(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137539
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037065
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 幸太
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DB16
4B029DG01
4B029GA01
4B029GB07
(57)【要約】
【課題】無菌環境および密閉性が維持され、且つ低分子有機化合物ガスの内部残存が少ない細胞培養容器を提供する。
【解決手段】容器本体を開口して形成された細胞を培養するための凹部と、この凹部内と外部とを連通させる少なくとも1つのポート部と、この凹部の開口部分を覆うフィルムと、を有し、このフィルムの酸素透過度が100cc/m
2・day・atm以上である細胞培養容器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体を開口して形成された細胞を培養するための凹部と、
前記凹部内と外部とを連通させる少なくとも1つのポート部と、
前記凹部の開口部分を覆うフィルムと、を有し、
前記フィルムの酸素透過度が100cc/m2・day・atm以上である、細胞培養容器。
【請求項2】
前記フィルムの酸素透過度が1500cc/m2・day・atm以下である、請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記フィルムが、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂により構成された層を含む、請求項1または2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記フィルムの少なくとも一部は、10μm以上500μm以下の厚さを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記フィルムは、第一の厚さを有する厚膜部と、前記第一の厚さよりも薄い第二の厚さを有する薄膜部と、を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記フィルムは、前記開口部分を覆う開口封止領域に前記薄膜部を有し、前記開口封止領域の周囲に前記厚膜部を有する、請求項5に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
前記薄膜部は、前記フィルムを貫通しない深さで形成されたスリット形状を有する、請求項5または6に記載の細胞培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野等において、細胞(例えばES細胞、iPS細胞、微生物など)を培養するために細胞培養容器が用いられる場合がある。そして、この細胞培養容器には、無菌環境だけでなく、培養細胞の増殖効率や生存率が高いことなどが求められている。
例えば特許文献1には、細胞の生存率を大きく向上することができる細胞培養容器の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞培養容器には、培養中における容器内部のCO2ガス濃度などを保つために、フィルターを通じて容器内外のガス交換をすることができる構造を有するものがある。しかし、再生医療分野においては、より高度な無菌環境が求められることから、CO2ガス等を培養中に容器内部に供給できる開閉可能な構造の部材を有し、フィルターを通じた容器内外のガス交換をすることができない、あるいはリークしない構造の閉鎖/密閉系の滅菌容器がよく用いられている。
【0005】
ここで、細胞培養容器の滅菌処理としては、容器の耐熱性などを考慮して放射線滅菌処理が採用される場合が多い。この放射線滅菌処理により細胞培養容器の内部を十分に滅菌することができるが、一方で、樹脂部材への放射線照射などによって、放射線照射臭と呼ばれる低分子有機化合物ガス(酸化ケトン、カルボニルなどのガス)が容器内部に発生する可能性がある。この低分子有機化合物ガスは細胞毒性があり細胞培養に悪影響を及ぼすため、放射線滅菌処理により容器内部に発生した低分子有機化合物ガスは、容器外部に放散させる必要がある。
【0006】
しかしながら、上記したような閉鎖/密閉系の容器を放射線滅菌処理して滅菌容器とした場合、容器内部に発生した低分子有機化合物ガスを容器外部に放散させることが難しく、容器内部に低分子有機化合物ガスが多く残存してしまい、細胞の培養性(細胞の増殖効率や生存率)が低下してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、無菌環境および密閉性が維持され、且つ低分子有機化合物ガスの内部残存が少ない細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞培養容器は、容器本体を開口して形成された細胞を培養するための凹部と、この凹部内と外部とを連通させる少なくとも1つのポート部と、この凹部の開口部分を覆うフィルムと、を有し、このフィルムの酸素透過度が100cc/m2・day・atm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無菌環境および密閉性が維持され、且つ低分子有機化合物ガスの内部残存が少なく、培養する細胞の増殖効率や生存率が高い細胞培養容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る細胞培養容器の模式的な斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る細胞培養容器の模式的な側面図である。
