(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013745
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ポリマー微粒子分散体、ポリマー微粒子含有樹脂成型物および該樹脂成型物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/08 20060101AFI20220111BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C08L101/08
C08F8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098454
(22)【出願日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020115699
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丹後 佑斗
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG101
4J002GB00
4J002GC00
4J002GD00
4J002GK02
4J002GL00
4J002HA08
4J100AB16R
4J100AL03Q
4J100AM02P
4J100BA16H
4J100CA05
4J100CA31
4J100EA05
4J100HA08
4J100HA61
4J100HB39
4J100HE07
4J100HE12
4J100JA11
4J100JA15
4J100JA50
(57)【要約】
【課題】カルボキシル基含有ポリマー微粒子は樹脂成型物に吸放湿性等を付与する添加剤として有用であるが、有機溶媒中においては凝集して大粒径化しやすいため、有機溶媒を用いる樹脂成型において利用することが難しい。本発明は、カルボキシル基含有ポリマー微粒子が有機溶媒に良好に分散しており、かかる樹脂成型に利用することのできるポリマー微粒子分散体を提供することを目的とする。
【解決手段】全カルボキシル基量が1~12mmol/gであり、かつ全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基であるポリマー微粒子が、溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全カルボキシル基量が1~12mmol/gであり、かつ全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基であるポリマー微粒子が、溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散体。
【請求項2】
ポリマー微粒子の粒子径が10nm以上1000nm未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー微粒子分散体。
【請求項3】
ポリマー微粒子の含有率が1~40質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマー微粒子分散体。
【請求項4】
溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂を主成分とし、全カルボキシル基量が1~12mmol/gであるポリマー微粒子を含有する樹脂成型物であって、前記ポリマー微粒子が樹脂成型物中に1000nm未満の大きさで分散した状態で含まれていることを特徴とするポリマー微粒子含有樹脂成型物。
【請求項5】
ポリマー微粒子の含有率が3質量%以上であることを特徴とする請求項4に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
【請求項6】
20℃、相対湿度65%における飽和吸湿率が2%以上であることを特徴とする請求項4または5に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
【請求項7】
全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基であることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載のポリマー微粒子分散体と、溶解度パラメータ(SP値)20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂を混合した混合物を得ること、および、該混合物を成型することを含むポリマー微粒子含有樹脂成型物の製造方法。
【請求項9】
