IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インディアン オイル コーポレイション リミテッドの特許一覧

特開2022-13763手指擦式製剤中の成分を特定および定量するための迅速なNMR法
<>
  • 特開-手指擦式製剤中の成分を特定および定量するための迅速なNMR法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013763
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】手指擦式製剤中の成分を特定および定量するための迅速なNMR法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G01N24/00 530K
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021102244
(22)【出願日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】202021027916
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマール,ラヴィンドラ
(72)【発明者】
【氏名】モンダル,スジット
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤラジ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】カプール,グルプリート シン
(72)【発明者】
【氏名】ラマクマール,サンカラ スリ ヴェンカタ
(57)【要約】
【課題】本発明は、本物と偽物の手指擦式製剤を区別するための、プロトンNMR技術に基づく方法に関する。
【解決手段】当該方法では、WHOが推奨する手指擦式製剤に含まれる4つの成分すべてを特定および推定する。さらに、当該方法は、WHO推奨の手指擦式製剤に存在する非推奨/追加成分の存在も特定する。本発明に記載の方法は、実験パラメータおよび導き出された方程式を利用して、有機溶媒を使用することなく、わずか15分で4つの成分すべてを定量する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手指擦式製剤中の成分を特定および定量する方法であって、
a)プロトンNMR技術に基づいて各成分中の異なる原子に結合した水素の位置を決定し、水素の化学シフトをppmピークの結果として取得することにより、成分を分析および特性評価するステップと、
b)実験パラメータを用いて成分を定量し、ステップa)で得た結果を用いて方程式を解き、各成分の重量%に至るステップと、を含み、
重量%は手指擦式製剤中の各成分の重量割合を意味する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、手指擦式製剤に含まれる成分は、アルコール、過酸化物、グリセリン、および水である方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、アルコールの分析および特性評価、過酸化物の分析および特性評価、グリセリンの分析および特性評価、並びに、水の分析および特性評価をするステップを含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、アルコールがエタノールまたはイソプロパノールである方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、過酸化物が過酸化水素である方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、4.0ppmの第2級水素の-OCH-シグナルの化学シフトがイソプロパノールの定量に用いられる方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、3.76ppmの-OCH-ピークの化学シフトがグリセリンの定量に用いられる方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、5.5ppmの-OHの化学シフトが過酸化水素の定量に用いられる方法。
【請求項9】
請求項2に記載の方法であって、4.77ppmの-OHの化学シフトが水の定量に用いられる方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法であって、イソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素に対応する、3.0ppm~6.0ppmのプロトンNMRの化学シフトが定量に用いられる方法。
【請求項11】
請求項4に記載の方法であって、イソプロパノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量%は、式IT=IP+IG+IW+IHによって定量され、ここで、
ITは、総積分であり、
IPは、Ip×イソプロパノールの分子量であり、
IGは、Ig×グリセリンの分子量であり、
IWは、Iw×水の分子量であり、
