(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137225
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】システアミンの制御放出のための組成物及びシステアミン感受性障害の全身治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/16 20060101AFI20220913BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20220913BHJP
A61K 31/145 20060101ALI20220913BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220913BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220913BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220913BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220913BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220913BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220913BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220913BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220913BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220913BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K31/16
A61K31/7076
A61K31/145
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/44
A61K9/00
A61P3/00
A61P25/00
A61P25/18
A61P13/12
A61P1/16
A61P11/00
A61P33/00
A61P7/00
A61P35/00
A61P9/10
A61P31/04
A61P31/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113367
(22)【出願日】2022-07-14
(62)【分割の表示】P 2018549197の分割
【原出願日】2017-03-17
(31)【優先権主張番号】62/309,717
(32)【優先日】2016-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518325655
【氏名又は名称】チオジェネシス セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スタントン, ヴィンセント ピー. ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】リウ, パトリス アール.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】システアミンの持続的な上昇した血中レベルを生成しながらピーク濃度を低下させ、改善された有効性を提供するようにトラフ濃度を上昇させながら副作用を最小限に抑えることができる、改善されたシステアミン産生化合物、改善された製剤、及び改善された投与レジメンを含む、改善された治療レジメンを提供する。
【解決手段】(i)インビボでシステアミンに変換可能な1つ以上のシステアミン前駆体化合物と、(ii)任意に、個々の患者及び疾患に対して調整され得るシステアミンの薬物動態プロファイルのスペクトルを生成するように配合された、その変換を増強する薬剤と、を含有する組成物、方法、及びキットを特徴とする。また、シスチン症及び他のシステアミン感受性障害の治療における治療物質の様々な投与様式を特徴とする。特に、有効成分(複数可)を、持続的なシステアミン血漿濃度を可能にする薬学的賦形剤と組み合わせた製剤を特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)胃内滞留のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
前記第1の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記胃内滞留性製剤が、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化物質を含有する製剤、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(i)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第1の活性成分と、(ii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第2の活性成分であって、前記第1の活性成分が、最初に小腸で放出されるように配合され、前記第2の活性成分が、最初に胃または小腸で放出されるように配合される、第2の活性成分と、(iii)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、薬学的組成物。
【請求項5】
前記第2の活性成分と前記第1の活性成分との比が、1:1よりも大きい、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1の活性成分及び/または第2の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記システアミン前駆体が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記システアミン前駆体が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
薬学的組成物であって、
(i)即時放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、
(ii)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第2の活性成分と、
(iii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第3の活性成分と、
(iv)任意に、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分であって、最初に大腸で放出される、第4の活性成分と、
(v)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、の混合製剤を含む、薬学的組成物。
【請求項10】
前記混合製剤が、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分であって、最初に大腸で放出される、第4の活性成分を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記第4の活性成分が、(i)pH6.8、6.9、もしくは7.0より上で溶解するpH感受性ポリマーとともに、(ii)腸内細菌によって生分解性であるが膵臓酵素によっては分解されないポリマーとともに、(iii)担体、pH感受性ポリマー、微生物分解性ポリマー、生分解性マトリックス、もしくはヒドロゲルとの共有結合として、(iv)酸化還元感受性ポリマーとともに、(v)生体付着性ポリマーとともに、または(vi)浸透圧制御製剤として配合される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含むシステアミン前駆体である、請求項9~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、ポリメタクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及びエチルセルロースから選択されるポリマーを含む腸溶性コーティングを含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
対象への投与後、システアミンの循環血漿濃度が、少なくとも8時間の期間にわたって5μM~45μMの間で連続的に維持される、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、化合物。
【請求項16】
前記化合物が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
請求項15に記載の混合ジスルフィドまたはその塩を含む、単位剤形の薬学的組成物。
【請求項18】
混合ジスルフィドを含む1種以上の活性成分を含む、単位剤形の薬学的組成物。
【請求項19】
前記混合ジスルフィドが、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、システアミン及びN-アセチル-システイン、システアミン及びホモシステイン、システアミン及びグルタチオン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びデホスホ補酵素A、システアミン及び補酵素A、4-ホスホパンテテイン及び補酵素A、パンテテイン及びN-アセチル-システイン、パンテテイン及びホモシステイン、パンテテイン及びシステイン、パンテテイン及びグルタチオン、または2つのシステアミン及びジヒドロリポ酸から形成される、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記活性成分が、胃内滞留、即時放出、遅延放出、持続放出、及び/または結腸標的放出のために配合される、請求項17~19のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記薬学的組成物が、腸溶性コーティングを含むか、または前記薬学的組成物が、前記混合ジスルフィドの微粒子を含み、前記混合ジスルフィドが、システアミン前駆体である、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記胃内滞留性製剤が、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化製剤、膨張性マトリックス製剤、またはそれらの組み合わせを含む、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
対象におけるシステアミン感受性障害を治療するための方法であって、前記障害を治療するために、治療有効量の、請求項1~22のいずれか1項に記載の薬学的組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
前記薬学的組成物が、少なくとも8時間の期間にわたって、5μM~45μMで連続的に維持された平均循環血漿濃度のシステアミンを生成する量または投与レジメンで投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記システアミン感受性障害が、シスチン症、神経変性疾患、神経発達疾患、精神神経疾患、ミトコンドリア病、腎臓、肝臓、または肺の線維性疾患、寄生虫病、鎌状赤血球症、癌、脳卒中を含む虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、細菌感染症、ウイルス感染症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎、及び非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)から選択される、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
対象の集団における特定の対象について、請求項1~22のいずれか1項に記載の組成物の投与レジメンを選択するための方法であって、
(a)前記組成物の投与前に前記対象から第1の生体試料を採取し、第1の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することと、
(b)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、前記少なくとも1つのバイオマーカーの基準発現レベルと比較することであって、前記基準レベルに対する前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記発現レベルの変化が、指定された投与レジメンでの治療に応答する可能性が高い対象を特定する、比較することと、
(c)対象の特定されたバイオマーカーレベルに対応する投与レジメンを選択することと、
(d)前記組成物を、前記選択された投与レジメンで特定の対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項27】
対象の集団における特定の対象が、請求項1~22のいずれか1項に記載の組成物での治療に応答しているかどうかを判定するための方法であって、
(a)前記組成物の投与前に、前記対象から第1の生体試料を採取し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第1の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを単離することと、
(b)前記組成物の投与後に、前記対象から第2の生体試料を採取し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第2の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを単離することと、
(c)前記第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、前記第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーと比較することと、を含み、前記第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーに対する前記第1の生体試料からの前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記発現レベルの変化が、治療に対する前記対象の応答レベルを示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆体化合物(システアミン前駆体)から、制御された量及び胃腸管内の制御された位置におけるシステアミンのインビボ産生を可能にする組成物及び方法、ならびにシステアミン感受性症状、症候群、及び疾患を治療する方法を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
システアミンは、天然に存在するアミノチオールであり、パンテテインの異化を介してインビボで生成される。前臨床及び早期臨床研究は、システアミンが、様々な疾患において治療的に活性であり得ることを示唆しているが、広範な臨床開発は、便利な投与レジメンの欠如及び不十分な毒性学によって妨げられている。
【0003】
システアミンは、いくつかの作用機序を有し、それらのほとんどは、そのチオール部分の還元能力に関連する。システアミンは、放射線治療を受けている癌患者の放射線防護剤として、及び放射線中毒の治療薬として1950年代に最初に臨床的に研究された。システアミンのチオール基は、フリーラジカル及び細胞に有害であり得る他の酸化化合物を低減することができ、それによって酸化還元ホメオスタシスに寄与する。システアミンはまた、グルタチオン及びシステインなどの他の抗酸化チオールのレベルを増加させることによって、有害な酸化体を間接的に中和することができる。例えば、システアミンは、シスチン(システインの二量体酸化形態)とのチオール-ジスルフィド交換に関与して、システアミン-システインジスルフィド及び遊離システインを形成することができる。システアミンはまた、タンパク質のシステイン残基を有するジスルフィドを形成することができ、それによってタンパク質の構造及び機能に影響を及ぼす。システアミンは、トランスグルタミナーゼ、カスパーゼ、マトリックスメタロプロテイナーゼ、及びグルタミニルシクラーゼを含む酵素を阻害することができる。システアミンは、キレート剤であり、銅に対して特に親和性がある。システアミンはまた、ソマトスタチンを含む、ある特定のペプチドホルモンの分泌を遮断する。
【0004】
システアミン治療効果についての前臨床的または臨床的証拠がある疾患としては、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病を含む神経変性疾患;腎臓、肝臓、及び肺の炎症性及び線維性疾患;糖尿病、代謝症候群、及び脂肪肝疾患のスペクトルを含む代謝疾患;ウイルス、細菌、及び寄生虫感染症を含む感染性疾患;高コレステロール血症;鎌状赤血球症を含む虚血性疾患;遺伝的ミトコンドリア障害;アルギニンのシステインへの突然変異によって引き起こされる遺伝性疾患;及び癌が挙げられる。
【0005】
しかしながら、システアミンは、現在、シスチン症の治療のためにのみFDAの承認を受けている。北米及びヨーロッパで約1,800人に影響を及ぼすシスチン症は、リソソームシスチン輸送体をコードするシスチノシン遺伝子(CTNS)の変異によって引き起こされる。シスチンは、罹患した患者のリソソームに蓄積し、最終的に沈殿するような高濃度に達し、細胞に損傷を与える結晶を形成する。未治療の患者は、10歳までに腎不全を含む多臓器損傷を受け、典型的には10代で死亡する。システアミン療法は、治癒ではないが、シスチン症患者の転帰を大幅に改善している。慎重なシステアミン療法は、腎不全を最大10年まで遅延させ、筋肉、甲状腺、及び他の臓器に対する損傷を防ぐことができる。
【0006】
システアミンは、リソソーム中の過剰のシスチンとのジスルフィド交換反応を介して作用し、システアミン-システイン混合ジスルフィド及び遊離システインを生成し、これらは両方とも機能的シスチノシン輸送体なしでリソソームから逃れることができる。シスチン症患者におけるシステアミン療法の目標は、タンパク質1ミリグラムあたり1ナノモルを下回る白血球シスチンレベル(1/2シスチンまたはシステインレベルとして測定)を維持することであり、これは困難な治療レジメンを厳密に遵守する必要がある。
【0007】
残念なことに、システアミンは、非常に不快な感覚特性(悪臭及び苦味)を有し、治療的に有効な量(青年及び成人では1日あたり1グラム以上)で摂取される場合、体臭及び口臭を生じ得る。ほとんどの患者はまた、食欲不振、悪心、嘔吐、及び/または胃痛を含む胃腸の副作用を経験する。口臭、体臭、及び胃腸の副作用は、全て、高いピークシステアミン血中レベル(健康な対象では内在性システアミンレベルよりも50倍以上高いことが多い)と関連している。さらに、システアミンの排出半減期はわずか約25分であり、これは頻繁な投与を必要とする。
【0008】
Cystagon(登録商標)は、システアミンの塩であるシステアミン重酒石酸塩の即時放出製剤である。それは、1994年にシスチン症の治療のために米国食品医薬品局(US FDA)によって承認された最初の治療薬であった。Cystagon(登録商標)は、典型的には6時間毎に投与され、多くの場合、睡眠を中断する必要がある。半減期が非常に短いため、6時間の投与間隔でも安定した血液システアミンレベルを維持するには不十分であり得る。望ましくない副作用及び不都合な投与レジメンは、処方された投薬スケジュールへの遵守を妨げる。実際、シスチン症患者の1つの研究では、Cystagon(登録商標)療法に完全に準拠したのは22名中5名(22.7%)のみであったことが分かった(Levtchenko et al.Pediatric Nephrology 21:110(2006))。システアミン投与の課題は、予備的データを奨励しているにもかかわらず、他の医学的徴候のための薬物の開発を遅らせた。
【0009】
これらの問題のいくつかに取り組む努力において、Raptor Pharmaceuticals社は、ゼラチンカプセルに封止されたマイクロビーズからなるシステアミン重酒石酸塩の腸溶性コーティング製剤である、Procysbi(登録商標)を開発した。腸溶性コーティングを加えて、胃のシステアミン放出を防止し、代わりにシステアミンが最も効率的に吸収される部位である小腸に薬物を送達する(Dohil et al.J.Pediatrics 148:764(2006))。Procysbi(登録商標)は、より長い期間にわたって放出され、Cystagon(登録商標)よりも生物学的利用能が高く、1日2回の投与を可能にする。Procysbi(登録商標)は、2013年にUS FDAと欧州医薬品庁によってシスチン症の治療薬として承認された。
【0010】
しかしながら、1日2回の腸溶性コーティング製剤は、1日4回の即時放出製剤よりも大きな単位用量を必要とする。実際に、Procysbi(登録商標)のFDA全処方情報は、Cystagon(登録商標)(1日4回)からProcysbi(登録商標)(1日2回)に移行する患者は、同じ1日の全用量を受けるべきであると指示しており、これは、Procysbi(登録商標)の各用量が、Cystagon(登録商標)の用量の2倍であるべきであることを意味する。多くの患者において、より高い用量は、より高いピーク血漿システアミン濃度をもたらす。システアミンの高い血中レベルは、胃腸症状、口臭、及び体臭と関連することが知られている。これらの副作用は、主に小児及び10代のシスチン症患者集団において特に厄介である。
【0011】
12時間毎のProcysbi(登録商標)に対する6時間毎のCystagon(登録商標)の非劣性を実証することを目的とした臨床試験では、2つの薬物をクロスオーバーデザインを用いて比較した。全ての患者は、両方の薬物をランダムな順序で受けた。副作用(主に胃腸症状)の発生率は、Cystagon(登録商標)上の同じ患者と比較して、患者がProcysbi(登録商標)で治療された場合に3倍高かった(Langman et al.Clin.J.Am.Soc.Nephrol.CJN-12321211(2012))。この試験からの薬物動態データは、Procysbi(登録商標)が、わずか7~8時間で(12時間ではない)上昇した血漿システアミンレベルをもたらすこと、及びピーク血漿システアミン濃度の時間及び規模に広範な患者間変動があることを示す。
【0012】
さらに、システアミンのProcysbi(登録商標)製剤は、Cystagon(登録商標)と同様の(またはより悪い)安定性問題を有する。両方のチオール薬物は、大気に曝されると酸化される。Procysbi(登録商標)カプセルは、酸素吸収剤を入れた容器に充填される。それでも、Procysbi(登録商標)(附属書I)についての欧州医薬品局の製品特性の要約では、容器を開封した後30日以内にカプセルを使用すべきであると規定している。
【0013】
要約すると、システアミンの既存の経口製剤の感覚刺激特性(苦味、悪臭)、薬理学(用量間隔の大部分の治療血中濃度以下)、毒物学(胃腸及びその他の副作用)、及び安定性(酸化に起因する短い半減期)に問題がある。これらの問題の多くは、揮発性チオール化合物である薬物に内在するものである。結果として、多くのシスチン症患者は、システアミン療法に完全に準拠しておらず、結果として、疾患の進行に苦しんでいる。
【0014】
腸内で2つのパンテテインに還元され、続いてパンテテイナーゼによって腸内で切断されてシステアミン及びパントテネートを生じ得るジスルフィドである、パンテチンを、4人のシスチン症患者において治療剤として試験した(Wittwer et al.J.Clin.Invest.76:4(1985))。しかしながら、パンテチンはシロップとして配合され、食事の間に投与された。製剤及び投与方法は、システアミンが最も効率的に吸収される小腸を含む、上部胃腸管を通る薬物の最も迅速な可能な通過を確実にした。さらに、パンテチン製剤及び投与レジメンを、(i)パンテチンのパンテテインへの還元、(ii)パンテテインのシステアミンへの切断、及び(iii)システアミンの腸吸収の生理学的速度と一致させる努力はなかった。これらのステップのいずれかを最適化するための薬理学的手段も考慮されていなかった。その結果、高用量では、このパンテチンレジメンは下痢を引き起こし、用量の大部分は便中に排泄された。著者らは、「...腎症シスチン症におけるその使用を推奨せず、臨床試験を中止した」と結論付けた。
【0015】
パンテチンの、例えば、コレステロール低下剤としての他の研究(例えば、Evans et al.Vasc Health Risk Manag.10:89(2014))はまた、パンテチンのパンテチンへの化学的還元に関して最適化された薬物動態、その後のパンテテインのシステアミン及びパントテネートへのパンテテイナーゼ媒介性切断、ならびにパンテチンの血中脂質低下作用を媒介するシステアミンの吸収をもたらす製剤を作成する重要性を考慮していない。
【0016】
システアミンは、胃、小腸、及び大腸において様々な程度で吸収され得ることが実証されている。しかしながら、システアミンの既存の製剤は、胃腸管全体のシステアミン吸収能力を利用するように設計されておらず、代わりに胃(Cystagon(登録商標))または小腸(Procysbi(登録商標))システアミン吸収にほぼ完全に依存する。さらに、システアミン吸収の広範な対象間変動、及び結果としてのシステアミン血中レベルの変動が十分に立証されている。例えば、600mgの経口投与後の健康なボランティアにおけるピークシステアミン血漿濃度は、7μMから57.4μMまで変動した(Dohil R.and P.Rioux,Clin.Pharmacol.Drug Dev.2:178(2013))。システアミン製剤及び投与のための現在の方法は、対象間の薬物動態の変動性に対処する唯一のツールを提供し、すなわち用量を上昇または低下させる。しかしながら、(典型的には既に高い)用量を上昇させることは、副作用を生じる(または悪化させる)ことが多く、一方で用量を低下させることは、投与間隔の後半部分で既に不十分な薬物レベルを悪化させるため、このツールの有用性は限定されている。
【0017】
数多くの前臨床試験及び小規模の臨床研究は、広範なヒト疾患におけるシステアミンの潜在的な治療有用性を示唆しているが、許容可能な毒性学を有する、持続的な期間にわたって治療レベルの薬物を送達するシステアミン製剤の不可能性によって臨床開発が妨げられている。したがって、システアミンの持続的な上昇した血中レベルを生成しながらピーク濃度を低下させ、改善された有効性を提供するようにトラフ濃度を上昇させながら副作用を最小限に抑えることができる、改善されたシステアミン産生化合物、改善された製剤、及び改善された投与レジメンを含む、改善された治療レジメンが必要である。さらに、システアミン薬物動態の既知の患者間変動を考慮して、有効性を改善し、毒性を低下させるためには、投与レジメンの個別化を可能にする組成物が必要である。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、胃腸管でシステアミンに分解され得る1つ以上の化合物(すなわち、システアミン前駆体)、及び任意に、(i)システアミン前駆体をシステアミンに分解するために必要なインビボ化学反応及び酵素反応を増強する、(ii)胃腸上皮全体でシステアミンの吸収を増加させる、または(iii)システアミンの半減期を延長させる、1つ以上の化合物を含有する、薬学的組成物を特徴とする。本発明はさらに、治療される疾患に従って選択され、胃腸管全体のシステアミン前駆体分解及びシステアミン吸収能力を十分に利用するように構成された1つ以上のシステアミン前駆体を含有する製剤を特徴とする。本発明はまた、個別化された治療によるシステアミンの吸収及び代謝における個体間変動の問題に対処することができ、それによってシステアミン感受性疾患を有する患者において持続的な期間にわたり治療範囲のシステアミンレベルを提供する、選択されたシステイン前駆体、増強剤、及び製剤を組み合わせた投与レジメンを特徴とする。
【0019】
システアミン前駆体は、インビボでシステアミンを生成するために必要な異化ステップの数が変化し、したがってシステアミン生成のタイミング、規模、及び解剖学的位置が変化する、チオール及びジスルフィド化合物のファミリーを含む。ある特定のジスルフィドシステアミン前駆体は、胃腸管での還元時に、インビボでシステアミンに変換可能な2つのチオールを提供するか、またはシステアミン及びシステアミンに変換可能な第2のチオールを提供する。他のジスルフィドシステアミン前駆体は、胃腸管での還元時に、システアミンに変換可能な第1のチオール(またはシステアミン自体)、及びシステアミンに変換可能でないが、システアミンの治療効果を補完または増強する薬理効果を有する第2のチオールを提供する。後者のカテゴリーとしては、限定されないが、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、及びジヒドロリポ酸などのチオールが挙げられる。
【0020】
配合方法は、時間依存性放出機序(例えば、即時放出、持続放出)及び生理学依存性放出機序(例えば、酸性胃液中の溶解に耐えるコーティング、粥状液に浮遊し、したがって胃内に滞留する胃内滞留性製剤)の両方を含む。インビボシステアミン産生及び吸収の増強剤としては、食品、天然物、及び薬物が挙げられる。
【0021】
ジスルフィドシステアミン前駆体化合物を形成するために使用されるチオール、それらを胃腸管に送達するために使用される配合方法、ならびに任意に、インビボでのシステアミン前駆体分解及びシステアミン吸収の増強剤は、様々な量及び比で単一または複数の組成物に複合することができ、それらの組成物は、システアミン治療を必要とする任意の患者の固有の生理学及び医学的状態に対して、インビボでのシステアミン生成及び吸収を調整するための組み合わせまたは順序で投与される。
【0022】
本発明の化合物、組成物、及び治療方法は、現在の治療法(すなわち、システアミン塩)の主な限界、その中でも(患者の治療への準拠を低下させる副作用と関連した)高いピークシステアミン濃度の発生、短期間の血中の治療的システアミン濃度(頻繁な薬物摂取を必要とする)、及び治療法を個別化する非常に限定された能力(しばしば最適ではない治療レジメンまたは乏しい準拠をもたらす)に対処することができる。特に、本発明の化合物は、揮発性かつ不安定な化合物であるシステアミン自体を製造、貯蔵、及び投与する必要性を回避する。むしろ、システアミンは、システアミンと比較して本質的に優れた感覚受容性及び薬物動態特性を有するシステアミン前駆体から体内で産生される。
【0023】
本発明は、(i)胃内滞留のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、薬学的組成物を特徴とする。第1の活性成分は、パンテテイン、パンテチン、パンテテイン-4-ホスフェート、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体であり得る。特定の実施形態では、第1の活性成分は、システアミンをチオールと反応させることによって形成されたシステアミン混合ジスルフィドを含む。第1の活性成分は、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されたパンテテイン混合ジスルフィドを含むことができる。ある特定の実施形態では、チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸塩、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される。他の実施形態では、チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸塩、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンまたはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールは、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基をさらに含む。胃内滞留性製剤としては、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化物質を含有する製剤、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。特定の実施形態では、胃内滞留性製剤は、(i)1つ以上のポリマー、及び(ii)発泡剤を含むマトリックスを含む浮遊性製剤である。いくつかの実施形態では、発泡剤は、炭酸塩及び酸を含む。さらに他の実施形態では、胃内滞留性製剤は、(i)イオン感受性ゲル化ポリマー、(ii)感熱性ゲル化ポリマー、及び(iii)pH感受性ゲル化ポリマーから選択されるゲル化ポリマーを含む液体ゲル化製剤である。いくつかの実施形態では、胃内滞留性製剤は、(i)水膨潤性ポリマーマトリックス、及び(ii)ポリアルキレンオキシド、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール、及びポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;セルロースポリマー;好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、及びそれらの互いのコポリマーまたはアミノエチルアクリレートなどの追加のアクリレート種とのコポリマーから形成された、アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、それらのコポリマー及びエステル;無水マレイン酸コポリマー;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミド自体、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、及びポリ(N-イソプロピル-アクリルアミド)などのポリ(アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)などのポリ(N-ビニルラクタム)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、及びそれらのコポリマーなどのポリ(オレフィンアルコール);グリセロール、ポリグリセロール(特に高分岐ポリグリセロール)、プロピレングリコール、及び1つ以上のポリアルキレンオキシドで置換されたトリメチレングリコール、例えば、モノ-、ジ-、及びトリ-ポリオキシエチル化グリセロールなどのポリオール、モノ-及びジ-ポリオキシエチル化プロピレングリコール、ならびにモノ-及びジ-ポリオキシエチレン化トリメチレングリコール;ポリオキシエチル化ソルビトール及びポリオキシエチル化グルコース;ポリ(メチルオキサゾリン)及びポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート自体ならびにエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート、ポリエチレンイミンなどのポリイミンを含むポリビニルアセテート;デンプン及びデンプン系ポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖類ガム;ゼイン;ならびにシェラック、アンモニア化シェラック、シェラック-アセチルアルコール、及びシェラックN-ブチルステアレートを含む群から選択される親水性ポリマーを含む、膨張性マトリックス製剤である。
【0024】
この組成物は、以下から選択されるシステアミン前駆体をさらに含み得る:
(a)以下のチオール:(i)パンテテイン(本明細書ではパンテテインとも呼ばれ、IUPAC命名法において2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチル-N-[2-(2-スルファニルエチルカルバモイル)エチル]ブタンアミドとしてより正式に知られている、CAS登録番号496-65-1);(ii)4-ホスホパンテテインのD-鏡像異性体、(iii)デホスホ補酵素A、(iv)補酵素A、(v)胃腸管内の4つの化合物のうちの1つに分解され得るこれらの4つの化合物の任意の類似体または誘導体、(vi)N-アセチルシステアミン。
(b)以下の混合ジスルフィド:(i)システアミンを別のチオールまたはジチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィド;(ii)パンテテインを別のチオールまたはジチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィド;(iii)4-ホスホパンテテインを別のチオールまたはジチオールと反応させることによって形成される4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド;(iv)デホスホ補酵素Aを別のチオールまたはジチオールと反応させることによって形成されるデホスホ補酵素A混合ジスルフィド;(v)補酵素Aを別のチオールまたはジチオールと反応させることにより形成される補酵素A混合ジスルフィド;(vi)N-アセチルシステアミンを別のチオールまたはジチオールと反応させることによって形成されるN-アセチルシステアミン混合ジスルフィド。
(c)以下のホモ二量体ジスルフィド:(i)2つのD-パンテテインの酸化産物であるパンテチン;(ii)2つの4-ホスホパンテテインのホモ二量体ジスルフィド;(iii)2つのデホスホ補酵素A分子のホモ二量体ジスルフィド;(iv)2つの補酵素A分子のホモ二量体ジスルフィド;または(v)2つのN-アセチルシステアミンのホモ二量体ジスルフィド。
(d)ジチオールを2つのチオールと反応させることによって形成される以下の三成分化合物(該チオールのうちの少なくとも1つがインビボでシステアミンに分解可能である):(i)各々がジチオールにジスルフィド結合された2つの同一のチオール分子から化合物を作成するように、ジチオールと反応させたチオール、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンのうちのいずれかの産物;(ii)各々がジチオールにジスルフィド結合された2つの異なるチオールから化合物を作成するように、ジチオールと反応させたチオール、すなわちシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A,またはN-アセチルシステアミンのうちのいずれか2つの産物;(iii)ジチオールの1つのチオール部分と反応させたチオール、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンのうちのいずれかの1つの分子の産物、及びジチオールにジスルフィド結合された2つの異なるチオールから化合物を作成するように、ジチオールの他のチオール部分と反応させた、システアミンに分解可能でない第2のチオール(これらのチオールのうちの1つのみが、システアミンに分解可能である)。
【0025】
特定の実施形態では、システアミン前駆体は、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される。
【0026】
組成物のチオールとしては、(i)システアミン;(ii)パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミン(各々がシステアミンに分解可能である);(iii)アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、L-システイン、L-システインエチルエステル、L-システインメチルエステル、N-アセチルシステイン(NAC)、N-アセチルシステインエチルエステル(NACET)、N-アセチルシステインアミド(AD4)、L-ホモシステイン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン(GSH)、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸(いずれもシステアミンに分解可能でないが、各々が他の薬理学的に有用な特性を有する)を挙げることができる。
【0027】
組成物のジチオールとしては、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(ジメルカプロール))、2-[(2-メチル-2-スルファニルプロパノイル)アミノ]-3-スルファニルプロパン酸(ブシラミンとしてよりよく知られている)、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH2)を挙げることができる。
【0028】
これらのチオール及びジチオールは、様々な名称で知られている。それらをはっきりと識別するために、
図17は、上述のチオール及びジチオールの各々の化学式、Chemical Abstracts Service(CAS)登録番号、及び式分子量を示し、(左端の欄に)任意の識別番号を提供する。システアミン(化合物番号1)に加えて、システアミンに分解可能である5つのチオール(化合物2~6)、システアミンに分解可能でない23チオール(化合物7~29)、及び同様にシステアミンに分解可能でない5つのジチオール(化合物30~34)がある。
【0029】
図18~21は、上記のチオール及びジチオールを組み合わせて、インビボで1つまたは2つのシステアミンを生じることができるジスルフィドシステアミン前駆体を作製する方法を示す。特に、
図18は、システアミンジスルフィド及びパンテテインジスルフィドを産生するために組み合わせることができるチオール対を示し、
図19は、4-ホスホパンテテインジスルフィド及びデホスホ補酵素Aジスルフィドを産生するために組み合わせることができるチオール対を示し、
図20は、補酵素Aジスルフィド及びN-アセチルシステアミンジスルフィドを産生するために組み合わせることができるチオール対を示し、
図21は、インビボで1つまたは2つのシステアミンを生じることができる化合物を産生するように形成され得るジチオールと2つのチオールとの3通りの組み合わせを示す。表18~21の各々において、システアミン前駆体のインビボ分解時に産生されたシステアミン分子の数(1または2のいずれか)、同様にインビボでシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体の分子量のパーセント、同様にシステアミン前駆体をシステアミンに変換するために必要な分解ステップ(化学的または酵素的)の数が示されている。(両方の構成体チオールがシステアミンに分解可能であるジスルフィドシステアミン前駆体については、2つの数字が示されている-各構成体チオールの分解ステップの数)。
【0030】
システアミン前駆体を形成するために適した他の化合物は、1,000ダルトン未満、好ましくは750ダルトン未満の天然に存在するチオールを含み、好ましくはヒトに投与したときに安全であることが知られている。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT公開第WO1993/006832A1号は、中でもN,N-ジメチルシステアミン、チオコリン、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、アミノペンタンチオール、及びメタンチオールを含む、表17に含まれない追加の有用なチオールを開示する。
【0031】
胃腸管における前述のチオールまたはジチオールのうちの1つに分解可能な任意の化合物を使用して、上記のように本発明の組成物を形成することもできる。組成物のチオールまたはジスルフィドは、アセチル基、メチルエステル、エチルエステル、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基を含むようにさらに修飾されてもよい。胃腸管において効率的に除去される任意の他の置換基による(例えば、化学的または酵素的プロセスによる)修飾も許容される。
【0032】
それらの構造に応じて、システアミン前駆体は、システアミンに対する異なる異化経路を有する。(システアミンに至る代謝経路の概略図については、
図11を参照)。この差異を利用して、(i)経時的なシステアミン産生の速度、(ii)システアミンが産生される胃腸管の領域、及び(iii)産生されるシステインの量に関して異なるシステアミン生成特性を有する薬学的組成物を作成することができる。いくつかのシステアミン前駆体は、1つのステップでシステアミンに変換することができる。例えば、システアミン混合ジスルフィドは、単にシステアミンを生成するためにジスルフィド結合の還元を必要とするだけであり、パンテテインもまた、1つのステップ(パンテテイナーゼによる切断)でシステアミンを生じる。システアミン前駆体の第2の群は、2つのステップを必要とする。例えば、パンテテインジスルフィド(
図18を参照)は、(i)少なくとも1つのパンテテインを産生するためのジスルフィド結合の還元、続いて(ii)システアミンを産生するためのパンテテイナーゼ切断を必要とする。他のシステアミン前駆体は、3つのステップを必要とする。例えば、4-ホスホパンテテイン(
図19)で作製されたジスルフィドは、(i)4-ホスホパンテテインを生じるためのジスルフィド結合の還元、(ii)パンテテインを産生するためのホスファターゼ切断、及び(iii)システアミンを産生するためのパンテテイナーゼ切断を必要とする。補酵素Aを含有するジスルフィド(
図20)は、システアミンを産生するために4つ以上の異化ステップを必要とする。一般に、前駆体からシステアミンを産生するために必要とされる異化ステップが多くなるほど、システアミンを生じるために1つのステップ(ジスルフィド結合の還元)のみを必要とするシステアミン前駆体と比較して、産生されるのが遅くなり、産生される期間が長くなる。
【0033】
混合ジスルフィドシステアミン前駆体は、システアミンに対する異なる分解経路を有する2つのチオールから形成され得る。例えば、システアミン及びパンテテインを組み合わせることによって形成される混合ジスルフィドは、システアミン部分の場合はシステアミンに対して1つのステップ(ジスルフィド結合の還元)、及びパンテテイン部分の場合は2つのステップ(ジスルフィド結合の還元後にパンテテイナーゼ切断)を必要とする。システアミン及び補酵素Aを組み合わせることによって形成される混合ジスルフィドは、システアミン部分の場合にはシステアミンに対して1つのステップを必要とするが、補酵素A部分の場合には少なくとも4つのステップを必要とする。したがって、2つのチオール部分がシステアミンへの異なる分解経路を有し、複数の分解ステップを必要とする少なくとも1つのチオール部分を有する混合ジスルフィドは、システアミン自体よりもインビボでのシステアミン生成をはるかに延長させる。そのような混合ジスルフィドはまた、両方のチオールがシステアミン(例えばパンテチン)に対して同じ分解経路を有するホモ二量体ジスルフィドシステアミン前駆体よりもより長いシステアミン放出をもたらすことができる。例えば、システアミン-補酵素A混合ジスルフィドの場合、混合ジスルフィドが十分に還元性の環境(例えば、十二指腸)に遭遇した後すぐに1つのシステアミンが放出されるが、第2のシステアミンは、追加の分解ステップが発生した後にのみ放出され、これらのステップのタイミングは、補酵素A分子間で確率的に変化し、インビボでのシステアミン産生の持続時間を延長する。
【0034】
本発明の第1の態様のいくつかの実施形態では、システアミン前駆体は、混合ジスルフィドである。さらなる実施形態では、システアミン前駆体は、2つの構成体チオールがシステアミンに対する異なる分解経路を有する、混合ジスルフィドである。他の実施形態では、混合ジスルフィドは、両方の構成体チオールがシステアミンに分解可能である、システアミン含有混合ジスルフィド、パンテテイン含有混合ジスルフィド、または4-ホスホパンテテイン含有混合ジスルフィドのいずれかである。
【0035】
混合ジスルフィド中の異なる特性を有する2つのチオールを組み合わせることの1つの制限は、2つのチオールのモル比が1:1で固定されることである。これは、すべての疾患または所与の疾患を有するすべての患者において最適な比でない場合がある。特定の疾患及び特定の患者に対するシステアミン前駆体療法を調整する柔軟性を高めるために、システアミン前駆体を様々な量及び比で組み合わせて、所望の薬理学的な目的を達成することができる。特に、システアミンに対する異なる化学的/分解経路を有するシステアミン前駆体は、(i)システアミンが胃腸管腔内で産生され、胃腸管腔から吸収される時間を延長する、及び(ii)異なる時間に産生されたシステアミンの量の制御を可能にし、それによって血液または組織のシステアミンレベルが(現在利用可能なシステアミン製剤の特徴である鋭い頂部及び谷部とは対照的に)治療濃度範囲で連続的に維持される時間を延長する、量及び比で組み合わせることができる。
【0036】
関連する態様では、本発明は、(i)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第1の活性成分と、(ii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第2の活性成分であって、第1の活性成分が、最初に小腸で放出されるように配合され、第2の活性成分が、最初に胃または小腸で放出されるように配合される、第2の活性成分と、(iii)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、薬学的組成物を特徴とする。特定の実施形態では、第1の活性成分及び/または第2の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、システアミンへの異なる分解経路を有するチオールから形成された2つのシステアミン前駆体を含有する。例えば、システアミン-パンテテインジスルフィド(それぞれシステアミンへの1つ及び2つの分解ステップ)、及び4-ホスホパンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド(それぞれシステアミンへの3つ及び2つの分解ステップ)。ある特定の実施形態では、2つのシステアミン前駆体の比は、1.5:1、2:1、3:1、4:1、または5:1である。第1の活性成分及び/または第2の活性成分としては、システインをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィド、例えばパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィド、または4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成される4-ホスホパンテテインジスルフィドを挙げることができる。チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、N-アセチルシステアミン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンもしくはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸から、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され得る。ある特定の実施形態では、チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンまたはチオプロニンジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールは、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基をさらに含む。
【0037】
他の実施形態では、薬学的組成物は、胃内滞留のために同時配合された3つのシステアミン前駆体を全て含有する。
【0038】
システアミン血中レベルの制御における追加の柔軟性は、システアミン前駆体を、(i)システアミンに至る分解性化学及び/もしくは酵素ステップの増強剤、ならびに/または(ii)腸細胞によるシステアミン取り込みを媒介する輸送体の発現もしくは活性の増強剤、ならびに/または(iii)システアミン異化の阻害剤と組み合わせることによって達成され得る。適切な場合、特定の増強剤または阻害剤は、これらのプロセスの各々に存在し、システアミン効果の増強剤または略して「増強剤」と総称される。
図12は、システアミン前駆体の異化及び吸収に関連する胃腸の解剖学及び生理学の特定の側面をまとめたものである。
【0039】
ジスルフィド結合の還元、パンテテイナーゼ誘導、システアミン吸収、及びシステアミン異化に作用するシステアミン効果の増強剤の4つのクラスがある。各クラスの増強剤に対する論理的根拠は以下の通りである。
(i)いずれかのジスルフィドシステアミン前駆体は、システアミン放出に向かう第1の(及びある特定のシステアミン混合ジスルフィドの場合は、唯一の)ステップとしてジスルフィド結合の還元を必要とする。したがって、任意のジスルフィドシステアミン前駆体は、インビボでジスルフィドの2つのチオールへの変換を増強するために、同時配合もしくは同時投与するか、または還元剤とともに最適な時間的順序で投与することができる。
(ii)パンテテイン、パンテテインを含有する任意のジスルフィド、及びパンテテインに分解可能な任意のチオールまたはジスルフィドは、最終的にパンテテイナーゼによって切断されてシステアミンを産出しなければならない。したがって、任意のそのようなチオールまたはジスルフィドシステアミン前駆体は、システアミン産生の速度を高めるために、腸でのパンテテイナーゼ発現を刺激するか、または既存のパンテテイナーゼの活性を(例えば、アロステリック調節によって)増加させる薬剤と、有利に同時配合または同時投与することができる。
(iii)任意のシステアミン前駆体は、チオールでもジスルフィドでも、腸細胞におけるシステアミン輸送体の発現を刺激するか、または既存の輸送体の活性を増加させ、それによってシステアミン吸収の速度を高める薬剤と同時配合または同時投与することができる。
(iv)任意のシステアミン前駆体は、チオールでもジスルフィドでも、システアミン異化を阻害し、それによって疾患を改善するために利用可能なシステアミンの量を増加させる薬剤と同時配合または同時投与することができる。
【0040】
図13は、(i)それらのチオールまたはジスルフィド構成体、(ii)インビボでシステアミンを生成するために必要な異化ステップ(例えばパンテヘイナーゼ切断)、(iii)これらの異化ステップの増強剤の潜在的に有用なカテゴリー、及び(iv)システアミンを生成するために必要な異化ステップの数に基づく、前駆体のインビボシステアミン放出プロファイルに基づく、ある特定のシステアミン前駆体の分類を示す。
図13は、そのような増強剤の2つの分類が全てのシステアミン前駆体に有用であるため、システアミン吸収の増強剤またはシステアミン異化の阻害剤の有用性に関する情報を提供しない。
【0041】
上記薬学的組成物のうちのいずれかの特定の実施形態では、システアミン前駆体は、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィド、システアミン-N-アセチルシステインエチルエステルジスルフィド、システアミン-N-アセチルシステインアミドジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される。
【0042】
上記薬学的組成物のうちのいずれかの、ある特定の実施形態では、組成物は、第1の活性成分の微粒子及び第2の活性成分の微粒子を含む。
【0043】
上記薬学的組成物のうちのいずれかの別の実施形態では、組成物は、ポリメタクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及びエチルセルロースから選択されるポリマーを含む腸溶性コーティングを含む。
【0044】
別の関連態様では、本発明は、(i)即時放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、(ii)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第2の活性成分と、(iii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第3の活性成分と、(iv)任意に、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分であって、最初に大腸で放出される、第4の活性成分と、(iv)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、薬学的組成物を特徴とする。混合製剤は、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分であって、最初に大腸で放出される、第4の活性成分を含み得る。特定の実施形態では、第4の活性成分は、(i)pH6.8、6.9、もしくは7.0より上で溶解するpH感受性ポリマーとともに、(ii)腸内細菌によって生分解性であるが膵臓酵素によっては分解されないポリマーとともに、(iii)担体、pH感受性ポリマー、微生物分解性ポリマー、生分解性マトリックス、もしくはヒドロゲルとの共有結合として、(iv)酸化還元感受性ポリマーとともに、(v)生体付着性ポリマーとともに、または(vi)浸透圧制御製剤として配合される。第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分は、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含むシステアミン前駆体であり得る。ある特定の実施形態では、(a)第1の活性成分及び第2の活性成分は、システアミンをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドを含み、(b)第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分は、システアミン前駆体代謝の増強剤、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤を含む。他の実施形態では、(a)第1の活性成分及び第2の活性成分は、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドを含み、(b)第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分は、システアミン前駆体代謝の増強剤、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤を含む。チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンから選択することができ、またはジエチルジチオカルバミン酸は、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される。あるいは、チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸塩、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンまたはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択することができ、チオールは、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基をさらに含む。いくつかの実施形態では、組成物は、第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び存在する場合には第4の活性成分の微粒子を含む。ある特定の実施形態では、組成物は、ポリメタクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及びエチルセルロースから選択されるポリマーを含む腸溶性コーティングを含む。例えば、第4の活性成分は、pH6.8、6.9、または7.0より上で溶解するpH感受性ポリマーとともに配合することができる。あるいは、第4の活性成分は、腸内細菌によって生分解性であるが膵臓酵素によっては分解されない微生物分解性ポリマーとともに配合することができる。いくつかの実施形態では、第1の活性成分は、摂取後約10分~30分の間に組成物から放出される。他の実施形態では、第2の活性成分、第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分は、摂取後約1.5時間~8時間の間に組成物から放出される。
【0045】
システアミン前駆体分解の増強剤(複数可)は、胃腸管内で同時配合されたシステアミン前駆体(複数可)からシステアミンを生成するために必要な分解ステップに適合するように選択される。いくつかの実施形態では、システアミン前駆体(複数可)は、還元剤と同時配合される。さらなる実施形態では、還元剤は、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、補酵素A、システイン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、3-メルカプトピルビン酸、ジヒドロリポ酸、及びアスコルビン酸の群から選択される。他の実施形態では、システアミン前駆体(複数可)は、VNN1遺伝子、VNN2遺伝子、もしくは両方の遺伝子によってコードされるパンテテイナーゼの発現を誘導するか、またはパンテテイナーゼの分解を阻害するか、またはパンテテイナーゼ活性を(例えば、アロステリック調節を介して)増加させる、薬剤と同時配合される。パンテテイナーゼ発現の増強剤は、転写、翻訳または翻訳後レベルで作用し得、食品、天然産物、または合成化学物質であり得る。さらなる実施形態では、パンテテイナーゼ発現の増強剤は、以下の群から選択される:脂肪性食品を含む酸化脂肪;ω-3脂肪酸;オレイルエタノールアミド;スルフォラファン、スルフォラファンが豊富なアブラナ科野菜、スルフォラマート、S-アリルシステイン、ジアリルトリスルフィド、トリテルペノイド、及び関連化合物を含む、NRF2活性を刺激する薬剤;ロイコトリエンB4及び8-ヒドロキシエイコサテトラエン酸を含むアラキドン酸及びアラキドン酸代謝産物を含む天然産物ペルオキシソーム増殖因子α受容体(PPARα)アゴニスト;フィブラートを含む薬理学的PPARαアゴニスト;15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15(S)-HETE)、15(R)-HETE、及び15(S)-HpETEなどのアラキドン酸代謝産物を含む天然産物ペルオキシソーム増殖剤γ受容体(PPARγ)アゴニスト、9-ヒドロキシオクタデカジエン酸、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸、15-デオキシ-(デルタ)12,14-プロスタグランジンJ2、及びプロスタグランジンPGJ2、ならびにホノキオール、アモルフルチン1、アモルフルチンB、及びアモルファスチルボール;及びグリタゾンを含む薬理学的PPARγアゴニスト。
【0046】
他の実施形態では、システアミン前駆体(複数可)は、発現を誘導するか、またはそうでなければ有機カチオン輸送体(OCT)タンパク質、特にOCT1、OCT2、及びOCT3の活性を増強する薬剤と同時配合される。さらなる実施形態では、増強剤OCTの発現または活性は、PPARαの天然もしくは合成リガンド、PPARγの天然もしくは合成リガンド、またはプレグナンX受容体(PXR)、レチノイン酸受容体(RAR)、もしくはグルココルチコイド受容体の天然もしくは合成リガンドの群から選択される
【0047】
他の実施形態では、システアミン前駆体(複数可)は、酵素システアミンジオキシゲナーゼによるシステアミン分解を阻害する薬剤と同時配合される。さらなる実施形態では、システアミン分解の阻害剤は、ヒポタウリン、タウリン、またはヒポタウリンもしくはタウリンの類似体の群から選択される。
【0048】
いくつかの実施形態では、組成物は、以下:液体浮遊性ゲル化製剤を含む浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性(膨潤性)製剤、展開もしくは形状変化製剤、外部磁石と相互作用することができる磁化物質を含有する製剤、またはそれらの組み合わせから選択される胃内滞留性製剤を特徴とする。
【0049】
浮遊性胃内滞留性製剤は、(i)水和すると、胃液または粥状液の密度よりも低い密度を達成及び維持する膨潤性ポリマー(例えば、多糖類)のマトリックス、または(ii)浮力を提供する脂質分子と混和されたポリマー、または(iii)組成物の内部に、もしくは多粒子組成物の各粒子の内部に1つ以上の閉じ込められた気泡を用いて製造された製剤、または(iv)胃での水和時に気泡の生成によって浮揚を達成する発泡系、または(v)上記の任意の組み合わせを含んでよい。気泡はマトリックス中に閉じ込められ、それによって組成物に浮力を提供する。ガスは、以下:重炭酸ナトリウム、クエン酸、酒石酸、またはそれらの組み合わせから選択される化合物によって生成され得る。好ましくは、浮遊性組成物は、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも8時間以上、その浮力を保持する。
【0050】
浮遊性製剤の1つの種類は、胃に到達するとゲルへの相変化を受ける液体である。相変化は、pHの変化(すなわち、胃液の酸性pH)、温度の変化(すなわち、体内の温かい温度)、またはイオン強度もしくは組成の変化(例えば、胃でのカルシウムイオンとの接触)、または(iv)上記の任意の組み合わせによってもたらされ得る。そのような製剤は、「液体ゲル化」、「液体原位置ゲル化」、または「ラフト形成」製剤と呼ばれることがある。相変化を誘発するために必要なイオンは、胃液中に天然に存在するか、または外因的に供給され得る。液体製剤は、サイズが制限されていないという利点を有し、したがって、システアミン応答性条件で一般に必要とされるように、大量の薬物を容易に収容することができる。液体の単位剤形は、容器(例えば、バイアル、ボトル、チューブ、または他の密封容器)中に存在する量によって決定することができ、または液体が供給される測定装置によって特定することができる。液体は、直接投与のために供給されてもよく、または別の流体(例えば、水)中の希釈用の濃縮物として供給されてもよい。1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10グラムまでの活性薬物物質の用量を、単一用量で投与することができる。活性薬物物質は、1つ以上のシステアミン前駆体、及び任意に、システアミン前駆体分解及び/または吸収の1種以上の増強剤を含み得る。薬学的賦形剤は、例えば、イオン感受性ゲル化ポリマーとしてアルギン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウムカルシウム、ゲランガム、もしくはペクチン、またはカチオン及び二酸化炭素ガスの供給源として炭酸カルシウムもしくは重炭酸カルシウム、及び胃の外側でのゲル化を防ぐためのクエン酸ナトリウム、または温度調節されたゲル化特性を有するキシログルカンもしくはメチルセルロースを含み得る。
【0051】
第2のタイプの浮遊性製剤は、粉末として送達される。いくつかの実施形態では、粉末は、胃の粥状液上に浮遊する薬物含有マイクロビーズからなる。液体製剤と同様に、粉末は、錠剤またはカプセルのようなサイズに制約されないため、多量の薬物を運ぶ能力を有する。粉末の単位剤形は、容器(例えば、サシェ、バッグ、もしくは硬質プラスチック容器)中に存在する量によって決定することができるか、または粉末が供給される測定装置(例えば、スプーンもしくはカップ)に関して特定することができる。粉末は、摂取前に飲食物と混合することができる。フルーツジュース、またはヨーグルト、リンゴソース、もしくはある特定のスープのような半液体食品などの、ある特定の種類の飲食物は、好ましくは、粉末製剤と同時投与することができる。1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10グラムまでの活性薬物物質の用量を、単一用量で投与することができる。活性薬物物質は、1つ以上のシステアミン前駆体、及び任意に、システアミン前駆体効果の1種以上の増強剤を含み得る。
【0052】