さらに、アルカリ性化合物または塩による処理によってポリマー微粒子中のカルボキシル基の塩型を調整することを含む請求項8に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー微粒子分散体に関し、より具体的には、カルボキシル基含有ポリマー微粒子が、溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に分散しているポリマー微粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やナイロン繊維、さらにはポリウレタン弾性繊維といった合成繊維は、綿や羊毛、絹といった天然繊維とは異なり、親水性官能基含有量が少ないため、吸放湿性に乏しいものが一般的である。その為以下のように様々な親水加工が提案されている。
【0003】
ポリウレタン系弾性繊維の吸放湿性を向上する技術は知られており(例えば、特許文献1参照)、含水率1800%程度の高い吸水性を有する親水性ポリウレタンを練り込む技術が開示されており、洗濯時の脱落防止や高い風合いを維持していた。しかし、該材料は吸湿速度が遅い等の難点があった。
【0004】
また、高吸放湿微粒子として、アクリロニトリル系重合体に架橋構造を導入し、これを水酸化ナトリウム等で加水分解して得られたカルボキシル基含有ポリマー微粒子をポリウレタン繊維に練り込む技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。この例では吸湿発熱性能が発現したという報告例もあり、吸湿速度は速いことが見込まれる。
【0005】
ここで、かかるカルボキシル基含有ポリマー微粒子は、製造時には0.5μm程度の粒径を有した水分散体として得られるため、これを紡糸原液の溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いるポリウレタン繊維に練り込むには、事前に乾燥や溶媒置換等によって水分除去を行う必要がある。しかし、この水分除去によって、粒子径が数μm~数十μm程度の凝集体となり、一般的な加熱撹拌等の操作ではDMFやDMAc中で一次粒子へと再分散しなくなってしまう。
【0006】
このため、練り込みに際しては水分除去に加え粉砕等も行う必要があり、コスト面で好ましくなかった。そのうえ十分に粉砕できずに数十μm程度の粒子が残存してしまうと、ポリウレタン繊維紡糸の際にノズルに詰まり、操業停止まで発展する可能性があり、課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2000/047802号
【特許文献2】特開2005-048297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、ポリウレタン繊維などの有機溶媒に可溶な樹脂の成型物への練り込みに適したポリマー微粒子分散体を提供することを目的とする。より具体的には、カルボキシル基含有ポリマー微粒子が凝集により大粒径化することなく有機溶媒に分散しているポリマー微粒子分散体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、かかるカルボキシル基含有ポリマー微粒子分散体を用いて、該微粒子に由来する吸湿発熱性能、消臭性能、抗ウイルス性能等の機能を付与した樹脂成型物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため誠意努力を行った結果、酸型カルボキシル基やLi塩型カルボキシル基を多く有するカルボキシル基含有ポリマー微粒子が、DMFやDMAcなどの親水性有機溶媒に良好に分散できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
(1) 全カルボキシル基量が1~12mmol/gであり、かつ全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基であるポリマー微粒子が、溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散体。
(2) ポリマー微粒子の粒子径が10nm以上1000nm未満であることを特徴とする(1)に記載のポリマー微粒子分散体。
(3) ポリマー微粒子の含有率が1~40質量%であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリマー微粒子分散体。
【0010】
(4) 溶解度パラメータ(SP値)が20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂を主成分とし、全カルボキシル基量が1~12mmol/gであるポリマー微粒子を含有する樹脂成型物であって、前記ポリマー微粒子が樹脂成型物中に1000nm未満の大きさで分散した状態で含まれていることを特徴とするポリマー微粒子含有樹脂成型物。
(5) ポリマー微粒子の含有率が3質量%以上であることを特徴とする(4)に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
(6) 20℃、相対湿度65%における飽和吸湿率が2%以上であることを特徴とする(4)または(5)に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
