IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタの特許一覧 ▶ リジェネクスバイオ インコーポレイテッドの特許一覧

特開2022-137261中枢神経系への治療的送達のためのアデノ随伴
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137261
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】中枢神経系への治療的送達のためのアデノ随伴
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20220913BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20220913BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220913BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P25/00
A61P43/00 105
A61P25/28
A61K48/00
A61P37/06
A61K31/675
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P3/00
C12N15/864 100Z
C12N15/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114547
(22)【出願日】2022-07-19
(62)【分割の表示】P 2021111318の分割
【原出願日】2016-05-13
(31)【優先権主張番号】62/162,174
(32)【優先日】2015-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/252,055
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/301,980
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/331,156
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507197708
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(71)【出願人】
【識別番号】518278029
【氏名又は名称】リジェネクスバイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マカイバー アール. スコット
(72)【発明者】
【氏名】ベルアー ラリッサ アール.
(72)【発明者】
【氏名】コザルスキ カレン
(57)【要約】
【課題】リソソーム蓄積症を有する哺乳動物の中枢神経系において、神経認知を強化するまたは神経病態を減少させるための方法を提供する。
【解決手段】中枢神経系の疾患に関連する遺伝子産物をコードするrAAVを、例えば該遺伝子産物が存在しないか、または該疾患を有さない哺乳動物と比較して低減したレベルで存在する哺乳動物に、例えばクロスコレクション(cross-correction)をもたらすのに有効な量で、鼻腔内、髄腔内、脳血管内、または静脈内投与する方法である。
【選択図】図34
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム蓄積症を有する哺乳動物の中枢神経系において神経認知を強化するまたは神経病態を減少させるための方法であって、リソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを、該rAAVを投与されていないムコ多糖症を有する哺乳動物と比較して脳全体にわたって神経認知を強化するまたは神経病態を減少させるのに有効な量で含む組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
リソソーム蓄積症を有する哺乳動物において神経認知機能障害または神経病態を防止または阻害するための方法であって、リソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
中枢神経系におけるリソソーム蓄積酵素欠損のクロスコレクション(cross-correction)を、それを必要とする哺乳動物においてもたらすための方法であって、該哺乳動物における発現がクロスコレクションをもたらすリソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む有効量の組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項4】
哺乳動物が免疫抑制薬で処置されない、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物が免疫抑制薬で処置される、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
免疫抑制薬がシクロホスファミドを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
免疫抑制薬が、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質を含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
免疫抑制薬が、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤を含む、請求項5記載の方法。
【請求項9】
rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬がrAAVの後に投与される、請求項6~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化されない、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化される、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物が免疫適格性の成体である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
rAAVベクターが、rAAV1ベクター、rAAV3ベクター、rAAV4ベクター、rAAV5ベクター、rAAVrh10ベクター、またはrAAV9ベクターである、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
遺伝子産物が、アルファ-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、またはグルコセレブロシダーゼである、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物が、アルファ-L-イズロニダーゼを欠損している、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物が、ムコ多糖症I型障害、ムコ多糖症II型障害、またはムコ多糖症VII型障害を有する、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
複数回の投与が行われる、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
組成物が週に1回投与される、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記量が、成長遅延を阻害するか、肝脾腫大を阻害するか、心肺疾患を阻害するか、もしくは骨格異形成を阻害するか、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
rAAVがrAAV9またはrAAVrh10である、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2015年5月15日に出願された米国特許出願第62/162,174号、2015年11月6日に出願された同第62/252,055号、2016年3月1日に出願された同第62/301,980号および2016年5月3日に出願された同第62/331,156号の出願日の恩典を主張し、各々の開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の権利に関する陳述
本発明は、米国国立衛生研究所によって交付されたHD032652およびDK094538の下に、政府の支援を受けて為された。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
ムコ多糖症(MPS)は、グリコサミノグリカン(GAG)異化の乱れが引き起こす11の蓄積症の一群であり、リソソームにおけるGAGの蓄積をまねく(Muenzer, 2004、Munoz-Rojas et al., 2008)。さまざまな重症度の所見には、臓器肥大、骨格異形成、心閉塞および肺閉塞、ならびに神経機能低下が含まれる。イズロニダーゼ(IDUA)欠損症であるMPS Iの場合、重症度は、軽度(シェイエ症候群)から中等度(ハーラー・シェイエ)、さらには重度(ハーラー症候群)に及び、後者は神経学的不全と15歳までの死亡をもたらす(Muenzer, 2004、Munoz-Rojas et al., 2008)。MPSの治療法は大部分が対症療法であった。しかし、MPS疾患のなかには、ハーラー症候群を含めて、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)が効力を呈したものもある(Krivit, 2004、Orchard et al., 2007、Peters et al., 2003)。加えて、酵素補充療法(ERT)が利用可能になりつつあるMPS疾患も、次第に増えている(Brady, 2006)。一般に、HSCTとERTは蓄積物質の除去と末梢状態の改善をもたらすが、いくつかの問題は処置後も残存する(骨格、心臓、角膜混濁)。これらの細胞療法および酵素療法における最も大きな問題は、神経所見の対処における有効性である。というのも、末梢に投与された酵素は血液脳関門を透過せず、HSCTは一部のMPSに有益であることは見いだされているが、全てのMPSに有益なわけではないからである。
【0004】
MPS Iは、細胞療法および分子療法の開発に関して最も大規模に研究されたMPS疾患の1つである。同種異系HSCTの有効性は、おそらく、欠けている酵素がドナー由来細胞から放出され、次に宿主細胞によって取り込まれ、リソソームに輸送されて、リソソーム代謝に寄与するという、代謝的クロスコレクション(metabolic cross-correction)の結果であるだろう(Fratantoni et al., 1968)。続いて、肝臓や脾臓などの末梢臓器において、GAG蓄積物質の除去が観察され、心肺閉塞の緩和および角膜混濁の改善が起こる(Orchard et al., 2007)。とりわけ重要なのは、MPS疾患における神経学的所見の出現に対する同種異系幹細胞移植の効果である。これに関連して、同種異系幹細胞を生着させた個体が移植を受けていない患者と比較して改善された転帰を迎えることは、いくつかのMPS疾患について証拠がある(Bjoraker et al., 2006、Krivit, 2004、Orchard et al., 2007、Peters et al., 2003)。同種異系造血幹細胞移植の神経学的利益を説明する中心的仮説は、中枢神経系へのドナー由来造血細胞(おそらくミクログリア)の透過(Hess et al., 2004、Unger et al., 1993)であり、生着した細胞はそこで欠けている酵素を発現し、酵素はその地点からCNS組織中に拡散して、蓄積物質の除去に関与する。したがってCNS組織に提供される酵素のレベルは、脳内に生着するドナー由来細胞から発現され放出される量に限定される。そのような生着はMPS Iにとって大変有益であるものの、それでもなおレシピエントは、標準を下回るIQと神経認知能力障害を呈し続ける(Ziegler and Shapiro, 2007)。
【0005】
代謝的クロスコレクションという現象は、いくつかのリソソーム蓄積症、特にMPS Iに対する、ERTの有効性の説明にもなる(Brady, 2006)。しかし、CNSに効果的に到達するには、その特定のリソソーム蓄積症(LSD)において欠けている酵素が血液脳関門(BBB)を透過する必要があることから、リソソーム蓄積症(LSD)の神経学的所見に対する酵素療法の有効性は観察されていない(Brady, 2006)。酵素は、ほとんどの場合、大きすぎ、また一般に荷電しすぎているので、BBBを効果的に横切ることができない。このことが、侵襲的髄腔内酵素投与の研究を喚起し(Dickson et al., 2007)、侵襲的髄腔内酵素投与については、MPS Iのイヌモデルにおいて有効性が実証され(Kakkis et al., 2004)、MPS Iに関するヒト臨床治験が始まっている(Pastores, 2008、Munoz-Rojas et al., 2008)。酵素療法の主な欠点として、その費用が多大であること(年間200,000ドル超)と、組換えタンパク質の反復注入が必要であることが挙げられる。髄腔内IDUA投与の現在の臨床治験は、3ヶ月に1回しか酵素を注射しない計画になっているので、この投与レジメンの有効性は不確かなままである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の方法において使用されるAAVベクターはCNSに遺伝子を送達するのに役立つ。一態様において、本発明は、例えば神経認知機能障害または神経学的疾患を防止、阻害または処置するための、AAVによる治療用タンパク質のCNSへの鼻腔内送達を提供する。本明細書に記載するとおり、ベクターの鼻腔内送達は、前脳(嗅球)の形質導入と治療用タンパク質の発現につながった。タンパク質は脳のすべての領域に拡散した。このように、分泌タンパク質などを発現させるために鼻腔内送達AAVベクターを使用すれば、多くの異なる神経障害、例えばMPS I、MPS II、MP SIII、ならびにパーキンソン病およびアルツハイマー病を含む他の代謝性疾患の処置が可能になる。例えば、顕微解剖された脳のすべての部分からの抽出物をアッセイすると、rAAVによって送達されたアルファ-L-イズロニダーゼの脳全体にわたる広範な分布が示される。
【0007】
一態様において、rAAVは、神経認知機能障害または神経学的疾患を防止、阻害または処置するために、哺乳動物に、髄腔内(IT)送達、血管内(IV)送達、脳室内(ICV)送達、または鼻腔内(IN)送達される。一態様において、鼻腔内投与は、代謝的クロスコレクションによるCNSへの非侵襲的直接投与をもたらす。一態様において、哺乳動物は免疫抑制を受ける。一態様において、哺乳動物は寛容化を受ける。
【0008】
一態様において、特定の遺伝子で防止、阻害または処置されるべき疾患には、MPS I(IDUA)、MPS II(IDS)、MPS IIIA(ヘパラン-N-スルファターゼ;スルファミニダーゼ)、MPS IIIB(アルファ-N-アセチル-グルコサミニダーゼ)、MPS IIIC(アセチル-CoA:アルファ-N-アセチル-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ)、MPS IIID(N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ)、MPS VII(ベータ-グルクロニダーゼ)、ゴーシェ病(酸性ベータ-グルコシダーゼ)、アルファ-マンノシドーシス(アルファ-マンノシダーゼ)、ベータ-マンノシドーシス(ベータ-マンノシダーゼ)、アルファ-フコシドーシス(アルファ-フコシダーゼ)、シアリドーシス(アルファ-シアリダーゼ)、ガラクトシアリドーシス(カテプシンA)、アスパルチルグルコサミン尿症(アスパルチルグルコサミニダーゼ)、GM1-ガングリオシドーシス(ベータ-ガラクトシダーゼ)、テイ・サックス病(ベータ-ヘキソサミニダーゼサブユニットアルファ)、サンドホフ病(ベータ-ヘキソサミニダーゼサブユニットベータ)、GM2-ガングリオシドーシス/AB異型(GM2活性化タンパク質)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼA)、ならびに限定するわけではないがアルツハイマー病(ベータ-アミロイドに対する抗体などの抗体の発現、またはアルツハイマー病に関連するプラークおよびフィブリルを攻撃する酵素)、またはアルツハイマー病およびパーキンソン病(限定するわけではないがGDNFまたはニュールツリンを含む神経保護タンパク質の発現)を含む他の神経障害が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0009】
したがって、中枢神経系(CNS)の疾患、例えばそれに関連する1つまたは複数の症状の、防止、阻害、および/または処置を、それを必要とする哺乳動物において行うための方法を記載する。本方法では、処置を必要とする哺乳動物のCNSに、遺伝子産物、例えば治療用遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を送達する。rAAVベクターがコードしうるターゲット遺伝子産物としては、アルファ-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、またはグルコセレブロシダーゼ、ならびに本明細書において上記に開示されるものが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本明細書に開示する方法で防止、阻害または処置することができる疾患としては、ムコ多糖症I型障害、ムコ多糖症II型障害、またはムコ多糖症VII型障害、ならびに上記に列挙される障害が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。AAVベクターは、それがCNS/脳に送達されること、および導入遺伝子が対象のCNS/脳にうまく形質導入されることを保証するために、さまざまな方法で投与することができる。CNS/脳への送達経路としては、髄腔内投与、頭蓋内投与、例えば脳室内投与または側脳室投与、鼻腔内投与、血管内投与、および実質内投与が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0010】