【
図3】本実施形態に係る細胞培養容器のフィルム付近を示した模式的な断面図である。
【
図4】本実施形態に係る細胞培養容器の変形例におけるフィルム付近を示した模式的な断面図である。
【
図5】本実施形態に係る細胞培養容器の他の変形例におけるフィルムの薄膜部付近を示した模式的な断面図である。
【
図6】本実施形態に係る細胞培養容器の変形例の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る細胞培養容器の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、いずれの図面についても、便宜上、符号を付していない(省略している)箇所がある。さらに、図面に示された各部材の寸法比率は、発明の理解を容易にするために、実際の寸法比率とは異なる場合がある。
【0012】
<全体構成>
まず、本実施形態に係る細胞培養容器の全体構成について、
図1および
図2を参照して説明する。なお、
図1は、本実施形態に係る細胞培養容器100を模式的に示した斜視図である。また、
図2は、本実施形態に係る細胞培養容器100を側面側から模式的に示した側面図である。
【0013】
本実施形態に係る細胞培養容器100は、容器本体11を開口して形成された細胞を培養するための凹部13と、この凹部13内と外部とを連通させる少なくとも1つのポート部15と、この凹部13の開口部分14を覆うフィルム21と、を有し、このフィルム21の酸素透過度が100cc/m2・day・atm以上であることを特徴とする。
【0014】
本実施形態に係る細胞培養容器100に備わる凹部13は、容器本体11を開口して形成された内部空間を有する凹形状のものであって、この凹部13の内部空間は細胞を培養するための領域(以下、細胞培養領域という場合もある)であり、細胞および培地(液体培地)を収容して細胞培養を行うことが可能な容積を有する。
【0015】
例えば、
図1および
図2に示すような、全体として扁平な形状であり、略方形の底平面と、この底平面の外周縁と接するように設けられた4つの平面が一繋がりとなって形成されている側壁と、この側壁と接し且つ底平面と対向するように設けられた天面と、を有する容器本体11において、この天面の少なくとも一部が開口されて凹形状となるように形成された凹部13が好ましい実施形態として示される。しかしながら、凹部13は、略円筒状の容器本体11を開口して凹形状に形成されたものなど、細胞および培地を収容して細胞培養を行うことが可能な内部空間を有する凹形状であれば、他は限定されない。
【0016】
また、容器本体11の開口により形成された凹部13の開口部分14は、細胞培養後に開口部分14を覆うフィルム21を剥離して培養細胞をこの開口部分14から容易に回収することができるような形状および大きさであれば良い。例えば、形状としては、
図1に示すような方形状や、円形状、楕円形状などが示され、大きさとしては、この開口部分14を含む容器本体11の一面(
図1の実施形態では天面)において、この開口部分14の面積が全体の面積の50%以上、さらには60%以上、さらには70%以上を占める構成などが例示される。
【0017】
そして、この凹部13は、加工や成型のし易さなどの観点から、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などの樹脂素材により構成されたものであるのが好ましく、複数の樹脂素材が併用されて構成されたもの(異なる樹脂素材により構成された2種以上の層が積層されている構成や、異なる樹脂素材が複数混合されて形成された構成など)であっても良い。特に、容器の剛性や軽量化などの観点から、ポリスチレン樹脂により構成されたものであるのがより好ましい。本実施形態に係る細胞培養容器100は、細胞培養領域を含む凹部13がこのような樹脂素材により構成されたものであっても、後述するフィルム21の構成によって、放射線滅菌処理が施されても低分子有機化合物ガスの内部残存が少ないものとなるのが特徴である。しかしながら、この凹部13が樹脂素材以外の素材(ガラス、セラミックスなど)により構成されたものも除外されず、また、樹脂素材と樹脂素材以外の素材とが併用されて構成されたものであっても良い。さらに、凹部13の肉厚は、限定されるものではないが、均一な(偏りがない)構成であるのが好適である。
【0018】