(7) 全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基であることを特徴とする(4)~(6)のいずれかに記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物。
【0011】
(8) (1)~(3)のいずれかに記載のポリマー微粒子分散体と、溶解度パラメータ(SP値)20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂を混合した混合物を得ること、および、該混合物を成型することを含むポリマー微粒子含有樹脂成型物の製造方法。
(9) さらに、アルカリ性化合物または塩による処理によってポリマー微粒子中のカルボキシル基の塩型を調整することを含む(8)に記載のポリマー微粒子含有樹脂成型物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマー微粒子分散体は、DMF,DMAc等の有機溶媒中にカルボキシル基含有ポリマー微粒子が良好に分散したものである。このため、本発明のポリマー微粒子分散体は、有機溶媒系樹脂の成型物へのカルボキシル基含有ポリマー微粒子の練り込みに好適に使用できる。さらに、かかるポリマー微粒子分散体を使用して作製した本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物は、樹脂成型物内にカルボキシル基含有ポリマー微粒子を微細かつ均一に保有した素材となることから、該微粒子に由来する吸湿発熱性能、消臭性能、抗ウイルス性能等を有効に発現することができる。このため、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物は、吸湿発熱性能、消臭性能、抗ウイルス性能等を求められる衣料品、寝装寝具、日用雑貨、内装材、医療用資材などの材料として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に採用するポリマー微粒子の全カルボキシル基量としては、1~12mmol/gであり、3~10mmol/gであることが好ましく、4~8mmol/gであることが最も好ましい。全カルボキシル基量が1mmol/g未満である場合、樹脂成型物に練り込んだ際に吸湿発熱性能、消臭性能、抗ウイルス性能等の機能が十分に発現せず、好ましくない。また12mmol/gを超える場合には、非常に高い吸水性を有し、後述する製造方法において得られるポリマー微粒子含有水系エマルジョンの粘度が著しく高くなって、その後の水分除去操作が困難になるため、好ましくない。
【0014】
また、上述のポリマー微粒子においては、全カルボキシル基の80mol%以上が酸型カルボキシル基および/またはLi塩型カルボキシル基である。80mol%未満である場合、ポリマー微粒子含有水系エマルジョンの水分除去を行った後、DMF、DMAcなどの有機溶媒に十分に再分散させることができず、数μm~数十μm程度の凝集粒子が増加するため、好ましくない。なお、本発明においては、「-COOH」を酸型カルボキシル基といい、該基の「H」が他のカチオンに置換されたものを塩型カルボキシル基という。塩型カルボキシル基については、必要に応じてカチオン種を明示して表記する。
【0015】
本発明のポリマー微粒子分散体は、上述したポリマー微粒子が溶解度パラメータ(SP値)20(MPa)1/2以上の有機溶媒に分散しているものである。かかる有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、DMF、DMAc、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、N-メチルピロリドン等が挙げられ、これらの有機溶媒の混合物であっても問題はない。また、ここでいう溶解度パラメータ(SP値)とは凝集エネルギー密度の平方根(単位(MPa)1/2)で定義され、これは単位体積あたりに含まれる分子間結合を切るために必要なエネルギーとされている。
【0016】
また、本発明のポリマー微粒子分散体中におけるポリマー微粒子の粒子径としては、10nm以上、かつ1000nm未満であることが好ましく、特に50nm以上、かつ800nm未満であることが好ましい。粒子径が10nm未満であるものに関しては作製が難しく現実的でない上、凝集が発生する可能性が高く、結局数μm~数十μm程度の凝集粒子として有機溶媒中で存在する可能性が非常に高いために好ましくない。一方で粒子径が1000nm以上の場合、わずかな凝集が発生するだけで数μm程度の大きさになり、樹脂成型物への練り込みの際にノズルに詰まる可能性がある。また粒子の比表面積が小さくなってしまうために後述するポリマー微粒子含有樹脂成型物の吸湿速度が著しく低下する可能性があるため、好ましくない。
【0017】
また、本発明のポリマー微粒子分散体におけるポリマー微粒子の含有率は、分散体の全質量に対して1~40質量%であることが好ましい。含有率が1質量%未満である場合、機能発現に十分な量のポリマー微粒子を樹脂成型物に練り込もうとすると、非常に大量の分散体を添加することになり、樹脂が有機溶媒で薄まってしまうため、好ましくない。また、含有率が40質量%より多い場合には、ポリマー微粒子が凝集しやすくなるため好ましくない。
