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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137316
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】減衰力調整式緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/34 20060101AFI20220914BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
F16F9/34
F16F9/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019138026
(22)【出願日】2019-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯野 治
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC13
3J069DD47
3J069EE02
3J069EE06
3J069EE39
(57)【要約】
【課題】パイロットバルブの摺動部の精度と生産性とを確保することが可能な減衰力調整式緩衝器を提供する。
【解決手段】バルブスプール82(弁体)とフェイルセーフばね122(弁ばね)の内周縁部を受ける弁ばね固定部材123とを別体とし、バルブスプール82の摺動部83を、弁ばね固定部材123の軸孔126に圧入することにより、バルブスプール82と弁ばね固定部材123とを結合させたので、摺動部83をバルブスプール82における最外径部とすることができる。これにより、摺動部83をセンタレス研磨によって仕上げることが可能であり、バルブスプール82、延いては、減衰力調整式緩衝器1の生産性が向上し、製造コストを削減することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されるシリンダと、
該シリンダ内に摺動可能に嵌装され、前記シリンダ内を一側室と他側室とに区画するピストンと、
一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダから外部へ延出するピストンロッドと、
前記ピストンに設けられる伸び側通路及び縮み側通路と、
前記伸び側通路に設けられる伸び側メインバルブと、
該伸び側メインバルブの開弁圧力を調整する伸び側背圧室と、
前記縮み側通路に設けられる縮み側メインバルブと、
該縮み側メインバルブの開弁圧力を調整する縮み側背圧室と、
前記伸び側背圧室と前記縮み側背圧室とを連通する共通通路と、
内周側には前記共通通路が形成され、外周側には前記伸び側メインバルブ、前記縮み側メインバルブ、前記伸び側背圧室、及び前記縮み側背圧室を形成する部材が嵌合されるピストンボルトと、
前記共通通路内に移動可能に設けられる弁体と、
該弁体を開弁方向へ付勢する弁ばねと、
前記共通通路内の油液の流れを制御するパイロットバルブと、
前記弁体の移動を制御するアクチュエータと、
を備える減衰力調整式緩衝器であって、
前記弁体には、前記弁ばねを受ける弁ばね固定部材が取付けられ、該弁ばね固定部材は、前記弁体よりも大径であることを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
前記弁体と前記弁ばね固定部材とは、圧入により結合されることを特徴とする請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
前記弁ばねは、非線形ばねであることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項4】
前記弁ばねは、ディスク状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰力調整式緩衝器。
【請求項5】