IHは、Ih×過酸化水素の分子量である方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、Ip、Ig、Iw、およびIhは、イソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」であり、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度を、その基のプロトン数で割ることによって算出される方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
Ipは、4.0ppmのピークの積分であり、
Igは、3.76ppmのピークの積分であり、
Iwは、4.77ppmのピークの積分から、イソプロパノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、
Ihは、5.5ppmのピークの積分を2で割ったものである方法。
【請求項14】
請求項11に記載の方法であって、
イソプロパノールの重量%=(IP/IT)×100、
グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、
水の重量%=(IW/IT)×100、
過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である方法。
【請求項15】
請求項4に記載の方法であって、エタノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量%は、式IT=IE+IG+IW+IHによって定量され、ここで、
IEは、Ie×エタノールの分子量であり、
IGは、Ig×グリセリンの分子量であり、
IWは、Iw×水の分子量であり、
IHは、Ih×過酸化水素の分子量である方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、Ie、Ig、IwおよびIhは、エタノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」であり、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度を、その基のプロトン数で割ることによって算出される方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、
Ieは、1.14ppmのピークの積分を3で割ったものであり、
Igは、3.8~3.4ppmのピークの積分-Ie×2であり、
Iwは、4.7ppmのピークの積分からエタノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、
Ihは、5.4ppmのピークの積分を2で割ったものである方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、
エタノールの重量%=(IE/IT)×100、
グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、
水の重量%=(IW/IT)×100、
過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、プロトンNMR法は、手指消毒剤中のすべての成分を特定および定量することを含み、手指消毒剤中の成分を定量するための方程式を提供する方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、使用される手指消毒剤のプロトンNMRスペクトルの化学シフトが、0.0ppm~10.0ppmの範囲である方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、プロトンNMR法が、さらに、手指消毒剤に含まれるメタノールを特定することを含む方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、3.3ppmにメタノールの-OCH3のシャープなシングレットが観察される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトンNMR法に基づいて、本物の手指擦式製剤と偽物の手指擦式製剤を区別する方法に関するものである。当該方法では、WHOが推奨する手指擦式製剤に含まれる4つの成分すべてを特定および定量する。さらに、当該方法は、手指擦式製剤中に存在する非推奨/追加成分の存在も特定する。
【背景技術】
【0002】
急速に展開するCOVID-19のパンデミックと、世界市場およびインド市場での手指擦式製剤の需要に照らして、多くの企業がアルコールベースの手指擦式製剤を製造し、市場で販売している。メーカーはWHOのガイドラインに従って手指擦式製剤を製造および供給しているが、突然の需要により、WHOのガイドラインに違反する低品質の手指擦式製剤も市場に出回っている。この観点から、品質管理のための分析技術を用いて、アルコールベースの手指擦式製剤を分析するための迅速で信頼性の高い方法が必要とされている。
【0003】
WHOは、製剤Iおよび製剤IIの2つの手指擦式製剤を推奨している。製剤Iの最終組成(v/v)は、エタノール(80%)、過酸化水素(0.125%)、グリセリン(1.45%)、滅菌蒸留水または煮沸して冷却した水である。製剤IIの最終組成(v/v)は、イソプロパノール(75%)、過酸化水素(0.125%)、グリセリン(1.45%)、滅菌蒸留水または煮沸して冷却した水である。
