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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137320
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】生体情報測定用電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/263 20210101AFI20220914BHJP
   A61B 5/25 20210101ALI20220914BHJP
【FI】
A61B5/04 300W
A61B5/04 300J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019148624
(22)【出願日】2019-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】林田 真由子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 功
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA03
4C127AA04
4C127LL08
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】生体からの電気信号をより安定して測定できる生体情報測定用電極を提供する。
【解決手段】本発明に係る生体情報測定用電極は、生体と接触可能な領域を有する基体部を備える生体情報測定用電極であって、前記基体部の前記領域には、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を含む第1の導電層が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体と接触可能な領域を有する基体部を備える生体情報測定用電極であって、
前記基体部の前記領域には、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を含む第1の導電層が形成されていることを特徴とする生体情報測定用電極。
【請求項2】
前記基体部の前記領域には、前記第1の導電層と前記基体部との間に、電子伝導性の導電性高分子を含む第2の導電層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定用電極。
【請求項3】
前記第1の導電層に含まれる前記イオン導電性高分子が、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルクロライドからなる群から選択される一種以上の成分を含み、
前記第2の導電層に含まれる前記導電性高分子が、PEDOT、PEDOT/PPS、及びポリアニリンスルホン酸からなる群から選択される一種以上の成分を含むことを特徴とする請求項2に記載の生体情報測定用電極。
【請求項4】
前記第2の導電層の厚さに対する前記第1の導電層の厚さの比が、100~500であることを特徴とする請求項2又は3に記載の生体情報測定用電極。
【請求項5】
前記第1の導電層は、電子伝導性の導電性高分子を含むことを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定用電極。
【請求項6】
前記基体部の前記領域には、前記第1の導電層と前記基体部との間に、前記電子伝導性の導電性高分子を含む第2の導電層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の生体情報測定用電極。
【請求項7】
前記第1の導電層に含まれる前記イオン導電性高分子が、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルクロライドからなる群から選択される一種以上の成分を含み、
前記電子伝導性の導電性高分子が、PEDOT、PEDOT/PPS、及びポリアニリンスルホン酸からなる群から選択される一種以上の成分を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の生体情報測定用電極。
【請求項8】
前記第1の導電層は、多孔質構造を有することを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の生体情報測定用電極。
【請求項9】
前記基体部は、導電性材料で形成されることを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の生体情報測定用電極。
【請求項10】
前記基体部が、複数の電極脚を含み、
前記領域が、前記電極脚の先端部分であることを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の生体情報測定用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報測定用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、脳波、脈波、心電、筋電、体脂肪等の生体情報の測定には、皮膚等の生体に接触させる電極脚を有する電極(生体情報測定用電極)が用いられる。生体情報測定用電極を生体に取り付ける際には、電極脚を生体に接触させて、生体情報に関する電気信号(電流)を電極脚を介して生体情報測定用電極で取得し、生体情報(例えば、脳波等)を測定する。
【0003】
生体情報を測定する際には、生体情報測定用電極が生体と電気的に安定して接触していることが重要である。そのため、生体との接触の安定性を高めるため、種々の生体情報測定用電極が提案されている。
【0004】
例えば、電極の表面に導電性高分子膜を形成して導電性を付与し、生体信号を検出する生体情報測定用電極がある。電極と生体との間に生じる接触抵抗(接触インピーダンス)は、電極の表面に導電性高分子で被覆している場合の方が導電性高分子を被覆していない場合よりも低くできるため、電極と生体との電気的接続はより安定して、生体の電気信号をより高感度で検出できる。
【0005】
このような生体情報測定用電極として、例えば、樹脂やセラミック等の非導電材料で作製した弾丸型の電極体の表面を、PtやAu等の金属、又はPEDOT等の導電性高分子等を含む導電性材料で覆った生体用電極が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/126103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の生体用電極では、生体表面が乾燥肌等のように水分が十分でない場合、電極体の生体との接触インピーダンスを安定して下げられず、生体からの電気信号を安定して測定できない可能性がある。
【0008】