粘膜付着性胃内滞留性製剤は、胃腸管の粘液層(例えば、胃壁)に付着し、その動きを遅くする生体付着性ポリマーを利用する。粘膜付着性ポリマーとしては、ポリカルボフィル、カルボマー、アルギネート、セルロース及びセルロース誘導体、キトサン、ガム、レクチン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
膨張性または膨潤性の胃内滞留性製剤において、水膨潤性ポリマー(複数可)は、胃を十二指腸に接続する胃の狭い筋肉で覆われた出口である幽門の直径を超えるように、2次元または3次元で膨張する。したがって、膨張性組成物は、そのサイズの結果として胃内に滞留する。ヒトの幽門の直径は、摂食状態で(時には、胃の収縮中に、筋系幽門のひだが幽門口に押し込まれ、それを完全に塞ぐ)、0~約10ミリメートルまで変化することができ、絶食状態で約12.8ミリメートル、プラスまたはマイナス7ミリメートルである。(Munk,J.F.,et al.Direct measurement of pyloric diameter and tone in man and their response to cholecystokinin.In:Gastrointestinal Motility in Health and Disease.H.L.Duthie,editor,MTP,Lancaster,UK(1978):349-359)。ポリマーは徐々に溶解するか、もしくは浸食するか、または両方であり、最終的に組成物のサイズを減少させて幽門の通過を可能にする。膨張性製剤はまた、胃内容物上で浮遊するように設計することができ、それによって胃の中に食物が存在する限り、幽門との接触を低減する。膨張性組成物は、典型的には錠剤またはカプセルとして配合される。薬物分子は、膨張性/膨潤性ポリマーと同じでも異なっていてもよいポリマーマトリックス中に捕捉される。
【0054】
展開または形状変化する胃内滞留性製剤において、剤形の寸法は、薬物含有マトリックスの実質的な浸食が剤形のサイズ及び/または構造的完全性を低下させるまで、幽門を通過するのを妨げるように同様に設計される。しかしながら、展開/形状変化する製剤は、主に膨潤よりもむしろ形状変化によって、その最終的なサイズ及び形状を達成する。例えば、元の形状は、嚥下可能なカプセルに収まるように折り畳まれ、曲げられ、または圧縮され、次いで、カプセルが溶解すると胃の中で展開し、伸ばされ、または緩められ得る。薬物は、修正された形状を形成するために使用されるマトリックス材料に包埋されるか、または組成物によって形成されたポケットもしくはパウチもしくは他の容器に配置される。
【0055】
磁性製剤は、剤形の中心にある小さな磁石または分散された磁化材料のいずれかを利用する。剤形の位置を制御するために、すなわち、胃の中のその位置を維持するために、外部磁石が使用される。薬物は、薬物含有マトリックス材料からの拡散、浸食、またはその両方によって放出される。
【0056】
胃内滞留性製剤としては、浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性/膨潤性製剤、展開もしくは修正形状製剤、または磁化製剤の任意の組み合わせを挙げることもできる。例えば、膨潤性粘膜付着性製剤、または膨潤性浮遊性製剤。
【0057】
上記組成物のうちのいずれかの、ある特定の実施形態では、対象への投与後、システアミンの循環血漿濃度は、少なくとも3、4、6、または8時間の期間にわたって、5μM~45μMで連続的に維持される。
【0058】
上記組成物のうちのいずれかの特定の実施形態では、組成物は、経口投与のための液体製剤(例えば、経口投与のための再構成可能な粉末製剤、または錠剤もしくはカプセルなどの経口投与のための単位剤形)である。
【0059】
別の態様では、本発明は、(i)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第1の活性成分と、(ii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第2の活性成分であって、第1の活性成分が、小腸で最初に放出されるように配合され、第2の活性成分が、胃または小腸で最初に放出されるように配合される、第2の活性成分と、(iii)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、単位剤形の組成物を特徴とする。組成物は、1:1よりも大きい第2の活性成分と第1の活性成分との比を含み得る。組成物は、第1の態様で上に列挙したものから選択されるシステアミン前駆体をさらに含み得る。例示的なチオールシステアミン前駆体を、
図17に示し(化合物2、3、4、5、及び6)、例示的なジスルフィドシステアミン前駆体を、
図17の例示的なチオールに基づいて
図18~21に概略的に示す。本発明のチオールまたはジスルフィドは、アセチル基、グルタミル、スクシニル、メチルエステル、エチルエステル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基、または胃腸管で効率的に除去される任意の置換基を含むようにさらに修飾され得る。
【0060】
ある特定の実施形態では、単位剤形は、液体製剤、粉末製剤、またはカプセルに収容された異なる配合の微粒子の混合物からなる。様々な組成の(例えば、それらが含有するシステアミン前駆体が異なる、マトリックスポリマーの種類もしくは量が異なる、コーティングの種類もしくは厚さが異なる、溶解速度もしくはpH感受性を制御する他の賦形剤の量が異なる、またはサイズが異なる)微粒子を、別々のバッチで調製し、次いで所望の比で混合し、液体、粉末、またはカプセルとして包装することができる。当業者には明らかであるように、これらの変数を変えることによって、広く異なる薬学的特性を有する広範囲の組成物を作製することができる。
【0061】
さらなる実施形態では、組成物全体は、液体、粉末、またはカプセルに配合されたマイクロ粒子(例えば、マイクロビーズ)からなり、全て腸溶性にコーティングされる。微粒子の一部分は、腸溶性コーティングが溶解すると急速に放出するように配合された薬物を含有し、残りは持続放出マトリックスに包埋された薬物を含有する。薬物は、近位小腸の第1組の微粒子から、及び小腸全体の第2組の微粒子から放出され、持続放出製剤の特性に応じて、大腸においても放出される。即時放出マイクロビーズと持続放出マイクロビーズとの比は、1、1.5、2.3、または4であってもよい。腸溶性コーティングは、メタクリル酸及びエチルアクリレートに基づくイオン性コポリマーの水性分散液を含み得る。
【0062】
さらに別の態様では、本発明は、(i)即時放出、遅延放出、または持続放出のために配合された、1つのステップでインビボでシステアミンに変換され得る少なくとも1つのシステアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩を含む、第1の活性成分と、(ii)即時放出、遅延放出、または持続放出のために配合された、システアミンへのインビボ変換のために少なくとも2つのステップを必要とする少なくとも1つのシステアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩を含む、第2の活性成分と、(iii)任意に、即時放出、遅延放出、または持続放出のために配合された、システアミンへのシステアミン前駆体のインビボ変換の増強剤、またはその薬学的に許容される塩を含む、第3の活性成分と、(iv)任意に、即時放出、遅延放出、または持続放出のために配合された、システアミンの腸吸収の増強剤、またはその薬学的に許容される塩を含む、第4の活性成分であって、小腸及び大腸で優先的に放出される、第4の活性成分と、(v)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、単位剤形の組成物を特徴とする。
【0063】
ある特定の実施形態では、薬学的組成物は、システアミンをパンテテインまたは任意のパンテテイン前駆体(すなわち、胃腸管内でパンテテインに分解可能な化合物)と反応させることによって、パンテテインを別のパンテテイン前駆体と反応させることによって、4-ホスホパンテテインをそれ自体とまたはデホスホ補酵素Aもしくは補酵素Aと反応させることによって、デホスホ補酵素Aをそれ自体とまたは補酵素Aと反応させることによって、あるいは補酵素Aをそれ自体と反応させることによって形成されるジスルフィドを含む。そのようなジスルフィドは、胃腸管における還元及び分解の際に、2つのシステアミンを生じる。
【0064】
ある特定の実施形態では、薬学的組成物は、化学的還元及び酵素分解の際に、その分子量の少なくとも20%、または好ましくは少なくとも25%、またはさらにより好ましくは少なくとも30%、35%、もしくは40%を遊離システアミンとして生じる、ジスルフィドを含む。
図18~
図21は、システアミンに変換可能なある特定のジスルフィドの画分(%で表示)を示す。システアミンを送達することにおいて有効なジスルフィドシステアミン前駆体を含有する組成物、すなわち少なくとも20重量%のシステアミンを生じる組成物は、シスチン症、遺伝性ミトコンドリア性疾患、慢性腎疾患、マラリア、またはインフルエンザウイルスなどのある特定の疾患の治療法に好ましい。
【0065】
実施形態では、単位剤形は、粉末製剤に含有される異なる配合の微粒子の混合物からなる。様々な組成の微粒子を個々に調製することができる(例えば、即時放出バッチ、遅延放出バッチ、持続放出バッチ、胃内滞留バッチ、結腸標的バッチ)。次いで、選択された微粒子(例えば、遅延放出及び持続放出)を、所望の比(例えば、遅延対持続が1:2)で混合し、単位用量としてサシェまたは他の容器に包装する。
【0066】
混合製剤において、第1及び第2の活性成分は、第1の態様で上に列挙したものから選択されるシステアミン前駆体である。例示的なチオールシステアミン前駆体を、
図17に示し(化合物2、3、4、5、及び6)、例示的なジスルフィドシステアミン前駆体を、
図17の例示的なチオールに基づいて
図18~21に概略的に示す。チオールまたはジスルフィドシステアミン前駆体は、アセチル、グルタミル、スクシニル、メチルエステル、エチルエステル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基、または胃腸管で効率的に除去される任意の置換基を含むようにさらに修飾され得る。
【0067】
実施形態では、第1の成分は、即時放出製剤であり、第2の成分は、腸溶性コーティングをさらに含む遅延放出製剤である。あるいは、組成物の実施形態は、即時放出のために配合された第1の成分と、任意に腸溶性コーティングを含む、持続放出のために配合された第2の成分とを含んでいてもよい。腸溶性コーティングは、メタクリル酸及びエチルアクリレートに基づくイオン性コポリマーの水性分散液を含み得る。
【0068】
この組成物はまた、システアミン前駆体のシステインへのインビボ変換を増強する第3成分を特徴とし得る。この増強剤は、同時配合されたシステアミン前駆体(複数可)からシステアミンを生成するために必要な分解ステップに適合するように選択される。例えば、システアミン前駆体がパンテテイン、または胃腸管でパンテテインに分解され得る化合物である場合、パンテテイナーゼ誘導剤が適切な増強剤である。システアミン前駆体がジスルフィドである場合、還元剤が適切な増強剤である。
【0069】
追加の実施形態では、組成物の第4の活性成分は、胃腸上皮細胞におけるシステアミン輸送体の発現を誘導することによって(例えば、1つ以上の有機カチオン輸送体の発現を誘導することによって)システアミン吸収を増強することができる。胃腸管におけるシステアミン取り込みの増強剤及びシステアミン分解の阻害剤は、全てのクラスのシステアミン前駆体に適している。
【0070】
いくつかの実施形態では、第1の活性成分は、摂取後約5分~45分の間に放出される。追加の実施形態では、本発明の組成物は、摂取後約1.5時間~8時間の間に開始する組成物から放出された第2の活性成分、第3の活性成分、及び/または第4の活性成分を含み得る。
【0071】
固体剤形(錠剤及びカプセル)を包含する実施形態では、本発明は、(i)単位用量あたり約100mg~約800mgを含む第1の活性ジスルフィド成分を含む、薬学的組成物を特徴とする。第1及び第2の活性ジスルフィド成分を含む実施形態では、本発明の固体製剤用薬学的組成物は、(i)約100mg~約600mg用量の第1の活性成分、及び(ii)用量あたり約100mg~約600mgの第2の活性成分を含む。本発明の固体製剤用薬学的組成物において、組成物は、第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び任意に第4の活性成分、及び任意に第5の活性成分を含み、各成分中のジスルフィドの量は、(i)第1の活性成分が約50mg~約250mg、(ii)第2の活性成分が約50mg~約250mg、(iii)第3の活性成分が約100mg~約500mg、(iv)任意に第4の活性成分が約100mg~約500mgまで変化する。本発明の固体製剤用薬学的組成物において、組成物は、第5の活性成分を含み、各成分中のジスルフィドの量は、(i)第1の活性成分が約50mg~約250mg、(ii)第2の活性成分が約50mg~約250mg、(iii)第3の活性成分が約100mg~約500mg、(iv)第4の活性成分が約100mg~約500mg、及び第5の活性成分が約100mg~約500mgまで変化する。
【0072】
液体または粉末剤形を包含する実施形態では、本発明は、(i)単位用量あたり約250mg~約10,000mgを含む第1の活性ジスルフィド成分を含む、薬学的組成物を特徴とする。第1及び第2の活性ジスルフィド成分を含む実施形態では、本発明の液体または粉末製剤用薬学的組成物は、(i)約250mg~約6,000mg用量の第1の活性成分、及び(ii)用量あたり約250mg~約6,000mgの第2の活性成分を含む。本発明の液体または粉末製剤用薬学的組成物において、組成物は、第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び任意に第4の活性成分、及び任意に第5の活性成分を含み、各成分中のジスルフィドの量は、(i)第1の活性成分が約125mg~約3,000mg、(ii)第2の活性成分が約125mg~約3,000mg、(iii)第3の活性成分が約250mg~約6,000mg、及び任意に(iv)第4の活性成分が約250mg~約6,000mg、ならびに存在する場合、第5の活性成分が約250mg~約6,000mgまで変化する。
【0073】
3つのジスルフィドシステアミン前駆体を用いるいくつかの実施形態では、3つのジスルフィドのモル比は、約1:1:2である。他の実施形態では、1:2:2~1:2:5まで変化する。4つのジスルフィドシステアミン前駆体を用いるいくつかの実施形態では、4つのジスルフィドのモル比は、約1:2:2:2である。他の実施形態では、1:1:1:1~1:1:1:4まで変化する。5つのジスルフィドシステアミン前駆体を用いるいくつかの実施形態では、5つのジスルフィドのモル比は、約1:1:2:2:2である。他の実施形態では、約1:1:2:2:2~約1:2:2:2:5、及び他の実施形態では、約1:2:2:2:2~約1:2:2:2:5まで変化する。
【0074】
さらに別の態様では、本発明は、化学的還元の際に、(i)1つのシステアミン、または(ii)胃腸管でシステアミンに分解可能な少なくとも1つのチオール化合物、または(iii)両方を生じるジスルフィドを含む1つ以上の活性成分を含む、単位剤形の薬学的組成物を特徴とする。胃腸管でシステアミンに分解可能なチオール化合物としては、パンテテイン及びパンテテインに分解可能な化合物が挙げられ、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、及び胃腸管で4つの化合物のうちの1つに分解され得るこれらの4つの化合物のうちのいずれかの任意の類似体または誘導体を含む。パンテテインは、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aの、システアミンへの分解における中間体であるため、後者の3種の化合物及び任意の適格類似体または誘導体は、パンテテイン前駆体である。胃腸管でシステアミンに分解可能なチオール化合物としてはまた、N-アセチルシステアミン、及び胃腸管でN-アセチルシステアミンに(及びそれからシステアミンに)分解可能なN-アセチルシステアミンの任意の類似体または誘導体も含まれる。この態様は、任意に、還元の際にシステアミンに分解可能でない1つのチオールを生じるジスルフィドシステアミン前駆体を包含することに留意されたい。
【0075】
ある特定の実施形態では、薬学的組成物は、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、N-アセチルシステアミン、または胃腸管で6つのうちの1つに(ひいては最終的にはシステアミンに)分解され得るこれらの6つの化合物の任意の類似体もしくは誘導体のうちのいずれかを、チオールと反応させることによって形成されるジスルフィドを含み得る。チオールは、好ましくは、(i)人体内の天然に存在する化合物、(ii)ヒトの食事中に存在する、(iii)店頭で健康補助食品として利用可能である、(iv)世界保健機関、US FDA、欧州医薬品庁、または任意の国における健康または食品の安全性に関する同様の機関によって一般に安全と認められる(GRAS)化合物の一覧にあり、許容可能な薬学的賦形剤のFDAデータベースの化合物を含む、(v)US FDAまたは別の国における同等の規制当局によって治療的使用が認められた化合物、または上記のいくつかの組み合わせのいずれかである。例示的なチオールの一覧を、
図17に示す。
【0076】
還元の際に、システアミンに分解可能でない1つのチオールを生じるジスルフィドは、システアミンに分解可能な2つのチオールを生じるものとしてシステアミンを送達するのに効率的でない場合がある(チオールの分子量に依存する)が、それらは第2のチオール(すなわち、システアミンに分解可能でないチオール)の賢明な選択によって特定の疾患に対する薬物療法を調整する機会を提供する。すなわち、特定の疾患におけるシステアミンの治療効果を補強または補完するチオールを選択することによって、1つのジスルフィド化合物から2つの治療分子をインビボで生成することができる。例えば、システインが神経変性疾患及び精神神経疾患において治療的に活性であり得るという蓄積している証拠がある。N-アセチルシステイン及びN-アセチルシステインの類似体は、神経変性疾患のいくつかの動物モデルにおいて、ならびに中毒、強迫性障害、統合失調症、双極性障害、及び自閉症を含む精神神経障害のいくつかの小規模臨床試験において活性である。システアミン及びN-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、またはN-アセチルシステインエチルエステルから形成されたジスルフィドは、胃腸管での還元の際に両方の分子を送達することができる。最適な(システアミン非生成の)パートナーチオールの選択は、疾患によって決定され得る。混合ジスルフィドシステアミン前駆体のためのチオール対を選択する際の別の考察は、ジスルフィドを腸細胞に効率的に取り込む内在性アミノ酸輸送体(または任意の他の輸送体)のうちの1つの能力であり得る。
【0077】
あるいは、薬学的組成物は、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミン、または胃腸管で6つのうちの1つに分解可能なこれらの6つの化合物の任意の類似体もしくは誘導体のうちのいずれか1つまたは2つを、ジチオールと反応させることによって形成される2つのジスルフィド結合を有する化合物を含み得る。ジチオールは、好ましくは、(i)人体内の天然に存在する化合物、(ii)ヒトの食事中に存在する、(iii)店頭で健康補助食品として利用可能である、(iv)世界保健機関、US FDA、欧州医薬品庁、または任意の国における健康または食品の安全性に関する同様の機関によって一般に安全と認められる(GRAS)化合物の一覧にあり、許容可能な薬学的賦形剤のFDAデータベースの化合物を含む、(v)US FDAまたは別の国における同等の規制当局によって治療的使用が認められた化合物、または上記のいくつかの組み合わせのいずれかである。例示的なジチオールとしては、ジヒドロリポ酸(DHLA)、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(ジメルカプロール)、ブシラミン、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH
2)が挙げられる。選択されたジチオールの分子式、CAS番号、及び分子量については、
図17を参照されたい。そのようなジスルフィドは、胃腸管における両方のジスルフィド結合の還元及び得られたチオールの分解の際に、2つのシステアミンを生じる。ジチオールの選択は、治療される疾患によって決定され得る。例えば、いくつかの研究は、ジヒドロリポ酸が脂肪肝疾患の治療に有用であり得ることを示唆している。ある特定の実施形態では、2つのシステアミン、2つのパンテテイン、または1つのシステアミン、及びシステアミンに分解可能な第2のチオールに連結されたジヒドロリポ酸は、好ましいジチオールシステアミン前駆体である。N,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH
2)は、血液脳関門を通過して脂肪が豊富な組織に浸透することができる脂溶性ジチオールである。ある特定の実施形態では、2つのシステアミン、2つのパンテテイン、または1つのシステアミン、及びシステアミンに分解可能な第2のチオールに連結されたBDTH2は、中枢神経系疾患の好ましいジチオールシステアミン前駆体である。
【0078】
あるいは、薬学的組成物は、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、N-アセチル-L-システイン、もしくはN-アセチルシステアミン、または胃腸管で7つのうちの1つに分解可能なこれらの7つの化合物の任意の類似体もしくは誘導体のうちのいずれか1つを、ジチオールの1つのチオール置換基と反応させること、及び第2のチオール置換基を、システアミンに分解可能でないチオールと反応させることによって形成される2つのジスルフィド結合を有する化合物を含み得る。適切なチオールを、
図17に列挙する。そのようなジスルフィドは、胃腸管における両方のジスルフィド結合の還元の際に、1つのシステアミンまたはシステアミンに分解可能な化合物、1つのチオール、及び1つのジチオールを生じる。
【0079】
薬学的組成物は、
図18~21のいずれかから選択されるジスルフィドを含み得る。胃腸管における還元及び分解の際に2つのシステアミンを生じることができるシステアミン前駆体を、
図18~21において「システアミン含量」という見出しの下に示す。混合ジスルフィドの薬学的組成物は、(i)胃内滞留、例えば、浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁性製剤もしくはそれらの組み合わせ、(ii)遅延放出、例えば、腸溶性コーティング製剤、(iii)持続放出、例えば、薬物が持続放出ポリマーに包埋される内部コアと、酸に溶解しにくいpH感受性ポリマーを含む外殻とを有する、複数の腸溶性コーティング微粒子、及び/または(iv)結腸標的放出(例えば、腸内細菌によって産生された酵素によってのみ分解可能なマトリックス材料を使用する)のために配合された活性成分を含み得る。
【0080】
2つ以上の製剤を単一の単位剤形で(上記の態様におけるように)混合する代わりに、製剤に関して均質である単位剤形を製造し、異なるシステアミン前駆体、増強剤、及び/または薬物放出特性を有する2つ以上の剤形の同時投与によって、混合製剤効果を達成する(その目的は、血中システアミン濃度-時間曲線を平滑化することである)。すなわち、即時放出製剤のみからなる1つの剤形、遅延放出製剤のみからなる別の剤形、持続放出製剤のみからなる別の製剤、胃内滞留性製剤のみからなる別の製剤、及び結腸標的製剤のみからなる別の製剤は、個々の患者の薬物動態及び副作用プロファイルを最適化するために、異なる比で投与することができる。各組成物は、固体剤形の場合、単位用量あたり約50mg~約800mgを含有し、液体または粉末剤形の場合、約125~約10,000mgを含有する。これらの5つの基本製剤の各々は、例えば、持続放出製剤から、または胃内滞留性製剤からの薬物放出の速度を短縮または延長するために、賦形剤の量及び種類を変えることによってさらに変化させることができる。システアミン前駆体の分解及びシステアミン吸収の増強剤はまた、システアミン前駆体を含有する組成物とともに投与するための別個の組成物として配合され得る。増強剤を別々に配合することは、大量の増強剤の送達を容易にし、一部の患者において必要であり得る。例えば、胃腸酸化還元環境を実質的に修正するために、数グラムの還元剤の送達を必要とし得る。
【0081】
別々に配合された組成物の組み合わせは、例えば、持続放出胃内滞留性錠剤と同時投与される、即時放出カプセル、粉末、または液体を含み得る。別の実施形態では、即時放出組成物は、遅延放出組成物及び結腸を標的とする持続放出組成物の両方とともに投与され得る。異なる薬物放出特性を有する2つ以上の剤形を組み合わせるこの方法は、投与される剤形の数及び種類を制御することによって、投与を個別化するための柔軟なツールを医師に提供するという利点を有する。用量の個別化の重要性は、システアミンの吸収及び代謝の幅広い患者間(但し、小程度から中程度の患者内)の変化から明らかである。
【0082】
組成物は、回腸(通常、胃腸管の最もアルカリ性の領域である)及び/または結腸(小腸よりもはるかに高密度の腸内細菌叢を有する)において放出するように配合され得る。回腸におけるpH依存性薬物放出のために設計された組成物は、結腸に入るときに薬物を放出し続ける可能性が高く、回腸で放出された薬物の一部は、前駆体(すなわち、システアミンに変換されていない)形態で結腸に入り得る。また、腸内細菌叢の組成及び密度は、遠位回腸において変化し始めるため、腸内細菌叢の存在下で薬物を放出するように設計された製剤は、回腸で薬物放出を開始し得る。したがって回腸及び結腸を標的とする製剤は、重なり合う可能性がある。そのような製剤は、本明細書では結腸標的製剤と総称されるが、遠位回腸においても放出され得る。結腸標的製剤は、(i)pH感受性ポリマー(例えば、回腸への薬物放出の開始を標的とするため)、(ii)微生物分解性ポリマーまたはヒドロゲル(例えば結腸への薬物放出を標的とするため)、(iii)組成物が回腸または結腸に到達することが予測されるおよその時間に、薬物を放出するように設計された多層時間放出製剤、(iv)酸化還元感受性ポリマー、(v)生体付着性ポリマー、(vi)浸透圧ポンプ制御放出製剤、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。結腸標的組成物は、単剤療法のためではなく、上部胃腸管を標的とする他の組成物とともに投与するために意図される。実施形態では、胃内滞留性組成物及び結腸標的組成物が同時投与される。いくつかの実施形態では、2つの組成物におけるシステアミン前駆体の比(胃内滞留性:結腸標的)は、1、1.5、または2を超えることがある。システアミンは、上部小腸よりも結腸において効率的に吸収されないため、より多くのシステアミンが結腸で必要である。
【0083】
剤形はまた、それらが含有するジスルフィドシステアミン前駆体に関して変化し得る。異なるジスルフィドシステアミン前駆体は、体内で異なる速度でシステアミンに変換される。例えば、パンテテインに還元され、次いでパンテテイナーゼによって酵素的に切断されてシステアミンを産生しなければならないパンテテインジスルフィドは、還元するとシステアミンを生じるN-アセチルシステイン-システアミンジスルフィドよりも遅い速度で、及びより長い時間にわたってシステアミンを生成する。したがって、一方がN-アセチルシステイン-システアミンジスルフィドを含有し、もう一方がパンテチンまたはシステアミン-パンテテインジスルフィドを含有する、2つの即時放出組成物は、異なる薬物動態プロファイルをもたらす。したがって、異なるシステアミン前駆体からのシステアミン放出プロファイルの内在的可変性を、配合技術によって提供される時間及び位置制御と組み合わせることによって、血漿システアミンレベルが治療範囲にある期間を延長する組成物を作製することが可能である。ある特定の実施形態では、パンテテイナーゼ活性化を必要とするシステアミン前駆体を含有する組成物は、システアミンを生成するために化学的還元のみを必要とするシステアミン前駆体と組み合わされる。特定の実施形態では、システアミンは、パンテテインに連結される。
【0084】
本発明の経口組成物は、粉末、顆粒、液体、錠剤、またはカプセルとして調製された製剤を含み得る。粉末または顆粒は、食品とともに投与することができる。例えば、単位投薬量の粉末または顆粒は、エンベロープ、プラスチック容器、または食事の時に開いて、食品と混合するかまたはその上に広げるための他の種類のサシェなどの密閉包装で患者に提供することができる。そのような組成物は、必要に応じて、ある特定のシステアミン前駆体の苦味及び/または不快な臭気をマスキングするための賦形剤またはコーティングを含有してもよい。(パンテチンは、例えば、著しい臭気はないが、苦味がある。)経口投与された粉末または顆粒の味をマスキングし、口あたりを改善するための方法は、当該分野において知られている。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,270,804号は、経口摂取された場合に許容される味及び口あたりを有するマイクロスフェア及びフロス粒子を作製するための方法を開示している。実施形態では、食品とともに投与するための粉末または顆粒は、持続放出のために配合され得る。例えば、微粒子のコアが持続放出マトリックスに包埋された薬物(システアミン前駆体)を含有し、外部コーティングまたは外殻が、口内の味センサーへの薬物のアクセスを遮断する1種以上の賦形剤を含有し、及び/または甘味もしくは風味のある味などの心地よい味及び許容される口あたりを提供する、コア及び外殻製剤が用いられる。経口投与に適した、持続放出特性を有する薬学的成分を含有する微細粉末を作製するためのプロセスは、当該分野において知られている(例えば、米国特許第7,255,876号)。
【0085】
本発明の組成物は、チュアブル錠として投与することもできる。チュアブル錠剤を使用して、多量の薬物を送達することができ、大きな(非チュアブル)錠剤またはカプセルを嚥下するのが困難な小児または高齢の患者に特に適している。米国特許第6,495,177号は、即時放出または制御放出のためのチュアブル錠剤、粉末、または顆粒状調製物としての投与に適した製剤を含有するアルキルポリシロキサンを記載している。
【0086】
本発明の組成物は、液体として投与することもできる。不快な味の薬学的成分の味をマスキングするための方法は、当該分野においてしられており、システアミン前駆体の許容される液体製剤を作製するために適用することができる。例えば、米国特許第6,482,823号は、味をマスキングした薬学的液体組成物を記載しており、味のマスキングは、薬物を適切なポリマーでコーティングすることによって達成される。液体組成物は、プラスチック容器中の単位剤形として、直接摂取のために、またはジュースもしくは水などの飲料への添加のために、または半固形もしくは固形食品への添加のために包装されてもよい。
【0087】
本発明の組成物は、経口または直腸投与用に製剤化することができる。直腸投与は、原位置でのシステアミン生成のタイミングに対して同じ柔軟な制御を提供せず、したがって、経口投与された組成物に代わるものではなく補充物として有用である。
【0088】
本発明は、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される化合物を特徴とする。特定の実施形態では、化合物は、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される。
【0089】
本発明は、本発明の混合ジスルフィドまたはその塩を含む、単位剤形の薬学的組成物をさらに特徴とする。
【0090】
本発明は、本発明の混合ジスルフィドを含む1種以上の活性成分を含む、単位剤形の薬学的組成物を特徴とする。ある特定の実施形態では、混合ジスルフィドは、システアミン及びN-アセチル-システイン、システアミン及びホモシステイン、システアミン及びグルタチオン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びデホスホ補酵素A、システアミン及び補酵素A、4-ホスホパンテテイン及び補酵素A、パンテテイン及びN-アセチル-システイン、パンテテイン及びホモシステイン、パンテテイン及びシステイン、パンテテイン及びグルタチオン、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、または2つのシステアミン及びジヒドロリポ酸から形成される。薬学的組成物は、胃内滞留、即時放出、遅延放出、持続放出、及び/または結腸標的放出のために配合され得る。特定の実施形態では、薬学的組成物は、腸溶性コーティングを含む。さらに他の実施形態では、薬学的組成物は、混合ジスルフィドの微粒子を含み、混合ジスルフィドは、システアミン前駆体である。いくつかの実施形態では、胃内滞留性製剤が、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化製剤、膨張性マトリックス製剤、またはそれらの組み合わせを含む。
【0091】
別の態様では、本発明は、対象、例えば小児、青年、または成人におけるシステアミン感受性障害を治療するための方法を特徴とし、治療有効量の本発明の1つ以上の組成物を対象に投与することを含む。この方法は、(i)摂取後6時間の間に少なくとも5時間にわたって5μMを超える平均血漿システアミン濃度を含む、第1の放出プロファイル、及び(ii)(第1の放出プロファイルとともに)摂取後12時間の間に少なくとも9時間にわたって5μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度を提供する、第2の放出プロファイルをもたらすために、1つ以上の組成物を対象に投与することを含み得る。追加の実施形態では、本発明の1つ以上の組成物を投与する方法は、(i)摂取後6時間の間に少なくとも3時間~5時間にわたって10μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度を含む、第1の放出プロファイル、及び(ii)(第1の放出プロファイルとともに)摂取後12時間の間に少なくとも6~10時間にわたって10μMを超える平均血漿システアミン濃度を提供する、第2の放出プロファイルをもたらすことができる。別の実施形態では、本発明の1つ以上の組成物を投与する方法は、摂取後6時間の間に約2時間~4時間にわたって15μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度を含む、第1の放出プロファイル、及び(ii)(第1の放出プロファイルとともに)摂取後12時間の間に約6時間~8時間にわたって15μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度を含む、第2の放出プロファイルをもたらすことができる。本発明の実施形態はまた、1つ以上の組成物を投与する方法を含み、第1の放出プロファイルは、摂取後6時間の間に約2時間~4時間にわたって20μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度、及び(ii)(第1の放出プロファイルとともに)摂取後12時間の間の約4時間~6時間にわたって20μMを超えるシステアミンの平均血漿濃度を含む第2の放出プロファイル、を含む。
【0092】
別の態様では、本発明は、システアミン感受性障害を有する対象に、治療有効量の本発明の組成物を投与することによって、システアミン療法の副作用(処方された療法の患者非遵守の主な原因である)を低減する一方で、ピーク血漿システアミン濃度を、一般に副作用と関連したレベルより下、または特定の患者における副作用と関連したレベルより下に抑えるための方法を特徴とする。最も頻繁に起こるシステアミン関連副作用としては、悪心、胃痛、嘔吐、口臭、及び体臭が挙げられる。副作用と関連した血漿システアミンレベルは、患者によって異なるため、個別化した治療法が望ましい。一実施形態では、本発明の1つ以上の組成物の投与は、第1の放出プロファイル、ならびに任意に第2、第3、及び第4の放出プロファイルをもたらし、いずれも(単独でまたは一緒に)60μMを超えるピーク血漿システアミン濃度をもたらさない。好ましくは、ピーク血漿システアミン濃度は、55μMより下、最も好ましくは50μMより下または45μMより下で保たれる。
【0093】
本発明の方法は、以下から選択されるシステアミン感受性障害の治療を特徴とし得る:シスチン症;神経変性疾患、例えばハンチントン病、脳鉄蓄積障害を伴う神経変性(NBIA障害、Hallervorden-Spatz症候群とも呼ばれ、しばしばPANK2遺伝子の突然変異を伴う)、パーキンソン病、及びアルツハイマー病;神経発達障害、例えばレット症候群及び他のMECP2関連障害;精神神経障害、例えば中毒、強迫性障害、統合失調症、双極性障害、及び自閉症;ミトコンドリア障害、例えばリー症候群、MELAS、MERFF、フリードライヒ運動失調症、及びPOLG遺伝子における突然変異;腎臓、肝臓、または肺の線維性疾患、例えばアルポート病、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、及び肺線維症;寄生虫疾患、例えばマラリア及び脳マラリア;鎌状赤血球症;転移性癌;脳卒中;慢性閉塞性肺疾患(COPD);嚢胞性線維症(CF);pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)及び他のバイオフィルム形成細菌を含む細菌感染;ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス感染症;代謝症候群X、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む代謝性疾患;アルコール性脂肪性肝炎(ASH)。
【0094】
他の実施形態では、本発明の方法は、(i)ジスルフィドシステアミン前駆体の場合には、ジスルフィド結合の還元を促進して、胃腸管内で遊離システアミン及び少なくとも1つの他のチオールを産生する薬剤、または(ii)パンテテイナーゼによって切断されなければならないシステアミン前駆体の場合には、胃腸管内でパンテテイナーゼの発現を誘導する薬剤、または(iii)システアミン輸送体をコードする遺伝子の発現を誘導するか、もしくは輸送体の活性を増加させることによって、システアミンの吸収を促進する薬剤、または(iv)システアミンの分解を阻害するか、もしくは遊離チオール形態のシステアミンの維持を促進する薬剤を含む、システアミン効果の増強剤などの少なくとも1種の付加的な薬剤を投与することをさらに含む。
【0095】
システアミン効果の増強剤は、それ自体が治療活性を有し得る。例えば、腸におけるジスルフィドの化学的還元を増強するために、ジスルフィドシステアミン前駆体(例えば、システアミン-パンテテイン)と同時投与されたチオール(例えば、N-アセチルシステイン)またはジチオール(例えば、ジヒドロリポ酸)は、それ自体が補完的治療特性(例えば、非アルコール性脂肪性肝炎を含む、脂肪肝疾患の治療)を有する。ある特定の実施形態では、ジスルフィド結合の還元の増強剤は、治療下の特定の疾患におけるその潜在的な補完的治療効果に基づいて選択される。
【0096】
一実施形態では、少なくとも1種の付加的な薬剤は、本発明のシステアミン前駆体含有組成物の投与と同時に投与される。別の実施形態では、少なくとも1種の付加的な薬剤は、本発明の組成物の投与前に投与される。さらに別の実施形態では、少なくとも1種の付加的な薬剤は、本発明の組成物の投与後に投与される。例えば、パンテテイナーゼまたは有機カチオン輸送体発現の誘導物質は、タンパク質発現の増加をもたらすために数時間を要することがあり、したがって好ましくはシステアミン前駆体の前または同時に投与することができる。ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を増強するように設計された還元剤は、そのような前駆体が本発明の薬学的組成物から胃腸管に放出されるときにいつでも有用であり得、したがって、通常はジスルフィドシステアミン前駆体を含有する組成物の投与と同時及び/または投与後に有用に投与され得る。ある特定の実施形態では、システアミン前駆体を含有する組成物の投与と付加的な薬剤の投与との間の時間は、約30分~約3時間までの範囲であり、最大で9時間である。ある特定の実施形態では、対象/患者は、小児または青年である。
【0097】
上記方法の特定の実施形態では、システアミン感受性障害は、罹患組織におけるパンテテイナーゼの発現を特徴とし、この方法は、(i)対象に4-ホスホパンテテインもしくはその前駆体を投与すること、または(ii)組織を4-ホスホパンテテインもしくはその前駆体と接触させることを含む。システアミン感受性障害は、腎臓疾患、肺疾患、肝疾患、炎症性疾患、感染症、及びパントテン酸キナーゼ関連神経変性から選択することができる。いくつかの実施形態では、システアミン感受性障害は、シスチン症、シスチン尿症、糸球体腎炎、特発性肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、インフルエンザウイルス感染、細菌性肺炎、マラリア、システインへの遺伝的または体細胞的突然変異(例えば、アルギニンからシステインへの突然変異)と関連した疾患、及びパントテン酸キナーゼ関連神経変性から選択される。
【0098】
本発明の方法は、1つ以上の組成物の1つ以上の単位剤形を、対象に1日あたり少なくとも1回、2回、または3回投与することを含んでよい。
【0099】
本発明の方法はまた、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、ドーパミン受容体アンタゴニスト、アンジオテンシン受容体遮断剤、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、δ、もしくはγアゴニスト、フィブラート、スタチン、ビタミンE、アルテミシニンまたは誘導体(例えばアルテスナット、ジヒドロアルテミシニン)、癌化学療法剤(例えばゲムシタビン)、抗生物質、またはそれらの組み合わせを含む群から選択される、治療剤などの付加的な薬剤を含んでよい。
【0100】
他の実施形態では、本発明の方法は、対象の集団における特定の対象のための組成物の投与レジメンを選択することを含み、この方法は、
(a)組成物の投与前に対象から第1の生体試料、例えば血液、組織、または細胞を採取し、1つ以上のバイオマーカーを測定または分類することと(バイオマーカーは、疾患状態を反映するか、または酸化還元状態を反映する化合物の血中レベル、例えばグルタチオン、システイン、または全血チオールの血中レベルであり得る。あるいは、バイオマーカーは、システアミン前駆体代謝及びシステアミン輸送に影響を及ぼす遺伝子中の単一のヌクレチド多型(SNP)、例えばVNN1、OCT1、OCT2、またはOCT3遺伝子内のSNPであってよい)、
(b)少なくとも1つのバイオマーカーの血中レベルを、基準レベルまたは範囲(例えば、正常な対象におけるグルタチオン、システイン、もしくは全チオールレベルの範囲)と比較することであって、対象のバイオマーカーレベルが、有効である可能性が高い、システアミン前駆体(複数可)、投薬レベル、及び/もしくは投与レジメンを示す、比較すること、またはSNPの場合は、患者のバイオマーカー状態に基づいて有効である可能性が高い、システアミン前駆体、投与レベル、及び/もしくは投与レジメンを決定するために、遺伝子型-表現型の関係に関する公開されたデータと対象の遺伝子型を比較することと、
(c)対象の特定されたバイオマーカーレベルまたは遺伝子型に基づいて、有効である可能性が高いシステアミン前駆体、投与レベル、及び/または投与レジメンを選択することと、を含む。この方法は、任意に、
(d)適切な組成物中のシステアミン前駆体(またはシステアミン前駆体の混合物)の種類を、対象にとって最適であると特定された用量レベル及び/または投与スケジュールで投与することを含んでよい。
【0101】
別の実施形態では、本発明は、対象の集団における特定の対象が、本発明の組成物での治療に応答しているかどうかを決定するための方法を特徴とし、この方法は、
(a)治療に対して不満足な反応を有する患者において、組成物の投与前、または投薬レジメンを変更する(例えば、システアミン前駆体、用量、または投与スケジュールを変更する)前に、対象から第1の生体試料、例えば血液、組織、または細胞を採取し、(i)疾患活性、(ii)疾患状態、または(iii)システアミン薬物動態もしくは薬力学のいずれかを反映する1つ以上のバイオマーカーを測定することと(疾患活性マーカーの例としては、白血球シスチンのレベル;アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、及びγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)を含む肝臓酵素のレベル;ビリルビンのレベル(直接及び間接);プロトロンビン時間のレベル;アルブミンのレベル;以下の群から選択される1つ以上のミトコンドリア活性マーカー、グルタチオン(GSH)、還元グルタチオン(GSSH)、総グルタチオン、総血清チオール、高度酸化タンパク質産物(AOPP)、鉄還元抗酸化力(FRAP)、乳酸、ピルビン酸、乳酸塩/ピルビン酸塩の比、ホスホクレアチン、NADH(NADH+H+)もしくはNADPH(NADPH+H+)、NAD、またはNADPレベル、ATPレベル、嫌気性閾値、還元型補酵素Q、酸化型補酵素Q、総補酵素Q、酸化型サイトクロームC、還元型サイトクロームC、酸化型サイトクロームC/還元型サイトクロームCの比、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート、アセトアセテート/β-ヒドロキシブチレートの比、8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)、反応性酸素種のレベル、酸素消費量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)、及び呼吸商(VCO2/VO2)。薬物動態マーカーの例としては、システアミンの血漿レベルまたは組織レベルが挙げられ、薬力学的マーカーの例としては、システアミン化タンパク質が挙げられる。)、
(b)組成物の投与後、または投薬レジメンを変更した(例えば、システアミン前駆体、用量、または投薬スケジュールを変更した)後に、対象から第2の生体試料、例えば血液、組織、または細胞を採取し、採取された第2の生体試料からの同じ1つ以上のバイオマーカーを、第1の試料から分離することと、
(c)任意に、ステップ(b)よりもいくらか長い期間にわたって、組成物を投与した後に(または治療レジメンを変更した後に)、対象から第3のまたは付加的な生体試料、例えば、血液、組織、または細胞を採取し、採取された第3の生体試料(及び任意に付加的な試料)からの同じ1つ以上のバイオマーカーを、第1の試料から分離することと、
(d)第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、第2、第3、または追加の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーと比較することと、を含み、ここで少なくとも1つのバイオマーカーのレベルの経時変化(すなわち、そのバイオマーカーが測定された全ての試料にわたる)は、治療する対象の応答レベルまたは投与間隔の経過中の投与レジメンの妥当性を示す。
【0102】
別の実施形態では、投与レジメンの調整と交互に再帰的バイオマーカー測定を使用して、特定の患者の個人化された投与レジメンを決定する。
【0103】
本発明は、対象の集団における特定の対象が、本発明の組成物での治療に応答しているかどうかを決定するための方法であって、この方法は、(i)組成物の投与前に対象から第1の生体試料を採取し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第1の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを分離することと、(ii)組成物の投与後に、対象から第2の生体試料を採取し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第2の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを分離することと、(iii)第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーと比較することを含み、ここで第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーに対する第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの変化は、治療する対象の応答レベルを示す。バイオマーカーは、白血球(WBC)シスチンのレベルであり得るか、あるいはグルタチオン(GSH)、還元グルタチオン(GSSH)、総グルタチオン、高度酸化タンパク質産物(AOPP)、鉄還元抗酸化力(FRAP)、乳酸、ピルビン酸、乳酸塩/ピルビン酸塩の比、ホスホクレアチン、NADH(NADH+H+)もしくはNADPH(NADPH+H+)、NAD、またはNADPレベル、ATPレベル、嫌気性閾値、還元型補酵素Q、酸化型補酵素Q、総補酵素Q、酸化型サイトクロームC、還元型サイトクロームC、酸化型サイトクロームC/還元型サイトクロームCの比、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート、アセトアセテート/β-ヒドロキシブチレートの比、8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)、反応性酸素種のレベル、酸素消費量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)、及び呼吸商(VCO2/VO2)を含む群から選択される1つ以上のミトコンドリア活性マーカーを含み得る。特定の実施形態では、バイオマーカーは、生体試料中の1つ以上の遊離チオールのレベルの尺度である。生体試料は、血液、組織、及び細胞を含む群から選択することができる。
【0104】
別の態様では、本発明は、滅菌され、ボトル、バイアル、アンプル、チューブ、パケット、及びカートリッジを含む群から選択される容器に包装された、殺菌された本発明の組成物を含むキットを特徴とし、また使用説明書を含む。本発明のキットの組成物は、固体(例えば、錠剤もしくはカプセル)、粉末もしくは顆粒、ゲル、または液体製剤を含んでもよい。本発明のキットは、液体、凍結乾燥粉末、顆粒、錠剤、またはカプセルとして調製される組成物の製剤を含んでもよい。本発明のキットは、溶媒、溶液、または緩衝液をさらに含んでもよい。本発明の組成物は、製剤の種類(例えば、胃内滞留、即時放出、遅延放出、徐放、結腸標的)、システアミン前駆体の種類(例えば、チオール対ジスルフィドシステアミン前駆体、またはシステアミンへの1つ、2つ、3つ、もしくはそれ以上の分解ステップを必要とするシステアミン前駆体、または1つもしくは2つのシステアミンを生じるシステアミン前駆体、またはシステアミン前駆体の化学的同一性、またはより単純に短期、中期、及び長期作用組成物)、システアミン前駆体(複数可)の量、インビボでのシステアミンの生成または吸収の増強剤の種類(もしあれば)、または組成物を食事とともに、または特定の食品もしくはサプリメントとともに摂取すべきかどうかを示すために、色分けされるか、または英数字で標識されるか、または他の方法でマークされてもよい。
【0105】
本発明は、(i)即時放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分を含む、第1の単位剤形の薬学的組成物と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、キットを特徴とする。このキットは、(i)胃内滞留性放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第2の単位剤形の薬学的組成物と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、をさらに含み得る。任意に、キットは、(i)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第3の単位剤形の薬学的組成物と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、をさらに含む。加えて、キットは、(i)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第4の単位剤形の薬学的組成物と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、をさらに含み得る。
【0106】
上記キットのうちのいずれかにおいて、キットは、(i)結腸標的放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第5の単位剤形の薬学的組成物と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、をさらに含む。
【0107】
上記キットのうちのいずれかにおいて、活性成分は、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である。
【0108】
活性成分は、システアミンをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドであり得る。あるいは、活性成分は、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドであり得る。チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンまたはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され得る。別の実施形態では、チオールは、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンまたはチオプロニンジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールまたはジチオールは、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び葉酸塩からなる群から選択される置換基をさらに含む。特定の実施形態では、混合ジスルフィドは、システアミン及びN-アセチル-システイン、システアミン及びホモシステイン、システアミン及びグルタチオン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びデホスホ補酵素A、システアミン及び補酵素A、4-ホスホパンテテイン及び補酵素A、パンテテイン及びN-アセチル-システイン、パンテテイン及びホモシステイン、パンテテイン及びシステイン、パンテテイン及びグルタチオン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、または2つのシステアミン及びジヒドロリポ酸を含む群から選択される。特定の実施形態では、混合ジスルフィドは、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される。
【0109】
上記キットのうちのいずれかにおいて、キットは、腸溶性コーティングを含む、遅延放出のために配合された活性成分を含むことができる。特定の実施形態では、活性成分は、複数の腸溶性コーティングされた微粒子を含む。
【0110】
上記キットのうちのいずれかにおいて、キットは、結腸を標的とするために配合された活性成分を含むことができる。結腸標的製剤は、担体、pH感受性ポリマー、微生物叢分解性ポリマー、生分解性マトリックスもしくはヒドロゲル、多層時間放出製剤、酸化還元感受性ポリマー、生体付着性ポリマー、浸透圧制御製剤、またはそれらの任意の組み合わせとの共有結合を含み得る。特定の実施形態では、pH感受性ポリマーは、pH6.8、6.9、または7.0より上で溶解する。他の実施形態では、微生物叢分解性ポリマーは、腸内細菌によって生分解性であるが、膵臓酵素によっては分解されない。
【0111】
上記キットのうちのいずれかにおいて、第1の単位剤形は、摂取後約10分~30分の間に組成物から放出され得、第2の単位剤形は、摂取後約1時間~8時間の間に組成物から放出される。
【0112】
上記キットのうちのいずれかにおいて、第1の単位剤形は、経口もしくは直腸投与のために配合され得るか、または粉末、液体、錠剤、もしくはカプセルとして配合され得る。
【0113】
上記キットのうちのいずれかにおいて、第1の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約5,000mgの第1の有効成分を含み得る。特定の実施形態では、(i)第1の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約2,500mgの第1の活性成分を含み、(ii)第2の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約3,000mgの第2の活性成分を含む。さらに他の実施形態では、(i)第1の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約600mgの第1の活性成分を含み、(ii)第2の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約4,000mgの第2の活性成分を含み、(iii)第3の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約800mgの第3の活性成分を含む。さらに他の実施形態では、(i)第1の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約600mgの第1の活性成分を含み、(ii)第2の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約4,000mgの第2の活性成分を含み、(iii)第3の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約800mgの第3の活性成分を含み、(iv)第4の単位剤形は、単位用量あたり約50mg~約800mgの第4の活性成分を含む。
【0114】
上記キットのうちのいずれかにおいて、キットは、(i)システアミン前駆体代謝の増強剤を含む単位剤形の薬学的組成物、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤、及び(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤をさらに含み得る。
【0115】
上記キットのうちのいずれかにおいて、薬学的賦形剤は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、疎水性不活性マトリックス、カルボマー、ヒプロメロース、ゲルシール43/01、ドキュセートナトリウム、白蝋を含む群から選択され得る。
【0116】
定義
「即時放出」とは、人工胃液中で溶解放出プロファイルを有する単位剤形で配合された活性剤(例えば、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩)を放出する態様を意味し、薬剤の少なくとも55%、65%、75%、85%、または95%が、USP適合機器を使用して試験の最初の2時間以内に放出される。
【0117】
「制御放出」とは、放出の解剖学的部位もしくは放出の速度、または両方の制御を可能にするように、活性剤(例えば、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩)をその製剤から放出する態様を意味する。一般に、制御放出製剤の目的は、治療薬物レベルが体内に存在する期間(例えば、即時放出製剤に対する)を延長すること、及び/またはシステアミン吸収部位への薬物送達を最適化することであり、それによって24時間で投与されなければならない用量の数を減少させる。胃内滞留性、遅延放出、持続放出、及び結腸標的製剤は、全て制御放出製剤の例である。制御放出製剤はまた、同じ用量レベルで投与される即時放出製剤(すなわち、本発明のシステアミン前駆体の場合には低下したシステアミンCmax)に対して観察されるものに対して、薬剤(Cmax)のピーク濃度の低減を可能にし得る。活性剤の制御放出製剤は、例えば、活性剤を、本体の溶解または浸食が遅いマトリックス物質に包埋することによって達成することができ、それにより有効成分は、マトリックスからの拡散もしくマトリックスの表面の浸食のいずれかまたは両方によって、あるいは薬物が半透過性層をゆっくりと出る、半透過性表面を有するゲルの形成によって、コーティングからゆっくりかつ規則的に浸出する。
【0118】
「遅延放出」とは、薬学的調製物、例えば、胃の酸性環境を実質的に無傷で通過し、小腸のより塩基性の環境で溶解し、それにより単位剤形で配合された活性剤(例えば、システアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩)が、薬剤の25%、20%、15%、10%、または5%未満が、試験の最初の1時間以内に放出される、人工胃液中の溶解放出プロファイルを有し、追加として、薬剤の少なくとも55%、65%、75%、85&、または95%が、試験の最初の2時間以内に放出される、pH6.0または6.3または6.5の人工腸液中の溶解放出プロファイルを有する、経口投与製剤を意味する。いくつかの実施形態では、活性剤(例えば、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩)の遅延放出は、経口剤形のpH感受性腸溶性コーティングの使用から生じる。腸溶性コーティングは、薬物が放出される期間を延長するように、例えば、急速または遅い(持続した)放出製剤、またはその2つの組み合わせと組み合わせることができる。
【0119】
「持続放出」という用語(文献では「延長放出」とも呼ばれる)は、同じ薬物の即時放出製剤と比較して、長期間、例えば6~12時間以上にわたって薬物の徐放を提供し、それにより単位剤形で配合された活性剤(例えば、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩)が、薬剤の少なくとも10~45%(すなわち、15~45%、20~45%、25~45%、35~45%、30~45%、または40~45%)が、試験の最初の3時間以内に放出され、人工小腸液中にあるとき、薬剤の65%、75%、85%、90%、93%、95%、または97%以上が、8時間以内に放出される、人工胃液または腸液中の溶解放出プロファイルを有する、薬物製剤を指す。好ましくは、必ずしも必要ではないが、持続放出は、長期間にわたって、治療される疾患の治療範囲内にある薬物の実質的に一定の血中レベルをもたらす。好ましくは、システアミン前駆体の持続放出製剤は、例えば5~50μM、5~40μM、5~35μM、5~30μM、5~25μM、5~20μM、または10~50μM、10~45μM、10~40μM、10~35μM、10~30μM、10~25μM、または10~20μMの間の濃度範囲内に入る、血漿システアミンレベルを生じる。
【0120】
「結腸を標的とする」という用語は、結腸(小腸よりも腸内細菌叢の密度がはるかに高い)及び任意に遠位回腸(胃腸管の最もアルカリ性の領域である傾向がある)においても薬物放出を提供する製剤または組成物を指す。遠位回腸及び結腸への薬物放出を標的とするための1つの方法は、回腸における典型的なpHであるpH7(例えば、pH6.8、pH6.9、pH7.0)付近で溶解するpH感受性コーティングを使用することである。回腸におけるpH依存性薬物放出のために設計された製剤は、結腸内でも薬物を放出する可能性が非常に高い(特に、薬物が持続放出マトリックスに包埋されている場合)、及び/または回腸で放出されるシステアミン前駆体の一部が、依然として前駆体(すなわち、まだシステアミンに変換されていない)形態で結腸に移ることができる。別の種類の結腸標的製剤は、腸内細菌によって作製された酵素に依存して、唾液、胃、または膵臓酵素によって分解することができない薬物封入ポリマーを分解し、それによって結腸での薬物送達をもたらす。腸内細菌叢の密度は、遠位回腸においても高く、そのため、腸内細菌叢は、ポリマーを消化し始め、したがって遠位回腸において薬物を放出することができる。回腸及び結腸を標的とする製剤は、本明細書では結腸標的製剤と総称される。
【0121】
「単位剤形」という用語は、各単位が所定量のシステアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩を含有する丸剤、錠剤、カプレット、硬質カプセル、または軟質カプセルなどの一体型剤形として適切な物理的に別個の単位を指す。「硬質カプセル」とは、薬物及び賦形剤の固体または液体ペイロードを担持することができる2部分のカプセル形状の容器を形成する膜を含むカプセルを意味する。「軟質カプセル」とは、薬物及び賦形剤の液体または半固体または固体ペイロードを担持する単一の容器に成形されたカプセルを意味する。顆粒、粉末、及び液体は、適切な包装を使用することによって、「単位剤形」で提供することもできる。例えば、顆粒または粉末は、サシェで、及びアンプル、バイアル、またはプラスチック容器中の液体で投与することができる。
【0122】
「微粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、薬物製剤に使用されるマイクロビーズ、マイクロスフェア、マイクロペレット、ナノ粒子、ナノビーズ、ナノスフェア、または他の微細粒子を指し、各微粒子が、平均直径で0.05~999マイクロメートルの間にある。そのような微粒子の数十、数百、または数千を単一の単位剤形で使用することができ、例えば、それらをカプセルの中に充填するか、または粉末として配合するか、または液体中に懸濁させることができる。
【0123】
薬剤の「有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患寛解などの患者において有益なまたは所望の結果をもたらすために十分な量であり、そのような「有効量」は、患者の年齢及び体重、疾患の影響を受ける臓器(複数可)を含む疾患の性質、疾患の状態または活性のレベル、患者のシステアミンに対する感受性、及び他の要因を含む、それが適用されている文脈に依存する。
【0124】
本明細書で使用される場合、「パンテテイン」、「4-ホスホパンテテイン」、「デホスホ補酵素A」、及び「補酵素A」、ならびに胃腸管におけるこれらの化合物のうちの1つに変換可能な任意の類縁体または誘導体は、全てD鏡像異性体を指す(最近の命名法を用いて、R鏡像異性体とも呼ばれることもある)。これらの化合物の各々は、それぞれ(R)または(S)形態とも呼ばれるD(デキストロ)形態またはL(レボ)形態のいずれかで存在し得る、パントテノイル部分にキラル炭素を含有する。D-パンテテイン鏡像異性体のみが、パンテテイナーゼの基質であり、したがってシステアミン前駆体である唯一のパンテテイン鏡像異性体である。同様に、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aなどのパンテテインに変換可能な化合物のD-鏡像異性体のみが、本発明の組成物及び方法において有用である。
【0125】
本明細書で使用される場合、「ジスルフィド化合物」は、R1-S-S-R2(式中、R1及びR2が有機化合物である)の形態の第2の硫黄原子に化学的に結合した硫黄原子を含有する化合物である。R1及びR2は、同一でも異なっていてもよい。ジスルフィド化合物は、一般に、2つのチオールの酸化によって形成され(即ち、R1-S-H+R2-S-Hが、R1-S-S-R2+2H
+を生じる)、還元によって2つのチオールに可逆的に変換され得る(すなわち、R1-S-S-R2+2H
+が、R1-S-H+R2-S-Hを生じる)。ジスルフィド化合物はまた、1つまたは2つのチオールを、ジチオールと反応させることによって形成され得る(例えば、R1-S-H+R2-S-H+H-S-R3-S-Hが、R1-S-S-R3-S-S-R2+4H
+を生じ、式中、R1、R2、及びR3は、有機化合物であり、H
