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特開2022-137164二次イオン質量分析方法及び、質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137164
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】二次イオン質量分析方法及び、質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2258 20180101AFI20220913BHJP
【FI】
G01N23/2258
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110146
(22)【出願日】2022-07-08
(62)【分割の表示】P 2017167178の分割
【原出願日】2017-08-31
(31)【優先権主張番号】16186930.0
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509021649
【氏名又は名称】イオン-トフ テクノロジーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】カイザー スヴェン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】特にアルカリ金属を含有する絶縁材料のデプスプロファイリングにおける二次イオン質量分析法(SIMS)及び質量分析装置を提供すること。
【解決手段】二次イオン質量分析方法は、絶縁材料を含むまたは絶縁材料であるサンプル中におけるアルカリ金属のデプスプロファイリングに関して、シングル又はデュアルイオンビームSIMSとして行われる。表面近接層を除去するスパッタイオンビームとして、また、分析される二次イオンの脱離を伴う表面近接層の分析のために、同一のイオンビーム又は2つの異なるイオンビームのいずれかを使用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1016*1/cm以上のアルカリ金属を含む絶縁材料におけるアルカリ金属のデプスプロファイル分析を実施する二次イオン質量分析法(SIMS)であって、
前記サンプルに、分析ビームとしてイオンビームが照射されることで、前記サンプルの最表面層から二次イオンが脱離し、
前記サンプルの表面が、同一の又は更なるイオンビームを用いて除去され、
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、酸素分子及び/又は酸素含有分子の80%以上のガスクラスターを含んでいる、又は、これらから成り、
前記ガスクラスターは、クラスター分子あたり500から2000の酸素分子及び/又は酸素含有分子から成る80%以上のガスクラスターであり、
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、10keVより大きいエネルギーでサンプル表面に衝突する、二次イオン質量分析方法。
【請求項2】
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、酸素分子及び/又は酸素含有分子のクラスターを90%以上、含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項3】
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、10keVより大きく20keV以下のエネルギーでサンプル表面に衝突する、請求項1又は2に記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項4】
ToF-SIMS法が質量分析法として用いられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項5】
前記絶縁材料が1ppm以上及び/又は1019*1/cm以上のアルカリ金属を含み、前記絶縁材料がSiO又はガラスを含む、請求項1に記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項6】
1016*1/cm以上のアルカリ金属を含む絶縁材料におけるアルカリ金属のデプスプロファイル分析を、二次イオン質量分析法(SIMS)で実施する質量分析装置であって、
前記サンプルにイオンビームを照射する照射手段と、
前記サンプルの表面から離脱した二次イオンを検出する検出手段と、を備え、
前記サンプルに、前記照射手段から分析ビームとしてイオンビームを照射することで、前記サンプルの最表面層から二次イオンを脱離させ、