本発明の一態様は、生体からの電気信号をより安定して測定できる生体情報測定用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生体情報測定用電極の一態様は、生体と接触可能な領域を有する基体部を備える生体情報測定用電極であって、前記基体部の前記領域には、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を含む第1の導電層が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る生体情報測定用電極は、生体からの電気信号をより安定して測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る生体情報測定用電極の外観を示す斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る生体情報測定用電極の外観を示す他の斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る生体情報測定用電極の正面図である。
図4図1のI-I断面図である。
図5図4の部分拡大断面図である。
図6】生体情報測定用電極を備えた検査装置を用いて患者等の脳波を測定する一例を示す図である。
図7】生体情報測定用電極の他の構成の一例を示す断面図である。
図8】生体情報測定用電極の他の構成の一例を示す電極脚の部分断面図である。
図9】生体情報測定用電極の他の構成の一例を示す電極脚の部分断面図である。
図10】生体情報測定用電極の他の構成の一例を示す断面図である。
図11】第2の実施形態に係る生体情報測定用電極を図1のI-I方向で見た時の断面図である。
図12図11の部分拡大断面図である。
図13】実施例1-1、1-2、及び比較例1-1の生体情報測定用電極を用いた時の接触インピーダンスが300kΩに低下して10秒後における測定結果を示す図である。
図14】実施例2-1と、比較例2-1及び2-2との生体情報測定用電極を用いた時の接触インピーダンスが300kΩに低下するまでの時間の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書では、3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の3次元直交座標系を用い、生体情報測定用電極の中心軸Jに平行な方向等をZ軸方向とし、中心軸Jに直交する面において、互いに直交する2つの方向のうち一方をX軸方向とし、他方をY軸方向とする。生体情報測定用電極の基体部側を+Z軸方向とし、その反対方向を-Z軸方向とする。以下の説明において、+Z軸方向を上といい、-Z軸方向を下という場合がある。本明細書において数値範囲を示すチルダ「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0013】
[第1の実施形態]
<生体情報測定用電極>
第1の実施形態に係る生体情報測定用電極について説明する。生体とは、人体(人)、並びに牛、馬、豚、鶏、犬及び猫等の動物等をいう。本実施形態に係る生体情報測定用電極は、生体用、中でも人体用として好適に用いることができる。本実施形態では、一例として、生体の一部である頭皮又は額(頭皮等)に生体情報測定用電極を接触させて生体情報の測定を行う場合について説明する。本実施形態に係る生体情報測定用電極は、生体の一部に接触させて生体情報の測定を行うものであればよく、例えば、頭皮等以外の皮膚の一部に接触させて生体情報の測定を行うものでもよい。
【0014】
図1は、本実施形態に係る生体情報測定用電極の外観を示す斜視図であり、図2は、本実施形態に係る生体情報測定用電極の外観を示す他の斜視図であり、図3は、本実施形態に係る生体情報測定用電極の正面図であり、図4は、図1のI-I断面図である。なお、図1図4中の一点鎖線は、生体情報測定用電極の中心軸Jを示す。中心軸Jとは、生体情報測定用電極を生体に設置した際の中心となる軸である。図1図4に示すように、生体情報測定用電極1Aは、基体部10、端子部20、第1の導電層30A、及び第2の導電層40を備える。
【0015】
基体部10及び端子部20を形成する材料としては、導電性エラストマー、又は絶縁材料を用いることができる。なお、絶縁材料とは、導電性がないか導電性が極めて小さい材料をいう。基体部10と端子部20とは、同一の材料で形成されていてもよいし、異なる材料で形成されていてもよい。本実施形態では、基体部10及び端子部20は、同一の導電性エラストマーで一体に形成されている。従って、基体部10を構成する電極脚12の後述する先端部121側から端子部20まで導通している。
【0016】
導電性エラストマーは、その種類は特に限定されるものではない。基体部10及び端子部20が導電性エラストマーを用いて形成される場合、導電性エラストマーは、例えば、導電性フィラーをゴム弾性を有する非導電性エラストマーに一定の配合割合で均一に混合することで得られる。基体部10と端子部20は、ゴム弾性を有する非導電性エラストマーを含んで成形されることで、低い弾性率を有することができる。そのため、生体情報測定用電極1Aの使用時に、基体部10と端子部20は頭皮等の生体の凹凸形状に追従して変形し易くなるので、頭皮等への接触を確実にできると共に、頭皮等への押圧力を緩和できる。
【0017】
上述の導電性フィラーとしては、導電性を有していれば、その種類は特に限定されるものではない。例えば、導電性フィラーとしては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン又はカーボンファイバー(炭素繊維)等のカーボン材料;アルミニウム、金、銀、銅、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、又はニッケル等の金属;いわゆるABO型のペロブスカイト型複合酸化物等の導電性セラミックス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの導電性フィラーは1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。耐久性の点から、カーボン材料を用いることが好ましい。
【0018】
上述の非導電性エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、又はフッ素ゴム等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、耐久性等の点から、シリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0019】
また、導電性エラストマーではない絶縁材料としては、上記の非導電性エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)又は液晶ポリマー(LCP)等を用いることができる。
【0020】
[基体部]
基体部10は、図1図4に示すように、基部11と、複数(図2では、8個)の電極脚12とを備える。
【0021】
基部11は、平面視(+Z軸方向から見たとき)において、略円形に形成されている。基部11は、基部11の裏面(-Z軸方向側)に突設部111を有する。突設部111は、基部11の裏面に環状に複数(図1及び図2では、8本)設けられている。突設部111の端部に電極脚12が一体に成形されている。突設部111の数は、電極脚12の数に合うように設計される。なお、基部11は突設部111を備えず、電極脚12が円板部分の基部11に連続して形成された構成でもよい。