前記弁体は、摺動部と、該摺動部から延びる固定部とからなり、前記弁ばね固定部材は、前記固定部の外周側に挿入されて固定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の減衰力調整式緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドのストロークに対する油液の流れを制御して減衰力を調整する減衰力調整式緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電磁弁弁体の小径部が、弁座部材の弁収容筒に摺動可能に挿入された減衰力調整バルブが開示されている。電磁弁弁体には、小径部より大径のばね受部が形成され、該ばね受部と弁座部材のフランジ部との間には、電磁弁弁体を弁座部材から離間させる方向へ付勢する弁ばねが介装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-198276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該減衰力調整バルブは、電磁弁弁体(バルブスプール)の小径部(摺動部)に高い精度が要求される。ここで、小径部のセンタレス研磨が可能であれば、電磁弁弁体の精度と生産性とを確保することができる。しかし、小径部は、電磁弁弁体における最外径部ではないため、センタレス研磨することができない。この場合、円筒研磨を用いるが、研削装置への取付(心出し、及びチャッキング)に工数を要し、生産性の確保が困難である。
【0005】
本発明は、パイロットバルブの精度と生産性とが確保される減衰力調整式緩衝器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の減衰力調整式緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され、前記シリンダ内を一側室と他側室とに区画するピストンと、一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダから外部へ延出するピストンロッドと、前記ピストンに設けられる伸び側通路及び縮み側通路と、前記伸び側通路に設けられる伸び側メインバルブと、該伸び側メインバルブの開弁圧力を調整する伸び側背圧室と、前記縮み側通路に設けられる縮み側メインバルブと、該縮み側メインバルブの開弁圧力を調整する縮み側背圧室と、前記伸び側背圧室と前記縮み側背圧室とを連通する共通通路と、内周側には前記共通通路が形成され、外周側には前記伸び側メインバルブ、前記縮み側メインバルブ、前記伸び側背圧室、及び前記縮み側背圧室を形成する部材が嵌合されるピストンボルトと、前記共通通路内に移動可能に設けられる弁体と、該弁体を開弁方向へ付勢する弁ばねと、前記共通通路内の油液の流れを制御するパイロットバルブと、前記弁体の移動を制御するアクチュエータと、を備える減衰力調整式緩衝器であって、前記弁体には、前記弁ばねを受ける弁ばね固定部材が取付けられ、該弁ばね固定部材は、前記弁体よりも大径であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パイロットバルブの精度と生産性とが確保される減衰力調整式緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の減衰力調整式緩衝器の主要部の断面図である。
図2図1における減衰力調整機構部の拡大図である。
図3】第2実施形態の説明図であって、図2に対応する図である。
図4】第2実施形態の説明図であって、弁ばね固定部材、非線形ばね、及びパイロットボディの関係を示す図である。
図5】第3実施形態の減衰力調整式緩衝器の主要部の断面図である。
図6図5における減衰力調整機構部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を添付した図を参照して説明する。
便宜上、図1における上下方向をそのまま「上下方向」と称する。なお、第1実施形態は、単筒型の減衰力調整式緩衝器であるが、リザーバを備える複筒型の減衰力調整式緩衝器にも適用できる。
【0010】
図1に示されるように、シリンダ2内には、ピストン3が摺動可能に嵌装される。ピストン3は、シリンダ2内をシリンダ上室2A(一側室)とシリンダ下室2B(他側室)との2室に区画する。なお、シリンダ2内には、シリンダ2内を上下方向へ移動可能なフリーピストン(図示省略)が設けられ、該フリーピストンは、シリンダ2内をピストン3側のシリンダ下室2Bとボトム側のガス室(図示省略)とに区画する。
【0011】