前記サンプルの最表面層から離脱した前記二次イオンを前記検出手段で検出し、
前記サンプルの表面が、同一の又は更なるイオンビームを用いて除去され、
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、酸素分子及び/又は酸素含有分子のガスクラスターを含んでいる、又は、これらから成り、
前記ガスクラスターは、クラスター分子あたり500から2000の酸素分子及び/又は酸素含有分子から成るガスクラスターであり、
前記サンプルの表面を除去する前記イオンビームは、10keVより大きいエネルギーでサンプル表面に衝突する、質量分析装置。
【請求項7】
前記絶縁材料が1ppm以上及び/又は1019*1/cm以上のアルカリ金属を含み、前記絶縁材料がSiO又はガラスを含む、請求項6に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析方法(SIMS)及びこの方法を実施する質量分析装置に関する。さらに、本発明は、絶縁材料を含むまたは絶縁材料であるサンプル中におけるアルカリ金属の分析に用いられる、このような方法、又はこのような質量分析装置、の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロエレクトロニクスにおいて、例えばナトリウム及びカリウムのような可動イオンは、非常に重要な役割を果たす。可動イオンは、電子部品中に不純物として存在する場合、電圧が印加されると、誘電体層中に急激に拡散する。不純物は、部品の物性を著しく損なうことがある。したがって、電気部品の信頼性及び寿命を最適化するために、アルカリ金属の高感度かつ定量的な検出方法が必要とされている。また、ガラスの物性は、アルカリ金属の影響を大きく受ける。ガラスの腐食は、例えばナトリウム及びカリウムのようなアルカリ金属に大きく影響される。
【0003】
二次イオン質量分析方法(SIMS)は、薄層中における元素及び化合物の深度分布を決定する、確立された方法である。二次イオンは、数keVエネルギーの一次イオンを表面に衝突させることによって放出され、質量分析装置を用いて分析される。集束された一次イオンビームを用いて走査することによって、分析される表面を均一に除去することができる。したがって、二次イオンの強度は、スパッタ深さの関数として定められる。SIMSは、ppmオーダーからppbオーダー程度の非常に低い検出限界を有する。このようにして得られた強度プロファイル(測定時間に対する強度)は、除去深さの適切な測定値に対応して較正され、デプスプロファイルに変換される。
【0004】
化学元素の二次イオン収率(一次イオン当り放出される二次イオンの数によって定義される)は、化学的環境に非常に大きく依存する。化学元素の二次イオン収率は、除去に対して反応性を有する一次イオンを用いることによって、変化する。これらの一次イオンを注入することによって、表面の化学的性質が変化し、二次イオン収率は上昇する。酸素一次イオン(O )を用いることによって、正に帯電した二次イオンの放出が促進されることが知られている。これは、一般的に、例えば金属及びアルカリ金属のような陽性元素の高感度検出に用いられる。陽性元素の二次イオン収率は、セシウムを注入することによって促進される。SIMSにおいては、どちらのタイプの一次イオンもよく用いられる。
【0005】
放出された二次イオンの分析は、様々な質量分析方法を用いて行われる。デプスプロファイルを行うために、磁場フィールドデバイス又は四重極質量分析装置が設けられる。一般的にこの場合、質量分析装置は、質量フィルターとして動作される。様々な二次イオン質量の強度は、質量フィルターに伴って起こる変化を用いて決定される。このタイプの質量分析装置は、連続した一次イオンビームを用いて動作される。
【0006】
さらに、時間飛行型質量分析装置(ToF)もまた、SIMSにおいて用いられる。ToF-SIMSと称される方法の場合、表面は、短いイオンパルスを用いて衝突される。脱離した二次イオンは加速され、適切な飛行経路を通った際の飛行時間が測定される。飛行時間から、二次イオンの質量が決定される。このタイプの分析装置を用いると、一次イオンパルスによって生成した全ての二次イオン質量は、飛行時間の測定を介して決定される。したがって、全ての質量を並行して測定することができる。しかしながら、一次イオンが数桁程度パルスすると除去速度が減少するため、デプスプロファイルにはデュアルビーム法が主に用いられる。一次イオンパルスの衝突後、サンプル表面は、飛行時間測定の間中、二次スパッタイオン源を用いてスパッタされる。二次イオン収率を高めるため、この場合、酸素及びセシウムイオン源が、スパッタイオン源としてよく用いられる。分析源としては、いわゆる液体金属イオン源を用いることができる。液体金属イオン源には、例えば、ガリウム、金、及びビスマスの液体金属イオン源が用いられる。
