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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013749
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】細胞培養用デバイス及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20220111BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220111BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/0789
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099354
(22)【出願日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020111779
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】小田桐 広和
(72)【発明者】
【氏名】本庄 慶司
(72)【発明者】
【氏名】小西 美佐夫
(72)【発明者】
【氏名】江藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 直也
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029GA03
4B029GB09
4B065AA90X
4B065BC01
4B065BC42
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養用デバイス、並びに、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養方法の提供。
【解決手段】造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられる培養部を備えた基材を有する細胞培養用デバイスであって、前記培養部は、複数の微細孔を有し、前記培養部のJIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定されたヤング率が少なくとも3GPaである細胞培養用デバイスである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられる培養部を備えた基材を有する細胞培養用デバイスであって、
前記培養部は、複数の微細孔を有し、
前記培養部のJIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定されたヤング率が少なくとも3GPaであることを特徴とする細胞培養用デバイス。
【請求項2】
前記培養部の材質がポリスチレンである請求項1に記載の細胞培養用デバイス。
【請求項3】
前記微細孔の開口部の平均長さ(La)に対する、前記微細孔の平均深さ(H)の比[H/La]が1.1以上である請求項1から2のいずれかに記載の細胞培養用デバイス。
【請求項4】
前記微細孔の開口部の平均長さが30μm~80μmである請求項1から3のいずかに記載の細胞培養用デバイス。
【請求項5】
前記微細孔の平均深さが30μm~160μmである請求項1から4のいずれかに記載の細胞培養用デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の細胞培養用デバイスを用いて、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用デバイス及び細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC;hematopoietic stem cell)は、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ等)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞等の各血球系細胞に分化することができる多分化能と、前記多分化能を維持したまま自己複製することができる自己複製能とを併せ持つ細胞である。造血幹細胞は、まず造血前駆細胞(「多能性造血前駆細胞」とも称する)に分化した後、種々の前駆細胞を介して各血球系細胞に分化するという分化系譜を辿ることが知られている。
したがって、造血幹細胞及び造血前駆細胞のいずれも、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等の血液癌の治療に応用し得る重要な細胞である。
【0003】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の細胞1個の大きさは、直径10μm~15μm程度であり、一般的に、骨髄内のNiche(ニッシェ)と呼ばれる特殊な微小環境下に存在し、造血幹細胞又は造血前駆細胞同士のクロストークや、周囲の環境からの液性因子や細胞間接着因子などを介して、静止期維持、自己複製、及び分化のバランスを保っていると言われている。前記微小環境の物理的空間は、骨髄内の海綿骨である。そのため、近年、造血幹細胞及び造血前駆細胞をインビトロで増殖させるために、足場として前記海綿骨の構造を模倣する試みがなされている。
【0004】
例えば、多孔性の固体マトリクスを使用して、造血前駆体細胞をインビトロで培養する方法が提案されている(特許文献1参照)。前記多孔性の固体マトリクスは、内部の孔が網状化され連結されたオープンセル構造を有する。しかしながら、このような一元的な微細構造を持つ多孔性の固体マトリクスを作製することは、工業的に難易度が高いだけでなく、高コストとなるため量産が困難であるという課題がある。
更に、構造的補強や、前記固体マトリクスへの細胞の接着性向上のために、前記多孔性の固体マトリクスに金属コーティングすることも提案されている。しかしながら、多孔体内部の孔にまで均一に被覆することも難易度が高く、歩留まりが低下するため、この点でも高コストとなるという課題がある。
【0005】
また、セラミックス又はガラスからなる基材の表面に、多孔体からなる複数の凹部がマトリックス状に配列された培養担体を用いて、ヒトES細胞等の未分化細胞を培養する方法も提案されている(特許文献2参照)。ES細胞は、コロニーサイズがある一定以上になると未分化状態が消失するが、前記提案の培養担体は、前記凹部によりコロニーサイズを制御することで、未分化な状態のままで増殖した細胞塊を得ることができるものである。
しかしながら、前記提案の培養担体は、造血幹細胞及び造血前駆細胞のニッシェ(微小環境)に適用するには、径に対する深さの比(以下、「アスペクト比」と称することがある)が小さすぎ、細胞同士の密集が希薄になってしまうという課題がある。更に、培養担体の材料としてセラミックス等を採用することは、高コストとなるため、大量に培養するには不向きであるという課題もある。
【0006】
したがって、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかをインビトロで増殖させるための足場として前記海綿骨の構造を模倣し、簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で効率良く増殖させることができる細胞培養用デバイス及び細胞培養方法は未だ提供されておらず、その提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001-517428号公報
【特許文献2】特開2008-306987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養用デバイス、並びに、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられる培養部を備えた基材を有する細胞培養用デバイスであって、
前記培養部は、複数の微細孔を有し、
前記培養部のJIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定されたヤング率が少なくとも3GPaであることを特徴とする細胞培養用デバイスである。
<2> 前記培養部の材質がポリスチレンである前記<1>に記載の細胞培養用デバイスである。
<3> 前記微細孔の開口部の平均長さ(La)に対する、前記微細孔の平均深さ(H)の比[H/La]が1.0~2.0である前記<1>から<2>のいずれかに記載の細胞培養用デバイス。
<4> 前記微細孔の開口部の平均長さが30μm~80μmである前記<1>から<3>のいずれかに記載の細胞培養用デバイスである。
<5> 前記微細孔の平均深さが30μm~160μmである前記<1>から<4>のいずれかに記載の細胞培養用デバイスである。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の細胞培養用デバイスを用いて、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養することを特徴とする細胞培養方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養用デバイス、並びに、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる細胞培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、公知の培養容器(96ウェルプレート)のウェル1内に細胞培養用デバイス20を入れた状態の一例を示す概略説明図(斜視図)である。
図2A図2Aは、培養部21及び取出し部22を有する細胞培養用デバイス20の一例を示す概略説明図(斜視図)である。
図2B図2Bは、図2Aの細胞培養用デバイス20のA-A線断面における断面図である。
図3図3は、細胞培養用デバイス20の複数の微細孔30を有する培養部21の細胞播種面21aの一部を拡大した上面図である。X及びYは、それぞれ独立して微細孔30の開口部31の一辺の長さを示し、pは、ピッチを示す。
図4図4は、図3の複数の微細孔30を有する培養部21のB-B線断面における断面図である。Xは、微細孔30の開口部31の一辺の長さを示し、pは、ピッチを示し、hは、微細孔30の深さを示す。
図5A図5Aは、細胞培養用デバイスの基材に微細孔を形成する方法の一例を示す図であって、細胞培養用デバイスの培養部の表面の複数の微細孔の反転形状が刻印された原盤40と、基材としての樹脂フィルム41とを応対させる工程の一例を示す概略説明図である。
図5B図5Bは、細胞培養用デバイスの基材に微細孔を形成する方法の一例を示す図であって、図5Aに示す工程の後、原盤40を樹脂フィルム41に押圧させる工程の一例を示す概略説明図である。
図5C図5Cは、細胞培養用デバイスの基材に微細孔を形成する方法の一例を示す図であって、図5Bに示す工程の後、樹脂フィルム41を原盤40から剥離させ、原盤40の形状が樹脂フィルム41に転写された基材を得る工程の一例を示す概略説明図である。
図6図6は、培養部21、取出し部22、及び接続部23を有する細胞培養用デバイスを、樹脂フィルム41から抜き加工する工程の一例を示す概略説明図(上面図)である。
図7図7は、実施例1及び比較例1の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞、並びに対照として培養された細胞の、造血幹細胞の細胞表面マーカーの解析結果を示す図である。縦軸は、CD34が陽性であり、CD90が陽性であり、かつCD45RAが陰性である造血幹細胞分画(以下、[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]と称することがある)の細胞数を示す。
図8図8は、実施例1~3の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞の、造血幹細胞の細胞表面マーカーの解析結果を示す図である。縦軸は、造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数を示す。
図9A図9Aは、臍帯血由来CD34陽性細胞を、実施例1の細胞培養用デバイスを用いて7日間培養後に位相差顕微鏡で観察した写真の一例を示す図である。スケールバーは100μmである。
図9B図9Bは、臍帯血由来CD34陽性細胞を、実施例2の細胞培養用デバイスを用いて7日間培養後に位相差顕微鏡で観察した写真の一例を示す図である。スケールバーは50μmである。
図9C図9Cは、臍帯血由来CD34陽性細胞を、実施例3の細胞培養用デバイスを用いて7日間培養後に位相差顕微鏡で観察した写真の一例を示す図である。スケールバーは200μmである。
図10図10は、実施例1及び実施例6の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞の、造血幹細胞の細胞表面マーカーの解析結果を示す図である。縦軸は、造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数を示す。
図11図11は、実施例1、実施例2、実施例4、及び実施例5の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞の、造血幹細胞の細胞表面マーカーの解析結果を示す図である。縦軸は、造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数を示す。
図12図12は、実施例1、実施例2、実施例4、実施例5、及び実施例6の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞の、造血幹細胞の細胞表面マーカーの解析結果を示す図である。縦軸は、造血幹細胞及び造血前駆細胞分画[CD34+細胞]の細胞数を示す。