【0018】
本発明のポリマー微粒子分散体の製造方法としては、アクリロニトリル系重合体微粒子の水分散体を出発原料として用い、これをアルカリ性化合物等によって加水分解してカルボキシル基を生成させたのち、酸や塩等によって該カルボキシル基を酸型および/またはLi塩型に変換したカルボキシル基含有ポリマー微粒子の水分散体を作製し、さらに水分除去して有機溶媒に分散させる方法等を挙げることができる。以下、かかる方法について説明する。
【0019】
まず、原料として用いるアクリロニトリル系重合体微粒子の水分散体におけるアクリロニトリル系重合体の組成としては、アクリロニトリルを40質量%以上、好ましくは50質量%以上含有していることが望ましく、100質量%であってもよい。アクリロニトリルと共重合させることのできるモノマーとしては、特に限定されるものではないが、アリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、酢酸ビニル等のモノマーを挙げることができる。
【0020】
また、かかるアクリロニトリル系重合体微粒子の水分散体は、公知の重合方法に準じて製造することができるが、最終的に樹脂成型物に練り込む場合にはミクロンオーダー以下の極微粒子であることが好ましいため、乳化重合、マクロエマルジョン重合などを用いることが好ましい。
【0021】
次に、アルカリ性化合物による加水分解の方法としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等の塩基性水溶液を添加して熱処理する手段が挙げられる。また、Li塩型カルボキシル基を有するポリマー微粒子を得るためには、かかるアルカリ性化合物として水酸化リチウムを使用することが好ましい。ポリマー微粒子の全カルボキシル基量を1mmol/g以上とするための条件については、反応の温度や時間、薬剤の濃度等の反応因子と導入されるカルボキシル基量の関係を実験で明らかにすることで容易に決定できる。
【0022】
また、カルボキシル基の酸型への変換処理に関しては、特に限定されるものではないが、塩酸や硝酸などの鉱酸または酢酸などの有機酸により処理する方法のほか、得られたポリマー微粒子の水分散体にイオン交換樹脂を混合してイオン交換処理を行う方法等が挙げられる。特に、酸型への変換処理によって副生する塩が残留することを回避したい場合にはイオン交換樹脂による処理が最も好ましい。また、全カルボキシル基に対して酸型カルボキシル基を80mol%以上とするための条件についても特に限定されず、反応の温度や時間、薬剤の濃度等の因子を実験にて明らかにすることによって容易に決定することができる。
【0023】
また、カルボキシル基のLi塩型への変換処理に関しては、上述のように加水分解時に水酸化リチウムを使用してLi塩型カルボキシル基を得る方法のほか、上記のような酸型への変換処理を行った後に、水酸化リチウムにより酸型カルボキシル基を中和してLi塩型カルボキシル基を得る方法も採用できる。特に後者の方法の場合には、カルボキシル基のLi塩型と酸型の比率を自由に調節することもできる。Li塩型カルボキシル基は酸型カルボキシル基よりも吸湿性能に優れる一方で有機溶媒への分散性に劣る傾向にあるが、かかる方法を用いてLi塩型カルボキシル基と酸型カルボキシル基の比率を調節することによって、より広範な使用態様に適うポリマー微粒子とすることができる。
【0024】
次に、上述のようにして得られたポリマー微粒子の水分散体を用いて、該ポリマー微粒子をDMF、DMAc等の溶解度パラメータが20(MPa)1/2以上である有機溶媒に分散させる。分散方法としては、ポリマー微粒子の水分散体をスプレードライヤー等の瞬時に粒子状に乾燥させる装置を用いて乾燥させ、得られたポリマー微粒子を上述の有機溶媒に混合し、加熱撹拌や超音波照射によって分散させる方法や、ポリマー微粒子の水分散体に上述した有機溶媒を混合し、加熱によって水のみを蒸発させて溶媒置換する方法などが挙げられる。ただし溶媒置換する方法に関しては、有機溶媒が水と共沸混合物を形成しないものであることが必要であり、このような有機溶媒としてはDMF、DMAc等が挙げられる。
【0025】
上述してきた本発明のポリマー微粒子分散体は、DMF,DMAc等の有機溶媒中にカルボキシル基含有ポリマー微粒子が良好に分散したものであるため、有機溶媒系樹脂の成型物へのカルボキシル基含有ポリマー微粒子の練り込みに好適に使用でき、かかる有機溶媒系樹脂の成型物にカルボキシル基含有ポリマー微粒子に由来する吸湿発熱性能、消臭性能、抗ウイルス性能等を付与することができる。特に、良好な分散状態で練り込むことが可能であるため、樹脂成型物内にカルボキシル基含有ポリマー微粒子を微細かつ均一に保有させることができ、より有効に上記各性能を発現させることができる。以下、本発明のポリマー微粒子分散体を用いることによって得られる本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物について詳述する。