ここで、この「樹脂素材により構成された」とは、樹脂素材を主材として(凹部13の総質量の60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含まれるようにして)形成されていることを意味する。「樹脂以外の素材により構成された」および「樹脂素材と樹脂素材以外の素材とが併用されて構成された」についても主材となる素材が変わる以外は同様の意味であり、後述するポート部15およびフィルム21における「樹脂素材により構成された」なども部材が変わる以外は同様の意味である。
【0019】
なお、培養する細胞の吸着性を制御する(低下あるいは上昇させる)ために、細胞や培地と直接接触し得る凹部13の内部表面に表面処理(プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマレーザー処理、フレーム処理など)が施されていても良い。また、細胞や培地と直接接触し得る凹部13の内部表面に親水性の被覆層などが形成されていても良い。後述するフィルム21の容器内部側(凹部13の内部側)の表面についても同様である。
【0020】
さらに、本実施形態に係る細胞培養容器100に備わるポート部15は、細胞培養容器100の凹部13内(細胞培養領域)と細胞培養容器100の外部とを連通させる部材であって、細胞培養容器100に少なくとも1つ備わっていれば良い。そして、細胞培養容器100の凹部13内に培地、ガス等を供給できる開閉可能な構造(例えば3~15mm程度の口径である貫通孔と、この貫通孔を開閉可能な部材(封止キャップ、バルブ等)を含む構造など)を有していれば良い。また、チューブなどを接続可能な嵌合部等を含んでいても良い。このようなポート部15を1以上備えることによって、滅菌後の凹部13内、つまり細胞培養領域に容器外部からポート部15を通じて細胞や培地を容易に供給できるだけでなく、培養中にガス供給なども行うことが可能となる。例えば、培養中における凹部13内のCO2ガス濃度を一定(例えば5v/v%程度)に保つために、このポート部15に滅菌チューブなどを接続して細胞培養を行い、培養中における凹部13内のCO2ガス濃度低下に応じて容器外部からポート部15を通じてCO2ガスを供給することもできる。
【0021】
そして、例えば
図1および
図2に示すような、容器本体11の開口部分14を挟んで、この開口部分14の長手方向あるいは短手方向の中心線の線対称となる位置にポート部15が1対(2つ)以上備わる細胞培養容器100がより好ましい実施形態として示される。
【0022】
なお、このポート部15は、加工や成型のし易さなどの観点から、これも樹脂素材により構成されたものであるのが好ましい。例えば、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(COP、COC)などにより構成されたものであって良く、複数の樹脂素材が併用されて構成されたものであっても良い。この場合において、チューブ等の抜き差しをより容易とするために、ポート部15の少なくとも一部(例えば嵌合部など)は、ゴム素材やシリコーン素材などの樹脂素材以外の素材によって構成されていても良い。
【0023】
<フィルムの構成>
さらに、本実施形態に係る細胞培養容器100に備わるフィルム21は、凹部13の開口部分14を覆い、この開口部分14を封止している部材である。以下に、本実施形態に係る細胞培養容器100のフィルム21の詳細な構成について、
図1~
図6を参照してより詳しく説明する。
【0024】
なお、
図3は、本実施形態に係る細胞培養容器100のフィルム21付近の断面を示した模式的な断面図である。また、
図4は、フィルム21の薄膜部25にスリット形状27を有する変形例におけるフィルム21付近の断面を拡大して示した模式的な断面図であり、
図5は、フィルム21の薄膜部25にスリット形状27を有する他の変形例における薄膜部25付近の断面を拡大して示した模式的な断面図である。さらに、
図6は、フィルム21にスリット形状27を有する変形例を模式的に示した斜視図である。
【0025】
フィルム21は、前述したように、凹部13の開口部分14を覆う構成である。つまり、凹部13の開口部分14を覆って封止できるような大きさ等であれば良く、例えば
図1および
図6に示すような、凹部13の開口部分14の大きさよりも一回り大きなサイズのフィルムであって、凹部13の開口部分14の周囲とフィルム21とが接合剤や熱融着などによって接合されて開口部分14を封止している構成が好ましい実施形態として示される。
【0026】
そして、このフィルム21の酸素透過度は、100cc/m2・day・atm以上である。このような構成であることにより、本実施形態に係る細胞培養容器100が放射線滅菌処理されたときに凹部13内に発生した低分子有機化合物ガス(酸化ケトン、カルボニルなど)等をこのフィルム21から容器外部に容易に拡散することができ、凹部13内の低分子有機化合物ガス等の残存量をより少なくすることができる。
【0027】
なお、このフィルム21は、酸素透過度が上記した範囲であれば、CO2ガス透過度や酸化ケトン透過度などの酸素以外のガス透過度についてもほぼ同様であることが推定できる(以下の数値範囲についても同様である)。しかしながら、酸素透過度だけでなく、CO2ガス透過度や酸化ケトン透過度などの他のガス透過度についても上記の範囲内であることが具体的に確認されているフィルムをフィルム21として用いることも当然可能である。