ピストン3の軸孔4には、ピストンボルト5の軸部6が挿通される。ピストンボルト5は、軸部6の上端部に設けられる頭部7と、該頭部7の外周縁部に形成された上側の第1円筒部8及び下側の第2円筒部9と、を有する。第1円筒部8には、ソレノイドケース94の下端部がねじ結合により接続される。ピストンボルト5の軸部6の内周側には、軸方向(上下方向)へ延びて上端が開口する共通通路11が設けられる。
【0012】
図2に示されるように、共通通路11は、該共通通路11の上部に形成されて上端が開口される軸方向通路12と、共通通路11の下部に形成されて下端が閉塞される軸方向通路14と、軸方向通路12,14間を連通する軸方向通路13と、からなる。共通通路11の内径は、軸方向通路13が最も大きく、軸方向通路12、軸方向通路14の順に小さくなる。なお、軸方向通路12は、ピストンボルト5(頭部7)の上端面中央に形成された凹部10の底面に開口する。該凹部10の軸直角平面による断面は、ピストンボルト5と同軸の円形をなす。
【0013】
図1に示されるように、ソレノイドケース94の上端部には、ピストンロッド15の下端部(一端)がねじ結合により接続される。ピストンロッド15の上端側(他端)は、シリンダ2から外部へ延出する。ピストンロッド15の下端部には、緩み止めのナット16が取り付けられる。ピストンロッド15の下端には、小径部17が形成される。小径部17の外周面に形成された環状溝(符号省略)には、ソレノイドケース94とピストンロッド15との間をシールするシール部材18が装着される。
【0014】
ピストン3には、上端がシリンダ上室2A側に開口する伸び側通路19と、下端がシリンダ下室2B側に開口する縮み側通路20と、が設けられる。ピストン3の下端側には、伸び側通路19の油液(作動流体)の流れを制御する伸び側バルブ機構21が設けられる。他方、ピストン3の上端側には、縮み側通路20の油液の流れを制御する縮み側バルブ機構51が設けられる。
【0015】
図2に示されるように、伸び側バルブ機構21は、ピストン3の下端面の外周側に形成される環状のシート部24と、該シート部24に離着座可能に当接する伸び側メインバルブ23と、ピストンボルト5の軸部6に取り付けられる伸び側パイロットボディ25と、該伸び側パイロットボディ25と伸び側メインバルブ23の背面との間に形成される伸び側背圧室26と、を備える。伸び側背圧室26内の圧力は、伸び側メインバルブ23に対して閉弁方向へ作用する。
【0016】
ピストンボルト5の軸部6の下端部には、ナット27が取り付けられる。該ナット27と伸び側パイロットボディ25との間には、下側から順に、ワッシャ28、リテーナ29、及びディスクバルブ30が設けられる。ワッシャ28、リテーナ29、及びディスクバルブ30は、ナット27と伸び側パイロットボディ25の内周縁部との間で保持される。伸び側メインバルブ23は、弾性体からなる環状のパッキン31が伸び側パイロットボディ25の内周面に全周にわたって接触するパッキンバルブである。
【0017】
伸び側背圧室26は、伸び側パイロットボディ25に形成された通路32及びディスクバルブ30を介してシリンダ下室2Bに連通される。ディスクバルブ30は、伸び側背圧室26の圧力が所定圧力に達したときに開弁し、当該伸び側背圧室26内の圧力をシリンダ下室2Bへリリーフする。伸び側背圧室26は、ディスク状の伸び側背圧導入弁33を介して、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路34に連通される。該径方向通路34は、軸方向通路14に連通される。
【0018】
伸び側背圧導入弁33は、伸び側パイロットボディ25の通路44を介した、シリンダ下室2Bから伸び側背圧室26への油液の流れを許容する逆止弁である。伸び側背圧導入弁33は、伸び側パイロットボディ25の上面(伸び側背圧室26側の面)の、通路32の内周側且つ通路44の外周側に形成された、環状のシート部35に着座される。伸び側背圧導入弁33の内周縁部は、伸び側パイロットボディ25の内周縁部とスペーサ36との間で保持される。伸び側背圧室26は、伸び側背圧導入弁33の内周側に形成された複数個の伸び側導入オリフィス37、及び伸び側パイロットボディ25の内周縁部に形成された環状通路38を介して径方向通路34に連通される。
【0019】
