(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137472
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】土壌改良資材の製造方法、シスト線虫の防除方法及び土壌改良資材
(51)【国際特許分類】
C09K 17/32 20060101AFI20220914BHJP
C05F 17/05 20200101ALI20220914BHJP
A01N 65/20 20090101ALI20220914BHJP
A01N 65/38 20090101ALI20220914BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20220914BHJP
A01N 63/12 20200101ALI20220914BHJP
A01P 5/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C09K17/32 H
C05F17/05
A01N65/20
A01N65/38
A01N65/08
A01N63/12
A01P5/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036984
(22)【出願日】2021-03-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】506177051
【氏名又は名称】株式会社里源
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】青井 透
(72)【発明者】
【氏名】林 智康
(72)【発明者】
【氏名】竹本 隆博
【テーマコード(参考)】
4H011
4H026
4H061
【Fターム(参考)】
4H011AC01
4H011BA06
4H011BB20
4H011BB22
4H011DA11
4H011DD04
4H011DG06
4H026AA07
4H026AB03
4H061AA02
4H061CC36
4H061CC42
4H061CC47
4H061EE65
4H061GG48
4H061LL02
(57)【要約】
【課題】薬剤や特別な作業を行わずにシスト線虫の防除が可能な土壌改良資材及び土壌改良資材の製造方法及びシスト線虫の防除方法を提供する。
【解決手段】この土壌改良資材を土中に混ぜ込むことで、土壌改良資材中の孵化誘引材に反応して対象となるシスト線虫が孵化する。しかしながら、孵化時には宿主植物が未だ栽培されておらず、寄生先が無く餓死する。また、この土壌改良資材には大量の自活性線虫が存在しており、この自活性線虫の一部を構成する捕食性線虫が寄生先の無い無防備なシスト線虫を捕食する。これにより、この土壌改良資材及びシスト線虫の防除方法は薬剤や特別な手間をかけることなく、駆除が困難なシスト線虫を効果的に防除することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防除対象となるシスト線虫の宿主植物を原料とし前記シスト線虫の卵の孵化を促す孵化誘引材と、前記シスト線虫を捕食する捕食性線虫を含む自活性線虫が生息する種線虫源と、バチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化するとともに前記自活性線虫の増殖を促す発酵工程と、を有することを特徴とした土壌改良資材の製造方法。
【請求項2】
混合工程において、脱水した浚渫土をさらに加えることを特徴とする請求項1記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項3】
孵化誘引材に食品製造時の副産物もしくは食品産業廃棄物もしくは宿主植物の不要部分を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項4】
防除対象が大豆に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材に大豆豆腐を製造する際に産出されるオカラを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項5】
防除対象がジャガイモに寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材にジャガイモ澱粉を製造する際に産出されるでん粉粕を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項6】