図13図13は、実施例1~3の細胞培養用デバイスを用いて培養された細胞のメチルセルロースコロニーアッセイの結果を示す図である。縦軸は、コロニー数を示す。グラフの下から順に、濃グレーが顆粒球系・単球系前駆細胞のコロニー数を示し、斜線が前期赤芽球系前駆細胞のコロニー数を示し、薄グレーが複数の系統の血球が混ざった混合コロニー数を示す。
図14A図14Aは、微細孔の開口部(上面図)の外縁が形成する形状が多角形の場合の平均長さ(La1)の算出方法の一例を示す概略説明図である。
図14B図14Bは、微細孔の開口部(上面図)の外縁が形成する形状が多角形ではない場合の平均長さ(La2)の算出方法の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(細胞培養用デバイス)
本発明の細胞培養用デバイスは、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれか(以下、単に「細胞」と略記することがある)の培養に用いられる培養部を備えた基材を有し、必要に応じて更にその他の構成を有する。
【0013】
前記細胞培養用デバイスは、単独で造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられてもよく、公知の培養容器にインサートのような形態で用いられてもよい。
【0014】
前記細胞培養用デバイスを単独で造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いる場合、その形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の培養容器と同様の形状などが挙げられる。
【0015】
本明細書において、「インサート」とは、公知の培養容器のウェル内やディッシュ内に重ねて使用するものを意味する。前記細胞培養用デバイスを前記インサートとして使用する場合、前記細胞培養用デバイスは、前記培養部で造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養することができれば、前記公知の培養容器のウェルやディッシュの底部に接するように配されてもよく、接しないように配されてもよい。
【0016】
<基材>
前記基材は、培養部を備えてなり、必要に応じて更にその他の部材を備えてなる。
前記基材の形状としては、前記基材における培養部に複数の微細孔を配することができる形状であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シート状、フィルム状、板状、プレート状、ボード状などが挙げられる。
前記基材は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0017】
前記基材の平均厚みとしては、特に制限はなく、前記微細孔の深さなどに応じて適宜選択することができるが、50μm~300μmが好ましく、100μm~200μmがより好ましい。前記基材の平均厚みが、50μm以上であると、基材の反りや撓みの点で好ましく、300μm以下であると、抜き加工の点で好ましい。
前記基材の平均厚みは、マイクロメータMDC-25MX(No.293-230-30、株式会社ミツトヨ製)で前記基材の任意の10箇所の厚みを測定し、その測定値から算出した平均値である。
【0018】
<<培養部>>
前記培養部は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられる部材である。
前記培養部は、複数の微細孔を有し、必要に応じて更にその他の構成を有する。
【0019】
前記培養部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正円形(真円形)、楕円形等の円形;各辺の長さが異なっていてもよい、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形;これらの形状の組合せなどが挙げられるが、前記細胞培養用デバイスが前記インサートとして使用される場合は、適用する培養容器の形状に合わせて適宜選択することができる。
【0020】
前記培養部のJIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定されたヤング率は、少なくとも3GPaである。前記培養部のヤング率が3GPa未満であると、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかのインビトロでの増殖効率が悪くなる。
前記培養部のヤング率は、前記培養部を骨髄内環境に酷似した状態、即ち、海綿骨様の硬い状態とする点で、少なくとも3GPaであることが重要である。したがって、前記培養部のヤング率の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記ヤング率が少なくとも3GPaである培養部の材質としては、特に制限はなく、一般的に使用される樹脂材料の中から適宜選択することができ、例えば、熱により変形又は伸長する熱可塑性樹脂や、紫外線の光エネルギーにより液体から固体に硬化する紫外線硬化型樹脂などが挙げられる。
【0022】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸との共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレンが好ましい。
【0023】
前記紫外線硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート系、ウレタンアクリレート系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
-微細孔-
前記培養部が有する微細孔は、前記培養部の厚み方向(前記基材の厚み方向)において、一端が前記培養部の外部に連通した非貫通孔(穴)であることが、前記微細孔の深さを一定にすることが容易である点で好ましい。
【0025】
前記非貫通孔は、前記基材の表面を基準面として、凹部として形成されてなるものであってもよく、凸部として形成されてなるものであってもよいが、簡易に製造することができる点で、凹部として形成されてなるものであることが好ましい。
【0026】
前記培養部において、前記非貫通孔は、前記培養部の一方の面のみに設けられることが好ましい。この場合、前記培養部における前記非貫通孔が設けられた面が、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを播種するための面(以下、「細胞播種面」と称することがある)として用いられることが好ましい。
【0027】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記微細孔の内部に入り込むことにより、前記微細孔の内部の細胞が適度な密度となり、細胞同士のクロストーク(例えば、パラクライン因子、オートクライン因子など)により、自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖される。前記微細孔の内部に入り込んだ造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記微細孔内の前記細胞播種面上に2次元的に増殖するだけでなく、前記微細孔の深さ方向に3次元的に増殖されるため、これにより更に前記微細孔の内部の環境が、海綿骨様の状態となる点で有利である。
このように、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記微細孔の内部で培養されることが好ましい。
【0028】
前記培養部を上面視した場合の前記複数の微細孔の配列の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直線状、曲線状、折れ線形状、同心円状、格子状、ハニカム状、これらの形態の組合せなどが挙げられる。
また、前記複数の微細孔の配列の形態は、規則的な配列であってもよく、不規則な配列であってもよいが、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で、規則的な配列が好ましい。
【0029】
前記複数の微細孔は、前記培養部の一部に配されていてもよく、前記培養部の全体に配されていてもよいが、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの増殖効率が良い点で、前記培養部の全体に配されていることが好ましい。
前記複数の微細孔が、前記培養部の一部に配されている場合、前記培養部において、前記複数の微細孔を配する位置及び大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
前記培養部における前記微細孔の数としても、特に制限はなく、前記培養部又は前記細胞培養用デバイスの大きさなどに応じて適宜選択することができる。
【0031】
前記培養部を上面視した場合の前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正円形(真円形)、楕円形等の円形;各辺の長さが異なっていてもよい、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形;これらの形状の組合せなどが挙げられる。これらの中でも、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状としては、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で、正円形、各辺の長さが等しい正多角形が好ましい。
前記複数の微細孔における前記開口部の外縁が形成する形状は、全て同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよいが、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で、全て同一であることが好ましい。
【0032】
前記培養部を上面視した場合の前記微細孔の開口部の開口面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.25×10-4mm~0.01mmが好ましく、0.0009mm~0.0064mmがより好ましく、0.0016mm~0.0036mmが更に好ましい。なお、前記培養部を上面視した場合の前記微細孔の開口部の開口面積は、前記微細孔の開口部の外縁が形成する図形の面積である。
【0033】
また、前記培養部を上面視した場合の前記微細孔における開口部に対して水平方向の断面の開口面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、底部から開口部に向かって変化していてもよく、変化していなくてもよい。前記開口面積が、前記微細孔の底部から開口部に向かって変化する場合は、次第に増加するような形状であってもよい。
【0034】
前記微細孔の開口部の平均長さ(La)としては、特に制限はなく、前記微細孔の数、開口部の平均ピッチなどに応じて適宜選択することができるが、15μm~100μmが好ましく、30μm~80μmがより好ましく、40μm~60μmが特に好ましい。造血幹細胞及び造血前駆細胞の大きさは、直径10μm~15μm程度であるため、前記開口部の平均長さ(La)が15μm以上であると、前記微細孔内に造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが入り込みやすい点で好ましい。また、前記開口部の平均長さ(La)が100μm以下であると、前記微細孔内に入り込んだ造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが適度な密度となり、自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる点で好ましい。
なお、本明細書において「平均長さ(La)」は、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状に応じて、以下に説明する「平均長さ(La1)」、「平均長さ(La2)」、及び「平均長さ(La3)」のいずれかを意味する。
【0035】
本明細書において、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が多角形の場合、前記微細孔の開口部の平均長さ(La1)は以下のようにして求める。
任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する多角形の各辺の長さを測定した後、全ての辺の長さの平均値(Sa)を算出する。これを任意に選択した10個の微細孔について算出し、それぞれ平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、平均値(Sa)、及び平均値(Sa10)とする。次に、平均値(Sa)~(Sa10)の平均値を算出し、これを「平均長さ(La1)」とする。
ただし、前記細胞培養用デバイスにおける前記微細孔の数が10個未満の数(n個)である場合は、平均値(Sa)~(Sa)の平均値を算出し、これを「平均長さ(La1)」とする。
前記開口部の外縁が形成する形状の各辺の長さは、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定することができる。
【0036】