軸方向通路14は、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路39(縮み側排出通路)に連通される。径方向通路39は、ピストン3の軸孔4の下端部に形成された環状通路41、ピストン3の内周縁部の下端側に形成された複数個の切欠き42、及びピストン3に設けられた縮み側逆止弁40を介して、伸び側通路19に連通される。縮み側逆止弁40は、ピストン3の下端側の、シート部24及び伸び側通路19より内周側に設けられた環状のシート部43に離着座可能に当接する。縮み側逆止弁40は、径方向通路39から伸び側通路19への油液の流れを許容する。
【0020】
縮み側バルブ機構51は、ピストン3の上端面の外周側に形成される環状のシート部54と、該シート部54に離着座可能に当接する縮み側メインバルブ53と、ピストンボルト5の軸部6に取り付けられる縮み側パイロットボディ55と、該縮み側パイロットボディ55と縮み側メインバルブ53の背面との間に形成される縮み側背圧室56と、を備える。縮み側背圧室56内の圧力は、縮み側メインバルブ53に対して閉弁方向へ作用する。
【0021】
ピストンボルト5の第2円筒部9の内周側には、ワッシャ45が嵌合される。該ワッシャ45の軸孔46には、ピストンボルト5の軸部6が挿入される。ワッシャ45と第2円筒部9との間は、ワッシャ45の外周に設けられた環状のシール部材47によってシールされる。ワッシャ45と縮み側パイロットボディ55との間には、上側から順に、ディスク58、リテーナ59、及びディスクバルブ60が設けられる。ディスク58、リテーナ59、及びディスクバルブ60は、ワッシャ45と縮み側パイロットボディ55の内周縁部との間で保持される。縮み側メインバルブ53は、弾性体からなる環状のパッキン61が縮み側パイロットボディ55の内周面に全周にわたって接触するパッキンバルブである。
【0022】
縮み側背圧室56は、縮み側パイロットボディ55に形成された通路62及びディスクバルブ60を介してシリンダ上室2Aに連通される。ディスクバルブ60は、縮み側背圧室56の圧力が所定圧力に達したときに開弁し、当該縮み側背圧室56内の圧力をシリンダ上室2Aへリリーフする。縮み側背圧室56は、ディスク状の縮み側背圧導入弁63を介して、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路64に連通される。該径方向通路64は、軸方向通路12に連通される。
【0023】
縮み側背圧導入弁63は、縮み側パイロットボディ55の通路74を介する、シリンダ上室2Aから縮み側背圧室56への油液の流れを許容する逆止弁である。縮み側背圧導入弁63は、縮み側パイロットボディ55の下面(縮み側背圧室56側の面)の、通路62の内周側且つ通路74の外周側に形成された、環状のシート部65に着座される。縮み側背圧導入弁63の内周縁部は、縮み側パイロットボディ55の内周縁部とスペーサ66との間で保持される。縮み側背圧室56は、縮み側背圧導入弁63の内周側に形成された複数個の縮み側導入オリフィス67、縮み側パイロットボディ55の内周縁部に形成された環状通路68、及びピストンボルト5の軸部6に形成された二面幅部75を介して、径方向通路64に連通される。
【0024】
軸方向通路12は、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路69(縮み側排出通路)に連通される。径方向通路69は、ピストン3の軸孔4の上端部に形成された環状通路71、ピストン3の内周縁部の上端側に形成された複数個の切欠き72、及びピストン3に設けられた伸び側逆止弁70を介して、縮み側通路20に連通される。伸び側逆止弁70は、ピストン3の上端側の、シート部54及び縮み側通路20より内周側に設けられた環状のシート部73に、離着座可能に当接する。伸び側逆止弁70は、径方向通路69から縮み側通路20への油液の流れを許容する。
【0025】
ピストンボルト5の共通通路11内の油液の流れは、パイロットバルブ81によって制御される。該パイロットバルブ81は、共通通路11に摺動可能に嵌装されたバルブスプール82(弁体)を有する。バルブスプール82は、中実軸からなり、ピストンボルト5とともにパイロットバルブ81を構成する。バルブスプール82は、軸方向通路12の、径方向通路64より上側に挿入される摺動部83と、軸方向通路14の開口周縁に形成されたシート部84に離着座可能に当接する弁部85と、摺動部83と弁部85とを接続する接続部86と、を有する。