+は、水素イオンである)。本発明のジスルフィド化合物は、1)式C
2H
6NS-S-R1(式中、R1は有機部分である)のシステアミン混合ジスルフィド化合物、2)式C
11H
21N
2O
4S-S-R1(式中、R1は有機部分である)のパンテテインジスルフィド化合物、3)式C
11H
22N
2O
7PS-S-R1(式中、R1は有機部分である)の4-ホスホパンテテインジスルフィド化合物、4)式C
21H
34N
7O
13P
2S-S-R1(式中、R1は有機部分である)のデホスホ補酵素Aジスルフィド化合物、5)式C
21H
35N
7O
16P
3S-S-R1(式中、R1は有機部分である)の補酵素Aジスルフィド化合物、または6)式C
4H
8NOS-S-R1(式中、R1は有機部分である)のN-アセチルシステアミン化合物を包含する、生物活性硫黄含有化合物である。追加のジスルフィドは、2つのジスルフィド結合を形成し得る化合物である、ジチオールを使用して形成することができる。少なくとも1つの、及び任意に両方のジスルフィド結合は、システアミンまたは胃腸管でシステアミンに分解可能な化合物とのものである。あるいは、ジチオールは、たった1つのそのような化合物にジスルフィド結合しており、ジチオールの第2のチオールは、チオール形態で残っているか、または第2のチオールは、例えば
図17に列挙されているチオールを含む任意のチオールにジスルフィド結合することができる。胃腸管でシステアミンに分解可能な化合物としては、パンテテインに加えて、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミン、または胃腸管において(例えば、化学的もしくは酵素的プロセスによって)これら5つの化合物のうちの1つに変換可能な任意の類似体もしくは誘導体が挙げられる。本明細書において「適切な類似体または誘導体」と呼ばれる任意のそのような類似体または誘導体は、本発明のチオールであり、これらの5つの化合物のうちの1つの代わりになり得る。「混合ジスルフィド」は、2つの異なるチオールから形成されるジスルフィドである。「システアミン混合ジスルフィド」とは、システアミンを別の(システアミンでない)チオールと接続するジスルフィドを意味する。「パンテテイン混合ジスルフィド」とは、パンテテインを別の(パンテテインでない)チオールと接続するジスルフィドを意味し、以下同様である。一般に、混合ジスルフィドは、2つの構成体チオールのより単純なものによって分類される(例えば、システアミン-パンテテインは、システアミン混合ジスルフィドと呼ばれる)。ジスルフィドシステアミン前駆体を形成するために有用なチオールとしては、例えば、L-システイン、N-アセチルシステイン、グルタチオン、
図17に列挙される任意のチオール、及び本明細書に記載される他のチオールが挙げられる。いくつかの例示的な混合ジスルフィドは、
図2~
図10に示されている。
図18~
図21の表は、ジスルフィドを形成するために、
図17のチオールをどのようにして有用に組み合わせることができるかを示している。簡潔かつ明瞭にするために、ジスルフィド結合を介して接続される2つのチオールの名称は、本明細書では、正式な化学名(例えばIUPAC命名法を用いる)ではなく、ジスルフィド名を示すために使用される。したがって、システアミン-パンテテインは、これら2つの化合物から形成されるジスルフィドを指す。そのルールに対する3つの重要な例外は、次のとおりである。2つのパンテテインを反応させることによって形成されるジスルフィドは、一般にパンテチンと呼ばれ、2つのシステインを反応させることによって形成されるジスルフィドは、一般にシスチンと呼ばれ、2つのシステアミンを反応させることによって形成されるジスルフィドは、一般にシステアミンと呼ばれる。
【0126】
本明細書で使用される場合、「…を反応させることによって形成されるジスルフィド」または「…を反応させることによって形成される化合物」という用語は、特に2つの指定されたチオールの間に形成されるジスルフィドを指す。例えば、システアミンをパンテテインと反応させることによって形成されるジスルフィド(システアミン-パンテテインと呼ばれる)は、システアミン分子とパンテテイン分子との間に形成されるヘテロ二量体を意味する。この定義は、2つの指定されたチオールが反応したときに、何が実際に起こり得るかを反映していない。すなわち、システアミンを酸化条件下でパンテテインと反応させると、次の化学的条件に依存して3つのジスルフィドが様々な割合で形成され得る:システアミン-システアミン(すなわち、シスタミン)、システアミン-パンテテイン(また、本発明の目的のために同一であるパンテテイン-システアミン)、及びパンテテイン-パンテテイン(すなわち、パンテチン)。実際の反応産物(すなわち、3つのジスルフィドの混合物)を意味するとき、そのテキストは明らかにそれを述べている。
【0127】
「システアミン前駆体」とは、生理学的条件下で少なくとも1つのシステアミンに変換され得る化合物を意味する。変換の手段としては、システアミン含有ジスルフィド(すなわち、システアミン混合ジスルフィド)の場合の還元、パンテテイナーゼ基質(パンテテインならびに胃腸管内でパンテテインに代謝的に変換可能な化合物、例えば4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素A、ならびにその適切な類似体もしくは誘導体)の場合の酵素加水分解、または還元及び酵素的切断の両方が挙げられる。前駆体の例としては、システアミン混合ジスルフィド、パンテテインジスルフィド、4-ホスホパンテテインジスルフィド、デホスホ補酵素Aジスルフィド、補酵素Aジスルフィド、及びN-アセチルシステアミンジスルフィド、ならびにパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、及びN-アセチルシステアミンが挙げられるが、これらに限定されない。システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素A(後者の4つの化合物は、システアミン前駆体である)の間の化学的関係を
図1に示す。構成体チオールが全てシステアミン前駆体であるため、2つのパンテテイン分子(すなわち、パンテチン)、または2つの4-ホスホパンテテイン分子、または2つのデホスホ補酵素A分子、または2つの補酵素A分子、または2つのN-アセチルシステアミン分子のホモ二量体もまた、各々ジスルフィドシステアミン前駆体化合物である。
【0128】
「適切な類似体または誘導体」とは、システアミン前駆体であるパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミン、またはそれらのうちのいずれかを含有するジスルフィドに関して、化学的プロセスによるかまたは酵素的プロセスによるかにかかわらず、胃腸管でパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンに変換可能な化合物を意味する。
【0129】
「パンテテインに変換可能な化合物」とは、胃腸管でパンテテインに分解され得る、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aなどの化合物、ならびに胃腸管で親化合物に変換され得る化合物の類似体または誘導体を意味する。
【0130】
ジスルフィドに関して使用される「構成体チオール」とは、反応してジスルフィドを形成するチオール(及び任意にジチオール)化合物を意味する。
【0131】
「システアミン含有量」とは、化学的及び/または酵素的分解の際にインビボでシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体の重量分率を意味する。
【0132】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書で使用される場合、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を伴わずにヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適し、合理的な便益/リスク比に見合うような塩を表す。薬学的に許容される塩は、当該分野において周知である。例えば、薬学的に許容される塩は、Berge et al.,J.Pharmaceutical Sciences 66:1-19, 1977 and in Pharmaceutical Salts:Properties,Selection, and Use,(Eds.P.H.Stahl and C.G.Wermuth),Wiley-VCH,2008.に記載されている。この塩は、本発明の化合物の最終的な単離及び精製の間に原位置で、または遊離塩基基を適切な有機酸もしくは無機酸と反応させることによって別々に調製することができる。代表的な酸付加塩としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリル酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等が挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、ならびに非毒性アンモニウム、第4級アンモニウム、及びアミンカチオンが挙げられ、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等を含むが、これらに限定されない。
【0133】
「胃内滞留性」、「胃滞留性」等とは、哺乳動物、好ましくはヒトの胃内に長時間にわたって、好ましくは食物のそれと同じ長さ、より好ましくは食物のそれより長い時間にわたって滞留可能な薬学的組成物を意味する。したがって、「胃滞留」は、遊離形態で、例えば胃内滞留性であるとみなされない経口送達ビヒクル内で送達されたときに胃内で滞留する時間よりも長い期間にわたる、胃の中の薬物組成物の維持である。胃内滞留性製剤は、胃からの通常の排出時間よりも長い期間、すなわち約2時間より長い、特に約3時間より長い、通常は約4、6、8、または10時間より長い期間にわたる胃内滞留を特徴とし得る。胃内滞留性製剤は、典型的には、食事を摂取した後約3、4、6、8、10時間、または時には18時間以上にわたって胃内に滞留する。しかしながら、本発明によれば、制御放出胃内滞留性薬物送達系の滞留は、非空腹時に投与して48時間以上後、好ましくは24時間後には観察されないことに留意されたい。胃内滞留性製剤としては、浮遊性もしくは浮揚性製剤、膨潤性もしくは膨張製剤、生体付着性もしくは粘膜付着性製剤、展開製剤及び磁性製剤、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。たった1つの胃内滞留機序で胃内滞留を維持することが困難であることが判明しているため、2種以上の胃内滞留性製剤の組み合わせが一般的である。胃内滞留性製剤は、好ましくは食事とともに投与される。
【0134】
互換的に使用される「浮遊性」、「浮遊」、及び「浮揚性」とは、本発明の組成物を、摂食状態での粥状液である(絶食状態または胃排出後の胃液)、胃内容物の表面上またはその近傍に位置づける能力を有する製剤の種類を意味する。胃内容物上に浮遊することにより、製剤は、胃の筋肉の収縮中に、幽門を通って十二指腸内に推進される機会が少なくなり、幽門は、着座または起立した状態で胃の底部に位置する。浮遊性製剤は、小さい(例えば、ミクロンスケール)、中程度(例えば、ミリメートルスケール)、または大きい(例えば、センチメートルスケール)粒子からなり得る。大きな組成物は、本明細書で説明するように、膨潤性/膨張性機序を介して同時に作用し得る。任意のサイズの製剤は、粘膜付着性機序を介して同時に作用することができる。
【0135】
互換的に使用される「膨潤性」及び「膨張性」とは、組成物が、胃液または粥状液などの流体含有媒体との接触時にその寸法を増大させる能力を意味する。好ましくは、「膨潤性」は、最初の錠剤の寸法を、胃から容易に除去されないであろうサイズに増加させることを特徴とする。胃からの排出は、幽門の通過を伴う。ヒトにおける幽門の平均静止直径は、摂食状態及び絶食状態で変化する。摂食状態では約1センチメートル以下、絶食状態では約1.28センチメートル±7ミリメートルである。好ましくは、「膨潤性」は、組成物の寸法を、少なくとも2つの寸法で14mm以上、16mm以上、18mm以上、20mm以上、または22mm以上であるが、代替として1つの寸法のみがそうある場合、2つ目及び3つ目の両方の寸法が12mm、14mm、または16mmより大きくなるまで増加させることを必要とする。
【0136】
「粘膜付着」とは、組成物が胃腸管内を覆う粘液の層に付着する能力を意味する。胃内滞留性製剤の場合、「粘膜付着」は、胃内を覆う粘液層への付着を指す。粘膜付着は、胃内滞留時間を延長するためのいくつかの技術のうちの1つであるが、胃の粘膜層は、ゆっくりでも継続的に代謝回転し、粘膜付着の持続時間を制限する。したがって、粘膜付着は、通常、長期の胃内滞留時間をもたらすために他の胃内滞留法と組み合わせられる。「生体付着」とは、組成物が、腸細胞の表面上の分子を含む胃腸管内を覆う他の分子に付着する能力を意味する。
【0137】
互換的に使用される「展開」または「形状変化」とは、組成物が、胃の中で展開し、伸び、巻き戻り、緩むか、または他の方法で開いて、容易に幽門を通過せず、したがって長期間にわたって胃内に滞留するサイズ及び/または幾何形状の組成物に変容する能力を意味する。「展開」または形状変化製剤を、カプセル内で配合することができる。必須ではないが理想的に、展開または無包装状態の展開製剤の寸法は、少なくとも2つの寸法で16mm、18mm、20mm、または22mmより大きいが、代替として1つの寸法のみがそうある場合、2つ目及び3つ目の寸法が12mm、14mm、または16mm以上である。
【0138】
「磁性製剤」とは、長期間にわたって胃または小腸での組成物の滞留をもたらすために、体外に配置された磁石(複数可)によって形成された外部印加された磁場と相互作用することができる磁石または播種性磁化材料を含有する組成物を意味する。胃を標的とした組成物は、好ましくは、少なくとも食物が胃に滞留する限り、より好ましくは食物が滞留するより長く滞留する。小腸を標的とした組成物は、好ましくは、実質的に完全な薬物溶解まで、または組成物を適所に保持するために適正な磁気強度が失われるまでのいずれか早い方まで滞留する。使用される磁石または磁性材料は、ヒトの摂取に対して安全でなければならない。外部磁石を使用して、結腸などの胃腸管の他の領域に磁石を含有する薬学的組成物を配置することもできるが、ほとんどの場合、磁性製剤は、胃内滞留性製剤または小腸標的製剤の一種である。
【0139】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、疾患を改善するため、または疾患活動の代理となるバイオマーカーを調節するために、患者(ヒトまたは非ヒト哺乳動物)に投与されなければならない量を指す。神経変性、代謝性、線維性、虚血性、感染性、腫瘍性、及び遺伝性疾患を含む様々な疾患の臨床的エンドポイントは広く変化するが、一般に当該分野で周知である。特定のバイオマーカーとしては、例えば、(i)シスチン症患者における疾患制御の代理となる白血球(WBC)シスチンレベル;(ii)臨床的全体評価(CGI)スコア、臨床医インタビューに基づく変化及び介護者インプットに関する評価(CIBIC-Plus)、アルツハイマー病共同研究-臨床医による変化に関する全体評価(ADCS-CCGIC)スコア、アルツハイマー病評価スケール-認知的サブスケール(ADAS-Cog)スコア、アルツハイマー病共同研究-重度認知症に関して修正された日常生活動作インベントリー(ADCs-ADLsev)スコア、ミニメンタルステート検査(MMSE)、精神神経インベントリー(NPI)スコア、統一ハンチントン病評価スケール(UDHRS)、MATTISテスト、ホプキンストレイルメーキングテスト、カテゴリー流暢性課題、統一パーキンソン病評価スケール(UPDRS)スコア、またはパーキンソン病睡眠スケール(PDSS-2)合計スコアのような手段を含む、認知的、運動的または感情的状態の指標を用いて、神経変性疾患患者の治療応答を測定することができる。(iii)神経変性疾患活動の生化学的尺度としては、ADバイオマーカー(例えば、血漿β-アミロイドタンパク質)または脳由来神経栄養因子(BDNF)レベルが挙げられる。(iv)代謝性及び線維性肝疾患の指標としては、(NAFLD)活動スコア(NAs)及び肝線維スコアなどの肝生検に基づく肝線維症の測定などの解剖学的検査が挙げられる。(v)HOMA-IR及びアジポ-IR指標によってそれぞれ測定される、肝臓及び脂肪組織インスリン感受性を含む肝臓健康の生化学的指標、血清アミノトランスフェラーゼ及びγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)レベル、NAFLD、NASH、ASH、または遺伝性肝疾患に関する血中のCK-18由来断片。(vi)ミトコンドリア病に関する疾患状態の指標としては、臨床エンドポイントとしてのニューキャッスル小児ミトコンドリア病スケール(NPMDS)スコアが挙げられる。ならびに(vii)グルタチオン、総血清チオール、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチレート、乳酸塩、またはマロンジアルデヒド(酸化ストレスのマーカー)のレベルを含むバイオマーカーを挙げることができる。他の代理疾患マーカーとしては、免疫応答の調節、遺伝子もしくはタンパク質発現の調節、または確認された放射線学的疾患尺度(例えば、X線、CTスキャン、MRIスキャン、もしくはPETスキャンによって評価される)の調節が挙げられる。システアミン前駆体の治療有効量を決定する方法は、高度に疾患特異的であり、上記疾患の各々を専門とする臨床医には周知である。
【0140】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤」は、過度の有害な副作用(毒性、刺激、またはアレルギー反応など)を伴わずにヒト及び/または非ヒト哺乳動物での使用に適した組成物の製剤中に(活性成分と一緒に)含まれる天然または合成物質である。賦形剤としては、例えば、抗付着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮助剤、崩壊剤、染料(色)、皮膚軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、フィルム形成剤またはコーティング剤、香味料、香料、滑剤(流動促進剤)、潤沢剤、保存剤(酸化防止剤を含む)、印刷インク、吸着剤、懸濁剤または分散剤、溶媒、コロイド安定剤、甘味料、及び水を挙げることができる。US FDAは、薬物を配合する際に一般に使用される数千種の物質に関する情報を含む、「不活性成分」のデータベースを維持している。このデータベースは、制御放出、遅延放出、持続放出、または延長放出製剤において一般的に使用される賦形剤を検索することができる。賦形剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム(二塩基性)、ステアリン酸カルシウム、カルボマー、クロスカルメロース、架橋ポリビニルピロリドン、クエン酸、クロスポビドン、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはヒプロメロースを含むセルロース誘導体、ドクサートナトリウム、ゼラチン、ゲルシール(gelucire)43/01、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、マルチトール、マンニトール、メチルセルロース、メチルパラベン、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレンオキシド)、ポリビニルピロリドン、ポビドン、アルファ化デンプン、プロピルパラベン、シェラック、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ソルビトール、デンプン(トウモロコシ)、ステアリン酸、スクロース、タルク、二酸化チタン、植物油、白色、黄色、または蜜蝋を含む蝋、及びキシリトールが挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤としてはまた、希釈剤(例えば、生理食塩水及び水性緩衝液)、水性担体、及び非水性担体、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注入可能な有機エステルが挙げられる。特定の特性を有する組成物を配合するために有用な賦形剤は、発明の詳細な説明により具体的に記載されている。
【0141】
「腸溶性コーティング」とは、本明細書に記載される活性成分(複数可)(例えば、システアミン前駆体、ならびにシステアミン前駆体の分解及び吸収の増強剤)が胃を通過するときに、それらを保護する、本明細書に記載される製剤に添加される薬剤または化合物を意味する。腸溶性コーティングはまた、刺激性の薬学的成分(例えば、システアミン)から胃を保護する。市販の腸溶性コーティング技術の例としては、AcrylEZE,Opadry,Nutrateric and Sureteric製品(Colorcon,West Point PA)、Advantia Performance Specialty Coatings(International Specialty Products,Wayne NJ)、Kollicoat製品ライン(BASF Corporation,Ludwigshafen Germany)、Aquacoat製品(FMC BioPolymer)、Eastman C-A-P(Eastman Chemical Co.Kingsman TN)、Eudragit製品ライン(Evonik Industries)、ならびにAQOAT、HP-50、及びHP-55製品ライン(Shin Etsu Pharma)が挙げられるが、これらに限定されない。Ashland Specialty Ingredients、Encap Drug Delivery、及びSanyo Chemical Industries,Ltd.もまた、腸溶性コーティング系を販売している。腸溶性コーティング製剤に一般に使用されるpH感受性フィルム形成ポリマーの例としては、(i)セルロースアセテートフタレートなどのセルロース系ポリマー(例えば、Aquacoat CPD、FMC;C-A-P、Eastman Chemical Co.)、セルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(例えば、AquaSolve,Ashland Specialty Ingredients,Wilmington DE)、(ii)1:1及び1:2の比のポリ(メタクリル酸-エチルアクリレート)などのポリメタクリレート(例えば、Eudragit L30D-55及びEudragit L100-55(Evonik Industries)、AcrylEZE(Colorcon)、Kollicoat MAE 30 DP及びKollicoat MAE 100P(BASF Pharma Ingredients and Services)、Polyquid PA-30(Sanyo Chemical Industries)、及びポリ(メタクリル酸-メチルメタクリレート)、(iii)ポリ(ビニルアセテート)フタレートなどのポリビニル誘導体(例えば、Sureteric、Colorcon)、ならびに(iv)スチレン及びマレイン酸のコポリマーの半エステル、ビニルエーテル及びマレイン酸のコポリマーの半エステル、ならびにビニルアセテート及びクロトン酸のコポリマーのなどの他のコポリマーが挙げられる。腸溶性コーティングはまた、シェラック(例えば、PROTECT、Sensient Pharmaceutical Coating Systems)またはアルギン酸ナトリウム及びゼイン(Encap Drug Delivery)を使用して作製される。ヒドロキシプロピルメチルセルロースはまた、ヒプロメロースまたはHPMCとも呼ばれる。腸溶性コーティング製剤に一般に使用される他の賦形剤の例としては、湿潤微晶質セルロース、湿潤粉末セルロース、ゲランガム、及びステアリン酸が挙げられる。腸溶性コーティングは、錠剤、カプセル、及び微粒子を含む様々な製剤に適用することができる。
【0142】
本明細書で使用される場合、「併用療法」は、本発明による治療を必要とする患者(または非ヒト哺乳動物)が、本明細書に開示されるものに加えて、本明細書に完全に記載されていないか、または場合によっては企図されていない薬物療法を受けることを意味する。併用療法は、本発明のシステアミン前駆体療法と連続して(前もしくは後に)または同時に行うことができる。
【0143】
「治療する」とは、疾患または障害を治療し、疾患徴候もしくは症状の改善、または疾患活動もしくは疾患状態の生化学的、放射線学的、行動的、もしくは身体的なマーカーの改善などの、有益なまたは望ましい結果を得る目的で、患者を管理レジメンに供することを意味する。有益なまたは望ましい結果の例としては、炎症の解消、生化学的不均衡の解消、生活の質の改善、認知及び行動状態の改善、運動機能の改善、感情及び気分状態の改善、睡眠改善、またはより一般的には、1つ以上の症状もしくは状態の緩和または改善、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化、病気の伝播の予防、疾患の進行の遅延または減速、疾患、障害、または病態の改善または緩和、及び重大な疾患発現の部分的または完全な寛解を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0144】
「哺乳動物」という用語は、ヒト及び非ヒト哺乳類の両方を意味することが意図される。
【0145】
「送達する」とは、本明細書に記載される活性成分(複数可)を、活性成分(複数可)及び(任意に)1種以上の担体及び/または希釈剤及び/または補助剤または他の賦形剤を含有する、錠剤、カプセル、液体、粉末、顆粒、微粒子、サシェ、坐剤等(「薬学的組成物」または単に「組成物」と総称される)の経口投与によって提供及び/または投与することを意味する。組成物は、該組成物の表面または包装上の任意の色分けまたは英数字のテキストの説明、ならびに組成物が特定の時間帯に、または食品(例えば、(特定の種類または量の食品)、液体、食事(食事の種類に関する詳細を含む)、または他の薬物療法とともに摂取されるべきかどうか、及び薬物投与後のある期間にわたって、患者が直立したままであるか、または座っているべきかどうかに関する指示を含む、送達のための指示とともに提供され得る。
【0146】
いくつかの疾患の頭字語、遺伝子名、及び他の医学用語は、略語によって表される。疾患の頭字語としては、MELAS(ミトコンドリア脳心筋症、乳酸アシドーシス、及び脳卒中様エピソード)ならびにMERFF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん)が挙げられる。遺伝子名としては、POLG(DNAポリメラーゼγ、ミトコンドリアDNAポリメラーゼの触媒サブユニットをコードする);OCT1、OCT2、及びOCT3(有機カチオン輸送体1、2、及び3をコードする)(それぞれSLC22A1、SLC22A2、及びSLC22A3としても知られる);PANK2(パントテネートキナーゼ2をコードする);VNN1(バニン1をコードする、パンテテイナーゼとしても知られる);VNN2(バニン2をコードする、GPI-80及びパンテテイナーゼとしても知られる)が挙げられる。
【0147】
本明細書で使用される場合、「システアミン感受性疾患」は、システアミンが有効な治療であり得るという証拠がある疾患を意味する。証拠は、哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、マウス、ラット、サル、ウサギ)における疾患の臨床的もしくは前臨床的研究のいずれか、または疾患機序のインビトロ研究から導かれ得る。システアミン感受性疾患は、広く変化する徴候及び病因を有する広範な異種の疾患群を構成する。システアミン有効性の証拠がある疾患及び障害は、システアミン有効性の機序が必ずしも明確ではなく、未知の作用機序があり得るという重要な注意点とともに、病因によって分類され得る。システアミン感受性疾患の重要なカテゴリーとしては、(i)シスチン輸送の障害(中でもシスチン症が最もよく知られている)、(ii)神経変性及び肝臓疾患を含む酸化的損傷に関連する障害、(iii)神経変性疾患、遺伝性ミトコンドリア疾患、突然変異体MECP2及びPOLGに関連する疾患を含む、病理学的酵素活性に関連する障害、(iv)腎臓、肝臓、または肺の線維症を含む線維性障害、(v)代謝症候群X、糖尿病、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に至る非アルコール性脂肪肝疾患のスペクトルを含む代謝障害、(vi)ある特定のウイルス感染症(例えば、インフルエンザ)、細菌感染症(例えば、pseudomonas aeruginos)、及び寄生虫感染症(例えば、マラリア)を含む感染性疾患、(vii)心臓及び他の臓器の虚血再灌流傷害を含む虚血性疾患、(viii)異常なアディポネクチン代謝に関連する疾患、及び(ix)癌ならびに癌治療の有害作用の改善が挙げられる。
【0148】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、列挙された値の±20%を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【
図1】デホスホ補酵素A、分子、4-ホスホパントテイン分子、パンテテイン分子、パントテン酸分子、またはシステアミン分子が、(
図11に示す)酵素触媒反応によって誘導され得る、補酵素Aの化学構造を示す。
【
図2】本発明のジスルフィドの2つの化学構造を示す。上の化学構造は、左側にシステアミン、右側に第2のチオール(R-S-で示される)を有する、混合システアミンジスルフィド分子を示す。下の化学構造は、左側にパンテテイン、右側に第2のチオール(R-S-で示す)を有する、パンテテインジスルフィドを示す。
図3、4、及び5は、例示的な混合システアミンジスルフィドを示す。
図18及び21に概略的に示すように、他の混合システアミンジスルフィドは、
図17に列挙したチオールで形成することができる。
【
図3】システアミン混合ジスルフィドの4つの化学構造を示す。具体的には、ラベルに示されるように、パートナーチオールアリルメルカプタン、L-システイン、L-システインエチルエステル、及びN-アセチルシステインとの混合システアミンジスルフィドが示されている。
【
図4】例示的なシステアミン混合ジスルフィドの2つの化学構造、及び例示的なN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドの1つの化学構造を示す。2つのシステアミン混合ジスルフィドは、システアミンとN-アセチルシステアミンとの間、及びシステアミンとN-アセチルシステインアミドとの間に形成される。また、N-アセチルシステアミンとN-アセチルシステインアミドとの間に形成される混合ジスルフィドも示される(ラベルに示される)。
【
図5】ラベルに示されるように、システアミンとパンテテインとの間、及びシステアミンとグルタチオンとの間に形成される例示的なシステアミン混合ジスルフィドの2つの化学構造を示す。
【
図6】システアミンと補酵素Aとの間に形成される例示的なシステアミン混合ジスルフィドの化学構造を示す。
【
図7】2つの化学構造を示す。上は、パンテテインとシステインとの間に形成される例示的なパンテテイン混合ジスルフィドである。下は、パンテテインと形成される例示的なN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドである。
【
図8】2つの例示的な混合ジスルフィドの化学構造を示し、ラベルに示されるように、一方がパンテテインとN-アセチルシステインとの間に形成され、もう一方がジチオールジヒドロリポ酸と2つのシステアミンとの間に形成される(1つのジスルフィドが、ジヒドロリポ酸の2つのチオールの各々に結合される)。
【
図9】パンテテインとグルタチオンとの間に形成される例示的なパンテテイン混合ジスルフィドの化学構造を示す。
【
図10】4-ホスホパンテテインと補酵素Aとの間に形成される例示的な4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィドの化学構造を示す。
【
図11】細胞内代謝(実線)及び胃腸管で生じる異化反応(点線)の両方を含む、補酵素A、パンテテイン、及びシステアミン代謝経路の一部の概略図である。いくつかの反応が、両方の位置で起こる(例えば、ホスファターゼは、細胞質及び胃腸管に存在する)。化合物は、通常の字体で示し、酵素はイタリック体で示す。化合物及び酵素の両方は、図に示すものに対する様々な代替名称を有する。この図は、補酵素A、パンテテイン、及びシステアミン代謝の完全な描写ではないが、補酵素A、デホスホ補酵素A、4-ホスホパンテテイン、及びパンテテインが腸内のシステアミン(及びパントテネート)に異化され得ることを伝えることが単に意図される。
【
図12】胃腸(GI)管の解剖図を概略形式で示す(上図)。以下は、本発明のシステアミン前駆体からのシステアミンのインビボ生成及び取り込みに関連する、ある特定の解剖学的及び生理学的パラメータをGI管の各セグメントについて要約した表である。特に、この表は、システアミンの形成及び取り込みが起こる解剖学的部位、及びシステアミン前駆体からのシステアミンのインビボ生成速度に影響を及ぼす生理学的変数のレベル(例えば、ジスルフィド結合の還元及びパンテテイナーゼ切断を介して)、及びGI管に沿ったシステアミン吸収の速度(例えば、有機カチオン輸送体1、2、及び3による)を示す。例えば、pHは、ジスルフィド交換反応に影響を及ぼす。グルタチオン(GSH)のレベルは、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を含む、酸化型及び還元型のジスルフィドとチオールとの間の平衡に影響を及ぼす、酸化還元環境のプロキシである。吸収表面積及び通過時間は、パンテテイン消化酵素及びシステアミン輸送体のレベルとともに、パンテテインからのシステアミン産生及びその後のシステアミン吸収の速度に影響を及ぼす。この図の他の生理学的変数は、ある特定の種類の製剤の性能に影響を及ぼす。例えば、いくつかの種類の胃内滞留性製剤は、幽門を通過することを妨げるサイズまで膨潤する。いくつかのpH感受性薬学的コーティングは、十二指腸内でpH5.5、pH6、またはpH6.5付近で溶解するが、他のコーティングは、回腸により典型的なpH7付近で溶解する。いくつかの種類の結腸標的製剤は、ヒト(または哺乳動物)酵素による消化に対して不応性であるが、腸内細菌によって産生される酵素によって分解され得るポリマーから部分的になり、それによって前述のポリマーと同時配合されたシステアミン前駆体の放出をもたらす。表に提供されている値または範囲は、文献源に由来しているが、通常のヒト変動の全範囲を包含しない場合がある。それにもかかわらず、示された変動の程度は、部分的に、臨床的に観察されるシステアミンの取り込み及び代謝における広範な個体間の変動を説明することができる。
【
図13】システアミン前駆体の分類と、それらの顕著な薬理学的特性のいくつかを示す表である。システアミン前駆体は、(i)それらがチオールまたはジスルフィドであるか、(ii)ジスルフィドである場合、それらがシステアミン含有混合ジスルフィドであるか(システアミン-パンテテインを含む)、パンテテイン含有混合ジスルフィドであるか(システアミン-パンテテインを除く)、または胃腸管でパンテテインに分解可能な他のチオールを含有するか、及び(iii)化学的還元及び/または酵素分解の際にいくつのシステアミンが生成されるか(#記号の下)によって、表の左(下)側に分類される。「他のチオールまたはジチオール」とは、任意のジチオール、ならびにシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンではない任意のチオールを意味する。(例示的なチオール及びジチオールについては、
図17を参照)。「他のチオール」を含有するジスルフィドシステアミン前駆体の分解から生成されるシステアミンの数は1つであるが、ジチオールを含有するジスルフィドシステアミン前駆体は、1つのジチオールが、例えば、2つのシステアミンに結合することができるため、分解すると1つまたは2つのシステアミンを生じ得る(チオール及びジチオールをどのように組み合わせることができるかに関する要約については、表21を参照)。この表は、「システアミンを生成するステップ」の下で、システアミン前駆体の各クラスからシステアミンを生成するために、どの化学的及び/または酵素的ステップが必要とされるかをさらに示す。例えば、システアミン+別のチオール(例えば、システイン)を含有するシステアミン混合ジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元という1つのステップのみを必要とする。同様に、チオールパンテテインは、パンテイナーゼ切断という1つのステップのみを必要とする。他のシステアミン前駆体は、2つのステップを必要とする。例えば、パンテテインホモ二量体パンテチンは、ジスルフィド結合の還元に続いてパンテテイナーゼ切断を必要とする。さらに他のシステアミン前駆体は、3つ以上のステップを必要とする。例えば、4-ホスホパンテテインホモ二量体は、ジスルフィド結合の還元、ホスファターゼ切断、及びパンテテイナーゼ切断を必要とする。デホスホ補酵素A及び補酵素Aを含有するジスルフィドは、追加のステップを必要とする。いくつかのジスルフィドシステアミン前駆体では、表に示すように、ジスルフィド結合の還元によって産生される2つのチオールの間でシステアミンへの分解ステップの数が異なる。さらに、この表は、システアミンのインビボ生成を増強するためにシステアミン前駆体と同時配合または同時投与され得る化合物のクラスを示し、システアミン前駆体の各クラスにどのクラス(複数可)の増強剤が有用であるかを示す。例えば、ジスルフィド結合の還元を促進するために、任意のジスルフィドシステアミン前駆体を、還元剤(表中でRAと略記する)と生産的に同時配合または同時投与することができる。パンテテインであるか、もしくはパンテテインを含むシステアミン前駆体、またはパンテテインに分解され得る任意のチオールは、酵素パンテテイナーゼ(表中でPIと略記する)の誘導物質と生産的に同時配合または同時投与され得る。パンテテインジスルフィドは、還元剤及びパンテイナーゼ誘導剤の両方と生産的に同時配合または同時投与することができる。そのような化合物は、全てのクラスのシステアミン前駆体と生産的に同時配合または同時投与することができるため、システアミン吸収の増強剤(例えば、有機カチオン輸送体などのシステアミン輸送体の誘導物質)、またはシステアミン異化の阻害剤は表に示されていない。右端(上)において、この表は、システアミンを生成するために必要な分解ステップの数、システアミンの収率、またはインビボシステアミン生成の増強剤の存在によって影響され得る、異なるクラスのシステアミン前駆体の顕著な薬理学的特性を数語で要約する。提供される非常に簡単な説明は完全ではなく、制限として解釈されるものではない。
【
図14】例示的な薬学的組成物の実例である。以下を含む例示的な組成物の顕著な特性を示す:(i)剤形の種類(例えば、錠剤、カプセル、粉末、液体)、(ii)薬物放出の解剖学的局在化に関する製剤の特性(例えば、胃内滞留性製剤は、胃内で滞留する。腸溶性コーティング製剤は、小腸で薬物を放出するように設計され得る。結腸標的製剤は、回腸または結腸で薬物を放出するように設計される)、ならびに(iii)薬物放出の持続期間(即時放出:IR、または持続放出SR)、(iv)システアミン前駆体(複数可)の種類、(v)用量(範囲として提供される)、(vi)存在する場合、インビボシステアミン生成の同時配合増強剤(複数可)の種類、(vii)増強剤化合物の用量(範囲として提供される)、(viii)食品(例えば、アップルソースもしくはヨーグルト)または食事(例えば、夕食)とともに組成物を投与するための推奨、または食品が任意にあるかどうか(「食品OK」)、(ix)胃腸管内のシステアミン前駆体放出の部位(複数可)、及び(vii)システアミンが(例えば、ジスルフィド結合の還元またはパンテテイナーゼ切断によって)インビボで生成される部位。
図13の組成物は、各々が薬物放出の部位及び時間に関して単一の種類の製剤に限定されている。そのような組成物(図に示されていない多くの異型を含む)は、様々な組み合わせで投与することができ、投与を個別化するための柔軟性を提供する。より活性な成分及び/またはより複雑な製剤を有する他の例示的な組成物を、
図14及び15に示す。
【
図15】(i)1つまたは2つの薬物放出プロファイル(例えば、組成物Gは、即時放出成分及び持続放出成分を含む)、(ii)少なくとも2種類のシステアミン前駆体(複数可)及び2つまでの増強剤を有する、例示的な薬学的組成物の図である。薬物放出及びシステアミン前駆体のシステアミンへのインビボ変換の部位(複数可)と同様に、食品の有無にかかわらず投与するための推奨が提供される。例示的な組成物、及び図示されていない多くの他の組成物は、様々な比で組み合わせることができる。
【
図16】2つ以上の組成物が一緒に、または短時間の間隔で連続して投与される例示的な複数回投与レジメンの実例である。例示的な組成物の顕著な特性を
図14及び15に示す。システアミン前駆体分解の増強剤(例えば還元剤)を提供するが、システアミン前駆体は提供しない組成物の例が含まれる。増強剤の別々の製剤は、インビボでのシステアミンの生成または取り込みを最適化するために、それらを様々な比でシステアミン前駆体含有組成物と同時投与することを可能にする。増強剤の別々の製剤は、インビボでのシステアミンの生成または取り込みを最適化するための増強剤放出の部位及びタイミングの制御をさらに可能にする。
【
図17】チオール型システアミン前駆体(化合物2~6)またはジスルフィド型システアミン前駆体を作製するように組み合わせることができる、例示的なチオール及びジチオールの一覧である。化学式、CAS(Chemical Abstracts Service)登録番号、各チオールまたはジチオールの式分子量が示されている。場合によっては、CAS番号は、特定の鏡像異性体に特異的である。
図18~21のこれらのチオールの簡潔な参照を容易にするために、各チオールに番号を付ける(
図17の左端の欄)。
【
図18】
図17のチオール及びジチオールをどのように組み合わせると、2つのクラスのジスルフィドシステアミン前駆体、システアミン混合ジスルフィド及びパンテテインジスルフィドを作製することができるかを示す2つの表を含む。2つの表の各々の5つの列は、左から以下を列挙する。 (i)反応してジスルフィドを形成する2つのチオールが、
図17の左端の列に数字によって示される(チオールには1~29、ジチオールには30~35の番号が付けられている)。したがって、例えば、表記法:「1+28」は、チオール1(システアミン)とチオール28(チオプロニン)とを反応させることによって形成されるジスルフィドを表す。左の表のジスルフィドは全て、システアミン(化合物1)+第2のチオール(化合物2~35のうちのいずれか)を含む。右の表のジスルフィドは全て、パンテテイン(化合物2)+第2のチオール(化合物2~35のうちのいずれか)を含む。 (ii)第1列に示されるジスルフィドの式分子量(MW)。例えば、ジスルフィド1+28のMWは、238.35ダルトン(2つの失われたプロトンを説明するために2つの構成体チオールの質量の合計から2を引いたもの)である。チオール13及び14(L-システインエチルエステルHCl及びL-システインメチルエステルHCl)の場合、塩形態の質量が使用されることに留意されたい。遊離ジスルフィドの実際の質量は、示された質量よりも36.46ダルトン少ない。 (iii)インビボでのシステアミン前駆体の分解の際に生成することができるシステアミンの数。ジスルフィドは、水平の太線の上に列挙される2つのシステアミンを生じるものと、下に列挙される1つのシステアミンを生じるものとに選別される。 (iv)インビボで遊離システアミンに変換可能なシステアミン前駆体の画分。例えば、238.35ダルトンのシステアミンに変換され得るジスルフィド1+28の画分は、32.4%である。1つのシステアミンを生じるジスルフィドは、システアミンに変換可能なそれらの分子量の画分によって、高いものから低いものへランク付けされる。 (v)ジスルフィドシステアミン前駆体からシステアミンを得るために必要な分解ステップ(化学的または酵素的)の数。両方のチオールがシステアミンに分解可能である(または2つのチオールのうちの1つがシステアミン自体である)、水平の太線より上のジスルフィドについては、ジスルフィドの各チオール構成体のステップ数を示す2つの数字が示される。2つの数字の順序は、2つのチオールが表の第1列に列挙されている順序に対応している。チオールのうちの1つのみがシステアミンに分解可能なジスルフィドの場合(水平の太線より下)、1つの数字のみが示され、そのチオールの分解ステップの数を示す。例えば、ジスルフィド表1Bでは、「2+5」で表されるジスルフィドは、補酵素A(チオール5)に結合したパンテテイン(チオール2)ジスルフィドを意味する。このジスルフィドのMWは、1,352.36である。腸内で分解すると、このジスルフィドは2つのシステアミンを生じる。2つのシステアミンを併せた重さは、154.3ダルトンであり、これは第4列に示すように、ジスルフィドの質量の11.4%である。ジスルフィドから2つのシステアミンへの分解経路は、パンテテイン部分の場合に2つのステップ(ステップ1:ジスルフィド結合の還元、ステップ2:パンテテイナーゼ切断)を含み、補酵素A部分の場合に4つ以上のステップ(4+で示す)(ステップ1:ジスルフィド結合の還元、ステップ2:ヌクレオチドのエクトヌクレオチドジホスファターゼ触媒脱離(他の異化経路が可能である)、ステップ3:パンテテインへの脱リン酸化、ステップ4:パンテテイナーゼ切断)を含む。したがって、第5列の数字:2/4+は、パンテテイン及び補酵素A部分それぞれのジスルフィドからシステアミンへの分解ステップの数を示す。
【
図19】
図17のチオール及びジチオールを組み合わせて、2つのクラスのジスルフィドシステアミン前駆体:4-ホスホパンテテインジスルフィド及びデホスホ補酵素Aジスルフィドを作製することができる方法を示す、2つの表を含む。2つの表の各々における5つの列は、
図18と同じ情報を提供する。ここでもまた、チオール13及び14(L-システインエチルエステルHCl及びL-システインメチルエステルHCl)の場合、塩形態の質量が使用されることに留意されたい。遊離ジスルフィドの実際の質量は、示された質量よりも36.46ダルトン少ない。
【
図20】
図17のチオール及びジチオールをどのように組み合わせると、2つのクラスのジスルフィドシステアミン前駆体、補酵素Aジスルフィド及びN-アセチルシステアミンジスルフィドを作製することができるかを示す、2つの表を含む。2つの表の各々における5つの列は、
図18と同じ情報を提供する。ここでもまた、チオール13及び14(L-システインエチルエステルHCl及びL-システインメチルエステルHCl)の場合、塩形態の質量が使用されることに留意されたい。遊離ジスルフィドの実際の質量は、示された質量よりも36.46ダルトン少ない。
【
図21】ジチオールを2つのチオールに接合して、インビボ分解の際に、2つのシステアミン(上の表)または1つのシステアミン(下の表)を生じることができるジスルフィドを作製する方法を示す、2つの表を含む。チオール及びジチオールの番号付けは、
図17の通りである。各表の中で、種々の可能性のあるジチオール-チオール-チオールの組み合わせは、簡潔性のためにジチオール部分(化合物30~35)によってグループ分けされ、各群の分子量及びシステアミン収率が、範囲として提供される。3つの例示的なジチオール-チオール-チオールの組み合わせが、各表の最下部に示されており、特定のMW、システアミンに変換可能なMWのパーセント、及びシステアミンに対する分解ステップの数を含む(上記の
図18の説明を参照)。追加の詳細は、2つの表の下にある説明テキストに提供されている。
【
図22】混合(非対称)ジスルフィドの化学合成に使用される初期のチオール活性化ステップを示す。
【
図23】システアミン-パンテテインジスルフィド(TTI-0102と呼ばれ、01は
図17のチオール1であるシステアミンを指し、02は
図17のチオール2であるパンテテインを指す)を作製するために使用される1つの合成スキームを示す。システアミンの一次アミンを、最初にtert-ブチルオキシカルボニル(Boc)で保護し、次いでシステアミン-Bocの-SHを、ビス(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファン(略記でPDTAと称される)を用いて、ジクロロメタン(DCM)中、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の存在下で活性化する。次いで、Boc基を酸で除去し、活性化したシステアミンを(R)-パンテテインと反応させる。
【
図24】システアミン-パンテテインジスルフィド(TTI-0102)を作製するために使用される第2の合成スキームを示す。(R)-パンテテインは、ビス(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファン(略記でPDTAと称される)を用いて、ジクロロメタン(DCM)中、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の存在下で活性化する。次いで、活性化した(R)-パンテテインを、水素化ナトリウム(NaH)及びテトラヒドロフラン(THF)中のシステアミンと反応させる。
【
図25】N-アセチルシステアミン-パンテテインジスルフィド(TTI-0602と呼ばれ、番号6及び2は、
図17に番号を付して示すように、2つの組み合わせたチオールを指す)を作製するために使用される合成スキームを例示する。N-アセチルシステアミンは、ビス(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファン(PDTA)を用いて、ジクロロメタン(DCM)中、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の存在下で活性化する。次いで、活性化したN-アセチルシステアミンを、DCM中のトリエタノールアミン(TEA)中の(R)-パンテテインと反応させる。
【
図26】N-アセチルシステイン-パンテテインジスルフィド(TTI-1502と呼ばれ、番号15及び2は、
図17に番号を付して示すように、2つの組み合わせたチオールを指す)を作製するために使用される合成スキームを例示する。N-アセチルシステインは、ビス(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファン(PDTA)を用いて、ジクロロメタン(DCM)中、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の存在下で活性化する。次いで、活性化したN-アセチルシステインを、水素化ナトリウム(NaH)及びテトラヒドロフラン(THF)中の(R)-パンテテインと反応させる。
【
図27】Varian INOVA 500上で得られたTTI-0102の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを含む。TTI-0102のインセット構造には、特定の結合を示すための文字a~iが付されており、NMRスペクトル上にも強調表示されている。
【
図28】Varian INOVA 500上で得られたTTI-0602の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを含む。TTI-0602のインセット構造には、特定の結合を示すための文字a~gが付されており、NMRスペクトル上にも強調表示されている。
【
図29】Varian INOVA 500上で得られたTTI-1502の核磁気共鳴(NMR)スペクトルを含む。TTI-1502のインセット構造には、特定の結合を示すための文字a~iが付されており、NMRスペクトル上にも強調表示されている。
【
図30】実施例10に記載のとおり、システアミン塩酸塩(30mg/kg、パネルA)またはTTI-0602(120mg/kg、パネルB)を、胃管栄養法を介してSprague-Dawleyラットに投与した後の、血漿中のシステアミンの濃度-時間曲線を含む。両方の曲線の値は、3匹のラットの平均値である。標準偏差は、エラーバーで示される。
【
図31】実施例10に記載のとおり、TTI-0602を、30mg/kg、60mg/kg、または120mg/kgの用量で、胃管栄養法を介してSprague-Dawleyラット(1用量あたり3匹のラット)に投与した後の、血漿中システアミンの濃度-時間曲線(パネルA)、及び実施例10に記載のとおり、120mg/kgのTTI-0602を、胃管栄養法を介してSprague-Dawleyラットに投与した後の、血漿中システアミン、N-アセチルシステアミン、及びパントテン酸の濃度時間曲線(パネルB)を含む。
【
図32】実施例10に記載のとおり、120mg/kgのTTI-0602を、胃管栄養法を介してSprague-Dawleyラットに投与してから10.5時間後の、肝臓及び腎臓におけるシステアミンの濃度(マイクロモル)を示すチャートを含む。
【発明を実施するための形態】
【0150】
本発明は、前駆体化合物(システアミン前駆体)から制御された量及び胃腸管の制御された位置におけるシステアミンのインビボ産生を可能にする組成物及び方法、ならびにシステアミン感受性症状、症候群、及び疾患を治療する方法を特徴とする。
【0151】
システアミンは、細菌からヒトまで全ての生命体に存在する、小さな反応性の高いチオール分子(NH2-CH2-CH2-SH)である。システアミンのIUPAC名は、2-アミノエタンチオールである。他の一般的な名称としては、メルカプタミン、β-メルカプトエチルアミン、2-メルカプトエチルアミン、デカルボキシシステイン、及びチオエタノールアミンが挙げられる。ヒトにおいて、システアミンは、パンテテインをシステアミン及びパントテン酸に切断する、酵素パンテテイナーゼ(パントテネートまたはビタミンB5としても知られる)によって産生される。ヒトパンテテナイナーゼは、Vanin 1及びVanin 2遺伝子(省略してVNN1及びVNN2)によってコードされ、胃腸管を含めて広く発現される。したがって、多くの食品(例えば、ナッツ及び乳製品)中に存在する食餌性パンテテインは、胃腸管腔で切断されてシステアミン及びパントテン酸を生成し、その後吸収される。特に、システアミンは、腸細胞内でシステアミンを輸送することが示されている有機カチオン輸送体1(OCT1)、OCT2、及びOCT3を含む輸送体のファミリーである、有機カチオン輸送体(OCT)によって胃腸上皮を横切って輸送することができる。胃腸管でシステアミンに変換されるその能力に基づいて、パンテテインは、システアミン前駆体である。システアミン前駆体は、(i)忍容性及び副作用、(ii)薬物動態及び投与間隔、(iii)製造、ならびに(iv)製品安定性に関して、システアミン塩を上回る利点を有し得る化合物のクラスを表す。より一般的には、様々な速度でインビボでシステアミンを生成することができるシステアミン前駆体を投与すること、及び配合方法を使用して、選択された時間に胃腸管の選択部位にそれらの前駆体を送達することは、システアミン薬物動態のはるかに良好な制御を提供することによって治療レジメンにおいて有用であり得、現在まで、システアミン及び他のチオールの広範な使用に対する大きな障害であった。
【0152】
システアミン前駆体
パンテテイン及びその異化産物であるシステアミン及びパントテネートは、植物及び動物における補酵素Aの生合成における中間化合物である(関連する代謝及び異化経路の図については
図11を参照)。4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aなどの補酵素A生合成経路中におけるいくつかの化合物は、ヒト胃腸管でパンテテイン、次いでシステアミン及びパントテネートに異化することができる。したがって、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aは、腸内でシステアミンに変換可能であることから、システアミン前駆体である。N-アセチルシステアミンはまた、腸または細胞デアセチラーゼ(例えば、インビボでN-アセチルシステインをシステインに変換するデアセチラーゼ)によって脱アセチル化することによる、システアミン前駆体でもある。
【0153】
パンテチンは、ジスルフィド結合によって接合された2つのパンテテイン分子の二量体である。換言すれば、パンテチンは、パンテテインの酸化形態である。パンテチンの2つのパンテテインへの相互変換は、酵素的に媒介されず、ATPを必要としない。この反応は、代わりに、腸内の酸化還元環境によって主に制御される。インビボで、特に細胞内で優勢である傾向がある還元環境では、パンテテインが優勢であるが、胃などのより酸化的な環境では、平衡はパンテチンに向かってシフトする。Wittwerによる小規模臨床研究(Wittwer et al.,J.Exp.Med.76:4(1985))は、経口投与したとき、パンテチンのかなりの画分がヒトの胃腸管でパンテテインに化学的に還元され、続いてシステアミン及びパントテネートに切断されることを示した。したがって、パンテチンは、システアミン前駆体である。本明細書におけるパンテテインは、D-鏡像異性体を指す。
【0154】
パンテテインのパントテノイル部分は、キラル炭素を含む。したがって、伝統的にD-パンテテイン及びL-パンテテインと呼ばれる(R-パンテテイン及びS-パンテテインとも呼ばれる)パンテテインの2つの鏡像異性体形態が存在する。パンテテインのD-鏡像異性体のみが、パンテテイナーゼにより切断され得るため、D-鏡像異性体のみが、システアミン前駆体として適格である。パンテテインの2つの鏡像異性体は、4つの方法で組み合わせて(D-,D-、D-,L-、D-,D-、L-,D-、及びL-,L-パンテテイン)、ジスルフィドパンテチンを形成することができる。D-,D-パンテチンのみが化学的に2つのD-パンテテインに還元され、次いで切断されて2つのシステアミンが産生され得る。したがって、パンテチンのD-,D-形態が極めて好ましく、パンテチンという用語は、本明細書で使用される場合、D-,D-鏡像異性体を指す。パンテテイン関連化合物である4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aはまた、腸内分解の際にD-パンテテイン(及びしたがってシステアミン)を生じるために、D-立体異性体構成でなければならない。したがって、「4-ホスホパンテテイン」、「デホスホ補酵素A」、及び「補酵素A」、ならびにそれらの任意の類似体または誘導体は、本明細書においてD-鏡像異性体を指す。パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aのいずれも腸細胞に吸収されず、むしろ各化合物は、吸収されるパントテネート及びシステアミンに異化されなければならない(Shibata et al.,J.Nutr.113:2107(1983)を参照)。
【0155】
胃腸管において(例えば、天然の酵素的または化学的プロセスによって)親化合物に変換され得るパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素AのD-立体異性体の類似体または誘導体を使用して、チオールまたはジスルフィド型システアミン前駆体を形成することもでき、本明細書では「適切な類似体または誘導体」と呼ばれる。例えば、腸内で補酵素Aに容易に分解される多くの生理学的形態の補酵素A(例えば、アセチルCoA、スクシニルcoA、マロニルcoA等)が存在する。任意のアセチル化、アルキル化、リン酸化、脂質化、または他の類似体を、システアミン前駆体として使用することができる。パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aの類似体、ならびにそれらを産生する方法が文献に記載されている(van Wyk et al.,Chem Commun 4:398(2007))。
【0156】
パンテテインは、別のクラスのシステアミン前駆体を構成するパンテテイン混合ジスルフィドと呼ばれる、それ自体以外のチオールとともにジスルフィドを形成することができる。パンテテインと反応したチオールは、好ましくは天然に存在するチオール、またはヒトもしくは動物使用の履歴に基づいて、ヒトにおいて安全であることが知られている非天然チオールである。例えば、混合ジスルフィドは、パンテテインを、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、人体及び多くの食品に存在する化合物とを反応させることによって形成することができる。そのような混合ジスルフィドは、腸内での還元及び分解の際に、2つのシステアミンを生じる。N-アセチルシステアミンに連結したパンテテインもまた、腸内での還元及び分解の際に2つのシステアミンを生じる。ある特定の実施形態では、2つのシステアミンを生じることができるジスルフィドシステアミン前駆体が好ましい。
図18~21は、異なるクラスのジスルフィドシステアミン前駆体のシステアミン収率を示す。化学的または酵素的プロセス(すなわち、適切な類似体または誘導体)を介して胃腸管で親化合物に変換され得る4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aの類似体または誘導体もまた、パンテテインに連結されて、パンテテイン混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができ、または他のチオールに連結され得る。
【0157】
パンテテイン混合ジスルフィドはまた、パンテテインを、L-システイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステアミン、L-システインエチルエステル塩酸塩、L-システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸塩、システイニルグリシン、γグルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸などの、それ自体はシステアミンに分解可能でないチオールと反応させることによって形成することもできる。パンテテインと反応してパンテテイン混合ジスルフィドを形成することができる、例示的なチオール化合物のケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)登録番号、分子式、及び分子量については、
図17を参照されたい。パンテテイン及びチオール6~35(チオールの番号付けについては、
図17を参照)のうちのいずれかによって形成されるジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元及びパンテテイナーゼ切断の際に、1つのシステアミンを生じる。これらの第2のチオールは、腸内でシステアミンに変換可能でないが、それにもかかわらず、例えばパンテテイナーゼ活性を刺激すること、またはシステアミン含有ジスルフィドとのジスルフィド交換に関与することによって、システアミン産生を増強することができるか、または例えば、還元剤として作用することによって、もしくは他の機序によって、システアミンにより提供されるものを補完する治療的利益を提供することができる。
【0158】
ジヒドロリポ酸(DHLA)、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物もまた、パンテテインと反応して、1つの遊離チオール基を有するパンテテイン混合ジスルフィド、または2つのパンテテイン分子をジチオールに接続する2つのジスルフィド結合を有する三部化合物のいずれかを形成することができる。前者のカテゴリーの混合パンテテインジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元及びパンテテイナーゼ切断の際に1つのシステアミンを生じ、後者のカテゴリーは、2つのシステアミンを生じる。システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンを様々なジチオールと組み合わせて有用なシステアミン前駆体を産生する方法を示す表については、
図21を参照されたい。あるいは、チオールのうちの1つがシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミン、またはその適切な類似体もしくは誘導体である限り、2つの異なるチオールをジチオールに結合させてシステアミン前駆体を得ることができ、すなわち、最終的に胃腸管でシステアミンに分解され得る化合物である。
図21の表2A及び2Bは、分子量及びシステアミン収率の範囲(すなわち、インビボでシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体のパーセント)を含む、そのようなシステアミン前駆体の顕著な特性のうちのいくつかを示し、選択された例については、システアミン前駆体からシステアミンへのインビボ分解ステップの数を示す。
【0159】
パンテテインと同様に、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミンのうちのいずれか、または適切な類似体もしくは誘導体は、(i)それ自体と反応してホモ二量体ジスルフィドを形成することができるか、または(ii)様々な対で互いに反応して混合ジスルフィドを形成することができるか、または(iii)他のチオール(インビボでシステアミンに変換可能でない)と反応して、混合ジスルフィドを形成することができる。そのようなジスルフィドは全て、システアミン前駆体である。最初の2つのカテゴリーは、腸内での還元及び分解の際に2つのシステアミンを生じ得るが、第3のカテゴリーは、1つのシステアミンのみを生じ得る。
【0160】
例えば、
図17に列挙したチオールのうちのいずれかを、4-ホスホパンテテイン(
図19に示すように)、デホスホ補酵素A(
図19)、補酵素A(
図20)、またはN-アセチルシステアミン(
図20)と反応させて、混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができる。ヒトにおいて安全であることが知られている非天然チオールも同様に、他の天然に存在するキトールを使用することもできる。
図18~21は、反応してジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができる、チオール及びジチオールとの組み合わせのうちのいくつかを概略的に示す。ヒト胃腸管におけるそのような化合物のシステアミンへの変換は、(i)遊離チオールを生成するためのジスルフィド結合の還元、(ii)4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素Aを含有するジスルフィド、またはその適切な類似体もしくは誘導体の場合、パンテテインを生成する、腸に存在する酵素(例えば、ホスファターゼ、ジホスファターゼ、ホスホジエステラーゼ)による分解、(iii)パンテテイナーゼによるパンテテインの切断を必要とする。ジスルフィドを含有するN-アセチルシステアミンは、腸、血液、または組織において還元及び脱アセチル化されなければならない。
【0161】
システアミン自体を他のチオールと反応させて、混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することもできる。例えば、システアミンは、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN-アセチルシステアミンと、胃腸管で親化合物に分解可能な5つのチオールの類似体もしくは誘導体と、または
図17に列挙される他のチオールのうちのいずれかと反応させて、
図18~20のジスルフィドのうちのいずれかを形成することができる。2つのシステアミンを、2つのジスルフィド結合を介してジチオールに接合して、別の種類のジスルフィドシステアミン前駆体を産生することができる(
図21)。
図8は、そのようなシステアミン前駆体、すなわち2つのシステアミンに結合したジヒドロリポエートジスルフィドの化学構造を示す。ジスルフィド結合の還元に際して、強力な還元剤であるジヒドロリポ酸とともに、2つのシステアミンが放出され、ある特定の疾患設定においてシステアミンの治療特性を補完し得る。
【0162】