【0022】
電極脚12は、基部11の裏面に対して略直角となるように、基部11の突設部111から-Z軸方向に向けて延設されている。電極脚12は、円筒状に形成されており、その先端に頭皮と接触可能な表面である先端部121を有する。先端部121は、先端に丸みがある曲面形状に形成されており、本実施形態では、ドーム形状に形成されている。
【0023】
先端部121とは、ドーム形状に形成されている先端部分であり、生体である頭皮等と接触する先端と、生体情報測定用電極1Aを傾斜させた時等に生体と接触する可能性のある、先端の周辺領域を含むことを意味する。本実施形態では、先端部121を、「生体と接触可能な領域A(以下、「領域A」という)」とする。
【0024】
[端子部]
端子部20は、図1図4に示すように、基部11の上側(+Z軸方向)に設けられる。端子部20は、基体部10の基部11の上面であって、平面視において基部11の略中央部(中心軸Jが通る位置)から+Z軸方向に突出して設けられている。端子部20の中央部分には、金属層21が設けられている。金属層21としては、金、銀、又は銅等の金属が好適に用いられる。これにより、端子部20は、電極脚12が一体に形成されている基体部10と電気的に接続される。よって、端子部20は、電極脚12の領域Aである先端部121と電気的に接続されることになる。なお、金属層21は、端子部20の上面に設けてもよい。また、端子部20の中央部分の外周には、金属層21以外に、導電性を有する材料により形成された層を設けてもよい。
【0025】
端子部20は、測定部53(図6参照)と接続されている。具体的には、端子部20は、配線52(図6参照)等に接続され、この配線52(図6参照)と測定部53(図6参照)とが接続されている。端子部20は、電極脚12の先端部121から基体部10を介して得られた生体(頭皮等)からの生体情報(電気信号)を基体部10を介して測定部53(図6参照)に伝え、生体情報(脳波)として測定される。
【0026】
[第1の導電層]
第1の導電層30Aは、図1図4に示すように、電極脚12の先端部121の第2の導電層40の表面に設けられており、図4及び図5に示すように、先端部121の第2の導電層40の一部を被覆している。第1の導電層30Aは、外部から水分を吸収することで、ゲル状となり、保水機能及び導電性を有することができる。
【0027】
第1の導電層30Aは、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を含む。イオン導電性高分子は、高いイオン伝導を有し、第1の導電層30A内のイオンの移動をスムーズに行う機能を有することができる。
【0028】
イオン導電性高分子は、公知の高分子電解質膜と同様の材料を用いることができ、少なくとも高いイオン伝導性を有する材料であればよい。イオン導電性高分子としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、エテニルニトリル(ポリアクリロニトリル(PAN)ともいう)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド及びポリアセテート等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、高い水分の含浸能力及び導電性を有する点から、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルクロライドを用いることが好ましい。
【0029】
第1の導電層30Aの厚さは、10μm~500μmであることが好ましい。この範囲内であれば、ゲル状の状態を維持しながら保水機能を有することができると共に、頭皮等の表面形状に追従し易くできる。また、第1の導電層30Aは、電気抵抗が小さくなるのを抑えることができるので、導電性を有することができ、頭皮等から伝達される電気信号を安定して通電させることができる。なお、第1の導電層30Aの厚さとは、第1の導電層30Aの厚さの平均値をいう。例えば、第1の導電層30Aの断面を走査型顕微鏡等で任意の場所で数カ所(例えば、6か所程度)測定した時、これらの測定箇所の厚さの平均値をいう。また、本実施形態において、厚さとは、第1の導電層30Aの接触面に対して垂直方向の層の長さをいう。
【0030】
第1の導電層30Aは、多孔質構造を有することができる。第1の導電層30Aは、多孔質構造を有していれば、第1の導電層30Aの内部に多数の水分を保持できると共に、柔軟性を有することができる。
【0031】
第1の導電層30Aの多孔質構造は、種々の方法を用いて得ることができる。第1の導電層30Aの多孔質構造の形成方法としては、例えば、第1の導電層30Aに含まれるイオン導電性高分子又は他の導電性高分子の含有量を調整してイオン導電性高分子または他の導電性高分子がマトリックスを形成する方法がある。第1の導電層30Aの多孔質構造の形成方法として、スポンジ状の構造を有する多孔質の基体にイオン導電性高分子を含む溶液を含浸した後、溶液を固化することで基体の孔にイオン導電性高分子を付着させる方法、イオン導電性高分子を含む溶液を攪拌して溶液中に気泡を含ませた後、気泡を含む溶液を電極脚22の先端部121に塗布して固化させる方法がある。第1の導電層30Aの多孔質構造の形成方法として、電極脚22の先端部121の形状に対応した、多孔質の型にイオン導電性高分子又は他の導電性高分子を含む溶液を塗布した後、前記型を除去することで得る方法がある。
【0032】
第1の導電層30Aは、イオン導電性高分子を溶媒に溶解させた溶液を用いて形成できる。溶媒としては、例えば、水、アルコール(エタノール、メタノール等)、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等を用いることができる。
【0033】
[第2の導電層]
第2の導電層40は、図1図4に示すように、電極脚12の先端部121に設けられている。本実施形態では、基体部10及び端子部20が導電性エラストマーを用いて一体に形成されているので、基体部10と端子部20との導通は確保されている。そのため、第2の導電層40は、先端部121にのみ形成されている。なお、基体部10及び端子部20が絶縁材料で形成されている場合には、第2の導電層40は、基体部10と端子部20との導通を確保するため、基体部10及び端子部20の全面に設けられる。
【0034】
第2の導電層40は、電子伝導性の導電性高分子を含有することが好ましい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリ3、4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、PEDOTにポリスチレンスルホン酸(ポリ4-スチレンサルフォネート;PSS)をドープしたPEDOT/PSS、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリアニリンスルホン酸、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、又はポリピロール等を用いることができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。中でも、生体との接触インピーダンスを低くできる点から、PEDOT、PEDOT/PSS、又はポリアニリンスルホン酸を用いることが好ましい。また、生体との接触インピーダンスがより低く、高い導電性を有する点から、PEDOT/PSSを用いることがより好ましい。