防除対象が甜菜に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材に甜菜糖を製造する際に産出されるテンサイ粕を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項7】
防除対象がアブラナ科の植物に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材にアブラナ科の農作物の不要部分を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の製造方法により製造された土壌改良資材を土中に混合し、前記土壌改良資材が含有する孵化誘引材が防除対象となるシスト線虫の卵を孵化させ、孵化したシスト線虫を宿主植物の不在による餓死と自活性線虫に含まれる捕食性線虫の捕食により防除することを特徴とするシスト線虫の防除方法。
【請求項9】
防除対象となるシスト線虫の宿主植物を原料とし前記シスト線虫の卵の孵化を促す孵化誘引材と、自活性線虫に含まれ前記シスト線虫を捕食する捕食性線虫と、バチルス菌と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を含有し、
土中に混合することで前記孵化誘引材が防除対象となるシスト線虫の卵を孵化させ、孵化したシスト線虫を宿主植物の不在による餓死と前記自活性線虫に含まれる捕食性線虫の捕食により防除することを特徴とした土壌改良資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物等の害虫であるシスト線虫の防除機能を備えた土壌改良資材及び、この土壌改良資材の製造方法、この土壌改良資材を用いたシスト線虫の防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じ作物を同じ場所で連作すると土壌生態系のバランスが崩れ、作物に病気や栄養障害などの連作障害が生じる。この連作障害の大きな原因として、連作作物に有害な寄生性線虫や病原菌の増殖が挙げられる。そして、この連作障害の防止法としては、土壌を農薬やボルドー液(硫酸銅・石灰の混合液)等で殺菌することが一般的である。しかしながら、これら薬剤の使用は土壌の生態系をさらに破壊して土地が痩せる原因となる。また、多用すると連作障害への防止効果が減少することに加え、残留農薬の河川等への流出や農業従事者への健康被害が懸念される。
【0003】
ここで、土中に生息する線虫には前述した作物に有害な寄生性線虫のほか、他の線虫を捕食する捕食性線虫と動植物の遺骸や細菌等を餌とする腐生性線虫とが存在し、これら捕食性線虫と腐生性線虫をあわせて自活性線虫という。そして、捕食性線虫は寄生性線虫を捕食して連作障害を抑制することが期待される。また、腐生性線虫のうち細菌食雑線虫は病原菌を捕食して連作障害を抑制することが期待される。
【0004】
このため本願発明者らは、バチルス菌を含む汚泥と自活性線虫が生息しやすいセルロース源とを混合して所定の温度で発酵させる土壌改良資材の製造方法に関する[特許文献1]、[特許文献2]に記載の発明を行った。そして、このバチルス菌及び自活性線虫が大量に生息する土壌改良資材を土中に混ぜ込むことで、バチルス菌自体が分泌する抗菌物質と自活性線虫による捕食により土壌生態系の回復と連作障害の抑制を可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4226065号公報
【特許文献2】特許第6057312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、寄生性線虫には雌成虫が自らの体内に卵を産下して死亡し、その後、表皮がタンニン化して数百個の卵を内在したシスト(包嚢)を形成するシスト線虫が存在する。このシスト線虫の卵はシスト内で保護されるため乾燥や低温、農薬等の化学物質に対しても高い耐性を示し、寄生性線虫の防除に有効なD-D(1,3-ジクロロプロペン)を含む土壌燻蒸剤を用いても完全な防除はできず、またシストの状態で長期間生存するため、一度定着すると根絶が極めて難しい最重要害虫の一つとされている。
【0007】
ここで、これらシスト線虫のうち大豆を宿主植物とするダイズシスト線虫の防除法として「リョクトウすき込み法」が提唱されている。この「リョクトウすき込み法」とは大豆の栽培前の農地に緑豆を播種してダイズシスト線虫を孵化させ、その後、緑豆を農地にすき込むことでダイズシスト線虫の寄生先を断ち、餓死せしめるというものである。しかしながら、この「リョクトウすき込み法」は緑豆の播種やすき込み等、手間がかかることに加え、大豆栽培の開始が遅くなり収穫が遅れるという問題点がある。