要約すると、システアミン前駆体は、3つの主なカテゴリー、すなわち(i)システアミンに分解可能なチオール、(ii)ジチオールで形成されたジスルフィドを含む、システアミンを含む混合ジスルフィド、(ii)パンテテインを含むジスルフィド、(iii)4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aを含むジスルフィド、または適切な類似体もしくは誘導体に分類することができる。後者の3つのカテゴリーの各々は、第2のチオールに応じてさらに分解され得る:(a)パンテテイン、または適切な類似体もしくは誘導体、(b)4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体、あるいは(c)それ自体がシステアミン前駆体ではないチオール(例えば、L-システイン、ホモシステイン、N-アセチル-システイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステアミン、L-システインエチルエステル塩酸塩、L-システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、3-メルカプトピルビン酸塩、チオテルピネオール、グルタチオン、システイニルグリシン、γグルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸)。ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物を、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体と組み合わせて、ジスルフィドを形成することもできる。
【0163】
システアミン前駆体の薬理学的特性
システアミン前駆体からのインビボシステアミン生成の時間的及び空間的パターンは、システアミン前駆体の種類に依存して広く変動し得る。システアミンを生成するために複数の化学的及び酵素的反応を必要とするシステアミン前駆体は、平均して1つのステップのみを必要とするものよりも後にシステアミンを生成するであろう。システアミン前駆体のこの特性を使用して、インビボでのシステアミン生成の速度及び持続時間が変化する複数の薬学的組成物を設計することができる。さらに、薬学的組成物は、所望の薬理学的終結をもたらす組み合わせ及び比で投与することができる。例えば、薬物投与直後に上昇した血漿システアミンレベルを提供するために、システアミン混合ジスルフィドを投与してもよい。システアミン混合ジスルフィドからシステアミンを生成するために必要な唯一のステップは、ジスルフィド結合の還元である。第2のチオールの同一性に依存して、第2のシステアミンが、1つ以上の分解ステップに続いて産生され得る。第2のシステアミンは、ジスルフィド結合の還元及び別のステップの後にのみ生成され得るため、必然的に第1のシステアミンよりも遅く産生され、それによってシステアミンが腸内で生成され、血液中に吸収される期間を延長する。システアミン遊離塩基及びシステアミン塩(例えば、Cystagon(登録商標)及びProcysbi(登録商標))は、非常に短い半減期を有するため、システアミン前駆体からのインビボでのシステアミン生成のこの延長は、現在の治療法を上回る著しい進歩を示す。
【0164】
1つのアプローチでは、第2のチオールがパンテテイン(すなわち、システアミン-パンテテインジスルフィド)である場合、第2のシステアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断ステップが必要である。パンテテイナーゼは、一般に、腸細胞の表面上に位置するため、いつでも腸内容物の一部と接触するだけであり、それによってシステアミンが生成される期間が延長される。1つのジスルフィド分子からの早期及び後期システアミン生成のこの組み合わせは、いくつかの利点を有する:(i)システアミンが、ジスルフィド結合の還元に際して利用可能になり、早期の治療上の利点を提供する、(ii)経時的にパンテテインの切断が起こり(パンテテイナーゼは、胃腸管全体にわたって様々なレベルで発現される)、治療効果の持続期間を延長する、(iii)結合の還元及びパンテテイン切断の両方を介して時間的及び空間的に延長されたシステアミンの産生は、副作用と強く関連した高いピークシステアミン濃度を低下させる一方で、(iv)OCTによる輸送などのパンテテイナーゼまたはシステアミンの取り込み機序の飽和を回避する。。つまり、延長された血中システアミンレベルの上昇は、より有効な薬物療法と、より毒性が低く、より便利な剤形の両方を患者に提供する。
【0165】
あるいは、第2のチオールがL-システイン(すなわち、システアミン-L-システインジスルフィド)である場合、ジスルフィドの還元の際に1つのシステアミンのみが生成され、長期間のシステアミン生成はない。しかしながら、以下に記載されるように、システアミン-L-システインジスルフィドは、迅速なシステアミン放出が可能なシステアミン前駆体が有用であり得る、回腸または結腸を含む胃腸管の実質的に任意の部分における放出のために配合され得る。さらに、システインは、パンテテイナーゼの活性を増強し、いくつかの疾患モデルにおいて有益な効果を有することも示されている。したがって、システアミン-L-システインジスルフィドは、別のシステアミン前駆体の有用な補体であり得るか、またはシステアミン及びシステインの両方に応答する疾患の治療に有用であり得る。
【0166】
4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aなどのシステアミンを生成するために2つ以上の異化反応を必要とするチオールを含むジスルフィド、またはその適切な類似体もしくは誘導体は、小腸においてより効率的に分解され、ここでそれらは、胃または大腸内よりも膵液に存在する消化酵素に曝露される。そのような2つのチオールを互いにまたはシステアミン以外のチオールと反応させることによって作製されるジスルフィドは、後の時点で開始し、例えばシステアミン-L-システインジスルフィドよりも長い時間にわたってシステアミンを生成する。平均して、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体は、パンテテインよりも遅くシステアミンを生成し、これらの化合物を含むジスルフィドについても同様である。
【0167】
パンテテインなどのシステアミン前駆体及び腸内のパンテテインに分解可能な化合物、ならびにそれらの化合物のうちのいずれかを含有するジスルフィドは全て、パンテテイナーゼによる切断の際にシステアミンとともにパントテネートを生じる。パントテネートまたはビタミンB5は、食物中に存在し、腸内細菌によって合成される、水溶性化合物である。パントテネートが大用量で投与されると、過剰量が尿中に排泄される。食事摂取基準の科学的評価に関する米国医薬常設委員会の葉酸、他のビタミンB、及びコリンに関するパネル(Panel on Folate, Other B Vitamins,and Choline of the US Institute of Medicine Standing Committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes(National Academies Press(US)、1998)によるパントテネートのレビューは、「ヒトまたは動物における経口パントテン酸の有害効果が認められたという報告はない」と述べている。
【0168】
システアミン前駆体の混合物
本発明の方法及び組成物は、それらの異なる薬理学的特性を利用するためのシステアミン前駆体の混合物を含むことができる。特に、システアミン血漿レベルの個別化された改善(または所与の患者のニーズに対する個人化)は、システアミン前駆体の混合物を使用することによって達成することができる。例えば、上記のシステアミン-パンテテイン混合ジスルフィドは、システアミンとパンテテインとの比を1:1に固定する。しかしながら、システアミンは身体から迅速に吸収及び除去され(排出半減期:約25分)、血中レベルの急激なピークをもたらす一方、パンテテインは、数時間にわたって(パンテテイナーゼ切断を介して)システアミンを提供する。したがって、パンテテインからのシステアミン生成が長期間にわたって広がるため、(ジスルフィド結合の還元の際に放出されるシステアミンから)早期に治療的システアミンレベルをもたらすシステアミン-パンテテイン混合ジスルフィドの用量は、後に治療的システアミンレベル以下をもたらし得る。したがって、システアミン:パンテテインの1:1の比は、特定の患者または目的には理想的ではない場合がある。剤形にさらに多くのパンテテインを添加することにより、長期間にわたって血中システアミンが治療濃度範囲内に維持される。パンテテインとシステアミンとの比を増加させるために、チオールパンテテインまたはジスルフィドパンテチンまたは別のパンテテイン含有ジスルフィドのいずれかを、例えば、システアミン-パンテテイン混合ジスルフィドと同時配合または同時投与して、より長期間にわたって治療範囲の血中システアミンレベルを達成することができる。2つのシステアミン前駆体の比を調整して、システアミン濃度-時間曲線(AUC)下面積を最大にすること、またはシステアミンのピーク濃度(Cmax)を最小にすること、またはトラフ濃度(Cmin)を最大にすること、または閾値を超えるシステアミン血中レベルを維持することなどの所望の薬物動態パラメータ、またはそのようなパラメータの任意の組み合わせを達成することができる。
【0169】
4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aなどのシステアミン前駆体、及びこれらの3つの化合物から形成されるジスルフィドは、パンテテインよりもシステアミンを生じるために、より多くの異化ステップを必要とする。したがって、それらのシステアミン前駆体からのシステアミン産生の速度は、平均して、パンテテインまたはある特定のパンテテインジスルフィドよりも遅く、より長くなる。したがって、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、またはそれらのジスルフィドとシステアミン-パンテテインの組み合わせ、及び任意にパンテテインまたはパンテチンの同時投与または同時配合は、適切なシステアミン前駆体を選択することによってシステアミン薬物動態を制御する別の方法を提供する。特に、そのようなシステアミン前駆体の使用は、システアミンが胃腸管において産生される時間をさらに延長するために使用され得る。
【0170】
4-ホスホパンテチン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aを含有するジスルフィド
図11に概略的に示される補酵素Aのための正式な生合成経路は、4つの酵素によって触媒される5つのステップを必要とする(CoAシンターゼは、最後の2つのステップを触媒する)。パントテネートキナーゼによるパントテネートのリン酸化の初期ステップは、経路を通る流動を制御する。最近まで、補酵素A合成(または異化)経路における中間化合物のいずれも、胃腸管において効率的に吸収されないと考えられていた。むしろ、パンテテイン(パントテネート及びシステアミン)の異化産物のみが、腸内で吸収される。システアミン前駆体療法のための補酵素A経路に関する理解の2つの重要な結果は、(i)システアミン前駆体が腸内でシステアミンに分解され、次いで吸収されて治療効果の部位(例えば、肝臓、中枢神経系)に輸送されなければならいこと、及び(ii)細胞補酵素A合成が、必然的に(他の代謝中間体は細胞膜を横断しないため)パントテン酸から開始することである。
【0171】
しかしながら、4-ホスホパンテテインは、細胞膜を効率的に横断する(Srinivasan et al.,Nature Chemical Biology 11:784(2015))。この観察は、様々な疾患及び障害を治療するための、本明細書に記載されるシステアミン前駆体の設計及び使用に意味を有する。第1に、それは、病変組織を含む複数の組織及び臓器(腸のみとは対照的に)における原位置システアミン生成を伴う治療アプローチを可能にする。第2の態様では、パントテネートキナーゼ欠損対象を治療するために使用され得る、パントテネートキナーゼにより触媒される初期合成ステップの下流に、補酵素A前駆体(4-ホスホパンテテイン)の細胞送達を可能にする。これらの2つのカテゴリーの疾患を治療するためにシステアミン前駆体を使用するための方法を以下に記載し、いくつかの例を挙げて説明する。
【0172】
1つのアプローチにおいて、これらの臓器(及びその他)は全て、VNN1またはVNN2遺伝子のいずれかから発現されるパンテテイナーゼを含むため、腎臓、肝臓、肺、及び結合組織の疾患、ならびに感染性疾患を効果的に治療することができる。この方法は、(i)腸内で分解され得るシステアミン前駆体を患者に投与して、4-ホスホパンテテインの1つまたは2つの分子を生じさせ、その一部は(ii)腸細胞によって吸収され、血液中に入り(4-ホスホパンテテインが比較的安定している)、次いで循環を介して(iii)病変臓器を通過し、(iv)ホスファターゼ及びパンテテイナーゼによって分解されて、疾患の部位でシステアミンを生じることができる。
【0173】
この治療方法の利点としては、(i)等価用量あたり腸から吸収されるシステアミンを用いて達成され得る疾患の部位におけるより高いシステアミン濃度、(ii)結果としてより低い毒性をもたらす、より低い血漿システアミン濃度(4-ホスホパンテテインは、循環送達ビヒクルである)、(iii)システアミンよりも長い血中半減期(4-ホスホパンテテインの場合の3時間以上に対して、システアミンの場合約25分)、これが投与間隔を長くし、それによって患者の便宜性を高める、及び(iv)例えば、NASH(Sato W.et al.,Hepatol Res.34:256(2006))などの代謝性疾患及びある特定の炎症性疾患(Naquet P.et al.,Biochem Soc Trans.42:1094(2014))を含む、パンテテイナーゼの過剰発現が病原性である疾患組織にシステアミンを選択的に標的とする能力を挙げることができる。炎症はしばしば感染部位に存在するため、感染部位での選択的システアミン生成も可能であり、システアミンが抗菌性、抗ウイルス性、または抗寄生虫作用を有する環境で有用である。したがって、4′-ホスホパンテテインは、腸内で吸収され、血液中を循環し、次いで、腎臓と同様に構成的に、または炎症と同様に活性疾患の提示として、パンテテイナーゼを発現する臓器または疾患組織においてシステアミンに分解され得る。
【0174】
4-ホスホパンテチン-腎疾患の場合にジスルフィドを生じる
上記のように、パンテテイナーゼ(VNN1及びVNN2遺伝子の両方によってコードされる)は、腎臓において高レベルで発現される。したがって、いくつかの循環4-ホスホパンテテインは、腎臓において分解され、システアミンを生じる。腎臓特異的システアミン生成の利点としては、胃腸管によるシステアミン吸収を介して達成されるよりも高い組織レベル、及びより少ないシステアミンの血中レベルの上昇と関連した副作用(例えば、悪臭呼吸及び発汗、悪心、嘔吐、食欲不振、及び胃痛)が挙げられる。システアミン療法に応答性の腎疾患としては、線維性疾患(例えば、糸球体腎炎)、ならびに腎症性シスチン症を含む代謝性疾患(腎不全は、システアミン療法によって10年まで遅延する可能性のある主要な合併症である)が挙げられる。
【0175】
シスチン尿症は、再発性の腎結石(腎石症)と関連した別の遺伝性腎疾患である。平均して、成人患者は、3年毎に腎臓結石と関連した疼痛、感染症、または他の合併症のために外科処置を必要とし、平均的な患者は、中年までに腎石症に対して7回の外科的処置を受けた。シスチン尿症の患者は、腎臓損失の危険性が高く、腎摘除術が必要である。わずかではあるが有意な割合の症例(1~3%)が、末期腎疾患を発症し、透析または腎臓移植で治療しなければならない。
【0176】
シスチン尿症は、低親和性シスチン輸送体rBAT(ヘテロ二量体)をコードする2つの遺伝子(SLC3A1及びSLC7A9)のうちの1つの突然変異によって引き起こされる。疾患伝達は、常染色体劣性であり、いずれかの遺伝子の2つの欠損コピーを受け継いだ個体は、シスチン尿症を発症する。
【0177】
健康なヒト対象では、糸球体を通して濾過されたシスチンの0.4%のみが、最終的に尿中に排出される。他の99.6%は、rBATによって(また別の輸送体によってより少ない程度で)近位尿細管に再吸収される。rBATに欠陥があると、シスチンが腎盂に集まるため、高濃度のシスチンが尿中に残る。シスチンは結石として沈殿し、尿管の閉塞及び重度の疼痛を引き起こす可能性がある。腎臓結石はまた、感染症の危険性を高める。(シスチン尿症の全ての患者が結石を発達させるわけではなく、疾患のスペクトルはかなり広い)。
【0178】
石を発達させるシスチン尿症患者の初期治療は、食事療法であり、1日あたり5リットルまでの液体を飲むこと、及び尿を約pH7.5にアルカリ性化することであり、これがシスチンの溶解度を増加させる。第二選択療法は、システインとの混合ジスルフィドを形成することができるチオール化合物の投与である。混合ジスルフィドは、シスチンよりも溶解度が高いため、尿中に溶解したままである。ペニシラミン及びチオプロニンのチオールは、このように使用されてきたが、ほとんどの患者には十分に忍容されない。α-メルカプトプロピオニルグリシンはまた、シスチン尿症についてUS FDAによって承認されているが、患者の約3分の1には忍容されない。
【0179】
腸内で4-ホスホパンテテインに分解可能であり、次いで吸収され、循環に入り、最終的にパンテテインに分解された後、腎臓のパンテテイナーゼによってシステアミンに分解される、経口投与されたシステアミン前駆体は、シスチン尿症の治療化合物の有用なクラスである。システアミンは、シスチンとのジスルフィド交換を介してシステインとの混合ジスルフィドを容易に形成し、システアミン-システインジスルフィドは、水溶液(例えば、尿)中でシスチンよりも溶解度が高い。この治療アプローチは、腎臓におけるシステアミンの形成を伴うため、腸内で形成され、そこから吸収されるシステアミンに必要とされるよりも低い用量のシステアミン前駆を必要とする(そのわずかな部分のみが、腎臓に到達する)。
【0180】
アルギニンコドンをシステインコドンに変える突然変異によって引き起こされる疾患を含む、酸化的損傷及び遺伝性疾患と関連した線維性疾患を含む、システアミン療法に適した他の腎疾患は、同様のアプローチを用いて治療することができる。腎臓の血液供給は、心拍出量の主要な部分であり、吸収された4-ホスホパンテテインのかなりの部分の、腎臓への送達を確実にする。
【0181】
より一般的には、4-ホスホパンテテイン(4-ホスホパンテテインジスルフィドを含む)に分解可能なシステアミン前駆体は、治療用量のシステアミンを、有意なレベルのホスファターゼ及びパンテテイナーゼを発現する全ての臓器に提供するために有用である。例えば、酸化的損傷と関連した肺の疾患を治療することができる。
【0182】
これらの治療方法のための有用なシステアミン前駆体としては、補酵素A、デホスホ補酵素A、及び4′-ホスホパンテテインを含有するジスルフィドが挙げられ、各々が、ジスルフィド結合の還元によって(4′-ホスホパンテテインを含有するジスルフィドの場合)、またはジスルフィド結合の還元に続いて酵素分解によって(補酵素A及びデホスホ補酵素Aを含有するジスルフィドの場合)、胃腸管で4′-ホスホパンテテインに分解され得る。いくつかの実施形態では、4′-ホスホパンテテインの2つの分子を提供するシステアミン前駆体は、1つを提供するものよりも好ましい。例えば、4′-ホスホパンテテイン-デホスホ補酵素A混合ジスルフィド、またはホモ二量体4′-ホスホパンテテインジスルフィドは、システイン-4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィドよりも多くの原位置システアミン生成能力を送達することができる。別の有用なクラスのシステアミン前駆体は、4′-ホスホパンテテインに分解可能な1つまたは2つのチオールに結合したジチオールを含む。例えば、ジヒドロリポ酸は、ジスルフィド結合を介して、4′-ホスホパンテテインの1つまたは2つの分子に連結される。
【0183】
より一般的には、4′-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、及び別のチオールからなる任意のジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元及び(デホスホ補酵素Aまたは補酵素Aの場合)胃腸管における部分的分解後、4′-ホスホパンテテインの供給源となり得る。胃腸上皮を通って輸送された後、循環に達すると、4′-ホスホパンテテインは、血清ホスファターゼによってパンテテインに分解され(しかしながら、これは遅い反応である)、次いでパンテテイナーゼによって血中でシステアミン及びパントテネートに分解され得るか(高速反応)、または4′-ホスホパンテテインは、ホスファターゼ及びパンテテイナーゼを発現する組織と接触すると分解され得る。例えば、ACP1、ACP2、ACP5、及びACPT遺伝子によってコードされる酸ホスファターゼ、ならびにALPI、ALPL、ALPP、及びALPPL2遺伝子によってコードされるアルカリホスファターゼを含む、ホスファターゼは(集合的に)広く発現される。VNN1でコードされたパンテテイナーゼを発現する組織としては、肝臓、腎臓、心臓、及び胃腸管が挙げられ、一方VNN2でコードされたパンテテイナーゼは、腎臓、膀胱、膵臓、脾臓、肺、造血系(例えば、骨髄、リンパ節、扁桃)、結合組織(平滑筋、脂肪組織)において発現され、より低い程度で、甲状腺、副腎、心臓、及び生殖器官(睾丸、卵巣、卵管、子宮内膜)において発現される。VNN3遺伝子は、偽遺伝子として記載されているが、いくつかの報告は、機能的な役割を示唆する、異なるVNN3発現を記載している。VNN3は、広く発現される。バニリンファミリー遺伝子の組織及び細胞株の発現に関するデータは、タンパク質アトラスなどの公用データベース(www.proteinatlas.org)及びいくつかの刊行物(例えば、Jansen,P.A.M.et al.Expression of the Vanin Gene Family in Normal and Inflamed Human Skin:Induction by Proinflammatory Cytokines.J.Investigative Dermatology 129:2167-2174,2009)において見出すことができる。
【0184】
パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)
4-ホスホパンテテインを送達するジスルフィドシステアミン前駆体が、治療的に使用され得る第2の治療方法は、パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)として知られる疾患によって例示される。システアミンは、パーキンソン病、ハンチントン病、及び脳鉄蓄積による神経変性(NBIA)を含む、いくつかの神経変性疾患において治療上有効であるという前臨床的及び臨床的証拠がある。NBIAは、他の症状の中で、進行性錐体外路兆候、運動発達の遅延、及び認知低下と可変的に関連する、稀で臨床的に異種の疾患群を指す。発症年齢は、乳児期から成人後期に及ぶ。症状の出現は、進行速度と同様に大きく異なる。その結果、診断は通常、脳のMRI走査での基底核における異常な鉄蓄積の観察によって示唆される。小脳萎縮もまた存在し得る。NBIAは、PANK2、PLA2G6、C19orf12、FA2H、ATP13A2、WDR45、COASY、FTL、CP、及びDCAF17の10個の遺伝子のうちのいずれかの突然変異と関連している。X染色体上に位置するWDR45遺伝子の突然変異を除いて、NBIAは常染色体劣性疾患として伝染する。
【0185】
最も一般的な種類のNBIA(全症例の30~50%)は、パントテネートキナーゼ2(PANK2)をコードする遺伝子における突然変異によって引き起こされる、パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)である。ミトコンドリアに局在するパントテネートキナーゼ2は、パントテン酸をリン酸化して4-ホスホパントテン酸を生成し、それが4-ホスホパントテノイル-システインに変換され、その後4-ホスホパンテテインに脱炭酸される(
図11を参照)。PANK2触媒化ステップの下流の代謝産物である、4′-ホスホパンテテインの供給源を提供することは、機能的PANK2酵素の要件を克服する。補酵素A及びデホスホ補酵素Aの両方は、胃腸管で4′-ホスホパンテテインに分解され得る。したがって、4′-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、及び別のチオールからなる任意のジスルフィドは、PANK2の欠損を補完することができる。
【0186】
ある特定の実施形態では、4′-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aを含有するジスルフィドを、PANK2欠損に罹患している患者に投与して、疾患症状を改善することができる。具体的には、ジスルフィドは、
図19(表1C及び1D)、
図20(表1E)、及び
図21に示される(少なくとも1つの4′-ホスホパンテテイン、1つのデホスホ補酵素A、または1つの補酵素Aを含む化合物のサブセット;図の命名法ではそれぞれチオール3、4、及び5)。
【0187】
本出願のジスルフィドシステアミン前駆体は、上で概説した治療方法を実施するために特に適している。(i)ジスルフィドが空気中で安定であり(すなわち、酸素に対して安定である)、したがってチオールよりも配合及び保存が容易であり、長期間安定であるため、(ii)チオール基は、ジスルフィドが吸収部位の近くの小腸で還元されるまで保護されるため、(iii)付加的または相補的な治療特性を有する第2のチオールが同時に送達され得るため、ジスルフィドは、4′-ホスホパンテテイン(及び最終的にシステアミン)を送達するための有効な方法を提供する。例えば、いくつかの実施形態では、システアミン-4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、システアミン-デホスホ補酵素A混合ジスルフィド、及びシステアミン-補酵素A混合ジスルフィドは、有用な治療化合物である。
【0188】
システアミン前駆体からのシステアミン生産の増強剤
本発明の方法及び組成物は、システアミン産生の増強剤を利用することができる。システアミンの血中レベルを制御することにおける付加的な柔軟性は、システアミン前駆体を、腸内でシステアミン前駆体をシステアミンに化学的かつ酵素的に分解するため、システアミンを血液中に吸収するため、及びシステアミンが腸、血液、または組織中で迅速に異化されることを防ぐために必要なステップの増強剤と組み合わせることによって達成することができる。これらのいくつかのステップの各々に特異的な増強剤が存在する。したがって、本明細書に記載されるシステアミン前駆体のうちのいずれかは、任意に、システアミン生成もしくは小腸取り込みを増強するか、またはシステアミン分解を遅くする薬剤と同時配合もしくは同時投与するか、または順次投与することができる。
【0189】
ジスルフィドシステアミン前駆体をシステアミンに変換する第1のステップは、2つのチオールを産生するためのジスルフィドを還元である。胃腸管内の酸化還元環境は、システアミン前駆体をそれらのそれぞれのチオールに定量的に還元し、それによってシステアミン生成を制限するために十分な還元当量を含有しないことがある。例えば、胃液中の還元剤グルタチオン及びシステインの濃度は、非常に低いか、または検出不能である(Nalini et al.,Biol Int.32:449(1994))。さらに、高用量のパンテチンに関する小規模臨床研究では、パンテテインの多くが便中に変化しないまま排出され、明らかに不完全なジスルフィド結合の還元を反映している(Wittwer et al.,J.Exp.Med.76:4(1985)を参照)。この潜在的な制約に対処するために、還元剤をジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与もしくは同時配合するか、またはシステアミン前駆体の前または後に投与することができ、それによりそれらを必要な時間及び場所で利用できるようにする。還元剤は、ジスルフィド結合の還元を促進し、2つのチオールを遊離させ得るか、またはチオール-ジスルフィド交換反応を促進することができ、チオール(A)及びジスルフィド(B-C)が反応して、新たなジスルフィド(A-BまたはA-C)及びチオール(BまたはC)を産生し、それによって元のジスルフィド(例えば、システアミン、パンテテイン、またはシステアミンに分解可能な化合物)中のチオールのうちの1つを放出する。
【0190】
様々な還元剤を使用して、胃腸管でのジスルフィドの還元またはチオール-ジスルフィド交換を促進することができる。還元剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体を直接還元するか、または順にジスルフィドシステアミン前駆体を還元するか、もしくはチオール-ジスルフィド交換に関与する、グルタチオンジスルフィドなどの他のジスルフィドを還元することができる。いくつかの実施形態では、還元能力を有する生理学的化合物(すなわち、体内に通常みられる物質)または食品由来の化合物を使用して、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進するか、またはチオール-ジスルフィド交換反応を促進することができる。アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)、またはジチオールジヒドロリポ酸、強力な還元剤などの、通常、体内及び食品中に存在し得る他の化合物のように、チオールグルタチオンまたはシステインなどの生理学的還元剤(いずれも胆汁及び腸細胞分泌の結果として小腸に存在する)が使用されてもよい。
図17に列挙された任意のチオールのように、N-アセチルシステインなどのチオール及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)などの非チオールを含む、他の広く利用可能な還元剤を使用することもできる。好ましい還元剤としては、局所胃腸管酸化還元環境の変化をもたらすために必要な用量で安全であることが知られているものが挙げられる。投与期間あたり、数グラムまで、例えば0.5~5グラムの還元剤が必要とされ得る。還元剤の同時投与から利益を得ることができるジスルフィドシステアミン前駆体を
図13に示す。2つ以上の還元剤を組み合わせてもよい。好ましくは、還元剤は300ダルトン未満の分子量を有する。
【0191】
成人は、毎日400~1,000ミリリットル(mL)以上の胆汁を産生し、750mLが、平均量として推定されている(Boyer,Compr.Physiol.3:32(2013))。胆汁は、一日中肝臓で産生される。一部は胆嚢に貯蔵されるが、残りは絶食状態であっても、胆汁の安定したゆっくりとした流れを提供する(胆汁は、排泄機能を果たすとともに消化及び脂肪吸収を助ける)。食事は、ペプチドホルモンセクレチン及びコレシストキニンの十二指腸分泌を刺激し、胆汁産生及び胆嚢収縮をそれぞれ刺激する。胆汁中のチオールの濃度は、およそ4mMであり、主にグルタチオンからなるが、γ-グルタミルシステイン、システイニルグリシン、及びシステインも含む(Eberle et al.,J Biol.Chem.256:2115(1981)、Abbott&Meister,J.Biol.Chem 258:6193(1984))。
【0192】
システイン及び、より低い程度で、グルタチオンもまた、管腔内酸化還元ポ能力を調節するために腸細胞によって胃腸管の内腔に分泌される。ラットの空腸からの腸液中のチオール濃度は、胆汁からの寄与とは無関係に直接測定されている。絶食ラットでは、60~200μM、摂食動物では120~300μMの範囲である(Hagen et al.,Am.J.Physiol.259:G524(1990)、Dahm and Jones,Am.J.Physiol.267:G292(1994))。さらに、胆汁分泌とは異なり、内腔チオールレベルの維持は動的プロセスであり、それにより酸化分子(例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体)の腸レベルの上昇は、少なくともある程度、腸細胞によるシステイン産生の増加によって対抗され得る(Dahm and Jones,J.Nutr.130:2739(2000))。ヒトの小腸は、1日あたり約1.8リットルの流体、結腸は約0.2リットルで合計約2リットルを分泌する。分泌液中のチオール(主にシステイン)の濃度は、胃腸管の領域、内腔の酸化還元能力、及び食事によって変化する。
【0193】
胃腸チオールの総濃度(胆汁及び腸細胞由来の両方)は、システアミン前駆体をチオールに変換するために必要なジスルフィド結合の還元及び/またはチオール-ジスルフィド交換の速度及び程度に影響し、これはシステアミンへの分解における必須の第1ステップである。食事後の上部胃腸管で利用可能な還元等価物の量は、いくつかの仮定を行うことによって推定することができる。例えば、(i)量の多い食事後1時間に200mL、2~3時間後にさらに100mLの胆汁が分泌され、(ii)胆汁中のチオール濃度が、4mMであると仮定すると、胆汁中のチオール還元力のミリ当量は、0.3L×0.004モル/L=0.0012モルのチオール(1.2ミリモル)になる。さらに、小腸の腸細胞が食事後4時間の間に追加の400ミリリットルを分泌し、200μMのチオール濃度で、0.4リットル×0.0002モル/リットル=80マイクロモルの管腔チオールを付加的にもたらすと仮定する。胆汁チオールと組み合わせると、合計約1.28ミリモルが、食物のジスルフィドを低減し、腸の酸化還元ポテンシャルを維持するために利用可能である。これは、チオール分泌の上限の推定値(かなり大きい場合がある)ではなく、食事後の数時間の小腸におけるチオールの正常レベルの値である。
【0194】
0.5グラム用量のシステアミン-(R)-パンテテインジスルフィド(MW:353.52g/L)は、約1.41ミリモルのジスルフィド結合を含有し、したがって、原則的に、内在性レベルのチオールによって(他の生理学的目的のために内腔チオールの必要性を無視して)、チオールに変換することができる(ジスルフィド結合の還元またはチオール-ジスルフィド交換のいずれかを介して)。
【0195】
より一般的には、1.25ミリモル過剰のシステアミン前駆体用量は、外因性還元剤の同時投与から利益を得ることができる。食物中に通常存在する多くの天然産物は、システアミン前駆体の還元またはチオール-ジスルフィド交換を促進する還元力を提供することができ、主要な内在性腸チオールのシステインまたはグルタチオンを含む。N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、またはN-アセチルシステインアミドなどのシステインまたはグルタチオン類似体を使用することもできる。アスコルビン酸は、ジスルフィド結合を還元することができる別の薬剤である(Giustarini et al.Nitric Oxide 19:252(2008))。例えば、1グラムのジスルフィドシステアミン前駆体システアミン-(R)-パンテテインジスルフィドに等しい還元力を提供するために必要なアスコルビン酸の用量は、以下のように計算することができる。
【0196】
アスコルビン酸(176.12g/mol)の分子量は、TTI-0102(353.52g/mol)としても知られる、システアミン-(R)-パンテテインジスルフィドの分子量の約半分である。したがって、1グラムのアスコルビン酸は、2グラム用量のTTI-0102中のジスルフィド結合の数に対して当モルの還元等価物を有する。米国食品栄養委員会が推奨するビタミンCの1日の摂取量は、女性の場合わずか75ミリグラム、男性の場合90ミリグラムであるが、多くの人々は、1日あたり1グラム以上の用量を含む、はるかに多い用量を摂取しており、有害作用は明らかに少ないか、または有害作用がない。
【0197】
同様の論拠は、TTI-0102用量をモル単位で適合させるために必要な他の還元剤の量をもたらす。例えば、システイン(分子量:121.15ダルトン)は、TTI-0102の質量の約34%であり、N-アセチルシステイン(分子量:163.195ダルトン)は、TTI-0102の質量の約46%であり、αリポ酸(分子量:208.34ダルトン)は、TTI-0102の質量の約59%であり、以下同様である。アルファリポ酸及びN-アセチルシステインは、非規制状態を示す、持続放出製剤を含めて、それぞれ600及び1,000mgのカプセル及び錠剤中で、ビタミンストア及びインターネット上で広く入手可能である。それらの分子量に基づいて他のジスルフィドシステアミン前駆体についても同様の計算を行うことができる。
【0198】
胆汁はチオールの主な供給源であり、胆汁は小腸及び大腸の長さに沿って連続的に希釈されるため、システアミン前駆体の還元のための余分な還元力は、空腸、回腸、または結腸において十二指腸よりも有用であり得る。したがって、遠位小腸及び/または大腸における還元剤を放出するように設計された製剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体の特に有用な補充剤であり得る。アスコルビン酸及び他の還元剤の持続放出製剤は、市販されている。あるいは、アスコルビン酸をシステアミン前駆体と同時配合して、両方の薬剤の同時送達を確実にすることができる。
【0199】
異なる生物学的還元剤と関連した電気化学的能力(還元力)は知られており、それらの使用についてのガイドを提供するが、異なるジスルフィドシステアミン前駆体を還元するそのような薬剤の能力は、経験的に最もよく決定される。
【0200】
チオール-ジスルフィド交換反応の反応速度は、pHの影響を強く受ける(すなわち、低いpHによって遅くなる)。そのような交換反応は、システアミンをシステアミン混合ジスルフィドから、またはパンテテインをパンテテシンジスルフィドから遊離するためのジスルフィド結合の還元に対する代替機序である。チオール-ジスルフィド交換反応の反応速度を高めるために、塩基性化合物を、ジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与または同時配合してもよく、それによりそれらは、必要とされる時間及び場所で利用可能になる。重炭酸塩などの生理学的化合物は、膵液中に高濃度で存在し、局所胃腸pHを調節するために使用され得る。
【0201】
多くのシステアミン前駆体をシステアミンに変換することにおける必須のステップは、ヒトのVNN1及びVNN2遺伝子によってコードされる酵素パンテテイナーゼである。パンテテイン及びパンテテインジスルフィド(パンテチンを含む)は、システアミンを生じるためにこの酵素を必要とする。パンテテイナーゼはまた、最終的に、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、及び適切な類似体及び誘導体などの、胃腸管でパンテテインに変換可能な化合物からのシステアミン生成のために必要とされる。胃腸管における正常レベルのパンテテイナーゼは、薬理学的用量によって提供される全てのパンテテイン分子を定量的に切断するために十分でない場合がある。この制約に対処するために、パンテテイナーゼ発現を誘導する化合物を、パンテテインまたはパンテテインに変換可能な化合物を含有するシステアミン前駆体と同時投与または同時配合して、必要とされる時間及び場所(すなわち、パンテテインが存在する時期及び場所)において、胃腸管内のパンテテイナーゼの量を増加させることができる。パンテテイナーゼの発現を誘導する薬剤としては、ある特定の食物成分を含む生理学的物質と、FDA承認された薬物を含む薬剤の両方が挙げられる。VNN1の生理学的誘導因子としては、転写因子NF-E2関連因子-2(より一般的に、頭字語でNrf2と呼ばれる)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)、及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)を介して作用する様々な物質を含む。
【0202】
Nrf2活性化を誘導する因子(核への移行を介して)としては、天然産物及びある特定の薬物の両方が挙げられる。例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、及びカリフラワーなどのアブラナ科野菜に存在するイソチオシアネートであるスルフォラファンは、Nrf2を介してVNN1の発現を誘導する。スルフォラファンが豊富な食品(例えば、芽キャベツ)を使用して、パンテテイナーゼの発現を誘導することができ、またはスルフォラファンを、薬学的組成物中の純物質として投与することができる。S-アリルシステイン及びジアリルトリスルフィド(いずれもタマネギ、ニンニク、及びニンニク抽出物中に存在する)を含む、ある特定の食品由来チオールもまたNfr2を誘導し、システアミン前駆体とともに投与される食事に含めることができる。あるいは、いずれかの化合物を純粋な形態で得て、薬学的組成物中で投与することができる。一部の多価不飽和脂肪酸、酸化脂肪、ω-3脂肪酸、及び天然に存在する脂質オレイルエタノールアミド(OEA)を含む、ある特定の食品中に存在する脂質もまた、Nrf2及び/またはPPARαを誘導する。酸化脂肪が豊富な食品としては、フライドポテト及び他の揚げ物が挙げられ、システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と同時投与することができる。ω-3脂肪酸は魚に存在し、魚油抽出物中、及び薬学的組成物で使用するための純粋な形態で入手可能である。
【0203】
天然に存在するPPARαリガンドとしては、ロイコトリエンB4、8-ヒドロキシエイコサテトラエン酸、及びある特定のファミリーメンバーを含むアラキドン酸及びアラキドン酸代謝産物などの内在性化合物が挙げられる。薬理学的PPARαリガンドとしては、フィブラート(例えば、ベンザフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル)、ピリニクス酸(Wy14643)、及びジ(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)が挙げられる。任意の天然または合成のPPARαリガンドは、システアミンを産生するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と同時配合または同時投与され得る。PPARリガンドのレビューについては、Grygiel-Gorniak,B.Nutrition Journal 13:17(2014)を参照されたい。
【0204】
天然及び合成のPPARGアゴニストを使用して、パンテテイナーゼ遺伝子VNN1及び/またはVNN2のNrf2媒介転写を刺激することもできる。天然産物PPARGアゴニストとしては、アラキドン酸及び代謝産物が挙げられ、15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15(S)-HETE、15(R)-HETE、及び15(S)-HpETE)、9-ヒドロキシオクタデカジエン酸、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸、15-デオキシ-(δ)12,14-プロスタグランジンJ2、及びプロスタグランジンPGJ2、ならびにホノキオール、アモルフルチン1、アモルフルチンB、及びアモルファスチルボールを含む。他の天然産物は、PPARG及びPPARAの両方を活性化し、ゲニステイン、ビオカニンA、サルガキン酸、サルガヒドロキン酸、レスベラトロール、及びアモルファスチルボールを含む。天然産物PPARGアゴニストは、Wang et al.,Biochemical Pharmacology 92:73(2014)に記載され、レビューされている。薬理学的PPARγアゴニストとしては、チアゾリジンジオン(グリタゾンとも呼ばれる、例えばピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン)が挙げられる。赤身肉由来のヘムもまた、VNN1発現を誘導する。パンテテイナーゼ発現を刺激するPPARAまたはPPARGアゴニストは、パンテテインまたは腸内でパンテテインに分解可能な化合物を含有するシステアミン前駆体と同時投与または同時配合することができる。パンテテイナーゼ発現の2つ以上の誘導因子を組み合わせて、発現を増強するか、または任意の単一薬剤の用量を低減することができる。
【0205】
システアミンを全身で生物学的に利用可能にする別の重要なステップは、腸上皮全体の吸収である。腸管腔からのシステアミンの取り込みは、輸送体によって媒介され、その天然レベルは腸管腔内の全てのシステアミンを輸送するには十分に高くない場合がある。したがって、システアミン輸送体の発現を誘導する化合物は、システアミン前駆体と同時投与または同時配合してシステアミンの吸収を高めることができる。システアミンは、有機カチオン輸送体1、2、及び3によって(OCT1、OCT2、及びOCT3遺伝子によってコードされ、SLC22A1、SLC22A2、及びSLC22A3遺伝子とも呼ばれる)、ならびに恐らくは他の輸送体タンパク質によって腸上皮全体に輸送される。有機カチオン輸送体発現の誘導因子としては、転写因子PPARα及びPPARγ、プレグナンX受容体(PXR)、レチノイン酸受容体(RAR)、及び(OCT1の場合)RXR受容体、ならびにグルココルチコイド受容体が挙げられる。したがって、これらの受容体の天然または合成リガンドのいずれかを使用して、OCT発現を増加させ、結果として腸上皮細胞によるシステアミンの取り込みを増強することができる。システアミン輸送体(複数可)の発現を刺激する薬剤は、任意の種類のシステアミン前駆体と同時投与または同時配合されてもよい。
【0206】
人体におけるシステアミンの排出半減期(Cmaxから静脈内ボーラス後の半Cmaxまでの時間)は、約25分である。システアミンの用量の一部は、遊離システインとの、タンパク質のシステイニル残基との、及びグルタチオンとの混合ジスルフィドを含む、種々のジスルフィドに変換される。薬理学的介入は、その排出の様式を防止することができず、いずれの場合でもシステアミンのプールがさらなるジスルフィド交換のために利用可能なままである。しかしながら、システアミンを不可逆的に変換し、それを効果的に身体から除去する、システアミン異化経路がある。システアミンをヒポタウリンに酸化する酵素システアミンジオキシゲナーゼは、システアミン排出において重要な因子である。その後、ヒポタウリンは、タウリンへとさらに酸化される。システアミン前駆体とこれらの異化産物の一方または両方との同時投与は、最終産物の阻害によってシステアミン異化を遅らせる場合がある。したがって、ある特定の実施形態では、システアミン前駆体は、ヒポタウリン及び/またはタウリンとの最適な時間的順序で同時配合、同時投与、または投与される。
【0207】
図13は、チオール構成体、生成され得るシステアミン分子の数、システアミンを生成するために必要な代謝ステップ、インビボシステアミン生成の潜在的に有用な増強剤、及びシステアミン放出プロファイルに基づくシステアミン前駆物質の分類を示す。システアミン輸送体(複数可)のより高い発現を誘導する化合物(
図13には示されていない)は、全ての種類のシステアミン前駆体に有用である。腸内容物をアルカリ化し、それによってチオール-ジスルフィド交換及び/またはジスルフィド結合の還元を促進する化合物(
図13には示されていない)は、ジスルフィドシステアミン前駆体に有用である。
【0208】
要約すると、システアミン血中レベルの制御における柔軟性は、(i)選択された特性を有する1種以上のシステアミン前駆体、(ii)インビボシステアミン前駆体分解及び/またはシステアミン吸収の1種以上の増強剤、(iii)システアミン異化の1種以上の阻害剤、(iv)1種以上の製剤(例えば、即時型、遅延型、持続型、胃内滞留型、もしくは結腸標的型、または組み合わせ)を用いる、及び(v)効果的に分解及び吸収され得る量での、システアミン前駆体(複数可)及び増強剤(複数可)の胃腸管の標的化セグメントへの最適な同時送達を可能にする投与スケジュールの同時配合または同時投与によって達成され得る。これらのツールの個別化された適用の結果は、長期にわたり治療範囲内のシステアミン血中レベルを維持し、既存の化合物及び製剤と比較して、疾患に対する優れた薬理学的効果をもたらす。
【0209】
薬学的組成物
本発明は、(i)システアミンの高いピーク濃度と関連した副作用を低減するため、(ii)システアミンの治療量以下のトラフ濃度によって引き起こされる治療不十分を低減するため、及び(iii)患者の便宜性を改善し、したがって1日あたりの投与回数を減らすことによって治療法を遵守するために、長期間にわたってシステアミンの治療上有効な血漿濃度を達成するように配合された組成物を提供する。本発明の化合物及び製剤はまた、(i)既存のシステアミン製剤と比較して、改善された感覚刺激特性を提供し、(ii)胃腸副作用の既知の原因である、遊離システアミンと胃上皮との接触を低減し、(ii)用量及び送達部位(複数可)を胃腸管における関連する消化及び吸収プロセスと一致させることによって、治療的システアミン血中レベルを達成するために必要とされるシステアミン前駆体の用量を最小限にするように設計され、この目的は、(iii)システアミン前駆体の分解及び吸収を、それらのプロセスの増強剤との同時配合または同時投与によって最適化することによって達成され得る。
【0210】
本発明の組成物の場合、システアミン前駆体またはその塩の、口内での曝露を防止するために、全ての製剤に薬学的賦形剤が含まれる。苦味または他の不快な味をマスキングするための配合方法としては、いくつかの層に塗布することができるコーティングが挙げられる。香味剤及び染料を使用することもできる。許容される口あたり及び/または味を有する薬学的組成物を産生する方法は、当該分野で知られている(例えば、他の箇所で引用されている薬学的製剤の教科書を参照。特許文献はまた、感覚刺激的に許容される薬学的組成物を産生するための方法を提供する(例えば、米国特許公開第2010/0062988号を参照。)
【0211】
胃内滞留性組成物
第1の組成物は、胃内滞留性製剤中でシステアミン前駆体またはその塩を提供する。様々な胃内滞留技術が当該分野で知られており、そのいくつかは市販製品において良好に使用されている。レビューについては、例えば、Pahwa et al.,Recent Patents in Drug Delivery and Formulation,6:278(2012)、及びHou et al.,Gastric retentive dosage forms:a review.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 20:459(2003)を参照されたい。
【0212】
胃内滞留性製剤は、胃内でシステアミン前駆体の持続放出を提供する。その後のインビボでのシステアミン前駆体の種類に応じて、システアミン生成は、胃で、またはシステアミンが最も効率的に吸収される組織である小腸で開始し得る。いくつかのシステアミン前駆体は、たとえ胃または小腸において薬学的組成物から放出されたとしても、大腸においてシステアミンに変換され続けることがある。例えば、胃で放出されるジスルフィドシステアミン前駆体は、主に胃の酸性、酸化性環境において酸化状態で残る場合があり、小腸で還元剤(例えば、胆汁グルタチオン)に遭遇した後にシステアミンを放出し始める。胃内滞留性組成物は、摂取後1~4時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~8時間、1~10時間、またはそれ以上の間に、上昇した血中システアミンレベルを生じる。
【0213】
システアミン重酒石酸塩に推奨されるものとは反対に(例えば、Procysbi(登録商標)FDA完全処方情報を参照)、システアミン前駆体の胃内滞留性製剤は、食品とともに、好ましくは、胃排出を遅らせるために十分なカロリー含有量及び栄養素密度を含む食事とともに投与されるべきである。栄養素稠密な食事は、小腸において(及び胃ではより低い程度で)浸透圧受容体及び化学受容体を誘発し、これが胃の運動性を低下させ、それによって排出を遅延させる神経及びホルモンシグナルを刺激する効果を有する。胃排出を遅らせることは、胃内滞留性組成物の効果を延長するための機序である。しかしながら、大量の食物または液体で胃を満たすことは、胃の運動性を促進し、排出速度を上げる傾向があり、したがって、栄養素密度は、容量よりも重要な食事の特性である。十二指腸に排出する前に幽門洞及び幽門内で小さな粒子に粉砕しなければならない固体食品は、液体または半液体食品と比較して胃の滞留を延長する。液体食品の中で、高粘度の液体は、低粘度の液体と比較して胃排出を遅らせることができる。高浸透圧内容物を有する食品は、十二指腸浸透圧受容体を誘発して、胃排出を遅らせる信号を伝達する。胃内のシステアミン前駆体の放出(例えば、胃内滞留性製剤からの)は、胃内容物、したがって十二指腸内容物の浸透圧を増加させることができる。
【0214】
ある特定の実施形態では、ジスルフィドシステアミン前駆体は、胃の酸性、酸化環境がジスルフィドを酸化形態で維持する傾向があり、それによってシステアミン毒性の原因の1つと考えられる胃上皮のシステアミンへの曝露を制限するため、胃内滞留性製剤に好ましい。十二指腸に入り、高(ミリモル)濃度のグルタチオン、システイン、及び他の還元剤を含有する胆汁と混合すると、ジスルフィドは還元され、それによってパンテテイナーゼに曝露される場所、及びシステアミン輸送体が腸細胞上で発現される場所で、遊離チオールを産生する。
【0215】
小腸における脂肪の存在は、胃排出の最も強力な既知の阻害剤であり、幽門領域における近位の胃の弛緩及び収縮の減少につながる。脂肪が小腸において吸収され、もはや胃への阻害シグナルを誘発しなくなると、胃の運動は正常なパターンを再開する。したがって、胃内滞留性製剤は、理想的には、脂肪食品を含む食事とともに投与され得る。タンパク質が豊富な食事もまた、より低い程度で、炭水化物が豊富な食事はさらに低い程度で、胃排出を遅くする。
【0216】
胃内滞留性組成物はまた、ある特定の脂質を含む、胃排出を遅らせる化合物とともに投与することができ、例えば少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪酸は、腸内分泌細胞からのコレシストキニン放出を刺激し、胃の運動を低下させるが、より短い炭素細胞を有する脂肪酸は、それほど効果的ではない。いくつかの実施形態では、食物または食事には、炭素鎖が12以上の脂肪酸(例えば、オレイン酸、ミリスチン酸、ミリスチン酸トリエタノールアミン、脂肪酸塩)を含む脂肪酸またはトリグリセリドが補充されてもよい。
【0217】
脂肪及びタンパク質は、それらが十二指腸に達すると、グレリン、コレシストキニン(CCK)、及びグルカゴン様ペプチド1(GLP1)を含むいくつかの腸ホルモンの分泌を刺激する。CCKは、CCK1受容体(CCK1R、以前はCCK-A受容体と呼ばれていた)に結合することによって胃排出を遅らせる。いくつかの実施形態では、経口的に活性なCCKアゴニストまたは模倣物、CCK1Rの正のアロステリック調節剤、または内在性CCKの放出を促進する、もしくはCCK分解を阻害する薬剤、またはそうでなければそれらの機序もしくは他の機序のいくつかの組み合わせによってCCK作用を延長する薬剤は、胃内滞留性組成物とともに投与され、胃排出を遅らせ、胃内滞留組成物の胃滞留を延長させる。CCKは、8アミノ酸から53アミノ酸までの範囲のいくつかの形態(例えば、CCK-8、CCK-53)で存在するペプチドである。ペプチドの経口投与は、それらが胃腸管で消化されるため有効ではない。小分子CCKアゴニストは、いくつかの研究グループによって開発され、試験されている。例えば、SR-146、131及び関連化合物は、Sanofiの科学者によって開発された(米国特許第5,731,340号及び第6,380,230号、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0218】
ある特定のプロテアーゼ阻害剤は、CCK産生もしくは放出を誘導するか、またはその半減期を延長するか、またはそうでなければ食物由来の混合物及び純粋な化合物の両方を含むその効果を増強する。例えば、ジャガイモ由来のプロテアーゼ阻害剤濃縮物の摂取は、大豆ペプトン及び大豆β-コングリシニンペプトンの摂取と同様に、CCKレベルの上昇と関連する。カモステートは、内在性CCK放出の刺激、及び結果的に胃排出の減速を含む、多面発現効果を有する合成プロテアーゼ阻害剤である。メシル酸カモスタットは、ヒトにおいて広範に使用されている薬学的塩である。FOY-251は、カモスタットの活性代謝産物である。いくつかの実施形態では、CCK産生もしくは放出を刺激する、またはCCK半減期を延長する、またはそうでなければCCK効果を増強する薬剤は、胃排出を遅らせる量の胃内滞留性組成物と同時配合または同時投与される。いくつかの実施形態では、カモスタット、FOY-251、またはカモスタットのプロドラッグ、誘導体、もしくは活性代謝産物、またはその薬学的に許容される塩は、胃内滞留性組成物と、50~300mg/kgまたは100~250mg/kgの範囲の量で同時配合または同時投与される。
【0219】
胃排出もまた、粥状液の酸性化によって遅くなる。例えば、クエン酸及び酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。いくつかの実施形態では、食物または食事としては、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、もしくは他の柑橘類の豊富な果物の果肉もしくは果汁)、または酢酸(例えば、酢、ピクルス、もしくは他の漬けた野菜)、または乳酸(例えば、ザワークラウトもしくはキムチ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、胃粥状液のpHをpH4より下またはpH3.5より下に低下させるために十分な量の酸性食品または液体の量は、胃内滞留性組成物とともに投与される。
【0220】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)は、食物、特に摂取した脂肪に応答して十二指腸内の細胞によって放出され、胃排出に影響を及ぼす別の腸ホルモンである。経口投与されたGLP1受容体アゴニストは、いくつかの研究グループによって発見されている(例えば、Sloop et al.,Diabetes 59:3099(2010))。GLP1受容体の正のアロステリック調節剤(アゴニスト自体ではないが、内在性GLP1を増強する)は、別のカテゴリーのGLP1R刺激剤である(例えば、Wootten et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.336:540(2011)、Eng et al.,Drug Metabolism and Disposition 41:1470(2013)、また各々が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第2006/0287242号、第2007/0021346号、第2007/0099835号、第2013/0225488号、及び第2013/0178420号も参照)。内在性GLP1の存在下でGLP-1受容体シグナル伝達を正に調節する化合物の中には、GLP-1受容体上のアロステリック部位に結合し、内在性リガンド(ペプチドであるGLP-1は、いくつかの形式で存在する。)の結合の際に受容体シグナル伝達に正の影響を及ぼすことによって作用する、ケルセチンがある。一部のケルセチン類似体は、内在性GLP1の正の調節剤でもある。ケルセチンは、多くの果物、野菜、葉類、及び穀物に存在するフラボノールである。それは健康補助食品、飲料、及び食品の成分として使用されている。いくつかの実施形態では、GLP-1受容体アゴニストまたはGLP-1の正のアロステリック調節剤は、胃排出を遅延させるために十分な量で胃内滞留性組成物と同時配合または同時投与される。いくつかの実施形態では、GLP-1受容体アゴニストまたは正のアロステリック調節剤は、ケルセチンまたはケルセチンの類似体、誘導体、または活性代謝産物である。ある特定の小分子薬物はまた、胃排出時間を遅らせることができ、胃内滞留性組成物と同時投与または同時配合することもできる。
【0221】
胃排出はまた、粥状液の酸性化によっても遅くなる。例えば、クエン酸及び酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。いくつかの実施形態では、食物または食事としては、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、グレープフルーツ、もしくは他の柑橘類の豊富な果物)、または酢酸(例えば、酢、ピクルス、もしくは他の漬けた野菜)、または乳酸(例えば、ザワークラウトもしくはキムチ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、酸性食品または液体を胃内滞留性組成物とともに投与することによって、粥状液のpHを4より下または3.5より下に低下させる。
【0222】
米国特許第8,741,885号は、活性薬学的成分をオピオイドと組み合わせることによって、胃内滞留性薬学的組成物(例えば、浮遊性、膨潤性、または粘膜付着性組成物)の胃内滞留を延長するための方法を記載している。同時配合オピオイドの目的は、胃排出を遅らせることである。胃不全麻痺、または深刻なうっ血性胃腸運動は、オピオイド療法のよく知られた潜在的に重篤な合併症である。
【0223】
持続放出組成物
第2の組成物は、非胃滞留性持続放出製剤中のシステアミン前駆体またはその塩を提供する。持続放出製剤は、当該分野において周知である(Wen,H.and Park,K.(editors)Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice.Wiley,2010、Augsburger,and L.L.and Hoag,S.W.(editors)Pharmaceutical Dosage Forms-Tablets,volume 3:Manufacture and Process Control.CRC Press,2008)。持続放出成分は、錠剤、粉末、または微粒子が充填されたカプセルであってもよい。任意に、粒子は、サイズ、組成物(例えば、持続放出ポリマーの種類もしくは濃度)、またはコーティング剤の種類もしくは厚さ、またはコーティング剤の複数の層でコーティングされた場合の層の数及び組成物が異なっていてもよく、それにより薬物が、異なる速度または異なる開始時間に個々の粒子から放出され、それによって全ての粒子が実質的に同一である製剤と比較して、長期間にわたる薬物放出を凝集体において提供する。持続放出製剤は、任意に、胃での溶解を防止するpH感受性材料(腸溶性コーティングと呼ばれる)でコーティングされてもよい。単一組成物中の微粒子は、1種以上のコーティング剤の種類または厚さが異なっていてもよい。例えば、コーティングが溶解するpHは、異なっていてもよい。そのような混合組成物に使用される2種以上の微粒子は、厳密な仕様に分けて別々に製造され、次いでインビボでの長期の薬物放出を達成する比でブレンドされてもよい。
【0224】
持続放出組成物は、胃及び/または小腸(腸溶性コーティングされている場合は前者ではない)におけるシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、結果としてインビボでのシステアミン生成を持続させることができる。持続放出製剤は、平均胃通過時間及び小腸通過時間の合計にほぼ等しい時間の間、例えば、絶食状態で投与される場合は3~5時間、食物または食事とともに投与される場合は5~8時間にわたって薬物を放出するように設計することができる。あるいは、持続放出製剤は、大腸でシステアミン前駆体を放出し続けるように、平均胃通過時間及び小腸通過時間の合計よりも長く薬物を放出するよう設計することができる。いくつかの実施形態では、そのような持続放出組成物は、絶食状態で投与した場合に4~8時間、または食事とともに投与した場合に6~10時間またはそれ以上にわたってシステアミン前駆体を放出することができる。
【0225】
持続放出製剤は、摂取後1~4時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~8時間、さらに好ましくは1~10時間またはそれ以上にわたって血中システアミンレベルの上昇をもたらし得る。システアミン前駆体の持続放出製剤は、食物とともに、または食事の間に、及び任意にシステアミン前駆体分解またはシステアミン吸収の増強剤とともに投与することができる。食品は、遊離システアミン、特に脂肪性食品の吸収を阻害する傾向があり、システアミン塩を空腹時に摂取することが一般的に推奨されるが、少量のアップルソースまたは類似の食品は許容される。
【0226】
混合製剤
いくつかの組成物は、必然的に、主に薬物放出の速度を制御するものと、主に薬物放出の解剖学的部位を制御するものとの2つの種類の製剤の要素を有する。例えば、胃内滞留性製剤は、常に持続放出製剤中に薬物を含有する。そうでなければ、長期の胃内滞留には何の意味もない。しかしながら、単一の胃内滞留性製剤中に即時放出成分及び持続放出成分を組み合わせる方法がある。例えば、即時放出成分は、胃で急速に溶解するか、または急速に崩壊する外層を形成することができ、本明細書に記載される胃内滞留機序のうちの1つ以上によって胃に残留するコア持続放出成分を残す。しかしながら、全ての種類の製剤を生産的に組み合わせることはできない。例えば、腸溶性コーティングされた胃内滞留性製剤は、胃内で薬物を放出するように胃内滞留性製剤が設計されており、胃内放出が酸性媒体での溶解に対して耐性があるコーティングによって遮断されるため、逆効果である。
【0227】
異なる時間的または解剖学的薬物放出プロファイルを有する組成物は、適切なシステアミン前駆体と、及び任意にシステアミン生成または吸収の増強剤と組み合わせた場合、治療範囲の血中システアミンレベルを0.5~6時間、より好ましくは0.5~8時間、最も好ましくは0.5~12、0.5~15時間、またはそれ以上にわたってもたらす。製剤の生産的組み合わせの例としては、最大2種までの薬物放出成分を含む混合製剤、ならびにインビボでのシステアミン生成及び吸収の量及びタイミングを個々の患者のニーズに対して調整するために様々な量及び比で組み合わせることができる別々に配合された組成物が挙げられる。
【0228】
第3の組成物は、小腸でのシステアミン前駆体またはその塩の遅延放出のために配合された第1の腸溶性コーティング成分と、小腸及び大腸の近位部分全体でのシステアミン前駆体またはその塩の持続放出のために配合された腸溶性コーティングされた微粒子の第2成分との混合製剤を提供する。この混合製剤は、最初に血液中の上昇したシステアミンレベルを達成するために第1の成分を提供し、第2の成分は、経時的に血液中のシステアミンレベルを維持する。
【0229】
第4の組成物は、(i)システアミン前駆体またはその塩の持続放出胃内滞留性製剤と、(ii)胃で薬物を放出するように設計されたシステアミン前駆体またはその塩の即時放出製剤と、を含む、混合製剤を提供する。混合製剤の第2の成分は、組成物の外面上にあり、胃内容物と接触すると直ちに溶解し始める。それは、胃では必ずしもそうではないが、システアミンを生成する最初のものである。第1の(胃内滞留性)成分は、胃でのシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、続いて小腸全体にわたるインビボでのシステアミン生成、及びシステアミン前駆体の特性に応じて大腸内への生成をもたらす。2つの成分からのシステアミンのインビボ生成及び吸収を合わせたものは、混合組成物の投与後1時間以内に開始し、少なくとも5時間、好ましくは治療濃度範囲内で8、10、12時間、またはそれ以上にわたって持続する。
【0230】
第5の組成物において、第1の成分は、胃での即時放出のために配合され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィドもしくはパンテテインジスルフィド、またはその塩を含み、第2の成分は、システアミン前駆体、またはその塩の持続放出のために配合される。第1の成分は、第1の成分の溶解または崩壊後に第2の成分が無傷のままであるように、組成物の外面上にある。この第5の組成物の混合製剤は、即時放出成分からの血漿システアミン濃度の初期上昇を生じ、6時間、8時間、10時間、またはそれ以上のインビボでのシステアミン産生の継続により、第2の(持続放出)成分からのシステアミンの上昇したレベルを維持することができる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(またはいくつかの異なるシステアミン前駆体)の放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼ及びシステアミン輸送体のレベルと一致させることを可能にし、それによってシステアミンの生成及び吸収を最大にする。システアミンの連続的な小腸生成及び吸収は、曝露を延長するための高いCmaxに依存することを回避し、それによって高いピークレベルに伴うシステアミン副作用を低減する。したがって、システアミン前駆体の混合製剤は、システアミンの作用に感受性のある多数の障害に対するシステアミンの投与を可能にする。