【0007】
帯電した一次イオンを用いた衝突、及び、電子や正または負に帯電した二次イオン等の帯電した二次粒子の放出は、絶縁サンプルの場合に表面電位の変化を引き起こす。脱離した二次イオンにおける帯電領域の効果により、エネルギーを変化させるだけでなく、軌道を変化させることができる。エネルギーの変化及び軌道の変化は、質量分析装置の透過(transmission)を著しく損なう恐れがある。さらに、エネルギーの変化及び軌道の変化は、しばしば、質量分解能に著しく障害を起こす。一次イオンの衝突に伴うサンプル表面の帯電によって、サンプルの結果は変化する可能性がある。いくつかの元素は、帯電の影響によりサンプル中を移動する(エレクトロマイグレーション)ことが知られている。エレクトロマイグレーションは、特にアルカリ金属において起こりやすい。エレクトロマイグレーションが起こると、強度またはデプスの分布が大きく歪んでしまう。
【0008】
帯電を補償するために、電子ビームがよく用いられる。一次イオンビームを用いたサンプル表面の帯電は、スパッタイオンビームを用いたデュアルビーム法においても、一般的に電気的に正である。電子は、負に帯電しているため、正の帯電を正確に補償する。これは、イオンビーム及び電子ビームの電流密度のコントロールによって行われる。数eVのエネルギーを有する非常に低エネルギーの余剰電子を用いることにより、表面電位が自動安定化される。表面は、表面電位が電子源の電位(電子源の放出電極の電位)に一致するまでのみ、電子を吸収する。この方法は、ToF-SIMSにおいてしばしば用いられる。二次イオンの抽出磁場は、飛行時間を測定する際に遮断される。そして、低エネルギーの電子は、分析場所に到達し、帯電を補償する。
【0009】
これらの帯電補償方法の使用により、二次イオン強度の信頼性のある測定を広範囲に渡って行うことができる。しかしながら、サンプルの帯電を大幅に減らしても、エレクトロマイグレーションはしばしば起こる。低い帯電が残留すると、いくつかの分子は、表面から除去されるため、一次イオンビームを用いた脱離にもはや利用することができない。この問題は、例えばSiO及びガラスのような絶縁体中のアルカリ金属のデプスプロファイリングにおいて特に顕著である。デプスプロファイリングの開始直後に、アルカリイオンの強度は、非常に大きく低下する。絶縁層の下の導電層に到達した場合のみ、エレクトロマイグレーションは停止する。これは、過密及び界面における二次イオン強度を引き起こす。
【0010】
SIMSを用いた絶縁材料のデプスプロファイリングは、サンプル表面の帯電によって非常に複雑になる。電子を帯電の補償に用いた場合でも、例えば、アルカリ金属のようないくつかの分子はエレクトロマイグレーションを起こす。正に帯電した二次イオンの収率を向上させるためにO 一次イオンを用いた場合、エレクトロマイグレーションは特に顕著であり、正確なデプスプロファイリングの測定を阻害する。
【0011】
エレクトロマイグレーションは、セシウムイオン源を用いることによって著しく減少することが知られている。しかしながら、セシウムイオン源を用いると、正に帯電したイオンの収率は著しく低下する。その結果、検出限界において相当の障害を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、特にアルカリ金属を含有する絶縁材料のデプスプロファイリングにおける二次イオン質量分析方法及び質量分析装置を提供することである。本発明に係る二次イオン質量分析方法及び質量分析装置を用いると、デプス分布の誤差を少なくし、検出限界を低くすることができる。さらに、本発明の目的は、そのような方法や質量分析装置の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の二次イオン質量分析方法、請求項7に記載の質量分析装置、請求項10に記載の用途によって達成される。本発明に係る方法及び本発明に係る質量分析装置の有益な開発は、それぞれの従属項に記載されている。
【0014】
本発明に係る二次イオン質量分析方法は、絶縁材料を含むまたは絶縁材料であるサンプル中におけるアルカリ金属のデプスプロファイリングに関して、シングル又はデュアルイオンビームSIMSとして行われる。これは、表面近接層を除去するスパッタイオンビームとして、また、分析される二次イオンの脱離を伴う表面近接層の分析のために、同一のイオンビーム又は2つの異なるイオンビームのいずれかを使用できることを意味する。
【0015】
