(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137585
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】水硬性粉体用分散剤組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/22 20060101AFI20220914BHJP
C08L 61/18 20060101ALI20220914BHJP
C08G 10/02 20060101ALI20220914BHJP
C04B 103/40 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C04B24/22 B
C08L61/18
C08G10/02
C04B103:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037128
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
【テーマコード(参考)】
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4J002CC121
4J002EV236
4J002FD316
4J002GD00
4J002HA07
4J033DA02
4J033DA12
4J033HA02
4J033HA03
4J033HA08
4J033HA28
4J033HB08
(57)【要約】
【課題】取り扱いに優れた適切な粘度を有する、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を含有する水硬性粉体用分散剤組成物を提供する。
【解決手段】ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩及び1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を含有する混合物(以下、NSF混合物という)と、水とを配合してなる水硬性粉体用分散剤組成物であって、前記NSF混合物は、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法で測定された前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積において4.0%以上8.0%以下の割合で含有する、水硬性粉体用分散剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩及び1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を含有する混合物(以下、NSF混合物という)と、水とを配合してなる水硬性粉体用分散剤組成物であって、
前記NSF混合物は、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法で測定された前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積において4.0%以上8.0%以下の割合で含有する、
水硬性粉体用分散剤組成物。
【請求項2】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、重量平均分子量が6,000以上25,000以下である、請求項1に記載の水硬性粉体用分散剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性粉体用分散剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性粉体用の分散剤としては、従来、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレン系分散剤が知られている。ナフタレン系分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤と比較して、材料や温度の変化に対する流動性発現の効果の変動が少なく、また得られる水硬性組成物の粘性が比較的低く、水硬性組成物の製造に際して使い易いという特徴がある。
【0003】
特許文献1には、ナフタレンのスルホン化反応液とホルマリンとを不活性ガス加圧下で縮合する際、ナフタレン化合物の全モル数に対し、縮合用水を6.5倍モル以上7.5倍モル未満に調整することを特徴とするナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を主成分とするスラリー分散剤の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で得られる重量平均分子量が1,900~24,000であり、且つGPC測定で得られる分子量が4,000以下のピーク面積が全ピーク面積の17~38%であるナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を含有する水硬性組成物用減水剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-302048号公報
【特許文献2】特開2010-59045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、水系でナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応させて製造される。反応生成物は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物を含有する水溶液としてそのまま、あるいは適宜濃度や組成を調整して、製品として使用されることも多い。例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を含有する水溶液は、水硬性粉体用分散剤組成物として用いることができるが、その場合、適切な粘度を有することが望まれる。
【0007】
本発明は、取り扱いに優れた適切な粘度を有する、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩を含有する水硬性粉体用分散剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩及び1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を含有する混合物(以下、NSF混合物という)と、水とを配合してなる水硬性粉体用分散剤組成物であって、
前記NSF混合物は、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法で測定された前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積において4.0%以上8.0%以下の割合で含有する、
水硬性粉体用分散剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、取り扱いに優れた適切な粘度を有する、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩(以下、NSFともいう)を含有する水硬性粉体用分散剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
NSFは、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物又はその塩である。NSFは、性能を損なわない限り、単量体として、例えばメチルナフタレン、エチルナフタレン、ブチルナフタレン、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸、アントラセン、フェノール、クレゾール、クレオソート油、タール、メラミン、尿素、スルファニル酸及び/又はこれらの誘導体などのような、ナフタレンスルホン酸と共縮合可能な芳香族化合物と共縮合させても良い。
【0011】
NSFは、原料として、例えば、マイテイ150、デモール N、デモール RN、デモール MS、デモールSN-B、デモール SS-L(いずれも花王株式会社製)、セルフロー 120、ラベリン FD-40、ラベリン FM-45(いずれも第一工業株式会社製)などのような市販品を用いることができる。
【0012】
NSFは、セメント、石膏などの水硬性粉体の流動化の観点から、重量平均分子量が、好ましくは6,000以上、より好ましくは8,000以上、そして、好ましくは25,000以下、より好ましくは19,000以下である。NSFの重量平均分子量は下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定することができる。
[GPC条件]
装置:東ソー株式会社 HLC-8320GPC
カラム:東ソー株式会社 G4000SWXL+G2000SWXL
