは、単一細胞の光タグ付けの用途に大きな可能性を有する。細胞タグ付けは、多数の亜集団の細胞を区別すること、又は単一細胞レベルで及び高度に多重化したアッセイに対し細胞を研究するのを可能にする。現在のタグ付け方法には、特定のパターンで配列されたエミッタを用いたグラフィカルエンコーディング、物理エンコーディング、ライフタイムエンコーディング、スペクトロメトリックエンコーディング、希土類元素を用いた質量ベースのタグ付けなどがある。これらの方法のほとんどは、約10~100のバーコードに制限される。グラフィックバーコードはより多くの組み合わせを可能にするが、画像化が必要であり該画像化は遅い。Brainbow及びMultibowを含む分光法は、色素、量子ドット又は蛍光タンパク質の広い放出によって制限される。一意的なタグの数は、強度を用いて多重化することによって増加させることができ、最大500の組み合わせでコード化するのが市販されている。しかしながら、強度エンコーディングは、較正された機器を必要とし、光漂白、色素分解、光散乱及び吸収のために変化する可能性があり、これはインビボ研究にとって特に問題となり得る。
【0214】
従来の蛍光顕微鏡と蛍光活性化セルソータ(FACS)はファインスペクトル線を分解することができない。高分光測定分解能に向けて、フローサイトメトリー装置は、ポンプ源と高分解能分光計を使用することによって構成することができる(
図20)。
【0215】
サブミクロンサイズのレーザ粒子は、抗体、ペプチド、クリック分子などの結合分子で被覆される。これらのレーザプローブは、細胞表面上又は細胞質内の標的特異的バイオマーカーとプローブが結合するように細胞と混合される(
図20)。各認識分子について、同じ出力波長を有するレーザ粒子が割り当てられ、異なる認識分子が異なる波長を有するレーザ粒子に付着される。そして、対応する波長で強度を測定することによって、各タイプのレーザ粒子の量を容易に分析することができる。その量はそれらの標的分子の存在量に比例する。
【0216】
小型レーザ粒子を実現するために、特定の実施態様では、フォトニック半導体ウィスパリング・ギャラリ・モード・ディスク・レーザを使用することができる。半導体の屈折率(n=3~3.5)はサイトゾルの屈折率(n=1.33~1.4)よりもはるかに高いので、半導体ディスクレーザは真空光学波長よりも小さい直径、波長の少しの厚みを有する。量子ドットと同様に、半導体粒子は光漂白及び生分解されず長期追跡に適している。
【0217】
数百万個の同一又はインクリメンタル粒子は標準的な電子ビームリソグラフィ(
図21A)によって単一のバッチから製造することができる。反応性イオンエッチング及び部分化学的ウェットエッチングの後、ピラー上にマイクロディスクが製造される。この構造は当該技術分野において周知である。980nm、5nsパルスによる光ポンピングの際に、マイクロディスクオンピラーレーザは狭レーザ放出を生成する(
図21A)。
【0218】
実施例では、直径0.5~3μmの半導体マイクロディスクを作製した。これらのマイ
クロディスクはInP基板上に構築されたInAlGaAs量子井戸構造を有することができる。このディスク形状は、まず、電子ビームリソグラフィ、反応性イオンエッチングを用いてリソグラフィで彫刻された後、InP犠牲層を除去する酸性ウェットエッチングによって基板から切り離される(
図21B)。最終製品はスタンドアロンのディスクレー
ザ又は「レーザ粒子」である(
図21B)。レーザ粒子は適切な濾過の後に水溶液に移すことができる。
【0219】
十分なパルスエネルギ(1~100pJ)で1064nmで光学的にポンピングされたとき、獲れたほとんどのレーザ粒子はレーザ閾値に到達し狭帯域誘導放出を生成した(
図21C)。ほとんどのレーザ粒子は、l=10-11の単一モード対応WGMモードを放出する。いくつかの粒子は、ディスクキャビティの自由スペクトル範囲に対応する50~60nmで分離された2つの別個のレーザラインを特徴とする2つのモードを生成した。
【0220】
マイクロディスク粒子からのレーザ出力は、マウスの耳の皮膚のような比較的厚い生物学的組織を介して高い信号対雑音比(例えば、高い信号対ノイズ比)で測定することができる(
図21C)。
【0221】
式(22)では、直径を変化させることによってレーザディスクの出力波長を調整することができる(
図22A)。電子ビームリソグラフィでは、1nmまでのステップで高精度にディスクの直径を変えることが可能である(
図22B)。
【0222】
直径の他に、いくつかの他の変数を使用して出力波長を調整することができる。これらには、活性領域及びクラッド(シェル)領域の異なる半導体材料、半導体材料の歪み、量子井戸の厚さ、多重量子井戸の場合の量子井戸間の距離及び不動態化層の厚さが含まれる。モード選択及び単一モード発振を達成するために、レーザ粒子の表面に格子構造を形成することができる。
【0223】
紫外領域、青色領域、及び井戸領域における短波長の材料システムは、ZnS、ZnSe、GaN及びAlNなどのII-VI族化合物及びIII-V族窒化物系である。(AlxGal-x)0.51In0.49P隔離障壁層に挟まれたGayInl-yP量子井戸のようなAlGaInP系は、600~700nmの可視波長を生成することができる。GaAs格子上に成長させたAlxGa1-xAsは、ダブルへテロ構造の場合、700~900nmの範囲の発振波長を得るのに適している。900~1100nmの波長領域は、AlGaAs又はGaAs層に挟まれた歪んだInxGa1-xAsによって変換することができる。1.