前記平均長さ(La1)について、図14Aを用いてより具体的に説明する。例えば、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が図14Aに示すような四角形の場合、任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する四角形における辺a、辺b、辺c、及び辺dの長さを測定した後、下記式(1-1)により全ての辺の長さの平均値(Sa)を算出する。同様にして、他の任意に選択した9個の微細孔について、それぞれ下記式(1-2)~(1-10)により平均値(Sa)~(Sa10)を算出する。次に、下記式(1-11)により平均値(Sa)~(Sa10)の平均値を算出することにより、「平均長さ(La1)」を求めることができる。
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-1)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-2)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-3)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-4)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-5)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-6)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-7)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-8)
平均値(Sa)=(a+b+c+d)/4 ・・・ 式(1-9)
平均値(Sa10)=(a10+b10+c10+d10)/4 ・・・ 式(1-10)
平均長さ(La1)=[(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa)+(Sa10)]/10 ・・・ 式(1-11)
【0037】
本明細書において、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が多角形ではない場合、前記微細孔の開口部の平均長さ(La2)は以下のようにして求める。
任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する形状における最大長さ(Ma1)、及び前記最大長さ(Ma1)に直交する方向の最大長さ(Ma2)を測定した後、前記最大長さ(Ma1)と前記最大長さ(Ma2)との平均値(Ia)を算出する。これを任意に選択した10個の微細孔について算出し、それぞれ平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、平均値(Ia)、及び平均値(Ia10)とする。次に、平均値(Ia)~(Ia10)の平均値を算出し、これを「平均長さ(La2)」とする。
ただし、前記細胞培養用デバイスにおける前記微細孔の数が10個未満の数(n個)である場合は、平均値(Ia)~(Ia)の平均値を算出し、これを「平均長さ(La2)」とする。
前記開口部の外縁が形成する形状における前記最大長さ(Ma1)及び該最大長さ(Ma1)に直交する方向の最大長さ(Ma2)は、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定することができる。
【0038】
前記平均長さ(La2)について、図14Bを用いてより具体的に説明する。例えば、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が図14Bに示すような楕円形の場合、任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する楕円形における最大長さ(Ma1)(図14Bにおいて実線で示す)、及び前記最大長さ(Ma1)に直交する方向の最大長さ(Ma2)(図14Bにおいて破線で示す)を測定した後、下記式(2-1)により最大長さ(Ma1)と最大長さ(Ma2)との平均値(Ia)を算出する。同様にして、他の任意の9個の微細孔について、下記式(2-2)~(2-10)により平均値(Ia)~(Ia10)を算出する。次に、下記式(2-11)により平均値(Ia)~(Ia10)の平均値を算出することにより、「平均長さ(La2)」を求めることができる。
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-1)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-2)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-3)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-4)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-5)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-6)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-7)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-8)
平均値(Ia)=(Ma1+Ma2)/2 ・・・ 式(2-9)
平均値(Ia10)=(Ma110+Ma210)/2 ・・・ 式(2-10)
平均長さ(La2)=[(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia)+(Ia10)]/10 ・・・ 式(2-11)
【0039】
また、前記細胞培養用デバイスにおいて、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状として、多角形と、多角形ではない形状とが混在する場合の平均長さ(La3)は、下記式(3)より算出する。
平均長さ(La3)=[平均長さ(La1)+平均長さ(La2)]/2 ・・・ 式(3)
【0040】
前記微細孔の深さ方向(前記基材の厚み方向)の断面の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正円形(真円形)、楕円形等の円形の円周の一部が欠如した形状(例えば、半円型);各辺の長さが異なっていてもよい、三角形(例えば、V字型)、四角形(例えば、矩形、両テーパー状、片テーパー状など)、六角形、八角形等の多角形;これらの形状の組合せ(例えば、前記微細孔の深さ方向の断面において、深さ方向の辺(開口部又は底部に対して垂直な辺)は直線であり、前記微細孔の底部のみU字型など)などが挙げられる。前記複数の微細孔における前記深さ方向の断面の形状は、全て同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0041】
前記微細孔の平均深さ(H)としては、特に制限はなく、前記基材の厚みなどに応じて適宜選択することができるが、15μm~160μmが好ましく、30μm~160μmがより好ましく、40μm~100μmが更に好ましい。上記の通り、造血幹細胞及び造血前駆細胞の大きさは、直径10μm~15μm程度であるため、前記微細孔の平均深さ(H)が15μm以上であると、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが前記微細孔内に入り込むことができる点で好ましい。また、前記微細孔の平均深さ(H)が160μm以下であると、前記微細孔内に入り込んだ造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが適度な密度となり、自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる点で好ましい。
【0042】
本明細書において、前記培養部の基材の厚み方向(前記基材表面の基準面に対して垂直方向)における前記基材表面の基準面から前記微細孔の底部までの微細孔の深さ(「長さ」又は「高さ」とも称する)を「微細孔の深さ(h)」とする。前記微細孔の底部が平坦状ではない場合は、最も深い部分の深さを「微細孔の深さ(h)」とする。この微細孔の深さ(h)を任意に選択した10個の微細孔について測定し、10箇所の微細孔の深さ(h)の平均値を「平均深さ(H)」とする。
前記微細孔の深さ(h)は、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定することができる。
【0043】
前記開口部の平均長さ(La)に対する、前記微細孔の平均深さ(H)の比[H/La](以下、「アスペクト比」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上が特に好ましい。前記アスペクト比が、0.5以上であると、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが前記微細孔内に入り込みやすく、また前記微細孔内に入り込んだ造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが適度な密度となり、自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができる点で好ましい。前記アスペクト比は、前記培養部を骨髄内環境に酷似した状態とする点で、その下限値が重要である。したがって、前記アスペクト比の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記微細孔内に入り込んだ造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかに、酸素や栄養分を十分供給することができる点で、2.0以下であることが好ましい。
前記複数の微細孔における前記アスペクト比は、全て同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0044】
前記複数の微細孔の配列の形態が規則的な配列であり、かつ前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が中心を有する形状(例えば、真円形、正方形など)の態様である場合、前記複数の微細孔の開口部の平均ピッチ(P)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記式(4-1)を満たすことが好ましく、下記式(4-2)を満たすことがより好ましい。前記平均ピッチ(P)が、下記式(4-1)の範囲を超えると、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが前記複数の微細孔に入り込む効率が悪くなり、効率良く増殖させることができないことがある。
P≦2La ・・・ 式(4-1)
1La<P≦2La ・・・ 式(4-2)
前記式(4-1)及び式(4-2)において、「P」は、平均ピッチを示し、「La」は、前記微細孔の開口部の平均長さを示す。
本明細書において、この態様の場合、任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する形状の中心と、前記任意に選択した1個の微細孔と隣接する他の微細孔の開口部の外縁が形成する形状の中心との最短中心間距離を「ピッチ(p)」とする。この最短中心間距離を任意に選択した10個の微細孔について測定し、10箇所の最短中心間距離の平均値を「平均ピッチ(P)」とする。
前記ピッチ(p)は、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で前記培養部の表面を観察することで測定できる。
【0045】
また、前記複数の微細孔の配列の形態が不規則な配列であるか、又は前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状が中心を有しない形状の態様である場合、任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁と、前記任意に選択した1個の微細孔と隣接する他の微細孔の開口部の外縁との最短距離を「ピッチ(p)」とする。この最短距離を任意に選択した10個の微細孔について測定し、10箇所の最短距離の平均値を「平均ピッチ(P)」とする。
【0046】
前記培養部における前記複数の微細孔の孔密度としては、特に制限はなく、前記微細孔の開口部の前記平均長さ(La)、前記平均深さ(H)、前記平均ピッチ(P)などに応じて適宜選択することができるが、2,000個/cm~160,000個/cmが好ましく、20,000個/cm~63,000個/cmがより好ましい。前記孔密度が、2,000個/cm未満又は160,000個/cmを超えると、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを効率良く増殖させることができないことがある。
【0047】
前記培養部を上面視した場合の前記微細孔の底部の外縁が形成する形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状として例示した形状などが挙げられる。前記培養部を上面視した場合の前記微細孔の底部の外縁が形成する形状は、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で、前記微細孔の開口部の外縁が形成する形状と同じ形状であることが好ましい。
【0048】
前記微細孔の深さ方向の断面における底部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、平坦状、略平坦状、円弧状、略円弧状、これらの形状の組合せなどが挙げられる。前記複数の微細孔の底部の形状は、全て同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0049】