一態様において、本方法では、遺伝子をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAV血清型9(rAAV9)ベクターを含む組成物を、処置を必要とする成体哺乳動物のCNSに送達する。一態様において、本方法では、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAV9ベクターを含む組成物を、処置を必要とする成体哺乳動物のCNSに送達する。これらの方法は、AAV9ベクターが成体対象の脳/CNSに治療用導入遺伝子を効率よく形質導入して、酵素レベルを野生型のレベルまで回復させることができるという発見に一部基づいている(図15、下記参照)。成体マウスにおけるAAV9の脈管内(intravascular)送達では広範な直接的神経ターゲティングが達成されないことを実証した以前の研究(Foust et al., 2009参照)や、成体IDUA欠損マウスのCNSへのAAV8-IDUAの直接注射では十分な導入遺伝子発現が得られなかったことを示す追加データ(図18)を考慮すると、AAV9を使って達成された結果は意外である。本明細書に記載する実施例では、リソソーム酵素であるアルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損が引き起こす遺伝性代謝障害であるMPS1の処置に関する前臨床モデルを使用する。これらの実施例は、免疫適格性の成体IDUA欠損マウスのCNSへのAAV9-IDUAの直接適用が、野生型成体マウスにおけるIDUA酵素の発現および活性と同じかそれを上回るIDUA酵素の発現および活性をもたらしたことを実証している(図15、下記参照)。
【0011】
本発明のさらなる態様において、実施例は、免疫抑制または免疫寛容化を誘導するための併用療法、または免疫不全動物の処置によって、さらに高レベルのIDUA酵素の発現および活性を達成できることも、実証している。一態様では、酵素活性を中和する免疫応答を促進する遺伝子型を有する患者(例えばBarbier et al., 2013参照)を、IDUAなどの遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターに加えて、免疫抑制薬で処置する。
【0012】
新生児IDUA-/-マウスは免疫学的にナイーブである。AAV8-IDUAを新生児IDUA-/-マウスに投与するとIDUA発現が起こり(Wolf et al., 2011)、その動物をIDUAに対して寛容化する。本明細書に記載するとおり、中枢神経系へのAAVの直接注入による成体(免疫適格性)マウスへのAAVを介した遺伝子導入の適用可能性が、さまざまな投与経路を使って示された。例えば、免疫適格であるか、免疫不全(NODSCID/IDUA-/-)であるか、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制されているか、または週に1回のヒトイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)の注射を出生時から開始することによって免疫寛容化されているかのいずれかである成体IDUA欠損マウスの側脳室への直接注射によって、AAV9-IDUAが投与された。CP免疫抑制動物には、鼻腔内注入、髄腔内注射、および血管内注入によっても、血液脳関門を破壊するためのマンニトールと共に、およびマンニトールなしで、AAV9-IDUAを投与した。ベクター投与の8週間後に動物を屠殺し、脳を回収し、IDUA酵素活性、組織グリコサミノグリカンおよびIDUAベクター配列を正常対照マウスおよび罹患対照マウスと比較して評価するために、顕微解剖した。これらの研究の結果は、例えばCNSにおいて、より高レベルのタンパク質送達および/または酵素活性が達成されるように、AAVベクターをCNSに直接投与するための数多くの経路を使用できることを示している。加えて、脳は免疫特権部位であるが、免疫抑制薬の投与または免疫寛容化によって、AAV投与後の脳に見いだされる活性が増加しうる。1回の投与あたりの発現レベルが高くかつ/または侵襲性の低い投与経路の方が、患者にとって臨床的に好ましい。
【0013】
したがって本発明は、哺乳動物のCNSにおいて発現した場合に治療効果を有する遺伝子産物をコードする組換えAAV(rAAV)ベクターの使用を包含する。一態様において、前記哺乳動物は、CNSの疾患または障害(神経学的疾患)を有する免疫適格性哺乳動物である。本明細書にいう「免疫適格性」哺乳動物とは、先天免疫と母親から例えば妊娠中にまたは授乳によって得られる免疫とを有する新生児とは対照的に、抗原刺激へのばく露後に、ポリクローナル刺激に応答して起こるTh1機能またはIFN-γ生産のアップレギュレーションによって、細胞性免疫応答と体液性免疫応答がどちらも引き出される年齢の哺乳動物をいう。免疫不全疾患を有さない成体哺乳動物は免疫適格性哺乳動物の一例である。例えば、免疫適格性のヒトは典型的には少なくとも1、2、3、4、5または6ヶ月齢であり、免疫不全疾患を有さない成人が含まれる。一態様では、AAVが髄腔内に投与される。一態様では、AAVが頭蓋内(例えば脳室内)に投与される。一態様では、AAVが、浸透促進薬と共に、または浸透促進薬なしで、鼻腔内に投与される。一態様では、AAVが、浸透促進薬と共に、または浸透促進薬なしで、血管内に、例えば頚動脈投与によって投与される。一態様では、AAVを投与される哺乳動物が免疫不全であるか、または例えば免疫寛容化も免疫抑制も受けずにAAVを投与される対応哺乳動物と比較して、より高レベルな治療用タンパク質発現が誘導されるように、免疫寛容化または免疫抑制を受ける。一態様では、免疫抑制を誘導するために免疫抑制剤が投与される。一態様では、AAVを投与される哺乳動物が免疫寛容化も免疫抑制も受けない(例えばAAVのみの投与によって治療効果が得られる)。
【0014】
一態様において、本発明は、神経認知機能障害を含みうる神経学的疾患を有する哺乳動物の中枢神経系において分泌タンパク質を増強するための方法を提供する。本方法は、哺乳動物における発現が、該疾患または機能障害を有するがrAAVを投与されていない哺乳動物と比較して脳全体にわたって神経病態を減少させるおよび/または神経認知を強化する分泌タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を、哺乳動物に鼻腔内投与する工程を含む。一態様において、コードされているタンパク質は神経保護タンパク質、例えばGDNFまたはニュールツリンを含む。一態様において、コードされているタンパク質は抗体、例えばベータ-アミロイドに結合する抗体を含む。一態様において、タンパク質は、アルツハイマー病に関連するプラークまたはフィブリルを切断する酵素である。一態様において、哺乳動物は免疫抑制薬で処置されない。別の態様において、例えば治療用タンパク質の活性を中和する免疫応答を生じさせうる対象では、哺乳動物が免疫抑制薬、例えばグルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質、例えばナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤で処置される。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬がrAAVの後に投与される。一態様では、免疫抑制薬が髄腔内投与される。一態様では、免疫抑制薬が脳室内投与される。一態様において、rAAVベクターはrAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAA rh10、またはrAAV9ベクターである。一態様では、組成物の投与に先だって哺乳動物が免疫寛容化される。
【0015】
一態様において、本発明は、哺乳動物における神経認知機能障害を含みうる神経学的疾患を防止、阻害または処置するための方法を提供する。本方法は、哺乳動物における発現が神経病態および/または神経認知機能障害を防止、阻害または処置するタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を、哺乳動物に鼻腔内投与する工程を含む。一態様において、コードされているタンパク質は神経保護タンパク質、例えばGDNFまたはニュールツリンを含む。一態様において、コードされているタンパク質は抗体、例えばベータ-アミロイドに結合する抗体を含む。一態様において、タンパク質は、アルツハイマー病に関連するプラークまたはフィブリルを切断する酵素である。一態様において、哺乳動物は免疫抑制薬で処置されない。別の態様において、例えば治療用タンパク質の活性を中和する免疫応答を生じさせうる対象では、哺乳動物が免疫抑制薬、例えばグルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質、例えばナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤で処置される。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬がrAAVの後に投与される。一態様では、免疫抑制薬が髄腔内投与される。一態様では、免疫抑制薬が脳室内投与される。一態様において、rAAVベクターはrAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAAVrh10、またはrAAV9ベクターである。一態様では、組成物の投与に先だって哺乳動物が免疫寛容化される。一態様において、哺乳動物はアルツハイマー病またはパーキンソン病を有する。
【0016】
一態様において、本発明は、神経認知機能障害を含みうる神経学的疾患を有する哺乳動物の中枢神経系における分泌タンパク質のクロスコレクションをもたらすための方法を提供する。本方法は、哺乳動物における発現がクロスコレクションをもたらす分泌タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む有効量の組成物を、哺乳動物に鼻腔内投与、髄腔内投与、脳血管内投与または静脈内投与する工程を含む。一態様において、コードされているタンパク質は神経保護タンパク質、例えばGDNFまたはニュールツリンを含む。一態様において、コードされているタンパク質は抗体、例えばベータ-アミロイドに結合する抗体を含む。一態様において、タンパク質は、アルツハイマー病に関連するプラークまたはフィブリルを切断する酵素である。一態様において、哺乳動物は免疫抑制薬で処置されない。一態様において、例えば治療用タンパク質の活性を中和する免疫応答を生じさせうる対象では、哺乳動物が免疫抑制薬、例えばグルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質、例えばナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤で処置される。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬がrAAVの後に投与される。一態様では、免疫抑制薬が髄腔内投与される。一態様では、免疫抑制薬が脳室内投与される。一態様において、rAAVベクターはrAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAAVrh10、またはrAAV9ベクターである。一態様では、組成物の投与に先だって哺乳動物が免疫寛容化される。
【0017】
本発明は、中枢神経系の疾患または障害に関連する神経認知機能障害の防止、阻害、または処置を、それを必要とする哺乳動物において行うための方法を提供する。本方法は、哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が前記神経認知機能障害を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物を、髄腔内投与(例えば腰椎領域に投与)または脳室内投与(例えば側脳室に投与)する工程を含む。一態様では、前記遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が免疫適格性の成体である。一態様では、rAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が、週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。
【0018】
一態様において、本方法は、哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が神経認知機能障害を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物を、髄腔内投与(例えば腰椎領域に投与)する工程、および任意で浸透促進薬を投与する工程を含む。一態様では、浸透促進薬が前記組成物の前に投与される。一態様では、前記組成物が浸透促進薬を含む。一態様では、浸透促進薬が前記組成物の後に投与される。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が免疫適格性の成体である。一態様では、rAAVベクターが、AAV-1、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAVrh10、またはAAV-9ベクターである。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が、週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。一態様では、AAVを髄腔内投与される哺乳動物が、免疫寛容化も免疫抑制も受けない(例えばAAVのみの投与によって治療効果が得られる)。一態様では、AAVを髄腔内投与される哺乳動物が免疫不全であるか、または例えば免疫寛容化も免疫抑制も受けずにAAVを髄腔内投与される対応哺乳動物と比較して、より高レベルな治療用タンパク質発現が誘導されるように、免疫寛容化または免疫抑制を受ける。
【0019】
一態様において、本方法は、免疫適格性哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が神経認知機能障害を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物を、脳室内投与(例えば側脳室に投与)する工程を含む。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、rAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。一態様では、rAAVベクターがrAAV5ベクターではない。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が、週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。一態様では、AAVを脳室内投与される哺乳動物が免疫寛容化も免疫抑制も受けない(例えばAAVのみの投与によって治療効果が得られる)。一態様では、AAVを脳室内投与される哺乳動物が免疫不全であるか、または例えば免疫寛容化も免疫抑制も受けずにAAVを脳室内投与される対応哺乳動物と比較して、より高レベルな治療用タンパク質発現が誘導されるように、免疫寛容化または免疫抑制を受ける。一態様では、AAVを含む組成物を投与する前に、哺乳動物が、前記遺伝子産物に対して免疫寛容化される。
【0020】
さらに、中枢神経系の疾患または障害に関連する神経認知機能障害の防止、阻害または処置を、それを必要とする哺乳動物において行うための方法が提供される。本方法は、哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が前記機能障害を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物と、有効量の浸透促進薬とを、血管内投与する工程を含む。一態様では、前記組成物が前記浸透促進薬を含む。一態様では、浸透促進薬が、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル(polyoxyethylene-9-laurel ether)、またはEDTAを含む。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が免疫適格性の成体である。一態様では、rAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。一態様では、rAAVベクターがrAAV5ベクターではない。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が週に1回投与される。一態様では、組成物が、週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。一態様では、AAVを血管内投与される哺乳動物が免疫寛容化も免疫抑制も受けない(例えばAAVの投与によって治療効果が得られる)。一態様では、AAVを血管内投与される哺乳動物が免疫不全であるか、または例えば免疫寛容化も免疫抑制も受けずにAAVを血管内投与される対応哺乳動物と比較して、より高レベルな治療用タンパク質発現が誘導されるように、免疫寛容化または免疫抑制を受ける。
【0021】
一態様において、本方法は、哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が神経認知機能障害を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAV9ベクターを含む組成物を鼻腔内投与する工程、および任意で浸透促進薬を投与する工程を含む。一態様において、鼻腔内送達は米国特許第8,609,088号に記載されているように遂行することができ、この特許文献の開示は参照により本明細書に組み入れられる。一態様では、浸透促進薬が前記組成物の前に投与される。一態様では、前記組成物が浸透促進薬を含む。一態様では、浸透促進薬が前記組成物の後に投与される。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が免疫適格性の成体である。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が、週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。一態様では、AAVを鼻腔内投与される哺乳動物が免疫寛容化も免疫抑制も受けない。一態様では、AAVを鼻腔内投与される哺乳動物が、例えば免疫寛容化も免疫抑制も受けずにAAVを鼻腔内投与される対応哺乳動物と比較して、より高レベルのIDUAタンパク質発現が誘導されるように、免疫寛容化または免疫抑制を受ける。
【0022】