【0004】
最終製剤の作製後、製剤の組成を定量して、必要な組成が達成されていることを確認することが望ましい。これは品質管理において非常に重要なステップである。WHOの「現地生産ガイド:WHOが推奨する手指擦式製剤」に従って、アルコールメーターを使用して最終使用溶剤のアルコール濃度を制御することができる。したがって、最終製剤中のアルコール濃度のみを特定することができる。
【0005】
米国特許第8795697号には、除菌用組成物及びその製法が記載されている。当該文献にはその組成とその調製について開示されており、適切な量のアルコール、水、および増粘剤と、活性化剤とを単に混合して、所望の粘度の十分に濃厚な液体またはゲルを製造することができる。ただし、当該文献では、調製された除菌剤の最終組成を分析する方法については開示されていない。
【0006】
米国特許第8380445号には、1つ以上の化学種を有する複雑な混合物を区別するための二次元NMRに基づく方法が記載されている。当該方法は、化学構造の高分解能NMR分析、より具体的には、選択的な全相関分光法(「TOCSY」)を使用して、所定の化学種のセットを定量および分析することを目的としている。2DNMRは長時間を要する実験であり、NMR分光計の厳密な調整が必要である。
【0007】
中国特許第107561111号には、蜂蜜に混合された場合のキャッサバシロップの検出方法が記載されている。その発明に記載されている手順に従って、サンプルが抽出される。特定のpH値を有するサンプルに対して、プロトンNMRを実施する。蜂蜜サンプルマーカーの化学シフトを分析することにより、蜂蜜にキャッサバシロップが混入しているかどうかを判定する。
【0008】
米国特許第9775346号の発明は、消毒剤、特に手指消毒剤の組成物および製造方法に関する。当該組成物は、治療に有意な量の緩和剤およびコンディショナーを含む。しかし、この発明では、調製された消毒剤の最終組成を分析する方法については開示されていない。
【0009】
核磁気共鳴(NMR)分光法は、分子構造に関する非常に詳細な情報を提供する公知技術である。NMRはまた、検出される信号が、検出されるサンプル体積中の活性核の絶対数に直線的に比例するため、定量的である。したがって、分子内の水素、炭素、またはその他の原子の相対数を直接測定でき、混合物中の異なる分子種の相対数を計算でき、内部標準を用いて、種の絶対濃度を計算することができる。
【0010】
手指消毒剤の品質管理のために、迅速で信頼性が高く、1つの技術で入手可能な分析方法が必要とされている。公開されている文献では、手指消毒剤において推奨されている各成分は、別々の技術や分析方法を用いて同定されている。過酸化水素濃度は滴定法(酸性条件下でのヨウ素による酸化還元反応)によって測定される。手指消毒剤に含まれるアルコールおよび過酸化水素のそれぞれをガスクロマトグラフィーおよび滴定法を用いて管理することで、より高度な品質管理を行うことができる。ただし、これらの方法では1つのサンプルのテストを行うのに4~5時間を要し、ヨウ素や酸などの化学物質が必要となる。さらに、グリコール/グリセリンと水の特定は、これらの方法では分析できないため、非常に困難となる。WHOが推奨する消毒剤に含まれる4つの成分すべて、およびメタノールなどの有毒化学物質の不純物を測定するために利用できる単一の方法はない。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一態様において、本発明は、手指擦式製剤中の成分を特定および定量する方法を開示する。当該方法は、a)プロトンNMR技術に基づいて各成分中の異なる原子に結合した水素の位置を決定し、水素の化学シフトをppmピークの結果として取得することにより、成分を分析および特性評価するステップと、b)実験パラメータを用いて成分を定量し、ステップa)で得た結果を用いて方程式を解き、各成分の重量%に至るステップと、を含む。ここで、重量%は、手指擦式製剤中の各成分の重量割合を意味する。
【0012】
本発明の特徴において、手指擦式製剤に含まれる成分は、アルコール、過酸化物、グリセリン、および水である。
【0013】
本発明の特徴において、前記方法は、アルコールの分析および特性評価、過酸化物の分析および特性評価、グリセリンの分析および特性評価、水の分析および特性評価をするステップを含む。
【0014】
本発明の特徴において、アルコールはエタノールまたはイソプロパノールであり、過酸化物は過酸化水素である。
【0015】
本発明の特徴において、4.0ppmの第2級(secondary)水素の-OCH-シグナルの化学シフトがイソプロパノールの定量に用いられ、3.76ppmの-OCH-ピークの化学シフトがグリセリンの定量に用いられ、5.5ppmの-OHの化学シフトが過酸化水素の定量に用いられ、4.77ppmの-OHの化学シフトが水の定量に用いられる。
【0016】
本発明の特徴において、イソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素に対応する、3.0ppm~6.0ppmのプロトンNMRの化学シフトが定量に用いられる。
【0017】