前記微細孔の底部の平均長さ(Lb)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15μm~100μmが好ましく、30μm~80μmより好ましく、40μm~60μmが更に好ましい。前記底部の平均長さ(Lb)が15μm以上であると、前記微細孔内に造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが入り込みやすい点で好ましい。
なお、本明細書において「平均長さ(Lb)」は、前記微細孔の底部の外縁が形成する形状に応じて、以下に説明する「平均長さ(Lb1)」、「平均長さ(Lb2)」、及び「平均長さ(Lb3)」のいずれかを意味する。
【0050】
本明細書において、前記微細孔の底部の外縁が形成する形状が多角形の場合、前記微細孔の底部の平均長さ(Lb1)は、前記微細孔の開口部の平均長さ(La1)と同様の方法で求めることができる。
具体的には、任意に選択した1個の微細孔の底部の外縁が形成する多角形の各辺の長さを測定した後、全ての辺の長さの平均値(Sb)を算出する。これを任意に選択した10個の微細孔について算出し、それぞれ平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、平均値(Sb)、及び平均値(Sb10)とする。次に、平均値(Sb)~(Sb10)の平均値を算出し、これを「平均長さ(Lb1)」とする。
ただし、前記細胞培養用デバイスにおける前記微細孔の数が10個未満の数(n個)である場合は、平均値(Sb)~(Sb)の平均値を算出し、これを「平均長さ(Lb1)」とする。
前記底部の外縁が形成する形状の各辺の長さは、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定することができる。
【0051】
本明細書において、前記微細孔の底部の外縁が形成する形状が多角形ではない場合、前記微細孔の底部の平均長さ(Lb2)は、前記微細孔の開口部の平均長さ(La2)と同様の方法で求めることができる。
具体的には、任意に選択した1個の微細孔の底部の外縁が形成する形状における最大長さ(Mb1)、及び前記最大長さ(Mb1)に直交する方向の最大長さ(Mb2)を測定した後、前記最大長さ(Mb1)と前記最大長さ(Mb2)との平均値(Ib)を算出する。これを任意に選択した10個の微細孔について算出し、それぞれ平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、平均値(Ib)、及び平均値(Ib10)とする。次に、平均値(Ib)~(Ib10)の平均値を算出し、これを「平均長さ(Lb2)」とする。
ただし、前記細胞培養用デバイスにおける前記微細孔の数が10個未満の数(n個)である場合は、平均値(Ib)~(Ib)の平均値を算出し、これを「平均長さ(Lb2)」とする。
前記底部の外縁が形成する形状における前記最大長さ(Mb1)及び該最大長さ(Mb1)に直交する方向の最大長さ(Mb2)は、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定することができる。
【0052】
前記微細孔の内部の表面は、前記基材の材質そのものであってもよく、表面処理が施されていてもよいが、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの接着性の点で、表面処理が施されていることが好ましい。造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、通常非接着性の細胞であるため、前記微細孔の内部の表面に表面処理が施されることにより吸着しやすくなり、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが前記微細孔の内部に留まりやすくなる点で有利である。
【0053】
前記微細孔の内部の表面処理に用いられる材料としては、特に制限はなく、細胞の培養に一般的に使用されるものの中から、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、MPCポリマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等の親水性ポリマー;コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、ゼラチン、レクチン、ポリリジン等の天然ポリマー;ハイドロキシアパタイト等の無機材料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記微細孔の内部に表面処理を施す方法としては、特に制限はなく、公知の表面処理方法の中から、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、グラフト重合法などが挙げられる。
【0055】
前記表面処理は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの接着性の点で、前記微細孔の内部の表面に施されていることが好ましいが、前記培養部全体に施されていてもよく、前記細胞培養用デバイス全体に施されていてもよい。
【0056】
<<その他の部材>>
前記細胞培養用デバイスの前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、取出し部、接続部、結合部などが挙げられる。
【0057】
-取出し部-
前記取出し部は、前記細胞培養用デバイスを培養容器から取り出すために用いられる部材である。
前記細胞培養用デバイスが、前記取出し部を有することで、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から簡便に取り出すことができ、操作性に優れる点で有利である。
【0058】
前記取出し部の材質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記培養部と同様の材質であることが、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で好ましい。したがって、前記取出し部の表面は、前記培養部と同様に、前記複数の微細孔が配されたものであってもよい。また、前記取出し部の表面は、前記培養部と同様に、前記表面処理が施されたものであってもよい。
【0059】
前記取出し部の形状としては、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から取り出すことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角柱状、四角柱状、六角柱状、八角柱状等の多角柱状などの柱状;円錐状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角錐状、四角錐状、六角錐状、八角錐状等の角錐状などの錐体状;正円形(真円形)、楕円形等の円形、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形の面を有するシート状又はプレート状;これらの形状の組合せなどが挙げられる。
【0060】
前記取出し部の大きさとしては、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から取り出すことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0061】
前記細胞培養用デバイスにおける前記取出し部の位置としては、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から取り出すことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径の全端部(前記培養部の外縁を囲むような形態)、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径の一部の端部、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径で囲まれたいずれかの部分(例えば、前記培養部の中心部など)などが挙げられる。
【0062】
また、前記取出し部は、前記培養部における前記微細孔を有する面に設けることが好ましい。これにより、前記細胞培養用デバイスにおける前記微細孔を有する面、即ち前記細胞播種面を容易に判別することができ、前記細胞培養用デバイスをインサートとして使用する場合も操作性に優れる点で有利である。
【0063】
前記培養部の前記細胞播種面に対する前記取出し部の角度としては、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から取り出すことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞培養用デバイスを前記インサートとして使用する場合は、前記細胞培養用デバイスを適用する培養容器の形状などに応じて適宜設計することができる。
【0064】
前記細胞培養用デバイスにおける前記取出し部の数としては、前記細胞培養用デバイスを前記培養容器から取り出すことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0065】
-接続部-
前記接続部は、前記培養部と前記取出し部とを接続する部材である。
前記細胞培養用デバイスが、前記接続部を有することで、前記細胞培養用デバイスを製造する際、前記培養部と前記取出し部とを接続するための工程が不要となる点で有利である。また前記接続部を折り曲げ可能な形状又は構造とした場合、前記接続部を折り曲げるだけで、前記培養部と前記取出し部とを有する細胞培養用デバイスを簡便に製造することができる点でも有利である。
【0066】
前記接続部の材質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記培養部と同様の材質であることが、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で好ましい。したがって、前記接続部の表面は、前記培養部と同様に、前記複数の微細孔が配されたものであってもよい。また、前記接続部の表面は、前記培養部と同様に、前記表面処理が施されたものであってもよい。
【0067】
前記接続部の形状としては、前記培養部と前記取出し部とを接続することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角柱状、四角柱状、六角柱状、八角柱状等の多角柱状などの柱状;円錐状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角錐状、四角錐状、六角錐状、八角錐状等の角錐状などの錐体状;正円形(真円形)、楕円形等の円形、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形の面を有するシート状又はプレート状;これらの形状の組合せなどが挙げられる。
【0068】
前記接続部の大きさとしては、前記培養部と前記取出し部とを接続することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記培養部に占める面積が可能な限り小さくなるような大きさであることが好ましい。これにより、前記培養部における造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養するための面積を広く確保することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを効率良く増殖させることができる点で有利である。
【0069】
前記細胞培養用デバイスにおける前記接続部の位置としては、前記培養部と前記取出し部とを接続することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径の全端部(前記培養部の外縁を囲むような形態)、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径の一部の端部、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の辺又は径で囲まれたいずれかの部分(例えば、前記培養部の中心部など)などが挙げられる。
【0070】
前記細胞培養用デバイスにおける前記接続部の数としては、前記培養部と前記取出し部とを接続することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0071】
-結合部-
前記結合部は、一の培養部と他の培養部、あるいは、一の結合部と他の結合部とを結合させる部材である。
前記細胞培養用デバイスが、前記インサートとして使用され、複数のウェルを有する培養容器などに適用される場合、前記細胞培養用デバイスが前記結合部を有しない場合は、前記細胞培養用デバイスを複数のウェルに1つずつ挿入し、更に培養後には、1つずつ回収する必要があり、操作が煩雑になる。一方、前記細胞培養用デバイスが前記結合部を有すると、該細胞培養用デバイスを複数のウェルに1回の操作で挿入することができ、かつ、培養後には、複数のウェルから1回の操作で取出すことができるため、操作性に優れる点で有利である。
【0072】
前記結合部の材質としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記培養部と同様の材質であることが、前記細胞培養用デバイスを製造する上で簡便である点で好ましい。
【0073】
