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特開2022-137188リン光発光ダイオード中の単一トリフェニレン発色団
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137188
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】リン光発光ダイオード中の単一トリフェニレン発色団
(51)【国際特許分類】
   C07C 15/38 20060101AFI20220913BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220913BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C07C15/38 CSP
H05B33/14 B
C09K11/06 690
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022111772
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2020179552の分割
【原出願日】2008-08-07
(31)【優先権主張番号】60/963,944
(32)【優先日】2007-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/017,506
(32)【優先日】2007-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503055897
【氏名又は名称】ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・ブルックス
(72)【発明者】
【氏名】チュアンジュン・シャ
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド・クウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・フィオーレリーソ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機発光デバイスに用いられる新規なトリフェニレン化合物を提供する。
【解決手段】トリフェニレン核を含む化合物であり、具体例には、複数のアリール置換基を有するトリフェニレン類が含まれる。化合物の好ましい群は、1つ以上のメタ位置換基を有する縮合していないアリール基で置換されているトリフェニレン類であって、各メタ位置換基は、非縮合アリール基及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール基である。さらなる好ましい群の化合物は、1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合ヘテロアリール基で置換されているトリフェニレン類であって、各メタ位置換基は、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール又はヘテロアリール基である。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iのトリフェニレン核を含む化合物。
【化1】
式中、R、R、及びRは独立に、水素、1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合アリール基、又は1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合ヘテロアリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素ではなく;且つ
各メタ位置換基が、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である。
【請求項2】
、R、及びRのうち少なくとも1つが、少なくとも1つのメタ位置換基を有する非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基であり、前記メタ位置換基が非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
、R、及びRのうち少なくとも1つが、少なくとも1つのメタ位置換基を有する非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基であり、前記メタ位置換基が1つ以上の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基でさらに置換されている非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
少なくとも1つのメタ位置換基が、少なくとも2つの非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基からなる鎖で置換されている、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
、R、及びRのうち少なくとも2つが、少なくとも1つのメタ位置換基を有する非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基であり、前記メタ位置換基が、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
、R、及びRのそれぞれが、パラ位置換フェニル環(para-substituted phenyl rings)を3つより多くは含まない、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記トリフェニレン核のフェニル環を含めて、パラ位置換フェニル環を3つより多くは有しない、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
下記サブ構造F~Oのいずれか1つを含む化合物。
【化2】
【化3】
【化4】
式中、R’1~6のそれぞれは独立に、水素、任意選択によりRで置換されていてもよい非縮合アリール基、及び任意選択によりRで置換されていてもよい非縮合ヘテロアリール基からなる群から選択され、Rは、非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール、複数の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリールからなる分岐鎖もしくは直鎖、又はアルキル置換されたアリールもしくはアルキル置換されたヘテロアリール基であり、R’1~6の少なくとも1つは水素ではない。
【請求項9】
下記サブ構造Gを有する、請求項8に記載の化合物。
【化5】
式中、R’及びR’のうち少なくとも1つが、非置換非縮合アリールもしくは非置換非縮合ヘテロアリール基である。
【請求項10】
下記化合物1である、請求項9に記載の化合物。
【化6】
【請求項11】
下記サブ構造Fを有する、請求項8に記載の化合物。
【化7】
式中、R’は、2つ以上の非縮合アリール基もしくは非縮合ヘテロアリール基からなる直鎖もしくは分岐鎖である。
【請求項12】
以下の:
【化8】
【化9】
のうちのいずれか1つである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
下記サブ構造Fを有する、請求項8に記載の化合物。
【化10】
式中、R’は、少なくとも1つのアルキル置換フェニル基で置換されている非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である。
【請求項14】
R’が2つのアルキル置換フェニル基で置換されている非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
下記式:
【化11】
【化12】
のいずれかである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
下記サブ構造Iを有する、請求項8に記載の化合物。
【化13】
式中、R’、R’、R’、及びR’はそれぞれ独立に、水素、非置換非縮合アリールもしくは非置換非縮合ヘテロアリール基、又は2つ以上の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基からなる直鎖もしくは分岐鎖である。
【請求項17】
以下の:
【化14】
【化15】
のいずれか1つである、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
R’、R’、R’、及びR’のそれぞれが独立に、水素、又は非置換非縮合アリールもしくは非置換非縮合ヘテロアリール基である、請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
、R、及びRのそれぞれが独立に、水素、又は1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合アリール基であり、R、R、及びRの少なくとも1つが水素ではなく;かつ、
各メタ位置換基が、非縮合アリール基及びアルキル基からなる群から選択されたさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール基である、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項20】
アノード;
カソード;
前記アノードと前記カソードとの間に配置された有機層、を含み、
前記有機層が、下記式I:
【化16】
(式中、R、R、及びRは独立に、水素、又は1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基であり、R、R、及びRのうちの少なくとも1つは水素ではなく;
各メタ位置換基は、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されたさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール基である。)
のトリフェニレン核を含む化合物を含有する、有機発光デバイス。
【請求項21】
前記有機層が、ホストと発光性ドーパントとを有する発光層であり、前記ホストが請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物である、請求項20に記載の有機発光デバイス。
【請求項22】
前記発光性ドーパントが燐光性である、請求項20に記載の有機発光デバイス。
【請求項23】
、R、及びRのそれぞれが独立に、水素、又は1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合アリール基であって、R、R、及びRのうちの少なくとも1つが水素ではなく;かつ
各メタ位置換基が、非縮合アリール基及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール基である、請求項20~22のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年8月8日に出願した米国仮出願番号No.60/963,944号、及び2007年12月28日に出願した米国仮出願番号No.61/017,506号に対する優先権を主張し、それらの開示をそれらの全体について参照により本明細書に明確に援用する。
【0002】
特許請求の範囲に記載した発明は、共同の大学・企業研究契約に関わる1つ以上の以下の団体:ミシガン大学評議会、プリンストン大学、サザン・カリフォルニア大学、及びユニバーサルディスプレイコーポレーションにより、1つ以上の団体によって、1つ以上の団体のために、及び/又は1つ以上の団体と関係して行われた。上記契約は、特許請求の範囲に記載された発明がなされた日及びそれ以前に発効しており、特許請求の範囲に記載された発明は、前記契約の範囲内で行われた活動の結果としてなされた。
【0003】
本発明は、有機発光デバイス(OLED)及び特に、そのようなデバイスに用いられるリン光有機材料に関する。さらに特に、本発明は、OLED中に組み込まれるトリフェニレン化合物に関する。
【背景技術】
【0004】
有機材料を用いるオプトエレクトロニクスデバイスは、多くの理由によりますます望ましいものとなってきている。そのようなデバイスを作るために用いられる多くの材料はかなり安価であり、そのため有機オプトエレクトロニクスデバイスは、無機デバイスに対して、コスト上の優位性について潜在力をもっている。加えて、有機材料固有の特性、例えばそれらの柔軟性は、それらを柔軟な基材上への製作などの特定用途に非常に適したものにしうる。有機オプトエレクトロニクスデバイスの例には、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池、及び有機光検出器が含まれる。OLEDについては、有機材料は、従来の材料に対して性能上優位性をもちうる。例えば、有機発光層が発光する波長は、一般に、適切なドーパントで容易に調節することができる。
【0005】
本明細書で用いるように、「有機」の用語は、有機オプトエレクトロニクスデバイスを製作するために用いることができる、ポリマー物質並びに小分子有機物質を包含する。「小分子(small molecule)」とは、ポリマーではない任意の有機物質をいい、「小分子」は、実際は非常に大きくてもよい。小分子はいくつかの状況では繰り返し単位を含んでもよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「小分子」の群から排除しない。小分子は、例えばポリマー主鎖上のペンダント基として、あるいは主鎖の一部として、ポリマー中に組み込まれてもよい。小分子は、コア残基上に作り上げられた一連の化学的殻からなるデンドリマーのコア残基として働くこともできる。デンドリマーのコア残基は、蛍光性又はリン光性小分子発光体であることができる。デンドリマーは「小分子」であることができ、OLEDの分野で現在用いられている全てのデンドリマーは小分子であると考えられる。一般に、小分子は、単一の分子量をもつ明確な化学式をもつが、ポリマーは分子ごとに変わりうる化学式と分子量とを有する。
【0006】
