(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137479
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20220914BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036997
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】道祖土 朋宙
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD061
4J002BD071
4J002BD091
4J002CF032
4J002FD022
4J002GC00
4J002GJ00
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GL01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、フィルム表面への可塑剤の移行を抑制可能で、機能層の性能を維持できるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することを課題とするものである。
【解決手段】 本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニル系樹脂とアジピン酸ポリエステル系可塑剤とを含み、前記アジピン酸ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が1200以上であると共に、アジピン酸と多価アルコールと1価アルコールとを反応させてなるものであり、前記多価アルコールが、1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールとを含み、前記1価アルコールが、炭素数11以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂とアジピン酸ポリエステル系可塑剤とを含み、
前記アジピン酸ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が1200以上であると共に、アジピン酸と多価アルコールと1価アルコールとを反応させてなるものであり、
前記多価アルコールが、1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールとを含み、
前記1価アルコールが、炭素数11以下であることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤の移行を抑制可能なポリ塩化ビニル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムには柔軟性を付与するために可塑剤が添加されている。当該可塑剤として、フタル酸系化合物が多用されているが、近年、欧州を中心に、当該フタル酸系化合物による環境や人体への影響を配慮し、RoHS指令、REACH規則などで使用を制限する動きがある。
そのため、フタル酸系化合物の代替可塑剤が使用されており、例えば、アジピン酸エステル系可塑剤、アジピン酸ポリエステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、セバチン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤などの非フタル酸系可塑剤が知られている。
【0003】
ところで、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、例えば屋外で使用される装飾用ステッカーやマーキングフィルム、又はダイシングテープなどの基材フィルムとして用いられることが多く、その基材フィルム表面や裏面には、印刷層や粘着層などの用途に応じた機能性を有する層(機能層)が設けられている。従来のポリ塩化ビニル系樹脂製の基材フィルムには、フタル酸系可塑剤が用いられているが、上述の通り非フタル酸系可塑剤への変更が要望されている。
しかしながら、非フタル酸系可塑剤の種類によっては基材フィルムとしての要求性能を満たさないものがあった。要求性能とは、用途に応じて設けられる機能層の性能を維持できることにあって、その性能としては主に(1)印刷層が剥がれ難いこと(印刷適性)(2)粘着性が経時で低下しないことが挙げられる。当該要求性能を満たさない要因のひとつとして、フィルム中に含まれる可塑剤がフィルム表面に移行することで、フィルムと印刷層との界面が剥がれてしまうことや粘着層へ移行してしまい粘着性を低下させることが知られている。
【0004】
そこで、特定の可塑剤を用いて改善がなされている。
例えば、特許文献1に記載の発明は、ポリ塩化ビニル樹脂に特定の数平均分子量を有するポリエステル系可塑剤を含有してなるポリ塩化ビニル系フィルムであり、可塑剤の移行を抑え優れた印刷適性及び粘着物性を有するものである。なお、特許文献1の印刷適性とは、インク吸収性、乾燥性、発色性といった作画性のことを示すものであり、印刷層の剥がれについては評価されていない。
また、特許文献2に記載の発明は、ポリ塩化ビニル樹脂に特定の数平均分子量を有するアジピン酸ポリエステル系可塑剤を特定量含有してなるポリ塩化ビニル系フィルムであり、可塑剤の移行による粘着力の低下を抑えたものである。この発明は、ステンレスやアルミニウムなど各種鋼板の保護シートやダイシング工程用の粘着シートに用いるものであり、装飾用ステッカーのように、屋外での厳しい環境下での使用は想定しておらず、経時での粘着力低下に対してまで効果を発揮することは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-37977号公報
【特許文献2】特開2012-184369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1及び2に記載されたポリ塩化ビニル系フィルムでは、印刷層の剥がれや、粘着性が経時で低下するといった機能層の性能を維持できていない課題に対して何ら検討されておらず、基材フィルムに要求される性能を発揮するには十分ではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、フィルム表面への可塑剤の移行を抑制可能で、機能層の性能を維持できるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人は、アジピン酸ポリエステル系可塑剤に着目し、鋭意検討した結果、ある特定の可塑剤を用いることで、フィルム表面への可塑剤の移行を抑制し、例えば屋外で使用される装飾用ステッカーやマーキングフィルム、又はダイシングテープなどに設けられる印刷層や粘着層などの機能層の性能を維持可能なポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