前記結合部の形状としては、一の培養部と他の培養部、あるいは、一の結合部と他の結合部とを結合させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角柱状、四角柱状、六角柱状、八角柱状等の多角柱状などの柱状;円錐状、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角錐状、四角錐状、六角錐状、八角錐状等の角錐状などの錐体状;正円形(真円形)、楕円形等の円形、若しくは、各辺の長さが異なっていてもよい、三角形、四角形、六角形、八角形等の多角形の面を有するシート状又はプレート状;これらの形状の組合せなどが挙げられる。
【0074】
前記結合部の位置、大きさ、及び数としては、一の培養部と他の培養部、あるいは、一の結合部と他の結合部とを結合させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記細胞培養用デバイスを前記インサートとして使用する場合、前記結合部は、前記細胞培養用デバイスを適用する培養容器の形状などに応じて適宜設計することができる。
前記結合部を有する細胞培養用デバイスは、複数のウェルを有する培養容器のウェルを被覆可能な形状であってもよい。このような形状であると、培養終了後に前記細胞培養用デバイスを培養容器から取り出すことで、培養容器をリサイクルすることもできる点で有利である。
【0075】
以下に、本発明の細胞培養用デバイスの一態様について、96ウェルプレートのインサートとして使用する場合の態様を、図1図4により具体的に説明するが、本発明は、この態様に限られるものではない。
【0076】
図1は、公知の96ウェルプレートの1つのウェル1内に、ウェル1底部の形状と略同一の円形の培養部21を有する細胞培養用デバイス20が挿入され、培養部21がウェル1底部の面に接するように配置された状態を示す図(斜視図)である。また、図2Aは、図1のウェル内に配置された細胞培養用デバイス20の全体像を示す図(斜視図)である。細胞培養用デバイス20は取出し部22を有し、この取出し部22をピンセット等でつまむことでウェル1内外への出し入れが行われる。図2Bは、図2AのA-A線断面における断面図である。細胞培養用デバイス20における培養部21と取出し部22とは、培養部21の細胞播種面21a(微細孔として非貫通孔が設けられた面)がウェル1底部と接する面とは反対側の面となるように、細胞播種面21aと取出し部22とがなす角度Tが180°未満、好ましくは約90°となる角度になるように接続部23で折り曲げられてなる。このような形状とすることで、細胞培養用デバイス20の細胞播種面21aを誤ることなくウェル1内に設置することができる。
【0077】
図3は、培養部21の細胞播種面21aの一部の拡大図(上面図)であり、培養部21の一方の面に、矩形の開口部を有する複数の微細孔30を有する態様を示す図である。また、図4は、図3のB-B線断面における断面図であり、細胞播種面21aに開口部31を有する。図4では、開口部31と底部32との形状及び大きさが略同一の態様を示す図である。本態様において、開口部31における一辺の長さXと、同一の微細孔30における他の一辺の長さYとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。複数の微細孔30の開口部の平均長さ(La)、平均ピッチP、平均深さH、及びアスペクト比[H/La]の好ましい範囲は上記した通りである。図1で示すように細胞培養用デバイス20がウェル1内に配置された状態で、培養液に懸濁した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかをウェル1内に播種することにより、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは培養液中で沈降して培養部20の微細孔30の内部に入り込み、微細孔30の内部に吸着する。この時、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、微細孔30の内部に適度な密度で入り込むことができるため、細胞同士が互いに影響を受け合い、未分化な状態を維持して増幅される。
【0078】
<製造方法>
前記細胞培養用デバイスの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、JIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定したヤング率が、少なくとも3GPaである基材の表面に複数の微細孔を作製し、必要に応じて、更に取出し部、接続部を作製する方法などが挙げられる。
【0079】
前記基材の表面に複数の微細孔を作製する方法としては、特に制限はなく、使用する前記基材の材質などに応じて、公知の成形方法の中から適宜選択することができ、例えば、加熱圧縮成形法、トランスファ成形法、射出成形法、押出し成形法(Tダイ法等)、積層成形法、真空成型法などが挙げられる。
【0080】
以下に、本発明の細胞培養用デバイスの製造方法の一例について、図5A図6を用いて具体的に説明するが、細胞培養用デバイスの製造方法は、この方法に限られるものではない。
【0081】
まず、前記培養部の表面の複数の微細孔の形状が反転した表面構造を有する原盤40を作製する。
前記原盤40の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、ガラス、シリコン、樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記金属としては、例えば、鉄系、アルミニウム系、銅系、SUS等のステンレス鋼などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、鉄系又はステンレス鋼の表面に無電解Ni-Pを被覆したものや、無酸素銅が好ましい。
前記樹脂としては、前記基材の材質と比べてガラス転移温度(Tg)の高いものを使用することが好ましい。
【0082】
前記原盤40に前記表面構造を加工する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、機械切削、レーザ描写、レーザによる干渉描画、電子線描画、エッチングなどが挙げられる。これらの中でも、機械切削が好ましく、単結晶ダイヤモンドによる精密機械加工がより好ましい。
【0083】
前記基材の材質として、フィルム状の熱可塑性樹脂(以下、「樹脂フィルム」と称することがある)を用いる場合、図5Aに示すように、前記培養部の表面の複数の微細孔の凹部の形状が反転した表面構造(凸形状)を有する原盤40に、樹脂フィルム41を応対させ、加熱しながら圧力をかける。これにより、原盤40の凸形状の表面構造が、樹脂フィルム41に圧着模様として転写される。前記転写時の加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、樹脂フィルム41のガラス転移温度(Tg)より高い温度が好ましい。
次に、図5Bに示すように、樹脂フィルム41を原盤40に十分押圧する。前記転写時の圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
次に、図5Cに示すように、原盤40の凸形状の表面構造が、樹脂フィルム41に転写されたところで型を冷却し、樹脂フィルム41を原盤40から剥離することにより、樹脂フィルム41の表面に複数の微細孔30を形成ことができ、これを培養部に用いることができる。
【0084】
図には示さないが、前記基材の材質として、樹脂フィルム41に換えて、前記紫外線硬化型樹脂を用いる場合についても具体的に説明する。
まず、紫外線硬化型樹脂を、前記培養部の表面の複数の微細孔の形状が反転した表面構造を有する原盤に塗布する。次に、前記紫外線硬化型樹脂の、前記原盤と接する面とは反対側の面に透明樹脂フィルム(例えば、PETフィルム;コスモシャインA4300 東洋紡株式会社製など)を貼り合わせ、前記透明樹脂フィルムを介して紫外線を照射することにより前記紫外線硬化型樹脂を硬化させる。次に、硬化した前記紫外線硬化型樹脂を前記原盤から剥離することにより、紫外線硬化型樹脂の表面に複数の微細孔を形成することができ、これを培養部に用いることができる。
【0085】
図6は、上記のようにして得られた、複数の微細孔が配された培養部を添えた基材としての樹脂フィルム41の上面図(複数の微細孔を有する面を示す図)である。樹脂フィルム41から培養部21を抜き加工することで、所望の形状の複数の微細孔が配された培養部21を得ることができる。この時、必要に応じて、抜き加工により、所望の形状の取出し部22を得てもよい。この際、培養部21と取出し部22とは、別々に抜き加工されてもよく、同時に抜き加工されてもよいが、培養部21と取出し部22とが接続部23を有するような形態で同時に抜き加工された場合、接続部23を折り曲げることにより、培養部21と取出し部22とを有する細胞培養用デバイスを簡便に製造することができる点で有利である。
図6では、円形の培養部21の径の端部の一部に、略長方形の取出し部22を有する細胞培養用デバイスを図示したが、培養部21及び取出し部22の大きさ、位置、形状などはこれに限られるものではない。
【0086】
また、図6では、複数の微細孔を有する一枚の樹脂フィルム41から、培養部21、取出し部22、及び接続部23を有する細胞培養用デバイスを一度に製造する方法を示したため、培養部21だけでなく、取出し部22及び接続部23も、培養部21と同様の表面構造(即ち、複数の微細孔)を有してもよいが、本発明の細胞培養用デバイスは、取出し部及び接続部を、培養部とは異なる基材から製造してもよい。
【0087】
<用途>
前記細胞培養用デバイスは、簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができるため、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかをインビトロで培養し、増殖させるための足場として好適に用いることができる。また、後述の本発明の細胞培養方法にも好適に用いることができる。更に、造血幹細胞の維持、増殖、分化等に関する研究などにも好適に用いることができる。
【0088】
また、前記細胞培養用デバイスは、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられた後、必要に応じて、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを所望の血球系細胞に分化させる因子などを添加して、分化させた血球系細胞の培養にそのまま使用されてもよい。
前記血球系細胞に分化させる因子としては、特に制限はなく、公知の因子の中から適宜選択することができ、例えば、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、トロンボポエチン(TPO)、エリスロポエチン(EPO)、オンコスタチンM、各種インターロイキン(IL)などが挙げられる。
【0089】
前記培養容器としては、特に制限はなく、公知の培養容器の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、384ウェル、192ウェル、96ウェル、48ウェル、24ウェル、12ウェル、6ウェル等のマルチウェルのマイクロプレート;8ウェル、4ウェル、2ウェル等のマルチウェルのチャンバー又は角型ディッシュ;直径が、35mm、60mm、100mm、150mm等の丸型細胞培養ディッシュ;フラスコ型の培養容器などが挙げられる。
【0090】
前記培養容器の材質としては、特に制限はなく、公知の培養容器の材質の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0091】
<<造血幹細胞及び造血前駆細胞>>
造血幹細胞は、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ等)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞等の全ての血球系細胞に分化することができる多分化能と、前記多分化能を維持したまま自己複製することができる自己複製能とを併せ持つ細胞であり、「長期造血幹細胞」とも呼ばれる。
造血前駆細胞は、造血幹細胞のような自己複製能は有しないが、種々の血球系細胞に分化することができる多分化能を有する細胞である。
【0092】
前記細胞培養用デバイスで培養される造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの由来としては、特に制限はなく、培養後の使用目的などに応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、マーモセット等の霊長類;マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類;ニワトリ等の鳥類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ウマ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目などが挙げられる。
これらの中でも、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等の血液癌の治療に応用する観点から、ヒト由来の造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0093】
前記細胞培養用デバイスで培養される造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが由来とする組織としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、肝臓などが挙げられる。これらの組織から由来する造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