【0028】
特に、このフィルム21の酸素透過度は、凹部13内のガス(低分子有機化合物ガスなどを含む)が容器外部により拡散し易くなるという観点から、110cc/m2・day・atm以上であるのがより好ましく、120cc/m2・day・atm以上であるのがさらに好ましく、150cc/m2・day・atm以上であるのがさらに好ましく、180cc/m2・day・atm以上であるのがさらに好ましく、200cc/m2・day・atm以上であるのがさらに好ましい。
【0029】
ここで、本発明における「酸素透過度(cc/m2・day・atm)」とは、酸素透過度測定装置により測定された、温度が25℃、相対湿度(RH)が0%での酸素ガス透過度を意味する(以下も同様である)。
【0030】
そして、このフィルム21の酸素透過度は、1500cc/m2・day・atm以下であるのが好ましく、1200cc/m2・day・atm以下であるのがより好ましく、1000cc/m2・day・atm以下であるのがさらに好ましく、800cc/m2・day・atm以下であるのがさらに好ましく、500cc/m2・day・atm以下であるのがさらに好ましい。本実施形態に係る細胞培養容器100を用いて細胞培養を行う際に、ポート部15を通じて凹部13内に供給したガス(例えばCO2ガスなど)がフィルム21から容器外部に過剰に漏出することを抑制でき、培養中における凹部13内の供給ガス濃度を保ち易いからである。
【0031】
なお、このフィルム21は樹脂素材により構成されたものであるが、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂により構成された層を含むのが好ましい。さらには、ポリプロピレン樹脂により構成された層とポリエチレン樹脂により構成された層とをいずれも含む構成であっても良い。フィルム21の酸素透過度を前述した範囲内とし易いからである。特に、フィルム21がポリプロピレン樹脂により構成された層を含むのがより好ましく、フィルム21の基材となる全ての層がポリプロピレン樹脂により構成されているのがさらに好ましい。
【0032】
さらに、このフィルム21は、上記した酸素透過度を有する限り、樹脂素材により構成された基材となる層(基材層)が単一である構成(単層フィルム)であっても良いし、あるいは、この基材層が複数積層された構成(積層フィルム)であっても良い。そして、基材層の表面や、基材層が積層された積層間に他の層(例えば塗工層や接着層(ラミネート接着層)など)が含まれていても良い。
【0033】
また、樹脂素材により構成されたフィルム21は、主材となる樹脂素材を1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。2種以上併用の場合、2種以上の樹脂素材を混合して使用していても良く、あるいは単独の樹脂素材により構成された層を2種以上(2層以上)積層して使用しても良い。そして、樹脂素材を主材として形成されたものであれば、樹脂以外の材料(無機材料など)を含んでいても良い。
【0034】
さらに、このフィルム21の少なくとも一部は、10μm以上500μm以下の厚さを有するのが好ましい。フィルム21の酸素透過度を前述した範囲内とし易く、且つフィルム21の強度を維持し易いからである。特に、フィルム21のうち、凹部13の開口部分14を覆う開口封止領域の厚さが上記範囲内であるのが好適である。また、この厚さの下限は、15μm以上であるのがより好ましく、20μm以上であるのがさらに好ましく、30μm以上であるのがさらに好ましく、50μm以上であるのがさらに好ましい。厚さの下限は、400μm以下であるのがより好ましく、350μm以下であるのがさらに好ましく、300μm以下であるのがさらに好ましく、250μm以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
ここで、本発明における「フィルム21の厚さ」とは、フィルム21の主面の法線ベクトル方向において、フィルム21の主面間(表裏外面間)の長さを計測器により測定することにより求められるものである。例えば、
図3~
図5に示されている実施形態においては、図中のTと表示されている矢印の部分の長さを意味する。
【0036】
さらに、このフィルム21は、例えば
図3に示すような、第一の厚さを有する厚膜部23と、第一の厚さよりも薄い第二の厚さを有する薄膜部25と、を有する構成であるのが好ましい。本実施形態に係る細胞培養容器100を用いて細胞培養を行った後に、フィルム21を剥離して凹部13内の培養細胞を回収し、さらにフィルム21の容器内部側の表面に付着している培養細胞を回収する場合もあるが、上記構成であると、フィルム21のガス透過性が所定以上に維持されつつフィルム21の剥離性が高まる、つまり厚膜部23から剥離を行うことによりフィルム21を破ることなく剥離することが容易にできるからである。
【0037】