【0026】
本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物は、溶解度パラメータが20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂を主成分とするものである。ここで、溶解度パラメータが20(MPa)1/2以上の有機溶媒としては上述した有機溶媒が挙げられる。かかる有機溶媒に可溶な樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。また、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物の形状としては、特に限定されないが、主な形状として、繊維状、粒子状、フィルム状などが挙げられる。
【0027】
さらに、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物中には、全カルボキシル基量が1~12mmol/gであるポリマー微粒子が1000nm未満の大きさで分散した状態で含まれる。かかる分散状態は、上述したポリマー微粒子分散体を該樹脂成型物の原料として使用することで達成される。ポリマー微粒子が1000nm以上の大きさで分散した状態である場合、微粒子同士が凝集しており、比表面積が小さくなるため、吸湿速度やその他の所望の機能が十分に発現しない恐れがある。
【0028】
また、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物には該成型物全体の質量に対して3質量%以上のポリマー微粒子を含有させることが好ましく、特に5質量%以上、さらには7質量%以上混合させることが好ましい。含有率が3質量%未満である場合、ポリマー微粒子に由来する吸放湿性等の機能が十分に発現できない可能性があり、好ましくない。
【0029】
なお、上述したポリマー微粒子分散体を原料に用いて本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物を製造した場合には、該ポリマー微粒子含有樹脂成型物は酸型および/またはLi塩型カルボキシル基を含有することになるが、さらに該ポリマー微粒子含有樹脂成型物に対して、アルカリ性化合物や塩による処理を施して、イオン交換によりカルボキシル基の塩型を酸型やLi塩型以外の塩型に調製することも可能である。従って、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物におけるカルボキシル基の塩型については酸型やLi塩型に限られない。例えば、アルカリ性化合物として水酸化ナトリウムを使用した場合にはNa塩型に変換されて吸湿量や吸湿発熱量を向上させることができる。また、アルカリ性化合物として水酸化カリウムを使用した場合にはK塩型に変換されて吸湿速度や吸湿発熱速度を向上させることが可能である。さらに、処理に用いるアルカリ性化合物や塩を選択することにより、NaやK以外にも、Mg、Ca、Fe、Ag、Cu、Znなどの塩型に変換することもできる。
【0030】
また、本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物は、20℃、相対湿度65%における飽和吸湿率が2%以上であることが好ましく、特に4%以上、さらには5%以上であることが好ましい。上述した条件における飽和吸湿率が2%未満である場合、吸放湿性を実感できない可能性が高く、ありがたみを見出せず好ましくない。
【0031】
上述してきた本発明のポリマー微粒子含有樹脂成型物の製造方法としては、例えば溶解度パラメータが20(MPa)1/2以上の有機溶媒に可溶な樹脂と上述した本発明のポリマー微粒子分散体を混合し、これを乾式、または湿式成型することによって作製される。以下、かかる方法についてポリウレタン繊維を例に用いて説明する。
【0032】
まず、使用するポリウレタンについては特に制限はなく、例えばポリオールと過剰モルのジイソシアネート化合物とを反応させて得られる両末端がイソシアネート基である重合中間体を、DMF,DMAc等の有機溶媒に溶解させ、これを冷却後、ジアミン化合物などを加えて反応させて得られたポリウレタン重合体が挙げられる。
【0033】
上記のようにして得られたポリウレタン重合体の溶液に対して、上述した酸型および/またはLi塩型カルボキシル基を含有するポリマー微粒子の分散体を添加し、加熱撹拌して紡糸原液とする。該紡糸原液を用いて公知の方法にて紡糸、延伸等を行い、ポリウレタン繊維を製造する。この際の紡糸は乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸のいずれの方法によっても実施できる。
【0034】
