(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022137660
(43)【公開日】2022-09-22
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用の正極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220914BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037246
(22)【出願日】2021-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 治成
(72)【発明者】
【氏名】大原 敬介
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017BB08
5H017CC01
5H017EE04
5H017EE05
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H017HH08
5H017HH09
5H050AA14
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA04
5H050EA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】機械的強度に優れ、高密度の活物質層を形成することができる集電体を備えた正極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池用の正極は、集電体、及び、集電体上に設けられた活物質層を含む。集電体は、基材部、表層部、及び、基材部と表層部との間に設けられた中間層を含む。基材部は45質量%以上の鉄元素を含み、表層部は50質量%以上のアルミニウム元素を含む。中間層は、鉄元素及びアルミニウム元素を含有する合金(X)を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用の正極であって、
前記正極は、集電体、及び、前記集電体上に設けられた活物質層を含み、
前記集電体は、基材部、表層部、及び、前記基材部と前記表層部との間に設けられた中間層を含み、
前記基材部は、45質量%以上の鉄元素を含み、
前記表層部は、50質量%以上のアルミニウム元素を含み、
前記中間層は、鉄元素及びアルミニウム元素を含有する合金(X)を含む、正極。
【請求項2】
前記中間層のアルミニウム元素と鉄元素との比(アルミニウム元素/鉄元素)は、2.1以上3.0以下である、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記合金(X)は、金属間化合物である、請求項1又は2に記載の正極。
【請求項4】
前記中間層は、前記基材部の表面全体にわたって不連続に設けられており、
前記基材部の表面において前記中間層が占有する面積は、0.5%以上60%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極。
【請求項5】
前記基材部の厚みは、4.0μm以上30.0μm以下であり、
前記表層部の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極。
【請求項6】
前記表層部の厚みと前記基材部の厚みとの比(表層部の厚み/基材部の厚み)は、0.005以上0.50以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の正極。
【請求項7】
非水電解質二次電池用の正極の製造方法であって、
集電体を製造する工程、及び、前記集電体上に活物質層を形成する工程を含み、
前記集電体を製造する工程は、
45質量%以上の鉄元素を含むFe層と、50質量%以上のアルミニウム元素を含むAl層とを積層した複層体を得る工程と、
温度が500℃以上630℃以下であり、加熱時間が5秒以上1500秒以下である加熱条件下において、前記複層体を加熱処理する工程と、を含む、正極の製造方法。
【請求項8】
前記複層体を得る工程は、下記[i]又は[ii]:
[i]前記Fe層上に、蒸着又はスパッタリングによって前記Al層を形成する工程、
[ii]前記Fe層と前記Al層とを積層して圧着する工程、
を含む、請求項7に記載の正極の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理する工程は、前記複層体の表面に加わる熱量が部分的に異なるように行う、請求項7又は8に記載の正極の製造方法。
【請求項10】
前記活物質層は正極活物質を含み、
前記活物質層を形成する工程は、前記集電体の前記Al層側に設けられた前記正極活物質を含む正極合剤を圧縮する工程を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の正極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池に用いられる正極は、集電体と正極活物質を含む活物質層との積層構造を有することが知られている(例えば、特開2014-120331号公報(特許文献1)、特開2011-243468号公報(特許文献2))。特許文献1は、正極に用いられる集電体が基材と表層とを有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-120331号公報