また、中枢神経系の疾患に関連する神経認知機能障害の防止、阻害、または処置を、それを必要とする哺乳動物において行うための方法が提供される。本方法は、哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が防止、阻害または処置を行う遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物と免疫抑制薬とを投与する工程を含む。一態様では、免疫抑制薬がシクロホスファミドを含む。一態様では、免疫抑制薬が、グルココルチコイド、細胞分裂阻害剤、例えばアルキル化剤、または代謝拮抗物質、例えばメトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、または細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質を含む。一態様では、免疫抑制薬が、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤、例えばインフリキシマブ(Remicade)、エタネルセプト(Enbrel)、またはアダリムマブ(Humira)を含む。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが同時投与される。一態様では、rAAVが免疫抑制薬の前と任意で免疫抑制薬の後に投与される。一態様では、免疫抑制薬がrAAVの前に投与される。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが髄腔内投与される。一態様では、rAAVと免疫抑制薬とが脳室内投与される。一態様では、rAAVが髄腔内投与され、免疫抑制薬が静脈内投与される。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が成体である。一態様では、rAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が週に1回投与される。一態様では、組成物が週に1回、月に1回、または2ヶ月以上の間隔を空けて、投与される。
【0023】
また本発明は、中枢神経系の疾患に関連する神経認知機能障害の防止、阻害、または処置を、それを必要とする哺乳動物において行うための方法を提供する。前記疾患に関連する遺伝子産物に対して免疫寛容化された哺乳動物に、前記哺乳動物の中枢神経系における発現が前記1つまたは複数の症状を防止、阻害または処置する遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAVベクターを含む組成物が投与される。一態様では、遺伝子産物がリソソーム蓄積酵素である。一態様では、哺乳動物が成体である。一態様では、rAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。一態様では、哺乳動物がヒトである。一態様では、複数回の投与が行われる。一態様では、組成物が週に1回投与される。
【0024】
rAAVベクターがコードしうる遺伝子産物としては、アルファ-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、線維芽細胞成長因子2(FGF-2)、脳由来成長因子(BDGF)、ニュールツリン、グリア由来成長因子(glial derived growth factor)(GDGF)、チロシンヒドロキシラーゼ、ドーパミンデカルボキシラーゼ、またはグルタミン酸デカルボキシラーゼが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0025】
本明細書に開示する方法を使って防止、阻害または処置しうる神経学的症状または神経認知機能障害を呈しうる疾患としては、副腎脳白質ジストロフィー、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、アンジェルマン症候群、毛細血管拡張性運動失調症、シャルコー・マリー・ツース症候群、コケイン症候群、聾、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、てんかん、本態性振戦、脆弱X症候群、フリードライヒ運動失調症、ゴーシェ病、ハンチントン病、レッシュ・ナイハン症候群、メープルシロップ尿症、メンケス症候群、筋緊張性ジストロフィー、ナルコレプシー、神経線維腫症、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、フェニルケトン尿症、プラダー・ウィリー症候群、レフサム病、レット症候群、脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症、タンジール病、テイ・サックス病、結節性硬化症、フォンヒッペル・リンダウ症候群、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、またはツェルウェガー症候群が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。一態様では、疾患がリソソーム蓄積症、例えばリソソーム蓄積酵素の欠落または欠損である。リソソーム蓄積症には、ムコ多糖症(MPS)、例えばムコ多糖症I型、例えばハーラー症候群ならびにその亜型であるシャイエ症候群およびハーラー・シャイエ症候群(アルファ-L-イズロニダーゼの欠損);ハンター症候群(イズロン酸-2-スルファターゼの欠損);ムコ多糖症III型、例えばサンフィリポ症候群(A、B、CまたはD;ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、アセチルCoA:アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼまたはN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損);ムコ多糖症IV型、例えばモルキオ症候群(ガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼまたはベータ-ガラクトシダーゼの欠損);ムコ多糖症VI型、例えばマロトー・ラミー症候群(アリールスルファターゼBの欠損);ムコ多糖症II型;ムコ多糖症III型(A、B、CまたはD; ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、アセチルCoA:アルファ-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼまたはN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損);ムコ多糖症IV型(AまたはB;ガラクトサミン-6-スルファターゼおよびベータ-ガラクトシダーゼの欠損);ムコ多糖症VI型(アリールスルファターゼBの欠損);ムコ多糖症VII型(ベータ-グルクロニダーゼの欠乏);ムコ多糖症VIII型(グルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損);ムコ多糖症IX型(ヒアルロニダーゼの欠損);テイ・サックス病(ベータ-ヘキソサミニダーゼのアルファサブユニットの欠乏);サンドホフ病(ベータ-ヘキソサミニダーゼのアルファサブユニットとベータサブユニットの両方の欠乏); GM1ガングリオシドーシス(I型またはII型);ファブリー病(アルファガラクトシダーゼの欠乏);異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼAの欠損);ポンペ病(酸性マルターゼの欠損);フコシドーシス(フコシダーゼの欠損);アルファ-マンノシドーシス(アルファ-マンノシダーゼの欠損);ベータ-マンノシドーシス(ベータ-マンノシダーゼの欠損)、セロイドリポフスチン沈着症、およびゴーシェ病(I型、II型およびIII型;グルコセレブロシダーゼの欠乏)、ならびにヘルマンスキー・パドラック症候群などの障害;黒内障性白痴;タンジール病;アスパルチルグルコサミン尿症; 先天性グリコシル化異常症Ia型;チェディアック・東症候群;斑状角膜ジストロフィー1(macular dystrophy, corneal, 1);腎障害性シスチン症;ファンコーニ・ビッケル(Fanconi-Bickel)症候群;ファーバー脂肪肉芽腫症;線維腫症;ゲレオフィジック異形成(geleophysic dysplasia);糖原病I型;糖原病Ib型;糖原病Ic型;糖原病III型;糖原病IV型;糖原病V型;糖原病VI型;糖原病VII型;糖原病0型;シムケ型免疫骨性異形成(immunoosseous dysplasia, Schimke type);リピドーシス;リパーゼb;ムコリピドーシスII; 亜型を含むムコリピドーシスII;ムコリピドーシスIV;ベータ-ガラクトシダーゼ欠損症を伴うノイラミニダーゼ欠損症;ムコリピドーシスI;ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼの欠損);スフィンゴミエリナーゼ欠損を伴わないニーマン・ピック病(コレステロール代謝酵素をコードするnpc1遺伝子の欠損);レフサム病;シーブルー組織球病;小児シアル酸蓄積障害;シアル酸尿症;多種スルファターゼ欠損症;長鎖脂肪酸酸化障害を伴うトリグリセリド蓄積症;ウィンチェスター病(Winchester disease);ウォルマン病(コレステロールエステルヒドロラーゼの欠損);デオキシリボヌクレアーゼI様1障害(deoxyribonuclease I-like 1 disorder);アリールスルファターゼE障害;リソソームH+輸送ATPアーゼサブユニット1障害;糖原病IIb; Ras関連タンパク質rab9障害; X連鎖性劣性点状軟骨異形成1障害;糖原病VIII;リソソーム膜タンパク質2障害;メンケス症候群;先天性グリコシル化異常症Ic型;およびシアル酸尿症が含まれるが、それらに限定されるわけではない。非罹患哺乳動物に見いだされるリソソーム蓄積酵素の20%未満、例えば10%未満、または約1%~5%のレベルを補充することにより、哺乳動物における神経変性などの神経症状を防止、阻害または処置しうる。
【0026】
一態様において、本明細書に記載する方法では、処置を必要とする免疫適格性のヒトのCNSに、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含む有効量のrAAV9ベクターを含む組成物が送達される。CNS/脳への投与経路としては、髄腔内投与、頭蓋内投与、例えば脳室内投与または側脳室投与、鼻腔内投与、血管内投与、および実質内投与が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0027】
本発明の方法では、他のウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、セムリキ森林ウイルスベクターまたは単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクターも使用することができる。
[本発明1001]
リソソーム蓄積症を有する哺乳動物の中枢神経系において神経認知を強化するまたは神経病態を減少させるための方法であって、リソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを、該rAAVを投与されていないムコ多糖症を有する哺乳動物と比較して脳全体にわたって神経認知を強化するまたは神経病態を減少させるのに有効な量で含む組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
[本発明1002]
リソソーム蓄積症を有する哺乳動物において神経認知機能障害または神経病態を防止または阻害するための方法であって、リソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
[本発明1003]
中枢神経系におけるリソソーム蓄積酵素欠損のクロスコレクション(cross-correction)を、それを必要とする哺乳動物においてもたらすための方法であって、該哺乳動物における発現がクロスコレクションをもたらすリソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む有効量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む有効量の組成物を、該哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
[本発明1004]
哺乳動物が免疫抑制薬で処置されない、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
哺乳動物が免疫抑制薬で処置される、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1006]
免疫抑制薬がシクロホスファミドを含む、本発明1005の方法。
[本発明1007]
免疫抑制薬が、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性な作用物質を含む、本発明1005の方法。
[本発明1008]
免疫抑制薬が、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)またはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤を含む、本発明1005の方法。
[本発明1009]
rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬がrAAVの後に投与される、本発明1006~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化されない、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化される、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1012]
哺乳動物が免疫適格性の成体である、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1013]
rAAVベクターが、rAAV1ベクター、rAAV3ベクター、rAAV4ベクター、rAAV5ベクター、rAAVrh10ベクター、またはrAAV9ベクターである、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
遺伝子産物が、アルファ-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、またはグルコセレブロシダーゼである、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
哺乳動物がヒトである、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
哺乳動物が、アルファ-L-イズロニダーゼを欠損している、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
哺乳動物が、ムコ多糖症I型障害、ムコ多糖症II型障害、またはムコ多糖症VII型障害を有する、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1018]
複数回の投与が行われる、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
組成物が週に1回投与される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記量が、成長遅延を阻害するか、肝脾腫大を阻害するか、心肺疾患を阻害するか、もしくは骨格異形成を阻害するか、またはそれらの任意の組み合わせである、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
rAAVがrAAV9またはrAAVrh10である、本発明1001~1020のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】AAV9-IDUAが脳室内(ICV)または髄腔内に投与されるイズロニダーゼ欠損マウスに関する実験計画。免疫応答を防止するために、動物をシクロホスファミド(CP)で免疫抑制するか、ヒトイズロニダーゼタンパク質(aldurazyme)の静脈内投与によって出生時に免疫寛容化するか、注射を、イズロニダーゼ欠損性でもあるNOD-SCID免疫不全マウスで行った。処置後の表示した時点で動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、抽出物をイズロニダーゼ活性についてアッセイした。
図2】免疫不全IDUA欠損動物におけるIDUA活性。
図3】AAVベクターがICV経路によって投与された免疫抑制動物におけるIDUA活性。
図4】AAVベクターがIT経路によって投与された免疫抑制動物におけるIDUA活性。
図5】AAVベクターがICV投与された免疫寛容化動物におけるIDUA活性。
図6】全ての平均IDUA活性レベルを横並びにして比較できるように編集したもの。
図7】データを脳の領域に応じてグループ分けしたもの。
図8】4つの試験群全てに関する脳のさまざまな切片でのGAG蓄積物質のアッセイ。
図9】実験計画の概略。
図10】免疫不全MPS IマウスへのAAV9-IDUAの頭蓋内注入。成体動物に1011個のベクターゲノムを注射し、10週間後に脳におけるイズロニダーゼ発現を評価した。脳における酵素活性レベルは野生型動物の脳より有意に高く、野生型より30倍から300倍高い範囲にあった。
図11】免疫適格IDUA欠損マウスにおけるAAV9-IDUAの頭蓋内投与。成体動物に1011個のベクターゲノムを注射すると共に、シクロホスファミド(CP)の週1回の注射によって成体動物を免疫抑制した。ベクター注射の6週間後に健康不良のためにCP注射を終了し、動物を注射の8週間後に屠殺した。脳を顕微解剖し、IDUA酵素活性についてアッセイした。
図12】免疫寛容化MPS I マウスへのAAV9-IDUAの頭蓋内注入。Aldurazymeを出生時に単回投与するか、出生時に開始して週に1回、複数回投与することによって、MPS 1マウスを寛容化した。4ヶ月時にベクターをマウスに注入し、注射の11週間後にマウスを屠殺した。脳を顕微解剖し、イズロニダーゼ発現について分析した。酵素活性は、野生型レベルより平均で10倍から1000倍高い範囲にあった。
図13】免疫適格IDUA欠損動物におけるAAV9-IDUAの髄腔内投与。成体MPS IマウスにAAV9-IDUAを髄腔内投与した後、シクロホスファミドの週1回の免疫抑制レジメンを施行した。注射の11週間後に動物を屠殺し、脳および脊髄をIDUA酵素活性について分析した。
図14】免疫寛容化MPS IマウスにおけるAAV9-IDUAの髄腔内注入。Aldurazymeを出生時に単回投与するか、出生時に開始して週に1回、複数回投与することによって、IDUA欠損動物を寛容化した。4ヶ月齢時にAAV9-IDUAベクターを動物に髄腔内注入し、注射の10週間後に動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、イズロニダーゼ活性についてアッセイした。脳の全ての部分で酵素活性が回復しており、小脳における活性は野生型レベルより200倍から1500倍高い範囲にあった。嗅球および小脳における酵素活性のレベル(破線の右側)は右側のY軸に対応する。
図15】免疫適格MPS I動物におけるAAV9-IDUAの髄腔内注入。対照MPS I動物にはAAV9-IDUAベクターを注射したが、免疫抑制も免疫寛容化も行わなかった。動物をベクター注射の11週間後に屠殺し、その脳をイズロニダーゼ活性についてアッセイした。酵素レベルは、脳の全ての部分において野生型レベルまで回復したが、免疫抑制または免疫寛容化のいずれかを行った動物よりは有意に低かった。