前記細胞培養用デバイスで培養される造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記組織から単離した初代培養細胞であってもよく、継代培養した細胞であってもよい。また前記初代培養細胞又は前記継代培養した細胞を凍結保存した後に融解した細胞であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
前記組織から造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを単離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかに特異的な細胞表面マーカー(造血幹細胞特異的表面マーカー又は造血前駆細胞特異的表面マーカー)の発現を指標として前記組織から単離する方法などが挙げられる。
【0096】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかに特異的な細胞表面マーカーの発現を指標として前記組織から単離する方法としては、特に制限はなく、公知の手法の中から適宜選択することができ、例えば、造血幹細胞特異的表面マーカー又は造血前駆細胞特異的表面マーカーに対する抗体を用い、セルソーター、磁気ビーズ等によって、造血幹細胞特異的表面マーカー又は造血前駆細胞特異的表面マーカーの特性を有する細胞を単離する方法などが挙げられる。
【0097】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかに特異的な細胞表面マーカーは、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが由来する動物種によって適宜選択することができる。
ヒト由来の造血幹細胞は、通常、CD34陽性(+)、CD90(Thy1)陽性(+)、かつCD45RA陰性(-)である。また、これらの細胞表面マーカー加え、CD38陰性(-)、CD49(CD49f)陽性(+)などの細胞表面マーカーを併用してもよい。
ヒト由来の造血前駆細胞は、通常、CD34陽性(+)、CD38陰性(-)、CD45RA陰性(-)、CD90(Thy1)陰性(-)である。
マウス由来の造血幹細胞は、長期造血幹細胞(LT-HSC:long-term HSC)、中間型造血幹細胞(IT-HSC:intermediate-term HSC)、短期造血幹細胞(ST-HSC:short-term HSC)が挙げられる。
長期造血幹細胞(LT-HSC)のマーカーは、Sca-1陽性(+)、CD117陽性(+)、CD34陰性(-)、CD48陰性(-)、CD49b低発現(low)、CD135陰性(-)、CD150陽性(+)である。
中間型造血幹細胞(IT-HSC)のマーカーは、Sca-1陽性(+)、CD117陽性(+)、CD34陰性(-)、CD49高発現(high)、CD135陰性(-)、CD150陽性(+)である。
短期造血幹細胞(ST-HSC)のマーカーは、Sca-1陽性(+)、CD117陽性(+)、CD34陽性(+)、CD48陰性(-)、CD135陰性(-)、CD150-陰性(-)である。
マウス由来の造血前駆細胞は、Sca-1陽性(+)、CD117陽性(+)、CD34陽性(+)、CD48陰性(-)、CD135陽性(+)である。
【0098】
(細胞培養方法)
本発明の細胞培養方法は、前述の本発明の細胞培養用デバイスを用いて、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養する方法である。
前記細胞培養方法は、播種工程と、培養工程を含むことが好ましく、更に採取工程、回収工程、継代培養工程などを含んでいてもよく、必要に応じて、更にその他の工程を含んでいてもよい。
【0099】
<播種工程>
前記播種工程は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを前記細胞培養用デバイスに播種する工程である。
前記播種工程は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを、前記細胞培養用デバイスにおける前記複数の微細孔の内部に導入するために行われる。
【0100】
前記播種工程において、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記複数の微細孔の全ての内部に導入される必要はなく、少なくとも1個の微細孔の内部に導入することができればよいが、細胞の増殖効率の点から、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかが内部に導入された微細孔の数は多い程好ましい。
【0101】
前記播種工程において、1個の微細孔に導入される造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数としては、特に制限はなく、前記微細孔の開口部の前記平均長さ(La)、前記平均深さ(H)、前記アスペクト比(H/La)、前記平均ピッチ(P)などに応じて適宜選択することができる。
前記1個の微細孔に導入される造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数は、前記播種工程において最初に播種する造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数により調整することができる。
【0102】
前記播種工程で用いられる造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、前記「<<造血幹細胞及び造血前駆細胞>>」の項目に記載のものと同様ものを用いることができる。
【0103】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを前記細胞培養用デバイスに播種する方法としては、特に制限はなく、公知の細胞の播種方法の中から目的に応じて適宜選択することができるが、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを単細胞の状態にしてから播種することが好ましい。具体的には、単細胞の状態にした造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養液等の溶液に懸濁し、ピペット等を用いて前記細胞培養用デバイスに滴下する方法などが挙げられる。
【0104】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを単細胞の状態にする方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ピペッティング等の物理的な処理を行う方法などが挙げられる。
【0105】
前記細胞培養用デバイスに播種する際の造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数としては、特に制限はなく、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の大きさ、前記培養部における前記微細孔の大きさや数、目的とする造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養後の細胞数などに応じて適宜選択することができる。
例えば、前記細胞培養用デバイスを公知の96ウェルプレートのインサートとして使用する場合であって、前記細胞培養用デバイスにおける前記培養部の形状及び大きさが、前記96ウェルプレートにおけるウェル底面の形状及び大きさと略同一である場合は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数を、1,000細胞/ウェル~10,000細胞/ウェルとなるように播種することが好ましく、1,000細胞/ウェル~5,000細胞/ウェルとなるように播種することがより好ましい。
【0106】
<培養工程>
前記培養工程は、前記播種工程で播種した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養する工程である。
前記培養工程は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを、自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させるために行われる。
【0107】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養に用いられる培地(培養液)としては、特に制限はなく、公知の培地の中から適宜選択することができる。
通常、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの未分化性を維持する目的で、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、Flt-3リガンド(FL)、インターロイキン(IL)-3、IL-6、IL-11等のサイトカインや、ウシ血清アルブミン(BSA)等の血清アルブミンなどを含む培地で培養されるが、これに限られるものではない。
【0108】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養条件(温度、二酸化炭素(CO)濃度、酸素濃度など)としては、特に制限はなく、公知の条件の中から適宜選択することができる。
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養温度としては、通常、30℃~40℃であり、約37℃が好ましい。
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを培養する際のCO濃度としては、通常、1体積%~10体積%であり、2体積%~5体積%が好ましい。
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養条件は、市販のインキュベーター等の細胞培養装置によって調節することができる。
【0109】
造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの培養期間としては、特に制限はなく、培養後に目的とする造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの細胞数などに応じて適宜選択することができる。
【0110】
前記培養工程において、前記培養期間が長期間に渡る場合、培地を適宜新しいものと交換又は循環させてもよく、後述する継代培養工程を経てもよい。
【0111】
前記培養工程で培養された細胞が、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかであることの確認は、前記<<造血幹細胞及び造血前駆細胞>>の項目に記載した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかに特異的な細胞表面マーカーの発現を確認することにより行うことができる。
前記細胞表面マーカーの発現を確認する方法としては、前述のセルソーター、磁気ビーズ等による方法の他、免疫染色法、酵素活性測定法、リアルタイムRT-PCR法などを使用することもできる。
【0112】
<採取工程>
前記採取工程は、前記培養工程で培養した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを採取する工程である。
前記細胞培養方法が前記回収工程を含む場合は、前記回収工程で回収された前記細胞培養用デバイスに対して、前記採取工程を行うことができる。
【0113】
前記培養工程で培養した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを採取する方法としては、特に制限はなく、公知の細胞採取方法の中から適宜選択することができ、例えば、ピペッティングによる方法、前記細胞培養用デバイス(前記細胞培養用デバイスが前記インサートとして使用されている場合は、培養容器)を振る又は手でたたくことで振動を与える方法などが挙げられる。
前記方法により前記細胞培養用デバイスから浮遊又は剥離させた細胞は、培養液ごと採取することができる。
【0114】
<回収工程>
前記回収工程は、前記細胞培養用デバイスが前記インサートとして使用される場合に、前記培養工程後の培養容器から、培養された造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかと共に前記細胞培養用デバイスを回収する、あるいは、前記採取工程後の前記細胞培養用デバイスを回収する工程である。
【0115】
前記細胞培養用デバイスを回収する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピンセットを用いて回収する方法などが挙げられる。
【0116】
前記回収工程では、前記細胞培養用デバイスにおける前記取出し部又は前記結合部が好適に用いられる。
【0117】
<継代培養工程>
前記継代培養工程は、前記培養工程で培養した造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを、更に継代培養する工程である。
【0118】
前記継代培養を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記採取工程、前記播種工程、及び前記培養工程、必要に応じて更に前記回収工程を繰り返すことにより行われることが好ましい。前記継代培養工程は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0119】