【0231】
第6の組成物において、第1の成分は、胃での即時放出のために配合され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィドもしくはパンテテインジスルフィド、またはその塩を含み、第2の成分は、回腸及び/または結腸でのシステアミン前駆体、またはその塩の持続放出のために配合される。この第6の組成物の混合製剤は、第1ピークが急速に減少する頃に、即時放出成分からの血漿システアミンレベルの初期上昇、ならびに回腸及び結腸標的成分からの血漿システアミンレベルの第2上昇をもたらすことができる。第2の成分は、食品の有無にかかわらず投与されたかどうかに応じて、投与から4~8時間後にシステアミン前駆体を放出し始めることができる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(または異なるシステアミン前駆体)の制御放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼ及びシステアミン輸送体のレベルと一致させることを可能にし、システアミンの生成及び吸収を最大にする。
【0232】
化合物
本発明の薬学的に許容される組成物は、1種以上のシステアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩(複数可)を含む。本発明の塩としては、限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウムの塩;アルカリ土類金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムの塩;ならびに有機塩基、例えば、アミン塩基及び無機塩基の塩が挙げられる。例示的な塩は、Remington′s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1985,p.1418,Berge et al.,J.Pharmaceutical Sciences 66:1(1977),and Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,(Eds.P.H.Stahl and C.G.Wermuth),Wiley-VCH,2008に見出され、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0233】
本発明の組成物は、投与後の最初の4時間以内、好ましくは投与後の最初の2時間以内、及び最も好ましくは最初の1時間以内に治療範囲内のシステアミンの血漿濃度を達成するために、胃滞留性製剤または混合製剤の成分中にシステアミン前駆体またはその塩を含むことができる。システアミン血漿濃度は、好ましくは少なくとも5時間、好ましくは6時間、より好ましくは8時間、10時間、またはそれ以上にわたって治療範囲内に留まる。この製剤は、酵素的に分解してパンテテインなどのシステアミンを産生することができるチオールシステアミン前駆体、または4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aなどの胃腸管内でパンテテイン(及びそれからシステアミン)に分解することができる化合物、または胃腸管内でパンテテイン(及び次いでシステアミン)に分解することができるその誘導体またはプロドラッグを含んでもよい。あるいは、システアミン前駆体は、システアミンまたは分解してシステアミンを産生することができる化合物を、別のチオール含有有機硫黄化合物と反応させてジスルフィド化合物を形成することによって形成されてもよい。ジスルフィドシステアミン前駆体またはその塩は、システアミンを、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN-アセチルシステアミンなどのチオールシステアミン前駆体を反応させることによって、またはシステアミンを、N-アセチルシステイン(NAC)、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、ホモシステイン、グルタチオン(GSH)、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール(グレープフルーツメルカプタン)、3-メルカプトピルビン酸、L-システイン、L-システインエチルエステル、L-システインメチルエステル、チオシステイン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタジオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸を含む他のチオールと反応させることによって形成することができる。チオールシステアミン前駆体またはシステアミンは、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(ジメルカプロール)、ブシラミン、またはN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH
2)などのジチオールと反応させて、ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することもできる。ジスルフィドシステアミン前駆体を形成するために使用することができるチオールの一覧については
図17を、ジスルフィドシステアミン前駆体を形成するために結合することができるチオールのペアを要約する表については
図18~21を参照されたい。システアミン前駆体を形成するのに適した他のチオールは、当該分野において知られている。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT特許公開第WO1993/006832号は、中でもN,N-ジメチルシステイン、チオコリン、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、及びアミノペンタンチオールを含む、
図17に含まれない追加の有用なチオールを開示する
【0234】
形成されたジスルフィドは、使用されるシステアミン前駆体の特性(例えば、システアミンを形成するために必要とされる分解ステップの数)に依存して、胃でのシステアミンの放出を遅延させ、及び/またはその小腸でのインビボ生成及び吸収を促進し得る。
図13は、システアミン前駆体の分類を示し、選択された薬理学的に関連する特性を要約する。
図18~
図21は、多くのジスルフィドシステアミン前駆体のシステアミン収率に関する情報を提供する。胃は一般に、小腸よりも酸化的かつ酸性の環境である。胃内容物が十二指腸に入ると、それらは胃酸を中和する重炭酸塩を含有する膵液、及びミリモル濃度の生理学的還元剤グルタチオンならびにシステインを含む関連チオールを含有する胆汁と混合する。その結果、ジスルフィドは、胃で酸化されたままである傾向があり、小腸において還元されるか、またはチオールとのジスルフィド交換反応に関与する可能性が高くなる。ジスルフィド交換反応は、一般に、チオール型よりもはるかに求核性であるチオレートイオンによって触媒され、チオレートイオンの形成は、胃の酸性環境では好ましくない。
【0235】
例えば、チオールシステアミン前駆体であるパンテテインは、ホモ二量体ジスルフィドを形成することができ、ここで2つのパンテテインが共有結合してパンテチン(ジスルフィドシステアミン前駆体)を形成する。いくつかの好ましい実施形態では、システアミン前駆体は、例えば、システアミンをパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aのいずれかと接合することによって形成される混合システアミンジスルフィドによって、または4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aのいずれかでパンテテインを酸化することによって形成される対応する混合パンテテインジスルフィド、または胃腸管内で親化合物に変換可能な好適なプロドラッグもしくは類似体によって提供されるように、複数のシステアミンを提供する。また、4-ホスホパンテテインは、デホスホ補酵素Aもしくは補酵素Aにジスルフィド結合され得るか、またはデホスホ補酵素Aは、ジスルフィド結合して、システアミン前駆体をインビボで2種のシステアミンを生じることができるようにすることができる。
図13は、異なるクラスのシステアミン前駆体からインビボで生成され得るシステアミンの数を示す。
図18~
図21は、特異的なジスルフィドシステアミン前駆体を示す。インビボで2つのシステアミンを生じるものが表の上部に列挙され、システアミンを生じるために必要とされる分解ステップの数と同様に、各ジスルフィドについてのシステアミンの画分収率(パーセント)も示される。いくつかの実施形態では、システアミンまたは有機硫黄の反応性チオール基は、アセチル基、エステル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び/または葉酸塩などの置換基を含むように修飾することができる。
【0236】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、胃内滞留性製剤の成分及び/または混合製剤の成分中のパンテテイン、パンテテイン含有パンテテイン、またはその塩を含み、投与後5~10時間以上にわたってシステアミンの上昇した血中レベルを持続することができる。組成物は、親化合物の少なくとも1つのシステアミンへの化学的還元または酵素的変換を必要とするシステアミン前駆体であってよく、それによってシステアミンの放出を遅延させる。この製剤は、パンテテインまたは胃腸管内でパンテテインに分解され得る化合物(例えば、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A;総称してパンテテイン前駆体)を含んでもよく、パンテテインのチオール基またはパンテテイン前駆体を別の有機硫黄化合物のチオール基と反応させて、ジスルフィド化合物を形成する。パンテテイナーゼは胃よりも腸内でより高いレベルで発現され、小腸の管腔は、胃よりも還元環境であるため、ジスルフィドシステアミン前駆体のパンテテイン成分は、小腸でシステアミンに変換され、その後吸収される。例えば、パンテテインは、2つのパンテテインが共有結合してパンテチンを形成する、ホモ二量体ジスルフィドを形成することができる。パンテテイン含有システアミン前駆体はまた、パンテテイン混合ジスルフィドを含むことができ、パンテテインチオールは、チオール基と反応してジスルフィドを形成する。好ましい実施形態では、パンテテイン前駆体は、例えば、システアミン及びパンテテインから形成される混合ジスルフィドによって(これは、還元され、続いてパンテテイナーゼによって切断されると、2つのシステアミン及び1つのパントテン酸を生じる)、または混合ジスルフィドパンテテイン-補酵素Aによって(還元され、続いて分解され、次いでパンテテイナーゼによって切断されると、2つのシステアミン、2つのパントテン酸、及びADPを生じる)提供されるような2つ以上のシステアミンを提供する。腸内で分解すると2つのシステアミンを生じる他のジスルフィドシステアミン前駆体を
図18~21に示す。いくつかの実施形態では、パンテテインまたは有機硫黄化合物の反応性チオール基は、アセチル基、メチルエステル、エチルエステル、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)及び/または葉酸塩などの置換基を含むように修飾されてもよい。
【0237】
システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と、システアミンを生成するために化学的還元のみを必要とするシステアミン前駆体(システアミン混合ジスルフィド)との区別は、適切に還元する環境が腸内に存在する(または薬理学的に作成され得る)ことを条件として、前駆体化合物の、システアミンへの変換の反応速度が、一般に第2のカテゴリーでより迅速であるため重要である。還元に続いてパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、パンテチン)と、最初に還元、次いでパンテテインへの分解、次いでパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、4-ホスホパンテチン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aを含有するジスルフィド)とをさらに区別することができる。後者のクラスのジスルフィドシステアミン前駆体によって必要とされる付加的な分解ステップ(複数可)は、システアミン産生の期間を、より長い期間にわたって遅くし、延長する。
【0238】
本発明の化合物は、化学合成の分野の当業者に知られている様々な方法で調製することができる。システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、及び他のチオール(
図17参照)を含むチオールを調製する方法は、当該分野で周知である。補酵素A、パンテチン、N-アセチルシステアミン、及びグルタチオンは、栄養補助食品として市販されている。
図17の他のチオールのほとんどは、化学会社から容易に入手できる。
【0239】
システアミン前駆体の合成
チオール及びジスルフィドシステアミン前駆体の両方を含む本発明の化合物は、Mandel et al.,Organic Letters,6:4801(2004)に記載されているものなどの、当該分野において知られている方法及び手順を用いて容易に入手可能な出発物質から調製することができる。パンテチンの製造方法は、米国特許第3,300,508号及び第4,060,551号に記載されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。液体のパンテテインを固体に変換する方法は、日本特許公開第JP-A-S50-88215号及びJP-A-S55-38344号に開示されている。典型的または好ましいプロセス条件(すなわち、反応温度、時間、反応物のモル比、溶媒、圧力等)が示されている場合、他に記載のない限り、他のプロセス条件を使用することもできることが理解されるであろう。最適な反応条件は、使用される特定の反応物または溶媒によって変化し得るが、そのような条件は、当業者が日常的な最適化手順によって決定することができる。
【0240】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、1つ以上のジスルフィドシステアミン前駆体を含む。酸化形態のチオールであるジスルフィドは、高価な試薬または装置なしに構成体チオールから容易に形成される。さらに、ジスルフィドは、空気に暴露されたチオール化合物の長期安定性を制限し得る酸化の影響を受けない。したがって、製造、コスト、貯蔵コスト、出荷、及び患者の便宜(すなわち、長い貯蔵寿命)に関して、ジスルフィド形態のシステアミン前駆体は、チオール形態よりも好ましい。
【0241】
混合されたジスルフィドシステアミン前駆体が合成されるとき、すなわち2つの異なるチオールが反応するとき、3つの反応産物が存在する。チオールA及びBが接合して、ジスルフィドA-A、A-B、及びB-Bを形成することができる。例えば、システアミンをパンテテインを反応させることによって形成されるジスルフィドは、システアミン-システアミン(シスタミンと呼ばれる)、システアミン-パンテテイン、及びパンテテイン-パンテテイン(パンテチンと呼ばれる)を含む。3つの化合物は全て、システアミンを提供することにおいて有用であり、実際に各化合物をシステアミンに変換することに関与する異なるステップは、システアミンがジスルフィド結合の還元によって、または還元ステップと酵素的分解ステップの組み合わせによってインビボで生成される期間を延長することによって薬理学的に有益であり得る。したがって、精製なしに(未反応のチオールを除去することを除いて)全3種の酸化産物を同時配合することは、薬理学的に有用であり得る。これは特に、2つの反応したチオールがそれぞれシステアミン(例えばパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、N-アセチルシステイン、または適切な類似体及びプロドラッグ)に変換可能である場合、またはシステアミン自体をシステアミンに変換可能なチオールと反応させる場合に該当する。結果として、ある特定の実施形態では、各々がシステアミンに変換可能な(またはそれらのうちの1つがシステアミンである)2つの異なるチオールを反応させることによって形成される3つのジスルフィドは全て、単一の組成物中に同時配合される。この合成及び配合の方法は、より複雑な合成ステップ、または酸化反応において同時に生成される2つのホモ二量体ジスルフィドから混合ジスルフィドを分離するために必要な合成後精製ステップを必要としない。(未反応のチオール及び他の不純物は、当然のことながら、薬学的組成物を配合する前に除去されなければならない。)
【0242】
3つのジスルフィドの混合物の製造及び同時配合の利点は、システアミンに変換可能なチオールを、システアミンに変換可能でない第2のチオールと反応させることによって作製されるジスルフィドシステアミン前駆体の場合には完全には実現されない。例えば、パンテテインをN-アセチルシステイン(NAC)とを反応させることによって形成される3つのジスルフィドは、パンテテイン-パンテテイン(パンテチン)、パンテテイン-NAC、及びNAC-NACである。最初の2つの化合物は、システアミン前駆体であり、3番目の(NAC-NAC)はそうではない。しかしながら、NAC-NACは、それにもかかわらず、化学的還元の際に、2つのNAC分子をもたらす結果として、腸酸化還元環境または有益な医学的特性の調節に関して有益な薬理学的特性を有し得る。したがって、ある特定の実施形態では、システアミンまたはインビボでシステアミンに変換可能なチオールを、インビボでシステアミンに変換可能でない第2のチオールと反応させることによって形成される3つのジスルフィド産物の全てが、単一組成物中に同時配合される。
【0243】
2つの異なるチオールが酸化される場合の反応産物の予想される比は、2つのチオールのモル比に依存する。チオールAとチオールBとの比が1:1である場合、反応産物A-A、B-B、A-Bの予想モル比は、約1:1:2である。(予想された比からの偏差は、例えばチオールの電気陰性度によって影響され得るジスルフィド結合形成の反応速度に影響し得るチオールに隣接した化学結合の相違の結果として生じ得る。任意の偏差は、当該分野において知られている方法を用いて予測または測定することができる。)反応産物の比は、2つのチオールのモル比を変えることによって変化させることができる。例えば、B-Bに対してA-A及びA-Bの割合を増加させるために、チオールAのモル濃度をチオールBのモル濃度に対して増加させてもよい。2つのチオールを反応させる場合、一方がシステアミンまたはシステアミンに分解可能な化合物(チオールA)であり、もう一方は、システアミンに分解可能でないチオール(チオールB)であり、第1のチオールのモル濃度は、産生されるシステアミン前駆体の割合を増加させるために、第2のチオールのモル濃度に対して増加させることができる。例えば、チオールA及びBを2:1のモル比で反応させると、B-B(システアミン前駆体でない)に対するA-A及びA-B(両方のシステアミン前駆体)の割合を増加させる。
【0244】
あるいは、別の実施形態では、薬学的組成物に使用されるシステアミン前駆体の比は、混合ジスルフィド酸化反応の3つの反応産物を純粋なジスルフィドと組み合わせることによって調整することができる。例えば、チオールのシステアミン(C)及びパンテテイン(P)が1:1のモル比で酸化された場合、これらを複合して3つの産物:C-C、P-P、及びC-Pをおよそ1:1:2の比で形成する。純粋なパンテチン(P-P)は、混合物のインビボでのシステアミン生成特性を延長するために、任意の所望の量で混合物に添加することができる。パンテチンの開始量を2倍にすると、1:2:2の比が得られる。出発量のパンテチンの4倍を添加すると、1:2:5の比が得られる。
【0245】
独立して生成された2つの混合ジスルフィド反応産物を組み合わせて、システアミン前駆体の新規の比を達成することもできる。例えば、システアミン-パンテテイン反応産物(C-C、P-P、及びC-P)を、N-アセチルシステイン(NAC)-システアミン(C)酸化反応からの当モル量の反応産物(1:1:2の比のC-C、NAC-NAC、及びC-NAC)と組み合わせる場合、混合物は、5つの化合物を含有することになり、それらのうちの1つであるNAC-NACは、システアミンに変換することができない。他の4つのジスルフィド、P-P、C-C、C-P、C-NACは、およそ1:2:2:2のモル比で存在する。任意に、パンテテインを添加して、比を例えば2:2:2:2(より単純に1:1:1:1として表す)にするか、または1:1:1:5の比になるようにより多くの量を添加することができる。したがって、薬学的組成物中のジスルフィドのモル比は、様々な方法によって制御することができる。別の例では、システアミン-パンテテイン反応産物(C-C、P-P、及びC-P)を、4-ホスホパンテテイン(4P)-システアミン(C)酸化反応(すなわち、1:1:2の比のC-C、4P-4P、及びC-4P)と組み合わせて、5つのジスルフィドの混合物を1:1:1:2:2の比で産生してもよい。
【0246】
要約すると、システアミン前駆体ジスルフィドを作製するために1つのチオールを酸化する場合、1つの産物のみが存在する(例えば、パンテテイン+パンテテイン=パンテチン)。2つのチオールを酸化する場合、3つの産物が存在し、それらのうちの2つまたは3つは、チオールの一方もしくは両方がシステアミンに分解可能であるか、またはシステアミンであるかに依存して、システアミン前駆体である。システアミン前駆体の混合物は、これらの2つの種類の反応の産物を組み合わせることによって最も容易に作製される。混合物は、種々のモル比の、純粋なジスルフィドまたは3成分のジスルフィド混合物を含み得る。しかしながら、ヘテロ二量体システアミン前駆体はまた、純粋な形態で、精製後に、または他のホモもしくはヘテロ二量体システアミン前駆体と組み合わせて使用することもできる。
【0247】
あるいは、より洗練された化学的方法を用いることにより、特異的混合ジスルフィド(非対称ジスルフィドとも呼ばれる)を選択的に合成することができる(例えば、システアミン及びパンテテインを組み合わせて、実質的にジスルフィドシステアミン-パンテテインのみを形成することができる)。これらの方法は、広範囲の硫黄保護基及びそれらの除去のための戦略を用いる。最も広く使用されている方法は、スルフェニル誘導体をチオールまたはその誘導体で置換することを伴う。一般に利用されるスルフェニル誘導体としては、スルフェニルクロリド、S-アルキルチオスルフェート及びS-アリールチオスルフェート(ブンテ塩)、S-(アルキルスルファニル)イソチオウレア、ベンゾチアゾール-2-イルジスルフィド、ベンゾトリアゾリルスルフィド、ジチオペルオキシエステル、(アルキルスルファニル)ジアルキルスルホニウム塩、2-ピリジルジスルフィド及び誘導体、N-アルキルテトラゾリルジスルフィド、スルフェンアミド、スルフェニルジメシルアミン、スルフェニルチオシアネート、4-ニトロアレンスルフェナニリド、チオールスルフィネート及びチオールスルホネート、スルファニルスルフィナミジン、チオニトライト、スルフェニルチオカーボネート、チオイミド、チオホスホニウム塩、及び5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イルジスルフィドが挙げられる。さらに他の手順には、チオールとスルフィニルベンズイミダゾールとの反応、ロジウム触媒によるジスルフィド交換、電気化学的方法、及びアゾジカルボン酸ジエチルの使用が含まれる。これら及び他の方法は、Musiejuk,M.and D.Witt.Organic Preparations and Procedures International 47:95(2015)によってレビューされている。したがって、適度な努力で、関心対象の特異的混合(非対称)ジスルフィドを作製することができる。実施例1及び2は、本発明の混合ジスルフィドの合成手順を提供する。
【0248】
本発明の化合物のいくつかは、複数の鏡像異性体形態で存在する。特に、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aは、パントテノイル部分にキラル炭素を含む。したがって、これらの化合物の各々は、D-もしくはL-鏡像異性体として、またはパンテテノイル基に関して2つのラセミ混合物として存在することができる。しかしながら、ヒトパンテテイナーゼ(VNN1及びVNN2遺伝子によってコードされる)は、D-パンテテインに特異的である(Bellussi et al.,Physiological Chemistry and Physics 6:505(1974))。それ故に、D-パンテテイン(及びL-パンテテインではない)のみがシステアミン前駆体であり、したがって本発明は、D-パンテテインのみ、及び4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素AのD-鏡像異性体、ならびに胃腸管でそれらの化合物に変換可能な類似体またはプロドラッグのみに関する。同様に、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素A、または任意の適切な類似体もしくはプロドラッグを含有する全てのジスルフィドは、D-鏡像異性体のみを用いる。
【0249】
アミノ酸及びアミノ酸誘導体のL-鏡像異性体が好ましい。したがって、本明細書において「システイン」とは、L-システイン、ホモシステインからL-ホモシステインを指し、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、システインメチルエステル、システインエチルエステル、システイニルグリシン、及びガンマグルタミルシステインなどのシステイン誘導体は、全てシステインのL-鏡像異性体を用いて形成される。
【0250】
ジヒドロリポ酸の場合、R鏡像異性体が好ましく、それは人体で作製された鏡像異性体であるためである。一般に、人体に通常存在するか、または食品中に存在する化合物については、天然に存在する鏡像異性体が好ましい。
【0251】
製剤
医薬品として用いる場合、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはプロドラッグは、薬学的組成物の形態で投与することができる。これらの組成物は、製薬業界で周知の様々な方法で調製することができ、様々な賦形剤及び配合技術によって制御された時間に胃腸管の特定の部分に薬物を放出するように作製することができる。例えば、製剤は、特定の疾患に対処し、治療有効性を達成するために必要なシステアミンの血中レベルを達成し、薬物効果の所望の持続時間を可能にし、異なる組み合わせで投与されて、システアミン代謝における患者間変動を説明することができる様々な薬物放出特性を有する組成物のセットを提供するために調整されてもよい。投与は、主に経口経路によるものであり、坐剤によって補われてもよい。システアミン前駆体はまた、例えば、還元剤、緩衝液、パンテテイナーゼ誘導剤、または腸上皮細胞によるシステアミン取り込みの誘導剤を含む、インビボでのシステアミンの生成または吸収を増強する薬剤と同時配合することもできる。
【0252】
薬学的組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明の方法で使用するための薬学的組成物の作製において、システアミン前駆体、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグは、典型的には賦形剤と混合されるか、賦形剤によって希釈されるか、または例えば、カプセル、錠剤、サシェ、紙、バイアル、もしくは他の容器の形態の担体に封入される。本発明の活性成分は、薬学的に許容される賦形剤または担体の存在下、単独で、または混合物として投与することができる。賦形剤または担体は、投与の様式及び経路、薬物放出の標的とされる胃腸管の領域、及び薬物放出の意図される時間プロファイルに基づいて選択される。賦形剤が希釈剤として働く場合、賦形剤は、ビヒクル、担体、マトリックス、または有効成分のための他の媒体として作用する固体、半固体、または液体物質(例えば、生理食塩水)であり得る。したがって、組成物は、錠剤、粉末、顆粒、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液、シロップ、ならびに軟質及び硬質ゼラチンカプセルの形態であり得る。当該分野で知られているように、賦形剤の種類及び量は、意図される薬物放出特性に依存して変化する。得られる組成物は、防腐剤またはコーティングなどの付加的な薬剤を含むことができる。
【0253】
好適な薬学的担体、ならびに薬学的製剤に使用するための薬学的必需品は、この分野における周知の参考文献であるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Ed.,Gennaro,Ed.,Lippencott Williams&Wilkins(2005)、及びUSP/NF(米国薬局方及び国家医薬品)、または対応する欧州もしくは日本の参考資料に記載されている。好適な賦形剤の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリ(乳酸-グリコール酸共重合体)(PLGA)、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、植物油、ポリエチレングリコール、疎水性不活性マトリックス、カルボマー、ヒプロメロース、gelucire 43/01、ドキュセートナトリウム、及び白蝋である。製剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油などの潤滑剤;湿潤剤;乳化剤及び懸濁化剤;メチル及びプロピルヒドロキシ安息香酸塩などの保存剤;甘味剤;ならびに香味剤を追加で挙げることができる。他の例示的な賦形剤及びそれらの使用の詳細は、Handbook of Pharmaceutical Excipients,6th Edition,Rowe et al.,Eds.,Pharmaceutical Press(2009)に記載されている。
【0254】
薬学的組成物は、システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ分解を増強するか、またはシステアミンの腸吸収を増強する他の薬剤と任意に同時配合または同時投与される、システアミン前駆体塩を含むことができる。薬学的組成物はまた、標的疾患におけるシステアミンの薬理学的効果を補完する他の治療薬を含んでもよい。インビボでのシステアミンの産生または吸収の例示的な増強剤、及び本明細書に記載の組成物に含まれ得る例示的な治療剤が本明細書に提供される。
【0255】
本発明の組成物は、単一の活性成分(すなわち、単一のシステアミン前駆体)、または単一の単位剤形中の第1及び第2の活性成分の組み合わせ、または単一の単位剤形中の第1、第2、第3、及び任意に第4の活性成分、及び任意に第5の成分の組み合わせを含有してもよい。2つの活性成分を有する組成物では、両方の成分がシステアミン前駆体であり得るか、または1つの成分がインビボでのシステアミン産生の増強剤(例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進する還元剤もしくはパンテテイナーゼの腸内発現の増加を誘導する薬剤)、またはシステアミンの腸吸収の増強剤(例えば、OCT1、OCT2、もしくはOCT3などの1種以上の有機カチオン輸送体の増加した発現を誘導する薬剤)であり得る。3つまたは4つの活性成分を有する組成物では、全ての成分が、システアミン前駆体であり得るか、または1つもしくは2つの成分が、インビボでのシステアミン産生及び/もしくは腸吸収の増強剤であり得る。2つ以上のシステアミン前駆体を有する組成物において、システアミン前駆体の種類は、持続期間にわたってインビボでのシステアミン産生を達成するように選択される。例えば、1つのシステアミンを生成するためにジスルフィド結合の還元のみを必要とし、したがってジスルフィド結合の還元に寄与する酸化還元環境を有する胃腸管の領域に到達した直後にシステアミンを生成し始めるであろう混合ジスルフィドシステアミン前駆体は、パンテテインと、またはシステアミンを生じるためにジスルフィド結合の還元及びパンテテイナーゼ切断の両方を必要とするパンテテインジスルフィドと混合することができ、任意に、腸でパンテテインに分解可能な化合物、またはパンテテイン及びしたがってシステアミンを生成するために追加のステップを必要とする、そのような化合物を含有するジスルフィドと組み合わせることができる。腸でパンテテインに分解可能な化合物としては、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、ならびに好適な類似体及び誘導体が挙げられる。インビボでのシステアミン産生の時間経過は、システアミン前駆体とシステアミンとの間の分解ステップの数によって変化する。いくつかの実施形態では、複数のシステアミン前駆体を含む組成物は、粉末として、顆粒として、または液体として、すなわち大量の薬物を収容することができる製剤タイプとして配合される。
【0256】
薬学的組成物はまた、製剤の性能を高める1種以上の薬剤を含むことができる。例えば、胃内滞留性組成物は、胃内の組成物の滞留を延長するために胃排出を遅くする化合物を含み得る。
【0257】
2つのシステアミン前駆体成分を含む組成物において、第1及び第2の成分は、例えば、約1:1.5~約1:4の比で存在し得る。3つのシステアミン前駆体成分を含む組成物において、第1、第2、及び第3成分は、例えば、約1:1:2~約1:4:4の比で存在してもよい。4つの活性成分を含む組成物では、第1~第4の活性成分は、例えば、約1:1:1:2~約1:2:5:5の比で存在してもよい。5つの活性成分を含む組成物において、第1~第5の活性成分は、例えば、約1:1:2:2:2~約1:1:2:5:5:8の比で存在してもよい。
【0258】
いくつかの実施形態では、2つ以上のシステアミン前駆体を含む組成物は、迅速なインビボでのシステアミン産生のために選択された1つの前駆体(例えば、単にジスルフィド結合の還元を必要とする)及びより遅いインビボでのシステアミンへの変換のために選択された第2の前駆体(例えば、化学的還元及び少なくとも1つの酵素分解ステップを必要とする)を含む。いくつかの実施形態では、2つ以上のシステアミン前駆体を含む薬学的組成物は、少なくとも1つの前駆体がシステアミン混合ジスルフィドであり、これがジスルフィド結合の還元の際にシステアミンを生じることができる。さらに関連した実施形態では、少なくとも1つの付加的な成分は、ジスルフィド含有パンテテインまたは胃腸管でパンテテインに分解可能な化合物である。
【0259】
組成物は、固形単位剤形(例えば、錠剤またはカプセル)で配合することができ、各投与量は、例えば、50~800mgの第1成分の有効成分を含有する。例えば、投与量は、約50mg~約800mg、約50mg~約700mg、約50mg~約600mg、約50mg~約500mg、約75mg~約800mg、約75mg~約700mg、約75mg~約600mg、約75mg~約500mg、約100mg~約800mg、約100mg~約700mg、約100mg~約600mg、約100mg~約500mg、約250mg~約800mg、約250mg~約700mg、約250mg~約600mg、約250mg~約500mg、約400mgから約800mg、約400mgから約700mg、約400mg~約600mg、約450mg~約700mg、約450mg~約600mgの第1成分の有効成分を含有し得る。
【0260】
代替実施形態では、組成物は、液体または粉末単位剤形で配合することがでい、各投与単位は、約250mg~約10,000mgのシステアミン前駆体を含有する。例えば、投与量は、約250mg~約10,000mg、約250mg~約8,000mg、約250mg~約6,000mg、約250mg~約5,000mg、約500mg~約10,000mg、約500mg~約8,000mg、約500mg~約6,000mg、約500mg~約5,000mg、約750mg~約10,000mg、約750mg~約8,000mg、約750mg~約6,000mg、約750mg~約5,000mg、約1,250mg~約10,000mg、約1,250mg~約8,000mg、約1,250mg~約6,000mg、約1,250mg~約5,000mg、約2,000mg~約10,000mg、約2,000mg~約8,000mg、約2,000mg~約6,000mg、約2,000mg~約5,000mg、約3,000mg~約6,000mgの第1成分の有効成分を含有し得る。
【0261】
第1及び第2のシステアミン前駆体成分を有する組成物では、固体単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば50~700mgで変化し得る。例えば、投与量は、約50mg~約700mg、約50mg~約600mg、約50mg~約500mg、約50mg~約450mg、約75mg~約700mg、約75mg~約600mg、約100mg~約700mg;約100mg~約600mg、約100mg~約500mg、約100mg~約400mg、約250mg~約700mg、約250mg~約600mg、約250mg~約500mg、約250mg~約400mg、約400mg~約700mg、約400mg~約600mg、約400mg~約500mg、約450mg~約700mg、約450mg~約600mg、約450mg~約500mgを含有し得る。第1の活性成分としてのシステアミン前駆体及び第2の活性成分としてのインビボでのシステアミン生成の増強剤を有する組成物において、単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば、0.1mg~400mgで変化し得る。
【0262】
第1及び第2のシセアミン前駆体成分を含む代替実施形態では、液体または粉末単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば、約250mg~約6,000mgで変化し得る。例えば、投与量は、1用量あたり約250mg~約6,000mg、約250mg~約5,000mg、約250mg~約4,000mg、約250mg~約3,000mg、約250mg~約2,000mg;約500mg~約6,000mg、約500mg~約5,000mg、約500mg~約4,000mg、約500mg~約3,000mg、約750mg~約6,000mg、約750mg~約5,000mg、約750mg~約4,000mg、約750mg~約3,000mg、約1,250mg~約6,000mg、約1,250mg~約5,000mg、約1,250mg~約4,000mg、約1,250mg~約3,000mg、約2,000mg~約6,000mg、約2,000mg~約5,000mg、約2,000mg~約4,000mg、約2,000mg~約3,000mg、約2,500mg~約5,000mgの第2成分の有効成分を含有し得る
【0263】
第3の、または第3及び第4のシステアミン前駆体成分を含む固体組成物において、単位投与量は、約50mg~約400mgの第3の活性成分、及び存在する場合には第4の活性成分の各々を含有することができる。例えば、投与量は、約50mg~約400mg、約50mg~約350mg、約50mg~約300mg、約50mg~約250mg、約75mg~約400mg、約75mg~約350mg、約75mg~約300mg、約75mg~約250mg、約100mg~約400mg、約100mg~約350mg、約100mg~約300mg、約100mg~約250mg、約250mg~約400mg、約250mg~約350mg、または約250mg~約300mgを含有することができる。5つの活性成分を有する組成物において、5つの成分の単位投与量は、約50mg~約300mgの範囲であり得る。第4の活性成分、また任意に第3の活性成分としてインビボでのシステアミン生成の増強剤を有する組成物において、単位剤形中の第4の活性成分及び任意に第3の活性成分の量は、例えば、0.1mg~400mgで変化し得る。
【0264】
液体または粉末単位剤形中の第3、または第3及び第4のシステアミン前駆体成分を含む代替実施形態では、第3及び任意に第4の活性成分の単位投与量は、例えば、約250mg~約4,000mgで変化し得る。例えば、投薬量は、1用量あたり約250mg~約4,000mg、約250mg~約3,000mg、約250mg~約2,000mg、約250mg~約1,000mg、約500mg~約4,000mg、約500mg~約3,000mg、約500mg~約2,000mg、約500mg~約1,000mg、約750mg~約4,000mg、約750mg~約3,000mg、約750mg~約2,000mg、約750mg~約1,000mg、約1,000mg~約4,000mg、約1,000mg~約3,000mg、約1,000mg~約2,000mg、約1,000mg~約1,500mg、約1,500mg~約4,000mg、約1,500mg~約3,000mg、約1,500mg~約2,000mg、約2,000mg~約4,000mg、約2,000mg~約3,000mgの第3及び任意に第4の活性成分の有効成分を含有し得る
【0265】
薬学的組成物は、当該分野において知られている手順を用いることによって、患者への投与後に活性成分の即時性、遅延性、胃内滞留性、持続性、または結腸性放出(制御放出と総称される)を提供するように配合することができる。
【0266】
錠剤などの固体組成物を調製するために、有効成分(複数可)(例えば、いくつかのシステアミン前駆体)を1種以上の薬学的賦形剤と混合して、本発明の化合物の均質な混合物を含有する固体バルク製剤組成物を形成することができる。これらのバルク製剤組成物を均質とする場合、有効成分は、典型的に組成物全体に均一に分散され、それにより組成物を、錠剤、カプセル、または微粒子などの同等に有効な単位剤形に容易に細分することができる。次いで、この固体バルク製剤を上記の種類の単位剤形に細分する。
【0267】
あるいは、1種以上の薬学的賦形剤と混合された有効成分(複数可)の2つの均質なバッチを調製することができ、各々が異なる濃度の有効成分(複数可)を使用する。次いで、第1の混合物を使用してコアを形成し、第2の混合物はコアの周りにシェルを形成して、可変薬物放出特性を有する組成物を形成することができる。高濃度バッチがコア中に位置し、より低い濃度のバッチがシェル中に位置する場合、一旦シェルが実質的に溶解または浸食すると、薬物放出の初期の適度な速度の後に、より速い薬物放出速度が続く。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、シェル中よりもコア中に高濃度の有効成分(複数可)を含有する。コア:シェル中のシステアミン前駆体濃度の比は、例えば、約1.5:1~4:1の範囲であり得る。賦形剤はまた、薬物放出速度に影響を及ぼすように、2つのバッチ間の種類または濃度が異なる場合もある。いくつかの実施形態では、コア中のポリマー(複数可)または他のマトリックス形成成分は、シェルからよりもゆっくりと有効成分(複数可)を放出する。そのような実施形態では、より高い濃度のコア中のシステアミン前駆体(複数可)は、より遅い速度の薬物放出によって部分的にまたは完全に平衡され、システアミン前駆体放出の持続期間、及びしたがってインビボでのシステアミン生成の持続期間、腸吸収、及び上昇した血中レベルを延長する。シェル層が適用される前に、1つ以上のコーティングがコアに適用されてもよく、追加のコーティングをシェルに適用して、効率的な製造プロセスを可能にし、及び/または胃腸管内の薬物放出のタイミング及び位置を含む、所望の薬理学的特性の提供を助けることができる。
【0268】
本発明の薬学的組成物は、システアミン産生に至る機序(複数可)または分解ステップの数が異なるシステアミン前駆体の混合物を放出するように配合されたものを含む。具体的には、2つ、3つ、4つ、または5つのシステアミン前駆体の混合物であり、各々がシステアミンを放出することから離れた1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の化学的及び/または酵素的分解ステップである。例えば、1つのステップは、ジスルフィド結合の還元(システアミン混合ジスルフィドの場合)またはパンテテイナーゼ切断(パンテテインの場合)であり得る。2つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテイナーゼ切断(パンテテインジスルフィドの場合)、またはホスファターゼ切断、その後のパンテテイナーゼ切断(4-ホスホパンテテインの場合)であり得る。3つのステップは、(例えば、ホスファターゼによる)パンテテインへの分解の前または後に続くジスルフィド結合の還元、続いて(例えば、4-ホスホパンテテインジスルフィドの場合)パンテテイナーゼ切断であり得る。4つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテインへの2つの分解段階(例えば、エクトヌクレオチドジホスファターゼによるアデニンヌクレオチド部分の除去、その後のホスファターゼによる4′ホスフェートの除去)、続いてパンテテイナーゼ切断(例えば、補酵素Aまたはデホスホ補酵素Aジスルフィド)であり得る。システアミンへの異なる化学的及び/または酵素的分解経路を有するシステアミン前駆体を組み合わせる目的は、システアミンが腸から産生され、腸から吸収される時間を延長し、その結果、治療上有効なシステアミン血中レベルの持続時間を延長することである。いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、少なくとも2つのシステアミン前駆体を含み、さらなる実施形態では、薬学的組成物は3つのシステアミン前駆体を含有する。
【0269】
本発明の薬学的組成物は、混合放出のために配合することができ、これは1つの組成物が2つの薬物放出プロファイルを含むことを意味する。例えば、即時放出製剤を持続性放出製剤と組み合わせることができる。(例えば、
図14の構成Fを参照。)そのような組成物において、第1の活性成分は、摂取後約5分~約30分の間に即時放出のために配合され得る。例えば、第1の活性成分は、組成物の摂取後5分、10分、15分、20分、25分、30分、または45分後に放出され得る。第1の活性成分は、治療範囲のシステアミン血漿濃度が、摂取後約15分~3時間、好ましくは30分~2時間の間に達成されるように配合される。例えば、治療的血漿システアミン濃度は、組成物の摂取から0.5時間、1時間、2時間、または3時間後に到達し得る。使用されるシステアミン前駆体の種類(例えば、チオール、システアミン混合ジスルフィド、パントテシンジスルフィド、補酵素Aジスルフィド、N-アセチルシステアミンジスルフィド等)は、システアミンの治療的血中濃度に到達する時間の長さ、及び治療的血中濃度が維持される期間に影響を及ぼす。
【0270】
2つ、3つ、及び任意に4つまたは5つの活性成分を有する組成物(例えば、複数のシステアミン前駆体ならびに/またはインビボでのシステアミン生成及び吸収の増強剤)において、第2、第3及び/または第4及び/または第5の活性成分の各々が、摂取後約1時間~約8時間の間に組成物からの制御放出を開始するように配合される。制御放出組成物は、遅延放出及び/または持続放出製剤を含み得る。例えば、第2、第3、及び/または第4の活性成分は、組成物の摂取後1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、または8時間から放出され得る。第2、第3、及び/または第4の活性成分は配合され、それによってシステアミンの血漿濃度(全ての活性成分の寄与を反映する)が、摂取後約30分~2時間の間に開始して治療範囲で維持され、6~10時間、より好ましくは、摂取後8~12時間、またはより長い期間にわたって延長する。例えば、血漿システアミン濃度は、組成物の活性成分の摂取後6時間、8時間、10時間、12時間、15時間、20時間、または24時間にわたって治療範囲で持続され得る。患者の年齢及びサイズ、治療される疾患、及び患者のシステアミン代謝速度に依存して、数時間にわたって治療的血中レベルを達成するために十分なシステアミン前駆体を送達するために、2つ以上の組成物が必要とされ得る。
【0271】
混合製剤を含む薬学的組成物の代替物または補完物として、いくつかの実施形態では、単一種の製剤からなる組成物を産生することができる。すなわち、即時放出または持続放出製剤などの時間ベースの製剤、及び胃内滞留性、遅延放出、及び結腸指向性製剤などの解剖学的標的製剤を、別々の組成物として投与するために調製することができる。異なる薬物放出特性(時間ベースであるか、または解剖学的/生理学的ベースかにかかわらず)を有する薬学的組成物の集合体を配合することは、ある特定の利点を有する。例えば、そのような組成物を、異なる組み合わせ及び比で異なる患者に投与して、長期にわたり治療的範囲の血中システアミンレベルをもたらすことができる。すなわち、特定のスケジュールで投与される1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組成物からなる治療レジメンは、個々の患者のシステアミン生成、吸収、及び代謝能に合わせて調整することができる。これらの能力は、患者間で異なることが知られているため、異なるシステアミン前駆体及び異なる薬物放出特性を含む複数の均質な組成物の配合は、異なる患者に対して異なる比で組み合わせることができ、既存のシステアミン製剤の既知の限界に対処する。
【0272】
好ましくは、2つ以上の薬学的組成物の組み合わせは、治療的範囲のシステアミン血中レベルを、摂取後少なくとも2~8時間、より好ましくは摂取後1~8時間、さらにより好ましくは2~10時間、最も好ましくは1~10時間、1~12時間、1~14時間、またはそれ以上にわたって維持することができる。異なる薬物放出プロファイルを有する異なるシステアミン前駆体を含有する別々に配合された薬学的組成物は、治療的に有効なシステアミン血中濃度を長期間達成するために投与レジメンを個別化するために必要な投与の柔軟性を提供する。
【0273】
胃排出時間及び大腸通過時間が、健康な個体間で大幅に(2倍以上まで)変化することがよく報告されている。腸酸化還元環境及びパンテテイナーゼ活性のレベルもまた、個体間で変化することが知られている。これら及び他の因子は、システアミン投与後に観察される血漿システアミンレベルの広い個体間の変動を説明すると考えられる。例えば、健康なボランティアにおける即時放出システアミン重酒石酸塩薬物動態の研究では、食事とともに投与された600mg経口投与後のピークシステアミン血中レベル(Cmax)は、7マイクロモルから57.3マイクロモルまで8倍以上変化した。(Dohil R.and P.Rioux,Clinical Pharmacology in Drug Development 2:178(2013))。同じ研究において、食事とともに投与された600mgの遅延放出システアミン重酒石酸塩に続くCmaxは、2.1μMから25.4μMまで12倍変化した。システアミン血漿レベルの患者間変動は、システアミンを絶食患者に投与した場合に極端ではなかったが、依然として最大4倍であった。(システアミンは、Cystagon(登録商標)の場合のように6時間ごと、またはProcysbi(登録商標)の場合のように12時間ごとに投与されるとき、食事時間を完全に避けることは困難である)。
【0274】
現在のシステアミン配合及び投与方法は、対象間の変動に対処するための1つのツール、すなわち用量を上げるまたは下げることのみを提供する。本発明のシステアミン前駆体、インビボでのシステアミン生成及び吸収の増強剤、薬物配合方法及び薬物投与方法は、高いCmaxとしばしば関連する許容されない毒性、または長期の治療閾値を下回る血中レベルと関連する不適切な治療効果を招くことなく、個々の患者に対して化合物、剤形、及び投与レジメンを調整することによって、治療的血中システアミンレベルを達成するための複数のツールを提供する。
【0275】
別々に配合された組成物の別の利点は、それらが食事に関して異なる時間に投与され得ることである。これは、システアミン前駆体の異なるクラス及び異なる種類の製剤が食事とは異なって相互作用するため、有用な選択肢である。例えば、胃内滞留時間を最大にするために、胃内滞留性製剤を食事とともに、または食事の直後、好ましくは栄養豊富な食事とともに投与する必要がある。逆に、ジスルフィド結合の還元によってシステアミンに迅速に変換され得るシステアミン混合ジスルフィドを含む即時放出製剤は、好ましくは、量の多い食事とともに投与されてはならない。量の多い食事は、一部の個体においてシステアミンの吸収を妨げるが、食事は、胃の中で(存在するとしても)システアミンをほとんど産生しないある特定のシステアミン前駆体、例えばパンテテインジスルフィドと適合し、これが小腸でシステアミンに変換される傾向がある。
【0276】
本発明の化合物及び製剤で可能な個別化した投与レジメンは、システアミンの腸内吸収における広範囲の個体間変動が十分に文書化されているが、個体内変動が比較的に中程度であることも同様に十分に立証されるため特に有用である。すなわち、所与の対象は、同様の状況下で複数の機会に投与された場合、実質的に同様にシステアミンの用量を吸収し、代謝する。したがって、特定の患者の治療範囲において血中システアミンレベルをもたらすように個別化された投与レジメンは、比較的安定であり、経時的に予測可能な結果をもたらすはずである。
【0277】
持続放出製剤は、当該分野において知られている方法を用いて、広範囲に変化する期間にわたって薬物を放出するように設計することができる。(Wen,H.and Park,K.,editors:Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice,Wiley,2010、Wells,J.I.and Rubinstein,M.H.,editors:Pharmaceutical Technology:Controlled Drug Release,volumes I and II,Ellis and Horwood,1991、及びGibson,M.,editor:Pharmaceutical Preformulation and Formulation:A Practical Guide from Candidate Drug Selection to Commercial Dosage Form,2ndedition,Informa,2009。)
【0278】
図14、
図15、及び
図16は、本発明の薬学的組成物の例を提供し、有効成分(システアミン前駆体、システアミン前駆体のシステアミンへの変換の増強剤、及びシステアミン腸吸収の増強剤)、用量範囲(全ての活性成分を組み合わせる場合)、製剤の種類(混合製剤を含む)、組成物の組み合わせ、及び投与方法(例えば、食品とともにまたは食事とともに)などの態様を例示することが意図される。有効成分としては、システアミン前駆体、ならびにインビボでのシステアミン生成の増強剤、及びシステアミンの腸吸収の増強剤が挙げられる。
【0279】
経口投与のための製剤
本発明によって企図される薬学的組成物としては、経口投与用に配合されたもの(「経口剤形」)が挙げられる。経口剤形は、例えば、錠剤、カプセル、液体溶液もしくは懸濁液、粉末、または液体もしくは固体の結晶もしくは顆粒の形態であり得、これらは活性成分(複数可)を非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に含有する。液体、粉末、結晶、または顆粒として配合される場合、用量は、単位用量を明確に画定する方法で包装されてもよい。例えば、粉末または顆粒または微粒子が、サシェに包装されてもよい。液体は、ガラスまたはプラスチック容器に包装されてもよい。
【0280】
賦形剤は、薬理学、医薬品、及び医薬品製造の分野の当業者に知られている他の考慮事項の中から、許容される感覚刺激特性を提供し、薬物放出特性を制御し、効率的な製造を容易にし、薬学的組成物の長期間の安定性を保証するように選択される。賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または充填剤(例えば、スクロース、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);造粒剤及び崩壊剤(例えば、微晶質セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例えば、スクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微晶質セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);ならびに潤滑剤、滑剤、及び粘着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油、またはタルク)であってもよい。他の薬学的に許容される賦形剤は、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤等であり得る。これらの賦形剤の多くは、様々な化学的形態で複数の賦形剤製造業者によって販売され、及び/または異なる濃度で、及び/または他の賦形剤との様々な組み合わせで使用することができ、性能特性の差異を保証する。特定の賦形剤は、製剤中で複数の目的を達成することができる。
【0281】
経口投与のための製剤はまた、チュアブル錠剤として、有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、乳糖、微結晶セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合された硬質ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水もしくは油性媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油と混合された軟質ゼラチンカプセルとして提示されてもよい。粉末、顆粒、及びペレットは、例えば、ミキサー、流動床装置、または噴霧乾燥装置を使用して、従来の方法で錠剤及びカプセルの下で上述の成分を用いて調製されてもよい。
【0282】
有用な製剤の1つのカテゴリーは、薬物が放出される場所に重要な意味を有するが、主として薬物放出の速度(例えば、即時及び持続放出製剤)を制御する。有用な製剤の第2のカテゴリーは、放出のタイミングに重要な意味を有するが、主として薬物放出の解剖学的部位(例えば、胃における薬物放出のための胃内滞留性製剤、大腸の結腸標的製剤)を制御する。腸溶性コーティング製剤は、酸性胃環境で無傷のままであるように設計され、しばしば解剖学的標的の一種であるよりアルカリ性の小腸で溶解するように設計されているが、しばしば遅延放出製剤と称され、時間制御要素を強調する。しかしながら、結腸標的製剤はまた、胃での溶解を防止するための腸溶性コーティングを有してもよく、解剖学的標的化と薬物放出速度の制御との間の複雑な関係を強調する。さらに、時間ベース及び解剖学的または生理学的に標的化された製剤に使用される賦形剤の間には、広範な重複がある。これらの種類の製剤を様々な方法で組み合わせて、時間及び空間の両方において、異なる薬物放出プロファイルを有する複数の組成物を作製することができる。そのような組成物は、順に異なる量及び比率で組み合わせて、患者間の生化学的及び生理学的変動、ならびに疾患の種類、程度、及び活性の変動に対応するように治療レジメンを個別化することができる。
【0283】
胃内滞留性製剤
胃内滞留性製剤は、胃内の本発明の組成物から、システアミン前駆体またはその塩を放出するため、及び長期間にわたる胃内の組成物の活性成分(複数可)の放出を制御するために用いてもよい。言換すれば、胃内滞留性製剤のポイントは、長期胃内滞留であるため、付随する賦形剤は、胃内滞留性剤形が胃に残留すると予想される期間全体にわたって、及び任意に小腸を通って結腸に移行する時間を含めてより長い期間にわたって、有効成分の持続放出を提供するはずである。本発明の活性成分の胃内滞留は、粘膜付着、浮揚、沈降、膨潤、及び膨張などの様々な機序によって、ならびに/または胃排出を遅らせる薬理学的薬剤の同時投与によって達成されてもよい。胃内滞留性製剤に使用される賦形剤、ならびに薬学的組成物のサイズ及び形状は、胃内滞留の機序によって異なる。
【0284】
粘膜付着性/生体付着性胃内滞留性製剤
粘膜付着は、進行中の粘液産生の結果として表面から自然に除去されるまで、製剤中で利用されるポリマーの胃腸粘液層への付着に関する。時には粘膜付着と互換的に使用される生体付着もまた、胃腸上皮細胞の表面上の分子への薬学的組成物のポリマーまたは他の成分の付着を包含する。粘膜付着及び生体付着の目的は、薬学的組成物が、システアミン前駆体切断(すなわち、その表面上でパンテテイナーゼを発現する細胞)及び循環へのシステアミン取り込み及び輸送(例えば、有機カチオン輸送体を発現する細胞)が可能な細胞型を含む、胃腸上皮細胞に近接している時間を増加させることである。粘膜付着性ポリマーは、錠剤またはカプセルなどの大きな剤形、及び微粒子またはマイクロスフェアなどの小さな剤形を配合する際に使用することができる。蠕動、ムチン型、ムチン代謝回転速度、胃腸内pH、絶食/摂食状態、及び摂食状態での食品の種類などの様々な生理学的要因が、粘膜付着の程度及び持続性に影響を及ぼす。粘膜付着の機序は、ポリマーと粘液との境界における静電結合及び水素結合の形成によるものと考えられている。一般に、粘膜付着は、胃腸管粘膜に対する親和性を有するポリマーで達成され、ポリアクリル酸、メタクリル酸及びその誘導体または両方、ポリブレン、ポリリシン、ポリカルボフィル、カルボマー、アルギン酸塩、キトサン、コレスチラミン、ガム、レクチン、ポリエチレンオキシド、スクラルファート、トラガカント、デキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリアジン、セルロース及びセルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはそれらの混合物などの、合成または天然の生体付着性物質から選択される。例えば、商品名CARBOPOL(例えば、Carbopol 974P及び971P)ならびにPOLYCARBOPHILで入手可能な架橋アクリル及びメタクリル酸コポリマーが、粘膜付着性製剤において使用されている。(Hombach J.and A.Bernkop-Schnurch.Handbook of Experimental Pharmacology 197:251(2010))。他の生体付着性カチオンポリマーとしては、酸性ゼラチン、ポリガラクトサミン、ポリ-アミノ酸、例えばポリリシン、ポリオルニチン、ポリ四級化合物、プロラミン、ポリイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE)、DEAE-イミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノメチルエチレン(PTDAE)、ポリヒスチジン、DEAE-メタクリレート、DEAE-アクリルアミド、ポリ-p-アミノスチレン、ポリオキセタン、Eudragit RL、Eudragit RS、GAFQUAT、ポリアミドアミン、カチオン性デンプン、DEAE-デキストラン、DEAE-セルロース、及びコポリメタクリレート(HPMAのコポリマーを含む)、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド(例えば、米国特許第6,207,197号を参照)が挙げられる。
【0285】
粘膜付着は、小さな粒子(例えば、微粒子)に適用される場合に最も効果的である。粘膜付着性製剤は、浮遊性製剤、膨張/膨潤製剤、または任意の種類の持続放出製剤を含む、1つ以上の他の胃内滞留性製剤方法と組み合わせることができる。
【0286】
浮遊性胃内滞留性製剤
胃内滞留機序としての浮遊は、胃での浮力を保つように、胃液及び/または粥状液(胃で部分的に消化された食物)よりも低い嵩密度を有する活性成分(例えば、システアミン前駆体)の配合において効果的である。一般に、1立方センチメートルあたり1グラム未満の密度が望ましく、より好ましくは1立方センチメートルあたり0.9グラム未満の密度である。浮力は、(i)脂質を含む低密度材料を使用すること、(ii)組成物の中心に気泡(複数可)を予め形成すること、または(iii)インビボで気泡を発生するために発泡性賦形剤を使用することによって達成することができる。後者の種類の薬学的組成物は、発泡性賦形剤によって生成されたガスが、組成物中に残り、それによりその浮力に寄与するように設計されなければならない。例えば、発泡性賦形剤は、組成物中に泡を閉じ込めるために、ポリマーのマトリックスに包埋することができる。後者の種類の浮揚性製剤は、一般に、膨潤性ポリマーまたは多糖類及び発泡性カップル(例えば、重炭酸ナトリウム及びクエン酸もしくは酒石酸)、または閉じ込められた空気のチャンバを含むマトリックスまたは体温で液体胃内容物との接触時にガスを発生する液体を用いて調製した。浮遊性胃内滞留性製剤は、広範囲にレビューされている(例えば、Kotreka,U.K.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,28:47(2011))。
【0287】
胃内滞留のために設計された浮遊性薬学的組成物は、当該分野ではしばらく前から知られている。例えば、米国特許第4,126,672号、同第4,140,755号、及び同第4,167,558号は、各々が参照により本明細書に組み込まれ、胃液の密度(すなわち、1立方センチメートルあたり1グラム未満)よりも低い密度を有する錠剤形態の「流体力学的に平衡された」薬物送達系(HBS)について記載している。結果として、組成物は、胃液または粥状液上に浮遊し、それによって胃の筋肉収縮の間に幽門を通しての放出を回避する。薬物は、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)またはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース由来の親水コロイドから連続的に放出され、胃液と接触すると、組成物の表面に水不透過性バリアを形成し、これが徐々に浸食し、ゆっくり薬物を放出する。即時放出のために配合された外層及び持続放出のために配合された内層を有する2層浮遊性錠剤もまた、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,140,755号に開示されている。
【0288】
L-ドーパ及びデカルボキシラーゼ阻害剤の持続送達のための同様の流体力学的に平衡した浮遊性製剤も記載されている(米国特許第4,424,235号を参照)。アラビアガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カラヤガム、アガー、ペクチン、カラギーン、可溶性及び不溶性アルギン酸塩、カルボキシポリメチレン、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、及びベントナイトなどの親水コロイドは、本発明の浮遊性製剤の調製において有用であり得る。浮遊性製剤は、蜜蝋、セチルアルコール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、水素化ヒマシ油、及び水素化綿実油から選択される脂肪物質または脂肪物質の混合物を約60%まで含むことができる(油脂は胃液よりも密度が低い)。浮遊性製剤は、システアミン前駆体の持続放出を促進し、より長い時間にわたって上昇した血漿システアミンレベルを提供することができる。長期の上昇した血漿システアミンレベルは、より少ない頻度での投与を可能にする。
【0289】
本発明の浮遊性組成物は、ガス発生剤を含有してもよい。ガス発生化合物を用いて浮遊組成物を配合する方法は、当該分野において知られている。例えば、重炭酸ナトリウムを含有する浮遊性小カプセルは、米国特許第4,106,120号に記載されている。ガス発生に基づく同様の浮遊性顆粒は、米国特許第4,844,905号に記載されている。浮遊性カプセルは、米国特許第5,198,229号に記載されている。
【0290】