図16】頭蓋内または髄腔内AAV9注入後のグリコサミノグリカン(GAG)レベルの正常化。免疫不全MPS Iマウス、免疫抑制MPS Iマウスまたは免疫寛容化MPS Iマウスに、表示のとおり、AAV9-IDUAを頭蓋内注射または髄腔内注射した。注射の8~11週間後に動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、GAGレベルについてアッセイした。分析した全ての群において、GAG蓄積は野生型レベルまで、または野生型近くまで、回復した。
図17】脳におけるIDUAベクターのコピー数。顕微解剖した脳をIDUAベクター配列についてQPCRで分析した。頭蓋内注射および髄腔内注射されたマウスにおけるコピー数は、図11および図13に図示した酵素活性のレベルと相関している。
図18】成体動物へのAAV8-MCIのICV注入。
図19】免疫適格IDUA欠損動物におけるAAV9-IDUAの鼻腔内投与。成体MPS IマウスにAAV9-IDUAを鼻腔内注入した後、シクロホスファミドの週1回の免疫抑制レジメンを施行した。注射の12週間後に動物を屠殺し、脳をIDUA酵素活性について分析した。
図20】脳におけるIDUAベクターのコピー数。顕微解剖した脳をIDUAベクター配列についてQPCRで分析した。鼻腔内注射されたマウスにおけるコピー数は図19における酵素のレベルと相関している。
図21】AAV9-IDUAのIN送達を用いる免疫抑制薬または寛容化を伴うプロトコール。
図22】AAV9-IDUAのIN送達後のIDUA活性の回復。
図23】AAV9-IDUAのIN送達後のGAG活性。
図24】AAV9-IDUAのIN送達後の脳におけるIDUA免疫蛍光。
図25】AAV9-GFPのIN送達後の脳におけるGFP免疫蛍光。
図26A】トルイジンブルー染色。
図26B】対照ヘテロ接合およびホモ接合MPS IマウスならびにIDUA AAV9-MCIのIN送達で処置されたマウスの組織病理の要約。
図26C】バーンズ迷路。
図26D】バーンズ迷路データ。
図27A】AAV9ベクターの概略図。
図27B】AAV9.hIDSベクターのIT送達およびIV送達に関するインビボ試験群の要約。
図28】IT経路およびIV経路によってAAV9-hIDSベクターが投与されたマウスの血漿におけるIDS活性。
図29】AAV9-hIDSのIT注射後のCNSのIDS活性。マウス群ごとに、左から右に向かって、以下の組織に関するデータを提示する:脊髄、視床/脳幹、小脳、皮質、海馬、および線条体。
図30A】AAV9-hIDSのICV注射後のCNSのIDS活性。マウス群ごとに、左から右に向かって、以下の組織に関するデータを提示する:脊髄;左側の視床/脳幹、小脳、皮質、海馬、線条体、嗅球、ならびに右側の嗅球、線条体、海馬、皮質、小脳、および視床/脳幹。
図30B】AAV9-hIDSのICV注射後の血漿におけるIDS活性。
図30C】AAV9-hIDSのICV注射後の末梢器官におけるIDS活性。マウス群ごとに、左から右に向かって、以下の器官に関するデータを提示する:肝臓、心臓、肺、脾臓および腎臓。
図30D】ICV注射後のGAG含量。マウス群ごとに、左から右に向かって、以下の組織に関するデータを提示する:脊髄、残りの部分、小脳、皮質、海馬、線条体、および嗅球。
図31A】バーンズ迷路。
図31B】1日目および4日目の成績。
図32】野生型マウスおよびMPS IIマウスの神経機能の比較。
図33】AAV9またはAAVrh10を使ったIV遺伝子送達に関する実験計画。
図34】IV投与後の血漿(A)、末梢組織(B)およびCNS(C)におけるIDUA活性の回復。
図35】尿(A)、末梢組織(B)およびCNS(C)におけるGAG活性。
図36A】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。肝臓。
図36B】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。心臓。
図36C】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。肺。
図36D】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。視床。
図36E】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。海馬。
図36F】組織切片におけるIDUA免疫蛍光。小脳。
図37】AAV9-IDUAのIN注入後のIDUA酵素活性レベル。嗅球には高レベル(正常値の10~100倍)のIDUA酵素活性が観察され、脳の他の部分では正常化された(wt)レベルが観察された。
図38】処置されたマウスにおける蓄積物質の低減。
図39A】IDUAの免疫蛍光。
図39B】GFPの免疫蛍光。
図39C】嗅球の免疫蛍光。
図39D】嗅球における嗅覚標的タンパク質との同時染色。
図40】IN処置されたマウスにおける神経認知機能の改善。
図41A】小脳における神経化学的プロファイル。神経化学的プロファイルごとに、対照(CTR)は左側のバー、MPS I(無処置)は中央のバー、そして処置を受けたMPS Iは右側のバーである。
図41B】海馬における神経化学的プロファイル。神経化学的プロファイルごとに、対照(CTR)は左側のバー、MPS I(無処置)は中央のバー、そして処置を受けたMPS Iは右側のバーである。
図42】AAVrh10-GFPのIN送達後の脈絡叢染色。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
定義
本明細書にいう(処置の対象などでの)「個体」とは哺乳動物を意味する。哺乳動物には、例えばヒト;非ヒト霊長類、例えば類人猿およびサル;および非霊長類、例えばイヌ、ネコ、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ヒツジ、およびヤギが含まれる。非哺乳動物には、例えば魚および鳥が含まれる。
【0030】
用語「疾患」または「障害」は可換的に使用され、これらの用語は、特定の遺伝子産物、例えばリソソーム蓄積酵素の欠落またはその量の低減が疾患に関与していて、例えば正常レベルの少なくとも1%まで補充することによって、治療的に有益な効果を達成することができるような疾患または状態を指すために使用される。
【0031】
「実質的に」とは、本明細書において使用する場合、完全にまたはほとんど完全にを意味する。例えば、ある構成要素を「実質的に含まない」組成物は、その構成要素を全く含まないか、またはその構成要素が存在しても当該組成物のどの関連する機能的性質も影響を受けることがない程度の微量しか含有しない。あるいは、存在する不純物が無視できる程度の痕跡量でしかないなら、その化合物は「実質的に純粋」である。
【0032】
本明細書にいう「処置する」または「処置」は障害または疾患に関連する症状の軽減を指し、「阻害する」は障害または疾患に関連する症状のさらなる進行または悪化の阻害を意味し、「防止する」は障害または疾患に関連する症状の防止を指す。
【0033】
本明細書にいう、本発明の作用物質、例えば遺伝子産物をコードする組換えAAVの「有効量」または「治療有効量」とは、障害または状態に関連する症状を全体的にまたは部分的に緩和するか、それら症状のさらなる進行または悪化を停止させまたは遅くするか、障害または状態を防止しまたはその予防をもたらす作用物質の量、例えば個体において1つまたは複数の神経症状を防止、阻害または処置するのに有効な量を指す。
【0034】
特に「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するのに必要な投薬量および期間において有効である量を指す。治療有効量は、本発明の化合物のどの毒性効果または有害効果よりも、治療的に有益な効果が優っている量でもある。
【0035】
本明細書にいう「ベクター」は、ポリヌクレオチドを含むまたはポリヌクレオチドと会合する高分子または高分子の会合体であって、インビトロまたはインビボで細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介するために使用することができるものを指す。説明に役立つベクターとして、例えばプラスミド、ウイルスベクター、リポソームおよび他の遺伝子送達媒体が挙げられる。送達されるポリヌクレオチドは、「ターゲットポリヌクレオチド」または「導入遺伝子」と呼ばれる場合があり、遺伝子治療における関心対象のコード配列(例えば治療的関心対象のタンパク質をコードする遺伝子)および/または選択可能マーカーもしくは検出可能マーカーを含みうる。
【0036】
「AAV」はアデノ随伴ウイルスであり、ウイルスそのものまたはその誘導体を指すために使用しうる。この用語は、別段の必要がある場合を除き、あらゆるサブタイプ、血清型およびシュードタイプ、ならびに天然型と組換え型の両方を包含する。本明細書において使用する用語「血清型」は、その結合特性によって同定され、その結合特性に基づいて他のAAVと区別されるAAVを指す。例えば、AAVにはAAV1~AAV11の11の血清型があり、これにはAAV2、AAV5、AAV8、AAV9およびAAVrh10が含まれる。血清型という用語には、同じ結合特性を有するシュードタイプが包含される。したがって、例えばAAV9血清型には、AAV9の結合特性を有するAAV、例えばAAV9キャプシドとAAV9由来でもAAV9から得られたわけでもないrAAVゲノムまたはキメラであるrAAVゲノムとを含むシュードタイプ化AAVが含まれる。「rAAV」という略号は組換えアデノ随伴ウイルスを指し、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)ともいう。
【0037】
「AAVウイルス」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質とキャプシドで包まれたポリヌクレオチドとから構成されるウイルス粒子である。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド、例えば哺乳動物細胞に送達しようとする導入遺伝子)を含む場合、それは通例、「rAAV」と呼ばれる。AAV「キャプシドタンパク質」には、野生型AAVのキャプシドタンパク質だけでなく、構造的および/または機能的にrAAVゲノムをパッケージングする能力を有し、かつ少なくとも1つの特異的細胞受容体(これは野生型AAVが使用する受容体とは異なっていてもよい)に結合する、修飾型のAAVキャプシドタンパク質も包含される。修飾AAVキャプシドタンパク質には、キメラAAVキャプシドタンパク質、例えばAAVの2つ以上の血清型からのアミノ酸配列を有するもの、例えばAAV-2由来のキャプシドタンパク質の一部分に融合または連結されたAAV9由来のキャプシドタンパク質の一部分から形成されるキャプシドタンパク質や、AAVキャプシドタンパク質に融合または連結されたタグまたは他の検出可能な非AAVキャプシドペプチドもしくは非AAVキャプシドタンパク質を有するAAVキャプシドタンパク質(例えば、トランスフェリン受容体などの、AAV9に対する受容体以外の受容体に結合する抗体分子の一部分をAAV9キャプシドタンパク質に組換え的に融合することができる)が含まれる。
【0038】
「シュードタイプ化」rAAVは、AAVキャプシドタンパク質とAAVゲノムの任意の組合せを有する感染性ウイルスである。任意のAAV血清型由来のキャプシドタンパク質を、異なる血清型の野生型AAVゲノムから誘導されるかもしくは得ることができるrAAVゲノムと共に、またはキメラゲノムである(すなわち2つ以上の異なる血清型に由来するAAV DNAから形成された)rAAVゲノム、例えば2つの逆位末端反復配列(ITR)を有し、各ITRが異なる血清型に由来するかキメラITRであるキメラゲノムであるrAAVと共に、使用することができる。キメラゲノム、例えば2つのAAV血清型に由来するITRまたはキメラITRを含むものの使用は、定方向組換え(directional recombination)をもたらすことができ、それが、転写的に活性な分子間コンカテマーの生産をさらに高めうる。したがって、本発明のrAAVベクター内の5'および3'ITRは相同(すなわち同じ血清型由来)であってもよいし、異種(すなわち異なる血清型由来)であってもよいし、キメラ(すなわち2つ以上のAAV血清型に由来するITR配列を有するITR)であってもよい。
【0039】
rAAVベクター
rAAVの調製には、どの血清型のアデノ随伴ウイルスでも適している。というのも、種々の血清型は機能的にも構造的にも、遺伝子レベルでさえ関連しているからである。全てのAAV血清型が、相同なrep遺伝子によって媒介される類似の複製特性を呈するようであり、また全ての血清型が、一般に、3つの関連キャプシドタンパク質、例えばAAV2において発現するものを持っている。その近縁度はさらに、ゲノムの全長にわたる血清型間の大規模なクロスハイブリダイゼーションを示すヘテロ二重鎖分析と、ITRに対応する末端の類似自己アニーリングセグメントの存在によっても示唆される。類似する感染性パターンも、各血清型における複製機能が類似する調節制御下にあることを示唆している。さまざまなAAV血清型のなかでAAV2が最もよく使用される。
【0040】
本発明のAAVベクターは、典型的には、AAVにとって異種であるポリヌクレオチドを含む。そのポリヌクレオチドは、典型的には、遺伝子治療との関連において、例えば一定の表現型の発現のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションなどといった機能をターゲット細胞に提供する能力を有することから、関心対象のポリヌクレオチドである。そのような異種ポリヌクレオチドまたは「導入遺伝子」は、一般に、所望の機能またはコード配列を提供するのに十分な長さを持つ。
【0041】
意図したターゲット細胞において異種ポリヌクレオチドの転写が望まれる場合は、当技術分野において公知であるとおり、例えばターゲット細胞内での所望の転写レベルおよび/または所望の転写特異性に応じて、その異種ポリヌクレオチドを、それ自身のプロモーターに機能的に連結するか、または異種プロモーターに機能的に連結することができる。これに関連する使用には、さまざまなタイプのプロモーターおよびエンハンサーが好適である。構成的プロモーターは継続的な遺伝子転写レベルを提供するので、治療用ポリヌクレオチドまたは予防用ポリヌクレオチドが継続的に発現することが望ましい場合には、これが好ましいであろう。誘導性プロモーターは、誘導因子の非存在下では一般に低い活性を呈し、誘導因子の存在下ではアップレギュレートされる。一定の時点または一定の場所でのみ発現が望まれる場合、または誘導剤を使って発現のレベルをタイトレートすることが望ましい場合には、それら誘導性プロモーターが好ましいであろう。プロモーターとエンハンサーは組織特異的であってもよく、すなわちそれらは、一定の細胞タイプでのみ、おそらくはその細胞にユニークに見いだされる遺伝子調節要素ゆえに、その活性を呈する。
【0042】
説明に役立つプロモーターの例は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス ポリヘドロンエンハンサー/プロモーター要素、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)の前初期プロモーターおよびLTR要素を含むさまざまなレトロウイルスプロモーターである。誘導性プロモーターとしては、重金属イオン誘導性プロモーター(マウス乳房腫瘍ウイルス(mMTV)プロモーターまたはさまざまな成長ホルモンプロモーターなど)、およびT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性なT7ファージ由来のプロモーターが挙げられる。実例として、組織特異的プロモーターの例には、さまざまなサーファクチンプロモーター(肺における発現用)、ミオシンプロモーター(筋における発現用)、およびアルブミンプロモーター(肝臓における発現用)などがる。他にも多種多様なプロモーターが当技術分野では公知であり一般に利用可能であって、多くのそれらプロモーターの配列は、GenBankデータベースなどの配列データベースから入手することができる。
【0043】
意図したターゲット細胞における翻訳も望まれる場合は、異種ポリヌクレオチドが、好ましくは、翻訳を容易にする制御要素(例えばリボソーム結合部位、すなわち「RBS」、およびポリアデニル化シグナル)も含むであろう。したがって異種ポリヌクレオチドは、一般に、適切なプロモーターに作動的に連結された少なくとも1つのコード領域を含み、また例えば、作動的に連結されたエンハンサー、リボソーム結合部位およびポリAシグナルなども含みうる。異種ポリヌクレオチドは、同じプロモーターまたは異なるプロモーターの制御下に1つのコード領域または2つ以上のコード領域を含みうる。制御要素とコード領域との組合せを含有する単位全体は、多くの場合、発現カセットと呼ばれる。
【0044】
異種ポリヌクレオチドは、組換え技法によってAAVゲノムコード領域に組み込まれるか、AAVゲノムコード領域と置き換えられる(すなわちAAVのrep遺伝子およびcap遺伝子と置き換えられる)が、一般的には、AAV逆位末端反復配列(ITR)領域が両端に隣接する。これは、ITRがコード配列の上流にも下流にも直接並列して、例えば複製能を持つAAVゲノムを再生するかもしれない組換えの可能性を低減するためにAAV起源の介在配列を何ら伴わずに(ただし必ずしもその必要はない)現れることを意味する。しかし、通常は2つのITRを含む構成と関連付けられる機能を果たすには単一のITRでも十分な場合があり(例えばWO 94/13788参照)、したがってITRを1つしか持たないベクターコンストラクトを、本発明のパッケージングおよび生産方法と一緒に使用することもできる。
【0045】
repのネイティブプロモーターは自己調節性であり、生産されるAAV粒子の量を制限することができる。repをベクターコンストラクトの一部として提供するか、別個に提供するかに関わらず、rep遺伝子を異種プロモーターに機能的に連結することもできる。rep遺伝子発現によって強くダウンレギュレートされない異種プロモーターはどれでも適切であるが、rep遺伝子の構成的発現は宿主細胞に対して負の影響を有しうるので、誘導性プロモーターが好ましいであろう。多種多様な誘導性プロモーターが当技術分野では公知であり、例えば、実例として、重金属イオン誘導性プロモーター(メタロチオネインプロモーターなど)、ステロイドホルモン誘導性プロモーター(MMTVプロモーターまたは成長ホルモンプロモーターなど)およびT7 RNAポリメラーゼの存在下で活性なT7ファージ由来のプロモーターなどといったプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターのサブクラスの1つは、rAAVベクターの複製とパッケージングを補完するために使用されるヘルパーウイルスによって誘導されるものである。例えばアデノウイルスE1 Aタンパク質によって誘導されるアデノウイルス初期遺伝子プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、VP16または1CP4などのヘルペスウイルスタンパク質によって誘導されるヘルペスウイルスプロモーター、ならびにワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモーターなど、いくつかのヘルパーウイルス誘導性プロモーターも記載されている。