【0008】
ここで、本願発明者らは[特許文献2]に記載の土壌改良資材に特定の材料を用いた場合、特定のシスト線虫に対して防除効果を発揮することを見出した。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、薬剤や特別な作業を行わずにシスト線虫の防除が可能な土壌改良資材及び土壌改良資材の製造方法及びシスト線虫の防除方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)防除対象となるシスト線虫の宿主植物を原料とし前記シスト線虫の卵の孵化を促す孵化誘引材と、前記シスト線虫を捕食する捕食性線虫を含む自活性線虫が生息する種線虫源と、バチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する混合工程S202と、
前記混合工程S202で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化するとともに前記自活性線虫の増殖を促す発酵工程S204と、を有することを特徴とした土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)混合工程S202において、脱水した浚渫土をさらに加えることを特徴とする上記(1)記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)孵化誘引材に食品製造時の副産物もしくは食品産業廃棄物もしくは宿主植物の不要部分を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)防除対象が大豆に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材に大豆豆腐を製造する際に産出されるオカラを用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(5)防除対象がジャガイモに寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材にジャガイモ澱粉を製造する際に産出されるでん粉粕を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(6)防除対象が甜菜に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材に甜菜糖を製造する際に産出されるテンサイ粕を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(7)防除対象がアブラナ科の植物に寄生可能なシスト線虫であり、孵化誘引材にアブラナ科の農作物の不要部分を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の製造方法により製造された土壌改良資材を土中に混合し、前記土壌改良資材が含有する孵化誘引材が防除対象となるシスト線虫の卵を孵化させ、孵化したシスト線虫を宿主植物の不在による餓死と自活性線虫に含まれる捕食性線虫の捕食により防除することを特徴とするシスト線虫の防除方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(9)防除対象となるシスト線虫の宿主植物を原料とし前記シスト線虫の卵の孵化を促す孵化誘引材と、自活性線虫に含まれ前記シスト線虫を捕食する捕食性線虫と、バチルス菌と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を含有し、土中に混合することで前記孵化誘引材が防除対象となるシスト線虫の卵を孵化させ、孵化したシスト線虫を宿主植物の不在による餓死と前記自活性線虫に含まれる捕食性線虫の捕食により防除することを特徴とした土壌改良資材を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る土壌改良資材及びシスト線虫の防除方法は薬剤や特別な手間をかけることなく、また作物の栽培及び収穫を遅らせることなく、シスト線虫の防除を行うことができる。また、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は上記のシスト線虫の防除機能を備えた土壌改良資材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】試験農地と比較農地の土壌試料の採取地点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る土壌改良資材、土壌改良資材の製造方法、及びシスト線虫の防除方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。ここで、