本発明の特徴において、イソプロパノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量%は、式IT=IP+IG+IW+IHによって定量される。ここで、ITは総積分であり、IPはIp×イソプロパノールの分子量であり、IGはIg×グリセリンの分子量であり、IWはIw×水の分子量であり、IHはIh×過酸化水素の分子量である。Ip、Ig、Iw、およびIhは、それぞれイソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」であり、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度をその基(group)のプロトン数で割ることによって算出される。
【0018】
本発明の特徴において、Ipは4.0ppmのピークの積分であり、Igは3.76ppmのピークの積分であり、Iwは、4.77ppmのピークの積分からイソプロパノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、Ihは5.5ppmのピークの積分を2で割ったものである。
【0019】
本発明の特徴において、イソプロパノールの重量%=(IP/IT)×100、グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、水の重量%=(IW/IT)×100、過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である。
【0020】
本発明の特徴において、エタノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量%は、式IT=IE+IG+IW+IHによって定量される。ここで、IEはIe×エタノールの分子量であり、IGはIg×グリセリンの分子量であり、IWはIw×水の分子量であり、IHはIh×過酸化水素の分子量である。
【0021】
本発明の他の特徴において、Ie、Ig、IwおよびIhは、それぞれエタノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」であり、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度をその基のプロトン数で割ることによって算出される。
【0022】
本発明の特徴において、Ieは1.14ppmのピークの積分を3で割ったものであり、Igは3.8~3.4ppmのピークの積分-Ie×2であり、Iwは4.7ppmのピークの積分からエタノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、Ihは5.4ppmのピークの積分を2で割ったものである。
【0023】
本発明の他の特徴において、エタノールの重量%=(IE/IT)×100、グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、水の重量%=(IW/IT)×100、過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である。
【0024】
本発明の他の特徴において、プロトンNMR法は、手指消毒剤中のすべての成分を特定および定量することを含み、手指消毒剤中の成分を定量するための方程式を提供する。
【0025】
本発明の他の特徴において、使用される手指消毒剤のプロトンNMRスペクトルの化学シフトが、0.0ppm~10.0ppmの範囲である。
【0026】
本発明の他の特徴において、プロトンNMR法が、さらに、手指消毒剤に含まれるメタノールを特定することを含み、3.3ppmにメタノールの-OCH3のシャープなシングレットが観察される。
【0027】
本発明の目的
本発明の主な目的は、品質管理のための迅速で信頼性の高い方法を提供し、プロトンNMR技術に基づいて、本物の手指消毒剤と偽物の手指消毒剤とを区別することである。
【0028】
本発明の更なる目的は、WHOが推奨する手指擦式製剤に含まれる4つの成分(エタノールまたはイソプロパノール、グリセリン、過酸化水素、および水)のすべてを定量するNMR法を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、プロトンNMRに基づく結果が得られ、1つのサンプルのみを用い、信頼性があり、15分以内に定量が可能な方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の利点および態様をさらに明確にするために、添付図面に示す特定の実施形態を参照して、本発明をより具体的に説明する。本発明の図面は、本発明の典型的な実施形態のみを示しており、したがって、その範囲を限定するものではないということは理解されたい。
【0031】
図1図1は、4つの成分のNMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
当業者は、本開示が、IPAベースの消毒剤の1H NMRスペクトルの変形形態、および具体例に説明したもの以外の修正形態を対象とすることを理解するであろう。本開示は、そのようなすべての変形および修正形態を含むことを理解されたい。本開示にはまた、本明細書で言及または示されている方法のすべてのステップや製品の特徴などが、個別にまたはまとめて含まれており、そのようなステップまたは特徴のいずれかまたは複数の任意のまたはすべての組み合わせも含まれる。
【0033】