【特許文献2】特開2011-243468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極の活物質層を形成する際、集電体上に塗布された正極活物質を含む正極合剤を圧縮することがある。高密度化した活物質層を形成するために正極合剤を強く圧縮する場合、機械的強度の高い金属又は合金で形成された集電体を用いると、正極合剤の伸びに集電体の伸びが追随しにくいため、高密度化した活物質層の形成は困難であった。一方、正極合剤の伸びに集電体の伸びを追随させるために、展伸性に優れる材料によって形成された表層と展伸性に劣る材料によって形成された基材とを含む集電体を用いることが考えられる。しかしながら、このような集電体を用いた場合であっても、正極合剤を強く圧縮すると基材から表層が剥離してしまうことがあった。正極の活物質層を高密度化することができなければ、非水電解質二次電池の高エネルギー密度化も困難となる。
【0005】
本開示の目的は、機械的強度に優れ、高密度の活物質層を形成することができる集電体を備えた正極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 非水電解質二次電池用の正極であって、
前記正極は、集電体、及び、前記集電体上に設けられた活物質層を含み、
前記集電体は、基材部、表層部、及び、前記基材部と前記表層部との間に設けられた中間層を含み、
前記基材部は、45質量%以上の鉄元素を含み、
前記表層部は、50質量%以上のアルミニウム元素を含み、
前記中間層は、鉄元素及びアルミニウム元素を含有する合金(X)を含む、正極。
〔2〕 前記中間層のアルミニウム元素と鉄元素との比(アルミニウム元素/鉄元素)は、2.1以上3.0以下である。
〔3〕 前記合金(X)は、金属間化合物である。
〔4〕 前記中間層は、前記基材部の表面全体にわたって不連続に設けられており、
前記基材部の表面において前記中間層が占有する面積は、0.5%以上60%以下である。
〔5〕 前記基材部の厚みは、4.0μm以上30.0μm以下であり、
前記表層部の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下である。
〔6〕 前記表層部の厚みと前記基材部の厚みとの比(表層部の厚み/基材部の厚み)は、0.005以上0.50以下である。
〔7〕 非水電解質二次電池用の正極の製造方法であって、
集電体を製造する工程、及び、前記集電体上に活物質層を形成する工程を含み、
前記集電体を製造する工程は、
45質量%以上の鉄元素を含むFe層と、50質量%以上のアルミニウム元素を含むAl層とを積層した複層体を得る工程と、
温度が500℃以上630℃以下であり、加熱時間が5秒以上1500秒以下である加熱条件下において、前記複層体を加熱処理する工程と、を含む、正極の製造方法。
〔8〕 前記複層体を得る工程は、下記[i]又は[ii]:
[i]前記Fe層上に、蒸着又はスパッタリングによって前記Al層を形成する工程、
[ii]前記Fe層と前記Al層とを積層して圧着する工程、
を含む。
〔9〕 前記加熱処理する工程は、前記複層体の表面に加わる熱量が部分的に異なるように行う。
〔10〕 前記活物質層は正極活物質を含み、
前記活物質層を形成する工程は、前記集電体の前記Al層側に設けられた前記正極活物質を含む正極合剤を圧縮する工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、機械的強度に優れ、高密度の活物質層を形成することができる集電体を備えた正極及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(正極)
本実施形態の正極は、非水電解質二次電池(以下、「電池」ということがある。)用の電極である。正極は、集電体と、集電体上に設けられた活物質層とを含む。活物質層は、集電体の片面にのみ設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0009】
(集電体)
集電体は、45質量%以上の鉄(Fe)元素を含む基材部、50質量%以上のアルミニウム(Al)元素を含む表層部、及び、基材部と表層部との間に設けられた中間層を含む。中間層は、Fe元素及びAl元素を含有する合金(X)を含む。
【0010】
正極を製造する際には、集電体の表層部上に設けられた正極合剤を圧縮することによって活物質層を形成する。集電体の表層部はAl元素を50質量%以上含むため、基材部よりも優れた展伸性を有する。そのため、高密度化した活物質層を形成するために、集電体の表層部上で正極合剤を強く圧縮した場合にも、表層部が正極合剤の伸びに追随することができる。一方、集電体の基材部はFe元素を45質量%以上含むため、集電体に優れた機械的強度を付与することができるが、正極合剤の伸びには追随しにくい。このように正極合剤の伸びに対して表層部が追随しやすく基材部が追随しにくい場合であっても、両者の追随性の違いを集電体の中間層によって緩衝することができるため、基材部と表層部とが剥離することを抑制することができると考えられる。これにより、集電体の機械的強度を確保しながら、集電体上に高密度の活物質層を形成することができるため、正極の活物質層を高密度化することができ、電池の高エネルギー密度化を図ることができる。