図1は本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。先ず、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、孵化誘引材と、捕食性線虫を含む自活性線虫が生息する種線虫源と、バチルス菌が生息する種菌土と、バチルス菌の栄養となるセルロース源と、浚渫した土を脱水した浚渫土とを混合する混合工程S202と、この混合工程S202で得られた混合土を20℃~60℃で発酵させる発酵工程S204と、を有している。さらに、発酵工程S204は、発酵開始時のバチルス菌の増殖により発酵温度が60℃近くまで上昇する高温発酵期S204Aと、バチルス菌の増殖が沈静化し発酵温度が20℃~40℃に低下した状態で発酵が継続する熟成発酵期S204Bと、を有している。そして、中低温の熟成発酵期S204Bにおいて自活性線虫が急激に増殖する。尚、上記の構成のうち、浚渫土に関しては本発明に必須の構成要件ではないが、バチルス菌及び自活性線虫の効率的な増殖の観点から混合することが好ましい。また、浚渫土の入手が困難な場合には畑の土を用いても良い。
【0014】
次に、本発明における種線虫源に関して説明する。本発明における種線虫源は自活性線虫(捕食性線虫及び腐生性線虫)が生息している堆肥や腐葉土、その他のセルロース源であり、特に製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫源とすることが好ましい。また、後述のセルロース源に自活性線虫が生息している場合、セルロース源が種線虫源を兼ねるようにしても良い。
【0015】
また、本発明における種菌土はバチルス菌が生息する土や汚泥等であり、し尿処理乾燥ケーキ、農業集落排水余剰汚泥、下水処理脱水汚泥、上水処理脱水汚泥、その他の汚水処理汚泥等を用いることが可能である。中でも、重金属成分がほとんど含まれていない食品工場の処理水の脱水汚泥を用いることが安全性の面から特に好ましい。また、汚泥等は乾燥や次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌処理を施すことが好ましい。そして、この殺菌処理により雑菌は死滅もしくは減少するもののバチルス菌は芽胞状態で生存するため、発酵工程においてバチルス菌を優占化することができる。尚、種菌土は市販されている液体バチルス(液体中にバチルス菌を培養させたもの)を用いても構わない。また、製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫源兼種菌土としても良い。
【0016】
ここで、バチルス菌とは枯草菌(Bacillus subtilis)であり、稲藁などに付着する菌である。また、バチルス菌はカビや細菌など、植物の病気を引き起こす28種の病原菌を殺菌する能力を持つことが知られている。中でもBacillus Thuringiensisは蛾や蝶の幼虫に対して殺虫効果があると言われ、微生物農薬としても知られている。よって、バチルス菌が優占化した本発明による土壌改良資材は、このバチルス菌が作物に有害な病原菌等の増殖を抑制する効果を有する。
【0017】
また、本発明における浚渫土は、湖沼や堀、人工池、農業用ため池等の貯水池の底に溜まった土や砂、シルト、落ち葉、ゴミ、ヘドロ等を浚渫した後、小石や砂、ゴミや落ち葉等の大きな夾雑物を除去し脱水したものである。尚、本発明に好適な浚渫土の取得方法としては、先ず、浚渫を行う湖沼等の底にポンプ等の吸引装置を降ろし底土を水ごと吸引する。次に、吸引した底土水中の夾雑物を分離除去する。次に、夾雑物が除去された底土水にカルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を投入し底土を凝集沈殿させる。次に、沈殿濃縮した底土を適宜抜き取りベルトプレス等で脱水する。これにより、本発明に好適な含水率が50%~55%程度の浚渫土となる。尚、上記のカルシウムを主成分とする無機中性凝集剤は水中のリン成分を固定するため、湖沼等の富栄養化の原因となるリン成分を浚渫と同時に除去することができる。また、凝集剤にカルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を用いた場合、凝集剤のカルシウム成分及び固定されたリン成分が植物の肥料として機能するため、農地等へのカルシウム成分、リン成分の施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0018】