【0035】
第2の導電層40の厚さは、1~5μmであることが好ましい。この範囲内であれば、導電性を有することができ、生体から伝達される電気信号を安定して通電させることができる。なお、第2の導電層40の厚さの定義や測定方法等は、第1の導電層30Aと同様であるため、説明は省略する。
【0036】
第2の導電層40の厚さH2に対する第1の導電層30Aの厚さH1の比H1/H2は、100~500であることが好ましい。比H1/H2が500以下であれば、第1の導電層30Aが第2の導電層40に比べて厚くなりすぎるのを抑えられるので、第2の導電層40は第1の導電層30Aを保持しつつ電極脚12の先端部121に接着した状態を維持させることができる。また、比H1/H2が100以上であれば、第1の導電層30Aが第2の導電層40に比べて薄くなりすぎるのを抑えられる。第1の導電層30Aはゲル状の層であり、頭皮等に直接接触する層であるため、第1の導電層30Aが第2の導電層40に比べて薄くなりすぎるのを抑えることで、第1の導電層30Aの耐久性の低下を抑制できる。
【0037】
生体情報測定用電極1Aでは、基体部10、端子部20、第1の導電層30A、及び第2の導電層40は、いずれも、導電性を有する。そのため、電極脚12の先端部121から端子部20の金属層21にかけて電気的に接続されることになる。
【0038】
生体情報測定用電極1Aの製造方法の一例について説明する。基体部10及び端子部20は、それぞれ、これらを形成する材料(樹脂や金属等)を用いて、一体に成形することで得られる。基体部10及び端子部20は、射出成形(インジェクション成形)、圧縮成形(コンプレッション成形)、又は押出成形(トランスファー成形)等公知の成形方法で、所望の形状にそれぞれ成形できる。これらの成形法を用いる際、基体部10、及び端子部20の形状に対応した金型が用いられる。
【0039】
射出成形法等を用いる場合、射出成形後、基体部10及び端子部20を成形する原料(樹脂や金属等)が供給される原料供給管(例えば、スプール、ランナー等)が基体部10又は端子部20に連結されている。例えば、原料供給管が端子部20に連結されている場合、原料供給管の少なくともその一部は、基体部10及び端子部20の成形後も、端子部20に連結しておくことが好ましい。原料供給管の少なくとも一部が端子部20に連結されていれば、第1の導電層30A及び第2の導電層40の形成時に、基体部10の先端部121をイオン導電性高分子を含む溶液や電子伝導性の導電性高分子を含む溶液に浸漬する際に、原料供給管は、基体部10の掴み手として用いることができる。なお、原料供給管は、好適な成形を行うために製品のどの位置にするか決まるもので、端子部20以外に、基体部10の基部11等に連結されていてもよい。
【0040】
次に、エキシマによる真空紫外光(エキシマUV光)を照射する方法、又はAr及び酸素を含む混合ガス中でプラズマ処理する方法を用いて、先端部121の表面を活性化処理する。先端部121の表面を活性化処理することで、第1の導電層30Aや第2の導電層40の形成時に、先端部121と第1の導電層30A又は第2の導電層40との密着性を向上させることができる。これにより、先端部121の洗浄や拭き取り等により物理的な力が加わった際に、第1の導電層30Aや第2の導電層40が基体部10(主に先端部121)から容易に剥がれることを防止できる。
【0041】
また、エキシマUV光を照射する方法を用いる場合、先端部121の表面にエキシマUV光を照射する。エキシマUV光は、大気中で波長が240nm以下のUV光であり、放電性ガスの種類により、所定の波長(中心波長)を有する。放電性ガスとして、Ar(波長126nm)、Kr(波長146nm)、ArBr(波長165nm)、Xe(波長172nm)、KrI(波長191nm)、又はKrCl(波長222nm)等を用いることができる。エキシマUV光を放射する照射ランプが、例えば、Xeガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプであるとする。この場合、誘電体バリヤ放電ランプは、Xe原子が励起されたエキシマ状態(Xe )となり、このエキシマ状態から再びXe原子に解離するときに波長約172nmの光を発生する。この波長172nmの光を酸素に照射することで、高濃度のオゾンが発生する。このオゾンの作用により、基体部10及び端子部20のうちエキシマUV光が照射される箇所の表面が改質され、親水性の高い基(例えば、水酸基(OH基)、アルデヒド基(CHO基)、カルボキシル基(COOH基)が形成される。これにより、基体部10の先端部121の表面を活性化処理することができ、先端部121の表面を親水性に変化させることができる。この結果、先端部121の表面の液体に対する濡れ性を高めることができる。そのため、エキシマUV光を照射する方法は、先端部121のみを簡易に活性化処理することができるので、基体部10及び端子部20が導電性材料で形成されている場合に有効に用いることができる。なお、少なくとも先端部121の表面を活性化処理できればよく、基体部10の先端部121以外の部分や、基体部10及び端子部20の全体にエキシマUV光を照射してもよい。
【0042】
また、Ar及び酸素を含む混合ガス中でプラズマ処理する方法を用いる場合、基体部10及び端子部20の全体の表面がプラズマで活性化処理される。これにより、先端部121の表面以外に、基体部10及び端子部20の全体の表面を親水性に変化させることができる。この結果、先端部121含め、基体部10及び端子部20の全体の表面の液体に対する濡れ性を高めることができる。そのため、基体部10及び端子部20が導電性材料又は絶縁材料のいずれで形成されている場合でも有効に用いることができる。
【0043】
次に、先端部121の表面に導電性高分子を含有する第2の導電層40を形成する。まず、少なくとも先端部121に、導電性高分子を含む溶液を塗布して塗布層を形成する。導電性高分子を含む溶液を少なくとも先端部121に塗布する方法としては、導電性高分子を含む溶液に少なくとも先端部121を浸漬する浸漬法、導電性高分子を含む溶液を少なくとも先端部121に吹き付けるスプレー法等を用いることができる。
【0044】
その後、先端部121に形成された塗布層を乾燥して、塗布層を硬化させる。これにより、先端部121の表面に第2の導電層40が形成される。本実施形態では、基体部10及び端子部20が導電性エラストマーで形成されているため、第2の導電層40は、先端部121の表面に形成すれば足りる。
【0045】