【0011】
集電体の基材部に含まれるFe元素は、45質量%以上であればよく、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよい。基材部に含まれる金属は、Fe元素のみであってもよく、Fe元素以外の金属元素を含むステンレスであってもよい。基材部に含まれるFe元素以外の金属元素としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、炭素(C)、ケイ素(Si)、窒素(N)、及びマンガン(Mn)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの金属元素のうち、Cr、Ni、Mo、Cu、Ti、Nb、Zr、及びCからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの金属元素の含有量は好ましくは、Cr元素及びNi元素がそれぞれ独立して5質量%以上25質量%以下であり、Mo元素が1質量%以上5質量%以下であり、Cu元素が0.5質量%以上5質量%以下であり、Ti元素、Nb元素、Zr元素、及びC元素がそれぞれ独立して0.1質量%以上1質量%以下である。
【0012】
基材部の厚みは特に限定されないが、4.0μm以上であってもよく、8.0μm以上であってもよく、10.0μm以上であってもよく、20.0μm以上であってもよく、また、32.0μm以下であってもよく、30.0μm以下であってもよく、25.0μm以下であってもよい。基材部の厚みは、4.0μm以上30.0μm以下であることが好ましい。基材部の厚みがこの範囲にある集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れ、短絡電流を速やかに遮断できる電池が得られやすい。
【0013】
集電体の表層部は、基材部の片面又は両面に設けることができる。集電体の両面に活物質層が設けられる場合は、基材部の両面に表層部を設けることが好ましい。表層部は、中間層を介して、基材部の片面全体又は両面全体を覆うように設けられていることが好ましい。表層部は、中間層と接していない部分において、基材部に直接接していることが好ましい。
【0014】
表層部は、Al元素を50質量%以上含む金属層であればよく、金属元素としてAl元素のみを含むものであってもよく、Al元素以外の金属元素を含む合金であってもよい。表層部に含まれるAl元素以外の金属元素としては、Si、Cu、Mn、マグネシウム(Mg)、Cr、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、バナジウム(V)、Ni、ホウ素(B)、Zr、Ti、及びリチウム(Li)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの金属元素のうち、Si、Cu、Mn、及びMgからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの金属元素の含有量は好ましくは、Si元素が0.1質量%以上1質量%以下であり、Cu元素が0.03質量%以上5質量%以下であり、Mn元素が0.02質量%以上5質量%以下であり、Mg元素が0.02質量%以上10質量%以下である。
【0015】
表層部の厚み(片面あたりの厚み)は特に限定されないが、0.1μm以上であってもよく、1.0μm以上であってもよく、2.0μm以上であってもよく、2.5μm以上であってもよく、また、10.0μm以下であってもよく、5.0μm以下であってもよく、4.0μm以下であってもよい。表層部の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。表層部の厚みがこの範囲にある集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れ、短絡電流を速やかに遮断できる電池が得られやすい。
【0016】
表層部の厚み(片面あたりの厚み)と基材部の厚みとの比(表層部の厚み/基材部の厚み)は、特に限定されないが、0.005以上であってもよく、0.10以上であってもよく、0.06以上であってもよく、また、0.56以下であってもよく、0.50以下であってもよく、0.31以下であってもよい。上記比は0.005以上0.50以下の範囲にあることが好ましい。上記比がこの範囲にある集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れ、短絡電流を速やかに遮断できる電池が得られやすい。
【0017】