ポリ塩化ビニル系樹脂とアジピン酸ポリエステル系可塑剤とを含み、
前記アジピン酸ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が1200以上であると共に、アジピン酸と多価アルコールと1価アルコールとを反応させてなるものであり、
前記多価アルコールが、1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールとを含み、
前記1価アルコールが、炭素数11以下であることを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂フィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルム表面への可塑剤の移行を抑制し、機能層の性能を維持可能なポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂とアジピン酸ポリエステル系可塑剤とを含むポリ塩化ビニル系樹脂フィルムである。
【0012】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルや、塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、塩化ビニルモノマーと高級ビニルエーテルとの共重合体等、またはこれらの混合物が挙げられる。塩化ビニルと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、マレイン酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリル酸、酢酸ビニル等のオレフィン系モノマーやアクリル系モノマーが挙げられる。
【0013】
ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度としては、500以上1500以下が好ましく、更に好ましくは800以上1300以下である。平均重合度が低すぎると、溶融張力が低く成形が困難であり、平均重合度が高すぎると加工温度が高くなり分解しやすい傾向にある。なお、本発明の平均重合度は、JIS K-6721に準拠して測定した値である。
【0014】
本発明のアジピン酸ポリエステル系可塑剤は、アジピン酸と多価アルコールと1価アルコールとを反応させてなるものである。
アジピン酸はジカルボン酸であり、そのカルボニル基と多価アルコールとが反応し、高分子構造を形成する。その末端のカルボニル基が1価アルコールと反応することで、それ以上の反応は停止し、本発明のアジピン酸ポリエステル系可塑剤が得られる。当該多価アルコールとして、1,3-ブタンジオールと1,4-ブタンジオールとを用い、当該1価アルコールとして、炭素数11以下のアルコールが用いられる。
理由は定かではないが、多価アルコールがネオペンチルグリコール(NPG)系のものや1,3-ブタンジオールを単独で用いて得られるアジピン酸ポリエステル系可塑剤を含有するポリ塩化ビニル系樹脂フィルムだと、後述する印刷適性や粘着性に劣ってしまう。
【0015】
本発明のアジピン酸ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が1200以上である。
数平均分子量が1200未満だと、可塑剤が移行しやすく、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの印刷適性や粘着性に劣る。また、数平均分子量が10000を超えると加工性が悪くなるため、好ましくは1500以上10000以下である。
【0016】
ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、アジピン酸ポリエステル系可塑剤は10以上45質量部以下添加されることが好ましい。
添加量が10質量部未満だと、、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの柔軟性が得られない。また、60質量部を超えると可塑剤が移行しやすくなり、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの印刷適性や粘着性に劣る傾向にある。
【0017】
本発明の効果を損ねることのない範囲であれば、アジピン酸ポリエステル系可塑剤以外の可塑剤を添加してもよい。ただし、フタル酸系化合物は除く。
例えば、ジオクチルアジペート、ジトリノニルアジペート、ジイソデシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリキシリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;セバチン酸エステル系可塑剤;トリメリット酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤等が使用できる。
【0018】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムには、可塑剤以外にも、必要に応じて熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤、顔料等を配合することが可能である。
【0019】
熱安定剤としては、一般に使用されているものを用いることができ、バリウム-亜鉛系化合物を使用することが好ましい。
熱安定剤の添加量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、2質量部以上5質量部以下が好ましい。
【0020】
光安定剤としては、一般に使用されているものを用いることができ、ヒンダードアミン系が好適である。
例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ドデシルコハク酸イミド、1-[(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン、テトラ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ジ(トリデシル)ブタンテトラカルボキシレート、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキシサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキシサスピロ[5,5]ウンデカン、1,5,8,12-テトラキス{4,6-ビス[N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル}-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール/コハク酸ジメチル縮合物、2-tert-オクチルアミノ-4,6-ジクロロ-s-トリアジン/N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン/ジブロモエタン縮合化合物等のヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0021】