溶離液:30mMCH3COONa/CH3CN=6/4
流量:0.7ml/min
検出器:UV 280nm
サンプルサイズ:3.33mg/ml
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算 SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS,INC.製 SODIUM POLYSTYRENE SULFONATE-narrow distribution-:MW=1,690、7,540、16,000、68,300、126,700、587,600
【0013】
NSFは、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行ってもよい。また、中和で副生する水不溶解物を除去してもよい。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2~1.4モルを用い、150~165℃で2~5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.90~0.99モルとなるようにホルマリンを85~95℃で、3~6時間かけて滴下し、滴下後95~105℃で縮合反応を行う。更に、得られる縮合物の水溶液は酸性度が高いので貯槽等の金属腐食を抑制する観点から、得られた縮合物に、水と中和剤を加え、80~95℃で中和工程を行うことができる。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0~1.1モル倍添加することが好ましい。また、中和により生じる水不溶解物を除去することができ、その方法として好ましくは濾過による分離が挙げられる。これらの工程によって、NSFの水溶性塩の水溶液が得られる。なお、このような方法により得られたNSFが本発明で規定する所定量の1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を含有する場合、そのままNSF混合物として用いることができる。
【0014】
NSF混合物は、NSFと1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩とを配合してなる。NSF混合物は、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩の含有量が、下記条件によるゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法で測定された前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積において4.0%以上8.0%以下である。この含有量は、前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積の総量に対する、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩に相当するピーク面積の割合として算出できる。
[GPC条件]
装置:東ソー株式会社 HLC-8320GPC
カラム:東ソー株式会社 G4000SWXL+G2000SWXL
溶離液:30mMCH3COONa/CH3CN=6/4
流量:0.7ml/min
検出器:UV 280nm
サンプルサイズ:3.33mg/ml
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算 SCIENTIFIC POLYMER PRODUCTS,INC.製 SODIUM POLYSTYRENE SULFONATE-narrow distribution-:MW=1,690、7,540、16,000、68,300、126,700、587,600
【0015】
NSF混合物中の1,5-ナフタレンジスルホン酸の前記含有量は、例えば、3%以上、更に4%以上、そして、10%以下、更に8%以下であってよい。従来、NSFの分散性能など向上させるために、NSF中の未反応物や低分子量画分の含有量を調整することは行われていたが、1,5-ナフタレンジスルホン酸がNSF水溶液の粘度に影響すること、そして、その含有量が所定範囲ある場合に、水を含有する水硬性粉体用の分散剤組成物として適切な粘度となることは、知られていなかった。
【0016】
本発明では、NSF混合物中の1,5-ナフタレンジスルホン酸の含有量が所定範囲にある。前記方法でNSFを製造する場合、NSF混合物中の1,5-ナフタレンジスルホン酸の含有量は、硫酸の滴下温度を低くする、硫酸の仕込みモル比を高くする、などを行うと増加する傾向がある。
【0017】
本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、NSF混合物を、例えば、0.01質量%以上、更に0.1質量%以上、更に1.0質量%以上、そして、10質量%以下、更に5質量%以下、更に3質量%以下配合してなるものであってよい。この配合量は、全配合成分中の割合である(以下同様)。
【0018】
本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、任意成分として、例えば、芒硝などの効果促進剤や、グルコン酸Na、サッカロースなどの凝結遅延剤、その他、消泡剤、AE剤などを含有することができる。
【0019】
本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は水を配合してなる。水は、練り水への溶解性の観点から好ましい。本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、水を、例えば、20質量%以上、更に30質量%以上、更に35質量%以上、そして、60質量%以下、更に50質量%以下、更に45質量%以下配合してなるものが好ましい。本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、所定のNSF混合物と水とを配合してなる水硬性粉体用液体分散剤組成物が好ましい。
【0020】
本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、水硬性粉体を水に分散させる際に用いられる。水硬性粉体とは水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。水硬性粉体は、好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポソラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。本発明の水硬性粉体用分散剤組成物は、水硬性粉体と水とを含有する水硬性組成物の調製に、通常のNSF系分散剤と同様に用いることができる。
【0021】
本発明により、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩及び1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を含有する混合物(以下、NSF混合物という)と、水とを混合する水硬性粉体用分散剤組成物の製造方法であって、
前記NSF混合物は、1,5-ナフタレンジスルホン酸又はその塩を、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法で測定された前記NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積において4.0%以上8.0%以下の割合で含有する、
水硬性粉体用分散剤組成物の製造方法が提供される。
この製造方法には、本発明の水硬性粉体用分散剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。GPC法の条件は前記の通りである。
【実施例0022】
表1に示す組成のNSF混合物と水とを配合し、水硬性粉体用分散剤組成物を調製した。該組成物中、NSF混合物の濃度は40質量%とした。NSF混合物は、重量平均分子量14,000のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩(以下、NSF-Naともいう)と、1,5-ナフタレンジスルホン酸のナトリウム塩とを含んでいた。表1には、前記条件によるGPC法で測定された、NSF混合物の分子量分布曲線のピーク面積におけるNSF-Naと1,5-ナフタレンジスルホン酸のナトリウム塩の面積%を表1に示した。
得られた水硬性粉体用分散剤組成物の粘度及び保存安定性を評価した。結果を表1に示す。粘度は、B型粘度計により測定温度20℃の条件で測定した。粘度は、実施例1を基準とする相対値も表1に示した。保存安定性は、20℃で24時間保存後の外観を目視観察した。
【0023】
【0024】
表1の実施例と比較例における粘度の差は、例えば、ポンプ圧送に要する累積エネルギー量の差などとして、実使用での影響が大きく、当業者には極めて大きな差として認識されるものである。