【0026】
バルブスプール82の弁部85に形成されたばね受部87と、共通通路11(軸方向通路14)の底部との間には、圧縮コイルばねからなるフェイルセーフばね88が介装される。該フェイルセーフばね88は、バルブスプール82をピストンボルト5に対して上方向へ付勢する。これにより、摺動部83の端面89は、後述するソレノイド91(アクチュエータ)の作動ロッド92の下端面93に当接する(押し付けられる)。
【0027】
図1に示されるように、ソレノイド91は、ソレノイドケース94、作動ロッド92、及びコイル95を有する。作動ロッド92の外周面には、プランジャ96が結合される。プランジャ96は、コイル95への通電により推力を発生する。作動ロッド92の内周側には、ロッド内通路97が形成される。作動ロッド92は、コア98に設けられたブッシュ100によって、上下方向(軸方向)へ案内される。
【0028】
ソレノイド91のコア99の内周側には、スプール背圧室101が形成される。該スプール背圧室101は、作動ロッド92の下端部に設けられた複数個の切欠き102、ロッド内通路97、コア98に形成されたロッド背圧室103、コア98内を径方向へ延びる通路104、及びソレノイドケース94の側壁に形成されたエア抜きオリフィス105からなる、上室側連通路を介して、シリンダ上室2Aに連通される。
【0029】
図2に示されるように、ピストンボルト5の頭部7とワッシャ45との間には、上側から順に、スプール背圧リリーフ弁107(逆止弁)、及びスペーサ108が設けられる。スプール背圧リリーフ弁107の内周縁部は、スペーサ108と、ピストンボルト5の頭部7の内周縁部と、によって保持される。他方、スプール背圧リリーフ弁107の外周縁部は、ピストンボルト5の頭部7の下面に形成された環状のシート部109に離着座可能に当接する。ピストンボルト5の頭部7とワッシャ45との間には、スプール背圧リリーフ弁107を開弁させるスペースとなる環状通路110が形成される。スプール背圧リリーフ弁107は、スプール背圧室101から環状通路110への油液の流れを許容する逆止弁である。
【0030】
スプール背圧室101は、ピストンボルト5の凹部10、ピストンボルト5の頭部7に形成された複数本の通路111、スプール背圧リリーフ弁107、環状通路110、ワッシャ45の上端面の内周縁部に形成された複数個の切欠き112、ワッシャ45に形成された複数本の通路113、ワッシャ45の下端面の内周縁部に形成された複数個の切欠き114、ピストンボルト5の軸部6に形成された二面幅部75、縮み側パイロットボディ55に形成された環状通路68、径方向通路64、軸方向通路12、径方向通路69、ピストン3に形成された環状通路71並びに切欠き72、伸び側逆止弁70、及び縮み側通路20からなる、下室側連通路を介して、シリンダ下室2Bに連通される。
【0031】
ピストンボルト5の頭部7には、フェイルセーフバルブ121が設けられる。該フェイルセーフバルブ121は、ディスク状のパイロットばね122フェイルセーフばね88(弁ばね)と、バルブスプール82の上端部127(弁体の一側)に固定された弁ばね固定部材123と、を備える。バルブスプール82(摺動部83)の上端部127は、共通通路11(軸方向通路12)から凹部10内に突出した部分であり、弁ばね固定部材123の軸孔126に圧入される。
【0032】
バルブスプール82の端面89の近傍には、環状溝128が形成されており、バルブスプール82の上端部127を弁ばね固定部材123の軸孔126に圧入させた後、弁ばね固定部材123の上端側の内周縁部を、全周に亘って、或いは部分的にかしめて、当該弁ばね固定部材123の材料を環状溝128へ塑性流動させることにより、かしめ部129を形成する。これにより、バルブスプール82と弁ばね固定部材123とは、強固に結合される。
【0033】
弁ばね固定部材123は、円筒部124と、該円筒部124の上端部に設けられたフランジ状のばね受部125と、を有する。円筒部124の外径は、バルブスプール82の最外径部、即ち、摺動部83の外径よりも大径であり、ばね受部125の外径より小径である。弁ばね固定部材123は、円筒部124がパイロットばね122の中心孔131に挿入され、ばね受部125の下端部がフェイルセーフばね122の内周縁部(中心孔131の周縁部)の上面に当接される。パイロットばね122の外周縁部は、ピストンボルト5の頭部7に形成された段部132(凹部10の開口縁部)によって支持される。また、フェイルセーフばね122の外周縁部は、スペーサ133を介してコア99と段部132との間で保持される。