【0046】
ヘルパーウイルス誘導性プロモーターを同定し試験するための方法は記載されている(例えばWO 96/17947参照)。したがって、候補プロモーターがヘルパーウイルス誘導性であるかどうか、およびそれらが高効率パッケージング細胞の生成に役立つかどうかを決定するための方法は、当技術分野では公知である。簡単に述べると、そのような方法の1つでは、AAV rep遺伝子のp5プロモーターを推定ヘルパーウイルス誘導性プロモーター(当技術分野において公知であるか、プロモーターレス「レポーター」遺伝子への連結などといった周知の技法を使って同定される)で置き換える。次に、例えば抗生物質耐性遺伝子などの陽性選択可能マーカーに連結されたAAV rep-cap遺伝子(p5が置き換えられているもの)を、適切な宿主細胞(例えば以下に例示するHeLa細胞またはA549細胞)に安定に組み込ませる。次に選択条件下(例えば抗生物質の存在下)で比較的よく成長することができる細胞を、ヘルパーウイルスを添加した時にrep遺伝子およびcap遺伝子を発現させる能力について試験する。rep発現および/またはcap発現に関する最初の試験として、Repタンパク質および/またはCapタンパク質を検出するための免疫蛍光法を使って、細胞を容易にスクリーニングすることができる。次に、入ってくるrAAVベクターの複製およびパッケージングに関する機能試験によって、パッケージング能を確認し、パッケージング効率を決定することができる。この方法論を使用して、マウスメタロチオネイン遺伝子由来のヘルパーウイルス誘導性プロモーターがp5プロモーターの適切な代替物であると同定され、高力価のrAAV粒子の生産に使用されている(WO 96/17947に記載がある)。
【0047】
いずれにせよ、複製能を持つAAV(「RCA」)が生成する可能性を低減するために、1つまたは複数のAAV遺伝子を除去することが望ましい。したがって、repもしくはcapまたはその両方のコード配列またはプロモーター配列を除去することができる。というのも、これらの遺伝子によって提供される機能は、トランスに、例えば、安定発現株でまたは同時形質移入を介して、提供することができるからである。
【0048】
その結果得られるベクターは、これらの機能が「欠損している」という。ベクターを複製しパッケージングするために、欠けているさまざまなrep遺伝子産物および/またはcap遺伝子産物について必要な機能を全体としてコードする1つのパッケージング遺伝子または複数のパッケージング遺伝子で、欠けている機能を補完する。パッケージング遺伝子またはパッケージング遺伝子カセットは、一態様では、AAV ITRが隣接しておらず、また一態様では、rAAVゲノムとの間に実質的な相同性を共有しない。このように、複製時にベクター配列と別個に提供されるパッケージング遺伝子との間の相同組換えを最小限に抑えるためには、それら2つのポリヌクレオチド配列のオーバーラップを避けることが望ましい。相同性のレベルおよび対応する組換え頻度は、相同配列の長さが増えるにつれて、また両者が共有する同一性のレベルと共に増加する。所与の系において懸念を生じるであろう相同性のレベルは、当技術分野において公知のとおり、理論的に決定し、実験的に確認することができる。しかし、典型的には、オーバーラップ配列がその全長にわたって少なくとも80%同一である場合にはおよそ25ヌクレオチド未満の配列であれば、またその全長にわたって少なくとも70%同一である場合にはおよそ50ヌクレオチド未満の配列であれば、そのオーバーラップ配列は組換えを実質的に低減または排除することができる。もちろん、さらに低い相同性レベルは、組換えの可能性がさらに低減するであろうから、好ましい。オーバーラップ相同性が一切なくても、RCAが生じる頻度はいくらか残るようである。RCAが(例えば非相同組換えによって)生じる頻度のより一層の低減は、AllenらのWO 98/27204に記載されているようにAAVの複製機能およびキャプシド形成機能を「分割(splitting)」することによって得ることができる。
【0049】
rAAVベクターコンストラクトと、補完的パッケージング遺伝子コンストラクトは、本発明では、いくつかの異なる形態で実現することができる。ウイルス粒子、プラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞はいずれも、上記コンストラクトをパッケージング細胞に一過性にまたは安定に導入するために使用することができる。
【0050】
本発明の一定の態様では、AAVベクターと、もしあるなら補完的パッケージング遺伝子とが、細菌プラスミド、AAV粒子、またはそれらの任意の組合せの形態で提供される。他の態様では、AAVベクター配列、パッケージング遺伝子、またはその両方が、遺伝子改変された(好ましくは遺伝可能な形で改変された)真核細胞の形態で提供される。AAVベクター配列、AAVパッケージング遺伝子、またはその両方を発現するように遺伝可能な形で改変された宿主細胞を開発することで、信頼できるレベルで発現される確立された物質供給源が提供される。
【0051】
したがって多種多様な遺伝子改変細胞を本発明との関連において使用することができる。例えば、rAAVベクターの完全なコピーが少なくとも1つは安定に組み込まれている哺乳動物宿主細胞を使用することができる。複製機能を供給するためにプロモーターに機能的に連結された少なくとも1つのAAV rep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドを使用することができる(米国特許第5,658,776号に記載がある)。あるいは、プロモーターに機能的に連結されたAAV rep遺伝子を持つ安定哺乳動物細胞株を使って、複製機能を供給することもできる(例えばTrempeら(WO 95/13392)、Bursteinら(WO 98/23018)、およびJohnsonら(米国特許第5,656,785号)を参照されたい)。上述のようにキャプシド形成タンパク質を提供するAAV cap遺伝子は、AAV rep遺伝子と一緒に提供するか、別々に提供することができる(例えば上に挙げた特許出願および特許ならびにAllenら(WO 98/27204)を参照されたい)。他の組合せも考えられ、本発明の範囲に包含される。
【0052】
送達のための経路
脳脈管構造の巨大なネットワークにもかかわらず、中枢神経系(CNS)への治療薬の全身性送達は、小分子の98%超にとって、また大分子のほぼ100%にとって、有効でない(Partridge, 2005)。この有効性の欠如は、大半の異物を、多くの有益な治療薬でさえ、循環血から脳に進入しないようにする血液脳関門(BBB)の存在による。全身性に与えられた一定の小分子、ペプチド、およびタンパク質治療薬はBBBを横切ることによって脳実質に到達するが(Banks, 2008)、治療レベルを達成するには一般に高い全身用量が必要になり、それは身体に有害な作用をもたらしうる。治療薬は脳室内注射または実質内注射によってCNSに直接導入することができる。鼻腔内送達はBBBを迂回し、鼻道に神経分布する嗅神経および三叉神経に沿った経路を利用して、治療薬をCNSに直接向かわせる(Frey II, 2002、Thorne et al., 2004、Dhanda et al., 2005)。
【0053】
どのrAAV投与経路でも、その経路と投与量が予防的または治療的に有用である限り、使用することができる。一例として、CNSへの投与経路には、髄腔内投与および頭蓋内投与がある。頭蓋内投与は大槽または脳室への投与であることができる。「大槽」という用語は、頭骨と脊柱の最上部との間の開口部を介した小脳の周りおよび下にある空間へのアクセスを包含するものとする。「脳室」という用語は、脊髄の中心管と連続している脳内の空洞を包含するものとする。頭蓋内投与は注射または注入によって行われ、頭蓋内投与の場合、適切な用量範囲は、一般に、1マイクロリットルあたり約103~1015感染単位のウイルスベクターであり、それが1~3000マイクロリットルの単回注射体積で送達される。例えば、1マイクロリットルあたりのベクターのウイルスゲノム数または感染単位数は、一般に、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、または1017ウイルスゲノムまたは感染単位のウイルスベクターを含有し、それが、約10、50、100、200、500、1000、または2000マイクロリットルで送達されるであろう。前述の投薬量は例示的な投薬量に過ぎないことを理解すべきであり、この投薬量がさまざまでありうることは、当業者には理解されるであろう。有効用量は、インビトロ試験系またはインビボ試験系から導き出される用量応答曲線から推定することができる。
【0054】
本発明の髄腔内処置方法で送達されるAAVは、髄腔内投与に一般に使用される好都合な任意の経路で投与することができる。例えば髄腔内投与は、約1時間にわたる製剤の緩慢な注入によって行うことができる。髄腔内投与は注射または注入によって行われ、髄腔内投与の場合、適切な用量範囲は、一般に、1マイクロリットルあたり約103~1015感染単位のウイルスベクターであり、それが、例えば1、2、5、10、25、50、75もしくは100ミリリットルまたはそれ以上、例えば1~10,000ミリリットルまたは0.5~15ミリリットルの単回注射体積で送達される。例えば、1マイクロリットルあたりのベクターのウイルスゲノム数または感染単位数は、一般に、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、または1014ウイルスゲノムまたは感染単位のウイルスベクターを含有するであろう。
【0055】
本発明の鼻腔内処置方法で送達されるAAVは、一般的には、例えば1、2、5、10、25、50、75もしくは100ミリリットルまたはそれ以上、例えば1~10,000ミリリットルまたは0.5~15ミリリットルで送達される1マイクロリットルあたり約103~1015感染単位のウイルスベクターという適切な用量範囲で、投与しうる。例えば、1マイクロリットルあたりのウイルスゲノムまたは感染単位は、一般に、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、または1017ウイルスゲノムまたは感染単位のウイルスベクター、例えば少なくとも1.2×1011ゲノムまたは感染単位、例えば少なくとも2×1011~最大約2×1012ゲノムもしくは感染単位、または約1×1013~約5×1016ゲノムもしくは感染単位を含有するであろう。一態様において、鼻腔内送達に使用されるAAVは、末端ガラクトース残基を持つグリカンに結合するものであり、一態様において、用量は、w9×1010~1×1011未満のAAV8ゲノムまたは感染単位のウイルスベクターより2~8倍高い。
【0056】
この治療法は、IDUAなどのリソソーム蓄積酵素が発現されるのであれば、上述のように対象の神経組織および/または髄膜組織におけるリソソーム蓄積顆粒の正常化をもたらす。神経組織およびグリア組織における蓄積顆粒の沈着が改善され、それによって、リソソーム蓄積症を患う個体に見られる発達遅延および退行が軽減されると考えられる。この治療法の他の効果としては、くも膜顆粒近くの脳髄膜におけるリソソーム蓄積顆粒(リソソーム蓄積症におけるその存在は高圧水頭症をもたらす)の正常化を挙げることができる。本発明の方法は、C1~C5の脊髄に近い頸部髄膜または脊髄中の他のどこかにおけるリソソーム蓄積顆粒の存在に起因する脊髄圧迫の処置にも使用することができる。本発明の方法は、脳の血管を取り囲むリソソーム蓄積顆粒の血管周囲蓄積によって引き起こされる嚢胞の処置も対象とする。別の態様では、この治療法は、有利なことに、肝臓体積および尿中グルコサミノグリカン排泄の正常化、脾臓サイズおよび無呼吸低呼吸イベントの低減、思春期前の対象における身長および成長速度の増加、肩の屈曲ならびに肘および膝の伸展の増加、三尖弁逆流または肺動脈弁逆流の低減ももたらしうる。
【0057】
本発明の髄腔内投与は腰椎領域に組成物を導入する工程を含みうる。そのような投与はいずれもボーラス注射によることができる。症状の重症度および治療法に対する対象の応答性に依存して、ボーラス注射を週に1回、月に1回、6ヶ月ごとに1回、または年に1回、投与することができる。別の態様では、髄腔内投与が注入ポンプを使って達成される。組成物の髄腔内投与を達成するために使用することができるデバイスは、当業者には知られている。組成物は、例えば単回注射または持続注入によって、髄腔内に与えることができる。投薬処置は単回投与または複数回投与の形態をとりうると理解すべきである。
【0058】
本明細書において使用する用語「髄腔内投与」は、穿頭孔を通した側脳室注射または大槽穿刺もしくは腰椎穿刺などといった技法によって薬学的組成物を対象の脳脊髄液中に直接送達することを包含するものとする。「腰椎領域」という用語は、第3および第4腰椎(下背部の椎骨)間の領域、より包括的には、脊柱のL2-S1領域を包含するものとする。
【0059】
上述した部位のいずれかへの本発明の組成物の投与は、組成物の直接注射によって、または注入ポンプを使って、達成することができる。注射の場合は、例えばハンクス液、リンゲル液またはリン酸緩衝液などといった生理的に適合する緩衝液に、溶液の形態で組成物を製剤化することができる。加えて、酵素を固形に製剤化し、使用直前に再溶解または再懸濁してもよい。凍結乾燥型も包含される。注射は、例えば酵素のボーラス注射または持続注入(例えば注入ポンプを使用するもの)の形態で行うことができる。
【0060】
本発明の一態様では、rAAVが、対象の脳に、側脳室注射によって投与される。この注射は、例えば対象の頭骨に作製した穿頭孔を通して行うことができる。別の態様では、酵素および/または他の薬学的製剤が、外科的に挿入されたシャントを通して対象の脳室に投与される。例えば注射は、小さい方の第3脳室および第4脳室にも行うことができるが、大きい方の側脳室に行うことができる。さらに別の態様では、本発明において使用する組成物が、対象の大槽または腰椎領域への注射によって投与される。
【0061】
CNSへの鼻腔内薬物送達の基礎にある正確な機序は完全にはわかっていないものの、鼻道を脳および脊髄に接続する神経が関与する経路が重要であることを示す証拠が、数多く蓄積されつつある。加えて、脈管構造、脳脊髄液、およびリンパ系が関与する経路も、鼻腔からCNSへの分子の輸送に関係づけられている。治療薬の性質、製剤の特徴、および使用する送達デバイスに依存して一方の経路が優勢になりうるものの、おそらくこれらの経路の組合せが、この送達を担っているのであろう。
【0062】
治療薬は、鼻腔内投与後に、鼻腔からCNSに直接通じる嗅神経経路に沿って、CNSに迅速にアクセスすることができる。嗅神経経路が鼻腔内送達の主要構成要素であることは、蛍光トレーサーが篩板を横断すると嗅神経と会合し(Jansson et al., 2002)、嗅球における薬物濃度は観察される最高CNS濃度の1つであり(Thorne et al., 2004、Banks et al., 2004、Graff et al., 2005a、Nonaka et al., 2008、Ross et al., 2004、Ross et al., 2008、Thorne et al., 2008)、嗅上皮における濃度と嗅球における濃度との間には強い正の相関関係が存在する(Dhuria et al., 2009a)という事実によって立証されるとおりである。
【0063】
嗅覚経路は鼻道の上部、嗅部において始まり、そこでは、支持細胞(supporting cell、別名sustentacular cell)、微絨毛細胞および基底細胞の間に、嗅覚受容ニューロン(ORN)が散在している。ORNは、末梢環境からCNSへと感覚情報を伝えることによって、嗅覚を媒介する(Clerico et al., 2003)。上皮の下では、粘膜固有層が粘液を分泌するボーマン腺、軸索、血管、リンパ管、および結合組織を含有している。ORNの樹状突起は嗅上皮の粘液層中に突き出しており、一方、これらの双極性ニューロンの軸索は、粘膜固有層を通り、鼻腔と頭蓋腔とを隔てる篩骨の篩板中の穿孔を通って、中枢に伸びている。ORNの軸索はCSFを含有するくも膜下腔を通過して、嗅球中の僧帽細胞上で終わる。そこから、嗅索、前嗅核、梨状皮質、扁桃体、および視床下部を含む複数の脳領域に神経投射が及んでいる(Buck, 2000)。ORNに加えて、鼻腔の前端、グルーエネベルク(Grueneberg)神経節中に位置する化学感覚ニューロンも、嗅球に通じている(Fuss et al., 2005、Koos et al., 2005)。
【0064】
ORNのユニークな特徴は、CNSへの鼻腔内送達にとって重要な動的細胞環境に寄与している。外部環境における毒素との直接接触ゆえに、ORNは嗅上皮中に存在する基底細胞から3~4週間ごとに再生する(Mackay-Sim, 2003)。嗅神経鞘細胞(OEC)と呼ばれる特殊なシュワン細胞様の細胞がORNの軸索を包み、それが、軸索の再生、再成長、および再髄鞘形成に重要な役割を持つ(Field et al., 2003、Li et al., 2005a、Li et al., 2005b)。OECは連続的な液体で満たされた神経周膜チャネルを作出し、このチャネルは、興味深いことに、ORNが変性し再生するにもかかわらず、開通したままである(Williams et al., 2004)。
【0065】
嗅上皮のユニークな環境を考えると、鼻腔内投与された治療薬が、嗅神経に沿った細胞外または細胞内輸送機序によって、CNSに到達することは可能である。細胞外輸送機序には鼻上皮中の細胞間での分子の迅速な運動が関与し、鼻腔内投与後に薬物が嗅球およびCNSの他の領域まで到達するのに数分~30分しかかからない(Frey II, 2002、Balin et al., 1986)。輸送には、OECが作出したチャネル内でのバルクフロー機序(Thorne et al., 2004、Thorne et al., 2001)がおそらく関与するのであろう。薬物は、隣接する軸索における脱分極および活動電位の軸索伝播中に起こる構造変化によっても、これらのチャネル内を進みうる(Luzzati et al., 2004)。細胞内輸送機序には、受動拡散、受容体介在性エンドサイトーシスまたは吸着性エンドサイトーシスによるORNへの分子の取り込みと、それに続く遅い軸索輸送が関与し、薬物が嗅球および他の脳領域に現れるまでに数時間~数日を要する(Baker et al., 1986、Broadwell et al., 1985、Kristensson et al., 1971)。ORNにおける細胞内輸送は、金粒子(de Lorenzo, 1970、Gopinath et al., 1978)、アルミニウム塩(Perl et al., 1987)などの小さい親油性分子と、ORN上に受容体を持つWGA-HRPなどの物質(Thorne et al., 1995、Baker et al., 1986、Itaya et al., 1986、Shipley, 1985)について実証されている。細胞内機序は、一定の治療薬には重要であるが、CNSへの優勢な輸送様式ではないだろう。ガラニン様ペプチド(GALP)など、いくつかの大分子はCNSへの飽和輸送経路を呈するが(Nonaka et al., 2008)、他の大分子、例えばNGFやインスリン様成長因子-I(IGF-I)の場合、脳への鼻腔内送達は非飽和性であり、受容体によって媒介されない(Thorne et al., 2004、Chen et al., 1998、Zhao et al., 2004)。