次に、第2の導電層40の表面の一部に、イオン導電性高分子を含む溶液を塗布して塗布層を形成した後、第2の導電層40の表面に形成された塗布層を乾燥してゲル化させる。これにより、第2の導電層40の表面の一部に、イオン導電性高分子を含有する第1の導電層30Aが形成される。
【0046】
イオン導電性高分子を含む溶液を第1の導電層30Aの表面に塗布する方法は、第1の導電層30Aを形成する場合と同様の方法を用いることができる。
【0047】
第1の導電層30Aの表面の一部に第1の導電層30Aが形成されることにより、生体情報測定用電極1Aが得られる。
【0048】
次に、本実施形態に係る生体情報測定用電極1Aを備えた検査装置を用いて被験者の生体情報として脳波を測定する場合の一例について説明する。図6は、生体情報測定用電極1Aを備えた検査装置を用いて被験者の脳波を測定する一例を示す図である。
【0049】
図6に示すように、検査装置50は、生体情報測定用電極1Aと、被験者の頭部にかぶせるキャップ51と、配線52と、測定部53と、表示部54とを有する。
【0050】
キャップ51は、被験者の頭部及び額を覆うように帽子又はヘルメットの形状を有し、合成樹脂や布等で形成される。生体情報測定用電極1Aが、キャップ51に所定間隔で複数カ所(例えば、21か所)に設けられ、被験者の頭皮や額等(頭皮等)55の任意の場所に取り付けられる。配線52は、例えば、リード線等であり、一端が端子部20の表面に設けた金属層21に接続され、他端が測定部53に接続される。測定部53は、電源部531、及び頭皮等55からの生体情報信号(電気信号)を解析して、生体情報として脳波を測定する信号解析部532を有する。表示部54は、モニターであり、信号解析部532で解析された脳波541を表示する。脳波541は、その周波数により、例えば、α波(8Hz~13Hz)、β波(14Hz~30Hz)、θ波(4Hz~7Hz)、δ波(0.5Hz~3Hz)に分類される。
【0051】
生体情報測定用電極1Aをキャップ51に固定して、電極脚12の先端部121を第1の導電層30A及び第2の導電層40を介して頭皮等55に接触させる。生体情報測定用電極1Aを頭皮のように頭髪がある部分に用いる場合には、複数の電極脚12で頭髪を掻き分けながら、電極脚12と皮膚(頭皮)表面とを接触させる。生体情報測定用電極1Aを額のように頭髪がない部分に用いる場合には、複数の電極脚12の先端部121と額表面とを接触させる。
【0052】
電源部531を入れて、測定を開始すると、頭皮等55からの電流が電気信号として頭皮等55から第1の導電層30A及び第2の導電層40を介して電極脚12(図1等参照)の先端部121(図1等参照)に伝えられる。伝達された電気信号は、先端部121(図1等参照)から基体部10(図1等参照)を介して、端子部20(図1等参照)、金属層21、配線52、及び測定部53の順に伝えられる。信号解析部532は、伝えられた電気信号を解析して、表示部54に脳波(例えば、α波、β波、θ波等)541を表示する。
【0053】
以上のように構成された、生体情報測定用電極1Aは、生体と接触可能な領域Aである先端部121を表面に備える電極脚12を有する基体部10を備え、基体部10は、先端部121に第2の導電層40を介してイオン導電性高分子を含む第1の導電層30Aを有する。第1の導電層30Aは、イオン導電性高分子を含むことで、高いイオン伝導度を有し、頭皮等の表面と電極脚12との間のイオンの移動を第2の導電層40を介してスムーズに行う機能を発揮できる。また、第1の導電層30Aは、外部から水分を吸収することでゲル状に形成された導電層とすることができる。第1の導電層30Aはゲル状に形成されることで、頭皮等の表面の形状に沿って変形し易く、頭皮等との接触面積を広げることができると共に、高い吸水性を有することができる。そのため、第1の導電層30Aは、優れた柔軟性及び保水性を発揮することができる。
【0054】
よって、生体情報測定用電極1Aは、第1の導電層30Aを頭皮等と接触する最表面層として用いることで、頭皮等との接触面が乾燥している等、頭皮等の表面の乾燥状態の影響を軽減できると共に、頭皮等との接触性を高めることができる。したがって、生体情報測定用電極1Aは、頭皮等からの電気信号を安定して得ることができ、生体情報(脳波)を安定して測定することができる。
【0055】
生体情報測定用電極1Aは、電極脚12の先端部121に、第1の導電層30Aと先端部121との間に、電子伝導性の導電性高分子を含む第2の導電層40を備えることができる。第2の導電層40は、第1の導電層30Aの少なくとも一部に積層され、電極脚12と第1の導電層30Aとの中間層として用いることができる。第2の導電層40は、電子伝導性の導電性高分子を含むことで、生体情報測定用電極1Aのインピーダンスを下げる機能を発揮できる。そのため、生体情報測定用電極1Aは、生体表面との接触を良好としつつ、生体との接触インピーダンスを下げることができるので、頭皮等から第1の導電層30Aに伝わった生体信号をスムーズに第2の導電層40を通って、電極脚12に伝達できる。よって、生体情報測定用電極1Aは、第1の導電層30Aを頭皮等と接触する最表面層とし、第2の導電層40を電極脚12と第1の導電層30Aとの中間層として用いることで、頭皮等の表面の乾燥状態の影響を軽減しつつ、生体情報(脳波)をより安定して測定することができる。
【0056】
また、第2の導電層40が、導電性高分子の中でもPEDOT/PSSを用いて形成されている場合、第1の導電層30Aが頭皮等の表面に接触して、電極脚12と頭皮等の表面とを第1の導電層30A及び第2の導電層40を介して導通させる。これにより、頭皮等と第1の導電層30A及び第2の導電層40との間の接触インピーダンスを下げることができるので、頭皮等から電気信号が取得し易くなる。よって、生体情報測定用電極1Aは、頭皮等と電気的に接続を維持できるため、生体情報(脳波)を容易に安定して測定することができる。
【0057】
生体情報測定用電極1Aは、第1の導電層30Aに含まれるイオン導電性高分子が、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、及びポリビニルクロライドからなる群から選択される一種以上の成分を含み、第2の導電層40に含まれる導電性高分子が、PEDOT、PEDOT/PPS、及びポリアニリンスルホン酸からなる群から選択される一種以上の成分を含むことができる。第1の導電層30Aに含まれるイオン導電性高分子がポリエチレンオキサイドを含み、第2の導電層40に含まれる電子伝導性の導電性高分子がPEDOTを含むことで、導電性高分子に含まれるPSSのスルホン酸基と、イオン導電性高分子に含まれるポリエチレンオキサイドとは親水基であるため、これらが相互作用を及ぼすことで、強い相互作用を発揮されるといえる。よって、第1の導電層30Aと第2の導電層40との接着力をより高めることができる。
【0058】
生体情報測定用電極1Aは、比H1/H2を100~500とすることができる。比H1/H2を100~500とすることで、第2の導電層40は第1の導電層30Aを保持しつつ電極脚12の先端部121に接着した状態を維持させることができるので、第2の導電層40が第1の導電層30Aと共に電極脚22から剥離するのを抑制できる。また、第1の導電層30Aの耐久性の低下を抑制できるので、使用時に第1の導電層30Aが生体と接触等しても第2の導電層40から剥離するのを抑制できる。よって、生体情報測定用電極1Aは、第1の導電層30A及び第2の導電層40のそれぞれの機能を発揮しつつ、第1の導電層30A及び第2の導電層40との接着力を安定して維持できる。