【0034】
そして、コイル95への非通電時には、バルブスプール82は、フェイルセーフばね122のばね力によって、上方向、即ち、弁部85をシート部84から離座させる方向へ付勢される。これにより、弁ばね固定部材123のばね受部125が、コア99のスプール背圧室101の下端側の開口縁部に形成されたシート部134に着座される。その結果、前述した上室側連通路と下室側連通路との連通が遮断される。
【0035】
一方、コイル95への通電時には、バルブスプール82は、作動ロッド92(プランジャ96)の推力によって、下方向、即ち、弁部85をシート部84に着座させる方向へ付勢される。これにより、バルブスプール82は、フェイルセーフばね88及びフェイルセーフばね122のばね力に抗して、弁部85がシート部84に着座される。パイロットバルブ81(弁部85)の開弁圧力は、コイル95への通電の電流値を変化させることで制御される。コイル95への通電の電流値が小さいソフトモード時には、フェイルセーフばね88のばね力と作動ロッド92との推力が平衡し、弁部85がシート部84から離間した状態(図2参照)となる。
【0036】
次に、第1実施形態における油液の流れ、ここでは、パイロット流れを説明する。
(縮み行程)
パイロットバルブ81の開弁前には、シリンダ下室2Bの油液は、縮み側通路20、伸び側逆止弁70のオリフィス76、ピストン3の切欠き72、環状通路71、径方向通路69、軸方向通路12(共通通路11)、及び縮み側導入通路、即ち、径方向通路64、軸部6の二面幅部75、環状通路68、及び縮み側背圧導入弁63の縮み側導入オリフィス67を経て、縮み側背圧室56に導入される。また、軸方向通路12に導入された油液は、縮み側背圧導入弁63の縮み側導入オリフィス67、環状通路68、軸部6の二面幅部75、ワッシャ45の切欠き114、及びディスク58を経て、シリンダ上室2Aへ流れる。
【0037】
パイロットバルブ81が開弁すると、軸方向通路12に導入された油液は、縮み側導入通路を経て縮み側背圧室56に導入されるとともに、縮み側パイロット通路、即ち、軸方向通路13(共通通路11)、軸方向通路14(共通通路11)、径方向通路39、環状通路41、ピストン3の切欠き42、縮み側逆止弁40、及び伸び側通路19を経て、シリンダ上室2Aへ流れる。ここで、ソレノイド91のコイル95への通電の電流値を制御することにより、パイロットバルブ81の開弁圧力を調整することができる。同時に、縮み側背圧導入弁63から縮み側背圧室56へ導入される油液の圧力も調整されるので、縮み側メインバルブ53の開弁圧力を制御することができる。
【0038】
(伸び行程)
パイロットバルブ81の開弁前には、シリンダ上室2Aの油液は、伸び側通路19、縮み側逆止弁40のオリフィス48、ピストン3の切欠き42、環状通路41、径方向通路39、軸方向通路14(共通通路11)、及び伸び側導入通路、即ち、径方向通路34、環状通路38、及び伸び側背圧導入弁33の伸び側導入オリフィス37を経て、伸び側背圧室26に導入される。また、シリンダ上室2Aの油液は、前述した上室側連通路及び下室側連通路を経て、シリンダ下室2Bへ流れる。
【0039】
パイロットバルブ81が開弁すると、軸方向通路14に導入された油液は、伸び側導入通路を経て伸び側背圧室26に導入されるとともに、伸び側パイロット通路、即ち、軸方向通路13(共通通路11)、軸方向通路12(共通通路11)、径方向通路69、環状通路71、ピストン3の切欠き72、伸び側逆止弁70、及び縮み側通路20を経て、シリンダ下室2Bへ流れる。ここで、ソレノイド91のコイル95への通電の電流値を制御することにより、パイロットバルブ81の開弁圧力を調整することができる。同時に、伸び側背圧導入弁33から伸び側背圧室26へ導入される油液の圧力も調整されるので、伸び側メインバルブ23の開弁圧力を制御することができる。
【0040】
前述した特許文献1に記載の減衰力調整バルブでは、電磁弁弁体(バルブスプール82)の小径部(摺動部83)を高い精度で仕上げる必要があるが、当該小径部は、電磁弁弁体における最外径部ではないため、当該小径部を円筒研磨によって仕上げる必要がある。この場合、研削装置への取付作業(心出し、及びチャッキング)に工数を要し、生産性が悪化するという問題がある。