1~1.65μmの範囲は、InP又はAlxGayInl-x-yAs-InP系で成長したInl-xGaxAsyPl-yによってカバーされる。他のシステムには、InGaAsN/GaAs量子井戸構造が含まれる。
【0224】
レーザ粒子とその細胞内操作の別の実験デモンストレーションのために様々な半導体エピタキシャルウェーハからマイクロディスクレーザを作製した。ウェーハは、200nm(又は350nm)の厚さを有するInAlGaAs利得層のための異なる合金組成を有するInP/InAlGaAs/InPを含む。ウェーハの公称利得中心波長は、それぞれ1200、1275、1350、及び1425nmであった。また、GaAs/AlGaAs/GaAs(840nm)、InP/InAlAs/InP(840nm)、及び量子井戸ウェーハからマイクロディスクレーザを作製した。
【0225】
電子ビームリソグラフィは、10nmのスケールでは高い分解能を有するが、比較的長いスキャン時間を必要とする。大量の迅速な製造のために、カスタムメイドのマスクとフォトレジストを使用した光リソグラフィを使用した。UV照射及び反応性イオンエッチングの後、ディスクカラムのサイズは1.5~3μmの範囲であった。パターニングされた基板をウェットエッチング用のHCl溶液に移してInP犠牲層を除去した。ろ過及び洗浄後、コロイド溶液中に独立したレーザ粒子を得た。ウェットエッチング/転写プロセスの歩留まりは、粒子の損失を慎重に最小限に抑えることによって、50%もの良好であった。基板上の1000万個のマイクロディスクのうち500万個以上の独立したレーザ粒子が収集された。
【0226】
図23は、InAlGaAsのわずかに異なる合金組成からなる3枚のウエハからなる128個のレーザ粒子の出力波長の分布を示す。粒子は、平らな表面の1つを平らなガラス基板と接触させて置かれ、他の表面は空気にさらされた。Nd-YAGレーザ(1064nm)からのナノ秒パルスを用いて光ポンピングを行い、1~2μmの典型的なスポットサイズに焦点を合わせた。レーザ粒子の公称サイズは2.3μmであったが、実際のサイズは、光学リソグラフィステップ及び他の可能な要因の有限分解能及びランダム又は全身変動のために同一ではない。その結果、測定されたヒストグラムは、各ウェーハの全利得スペクトルにわたって広範囲の波長を示す。適切な組成のウェーハを使用し、直径範囲を最適化することにより、1150nmから1500nmまでの広いスペクトル範囲を1~2nm以下の間隔で完全に充填することができる。
【0227】
水性及び生物学的環境に暴露された半導体材料は有毒であり得る電気化学的効果を生成し得る。表面では結合構造が破壊される。結合が破壊されると、表面は非常に反応性になり、O、C、及び他の原子及び分子の吸着による表面再構成(表面原子同士の結合)及び表面汚染をもたらす。これにより、表面における半導体のエネルギレベルが変化し、周囲の環境へキャリア電流が漏れ、半導体の腐食及び水分崩壊のような多くの望ましくない電気化学的プロセス並びにレーザ粒子の量子効率の劣化が生じる。
【0228】
この問題に対する実際的な解決策は、半導体表面をパッシベーション層で被覆して半導体表面にバルクボンディングが優先することである。広く使用されているキャッピング材料としてはSiO
2(
図24A)又は格子定数は同じであるが、バンドギャップの広い同様の半導体が挙げられる。ワイドバンドギャップはキャリアが半導体から漏れることを防止する。表面電気化学による望ましくない影響をさらに低減するために、封入材料及びポンプ波長は、材料がポンプ光によって光学的に励起されないように選択することができる。
【0229】
生体適合性量子ドットに使用される生体適合性ポリマによる表面被覆又は表面官能化は、レーザ粒子の生体適合性をさらに高め、長期間の実験のためにそれらを細胞及び動物で使用可能にすることができる。レーザ粒子はそのようなポリマ及び生体適合性又は生体不活性材料で被覆することができる(
図24B)。さらに、抗体、タンパク質、様々な小分子、薬物などの生体認識分子、酸化鉄などの無機ナノ粒子をレーザ粒子に付着させることができる(
図24B)。
【0230】
さらに、レーザ粒子をリポソームでカプセル化して生体適合性及び循環時間を改善することができる(
図24C)。リポソームは標的化のための抗体のような生物学的認識分子でさらに機能化することができる(