OLEDは、そのデバイスを横切って電圧を印加した場合に光を発する薄い有機膜(有機フィルム)を用いる。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、及びバックライトなどの用途で用いるためのますます興味ある技術となってきている。いくつかのOLEDの材料と構成が、米国特許第5,844,363号明細書、同6,303,238号明細書、及び同5,707,745号明細書に記載されており、これらの明細書はその全体を参照により本願に援用する。
【0007】
OLEDデバイスは一般に(常にではないが)少なくとも1つの電極を通して光を発するように意図され、1つ以上の透明電極が、有機オプトエレクトロニクスデバイスにおいて有用でありうる。例えば、インジウムスズオキシド(ITO)などの透明電極材料は、ボトム電極として用いることができる。米国特許第5,703,436号明細書及び同5,707,745号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されているような透明なトップ電極も使用できる。ボトム電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、トップ電極は透明である必要はなく、高い電気伝導度をもつ厚く且つ反射性の金属層からなっていてもよい。同様に、トップ電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、ボトム電極は不透明及び/又は反射性であってよい。電極が透明である必要がない場合は、より厚い層の使用はより良い伝導度をもたらすことができ、反射性電極を用いることは透明電極に向けて光を反射し返すことによって他方の電極を通して放射される光の量を多くすることができる。完全に透明なデバイスも製作でき、この場合は両方の電極が透明である。側方発光OLEDも製作することができ、そのようなデバイスでは1つ又は両方の電極が不透明又は反射性でありうる。
【0008】
本明細書で用いるように「トップ」は、基材から最も遠くを意味する一方で、「ボトム」は基材に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスについては、ボトム電極は基材に最も電極であり、通常、作製する最初の電極である。ボトム電極は2つの表面である、基材に最も近いボトム面と、基材から最も遠いトップ面とをもつ。第一の層が第二の層の「上に配置される」と記載した場合は、第一の層は基材から、より遠くに配置される。第一の層が第二の層と「物理的に接触している」と特定されていない限り、第一の層と第二の層との間に別な層があってよい。例えば、カソードとアノードとの間に様々な有機層があったとしても、カソードはアノードの「上に配置される」と記載できる。
【0009】
本明細書で用いるように、「溶液処理(加工)可能」とは、液体媒体中に溶解され、分散され、又は液体媒体中で輸送され、及び/又は溶液もしくは懸濁液の形態にある液体媒体から堆積されうることを意味する。
【0010】
本明細書で用いるように、かつ当業者によって一般に理解されているように、第一の「最高被占軌道」(HOMO)又は「最低空軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空のエネルギー準位により近い場合は、第二のHOMO又はLUMOのエネルギー準位よりも大きいか又は高い。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位に対して負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつIP(より小さな負のIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつ電子親和力(EA)(より小さな負のEA)に相当する。従来のエネルギー準位ダイヤグラム上では、上端(トップ)を真空準位とし、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも上である。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりも、そのようなダイヤグラムの上端(トップ)近くに現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献2】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献3】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献4】米国特許第5,703,436号明細書
【特許文献5】米国特許第4,769,292号明細書
【特許文献6】米国特許第6,310,360号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2002-0034656号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2002-0182441号公報
【特許文献9】米国特許出願公開第2003-0072964号公報
【特許文献10】国際公開WO02/074015号パンフレット
【特許文献11】米国特許第6,602,540号B2明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2005-0025993号公報
【特許文献13】米国特許出願公開第2003-0230980号公報
【特許文献14】米国特許第6,548,956号B2明細書
【特許文献15】米国特許第6,576,134号B2明細書
【特許文献16】米国特許第6,097,147号明細書
【特許文献17】米国特許第5,247,190号明細書
【特許文献18】米国特許第6,091,195号明細書
【特許文献19】米国特許第5,834,893号明細書
【特許文献20】米国特許第6,013,982号明細書
【特許文献21】米国特許第6,087,196号明細書
【特許文献22】米国特許第6,337,102号明細書
【特許文献23】米国特許第6,294,398号明細書
【特許文献24】米国特許第6,468,819号明細書
【特許文献25】国際公開WO2007/108362号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Baldoら, Nature, vol.395, 151~154頁, 1998
【非特許文献2】Baldoら, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.3, 4~6頁(1999)
【非特許文献3】Adachiら,J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)
【非特許文献4】GaryL.Miessler及びDonald A. Tarr,「Inorganic Chemistry」(第二版), Prentice Hall(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、リン光有機発光ダイオードにおいて有用なトリフェニレン化合物を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
具体例には、複数のアリール基で置換されているトリフェニレン(複数アリール置換トリフェニレン, multi-aryl-substituted triphenylenes)が含まれる。好ましい化合物群は、1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合アリール基(non-fused aryl group)で置換されたトリフェニレン類であり、各メタ位置換基は、非縮合アリール基及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール基である。いくつかの高三重項エネルギー類縁体は、深青リン光ドーパントとともに機能することが予期される。
【0015】
追加の好ましい化合物は、1つ以上のメタ位置換基を有する非縮合ヘテロアリール基(non-fused heteroaryl group)で置換されているトリフェニレン類であり、各メタ位置換基は、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール又はヘテロアリール基である。
【0016】
本発明の好ましい態様では、単一トリフェニレン発色団を含むオプトエレクトロニクス材料は、ホスト材料及びエンハンスメント層材料(enhancement layer material)の有用な群として実証されている。これらの化合物は、赤及び緑のリン光発光材料でドープされたデバイス用ホスト及びブロッカー(blocker)として長いデバイス寿命を示している。リン光ホスト材料として用いた場合、単一トリフェニレン含有化合物は、2つのトリフェニレン発色団を含む比較例のホストと比べて、ドーパントの発光の赤色遷移(レッドシフト)が小さいことを実証している。この光学的効果は、より飽和した色でデバイスが作製されることを可能にする。単一トリフェニレン含有誘導体の追加の利点は、それらが容易に合成でき且つ2つの発色団を含む多くの誘導体と比較してより溶解性でありうることである。これらの材料の向上した溶解性は、精製に有利であり、且つこれらの材料が溶液加工によるデバイス又はインクジェット印刷されたデバイスのためのホスト材料として用いられることを可能にもする。
【0017】
有機発光デバイスの発光層を提供する。この発光層は、リン光材料とトリフェニレン化合物とを含む。このトリフェニレン化合物は、リン光材料のHOMO及びLUMOエネルギー準位の間のエネルギーギャップよりも大きな、HOMO及びLUMOエネルギー準位間のエネルギーギャップ、を有することが好ましい。
【0018】
好ましい態様では、発光層中のトリフェニレン化合物は、そのHOMOエネルギー準位とそのLUMOエネルギー準位との間のエネルギーギャップが少なくとも約1.8eVである。
【0019】
別の態様では、トリフェニレン化合物は、リン光材料の最高被占軌道よりも低い最高被占軌道を有する。
【0020】
別の態様では、トリフェニレン化合物は、リン光材料の最低空軌道よりも高い最低空軌道を有する。
【0021】
一つの態様では、発光層はリン光材料とトリフェニレン化合物とを含み、そのトリフェニレン化合物が下記式:
【化1】
を有する。
【0022】
上記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、及びR12はそれぞれ独立に、H、又はアリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルキル、アラルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、及びアルキニルからなる群から選択される置換基であり、且つこのトリフェニレン化合物は少なくとも2つの置換基を有する。このトリフェニレン化合物は、1400未満の分子量を有することが好ましい。いくつかの好ましい態様では、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11、及びR12のうち少なくとも1つは、アリール及び置換アリールから選択される。別の態様では、R、R、R、R、R10、及びR11のそれぞれが、アリール及び置換アリールから選択され、なお別の態様では、R、R、R、R、R10、及びR11のそれぞれがアリール及び置換アリールから選択され且つR、R、R、R、R10、及びR11が全て同じである。
【0023】
本発明の単一トリフェニレン発色団の一側面を表す一般構造を以下に示す。
【0024】
【化2】
【0025】
上記式中、R、R、Rは独立して、Hであるか又はアリール基であり(但し、トリフェニレンを除く)、且つR、R、Rのうち少なくとも1つはHではない。
【0026】
また、R、R、Rは独立して、H、アリール基、又はヘテロアリール基であってもよく(但し、トリフェニレンを除く)、且つR、R、Rの少なくとも1つはHではない。
【0027】
有機エレクトロルミネッセンスデバイスも提供する。好ましいデバイスは、アノード、カソード、及びこのアノードとカソードの間に、トリフェニレン材料とリン光材料とを含む発光層を含む。トリフェニレン材料は下記式:
【化3】
を有していることができる。
【0028】
上記式中、R、R、Rは独立して、Hであるか又はアリール基であり(但し、トリフェニレンを除く)、且つR、R、Rのうち少なくとも1つはHではない。
【0029】
また、R、R、Rは独立して、H、アリール基、又はヘテロアリール基であってもよく(但し、トリフェニレンは除く)、且つR、R、Rのうち少なくとも1つはHではない。
【0030】
さらに、アノード、カソード、並びにアノードとカソードとの間の発光層を含む有機エレクトロルミネッセンスデバイスも提供し、この発光層はリン光材料と、繰り返し単位を有する化合物とを含み、その繰り返し単位がトリフェニレン残基を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、別個の電子輸送層、正孔輸送層、及び発光層、並びにその他の層を有する有機発光デバイスを示す。
図2図2は、別個の電子輸送層をもたない倒置型有機発光デバイスを示す。
図3図3は、デバイス1~6のEL(電界発光)スペクトルを示す。
図4図4は、デバイス1~6についての量子効率対輝度を示す。
図5図5は、デバイス2~6についての寿命試験データ(40mA/cm)を示す。
図6図6は、デバイス7~9について、ELスペクトルを示す。
図7図7は、デバイス8~9についての、量子効率対輝度を示す。
図8図8は、デバイス8~9についての寿命試験データ(40mA/cm)を示す。
図9図9は、化合物1のH NMRスペクトルを示す。
図10図10は、化合物2のH NMRスペクトルを示す。
図11図11は、化合物4のH NMRスペクトルを示す。
図12図12は、単一トリフェニレン発色団を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一般にOLEDは、アノードとカソードの間に配置され且つこれらと電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が流された場合、その有機層(単数又は複数)中にアノードは正孔を注入し、カソードは電子を注入する。注入された正孔と電子は、それぞれ反対に帯電した電極に向かって移動する。同じ分子上に電子と正孔が局在した場合、励起エネルギー状態を有する、局在化した電子-正孔対である「励起子」が形成される。この励起子が発光機構によって緩和する時に光が発せられる。ある場合には、励起子はエキシマー又はエキシプレックス上に局在することもできる。非放射機構、例えば熱緩和も起こることがあるが、通常は好ましくないと考えられている。