本発明において、ヒンダードアミン系化合物の添加量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.05質量部以上0.2質量部以下が好ましい。0.05質量部未満であると、目的とする耐候性を得ることができず、また0.2質量部を超えて添加してもそれ以上の効果の増強は認められず、かえって不経済である。
【0022】
紫外線吸収剤としては、一般に使用されているものを用いることができ、ベンゾフェノン系化合物が好適である。
例えば、2,4-ジーヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、1,4-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノン)-ブタン等が挙げられるが、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。その中でも、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン等の分子量が300以上の化合物であると紫外線の捕捉容量が大きいため好ましい。
【0023】
本発明において、ベンゾフェノン系化合物の添加量は、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上1.5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上1.0質量部以下である。
【0024】
本発明において、滑剤を添加してもよく、一般に使用されているものを用いることができる。滑剤は、成形時に金属ロールとフィルムとが貼り付くことを抑え成形性を向上させることや、フィルム同士が貼り付き、次工程での加工性が低下することを防ぐ目的で添加される。滑剤の種類によっては、フィルム表面に移行した滑剤の影響で印刷層の剥がれや、粘着性が低下する要因となることから、使用するインクや粘着剤によって使用する滑剤の種類を適宜選定すればよい。
【0025】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、カレンダー法、押出法、インフレーション法等の適宜の手段により、所望の厚さのフィルムに成形される。フィルムの厚さについては特に限定されないが、一般的に使用されるフィルムの厚さは0.06mm以上0.5mm以下程度である。
【0026】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、フィルム表面への可塑剤の移行を抑制可能で、印刷層、粘着層といった機能層の性能を維持できるものであり、以下の通り評価される。
【0027】
〔印刷適性〕
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを縦5cm、横15cmの大きさにカットした表面に、紫外線硬化型のUVインク(T&K TOKA社製、品名「UV161 墨」)を2mL塗布後、UV照射装置(アイグラフィックス社製、商品名「アイグランデージ」)を用いて、UV積算光量が200mJ/cm2の条件でUVを照射し、塗膜を硬化させたものを塗膜密着試験片とする。
JIS K5600-5-6:1999に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の条件1、及び温度60℃、相対湿度90%の条件2において、7日間放置して促進させた後の当該塗膜密着試験片の塗膜面側に、碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目に貼り付けて指でしごいて剥がす試験(碁盤目密着性試験)を実施し、塗膜(印刷層)が剥がれ難いかどうかを目視で確認し、当該JISの規格表1を参考に以下のように評価する。なお、本発明は、条件1、2ともに当該評価が〇又は◎であり、印刷適性に優れるものである。
評価基準
◎:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも塗膜剥れがない。
〇:カットの交差点における塗膜の小さな剥れがあり、クロスカット部分で影響を受け
るのは、明確に5%を上回ることはない。
△:カットの縁に沿って、及び/又は交差点において塗膜の剥れがあり、クロスカット
部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが35%を上回ることはない。
×:カットの縁に沿って、部分的又は全面的に塗膜の大剥れを生じており、及び/又は
数箇所の目が、部分的又は全面的に塗膜の剥れがあり、クロスカット部分で影響を
受けるのは、明確に35%を超えている。
【0028】
〔粘着性〕
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを縦5cm、横15cmの大きさにカットした表面に、アクリル系粘着剤を塗工し、金属プレートと接着する。温度23℃、相対湿度50%の条件1、及び温度60℃、相対湿度90%の条件2において、7日間放置して促進させたものを粘着試験片とする。
引張試験機(エー・アンド・デイ社製、「テンシロン万能材料試験機」)を用いて、当該粘着試験片の金属プレート部とフィルム部とを掴み、剥離速度を200mm/minに設定し、180°剥離を実施する。剥離後の被接着面(金属プレート)の状態を目視で確認し、以下の通り評価する。なお、本発明は、条件1、2ともに当該評価が〇であり、粘着性に優れるものである。
評価基準
〇:被接着面に粘着剤残りなし
△:被接着面積全体に対し、粘着剤が残る面積が50%未満
×:被接着面積全体に対し、粘着剤が残る面積が50%以上
【0029】
このように、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、印刷層を設けても剥がれ難く、粘着層を設けても粘着性が経時で低下し難いので、装飾用ステッカーの基材として好適である。
【0030】
本発明には、上述したポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを基材フィルムとして用いることができ、当該基材フィルムの表面に印刷層、裏面に粘着層を形成してもよい。必要に応じて、セパレータを設けることもできる。
粘着層としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤などから構成される。
印刷層としては、インクの種類や印刷方法などは特に限定されないが、溶剤系のインクで印刷された層であることが好ましい。