図24C)。
【0231】
遺伝的にタグ付けされたプローブは有用であり、そのためにハイブリッドアプローチを使用してもよい。動物の標的細胞群は特定の表面膜タンパク質を過剰発現するように作製することができ、レーザ粒子は細胞表面に結合するように抗体で被覆される。第2に、細胞をトランスフェクションして特定の細胞内タンパク質を産生させ、標的細胞中のタンパク質との結合時にのみ特定の放出特性を生じるように粒子を設計する。
【0232】
生体適合性被覆のために、HClに浸漬し、HClを除去するために濾過することによってウエハからディスクを移動させた後、ディスク(EtOH中100万/ml)を0.1μM MPTMS(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)と混合してシランの単層を半導体表面に堆積させた。次に、溶液にNH
3、H
2OおよびTEOSを加えてシリカシェルを成長させた。反応時間及びTEOS濃度を調整して、所望のシリカシェル厚さを得た。
図25は、異なる厚さのシリカ層で被覆された2つのInAlGaAsマイクロディスクレーザ粒子のSEM画像を示す。
【0233】
細胞を単離されたレーザディスク粒子とともに培養してそれらを細胞質に内在化させた。
図26は、核の外側の細胞質ゾル中に1つ又は2つの細胞内レーザ粒子を有するHeLa細胞の様々な画像を示す。細胞あたりの粒子数は細胞密度及び細胞媒質比におけるレーザ粒子の濃度並びに他の因子を制御することによって変えることができる。被覆されていない又はシリカで被覆されたレーザ粒子がサイトゾル内部で明らかに自由に移動しそれらの位置及び配向を変化させることを見出した。また、光ポンプパルスによる放出力が粒子を動かすことができることも観察した。
【0234】
図27は、典型的な出力-ポンプ-エネルギ曲線、スペクトルの安定性(<1~2nm)、スペクトル線幅(0.3~0.6nm)を示す。細胞内レーザからの狭帯域単一ピークレーザ放出は、多重化及び細胞標識のためにレーザ粒子を使用することの実現性をはっきりと示している(
図27)。
【0235】
図28を参照すると、1nm未満のスペクトル幅(Qファクタ>10
3)を有するレー
ザ粒子が考えられ、それらの中心波長は1000nmを超える広い範囲(例えば、0.6
から1.6μm)を1nmのステップで形成する。1,000個のスペクトルビン(N=1000)を充填する1000個の独特なレーザ粒子が存在することがある。5つのランダムに選択されたレーザ粒子のグループが細胞に送達される場合、細胞は5つのレーザ線の独特な組み合わせで標識される。可能な組み合わせの数は、C(N、m)=N(N-1)...(N-m+1)/mで、ここでmはセル当たりのレーザ粒子の数で与えられる。N=1000、m=5の場合、8兆の組み合わせがあり、マウスの細胞全体にラベルを付けることができる。
【0236】
ダブレットを形成するために付着した2つのレーザ粒子を考える。499,500(=C(1000,2)=D(1)=S(2))のダブレットの組み合わせがある。トリプレ
ットレーザ(3つのレーザによって形成される)の種類は1億6千万種類である。これらの戦略は事実上無限の数のラベルを提供する。この大規模な波長分割多重化の重要な要素は、Nが大きいことである。蛍光ではNはせいぜい4又は10に制限される。
【0237】
レーザベースのタグ付けにより細胞系統の追跡が可能になる。最初に、多数の粒子又は多数の感染多重度例えば重複のないダブレット粒子の<m>=128が細胞にロードされる。これにより、約3,500(D(1)/128)の細胞を標識することが可能になる
。さて、これらの細胞は時間とともに分裂する。粒子のグループは各区分で約半分と半分に分割されているため、第5世代後には平均して4つのダブレットがセルに残る。同じダブレットは直接の祖先だけに存在し他のものには存在しないので、彼らの家系を特定することは可能である。粒子の数を数えることによっておおよその通過回数も推定することができる。増殖の地図も測定することができる。
【0238】
円盤状の形状を利用してダブレットとトリプレットを形成することができる(
図29)。ダブレットとトリプレットを作成するにはさまざまな方法がある。一例として、2つの半導体ディスクを直接接合するための図を