【0033】
初期のOLEDでは、例えば、米国特許第4,769,292号(その全体を参照により援用する)に開示されているように、一重項状態から発光する(「蛍光」)発光分子を用いた。蛍光発光は一般に、10ナノ秒未満の時間フレームで起こる。
【0034】
より最近、三重項状態から発光する(「リン光」)発光材料を有するOLEDが実証された。Baldoら,「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」, Nature, vol.395, 151~154頁, 1998(「Baldo-I」)、および、Baldoら, 「Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence」, Appl. Phys. Lett., vol.75, No.3, 4~6頁(1999)(「Baldo-II」)(これらはその全体を参照により援用する)。リン光は「禁制」遷移とよばれることがあり、なぜなら、この遷移がスピン状態の変化を必要とし、量子力学はこのような遷移は好ましくないことを示しているからである。結果として、リン光は一般に、少なくとも10ナノ秒を超える時間フレームで起こり、典型的には100ナノ秒を超える。リン光の自然な放射寿命が長すぎると、三重項が非放射機構により減衰して全く光が放出されないということがあり得る。有機リン光は、しばしば、非共有電子対を有するヘテロ原子を含む分子においてもまた、非常に低温で観察される。2,2'-ビピリジンはこのような分子である。非放射減衰機構は、通常、温度に左右されるので、液体窒素温度でリン光を示す有機材料は、通常、室温ではリン光を示さない。しかし、Baldoにより実証されたように、室温で実際にリン光を発するリン光化合物を選択することによってこの問題を解決できる。代表的な発光層には、米国特許第6,303,238号、米国特許第6,310,360号;米国特許出願公開第2002-0034656号;同第2002-0182441号;同2003-0072964号;ならびに国際公開WO02/074015号パンフレットに開示されているようなドープされているか又はドープされていないリン光有機金属材料が含まれる。
【0035】
一般に、OLED内の励起子は、約3:1の比で、すなわち、約75%の三重項と約25%の一重項として生成されると考えられている。Adachiら、「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」, J. Appl. Phys., 90, 5048頁(2001)(これはその全体を参照により援用する)を参照されたい。多くの場合、一重項励起子は「項間交差」を通じて三重項励起状態に容易にエネルギーを移動できるが、三重項励起子はそれらのエネルギーを一重項励起状態に容易には移動できない。結果として、リン光OLEDで100%の内部量子効率が理論的には可能である。蛍光デバイスにおいては、三重項励起子のエネルギーは、通常、デバイスを昇温させる無放射減衰過程に費やされるので、結果的に内部量子効率はずっと小さくなる。三重項励起状態から発光するリン光材料を用いるOLEDが、例えば、米国特許第6,303,238号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。
【0036】
リン光発光に先立って、三重項励起状態から中間の非三重項状態への遷移が起こり、そこから発光減衰が起こりうる。例えば、ランタニド元素に配位した有機分子は、しばしば、ランタニド金属に局在化した励起状態からリン光を発する。しかし、このような材料は三重項励起状態から直接リン光を発するのでなく、代わりに、ランタニド金属イオンに集中した原子励起状態から発光する。ユーロピウムジケトネート錯体はこれらのタイプの化学種の1つの群を例示する。
【0037】
三重項からのリン光は、有機分子を大きな原子番号の原子のごく近くに好ましくは結合を通じて留めることによって、蛍光を超えて強めることができる。この現象は、重原子効果とよばれ、スピン-軌道カップリングとして知られている機構によって生じる。このようなリン光遷移は、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)などの有機金属分子の励起金属から配位子への電荷移動(metal-to-ligand charge transfer、MLCT)状態から観察されうる。
【0038】
本明細書で用いるとおり、「三重項エネルギー」という用語は、所定の材料のリン光スペクトル中に認められる最も高いエネルギー的特徴部分に対応するエネルギーをいう。最も高いエネルギー的特徴部分は、必ずしも、リン光スペクトルにおける最大強度を有するピークではなく、例えば、そのようなピークの高エネルギー側の明瞭な肩の極大値であり得る。
【0039】
本明細書で用いるとおり「有機金属」の用語は、当業者によって一般に理解され、例えばGary L. Miessler及びDonald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(第二版), Prentice Hall(1998)に示されているとおりである。したがって、有機金属の語は、炭素-金属結合を通して金属に結合した有機基を有する化合物をいう。この群は、それ自体は配位化合物を含まず、配位化合物はヘテロ原子からの供与結合のみを有する物質、例えば、アミン、ハロゲン化物(halide)、擬ハロゲン化物(pseudohalide)(CN等)等の金属錯体などである。実際には、有機金属化合物は、一般に、有機種に対する1つ以上の炭素-金属結合に加えて、ヘテロ原子からの1つ以上の供与結合を含む。有機種に対する炭素-金属結合は、金属と有機基、例えば、フェニル、アルキル、アルケニルなどの炭素原子との間の直接結合をいうが、「無機炭素」、例えばCN又はCOの炭素への金属の結合をいわない。
【0040】
図1は有機発光デバイス100を示している。この図は、必ずしも一定の縮尺で描かれていない。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子阻止層130、発光層135、正孔阻止層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、およびカソード160を含み得る。カソード160は、第一導電層162および第二導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、記載した層を順次、堆積させることによって作製できる。
【0041】
基板110は所望の構造特性を備えた任意の適切な基板であってよい。基板110は柔軟であっても堅くてもよい。基板110は、透明、半透明、または不透明であり得る。プラスチックおよびガラスは好ましい堅い基板材料の例である。プラスチックおよび金属箔は好ましい柔軟基板材料の例である。基板110は回路の作製を容易にするために、半導体材料であってもよい。例えば、基板110は、続いて基板上に堆積されるOLEDを制御できる回路がその上に作製されているシリコンウェハであってもよい。他の基板を使用してもよい。基板110の材料および厚さは、所望の構造特性および光学特性が得られるように選択されうる。
【0042】
アノード115は、有機層に正孔を輸送するために十分な導電性である任意の適切なアノードであってよい。アノード115の材料は、好ましくは、約4eVより大きい仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)、ならびに金属が含まれる。アノード115(および基板110)は、ボトム発光デバイスを作るために十分に透明であってよい。好ましい透明基板とアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積された市販のITO(アノード)である。柔軟かつ透明な基板-アノードの組合せは、米国特許第5,844,363号明細書および米国特許第6,602,540号B2明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されている。アノード115は不透明および/または反射性であってよい。反射性アノード115は、デバイスのトップからの発光量を増加させるために、いくつかのトップ発光デバイスでは好ましいものであり得る。アノード115の材料および厚さは、所望の導電性および光学特性が得られるように選択されうる。アノード115が透明である場合、特定の材料に対して、所望の導電性をもたせるのに十分なだけ厚いが、それでも所望の透明度をもたせるのに十分なだけ薄い、厚さの範囲があり得る。他のアノード材料および構造を用いてもよい。
【0043】
正孔輸送層125には、正孔を輸送できる材料が含まれうる。正孔輸送層130は真性(ドープされていない)であってもドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。α-NPDおよびTPDは真性正孔輸送層の例である。p型ドープ正孔輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、50:1(m-MTDATA:F4-TCNQ)のモル比でF4-TCNQでドープされたm-MTDATAである。他の正孔輸送層を用いてもよい。
【0044】
発光層135は、電流がアノード115とカソード160との間に流れたときに発光できる有機材料を含みうる。好ましくは、発光層135はリン光発光材料を含むが、蛍光発光材料も使用されうる。リン光材料が、このような材料に付随するより高いルミネセンス効率のために好ましい。発光層135はまた、電子および/または正孔を輸送できるホスト材料(これは電子、正孔、および/または励起子を捕捉しうる発光材料によりドープされており、それにより励起子が光放出機構によって発光材料から緩和する)を含んでいてもよい。発光層135は、輸送および発光特性を併せもつ単一材料を含んでいてもよい。発光材料がドーパントであるか主成分であるかにかかわらず、発光層135は、発光材料の発光を調整するドーパントなどの他の材料を含みうる。発光層135は、組み合わされて所望の光スペクトルを発光できる複数の発光材料を含んでいてもよい。リン光発光材料の例には、Ir(ppy)3が含まれる。蛍光発光材料の例には、DCMおよびDMQAが含まれる。OLED中のホスト材料の例には、Alq、CBPおよびmCPが含まれる。OLED中の発光材料及びホスト材料の例は、Thompsonらの米国特許第6,303,238号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。本発明においては、好ましいホスト材料はトリフェニレン化合物を含む。トリフェニレン化合物は、米国特許出願公開第20050025993号公報に記載された電子輸送材料など、OLEDにおけるその他の用途に有用な材料である。発光材料は多くのやり方で発光層135に含めることができる。例えば、発光性の小分子(small molecule)がポリマーに組み込まれてもよい。これは、いくつかのやり方によって、例えば、小分子を、別個の独立した分子種としてポリマーにドープすることによって;あるいは、低分子をポリマー骨格に組み込み、コポリマーを形成させることによって;あるいは、低分子をペンダント基としてポリマーに結合させることによって、実施できる。他の発光層の材料および構造を用いてもよい。例えば、小分子の発光材料は、デンドリマーのコアとして存在してもよい。
【0045】
多くの有用な発光材料は、金属中心に結合した1つまたは複数の配位子を含む。配位子は、それが有機金属発光材料の光活性特性に直接寄与する場合、「光活性」とよぶことができる。「光活性」配位子は、金属と共同で、光子が放出されるときに、電子がそこから移動するエネルギー準位及びそこへ移動するエネルギー準位を提供しうる。他の配位子は「補助」ということができる。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることによって分子の光活性特性を改変し得るが、補助配位子は光の放出に直接関与するエネルギー準位を直接提供はしない。1つの分子において光活性である配位子は別の分子においては補助でありうる。光活性および補助のこれらの定義は本発明を限定しない説を意図している。
【0046】
電子輸送層145は電子を輸送できる材料を含みうる。電子輸送層145は、真性(ドープされていない)であっても、またはドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用されうる。Alqは真性電子輸送層の例である。n型ドープ電子輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、1:1のモル比でLiによりドープされたBPhenである。他の電子輸送層を用いてもよい。
【0047】
電子輸送層の電荷担体成分は、電子輸送層のLUMO(最低非占有分子軌道)エネルギー準位へ、電子がカソードから効率的に注入されうるように選択できる。「電荷担体成分」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギー準位を担う材料である。この成分はベース材料であっても、あるいはそれはドーパントであってもよい。有機材料のLUMOエネルギー準位は一般にその材料の電子親和力により特徴付けることができ、カソードの相対的電子注入効率は一般にカソード材料の仕事関数によって特徴付けることができる。これは、電子輸送層および隣接するカソードの好ましい特性は、ETL(電子輸送層)の電荷担体成分の電子親和力とカソード材料の仕事関数とによって特定できることを意味する。特に、高い電子注入効率を達成するためには、カソード材料の仕事関数は、電子輸送層の電荷担体成分の電子親和力より、好ましくは約0.75eVを超えては大きくなく、より好ましくは約0.5eVを超えては大きくない。同様の考慮は、電子が注入される如何なる層にも適用される。
【0048】