さらに、所望の機能を得るため、必要に応じて上述した塩型の変換を行ってもよい。すなわち、上述のようにしてポリウレタン繊維を製造した後にアルカリ性化合物による処理を行い、繊維中のポリマー微粒子の塩型を変換することができる。使用するアルカリ性化合物としては特に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好適に使用できる。また、処理方法としては、反応を十分に進行させる観点から、ポリウレタン繊維を上述のアルカリ性化合物の水溶液に60℃以上の温度で浸漬させて処理を行う方法が好ましい。
【0035】
以上のようにして作製したポリマー微粒子含有ポリウレタン繊維は、カルボキシル基含有ポリマー微粒子に由来する吸湿発熱性能、消臭性能等の機能を発現することができるので、ストッキング等の衣料用途をはじめとして様々な用途に好適に用いられる。
【実施例0036】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り質量基準で示す。また、各特性の評価方法は以下の通りである。
【0037】
<全カルボキシル基量の測定方法>
純水100mlに固形分(A[%])のポリマー微粒子の水分散体約1ml(B[g])を加え、ここに1.0mol/l塩酸を加えてpHを2にしたあと、これをスターラーで撹拌しながら0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を滴下して滴定曲線を求めた。該滴定曲線から常法に従ってカルボキシル基によって消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(C[ml])を求め、次式によってカルボキシル基量を算出した。
全カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×C/(B×A×0.01)
【0038】
<酸型カルボキシル基量の測定方法>
純水100mlに固形分(D[%])のポリマー微粒子の水分散体約1ml(E[g])を加え、これをスターラーで撹拌しながら0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を滴下して滴定曲線を求めた。該滴定曲線から常法に従って酸型カルボキシル基によって消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(F[ml])を求め、次式によって酸型カルボキシル基量を算出した。
酸型カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×F/(E×D×0.01)
【0039】
<Li塩型カルボキシル基量の測定方法>
ポリマー微粒子水分散体を蒸発乾固させて得られたポリマー微粒子について、原子吸光法により含有するLi量を定量し、その結果からLi塩型カルボキシル基量を算出した。
【0040】
<全カルボキシル基に対する酸型およびLi塩型カルボキシル基の割合>
上述した各測定方法の結果から次式によって算出した。
酸型およびLi塩型カルボキシル基の割合[mol%]={(酸型カルボキシル基量+Li塩型カルボキシル基量)/全カルボキシル基量}×100
【0041】
<ポリマー微粒子分散体中のポリマー微粒子の粒子径の測定方法>
ゼータ電位・粒径・分子量測定システムELSZ-2000ZS(大塚電子製)を用い、体積基準で表した粒子径分布から、体積平均粒子径を求めた。なお、本測定方法においては、粒子径が1000nmを超える場合には、体積平均粒子径を適切に求めることができないため、後述の表中において「>1000」と表記する。
【0042】
<ポリマー微粒子含有樹脂成型物中のポリマー微粒子の分散状態の確認方法>
ポリマー微粒子含有樹脂成型物をカッターでカットし、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって倍率3000倍で観察する。1000nm以上のポリマー微粒子を確認できない場合は、凝集により大粒径化せず、良好な分散状態にあると判断する。
【0043】
<温度20℃、相対湿度65%RHでの飽和吸湿率の測定方法>
ポリマー微粒子含有樹脂成型物約1.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して質量を測定する(W1[g])、次に試料を温度20℃で相対湿度65%RHに調整された恒温恒湿器に24時間放置し、吸湿した試料の質量を測定する(W2[g])。以上の結果をもとに、次式によって飽和吸湿率を算出した。
飽和吸湿率[%]={(W2-W1)/W1}×100
【0044】
<実施例1>
アクリロニトリル400部、アクリル酸メチル40部、ジビニルベンゼン100部、p-スチレンスルホン酸ソーダ26部及び水1181部を、2000mlの容器のオートクレーブに仕込み、さらに重合開始剤としてジーtert-ブチルパーオキシドを単量体総量に対して0.5%添加した後、密閉し、ついで攪拌下に於いて160℃の温度にて10分間重合せしめた。得られたポリアクリロニトリル系重合体微粒子の水分散体370部に、45部の水酸化ナトリウムと590部の水を添加し、95℃で36時間反応を行うことにより、ニトリル基およびメチルエステル基を加水分解した。得られたカルボキシル基含有ポリマー微粒子の水分散体を陽イオン交換樹脂によりpH2.5に調整することでカルボキシル基を酸型とした。さらに得られたエマルジョンをスプレードライによって乾燥させたポリマー微粒子を得た。次に、該ポリマー微粒子をDMAc(SP値:22.1(MPa)1/2)に含有率5%となるように加え、加熱撹拌することによってポリマー微粒子分散体を得た。得られたカルボキシル基含有ポリマー微粒子の水分散体、及びポリマー微粒子分散体を用いて各種評価を行った結果を表1に示す。