【0066】
鼻道をCNSとつなぐ、見過ごされがちだが重要な経路には、鼻道の呼吸上皮および嗅上皮を神経支配し脳橋においてCNSに進入する三叉神経が関与する(Clerico et al., 2003、Graff et al., 2003)。興味深いことに、三叉神経のごく一部分は、嗅球でも終わっている(Schaefer et al., 2002)。鼻道の呼吸領域の細胞組成は、嗅部のそれとは異なっていて、粘液を分泌する杯細胞の間に繊毛上皮細胞が分布している。これらの細胞は、鼻腔から鼻咽頭へと異物と共に粘液を除去する粘液繊毛クリアランス機構に寄与している。三叉神経は、三叉神経の眼神経分岐(V1)、上顎神経分岐(V2)、または下顎神経分岐(V3)によって鼻腔、口腔、眼瞼、および角膜からCNSへと感覚情報を伝える(Clerico et al., 2003、Gray, 1978)。三叉神経の眼神経分岐からの分枝は、背側鼻粘膜および鼻の前方部分への神経支配をもたらし、一方、上顎神経分岐の分枝は鼻粘膜の側壁への神経支配をもたらす。三叉神経の下顎神経分岐は下顎および歯に及び、鼻腔への直接的な神経入力はない。三叉神経の3つの分枝は、三叉神経節で1つになり、中枢に伸びて脳橋のレベルで脳に進入し、脳幹の三叉神経脊髄路核で終わる。三叉神経のユニークな特徴は、それが鼻道の呼吸上皮から2つの部位で、すなわち(1)脳橋近くの前破裂孔を通って、および(2)嗅球近くの篩板を通って脳に進入し、鼻腔内投与後に尾側脳領域と吻側脳領域の両方への進入点を作り出すことである。おそらく、顔面および頭部を神経支配する他の神経、例えば顔面神経、または鼻腔内の他の感覚構造、例えばグルーエネベルク神経節も、鼻腔内適用された治療薬のCNSへの進入をもたらしうるのだろう。
【0067】
従来、鼻腔内投与経路は、鼻粘膜の下にある毛細血管への吸収を介して薬物を体循環に送達するために利用されてきた。鼻粘膜は脈管が著しく多く、頚動脈から生じる上顎動脈、眼動脈および顔面動脈の分枝からその血流を受け取っている(Clerico et al., 2003、Cauna, 1982)。嗅粘膜は眼動脈の小さな分枝から血液を受け取り、一方、呼吸粘膜は上顎動脈の大口径動脈分枝から血液を受け取る(DeSesso, 1993)。血管の相対的密度は嗅粘膜と比較して呼吸粘膜の方が大きく、そのことが、呼吸粘膜を血液への吸収にとって理想的な部位にしている(DeSesso, 1993)。呼吸領域中の脈管構造は連続内皮と有窓内皮とが混合したものを含有しており(Grevers et al., 1987、Van Diest et al., 1979)、そのことが、経鼻投与後に小分子と大分子の両方が体循環に進入することを可能にしている。
【0068】
体循環への吸収とそれに続くBBBを横切る輸送によるCNSへの送達が考えられ、ペプチドやタンパク質などの大きな親水性治療薬と比べて血流への進入とBBBの横断が容易な小さい親油性薬物の場合はとりわけそうである。
【0069】
血管に付随するチャネルまたは血管周囲チャネルが関与する機序がCNSへの鼻腔内薬物送達に関与していることを示唆する証拠は増えつつある。血管周囲腔は、血管の最外層と周囲組織の基底膜とに挟まれている(Pollock et al., 1997)。これらの血管周囲腔は脳にとってリンパ系として作用し、そこでは、ニューロン由来物質が、脳血管に随伴する血管周囲チャネルに進入することによって、脳間質液から除去される。血管周囲輸送は、拡散のみの場合とは異なり、バルクフロー機序によるものであり(Cserr et al., 1981、Groothuis et al., 2007)、動脈の拍動も血管周囲輸送にとっての駆動力である(Rennels et al., 1985、Rennels et al., 1985)。鼻腔内適用された薬物は、鼻道において、または脳への到達後に、血管周囲腔中に移動することができ、CNS内に観察される広範な分布は、血管周囲輸送機序によるものであるだろう(Thorne et al., 2004)。
【0070】
CSFを含有するくも膜下腔、嗅神経を取り巻く神経周囲腔、および鼻リンパ管を接続する経路はCSF排液にとって重要であり、まさにこれらの経路が、鼻腔内に適用された治療薬に、CSFおよびCNSの他の領域へのアクセスを提供する。いくつかの研究により、脳室またはくも膜下腔中のCSFに注射されたトレーサーは、嗅球の下面で、篩板を横断する嗅神経に付随するチャネル中に排出され、鼻リンパ系および頸部リンパ節に到達することが記録されている(Bradbury et al., 1983、Hatterer et al., 2006、Johnston et al., 2004a、Kida et al., 1993、Walter et al., 2006a、Walter et al., 2006b)。薬物は、鼻腔内投与後に、まさにこれらの経路を通ってCNSにアクセスすることができ、鼻道からCSFへ、さらに脳間質腔および血管周囲腔へと移動して、脳全体に分布する。これらの排液経路はいくつかの動物種(ヒツジ、ウサギ、およびラット)において重要であり、CSFクリアランスの約50%を占める(Bradbury et al., 1981、Boulton et al., 1999、Boulton et al., 1996、Cserr et al., 1992)。鼻道とCSFの間の経路がヒトでもなお重要であり機能していることは、治療薬が、鼻腔内送達後に、容易に検出できるほど血液に進入することなく、CSFに直接送達されるという事実によって立証されるとおりである(Born et al., 2002)。いくつかの鼻腔内研究により、薬物は鼻腔からCSFへと直接アクセスし、続いて脳および脊髄への分布が起こることが実証されている。鼻腔内に適用された多くの分子は迅速にCSFに進入し、この輸送は親油性、分子量、および分子のイオン化の程度に依存する(Dhanda et al., 2005、Born et al., 2002、Kumar et al., 1974、Sakane et al., 1995、Sakane et al., 1994、Wang et al., 2007)。CSFへの分布を評価すれば、鼻腔内送達の機序に関する情報を得ることができる。
【0071】
神経路に沿ったCNSへの最適な送達は、鼻腔の上部3分の1への薬剤の送達と関係している(Hanson et al., 2008)。背臥位を使用することもできるが、嗅部を標的とするためのもう1つの体位は、頭を下げて前方に投げ出した(head down-and-forward)「メッカ礼拝(praying to Mecca)」体位である。頭の角度が70°または90°である背臥位は、薬物を鼻腔内投与によって送達するために鼻孔に挿入したチューブを使ったCSFへの効率のよい送達に適しているであろう(van den Berg et al., (2002))。
【0072】
鼻腔内薬物投与のために、点鼻薬を、液剤が鼻上皮に吸収されうるように1~2分ごとに左右の鼻孔に交互に、10~20分の時間で投与することができる(Thorne et al., 2004、Capsoni et al., 2002、Ross et al., 2004、Ross et al., 2008、Dhuria et al., 2009a、Dhuria et al., 2009b、Francis et al., 2008、Martinez et al., 2008)。この非侵襲的方法では鼻孔にデバイスを挿入する必要がない。その代わりに、鼻孔の開口部に液滴を置いて、個体がその液滴を鼻腔中に啜ることができるようにする。麻酔下の個体における他の投与方法では、鼻腔用製剤が嚥下されるのを防ぐと共に、呼吸困難に関わる問題を排除するために、食道をふさぎ、呼吸チューブを気管に挿入する(Chow et al., 1999、Chow et al., 2001、Fliedner et al., 2006、Dahlin et al., 2001)。チューブの長さに依存して呼吸上皮または嗅上皮に少量の薬物溶液を局所的に送達するために、フレキシブルなチューブを鼻孔に挿入することができる(Chow et al., 1999、Van den Berg et al., 2003、van den Berg et al., 2004a、Banks et al., 2004、van den Berg et al., 2002、Vyas et al., 2006a、Charlton et al., 2007a、Gao et al., 2007a)。
【0073】
薬剤を鼻腔の異なる領域に向かわせるには、噴霧器、点鼻器または無針注射器などの経鼻送達デバイスを使用することができる。OptiMist(商標)は、液状または粉末状の鼻腔用製剤を、肺または食道に沈着させることなく、嗅部を含む鼻腔に向かわせる呼吸作動型デバイスである(Djupesland et al., 2006)。ViaNase(商標)デバイスも、鼻噴霧薬を鼻腔の嗅上皮および呼吸上皮に向かわせるために使用することができる。点鼻薬は鼻孔底に沈着しがちであり、それが迅速な粘液繊毛クリアランスの対象となるのに対し、鼻噴霧薬は鼻粘膜の中鼻道に散布される(Scheibe et al., 2008)。
【0074】
免疫抑制薬または免疫寛容化剤は、非経口投与を含む任意の経路で投与することができる。一態様において、免疫抑制薬または免疫寛容化剤は、皮下注射、筋肉内注射、または静脈内注射によって投与するか、経口投与するか、髄腔内投与するか、頭蓋内投与するか、鼻腔内投与するか、または徐放によって、例えば皮下インプラントを使って投与することができる。免疫抑制薬または免疫寛容化剤は液状担体媒体に溶解または分散させることができる。非経口投与の場合は、活性物質を、許容される媒体、例えばラッカセイ油、綿実油などといった植物油の一種であるものと適切に混合することができる。他の非経口媒体、例えばソルケタール、グリセロール、ホルマールを使った有機組成物、および水性非経口製剤も使用しうる。注射による非経口適用の場合、組成物は、本発明の活性酸の薬学的に許容される水溶性塩の水溶液を望ましくは0.01~10%の濃度で含み、また任意で水溶液中に安定剤および/または緩衝物質も含みうる。投薬単位量の溶液剤をアンプルに封入すると好都合であるだろう。
【0075】
組成物、例えばrAAV含有組成物、免疫抑制薬含有組成物または免疫寛容化組成物は、注射用ユニットドーズの形態をとりうる。そのような注射用剤形(injectable dose)の調製に使用することができる担体または希釈剤の例として、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシイソステアリルアルコールおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの希釈剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびリン酸ナトリウムなどのpH調節剤または緩衝剤、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸およびチオ乳酸などの安定剤、塩化ナトリウムおよびグルコースなどの等張化剤、塩酸プロカインおよび塩酸リドカインなどの局所麻酔薬が挙げられる。さらに、通常の可溶化剤および鎮痛薬を加えることができる。注射剤は、当業者に周知の手順に従って上述の担体を酵素または他の活性成分に加えることによって調製することができる。薬学的に許容される賦形剤に関する徹底的な議論はREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co., N.J. 1991)で読むことができる。薬学的に許容される製剤は、水性媒体に容易に懸濁し、従来の皮下針で、または注入ポンプを使って、導入することができる。導入に先だって製剤を好ましくはガンマ線照射滅菌または電子線滅菌で滅菌することができる。
【0076】
免疫抑制薬または免疫寛容化剤を皮下インプラントの形態で投与する場合は、化合物を当業者に公知の緩慢に分散する物質に懸濁または溶解するか、一定した駆動力を利用することにより活性物質を緩慢に放出するデバイス、例えば浸透圧ポンプなどに入れて投与する。このような場合は、長期間にわたる投与が可能である。
【0077】
免疫抑制薬または免疫寛容化剤含有組成物を投与する際の投薬量は広範囲にわたって変動し、疾患の重症度、患者の年齢などといったさまざまな要因に依存し、個別に調節する必要があるだろう。1日あたりに投与しうる量の考えられる範囲は、約0.1mg~約2000mgまたは約1mg~約2000mgである。免疫抑制薬または免疫寛容化剤を含有する組成物は、単一投薬単位としてまたは複数投薬単位としてこれらの範囲内の用量を与えるように、適切に製剤化することができる。免疫抑制薬を含有することに加えて、本製剤は治療用遺伝子産物をコードする1つまたは複数のrAAVも含有しうる。
【0078】
本明細書に記載する組成物は、別の医薬と組み合わせて使用することができる。組成物は、従来の形態、例えばエアロゾル剤、溶液剤、懸濁剤、または外用剤の形態、または凍結乾燥形態をとることができる。
【0079】
典型的な組成物は、rAAV、免疫抑制薬、浸透促進薬、またはそれらの組合せと、担体または希釈剤であり得る薬学的に許容される賦形剤とを含む。例えば、活性作用物質を担体と混合するか、担体で希釈するか、担体内に封入することができる。活性作用物質を担体と混合する場合、または担体が希釈剤として機能する場合、担体は、活性作用物質のための媒体、賦形剤または媒質として作用する固形、半固形、液状の物質であることができる。適切な担体の例をいくつか挙げると、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエトキシ化ヒマシ油、ラッカセイ油、オリーブ油、ゼラチン、ラクトース、白土、スクロース、デキストリン、炭酸マグネシウム、砂糖、シクロデキストリン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸、またはセルロースの低級アルキルエーテル、ケイ酸、脂肪酸、脂肪酸アミン、脂肪酸モノグリセリドおよび脂肪酸ジグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ヒドロキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンである。同様に、担体または希釈剤は、当技術分野において公知の任意の徐放物質、例えばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルを、単独で、またはワックスとの混合物として含むことができる。
【0080】
製剤は、活性作用物質と有害な反応をしない補助剤と混合することができる。そのような添加剤には、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤および/または着色物質、保存剤、甘味剤または香味剤を含めることができる。組成物は、必要であれば滅菌することもできる。
【0081】
液状担体を使用する場合、調製物は水性懸濁液または水性溶液などの液体の形態をとることができる。許容される溶媒または媒体として、滅菌水、リンゲル液、または等張食塩水が挙げられる。
【0082】
薬剤は、上述の適当な溶液による再構成に適した粉末として提供してもよい。それらの例として、凍結乾燥粉末、回転乾燥粉末または噴霧乾燥粉末、無定形粉末、顆粒、沈殿物、または粒状物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。組成物は、任意で、安定剤、pH修飾剤、界面活性剤、バイオアベイラビリティ修飾剤、およびそれらの組合せを含有することができる。単位剤形は、個別容器に入れるか、マルチドーズ容器に入れることができる。
【0083】
本発明が考える組成物は、例えばミセルもしくはリポソーム、または他の何らかの封入形態を含んでもよく、あるいは長期間にわたる貯蔵効果および/または送達効果が得られるように、例えばポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマーを使って持続放出形態で投与することができる。他の生分解性ポリマーの例としてポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。
【0084】
ポリマーナノ粒子、例えばポリ乳酸(PLA)の疎水性コアとメトキシ-ポリ(エチレングリコール)(MPEG)の親水性シェルとから構成されるものは、改良された溶解度とCNSへのターゲティングを有しうる。マイクロエマルション製剤とナノ粒子製剤とでターゲティングの領域が相違するのは、粒子サイズによるものであろう。
【0085】
リポソームは、両親媒性脂質、すなわちリン脂質またはコレステロールの1つまたは複数の脂質二重層からなる非常に単純な構造物である。二重層の親油性部分は互いに向きを揃えて、膜内に内部疎水性環境を作り出す。リポソームは、脂質二重層の非極性部分と会合することができるいくつかの親油性薬物にとって、そのサイズと形状が適合するのであれば、適切な薬物担体である。リポソームのサイズは20nmから数μmまでさまざまである。
【0086】
混合ミセルは、胆汁酸塩、リン脂質、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリド、脂肪酸、遊離コレステロールおよび脂溶性微量栄養素から構成される効率のよい表面活性剤構造物である。長鎖リン脂質が水に分散した場合に二重層を形成することが知られているように、短鎖類似体の好ましい相は球状ミセル相である。ミセル溶液は水と有機溶媒中で自発的に形成される熱力学的に安定な系である。ミセルと疎水性/親油性薬物との相互作用は、混合ミセル(MM)(これは膨潤ミセルと呼ばれることも多い)の形成につながる。人体では、それらは水溶性の低い疎水性化合物を組み込み、消化産物、例えばモノグリセリドのリザバーとして作用する。
【0087】
脂質微粒子には脂質ナノスフェアおよび脂質マイクロスフェアが含まれる。マイクロスフェアは一般に、任意の物質でできた、サイズが約0.2~100μmの小さな球状粒子と定義される。200nm未満のさらに小さな球状物を通常はナノスフェアと呼ぶ。脂質マイクロスフェアは、市販の脂肪エマルションと同様の均一な油/水型マイクロエマルションであり、激しい超音波処理または高圧乳化法(破砕法)によって調製される。天然の界面活性剤レシチンは液体の表面張力を低下させるので、乳化剤として作用して安定なエマルションを形成させる。脂質ナノスフェアの構造と組成は脂質マイクロスフェアと同様であるが、直径は脂質ナノスフェアの方が小さい。
【0088】