本発明によると、少なくともサンプル表面の除去(スパッタリング)に用いるイオンビームは、好ましくは酸素分子及び/又は酸素含有分子のガスクラスターを主に又は相当含む。酸素分子及び/又は酸素含有分子のガスクラスターは、酸素分子及び/又は酸素含有分子を含む、又は酸素分子及び/又は酸素含有分子から成るクラスターの割合が、40%以上90%以下であることが好ましい。
【0016】
分析ビームとしても同じビームを使用することが可能であり、例えばビスマスなどの分析ビームに他の一次イオンを使用することも可能である。
【0017】
酸素分子及び/又は酸素含有分子からガスクラスターを生成するために、いわゆるガスクラスターイオン源(GCIS)を用いることが好ましい。酸素含有分子からガスクラスターを生成する場合、O分子を含む又はO分子から成るガス/ガス混合物は、数バールの圧力を有するノズルを用いて真空チャンバー内において膨張される。酸素分子及び/又は酸素含有分子のガスクラスターは、このようにして形成される。
【0018】
このように形成されたガスクラスターは、電子ビーム又は他の方法を用いてイオン化され、その後、加速される。次に、それらは、本発明によれば、サンプルの表面をスパッタし、及び/またはサンプルの表面の分析にさらに役立つ。
【0019】
絶縁材料上のエレクトロマイグレーションに関する実験的テストによると、特に、数keVから約10keVまでのエネルギーを有する酸素ガスクラスターイオンが、絶縁材料上のデプスプロファイリングに適している。数eVから約10keVまでのエネルギーを有する酸素ガスクラスターは、数バールの圧力を有するノズルからO分子を含む又はO分子から成るガス/ガス混合物を膨張させることによって、真空チャンバー内において生成される。例えば電子ビームを用いる方法を用いてガスクラスターをイオン化した後、イオンは加速され、スパッタイオンとして用いられたり、又はSIMSにおいて分析に用いられる。イオンビームは、数100から数1000の分子の広いサイズ分布を有するガスクラスターを含む。サイズ分布の中心は、典型的には、1イオンあたり500分子以上2000分子以下である。
【0020】
典型的には3keV以上50keV以下、好ましくは10keV以上20keV以下のエネルギーを有する場合、無機サンプルの除去のために十分に高いスパッタ収率を達成することができる。酸素ガスクラスターを用いる表面の衝突は、サンプル表面の酸化をもたらす。この酸化は、正に帯電した二次イオンの放出を促進し、その結果、非常に低い検出限界が達成される。これらのスパッタ条件下において、エレクトロマイグレーションは完全に停止することが示された。したがって、酸素ガスクラスターイオンを用いることによって、絶縁材料上のデプスプロファイリングは、エレクトロマイグレーションによってデプス分布を乱されることなく行われる。
【発明の効果】
【0021】
要約すると、本発明によると、デプスプロファイリングに用いるサンプルの表面の除去は、酸素分子及び/又は酸素含有分子の主に又はおおよそガスクラスターを含むイオンビームを用いて行われる。その結果、絶縁材料又は絶縁材料を含むサンプルにおけるデプスプロファイリングを、アルカリ金属においても行うことが可能であり、また、デプス分布の乱れを回避することができる。
【0022】
次に、本発明による方法および質量分析装置の例を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】シリコン基板上に約1μm厚さのSiO層を形成し、O、Cs及びOガスクラスターを用いて除去するToF-SIMS方法を用いたデプスの関数としてNa二次イオンを測定した結果である。
図2】シリコン基板上に約1μm厚さのSiO層を形成し、O、Cs及びOガスクラスターを用いて除去するToF-SIMS方法を用いたデプスの関数としてNa濃度を測定した結果である。
図3】酸素ガスクラスターイオンビームにおけるクラスターサイズ分布を示す。
図4】シリコン基板上に約1μm厚さのSiO層を形成し、酸素及びアルゴンガスクラスターを用いて除去するToF-SIMS方法を用いたデプスの関数としてNa二次イオン濃度を測定した結果である。
図5】異なる処理を施したSiOサンプルのNa濃度プロファイルの測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ToF-SiMSデバイスを用いて記録されたデプスプロファイルを示す。除去された深さの関数としてNa二次イオン強度が示されている。図1は、データポイント当りの記録された二次イオンの数が示される対数強度スケールに関する。シリコン基板上に塗布された厚さ1μmのSiO層をサンプルとして使用した。厚さ1μmのSiO層に、120keVエネルギーのナトリウムが5×1014イオン/cmの表面線量で注入された。注入プロファイルのデプス分布は、既に知られている。本測定により、酸素イオンO 又はセシウムイオンCsを用いた従来のデプスプロファイルに対する、スパッタイオンとしての酸素ガスクラスターイオンの優れた特性が実証された。