図29Aに示す。光クロストークを避けるために、ディスクの間にSiO
2層のような絶縁層を挿入することができる(
図29B)。収穫された粒子は、機能性分子又はナノ粒子、及びポリマでさらに被覆することができる(
図29B)。
【0239】
あるいは、2つのレーザディスクをTz及びTCOクリック化学分子のような2つの異なる結合化学物質でそれぞれ被覆し互いに接着してもよい。別の方法は、0.3~1μm
の直径を有するポリスチレンビーズのようなスペーサー材料を使用することである。適切な化学的接着剤を用いると、ダブレット(
図29B)及びトリプレットレーザ粒子(
図29C)を製造することができる。
【0240】
細胞のタグ付けに加えて、個々の細胞を追跡することによって、生きた動物においてそれらの増殖、移動、及び細胞-細胞及び細胞-組織相互作用を経時的に観察する能力は非常に有用である。これはDNAバーコードとして知られているウイルス標識技術に対する大きな利点であり、その技術では光学的画像化によって視覚化することができず、PCR増幅及び配列決定を用いて動物を屠殺した後でのみしかインビトロで読み取ることができない。レーザ標識された細胞は、インビボで繰り返し画像化され、フローサイトメトリによって分析され、遺伝子プロファイリング及び単一細胞RNA配列化のために分類され得る。1回の動物実験で数百万~数十億の分子、細胞、組織、及びシステムレベルからそのような包括的な情報を得る能力はこれまでにない。レーザプローブが従来の蛍光標識技術及び遺伝子導入レポータマウス並びにDNAバーコードと併せて使用することができることに留意すべきである。
【0241】
レーザ粒子の別の応用分野はバイオセンシングである。様々なレーザキャビティは、キャビティの周囲の屈折率変化、特にWGMキャビティ及びフォトニック結晶キャビティの変化に敏感である。これらのキャビティのいずれかはレージングレジメで動作させることができ又は共振周波数のシフトを測定するためのノッチフィルタとして動作させることができる。屈折率を単に測定する代わりに、キャビティの表面を機能化して特定の分子を表面に結合させることができ、このようにして特異的な検出が可能となる。WGMはエバネッセント場を介してマイクロスフェア外の環境と相互作用することができる。微小球の表面上又は表面近くの粒子は光の光路及び/又はキャビティ損失を変化させる。これは共振周波数のシフトを引き起こす。ウィスパリング・ギャラリ・モード共振器における共振条件は約2πan1=lλである。ここで、aは共振器の半径、nは屈折率、lはモード数、λはモードの共振波長である。表面への分子の付着は実効屈折率を増加させる。
【0242】
屈折率変化は、次のようにして共鳴波長を変化させる。
【0243】
【0244】
ここで、α
exは結合分子の過剰分極率であり、σは分子の表面密度であり、ε
0は真空
の周回率であり、n
1及びn
2はそれぞれ共振器及び周囲媒質の屈折率である。モードシフトの検出はモードの基本線幅によって制限されるので、最小表面密度は
【数56】
を用いて推定することができる。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)は、Q=2,0
00の水(n2=1.33)中に15μmのポリスチレンビーズ(n
1=1.59)を使用してα
ex/4πε
0=3.85×10
-21cm
3を有し、5.9×10
12分子cm
-2という低
い表面密度を測定することができ、これはビーズの表面上の10
7分子に相当する。
【0245】
例えば、BSAのストークス半径は3.48nmであるので、共振器の表面上の実効結
合面積は約3.8×10-13cm2である。BSA分子が15μmのポリスチレンビーズの表面上に隙間なく結合する場合、BSAの総数は1.9×107である。これは、Q=1,000で容易に検出することができ、このレベルの感度は表面プラズモン共鳴を用いた他のラベルフリー方法に匹敵する。
【0246】
非常に高いQファクタを有する球状微小共振器は最も敏感な光学系の1つである。Q=108及び直径100μmの微小共振器の場合、光は球の周りで数十メートル移動し、表
面上の粒子は10万回以上サンプリングされる。
【0247】