そして、フィルム21の剥離性をより高めるために、この第一の厚さを有する厚膜部23の厚さは、第二の厚さを有する薄膜部25の厚さの120%以上であることがより好ましく、140%以上であることがさらに好ましく、160%以上であることがさらに好ましく、180%以上であることがさらに好ましく、200%以上であることがさらに好ましい。また、上限は、300%以下であるのがより好ましく、280%以下であるのがさらに好ましく、260%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
特に、フィルム21の剥離性がより高まり且つ凹部13内のガスを容器外部により拡散し易いことから、
図3に示すような、フィルム21において、凹部13の開口部分14を覆う開口封止領域、つまり凹部13の開口部分14を覆い細胞培養領域と直接接する部分を含む領域に薄膜部25を有し、この開口封止領域の周囲、例えば凹部13の開口部分14の周囲とフィルム21とが接合している部分を含む領域に厚膜部23を有する構成であるのが好ましい。したがって、この実施形態の場合、薄膜部25が少なくとも凹部13の開口部分14の大きさ以上の領域を占めるフィルム21であれば良いが、フィルム21の接合時における薄膜部25の位置ズレの許容性を高めるという観点から、薄膜部25が凹部13の開口部分14の大きさを超える領域を占めるフィルム21であるのがより好ましい。
【0039】
さらに、これもフィルム21の剥離性がより高まり且つ凹部13内のガスを容器外部により拡散し易いことから、この薄膜部25は、フィルム21を貫通しない深さで形成されたスリット形状27を1以上有する構成であるのが好ましい。例えば、
図4~
図6に示すように、フィルム21の開口封止領域の薄膜部25において、細胞培養容器100の外部側の表面に直線のスリット形状27が複数形成された実施形態などが示される。このスリット形状27は、熱、レーザー、超音波、電気等の手段により形成することができる。
【0040】
なお、スリット形状27は、フィルム21の薄膜部25において細胞培養容器100の外部側の表面または内部側の表面のいずれに形成されていても良いが、フィルム21の容器外部側の表面にスリット形状27が形成されており、容器内部側の表面にはスリット形状27を有さない構成であるとより好適である。本実施形態に係る細胞培養容器100を用いて細胞培養を行うと、フィルム21における細胞培養容器100の内面側の表面に培養細胞が多く付着する場合もあるが、このような構成であると、フィルム21のガス透過性がスリット形状27によってより高度に維持されつつ、薄膜部25の容器内部側の表面に付着した培養細胞をスクレーパーなどにより回収し易いからである。
【0041】
また、このスリット形状27は、直線のスリット形状、円形のスリット形状、波型のスリット形状などであって良く、薄膜部25に1以上形成されていれば良いが、凹部13内のガスを容器外部により拡散し易くなることから、例えば
図6に示すように、直線のスリット形状27が複数形成されているのが好適であり、さらにこの複数の直線のスリット形状27がそれぞれ略平行となるように形成されているのがより好適である。しかしながら、薄膜部25の全体に一繋がりとなるようなスリット形状27が1以上形成されている構成であっても良い。
【0042】
そして、スリット形状27の深さも、フィルム21を貫通しない深さであれば良く特段限定されないが、細胞培養時などにおけるフィルム21の薄膜部25の強度保持という観点から、例えば
図4および
図5に示すように、薄膜部25の厚さの半分以下(半分を超えない)深さのスリット形状27であるのがより好適である。また、この深さの下限は、薄膜部25の厚さの25%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがさらに好ましい。
【0043】
ここで、本発明における「スリット形状27の深さ」とは、フィルム21の主面の法線ベクトル方向におけるスリット形状27の長さである。例えば、
図4および
図5に示されている実施形態においては、図中のDと表示されている矢印の部分の長さを意味する。また、スリット形状27が形成された実施形態における薄膜部25の厚さとは、
図4および
図5に示されるようにスリット形状27の部分も含んだ厚さである。
【0044】
さらに、フィルム21が、例えばポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂により構成された層を容器内部側に有し、これら以外の樹脂素材により構成された層を容器外部側に有するような、基材層が複数積層された構成であり、このいずれか1つの基材層(例えば、容器外部側の最外層などのいずれかの表面側に備わる層)において、隣り合う他の基材層の表面が露出されるようにスリット形状27が形成されている構成であっても良い。
【0045】
例えば
図5に示すような、薄膜部25が、容器内部側の基材層(内側基材層)25aがポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂により構成された層であり、容器外部側の基材層(外側基材層)25bがこれら以外の樹脂素材により構成された層の2層構造であって、この外側基材層25bに、内側基材層25aの表面が露出されるようにスリット形状27が形成されている実施形態が例示される。このような構成であると、スリット形状27が形成された基材層の特性とスリット形状27により表面が露出された基材層の特性とがいずれも発揮された薄膜部25となる。