集電体の中間層は、基材部と表層部との間に設けられる。中間層は、基材部の表面に連続的に設けられていてもよく、基材部上に不連続に設けられていてもよい。中間層は、基材部の表面全体にわたって不連続に設けられていることがより好ましい。中間層が不連続に設けられているとは、基材部の表面全体にわたって合金(X)の層が形成されておらず、基材部の表面全体において合金(X)が散在していることをいう。
【0018】
中間層が基材部の表面全体にわたって不連続に設けられている場合、基材部の表面において中間層が占有する面積の割合は特に限定されない。当該面積の割合は、0.3%以上であってもよく、0.5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、また、65%以下であってもよく、60%以下であってもよく、50%以下であってもよい。上記面積の割合は、0.5%以上60%以下であることが好ましい。上記面積の割合の中間層を含む集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れ、短絡電流を速やかに遮断できる電池が得られやすい。中間層の上記面積の割合が小さくなると、基材部と表層部との結合が弱いために電池抵抗が上昇しやすく、電池の保存特性が低下しやすいと考えられる。また、中間層は融点が低いため、上記面積の割合が大きくなると、電池に発生する短絡電流を遮断しにくくなると考えられる。
【0019】
中間層は、Fe元素及びAl元素を含有する合金(X)を含む。中間層に含まれる金属は、合金(X)のみであってもよい。合金(X)は、Fe元素とAl元素との固溶体であってもよく、金属間化合物であってもよい。合金(X)は、金属間化合物であることが好ましい。金属間化合物は、Fe3Al、FeAl、Fe5Al8、FeAl2、Fe2Al5、Fe3Al8、FeAl3、Fe4Al13からなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、FeAl2、Fe2Al5、FeAl3からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。中間層が上記の金属間化合物を含む集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れた電池が得られやすい。
【0020】
中間層のAl元素とFe元素との比(Al元素/Fe元素)は、特に限定されないが、0.3以上であってもよく、1.0以上であってもよく、2.1以上であってもよく、2.4以上であってもよく、また、3.3以下であってもよく、3.0以下であってもよい。上記比は、2.1以上3.0以下であることが好ましい。中間層の上記比がこの範囲にある集電体を用いて作製された正極を用いることにより、保存特性に優れ、短絡電流を速やかに遮断できる電池が得られやすい。
【0021】
中間層の厚み(片面あたりの厚み)は特に限定されないが、例えば、2.0μm以上であってもよく、3.0μm以上であってもよく、また、10.0μm以下であってもよく、9.0μm以下であってもよく、5.0μm以下であってもよい。中間層は融点が低いため、その厚みが大きくなると、電池に用いられた場合に短絡電流を遮断しにくくなると考えられる。
【0022】
基材部の両面に中間層が設けられている場合、各面における中間層の上記面積の割合、合金(X)の種類、比(Al元素/Fe元素)、及び厚みはそれぞれ、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
(活物質層)
活物質層は、正極活物質を含み、さらに導電材、バインダ等を含むことができる。例えば正極活物質層は、80質量%以上98%質量%以下の正極活物質と、1質量%以上10質量%以下の導電材と、残部のバインダとを含んでいてもよい。
【0024】
正極活物質は、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、及びLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここで、例えば「Li(NiCoMn)O2」等の組成式においては、括弧内(NiCoAl)の組成比の合計が1である。組成比の合計が1である限り、各元素(Ni、Co、Mn)の組成比は任意である。導電材は、例えばカーボンブラック等が挙げられる。バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。
【0025】
活物質層の密度は、通常、3.0g/cm3以上であり、3.5g/cm3以上であることが好ましく、通常4.0g/cm3以下であり、3.8g/cm3以下であってもよく、3.7g/cm3以下であってもよい。集電体の両面に活物質層が設けられる場合、各活物質層の組成及び密度はそれぞれ、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
(正極の用途)
本実施形態の正極は、電池の正極として用いることができる。正極は、セパレータを介して負極と積層されることにより、積層(スタック)型又は巻回し型の電極体を形成することができる。電池は、例えば、上記正極を含む電極体と非水電解質とを外装体内に収納して作製することができる。セパレータ、負極、非水電解質、外装体は特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0027】