【0025】
第1の測定では、サンプルは、ION-TOF GmbH製のToF-SIMS質量分析装置「ToF.SIMS 5」を用いて、酸素イオンO を使用したデュアルビーム法により分析された。一次イオン種にBi を用いるビスマス液体金属イオン源は、分析ビームパルスとして機能する。ビスマス液体金属イオン源は、エネルギーが30keVであり、かつ分析表面が100×100μmである。分析電流は、10kHzのパルス周波数において4.6pAであった。データポイント当りの測定時間は、1.6秒であった。表面の除去は、エネルギーが2keVかつイオン電流が255nAであるO イオンビームを用いて、300×300μmの範囲において行われた。当業者に一般的に知られているように、20eVの電子エネルギーを有する低エネルギー電子源を、酸素イオンビームによる表面帯電の補償のために用いた。関連する測定値を図1において点線で示す。
【0026】
測定されたデプスプロファイル(点線)は、予想されたように、エレクトロマイグレーションにより非常に歪んでいる。デプスプロファイルを開始すると直ちに、ナトリウム強度が極めて低い値まで低下する。デプスプロファイルの所定の時間後のみ、すなわち、より深いデプスにおいて明らかに、強度は、再度わずかに強まる。SiO層とシリコン基板との界面において、シグナルは極めて上昇し、そしてシリコン中において急激に非常に低い値まで低下する。したがって、エレクトロマイグレーションにおける典型的なシグナルの進行は、ナトリウム原子が表面電荷と反応して表面から脱離することによって生成される。界面に到達した場合のみサンプルの電気伝導率が増加し、表面が帯電し、そしてエレクトロマイグレーションが消失する。そのため、ナトリウムシグナルは再び大幅に上昇し、サンプルのこの領域において移動したナトリウムイオンが蓄積し、過剰なナトリウムシグナルが生じる。当該測定によって、デプス分布は非常に大きく歪む。
【0027】
図1において破線を用いて示した第2の測定では、それぞれの分析間におけるサンプルの表面のスパッタのため、同一の分析条件の下でセシウムイオンビームが使用された。イオンビームはビーム電流が145nAであり、かつエネルギーが2keVであった。エレクトロマイグレーションは、予想されたように、明らかに抑制された。ナトリウム強度プロファイルは、注入されたナトリウムイオンを有するSiOのような絶縁材料上において生じる、予想されたデプス分布にほぼ対応する。それにもかかわらず、エレクトロマイグレーションがわずかに起こり、シリコン基板との界面においてわずかに過剰が生じる。しかしながら、この方法における重大な欠点は、測定感度が低いことである。セシウムを導入することによって、正に帯電した二次イオンの収率が大幅に改善される。分布の最大値では、強度は2000イオン/データポイントを下回る。
【0028】
本発明に係る方法及び質量分析装置を用いて測定した結果を、図1の実線に示す。表面層を除去するため、1400分子/イオンかつエネルギーが20keVである巨大な酸素ガスクラスターを同一の分析パラメーターを用いてデプスプロファイルに使用した。酸素ガスクラスターは、入口圧力が約35バールであるノズルを用いて生成された。真空中を伝播するガスクラスタービームを電子ビームを用いてイオン化し、ビームエネルギーが20keVとなるまで加速した。酸素ガスクラスターイオンの典型的なサイズ分布を図3に示す。サイズ分布は非常に広く、約100のO分子から約3800のO分子までである。サイズ分布の最大値は、クラスターイオン当り1400のO分子である。除去のために、ガスクラスタービームは、4.9nAのビーム電流を用いて300×300μmの表面上を走査された。
【0029】
図1に示す実線は、予想された既知の注入プロファイルに正確に対応している。具体的には、SiO絶縁体層と1000nmのデプスにおけるシリコン基板との界面において、測定方法に起因する極めて低いエレクトロマイグレーションが起こっている。界面における強度は、大きさにして、デプスプロファイルにおける最も強い強度よりも略3桁低い。
【0030】
スパッタイオンとして酸素ガスクラスターを使用することによって、サンプルの表面は著しく酸化し、Bi分析ビームを用いた脱離中にナトリウムの正に帯電した二次イオンの収率が著しく増加するというメカニズムが仮定される。その結果、絶縁材料中におけるナトリウムの検出限界が非常に低くなる。検出可能な最低濃度は、注入プロファイルのピーク濃度よりも4桁以上低い。クラスタ発射体と、より高いスパッタ収率の界面と、の特別な相互作用は、絶縁材料中におけるエレクトロマイグレーションをほぼ完全に抑制する。