尚、一般的な湖沼、貯水池等の底土はシリカを含むシルトや粘土、マグネシウム等のミネラル成分、有機物成分を豊富に含有している。そして、シリカはバチルス菌が芽胞を形成する際に必要な栄養素である他、各種ミネラル成分、有機物成分はバチルス菌や自活性線虫の優れた栄養源となる。このため、本発明に係る土壌改良資材に浚渫土を用いることで、発酵工程におけるバチルス菌及び自活性線虫の増殖を促進することができる。
【0019】
また、本発明におけるセルロース源はバチルス菌の栄養となる植物素材であり、剪定枝、杉や松、檜等の樹皮バーク、キノコの原木栽培及び菌床栽培から出た廃菌床、腐葉土、おがくず、もやし滓、木炭や竹炭等の炭のほか、フスマ、米糠、トウモロコシ糠、ビール粕、ウイスキー粕、焼酎粕、綿花粕、ダンボール等紙類、樹木の幹や根株の粉砕物、除草作業によって発生した草等、如何なるものを用いても良い。また、複数種を混合して用いても良い。さらに、セルロース源が樹皮や枝等の硬いものの場合には3mmから1cm、特に5mm程度の大きさに粉砕して用いることが好ましい。尚、これらセルロース源は、基本的に廃棄物となるものを再利用することがコスト面及び廃棄物削減の観点から特に好ましい。
【0020】
次に、本発明の特徴的な構成である孵化誘引材に関して説明を行う。本発明の孵化誘引材は、防除対象とするシスト線虫の宿主植物を原料としたものである。即ち、防除対象のシスト線虫がダイズ、アズキ、イングンマメ等、マメ科の植物の根に寄生するダイズシスト線虫等の場合には、これらのシスト線虫が宿主とするマメ科の植物由来のものを原料とする。また、防除対象のシスト線虫がジャガイモ、ナス、トマト、トウガラシ等のナス科の植物及びアカザ属の植物の根に寄生するジャガイモシスト線虫、ジャガイモ白シスト線虫等の場合には、これらのシスト線虫が宿主とするナス科やアカザ属の植物由来のものを原料とする。さらに、甜菜、ホウレンソウ等のヒユ科の植物、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、野沢菜等のアブラナ科の植物の根に寄生するテンサイシスト線虫等の場合には、これらのシスト線虫が宿主とするヒユ科、アブラナ科の植物由来のものを原料とする。尚、これらの孵化誘引材は複数種類を組み合わせても良い。例えば、マメ科の植物を原料とする孵化誘引材と、ナス科もしくはアカザ属の植物を原料とする孵化誘引材と、ヒユ科もしくはアブラナ科の植物を原料とする孵化誘引材とを混合して、ダイズシスト線虫、ジャガイモシスト線虫、テンサイシスト線虫の全てに対応した土壌改良資材を製造するようにしても良い。
【0021】
また、孵化誘引材の材料としては、食品製造時の副産物もしくは食品産業廃棄物を用いることが特に好ましい。具体的には、防除対象がダイズシスト線虫の場合には、大豆豆腐を製造する際に産出されるオカラを用いることが特に好ましい。また、防除対象がジャガイモシスト線虫の場合には、ジャガイモ澱粉を製造する際に産出されるでん粉粕を用いることが特に好ましい。また、防除対象がテンサイシスト線虫の場合には、甜菜糖を製造する際に産出されるビートパルプ等のテンサイ粕を用いることが特に好ましい。さらに、孵化誘引材の材料として宿主植物である農作物の収穫時の不要部分を用いても良い。例えば、ダイズシスト線虫の場合には大豆の収穫時に不要な大豆の葉、茎、鞘、根等の部分、ジャガイモシスト線虫の場合にはジャガイモの収穫時に不要なジャガイモの地上部分、テンサイシスト線虫の場合には甜菜の収穫時に不要な甜菜の地上部分、また防除対象がアブラナ科の植物に寄生可能なシスト線虫(テンサイシスト線虫を含む)の場合にはブロッコリーやカリフラワー等の葉、茎、根部分等を孵化誘引材として用いても良い。そして、これらの構成では孵化誘引材として食品製造時の副産物、食品産業廃棄物もしくは宿主植物の農作物の不要部分を用いることで、材料コストの削減を図ることができる。また、廃棄物の再利用が可能となり、ゴミの排出量の削減と環境負荷の軽減とを図ることができる。尚、孵化誘引材は植物由来のためセルロース源としても機能する。よって、孵化誘引材でセルロース源を構成することも可能である。
【0022】