【0031】
印刷層の表面には、保護層を設けてもよい。
保護層としては、印刷層の意匠を損ねることがないよう透明性を有する塗料を塗工してもいいし、別途形成した透明な樹脂フィルムをラミネートしてもよい。当該樹脂フィルムとして、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを用いることも可能である。
【0032】
本発明の装飾用ステッカーは、屋内外の広告看板、サインディスプレー、マーキングフィルム、壁装用シート等、又はダイシングテープなどの各種基材フィルムとして使用することができ、特に屋外での使用に好適である。
【実施例0033】
本発明について、実施例に基づき説明する。なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1,2、比較例1~7〕
表1で示す配合比で混合した原料を1対の加熱された金属ロール間に投入し、金属ロールを回転させて一方の金属ロールに原料が巻き取られるように加熱溶融して、厚み0.3mmのフィルムを製膜した。なお、表中の配合比は質量部である。
得られたフィルムについて、印刷適性及び粘着性を以下の通り評価し、結果を表1に示す。
【0035】
〔印刷適性〕
得られたフィルムを縦5cm、横15cmの大きさにカットし、その表面に紫外線硬化型のUVインク(T&K TOKA社製、品名「UV161 墨」)を2mL塗布後、UV照射装置(アイグラフィックス社製、商品名「アイグランデージ」)を用いて、UV積算光量が200mJ/cm2の条件でUVを照射し、塗膜を硬化させて塗膜密着試験片を作製した。
JIS K5600-5-6:1999に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の条件1、及び温度60℃、相対湿度90%の条件2において、7日間放置して促進させた後の当該塗膜密着試験片の塗膜面側に、碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目に貼り付けて指でしごいて剥がす試験(碁盤目密着性試験)を実施し、塗膜(印刷層)が剥がれ難いかどうかを目視で確認し、当該JISの規格表1を参考に以下のように評価した。
評価基準
◎:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも塗膜剥れがない。
〇:カットの交差点における塗膜の小さな剥れがあり、クロスカット部分で影響を
受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
△:カットの縁に沿って、及び/又は交差点において塗膜の剥れがあり、クロスカット
部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが35%を上回ることはない。
×:カットの縁に沿って、部分的又は全面的に塗膜の大剥れを生じており、及び/又は
数箇所の目が、部分的又は全面的に塗膜の剥れがあり、クロスカット部分で影響を
受けるのは、明確に35%を超えている。
【0036】
〔粘着性〕
得られたフィルムを縦5cm、横15cmの大きさにカットし、その表面に、アクリル系粘着剤を塗工し、金属プレートと接着させ、温度23℃、相対湿度50%の条件1、及び温度60℃、相対湿度90%の条件2において、7日間放置して促進させた後の粘着試験片を作製した。
引張試験機(エー・アンド・デイ社製、「テンシロン万能材料試験機」)を用いて、当該粘着試験片の金属プレート片部とフィルム部とを掴み、剥離速度を200mm/minに設定し、180°剥離を実施した。剥離後の被接着面(金属プレート)の状態を目視で確認し、以下の通り評価した。
評価基準
〇:被接着面に粘着剤残りなし
△:被接着面積全体に対し、粘着剤が残る面積が50%未満
×:被接着面積全体に対し、粘着剤が残る面積が50%以上
【0037】
原料:
ポリ塩化ビニル系樹脂(平均重合度:1100)
可塑剤1 数平均分子量2500、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと1,4―ブ
タンジオールと炭素数11以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン
酸ポリエステル
可塑剤2 数平均分子量1200、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと1,4―ブ
タンジオールと炭素数11以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン
酸ポリエステル
可塑剤3 数平均分子量750、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと1,4―ブタ
ンジオールと炭素数11以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸
ポリエステル
可塑剤4 数平均分子量3000、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと炭素数11
以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
可塑剤5 数平均分子量1700、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと炭素数11
以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
可塑剤6 数平均分子量1200、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと炭素数11
以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
可塑剤7 数平均分子量1900、アジピン酸とネオペンチルグリコールと炭素数11
以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
可塑剤8 数平均分子量1400、アジピン酸とネオペンチルグリコールと炭素数11
以下の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
可塑剤9 数平均分子量2000、アジピン酸と1,3―ブタンジオールと炭素数12
以上の1価アルコールとを反応させてなるアジピン酸ポリエステル
熱安定剤1 Ba-Zn系化合物
【0038】
【0039】
表1で示す通り、本発明のアジピン酸ポリエステル系可塑剤を用いた実施例1及び実施例2では、印刷適性及び粘着性に優れるフィルムが得られた。当該フィルムは、印刷層を設けても剥がれ難く、粘着層を設けても粘着性が経時で低下し難いものであるため、屋外で使用する装飾用ステッカーに好適である。