前記細胞培養方法が1回のみ行われる場合、得られる細胞数には限りがあり、また前記培養期間が長期間に渡る場合、細胞密度の増加等により、細胞の老化や細胞死等のリスクが生じることや、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持できないことがある。そのため、前記細胞培養方法が、前記継代培養工程を含むことにより、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、更に多くの造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかを増殖させることができる点で有利である。
【0120】
<用途>
前記細胞培養方法は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができるため、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかのインビトロでの培養に好適に用いることができる。
【0121】
前記細胞培養方法で得られた造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等の血液癌の治療や、造血幹細胞の維持、増殖、分化等に関する研究などに好適に用いられる。また、前記細胞培養方法で得られた造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかは、公知の方法で凍結保存されてもよい。
【実施例0122】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0123】
(実施例1)
<金型の作製>
金型材料として、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2、幅70mm、長さ70mm、厚み8mm)を用いた。前記金型材料の加工面を、無電解Ni-Pめっきで処理し、厚み150μmのめっき層を形成した。次いで、超精密加工機を用いて、曲率半径5mmの単結晶ダイヤモンドバイトで前記めっき表面を切削して平滑にした。次いで、前記めっき表面の幅20mm、長さ20mmの範囲に、先端幅40.3μm、先端角8°(片側)の略矩形形状の単結晶ダイヤモンドバイトで微細な凸構造(格子状)を加工した。微細な凸構造としては、具体的には、幅47μm、長さ47μm、高さ50μm、幅方向のピッチ(凸構造における幅方向の凸部の中心間距離)87.3μm、及びピッチ(凸構造における長さ方向の凸部の中心間距離)87.3μmの直方体ピラー群を形成した。
なお、この微細な凸構造は、最終的に得られる細胞培養用デバイスの培養部の表面に形成させる構造を反転させた構造である。
【0124】
<細胞培養用デバイスの基材の成形>
細胞培養用デバイスに用いられる基材の成形は、前記金型を用いて、加熱圧縮成形法により行った。
具体的には、細胞培養用デバイスに用いられる基材として、厚み0.1mmの無延伸ポリスチレンフィルム(以下、単に「ポリスチレンフィルム」と称することがある)を用いた。前記ポリスチレンフィルムを前記金型の微細な凸構造側表面に載せ、そのポリスチレンフィルム上にSUSプレート(SUS304、幅70mm、長さ70mm、厚み1mm)を載せた。無加圧の状態で130℃までそれぞれ加熱し、130℃に到達したら0.3MPaの圧力を300s加えた。その後、前記ポリスチレンフィルムを固化させるために、加圧を保持した状態で、温度を40℃まで冷却した。次いで、除圧を行い無負荷になったら、前記金型から前記ポリスチレンフィルムを剥離することで、細胞培養用デバイスに用いられる基材を得た。
【0125】
<抜き加工>
得られた細胞培養用デバイスに用いられる基材から、炭酸ガスレーザを用いて、直径6mmの円形の培養部と、長さ8mm、幅2mmの矩形の取出し部を抜き出した(図6参照)。
【0126】
(実施例2)
実施例1の<金型の作製>において、金型の微細な凸構造を、幅15μm、長さ15μm、高さ15μm、ピッチ(凸構造における幅方向の凸部の中心間距離)30.0μm、及びピッチ(凸構造における長さ方向の凸部の中心間距離)30.0μmの直方体ピラー群に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の細胞培養用デバイスを得た。
【0127】
(実施例3)
実施例1の<金型の作製>において、金型の微細な凸構造を、幅100μm、長さ100μm、高さ90μm、ピッチ(凸構造における幅方向の凸部の中心間距離)200.0μm、及びピッチ(凸構造における長さ方向の凸部の中心間距離)200.0μmの直方体ピラー群に変更し、細胞培養用デバイスに用いられる基材を、厚み0.2mmの無延伸ポリスチレンフィルムに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の細胞培養用デバイスを得た。
【0128】
(実施例4)
実施例1の<金型の作製>において、金型の微細な凸構造を、幅30μm、長さ30μm、高さ30μm、ピッチ(凸構造における幅方向の凸部の中心間距離)64.1μm、及びピッチ(凸構造における長さ方向の凸部の中心間距離)64.1μmの直方体ピラー群に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の細胞培養用デバイスを得た。
【0129】
(実施例5)
実施例1の<金型の作製>において、金型の微細な凸構造を、幅80μm、長さ80μm、高さ80μm、ピッチ(凸構造における幅方向の凸部の中心間距離)160μm、及びピッチ(凸構造における長さ方向の凸部の中心間距離)160μmの直方体ピラー群に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の細胞培養用デバイスを得た。
【0130】
(実施例6)
実施例1において、細胞培養用デバイスに用いられる基材を、厚み0.1mmのポリカーボネートに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の細胞培養用デバイスを得た。
【0131】
(比較例1)
実施例1において、細胞培養用デバイスに用いられる基材を、厚み0.1mmの低密度ポリエチレンに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の細胞培養用デバイスを得た。
【0132】
実施例1~6及び比較例1の細胞培養用デバイスについて、下記表1にまとめて示す。
【0133】
【表1】
【0134】
なお、表1に示す、ヤング率、微細孔の開口部の平均長さ[La]、平均深さ[H]、及び平均ピッチ[P]は、それぞれ以下のようにして測定した値である。
【0135】
-ヤング率-
実施例1~5で使用した基材(ポリスチレン)、実施例6で使用した記載(ポリカーボネート)、及び比較例1で使用した基材(低密度ポリエチレン)のヤング率は、JIS K 7161-1及びJIS K 7161-2に準拠して測定した。
【0136】
-開口部の平均長さ[La]-
培養部の表面の任意の10個の微細孔を選択し、その開口部の外縁が形成する形状の各辺の長さを、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)でそれぞれ測定し、その平均値(Sa)~(Sa10)を算出した。次に、平均値(Sa)~(Sa10)の平均値を算出し、微細孔の開口部の平均長さ[La]とした。
【0137】
-平均深さ[H]-
培養部の表面の任意の10個の微細孔を選択し、前記培養部の基材の厚み方向における前記基材表面の基準面から前記微細孔の底部までの微細孔の深さ(前記微細孔の断面の厚み方向の長さ)(h)を電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)でそれぞれ測定し、10個の微細孔の深さ(h)の平均値を算出し、微細孔の平均深さ[H]とした。
【0138】
-平均ピッチ[P]-
培養部の表面の任意に選択した1個の微細孔の開口部の外縁が形成する形状の中心と、前記任意に選択した1個の微細孔と隣接する他の微細孔の開口部の外縁が形成する形状の中心との最短中心間距離(ピッチ(p))を、電界放出形走査電子顕微鏡S-4700(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。この最短中心間距離を任意に選択した10個の微細孔について測定し、10箇所の最短中心間距離の平均値を平均ピッチ[P]とした。
【0139】
(調製例1:CD34陽性細胞の調製)
以下の試験例で用いるCD34陽性細胞を、以下の方法で調製した。
【0140】
チューブ(50mL容量)にフィコール(Ficoll、ナカライテスク株式会社製)を12.5mLずつ分注した。また、滅菌した培養ビン(500mL容量)にヒト由来の臍帯血250mLを入れた後、PBSを250mL加えて混合し、臍帯血の希釈液を得た。次いで、各チューブのフィコール上に、前記臍帯血の希釈液37.5mLを積層させた。このチューブを、1,500rpm、25℃の条件下で25分間遠心分離した。これにより分離した最上層(血漿を含む層)を除去した後、単核球及びCD34陽性細胞を含む層(液相)を採取して、新しいチューブ(50mL容量)に移した。得られた単核球及びCD34陽性細胞を含む液25mLに対して、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、GEヘルスケア製)25mLを添加した後、1,500rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物に染色バッファー(SM;2体積%ウシ胎児血清(FBS、シグマアルドリッチ製)を含むPBS)2mLを添加して再懸濁し、全てのチューブを1本のチューブにまとめた。
ここで、ビルケルチュルク計算盤を用いて得られた細胞の細胞数を測定したところ、1.10×10細胞であった。
【0141】
前記SM中に懸濁した細胞を、1,500rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物に染色培地(SM)を添加し、細胞数が1×10細胞/50μLとなるように調整し、更にFcRブロッキング試薬(IMMUNOSTEP製)50μL及びCD34マイクロビーズ(CD34 MicroBead Kit UltraPure、 human、ミルテニーバイオテク製)50μLを添加した。これを4℃にて30分間インキュベートした後、4℃の染色培地(SM)で50mLとなるようにメスアップして転倒混和し、1,500rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈殿物にautoMACS(登録商標) Running Buffer(ミルテニーバイオテク製)を、単核球の細胞数が最大5×10細胞に対して1mL添加した。これを、LSカラム(ミルテニーバイオテク製)を用いた、磁気ビーズ細胞分離装置(autoMACS(登録商標)、ミルテニーバイオテク製)によりCD34陽性細胞を分離した。
分離されたCD34陽性細胞の細胞数は、1.16×10細胞であり、CD34陰性細胞(単核球)の細胞数は、2.31×10細胞であった。
【0142】
(試験例1-1:表面マーカーの解析1)
培養部のヤング率と、造血幹細胞の増殖との関係について、以下の方法で確認した。
【0143】
<細胞培養用デバイスの配置>
96ウェルプレート(ポリスチレン製、平底、TPP製)のウェル内に、実施例1及び比較例1の細胞培養用デバイスをそれぞれ配置した。また、細胞培養用デバイスを配置しないウェルを対照とした。いずれも3連で実施した(n=3)。
【0144】
<細胞培養用デバイスの表面コート処理>
フィブロネクチン(SouthernBiotech製)を25μg/mLとなるようにPBS(-)(シグマアルドリッチ製)で希釈してフィブロネクチン溶液を調製した。前記フィブロネクチン溶液を各ウェル中の細胞培養用デバイスの培養部上及び対照ウェルの底面上に50μLずつ滴下した後、37℃にて1時間静置することにより、培養部の表面又は対照ウェルの底面をフィブロネクチンでコートした。次いで、前記フィブロネクチン溶液をウェルから除去し、PBSで1回洗浄した。
【0145】
<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>
無血清培地(X-Vivo10、Lonza製)18mLに、10体積%ウシ血清アルブミン(BSA、ナカライテスク株式会社製)2mL、100ng/μLの幹細胞因子(Stem Cell Factor,Human、SHENANDOAH製)20μL、10ng/μLのトロンボポエチン(Thrombopoietin,Human、SHENANDOAH製)200μL、及び100ng/μLのFlt-3リガンド(Flt-3 Ligand,Human、SHENANDOAH製)20μLを加えて培養液を調製した。
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞を、表面コート処理した細胞培養用デバイス上及び対照ウェルにそれぞれ1,000細胞/ウェルとなるように播種し、前記培養液を200μL/ウェル添加した後、5体積%CO、37℃の条件下で7日間静置培養した。
【0146】
<表面マーカーの解析>
-抗体溶液の調製-
2体積%ウシ胎児血清(FCS、シグマアルドリッチ製)を含むPBS 46.8μLに、CD34-APC/Cy7(BioLegend製)0.7μL、CD38-PE/Cy7(BioLegend製)0.7μL、CD45RA-Brilliant Violet421(BioLegend製)0.7μL、及びCD90-APC(BioLegend製)1.1μLの各抗体を加えた抗体溶液を調製した。