本明細書に記載の特定の実施形態は、例示のみを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。機能的に均等な製品および方法は、明らかに本明細書に記載されている開示の範囲内にある。
【0034】
本発明は、手指擦式製剤の分析に関する方法を提供する。特に、本発明は、プロトンNMR法、すなわち1H NMRに基づく方法に関する。本発明はまた、手指擦式製剤中の成分の特定および定量に関する。本発明に記載の方法では、実験パラメータおよび導き出された方程式を利用して、わずか15分で4つの成分すべてを定量する。
【0035】
一実施形態において、本発明は、手指擦式製剤中の成分を特定および定量する方法を提供する。前記方法は、a)プロトンNMR技術に基づいて各成分中の異なる原子に結合した水素の位置を決定し、水素の化学シフトをppmピークの結果として取得することにより、成分を分析および特性評価するステップと、b)実験パラメータを用いて成分を定量し、ステップa)で得た結果を用いて方程式を解き、各成分の重量%に至るステップと、を含む。ここで、重量%は、手指擦式製剤中の各成分の重量割合を意味する。
【0036】
本発明の一態様では、アルコール、過酸化物、グリセリン、および水を含む、1つ以上の成分を含有するサンプルの分析方法が提供される。一実施形態では、前記方法は、アルコールの分析および特性評価、過酸化物の分析および特性評価、グリセリンの分析および特性評価、水の分析および特性評価をするステップを含み、1つ以上の分析ステップから得られた結果を用いて、手指擦式製剤すなわちサンプルのすべての成分の同一性と量を決定する。他の実施形態では、前記方程式法は、1つ以上の分析ステップで得られた結果から方程式を作成し、それらを解くことを含む。
【0037】
一実施形態では、前記方法はプロトンNMR、すなわち1H NMRに基づく。当業者であれば、プロトンNMR実験は、核磁気共鳴に供された水素原子核の研究を行う最も一般的なNMR実験であることを認めるであろう。最も感度の高い原子核であるプロトンNMRでは、通常、シャープなシグナルが得られる。同じ周波数でも、水素原子が何に結合しているかによって、各水素原子を共鳴状態にするために必要な磁場が微妙に異なる。したがって、必要となる磁場は、分子内の水素原子の環境を示す非常に有効な指針となる。一実施形態では、使用した手指消毒剤のプロトンNMRスペクトルの化学シフトは、0.0ppm~10.0ppmである。
【0038】
一実施形態では、前記方法はすべての成分の異なる原子に結合した水素の位置を決定するステップを含む。本発明の一態様では、サンプル中のアルコールがイソプロパノールやエタノールである場合、水素の位置は第2級である。他の実施形態では、4.0ppmの第2級水素の-OCH-シグナルの化学シフトがイソプロパノールの定量に用いられる。本発明の他の態様では、アルコールがメタノールである場合、3.3ppmに-OCH3のシャープなシングレットが観察される。
【0039】
一実施形態では、グリセリンの2つに分裂したピークが3.76ppmおよび3.62~3.50ppmに出現し、これはそれぞれ-OCH-および-OCH2-の水素の化学シフトに対応する。他の実施形態では、3.76ppmにある-OCH-ピークの化学シフトが、グリセリン含有量の定量に用いられる。
【0040】
一実施形態では、5.5ppmの-OHの化学シフトが、過酸化水素の定量に用いられる。他の実施形態では、4.77ppmの-OHの化学シフトが、水の定量に用いられる。
【0041】
一実施形態では、イソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素に対応する、3.0ppm~6.0ppmのプロトンNMRの化学シフトが定量に用いられる。他の実施形態では、プロトンNMRスペクトルの各シグナルの下で得られた積分強度を用いて定量分析を行う。
【0042】
一実施形態では、イソプロパノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量割合、すなわち重量%は、式IT=IP+IG+IW+IHによって推定される。
ここで、
ITは、総積分であり、
IPは、Ip×イソプロパノールの分子量であり、
IGは、Ig×グリセリンの分子量であり、
IWは、Iw×水の分子量であり、
IHは、Ih×過酸化水素の分子量である。
【0043】
Ip、Ig、Iw、およびIhは、イソプロパノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」である。「1プロトン積分強度」は、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度を、その基のプロトン数で割ることによって算出される。
【0044】
ここで、
Ipは、4.0ppmのピークの積分であり、
Igは、3.76ppmのピークの積分であり、
Iwは、4.77ppmのピークの積分から、イソプロパノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、
Ihは、5.5ppmのピークの積分を2で割ったものである。
【0045】
そして、
イソプロパノールの重量%=(IP/IT)×100、
グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、
水の重量%=(IW/IT)×100、