【0059】
生体情報測定用電極1Aは、第1の導電層30Aを多孔質構造を有するように構成することができる。第1の導電層30Aが多孔質構造を有することにより、第1の導電層30Aの表面及び内部に多数の隙間が形成されるので、外部からの水分の吸水性能をより高めることができる。
【0060】
生体情報測定用電極1Aは、基体部10を導電性材料で形成することができる。基体部10が導電性材料で形成されることで、頭皮等から先端部121を通して伝えられる電気信号を流すことができるので、電気信号をより安定して流すことができる。
【0061】
生体情報測定用電極1Aは、基体部10が複数の電極脚12を有すると共に、領域Aを電極脚12の先端部121とすることができる。これにより、生体情報測定用電極1Aは、複数の電極脚12の先端部121を領域Aとすることで、第1の導電層30A及び第2の導電層40を頭皮等と接触する部分である先端部121に安定して固定できる。
【0062】
生体情報測定用電極1Aは、基体部10が、電極脚12の先端部121に電気的に接続された端子部20を含むことができる。これにより、生体情報測定用電極1Aは、頭皮等から伝わる電気信号を先端部121を通して基体部10から端子部20に伝えることができるので、端子部20から外部に電気信号を伝えることができる。
【0063】
このように、生体情報測定用電極1Aは、生体である頭皮等との電気的接続を維持し、頭皮等から得られる生体情報(脳波)を安定して測定することができる。そのため、生体情報測定用電極1Aは、脳波以外に、例えば、脈波、心電、筋電、体脂肪等様々な生体の情報を皮膚に接触させて測定する生体情報測定用電極として好適に用いることができる。また、生体とは、人体、又は人体以外の生物等を含むが、生体情報測定用電極1Aは、生体用、中でも人体用として特に好適に用いることができる。
【0064】
[変形例]
生体情報測定用電極1Aの一例を示したが、これに限定されない。以下に、生体情報測定用電極1の変形例を説明する。
【0065】
本実施形態では、生体情報測定用電極1Aは、図7に示すように、第2の導電層40を必ずしも備えなくてもよい。
【0066】
本実施形態では、第1の導電層30Aは、第2の導電層40と異なる高さとなるように形成される必要はなく、図8に示すように、同じでもよい。
【0067】
本実施形態では、第1の導電層30A及び第2の導電層40は、少なくとも電極脚12の先端部121に形成されていればよく、先端部121の表面21a以外に、電極脚12の他の部分に形成されていてもよいし、基体部10の全面に形成されていてもよい。例えば、基体部10が絶縁材料で形成されている場合には、基体部10の導通を確保するため、少なくとも第1の導電層30Aが基体部10の全面に設けられる。
【0068】
本実施形態では、生体情報測定用電極1Aは、図9に示すように、基体部10の全面に、第1の導電層30Aと電気的に接続された下地導電層60を形成してもよい。これにより、例えば、基体部10が絶縁材料で形成されている場合でも、先端部121と端子部20との間の導通を確保することができる。電子伝導性の導電性高分子は、第1の導電層30Aと同様の導電性高分子が使用されるため、電子伝導性の導電性高分子の説明は書略する。下地導電層60の厚さは、導通が取れればよく、例えば、0.2~2μm程度であればよい。
【0069】
本実施形態では、生体情報測定用電極1Aは、電極脚12を複数有するが、電極脚12は1つでもよい。
【0070】
本実施形態では、電極脚12は、先端がドーム状に形成された円筒状に形成されているが、板状に形成されていてもよい。
【0071】
本実施形態では、先端部121の形状は、他の形状として、丸みがある円錐形状でもよいし、頭皮に接触できる端面を有する平坦形状でもよい。
【0072】
本実施形態では、電極脚12は、基部11の突設部111の端部に一体に成形されているが、基部11と分離可能としてもよい。この場合、電極脚12は、突設部111の端部に、例えば、不図示の導電性接着剤や導電性ペースト等により固定して接続できる。これにより、電極脚12は、基部11と電気的に接続される。また、電極脚12が基部11から分離可能とすることで、第1の導電層30A及び第2の導電層40を有する電極脚12を容易に交換することができる。これにより、電極脚12の先端部121の第1の導電層30Aが磨耗等により測定が不安定になっても、正常に生体情報の測定を取得できる電極脚12に交換することができる。
【0073】
本実施形態では、基体部10は、基部11と電極脚12とを同一材料で形成しているが、基部11と電極脚12とを別々の材料で構成してもよい。このとき、基部11と電極脚12とは、合成樹脂からなる結着部材により結着する。なお、結着部材は、エポキシ樹脂、又はウレタン樹脂等の合成樹脂が硬化したものである。また、結着部材として、前記合成樹脂の他に、ゴム等の弾性を有した合成樹脂でもよい。
【0074】
本実施形態では、基体部10と端子部20とは同一材料で形成されているが、基体部10と端子部20とは別々の材料で構成されていてもよい。例えば、図10に示すように、端子部20は、金属材料等の導電性を有する材料により形成できる。端子部20は、基体部10の基部11が電極脚12と連続している側とは反対側の端部と、例えば、不図示の導電性接着剤や導電性ペースト等により固定して接続できる。これにより、端子部20は、電極脚12と一体で形成されている基体部10と電気的に接続できる。よって、電極脚12の先端部121は、基体部10の基部11を介して、端子部20と電気的に接続される。
【0075】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る生体情報測定用電極について図面を参照して説明する。本実施形態に係る生体情報測定用電極は、上記の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aの電極脚12の先端部121の表面に形成した2つの導電層(第1の導電層30A及び第2の導電層40)を、イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子の両方を含む第1の導電層に変更したものである。
【0076】
図11は、本実施形態に係る生体情報測定用電極を図1のI-I方向で見た時の断面図であり、図12は、図11の電極脚の先端部を示す部分拡大断面図である。図11及び図12に示すように、本実施形態に係る生体情報測定用電極1Bは、上記第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aの電極脚12の先端部121の表面に、イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子の両方を混合した状態で含む第1の導電層30Bを有する。本実施形態に係る生体情報測定用電極は、上記の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aの電極脚12の先端部121に形成される2つの導電層(第1の導電層30A及び第2の導電層40)の構成を第1の導電層30Bに変更したこと以外は、上記の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aと同様であるため、第1の導電層30Bの構成についてのみ説明する。