(正極の製造方法)
本実施形態の正極の製造方法は、集電体を製造する工程と、集電体上に活物質層を形成する工程とを含む。活物質層は正極活物質を含み、活物質層を形成する工程は、集電体上に設けられた正極活物質を含む正極合剤を圧縮する工程を含むことができる。
【0028】
(集電体を製造する工程)
集電体を製造する工程は、45質量%以上の鉄元素を含むFe層と50質量%以上のアルミニウム元素を含むAl層とを積層した複層体を得る工程、及び、温度が500℃以上630℃以下であり、加熱時間が5秒以上1500秒以下である加熱条件下において、複層体を加熱処理する工程と、を含む。
【0029】
複層体を得る工程は、下記[i]又は[ii]:
[i]Fe層上に、蒸着又はスパッタリングによってAl層を形成する工程、
[ii]Fe層とAl層とを積層して圧着する工程、
を含むことができる。上記[i]で行う蒸着及びスパッタリングは、公知の方法によって行うことができる。上記[ii]で行う圧着は、温度260℃以上300℃以下の範囲内で行うことが好ましい。Fe層及びAl層の厚みは、上記した集電体の基材部、表層部、及び中間層の厚みが得られるように選択すればよい。
【0030】
複層体を加熱処理する工程を行うことにより、上記集電体が有するFe元素及びAl元素を含有する中間層を形成することができる。加熱処理する工程における加熱温度は、500℃以上であることが好ましく、550℃以上であってもよく、また、630℃以下であることが好ましく、600℃以下であってもよい。加熱温度は640℃以下であってもよい。加熱温度は、加熱対象の表面温度であり、後述するように複層体の表面に耐熱物を設けて加熱処理を行う場合は、耐熱物の表面温度であり、耐熱物を設けない場合は複層体の表面の温度である。加熱処理する工程の加熱時間は、5秒以上であることが好ましく、100秒以上であってもよく、500秒以上であってもよく、また、1500秒以下であることが好ましく、1000秒以下であってもよい。加熱時間は30000秒以下であってもよい。
【0031】
複層体を加熱処理する工程は、複層体の表面に加わる熱量が部分的に異なるように行うことが好ましい。これにより、基材部の表面に不連続に中間層を設けることができる。複層体の表面に加わる熱量を部分的に異ならせる方法としては、例えば、複層体の表面を耐熱物によって部分的に被覆した状態で加熱処理を行う方法、表面温度に分布を有する高温誘導発熱ロールを用いて複層体を圧延加工しながら加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0032】
複層体の表面を被覆する耐熱物としては、シリカ又はアルミナ等によって形成されたテープ又は基板等が挙げられる。テープ又は基板は、複層体の表面を被覆可能な被覆部分と、複層体を被覆しない非被覆部分とを有するものであってもよい。複層体の表面において非被覆部分の面積の割合は、例えば0.3%以上であってもよく、0.5%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、また、65%以下であってもよく、60%以下であってもよい。複層体の表面における被覆部分と非被覆部分との配置は任意に選択できるが、メッシュ状又は市松模様状のように表面全体にわたって被覆部分と非被覆部分とが一様に分布していることが好ましい。耐熱物は、複層体の片面にのみ配置してもよく、両面に配置してもよい。耐熱物によって表面が被覆された複層体の加熱処理は、当該複層体を加熱炉内に搬送する、又は、表面全体が同じ温度に調整された高温誘導発熱ロール等の発熱体に一定時間接触させる等によって行うことができる。複層体の両面に耐熱物が設けられている場合、各面における非被覆部分の面積の割合、耐熱物の種類等は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
(活物質層を形成する工程)
活物質層を形成する工程は、集電体上に設けられた正極合剤を圧縮する工程を含む。集電体上に正極合剤を設ける方法としては、ペースト状の正極合剤を集電体上に塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。正極合剤を圧縮する方法としては、集電体上に設けられた正極合剤をプレスする方法等が挙げられる。上記のようにして製造された集電体は、基材部と表層部との間に、Fe元素及びAl元素を含む中間層を有している。そのため、活物質層を形成する工程において、高密度化した活物質層を形成するために正極合剤を強く圧縮しても、集電体の表層部と基材部とが剥離することを抑制することができる。
【0034】
正極合剤は、活物質層を構成する材料を含むことができ、少なくとも正極活物質を含む。正極合剤は、活物質層を構成する材料として、導電材及びバインダー等を含むことができ、さらに溶剤等を含んでいてもよい。
【実施例0035】
〔実施例1〕