カソード160は、カソード160が電子を伝導し、且つデバイス100の有機層に電子を注入できるような、当技術分野で知られている如何なる適切な材料または材料の組合せであってもよい。カソード160は透明または不透明であってよく、また反射性であってよい。金属および金属酸化物は適切なカソード材料の例である。カソード160は単層であっても、あるいは複合構造を有していてもよい。図1は、薄い金属層162と、より厚い導電性金属酸化物層164とを有する複合カソード160を示している。複合カソードにおいて、より厚い層164のための好ましい材料には、ITO、IZO、および当技術分野において知られているその他の材料が含まれる。米国特許第5,703,436号、米国特許第5,707,745号、米国特許第6,548,956号B2、および米国特許第6,576,134号B2(これらは全体を参照により援用する)は、スパッタリングにより堆積させた透明で導電性のITO層が上に重なったMg:Agなどの薄い金属層を有する複合カソードを含む、カソードの例を開示している。下にある有機層と接触しているカソード160の部分は、それが単層カソード160、複合カソードの薄い金属層162、または何らかのその他の部分であるかどうかにかかわらず、約4eVより小さい仕事関数を有する材料(「低仕事関数材料」)から作られていることが好ましい。その他のカソード材料および構造を用いてもよい。
【0049】
阻止層(blocking layer)は、発光層から出て行く電荷担体(電子もしくは正孔)および/または励起子の数を減らすために使用できる。電子阻止層130は、電子が発光層135を離れて正孔輸送層125に向かうことを妨害するために、発光層135と正孔輸送層125との間に配置できる。同様に、正孔阻止層140は、正孔が発光層135を離れて電子輸送層145に向かうことを妨害するために、発光層135と電子輸送層145との間に配置できる。阻止層はまた、励起子が発光層から拡散して出て行くのを妨害するためにも使用できる。阻止層の理論と使用は、米国特許第6,097,147号明細書およびForrestらの米国特許出願公開第2003-0230980号公報(これらは全体を参照により援用する)に、より詳細に記載されている。
【0050】
本明細書で用いており、かつ、当業者により理解されているように、「阻止層」という用語は、この層が、デバイスを通っての電荷担体および/または励起子の輸送を著しく抑制するバリアを提供することを意味するが、この層が電荷担体および/または励起子を必ずしも完全に妨害することは示唆していない。デバイス中にこのような阻止層が存在することにより、阻止層のない類似のデバイスと比べて、実質的により高い効率をもたらしうる。また、阻止層は、OLEDの所望の領域に発光を限定するためにも使用できる。
【0051】
一般に、注入層は、一つの層、例えば電極または有機層から、隣接する有機層への電荷担体の注入を向上させうる材料から構成される。注入層は電荷輸送機能も果たしうる。デバイス100において、正孔注入層120は、アノード115から正孔輸送層125への正孔の注入を向上させる如何なる層であってもよい。CuPcは、ITOアノード115、および他のアノードからの正孔注入層として使用されうる材料の例である。デバイス100において、電子注入層150は、電子輸送層145への電子の注入を向上させる如何なる層であってもよい。LiF/Alは、隣接する層から電子輸送層への電子注入層として用いうる材料の例である。他の材料または材料の組合せを注入層に用いてもよい。特定のデバイス構成に応じて、注入層はデバイス100において示されているものとは異なる位置に配置されてもよい。注入層のより多くの例は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている。正孔注入層は、スピンコーティングされたポリマー(例えばPEDOT:PSS)などの、溶液によって堆積された材料を含んでいるか、あるいは、それは蒸着された小分子材料(例えば、CuPcまたはMTDATA)であってもよい。
【0052】
正孔注入層(HIL)は、アノードから正孔注入材料への効率的な正孔の注入をもたらすように、アノード表面を平坦化し、または濡らしうる。正孔注入層はまた、HILの一方の側に隣接するアノード層とHILの反対側の正孔輸送層とに都合よく適合するHOMO(最高被占分子軌道)エネルギー準位(本明細書に記載されている相対的イオン化ポテンシャル(IP)エネルギーにより定義されているようなエネルギー準位)を有する電荷担体成分を有することもできる。「電荷担体成分」は、実際に正孔を輸送するHOMOエネルギー準位を担う材料である。この成分はHILのベース材料であるか、あるいは、それはドーパントであってもよい。ドープされたHILを用いることにより、ドーパントをその電気的特性で選択でき、ホストをモルホロジー的特性(例えば、濡れ性、柔軟性、靱性など)によって選択できる。HIL材料の好ましい特性は、正孔がアノードからHIL材料に効率的に注入されることができるということである。特に、HILの電荷担体成分は、好ましくは、アノード材料のIPより約0.7eVを超えない範囲で大きいIPを有する。より好ましくは、電荷担体成分は、アノード材料より約0.5eVを超えない範囲で大きいIPを有する。同様の考慮は、正孔が注入される如何なる層にも適用される。HIL材料は、HIL材料が従来の正孔輸送材料の正孔伝導度よりも実質的に小さい正孔伝導度を有しうるという点で、OLEDの正孔輸送層に通常使用される従来の正孔輸送材料からさらに区別される。本発明のHILの厚さは、アノード層の表面を平坦化し又は濡らすことを助けるために十分に厚くてよい。例えば、10nmほどの薄いHILの厚さでも、非常に滑らかなアノード表面に対しては許容可能でありうる。しかし、アノード表面は非常に粗い傾向があるので、いくつかの場合には最大で50nmまでのHILの厚さが望ましいことがある。
【0053】
保護層は次の製造工程の間、下にある層を保護するために使用できる。例えば、金属または金属酸化物の上部電極(トップ電極)を作製するために用いられる工程は有機層を損傷しうるので、保護層はこのような損傷を減らすか、または無くすために使用されうる。デバイス100において、保護層155は、カソード160の作製中、下にある有機層への損傷を減らすことができる。保護層は、保護層がデバイス100の駆動電圧を著しく増大させないように、それが輸送する担体のタイプ(デバイス100では電子)に対する大きな担体移動度を有することが好ましい。CuPc、BCP、および様々な金属フタロシアニンは、保護層に使用されうる材料の例である。その他の材料または材料の組合せを用いてもよい。好ましくは、保護層155の厚さは、有機保護層155が堆積された後に実施される製造工程によって下にある層への損傷がほとんどまたは全くないように充分に厚いが、デバイス100の駆動電圧を著しく増大させる程には厚くない。保護層155はその導電性を増すためにドープされてもよい。例えば、CuPcまたはBCPの保護層155はLiでドープされうる。保護層のより詳細な説明は、Luらの米国特許出願第09/931,948号(これはその全体を参照により援用する)に見ることができる。
【0054】
図2は倒置型(inverted)OLED200を示している。このデバイスは、基板210、カソード215、発光層220、正孔輸送層225、およびアノード230を含む。デバイス200は記載した層を順に堆積させることによって製造できる。最も一般的なOLEDの構成はアノードの上方に配置されたカソードを有し、デバイス200はアノード230の下方に配置されたカソード215を有するので、デバイス200を「倒置型」OLEDとよぶことができる。デバイス100に関して記載したものと同様の材料を、デバイス200の対応する層に使用できる。図2は、デバイス100の構造からどのようにいくつかの層を省けるかの1つの例を提供している。
【0055】
図1および2に例示されている簡単な層状構造は非限定的な例として与えられており、本発明の実施形態は多様な他の構造と関連して使用できることが理解される。記載されている具体的な材料および構造は事実上例示であり、その他の材料および構造も使用できる。設計、性能、およびコスト要因に基づいて、実用的なOLEDは様々なやり方で上記の記載された様々な層を組み合わせることによって実現でき、あるいは、いくつかの層は完全に省かれうる。具体的に記載されていない他の層を含むこともできる。具体的に記載したもの以外の材料を用いてもよい。本明細書に記載されている例の多くは単一の材料を含むものとして様々な層を記載しているが、材料の組合せ(例えばホストおよびドーパントの混合物、またはより一般的には混合物)を用いてもよいことが理解される。また、層は様々な副層(sublayer)を有してもよい。本明細書において様々な層に与えられている名称は、厳格に限定することを意図するものではない。例えば、デバイス200において、正孔輸送層225は正孔を輸送し且つ発光層220に正孔を注入するので、正孔輸送層として、あるいは正孔注入層として説明されうる。一実施形態において、OLEDは、カソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有するものとして説明できる。この有機層は単一の層を含むか、または、例えば図1および2に関連して記載された様々な有機材料の複数の層をさらに含むことができる。
【0056】
具体的に記載されていない構造および材料、例えばFriendらの米国特許第5,247,190号(これはその全体を参照により援用する)に開示されているようなポリマー材料で構成されるOLED(PLED)、も使用することができる。さらなる例として、単一の有機層を有するOLEDを使用できる。OLEDは、例えば、Forrestらの米国特許第5,707,745号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているように、積み重ねられてもよい。OLEDの構造は、図1および2に示されている簡単な層状構造から逸脱していてもよい。例えば、基板は、光取出し(out-coupling)を向上させるために、Forrestらの米国特許第6,091,195号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているメサ構造、および/またはBulovicらの米国特許第5,834,893号(これはその全体を参照により援用する)に記載されているピット構造などの、角度の付いた反射表面を含みうる。
【0057】
特に断らないかぎり、様々な実施形態の層のいずれも、何らかの適切な方法によって堆積されうる。有機層については、好ましい方法には、熱蒸着(thermal evaporation)、インクジェット(例えば、米国特許第6,013,982号および米国特許第6,087,196号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、有機気相成長(organic vapor phase deposition、OVPD)(例えば、Forrestらの米国特許第6,337,102号(その全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびに有機気相ジェットプリンティング(organic vapor jet printing、OVJP)による堆積(例えば、米国特許出願第10/233,470号(これはその全体を参照により援用する)に記載されている)が含まれる。他の適切な堆積方法には、スピンコーティングおよびその他の溶液に基づく方法が含まれる。溶液に基づく方法は、好ましくは、窒素または不活性雰囲気中で実施される。その他の層については、好ましい方法には熱蒸着が含まれる。好ましいパターニング方法には、マスクを通しての堆積、圧接(cold welding)(例えば、米国特許第6,294,398号および米国特許第6,468,819号(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびにインクジェットおよびOVJDなどの堆積方法のいくつかに関連するパターニングが含まれる。その他の方法も用いることができる。堆積される材料は、それらを特定の堆積方法に適合させるために改変されてもよい。例えば、分枝した又は分枝のない、好ましくは少なくとも3個の炭素を含むアルキルおよびアリール基などの置換基が、溶液加工性を高めるために、小分子に用いることができる。20個又はそれより多い炭素を有する置換基を用いてもよい、3~20炭素が好ましい範囲である。非対称構造を有する材料は対称構造を有するものよりも良好な溶液加工性を有しうるが、これは、非対称材料はより小さな再結晶化傾向を有しうるからである。デンドリマー置換基は、小分子が溶液加工を受ける能力を高めるために用いることができる。
【0058】
本明細書に開示した分子は、本発明の範囲から外れることなく多くの様々なやり方で置換できる。
【0059】
本発明の実施形態により製造されたデバイスは多様な消費者製品に組み込むことができ、これらの製品には、フラットパネルディスプレイ、コンピュータのモニタ、テレビ、広告板(ビルボード)、室内もしくは屋外の照明灯および/または信号灯、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明な(fully transparent)ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンタ、電話機、携帯電話、携帯情報端末(personal digital assistant、PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダー、マイクロディスプレイ、乗り物、大面積壁面(large area wall)、映画館またはスタジアムのスクリーン、あるいは標識が含まれる。パッシブマトリクスおよびアクティブマトリクスを含めて、様々な制御機構を用いて、本発明にしたがって製造されたデバイスを制御できる。デバイスの多くは、18℃から30℃、より好ましくは室温(20~25℃)などの、人にとって快適な温度範囲において使用することが意図されている。
【0060】
本明細書に記載した材料及び構造は、OLED以外のデバイスにおける用途を有しうる。例えば、その他のオプトエレクトロニクスデバイス、例えば、有機太陽電池及び有機光検出器は、これらの材料及び構造を用いることができる。より一般には、有機デバイス、例えば、有機トランジスタは、これらの材料及び構造を用いることができる。
【0061】
本明細書で用いられるように、「ハロ」又は「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を含む。
【0062】