【0077】
第1の導電層30Bに含まれる、イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子は、上記の第1の実施形態の生体情報測定用電極1Bの第1の導電層30Bに含まれるイオン導電性高分子及び第2の導電層40に含まれる電子伝導性の導電性高分子と同様であるため、説明は省略する。
【0078】
第1の導電層30Bに含まれる、イオン導電性高分子と電子伝導性の導電性高分子との混合比としては、4:1~40:1が好ましく、8:1~32:1がより好ましく、12:1~28:1がさらに好ましい。混合比が、12:1~28:1であれば、第1の導電層30Bは、イオン導電性高分子と電子伝導性の導電性高分子との両方の機能を良好に発揮させることができる。
【0079】
生体情報測定用電極1Bは、高湿度の状態で保管されていることが好ましい。高湿度とは、例えば、湿度が60%以上であることが好ましく、60%~90%がより好ましく、70%~80%がさらに好ましい。第1の導電層30Bはイオン導電性高分子を含むため、生体情報測定用電極1Bが高湿度の状態で保管されることで、第1の導電層30Bは外部から水分を吸収し易くなる。
【0080】
生体情報測定用電極1Bの製造方法は、上述の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aの製造方法において、電極脚12の少なくとも先端部121に、イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子を含む溶液を塗布して塗布層を形成すること以外、同様である。イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子を含む溶液の塗布方法は、上述の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aの製造方法における、第1の導電層30A及び第2の導電層40を形成する塗布層の形成方法と同様の方法を用いることができる。先端部121に形成した塗布層を乾燥して硬化させることにより、第1の導電層30Bが形成される。これにより、生体情報測定用電極1Bが得られる。
【0081】
以上のように構成された、生体情報測定用電極1Bは、生体と接触可能な領域Aである先端部121に、イオン導電性高分子及び電子伝導性の導電性高分子を含む第1の導電層30Bを有する。第1の導電層30Bは、イオン導電性高分子を含むことで、生体情報測定用電極1Bを高湿度の状態で保存する等することで外部から水分を吸収できる。これにより、第1の導電層30Bをゲル状に形成された導電層とすることができる。第1の導電層30Bはゲル状に形成されることで、頭皮等の表面の形状に沿って変形し易く、頭皮等との接触面積を広げることができると共に、高い吸水性を有することができる。そのため、第1の導電層30Bは、優れた柔軟性及び保水性を発揮することができる。また、第1の導電層30Bは、電子伝導性の導電性高分子を含むことで、生体情報測定用電極1Bの接触インピーダンスを下げることができる。
【0082】
よって、生体情報測定用電極1Bは、生体情報測定用電極1Bを高湿度の状態で保存しておけば、生体情報測定用電極1Bの使用前に第1の導電層30Bを予め水等に浸漬等しなくても、生体表面との接触を良好としつつ、生体との接触インピーダンスを下げることができる。そのため、生体情報測定用電極1Bは、頭皮等との接触面が乾燥等していても、頭皮等から第1の導電層30Bに伝わった生体信号をより安定してスムーズに第1の導電層30Bを介して電極脚12に伝達できる。したがって、生体情報測定用電極1Bにおいても、第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aと同様、頭皮等の表面の乾燥状態の影響を軽減しつつ、生体情報(脳波)をより安定して測定することができる。
【0083】
また、生体情報測定用電極1Bは、電極脚12の先端部121に第1の導電層30Bのみを備えるので、上記の第1の実施形態に係る生体情報測定用電極1Aのように、先端部121に2つの導電層(第1の導電層30A及び第2の導電層40)を備える場合に比べて容易に作製できると共に、製造コストの低減を図れる。
【0084】
生体情報測定用電極1Bは、第1の導電層30Bに含まれる、イオン導電性高分子と電子伝導性の導電性高分子との混合比を、12:1~28:1とすることで、第1の導電層30Bは、イオン導電性高分子及び導電性高分子の両方の機能を良好に発揮させることができる。これにより、第1の導電層30Bは、生体表面との接触性を良好な状態とすることができると共に、生体との接触インピーダンスを安定して下げることができる。
【0085】
[変形例]
生体情報測定用電極1Bの一例を示したが、これに限定されない。
【0086】
本実施形態では、例えば、生体情報測定用電極1Bは、生体情報測定用電極1Aのように、基体部10の領域Aの部分に、第1の導電層30Bと基体部10との間に、電子伝導性の導電性高分子を含む第2の導電層を形成していてもよい。これにより、第1の導電層30Bと基体部10との密着性を向上させることができる。また、第1の導電層30Bと基体部10との導電性を低下させることができ、頭皮等と第1の導電層30B又は基体部10との間の接触インピーダンスを下げて、頭皮等から電気信号が取得し易くなる。
【実施例0087】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
<実施例1>
[生体情報測定用電極の作製]
(実施例1-1)
基体部及び端子部を絶縁材料(ポリエステル系エラストマー、商品名:エステラール(登録商標) E-D45CD、アロン化成株式会社製)を用いて、射出成形法により、一体形成した。その後、電極脚の先端部に、イオン導電性高分子としてポリエチレンオキサイドを含む溶液(アルコックス(登録商標) CP-A1H、明成化学工業株式会社)を塗布して塗布層を形成した後、塗布層に含まれるポリエチレンオキサイドを架橋させることで、ゲル状の第1の導電層を形成した。これにより、生体情報測定用電極を作製した。
【0089】
(実施例1-2)
実施例1-1において、電極脚の先端部に第1の導電層を形成する前に、電子伝導性の導電性高分子としてPEDOT/PSSを含む溶液(セプルジーダ(登録商標) OC-AE401、信越ポリマー株式会社)を電極脚の先端部に塗布して形成した塗布層を乾燥して硬化させ、第2の導電層を形成するように変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして行った。
【0090】