全元素量の45%以上が鉄元素であるFe層(厚み:1~3mm)の両面に、全元素量の50%以上がアルミニウム元素であるAl層(厚み:0.2~0.6mm)を積層し、これを温度260℃~300℃の範囲に加熱し、圧延ロールに通すことにより圧延して複層体を得た。得られた複層体の各Al層上に、耐熱物としてのメッシュ状のアルミナ基板(1)を配置した構造体(1)を、発熱体から離れた位置となるように加熱炉内に投入して加熱処理を行った。メッシュ状のアルミナ基板(1)は、複層体のAl層上に配置したときに、各Al層の表面を被覆しない部分(非被覆部分)の割合が約30%であった。加熱処理の加熱処理条件は、加熱温度をアルミナ基板(1)の表面温度が500℃となる温度とし、加熱時間を1500秒間とした。加熱処理後、アルミナ基板(1)を取り外して集電体(1)を得た。
【0036】
正極活物質、導電材、結着材、溶剤等を含むペースト状の正極合剤を調製した。上記で得た集電体(1)の表層部(複層体のAl層側)上に正極合剤を塗布し、塗布物を乾燥させた。乾燥後の塗布物を、圧縮後の密度が3.5g/cm3となるように圧縮して活物質層を形成した。圧縮する過程で、集電体(1)の基材部と表層部とが分離しなかったため、正極を作製することができた。
【0037】
〔比較例1〕
実施例1で説明した手順にしたがって複層体(1)を得、これを集電体(C1)とした。集電体(C1)上に、実施例1と同様の手順で塗布物の圧縮を行ったところ、集電体(C1)の基材部と表層部とが分離したため、正極を作製することができなかった。
【0038】
〔実施例2~4〕
加熱処理の加熱処理条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で集電体(2)~(4)を得た。集電体(1)に代えて集電体(2)~(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で塗布物の圧縮を行ったところ、いずれの集電体も基材部と表層部とが分離しなかったため、集電体上に活物質層が形成された正極を作製することができた。
【0039】
〔実施例5~8〕
メッシュ状のアルミナ基板(1)に代えて、複層体のAl層上に配置したときに、各Al層の表面の非被覆部分の割合が表2に示す割合であるメッシュ状のアルミナ基板(2)~(5)を用い、加熱処理の加熱処理条件を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で集電体(5)~(8)を得た。集電体(1)に代えて集電体(5)~(8)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で塗布物の圧縮を行ったところ、いずれの集電体も基材部と表層部とが分離しなかったため、集電体上に活物質層が形成された正極を作製することができた。
【0040】
〔実施例9~13〕
Fe層及びAl層の厚みを表3に示すように変更し、メッシュ状のアルミナ基板(1)に代えて、複層体のAl層上に配置したときに各Al層の表面の非被覆部分の割合が約40%となるメッシュ状のアルミナ基板(6)を用い、加熱処理の加熱処理条件を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で集電体(9)~(13)を得た。集電体(1)に代えて集電体(9)~(13)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で塗布物の圧縮を行ったところ、いずれの集電体も基材部と表層部とが分離しなかったため、集電体上に活物質層が形成された正極を作製することができた。
【0041】
<評価>
以下の手順で、実施例及び比較例で得た集電体及び正極について以下の評価を行った。結果を表1~表3に示す。
【0042】
[集電体の観察]
実施例1~13で得た集電体(1)~(13)の断面を観察したところ、表層部と基材部との間に中間層が形成されていることを確認した。いずれの集電体においても表層部は50質量%以上のAl元素を含み、基材部は45質量%以上のFe元素を含んでいた。一方、比較例1で得た集電体(C1)の断面を観察したところ、表層部と基材部との間に中間層は形成されていなかった。
【0043】
[厚みの測定]
(集電体の厚み)
マイクロメーターを用いて集電体の厚みを測定した。
【0044】
(中間層の厚み)
集電体の任意の2箇所以上の位置において、研磨等により厚み方向に断面を形成し、それぞれのSEM(scanning electron microscope)画像を得た。SEM画像の濃淡により、中間層の上下に基材部及び表層部が配置されていることを区別した。得られた2以上のSEM画像について、中間層の基材部側の表面のうちの最も基材部側に突出している位置、及び、中間層の表層部側の表面のうちの最も表層部側に突出している位置において、それぞれ集電体の面方向に平行に接線を引き、この2つの接線の間の距離を測定した。この測定を2以上のSEM画像のすべての中間層について行い、得られた値を平均した値を片面あたりの中間層の厚みとした。
【0045】
(表層部及び基材部の厚み並びにその比)