「アルキル基」の語は、本明細書で用いるように、直鎖状及び分枝鎖状アルキル基の両方を意図している。好ましいアルキル基は、1~15の炭素原子を含むアルキル基であり、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどが含まれる。加えて、アルキル基は、ハロ、CN、COR、C(O)R、NR、環式アミノ、NO、及びORから選択される1つ以上の置換基で任意選択により置換されていてもよい。
【0063】
「シクロアルキル基」の語は、本明細書で用いるように、環状アルキル基を意図している。好ましいシクロアルキル基は3~7個の炭素原子を含むものであり、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。さらに、シクロアルキル基は、ハロ、CN、COR、C(O)R、NR、環式アミノ、NO、及びORから選択される1つ以上の置換基で任意選択により置換されていてもよい。
【0064】
「アルケニル」の語は、本明細書で用いるように、直鎖及び分枝鎖状のアルケン基を意図している。好ましいアルケニル基は2~15個の炭素原子を含むものである。さらに、アルケニル基は、ハロ、CN、COR、C(O)R、NR、環式アミノ、NO、及びORから選択される1つ以上の置換基で任意選択により置換されていてもよい。
【0065】
「アルキニル」の語は、本明細書で用いるように、直鎖及び分枝鎖状のアルキン基を意図している。好ましいアルキニル基は2~15個の炭素原子を含むものである。さらに、アルキニル基は、ハロ、CN、COR、C(O)R、NR、環式アミノ、NO、及びORから選択される1つ以上の置換基で任意選択により置換されていてもよい。
【0066】
「ヘテロ環(式)基」の語は、本明細書で用いるように、非芳香族環式基を意図している。好ましいヘテロ環基は少なくとも1個のヘテロ原子を含む3~7個の環原子を含むものであり、これには環式(環状)アミン、例えば、モルホリノ、ピペリジノ、ピロリジノなど、及び環式(環状)エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどが含まれる。
【0067】
「アリール」又は「芳香族基」の語は、本明細書で用いるように、単環基並びに多環式環システムを意図している。この多環式環は、2つ以上の環を有し、そのうち2つの原子が、2つの隣接する環によって共有されており(この複数環は「縮合」している)、その環のうち少なくとも1つが芳香族であり、例えば、他方の環はシクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロ環、及び/又はヘテロアリールであることができる。
【0068】
「ヘテロアリール基」の語は、本明細書で用いるように、1~4個のヘテロ原子を含んでいることができる単環式ヘテロ芳香族基、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、及びピリミジンなどを意図している。ヘテロアリールの語はまた、2つ以上の環を有し、そのなかの2つの原子が2つの隣接する環に共有されている(これらの環は「縮合」している)多環式ヘテロ芳香族システムであって、その環のうち少なくとも1つがヘテロアリールであるものも含み、例えば、他の環はシクロアルキル、シクロアルケニル、アリール、ヘテロ環、及び/又はヘテロアリールであることができる。
【0069】
本発明は、リン光材料とトリフェニレン化合物とを含む有機発光層、並びにそのような発光層を含むデバイスを目的とする。具体的なトリフェニレン化合物も提供する。本発明の好ましい態様では、有機発光層は、リン光材料と任意選択により置換基を有していてもよいトリフェニレン化合物とを含む。複数置換基は同じでも異なっていてもよく、それぞれが、アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、アルケニル、アルキニル、及びヘテロアルキルからなる群から選択される。分解なしに減圧(vacuum)で蒸発しうる1400未満の分子量を有するトリフェニレン化合物が特に好ましい。高効率及び長寿命が、本発明に従って作製したデバイスによって実証されている。トリフェニレンの高い三重項エネルギーが、トリフェニレン化合物を、深青色リン光ドーパントとともに用いるためのホスト又は共ホスト(co-host)として特に適したものにしている。
【0070】
トリフェニレンは、高い三重項エネルギーと、第一の一重項と第一の三重項準位との間にかなり小さなエネルギー差をもつ多環式芳香族炭化水素である。このことは、トリフェニレンが、同様の三重項エネルギーをもつその他の芳香族化合物(例えば、ビフェニル)と比較して、かなり容易に利用可能なHOMO及びLUMO準位を有することを示している。ホストとしてトリフェニレン及びその誘導体を用いることの利点は、それが、赤、緑、そして青色リン光ドーパントにさえ適合し、エネルギーの失活なしに高い効率を得ることができることである。
【0071】
好ましくは、本発明におけるトリフェニレン化合物は、リン光材料のHOMO及びLUMOエネルギー準位間のエネルギーギャップよりも大きな、HOMO及びLUMOエネルギー準位間のエネルギーギャップを有する。
【0072】
好ましい態様では、本発明におけるトリフェニレン化合物は、少なくとも約1.8eVの、そのHOMOエネルギー準位とそのLUMOエネルギー準位との間のエネルギーギャップを有する。
【0073】
別の態様では、このトリフェニレン化合物は、リン光材料の最高被占軌道よりも低い最高被占軌道を有する。
【0074】
別の態様では、このトリフェニレン化合物は、リン光材料の最低空軌道よりも高い最低空軌道を有する。
【0075】
一つの側面では、本発明は、長いデバイス寿命及び飽和ドーパント発光をもつ高効率リン光デバイスを可能にする、単一トリフェニレン含有材料に基づく新しい群のホスト及びエンハンスメント層(enhancement layer)について述べる。いくつかの例では、2つのトリフェニレンを含むトリフェニレン発色団に基づくこれまでのホスト及びエンハンスメント材料は、単一のトリフェニレン発色団を含む材料よりも溶解性が低いことがわかった。いくつかの例では、2つのトリフェニレンを含む材料をホストとして用いた場合、それらはドーパントの発光スペクトルをレッドシフトさせることが観察されている。対して、本明細書に記載した単一トリフェニレン化合物は、リン光ホストとして用いた場合、ドーパントの発光スペクトルをレッドシフトさせない。これは、より飽和したドーパント色を可能にするという利点である。加えて、単一トリフェニレン置換材料のこの新しい群は容易に合成でき、なぜなら、ただ一つのトリフェニレンのカップリング反応しか必要としないからである。これらの材料は、カラムクロマトグラフィー精製に有用である溶解性を向上することが実証されている。最後に、この向上した溶解性は、これらの材料が、溶液加工されるデバイスに用いられることを可能にする。
【0076】
本明細書に記載した単一トリフェニレン含有ホスト及びエンハンスメント材料において、トリフェニレンはアリール基で置換されていてもよい。特に好ましい態様では、そのアリール基は、直接の共役を制限し且つ高い三重項エネルギーを保つために、そのメタ位で置換されている。トリフェニレンの環も含めて、4つより多い直線状のパラ置換フェニル環は、三重項エネルギーを低下させてドーパントのリン光発光を消光させるのに充分であると考えられる。メタ置換フェニレン鎖又はメタ分岐フェニル環は、対称性の低下を助け、結晶性を低下させ、溶解性を向上させうる。
【0077】
本明細書に記載した単一のトリフェニレンを含有するホスト及びエンハンスメント材料は、ヘテロアリール基で置換されているトリフェニレンも包含する。特に好ましい態様では、ヘテロアリール基は、直接の共役を制限し且つ高い三重項エネルギーを保つために、そのメタ位で置換されている。上で議論した理由により、メタ置換ヘテロアリール鎖は、高い三重項エネルギーを保ち、対称性を低くし、結晶性を低下させ、且つ溶解性を向上させることを助けうる。
【0078】
本発明の単一トリフェニレン発色団の側面を説明する一般構造は以下に示される。
【0079】
【化4】
【0080】
式中、R、R、Rは独立に、H、又は非縮合アリール基であり(但し、トリフェニレンを除く)、且つR、R、Rのうち少なくとも1つはHではない。好ましくは、R、R、及びRのそれぞれは独立に、水素、又は1つ以上のメタ置換基を有する非縮合アリール基であり、R、R、及びRのうちの少なくとも1つは水素ではなく、且つ各メタ位置換基は、非縮合アリール基及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール基である。
【0081】
加えて、R、R、Rは独立に、H、非縮合アリール基、又は非縮合ヘテロアリール基であり(但し、トリフェニレンを除く)、且つR、R、Rのうち少なくとも1つはHではない。好ましくは、R、R、Rのそれぞれは独立に、水素、又は1つ以上のメタ置換基を有する非縮合アリール又はヘテロアリール基であり、R、R、及びRのうち少なくとも1つは水素ではなく、各メタ位置換基は、非縮合アリール基、非縮合ヘテロアリール基、及びアルキル基からなる群から選択されるさらなる置換基で任意選択により置換されていてもよい非縮合アリール又はヘテロアリール基である。
【0082】
本発明の単一トリフェニレン発色団の側面を説明する追加の構造を以下に示し、式中、R’、R’、R’、R’、R’、R’はアリール基である(但し、トリフェニレンを除く)。
【0083】
【化5】
【0084】
【化6】
【0085】
サブ構造(substructure)A~OのR’、R’、R’、R’、R’、R’は、アリール又はヘテロアリール基である(但し、トリフェニレンを除く)。
【0086】
合成し、本発明の単一トリフェニレン発色団の側面を実証した具体例を以下に示す。
【0087】
【化7】
【0088】
【化8】
【0089】
これらの材料は、2つのトリフェニレン発色団を含む比較例1及び2と比べてより溶解性であることがわかった。
【0090】
【化9】
【0091】
化合物1、2、3、4、7、8、11、及び12を用いてVTEデバイスを作製した。これらの材料は、ホストとして、及びエンハンスメント層として安定であることがわかった。加えて、緑色リン光ドーパントのためのホストとして用いた場合、構造G及びFに基づく化合物1、2、3、4、及び11は、表1に示したCIE座標並びに図3及び6に示したELスペクトルによって実証されるように、比較例1及び2と比べて、緑色ドーパントの発光の非常にわずかなレッドシフトしかしないことを発見した。加えて、構造H及びIに基づく化合物7及び8は、表1のCIE座標によって示されているように比較例1と比べて少ないレッドシフトしかしないことも発見されたが、先に記載した実施例ほどには小さくはなかった。ホストのこのカラーシフト効果は、より飽和した緑色発光をもたらすデバイス構造の設計のための重要なツールである。このデバイスデータは、単一のトリフェニレンを含むホスト材料が、2つのトリフェニレンを含む比較例と比べて、CIE座標に関する利点を提供することを実証している。加えて、化合物1、2、4、5、及び8は、有機溶媒に非常に溶けやすく、溶液加工デバイスにおけるリン光ホストとして用いられた。これらの例において、メタ置換アリール環が対称性を低下させて、溶解性を向上させることを助けることができると考えられる。単一のトリフェニレンを有する材料をホストとして用いる溶液加工デバイスについてのデータを表2に示している。相対的に、2つのトリフェニレンを有する比較例1及び2は、溶液加工のために充分な溶解性ではない。したがって、単一のトリフェニレンを有する材料は、溶解性及び加工性に関してかなりの利点を有することができる。
【0092】
サブ構造F~Mが好ましいことが指摘される。これらのサブ構造において、トリフェニレンは追加のメタ-アリール置換を含むフェニル環で置換されており、これはWO2007/108362に見ることができる例と比べた場合に重要な差異である。トリフェニレン上に置換したフェニル環がそのメタ位でさらに置換されていることは、直接のフェニル-フェニル共役を制限するために重要である。4つのパラ置換フェニル環は、緑のリン光発光を消光させるのに充分低い三重項エネルギーをもたらしうると考えられる。したがって、3つ以下のパラ置換フェニレン環しか存在しないサブ構造F、G、H、及びIは、最も好ましいサブ構造である。4つのパラ置換フェニル環の消光効果は、比較例3からのデバイスデータによって実証されている。この例では、その2つの置換フェニル環と、トリフェニレンの縮合環とが、4つのパラ置換フェニル環の直鎖を形成している。比較例3の77KのPLは、493nmのλmaxピークをもつリン光発光を示す。比較例3を用いたデバイスは、その他の例と比べて非常に低い量子効率をもたらしている(図7)。
【0093】
加えて、この材料に、昇華と薄膜の熱安定性のために充分高い分子量を付与するために、追加のメタ-アリール置換が存在していることが好ましい。この材料の分子量が低すぎる場合、材料が非常に低い温度で昇華して、蒸着工程を制御することを困難にする。加えて、非常に低い分子量は、低いガラス転移温度(Tg)を有する材料をもたらしうる。材料が低いTgを有し、且つ高い対称性をもち非常に平面的である場合、その材料は安定な非晶質膜を形成せずに、結晶化する傾向になりえる。低いTgは低い熱安定性をもたらし、劣るデバイス性能をもたらすおそれもある。比較例3及び4は追加のフェニル置換基をもたず、それらの低い分子量が低い熱安定性とそれにより劣ったデバイス性能をもたらすと考えられる。このことは図8のデバイス寿命に示されている。比較例3及び4を用いるデバイス8及び9は、それぞれ、図8に示されているように、40mA/cmの一定電流密度で駆動した場合、100時間未満の非常に短い半寿命(ハーフライフタイム)(T50)を有する。デバイス2~6は、より大きな分子量をもつホスト材料を用いており、そのため、図5に示されている(T50>>100時間)とおり、より良好なデバイス安定性をもたらしている。
【0094】
本発明の単一トリフェニレン発色団の側面は、リン光有機発光ダイオードにおけるホスト及びエンハンスメント層として用いるための、単一のトリフェニレンを含む材料を説明している。これらの材料は、2つのトリフェニレン発色団を含むホスト及びエンハンスメント層に対する利点を提供しうる。単一のトリフェニレン含有誘導体は、トリフェニレンの単一のカップリング反応しか必要としないので、合成するのがより容易である。加えて、これらの材料は、より溶解性であることができ、これは精製手法、例えば、カラムクロマトグラフィー及び再結晶を可能にする。向上した溶解性は、これらの材料が溶媒工程、例えばスピンキャスティング又はインクジェットプリンティングによって作製されるデバイス中の材料として用いられることを可能にもできる。最後に、単一トリフェニレンのホストが、比較例1及び2で作製したデバイスと比べて、リン光ドーパントの発光をレッドシフトさせないことが実験的にわかっている。この効果は、改善された色飽和度を有するデバイスを作製することを可能にする。