浮遊性組成物は、任意に、酸源及びガス発生炭酸塩または重炭酸塩剤を含有してもよく、これらは一緒に、発泡性カップルとして作用し、製剤に浮力を与える二酸化炭素ガスを産生する。可溶性有機酸及びアルカリ金属炭酸塩からなる発泡性カップルは、混合物が水と接触するとき、またはアルカリ性成分が酸性液体(例えば、胃液)と接触するときに、二酸化炭素を形成する。使用される酸の典型的な例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、またはアジピン酸が挙げられる。使用されるガス発生アルカリの典型的な例としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸グリシンナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。ガス発生剤は、水との接触、または胃液中の塩酸と接触することにより誘発される酸源と相互作用して、組成物のマトリックス中に閉じ込められ、その浮遊特性を改善する二酸化炭素または二酸化硫黄を生成する。一実施形態では、ガス発生剤は重炭酸ナトリウムであり、酸源はクエン酸である。
【0291】
組成物が、胃に到達した直後に胃液及び/または粥状液よりも軽くない場合、幽門を介して速やかに追放される可能性があるため、浮遊動態は重要である。予め形成された気泡を含む組成物または脂質などの低密度物質を含む組成物などのいくつかの組成物は、摂取時に胃液及び粥状液よりも密度が低い。胃に到達した後に胃液及び/または粥状液の密度よりも低い密度を達成しなければならない浮遊性組成物(すなわち、発泡性製剤)の場合、1立方センチメートルあたり1グラム未満の密度は、好ましくは30分以内、より好ましくは15分以内に到達し、最も好ましくは胃液と接触した後10分以内に到達する。浮遊期間も重要であり、薬物放出期間と一致させるべきである。すなわち、組成物が6時間以上薬物を放出するように設計されている場合、それはまた、6時間にわたって浮遊することができなければならない。好ましくは、浮遊性組成物は、少なくとも5時間、より好ましくは7.5時間、さらにより好ましくは10時間以上、1未満の密度を維持する。
【0292】
大用量のシステアミン前駆体(例えば、2~10グラム)が、いくつかのシステアミン感受性疾患を効果的に治療し、及び/または成体対象において適切な血中レベルを達成するために必要であり得る。標準剤形(例えば、錠剤、カプセル)に含まれ得る任意の活性剤の量は、患者が大きな組成物を飲み込む能力によって制限されるため、さらに複数の錠剤またはカプセルの投与が、不便または不快(嚥下障害の患者には不可能)になり得るため、単位剤形中の活性剤の量を制限しない代替剤形が有用である。粉末、顆粒、及び液体は、サイズが制限されない剤形の例であるが、適切な包装(例えば、サシェまたはバイアル)によって単位投与量で送達され得る。本発明のいくつかの実施形態では、本発明の浮遊性胃内滞留性組成物は、液体形態で投与される。更なる実施形態では、液体組成物は、アルギン酸塩を含む。他の実施形態では、有効医薬成分は、食品に振りかけることができる粉末または顆粒の形態で送達される。
【0293】
液体胃内滞留性浮遊性薬物送達系の1つの種類は、賦形剤としてアルギン酸塩を利用する。アルギン酸は、1,4-グリコシド結合によって接続されたβ-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸残基から作製される線状ブロック多糖コポリマーである。これは、持続放出ポリマーとしての使用を含めて、薬学的組成物における広範囲の目的に使用される(Murata et al.,Eur J Pharm Biopharm 50:221(2000)を参照)。Gavisconは、制酸剤を含む浮遊性液体アルギン酸塩製剤のブランド名である。それは数十年にわたって胃食道逆流を治療するために使用されているため、慢性アルギン酸塩摂取の安全性は十分に確立されている。小分子薬物を有するアルギン酸塩の浮遊性製剤が記載されている(Katayama et al.,Biol Pharm Bull.22:55(1999)、及びItoh et al.,Drug Dev Ind Pharm.36:449(2010)を参照)。胃内容物の表面上に層を形成する浮遊性製剤は、ラフト形成製剤と称されることがある。ラフト形成浮遊性/ゲル化持続放出組成物は、Prajapati et al.,J Control Release 168:151(2013)、及びNagarwal et al.,Curr Drug Deliv.5:282(2008)によって記載されている。
【0294】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,717,713号は、胃内容物と接触すると、胃の中に半固体のゲル様マトリックスを形成し、それによってゼラチン状マトリックスからの薬物の制御放出をもたらす、液体(飲用に適した)製剤を開示する。キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンまたは他のポリマー及びカラギーナンなどの複合コアセルベート対、及び熱ゲル化メチルセルロースを含むゲル形成ビヒクルが開示されており、その全てまたはサブセットを様々な比で組み合わせて、懸濁した薬学的活性剤(複数可)の溶解及び/または拡散速度に影響を及ぼすことができる。使用される他の賦形剤としては、ゲル化の促進剤としても、ゲルを浮遊させるためのガス発生剤としても有効な、炭酸カルシウムなどの炭酸塩化合物が挙げられる。キシログルカン及びゲランガムもまた、ゲル化剤として、またはゲル化剤の組み合わせとして使用することができる。
【0295】
液体(飲用に適した)浮遊性製剤としては、液体懸濁液(濃縮物もしくは使用の準備ができている)または液体(例えば、水、ジュースもしくは他の飲料)に加えることができる粉末として提供され得る微粒子を挙げることができる。浮遊性胃内滞留性組成物はまた、食品の上に振りかけるか、または他の方法で混合される粉末の形態で送達されてもよい。
【0296】
浮遊性胃内滞留性製剤としては、粘膜付着性ポリマーまたは他の粘膜付着性成分を挙げることができ(米国特許第6,207,197号及び第8,778,396号を参照)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ポリ(乳酸)コグリコール酸(PLGA)、ポリ乳酸、ポリメタクリレート、ポリカプロラクトン、ポリエステル、ポリアクリル酸、及びポリアミドなどのポリマーを利用することができる。
【0297】
胃内滞留性組成物の膨潤及び膨張
膨潤及び膨張は、胃液と接触すると、組成物が幽門を通って胃から出ることを妨げる程度まで膨潤する、胃内滞留機序である。結果として、組成物は、長期間にわたって、例えば、組成物の表面が幽門の直径よりも小さくなるまで浸食されるまで、または食物が胃から実質的に空になるまで、長期間にわたって胃内に滞留し、その時、強い筋肉収縮(「ハウスキーパー波」と呼ばれることもある)が胃を掃引し、その内容物を取り除く。組成物は、膨潤状態または膨張状態でおよそ14~16mmの直径を超えるため、幽門括約筋を通過することから除外される。好ましくは、組成物は、16~18mmの直径を超える。膨潤は、浮遊性と組み合わせてもよく、これが特に摂食状態で、幽門から製剤を遠ざける。
【0298】
胃液との接触時に膨潤し、結果として胃内に滞留する製剤の概念は、1960年代から知られている。米国特許第3,574,820号は、幽門を通過することができず、したがって胃に保持されるようなサイズまで、胃液と接触して膨潤する錠剤を開示している。同様に、米国特許第5,007,790号は、ポリマーと混合された薬物分子の緩慢な溶解を可能にしながら、急速に膨潤して胃の保持を促進する、親水性で水膨潤性の架橋ポリマーからなる錠剤またはカプセルを記載している。
【0299】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2003/0104053号は、活性成分がポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの組み合わせから形成された固体単位マトリックス中に分散されている医薬品の送達のための単位剤形錠剤を開示している。この組み合わせは、放出速度制御及び再現性の点で独特の利点を提供すると同時に、胃内滞留をもたらす錠剤の膨潤、及び薬物の放出が起こった後に胃腸管から錠剤を取り除く錠剤の崩壊の両方を可能にすると言われている。参照により本明細書に組み込まれ、またDepoMedに譲渡された米国特許第6,340,475号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、親水性ポリマーからなるポリマーマトリックスに組み込むことによって開発された活性成分の単位経口剤形を強調する。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、架橋ポリアクリル酸、キサンタンガム、及びヒドロキシメチル-セルロース、ヒドロキシエチル-セルロース、ヒドロキシプロピル-セルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチル-セルロース、及び微晶質セルロースのようなアルキル置換セルロースからなる群から選択されるポリマーで形成される。
【0300】
さらに、ガムベースの膨潤性胃内滞留系もまた、DepoMed研究者によって開発されている。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,635,280号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、固体ポリマーマトリックスを形成する1つ以上のポリマーを含む、高度に水溶性の薬物の制御放出経口剤形を開示している。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、アルキル置換セルロース、架橋ポリアクリル酸、及びキサンタンガムから選択されるポリマーから形成されてもよい。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,488,962号は、嚥下に便利なままで幽門を通過することを防止する最適な錠剤形状を開示している。錠剤は、セルロースポリマー及びそれらの誘導体、多糖類及びそれらの誘導体、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレングリコール、キトサン、ポリ(ビニルアルコール)、キサンタンガム、無水マレイン酸コポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、デンプン及びデンプン系ポリマー、マルトデキストリン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリウレタンヒドロゲル、架橋ポリアクリル酸及びそれらの誘導体、ならびにブロックコポリマー及びグラフトポリマーを含む上に列挙されたポリマーのコポリマーを含む、水膨潤性ポリマーを使用して作製される。
【0301】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,723,340号は、膨潤性胃内滞留性組成物を作製するための最適なポリマー混合物を開示する。混合物は、実質的に完全な薬物放出の際に組成物の小腸への通過を確実にするために、膨潤及び薬物放出パラメータの最適制御、ならびに溶解/浸食パラメータの制御を提供する。好ましいポリマー混合物は、ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの組み合わせを含む。好ましい分子量範囲及び粘度範囲は、ポリマー混合物について提供される。
【0302】
上記の特許公報に記載された方法は、複数の刊行物に記載されている4つのUS FDA承認の膨潤性胃内滞留性製剤を配合するために使用されている(例えば、Berner et al.,Expert Opin Drug Deliv.3:541(2006)においてレビューされている)。
【0303】
参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2008/0220060号は、弱ゲル化剤、強ゲル化剤、及びガス発生剤の混合物で造粒された活性物質を含む胃内滞留性製剤を開示している。ここで、強力なゲル化剤は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを除くヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、アガー-アガー、ゼラチン、改質デンプン、カルボキシビニルポリマーのコポリマー、アクリレートのコポリマー、オキシエチレンとオキシプロピレンのコポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される。この特許は、製造方法も記載している。米国特許第7,674,480号は、超崩壊剤、タンニン酸、及び1つ以上のヒドロゲルを含む混合物を用いて非常に急速な膨潤をもたらす、膨潤性の胃内滞留性製剤法を開示している。参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2004/0219186号は、キサンタンガムまたはローカストビーンガムまたはそれらの組み合わせに基づいて、多糖から形成されたゲルを含む膨張性胃内滞留デバイスを提供する。参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2006/0177497号は、胃内滞留のためのプラットフォーム技術として、ゲランガムベースの経口制御放出剤形を開示している。剤形は、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、キサンタンガムなどの親水性ポリマーをさらに含む。
【0304】
米国特許第6,660,300号は、膨潤及び薬物放出が組成物の別々の区画によって達成される、水溶性薬物を送達するために適した二相性膨潤性胃内滞留性製剤技術を開示しており、内部固体粒状相は、薬物及び1種以上の親水性ポリマー、1種以上の疎水性ポリマー及び/または1種以上の疎水性材料(蝋、脂肪アルコール、及び/もしくは脂肪酸エステルなど)を含む。1種以上の疎水性ポリマー及び/または1種以上の疎水性材料(蝋、脂肪アルコール、及び/もしくは脂肪酸エステルなど)を使用して、外部固体連続相(薬物含有内部相の顆粒が包埋されている)が形成される。錠剤及びカプセルが開示される。
【0305】
膨潤性または膨張性マトリックス製剤に有用な他の賦形剤としては、(i)水膨潤性ポリマーマトリックス、及び(ii)以下:ポリアルキレンオキシド、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール及びポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;セルロースポリマー;好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、及びそれらのコポリマーから、互いにまたはアミノエチルアクリレートなどの付加的なアクリレート種とともに形成される、アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、それらのコポリマー及びエステル;無水マレイン酸コポリマー;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミド自体などのポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、及びポリ(N-イソプロピル-アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)などのポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)などのポリ(N-ビニルラクタム)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、及びそれらのコポリマー;グリセロール、ポリグリセロール(特に高度に分岐したポリグリセロール)、プロピレングリコール、及び1つ以上のポリアルキレンオキシドで置換されたトリメチレングリコールなどのポリオール、例えば、モノ-、ジ-、及びトリ-ポリオキシエチレン化グリセロール、モノ-及びジ-ポリオキシエチレン化プロピレングリコール、ならびにモノ-及びジ-ポリオキシエチル化トリメチレングリコール;ポリオキシエチレン化ソルビトール及びポリオキシエチレン化グルコース;ポリ(メチルオキサゾリン)及びポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート自体ならびにエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート等を含む、ポリビニルアセテート;ポリエチレンイミンなどのポリイミン;デンプン及びデンプンベースのポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖ガム;ゼリン;ならびにシェラック、シェラック-アセチルアルコール、及びシェラックn-ブチルステアレートから選択される親水性ポリマーが挙げられる。胃内滞留性製剤はまた、浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、改変形状製剤、及び/または磁性製剤の任意の組み合わせを含んでもよい。
【0306】
いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、幽門を通過することを阻害する大きさに膨潤した結果、胃内に保持される胃内滞留性組成物である。さらなる実施形態では、胃内滞留性組成物は、膨潤機序及び浮遊機序の両方によって胃内に滞留する。
【0307】
展開、形状変化性胃内滞留性製剤
液体胃内容物と接触すると展開、除圧、または他の方法でサイズ及び/もしくは形状を変化させる薬学的組成物も記載されており、本発明の化合物及び製剤の適切な送達媒体である。そのような組成物は、胃の形状を、幽門を通過しにくい大きさ及び/または幾何形状に変化させるという点で、膨潤/膨張性胃内滞留性製剤と同様の原理を用いる。展開、伸展、または他の形状変化性の胃内滞留性組成物を作製するための方法及び材料は、当該分野において知られている。例えば、米国特許第3,844,285号は、反芻動物における獣医学的使用を意図した様々なそのような装置を記載しているが、基本原理は、ヒト胃内滞留性製剤にも適用される。米国特許第4,207,890号は、胃液と接触すると膨潤して展開する「有効な膨張量の膨張剤をその中に含有する、崩壊した、膨張可能な、無孔のポリマーエンベロープ」からなり、その結果として拡張した状態で胃内に滞留する、制御放出薬物送達系を記載している。組成物は、崩壊した形態のカプセルの内部に投与される。展開及び形状変化性胃内滞留性組成物がレビューされている(例えば、Klausner et al.,Journal of Controlled Release 90:143(2003))。
【0308】
「アコーディオンピル」と呼ばれる例示的な展開胃内滞留技術は、Intec Pharma(Jerusalem,Israel)によって開発されている。様々な形状の多層の平面構造は(少なくとも1つの層が薬物を含有する)、Kagan,L.Journal of Controlled Release 113:208(2006)に記載されているように、アコーディオンまたは階段状の形状に折り畳まれ、カプセル内に包装される。アコーディオンピル及び関連技術のさらなる特徴は、その構築に好ましく使用される薬学的賦形剤を含めて、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,685,962号に開示されている。カプセルは、胃内容物との接触時に溶解し、折り畳まれた組成物を放出し、これが急速に展開し、その後、通常の食事とともに投与された場合、最大12時間にわたって胃内に滞留する。
【0309】
他の胃内滞留技術としては、超多孔質ヒドロゲル及びイオン交換樹脂系が挙げられる。超多孔質ヒドロゲルは、多数の相互接続された孔を介して急速に水を取り込むため、急速に(液体接触から1分以内に)膨潤する。組成物は、クロスカルメロースナトリウム(例えば、商品名:Ac-Di-Sol)などの親水性ポリマーとの同時配合による胃収縮の力に耐えるために十分な機械的強度を保持しながら、それらの元のサイズの100倍以上まで膨潤し得る。イオン交換樹脂ビーズを、負電荷薬で充填し、ガス発生剤(例えば、二酸化炭素ガスを生成するために胃液中の塩化物イオンと反応する重炭酸塩)を用いて浮遊させることができる。ビーズは、ガスを捕捉する半透膜に封入され、ビーズの長期浮遊をもたらす。
【0310】
胃内滞留性製剤はまた、粘膜付着性、浮遊性、ラフト形成性、膨潤性、展開/形状変化性、超多孔性ヒドロゲルまたはイオン交換樹脂製剤の任意の組み合わせを含み得る。そのような組み合わせは、当業者に知られている。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,778,396号(「微粒子を含む多単位胃内滞留性薬学的剤形」)は、微粒子からなる複合粘膜付着性浮遊胃内滞留性製剤を記載している。
【0311】
本発明の組成物は、胃内滞留をさらに促進するために膨潤性及び/または粘膜付着特性を有する親水性ポリマーを含み得るが、これに限定されない。本発明の組成物に組み込むために適した膨潤性及び/または粘膜付着特性を有する親水性ポリマーとしては、ポリアルキレンオキシド;セルロースポリマー;アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、及びそれらのエステル、無水マレイン酸ポリマー;ポリマレイン酸;ポリ(アクリルアミド);ポリ(オレフィンアルコール);ポリ(N-ビニルラクタム);ポリオール;ポリオキシエチル化糖類;ポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート;ポリイミン;デンプン及びデンプン系ポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖類ガム;ゼイン;シェラック系ポリマー;ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸、マルトデキストリン、アルファ化デンプン、及びポリビニルアルコール、それらのコポリマー及び混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0312】
組成物からの活性成分の放出は、それらの放出遅延特性について製薬分野で周知の賦形剤を含む適切な遅延剤の使用によって達成することができる。そのような放出遅延剤の例として、ポリマー放出遅延剤、非ポリマー放出遅延剤、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0313】
本発明の目的に用いられるポリマー放出遅延剤としては、セルロース誘導体;多価アルコール;糖類、ガム、及びそれらの誘導体;ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物;マレイン酸コポリマー;ポリアルキレンオキシドまたはそのコポリマー;アクリル酸ポリマー及びアクリル酸誘導体;またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。セルロース誘導体としては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。糖類、ガム、及びそれらの誘導体としては、デキストリン、ポリデキストリン、デキストラン、ペクチン及びペクチン誘導体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラヤガム、トラガカントガム、カラギーナン、アカシアガム、アラビアガム、フェヌグリーク繊維、もしくはゲランガム等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物としては、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート(8部w/w)、及びポリビニルピロリドン(2部w/w)の混合物(Kollidon SR)、ビニルピロリドンのコポリマー、ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレンオキシドまたはそのコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。マレイン酸コポリマーとしては、ビニルアセテート無水マレイン酸コポリマー、ブチルアクリレートスチレン無水マレイン酸コポリマー等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。アクリル酸ポリマー及びアクリル酸誘導体としては、カルボマー、メタクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ポリメタクリレートとしては、a)メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、及びアクリル酸エステルから選択されるモノマーから形成されるコポリマー、c)エチルアクリレート、メチルメタクリレート、及びトリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド等から選択されるモノマーから形成されるコポリマー、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の目的に用いられる非ポリマー性放出遅延剤としては、脂肪、油、蝋、脂肪酸、脂肪酸エステル、長鎖一価アルコール、及びそれらのエステル、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態では、本発明で用いられる非ポリマー放出遅延剤としては、Cutina(水素化ヒマシ油)、Hydrobase(水素化大豆油)、Castorwax(水素化ヒマシ油)、Croduret(水素化ヒマシ油)、Carbowax、Compritol(ベヘン酸グリセリル)、Sterotex(水素化綿実油)、Lubritab(水素化綿実油)、Apifil(黄色の蝋)、Akofine(水素化綿実油)、Softtisan(水素化パーム油)、Hydrocote(水素化大豆油)、Corona(ラノリン)Gerucire(マクロゴールグリセリドラウリク)、Precirol(パルミトステアリン酸グリセリル)、Emulcire(セチルアルコール)、プルロールジイソステアリク(ジイソステアリン酸ポリグリセリル)、及びGelerol(ステアリン酸グリセリル)、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0314】
本発明の胃内滞留性組成物は、モノリシックもしくは多層の剤形またはインレイ系などの形態であってもよいが、これらに限定されない。本発明の一実施形態では、胃内滞留性組成物は、二層または三層の固体剤形の形態である。例示的な実施形態では、経口投与のための膨張性二層系の形態の固体薬学的組成物は、胃腸管に到達した直後に第1層から活性医薬成分を送達し、第2層と同じであっても異なっていてもよいさらなる医薬剤を、特定の期間にわたって修正された様式で送達するように適合される。第2層は、組成物中で膨張するように配合されてよく、それによって胃における組成物の保持を延長する。
【0315】
さらなる例示的な実施形態では、経口投与のための固体薬学的組成物は、2つの層を含み、一方の層は、適切な放出遅延剤とともに活性成分を含み、もう一方の層は、他の賦形剤と組み合わせて膨潤剤を含む。本発明の別の実施形態では、経口投与のための固体薬学的組成物は、胃内滞留を確実にする賦形剤を含む第2の錠剤の内部に配置された活性成分(複数可)を含有する第1の錠剤を含む特殊な剤形である、インレイ系を含有する。この系では、活性成分を含有する錠剤は小さく、少なくとも片側を除いた全ての面が膨潤性ポリマーもしくは浮遊系、または両方を含む賦形剤のブレンドで被覆され、胃内滞留を確実にする。
【0316】
本発明のさらに別の実施形態では、剤形は任意にコーティングされてもよい。表面コーティングは、感覚刺激目的のため(特に、臭いもしくは不快な味を有するチオールもしくはジスルフィド)、薬物標識目的のため(例えば、剤形のための色分けシステム)、美容目的のため、圧縮された剤形を寸法的に安定化するため、または薬物放出を遅延させるために用いることができる。表面コーティングは、経腸的使用に適した任意の従来のコーティングであってもよい。コーティングは、従来の成分を用いる任意の従来技術を使用して行うことができる。表面コーティングは、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート等であるが、これらに限定されない従来のポリマーを使用する速溶性フィルムを使用して得ることができる。コーティング賦形剤及びそれらを使用するための方法は、当該分野において周知である。例えば、McGinity,James W.and Linda A.Felton,Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms,Third Edition,Informa Healthcare,2008を参照されたい。
【0317】
さらに、本発明の別の実施形態では、組成物は、腸管内でより長い滞留時間を必要とする活性剤を効果的に送達するために、腸内での長期通過を有する、ペレット、マイクロスフェア、マイクロカプセル、マイクロビーズ、マイクロ粒子、またはナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。多微粒子系は、(i)生体付着性もしくは粘膜付着性であってよく、それにより胃腸管通過を遅延させるか、または(ii)胃内容物の上に浮遊し、任意にゲル様層を形成することができるか、または(iii)pH感受性外層もしくは小腸の軽度の酸性環境において、または回腸の中性からわずかに塩基性の環境(典型的には最高pHを有する腸セグメント)において溶解する層でコーティングされ得るか、または(iv)は、ヒト酵素によって消化されないが、腸内細菌によって産生される酵素によって消化され、遠位回腸及び結腸での薬物放出につながる薬物を含有するポリマーを使用して形成されてもよい。実施形態では、本発明の組成物は、多微粒子の形態で、胃内滞留性である。そのような多粒子系は、ペレット化、造粒、噴霧乾燥、噴霧凝結等を含むが、これらに限定されない方法によって調製することができる。
【0318】
適切な高分子放出制御剤を、本発明の組成物に用いることができる。一実施形態では、ポリマー放出制御剤は、pH非依存性またはpH依存性またはそれらの任意の組み合わせである。別の実施形態では、本発明の組成物に用いられるポリマー放出制御剤は、膨潤または非膨潤であり得る。さらなる実施形態では、本発明の組成物に用いることができるポリマー放出制御剤としては、セルロース誘導体、糖類もしくは多糖類、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、ビニル誘導体またはそのポリマーもしくはコポリマー、ポリアルキレンオキシド及びその誘導体、マレイン酸コポリマー、アクリル酸誘導体等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0319】
経口使用のための制御放出組成物は、活性薬物物質の溶解及び/または拡散を制御することによって活性薬物を放出するように構築されてもよい。制御放出を得て、それによって血漿濃度対時間プロファイルを最適化するために、多くの戦略のうちのいずれかを遂行することができる。一例では、制御放出は、例えば、様々な種類の制御放出組成物及びコーティングを含む、様々な製剤パラメータ及び成分の適切な選択によって得られる。したがって、薬物は、適切な賦形剤とともに、投与時に制御された様式で薬物を放出する薬学的組成物に配合される。例としては、単一または複数の単位錠剤またはカプセル組成物、油性溶液、液体、懸濁液、乳液、マイクロカプセル、マイクロスフェア、ナノ粒子、粉末、及び顆粒が挙げられる。ある特定の実施形態では、組成物は、生分解性、pH、及び/または温度感受性ポリマーコーティングを含む。
【0320】
溶解または拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル、ペレット、もしくは顆粒製剤の適切なコーティングによって、または化合物を適切なマトリックスに組み込むことによって達成することができる。制御放出コーティングとしては、上述のコーティング物質のうちの1つ以上、及び/または例えば、シェラック、蜜蝋、グリコワックス(glycowax)、ヒマシ油蝋、カルナウバ蝋、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセロール、エチルセルロース、アクリル樹脂、ジ-ポリ乳酸、酢酸酪酸セルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリレート、及び/またはポリエチレングリコールを挙げることができる。制御放出マトリックス製剤において、マトリックス材料として、例えば、水和メチルセルロース、カルナウバ蝋、及びステアリルアルコール、カルボポール934、シリコーン、グリセリルトリステアレート、メチルアクリレート-メチルメタクリレート、ポリビニルクロリド、ポリエチレン、及び/またはハロゲン化フルオロカーボンを挙げることもできる。
【0321】
あるいは、ある特定のシステアミン前駆体、またはインビボでのシステアミンの生成または吸収の増強剤を配合し、医療用食品として投与してもよい。医療用食品は、薬物ではなく食品としてUS FDAによって規制されている。医療用食品を配合するための方法は、当該分野において知られている。食品または飲料中の活性化合物を調製及び投与するための方法の説明については、例えば、米国特許公開第2010/0261791号を参照されたい。オランダに本拠を置く医療食品会社であるNutraciaは、薬理学的に活性な薬剤を食品または飲料と組み合わせる方法を記載した250以上の特許出願及び特許を有している。
【0322】
コーティング
本発明の錠剤またはカプセルなどの経口送達のために配合された薬学的組成物は、遅延放出または延長放出の利点をもたらす剤形を提供するためにコーティングまたは他の方法で化合することができる。コーティングは、(例えば、制御放出製剤を達成するために)所定のパターンで活性薬物物質を放出するように適合させることができるか、または例えば、腸溶性コーティング(例えば、pH感受性であるポリマー(「pH制御放出」)、緩慢またはpH依存的膨潤速度、溶解または浸食を有するポリマー(「時間制御放出」)、酵素によって分解されるポリマー(「酵素制御放出」または「生分解性放出」)、及び圧力の増加によって破壊される強固な層を形成するポリマー(「圧力制御放出」))の使用によって胃の通過後まで活性薬物物質を放出しないように適合されてもよい。本明細書に記載の薬学的組成物に使用できる例示的な腸溶性コーティングとして、糖コーティング、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリレートコポリマー、ポリエチレングリコール、及び/またはポリビニルピロリドンに基づく)、またはメタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及び/またはエチルセルロースに基づくコーティングが挙げられる。さらに、例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を用いてもよい。
【0323】
例えば、錠剤またはカプセルは、内部投与量成分及び外部投与量成分を含むことができ、後者は、前者に対してエンベロープの形態である。2つの成分は、胃内の崩壊に抵抗し、内部成分が十二指腸に無傷で通過するか、または放出が遅れることを可能にする腸溶層によって分離することができる。
【0324】
腸溶性コーティングが使用される場合、望ましくは、実質的な量の薬物が下部胃腸管で放出される。あるいは、漏出性腸溶性コーティングを使用して、即時放出製剤と遅延放出製剤の中間の放出プロファイルを提供することができる。例えば、米国特許出願第2008/0020041A1号は、腸液に接触すると放出される残りの成分とともに、胃液と接触すると有効成分の少なくとも一部を放出する腸溶性材料でコーティングされた医薬製剤を開示する。
【0325】
遅延放出または延長放出をもたらすコーティングに加えて、固体錠剤組成物は、望ましくない化学変化(例えば、活性薬物物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように適合されたコーティングを含み得る。コーティングは、Encyclopedia of Pharmaceutical Technology,vols.5 and 6,Eds.Swarbrick and Boyland,2000に記載されているものと同様の方法で固体剤形に適用することができる。
【0326】
制御放出製剤の場合、組成物の活性成分は、小腸における放出の標的とされ得る。製剤は、組成物が胃で見出される低いpH環境に耐性があるが、小腸のより高いpH環境に感受性であるように腸溶性コーティングを含み得る。小腸における活性成分の放出を制御するために、多粒子製剤を用いて、活性成分の同時放出を防止してもよい。多粒子組成物は、微晶質セルロース系ゲルに分散されたシステアミン前駆体またはその塩を含む疎水性相、及びヒドロゲルを含有する親水性相を含む、複数の個々の腸溶性コーティングされたコアを含んでもよい。微晶質セルロース(MCC)は、コアが腸内で溶解または侵食されている間に、システアミン前駆体またはその塩の放出制御ポリマーとして機能し、用量ダンピングを防止し、システアミン前駆体またはその塩を安定化する。コアまたはコーティング層中の賦形剤に関して異なる2つ以上の多粒子組成物は、より長い期間にわたって活性成分(例えば、システアミン前駆体)を放出するように、1つの薬学的組成物(例えば、カプセル、粉末、または液体)に複合されてもよい。あるいは、2つ以上の微粒子のバッチにおいて異なる濃度の賦形剤を使用し、次いで、標的化薬物放出プロファイルをもたらすように選択された比(例えば、1:1)で異なるバッチからの微粒子を組み合わせることによって、同じ効果を達成することができる。
【0327】
この組成物は、約15%w/w~約70%w/wのシステアミン前駆体またはその塩、約25%w/w~約75%w/wの微晶質セルロース、及び約2%w/w~約15%w/wのメチルセルロースを含み、%w/wは、腸溶性コーティングされたコアの%w/wである。
【0328】
場合によって、タンパク質性サブコーティング層は、システアミン前駆体またはその塩の安定性をさらに高めるため、個々のコアを覆い、個々のコアをそれぞれの腸溶性コーティングから分離する連続的なタンパク質性サブコーティング層を含むことが有利であり得る。連続的なタンパク質性サブコーティングは、システアミン前駆体またはその塩が腸溶性コーティングと混合するのを防止するように適合される。いくつかの好ましいタンパク質性サブコーティングは以下の属性を有する:サブコーティングは、コアに付着したゼラチンフィルムを含むことができ、及び/またはサブコーティングは、乾燥タンパク質性ゲルを含むことができる。
【0329】
特定の実施形態では、腸溶性コーティングされたコアは、0.1N HCl溶液中に置かれた約2時間以内に約20%以下のシステアミン前駆体またはその塩を放出し、その後、実質的に中性のpH環境に置かれた約8時間以内に、約85%以上のシステアミン前駆体またはその塩を放出する。
【0330】
好ましくは、腸溶性コーティングされたコアは、回転楕円体であり、直径3mm以下である。
【0331】
別々に投与された組成物の胃での付着を防止するために、本発明の組成物は、抗付着剤でコーティングすることができる。抗付着剤はまた、微粒子が互いに粘着するのを防止するために使用されてもよい。例えば、組成物は、微晶質セルロース粉末の薄い最外層で被覆されていてもよい。あるいは、胃液に不溶であるが透過性及び膨潤性のポリマーでコーティングすることによって付着を防止することができる。例えば、30%ポリアクリレート分散液(例えば、Eudragit NE30D、Evonik Industries)は、胃における浮遊性ミニ錠剤の付着を防止することが示されている(Rouge et al.,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 43:165(1997)を参照)。
【0332】
腸溶性コーティングに使用される列挙された賦形剤の市販形態としては、例えば、種々のブランドのポリメタクリレート(アミノメタクリレートコポリマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、エチルアクリレートコポリマー分散物、メチルメタクリレートコポリマー分散物、メタクリル酸コポリマー、及びメタクリル酸コポリマー分散物を含む、化学的に均一な化合物群)が挙げられ、これらは、Ashland,BASF Fine Chemicals(Kollicoat製品ライン)、ColorCon(Acryl-EZE製品ライン)、Eastman Chemical(Eastacryl製品ライン)、及びEvonik Industries(Eudragit製品ライン)を含むが、これらに限定されない企業によって製品ラインとして販売されている。
【0333】
回腸及び結腸の薬物放出のための製剤
いくつかの実施形態では、回腸及び/または結腸を標的とする製剤を使用して、システアミン前駆体を遠位回腸及び結腸に送達することができる。(「結腸を標的とする」という用語は、回腸標的製剤及び結腸標的製剤の両方を指すために本明細書で使用される。回腸内で薬物を放出し始めるいずれの組成物もまた、結腸内で薬物を放出する可能性があり、回腸で放出されるいくつかの薬物は、結腸に達する可能性がある)。結腸を標的とする組成物の薬物送達の利点には、大腸の上皮との長期間の接触及び部位特異的送達のために利用できる結腸細菌の存在が含まれる。
【0334】
薬物動態の観点から、システアミンの結腸吸収は、その極めて短い半減期に起因して、血中レベルを治療的範囲で維持するために胃腸管で連続的に産生(及び吸収)されなければならないため望ましい。摂取した薬学的組成物(そうでなければ胃内滞留性組成物)は、絶食状態で摂取した場合、摂取後3~5時間(平均して、ほとんどの対象において)、または食品とともに摂取した後6~10時間(平均して、ほとんどの対象において)で結腸に到着し得る。その剤形が結腸に到達した後に血液システアミンレベルを治療的範囲で維持する唯一の方法は、システアミンが生成され、結腸に吸収されることを確実にすることである。小腸内に放出されたいくつかのシステアミン前駆体は、結腸にそのまま入り、結腸でシステアミンに分解され得る。しかしながら、結腸での強固なシステアミン生成を提供するために、システアミン前駆体は、結腸(または回腸)で放出されるように配合されるべきであり、そこでシステアミンに分解されて吸収され得る。結腸標的組成物は、システアミン感受性疾患の治療法として単独で使用することを意図するものではなく、むしろ胃腸管の他の領域に向けた製剤を補完するものである。
【0335】
結腸標的送達に対する2つのアプローチが広範に開発されており、以下に記載する。
【0336】
第1のアプローチは、腸内細菌によって結腸内で産生された酵素の利用を含む。腸内細菌は、唾液、胃液、腸液、または膵液中に存在するヒト酵素によって消化されない種々のポリマーを消化することができる。そのようなポリマーを含有する薬学的組成物は、消化することができず、したがって、ポリマーと混和された有効成分は、それらが遠位回腸(細菌の密度が上昇し始める)または結腸(結腸内容物の1ミリリットルあたり1兆個の細菌が存在し得る)における腸内細菌によって産生された酵素に遭遇するまで逃げることができない。
【0337】
システアミン前駆体及び/または他の有効成分(例えば、インビボシステアミン生成または吸収の増強剤)は、薬物放出を遅延させ、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ(ヒト胃腸管において)消化可能であるポリマーと混合することができる。腸内細菌による選択的分解に基づく結腸標的薬物送達に使用されるポリマーとしては、デキストランヒドロゲル(Hovgaard,L.,and H.Brondsted,J.Controlled ReI.36:159(1995))、架橋コンドロイチン(Rubinstein et al.,Pharm.Res.9:276(1992))、及びヒドロゲル含有アゾ芳香族部分(Brondsted,H.and J.Kopoecek,Pharm Res.9:1540(1992)、及びYeh et al.,J.Controlled ReI.36:109(1995))が挙げられる。
【0338】
胃及び小腸で安定な前駆体を形成し、腸内微生物叢による酵素切断の際に大腸内で薬物を放出する担体との薬物の共有結合。これらの前駆体の例として、アゾ複合体、シクロデキストリン複合体、グリコシド複合体、グルクロン酸塩複合体、デキストラン複合体、ポリペプチド及びポリマー複合体が挙げられる。基本原理は、薬物と担体とを連結する共有結合が、ヒト酵素によって消化不可能であるが、腸内細菌酵素によって消化可能でなければならないということである。
【0339】
第2のアプローチは、胃腸管の他の部分に対して、回腸での高いpHの利用を含む。健康な対象では、胃腸管のpHは、十二指腸(近位から遠位十二指腸までおよそpH5.5~6.6)から回腸末端(およそpH7~7.5)まで増加し、次いで盲腸で減少し(pH約6.4)、結腸の右側から左側に向かって最終値約pH7まで再び増加する。
【0340】
組成物は、中性から軽度アルカリ性pH(例えば、pH6.5以上、pH6.8以上、またはpH7以上)でのみ溶解するpH感受性ポリマーでコーティングすることができる。pH感受性コーティングの下には、持続放出製剤があり、そこから薬物が、拡散、浸食、または組み合わせによって徐々に放出される。このアプローチは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,900,252号に記載されている。
【0341】
腸内細菌及びpHに基づく結腸標的法を組み合わせることができる。例えば、Naeem et al.,Colloids Surf B Biointerfaces S0927(2014)を参照されたい。この研究では、細菌消化性ポリマーを使用して形成されたコーティングされたナノ粒子が記載されている。薬物を含有する液体で充填したカプセルを結腸に送達するためのpH及び細菌酵素消化を組み合わせた別の技術は、米国特許公開第2007/0243253号に記載されており、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、硫酸コンドロイチン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、クルデュラン、及びレバンを含むポリマーを、約pH5以上で溶解するpH感受性コーティングと一緒に利用する製剤を開示している。
【0342】
結腸標的薬物送達のための他のアプローチは、(i)マルチコーティング製剤が胃を通過すると外皮が溶解し始め、コーティングの厚さ及び組成に基づいて、ほぼ小腸の通過時間である3~5時間のラグタイム後に薬物が放出される、時間放出系、(ii)アゾ-及びジスルフィドポリマーの組み合わせが、結腸の低酸化還元電位に応答して薬物放出を提供する、酸化還元感受性ポリマー、(iii)結腸粘膜に選択的に付着し、剤形の通過を遅らせて薬物が薬物を放出することを可能にする、生体付着性ポリマー、及び/または(iv)薬物が浸透圧のために半透膜を介して放出される、浸透圧制御薬物送達を用いる。
【0343】
David R.Friendによる書籍″Oral Colon-Specific Drug Delivery″(CRC Press,1992)は、デキストランベースの送達系、グリコシド/グリコシダーゼベースの送達、アゾ結合プロドラッグ、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドコポリマー、及び結腸送達のための他のマトリックスなどの、より古い結腸標的方法(それらのうち多くは依然として有用である)を提供し、概説している。結腸標的薬物送達は、より最近では、例えばBansal et al.,Polim Med.44:109(2014)によってレビューされている。最近のアプローチとしては、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ消化可能な新規ポリマーの使用が挙げられ、様々な植物に見られる天然ポリマー、ならびにマイクロビーズ、ナノ粒子、及び他の微粒子が含まれる。
【0344】
治療方法
本発明は、システアミン感受性疾患及び障害を治療するために有用な新規の組成物及び方法に関する。治療は、胃腸管でシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体の経口投与を必要とする。重要なクラスのシステアミン前駆体は、インビボで還元すると2つのチオールを提供する混合ジスルフィドである。両方のチオールが、インビボでシステアミンに変換可能であり得るか、または1つだけであってもよい。両方のチオールがシステアミンに変換可能であるシステアミン前駆体は、シスチン症、嚢胞性線維症、マラリア、ならびにウイルス及び細菌感染症を含む疾患の治療剤の好ましいクラスである。そのような混合ジスルフィドの非限定的な例としては、システアミン-パンテテイン及びシステアミン-4-ホスホパンテテインが挙げられる。
【0345】
いくつかの他の疾患では、システアミンに変換可能でない第2のチオールを選択して、システアミンの治療効果を補完または増強することができる。ある特定の実施形態では、神経変性及び精神神経疾患の治療のための混合ジスルフィドシステアミン前駆体として、以下のN-アセチルシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、ガンマグルタミルシステイン、ガンマグルタミルシステインエチルエステル、ホモシステイン、システイン、及びジヒドロリポ酸の群からの第2のチオールが挙げられる。
【0346】
混合ジスルフィドシステアミン前駆体の組み合わせは、特定の疾患の病態生理に対処すること、または疾患状態、疾患活性、薬物代謝、もしくは薬物感受性における患者間の変動を説明するように治療レジメンを調整することにおけるさらなる柔軟性をもたらす。例えば、両方のチオールがインビボでシステアミンに変換可能な混合ジスルフィドは、ただ1つのチオールがインビボでシステアミンに変換可能な混合ジスルフィドと同時投与されてもよい。2種類の混合ジスルフィドの比は、約1:1から約1:10まで変化してもよい。
【0347】
システアミン前駆体は、(i)前駆体のシステアミンへのインビボ変換、及び(ii)その後の腸細胞によるシステアミンの吸収に必要な生化学的プロセスを促進する薬剤と同時投与することができる。そのような増強剤は、特定の疾患におけるシステアミン前駆体の治療効果を増大または補完するために、または特定の患者のための治療レジメンを個別化するために選択及び投与され得る。例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体を、ジスルフィド結合の還元を増強する還元剤と同時投与することができる。還元剤は、チオールグルタチオン、システイン、ホモシステイン、γ-グルタミルシステインなどの生理学的化合物であってもよく、またはN-アセチルシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、またはγグルタミルシステインエチルエステルであり得るか、またはジヒドロリポ酸などのジチオール、もしくはビタミンC(アスコルビン酸)などの非チオール還元剤であり得る。
【0348】
本発明の混合ジスルフィドから放出されたシステアミン及び他のチオールは、いくつかの機序のうちのいずれかを介して治療効果を提供し得る。
【0349】
システアミンは、(i)酸化防止剤、(ii)還元剤及びチオール-ジスルフィド交換の参与剤、(iii)酵素阻害剤、ならびに(iv)銅キレート化剤を含む、体内で多面的な化学的及び薬理学的効果を有する。システアミンはまた、ある特定の疾患関連化学物質及びタンパク質の血漿レベルを調節する。例えば、システアミンは、(v)その高いレベルが心臓疾患及びアテローム性動脈硬化症と関連している、トリグリセリド及び低密度リポタンパク質関連コレステロールを低下させ、(vi)その高いレベルが代謝性症候群及び他の疾患と関連している、総アディポネクチンならびにアディポネクチン多量体の相対存在量を低下させる。システアミンはまた、(v)抗寄生虫、(vi)抗細菌、及び(vii)抗ウイルス作用、ならびに(viii)抗線維化作用を有し、全て不確実な機序を介する。
(i)システアミンは、還元基を提供することによって、反応性酸素種(ROS)を中和する抗酸化剤として直接作用することができる。
(ii)システアミンは、体内の主要な抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)、ならびに血清中及び胃腸管中の重要な抗酸化物質であるシステインを含む、他の生理学的抗酸化物質のレベルを高めることができる。システアミンの抗酸化剤及びGSH回復特性は、高レベルの酸化脂質、タンパク質、または低分子(しばしば低レベルのGSHを伴う)が病因に寄与する広範囲の疾患に関連する。異常酸化産物が寄与因子である疾患として、神経変性疾患、嚢胞性線維症、及びHIV感染症と関連した免疫機能不全が挙げられる(Herzenberg et al.,Proc Natl Acad Sci USA.94:1967(1997)、及びBhaskar et al.,J BiolChem.290:1020(2015)を参照)。トリペプチドであるGSHは、腸内のプロテアーゼによってその構成体アミノ酸に分解される。したがって、経口GSHは、体内にGSHを送達する効率的な方法ではない。システアミン療法は、GSHレベルを高める効果的な方法である。
(iii)システアミンは、ジスルフィド及びシステイン含有ジスルフィド(シスチンを含む)を含有するグルタチオンとのチオール-ジスルフィド交換反応を化学的に減少させるか、またはそれに参与し、それにより遊離グルタチオン及びシステインを産生し、順に他の酸化化合物を還元するか、または反応性酸素種を中和することができる。遊離システイン(例えば、システアミン-シスチン交換から生成される)もまた、グルタチオン合成に利用することができる。遊離シスチン及びシステインとのチオール-ジスルフィド交換を促進することに加えて、システアミンはまた、細胞性抗酸化物質防御機序を制御する様々な酸化還元感知タンパク質を含む、タンパク質中のシスチン及びシステイニル残基と相互作用することができる。システアミンはまた、システイン及びシステイン-システアミン混合ジスルフィド(両方が機能的シスチノシン遺伝子が存在しない場合にリソソームを出ることができる)を形成するリソソームシスチンとのチオール-ジスルフィド交換反応を介して、シスチン症における病理学的シスチン蓄積を阻害する。(システイン-システアミンジスルフィドは、PQLC2遺伝子によってコードされるリジン/ヘプタヘリカルタンパク質輸送体によって輸送される)。
(iv)システアミンは、ハンチントン病の病因に関与する細胞質酵素である組織トランスグルタミナーゼ(トランスグルタミナーゼ2またはTG2とも呼ばれる)を阻害する。2つのシステアミンのジスルフィドであるシスタミンもまた、TG2阻害剤であり、ハンチントン病モデルではシステアミンよりも広範に試験されている。しかしながら、細胞質の強い還元環境では、実質的に全てのシスタミンがシステアミンに還元される。したがって、システアミンは、シスタミンの活性型である可能性が高い(Jeitner et al.,Biochem Pharmacol.69:961(2005)を参照)。シスタミンは、ハンチントン病のいくつかのマウスモデルにおいて運動機能を改善し、寿命を延ばす。これらの有益な効果は、シスタミン治療により増加する脳由来神経栄養因子(BDNF)によって媒介され得る。シスタミンはまた、細胞質酵素カスパーゼ-3を阻害し、これもシステアミン生成による可能性が高い。ハンチントン病遺伝子の異常な病原体であるハンチンチンは、カスパーゼ-3の活性化を誘導し、その結果、培養細胞におけるミトコンドリアからのシトクロームcの放出をもたらし、最終的にアポトーシスにつながる。高濃度(例えば、25ミリモル)で、システアミンはまた、血管新生、創傷治癒、及び組織リモデリングにおいて生理学的役割を果たす亜鉛依存性エンドペプチダーゼの群であるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を阻害する。MMPは、いくつかの癌において過剰発現され、細胞外マトリックスを分解することによって浸潤及び転移に寄与する。システアミンは、インビトロでの膵臓癌細胞による移動及び浸潤、ならびにインビボでの膵臓癌異種移植の増殖を阻害する(Fujisawa et al.,PLoS One.7:e34437(2012))。
(v)システアミンは、いくつかの他のチオールと同様に、強力な銅キレート剤であり、疾患関連腎不全の結果として既に低い銅及びセルロプラスミンレベルを有する一部のシスチン症患者において主要な副作用の原因となり得る。しかしながら、銅キレート化は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病において治療的に有益であり得る。
(vi)システアミンは、慢性腎臓疾患の2つのマウスモデルにおいて、酸化タンパク質のレベルを低減し、TGF-β非依存性機序を介して筋線維芽細胞の増殖を阻害する。筋線維芽細胞は、コラーゲンを含む細胞外マトリックスを産生し、異常な筋線維芽細胞の増殖は、腎臓の疾患(例えば、アルポート病、局所分節性糸球体硬化症)、肺(例えば、嚢胞性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患)及び肝臓(例えば、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎及びアルコール性脂肪性肝炎)を含む、多様な慢性線維性疾患における瘢痕化、収縮及び器官機能の喪失と関連している。
(vii)システアミンは、宿主の炎症反応を不都合に調節することなく、インビトロ及びマラリアのマウスモデルの両方において、マラリア(Plasmodium Falciparum)を引き起こす寄生虫の増殖を阻害する。システアミン前駆体パンテチンの投与は、Plasmodium berghei ANKA株に感染したマウスの脳症候群を予防する。システアミンはまた、抗マラリア薬の治療的に重要なアルテミシニンファミリーを増強する。いくつかの実施形態では、新生アルテミシニン耐性Plasmodium株及び脳マラリアを含む、アルテミシニン-システアミン前駆体の組み合わせを用いてマラリアを治療する。マラリアの治療のための好ましいシステアミン前駆体は、2つのシステアミンが生成され得るものであり、すなわち還元時に生成されるチオールの両方がシステアミンに変換可能なジスルフィドシステアミン前駆体である。例示的なジスルフィドシステアミン前駆体には、システアミンとパンテテインまたはシステアミンと4-ホスホパンテテインとを接合させることによって形成されるものが含まれる。ジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与されるジスルフィド結合の還元の好ましい増強剤としては、チオールパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、及び補酵素Aが含まれ、それらの各々はシステアミン前駆体である。
(viii)システアミンは、脂肪細胞によって産生されるシグナル伝達分子であるアディポネクチンの多量体化を促進する。低レベルのアディポネクチンは、インスリン耐性及び炎症と関連し、I型及びII型糖尿病の両方の病因に寄与し得る。高分子量アディポネクチンは、インスリンシグナル伝達を仲介するのに役立ち得る。24週間にわたってシステアミンで治療された非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、高分子量アディポネクチン多量体のレベルが増加した。システアミンは、糖尿病などのインスリン耐性代謝疾患を含む、低アディポネクチンレベルと関連した症状において治療的に有用であり得る。総アディポネクチンに加えて、アディポネクチン多量体の分布は、独立して、個体及び集団間の代謝特性の変動性を説明することができる。
(ix)システアミンは、多面的な抗ウイルス効果を有する。例えば、それは、感染性ウイルス粒子の産生を干渉することによって、プロウイルスDNA形成を遮断することによって、またはタンパク質のシステイン残基との混合ジスルフィドを形成することによって、HIV複製を阻害することができ、それにより細胞膜のジスルフィド架橋構造を改変し、ウイルスの吸着を制限する。システアミンはまた、H5N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2及びH10N7などの鳥インフルエンザウイルス亜型を含む、インフルエンザウイルスA型、B型及びC型の増殖を阻害することができる。システアミンはまた、スペイン、アジア、及び香港インフルエンザウイルス株、ならびにブタ、ウマ、及びイヌインフルエンザウイルスの増殖を阻害することもできる。米国特許第8,415,398号は、システアミンの抗ウイルス用途を開示している。
【0350】
特定の疾患において、システアミンは、上記の作用機序のうちの1つを介して、複数の機序を介して、またはまだ同定されていない1つ以上の機序を介して作用し得る。
【0351】
システアミン有効性の証拠がある疾患及び障害には、シスチン症;神経変性疾患;神経発達障害、例えば、レット症候群;ミトコンドリア障害、例えば、Leigh症候群、MELAS、MERFF、フリードライヒ運動失調症及びPOLG遺伝子の突然変異に関連する病態、ならびにいくつかの形態の自閉症;腎臓(例えば、アルポート病、局所分節性糸球体硬化症(FSGS))、肝臓(例えば、非アルコール性脂肪肝疾患(NASH)及びアルコール性脂肪性肝炎(ASH))、ならびに肺(肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)の線維性疾患;寄生虫疾患(例えば、マラリア及び脳マラリア);鎌状赤血球症;がん;脳卒中;pseudomonas aeruginosaなどのバイオフィルム形成細菌を含む細菌感染;インフルエンザウイルス及びヒト免疫不全ウイルス感染症(AIDS)を含むウイルス感染症;代謝性症候群X及び非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)含む代謝性疾患;銅及び中毒を含む金属中毒;放射線毒性からの保護が挙げられる。
【0352】
システアミンまたはシステアミンに分解可能な化合物にジスルフィド結合した他のチオールは、相補的な治療効果を提供することができる。例えば、システアミンをL-システインと、またはL-システインメチルエステル、L-システインエチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステルまたはN-アセチルシステインアミドなどのL-システイン誘導体と反応させることによって形成されるジスルフィドは、神経変性疾患の治療における、または毒性金属のキレート化及び排泄における補完的な有効性を有し得る。
【0353】
本発明の組成物は、システアミン血中レベルのより良好な制御を可能にする(すなわち、長期間にわたってシステアミンを治療的範囲で維持する)ことによって、また混合ジスルフィドの場合には、任意に第2の治療的チオール部位を提供することによって、これらの疾患の改善された治療を提供し、それにより有効性及び患者の利便性を改善しつつ、副作用及び患者の治療への不遵守を低減する。
【0354】
神経変性疾患
神経変性疾患には、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)及び脳鉄蓄積を伴う神経変性(NBIA)(Hallervorden-Spatz症候群とも呼ばれる)が含まれる。既知の遺伝子突然変異によって様々な程度で引き起こされるこれらの疾患は、ニューロン死を含むニューロンの構造または機能の進行性喪失を特徴とする。HDは、HTT遺伝子のエクソン1におけるCAGトリプレットの拡大に全面的に起因するが、NBIAは、約10個の遺伝子の突然変異と関連し、最も一般的なものはPANK2(症例の30~50%)である。PD及びAD症例のごく一部は、遺伝的起源である。神経変性疾患はまた、様々なタンパク質のミスフォールディング異常(例えば、α-シヌクレインの凝集、タウタンパク質の高リン酸化及び凝集、ならびにβアミロイドタンパク質の凝集)、ならびにタンパク質分解経路の誤調節(例えば、ユビキチン-プロテアソーム経路及び自食作用-リソソーム経路)、膜障害、ミトコンドリア機能不全、軸索輸送の欠陥またはプログラムされた細胞死経路の誤調節(例えば、アポトーシス及び自食作用)と関連している。
【0355】
ハンチントン病(HD)細胞は、シスタチオニン由来のシステインの重要な生成因子である酵素シスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)のレベルが非常に低い。この欠損は、転写レベルで起こり、神経変性の重要な媒介物質であり得る。HD組織及びHDの動物モデルへのシステインの投与は、酸化的ストレス及び他の異常を逆転させる。鉄蓄積を伴う神経変性、パーキンソン病、アルツハイマー病、及び神経発達障害、例えば、レット症候群及び他のMECP-2関連障害を含む、他の神経変性疾患におけるシステイン効力の証拠も存在する。しかしながら、経口投与されたシステインは、低いバイオアベイラビリティを有し、大用量で毒性があり得る。
【0356】
システアミンは、血液脳関門を通過し、インビボでシステインの形成を促進し(例えば、シスチンとのチオール-ジスルフィド交換によって)、システイン生合成のための硫黄源を提供することができる。システアミンは、HDの3つの異なるマウスモデルにおいて有益な効果を呈している。4つの研究は、R6/2マウスモデルにおいて有益な効果を示している。R6/2 HDマウスモデルは、非常に長いCAGトリプレット反復を有する突然変異ヒトHTT対立遺伝子のエクソン1を発現する導入遺伝子を含む。システアミンの有益な影響には、体重減少及び運動異常の改善、ならびに生存の延長が含まれる。一研究では、R6/1マウスモデルにおいても利点が示され、より小さい伸長のCAG反復及びより軽度の表現型を有するエクソン1導入遺伝子を含む。システアミンはまた、伸長CAG反復を有する全長HTT遺伝子を含む、HDのYAC128マウスモデルにおいて有益であることが示されている。システアミンの作用機序は不明である。
【0357】
2014年2月、Raptor Pharmaceutical Corp.は、ハンチントン病におけるRP103(遅延放出システアミン重酒石酸塩)の進行中の3年間の第2/3相臨床試験の予定された18ヶ月間の中間解析からの結果を発表した。合計96名のHD患者を、RP103またはプラセボでの治療に無作為に割り付けた。RP103で治療した患者に、シスチン症のために使用した用量のおよそ半分の、1日あたり1200mgのシステアミンを投与した。89名の患者が、最初の18ヶ月の相を完了した。試験に参加した全96名の患者の分析は、研究の主要なエンドポイントであるRP103で治療した患者における総モータースコア(TMS)の、よりゆっくりした悪化に向かう肯定的な傾向を示した。TMSの進行は、プラセボで治療した患者に対して、RP103で治療した患者において、治療後18ヵ月で32%遅かった(それぞれ4.51対6.68、p=0.19)。同時のテトラベナジンを摂取していない66名の患者において、RP103治療は、プラセボ群と比較したとき、TMSによって測定されるように、疾患進行の統計的に有意な遅延をもたらした(それぞれ2.84点対6.78、p=0.03)。
【0358】
本明細書に記載された神経変性疾患または精神疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+システイン、システアミン+N-アセチルシステイン、システアミン+N-アセチルシステインアミド、システアミン+N-アセチルシステインエチルエステル、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、システアミン+γ-グルタミルシステインエチルエステル、パンテテイン+システイン、パンテテイン+N-アセチルシステイン、システアミン+N-アセチルシステインアミド、パンテテイン+N-アセチルシステインエチルエステル、パンテテイン+3-メルカプトピルビン酸塩、パンテテイン+γ-グルタミルシステインエチルエステル、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+AD4+ジヒドロリポ酸、及びシステアミン+N-アセチルシステインエチルエステル+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0359】