【0031】
図2は、原子数/cm単位の対数濃度スケールにおける注入線量に対するキャリブレーション後に3つの異なるスパッタイオンビームを用いて図1の結果を測定したものを示す。酸素ガスクラスターを用いた測定におけるピーク濃度は、3×1019原子/cm(実線)であり、Oスパッタビーム(点線)を用いたエレクトロマイグレーションにより完全に誤った結果を示す。注入プロファイルの最大値において、測定された濃度の大きさが2桁以上減少し、シリコン基板との界面における濃度が約1020原子/cmまで増加する。セシウムスパッタ除去下における濃度プロファイル(破線)は、酸素ガスクラスターイオンに比較してわずかに低いピーク濃度を示す。しかしながら、エレクトロマイグレーションの結果のため、界面の濃度が2×1019原子/cmよりも大きい。イオン収率の低下は、約2×1016原子/cmの検出限界をもたらし、Oガスクラスターイオンを用いると、検出限界は2×1015原子/cmまで達成される。
【0032】
エレクトロマイグレーションの強度の測定から、SiO/Si界面におけるNa線量の割合が決定される。表1に示すように、図2に示す斜線領域における線量の割合は、3つの除去条件全てについて決定された。
【表1】
【0033】
つまり、酸素ガスクラスター除去下におけるエレクトロマイグレーションは、実質無視することが可能であり、濃度プロファイルを定量的に決定できることが明らかになった。
【0034】
図4において、図1に示す酸素ガスクラスターを用いた除去に伴うデプスプロファイルが、アルゴンガスクラスタービームを用いた除去と比較されている。分析パラメーター及びスパッタパラメーターは、両方の測定において同一である。図4は、両方の異なるガスクラスタービームによるシリコンマトリックスシグナルSi及びNaのデプスプロファイルを示す。酸素ガスクラスタービームは、除去中にSiO及びシリコン基板を完全に酸化させる。これは、酸素ガスクラスターの衝突下におけるSiプロファイル上(実線)に示されている。アルゴンガスクラスターの衝突(破線)下において、酸化がわずかに抑制され、Siのシグナル強度がわずかに低下する。シリコン基板における酸素の不足によって、陽イオンの収率が数桁低下するため、シグナルが著しく減少する。両方の衝突条件におけるNaプロファイルは非常に類似している。酸素ガスクラスター除去下における検出限界は、約2.5倍低い。この例は、SiO中におけるアルカリ濃度をどちらのタイプのガスクラスタービームを用いても正確に決定可能であることを示す。しかしながら、シリコン基板における濃度プロファイルは、アルゴンガスクラスタービームを用いる場合、完全に酸化し、一定のイオン化をもたらすため、酸素ガスクラスタービームを用いてのみ測定可能である。
【0035】
図5は、さらに異なるSiO層において測定されたデプスプロファイルを示す。マイクロエレクトロニクスにおいて、例えばナトリウム及びカリウムのような可動イオンは、誘電材料層内において印加電圧に起因して成分中の不純物として急速に拡散し、構成要素の特性を著しく損なう恐れがある。したがって、部品の信頼性及び寿命を最適化するために、アルカリ金属の高感度かつ定量的な検出方法が必要とされている。用いられたテストサンプルにおいて、SiO絶縁材料層は、厚さが200nmであり、シリコン基板上にそれぞれ接着される。これらのサンプルの場合、具体的には、SiO絶縁材料層へのエレクトロマイグレーションによってナトリウムが導入された。サンプルは、マイグレーションプロセスの長さ及び方向によって異なる。その後、サンプルは金を用いて被覆された。被覆の厚さは、約40nmである。図5に示す曲線は、それぞれのサンプル中におけるナトリウムの分布を示す。測定は、デュアルビーム法を用いて行われた。一次イオン種Bi を有し、エネルギーが30keVであり、分析表面が100×100μmであるビスマス液体金属イオンは、分析ビームパルスとして用いられた。デプスプロファイルに用いる表面層の除去のため、エネルギーが20keVであり、1400分子/イオン、20keVエネルギーの巨大な酸素ガスクラスターを本発明に使用した。表面の除去は、300×300μmの範囲において行われた。
【0036】
一点鎖線は、ナトリウムのSiO層への導入後のナトリウムイオンの分布を示す。点線は、マイグレーションの完了後におけるナトリウム分布を示す。破線は、逆方向への半数のマイグレーション完了後のナトリウム分布を示す。実線は、ナトリウムは沿うから再び除去された後のナトリウム分布を示す。本発明に係る方法がこれらのサンプルの定量分析が可能であることが結果から明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5