【0095】
材料の定義
本明細書で用いるように、材料をいう略語は以下のとおりである。
CBP: 4,4’-N,N-ジカルバゾール-ビフェニル
m-MTDATA: 4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
Alq3: 8-トリス-ヒドロキシキノリンアルミニウム
Bphen: 4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
n-BPhen: n-ドープ型BPhen(リチウムでドープ)
F4-TCNQ: テトラフルオロ-テトラシアノ-キノジメタン
p-MTDATA: p-ドープ型m-MTDATA(F4-TCNQでドープ)
Ir(ppy)3: トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム
Ir(ppz)3: トリス(1-フェニルピラゾロト,N,C(2’)イリジウム(III)
BCP: 2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
TAZ: 3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール
CuPc: 銅フタロシアニン
ITO: インジウムスズオキシド
NPD: N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(1-ナフチル)-ベンジジン
TPD: N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-トリル)-ベンジジン
BAlq: アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)4-フェニルフェノラート
mCP: 1,3-N,N-ジカルバゾール-ベンゼン
DCM: 4-(ジシアノエチレン)-6-(4-ジメチルアミノスチリル-2-メチル)-4H-ピラン
DMQA: N,N’-ジメチルキナクリドン
PEDOT:PSS: ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネート(PSS)の水性分散物
HPT: 2,3,6,7,10,11-ヘキサフェニルトリフェニレン
2,7-DCP: 2,7-N,N-ジカルバゾールフェナントレン
3,3’-DC-o-TerP: 3,3’-ジカルバゾール-o-ターフェニル
4,4’-DC-o-TerP: 4,4’-ジカルバゾール-o-ターフェニル
2,6’-DCN: 2,6-N,N-ジカルバゾールナフタレン
Ir(5-Phppy)3: トリス[5’-フェニル(2-フェニルピリジン)]イリジウム(III)
Ir(3-Meppy)3: トリス(3-メチル-2-フェニルピリジン)イリジウム(III)
Ir(1-piq)3: トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム(III)
Ir(3-Mepq)2(acac): ビス(3-メチル-2-フェニルキノリン)イリジウム(III)アセチルアセトナート
Ir(5-Phppy)3: トリス[5-フェニル(2-フェニルピリジン)]イリジウム(III)
Ir(pq)2(acac): ビス(2-フェニルキノリン)イリジウム(III)アセチルアセトナート
2,2-BT: 2,2-ビストリフェニレン
HPT: 2,3,6,7,10,11-ヘキサフェニルトリフェニレン
H1NT: 2,3,6,7,10,11-ヘキサ(1-ナフチル)トリフェニレン
H2BT: 2,3,6,7,10,11-ヘキサ(2-ビフェニル)トリフェニレン
【0096】
本発明の具体的な代表的態様を、どのようにその態様を作ることができるかを含めて説明する。その具体的態様、材料、条件、プロセスパラメータ、装置などは、本発明の範囲を必ずしも限定しないことが理解される。
【実施例0097】
〔単一トリフェニレン化合物1の合成〕
【化10】
【0098】
トリフェニレン(19.0 g, 83 mmol)を600 mLのニトロベンゼンに添加した。全てのトリフェニレンが溶けた後、鉄粉(0.07 g, 1.25 mmol)を添加した。反応フラスコを氷浴に入れた。50 mLのニトロベンゼン中の臭素(20.0 g, 125 mmol)を滴下ロートからゆっくり添加した。その後、反応物を氷浴中で5時間撹拌した。HPLCを行って反応を観察した(TLCはトリフェニレンとブロモトリフェニレンの分離を示さなかった)。トリフェニレン:2-ブロモトリフェニレン:ジブロモトリフェニレンの比が約2:7:1(254 nmにて)に達したときに、Na2SO3溶液を添加することによって反応を停止させた。混合物を次にCH2Cl2で抽出した。一緒にした有機抽出液をMgSO4上で乾燥させ、CH2Cl2をロートバップ(rotovap)によって除去した。残るニトロベンゼンを減圧蒸留で除去して粗製ブロモトリフェニレン生成物を得て、これをさらに精製することなく用いた。
【0099】
【化11】
【0100】
254 nmで観測するHPLCに基づいて約70%の2-ブロモトリフェニレンを含むブロモトリフェニレン混合物20.0 g、18.7 g(73 mmol)のビス(ピナコラート)ジボロン、1.6 gのPd(dppf)2Cl2、20 g(200 mmol)の酢酸カリウム、及び400 mLのDMSOを、室温にてN2下で混合した。この混合物を脱気し、次に12時間、80℃に加熱した。室温に冷却後、混合物を氷水に注いだ。次に沈殿物をろ過によって集めた。その固体をジクロロメタンに溶かし、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。粗生成物を、溶離液としてヘキサン及びジクロロメタンの混合物(6:1から3:1)の混合物を用いるカラムによって精製した。10 gの純粋な生成物である4,4,5,5-テトラメチル-2-(トリフェニレン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロランを単離した。
【0101】
【化12】
【0102】
〔単一トリフェニレン化合物2の合成〕
【化13】
【0103】
未反応のトリフェニレン、モノブロモ及びジブロモトリフェニレンの2:7:1混合物を含むブロモトリフェニレン混合物12 g(39 mmol)、13 g(86 mmol)の3-フェニルボロン酸、0.6 g(1.56 mmol)の2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)、及び25 g(117 mmol)のリン酸三カリウム(K3PO4)を丸底フラスコ中に秤量した。150 mLのトルエンと80 mLの水を溶媒としてフラスコに添加した。この溶液を窒素でパージし、0.4 g(0.39 mmol)のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd2(dba)3]を添加した。この溶液を加熱して12時間還流させた。冷却し、有機層を分離し、MgSO4で乾燥させた。溶離液としてヘキサン/ジクロロメタン(1/0から3/2への濃度勾配)を用いて、カラムクロマトグラフィーにより、トリフェニレン及びジ(3-メトキシフェニル)置換トリフェニレンから、生成物を容易に分離した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、生成物である2-(3-メトキシフェニル)トリフェニレンを夜通し減圧下で乾燥させた。
【0104】
【化14】
【0105】
窒素下にて丸底フラスコ中で、1.8 g(5.4 mmol)の2-(3-メトキシフェニル)トリフェニレンを25 mLの無水ジクロロメタンに溶かした。この溶液を-78℃に冷やし、4 g(1.5 mL, 16 mmol)のボロントリブロマイドをシリンジからゆっくり添加した。この溶液を室温まで温め、夜通し撹拌した。氷を注意深く添加して未反応のBBr3を失活させた。氷の添加によって3-(トリフェニレン-2-イル)フェノール中間体が沈殿し、ジクロロメタンを添加して溶かした。有機層を分離し、MgSO4で乾燥させ、ロータリーエバポレーターでジクロロメタンを除去し、生成物を減圧下で乾燥させた。
【0106】
1.7 g(5.3 mmol)の3-(トリフェニレン-2-イル)フェノールを、0.84 g(10.5 mmol)の無水ピリジン及び100 mLの無水ジクロロメタンとともに、窒素下でフラスコに添加した。この溶液を氷浴中で冷やし、2.97 g(10.5 mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)をシリンジからゆっくり添加した。この溶液を室温まで温め、夜通し撹拌した。この溶液を水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレーターによる蒸発で除去した。生成物である3-(トリフェニレン-2-イル)フェニルトリフルオロメタンスルホネートを、ヘキサン/ジクロロメタン(1/0から1/1への勾配)を溶離液として用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0107】
官能化された中間体である3-(トリフェニレン-2-イル)フェニルトリフルオロメタンスルホネートのための合成手順は、以前記載されていた官能化中間体である4,4,5,5-テトラメチル-2-(トリフェニレン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロランよりも顕著な優位性をもっている。極性の大きな違いと優れた溶解性によって、2-(3-メトキシフェニル)トリフェニレンは、未反応のトリフェニレン及びジ置換3-メトキシフェニルトリフェニレンの
混合物からカラムクロマトグラフィーによって容易に精製することができる。対して、対応するジ置換物質からの4,4,5,5-テトラメチル-2-(トリフェニレン-2-イル)-1,3,2-ジオキサボロランの分離はずっと困難であって時間もかかることが、実際問題としてわかっている。したがって、3-(トリフェニレン-2-イル)フェニルトリフルオロメタンスルホネートのためのこの合成経路は、高純度のトリフェニレン系オプトエレクトロニクス材料を得るために有利である。
【0108】
【化15】
【0109】
〔単一トリフェニレン化合物3の合成〕
【化16】
【0110】
【化17】
【0111】
〔単一トリフェニレン化合物4の合成〕
【化18】
【0112】
〔単一トリフェニレン化合物5の合成〕
【化19】
【0113】
【化20】
【0114】
【化21】
【0115】
〔単一トリフェニレン化合物6の合成〕
【化22】
【0116】
〔単一トリフェニレン化合物7の合成〕
【化23】
【0117】
〔単一トリフェニレン化合物8の合成〕
【化24】
【0118】
〔単一トリフェニレン化合物9の合成〕
【化25】
【0119】
150 mLのトルエン及び50 mLの水の中のトリブロモベンゼン(10 g, 31.8 mmol)、p-トリルボロン酸(7.3 g, 54.0 mmol)、トリフェニルホスフィン(1.7 g, 6.4 mmol)、及び炭酸カリウム(23.7 g, 172 mmol)の混合物を調製した。20分間、この混合物中に直接窒素をバブリングさせた。次に酢酸パラジウムを添加した(0.36 g, 1.6 mmol)。さらに10分間、その混合物中に再び窒素をバブリングさせた。混合物を、窒素下で夜通し加熱し還流させた。反応混合物を室温まで冷却した。有機層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。混合物を純粋なヘキサンを用いたシリカカラムで精製して5.0 gの白色粉末を得た(47%)。
【0120】
【化26】
【0121】
100 mLの無水ジオキサン中の、5’-ブロモ-4,4’’-ジメチル-m-ターフェニル(1)(4.5 g, 13.3 mmol)、ピナコールジボレート(4.1 g, 16.0 mmol)、酢酸カリウム(3.9 g, 40 mmol)の混合物を調製した。15分間、その混合物中に直接窒素をバブリングさせた。次に、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.33 g, 0.4 mmol)を添加し、次に窒素をさらに10分間混合物中にバブリングさせた。反応混合物を夜通し窒素下で80℃に加熱した。次の日に反応混合物を冷やし、ジクロロメタンで希釈し、水で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。混合物を5%以下の酢酸エチル/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製した。固体を熱いヘキサンからの再結晶によってさらに精製して3.9 gの白色固体(76%)を得た。
【0122】
【化27】
【0123】
120 mLのトルエン及び40 mLの水中の、中間体2(3.5 g, 9.1 mmol)及びトリフェニレントリフレート(3.75 g, 8.3 mmol)、リン酸三カリウム(5.3 g, 24.9 mmol)の混合物を調製した。15分間この混合物に直接窒素をバブリングさせた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0.76 mg, 0.08 mmol)及びSPhos(136 mg, 0.33 mmol)を添加し、次にさらに10分間その混合物中に窒素をバブリングさせた。反応混合物を夜通し窒素下で還流させた。次の日、反応混合物を室温まで冷やした。有機層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。混合物を30%以下のジクロロメタン/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製し、4.7 gの白色粉末(92%)を得た。
【0124】
〔単一トリフェニレン化合物10の合成〕
【化28】
【0125】