肝疾患
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、米国及び欧州で最も一般的な慢性肝疾患であり、その発生率は、アジア太平洋地域で急速に増加している。米国におけるNAFLD有病率の推定値は、23%~33.6%に及ぶ。代謝性症候群の患者の80%まで(米国ではおよそ4,700万人)が、NAFLDを有する可能性があると推定されている。一部の患者では、NAFLDは、潜在的に致命的な疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及び肝不全の原因の増加に進行し、推定罹患率は、米国において2%~5.7%である。
【0360】
NAFLD、NASH、またはアルコール性脂肪性肝炎(ASH)のFDA承認治療は存在しない。抗酸化ビタミンE、血糖降下剤メトホルミン、ならびにPPARγアゴニストピオグリタゾン及びロシグリタゾンを含む様々な薬剤の臨床試験は、期待外れの結果をもたらした。ファルネソイドX受容体アゴニストである半合成胆汁酸誘導体オベチコール酸の第2相臨床試験が有望視されている。インスリン耐性を標的とする他の実験的治療法が試験されている。
【0361】
2011年、Dohilら(Aliment Pharmacol.Ther.33:1036(2011))は、NAFLDを有する11名の小児において、腸溶性コーティングされたシステアミンの小規模オープンラベルの24週間パイロット試験を行った。システアミンは、11名の患者のうち7名において、肝酵素ALT及びAST(肝細胞障害の指標)の血清レベルを低減し、この効果は、治療終了後6ヶ月間持続した。しかしながら、体格指数(BMI)に影響はなかった。このオープンラベル第2a相臨床試験には、中度~重度のNAFLDならびにベースラインALT及びASTレベルの正常値の上限の少なくとも2倍の、生検で確認された診断を有する小児が関与した。これらの患者には、腸溶性コーティングされたシステアミンを1日2回6ヶ月間与え、その後6ヶ月間の治療後モニタリング期間を設けた。全患者の中で、ALTが平均54%低減し(p=0.004)、ベースラインから少なくとも50%のALT低減の既定の主要評価項目を満たしていた。さらに、患者には、AST(平均41%低減、p=0.02)、サイトケラチン18(平均45%低減、p=0.026)、及びアディポネクチン(平均35%低減、p=0.023)を含む、二次的エンドポイントの改善が見られた。血清トランスアミナーゼは、薬物離脱後に測定され、ALT及びASTの低減は、治療相後6ヶ月の間に持続した。Dohilらによる概念研究のこの証明に続いて、Raptor Pharmaceutical Corp.は、国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)と協働で臨床試験を開始した。小児における非アルコール性脂肪肝疾患の治療のためのシステアミン重酒石酸塩遅延放出(CyNCh)と呼ばれるこの試験は、NIDDKが後援しているNASH臨床研究ネットワークの10ヶ所の米国センターにおいて160名の小児科の参加者を登録した。
【0362】
CyNChは、遅延放出システアミン(RP103)カプセル(≦65kgの患者の場合、1日2回300mgを経口的に、>65~80kgの患者の場合、1日2回375mgを経口的に、または>80kgの患者の場合、1日2回450mgを経口的に)または組織学的に確認されたNAFLDを有する小児にはプラセボのいずれかによる治療の、多施設二重マスク無作為化プラセボ対照第IIb相臨床試験である。肝臓のシステアミンの初回通過代謝は、腸によって吸収されたシステアミンの約40%を除去するため、シスチン症を治療するために使用されるものよりほぼ3倍低いシステアミン用量が可能であり、これはシステアミン感受性疾患の全身治療にとって障害であるが、肝疾患の治療においては利点である。
【0363】
システアミン治療から利益を得ることができる他の肝疾患には、アルコール性脂肪性肝炎及び急性または慢性肝不全が含まれる。
【0364】
本明細書に記載された肝疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+システイン、システアミン+N-アセチルシステイン、システアミン+N-アセチルシステインエチルエステル、システアミン+グルタチオン、システアミン+グルタチオン-モノエチルエステル、システアミン+グルタチオン-ジエチルエステル、システアミン+γ-グルタミル-システイン、システアミン+γ-グルタミルシステインエチルエステル、システアミン+システイニルグリシン、システアミン+ジヒドロリポ酸、パンテテイン+システイン、パンテテイン+N-アセチルシステイン、パンテテイン+N-アセチルシステインエチルエステル、パンテテイン+グルタチオン、パンテテイン+グルタチオン-モノエチルエステル、パンテテイン+グルタチオン-ジエチルエステル、パンテテイン+γ-グルタミル-システイン、パンテテイン+γ-グルタミルシステインエチルエステル、パンテテイン+システイニルグリシン、パンテテイン+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、2N-アセチルシステイン+ジヒドロリポ酸、NAC+システアミン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、N-アセチルシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、及びシステアミン+システイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0365】
マラリア
マラリアにおけるシステアミンの有効性についてのインビトロ及びインビボの証拠は、唯一の治療としても、アルテメシニンの増強剤としても、上記に記載されている。システアミン治療は、マラリア及び脳マラリア患者に利益をもたらす可能性がある。
【0366】
アルテメシニンに対する耐性は、アルテミシニン治療後の寄生虫の有意に遅延されたクリアランスを特徴とする。アルテミシニン誘導体は、1時間の位数の半減期を有し、したがって、数日にわたって少なくとも1日1回の投与を必要とする。例えば、WHOが承認したコアルテムエーテル(アルテムエーテル-ルメファントリン)の成人用量は、0、8、24、36、48、及び60時間(6回投与)で4錠である。同様の短い半減期のため、システアミンは、システアミン前駆体の即時放出製剤を使用する場合、同じスケジュールに従って投与され得るか、または12時間毎に3日間、シスチン症の患者の治療に使用される用量と同様の用量で、すなわち、成人で2.5g/日で投与され得る。
【0367】
シスチン症
シスチン症は、稀な常染色体劣性遺伝性リソソーム蓄積症である。これは、遺伝性腎ファンコニー症候群の最も頻繁かつ潜在的に治療可能な原因である。未治療の腎機能は、人生の最初の10年の終わりまでに急速に悪化し、腎臓移植を必要とする末期の腎臓疾患につながる。シスチン症管理における2つの主要なマイルストーンである、システアミンによるシスチン枯渇療法及び腎臓同種移植は、シスチン症患者の予後にかなりの影響を与えた。しかしながら、システアミン療法の遵守は、重大な副作用及びシステアミン重酒石酸塩(Cystagon(登録商標))の即時放出製剤を使用する場合の厳密な6時間毎の投与レジメンに起因して大きな問題となっている。最近では、システアミン重酒石酸塩(Procysbi(登録商標))の新しい1日2回の遅延放出腸溶性コーティング製剤が、シスチン症の治療のために、米国のFDAによって、及び欧州のEMAによって承認され、Cystagon(登録商標)に対する安全かつ有効な代替であることが示された。システアミンの推奨維持用量(即時放出製剤(Cystagon(登録商標))の場合は6時間毎または遅延放出製剤(Procysbi(登録商標))の場合は1日2回)は、1日に体表面積1平方メートルあたり1.3グラムである。白血球シスチンレベルがWBCタンパク質1ミリグラムあたり1ナノモル1/2シスチンより高いままである場合、用量は1.95グラム/m2/日まで増加させることができる。
【0368】
本明細書に記載されたシスチン症の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、N-アセチルシステアミン+パンテテイン、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、N-アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N-アセチルシステアミン+システイン、及びN-アセチルシステアミン+3-メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0369】
遺伝性ミトコンドリア病
システアミンは、スーパーオキシドフリーラジカル、アルデヒド(脂質過酸化の毒性産物)、及び過酸化水素を含むROSを直接除去する。システアミンはまた、ジスルフィド結合の還元による、ならびにシステイン及びシステイン-システアミン混合ジスルフィドを生じるシスチンとの反応を含む、チオール-ジスルフィド交換反応に関与することによって、他の還元チオールの形成に寄与する。この反応は、細胞性システインプールを増加させる。システインは、グルタチオン(GSH)生合成における律速基質である。グルタチオンは、システイン、グルタミン酸塩、及びグリシンのアミノ酸からなるトリペプチドである。
【0370】
低いGSHレベルは、ミトコンドリア機能を損い、遺伝性ミトコンドリア病を悪化させる場合がある。Salmiら(Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation,2012)は、生化学的及び/または遺伝的に確認されたミトコンドリア病を有する小児の群を研究し、血漿チオールレベル及び酸化還元状態の変化を見出し、酸化ストレスの増加及び抗酸化物質の枯渇を示した。システインを含む細胞チオールレベルを増加させるシステアミンの能力は、ミトコンドリア病を有する患者の相対チオール欠乏に潜在的に対処することができる。システアミンがROSを直接除去する能力は、増加した酸化ストレスに対抗し、これらの疾患における損なわれたミトコンドリア機能を改善し得る。
【0371】
2014年、Raptor Pharmaceuticalsは、Leigh症候群及び他の遺伝性ミトコンドリア病を有する患者において、その遅延放出システアミンであるRP103を、最大1.3g/m2/日を2つの分割用量で12時間毎に最大6ヶ月間投与する、オープンラベルの用量漸増型第2相試験を開始した。
【0372】
例示的な遺伝性ミトコンドリア病としては、フリードライヒ運動失調症、レーバー遺伝性視神経症、ミオクローヌス癲癇及びぼろ赤色線維、ミトコンドリア脳心筋症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様症候群(MELAS)、ケーン・セイヤー症候群、亜急性壊死脳症(Leigh症候群)、及びミトコンドリア心筋症、ならびに複数のミトコンドリアDNA欠失による他の症候群が挙げられる。さらなるミトコンドリア病としては、神経筋衰弱、運動失調症及び網膜色素変性症(NARP)、進行性外眼瞼麻痺(PEO)、ならびにOXPHOS複合体の機能不全に関する複合I疾患、複合II疾患、複合III疾患、複合IV疾患及び複合V疾患が挙げられる。また、POLG遺伝子の突然変異、ならびにある形態の自閉症も含まれる。
【0373】
本明細書に記載されたミトコンドリア病の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、システアミン+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+N-アセチルシステアミン+ジヒドロリポ酸、及びシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0374】
嚢胞性線維症及び他の慢性呼吸器病態
嚢胞性線維症(CF)は、様々な上皮細胞において発現されるcAMP調節塩化物チャネルをコードする、CFTR遺伝子における機能喪失突然変異によって引き起こされる。CFTR機能の欠損は、呼吸器細菌感染症、膵臓機能不全、及び男性不妊症に対する感受性の増加を伴う慢性肺炎症を含む主要な臨床症状につながる。3つの塩基欠失突然変異ΔF508は、北欧及び北米におけるCFの約70~90%を占める。ΔF508-CFTRは、補正分子によって原形質膜で救出された場合、部分的クロリドチャネル活性を保持することができるが、この場合ΔF508-CFTRは、原形質膜から迅速にリサイクルされ、リソソーム分解に転換される。したがって、原形質膜でΔF508-CFTRを安定化させることは、依然として困難な課題である。機能的CFTRの喪失は、反応性酸素種(ROS)及びBECN1のトランスグルタミナーゼ2媒介性架橋及び細胞内アグレソーム内のホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PtdIns3K)クラスIIIの隔離を誘導し、肺の炎症につながる。シスタミンは、BECN1機能及び自食作用を回復させることができ、ヒト細胞における、及びΔF508-CFTR突然変異についてホモ接合性のマウスモデルの気道におけるSQSTM1蓄積及び鈍的な炎症を低減することができる。さらに、シスタミンの投与は、細胞内輸送を救済し、上皮細胞の原形質膜で完全に機能的なΔF508-CFTRを安定化することができ、CFTRコレクタ分子の有益な効果を補完する。自食作用を救済し、炎症を制御するシスタミンの効果は、薬物ウォッシュアウト後も十分に及ぶが、離脱中のCFTR枯渇によって消滅する。システアミン(Novabiotics(登録商標)からのLynovex(登録商標))は、現在入手可能な粘液溶解剤と少なくとも同等の粘液溶解活性を示した。システアミンは、Pseudomonas aeruginosa及び他のCF病原体に対して殺菌性であった。システアミン活性は、CF肺に特徴的な高いイオン濃度には感受性でなかった。システアミンは、P.aeruginosaバイオフィルムの形成を防ぎ、確立されたP.aeruginosaバイオフィルムを破壊した。システアミンは、従来のCF抗生物質と相乗的であり、CF細菌病原体の抗生物質耐性を逆転させる。経口(ゲルカプセル)形態のLynovex(登録商標)は、第IIa相試験を完了した。Novabioticsは、粘液溶解性効果及び抗菌効果の両方を有する単一治療として、嚢胞性線維症のため、またCOPD及び、他の慢性呼吸器病態のためのLynovexを開発している。
【0375】
本明細書に記載された肺疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、N-アセチルシステアミン+パンテテイン、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、N-アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N-アセチルシステアミン+システイン、及びN-アセチルシステアミン+3-メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0376】
腎疾患
システアミンは、腎線維症の2つのマウスモデル、すなわち、尿管狭窄及び腎虚血/再灌流傷害において有効であった(Okamura et al.,J.Am.Soc.Nephrol.25:43(2014))。これらの結果は、酸化的ストレスの低減及び腎傷害に対する筋線維芽細胞応答の減弱を含む、TGF-β非依存性機序によるシステアミンの、以前に認識されていない抗線維化作用を示唆している。
【0377】
線維症はまた、局所分節性糸球体硬化症、アルポート症候群、及び薄い基底膜疾患を含む、糸球体疾患の遺伝型の主要な明示の1つである。
【0378】
本明細書に記載された腎疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、N-アセチルシステアミン+パンテテイン、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、N-アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N-アセチルシステアミン+システイン、及びN-アセチルシステアミン+3-メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0379】
実施例10は、システアミン前駆体のラットの薬物動態研究を記載し、システアミン前駆体の投与後のシステアミンの腎臓レベルは、システアミン重酒石酸塩の投与後に報告されたものよりも、用量投与後10.5時間ではるかに高かった(Dohil et al.Clin.Pharmacol.Drug Dev.4:170(2012))。
【0380】
システイン突然変異に対してアルギニンによって引き起こされる遺伝性疾患
ある特定の遺伝性疾患は、本発明の方法及び組成物を用いて治療することができる。例えば、疾患によって引き起こされる突然変異には、アルギニンのコドンをシステインのコドンに改変するDNA配列変化が含まれる。そのような突然変異のサブセットは、部分的な機能を保持するか、または少なくともリボソームによって完全に合成され、それらの正常な目的地(例えば原形質膜、ミトコンドリア、核等)に輸送されるのに十分に安定なタンパク質において生じる。システアミンは、異常なシステイン残基とジスルフィド結合を形成することができ、そのようにしてアルギニンをある程度模倣し、それにより正常なタンパク質機能をある程度回復させることができる(例えば、Gahl et al.Am J Med Genet 20:409(1985))。したがって、アルギニンからシステアミンへの変化を伴う任意の遺伝性疾患は、システアミン前駆体療法の候補である。そのような疾患としては、第VIII因子遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異による血友病A;CPT1C遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異に起因する純粋常染色体優性痙性対麻痺;TGM6遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異に起因する脊髄小脳失調症35;及び多くの他の疾患が挙げられる。
【0381】
システアミン前駆体及び増強剤で可能なシステアミンの持続レベルは、突然変異タンパク質の進行中のシステアミン化の必要性をよりよく解決する。
【0382】
本明細書に記載されたアルギニンからシステインへの突然変異によって引き起こされる遺伝性疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、N-アセチルシステアミン+パンテテイン、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、N-アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N-アセチルシステアミン+システイン、及びN-アセチルシステアミン+3-メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0383】
心血管疾患
慢性高コレステロール血症と関連したアテローム性動脈硬化症に起因する心疾患、及び虚血性心疾患は、システアミン前駆体で治療可能である。
【0384】
本明細書に記載された心血管疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+補酵素A、N-アセチルシステアミン+補酵素A、パンテテイン+補酵素A、デホスホ-補酵素A+補酵素A、補酵素A+補酵素A、システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+パンテテイン、システアミン+ブシラミン、パンテテイン+ブシラミン、パンテテイン+ジヒドロリポ酸、補酵素A+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ブシラミン、2システアミン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ブシラミン、及びシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0385】
神経発達障害
レット症候群及び他のMECP2関連障害を含む神経発達障害は、システアミン前駆体で治療可能である。
【0386】
他の疾患
鎌状赤血球疾患患者からの赤血球の、システアミンへの暴露は、低酸素条件下での鎌状化の著しい阻害、平均血球ヘモグロビン濃度の減少、及び酸素親和性の有意な増加をもたらした。システアミン治療した赤血球の酸素親和性は、未処理の鎌状赤血球よりもそれらの平均血球ヘモグロビン濃度に依存しなかった。
【0387】
システアミンの抗新生物効果は、癌細胞系及び異種移植モデルにおいて実証されている(Fujisawa et al.,e34437(2012))。特に、システアミンは毒性のない用量依存的様式でマウスの生存を延長した。マトリックスメタロプロテアーゼ活性は、動物異種移植片及びシステアミンで治療した癌細胞株において有意に減少した。
【0388】
長期間のシステアミン療法は、アディポネクチンの多量体化を促進し、システアミンがインスリン耐性、酸化ストレス、及び低下したアディポネクチンレベルと関連した病態、ならびに虚血性傷害において治療的であり得ることを示唆している。
【0389】
本明細書に記載された血液病の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+N-アセチルシステインエチルエステル、システアミン+N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、及びシステアミン+アリルメルカプタン。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0390】
本明細書に記載された感染性疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N-アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3-メルカプトピルビン酸塩、N-アセチルシステアミン+パンテテイン、N-アセチルシステアミン+N-アセチルシステアミン、N-アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N-アセチルシステアミン+システイン、及びN-アセチルシステアミン+3-メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に記載された増強剤を含む。
【0391】
投与レジメン
システアミン感受性障害の治療における血漿システアミンレベルを調節するための本方法は、1つ以上のシステアミン前駆体及び任意にインビボでのシステアミン生成及び/または吸収の1種以上の増強剤を含む1つ以上の組成物を、システアミン感受性疾患または障害の有効な治療を提供するのに十分なシステアミンの血漿レベルの上昇をもたらすために十分な時間及び量で投与することによって実行される。例えば、胃内滞留性及び非胃滞留性持続放出製剤の両方は、それら自体が、3、5、8時間、またはそれ以上にわたってシステアミン前駆体の放出をもたらすことができるが、長期間にわたって治療的濃度範囲のシステアミンのより安定した血中レベルを達成するために、それらの製剤型のいずれかを、即時放出、遅延放出、または結腸標的組成物などの1種以上の他の組成物と同時投与することが望ましい場合がある。混合製剤と呼ばれる2種類の製剤を含有する組成物を投与することもできる。
【0392】
組成物の投与の量及び頻度は、例えば投与されるもの(例えば、どのシステアミン前駆体、どの増強剤、どの種類の製剤)、疾患、患者の状態、及び投与様式に応じて変化し得る。治療的適用において、組成物は、上昇したWBCシスチンレベル(例えば、シスチン症)に罹患している患者に、WBCシスチンレベルを、好ましくは推奨レベルより低く減少させるか、または少なくとも部分的に減少させるために十分な量で投与することができる。投与量は、疾患の種類及び進行の程度、痛みの重症度(例えば、急性、亜急性、または慢性)、特定患者の年齢、体重、及び全身状態、選択された組成物の相対的な生物学的有効性、システアミン代謝における個体間の変動、賦形剤の配合、投与経路、ならびに主治医の判断のような変数に依存する可能性がある。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から誘導された用量反応曲線から推定することができる。有効用量は、例えば、シスチン症の場合、WBCシスチンレベルを減少させること、NASHの場合、肝線維症を停止または逆行させること、神経変性疾患の場合、臨床的に検証された試験によって測定される認知、運動、または情緒的機能を改善することによって、望ましい臨床転帰をもたらす用量である。
【0393】
用量あたりのシステアミン前駆体またはその塩の量は変動し得る。システアミン重酒石酸塩の用量範囲の上端は、1日に体表面積1万平方メートルあたり1.95グラム(単にシステアミンの重量を数える)であり、これは平均成人のシステアミン塩基約3.7グラム/日に相当する。しかしながら、その量のシステアミンは、重大な副作用及び場合によっては治療の中止と関連する。
【0394】
システアミン前駆体の分子量は、インビボでシステアミンに変換可能な画分ほど広く変化する。いくつかの例は、その変化を説明するのに役立つ場合がある。システアミン塩基の分子量は、77.15g/molである。チオールパンテテインの分子量は、278.37g/molである。したがって、システアミン-パンテテインジスルフィドは、およそ353.52の分子量(酸化反応で失われた2つのプロトンに対して調整)を有し、併せて154.3重量の2つのシステアミンにインビボで変換可能である。したがって、システアミン-パンテテインジスルフィドの約43.6%がシステアミンに変換可能である。インビボでのシステアミン-パンテテインジスルフィドのシステアミンへの100%変換を仮定し、さらに同等の生物学的利用能を仮定すると、システアミン-パンテテインジスルフィドの最大用量は、70kgの成人に対して8.5グラム/日、または約0.12g/kg/日の範囲である。システアミン前駆体の生物学的利用能は、患者のインビボでのシステアミンの生成及び吸収能力と一致するように投与された場合、システアミン塩よりも適度に高いと予想される。システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ変換は、100%である可能性は低いが、薬物動態パラメータへの投与レジメンの較正によって、及びシステアミン前駆体の分解及び吸収の適切な増強剤の同時投与によって、非常に高い変換率が達成され得る。
【0395】
ジスルフィドパンテチンは、分子量が554.723g/molであり、還元及びパンテテイナーゼ切断の際に2つのシステアミン分子を生じる(すなわち、パンテチンの27.8%がシステアミンになる)。したがって、上記と同じ仮定を行うと、パンテチンの最大用量は、70kgの成人に対して13グラム/日、または約0.19g/kg/日の範囲である。
【0396】
補酵素Aのような大きなシステアミン前駆体(分子量767.535g/mol)については、システアミン1分子しか得られないため、システアミンに変換可能な用量の画分はわずか約10%であり、その結果、補酵素Aの最大用量は、70kgの成人に対して最大37グラム/日、または約0.5g/kg/日であり得る。その理由から、補酵素Aは、良好な治療効果のためにシステインの高血中レベルを必要とする疾患の唯一の治療として好まれないが、システアミンをより効率的に送達する他のシステアミン前駆体と組み合わせることができる。
【0397】
有用なシステアミン前駆体用量の範囲の下限は、副作用及び忍容性の限界によって決定されるのではなく、全体として効力によって決定され、これは疾患毎に大幅に異なる可能性がある。例えば、肝臓による最初の通過代謝(血液から吸収されたシステアミンの約40%を取り除く)は、肝臓へのシステアミン送達に影響を及ぼさないため、肝疾患の有効用量の範囲は他の疾患よりも低い。
【0398】
例えば、対象は、約0.01g/kg~約0.5g/kgのシステアミン前駆体を受けることができる。一般に、システアミン及びパンテテイン化合物は、ピーク血漿濃度が1μM~45μMの範囲にあるような量で投与される。例示的な投与量は、約0.01~約0.2g/kg、約0.05~約0.2g/kg、約0.1~約0.2g/kg、約0.15~約0.2g/kg、約0.05g/kg~約0.25g/kg、約0.1g/kg~約0.25g/kg、約0.15g/kg~約0.25g/kg、約0.1g/kg~約0.50g/kg、約0.2~約0.5g/kg、約0.3~約0.5g/kg、または約0.35~約0.5g/kgであり得る。例示的な投与量は、約0.005g/kg、約0.01g/kg、約0.015g/kg、約0.02g/kg、約0.03g/kg、約0.05g/kg、約0.1g/kg、約0.15g/kg、約0.2g/kg、または約0.5g/kgである。例示的なピーク血漿濃度は、5~20μM、5~15μM、5~10μM、10~20μM、10~15μM、または15~20μMの範囲であり得る。ピーク血漿濃度は、2~14時間、4~14時間、6~14時間、6~12時間、または6~10時間維持することができる。
【0399】
治療の頻度も異なり得る。対象は、1日あたり1回以上(例えば、1回、2回、もしくは3回)、または非常に多くの時間毎に(例えば、約8、12、または24時間毎に)治療することができる。好ましくは、薬学的組成物は、24時間に1回または2回投与される。治療の時間経過は、異なる期間であってよく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、またはそれ以上の日数、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、4ヶ月間、6ヶ月間、8ヶ月間、10ヶ月間、1年超、または生涯にわたる。例えば、治療は、1日2回を3日間、1日2回を7日間、1日2回を10日間であり得る。治療サイクルは、間隔をあけて、例えば、毎週、隔月、または毎月に繰り返すことができ、これは治療を施さない期間で区切られる。治療は、単一の治療であり得るか、または対象の寿命(例えば、長年)の長さであり得る。
【0400】
併用療法
インビトロデータは、システアミンが、CYP2A6またはCYP3A4によってではなく、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、及びCYP2E1を含む複数のCYP酵素によって代謝される可能性があることを示唆している。システアミンは、インビトロでCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3A4の阻害剤ではない。インビトロでは、システアミンは、P-gp及びOCT2の基質であるが、BCRP、OATP1B1、OATP1B3、OAT1、OAT3、及びOCT1の基質ではない。システアミンは、OAT1、OAT3、及びOCT2の阻害剤ではない。
【0401】
システアミンと他の化合物との相互作用は知られておらず、したがってシステアミン前駆体を、上に列挙した複数の適応症の治療に使用されるいくつかの他の薬物とともに使用することができる。例えば:
本発明の組成物は、限定されないが、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤ドネペジル(Aricept(登録商標))、リバスチグミン(Exelon(登録商標))、またはガランタミン(Razadyne(登録商標))などの1種以上の抗神経変性薬と組み合わせて投与して、軽度から中度のアルツハイマー病を治療することができ、メマンチン(Namenda(登録商標))は軽度から重度のアルツハイマー病を治療するため、カルビドパと組み合わせたレボドパ(例えば、Parcopa(登録商標)、Sinemet(登録商標))はパーキンソン病を治療するため、またプラミペキソール(Mirapoex(登録商標))、ロピニロール(Requip(登録商標))及びロチゴチン(パッチとして与えられるNeupro(登録商標))を含むドーパミンアゴニスト、例えば症状緩和のために使用されるアポモルフィン(Apokyn(登録商標))、セレギリン(Eldepryl(登録商標)、Zelapar(登録商標))及びラサギリン(Azilect(登録商標))を含むMAO-B阻害剤、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、エンタカポン(Comtan(登録商標))、抗コリン作用薬(Cogentin(登録商標))、アマンタジン、鎮静剤、抗うつ剤、及び他の薬物はパーキンソン病及びアルツハイマー病(これらの障害に関連した行動問題を含む)を管理するため、テトラベナジン(Xenazine(登録商標))及びオランザピン、アリピプラゾール、リスペリドン、またはチアプリドなどの他の認可されていない抗喘息治療薬はハンチントン病のために投与することができる。
【0402】
ミトコンドリア病のFDA承認された治療はないが、ビタミン、微量栄養素、及び補酵素Q10などの薬理学的に活性な物質が試験されている。最初に電子輸送鎖と相互作用するように設計されたキノンEPI-743は、グルタチオンのレベルを上昇させる働きをし、ミトコンドリア病の臨床試験中である。
【0403】
アルポート症候群に対する明確な治療は存在しないが、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は、タンパク尿及び腎疾患の進行を低減することができることが研究によって示されている。
【0404】
アルテミシニンは、有効性及び依然として少数の耐性株に起因して、最も重要な抗マラリア薬である。アルテミシニンは、耐性株の出現を低減するための単剤療法としては推奨されていないが、これは既に一部の地域で発生している。化学的にアルテメシニンは、その抗マラリア活性にとって重要であると考えられる特異な過酸化物架橋を含む、セスキテルペンラクトンである。アルテスナート(水溶性:経口、直腸、筋肉内、または静脈内用)、アルテメテル(脂溶性:経口、直腸、または筋肉内用)、ジヒドロアルテミシニン、アルテリン酸、及びアルテモチルを含む、アルテミシニンの半合成誘導体が開発された。他の類似体も合成されている(例えば、Posner et al.,J.Med.Chem.42:300(1999))。
【0405】
代謝症候群を治療するために使用される薬物は、患者に存在する代謝症候群の特定の成分を標的とするように調整される。スタチン及びフィブラートを含むコレステロール低下剤は、一部の患者において有用である。様々なクラスの血圧治療薬を使用することもできる。2型糖尿病を治療するために使用される薬物には、メトホルミンが含まれる。
【0406】
システアミン前駆体は、上記の薬剤のうちのいずれかと組み合わせることができる。
【0407】
バイオマーカー
本発明の治療方法は、投与レジメンまたは患者選択を選択するためのガイドとして、1つ以上のバイオマーカーに従うことを含むことができる。バイオマーカーは、以下のように測定することができる:
血漿システアミン薬物動態は、2区画モデルに基づいて、吸収及び排出半減期、ならびに腸内産生及び吸収の速度が排出速度よりも遅い薬物の「フリップフロップ」薬物動態プロファイル特性を決定する。
【0408】
シスチン症:1nmolの1/2シスチン/mg WBCタンパク質よりも低い投与前白血球(WBC)シスチンレベル。治療が十分に忍容されることを条件とする。投与前WBCシスチンレベルが、2nmolの1/2シスチン/mgタンパク質よりも低い場合、患者は依然として治療から利益を受けることができる。
【0409】
ミトコンドリア疾患:例示的なミトコンドリア活性マーカーとしては、遊離チオールレベル、グルタチオン(GSH)、還元グルタチオン(GSSH)、総グルタチオン、高度酸化タンパク質産物(AOPP)、第二鉄還元抗酸化力(FRAP)、乳酸、ピルビン酸、乳酸塩/ピルビン酸比、ホスホクレアチン、NADH(NADH+H+)またはNADPH(NADPH+H+)、NAD、またはNADPレベル、ATP、嫌気性閾値、還元型補酵素Q、酸化型補酵素Q;総補酵素Q、酸化型シトクロームC、還元型シトクロームC、酸化型シトクロームC/還元型シトクロームC比、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチラート、アセトアセテート/β-ヒドロキシブチレート比、8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)、反応性酸素種のレベル、酸素消費のレベル(VO2)、二酸化炭素輩出(VCO2)のレベル(VCO2)、及び呼吸商(VCO2/VO2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0410】
神経変性疾患:神経変性疾患におけるシステアミン活性は、CNSにおけるシナプス可塑性に必要なNFkB経路の活性化、スルビビン(BIRC5)及びBcl-2様タンパク質12(BCL2L12)の上方調節(どちらもよく特徴付けられた抗アポトーシスタンパク質)、熱ショックタンパク質(HSP40、HSP90)の発現の増加、HD、AD、及びPDを含むタンパク質オリゴマー化を含む神経変性障害に有益なタンパク質ミスフォールディングを伴う病状の緩和、BDNFの発現及び分泌の増加(さらにニューロンの生存及び成長を支援する)、トランスグルタミナーゼ及びカスパーゼの阻害、または単純に、HDに有意に影響を与える可能性がある脳の遊離システインの増加に潜在的に関連し得る。
【0411】
線維性疾患:製品の投与は、システアミンの全身レベルを増加させ、TGF-β経路を介したシグナル伝達を遮断し、筋線維芽細胞の活性化及び増殖を阻害し、多種多様なマトリックス成分の発現を阻害し、MMP-1及びMMP-3を上方調節する。
【0412】
寄生虫疾患:製品の投与が、マラリア及び脳マラリアの治療のためのアルテミシニン及び誘導体との相乗効果を有するであろうシステアミンの全身レベルを増加させることが企図される。
【0413】
全ての徴候について、有害事象は適切な基準を用いて測定される。有害事象としては、皮膚発疹、皮膚病変、発作、嗜眠、うずき、うつ病、脳症、胃腸潰瘍及び/または出血、悪心、嘔吐、食欲不振(拒食症)、下痢、発熱、ならびに腹痛が挙げられる。AEの重症度は、有害事象共通用語規準(CTCAE)バージョン3.0[Cancer Therapy Evaluation Program,2003]またはそうでなければ以下を使用して分類される。軽度(グレード1):経験がわずかであり、対象に対する著しい不快感または日常生活動作(ADL)の変化を引き起こさない。対象は、症状を自覚しているが、症状は容易に忍容される。中度(グレード2):経験が対象にとって不都合または懸念事項であり、ADLの干渉を引き起こすが、対象は、ADLを継続することができる。重度(グレード3):経験は、ADLを著しく干渉し、対象は、動けなくなり、及び/またはADLを継続することができなくなる。致命的(グレード4):調査者の見解において、対象は、事象が起こったときにその事象から即時の死の危険に曝される(すなわち、より重篤な形態で起こり、死を引き起こしていたかもしれない事象を含まない)。上記で定義したCTCAE基準により、グレード5のカテゴリーは死亡である
【0414】
キット
本明細書に記載された薬学的組成物のいずれも、一連の指示とともに、すなわちキットを形成するために一緒に使用することができる。キットは、本明細書に記載されている治療剤としての薬学的組成物の使用説明書を含むことができる。例えば、説明書は、システアミン感受性障害の治療において血漿中のシステアミン濃度を調節するための本発明の化合物の使用のための投薬及び治療法を提供することができる。
【0415】
配合剤は、キットとして一緒に包装することができる。非限定的な例としては、例えば、2つの丸剤、丸剤及び粉末、坐剤及び丸剤、錠剤等を含むキットが挙げられる。さらに、単位用量キットは、組成物の調製及び投与のための説明書を含むことができる。キットは、1人の患者のための1回使用単位用量、特定の患者のための複数回の使用(一定用量で、または個々の化合物は、治療が進むにつれて効力が異なる可能性がある)として製造することができるか、またはキットは、複数の患者への投与に適した複数の用量(「バルク包装」)を含み得る。キット構成要素は、カートン、ブリスターパック、ボトル、チューブ等に組み立てることができる。
【0416】
本発明は、以下の項目別の態様及び実施形態を含む。
【0417】
1.(i)胃内滞留のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、該第1の活性成分が、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、薬学的組成物。
【0418】
2.該第1の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である、項目1に記載の組成物。
【0419】
3.該第1の活性成分が、システアミンをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドを含む、項目2に記載の組成物。
【0420】
4.該第1の活性成分が、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドを含む、項目2に記載の組成物。
【0421】
5.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンから選択することができ、またはジエチルジチオカルバミン酸は、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される、項目3または4に記載の組成物。
【0422】
6.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールが、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及びギ酸からなる群から選択される置換基をさらに含む、項目3または4に記載の組成物。
【0423】
7.該胃内滞留性製剤が、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化物質を含む製剤、またはそれらの組み合わせを含む、項目1に記載の組成物。
【0424】
8.該胃内滞留性製剤が、(i)1種以上のポリマー、及び(ii)発泡剤を含むマトリックスを含む浮遊性製剤である、項目7に記載の組成物。
【0425】
9.該発泡剤が、炭酸塩及び酸を含む、項目8に記載の組成物。
【0426】
10.該胃内滞留性製剤が、(i)イオン感受性ゲル化ポリマー、(ii)熱感受性ポリマー、及び(iii)pH感受性ゲル化ポリマーから選択されるゲル化ポリマーを含む液体ゲル化製剤である、項目7に記載の組成物。
【0427】
11.該胃内滞留性製剤が、(i)水膨潤性ポリマーマトリックス、及び(ii)ポリアルキレンオキシド、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール、及びポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;セルロースポリマー;アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、コポリマー、及びそのエステル(好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、及びそれらのコポリマーから形成される)、互いにまたはアミノエチルアクリレートなどの付加的なアクリレート種とともに形成される;無水マレイン酸コポリマー;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミド自体などのポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、及びポリ(N-イソプロピル-アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)などのポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)などのポリ(N-ビニルラクタム)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、及びそれらのコポリマー、グリセロール、ポリグリセロール(特に高度に分岐したポリグリセロール)、プロピレングリコール、及び1つ以上のポリアルキレンオキシドで置換されたトリメチレングリコール)などのポリオール、例えば、モノ-、ジ-、及びトリ-ポリオキシエチレン化グリセロール、モノ-及びジ-ポリオキシエチレン化プロピレングリコール、ならびにモノ-及びジ-ポリオキシエチル化トリメチレングリコール;ポリオキシエチレン化ソルビトール及びポリオキシエチレン化グルコース;ポリ(メチルオキサゾリン)及びポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート、ポリエチレンイミンなどのポリイミン;デンプン及びデンプンベースのポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖ガム;ゼリン;ならびにシェラック、アンモニア化シェラック、シェラック-アセチルアルコール、及びシェラックN-ブチルステアレートから選択される親水性ポリマーを含む、膨張性マトリックス製剤である、項目7に記載の製剤。
【0428】
12.(i)遅延放出のために配合された、システアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分と、(ii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第2の活性成分であって、該第1の活性成分が、小腸内で最初に放出するために配合され、該第2の活性成分が、胃内または小腸内で最初に放出するために配合される、第2の活性成分と、(iii)少なくとも1種の薬学的賦形剤との混合製剤を含む、薬学的組成物。
【0429】
13.該第2の活性成分と該第1の活性成分との比が、1:1より大きい、項目12に記載の組成物。
【0430】
14.該第1の活性成分及び/または第2の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である、項目13に記載の組成物。
【0431】
15.該第1の活性成分及び/または第2の活性成分が、システアミンをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドを含む、項目14に記載の組成物。
【0432】
16.該第1の活性成分及び/または第2の活性成分が、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドを含む、項目14に記載の組成物。
【0433】
17.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンから選択することができ、またはジエチルジチオカルバミン酸は、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される、項目15または16に記載の組成物。
【0434】
18.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールが、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及びギ酸からなる群から選択される置換基をさらに含む、項目15または16に記載の組成物。
【0435】
19.該システアミン前駆体が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステインジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテインジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、項目1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【0436】
20.該システアミン前駆体が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、項目19に記載の組成物。
【0437】
21.該組成物が、該第1の活性成分の微粒子及び該第2の活性成分の微粒子を含む、項目12に記載の組成物。
【0438】
22.該組成物が、ポリメタクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及びエチルセルロースから選択されるポリマーを含む腸溶性コーティングを含む、項目1~21のいずれか1項に記載の組成物。
【0439】
23.以下:
(i)即時放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、最初に胃で放出される、第1の活性成分と、
(ii)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第2の活性成分と、
(ii)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む、第3の活性成分と、
(iv)任意に、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分であって、最初に大腸で放出される、第4の活性成分と、
(v)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、の混合製剤を含む、薬学的組成物。
【0440】
24.該混合製剤が、遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第4の活性成分を含み、該第4の活性成分が、最初に大腸で放出される、項目23に記載の組成物。
【0441】
25.該第4の活性成分が、(i)pH6.8、6.9、または7.0より上で溶解するpH感受性ポリマーとともに、(ii)腸内細菌によって生分解性であるが膵臓酵素によっては分解されないポリマーとともに、(iii)担体、pH感受性ポリマー、微生物分解性ポリマー、生分解性マトリックス、またはヒドロゲルとの共有結合として、(iv)酸化還元感受性ポリマーとともに、(v)生体付着性ポリマーとともに、または(vi)浸透圧制御製剤として配合される、項目24に記載の組成物。
【0442】
26.該第1の活性成分、第2の活性成分、第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含むシステアミン前駆体である、項目23~25のいずれか1項に記載の組成物。
【0443】
27.(a)該第1の活性成分及び該第2の活性成分が、システアミンをチオールとを反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドを含み、(b)該第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分が、システアミン前駆体代謝の増強剤、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤を含む、項目23~25のいずれか1項に記載の組成物。
【0444】
28.(a)該第1の活性成分及び該第2の活性成分が、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールとを反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドを含み、(b)該第3の活性成分、及び存在する場合、第4の活性成分が、システアミン前駆体代謝の増強剤、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤を含む、項目23~25のいずれか1項に記載の組成物。
【0445】
29.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンから選択することができ、またはジエチルジチオカルバミン酸は、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される、項目27または28に記載の組成物。
【0446】
30.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールが、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及びギ酸からなる群から選択される置換基をさらに含む、項目27または28に記載の組成物。
【0447】
31.該組成物が、該第1の活性成分の微粒子、該第2の活性成分の微粒子、該第3の活性成分、及び存在する場合、該第4の活性成分を含む、項目23に記載の組成物。
【0448】
32.該組成物が、ポリメタクリレート、ポリエチルアクリレート、アクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及びエチルセルロースから選択されるポリマーを含む腸溶性コーティングを含む、項目23~31のいずれか1項に記載の組成物。
【0449】
33.該第4の活性成分が、pH6.8、6.9、または7.0より上で溶解するpH感受性ポリマーと配合される、項目25に記載の組成物
【0450】
34.該第4の活性成分が、腸内細菌によって生分解性であるが、膵臓酵素によっては分解されない微生物叢分解性ポリマーと配合される、項目25に記載の組成物。
【0451】
35.該第1の活性成分が、摂取後約10分~30分の間に該組成物から放出される、項目23に記載の組成物。
【0452】
36.該第2の活性成分、該第3の活性成分、存在する場合、及び存在する場合、該第4の活性成分が、摂取後約1.5時間~8時間の間に該組成物から放出される、項目12、23、または24に記載の組成物。
【0453】
37.対象への投与後に、システアミンの循環血漿濃度が、少なくとも8時間の期間にわたって5μM~45μMで連続的に維持される、項目1~36のいずれか1項に記載の組成物。
【0454】
38.該組成物が、経口投与のための液体製剤である、項目1~37のいずれか1項に記載の組成物。
【0455】
39.該組成物が、経口投与のための再構成可能な粉末製剤である、項目1~37のいずれか1項に記載の組成物。
【0456】
40.該組成物が、経口投与のための単位剤形である、項目1~37のいずれか1項に記載の組成物。
【0457】
41.該単位剤形が、錠剤またはカプセルである、項目40に記載の組成物。
【0458】
42.パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィドまたはシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテインジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、化合物。
【0459】
43.該化合物が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、項目42に記載の化合物。
【0460】
44.項目42もしくは43の混合ジスルフィドまたはその塩を含む、単位剤形の薬学的組成物。
【0461】
45.混合ジスルフィドを含む1種以上の活性成分を含む、単位剤形の薬学的組成物。
【0462】
46.該混合ジスルフィドが、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、システアミン及びN-アセチル-システイン、システアミン及びホモシステイン、システアミン及びグルタチオン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びデホスホ補酵素A、システアミン及び補酵素A、4-ホスホパンテテイン及び補酵素A、パンテテイン及びN-アセチル-システイン、パンテテイン及びホモシステイン、パンテテイン及びシステイン、パンテテイン及びグルタチオン、または2つのシステアミン及びジヒドロリポ酸から形成される、項目44に記載の薬学的組成物。
【0463】
47.該混合ジスルフィドが、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、またはシステアミン及びパンテテインから形成される、項目46に記載の薬学的組成物。
【0464】
48.該活性成分が、胃内滞留、即時放出、遅延放出、持続放出、及び/または結腸標的放出のために配合される、項目44~47のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【0465】
49.該薬学的組成物が、腸溶性コーティングを含む、項目48に記載の薬学的組成物。
【0466】
50.前記薬学的組成物が、混合ジスルフィドの微粒子を含み、混合ジスルフィドがシステアミン前駆体である、項目48に記載の薬学的組成物。
【0467】
51.該胃内滞留性製剤が、浮遊性製剤、液体ゲル化製剤、粘膜付着性製剤、展開もしくは形状変化製剤、磁化物質を含む製剤、膨張性マトリックス製剤、またはそれらの組み合わせを含む、項目48に記載の薬学的組成物。
【0468】
52.項目1、項目12、及び項目23のいずれか1項に記載の組成物を含む単位剤形の薬学的組成物であって、該単位剤形が、(i)該第1活性成分の単位用量あたり約50mg~約1,000mgを含む、薬学的組成物。
【0469】
53.該単位剤形が、(i)単位用量あたり約50mg~約1,000mgの該第1活性成分、及び(ii)単位用量あたり約50mg~約1,000mgの該第2の活性成分を含む、項目12または23に記載の薬学的組成物。
【0470】
54.該単位剤形が、(i)単位用量あたり約50mg~約600mgの該第1の活性成分、(ii)単位用量あたり約50mg~約400mgの該第2の活性成分、(iii)単位用量あたり約50mg~約400mgの該第3の活性成分、及び(iv)単位用量あたり約50mg~約400mgの該第4の活性成分を含む、項目23に記載の薬学的組成物。
【0471】
55.対象におけるシステアミン感受性障害を治療するための方法であって、該障害を治療するために、治療有効量の項目1~41または44~54のいずれか1項に記載の薬学的組成物を対象に投与することを含む、方法。
【0472】
56.該薬学的組成物が、少なくとも8時間にわたって5μM~45μMで連続的に維持されるシステアミンの平均循環血漿濃度をもたらす量または投与レジメンで投与される、項目55に記載の方法。
【0473】
57.システアミンの平均循環血漿濃度が、少なくとも8時間~24時間の期間にわたって5μM~45μMで連続的に維持される、項目56に記載の方法。
【0474】
58.該システアミン感受性障害が、シスチン症、神経変性疾患、神経発達疾患、精神神経疾患、ミトコンドリア病、腎臓、肝臓、または肺の線維性疾患、寄生虫疾患、鎌状赤血球症、癌、脳卒中を含む虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、細菌感染症、ウイルス感染症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎、及び非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)から選択される、項目55~57のいずれか1項に記載の方法。
【0475】
59.該感受性障害が、ハンチントン病、脳鉄蓄積を伴う神経変性障害、パーキンソン病、及びアルツハイマー病を含む群から選択される神経変性疾患である、項目58に記載の方法。
【0476】
60.該感受性障害が、レット症候群及びMECP2突然変異と関連した他の障害から選択される神経発達障害である、項目58に記載の方法。
【0477】
61.該感受性障害が、Leigh症候群、MELAS、MERFF、及びフリードライヒ運動失調症から選択されるミトコンドリア病である、項目58に記載の方法。
【0478】
62.該感受性障害が、アルポート病、局所分節性糸球体硬化症(FSGS)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、及び肺線維症から選択される線維性疾患である、項目58に記載の方法。
【0479】
63.該感受性障害が、マラリア及び脳マラリアから選択される寄生虫疾患である、請求項58に記載の方法。
【0480】
64.該感受性障害が、癌である、請求項58に記載の方法。
【0481】
65.少なくとも1つの付加的な薬剤を投与することをさらに含む、項目55~64のいずれか1項に記載の方法。
【0482】
66.該付加的な薬剤が、ジスルフィド結合の化学的還元を促進する薬剤、腸パンテテイナーゼの発現または活性を促進する薬剤、小腸及び/または大腸におけるシステアミンの吸収を促進する薬剤、システアミンの制御放出を促進する薬剤、治療剤、またはそれらの組み合わせを含む群から選択される、項目65に記載の方法。
【0483】
67.該付加的な薬剤が、有機カチオン輸送体(OCT)の発現または活性の誘導物質を含む吸収を促進する薬剤である、請求項66に記載の方法。
【0484】
68.該付加的な薬剤が、還元剤、システアミン分解の阻害剤、パンテテイナーゼ誘導剤、有機カチオン輸送体を含む薬剤、またはそれらの組み合わせを含む群から選択されるシステアミン前駆体からのシステアミンの制御放出を促進する薬剤である、項目66に記載の方法。
【0485】
69.該付加的な薬剤が、グルタチオン、グルタチオンジエチルエステル、γグルタミルシステイン、リポ酸、ジヒドロリポ酸、N-アセチルシステイン、ホモシステイン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはアスコルビン酸を含む群から選択される還元剤である、項目68に記載の方法。
【0486】
70.PPARαアゴニスト、PPARγアゴニスト、またはNrf2誘導剤を含む群から選択されるパンテテイナーゼ誘導剤である、請求項68に記載の方法。
【0487】
71.該パンテテイナーゼ誘導剤が、天然産物である、項目70に記載の方法。
【0488】
72.該天然産物が、スルフォラファン、S-アリルシステイン、ジアリルトリスルフィド、酸化脂肪、オメガ-3脂肪酸、またはオレイルエタノールアミドを含む、アブラナ科野菜に存在するイソチオシアネートである、請求項71に記載の方法。
【0489】
73.該付加的な薬剤が、β-アドレナリン受容体拮抗剤、カルシウムチャネル遮断剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、アルテミシニン、アルテナート、ジヒドロアルテミシニン、ゲムシタビン、化学療法剤、またはそれらの組み合わせを含む群から選択される治療剤である、項目66に記載の方法。
【0490】
74.該少なくとも1つの付加的な薬剤が、該組成物の投与と同時に投与される、項目65~73のいずれか1項に記載の方法。
【0491】
75.該付加的な薬剤が、還元剤である、請求項74に記載の方法。
【0492】
76.該少なくとも1つの付加的な薬剤が、該組成物の投与前に投与される、項目65~73のいずれか1項に記載の方法。
【0493】
77.該付加的な薬剤が、パンテテイナーゼ誘導剤または有機カチオン輸送体誘導剤である、請求項76に記載の方法。
【0494】
78.該少なくとも1つの付加的な薬剤が、該組成物の投与後に投与される、項目65~73のいずれか1項に記載の方法。
【0495】
79.該第2の薬剤と該組成物の投与の間の時間が、約30分~約6時間の範囲である、項目77または78に記載の方法。
【0496】
80.該第2の薬剤の投与と該組成物の投与との間の時間が、多くても2日である、項目77または78に記載の方法。
【0497】
81.該組成物が、胃内滞留性製剤である、項目55~80のいずれか1項に記載の方法。
【0498】
82.該組成物が、単位剤形で投与される、項目55~81のいずれか1項に記載の方法。
【0499】
83.該単位剤形が、1日あたり少なくとも1回、該対象に投与される、項目82に記載の方法。
【0500】
84.該単位剤形が、1日あたり2回または3回、該対象に投与される、項目82に記載の方法。
【0501】
85.該対象が、小児または青年である、項目55~84のいずれか1項に記載の方法。
【0502】
86.対象の集団における特定の対象について項目1~54のいずれか1項に記載の組成物の投与レジメンを選択するための方法であって、
(a)該組成物の投与前に該対象から第1の生体試料を収集し、第1の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーの発現を検出することと、
(b)少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを少なくとも1つのバイオマーカーの基準発現レベルと比較することであって、基準レベルに対する少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの変化が、特定の投与レジメンでの治療に応答する、比較することと、
(c)対象の特定されたバイオマーカーレベルに対応する投与レジメンを選択することと、を含み、
(d)該組成物を、選択された投与レジメンで特定の対象に投与することをさらに含む、項目86に記載の方法。
【0503】
87.該バイオマーカーが、VNN1及び/またはOCT中の単一のヌクレチド多型(SNP)を含む群から選択される、項目86に記載の方法。
【0504】
88.対象の集団における特定の対象が、項目1~54のいずれか1項に記載の組成物による治療に応答しているかどうかを判定するための方法であって、
(a)該組成物の投与前に該対象から第1の生体試料を収集し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第1の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを単離することと、
(b)該組成物の投与後に該対象から第2の生体試料を収集し、システアミン、システイン、またはグルタチオン代謝を示す第2の生体試料からの1つ以上のバイオマーカーを単離することと、
(c)該第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを、該第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーと比較することと、を含み、該第2の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーに対する該第1の生体試料からの少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの変化が、治療に対する該対象の応答レベルを示す、方法。
【0505】
89.該バイオマーカーが、白血球(WBC)シスチンのレベルである、請求項88に記載の方法。
【0506】
90.該バイオマーカーは、グルタチオン(GSH)、還元グルタチオン(GSSH)、総グルタチオン、高度酸化タンパク質産物(AOPP)、第二鉄還元抗酸化力(FRAP)、乳酸、ピルビン酸、乳酸塩/ピルビン酸比、ホスホクレアチン、NADH(NADH+H+)もしくはNADPH(NADPH+H+)、NAD、またはNADPレベル、ATPレベル、嫌気性閾値、還元型補酵素Q、酸化型補酵素Q;総補酵素Q、酸化型シトクロームC、還元型シトクロームC、酸化型シトクロームC/還元型シトクロームC比、アセトアセテート、β-ヒドロキシブチラート、アセトアセテート/β-ヒドロキシブチレート比、8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)、反応性酸素種のレベル、酸素消費のレベル(VO2)、二酸化炭素輩出(VCO2)のレベル(VCO2)、及び呼吸商(VCO2/VO2)を含む群から選択される1つ以上のミトコンドリア活性マーカーを含む、項目88に記載の方法。
【0507】
91.該バイオマーカーが、該生体試料中の1つ以上の遊離チオールのレベルの尺度である、項目88に記載の方法。
【0508】