ポリマーナノ粒子は多種多様な成分の担体として役立つ。活性構成要素は、ポリマーマトリックスに溶解されるか、封入されるか、または粒子表面に吸着される。有機ナノ粒子の調製に適したポリマーとして、セルロース誘導体およびポリエステル、例えばポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびそれらのコポリマーが挙げられる。ポリマーナノ粒子は、サイズが小さく、表面積/体積比が大きく、界面の機能化が可能であることから、理想的な担体および放出系である。粒子サイズが50nm未満である場合は、多くの生物学的障壁相および合成障壁層によってもはや粒子と認識されず、分子分散系と同様に作用する。
【0089】
このように、本発明の組成物は、当技術分野において周知の手法を使用することにより、個体に投与した後に活性作用物質の迅速放出、持続放出、制御放出、もしくは遅延放出、またはそれらの任意の組合せが得られるように製剤化することができる。一態様では酵素が等張性溶液または低張性溶液に溶解している。一態様では、水溶性でない酵素の場合に、例えばWO 2008/049588(この文献の開示は参照により本明細書に組み入れられる)に記載されているようなマイクロエマルションまたはリポソームなどの脂質系送達媒体を使用することができる。
【0090】
一態様において、調製物は、エアロゾル適用のための水性担体などの液状担体に溶解または懸濁された作用物質を含有することができる。担体は、可溶化剤、例えばプロピレングリコール、界面活性剤、吸収促進剤、例えばレシチン(ホスファチジルコリン)またはシクロデキストリン、または保存剤、例えばパラベンなどといった添加剤を含有することができる。例えば、鼻腔内投与後のCNSへの効率のよい送達は、溶解度に加えて、膜透過性にも依存しうる。サイズおよび極性の問題で傍細胞輸送が妨害される酵素については、膜透過性を改良することで嗅神経および三叉神経に沿ったCNSへの細胞外輸送機序が強化されうる。鼻上皮内での膜透過性を修飾するためのアプローチの1つは、界面活性剤、例えばラウロイルカルニチン(LC)、胆汁酸塩、脂質、シクロデキストリン、ポリマー、またはタイトジャンクション修飾薬などの浸透促進薬を使用することである。
【0091】
一般に、活性作用物質は、単位投薬量ごとに活性成分を薬学的に許容される担体と共に含む単位剤形に調合される。通常、経鼻投与に適した剤形は、薬学的に許容される担体または希釈剤と混合された約125μg~約125mg、例えば約250μg~約50mg、または約2.5mg~約25mgの化合物を含む。
【0092】
剤形は、1日1回投与するか、または1日に2回以上、例えば1日に2回または3回投与することができる。あるいは、処方医が望ましいと判断するのであれば、剤形を1日1回より低い頻度で、例えば1日おき、または週に1回投与することができる。
【0093】
以下に非限定的実施例を挙げて、本発明を説明する。
【実施例0094】
実施例I
ムコ多糖症I型のマウスモデルにおけるAAVベクターを介したイズロニダーゼ遺伝子送達: CNSへのさまざまな送達経路の比較
ムコ多糖症I型(MPS I)は、リソソーム酵素であるアルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損が引き起こす遺伝性代謝障害である。グリコサミノグリカンの全身性の異常な蓄積が、成長遅延、臓器肥大、骨格異形成、および心肺疾患と関連する。最も重症な形態の疾患(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞、および早死を患う。現在行われているMPS Iの2種類の処置(造血幹細胞移植および酵素補充療法)は、全ての中枢神経系(CNS)所見を効果的に処置できるわけではない。
【0095】
遺伝子治療に関連して、成体マウスにおけるAAV9の血管内送達が広範な直接的神経ターゲティングを達成しないことは、以前に実証された(Foust et al, 2009参照)。成体IDUA欠損マウスのCNSにAAV8-IDUAを直接注射しても、導入遺伝子の発現は低頻度または不十分なレベルでしか起こらないことも、以前の研究によって示された(図18参照)。MPS1の処置に関する前臨床モデルを用いた以下の実施例では、驚いたことに、免疫適格性の成体IDUA欠損マウスのCNSへのAAV9-IDUAの直接注射が、野生型成体マウスにおけるIDUA酵素の発現および活性と同じかそれより高いIDUA酵素の発現と活性をもたらしたことが実証される(図15、下記参照)。
【0096】
方法
AAV9-IDUAの調製. AAV-IDUAベクターコンストラクト(MCI)は以前に記述されている(Wolf et al., 2011)(mCagsプロモーター)。AAV-IDUAプラスミドDNAは、フロリダ大学ベクターコアでAAV9ウイルス粒子にパッケージングされ、1ミリリットルあたり3×1013ベクターゲノムの力価を得た。
【0097】
ICV注入.ケタミンとキシラジンのカクテル(1kgあたり100mgのケタミン+10mgのキシラジン)を使って成体Idua-/-マウスを麻酔し、定位フレームに乗せた。10マイクロリットルのAAV9-IDUAを右側脳室(定位座標はブレグマからmmの単位でAP 0.4、ML 0.8、DV 2.4)にハミルトン注射器を使って注入した。その動物をケージの温熱パッド上に戻して回復させた。
【0098】
髄腔内注入.若年成体マウスへの注入は、0.2mLの25%マンニトールを静脈内注射した20分後に10μLのAAVベクター含有溶液をL5椎骨とL6椎骨の間に注射することによって行った。
【0099】
免疫寛容化.新生IDUA欠損マウスに、顔面側頭静脈から、5.8μgの組換えイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)を含有する5μLを注射した後、その動物をケージに戻した。
【0100】
シクロホスファミド免疫抑制.免疫抑制のために、動物に、AAV9-IDUAベクターを注射した翌日から開始して週に1回、120mg/kgの用量で、シクロホスファミドを投与した。
【0101】
動物.ケタミン/キシラジン(1kgあたり100mgのケタミン+10mgのキシラジン)で動物を麻酔し、70mLのPBSを経心的に灌流してから、屠殺した。脳を回収し、氷上で小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイスで凍結してから、-80℃で保存した。試料を融解し、モーター付き乳棒を使って1mLのPBS中でホモジナイズし、0.1%Triton X-100で透過処理した。基質として4MU-イズロニドを用いる蛍光アッセイによってIDUA活性を決定した。活性をブラッドフォードアッセイ(BioRad)によって決定したタンパク質1mgあたりの単位数(1分あたりに生成物に転化される基質のパーセント)として表す。
【0102】
組織.エッペンドルフ卓上遠心機モデル5415D(Eppendorf)を使って13,000rpmで3分間の遠心分離によって組織ホモジネートを清澄化し、プロテイナーゼK、DNase1、およびRnaseと共に一晩インキュベートした。Blyscan硫酸化グリコサミノグリカンアッセイ(Accurate Chemical)を製造者の説明書に従って使用することにより、GAG濃度を決定した。
【0103】
結果
AAVを脳室内(ICV)投与または髄腔内(IT)投与したイズロニダーゼ-欠損マウスに関する実験計画を、図1に示す。免疫応答を防止するために、動物をシクロホスファミド(CP)で免疫抑制するか、ヒトイズロニダーゼタンパク質(aldurazyme)の静脈内投与によって出生時に免疫寛容化するか、またはイズロニダーゼ欠損性でもあるNOD-SCID免疫不全マウスに注射を行った。処置後の表示した時点で動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、抽出物をイズロニダーゼ活性についてアッセイした。
【0104】
AAV-IDUAベクターをICV注射した免疫不全IDUA欠損動物に関するデータを図2に図解する。これらの動物は脳の全ての領域において高レベルのIDUA発現(野生型の10~100倍)を呈し、最も高いレベルは脳幹および視床(「残り」)に観察された。
【0105】
ICV経路でAAVベクターを投与した免疫抑制動物は、免疫不全動物と比較すると、脳内での酵素レベルは相対的に低かった(図3)。健康不良のために屠殺の2週間前にはCPを中断したので、これらの動物では免疫抑制が損なわれていたかもしれないことに注意されたい。
【0106】
IT経路でAAVベクターを投与した免疫抑制動物に関するデータを図4に示す。AAVベクターをICV投与された免疫寛容化動物は、免疫不全動物での観察結果と同様に、脳の全ての部分で広範なIDUA活性を呈したことから(図5)、免疫寛容化措置の有効性が示された。
【0107】
図6は、全ての平均IDUA活性レベルを横並びにして比較できるように編集したものであり、図7はデータを脳の領域に応じてグループ分けしたものである。
【0108】
4つの試験群全てについて、脳のさまざまな切片で、GAG蓄積物質をアッセイした。各群について、脳の各部分の平均を左側に示し、個々の動物のそれぞれに関する値を右側に示す(図8)。IDUA欠損動物(左端)は、野生型動物(マゼンタ色のバー)と比較して高レベルのGAGを含有していた。AAV処置動物の全ての群で、脳の全ての部分について、GAGレベルは野生型のレベルまたは野生型未満のレベルであった。AAV9-IDUAを髄腔内投与した動物の皮質および脳幹ではGAGレベルが野生型よりわずかに高かったが、有意ではなかった。
【0109】
結論
これらの結果は、送達経路(ICVまたはIT)とは関係なく脳におけるIDUAの高く広範な分布を示している。ただし、IT注射した動物では、ICV注射した動物と比較して、線条体および海馬におけるIDUA発現は低かった。免疫不全マウスでは免疫適格マウスより発現レベルが高いので、免疫応答があると思われる。ICV注射に関して、CPを早期に中断した場合、IDUA発現は低い。加えて、免疫寛容化は高レベルの酵素活性を回復するのに有効であった。さらに、全ての処置実験マウス群において、GAGレベルが正常レベルまで回復した。
【0110】
実施例II
方法
AAV9-IDUAの調製. AAV-IDUAプラスミドは、フロリダ大学ベクターコアまたはペンシルベニア大学ベクターコアでAAV9ウイルス粒子にパッケージングされ、1ミリリットルあたり1~3×1013ベクターゲノムの力価を得た。
【0111】
ICV注入.実施例I参照。
【0112】
髄腔内注入.実施例I参照。
【0113】
免疫寛容化.次に挙げる点以外は実施例Iと同様にした:多重寛容化では、新生IDUA欠損マウスに1回目のAldurazymeを顔面側頭静脈に注射し、その後、週1回の腹腔内注射を6回行った。
【0114】
シクロホスファミド免疫抑制.実施例I参照。
【0115】
動物.ケタミン/キシラジン(1kgあたり100mgのケタミン+10mgのキシラジン)で動物を麻酔し、70mLのPBSを経心的に灌流してから、屠殺した。脳を回収し、氷上で小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイスで凍結してから、-80℃で保存した。
【0116】
組織IDUA活性.組織試料を融解し、組織ホモジナイザーを使って食塩水中でホモジナイズした。卓上エッペンドルフ遠心機を使って15,000rpm、4℃で15分間の遠心分離によって組織ホモジネートを清澄化した。組織溶解物(上清)を収集し、IDUA活性およびGAG蓄積レベルについて分析した。
【0117】
組織GAGレベル.組織溶解物をプロテイナーゼK、RNaseおよびDNaseと共に一晩インキュベートした。Blyscan硫酸化グリコサミノグリカンアッセイを製造者の説明書に従って使用することにより、GAGレベルを分析した。
【0118】
IDUAベクターコピー数.組織ホモジネートを使ってDNAを単離し、続いてWolfら(2011)に記載されているようにQPCRを行った。
【0119】
結果
図9に実験計画と実験群を図解する。動物に脳室内(ICV)注入または髄腔内(IT)注入のどちらかによってAAV9-IDUAベクターを投与した。ベクター投与は、IDUA欠損性でもあるNOD-SCID免疫不全(ID)マウスで行うか、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制したIDUA欠損マウスで行うか、またはヒトイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)の1回または複数回の注射によって出生時に免疫寛容化したIDUA欠損マウスで行った。ベクターによる処置と屠殺の時点は図9に示すとおりである。全てのベクター投与を3~4.5ヶ月齢の範囲の成体動物で行った。動物には10μLのベクターを10マイクロリットルあたり3×1011ベクターゲノムの用量で注射した。
【0120】
図10に、頭蓋内注入された免疫不全IDUA欠損マウスにおけるIDUA酵素活性を示す。高レベルの酵素活性が脳の全ての領域に見られ、それらは野生型レベルより30~300倍高い範囲にあった。最も高い酵素発現は視床および脳幹ならびに海馬に見られた。
【0121】
頭蓋内注射しかつシクロホスファミド(CP)で免疫抑制した動物は、他の群より有意に低い酵素活性レベルを示した(図11)。ただし、この場合のCP投与は、動物の健康不良のために屠殺の2週間前に中断する必要があった。
【0122】
出生時にIDUAタンパク質(Aldurazyme)で寛容化しかつベクターを頭蓋内投与した動物におけるIDUA酵素レベルを図12に図示する。全ての動物が、脳の全ての部分において、免疫不全動物で達成されたレベルと同様に、野生型レベルより10~1000倍高い範囲にある高い酵素レベルを示したことから、免疫寛容化措置の有効性が示された。
【0123】
図13に、髄腔内注射しかつCPを毎週投与したマウスにおけるIDUA酵素レベルを図示する。脳の全ての部分に、特に小脳および脊髄に、IDUAレベルの上昇が見られた。酵素レベルが最も低いのは線条体および海馬であり、その活性は野生型レベルであった。
【0124】
IDUA欠損マウスを前述のようにAldurazymeで寛容化し、ベクターを髄腔内に注射した(図14)。脳の全ての部分に広範なIDUA酵素活性があり、活性のレベルが最も高いのは脳幹および視床、嗅球、脊髄ならびに小脳であった。図13のデータと同様に、最も低レベルの酵素活性は線条体、皮質および海馬に見られた。
【0125】
対照の免疫適格IDUA欠損動物には、免疫抑制も免疫寛容化も行わずに、ベクターを髄腔内注入した(図15)。これらの結果は、酵素活性は野生型レベルであるかそれよりわずかに高かったものの、免疫調整を受けた動物に見られるものよりは有意に低いことを示している。酵素レベルの減少は小脳、嗅球ならびに視床および脳幹ではとりわけ著しかったが、これらは、免疫調整された動物において最も高レベルの酵素を発現した領域である。
【0126】
図16に示すように動物をGAG蓄積物質についてアッセイした。全ての群がGAG蓄積物のクリアランスを示し、GAGレベルは野生型動物に観察されるレベルと同じくらいであった。免疫抑制しかつAAV9-IDUAベクターを髄腔内注射した動物は、皮質におけるGAGレベルが野生型よりわずかに高かったが、それでもなお、無処置のIDUA欠損マウスよりははるかに低かった。
【0127】
免疫寛容化しかつベクターを頭蓋内注射または髄腔内注射した動物におけるAAV9-IDUAベクターの存在を、図16に図解するように、QPCRによって評価した。1細胞あたりのIDUAコピー数は、髄腔内注入した動物と比較すると頭蓋内注入した動物の方が高く、このことは、頭蓋内注射した動物に見られる、より高い酵素活性レベルと合致している。
【0128】
結論
成体マウスにおける脳室内経路および髄腔内経路のAAV9-IDUA投与後に脳の全ての領域において、高く広範な治療的レベルのIDUAが観察された。AAV-IDUAを髄腔内注入した免疫適格IDUA欠損動物では、酵素活性が野生型レベルかそれよりわずかに高いレベルまで回復した。IDUAタンパク質の投与を出生時から開始することによって免疫寛容化した動物では、どちらのベクター注射経路でも、有意に高いIDUA酵素レベルが観察された。
【0129】
実施例III
成体免疫適格IDUA欠損マウス(12週齢)をケタミン/キシラジンで麻酔した後、AAV9-IDUAベクターの鼻腔内注入を行った。ベクターは各3μLの液滴をマイクロピペットで左右の鼻孔に交互に、各適用間に2分の間隔を空けて、8回鼻腔内適用することによって投与した。ベクターの供給源に応じて合計2.4~7×1011個のベクターゲノムが各成体動物に投与された。AAV9-IDUAベクターによって生産されるヒトIDUAに対するマウスの免疫応答を抑制するために、ベクター投与の翌日から開始して120mg/kgのシクロホスファミドを毎週投与することによって、動物を免疫抑制した。ただしヒト対象における免疫抑制は随意であり、当業者であれば、優良/標準的医療行為(good/standard medical practice)に従って、いつそれを使用すべきかわかるだろう。ベクター注入の12週間後にマウスを屠殺し、脳におけるIDUA酵素発現およびベクターコピー数について動物をアッセイした(図19および図20)。
【0130】
実施例IV
ヒトムコ多糖症I型(MPS I)のモデルであるイズロニダーゼ欠損マウスに、ベクターコピー数約1011のAAV9-IDUAを鼻腔内投与した。4週間後に動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、イズロニダーゼ酵素アッセイのために抽出した。図22に示すように(左側は平均±s.d.、右側は個々の動物)、高レベルのIDUA酵素活性(野生型の100倍近く)が嗅球に観察され、脳の他のすべての領域では野生型レベルの酵素が観察された。図23はGAG活性を示す。
【0131】
同様に処置した動物を屠殺し、抗IDUA抗体を使って、組織切片をヒトIDUAタンパク質の存在について染色した。図24に示すように、左側の4匹の鼻腔内ベクター処置動物の鼻上皮および嗅球ではIDUAタンパク質のロバストな染色が観察され、一方、右側の対照未投与正常またはIDUA欠損動物では染色が観察されなかった。AAV-MCI処置動物の脳の他の部分(海馬、小脳、皮質、線条体、視床および脳幹)では染色が観察されず、形質導入は嗅球および鼻上皮に限定されることが証明された。
【0132】
形質導入細胞の場所を特定するためのレポーター系として、約1011ベクターゲノムのAAV9-GFPベクターで、動物を鼻腔内処置した。2週間後に動物を屠殺し、組織を収集し、切片を、細胞核を同定するためのDAPI染色(青色)と共に、抗GFP抗体(緑色)を使ってGFP発現について染色した(図25)。処置動物では、嗅上皮(左側の2パネル)にも嗅球(上側の2パネル)にも、無処置対照(嗅上皮については右側のパネル、嗅球については下側のパネル)と比較して、GFPタンパク質のロバストな染色が観察された。脳の他のどの部分にもGFP染色は観察されなかった。これらの結果はIDUA染色の結果と一致しており、AAV9-MCIベクターの鼻腔内投与後に、AAVによる遺伝子導入および遺伝子発現は、鼻上皮および嗅球に限定されることが証明された。これらの結果は、AAV9-MCIベクターの鼻腔内投与後に野生型レベルのIDUAが脳のすべての領域で達成される機序として、前脳において高レベルに発現したIDUAの拡散の関与を示唆している。非侵襲的鼻腔内AAVベクター投与によって前脳における高レベルの治療用タンパク質発現とそれに続く脳全体への拡散を達成するためのこのアプローチは、MPSおよび関連代謝性疾患の処置だけでなく、より一般的な他の神経障害、例えばパーキンソン病およびアルツハイマー病などの処置にも応用できる。