次に、本発明に係る土壌改良資材の製造方法を説明する。尚、ここでは材料に浚渫土を加えた土壌改良資材の製造方法を説明する。先ず、例えば食品工場や畑等から孵化誘引材を取得する(ステップS100)。この孵化誘引材は防除対象とするシスト線虫に応じて選択され、例えばオカラ、でん粉粕、テンサイ粕や宿主植物の農作物の収穫時の不要部分(廃棄残渣)等が挙げられる。次に、孵化誘引材以外のセルロース源を取得する(ステップS104)。また、例えば前述の手法により脱水した浚渫土を取得する(ステップS102)。また、必要であれば水処理施設等から乾燥汚泥等を種菌土として取得する(ステップS106)。また、必要であれば自活性線虫の生息が確認されている堆肥等を種線虫源として取得する(ステップS108)。尚、前述のように種菌土、種線虫源は初回のみ他所から取得して、次回以降は前に作製した土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて種線虫源兼種菌土としても良い。
【0023】
次に、孵化誘引材、セルロース源、浚渫土、種菌土、種線虫源を混合して混合土とする(混合工程S202)。このときの混合方法は如何なるものを用いても良い。
【0024】
次に、混合土を発酵させる(発酵工程S204)。前述のように、この発酵工程S204では初めに高温発酵期S204Aとして種菌土中のバチルス菌がセルロース源を栄養に大増殖して優占化する。このとき発酵温度は60℃近くまで上昇する。尚、発酵温度が40℃を超えると細菌食雑線虫を含む自活性線虫の生存には不適であり、自活性線虫は比較的低温の表層に偏在することとなる。これにより、バチルス菌は細菌食雑線虫に捕食されることなく増殖を続けることができる。また、発酵温度が60℃近くまで上がることで熱に弱い雑菌の殺菌や混合土中の雑草種を熱死させることができる。そして、数日間経過後、バチルス属細菌種の増殖は沈静化して発酵温度が低下し、熟成発酵期S204Bとして20℃~40℃の温度で発酵が継続する。この20℃~40℃の熟成発酵期S204Bでは自活性線虫の活動が活発化し、細菌食雑線虫がバチルス属細菌を餌に大増殖する。次いで、この細菌食雑線虫を捕食する捕食性線虫が増殖する。さらに、熟成発酵期S204Bでは複数種のバチルス属細菌が発生し土壌生態系の復元及び連作障害抑制にさらに効果的となる。これにより、バチルス菌及び自活性線虫が優占化し孵化誘引材を含有した土壌改良資材が完成する。尚、高温発酵期S204A、熟成発酵期S204Bにおける発酵温度は人為的に制御しても良い。例えば夏季等で発酵温度が60℃を超えて高温となる場合には発酵速度の遅い剪定枝や樹皮バーク等のセルロース源の添加や攪拌による放熱で発酵温度を低下させることが好ましい。また、冬季等で発酵温度が20℃を下回る低温の場合には米糠や孵化誘引材としてのオカラ等の発酵速度の速いセルロース源を添加すること等で発酵温度を上昇させることが好ましい。尚、発酵工程S204の期間(発酵期間)は外気温や用いるセルロース源等によって変化するが、概ね数週間~1ヶ月程度である。
【0025】
また、各材料の乾燥重量としては浚渫土が30wt%~50wt%、セルロース源が孵化誘引材を含めて30wt%~50wt%、種菌土及び種線虫源が5wt%~10wt%程度とすることが好ましく、特に浚渫土とセルロース源(孵化誘引材を含む)の比率を1:1とすることが最も好ましい。また、土壌改良資材の含水率は概ね30%~60%程度とすることが好ましい。尚、孵化誘引材は土壌改良資材に対し乾燥重量比5wt%以上でシスト線虫に対する防除効果が認められる。よって、孵化誘引材の量は5wt%からセルロース源の上限である50wt%とすることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る土壌改良資材及びその製造方法では、発酵工程後に家畜糞を主原料とした堆肥を混合し、肥料成分としての全窒素量、全リン量、カリウム量を略同等となるように調製しても良い。尚、家畜糞堆肥としては豚糞堆肥、牛糞堆肥、鶏糞堆肥、及びこれらの混合堆肥が挙げられるが、中でも特に豚糞堆肥を用いることが好ましい。このようにして得られた土壌改良資材は、植物の成長に必要な3大栄養素がバランス良く配合されているため、基本肥料として使用することが可能となり、農地への施肥量の低減もしくは施肥自体を不要とすることができる。尚、発酵工程後の土壌改良資材及び混合する家畜糞堆肥の全窒素量、全リン量、カリウム量は用いる材料等により変化するため、家畜糞堆肥の選定及び混合量は発酵工程後の土壌改良資材に応じて適宜調整する。ただし、その混合量は土壌改良資材に対し概ね10wt%~20wt%である。
【0027】