【0045】
さらに、ポリウレタン繊維(旭化成(株)製)をDMAcに加熱溶解させ、これに上記ポリマー微粒子分散体を、ポリマー微粒子が加熱溶解させたポリウレタン繊維比で15%となるように混合する。得られた混合液をガラス板上にバーコーター#3で塗工し、その後減圧下で90℃、2時間乾燥し、フィルム成形した。次に得られたフィルムを4%水酸化ナトリウム水溶液中に80℃24時間浸漬させてポリマー微粒子中の酸型カルボキシル基をNa塩型カルボキシル基に変換させ、水洗を行った後、105℃、1時間乾燥させることによってフィルム状のポリマー微粒子含有樹脂成型物を作製した。得られた樹脂成型物中には1000nm以上のポリマー微粒子を確認できず、また、該樹脂成型物の飽和吸湿率は8.6%であった。
【0046】
<実施例2>
実施例1において、加水分解に用いる薬剤を水酸化リチウムに変更することおよびその後の陽イオン交換樹脂による処理を行わないこと以外は同じ方法でポリマー微粒子分散体を作製した。また、該ポリマー微粒子分散体を用いることおよび水酸化ナトリウムによる処理を行わないこと以外は実施例1と同じ方法によって、Li塩型カルボキシル基を含有するポリマー微粒子含有樹脂成型物を作製した。得られた樹脂成型物中には1000nm以上のポリマー微粒子を確認できず、また、該樹脂成型物の飽和吸湿率は7.5%であった。
【0047】
<実施例3>
実施例1において、ポリマー微粒子を分散させる有機溶媒をメタノール(MeOH、SP値:29.7(MPa)1/2)に変更すること以外は同様の方法でポリマー微粒子分散体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0048】
<実施例4>
実施例1において、ポリマー微粒子を分散させる有機溶媒をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF、SP値:24.8(MPa)1/2)に変更すること以外は同様の方法でポリマー微粒子分散体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0049】
<実施例5>
実施例1において、加水分解の際に加える水酸化ナトリウムの量を27部に変更すること以外は同様の方法によってポリマー微粒子分散体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0050】
<比較例1>
実施例1において、陽イオン交換樹脂による処理を行わないこと以外は同様の方法でポリマー微粒子分散体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0051】
<比較例2>
実施例1において、ポリマー微粒子を分散させる有機溶媒をメチルエチルケトン(MEK、SP値:19.0(MPa)1/2)に変更すること以外は同様の方法でポリマー微粒子分散体を作製した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1から、実施例1~5のポリマー微粒子分散体は粒子径が330~360nmであり、SP値20(MPa)1/2以上の有機溶媒中で大粒径化せずに分散していることがわかる。一方、比較例1のポリマー微粒子はNa塩型であるが、粒子径が1000nmより大きく、凝集により大粒径化していることがわかる。このことからカルボキシル基の型が酸型またはLi塩型であればDMF、DMAc、MeOH等のSP値20(MPa)1/2以上の有機溶媒に好適に分散するものの、Na塩型であると凝集することがわかる。また、比較例2では有機溶媒としてSP値19(MPa)1/2のMEKを用いたが、粒子径が1000nmより大きく、凝集による大粒径化が確認された。このことからSP値が20(MPa)1/2よりも低い有機溶媒では分散性が悪化するため、20(MPa)1/2以上のSP値を有する有機溶媒を選択する必要があることがわかる。
【0054】
また、実施例1および2のポリマー微粒子含有樹脂成型物を評価した結果、どちらも粒子径1000nm以上の粒子が確認できなかったことから、樹脂成型物内においても凝集によって大粒径化せず、分散体中と同程度の粒子径で微粒子が存在していることがわかる。さらにかかる樹脂成型物の飽和吸湿率は実施例1において8.6%、実施例2において7.5%であることから十分な吸湿性能を有している。このことから本発明のポリマー微粒子分散体を用いて作製したポリウレタン繊維を衣服等の生地に採用した場合、ムレ感の改善や吸湿発熱の体感、さらにはポリマー微粒子に由来するその他の機能性の発現が期待できるといえる。