【0133】
実施例V
ムコ多糖症II型(MPS II;ハンター症候群)は、イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の欠損とそれに続くグリコサミノグリカン(GAG)デルマタンおよびヘパラン硫酸の蓄積が引き起こす、X連鎖性劣性遺伝性リソソーム蓄積症である。罹患個体は、身体的、神経学的に、ある範囲の重症度の所見と、余命の短縮とを呈する。例えば、罹患個体は、ある範囲の重症度の所見、例えば臓器肥大、骨格異形成、心肺閉塞、神経認知障害、および余命の短縮を呈する。今のところMPS IIの治療法はない。現行の標準治療は酵素補充治療(ELAPSRASE;イデュルスルファーゼ)であり、これは疾患進行を管理するために使用される。しかし酵素補充治療(ERT)は神経学的な改善をもたらさない。造血幹細胞移植(HSCT)はMPS IIに関して神経学的利益を示さなかったので、この疾患の神経所見を呈する患者にとって臨床的に頼りになるものが現時点ではなく、新しい治療法が渇望されている。
【0134】
脳中のIDSレベルを回復し、処置された動物における神経認知障害の出現を防止する目的で、MPS IIマウスの中枢神経系にヒトIDSコード配列を送達するためのAAV9ベクター(AAV9-hIDS)を開発する(図27A)。特に、スルファターゼ活性部位の活性化に必要なヒトスルファターゼ修飾因子-1(SUMF-1)を伴って、またはSUMF-1を伴わずに、ヒトIDSをコードする一連のベクターを作成した。これらの実験では、次の3つの投与経路を使用した:髄腔内(IT)経路(図28~29)、脳室内(ICV)経路(図30A~D)および静脈内(IV)経路(図28~29)。投与経路に関係なく、hIDSだけを形質導入するAAV9ベクターで処置されたマウスと、ヒトIDSおよびSUMF-1をコードするAAV9ベクターで処置されたマウスとの間で、酵素レベルに有意差は見られなかった。IT投与されたNOD.SCID(IDS Y+)およびC57BL/6(IDS Y+)は、無処置動物と比較した場合に、脳および脊髄におけるIDS活性の上昇を示さなかったが、血漿は、無処置動物より10倍(NOD.SCID)および150倍(C57BL/6)高いレベルを示した。AAV9-hIDSを静脈内投与されたIDS欠損マウスは、すべての器官において、野生型に匹敵するIDS活性を呈した。さらにまた、IV注射を受けた動物の血漿は、野生型の100倍の酵素活性を示した。AAV9-hIDUAのICV投与を受けたIDS欠損マウスは、脳および末梢組織の大半の領域において、野生型に匹敵するIDS活性を示したが、脳のいくつかの部分は、野生型の2~4倍である活性を示した。さらにまた、血漿中のIDS活性は野生型の200倍であった。驚いたことに、処置されたすべての動物で、血漿におけるIDS酵素活性は、少なくとも注射後12週間にわたる持続を示し、それゆえに、IDS酵素は、少なくともC57BL/6マウスバックグラウンドでは、免疫原性ではなかった。無処置MPS II動物の神経認知障害を、野生型同腹仔のそれと区別するために、バーンズ迷路を使って、追加の神経行動学的試験を行った。罹患動物の学習能力は同腹仔に観察されるものより際立って遅いことがわかった。そこで、バーンズ迷路を使って、MPS IIマウスモデルにおけるこれらの治療法の利益を検討した(図31A~Bおよび図32)。これらの結果は、MPS IIにおける神経学的欠陥を防止するためのCNSへのAAV9によるヒトIDS遺伝子導入には、治療的利益がある可能性を示している。
【0135】
要約すると、AAV9-hIDSの脳室内(ICV)注射は、脳における野生型レベルのIDSを含めて、IDS酵素欠損の全身性のコレクションをもたらした。hIDSとhSUMF-1との同時送達は組織におけるIDS活性を増加させなかった。hIDS発現はWTおよびMPS II C57BL/6マウスにおいて非免疫原性であった。
【0136】
実施例VI
ムコ多糖症I型(MPS I)は、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損が引き起こす遺伝性常染色体劣性代謝性疾患であり、結果として、ヘパリンおよびデルマタン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)が蓄積する。この疾患の最も重症な形態(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞を患い、10歳までに死亡する。この疾患の現行の処置には、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)および酵素補充治療(ERT)が含まれる。しかし、これらの処置は、この疾患のCNS所見の対処には十分な有効性がない。
【0137】
目標は、現行のERTおよびHSCTをCNSへのIDUA遺伝子導入によって補い、よってこの疾患の神経所見を防止することにより、重症MPS Iの治療法を改良することである。この研究では、静脈内投与されたAAV血清型9およびrh10(AAV9およびAAVrh10)の、血液脳関門を横切ってCNSにIDUA遺伝子を送達しそこで発現させる能力を調べた(図33)。ヒトIDUA遺伝子をコードするAAV9ベクターまたはAAVrh10ベクターのどちらかを、4~5ヶ月齢の成体MPS I動物に、尾静脈から静脈内注入した。注射の10週間後に動物を屠殺するまで、血液試料および尿試料を週1回の頻度で収集した。処置動物における血漿IDUA活性は、注射後3週間の時点でヘテロ接合対照の1000倍近かった(図34)。脳、脊髄、および末梢器官をIDUA活性、GAG蓄積のクリアランス、および組織切片のIDUA免疫蛍光について分析した(図34~36)。処置動物は、CNSを含むすべての器官においてIDUA酵素活性の広範な回復を示した。これらのデータは、MPS IのCNS所見の抑制における全身性AAV9およびAAVrh10ベクター注入の有効性を証明している。
【0138】
実施例VII
ムコ多糖症I型(MPS I)は、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損が引き起こす進行性多臓器系遺伝性代謝性疾患である。この疾患の最も重症な形態(ハーラー症候群)は10歳までの死亡をもたらす。リソソーム酵素は血液脳関門を横切ることができないので、この疾患に対する現在の処置は、CNS疾患の処置には効果がない。目標は、AAVによるIDUAの遺伝子送達および遺伝子発現によって、現行の治療法を補い、この疾患のCNS所見を処置することである。
【0139】
IDUAをコードするAAV9ベクターの鼻腔内投与により、CNS疾患を処置するための非侵襲的かつ効果的なアプローチをとった。成体IDUA欠損マウスを、出生時にヒトイズロニダーゼで免疫寛容化することで抗IDUA免疫応答を防止し、3ヶ月齢の時点で、CAGS(CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター/グロビンイントロン)による調節を受けるAAV9-IDUAベクターを鼻腔内注入した。注入の3ヶ月後に屠殺した動物は、嗅球において野生型の100倍のIDUA酵素活性レベルを呈すると共に、脳の他のすべての部分において野生型酵素レベルが回復した(図37)。AAV9-IDUAによる鼻腔内処置は、脳のすべての部分において、組織GAG蓄積物質の低減ももたらした(図38)。バーンズ迷路を使った神経認知試験により、処置されたIDUA欠損マウスは正常対照動物と相違しないが、無処置のIDUA欠損マウスは有意な学習障害を呈することが証明された(図40)。非罹患ヘテロ接合体動物はこの試験では改善された成績を呈したが、MPS Iマウスは、避難場所の位置特定に欠陥を示した。注目すべきことに、AAV9-IDUAによる鼻腔内処置を受けたMPS Iマウスはヘテロ接合体対照と類似する行動を呈したことから、無処置MPS I動物に見られる神経認知障害の防止が実証された(図40D)。
【0140】
鼻上皮および嗅球の組織切片では強いIDUA免疫蛍光染色が観察されたが、脳の他の部分では染色が観察されなかった(図39A~B)。これは、IDUA酵素の広範な分布が、おそらくは、嗅球および鼻上皮における形質導入部位およびIDUA発現部位から脳のさらに深い領域への酵素拡散の結果であったことを示している。脳全体にわたるアクセス、送達およびベクター分布を増加させるために、IDUA欠損動物を吸収促進剤の鼻腔内注入で前処置した。前処置後の異なる時点で、IDUAをコードするAAV9またはAAVrh10ベクターを、動物に鼻腔内注入した。注入の2ヶ月後に動物を屠殺し、脳を顕微解剖し、IDUA酵素活性、グリコサミノグリカンのクリアランス、ならびにIDUAおよびGFPに関する免疫蛍光染色についてアッセイした。この新規で非侵襲的な、鼻腔内AAV9-IDUA投与の戦略は、MPS Iおよび他のリソソーム疾患のCNS所見を処置するために使用できる可能性があるだろう。
【0141】
実施例VIII
ムコ多糖症I型(MPS I)は、アルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損が引き起こす常染色体劣性リソソーム蓄積症であり、結果として、グリコサミノグリカンが蓄積する。この疾患の所見には、多臓器系障害、そしてこの疾患の重症型(ハーラー症候群)では、10歳までの死亡が含まれる。現在使用されている処置、例えば酵素補充治療および同種異系造血幹細胞移植は、CNS処置にとっては不十分なようである。この研究において、本発明者らは、MPS Iのノックアウトマウスモデルにおいて、CNSへの、IDUA遺伝子を形質導入するアデノ随伴ウイルス血清型9ベクター(AAV9-IDUA)の髄腔内送達を使用した。この研究の目的は、MPS I疾患に関連する病的な神経化学的変化を防止する、AAVによる遺伝子治療の能力を評価することであった。
【0142】
方法
ハーラー症候群の確立されたモデルとして、IDUAが欠損しているC57BL/6ノックアウトマウスを使用した。12週齢のMPS IマウスにAAV9-IDUAベクターを髄腔内送達した。AAV投与に先だって、血液脳関門を開かせるためにマウスにマンニトールを注射し、抗IDUA免疫応答を防止するためにラロニダーゼで免疫寛容化した。9ヶ月齢のAAV9-IDUA遺伝子処置MPS Iマウス(MPS I処置、N=11)、無処置MPS Iマウス(MPS I、N=12)およびヘテロ接合体同腹仔(対照、N=12)の海馬および小脳から、インビボ1H MRスペクトルを取得した。1H MRSデータは、FASTMAPシミングおよび超短(ultra-short)TE STEAM(TE=2ms)局在シーケンス(localization sequence)をVAPOR水抑制と組み合わせて使用することにより、9.4Tで取得した。代謝産物は、LCModelを使って、ベイシス・セット(basis set)に含まれる急速に緩和する高分子(fast relaxing macromolecules)のスペクトルで定量した。自発呼吸している動物を1.0~1.5%イソフルランで麻酔した。
【0143】
結果
この研究において一貫して達成されるスペクトル品質により、15の脳代謝産物の信頼できる定量が可能になった。無処置MPS Iマウスの海馬では、対照と比較して、アスコルビン酸濃度(Asc、+0.6μmol/g、p=0.003)およびN-アセチルアスパルチルグルタミン酸濃度(NAAG、+0.3mol/g、p=0.015)に、小さいものの有意な増加が観察された。加えて、グルタチオンレベル(GSH、+0.2μmol/g、p=0.054)に増加の傾向が観察された。無処置MPS Iマウスと対照との小脳神経化学的プロファイルの相違には、NAAGの増加(0.25μmol/g、p=0.026)およびホスホエタノールアミンの減少(PE、-0.44μmol/g、p=0.04)が含まれる。AAV9-IDUAによる処置を受けたMPS Iマウスの神経化学的プロファイルは、対照マウスのものに対する顕著な類似性を示した(図42A~B)。処置されたMPS Iマウスの海馬では、Asc、NAAGおよびGSHのレベルが正常化され、乳酸(Lac)だけが対照と比較してわずかな相違を示した。処置されたMPS Iマウスの小脳では、PEレベルが正常化されたが、NAAGレベルは正常化されなかった。Asc、Lacタウリン(Tau)および総クレアチン(Cr+PCr)について、小さいものの有意な相違が観察された。処置されたMPS Iマウスにおける代謝産物濃度の変化は、Ascを除いて常に、無処置群に観察されるものとは反対であった。加えて、無処置MPS Iマウスと対照との間で有意な変化を示さなかったいくつかの代謝産物(例えばグルコース、グルタミン酸、NAA)については、処置されたMPS Iマウスに見いだされる代謝産物レベルが、無処置MPS Iマウスよりは、対照の方に近いように見える。
【0144】
考察
無処置MPS Iマウスの海馬におけるAsc濃度の有意な増加およびGSHの増加傾向は、リソソーム疾患において報告されている酸化ストレスに対する防御的応答を示している。無処置MPS Iの小脳におけるPEの減少および両脳領域におけるNAAGの増加は脱髄を示しているのかもしれない。類似するパターンのPEの減少およびNAAGの増加が、ミエリン形成の変化が確認された鉄欠乏モデルにも観察された。処置されたMPS Iマウスの海馬と小脳の神経化学的プロファイルを無処置MPS Iマウスおよび対照マウスのものと比較すると、このMPS Iマウスモデルでは、欠けているIDUA遺伝子を(12週齢時に)AAV9の髄腔内送達を使ってCNSに直接導入することで、神経変性過程に関連する(9ヶ月齢における)神経化学的改変は防止されることが、明確に証明される。これらの神経化学的結果は、MPS Iのマウスモデルにおいて調べた類似の遺伝子治療アプローチと合致している。
【0145】
CNSへの直接AAV9-IDUA送達に基づく遺伝子治療は、MPS Iのこのマウスモデルに関連する酸化ストレスおよび脱髄が防止されうることを示している。
【0146】
参考文献
【0147】
全ての刊行物、特許および特許出願は参照により本明細書に組み入れられる。上記明細書では本発明をそのいくつかの好ましい態様に関して説明し、例示のために多くの詳細を述べたが、本発明にはさらなる態様も可能であり、本明細書における詳細のいくつかは、本発明の基本原理から逸脱することなく、かなり変化させうることは、当業者には明白であるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
図26C
図26D
図27A
図27B
図28
図29
図30A
図30B
図30C
図30D
図31A
図31B
図32
図33
図34
図35
図36A
図36B
図36C
図36D
図36E
図36F
図37
図38
図39A
図39B
図39C
図39D
図40
図41A
図41B
図42
【手続補正書】
【提出日】2022-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソソーム蓄積酵素をコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含み、リソソーム蓄積症を有する哺乳動物において、該rAAVを投与されていないリソソーム蓄積症を有する哺乳動物と比較して神経認知を強化する方法における使用のための、組成物であって、該rAAVがrAAV9またはrAAVrh10である、前記組成物。
【請求項2】
リソソーム蓄積症がムコ多糖症である、請求項1記載の使用のための組成物。
【請求項3】
哺乳動物が免疫抑制薬で処置されていない、請求項1記載の使用のための組成物。
【請求項4】
哺乳動物が免疫抑制薬で処置されている、請求項1または2記載の使用のための組成物。
【請求項5】
免疫抑制薬が、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞分裂阻害剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに対して活性な作用物質、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)もしくはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)結合剤を含む、請求項4記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記rAAVと免疫抑制薬とが同時投与されるか、または免疫抑制薬が前記rAAVの後に投与される、請求項5記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化されない、請求項1~6のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記rAAVの投与前に哺乳動物が免疫寛容化される、請求項1~6のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項9】
哺乳動物がヒトまたは免疫適格性の成体である、請求項1記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記rAAVがrAAV9である、請求項1~9のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項11】
酵素が、アルファ-L-イズロニダーゼ、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-D-グルコサミニダーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、またはグルコセレブロシダーゼである、請求項1~10のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項12】
哺乳動物が、ムコ多糖症I型障害またはムコ多糖症VII型障害を有し、哺乳動物が、アルファ-L-イズロニダーゼを欠損している、請求項2~11のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記量が、成長遅延を阻害するか、肝脾腫大を阻害するか、心肺疾患を阻害するか、もしくは骨格異形成を阻害するか、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1~12のいずれか一項記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記rAAVがrAAVrh10である、請求項1~9または11~13のいずれか一項記載の方法における使用のための組成物。