過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である。
【0046】
他の実施形態では、エタノールをベースにした手指擦式製剤において、各成分の重量割合、すなわち重量%は、式IT=IE+IG+IW+IHによって推定される。
ここで、
IEは、Ie×エタノールの分子量であり、
IGは、Ig×グリセリンの分子量であり、
IWは、Iw×水の分子量であり、
IHは、Ih×過酸化水素の分子量である。
【0047】
Ie、Ig、Iw、およびIhは、エタノール、グリセリン、水、および過酸化水素の「1プロトン積分強度」である。「1プロトン積分強度」は、対応するプロトンNMRスペクトルの積分強度を、その基のプロトン数で割ることによって算出される。
【0048】
ここで、
Ieは、1.14ppmのピークの積分を3で割ったものであり、
Igは、3.8~3.4ppmのピークの積分-Ie×2であり、
Iwは、4.7ppmのピークの積分からエタノールおよびグリセリンの-OHに寄与するプロトンを減算した後、2で割ったものであり、
Ihは、5.4ppmのピークの積分を2で割ったものである。
【0049】
そして、
エタノールの重量%=(IE/IT)×100、
グリセリンの重量%=(IG/IT)×100、
水の重量%=(IW/IT)×100、
過酸化水素の重量%=(IH/IT)×100である。
【0050】
一実施形態では、プロトンNMR法は、手指消毒剤中のすべての成分を特定および定量する。他の実施形態では、その方法は、手指消毒剤中の各成分を定量するための方程式を提供する。
【0051】
実施例1:
イソプロパノール75%、過酸化水素0.125%、グリセリン1.45%、および滅菌蒸留水または煮沸して冷却した水を最終組成(v/v)とする製剤IIでできたWHOが推奨する手指擦式製剤を調製し、プロトンNMR法で分析することで、以下の特徴的なピークにより、製剤中に存在する全成分を特定した。イソプロパノールは、4.0ppmの第2級水素の-OCH-シグナルの化学シフトによって特定された。グリセリンの2本に分裂したピークの出現が、-OCH-および-OCH2-のそれぞれの水素の化学シフトに対応する3.76ppmおよび3.62~3.50ppmで観察された。5.5ppmには過酸化水素の-OHの化学シフトが観察され、4.77ppmの-OHの化学シフトは水の存在を示す。
【0052】
実施例2:
他のグループ(燃料部門)が調製した製剤中のイソプロパノール、グリセリン、過酸化水素、および水について、それぞれの特性シグナルの積分を用いて導き出した方程式によって定量したところ、イソプロパノール71.3%、過酸化水素2.3%、グリセリン0.18%、および水26.2%であることがわかった。これに対し、自動車部門のフォーミュレーターが示した実際の濃度値は、イソプロパノール73.3%、過酸化水素2.3%、グリセリン0.19%、および水24.81%であった。
【0053】
実施例3:
他のグループが調製した実験室用ブレンド1に含まれるイソプロパノール、過酸化水素、グリセリン、および水を定量した。その結果、前記ブレンド1に含まれる各成分の濃度はイソプロパノール51.2%、過酸化水素9.2%、グリセリン0.2%、および水39.4%であることがわかった。これに対し、フォーミュレーターが示した実際の各成分の濃度値はイソプロパノール53.1%、過酸化水素8.5%、グリセリン0.14%、および水38.26%であった。
【0054】
ブレンド2に含まれる各成分の濃度は、実際のブレンド2の濃度が、イソプロパノール63.9%、グリセリン5.9%、および水29.94%であったのに対して、イソプロパノール61.2%、グリセリン6.2%、および水32.6%であった。ブレンド2では、過酸化水素(H22)の濃度が高いため、過酸化水素の定量はできなかった。この濃度では、過酸化水素と水のピークが合体して1つのピークになり、そのピークの幅が広くなる。この現象は、水と過酸化水素との間のプロトン交換に起因する。過酸化水素の濃度が高くなるにつれて、水と過酸化水素との間のプロトン交換の割合が顕著になり、その結果、幅の広い単一のピークが観察される。
【0055】
実施例4:
エタノール76.5%、過酸化水素0.20%、グリセリン2.5%、および滅菌蒸留水または煮沸して冷却した水20.8%を最終組成(wt/wt%)とする製剤Iを用いたWHOが推奨する手指擦式製剤を調製した。本発明のNMR法により定量したところ、各成分の濃度は、エタノール75.4%、過酸化水素0.18%、グリセリン2.4%、および水23.02%であった。
【0056】
実施例5:
市販の手指消毒剤を分析したところ、イソプロパノール、グリセリン、水の濃度がそれぞれ45.2%、1.10%、52.0%であることがわかったが、有毒化学物質であるメタノールが1.7%観測された。さらに5つの市販サンプルを当該方法で分析したところ、イソプロパノールの濃度はCOVID-19用の手指消毒剤としてWHOが推奨する濃度を下回っていることがわかった。
【0057】
本発明の技術的利点
1.4つの成分すべてを分離するための実験および溶媒系を設計した。
2.当該方法では有機溶媒や標準物質を使用しない。
3.迅速かつ短時間で行うことができる(1つのサンプルにつき、わずか15分)。
4.定量のための方程式を導き出した。
5.非推奨/追加成分の存在を識別できる。

図1
【外国語明細書】