(比較例1-1)
実施例1-1において、電極脚の先端部に第1の導電層を形成しなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして行った。
【0091】
[生体に対する応答性の評価]
生体情報測定用電極の皮膚(額)に対する応答性は、生体情報測定用電極が額に接触している時のインピーダンス(接触インピーダンス)を測定することにより評価した。生体情報測定用電極の電極脚の先端部に電解液(0.1MのNaCl水溶液)に滴下して、先端部を電解液で塗らした後、先端部に形成した第1の導電層を額に接触させた。その後、ワイヤレス生体計測装置(Polymate Mini AP108、株式会社ミユキ技研)を用いて、周波数を0.5Hz~1000Hzとして、第1の導電層が額に接触している時のインピーダンス(接触インピーダンス)を測定した。そして、接触インピーダンスが300kΩ以下になってから10秒後の接触インピーダンスを測定した。この操作を5回行った。その測定結果を図13に示す。なお、図13では、実施例1-2では4点のみ示され、比較例1-1では2点のみ示されているが、これは近い測定値か略同じ測定値が測定され、図13で重なって示されたためである。
【0092】
先端部の接触インピーダンスが低いほど、生体から得られる電気信号を高感度で検出することができるため、生体情報測定用電極の測定精度が高いことを意味する。周波数が低い側でインピーダンスがより低いと、一般的に測定に用いられる周波数(10Hz~30Hz)において、安定して精度良く測定することができる。接触インピーダンスが300kΩ以下になれば、生体情報として脳波の測定が可能になる。そのため、接触インピーダンスが300kΩ以下を維持できれば、生体情報の測定を安定して行える。
【0093】
図13に示すように、実施例1-1及び1-2の生体情報測定用電極は、比較例1-1の生体情報測定用電極よりも、接触インピーダンスが300kΩ以下になってから10秒後のインピーダンス値は低かった。実施例1-1の生体情報測定用電極のインピーダンス値は、比較例1-1の生体情報測定用電極のインピーダンス値の約75%程度に低下し、実施例1-2の生体情報測定用電極のインピーダンス値は、比較例1-1の生体情報測定用電極のインピーダンス値の約22%程度に低下した。よって、実施例1-1及び1-2の生体情報測定用電極は、比較例1-1の生体情報測定用電極よりも、生体から得られる電気信号を高感度で検出することができると共に低周波側での測定が可能であり、脳波を安定して測定し易いといえる。これは、第1の導電層がイオン導電性高分子を含むことで、柔軟性及び保水性を発揮し、額との接触性を高めることができたためであるといえる。
【0094】
したがって、電極脚の先端部に少なくとも第1の導電層を形成すれば、生体との接触インピーダンスが所定の値(例えば、300kΩ)以下に安定して小さくなるので、脳波を安定して測定することができることが確認された。また、電極脚の先端部に第1導電層及び第2の導電層を第2導電層及び第1の導電層の順に積層して構成すれば、生体との接触インピーダンスがさらに安定して小さくなると共に接触インピーダンスの変動幅がより小さくなるので、脳波をより安定して測定することができることが確認された。
【0095】
<実施例2>
[生体情報測定用電極の作製]
(実施例2-1)
実施例1-1において、電子伝導性の導電性高分子としてPEDOT/PSSを含む溶液(セプルジーダ(登録商標)OC-AE401、信越ポリマー株式会社)とイオン導電性高分子としてポリエチレンオキサイド(PEO)を含む溶液(アルコックス(登録商標)CP-A1H、明成化学工業株式会社)とを、PEDOT/PSSとPEOとの比が約1対20となるように混合した混合溶液を準備した。準備した混合溶液を電極脚の先端部に塗布して塗布層を形成した後、塗布層を乾燥して硬化させ、第1の導電層を形成するように変更した。それ以外は、実施例1-1と同様にして行った。
【0096】
(比較例2-1)
比較例1-1と同様、実施例2-1において、電極脚の先端部に第1の導電層を形成しなかったこと以外は、実施例2-1と同様にして行った。
【0097】
(実施例2-2)
実施例2-1において、電子伝導性の導電性高分子としてPEDOT/PSSを含む溶液(セプルジーダ(登録商標)OC-AE401、信越ポリマー株式会社)を電極脚の先端部に塗布して形成した塗布層を乾燥して硬化させ、第1の導電層を形成するように変更したこと以外は、実施例2-1と同様にして行った。
【0098】
[生体に対する応答性の評価]
生体情報測定用電極の皮膚(額)に対する応答性は、生体情報測定用電極が額に接触している時のインピーダンス(接触インピーダンス)が300kΩ以下になるまでの時間を測定することにより評価した。予め、生体情報測定用電極は、高湿度(湿度70%~80%)の環境下に保存した。高湿度に保存しておいた生体情報測定用電極の先端部に形成した第1の導電層を額に接触させた。その後、ワイヤレス生体計測装置(Polymate Mini AP108、株式会社ミユキ技研)を用いて、周波数を0.5Hz~1000Hzとして、第1の導電層が額に接触している時のインピーダンス(接触インピーダンス)を測定した。そして、接触インピーダンスが300kΩに低下するまでの時間を測定した。この操作を5回行った。その測定結果を図14に示す。なお、図14では、実施例2-1では3点のみ示され、比較例2-1では2点のみ示され、比較例2-2では1点のみ示されているが、これは近い測定値か略同じ測定値が測定され、図14で重なって示されたためである。
【0099】
接触インピーダンスが300kΩ以下になれば、生体情報として脳波の測定が可能になるため、接触インピーダンスが300kΩ以下になるまでの時間が早けれれば、生体情報(特に、脳波)の測定を早く行える。
【0100】
図14に示すように、実施例2-1の生体情報測定用電極は、比較例2-1及び2-2の生体情報測定用電極よりも、接触インピーダンスが300kΩまで低下する時間が約4倍以上早かった。よって、実施例2-1の生体情報測定用電極は、比較例2-1及び2-2の生体情報測定用電極よりも、生体から得られる電気信号を早く高感度で検出することができ、脳波を早期に安定して測定し易いといえる。これは、第1の導電層が導電性高分子とイオン導電性高分子とを含むことで、生体表面との接触を良好としつつ、生体との接触インピーダンスを下げることができたためであるといえる。
【0101】
よって、電極脚の先端部にイオン導電性高分子及び導電性高分子を含む第1の導電層を形成すれば、生体との接触インピーダンスが所定の値(例えば、300kΩ)以下に早期に小さくなるので、脳波の測定を測定開始から早期に行えることが確認された。
【0102】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1A、1B 生体情報測定用電極
10 基体部
11 基部
12 電極脚
121 先端部
221a 表面(外表面)
20 端子部
30A、30B 第1の導電層
40 第2の導電層
A 領域
図1
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