150 mLのトルエン及び50 mLの水中、トリブロモベンゼン(10 g, 31.8 mmol)、p-トリルボロン酸(7.3 g, 54.0 mmol)、トリフェニルホスフィン(1.7 g, 6.4 mmol)、及び炭酸カリウム(23.7 g, 172 mmol)の混合物を調製した。20分間この混合物中に直接窒素をバブリングさせた。次に、酢酸パラジウム(0.36 g, 1.6 mmol)を添加した。窒素をさらに10分間混合物中に再びバブリングさせた。混合物を窒素下で夜通し加熱還流させた。反応混合物を室温まで冷やした。有機層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。混合物を、純粋なヘキサンを用いるシリカカラムによって精製して、3.4 gの無色オイル(32%)を得た。
【0126】
【化29】
【0127】
100 mLの無水ジオキサン中、5’-ブロモ-4,4’’-ジメチル-m-ターフェニル(4)(3.5 g, 10 mmol)、ピナコールジボレート(3.2 g, 12 mmol)、酢酸カリウム(3.1 g, 31 mmol)の混合物を調製した。15分間この混合物中に窒素をバブリングさせた。次に、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(0.25 g, 0.31 mmol)を添加し、次にさらに10分間この混合物中に窒素をバブリングさせた。反応混合物を夜通し窒素下で80℃に加熱した。次の日、反応混合物を冷やし、ジクロロメタンで希釈し、水で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。混合物を5%以下の酢酸エチル/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製した。固体を熱いヘキサンからの再結晶によってさらに精製して2.5 gの白色固体(63%)を得た。
【0128】
【化30】
【0129】
トルエン/水(3:1)中で、中間体2(1.1当量)及びトリフェニレントリフレート(1当量)、リン酸三カリウム(3当量)の混合物を調製した。15分間この混合物中に直接窒素をバブリングさせた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(1%当量)及びSPhos(0.04当量)を添加し、次にさらに10分間この混合物中に窒素をバブリングさせた。反応混合物を窒素下で夜通し還流させた。次の日、反応混合物を室温まで冷やした。有機層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。混合物を30%以下のジクロロメタン/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製して最終生成物を得た。
【0130】
〔単一トリフェニレン化合物11の合成〕
【0131】
【化31】
【0132】
12.9 g(28.5 mmol)の3-(トリフェニレン-2-イル)フェニルトリフルオロメタンスルホネート、6.5 g(42.8 mmol)の3-フェニルボロン酸、0.47 g(1.1 mmol)の2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)、及び18.2 g(85.5 mmol)のリン酸三カリウム(K3PO4)を、丸底フラスコ中に秤量した。そのフラスコに150 mLのトルエン及び80 mLの水を溶媒として添加した。この溶液を窒素でパージし、0.26 g(0.28 mmol)のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd2(dba)3]を添加した。この溶液を12時間加熱し還流させた。冷却して有機層を分離し、MgSO4で乾燥させた。生成物は、溶離液としてヘキサン/ジクロロメタン(1/0から3/2への勾配)を用いるカラムクロマトグラフィーによって容易に分離された。溶媒をロータリーエバポレーターによる留去によって除去し、生成物である2-(3’-メトキシビフェニル-3-イル)トリフェニレン11.7 g(28 mmol)が得られた。
【0133】
【化32】
【0134】
窒素下にて丸底フラスコ中で、11.5 g(28 mmol)の2-(3’-メトキシビフェニル-3-イル)トリフェニレン及び21.1 g(183 mmol)のピリジン塩酸塩を204℃に加熱した。冷却し、水を添加し、ジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機画分をさらなる水で洗浄し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。固体をセライト上に乾燥したまま詰め(ドライパック)、生成物を、溶離液としてヘキサン:ジクロロメタン(1:4)を用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。溶媒をロータリーエバポレーターによって除去して、生成物である3’-(トリフェニレン-2-イル)ビフェニル-3-オール8.6 g(22 mmol)を得た。
【0135】
8.6 g(22 mmol)の3’-(トリフェニレン-2-イル)ビフェニル-3-オールを、窒素下で、3.4 g(43.4 mmol)の無水ピリジン及び450 mLの無水ジクロロメタンとともにフラスコに添加した。この溶液を氷浴中で冷やし、12.2 g(43.4 mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)をシリンジからゆっくり添加した。この溶液を室温まで温め、夜通し撹拌した。この溶液を水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレーターによる蒸発によって除去した。生成物である3’-(トリフェニレン-2-イル)ビフェニル-3-イルトリフルオロメタンスルホネートを、溶離液としてヘキサン/ジクロロメタン(1/0から1/1の勾配)を用いるカラムクロマトグラフィーによって精製して10.7 g(20.2 mmol)を得た。
【0136】
【化33】
【0137】
9.7g(18.4 mmol)の3’-(トリフェニレン-2-イル)ビフェニル-3-イルトリフルオロメタンスルホネート、5.5 g(27.7 mmol)の4-ビフェニルボロン酸、0.3 g(0.74 mmol)の2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)、及び11.7 g(55.3 mmol)のリン酸三カリウム(K3PO4)を、丸底フラスコ中に秤量した。150 mLのトルエンと80 mLの水とフラスコに溶媒として添加した。この溶液を窒素でパージし、0.17 g(0.18 mmol)のトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)[Pd2(dba)3]を添加した。この溶液を12時間、加熱し還流させた。冷却し、有機層を分離し、MgSO4で乾燥させ、ろ過した。溶媒をロータリーエバポレーターによって蒸発させて除去し、固体をトルエンから再結晶し、高真空下で昇華させて6 g(11.2 mmol)の化合物11を得た。
【0138】
〔単一トリフェニレン化合物12の合成〕
【化34】
【0139】
4,4’-ジメトキシ-o-ターフェニル
1,2-ジブロモベンゼン(50 g, 212 mmol)、4-メトキシフェニルボロン酸(78 g, 513 mmol)、トリフェニルホスフィン(11.12 g, 42.2 mmol)、炭酸カリウム(73.25 g, 530 mmol)、ジメトキシエタン(290 mL)、及び水(290 mL)からなる混合物を調製した。20分間、この混合物中に窒素を直接バブリングさせた。酢酸パラジウム(4.76 g, 21.2 mmol)を添加し、混合物を夜通し窒素下で加熱し還流させた。反応混合物を冷やし、水及びジクロロメタンを添加した。層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を、セライトを通してろ過し、食塩水で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させて黒色オイルを得た。この粗製物質を0から100%のジクロロメタン/ヘキサンで溶離するクロマトグラフィーによって精製した。最もきれいな画分を、クーゲルロール(Kugelrohr)を使用して200~220℃での蒸留によって精製した。生成物は煮沸フラスコ中に残り、かついくらかの生成物と一緒にバルブ中に不純物が蒸留された。49 g(80%)のきれいな生成物が得られた。
【0140】
【化35】
【0141】
2,11-ジメトキシトリフェニレン
12.4 g(42.7 mmol)の4,4’-ジメトキシ-o-ターフェニル及び16 g(63.0 mmol)のヨウ素片を250 mLの反応容器中に入れた。200 mLのトルエンを添加し、次に30 mLのプロピレンオキシドを添加した。再循環冷却機によって冷却された凝縮器を用いて、光反応装置を組み立てた。400 Wの中圧水銀灯を光源として使用した。反応容器はキャビネット中に据えた。ランプを点灯させた(冷却機温度は、反応器に存在する水が(出口の流れに取り付けた熱電対によって観察して)20℃~25℃の間に保たれるように設定した)。18時間、反応をさせておいた。固体を濾別し、ヘキサンで洗浄し、2.2 gの物質が回収されただけであった。濾液をトルエンで希釈し、硫酸ナトリウム溶液で洗浄した。水層をトルエンで逆抽出し、有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。物質をトルエンに溶かし、亜硫酸ナトリウム溶液を添加し、撹拌した。層を分離し、水層をトルエンで抽出し、一緒にした有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させた。残留物を0から100%の酢酸エチル/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製した。8.8 gの物質を得た(72%)。
【0142】
【化36】
【0143】
トリフェニレン-2,11-ジオール
2,11-ジメトキシトリフェニレン(8.8 g, 30.5 mmol)とピリジン塩酸塩(31.73 g, 274.6 mmol)の混合物を220℃に2時間加熱した。混合物を冷やし、水を添加した。得られた固体を濾別し、水で洗い、高真空下で乾燥させた。7.45 g(94%)の所望する生成物が得られた。
【0144】
【化37】
【0145】
トリフェニレン-2,11-ジリルビス(トリフルオロメタンスルホネート)
100 mLのジクロロメタン及び13 mLのピリジンにトリフェニレン-2,11-ジオール(7.45 g, 28.62 mmol)を添加し、その溶液を氷塩浴中で冷やした。その溶液に窒素下で、70 mLのジクロロメタン中のトリフルオロメタンスルホン酸無水物(19 mL, 114.49 mmol)を滴下して添加した。反応を2時間進行させ、メタノール及び水を添加することによって失活させ、次にジクロロメタンで希釈した。黄褐色固体を濾別し、ジクロロメタン及び水で洗った。濾液の層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。有機抽出液を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させて茶色固体を得た。この茶色固体を0から100%ジクロロメタン/ヘキサンで溶離するカラムクロマトグラフィーによって精製した。1.8 gの所望の生成物が得られた。上記の後処理でろ過した黄褐色固体は、170℃における昇華とそれに続く300 mLの沸騰トルエンからの2回の再結晶によって精製した。9.6 gの所望の物質が得られ、合計11.4 g(76%)だった。
【0146】
【化38】
【0147】
2,11-ジ(フェニル-3-イル)トリフェニレン
トリフェニレン-2,11-ジリルビス(トリフルオロメタンスルホネート)(3.0 g, 5.72 mmol)、3-ビフェニルボロン酸(2.72 g, 13.73 mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(188 mg, 0.458 mmol)、リン酸三カリウム(7.21 g, 34.32 mmol)、トルエン(120 mL)、及び水(50 mL)の混合物を調製した。30分間その溶液中に直接窒素をバブリングさせた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(105 mg, 0.114 mmol)を添加し、反応混合物を夜通し窒素下で加熱し還流させた。反応混合物を冷やし、固体を濾別し、水及びメタノールで洗浄した。固体を沸騰トルエンに溶かし、硫酸マグネシウムを通してろ過した。後処理中に濾液から物質が分離した。一緒にした物質を、0から50%ジクロロメタン/ヘキサンで溶離するカラムクロマトグラフィー、昇華、20から30%ジクロロメタン/ヘキサンで溶離するカラムクロマトグラフィー、ジクロロメタン/ヘキサンからの再結晶、及び270℃での昇華によって精製した。1.5 g(50%)の純粋な生成物が得られた。
【0148】
〔比較例3の合成〕
4-フェニル-1,2-ジクロロベンゼン
【0149】
1-ブロモ-3,4-ジクロロベンゼン(20.0 g, 88.5 mmol)、フェニルボロン酸(13.5 g, 110.6 mmol)、トリフェニルホスフィン(2.32 g, 8.85 mmol)、炭酸カリウム(30.58 g, 221.25 mmol)、150 mLのキシレン、及び150 mLの水の混合物を調製した。この混合物を撹拌し、その中に20分間窒素をバブリングさせた。酢酸パラジウム(0.99 g, 4.425 mmol)を添加し、混合物を窒素下で夜通し120℃に加熱した。室温に冷却し、水及びジクロロメタンで希釈した。この混合物を、セライトを通してろ過し、セライトを水及びジクロロメタンで洗った。層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させて茶色オイルを得た。粗製物質をヘキサンで溶離するカラムクロマトグラフィーによって精製した。生成物を含む最もきれいな画分を集めた。6 g(30%)のきれいな生成物が得られた。
【0150】
4-フェニル-1,2-(4’-ビフェニル)ベンゼン