92.該生体試料が、血液、組織、及び細胞を含む群から選択される、項目86~91のいずれか1項に記載の方法。
【0509】
93.項目1~54のいずれか1項に記載の組成物を含むキットであって、該組成物を含むボトル、バイアル、アンプル、チューブ、パッケージ、サシェ、またはカートリッジ、及び該組成物を投与するための説明書を含む、キット。
【0510】
94.該組成物が、固体、ゲル、または液体製剤を含む、項目93に記載のキット。
【0511】
95.該製剤が、粉末、錠剤、またはカプセルとして調製される、項目94に記載のキット。
【0512】
96.溶媒、溶液、または緩衝液をさらに含む、項目93~95のいずれか1項に記載のキット。
【0513】
97.以下:
(i)即時放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む第1の活性成分であって、該第1の活性成分が、最初に胃で放出される、第1の活性成分を含む、第1の単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、キット。
【0514】
98.さらに、
(i)胃内滞留性放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第2の単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、項目97に記載のキット。
【0515】
99.さらに、
(i)遅延放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第3の単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、項目97または98に記載のキット。
【0516】
100.さらに、
(i)持続放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第4の単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、項目97~99のいずれか1項に記載のキット。
【0517】
101.さらに、
(i)結腸標的放出のために配合されたシステアミン前駆体またはその薬学的に許容される塩を含む活性成分を含む、第5の単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、項目97~100のいずれか1項に記載のキット。
【0518】
102.該活性成分が、パンテテイン、パンテチン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、システアミン混合ジスルフィド、パンテテイン混合ジスルフィド、4-ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、補酵素A混合ジスルフィド、またはN-アセチルシステアミン混合ジスルフィドを含む、システアミン前駆体である、項目97~101のいずれか1項に記載のキット。
【0519】
103.該活性成分が、システアミンをチオールと反応させることによって形成されるシステアミン混合ジスルフィドを含む、項目97~101のいずれか1項に記載のキット。
【0520】
104.該活性成分が、パンテテインまたは4-ホスホパンテテインをチオールと反応させることによって形成されるパンテテイン混合ジスルフィドを含む、項目97~101のいずれか1項に記載のキット。
【0521】
105.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニンから選択することができ、またはジエチルジチオカルバミン酸は、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択される、項目103または104に記載のキット。
【0522】
106.該チオールが、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド、ホモシステイン、N-アセチルシステアミン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン、及びN,N′-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドから選択され、チオールが、アセチル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及びギ酸からなる群から選択される置換基をさらに含む、項目103または104に記載のキット。
【0523】
107.該混合ジスルフィドが、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、システアミン及びN-アセチル-システイン、システアミン及びホモシステイン、システアミン及びグルタチオン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びパンテテイン、システアミン及び4-ホスホパンテテイン、システアミン及びデホスホ補酵素A、システアミン及び補酵素A、4-ホスホパンテテイン及び補酵素A、パンテテイン及びN-アセチル-システイン、パンテテイン及びホモシステイン、パンテテイン及びシステイン、パンテテイン及びグルタチオン、または2つのシステアミン及びジヒドロリポ酸を含む群から選択される、項目103または104に記載のキット。
【0524】
108.該混合ジスルフィドが、パンテテイン及びN-アセチル-L-システイン、パンテテイン及びN-アセチルシステアミン、またはシステアミン及びパンテテインから形成される、項目107に記載のキット。
【0525】
109.遅延放出のために配合された活性成分を含む該第3の単位剤形が、腸溶性コーティングを含む、項目99に記載のキット。
【0526】
110.該活性成分が、複数の腸溶性コーティングされた微粒子を含む、項目109に記載のキット。
【0527】
111.該結腸標的製剤が、担体、pH感受性ポリマー、微生物分解性ポリマー、生分解性マトリックスまたはヒドロゲル、多層時間放出製剤、酸化還元感受性ポリマー、生体付着性ポリマー、浸透圧制御製剤、またはそれらの任意の組み合わせを含む、項目101に記載のキット。
【0528】
112.該pH感受性ポリマーが、pH6.8、6.9、または7.0より上で溶解する、項目111に記載のキット
【0529】
113.該微生物分解性ポリマーが、腸内細菌によって生分解性であるが、膵臓酵素によっては分解されない、項目111に記載のキット。
【0530】
114.該第1の単位剤形が、摂取後約10分~30分の間に該組成物から放出される、項目97~113のいずれか1項に記載のキット。
【0531】
115.該第2の単位剤形が、摂取後約1時間~8時間の間に該組成物から放出される、項目98~114のいずれか1項に記載のキット。
【0532】
116.該第1の単位剤形が、経口または直腸投与のために配合される、項目97~115のいずれか1項に記載のキット。
【0533】
117.該第1の単位剤形が、粉末、液体、錠剤、またはカプセルである、項目97~115のいずれか1項に記載のキット。
【0534】
118.該第1の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約5,000mgの該第1の活性成分を含む、項目97に記載のキット。
【0535】
119.該(i)第1の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約2,500mgの該第1活性成分を含み、(ii)該第2の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約3,000mgの該第2の活性成分を含む、項目98に記載のキット。
【0536】
120.該(i)第1の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約600mgの該第1の活性成分を含み、(ii)第2の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約4,000mgの該第2の活性成分を含み、(iii)第3の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約800mgの該第3の活性成分を含む、項目99に記載のキット。
【0537】
121.該(i)第1の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約600mgの該第1の活性成分を含み、(ii)第2の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約4,000mgの該第2の活性成分を含み、(iii)第3の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約800mgの該第3の活性成分を含み、(iv)第4の単位剤形が、単位用量あたり約50mg~約800mgの該第4の活性成分を含む、項目100に記載のキット。
【0538】
122.さらに、
(i)システアミン前駆体代謝の増強剤、システアミン取り込みの増強剤、またはシステアミン異化の阻害剤を含む、単位剤形の薬学的組成物と、
(ii)少なくとも1種の薬学的賦形剤と、を含む、項目97~121のいずれか1項に記載のキット。
【0539】
123.該薬学的賦形剤が、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、疎水性不活性マトリックス、カルボマー、ヒプロメロース、ゲルシール43/01、ドキュセートナトリウム、及び白蝋を含む群から選択される、項目97~122のいずれか1項に記載のキット。
【0540】
124.該システアミン感受性障害が、罹患組織におけるパンテテイナーゼの発現を特徴とし、対象に4-ホスホパンテテインまたはその前駆体を投与することを含む、項目55~85のいずれか1項に記載の方法。
【0541】
125.該システアミン感受性障害が、罹患組織におけるパンテテイナーゼの発現を特徴とし、組織を4-ホスホパンテテインまたはその前駆体を接触させることを含む、項目55~85のいずれか1項に記載の方法。
【0542】
126.該システアミン感受性障害が、腎臓疾患、肺疾患、肝臓疾患、炎症性疾患、感染症、及びパントテネートキナーゼ関連神経変性から選択される、項目124または125に記載の方法。
【0543】
127.該システアミン感受性障害が、シスチン症、シスチン尿症、糸球体腎炎、特発性肺線維症、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、インフルエンザウイルス感染症、細菌性肺炎、マラリア、及びパントテン酸キナーゼ関連神経変性から選択される、項目126に記載の方法。
【実施例0544】
以下の実施例は、本明細書で請求される方法及びシステムがどのように実施され評価されるかについての完全な開示及び記載を当業者に提供するために提示され、本発明の純粋な例示であり、発明者が発明と見なす範囲を限定することを意図しない。
【0545】
実施例1.混合ジスルフィドの効率的合成
混合ジスルフィドの効率的な合成のための多様な方法は、いくつかの研究グループによって記載されており(Witt et al.Langmuir 23:2318(2007)、Musiejuk et al.Org.Prep.and Proc.47.2:95(2015)によるレビューを参照)、システイン及びシステイン類似体に特異的な方法を含む(例えば、Szymelfejnik et al.Synthesis 22:3528(2007)、Gormer et al.J.Org.Chem.75.5:1811(2010))。例えば、チオール-ジスルフィド交換を促進するための2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(DDQ)の使用に基づく最近の改良が報告されている(Musiejuk et al.RSC Advances 5.40:31347(2015))。
【0546】
これらの方法は、2つの異なるチオールを組み合わせたとき、混合ジスルフィドの(2つのホモ二量体ジスルフィドに対する)優先的合成を可能にする。本実施例では、チオー、システアミン、及びパンテテインを、Antoniow et al.,Synthesis 3:363(2007)によって記載された手順を用いてカップリングさせる。この手順の変形を使用して、他の対のチオールを選択的にカップリングさせることもできる。
【0547】
この手順のための試薬は、(i)ビス(5,5-ジメチル-2-チオノ-1,3,2-ジオキサホスホリナニル)ジスルフィド(略して「ジチオリン酸試薬」と称する)、(ii)臭素、(iii)システアミン、(iv)ジクロロメタン、及び(v)パンテテインである。すべての試薬は、医薬品グレードである。
【0548】
ステップ1.乾燥(無水)ジクロロメタン中のジチオリン酸試薬の7ミリモル溶液を、窒素雰囲気下、-5℃でで作製する(例えば、27.6グラムのジスルフィド試薬を1リットルのジクロロメタンを添加する)。
【0549】
ステップ2.窒素雰囲気下、-5℃で上記溶液に臭素を6ミリモルの最終濃度まで添加する。
【0550】
ステップ3.乾燥ジクロロメタン中のパンテテインの11ミリモル溶液を作製する。
【0551】
ステップ4.ステップ2を完了してから30分後、ステップ2で作製した溶液の体積の5パーセントである体積のパンテテイン溶液(ステップ3からの)を添加する(例えば、50mLのパンテテイン溶液を、1リットルのステップ2溶液に添加する)。室温で30分間撹拌する。
【0552】
ステップ5.反応産物を脱イオン水(500ミリリットル)で洗浄し、次いで無水MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる。
【0553】
ステップ6.残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2-ヘキサン、1:1)によって精製して、ジスルフィド試薬-パンテテイン(DR-P)の純粋なジスルフィドを得る。
【0554】
ステップ7.ジクロロメタン中に懸濁したDR-Pの0.5ミリモル溶液に、システアミン(乾燥ジクロロメタン中、0.5ミリモル)及びトリエタノールアミン(2ミリモル)を6:4:2(DR-P:システアミン:トリエタノールアミン)の比で添加し、室温で15分間撹拌する。
【0555】
ステップ8.ステップ7の反応体積に、(i)5体積のジクロロメタン、(ii)5体積の蒸留水、及び(iii)5体積の(a)NaHCO3の飽和水溶液または(b)1M HClのいずれかを添加する。
【0556】
ステップ9.ステップ8からの有機層を無水MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる
【0557】
ステップ10.ステップ9からの残渣を懸濁し、シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーによって精製する。
【0558】
上記プロトコルに関する詳細及び選択的ジスルフィド合成のための多数の他のプロトコルへの言及は、Musiejuk,M.and D.Witt.Organic Preparations and Procedures International 47:95(2015)に見出すことができる。
【0559】
実施例2.システインまたはシステイン類似体を含有する混合ジスルフィドの選択的合成
混合ジスルフィドシステアミン前駆体の産生に有用なチオールの中には、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステインアミド及びホモシステイン、ならびにシステイングリシン、γグルタミルシステイン、γグルタミルシステインエチルエステルを含むシステイン含有化合物、ならびにグルタチオン(グリシン、L-システイン、及びL-グルタメートのトリペプチドであり、L-システインのアミノ部位とのイソペプチド結合を有するL-グルタメートを含む)及びグルタチオン誘導体がある。
【0560】
上記及び他のシステイン誘導体またはシステイン含有化合物をシステアミン、N-アセチルシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはこれらの化合物の適切な類似体もしくは誘導体にカップリングするための有用なプロトコルは、Szymelfejnik et al.,Synthesis 22:3528(2007)に記載されている。
【0561】
この方法は、システイン誘導体に対する5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イルジスルファニル誘導体の選択的反応性を利用して、ほぼ独占的に非対称ジスルフィドを産生する。例えば、N-アセチルシステイン及びシステインエチルエステルを用いて、それぞれ93%及び98%の収率で様々な非対称ジスルフィドを合成した(Szymelfejnik et al.Synthesis 2007)。
【0562】
本実施例では、パンテテインは、システインエチルエステルに連結している。(
図18のジスルフィド表1Bを参照。ジスルフィドシステアミン前駆体「2+13」は、システインエチルエステルに結合したジスルフィドである)。
【0563】
この手順の第1ステップは、(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファニルブロミドの合成であり、次いでそれをステップ2のパンテテインに連結させる。ステップ5から出発して、パンテテインはジチオリン酸アニオンの優れた脱離基特性を利用して、システインエチルエステルにジスルフィド結合される。
【0564】
ステップ1.無水ジクロロメタン(100mL)中の5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルフィド(例えば、2.76グラム、7.0ミリモル)の溶液に、窒素ガス下、-30℃で臭化物(0.96g、6.0ミリモル)を添加する。反応を15分間進行させる。
【0565】
ステップ2.上記に、無水ジクロロメタン(5mL)中のパンテテイン(3.062グラム、11ミリモル)の溶液を添加する。混合物を室温で30分間撹拌する。
【0566】
ステップ3.混合物を蒸留脱イオン水(50mL)で洗浄し、無水MgSO4を用いて乾燥させた後、濾過し、真空下で蒸発させる。
【0567】
ステップ4.残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、1:1ジクロロメタン:ヘキサン混合物を使用)によって精製して、(5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)ジスルファニル-パンテテインを得る(後続のステップにおいてジスルフィド1として言及される)。
【0568】
ステップ5.ジクロロメタン(6mL)中のジスルフィド1(0.5ミリモル)の溶液に、ジクロロメタン(4mL)中のシステインエチルエステル塩酸塩(0.5ミリモル)及びトリエチルアミン(0.28mL、2.0ミリモル)の溶液を添加する。室温で15分間撹拌する。
【0569】
ステップ7.混合物をジクロロメタン(50mL)で希釈し、次いで(i)1M KHSO4(25mL)または(ii)0.25M NaOH(25mL)のいずれかで洗浄する。
【0570】
ステップ8.無水MgSO4を用いて乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる。
【0571】
ステップ8.残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン:メタノールの25:1混合物を使用)によって精製するか、またはクロロホルム中で再結晶化させる。
【0572】
この小規模な合成は、最適な合成条件を見出すように調整することができる(例えば、90%超、または95%超の混合ジスルフィドを生じる)。その後、反応をスケールアップして薬理学的量のジスルフィドを産生することができる。他のシステイン類似体は、システアミン、N-アセチルシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体に、この手順の変形を用いて連結させることができる。
【0573】
さらなる詳細については、Szymelfejnik et al.,Synthesis 22:3528(2007)を参照されたい。
【0574】
実施例3.パンテテインの配合
950重量部のパンテテイン塩酸塩(C11H23N2O4SCl)、640重量部の蒸留水、及び2000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを、室温で完全にブレンドする。最終的な粉末混合物は、1カプセルあたり600ミリグラムの標準的な2ピース硬質ゼラチンカプセルを充填するために使用される。
【0575】
実施例4.システアミン-グルタチオンジスルフィド及びパンテチンの同時配合
200重量部のシステアミン-グルタチオンジスルフィド塩酸塩(C10H16N3O6S-SCH2CH2NH2
.2HCl)、300重量部のパンテチンジヒドロクロリド(C22H42N4O8S2
.2HCl)、640重量部の蒸留水、及び2000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを、室温で完全にブレンドする。得られた粉末混合物を、1カプセルあたり600ミリグラムの標準的な2ピース硬質ゼラチンカプセルを充填するために使用する。
【0576】
実施例5.パンテテイン-システアミンジスルフィド及びパンテテイン-システインジスルフィドの同時配合
100重量部のパンテテイン-システアミンジヒドロクロリド(C11H22N2O4S-SCH2CH2NH2
.2HCl)、300重量部のパンテテイン-システインジヒドロクロリド(C11H22N2O4S-SC3H6NO2
.2HCl)、500重量部のパンテテイン-補酵素A(C11H22N2O4S-C21H35N7O16P3S.2HCl)、640重量部の蒸留水、及び2,000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを室温で完全にブレンドする。得られた粉末状混合物を、1カプセルあたり800mgの標準的な2ピース硬質ゼラチンカプセルに充填するために使用する。
【0577】
実施例6.システアミン-グルタチオンジスルフィド、パンテテイン及びシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィドの同時配合
250重量部のシステアミン-グルタチオンヒドロクロリド(C10H16N3O6S-SCH2CH2NH2
.2HCl)、350重量部のパンテテインヒドロクロリド(C11H23N2O4SCl)、400重量部のシステアミン-n-アセチルシステインジヒドロクロリド(C6H8NO2S-SCH2CH2NH2
.2HCl)、800重量部のパンテテイン-グルタチオンジヒドロクロリド(C11H22N24S-SC10H16N3O6
.2HCl)、及び1090重量部の蒸留水、ならびに2000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを室温で完全にブレンドする。得られた粉末状の混合物を使用して、1サシェあたり3,000ミリグラムの紙製サシェを充填する。
【0578】
実施例7.パンテテインの胃内滞留性製剤
本発明の例示的な胃内滞留性製剤は、薬物送達を最適化するように設計されたポリマーベースの技術であるAcuform(登録商標)(Depomed)である。Acuformは、組成物の錠剤が約5~10時間にわたって胃内に滞留することを可能にする独特の膨潤性ポリマーの使用により、上部胃腸(GI)管へのパンテテインの薬学的組成物の標的化され、制御された送達を可能にする。この間に、錠剤の活性成分であるパンテテインは、所望の速度及び時間で上部GI管に着実に送達される。この緩やかで持続的な放出により、より多くの薬物が上部GI管に吸収され、1日1回または2回投与の利便性を伴う、より優れた治療効能及び増加した治療忍容性の可能性が提供される。
【0579】
実施例8.腎症性シスチン症の治療法
シスチン症を有する3人の患者の用量配合及び治療レジメンは、患者集団における人口統計的変動性及び薬物吸収及び代謝及び応答における個体間生化学的変動は、本発明によって提供される薬物及び剤形の柔軟性を利用することによって克服することができる。これらの実施例は、システアミン前駆体選択、剤形選択、及び用量レジメン個別化の原理を説明する。
【0580】
患者1:腎ファンコニー症候群による成長障害及び過剰排尿を伴って、受診後にシスチン症と新たに診断された18ヶ月の乳児。この患者において、固形薬剤は許容されない。現在入手可能な種類の固形薬剤は、原則として粉砕して食品と混合することができるが、実際の用量は、特に未消費の薬物-食品混合物が将来の食事のために保存され、未消費の薬物に金銭を浪費することを回避する場合、(i)摂取された薬物-食品混合物の量、(ii)混合物の均質性、(iii)薬物-食品相互作用の可能性、及び(iv)食品を保存及び調製するための条件(例えば加熱)を含む様々な不良に制御された変数に依存する。さらなる問題は、6時間の投与間隔(システアミンの即時放出製剤であるCystagon(登録商標)で必要とされる)は、乳児の食事時間または両親の睡眠スケジュールに適合しないことである。
【0581】
好ましい剤形は、乳児の食事時間でなくても完全に消費され、薬物の均一濃度を含有し、少量の未消費のまたは吐き戻された薬物が、摂取された総用量に対してわずかな影響しか及ぼさないように、十分に希釈されるであろう。さらに、投与間隔が6時間ではなく12時間に延長できる場合、所定の療法の遵守が改善される(この場合、乳児の両親による遵守)。
【0582】
この14kgの乳児のために選択された剤形は、シロップ1ミリリットルあたり50mgのシステアミン遊離塩基の濃度で、甘味飲料シロップに遅延放出微粒子として配合されたシステアミン-パンテテイン混合ジスルフィドである。
【0583】
(システアミン遊離塩基は、システアミン前駆体中のシステアミンの量を表す有用な方法であり、システアミン遊離塩基に関しても典型的に表されるシステアミン重酒石酸塩用量との比較を容易にする。システアミン-パンテテインジスルフィドの分子量は、353.52ダルトン(77.15+278.37-2)であるため、154.3ダルトン(77.15+77.15)の質量を有する2つの得られたシステアミンは、薬物用量の43.64%を占める。逆に、システアミン-パンテテインと遊離システアミンとの比は、1を0.4364または2.29112で割ったものである。
図17は、数百のジスルフィドシステアミン前駆体中のシステアミン遊離塩基の分画量を示す。)
【0584】
14kgの乳児のための目標用量は、800mg/日のシステアミン遊離塩基であり、12時間間隔で2つの分割用量で投与されるか、またはシロップ約8mLに相当する400mg/用量で投与される。(800mgのシステアミン塩基は、1,833mgのシステアミン-パンテテインに相当し、上で説明された2.29112変換係数を用いて計算される。)患者は、用量がゆっくりと増加する場合、システアミンをより良好に忍容する傾向があり、したがって、推奨開始用量は、目標用量の約1/6、またはシステアミン遊離塩基150mg/日であり、目標用量に到達するまで、もしくは副作用(典型的には胃腸の不調)が起こるまで、150mg/日の増分で毎週増加させ、この場合、用量は、さらに2週間~4週間で得られる最高レベルで維持され、次いで副作用が減少した場合には増加させ、副作用が持続する場合は忍容用量に到達するまで100mg/日ずつ減少させる。
【0585】
疾患制御は、白血球シスチンレベルの定期的な測定によってモニタリングされる。全てのシスチン症患者の治療目標は、白血球(WBC)シスチンをWBCタンパク質1mgあたり1ナノモル未満の1/2シスチン未満に抑制することである。治療開始後4~6週間に典型的に実施される第1のシスチン測定が、不適切なシスチン抑制を示した場合、用量を2つの分割用量で1000mg/日に増加させてもよい。この高用量が依然としてWBCシスチンレベルを制御する際に有効でない場合、用量を150mg/日の増分でさらに増加させることができる。(高用量のシステアミン-パンテテインジスルフィドは、システアミン重酒石酸塩製剤と関連した高いCmaxを生じないため、必要であれば用量をさらに増加させるための相当の余地がある)。
【0586】
WBCシスチンの適切な抑制が1,500mg/日で達成されない場合、副作用のモニタリング中に用量をさらに増加させることができるか、または第2のシステアミン-パンテテイン製剤を添加して、12時間の投与期間の後半に血漿システアミンレベルを増加させることができる。例えば、主として摂取後6~12時間の間にシステアミンを提供するように設計された持続放出液体微粒子製剤を、血漿システアミンレベルまたは好ましくはWBCシスチンレベルを測定することによって経験的に決定される比で、元のシロップと混合することができる。
【0587】
システアミン-パンテテインジスルフィドの優れた薬物動態は、即時放出システアミン重酒石酸塩(Cystagon(登録商標)、Mylan Laboratories)、または遅延放出システアミン重酒石酸塩(Procysbi(登録商標)、Raptor Pharmaceuticals)のいずれかで必要とされるよりも低い用量を可能にする。具体的には、システアミン-パンテテインジスルフィドの目標用量である、800mg/日(システアミン遊離塩基に関して表される全用量)は、Cystagon(登録商標)の推奨用量(1,200mg/日)のおよそ3分の2であり、Procysbi(登録商標)の推奨用量(900mg/日)のおよそ89パーセントである。遅延放出のために配合されたシステアミン-パンテテインジスルフィドの時間-濃度曲線(以下により詳細に記載される)は、システアミン重酒石酸塩の薬物動態の高い、鋭いピークレベル及びその後の低い谷特性を欠いているため、より低い用量が可能である。ピークまたは最大濃度(Cmax)は、典型的には副作用と関連しており、低い谷は、高いピークが必要とされる理由である。より滑らかで連続的に上昇した血漿システアミンレベルを提供することにより、より低い用量のシステアミン-パンテテインを低コストで投与することができ、副作用のリスクが低く、迅速な疾患制御を達成する可能性がより高い。
【0588】
システアミン-パンテテインジスルフィドを選択するための根拠は、それがシステアミンの効率的な送達媒体であることであり(前駆体分子あたり2つのシステアミン分子、システアミンに43.64%変換可能)、少なくとも8時間及び最大10~12時間にわたってシステアミンのインビボ生成を提供する。最初にシステアミンは、主に小腸で生じるジスルフィド結合の還元により生成されるが、システイン生成のより長い波は、同様に主に小腸で、また大腸でも生じるパンテテイナーゼによるシステアミンへのパンテテインの変換(またジスルフィド結合の還元時に放出される)から続く。すなわち、システアミン-パンテテイン混合ジスルフィドの半分は、システアミンからの代謝ステップの1つであり、残りの半分は、システアミンからの2つの代謝ステップであり、二相性放出パターンを提供する。投与後8~12時間以内にシステアミン-パンテテインの実質的画分を2つのシステアミンに変換することは、非常に幼い子供の特徴である比較的短い胃腸管通過時間に適合する。
【0589】
液体製剤は、食事とともにまたは食事の間(母乳、配合乳、または乳児用食品を問わない)を含む、任意の時点での迅速な投与に適合する。9~10mLの投与量は、18ヶ月児にとってわずかな消費量であるが、消費の失敗には十分であり、少量(例えば、口からの漏出またはげっぷに起因する)であれば、総用量にはあまり影響を与えない。甘味料は、薬物の魅力を高める。
【0590】
遅延放出微粒子製剤は、薬物が保護された形態で胃を通過することを可能にする。胃の刺激は、システアミン副作用の一般的な原因である。グルタチオン及びシステインなどの還元剤が高濃度(胆汁を介して)存在する小腸での放出は、システアミン吸収が効率的な位置でシステアミン-パンテテインジスルフィドのジスルフィド結合の還元を確実にする。
【0591】
微粒子は、50~500マイクロメートル、及び好ましくは100~400マイクロメートルのサイズ範囲にあり、したがって、特に懸濁剤(例えば、3%低分子量カルボキシメチルセルロース及び0.25% TWEEN20)の存在下で、長期間にわたって液体中で懸濁状態を維持することができる。そのサイズ範囲内で別々に産生された粒子のバッチを、最終産物中で混合して、薬物放出の持続時間を広げる(例えば、75、150、及び450マイクロメートルの粒子の別々のバッチを、1:2:1の比で混合する)。粒径は、ASTM規格に準拠するUSP標準ワイヤメッシュ篩を有する篩シェーカーによる篩分析を使用して決定することができる。
【0592】
粒子は、湿式混練プロセスを用いて1種以上のマトリックス賦形剤と均質に混和され、少なくとも3つのコーティングによって取り囲まれた薬剤の内部コアからなる。コア賦形剤は、微晶質セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン-酢酸ビニルコポリマー、または湿式混練法に適合する他の賦形剤である。薬物負荷(最終産物中の薬物の割合、質量別)は、50~90%である。
【0593】
第1のコーティングは、粒子のサイズを固定するのを助け、拡散膜として機能し、調節された薬物放出を可能にする。(i)セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチル-セルロースアセテートブチレート)、またはメタクリル酸とアクリル酸のエステルのコポリマー、またはメチルメタクリレートと、(ii)脂質賦形剤(例えば、水素化綿実大豆油またはヒマシ油)と、(iii)適切な可塑剤(例えば、ジエチルフタレートまたはモノグリセロールアセテート)との3成分混合物からなる。
【0594】
第2、第3、及び任意の追加のコーティングは、親水性層と最も外側に親水性層を有する親油性層との間で交互になる。外側の親水性層は、酸性pHでの溶解に対して耐性があるが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸、及びメタクリル酸エステルなどの中性またはほぼ中性のpH(例えば、pH6以上)で溶解しやすいpH感受性賦形剤から様々な比で形成される腸溶性コーティングを提供し、集合的にポリ(メタ)アクリレートまたはメタクリル酸/エチルアクリレートコポリマーと呼ばれることがあり、任意にヒドロキシプロピルメチルセルロースとブレンドされる。これらの賦形剤で作製された市販の腸溶性コーティングは、商品名Acryl-EZE,Acryl-EZE MP(Colorcon,Inc.)、Eastacryl 30D(Eastman Chemical Co.)、様々なEudragit製品、例えばEudragit L 100(Evonik Industries)、Kollicoat MAE 30 D及びKollicoat MAE 30 DP(BASF Chemicals)で市販されている。
【0595】
親油性コーティング(複数可)は、脂肪酸、カルナウバ蝋、蜜蝋等を含むことができる。
【0596】
粒子は、少なくとも6時間、好ましくは8時間以上続く延長された薬物放出プロファイルを達成するために、異なるバッチ内の異なる数のコーティング、異なるコーティングの厚さ、または異なるコーティング組成を有する別々のバッチで製造することができる。
【0597】
薬物は、甘味剤及び懸濁化剤を用いて微粒子の水性懸濁液として提供され得るか、または使用時に再構成されるように設計された乾燥混合物として提供され得る。いずれの場合でも、液体製剤は、微粒子の持続的懸濁を促進するレオロジー特性を有する。
【0598】
液体送達のために配合された制御放出微粒子は、米国特許第5,405,619号に開示されており、上記の要素のうちの多くを包含しながら、さらなる有用な賦形剤及び製剤及び製造方法の詳細を提供する。
【0599】
患者2:シスチン症を有する10歳、35kgの少年は、Cystagon(登録商標)で7年間治療されている。彼の現在の用量は、1日4回700mg(1日あたり2.8グラム)であり、これは35kgの患者にとって異常に高い。用量は、6時間毎に6個の丸剤(4個の150mg錠及び2個の50mg錠)、または1日あたり24個の丸剤である。この若い患者は、深夜0時に起き、午前6時に服薬することを嫌い、巨大な(サイズ0)丸剤を飲み込むことを嫌がり、Cystagon(登録商標)がしばしば引き起こす体臭及び口臭を嫌っている(彼の友人がそれに気づき、彼をからかう)。彼は、服薬をスキップするため、またはそれが可能でない場合は、システアミンの副作用を軽減するために様々な戦略を立てた。彼は、例えば、大量の食事とともに、または食事の直後に薬物を摂取することによっていくつかの副作用を避けることができ、より少量のシステアミンが食品、特にタンパク質または脂肪とともに吸収されることを学んだ。学校の看護師が、彼が昼食を取る前に全ての薬を飲み込むのを見守っていないときはいつでも、学校でこれを達成することができ、一般に各丸剤を飲み込むために長い時間をかけることによって行うことができる。これらの回避策の結果として、彼のWBCシスチンレベルは、典型的には2.5ナノモル1/2シスチン/mgタンパク質を超える。不十分な代謝調節に対処するために、彼の医師は、少年のシステアミンの用量を現在の高レベルまで増加させたため、実際に処方のとおり摂取される場合には治療量を超えることになる。この過剰用量の結果、少年は、実際に処方のとおり全用量を空腹時に摂取したとき、そのような場合に副作用を経験する可能性が高くなる。
【0600】
この患者のための好ましい剤形は、彼が経験する副作用のほとんどの近似原因である薬物摂取に続く高いピークシステアミン血中レベルを排除するものであり、(患者及び両親にとって迷惑な)深夜及び午前6時に起床する必要性をなくし、6時間毎に6個の丸剤を飲み込む負担を軽減し、全ての関連する芝居とともに、学校での投与の必要性を排除し、より良い服薬遵守を奨励することによって、より良い疾患制御を達成しながら高用量を低減することを可能にする。
【0601】
この患者のために最初に選択された剤形は、即時放出(IR)(30%)、遅延放出(DR)(40%)、及び持続放出(SR)(30%)のために別々に配合されたシステアミン-パンテテインジスルフィドである。3つの製剤は全て、必要量の食品と一緒に開封し、組み合わせることができる様々なサイズの色分けされたサシェに包装された、粉末状の無味の形態の微粒子として提供される。粉末は、牛乳及び甘いシリアル(患者の好みの朝食)と、脂肪及びタンパク質が豊富な食事を含む他のほとんどの食事と混合することができる。
【0602】
IR、DR、及びSR粉末は、12時間の投与間隔にわたって上昇した血漿システアミンレベルを提供するように設計されている。3つの粉末の比は、個々の患者におけるシステアミンの時間-濃度プロファイルを最適化するように容易に調整することができる。即時放出粉末は胃内で溶解し、摂取直後に薬物を放出するが、胃の酸化環境においてジスルフィド結合の還元はほとんどないため、システアミンは胃上皮(胃腸症状の源)とほとんど接触しない。システアミン-パンテテインジスルフィドは、小さな食物粒子とともに胃からゆっくりと排出されるため、十二指腸に入り、そこで胆汁中に存在するグルタチオンによって還元される。得られたシステアミンは、直ちに吸収され得るが、パンテテインは、最初にパンテテイナーゼによって切断されなければならず、これは2相システアミン生成プロファイルを提供する。DR及びSR配合薬は、IR薬と同時期に小腸に到達するが、溶解するまでに数時間かかり、数時間の遅延が生じる。SR配合粉末は、DR配合粉末よりも溶解するのに時間がかかるため、投与間隔の後半にシステアミンを提供する。
【0603】
遊離システアミンとは対照的に、システアミン-パンテテインジスルフィドは、食事とともに摂取することができるため、胃の酸化酸性環境において食品中の化学物質(例えば、遊離チオール基)と高度に反応性でない。ジスルフィドが小腸の還元環境に到達したときにのみ、システアミン及びパンテテインが産生される。この薬物の多くは、食事後数時間にわたって胃の中に残り、微細な食物粒子とともにゆっくりと幽門から放出され、これはジスルフィド前駆体の3つの製剤全ての小腸への自然な持続的放出をもたらす。したがって、およそ3~4時間の小腸通過(空腹時に摂取された薬物の場合、数分以内に開始する)が延長され、システアミン及びパンテテイン産生の期間が、12時間の投与間隔に十分に延長される。
【0604】
10歳の患者の目標用量(システアミン遊離塩基として表示)は、即時放出粉末540mg、遅延放出粉末720mg、及び持続放出粉末540mgの1,800mg/日である。1,800mgのシステアミン遊離塩基は、患者のCystagon(登録商標)用量の約3分の2である。システアミン前駆体の優れた薬物動態のため、及び低い副作用プロファイルがより良好な服薬遵守を促したため、用量低下は可能である。
【0605】
少年(及び彼の家族)の生活の多くの他の側面とともに、新薬レジメンの遵守が改善されるにつれて、WBCシスチンレベルが低下した。しかしながら、2ヶ月後には、シスチンレベルは、タンパク質1mgあたり1.34ナノモルの1/2シスチンで依然として目標を上回っている。少年の医師は、新薬及び製剤がどのように作用しているかをよりよく理解するために、朝の投与から6時間後及び12時間後に血漿システアミンレベルの検査を命じた。6時間レベルは、22マイクロモルであるが、12時間のシステアミンレベル(夕方投与直前)は、わずか4マイクロモルである。12時間でのシステアミンのレベルを上昇させるために、医師は、即時放出用量及び遅延放出用量を固定したまま、用量の持続放出成分を540mg/日から800mg/日に50%増加させた。次のWBCシスチンレベルは、タンパク質1mgあたり0.9ナノモルの1/2シスチンである。
【0606】
システアミン-パンテテインジスルフィドの粉末製剤は、即時放出、遅延放出、または持続放出を提供するために、様々な任意のコーティングを有するイオン交換樹脂コアを利用する。得られた粉末は、直接または水もしくは他の液体中に懸濁させた後に、食品に添加することができる。
【0607】
即時放出粉末は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(例えば、Amberlite(登録商標)IRP69ブランドの樹脂、Rohm and Haasによって販売されている)などのコーティングされていないイオン交換樹脂と混和された薬物からなる。合成ステップは、次のとおりである。
【0608】
ステップ1.システアミン-パンテテインジスルフィドを蒸留水に溶解する。
【0609】
ステップ2.ステップ1の溶液にAmberlite(登録商標)IRP69を添加し、1時間撹拌し、その間に薬物-樹脂複合体が形成される。
【0610】
ステップ3.濾過によって水を除去し、薬物-樹脂混合物を蒸留水で2回すすぎ、任意の置換塩イオンを除去する。
【0611】
ステップ4.含水量が3%~7%になるまで薬物-樹脂混合物を乾燥させ、標準40メッシュスクリーンを備えたCO-MILデバイス(Quadro Engineering Corp.)を通過させ、これが約410マイクロメートルを超える粒径を有する顆粒の通過を制限する(すなわち、メッシュを通過する顆粒は、約410マイクロメートルより小さい)。
【0612】
次いで、得られたコーティングされていないシステアミン-パンテテインジスルフィド-イオン交換樹脂微粒子を、以下のようにポリビニルピロリドン(例えば、Kollidon(登録商標)K30ブランド、BASFによって販売)と組み合わせることによってプレコーティングすることができる。
【0613】
ステップ1.Kollidon(登録商標)K30を蒸留水に溶解して、PVP溶液を作製する(例えば、2.629mLの蒸留水に657グラムのKollidon(登録商標)K30を溶解する)。
【0614】
ステップ2.コーティングされていないシステアミン-パンテテイン-樹脂複合体をPVP溶液に添加し、7.73%のポリマー重量増加が達成されるまで連続的に攪拌する。
【0615】
ステップ3.含水量が15~25%になるまで、湿った塊を乾燥させる。
【0616】
ステップ4.半乾燥材料を、標準40メッシュスクリーン(約410マイクロメートル)を備えたCO-MILデバイスに通す。
【0617】
ステップ5.粉砕した材料を、含水率が3%~7%になるまで乾燥させる。
【0618】
ステップ6.再度、粉砕された材料を、標準40メッシュスクリーンを備えたCO-MILデバイスに通す。
【0619】
次いで、得られたプレコーティングされたシステアミン-パンテテインジスルフィド-イオン交換樹脂微粒子を、ポリビニルアセテート(例えば、Kollicoat(登録商標)SR30D、BASFにより販売、水中の30%ポリビニルアセテート分散液、2.7%ポビドン及び0.3%ラウリル硫酸ナトリウムで安定化した)などの持続放出を提供するpH非感受性賦形剤でコーティングすることができる。
【0620】
ステップ1.Kollicoat(登録商標)SR30D(30%水性分散液として提供)、トリアセチン(可塑剤)、及び蒸留水を混合することによって、コーティング溶液を調製する。
【0621】
ステップ2.コーティングは、コーティング溶液を、プレコーティングされたシステアミン-パンテテインジスルフィド-イオン交換樹脂微粒子(上記のように調製)に、微粒子の重量が30%増加するまで適用することによって、Wursterカラムを備えた流体床処理装置で行る。
【0622】
ステップ3.Kollicoat(登録商標)SR30D-トリアセチンコーティングされた微粒子を、60℃のオーブン内で5時間硬化させる。
【0623】
ステップ4.硬化した微粒子を、上記のように標準40メッシュスクリーンに通す。
【0624】
あるいは、プレコーティングされたシステアミン-パンテテインジスルフィド-イオン交換樹脂微粒子を、メタクリル酸/エチルアクリレートコポリマー(例えば、Kollicoat MAE 30DP)などのpH感受性賦形剤でコーティングし、遅延放出に続いて胃の酸性環境の通過をもたらす。
【0625】
患者3.腎臓移植後、糖尿病、甲状腺機能低下症、及び嚥下障害に罹患している22歳のシスチン症患者は、12種を超える薬物療法で治療され、多くは1日に数回投与される。彼女のシスチン症は、Procysbi(登録商標)により、2,400mg/日を2つの分割用量で治療される(1用量あたり8個のサイズ0の150mgカプセル)。しかしながら、彼女は、Procysbi(登録商標)摂取後に重度の胃痛、ならびに吐き気及び嘔吐を頻繁に経験し、これらの胃腸の副作用は、しばしば彼女がスケジュール通りに他の薬物を服用することを妨げ、または他の薬物を吐き出させた。これは、彼女の免疫抑制レジメンに関して特に懸念事項であり、そのレジメンがなければ彼女は移植された腎臓を失うリスクがある。
【0626】
WBCシスチンの制御は、かろうじて適切であり、異なる訪問時にタンパク質1mgあたり1~1.45ナノモルの1/2シスチンの範囲である。胃腸の副作用の原因を発見する努力において、彼女の医師は、摂取1時間後に血漿システアミンレベルを測定し、それが78マイクロモルであることを見出した。その高いレベルは、確かに彼女の胃腸症状を説明することができるが、彼女の医師は、限界シスチン制御の観点から彼女のProcysbi(登録商標)用量を低減することに気が進まない。
【0627】
この患者のための好ましい剤形は、高いピークシステアミン血中レベルによって引き起こされる可能性が高い胃腸の副作用を排除するか、またはは少なくとも軽減すると同時に、患者の他の薬物とともに重要な身体的及び心理的負担を表す、丸剤の数も低減する。
【0628】
この患者のために選択された剤形は、いずれもゲル化液としての胃内滞留性放出のために配合された2つのシステアミン前駆体の組み合わせである。用量の50%は、システアミン-パンテテイン混合ジスルフィドであり、残りの50%は、システアミン-N-アセチルシステアミン混合ジスルフィドである。
【0629】
WBCシスチンが、より長い曝露に起因してタンパク質1mgあたり1nmol 1/2シスチンよりも有意に低い場合、開始用量は、2,000mg/日(12時間毎に1,000)であり、制御とともに1ヶ月後には、潜在的に総日用量をさらに減少させる。
【0630】
ゲル化液は、胃内容物と接触すると液体からゲルへと相を変化させる。相変化は、胃内容物の酸性pHによって誘発される。
【0631】
実施例9.非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療法
耐糖能障害、胃食道逆流症(GERD)、及び36の体格指数(BMI)である体重超過の飲酒しない50歳男性は、日常的検査で肝臓酵素が上昇していることが注目されている。アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)及びアラニントランスアミナーゼ(ALT)の両方が正常範囲の上限の4倍を超えている。有意に上昇した肝臓酵素の発見は、肝臓細胞の損傷を示唆し、肝疾患の診断後の治療につながった。肝臓癌及びウイルス性肝炎の検査は陰性であり、上昇した肝臓酵素の他の潜在的な感染性及び毒物学的原因は除外され、肝臓生検を促進する。生検では、脂肪症、肝細胞のバルーニング、炎症、及び著しい線維症が明らかになる。これらの知見は、臨床像の文脈において、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の診断につながった。
【0632】
患者は、食事を変更し、適度な運動のプログラムを開始するよう指示される。6ヶ月間のダイエットとライフスタイルのカウンセリングは、体重減少、耐糖能の改善、またはALTもしくはASTレベルの低下をもたらさず、薬物療法の開始を促した。患者は、原位置ゲル化液として配合されたジスルフィドシステアミン前駆体システアミン-N-アセチルシステインで治療される。目標用量は、体重1kgあたり20mgのシステアミン遊離塩基であり、開始用量は、その量の1/4であり、目標用量まで4~6週間かけて徐々に増加するが、任意の副作用(すなわち、より緩慢な用量漸増または重大な副作用の場合には最終用量の低下)について調節する。
【0633】
還元剤ビタミンC及びビタミンEは、患者の便宜(例えば、昼食前及び就寝前)において、各システアミン-N-アセチルシステイン用量の2~4時間後に、近位小腸での遅延放出のために配合されたカプセル形態で投与され、相補的な治療薬として、胃腸管におけるジスルフィド結合の還元を増強する(ひいてはシステアミン-N-アセチルシステインの、その2つの成分のチオールへの変換を最大にする)。ビタミンCの日用量は2グラムであり、ビタミンEの日用量は、800国際単位のαトコフェロール、RRR立体異性体であり、これは1日あたり533.3ミリグラムに相当する(1IUのトコフェロールは、RRR-α-トコフェロールの2/3ミリグラムとして定義される)。それらの量の半分が、1日2回投与される。ビタミンC及びビタミンEのレジメンは、NASH患者の肝線維症スコアを低減することにおいて有効であることが以前に示されている(Harrison et al.,Am J Gastroenterol.98:2485(2003)を参照)。
【0634】
患者は、治療開始時に体重293ポンド(132.9kg)であり、20mg/kgのシステアミン-N-アセチルシステインの目標用量は、1日あたり2,658mgになる。薬物は、10~12時間間隔で2つの分割用量で(各々1,392mg)、朝食及び夕食と一緒に投与される。
【0635】
システアミン-N-アセチルシステインジスルフィドの分子量は、238.35ダルトンであり、その32.4%が、ジスルフィド結合の還元によりシステアミンに変換可能である。したがって、2,658mgのシステアミン遊離塩基の目標用量は、およそ8.2グラムのジスルフィド(すなわち、実際に投与される薬物)となる。モル濃度では、日用量は、34.5ミリモルである。
【0636】
この実質的な量の薬物を錠剤またはカプセルの形態で摂取するには、1日あたり12個の大きな丸剤(他の薬物を含まない)を飲み込むことが必要であり、患者にとって苦痛である。薬物の不快な味をマスクした賦形剤を含む甘味飲料として提供される液体製剤は、食事とともに飲み込まれ、薬物摂取を容易にし、それにより服薬遵守を改善するように設計される。(事実、実質的により多量のシステアミン前駆体は、液体製剤を介して容易に投与することができる。)液体ゲル化製剤の第2の利点は、それが食品よりも軽いことであり、そのためゲル形態で粥状液の上に浮遊し、酸性胃内容物の食道への逆流に対する保護層を提供する。(Gaviscon(登録商標)、Algicon(登録商標)、及びGastron(登録商標)などの液体ゲル化製剤は、胃食道逆流の治療のために最初に開発された。)
【0637】
ジスルフィド結合の還元により生成されるN-アセチルシステインは、もちろん、システアミン遊離塩基の計算には数えられないが、還元剤として、グルタチオン合成の前駆体として、及び/または他の機序を介して治療上の利点を有してもよい。
【0638】
1日あたり2グラムのビタミンCの用量は、5.68ミリモル(176.12グラム/モル)に相当し、α-トコフェロールの用量は、1日あたり533.3ミリグラムであり、1.238ミリモル(430.71グラム/モル)になる。したがって、ビタミンC+ビタミンEのモル量は、6.92ミリモルになり、これはシステアミン-N-アセチルシステインのモル量(34.5ミリモル)よりも少ないが、それにもかかわらず、腸溶性コーティングカプセルからの放出時に、近位の小腸に残る適量のジスルフィドを減少させるには十分である。
【0639】
治療の臨床的有益性を予測するために、応答の様々な代理マーカーをモニタリングすることができ、前処置バイオマーカー、ならびに治療前及び治療中に測定されるバイオマーカーの両方を含む。第1のカテゴリーにおいて、応答の前処置予測因子には、上昇したALT及び血清レプチン、ならびに低いスーパーオキシドジスムターゼが含まれ得る。
【0640】
第2のカテゴリー(薬物応答の動的マーカー)において、血漿中のALT及びASTのレベルは、進行中の肝細胞損傷の指標として経時的に追跡される。治療を開始してから6週間以内にALT及びASTの両方が少なくとも50%低下したとき、患者は上記のシステアミン-N-アセチルシステイン、ビタミンC、及びビタミンEのレジメンで継続された。ALT及びASTレベルが50%低下しなかった場合、レジメンは中止されたであろう。
【0641】
実施例10.N-アセチルシステアミン-(R)-パンテテインジスルフィド(TTI-0602)の薬物動態研究
図25に示すように、N-アセチルシステアミン-(R)-パンテテインジスルフィド(
図17のチオール6及び2を組み合わせることによって作製されたジスルフィド、したがってTTI-0602と呼ばれる)を合成した。次いで、TTI-0602を3用量レベルで雄のSprague-Dawleyラットに経口投与して、特に、システアミン産生の時間経過に関してその薬物動態(PK)パラメータを評価した。
【0642】
体重1キログラムあたりのシステアミン塩基のミリグラムで表される用量を計算し、本明細書中で以下のように表される。1つのTTI-0602分子は、ジスルフィド結合の還元、N-アセチルシステアミンの脱アセチル化(システアミンを生じる)、及びパンテテイナーゼによるパンテテインの切断(1つのシステアミン及び1つのパントテン酸を生成する)の際に、2つのシステアミン分子を生じる。したがって、1モルのTTI-0602(重量は395.54グラム)は、2つのシステアミン分子を生じ、各々が77.15グラム/モル×2=154.3グラムである。したがって、質量基準で、154.3/395.54=TTI-0602の38.5%が、分解後にシステアミンに変換可能である。逆に、システアミン塩基に関してTTI-0602の用量を計算するために、システアミン塩基の用量に2.5974を乗じる。例えば、30mg/kgのシステアミンベースの等価用量のTTI-0602を計算するために、30mg/kg×2.5974=77.92mg/kgを乗じる。したがって、以下の考察及び添付の図において、「30mg/kg」用量のTTI-0602は、77.92mg/kgが投与されたことを意味し、「60mg/kg」用量のTTI-0602は、155.84mg/kgが投与されたことを意味し、「120mg/kg」用量のTTI-0602は、311.68mg/kgが投与されたことを意味する。システアミン塩に関する文献で広く使用されているこの命名法の目的は、異なるシステアミン前駆体及びシステアミン塩の用量の比較を容易にすることである。
【0643】
およそ30mg/kg(群1)、60mg/kg(群2)、及び120mg/kg(群3)を送達するように選択された用量で、TTI-0602を、3群のラット(1群あたり3匹のラット)に胃管栄養法を介して投与した。絶食ラットに投与する前に、全ての用量を3ミリリットルの生理食塩水に溶解した(しかしながら、120mg/kgの用量は、生理食塩水に完全に溶解しなかったため、ラットは実際には、計画した用量よりも少ない用量を受けた。以下の組織分析の考察を参照)。
【0644】
TTI-0602用量は、250グラムのラットについて調製されたが、薬物投与時のラットの実際の質量は、267~300グラムに変動したため、体重に正規化した実際の用量は、群1では26.1~27.1mg/kg、群2では51.7~56.2mg/kg、群3では108.3~109.5mg/kgの範囲であった。それにもかかわらず、便宜上、これらの用量は、30、60、及び120mg/kgと呼ばれる。
【0645】
対照群のラット(群5)には、30mg/kgのシステアミン塩基を送達するように選択された用量で、胃管栄養法を介して3mLの生理食塩水中のシステアミン塩酸塩を投与した。(システアミンHClの質量は、113.6ダルトンであり、そのうち77.15ダルトンまたは67.91%は、システアミン塩基であり、逆にシステアミン塩基の用量からシステアミンHClの用量を計算するために、後者に1.47を乗じる。例えば、30mg/kgのシステアミン塩基を送達するシステアミンHCl用量を計算するには、30×1.47=44.2mg/kg。)システアミン塩酸塩の用量は、250グラムのラットについて調製したが、薬物投与時のラットの実際の体重は、281~285グラムと変化したため、体重に対して正規化した実際の用量レベルは、群5において26.3~26.7mg/kgの範囲であった。
【0646】
血液試料を、投与直前、及びPK研究の前に外科的に移植されたカロチド動脈カテーテルを介して投与してから5、10、20、30、45、60、90、120、180、240、300、及び600分後にラットから入手した。遠心分離によって血液から血漿を入手し、急速冷凍した。数日後、血漿試料を氷上で解凍し、各血漿試料を2つの対になった管(20μL/管)に分け、そのうちの一方を(ジスルフィド結合の還元を定量した後)チオールの測定のために処理し、もう一方をジスルフィドの分析のために処理した。
【0647】
ジスルフィド結合を定量的に還元するために、第1の管中の血漿を、Dohilら(2012)によって報告されたプロトコルを使用して、5mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(選択的かつ強力なジスルフィド結合の還元剤)で処理した。簡潔には、2.2μLの新たに調製した50mM TCEPストック溶液を、20μLの血漿に添加し、試料を37℃で45分間インキュベートした。2.2μLの脱イオン水を添加することによって、対合した(非還元)試料中の血漿の量を調整した。
【0648】
TCEP還元ステップの後、全ての血漿試料を、内部標準を含有する3.5体積の氷冷アセトニトリル(ACN)/1%ギ酸(FA)溶液を添加することによって除タンパクした(77μLのACN/1% FA溶液を、22.2μLの血漿に添加した)。内部標準を、各々ACN/1% FA溶液中0.2μg/mLの最終濃度の、重水素化(d4)システアミン(Toronto Research Chemicals)、重水素化(d8)バリン、及び重水素化(d8)フェニルアラニン(いずれもCambridge Isotope Laboratories(Andover,MA)から入手)であった。
【0649】
変性タンパク質を、エッペンドルフマイクロ遠心分離機において、4℃で10分間、14,000rpmで遠心分離によってペレット化した。上清(25μL)を新しい管に移し、75μLのACN/0.1% FA溶液と混合し、150×2mm Atlantis親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)カラム(Waters、Milford,MA)に直接注入した。Nexera X2 U-HPLC(Shimadzu)及びQ-Exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を用いて、代謝産物を分析した。5%移動相A(水中10mMのギ酸アンモニウム及び0.1%のギ酸)で1分間、続いて40%移動相B(0.1%ギ酸を含むアセトニトリル)への線形勾配で7分間、360μL/分の流量で均一濃度でカラムを溶離した。エレクトロスプレーイオン化電圧は、3.5kVであり、70,000分解能及び3Hzのデータ収集速度でm/z 70~800のフルスキャン分析を使用してデータを取得した。陽イオンモードでの質量分析は、目的の検体からより良いシグナルを生成することが分かった。イオン化電源電圧は、-3.0kVであり、ソース温度は325℃であった。Tracefinder(バージョン3.2、Thermo FisherScientific)を使用して、MSデータを処理した。
【0650】
標準曲線を、血漿中の連続希釈(100、75、50、25、15、10、5、3、1、及び0.5μM)によって、システアミン、N-アセチルシステアミン、及びパンテテイン(全てSigma-Aldrichから入手)について生成し、次いでそれを使用して、それらの物質の血漿濃度をLC-MSイオンカウントから補間する。
【0651】
血漿試料に加えて、胃腸内容物(胃内容物、近位小腸内容物、遠位小腸内容物、及び盲腸/結腸内容物)、肝臓、腎臓及び脾臓を、試験終了時(投与後10.5時間)にラットから得て、即時凍結した。システアミン、N-アセチルシステアミン、及びパントテン酸の組織レベルを、胃腸内容物、ならびに肝臓及び腎臓組織において測定した。組織分析のためのプロトコルは、(i)凍った組織片をドライアイス上で砕いて小片を得ること、(ii)いくつかの凍結した組織片(約25~150μg)を、2つの金属ボールベアリングを備えた風袋を除いた1.5mLの微量遠心管に計量し、直ちにドライアイス上で保存すること、(iii)組織片を、Retsch Cryomillを使用して250ヘルツで5分間、低温で均質化すること、(iv)試料を2本の管に分け、20μLの懸濁した均質化組織粉末を、2.2mMの50mM TCEP(最終濃度5mM)で37℃で45分間インキュベートするか、または2.2μLの脱イオン水を添加すること、(v)等量(w:v)のアセトニトリル:メタノール(1:1)を、両方の試料(TCEP、TCEP無し)に添加し、4℃のエッペンドルフ微量遠心分離機で10分間、14,000rpmでの遠心分離によって沈殿したタンパク質をペレット化すること、(vi)75μLのACN/0.1% FAを含有する新しい管に25μLの上清を移すこと、(vii)血漿試料と同じカラム及び操作条件を用いて、上記のLC-MS装置に試料を注入することを必要とした。
【0652】
結果:TTI-0602を投与したラットにおいて、システアミンは、システアミンHClを投与したラットよりも著しく長い期間にわたって産生され、吸収された。システアミンHClを投与したラットにおけるピークシステアミン血漿濃度(Cmax)は、胃管栄養法から15分後に生じた。その後、システアミン濃度は、90分までに最大半分以下に低下した(
図30A)。対照的に、TTI-0602を投与したラット(120mg/kg、群3)のピークシステアミン濃度は、180分で生じた(
図30B)。さらに、システアミン塩酸塩を投与したラットにおける血漿濃度-時間曲線の形状は、高い、鋭いピークであるが、TTI-0602を投与したラットでは、血漿濃度-時間曲線は、プラトーにより近くなる(
図30A及び30Bを比較)。システアミンHClを投与したラットにおけるピーク血漿システアミン濃度(200μM超)は、ヒト対象で観察されるよりも高く、ヒトにおいて重度の毒性と関連している。Sprague-Dawleyラットに低用量(20mg/kgのシステアミン塩基当量)で投与した場合、システアミン重酒石酸塩は、投与後5~22.5分の間に81.9μMのCmaxを生じ、システインレベルは、2時間でベースラインに戻った(Dohil et al.2012)。
【0653】
(120mg/kgラットの胃腸内容物の分析により、投与から10時間後にラット8及び9の胃にかなりの量の溶解していない薬物が滞留していたことが明らかになり、これらのラットが全用量を受けなかったことを示す。したがって、
図30Bの曲線は、全用量で達成されたであろうシステアミン曝露の過小評価である。)
【0654】
30mg/kg、60mg/kg、及び120mg/kgのTTI-0602用量の比較(
図31A)、Cmaxの漸増及びTmaxの等しく重要な進行性の遅延、Cmaxが生じる時間を明らかにし、30mg/kg群でのピーク血漿濃度は、30分で最初に小字、次いでそのレベルは、90分で再び達成され、その間には非常に小さな低下があった。60mg/kg群のTmaxは90分で生じ、120mg/kg群では180分で生じた。3用量の全てにおいて、システアミン濃度の時間曲線に対する二相性の特徴が現れ、最初の上昇は約30分でピークに達し、次いで第2の上昇は(60及び120mg/kg用量群では、より高い)、1.5~3時間でピークに達する。
【0655】
胃腸管におけるジスルフィド結合の還元の際に、TTI-0602は、2つのチオール部位:N-アセチルシステアミン及びパンテテインを生じる。その後、システアミンは、2つの独立したプロセス、すなわち前者の脱アセチル化及び後者のパンテテイナーゼ切断によって産生される。これらの2つのプロセスの時間経過は、パンテテインが切断されたときに(システアミンとともに)生成される、N-アセチルシステアミン及びパントテン酸の腸及び血漿レベルを観察することによってモニタリングすることができる。(パントテン酸は、ヒトのシステアミンよりも長い半減期を有し、ラットに現れる)。
図31Bは、(i)N-アセチルシステアミンが、システアミンと実質的に類似の動態で血液中に吸収され(これまで知られていない)、同様の輸送機序を示唆する。さらに、高いシステアミンレベルを説明するために、胃腸管(N-アセチルシステアミン及びシステアミンの両方が存在する)及び血液の両方におけるN-アセチルシステアミンのシステアミンへの変換が進行中でなければならない。パントテン酸もまた、腸内容物及び血漿中に存在する。パントテン酸のレベルは、最初の1時間で急激に増加し、パンテテインのパンテテイナーゼ切断によるシステアミンの産生を示し、その後90分でわずかに低下し、次いで240分間までゆっくりと非常に緩やかな上昇を再開し(
図31B)、システアミン血漿レベルに対するパンテテイン切断からの初期及び後期寄与の両方を示す。
【0656】
10.5時間でのシステアミンの組織レベルは、120mg/kg群(ラット7、8、及び9、投与群3を含む、
図32)の全3匹のラットの肝臓及び腎臓試料の両方において、明らかに50μMを超えていた。これらの3匹のラットにおける10時間での血漿システアミンレベルは、1.1、0、及び1.5μMであった。はるかに高い組織レベルは、(i)血液と比較して、組織中のパンテテイナーゼのレベルが低い(もしくはより具体的には、パンテテイナーゼが一部の腎臓細胞において発現するため、ある特定の細胞型においてパンテテイナーゼレベルがより低い)、及び/または(ii)血漿と比較して、組織中のデアセチラーゼがより多くなり、血液中よりも組織中でN-アセチルシステアミンのシステアミンへのより効率的な変換をもたらすことを反映し得る。比較のために、Sprague-Dawleyラットにシステアミン重酒石酸塩(20mg/kg)を投与したとき、システアミンの組織半減期は、25~29分と推定され、システアミンの95%以上が150分までに消失すると推測された(Dohil et al.2012)。システアミンの治療効果の大部分は、血液ではなく組織内で生じるため(腎臓がシスチン症の患者で奏効しない最初の臓器である)、投与から10時間後の腎臓及び肝臓におけるシステアミンの存在は、治療的に非常に重要である。
【0657】
他の実施形態
本発明は、その特定の実施形態に関連して記載されているが、さらなる修正が可能であり、本特許出願は、一般に、本発明の原理に従う任意の変形、使用、または適用を網羅することが意図され、本発明が属する技術分野の通常の技術の範囲内にある本開示からのそのような逸脱を含み、本発明の趣旨の範囲内で上述した本質的な特徴に適用することができる。