【0046】
以上のような構成であるフィルム21は、本実施形態に係る細胞培養容器100の密閉性を保持する機能、および容器内部のガスを容器外部に透過させる機能を有し、さらに剥離が容易であるため、本実施形態に係る細胞培養容器100において、高い密閉性、低分子有機化合物ガスの内部残存低減、および培養細胞の回収の容易性などの効果を発揮させるために重要な部材である。
【0047】
<細胞培養容器の製造方法>
次に、本実施形態に係る細胞培養容器100の製造方法について説明する。
【0048】
本実施形態に係る細胞培養容器100の製造方法の例としては、まず、樹脂素材(ポリスチレン樹脂など)により構成された、開口部分(本実施形態に係る細胞培養容器100の開口部分14となる部分)を有する樹脂シートを準備し、樹脂素材(例えばポリプロピレン樹脂など)により構成された所定の酸素透過度を有するフィルムをこの開口部分に覆い被せるようにしてヒートシールまたは接合剤によって接合し、開口部分を封止する。さらに、樹脂素材(ポリスチレン樹脂など)により構成された凹状の部材を準備し、この部材と上記フィルムが接合された樹脂シートとを超音波融着などによって接合して密閉し、本実施形態に係る細胞培養容器100の容器本体11を形成する。そして、この容器本体11のいずれかに、内部と外部とを連通させるポート部15を1以上設ける。しかしながら、本実施形態に係る細胞培養容器100の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0049】
このようにして形成された密閉性を有する細胞培養容器100は、さらに、細胞培養領域である凹部13内などを無菌環境とするために滅菌処理を行う。この滅菌処理は、乾熱滅菌処理、湿熱滅菌処理(蒸気滅菌処理)、放射線滅菌処理などにより行うことができるが、樹脂素材により構成された部材(樹脂部材)の耐熱性などの観点から、放射線滅菌処理を行うのが好ましい。放射線滅菌処理としてはγ線あるいは電子線を用いるのが好ましく、大量生産を行う場合は放射線透過性の観点からγ線を用いるのが特に好ましい。
【0050】
放射線滅菌処理における放射線の吸収線量としては、1kGy以上が好ましく、5kGy以上がより好ましく、10kGy以上がさらに好ましく、20kGy以上がさらに好ましく、25kGy以上がさらに好ましい。また、上限は45kGy以下が好ましく、40kGy以下がより好ましい。これにより、本実施形態に係る細胞培養容器100の凹部13内を十分に滅菌することができ、且つ凹部13内における低分子有機化合物ガスの過剰な発生も起こり難いからである。
【0051】
そして、放射線滅菌処理された本実施形態に係る細胞培養容器100は、室温(15~30℃)において1~2週間保管(放置)することにより、凹部13内に発生した低分子有機化合物ガスを、上記したフィルム21を通じて容器外部に拡散させ、低分子有機化合物ガスの内部残存量を低減させることができる。
【0052】
以上のような実施形態の製造方法により得られた、本実施形態に係る細胞培養容器100は、密閉性が高度に維持され、上記の滅菌処理がされていることによって無菌環境も高度に維持され、さらに細胞毒性などを示す低分子有機化合物ガスの内部残存が少なく、細胞する培養の増殖効率や細胞生存率なども高い細胞培養容器となる。
【0053】
そして、上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)容器本体を開口して形成された細胞を培養するための凹部と、前記凹部内と外部とを連通させる少なくとも1つのポート部と、前記凹部の開口部分を覆うフィルムと、を有し、前記フィルムの酸素透過度が100cc/m2・day・atm以上である、細胞培養容器。
(2)前記フィルムの酸素透過度が1500cc/m2・day・atm以下である、(1)に記載の細胞培養容器。
(3)前記フィルムが、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂により構成された層を含む、(1)または(2)に記載の細胞培養容器。
(4)前記フィルムの少なくとも一部は、10μm以上500μm以下の厚さを有する、(1)~(3)のいずれか1つに記載の細胞培養容器。
(5)前記フィルムは、第一の厚さを有する厚膜部と、前記第一の厚さよりも薄い第二の厚さを有する薄膜部と、を有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の細胞培養容器。
(6)前記フィルムは、前記開口部分を覆う開口封止領域に前記薄膜部を有し、前記開口封止領域の周囲に前記厚膜部を有する、(5)に記載の細胞培養容器。
(7)前記薄膜部は、前記フィルムを貫通しない深さで形成されたスリット形状を有する、(5)または(6)に記載の細胞培養容器。
【符号の説明】
【0054】
100 細胞培養容器
11 容器本体
13 凹部
14 凹部の開口部分
15 ポート部
21 フィルム
23 フィルムの厚膜部
25 フィルムの薄膜部
25a フィルムの薄膜部の内側基材層
25b フィルムの薄膜部の外側基材層
27 スリット形状
T フィルムの厚さ
D スリット形状の深さ