4-フェニル-1,2-ジクロロベンゼン(6.0 g, 26.9 mmol)、4-ビフェニルボロン酸(13.3 g, 67.2 mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(739 mg, 0.807 mmol)、フッ化カリウム(6.95 g, 120.0 mmol)、及び150 mLのTHFの混合物を調製した。この混合物を撹拌しながら、15分間それを通して窒素をバブリングさせた。次に、トリ-t-ブチルホスフィン(トルエン中1M, 1.6 mL, 1.614 mmol)を添加し、混合物を夜通し窒素下で還流させた。反応物を室温まで冷やし、セライトを通してろ過した。このセライトをジクロロメタンで洗い、濾液から溶媒を蒸発させた。残留物をジクロロメタンに溶かし、不溶性の灰白色固体を濾別した。濾液を、ジクロロメタン/ヘキサンで溶離するカラムクロマトグラフィーによって精製して、11.4 g(92%)の白色固体を得た。
【0151】
2,6,11-トリフェニルトリフェニレン
150 mLのジクロロメタン中の4-フェニル-1,2-(4’-ビフェニル)ベンゼン(5 g, 10.90 mmol)の溶液を調製し、窒素下でドライアイス-アセトン浴中で冷やした。この溶液に、125 mLのジクロロメタン中の[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(11.7 g, 27.26 mmol)及びボロントリフルオライド・ジエチルエーテル(4.1 mL, 32.7 mmol)の溶液を滴下して添加した。反応物を2時間、ドライアイス-アセトン浴中で撹拌し、次に、氷浴を使用して0℃まで温めた。反応をメタノール及び亜硫酸ナトリウム水溶液で失活させ、ジクロロメタンで希釈した。層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、残留物になるまで溶媒を蒸発させ、残留物をジクロロメタンに溶かした。不溶性の灰色固体を濾別した。濾液を溶媒蒸発させ、ジクロロメタン/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーによって精製した。生成物をキシレンから再結晶し、次に250℃で昇華させた。この物質を190℃で4日間昇華させて不純物を除去し、次に3:1のヘキサン:ジクロロメタンで溶離するカラムクロマトグラフィーによって精製して色を除いた。最後に、物質を230℃で昇華させて0.98 g(20%)の白色固体を得た。
【0152】
〔比較例4の合成〕
1,2-(4’-ビフェニル)ベンゼン
【0153】
1Lの三ツ口丸底フラスコに1,2-ジブロモベンゼン(25 g, 106 mmol)、4-ビフェニルボロン酸(52.5 g, 265 mmol)、トリフェニルホスフィン(5.6 g, 21.2 mmol)、炭酸カリウム(36.6 g, 265 mmol)、160 mLのDME、及び160 mLの水を添加した。30分間混合物中に窒素をバブリングし、次に酢酸パラジウム(2.4 g, 10.6 mmol)を添加した。反応混合物を夜通し窒素下で還流させた。反応混合物を室温まで冷やした。黒色固体を集め、水で洗い、次に乾燥させて54.1 gを得た。一部(15.2 g)をジクロロメタン/ヘキサンで溶離させるカラムクロマトグラフィーと、続くトルエン/ヘキサンからの再結晶によって精製した。
【0154】
2,11-ジフェニルトリフェニレン
110 mLのジクロロメタン中の1,2-(4’-ビフェニル)ベンゼン(4.44 g, 11.61 mmol)の溶液を調製し、窒素下でドライアイス-アセトン浴中で冷やした。この溶液に、100 mLのジクロロメタン中の[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(12.73 g, 29.6 mmol)とボロントリフルオライド・ジエチルエーテル(4.4 mL, 34.83 mmol)の溶液を滴下して添加した。この反応混合物を2時間、ドライアイス-アセトン浴中で撹拌し、次に氷塩浴を使用して0℃まで温めた。反応をメタノール及び亜硫酸ナトリウム水溶液で失活させ、ジクロロメタンで希釈した。エマルションが得られた。この混合物を次にセライトを通してろ過した。層を分離し、水層をジクロロメタンで抽出した。有機層を食塩水で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、溶媒を蒸発させて残留物を得た。この残留物をジクロロメタン/ヘキサンで2回溶離するカラムクロマトグラフィーと、続いての210℃での昇華によって精製した。0.51 g(12%)の白色固体が得られた。
【0155】
〔VTEデバイスデータ〕
高真空熱蒸発(vacuum thermal evaporation; VTE)を用いて、1200Å厚さのITO上にデバイス1~9を作製した。全てのデバイスは以下のデバイス構造及び層厚さを用いて作製した。ITO/HIL(100Å)/HTL(300Å)/EML(300Å)/ETL2(50Å)/ETL1(450Å)/LiF/Al。これらの層は以下のように定義される。HILは正孔注入層であり、HTLは正孔輸送層であり、EMLはドープされた発光層であり、ETL2はエンハンスメント層であり、ETLは電子輸送層である。全てのデバイスは、ドーパント1を含むHIL、NPDのHTL、Alq3のETLを用いて作製した。EMLは、緑色発光ドーパント1で10質量%ドープされた様々な単一トリフェニレンホストを含む。用いたBLは、HPT又はトリフェニレンを有するホストのいずれかである。10Å厚さのLiFとそれに続く1000Å厚さのAl層をカソードとして用いた。全てのデバイスは40 mA/cm2の一定電流密度において寿命試験を行った。このVTEデバイスの特性を表1及び図3~8に示す。
【0156】
デバイス1:ITO/ドーパント1/NPD/化合物1:ドーパント1(10%)/化合物1/Alq3/LiF/Al
【0157】
デバイス2:ITO/ドーパント1/NPD/化合物2:ドーパント1(10%)/化合物2/Alq3/LiF/Al
【0158】
デバイス3:ITO/ドーパント1/NPD/化合物4:ドーパント1(10%)/化合物4/Alq3/LiF/Al
【0159】
デバイス4:ITO/ドーパント1/NPD/化合物7:ドーパント1(10%)/HPT/Alq3/LiF/Al
【0160】
デバイス5:ITO/ドーパント1/NPD/化合物8:ドーパント1(10%)/HPT/Alq3/LiF/Al
【0161】
デバイス6:ITO/ドーパント1/NPD/化合物11:ドーパント1(10%)/HPT/Alq3/LiF/Al
【0162】
デバイス7:ITO/ドーパント1/NPD/比較例1:ドーパント1(10%)/HPT/Alq3/LiF/Al
【0163】
デバイス8:ITO/ドーパント1/NPD/比較例3:ドーパント1(10%)/比較例3/Alq3/LiF/Al
【0164】
デバイス9:ITO/ドーパント1/NPD/比較例4:ドーパント1(10%)/比較例4/Alq3/LiF/Al
【0165】
〔物質の定義〕
ドーパント1及びHPTは以下の構造を有する。
【0166】
【化39】
【0167】
【表1】
【0168】
〔溶液加工したデバイスのデータ〕
デバイス10~15は以下のようにして溶液加工を用いて作製した。正孔注入層を、シクロヘキサノン中のHIL及びドーパントであるトリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(CD1)の0.25質量%溶液により、4000rpmで30秒間スピンコーティングした。その被膜を250℃で30分間焼成した。正孔輸送層については、トルエン中のN4,N4’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N4,N4’-ビス(4-ビニルフェニル)ビフェニル-4,4’-ジアミンの1.0質量%溶液をその正孔注入層の上に、4000rpmで30秒間スピンコーティングした。被膜を次に200℃で30分間、グローブボックス中のホットプレート上で焼成した。被膜は焼成後、不溶性になった。室温に冷却後、その正孔輸送層上に1000rpmで30秒間、0.75質量%のホスト及びドーパント2(ホストとドーパントの比は88:12)の溶液をスピンコーティングすることによって発光層を堆積させた。この発光層を次に100℃で1時間焼成した。2,3,6,7,10,11-ヘキサフェニルトリフェニレン(HPT)の5 nm厚さの層とAlq3の50 nm厚さの層を次に真空熱蒸発によって堆積させ、次にLiF/Alカソードを堆積させた。
【0169】
【表2】
【0170】
〔物質の定義〕
【化40】
ドーパント2:化合物G1、G2、G3、及びG4の2:37:53:7の割合の混合物。
【0171】
【化41】
【0172】
【化42】
【0173】
【化43】
【0174】
非常に高いデバイス効率をもつリン光デバイスが、ディスプレイ、照明などの用途において非常に望まれている。フルカラー及び照明用途のためには、赤、緑、及び青色における高い駆動安定性が必須である。青色リン光ドーパント発光体の高い三重項エネルギー特性のため、高い三重項エネルギーホスト材料が必要であり、それにより高いデバイス効率を得ることができる。OLEDにおいては、広がったπ共役をもつ多環式芳香族化合物(polyaromatic compound)は通常かなりの寿命を示す。しかし、広がったπ共役をもつ多環式芳香族化合物は、通常、低い三重項エネルギーをも有する。例えば、アントラセンは1.8eVの三重項エネルギーをもつが、これは赤色リン光ドーパント、例えばIr(1-piq)2(acac)の三重項エネルギーよりも低い。結果として、ドーパント発光体としてIr(1-piq)2(acac)とともに、ホストとしてアントラセン化合物を用いたデバイスは、消光のせいで非常に非効率的である。アントラセンから1つの縮合環を除くとナフタレンになるが、これは最も小さな縮合多環式芳香族化合物である。それでもこれは2.6eVの三重項エネルギーを有し、これは深青色リン光ドーパント、例えばIr(4,6-F2-5CNppy)3の三重項エネルギーよりも低い。しかし、トリフェニレンは、その4つの縮合した環構造にもかかわらず、2.9eVの三重項エネルギーを有し、これは深青色リン光ドーパント、例えばIr(4,6-F2-5CNppy)3に適していると考えられる。トリフェニレンは様々な方法、例えば、アルキル又はアリール基を追加すること、様々な位置を通じて複数のトリフェニレンを連結し又はトリフェニレンを縮合させることで誘導体化し、その電子特性(例えば、共役、三重項エネルギー、HOMO/LUMO準位など)、構造特性(例えば、平面、非平面、キラリティー(chirality))、及び物理特性(例えば、昇華温度、溶解性)を調節することができる。トリフェニレン化合物が比較的大きな程度のπ共役とそれでも比較的高い三重項エネルギーを提供するという固有の特性は、それらを安定且つ高効率のPHOLEDのために非常に適したものにしている。
【0175】
本明細書に記載した様々な態様は例示のみのためであり、本発明の範囲を制限することを意図していないことが理解される。例えば、1つ以上のメタ置換基を有する非縮合アリール基は、任意の位置でトリフェニレンに結合できる。本明細書に記載した材料及び構造の多くは、本発明の精神から離れることなく別の材料及び構造と置き換えることができる。本発明が何故機能するのかについての様々な理論は、限定することを意図していないことが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に配置された有機層を含む有機発光デバイスの有機層であって、
下記サブ構造F:
【化1】
(式中、R’ は、R で置換された非縮合アリール基、及びR で置換された非縮合ヘテロアリール基からなる群から選択され、R は、複数の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリールからなる分岐鎖もしくは直鎖、又はアルキル置換された非縮合アリールもしくはアルキル置換された非縮合ヘテロアリール基である。)
を有する化合物を含む、有機層。
【請求項2】
前記有機層が、発光ドーパントとともにサブ構造Fを有する化合物をホストとして含む発光層である、請求項1に記載の有機発光デバイスの有機層。
【請求項3】
請求項1に記載の有機層を形成している、サブ構造Fを有する化合物及び発光ドーパントを含む組成物。
【請求項4】
アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に配置された有機層を含む有機発光デバイスの有機層であって、
下記サブ構造F:
【化2】
(式中、R’ は、任意選択によりR で置換されていてもよい非縮合アリール基からなる群から選択され、R は、非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール、複数の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリールからなる分岐鎖もしくは直鎖、又はアルキル置換された非縮合アリールもしくはアルキル置換されたヘテロアリール基である。)
を有する化合物を含む、有機層。
【請求項5】
前記有機層が、発光ドーパントとともにサブ構造Fを有する化合物をホストとして含む発光層である、請求項4に記載の有機発光デバイスの有機層。
【請求項6】
請求項4に記載の有機層を形成している、サブ構造Fを有する化合物及び発光ドーパントを含む組成物。
【請求項7】
アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間に配置された有機層を含む有機発光デバイスの有機層であって、
下記サブ構造G:
【化3】
(式中、R’ 1~2 のそれぞれは独立に、水素、及び任意選択によりR で置換されていてもよい非縮合アリール基からなる群から選択され、R は、非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリール、複数の非縮合アリールもしくは非縮合ヘテロアリールからなる分岐鎖もしくは直鎖、又はアルキル置換された非縮合アリールもしくはアルキル置換されたヘテロアリール基であり、R’ 及びR’ の少なくとも1つは水素ではない。(但し、下記式:
【化4】
の化合物を除く。)
を有する化合物を含む、有機層。
【請求項8】
前記有機層が、発光ドーパントとともにサブ構造Gを有する化合物をホストとして含む発光層である、請求項7に記載の有機発光デバイスの有機層。
【請求項9】
請求項7に記載の有機層を形成している、サブ構造Gを有する化合物及び発光ドーパントを含む組成物。
【外国語明細書】