レーザモードはレーザキャビティの形状に大きく依存する。これは柔らかいレーザキャビティを作りそれを力センサとして使用することによって利用することができる。油滴WGM細胞内レーザを用いて細胞内の小さな力の測定を実証した。液滴が一軸応力を受けると、その形状は変形しレーザ線の分割として放出スペクトルに現れる。小さな力の場合、形状は回転楕円体として近似することができる。レージングは赤道面に限定され最小曲率のために光損失が最も小さい。非球形のWGMのモデルに適合させることにより、赤道及び極の半軸が計算され平均直径及び偏心が与えられる。平滑化応力ΔσはΔσ=2γΔH
の液滴表面の局所的平均曲率に関連し、ここでγは表面張力でありΔHは曲率の差である。偏心が小さい場合(ε2<<1)、応力は次に近似される。
【0248】
【0249】
例えば、HeLaセルで直径8μmの油滴に加えられた横方向の応力は、Δσ=500pN/μm2(500Pa)と測定された。細胞の力学により応力は時間とともに変化す
る。内部応力の平均変動は~150pN/μm2(Pa)と測定された。死んだ細胞の変
動から決定されるこの方法の感度限界は直接画像に基づく分析よりも約1桁良好の~20pN/μm2(20Pa)である。
【0250】
細胞及び場合によっては組織内の力場は固体ポリスチレンビーズを用いても測定することができるが、その高いヤング率のために測定可能な最小力は液滴の場合よりもはるかに高い。100kPa程度の最小測定応力でビーズの細胞摂取中に力を測定した。キャビティの変形によるモード分割は、セルによるビーズ取り込み中の屈折率が局所的変化するので、分割から分離するのが困難である。
【0251】
温度に対する共鳴ピークの感度は材料特性から推定することができる。
【0252】
【0253】
ここで、αTは熱線膨張係数でありβTはキャビティ材料の相対屈折率変化係数である。ポリスチレンについては、αT≒7.5×10-5℃-1及びβT=-8.2×10-5℃-1である
。従って、これらの2つの効果は互いにほぼ相殺される。確かに、測定値は純水に浸したビーズの3pm/℃のモードシフトを示している。これは10μmのビーズについて60pm/℃の直径誤差に相当する。この温度依存性効果は2nmの直径間隔内で十分である
。培養又はインビボでの哺乳動物細胞において周囲温度を数度以内に37℃で一定に保つことに留意する必要がある。
【0254】
半導体の場合、熱膨張と屈折率変化の寄与は同じ符号を持つ。例えば、37℃でのGaAs及びInPはそれぞれ、0.59×10-5℃-1及び0.46×10-5℃-1のαT、並び
に1.15μmで7.8×10-5℃-1及び7.2×10-5℃-1のβτを有する。これにより
、GaAs及びInPレーザに対し60~90pm/℃の波長シフトになる。
【0255】
指定された値に対して「実質的に」(実質的に異なる又は実質的に同じ)、「約」、「おおよそ」などの用語は、許容可能な製造の範囲内で及び/又は意図された動作パラメータに著しく影響を及ぼす逸脱なしに相当に異なる(又は認められない)ことを示すことができることに留意されたい。特定の実施形態では、許容可能な値(実質的に同一、実質的に異なる値、又はほぼ指定値)は、例えば、+/-1パーセント偏差、+/-5パーセント偏差、又は特定のアプリケーションに応じて、指定された値から+/-10パーセント偏差を有する。他の許容可能な偏差には、例えば、最大で1パーセント又は最大で5パーセント(実質的に同じ、約、又はほぼ)又は少なくとも5パーセント又は少なくとも10パーセント(実質的により大きい場合/より小さい)を含む。
【0256】
本発明を例示的な実施形態に関して説明したが、明示的に述べたもの以外、様々な方法で前述のバージョンの異なる特徴を組み合わせることは、多くの等価物、代替物、変形物、追加物及び改変があり本発明の範囲内である。上記の詳細な説明で様々な実施形態に適用されるような新規な特徴を示し説明し指摘したが、例示されたデバイス又はアルゴリズムの形態及び詳細における様々な省略、置換、及び変更は開示の趣旨を逸脱しない。本明細書に記載される開示の特定の実施形態は、いくつかの特徴が他の特徴とは別個に使用又は実行され得るため本明細書に記載される特徴及び利点のすべてを提供しない形態で実施され得るのが認識される。本明細書に開示された特定の開示の範囲は上記の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に入るすべての変更はその範囲内に含まれるべきである。