【0147】
-[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の確認-
造血幹細胞の表面マーカーを用いて、培養前及び培養後の臍帯血由来CD34陽性細胞中の造血幹細胞の細胞数を、以下の方法で確認した。
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞(培養前の細胞)を含む培養液200μLをチューブに移した(n=3)。
臍帯血由来CD34陽性細胞の7日間培養後の細胞は、ウェル内を十分にピペッティングすることにより、細胞培養用デバイス上の細胞を培養液中に浮遊させた。ウェル毎に得られた細胞懸濁液の全量を、それぞれチューブに移した。
前記培養前の細胞を入れたチューブ又は前記培養後の細胞を入れたチューブに、それぞれ前記抗体溶液を10μL加えた後、遮光下、4℃にて30分間培養した。次に、このチューブを600gにて10分間遠心分離し、上澄みを除去した後、2体積%FCSを含むPBSを250μL、及びフローサイトメトリー用細胞カウントビーズ(CountBrightTM Absolute Counting Beads、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)5μLを添加し、フローサイトメーター(FACSCantoII、Becton Dickinson製)により各抗体を発現している細胞の細胞数をカウントした。
なお、CD34が陽性であり、CD90が陽性であり、かつCD45RAが陰性である細胞[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]が造血幹細胞である。
図7に培養後の細胞の表面マーカーに解析結果を示した。縦軸は、1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値を示す。また、図には示さないが、培養前の1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値は、7細胞であった。
【0148】
図7の結果より、培養部のヤング率が3GPaである実施例1の細胞培養用デバイスを使用した場合の造血幹細胞の細胞数は、細胞培養用デバイスを使用しなかった対照と比較して大幅に増加していた。一方、培養部のヤング率が3GPa未満である比較例1の細胞培養用デバイスを使用した場合の造血幹細胞の細胞数は、対照よりも減少していた。
この結果は、培養部のヤング率が3GPaである実施例1の細胞培養用デバイスが、骨髄内の海綿骨という硬い環境に近いことが一因としてもたらされた結果ではないかと推測される。
【0149】
(試験例1-2:表面マーカーの解析2)
試験例1-1において、<細胞培養用デバイスの配置>及び<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>を以下の方法に変更したこと以外は、試験例1-1と同様の方法で、<細胞培養用デバイスの表面コート処理>及び<表面マーカーの解析>を行い、微細孔の開口部の平均長さ(La)と造血幹細胞の増殖との関係について確認した。
【0150】
<細胞培養用デバイスの配置>
96ウェルプレート(ポリスチレン製、平底、TPP社製)のウェル内に、実施例1、実施例2、及び実施例3の細胞培養用デバイスをそれぞれ配置した。また、細胞培養用デバイスを配置しないウェルを対照とした。いずれも3連で実施した(n=3)。
【0151】
<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞を、表面コート処理した細胞培養用デバイス上及び対照ウェルに5,000細胞/ウェルとなるように播種し、試験例1-1で調製した培養液を200μL/ウェル添加した後、5体積%CO、37℃の条件下で7日間静置培養した。
培養7日間後、実施例1、実施例2、及び実施例3の細胞培養用デバイスで培養した細胞を位相差顕微鏡により観察した後、試験例1-1と同様の方法で<表面マーカーの解析>を行った。
【0152】
図8に表面マーカーに解析結果を示した。縦軸は、1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値を示す。また、図には示さないが、培養前の1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値は、37細胞であった。
【0153】
また、図9A図9Cに培養7日間後の微細孔の開口部付近の位相差顕微鏡の写真を示した。図9A図9C中、四角で囲まれた領域は、細胞培養用デバイス表面の微細孔であり、前記微細孔内に細胞が入り込んでいることが確認された。
造血幹細胞の大きさは10μm~15μm程度であるため、開口部の平均長さ(La)が15μm(実施例2)の微細孔には、1個の微細孔内に細胞が1個程度しか認められなかった。また、開口部の平均長さ(La)が100μm(実施例3)の微細孔には、1個の微細孔内に複数の細胞が認められたものの、細胞間の隙間が比較的広くなっていた。一方、開口部の平均長さ(La)が47μm(実施例1)の微細孔には、開口部付近を観察すると、1個の微細孔内に隙間がないくらいの細胞が認められた。
【0154】
(試験例1-3:表面マーカーの解析3)
試験例1-1において、<細胞培養用デバイスの配置>及び<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>を以下の方法に変更したこと以外は、試験例1-1と同様の方法で、<細胞培養用デバイスの表面コート処理>及び<表面マーカーの解析>を行い、培養部のヤング率と、造血幹細胞の増殖との関係について更に確認した。
【0155】
<細胞培養用デバイスの配置>
96ウェルプレート(ポリスチレン製、平底、TPP社製)のウェル内に、実施例1及び実施例6の細胞培養用デバイスをそれぞれ配置した。いずれも2連で実施した(n=2)。
【0156】
<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞を、表面コート処理した細胞培養用デバイス上及び対照ウェルに5,000細胞/ウェルとなるように播種し、試験例1-1で調製した培養液を200μL/ウェル添加した後、5体積%CO、37℃の条件下で7日間静置培養した。
培養7日間後、実施例1及び実施例6の細胞培養用デバイスで培養した細胞について、試験例1-1と同様の方法で<表面マーカーの解析>を行った。
【0157】
図10に培養後の細胞の表面マーカーに解析結果を示した。縦軸は、1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値を示す。
【0158】
(試験例1-4:表面マーカーの解析4)
試験例1-1において、<細胞培養用デバイスの配置>及び<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>を以下の方法に変更したこと以外は、試験例1-1と同様の方法で、<細胞培養用デバイスの表面コート処理>及び<表面マーカーの解析>を行い、微細孔のアスペクト比[H/La]を略同一とした場合の、微細孔の開口部の平均長さ[La]及び平均深さ[H]と、造血幹細胞の増殖との関係について確認した。
【0159】
<細胞培養用デバイスの配置>
96ウェルプレート(ポリスチレン製、平底、TPP社製)のウェル内に、実施例1、実施例2、実施例4、及び実施例5の細胞培養用デバイスをそれぞれ配置した。いずれも2連で実施した(n=2)。
【0160】
<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞を、表面コート処理した細胞培養用デバイス上及び対照ウェルに5,000細胞/ウェルとなるように播種し、試験例1-1で調製した培養液を200μL/ウェル添加した後、5体積%CO、37℃の条件下で7日間静置培養した。
培養7日間後、実施例1、実施例2、実施例4、及び実施例5の細胞培養用デバイスで培養した細胞について、試験例1-1と同様の方法で<表面マーカーの解析>を行った。
【0161】
図11に培養後の細胞の表面マーカーに解析結果を示した。縦軸は、1ウェルあたりの造血幹細胞分画[CD34+、CD90+、CD45RA-細胞]の細胞数の平均値を示す。
【0162】
(試験例1-5:表面マーカーの解析5)
試験例1-1において、<細胞培養用デバイスの配置>及び<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>を以下の方法に変更したこと以外は、試験例1-1と同様の方法で<細胞培養用デバイスの表面コート処理>及び<表面マーカーの解析>を行い、細胞培養用デバイス上で増殖させた細胞に、造血幹細胞の他に、造血前駆細胞も含まれていることを確認した。
なお、<表面マーカーの解析>の方法は試験例1-1と同様の方法であるが、ヒト由来の造血幹細胞及び造血前駆細胞は、CD34が陽性である細胞[CD34+細胞]である。
【0163】
<細胞培養用デバイスの配置>
96ウェルプレート(ポリスチレン製、平底、TPP社製)のウェル内に、実施例1、実施例2、実施例4、実施例5、及び実施例6の細胞培養用デバイスをそれぞれ配置した。いずれも2連で実施した(n=2)。
【0164】
<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>
調製例1で得られた臍帯血由来CD34陽性細胞を、表面コート処理した細胞培養用デバイス上及び対照ウェルに5,000細胞/ウェルとなるように播種し、試験例1-1で調製した培養液を200μL/ウェル添加した後、5体積%CO、37℃の条件下で7日間静置培養した。
培養7日間後、実施例1、実施例2、実施例4、実施例5、及び実施例6の細胞培養用デバイスで培養した細胞について、試験例1-1と同様の方法で<表面マーカーの解析>を行った。
【0165】
図12に培養後の細胞の表面マーカーに解析結果を示した。縦軸は、1ウェルあたりの造血幹細胞及び造血前駆細胞分画[CD34+細胞]の細胞数の平均値を示す。
【0166】
(試験例2:メチルセルロースコロニーアッセイ)
細胞培養用デバイス上で増殖させた造血幹細胞及び造血前駆細胞の自己複製能及び多分化能を、以下の方法で確認した。
【0167】
実施例1~3の細胞培養用デバイスを用いて、試験例1-1と同様の方法で、<細胞培養用デバイスの配置>、<細胞培養用デバイスの表面コート処理>、及び<臍帯血由来CD34陽性細胞の培養>を行った。
【0168】
臍帯血由来CD34陽性細胞の7日間の培養終了後、ウェル内を十分にピペッティングすることにより、細胞培養用デバイス上の細胞を培養液中に浮遊させた。ウェル毎に得られた細胞懸濁液の全量を、それぞれチューブに移した。このチューブを、600gにて10分間遠心分離し、上澄みを除去した後、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、GEヘルスケア製)を150μL/チューブ添加して懸濁し、細胞懸濁液を得た。ヒト造血前駆細胞コロニー測定用MethoCult培地(STEMCELL Technology製)1.35mLをシャーレ(ポリスチレン製、平底、TPP社製)に分注し、前記細胞懸濁液150μLを播種し、5体積%CO、37℃の条件下で14日間静置培養した。14日間の培養終了後、形成されたコロニーを位相差顕微鏡で観察し、シャーレ全域における顆粒球系・単球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞、及び複数の系統の血球が混ざった混合コロニーの各コロニーのコロニー数をカウントした(STEMCELL Technology,TECHNICAL MANUAL,Human Colony-Forming Unit(CFU) Assays Using MethoCultTM,DOCUMENT #28404,VERSION 4.6.0,MAR 2019,第27ページ~第32ページ参照)。
【0169】
図13にメチルセルロースコロニーアッセイの結果を示した。縦軸は、コロニー数を示す。
図13の結果より、実施例1~3の細胞培養用デバイスにより造血幹細胞及び造血前駆細胞の増殖が認められた。これらの中でも、実施例1の細胞培養用デバイスを用いた場合、特に造血幹細胞及び造血前駆細胞の良好な増殖が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の細胞培養用デバイスは、簡易かつ低コストで製造することができ、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができるため、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかをインビトロで培養し、増殖させるための足場として好適に利用することができる。更に、造血幹細胞の維持、増殖、分化等に関する研究などにも好適に利用することができる。
また、本発明の細胞培養方法は、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかの自己複製能及び多分化能を保持した状態で、インビトロで効率良く増殖させることができるため、造血幹細胞及び造血前駆細胞の少なくともいずれかのインビトロでの培養に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0171】
1 ウェル
20 細胞培養用デバイス
21 培養部
21a 細胞播種面
22 取出し部
23 接続部
30 微細孔
31 開口部
32 底部
40 原盤
41 樹脂フィルム
T 細胞播種面21aと取出し部22とがなす角度T
X 開口部31における一辺の長さ
Y 開口部31における他の一辺の長さ
p ピッチ
h 微細孔の深さ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B