【0041】
これに対し、第1実施形態では、バルブスプール82(弁体)とパイロットばね122(弁ばね)の内周縁部を受ける弁ばね固定部材123とを別体に構成し、バルブスプール82の上端部127(摺動部83)を、弁ばね固定部材123の軸孔126に圧入することにより、バルブスプール82と弁ばね固定部材123とを結合させた。
よって、摺動部83を、単体のバルブスプール82における最外径部、すなわち、最大径の軸とすることができる。これにより、摺動部83をセンタレス研磨によって仕上げることが可能であり、バルブスプール82、延いては、減衰力調整式緩衝器1の生産性が向上し、製造コストを削減することができる。
また、バルブスプール82の上端部127(摺動部83)を弁ばね固定部材123の軸孔126に圧入させた後、弁ばね固定部材123の内周縁部を塑性加工してかしめ部129を形成したので、バルブスプール82と弁ばね固定部材123との結合部の信頼性を確保することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、図3図4を参照して第2実施形態を説明する。ここでは、主に、第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0043】
第1実施形態では、ソフトモード時に、バルブスプール82(弁体)の弁部85をシート部84から離間させるばね力を発生するフェイルセーフばね88と、フェイル時に、弁ばね固定部材123のばね受部125をシート部134に着座させるばね力を発生するパイロットばね122(弁ばね)とを、別体に構成した。
【0044】
これに対し、第2実施形態では、パイロットばねとフェイルセーフばねとを単一の非線形ばね141に構成した。非線形ばね141は、低剛性部142と高剛性部143とを有する。非線形ばね141は、変位(たわみ)の初期、即ち、コイル95(図1参照)への通電の電流値が、0から一定値までの初期の領域で、低剛性部142(第1実施形態における「パイロットばね122」に相当。)の特性に基づくばね力が発生する。他方、コイル95への通電の電流値が一定値に達して、高剛性部143が、ピストンボルト5の頭部7の段部132の内周側に形成された段部145に当接した時点から、当該高剛性部143(第1実施形態における「フェイルセーフばね88」に相当。)の特性に基づくばね力が発生する。
【0045】
なお、第1実施形態では、フェイル時に、弁ばね固定部材123のばね受部125をコア99のシート部134に着座させたが、第2実施形態では、バルブスプール82の上端部127(弁体の一側)の端に、摺動部83に対して小径の小径部147を形成し、該小径部147に取り付けた環状のディスクバルブ148を、コア99のシート部134に着座させるように構成した。
【0046】
第2実施形態では、前述した第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
また、第2実施形態では、第1実施形態で別体であったフェイルセーフばね88とパイロットばね122とを、非線形ばね141に構成して一体化させたので、部品点数が削減され、延いては、組立工数を削減することができる。
【0047】
(第3実施形態)
次に、図5図6を参照して第3実施形態を説明する。ここでは、主に、第2実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0048】
第2実施形態(第1実施形態)では、パイロットバルブ81の開弁時に、パイロット流れの方向、即ち、パイロット通路を流通する油液の流れの方向が、伸び行程と縮み行程とで異なっていた。換言すれば、共通通路11を流れる油液の方向が、伸び行程と縮み行程とで逆であった。これに対し、第3実施形態は、パイロット流れの方向、即ち、共通通路11を流れる油液の方向が、伸び行程と縮み行程とで同一の、所謂、ユニフロー型の減衰力調整式緩衝器1への適用を可能にするものである。
【0049】
図6に示されるように、ピストンボルト5の軸部6の下端部には、共通通路11に対して大径の軸孔151が設けられる。実質的には、軸孔151は、共通通路11と同軸のザグリ穴である。該軸孔151には、段付円柱形の弁座部材152が取り付けられる。該弁座部材152は、軸孔151に嵌合される嵌合部153と、共通通路11に対して小径の弁座部154と、を有する。