次に、本発明に係る土壌改良資材を用いたシスト線虫の防除方法を実験結果とともに示す。尚、ここではダイズシスト線虫を防除対象とした例を用いて説明を行う。先ず、孵化誘引材としてオカラを6wt%、種線虫源兼セルロース源として杉皮バーク破砕物を43wt%、浚渫土を43wt%、種菌土としてのし尿処理場の乾燥ケーキを8wt%混合した後、発酵させて土壌改良資材を作製した。尚、この土壌改良資材中の自活性線虫の数をベルマン法により測定したところ、約5000頭/10gであった。
【0028】
次に、農地の一部に上記の土壌改良資材を10aあたり3t混合し試験農地(
図2中のC列)とした。尚、土壌改良資材の混合は、
図2中の点C4の地点に土壌改良資材を積み上げトラクターにて点C4から点C1に向かってすき込むことで行った。また、S列(点S1~点S4)、N列(点N1~点N4)には、比較農地として同等量の堆肥をすき込んだ。
【0029】
次に試験農地、比較農地の双方で枝豆を通常の手法で栽培し収穫した。尚、試験を行った農地(特に点C4の地点)では例年ダイズシスト線虫が原因の黄化症状が発生していたが、試験を行った年には発生が皆無であった。そこで、収穫後の点C1~点C4、点N1~点N4、点S1~点S4の土をそれぞれ採取し、土中のシスト(シスト線虫の包嚢)の数をカウントした。尚、シスト数のカウントは、次のようにして行った。先ず、採取した各土の湿試料150g(乾燥重量100g)を2Lの水道水に懸濁させ、0.25mm目の篩にて篩分けした。次に、篩の残留物をNo.5Aの濾紙で濾過した。次に、濾紙の残留物を風乾し、実体顕微鏡を用いて試料中のシスト数をカウントした。その結果を[表1]に示す。尚、前述のようにシストとはシスト線虫の卵が入った包嚢であるから、シストの数はその年に成虫になるまで(卵を産下するまで)生存したシスト線虫の数に比例し、土中のシスト線虫の生息数の指標として用いることができる。
【表1】
【0030】
[表1]より、土壌改良資材を混合していない比較農地のN列、S列のシスト数は列平均で114個/乾土100g、83個/乾土100gであったのに対し、本発明に係る土壌改良資材を混合した試験農地(C列)のシスト数は列平均で24.5個/乾土100gであり、比較農地の約3分の1~5分の1の小さい値を示した。特に土壌改良資材の濃度が一番高いと推測される投入点C4からトラクターの進行方向隣に位置する点C3の試料のシスト数は5個/乾土100gと極めて少なく、土壌改良資材の防除効果が顕著に表れていることが判る。
【0031】
このシスト数の減少、即ちシスト線虫の減少は、土壌改良資材中の孵化誘引材に反応して対象となるシスト線虫が孵化したものの、孵化時には宿主植物が未だ栽培されておらず、寄生先が無く餓死した事が原因と考えられる。また、前述のように本発明に係る土壌改良資材中には大量の自活性線虫が存在しており、この自活性線虫には肉食の捕食性線虫が含まれている。そして、この捕食性線虫が寄生先の無い無防備なシスト線虫を捕食した事も原因と考えられる。尚、ジャガイモシスト線虫類、テンサイシスト線虫類に対しても、孵化誘引材にそれぞれの宿主植物由来のものを用いることで同様の防除効果が発揮されると見込まれる。
【0032】
以上のように、本発明に係る土壌改良資材及びシスト線虫の防除方法は薬剤や特別な手間をかけることなく、駆除が困難なシスト線虫を効果的に防除することができる。また、「リョクトウすき込み法」のように、作物の収穫が遅れることもない。
【0033】
また、本発明に係る土壌改良資材はバチルス菌及び自活性線虫が優占化しているため、これを農地等に混ぜ込むことで線虫の増加による土壌生態系の再生を行うことができる。また、土壌改良資材に含まれるバチルス菌は抗生物質を分泌して作物に有害なカビや細菌の増殖を抑制する。また、自活性線虫に含まれる捕食性線虫はシスト線虫を含め作物に有害な寄生性線虫を捕食する。これにより、農地等での連作障害の発生を防止することができる。またさらに、本発明に係る土壌改良資材はそれ自体が優良な肥料として機能する。このため、農地への施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0034】
さらに、本発明に係る土壌改良資材及びその製造方法は、浚渫土や食品廃棄物、水処理汚泥、樹皮バーク等、全ての材料を廃棄物で構成することができる。これにより、極めて低い材料コストでの製造が可能となる。また、廃棄物の再利用が可能となり環境負荷の低減を図ることができる。
【0035】
尚、本例で示した土壌改良資材の製造方法及び土壌改良資材の構成資材は一例であり、各工程の手法、用いる孵化誘引材、浚渫土、種線虫源、種菌土、セルロース源の種類は上記の例に限定されるものではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
S202 混合工程
S204 発酵工程