上記で得た2以上のSEM画像において中間層の厚みを測定した。まず、基材部の両面にあるそれぞれの中間層について、表層部の基材部側とは反対側の表面のうちの基材部側とは反対側に最も突出している位置において、集電体の面方向に平行に接線を引き、この接線と、中間層の表層部側に引いた上記接線との間の距離を測定した。この測定を2以上のSEM画像のすべての表層部について行い、得られた値を平均した値を片面あたりの表層部の厚みとした。
【0046】
上記で得た2以上のSEM画像について、基材部の表層部側とは反対側の表面のうちの表層部側とは反対側に最も突出している位置において、集電体の面方向に平行に接線を引き、この接線と、中間層の基材部側に引いた上記接線との間の距離を測定した。2以上のSEM画像のすべての基材層について行い、得られた値の平均値を基材部の厚みとした。
【0047】
上記で得られた表層部の厚み(片面あたりの厚み)及び基材部の厚みに基づいて、その比(表層部の厚み/基材部の厚み)を決定した。
【0048】
[表層部及び基材部を構成する元素の特定]
集電体の研磨等により厚み方向に断面を形成し、表層部及び基材部のそれぞれについて得たSEM-EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)スペクトルによって元素分析を行った。表層部についてはAl元素の元素量(質量換算)を、基材部についてはFe元素の元素量(質量換算)を求めた。
【0049】
[中間層を構成する元素及び化合物の種類の特定]
(中間層を構成する元素の量及び比)
集電体の研磨等により厚み方向に断面を形成し、中間層について得たSEM-EDXスペクトルによって元素分析を行い、中間層のAl元素及びFe元素の元素量(質量換算)を求めた。また、Al元素とFe元素との比(Al元素/Fe元素)を算出した。
【0050】
(中間層を構成する化合物の種類)
上記SEM-EDXスペクトルを用いた元素分析によって酸素が検出されなければ、中間層は、Al元素とFe元素との固溶体、金属間化合物、又はこれらの混合物であると判断した。中間層が上記固溶体、金属間化合物、又はこれらの混合物であると判断した場合には、中間層の断面にFIB(focused ion beam)処理を行い、この処理面について、TEM(transmission electron microscope)-EDX及び電子線回折により元素分析を行い、金属間化合物の種類を同定した。
【0051】
[中間層が占有する面積の割合の算出]
集電体を切断して断面を形成した。この断面に直交し、かつ集電体の面方向に直交するように集電体を切断して、さらに断面を形成した。いずれの断面にも、基材部、中間層、及び表層部が含まれるように集電体を切断した。このように形成した2つの断面についてSEM画像(以下、「SEM画像(1)」及び「SEM画像(2)」という。)を得た。
【0052】
得られたSEM画像(1)について、中間層の厚み方向の中間位置付近において集電体の面方向に平行に直線を引いた。この直線を任意の長さに区切った範囲において、この範囲の直線上において中間層が占める合計長さの割合を、基材部上において中間層が占める長さの割合とした。上記した直線上であって上記した範囲とは異なるように設定された1以上の範囲においても、上記と同様にして、基材部上において中間層が占める合計長さの割合を算出した。算出した割合の平均値を、SEM画像(1)において中間層が占める長さの割合とした。SEM画像(2)についても、上記SEM画像(1)で行った手順と同様の手順で、SEM画像(2)において中間層が占める長さの割合を算出した。
【0053】
SEM画像(1)及び(2)について算出した中間層が占める長さの割合に基づいて、基材部の表面(片面あたり)において中間層が占有する面積の割合を決定した。面積の割合の算出にあたっては、基材部及び表層部について、SEM画像(1)に基づいて決定した長さを縦辺の長さとし、SEM画像(2)に基づいて決定した長さを横辺の長さとする方形(長方形又は正方形)を仮定し、この方形の面積に基づいて上記面積の割合を算出した。
【0054】
[試験電池の評価]
実施例で作製した正極を用いて試験電池(非水電解質二次電池)を作製した。定電流-定電圧(CCCV)充電により試験電池の電圧を4.2V、電流を0.2Cに調整した後、温度90℃で30日間保存した。保存後の容量維持率を次式により算出した。保存の前後における放電容量はいずれも、電流が0.2C、電圧が3Vのときの容量とした。容量維持率が高いほど保存特性が良好であると考えられる。
保存後の容量維持率[%]=(保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100
【0055】
上記で作製した試験電池について、次の手順で釘刺し試験を行った。試験電池の電圧を4.2Vに調整し、試験電池に熱電対を取り付けた後、温度60℃に加温した。加温後、試験電池の中央部に釘を刺し込んだ。熱電対の取付け位置は、釘の刺し込み位置から1cm離れていた。熱電対により、釘が刺し込まれてからの最高温度を測定した。試験電池に刺し込む釘として、株式会社ダイドーハント製の丸釘(規格d:N65、胴部径:3mm)を用いた。最高温度が低いほど短絡電流が速やかに遮断されていると考えられる。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。