【0050】
弁座部材152は、嵌合部153と弁座部154との間の段部152が、軸孔151の底部に当接されることで、ピストンボルト5に対して軸方向に位置決めされる。なお、弁座部材152とピストンボルト5とは、嵌合部153と軸部6との間に形成されたねじ結合部156により結合される。また、嵌合部153と軸孔151とは、シール部材157によってシールされる。該シール部材157は、嵌合部153の外周面に形成された環状溝(符号省略)に装着される。
【0051】
ここで、第2実施形態(第1実施形態)では、摺動部83と弁部85とを接続部86で接続して中実軸のバルブスプール82を形成していたが、第3実施形態では、第2実施形態の接続部86に相当する部分を弁部162とし、さらに、作動ロッド92のロッド内通路97に連通するスプール内通路163を設けて、中空軸のバルブスプール161を形成した。また、バルブスプール161の摺動部83の外径は、弁部162の外径に対して大径であり、摺動部83は、バルブスプール161における大外径部である。
【0052】
共通通路11は、弁座部材152の弁座部154とバルブスプール161の弁部162との外周に形成される。即ち、共通通路11は、環状通路である。ピストンボルト5には、凹部10とピストン3の環状通路71とを連通するボルト内ポート164が設けられる。スプール背圧室101は、ピストンボルト5の凹部10、ボルト内ポート164、ピストン3に形成された環状通路71並びに切欠き72、伸び側逆止弁70、及び縮み側通路20からなる、下室側連通路を介して、シリンダ下室2Bに連通される。なお、コア98の側壁には、スプール背圧室101(通路104)からシリンダ上室2Aへの油液の流通を許容する逆止弁165が設けられる。
【0053】
(縮み行程)
パイロットバルブ81の開弁前には、シリンダ下室2Bの油液は、伸び側パイロットボディ25の通路44、伸び側背圧導入弁33、縮み側導入オリフィス37、伸び側パイロットボディ25の環状通路38、径方向通路34、伸び側導入オリフィス67、共通通路11、縮み側背圧室56に導入される。
【0054】
パイロットバルブ81が開弁すると、共通通路11に導入された油液は、縮み側導入通路を経て縮み側背圧室56に導入されるとともに、縮み側パイロット通路、即ち、スプール内通路163、作動ロッド92の切欠き102、スプール背圧室101、ピストンボルト5の凹部10、ピストンボルト5の通路111、及びスプール背圧リリーフ弁107を経て、シリンダ上室2Aへ流れる。
【0055】
(伸び行程)
パイロットバルブ81の開弁前には、シリンダ上室2Aの油液は、縮み側パイロットボディ55の通路74、縮み側背圧導入弁63、伸び側導入オリフィス67、環状通路68、径方向通路64、共通通路11、及び縮み側導入通路、即ち、径方向通路34、伸び側パイロットボディ25の環状通路38、及び縮み側導入オリフィス37を経て、伸び側背圧室26に導入される。
【0056】
パイロットバルブ81が開弁すると、共通通路11に導入された油液は、伸び側導入通路を経て伸び側背圧室26に導入されるとともに、伸び側パイロット通路、即ち、スプール内通路163、作動ロッド92の切欠き102、スプール背圧室101、ピストンボルト5の凹部10、ボルト内ポート164、ピストン3の環状通路71、切欠き72、伸び側逆止弁70、及び縮み側通路20を経て、シリンダ下室2Bへ流れる。
【0057】
第3実施形態では、前述した第1及び第2実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 減衰力調整式緩衝器、2 シリンダ、2A シリンダ上室(一側室)、2B シリンダ下室(他側室)、3 ピストン、5 ピストンボルト、11 共通通路、15 ピストンロッド、19 伸び側通路、20 縮み側通路、23 伸び側メインバルブ、26 伸び側背圧室、53 縮み側メインバルブ、56 縮み側背圧室、91 ソレノイド(アクチュエータ)、81 パイロットバルブ、82 バルブスプール(弁体)、122 パイロットばね(弁ばね)、123 弁ばね固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6